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それは砕けし無貌の太陽のようです
10
:
◆HQdQA3Ajro
:2021/10/16(土) 00:05:41 ID:jePDeZ3M0
「ほらトラ、お前も食え。先生が気を使っちまうだろ」
「はい、キツネの兄貴。頂きます」
キツネの隣で彫像のように押し黙っていた男が、静かに合掌する。
キツネとは対象的に、明らかにサイズの合っていない背広をぱつぱつに張らせた
レスラーかラガーマンかとでもいった体躯のこの男は、その見た目からは想像のつかないほどに行儀良く、
皿の中の飯に手を出し始めた。そして、しばし、黙々と、食う。黙々と食うキツネとトラ。
その様子を、首から下を、俺は見つめる。キツネが箸を止めた。
「……餃子、味、変わったな」
それとはっきり判るほど、大きく吐かれるため息。
「“昔ながら”が失われるのは、いつだってさみしいもんだ……」
止めた箸を、キツネが置いた。
「なあトラよ。お前さんもそう思うだろう?」
合わせてトラが、箸を置いた。
「はい、キツネの兄貴。俺もそう思います」
「そうかいそうかい、素直なやつだなお前さんは」
「恐縮です」
キツネが笑う。押し潰したのどから空気だけを漏らすような、独特な笑い方。
笑いながら、キツネが新たな煙草を指に挟んだ。隣のトラが火を灯す。
皿の上の餃子はそのままに、紫煙がくゆる。時間が停滞していた。この場、この時に置いてだけ。
だが俺は、止まるためにここへ来たのではない。
手を伸ばした。キツネの残した餃子の乗った、その皿へ。
つかみ、引き寄せ、流し込むようにそれらを胃の腑へ落としていく。
油にぬめった包の皮が、のどをずるりと滑っていった。
空。空いた皿を、叩きつける。店主の視線が、こちらへ向いた。
「寄越せ。金ならある」
「くっくっ……相変わらず繊細なお人だ」
指で強くテーブルを打つ。くつくつと、呆れるように紫煙が揺れた。キツネが合図を送る。
「はい」と、生真面目さを感じさせる硬い声で応じたトラは脇に備えたブリーフケースから、
全国展開されている新古書店の安っぽいビニール袋を取り出した。
見慣れたその、多くの作家が目の敵にしているデフォルメにデザインされたスマイルマークの刻印。
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