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レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。
Ammo→Re!!のようです
485
:
名無しさん
:2023/02/02(木) 18:23:58 ID:Ce9Hd5PM0
>>482
さん
いつもご指摘ありがとうございます……!!
>>461
は結構迷った部分ですが、仰る通りそういう意味でございます
>>465
は実験の最後という意味でもあるのですが、最期の瞬間でも通じるから厄介な場面でしたね……
モララーを殺したのは
>>484
さんの仰る通り、素潜り漁をしている夫です
486
:
名無しさん
:2023/02/02(木) 19:07:05 ID:URtBh4SI0
ちんぽっぽさん疑ってすみませんでした
とうとう核心に触れそうな言葉が出てきたけど現時点で推測可能なのだろうか
487
:
名無しさん
:2023/02/02(木) 19:30:07 ID:Ce9Hd5PM0
>>486
核心部分については最初から推測可能な状態でございますが、割とヒントがあちこちにあるのでぜひお楽しみください
488
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 12:59:53 ID:pnFIhOjA0
明日の夜VIPでお会いしましょう
489
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:17:44 ID:J1j5lG3E0
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その瞬間、誰もが空を見上げた。
異なる戦場。
異なる立場に関わらず、その光景は絶望的な物に映った。
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::::.. :::::::.. `ー、 ヽ,_:.:.:.:.:.:.:.:::::::::...
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誰もがただ、見上げるしかできなかった。
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ヽ___ノ´ ̄ ̄`ー、 : : : : : : : : : : : : : : .
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9月25日。
午後0時4分。
カーテンを閉じるように夏の昼空が灰色に染まり、世界に夜が訪れた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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September 25th PM00:04
その現象は世界各地の空で観測されていた。
ある者は争いの中で。
ある者は日常の中で。
そして、ある者は死にゆく中で、見慣れた空が変容する様を目撃した。
初めは灰色、あるいは黒い柱が地上から空高くに立ち上っていく様子が確認された。
数秒の内にその柱は世界中で目視されることになったが、似たものを見た経験のある人間はいた。
“鐘の音街”こと、ティンカーベルで観測された巨大な爆発を記憶している人間だ。
あの時は海中で起きた爆発だったため、ここまで巨大なものになることはなかった。
故に、この現象は世界中にいるほとんどの人間にとっては初体験の物と言っても過言ではなかった。
経験済みの人間はティンカーベルで起きた爆発を見た人間ぐらいだが、その規模は桁違いだ。
この現象を世界で最初にカメラに収めた人間は、後にこう語っている。
490
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:19:18 ID:J1j5lG3E0
『あれは、世界の終りの様な光景でしたね。
最初はね、何か、ただの黒い煙だと思ったんですよ。
だけど次第に成長していくから、これは妙だと思ってね。
えぇ、はい。 だから写真を撮りました。
丁度手元にあったし、これを撮っておかないと後悔すると思ったからです。
正解でしたよ、撮影していて』
映された写真は見ようによっては、黒い大樹が生えてきたかのような光景。
刻一刻と形を変え続ける雲は大木に巻き付くツタの様に電流を纏い、光り輝いている。
ほとんどの目撃者が仰け反る程に見上げた辺りで、黒雲が空を覆い始めた。
すぐに衰えるかと思われたその現象は一切萎えることなく、世界中の空に広まった。
『柱の頂上、って言えばいいんですかね。
それがね、まるで見えない天井にぶつかったみたいに横に広がり始めたんです。
その時も写真に撮っていましたよ。
私はあまりオカルトを信じないのですが、あの時確信しました。
この世界にはどうしようもない天井があるんだな、って。
ははっ、もちろん比喩ですよ。
ほら、高山病ってあるじゃないですか。
あれも目に見えない天井を越えた人間にだけ現れますよね。
あの時の煙も、そうした類の天井に阻まれたんでしょうね。
物理的な、そうした壁です。
人間が空の彼方に飛び立てない壁が、そうさせたんでしょうかねぇ』
最も離れた地点から観測した人間――天体観測が趣味の男――でも、空の片隅に炭を垂らしたかのように世界が黒く染まっていくことが確認されている。
空はすぐに青さを失い、濃い灰色の雲によって日の光が遮断された。
神々しくもあり、禍々しくもあるそれは、数分の内に世界中に影響を及ぼし始めた。
太陽光発電は機能を停止し、気温が大幅に低下した。
その現象について、ホッパー・ブリエビオはこう述懐する。
『あれは、暴力的な冬だったよ。
まだ薪の用意も、当然、冬の支度もしていなかったから町中皆が凍えてな。
そうだなぁ……風が一番辛かったな。
突風みたいな、そう、木枯らしとでも言おうか。
生ぬるい風が吹いてきたかと思ったら、一気に冷たい風になってな。
嵐が来る前の空模様に一番近いな。
大きな違いは、太陽からの熱が全くなくなったことだよ。
日差しが完全に遮られているのに、空の高さは分かるってのが、不気味でなぁ……
……これはオフレコなんだが、正直、興奮していたよ。
嵐が来ると思うと、ほら、なぁ?』
491
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:20:38 ID:J1j5lG3E0
神を信じることのなかった人間も、この時ばかりは世界の終わりを予感した。
三基のニューソクの爆発が引き起こしたこの現象は、第三次世界大戦以降初となる人口の冬を作り出した。
だがそれは、冬というよりも夜。
分厚い雲が遮断した陽光は世界のほとんどを夜にしてしまった。
もともと夜だった地域からは星空が失われ、巨大な月も鳴りを潜めた。
暗がりの世界でも、非日常的な光景の前に大勢が冷静さを欠いた。
これが世界を巻き込んだ巨大な戦争の、第二局面の始まり。
即ち――
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――人類が経験する、二度目の核の冬の始まりだった。
..................r`ヽ〃:.:.:. :.:.:.:.:.( .:.:.:.:.Yヾ.:.:.:.... :.:... : . : . : . : . :::, : ::::::::::: ヾ:.:.:.:.:.:::...:::::::::::ァヽ イ
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第十四章 【 Ammo for Rebalance part11 -世界を変える銃弾 part11-】
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492
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:21:51 ID:J1j5lG3E0
同日 PM00:07
空に起きた異常事態を前にしても、戦いの勢いが萎えなかったのは世界で唯一イルトリアだけだった。
海と空から攻め込まれた世界最強の街の住人は、だがしかし、悲壮感や絶望感は微塵も感じていなかった。
それどころか、彼らの大部分――赤子を除く――は歓喜していた。
戦争の相手がジュスティアでないだけで、いつかこうした形で戦争が起きることは分かっていた。
世界中に傭兵を派遣し、多くの人間を殺してきた経験を持つ人間が多く住んでいるため、戦争で生じたあらゆる恨みが濃縮されるような街だ。
ここに住む以上、誰もが覚悟を決めていた。
そして、誰もがその時に向けて行住坐臥、殺し合いの準備をしていた。
落下傘部隊はその多くが生きて地面に足を付けることなく死んだが、その死体は爆弾としての役割を持っていた。
体中に装備した爆発物によって死体が爆ぜ、地面や家屋に損傷を与える。
爆発と同時に可燃性の液体が散布され、周囲に引火した。
生きて街を燃やすか、それとも、死体となって燃やすかの違いだった。
だがこれは自爆テロを躊躇しない集団との戦闘で多くのイルトリア人が経験しており、対応法は今も昔も同じだった。
撃ち殺す、ただそれだけだ。
躊躇えばそれだけ被害が増える。
躊躇うことによるメリットは何一つない。
可能であれば余計な動きをされる前に、安全な場所で撃ち殺すに限る。
陸上と違い、空中の的は風によって流されてしまうため、撃ち殺したとしてもそれが安全な場所に落下するとは限らない。
その点で言えば、よく考えられた爆撃だった。
半分は相手の思惑通りに街は空爆を受け、多数の民家が被害を被った。
既に死者も出ているだろう。
イルトリア中に鳴り響く数多のサイレンが、これまでに街が経験したことのない攻撃を受けていることを意味している。
そうした状況下であっても、空の異変に対して彼らの意識が向けられないのは、それどころではないからだ。
目下、イルトリア人にとって空の脅威は雲ではなく、相手の飛行兵器なのである。
現代では貴重品となっているはずのヘリコプターが群れを成して空を飛び、火を噴いて墜落していく。
墜落したヘリコプターが新たな爆弾と化し、イルトリアの街に新たな火柱と黒煙が上がる。
自宅を焼失しつつある人間でさえ、その手に持ったH&K416ライフルの照準がぶれることは無かった。
一家に最低でも人数の二倍の銃器があるイルトリアにおいては、侵略行為は常に意識していたことであり、銃の扱いに慣れた彼らが戸惑うことなど有り得ないのだ。
イルトリアの戦場で最も活躍しているのが軍人であることは当然だが、次いで戦果を挙げているのは退役軍人たちだった。
「ワドル!! 弾よこせ!!」
とある退役軍人用の老人ホームでは、車椅子に座った老人たちが嬉々として銃を手に取って空に向かって発砲していた。
彼らが現役の頃に手にしていた銃に比べれば、かなり高い精度での復元が実現しており、不調は一切感じられなかった。
素材の違いもそうだが、生産するための向上の品質と材料の確保が安定化したのが大きな理由だった。
加えて老人ホームに支給されているライフルはあえて重量を増すことにより、射撃時の安定性を確保していた。
例え老いたとしても、体に染みついた射撃の腕は衰えていない。
安楽椅子で弾薬を準備していたワドル・ドゥランドは、ここ数十年の中で最も生き生きとした表情を見せている。
かつては戦場で機銃を手に猛威を振るった男も、寄る年波には勝てず、銃を構えることが出来なくなっていた。
だが、弾倉に弾を込める速度は今でもほとんど変わらず、空になった弾倉に誰よりも速く弾を込めていた。
「ほれ、落とすなよ!!」
493
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:22:13 ID:J1j5lG3E0
大声でそう叫びながら、弾倉を放り投げる。
その動きと声はまるで鈍さを感じさせない。
彼らが人生の多くを過ごした時が今、ここでこうして蘇っているのだから無理からぬ話なのかもしれない。
心を戦場に置いてきた人間にとっては、この時ほど嬉しい瞬間はない。
彼らにしてみれば、よく間に合ってくれた、と感謝の気持ちさえ抱くほどだ。
もしも戦場がこうして誕生しなければ、彼らは心と離れたまま死ぬことになる。
今日は死んでもいい。
それが、イルトリア中の老人ホームで最も声高らかに叫ばれている言葉だった。
「助かる!!」
受け取ったデズモンド・デサントス・デイランダーは素早く弾倉を交換し、一発だけ空に向けて撃った。
その一発は降下中の棺桶を撃ち抜き、空中で爆散させた。
死体の破片が炎を纏い、落ちてゆく。
最後の降下兵を撃ち殺した時点で、彼ら老兵の仕事は終わった。
後は、今を生きる者達がどう戦うか、だ。
戦える者が市街戦に参加し、そうでない民間人は街で起きている火災等の対処に当たる。
民間人だからと言って敵が手を抜くことはあり得ない。
それを知るイルトリア人だからこそ、街中総出で戦争に参加していた。
大人も。
子供も。
そして、彼ら老人も。
皆、生き残る為に銃を手にし、人を殺す覚悟を決めていた。
「最後のあいつで、俺は20人は撃ち落としたな」
狩りの成果を自慢気に語るデズモンドに対し、ワドルは鼻で笑いながら答える。
「あぁ、それぐらいは落としたな。
だけど、あっちのばあさんたちはもっと落としてたぞ」
老人ホームの庭や屋上に偽装用のパラソルを広げ、優雅に狙撃銃を構えていた老女達の間から朗らかな笑い声が聞こえてくる。
彼女たちの自慢し合う戦果は、最低でもデズモンドの二倍はあった。
潔く自分の負けを認め、デズモンドは溜息を吐く。
「元狙撃手の連中じゃ分が悪い。
さぁて、街の中は若手に任せるかの」
老人にできるのは定点での防衛だけ。
街中で銃を撃ち合えるほど元気であれば、今頃は老人ホームではなく、別の場所にいたはずだ。
彼らにとって重要なのは、この施設を守り切ること。
そして、その周囲の敵勢力を壊滅させることだ。
狙撃手の老人たちを筆頭に、それぞれが施設の形状を利用した防衛陣地を作り上げていく。
「籠城戦に備えるなんて、いつ以来だ」
494
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:23:30 ID:J1j5lG3E0
「冬に塹壕を掘るよりはいいだろ」
「確かにな!! とりあえず、雪かき用のスコップでも用意しておくか」
黒く染まっていく空を見上げ、二人は大昔の戦場に思いを馳せていた。
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同日 PM00:09
イルトリアから北に離れた荒れ地を、複数の装甲車、戦車が高速で移動している。
その最後尾から離れた場所を走るのは、一台のセダンだった。
ハンドルを握るのは細目の男。
助手席でカメラを構え、興奮気味にシャッターを切るのは眼鏡の男だ。
(;-@∀@)「すげっ!! すげぇっ!!」
<ヽ`∀´>「いやぁ、ありゃあ凄いニダね。
前にティンカーベルで報告されたやつと同じような気がするニダ」
(;-@∀@)「確かに!! でも、それ以上ですよ、これは!!
空が侵されているなんて、初めて見ました!!」
すっかり変貌した空模様を見て、アサピー・ポストマンが更に興奮する。
表情を変えはしないが、ニダー・スベヌも正直、この景色には驚きを覚えていた。
微細な変化ならまだしも、天候そのものが変わってしまうほどの何かなど、考えたこともない。
そもそも、人の作り出した物が天候を左右することなど有り得るのだろうか。
<ヽ`∀´>「……方角は分かるニダ?」
495
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:26:17 ID:J1j5lG3E0
(;-@∀@)「あ、えっとちょっと待ってくださいね。
っと、フェッチ山脈があれだから。
クラフト山脈の方ですね。
位置もクラフト山脈からそう遠くないですよ」
<ヽ`∀´>「そこまで分かるニダ?」
望遠レンズで拡大して見ているとはいえ、そこまで断言できるとしたらそれは才能の類だ。
ヨルロッパ地方に踏み入っているにも関わらず、彼の目は目標を違えることなく捉えていた。
観測手として狙撃手の隣にいれば、これほど心強い人間はいないだろう。
(;-@∀@)「えぇ、望遠レンズで拡大して見ていますが、あの黒い柱……
背後にクラフト山脈があって、その比較をすれば何となくは。
いやぁ、デカイ……
ティンカーベルで見たやつの二倍はありそうですね。
あ、でももう一本ありますね。
それも割と近くですが」
二か所で起きたニューソクの爆発。
それらが無関係であるはずがない。
クラフト山脈の近くは円卓十二騎士の一人が潜入予定の施設があり、そこの発電をニューソクで行っていることはほぼ確定している。
敵の本拠地と思わしき場所での爆発だとすれば、ハロー・コールハーンは任務の一つを果たしたことになる。
<ヽ`∀´>「……ってことは、そうニダか」
(-@∀@)「何かありましたか?」
<ヽ`∀´>「いや、こっちの作戦の一部が完了したってだけニダ。
アサピー、空だけじゃなくて前の連中の方の情報も収集してほしいニダ」
(-@∀@)「あ、分かりました。
……うーん、速度は変わらずですね。
そろそろカルディコルフィファームが見える辺りでしょうか」
アサピーの言葉に、ニダーはちらりと左側に広がる海を見やる。
確かに、そこには大きな島が広がっており、ビルが幾つも建ち並んでいるのが見えた。
内藤財団によって復興を果たし、統合された街。
こうやって街の復興に介入してきたのも、自分たちの影響力を高めるため。
そして、イルトリアから近い位置に陣取るためだったのだろう。
広大な大地を生かし、戦力をそこに隠すことも可能。
交易が盛んな街であれば頻繁に船が出入りしても不自然なことはない。
武器と兵器を運び入れるのに、これほど都合のいい場所はない。
イルトリアを攻略するならば陸と海の両方から攻め入るのは必然。
そうでなければ、世界最強の軍隊によって正面から打ち破られるのは火を見るよりも明らかだ。
対して、ジュスティアに対する備えは陸にあった。
陸続きである複数の街に介入し、兵力を増強させ、今日を迎えたのだろう。
496
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:27:55 ID:J1j5lG3E0
<ヽ`∀´>「……そろそろお迎えが来ると思うニダ」
(-@∀@)「イルトリアの陸軍ですか?」
<ヽ`∀´>「そうニダ。 ただ、こっちが巻き込まれないようにしないといけないニダね」
イルトリア陸軍からすれば、侵略者もニダー達も同じ存在にしか見えない。
白旗を上げても意味がないため、合流される前にこちらがイルトリアの味方であることを知らせなければならない。
その最善の手段は一つだけ。
(-@∀@)「結局、我々は何をどうすればいいんで?」
<ヽ`∀´>「あいつらからかっぱらった狙撃銃で、後ろから攪乱してやるニダね。
正直、装備が全然足りないニダ。
イルトリア軍から見て、ウリたちが味方だと思わせるには、それなりの活躍を見せないと駄目ニダ」
挟撃の形を取るようにすれば、イルトリアはこちらを味方と判断してくれるだろう。
少なくとも、可能性の一つではあるが。
(-@∀@)「まぁ、そりゃあそうですけど。
ライフルでどこまでやれますかね」
ニダーが襲った集団が所持していたのは、どれも強力な武器だったが、棺桶が使用する前提の物ばかりだった。
強力な弾が装填されている大口径の狙撃銃は、その反動だけでも十分に危険な物だ。
<ヽ`∀´>「やれるだけやるニダよ。
アサピーは銃をどれぐらい撃てるニダ?」
狙撃銃ともう一種類、鹵獲したアサルトライフルがある。
手に入れた弾薬の数と敵の数は、絶望的なまでの差があった。
だが、ないよりはいい。
(-@∀@)「正直、当てられないと思いますよ」
<ヽ`∀´>「じゃあ写真撮影をしながら、状況をウリに教えてほしいニダ。
その銃は自分の身を護る為に使うニダ」
彼の特性を生かすのならば、戦闘要員ではなく観測手として協力させる方法が最善。
少しでも人手が欲しい所だったが、今回の場合銃が撃てても当てられないのでは意味がない。
(-@∀@)「頑張ってみます」
<ヽ`∀´>「それでいいニダ。
さて、そろそろ挨拶するから、運転代わってほしいニダ」
周囲にあるのは荒野と海。
そして、海に続く高い崖ぐらいだ。
整備された道路ではあるが、遮蔽物になるようなものはない。
ここで仕掛ければ、間違いなく発見される。
497
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:29:20 ID:J1j5lG3E0
(-@∀@)「ま、まぁそう言うなら……」
だが、ニダーがブレーキに足を乗せようとした時、それは起きた。
離れた場所からでも分かる程の爆発が車列の中で発生したのだ。
<ヽ`∀´>「あら?」
(;-@∀@)「え!?」
すかさずアサピーはカメラを構え、様子を窺う。
(;-@∀@)「多分ですが、車列の真ん中で爆発が」
<ヽ`∀´>「事故じゃなさそうニダね」
高性能爆薬による爆破。
対戦車用地雷の可能性もあったが、その爆発の威力は明らかに過剰だった。
地雷の様な指向性がなく、非常に荒々しい爆発だった。
何者かが地中に高性能爆弾を仕掛け、爆破させた可能性がある。
(;-@∀@)「あれ…… 何だ、あれ……?」
丁度下り坂に差し掛かったからこそ、彼らはそれを目視することが出来た。
高速で移動していた車列が最初の爆発に戸惑ったかと思うと、その最前部と最後尾で同時に爆発が起きた。
連続した爆発のせいで、まるで蛇の頭を潰したかのように車列が乱れている。
黒煙を纏った爆発を避けようと、左右に車列が展開する。
そして、更なる爆発。
周囲にオレンジ色の炎が一瞬でまるで海の様に広がり、連鎖的に爆発が起き、周囲を包み込む。
まるで煉獄が一瞬にして生まれたかの様な光景に、ニダーは思いきりブレーキを踏み込んだ。
これ以上の接近はこちらが巻き込まれる。
<ヽ`∀´>「失礼!!」
(;-@∀@)「知ってました!!」
構えていたカメラのシャッターを切りながら、アサピーは叫ぶ。
後に爆発は道に埋められていた物が爆発したのだと、彼のカメラが撮影した写真が一連の動きを説明する貴重な資料となった。
(;-@∀@)「い、イルトリア軍ですか?!」
<ヽ`∀´>「……なんか違う匂いがするニダ」
そう言いつつ、ニダーは車をその場に停め、後部座席から狙撃銃を手に取って屋根の上に乗った。
<ヽ`∀´>「アサピー、状況を教えてほしいニダ」
(-@∀@)「はい、えーっと……
先頭の数台がそのまま行きましたが、半数以上が残っています。
あっちこっちを見て……って、こっちを見ている奴がいます!!」
498
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:30:00 ID:J1j5lG3E0
<ヽ`∀´>「了解ニダ。 もし接近してくる奴らがいたら教えてくれニダ」
そして銃声がアサピーの頭上で響いた。
放たれた大口径弾は車輛から降りたジョン・ドゥの胸部を撃ち抜き、その場に転倒させた。
次弾が装填され、薬莢が屋根から転がり落ちる。
訓練を積んだ狙撃手でさえ運に委ねる要素が強い、一キロ近い距離の狙撃。
ニダーが積み重ねてきた訓練と実戦の濃さがその一発に表されていた。
<ヽ`∀´>「襲撃者はどこの誰ニダ?」
(-@∀@)「い、いえ、それがまだ見つからなくて……
連中も探しているみたいです」
<ヽ`∀´>「……部隊なら、とっくに仕掛けているはずニダ。
どこの誰か知らないけど、何かを狙っているニダ」
敵の敵は味方、とは言ったものだが敵対する存在の素性は少しでも知りたい。
ニダーにとっての情報の価値は極めて高く、時には銃器に勝るものだ。
(-@∀@)「あ…… 多分、あれかな?」
<ヽ`∀´>「見つけたニダ?」
(-@∀@)「うーん、自信はないんですが……
あっ!!」
<ヽ`∀´>「……ありゃ、あれは」
――荒野が、一斉に牙をむいた。
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499
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:32:25 ID:J1j5lG3E0
同日PM00:15
その襲撃は全く予想外の物だった。
対イルトリア用に進軍を開始した10の部隊は、道中で8と2に分かれた。
それ自体も予想外だったが、部隊を途中で切り離してでも進軍が可能な様に打ち合わせは済んでいた。
“アンクル”と“テイルズ”からの通信は途絶していたが、それでも進軍を止めなかったのはそういう訳だった。
だが、追跡者を引き離したかと思えば、イルトリアを前にして襲撃を受けてしまった。
上位3つの部隊である、“ヘッド”、“アイズ”そして“ネック”は離脱に成功した。
大部分がこの荒野に釘付けとなってしまったのには、理由があった。
まず、一つ目が初動である。
敵の仕掛けた高性能爆薬は部隊の中腹である“ストマック”の一部を吹き飛ばし、それと同時に多数の車輛のタイヤが溶けた。
恐らくは化学物質を使った罠。
結果としてタイヤを破壊された車輛がその場に立ち止まらざるを得ず、被害を受けずに済んだ車輌が仲間を助けるために停車したのである。
こうなった場合の指揮系統は上から順に移行するため、“チェスト”の部隊長ニュッ・バランスにその場の指揮を執ることになった。
( ^ν^)「慌てるんじゃない!!」
装甲車の中からインカムを通じて仲間に呼びかけるも、混乱は収まらなかった。
それが問題の二つ目である。
視界を遮り、戦意を喪失させる炎の壁だった。
棺桶はあらゆる攻撃や環境に対応できる力があるが、炎は数少ない天敵の一つだった。
特殊なゴムで作られたタイヤさえ溶かすほどの炎であれば、バッテリーや他の電気系統に支障が出る。
そういった点で言えば寒冷地も弱点の一つだが、今周囲を取り巻く炎は人間の本能にも恐怖を植え付ける。
装甲車の中は比較的安全だが、バッテリーが熱によって爆発しないとも限らないため、ここから先は徒歩での移動が強いられる。
( ^ν^)「俺の声が聞こえる奴は棺桶を装備して敵を迎え撃つぞ!!」
炎の外に脱出しさえすれば、いくらでも手立てはある。
( ^ν^)『全ては、世界が大樹となる為に』
装着が終わった人間から車外に出ることになったが、そこで彼が目にしたのは、予想していない光景だった。
襲撃者の正体はイルトリア軍ではなかったのだ。
その正体は、よりにもよって――
〔欒゚[::|::]゚〕『こいつら、セフトートの残党か!!』
――世界を変える祝砲で散ったはずの、セフトートの生き残りだった。
あらゆる犯罪行為が容認され、あらゆる犯罪者が集う悪徳の街。
その街はハート・ロッカーの砲撃で確かに滅ぼしたが、その残党がこちらの動きに合わせて襲撃してきたのだ。
セフトートの残党であると一目で分かったのは、独特な装飾を施した棺桶にあった。
街である以上、セフトートにも軍隊が存在する。
軍隊という名の盗賊と言い換えるのが適切だが、確かに軍隊がある。
その軍隊では鹵獲した棺桶を使用しているために装備はバラバラ、機体もバラバラだが、同士討ちを避けるために統一した装飾が施されている。
棺桶の頭部、そのマスク部分を更に覆う黒い追加装甲に白い骸骨が描かれているのだ。
500
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:33:10 ID:J1j5lG3E0
[::゚Ш゚::]
圧倒的な威圧感を与えるための装飾。
ヨルロッパ地方、そしてシャルラ地方に近い街だからこそ、その戦闘力の高さは生半可なものではない。
ジュスティアでさえ攻め込もうとせず、派遣警官を密かに潜入させ、犯罪者を逮捕するだけだった。
真っ先に砲撃で狙い打ったのも、そのポテンシャルと反抗心の強さがあったからだ。
そして、ニョルロックに近いという問題もあった。
もしかしたらニョルロックに攻め入ろうとしていた時にこちらの部隊に気づき、襲撃を決めたのかもしれない。
イルトリアともジュスティアとも違う彼らの軍隊の強みは、言うまでもなくその残忍さにある。
奇襲、包囲、そしてこちらが仲間を助けるために車外に出てきた瞬間に四方八方に隠れていた銃腔から放たれた銃弾が、驟雨となって部隊を襲う。
〔欒゚[::|::]゚〕『散開して対応しろ!!
各リーダー、指示を頼む!!』
しかし、ここで慌てているようではイルトリア軍との戦争には勝てない。
彼らは訓練を積んできたのだ。
血の涙を流すほどの憎しみと訓練を経て今日を待ったのだ。
このような場所で、このような相手に手間取ってはならない。
装甲車のドアを力任せに取り外し、即席の盾にする。
ライフルを手に、ニュッは炎の中から飛び出した。
[::゚Ш゚::]『出てきたぞ!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『あぁ、出てきてやったよ!!』
複数の銃腔が彼一人に向けられた瞬間、ニュッはほくそ笑んだ。
これでいい。
彼の使うジョン・ドゥ・カスタムは、トゥエンティ・フォーの装甲を流用した防御特化の物。
上位の棺桶である“名持ち”と称される物と同等か、それ以上の性能を有するジョン・ドゥの防御力は極めて高い。
飛来した対強化外骨格用の強装弾をあえて車の扉で受け、その方向に向けてライフルを斉射する。
片手で発砲したライフルの弾は荒野に吸い込まれるが、悲鳴が聞こえることは無い。
黒く染まった空の下、鳴り響く銃声と発砲炎の不気味なコントラストが戦場を不気味に装飾する。
炎を背に、ニュッは叫ぶ。
〔欒゚[::|::]゚〕『どうしたぁ!!』
司法から放たれる銃弾は装甲表面で潰れ、その場に落ちる。
次々と炎の中から味方が姿を現し、爆発的加速力で襲撃者たちに接近する。
襲撃の優位性を奪い取ればこちらのものだ。
そもそも奇襲をしてくるということは、自分たちの戦力がこちらに劣ると考えている何よりの証拠。
正面突破こそが相手にとっては最も嫌う展開であると分かれば、味方たちの行動は迅速だった。
元イルトリア軍の同志から受けた訓練の成果が、ここで現れる。
〔欒゚[::|::]゚〕『イルトリアの前の前菜だ!!
一人残らず食ってやれ!!』
501
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:34:21 ID:J1j5lG3E0
ライフルを投げ捨て、ニュッは叫んだ。
〔欒゚[::|::]゚〕『近接戦用意!!』
高周波振動ナイフを抜き放ち、疾駆する。
その姿が土煙に隠れるほどの速度に達するのに要したのは、僅かに二秒。
そして眼前に襲撃者を捉えたのはその直後だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『お前たちはこの世界に入らないんだよ!!』
[::゚Ш゚::]『うおおおっ!!』
近接戦の用意をする間もなく、ニュッのナイフが深々と敵の脳天に突き刺さる。
それに呼応するかのように、彼の後ろから続々と味方が飛び出し、反撃に打って出ていた。
[::゚Ш゚::]『全部奪い取れ!!』
だがそれは相手も同じだった。
奇襲の効果が失われる前に放ったその号令で、一斉に近接武器に手が伸びる。
近代兵器を用いても、この距離であればやることは一昔前の殺し合いと同じ。
〔欒゚[::|::]゚〕『何一つくれてやるな!!』
――白兵戦だ。
502
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:35:41 ID:J1j5lG3E0
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ニニ三三三三三_ { ノ
ニニ三>‐ _二二_ヽ`┐_zz〔_
ニ/´ /:::::::/aヾ::::/:i//:::::::ヽヽ_
¨7ー-‐"::::::::::::`¨´i∨i:i:i:l |:::::: ::::::} l 、 \
/ r---─ 、_ jハ:i:i:i:i乂::::::::::ノノ ヽ \
廴ド/ /.: . : . :`弋:i:i:i:i:i:≧=≦--.._ :. : ヽ
(Уヽ/' /. : .,>::::斗≦:i:i/:,r=、ヽ. : . :∨
ゝイ/ー/ ヽ./,ィ .;i:i:i:i:i:i:i:i:i:{::丈ノ丿 . : . ∨
/¨¨  ̄. .ー ^才/ f;i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:≧=<. : . : . : .\
. . . . . .__/ ノ{ }:i:i:i:i:>≠≦ `ヽ、_: . : . ヽ
. . . . ./ :乂-'≦∨i:i:i:i:j !f::::}:i:三!、 . :!i |≧x:_. :}
. . . イ. : .  ̄ 寸:i:i//:ゞ':i:i{ソ \: . : ///ニニ≧
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∨:ヾ:::::::::::::::::_ヽ」_//三三三斗_. . . .ハ三三ニニニ
ヾ:_:才¨¨ ̄`ー ^丈:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:<./. . \三ニニニ
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ニ才三二". : . : . :./ .i:/.: . : . : . . . . . '∧
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<ヽ`∀´>「おーおー、楽しそうなことやってるニダね」
スコープの先で起きた時代錯誤とも言える白兵戦に、ニダーは思わず声を漏らした。
運転席でハンドルを握ったまま、アサピーが尋ねる。
(;-@∀@)「ど、どうします?」
<ヽ`∀´>「連中の装備とかをイルトリアに教えたかったけど、もう手遅れニダね。
あそこまで楽しそうにやってたら、情報の収集なんてイルトリア軍だけで出来るニダ。
本格的に参ったニダね」
二人の作戦は破綻し、ニダーが独自で担っていた役割も無意味になった。
世界の変化があまりにも急激であるため、事前の計画は意味をなさない。
一つだけ意味があるとしたら、散り散りになっている仲間の動向を予想できるぐらいだ。
新鮮な情報は全て現地から得るしかなく、本部に助けを求めることは出来ない。
二人はジュスティアから完全に切り離され、独自の裁量で行動しなければならなくなっていた。
素人のアサピーと共に出来ることは限られていた。
既に敵の一部がイルトリアに向かったことを考えれば、今出来ることは情報取集ではない。
世界のバランスを崩そうとする組織に対抗できる数少ない存在を、これ以上減らさせないようにすることだ。
503
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:36:06 ID:J1j5lG3E0
<ヽ`∀´>「……こっから援護して、弾がなくなったらイルトリアに向かうニダ」
(-@∀@)「なるほ…… えっ?!
やっぱり戦うんですか?!
イルトリア軍じゃないんですよ?!
そのまま素通りしましょうよ!!」
<ヽ`∀´>「仕方ないニダよ。 本当は手を貸したくないけど、セフトートの連中をここで失うのは惜しいニダ。
陸上部隊の半分以上をここで削り切れば、イルトリアにとっちゃ残党はやぶ蚊程度の存在ニダ。
はぁ…… 手を貸すのは本当に嫌ニダ」
セフトートはニダーにとっても、ジュスティアにとっても目の上の瘤の様な存在だった。
犯罪者にとっての楽園は、言い換えれば治安維持組織にとっては癌そのもの。
世界中のならず者が集い、奇妙なバランスと秩序を保ち、弱肉強食の世界のルールをどこよりも色濃く体現していた。
だからこそ今日まで生き延び、真っ先に潰されたのだ。
そんな街に手を貸すのは、警官であるニダーにとっては苦渋の選択だ。
だがこれが最善手である以上、躊躇は出来ない。
後は、彼らが馬鹿でないことを願うだけだ。
<ヽ`∀´>「さっきと同じく、とりあえずウリが気づいていないような敵の動きを教えてほしいニダ」
(-@∀@)「り、了解です」
再度ライフルの光学照準器を覗き込み、息を吐く。
狙いを定め、銃爪にそっと指を添える。
銃声と共に反動が肩に伝わる。
レバーを引いて次弾を装填し、三人目に狙いを定める。
(-@∀@)「……ニダーさん、今何人撃ちました?」
唐突な質問に、ニダーは半ば呆れながら答えた。
<ヽ`∀´>「まだ二人ニダ」
(-@∀@)「おっかしいな…… あっ、やっぱり。
ジョン・ドゥの射殺体が他に4体はあるんですよ」
<ヽ`∀´>「そりゃあ、セフトートの方が仕留めたニダよ」
(-@∀@)「そうですか……」
分かり切ったことをアサピーがあえて訊くということは、何か違和感を覚えたのだろう。
その正体に彼が気づくのを待つのでは間に合わない。
<ヽ`∀´>「だけど、アサピーが変だと思ったのなら、絶対に何かあるニダ」
(-@∀@)「えっ」
504
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:38:39 ID:J1j5lG3E0
<ヽ`∀´>「ウリはお前の事を信頼しているニダ。
ジャーナリストの勘っていうのはかなり信憑性があるニダ」
光学照準器の倍率を変更し、より広域を目視できるようにする。
<ヽ`∀´>「……ひょっとしたら、あいつが生き残っているかもしれないニダね」
(-@∀@)「あいつ?」
<ヽ`∀´>「セフトートがこれまで残っていた理由の一つニダ。
“狂犬”ニダ」
ニダーは遂に、光学照準器にその影を捉えた。
<ヽ`∀´>「やっぱり、トレバー・アヒャ・フィリップスがいるニダ。
ジュスティアが最重要犯罪者として広域手配して、ずーっとマークしている奴ニダ」
初めて犯罪行為に手を染め、警察に追われることになったのが8歳。
それから街を転々とし、犯罪を重ね、気が付けば世界最悪の犯罪者の一人になった。
それだけの重罪人をジュスティア警察が放置するはずもなく、幾度も逮捕もしくは殺害を試みた。
しかし、今日までそれは成功していない。
“モスカウ”の警官が何人も挑み、そして返り討ちにあった。
無論、一対一であればモスカウの警官が後れを取るようなことは無い。
だが、アヒャが潜伏しているのは世界最悪の街だ。
警官が入り込んでいると分かれば、街が総出で排除に尽力するような街。
街に入り込んでも無傷で済めば御の字。
命がある状態で帰還できた警察官の数は、極めて少ない。
ましてや犯人を確保した状態で脱出に成功した人間は、十指に収まる程しかない。
<ヽ`∀´>「あいつがやったことのない犯罪はないニダ。
特筆すべきなのは、戦闘の才能ニダ」
(;-@∀@)「どの程度のものなんですか?」
<ヽ`∀´>「あいつは以前、円卓十二騎士を一人殺したことがあるニダ。
それも、素手で」
(;-@∀@)「うそん」
警官上がりの円卓十二騎士であるその人物は、セフトートへの潜入を成功させ、アヒャとの接触に成功した。
だが、彼を生け捕りにしようとしたのが失敗だった。
寝込みを襲ったところ、警察官の匂いを嗅ぎとったアヒャによって投げ飛ばされ、そのまま殴り殺されたのだ。
<ヽ`∀´>「あいつを逮捕しようとして派遣されたけど、返り討ちニダ」
(;-@∀@)「それだけの人間なのに、どうしてあまり知られていないんですか?」
505
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:39:14 ID:J1j5lG3E0
ジャーナリスト、あるいは新聞記者としての経験があるアサピーでさえその名を知らないのは無理からぬ話だ。
重犯罪者をジュスティアが逮捕できず、あまつさえ円卓十二騎士を殺されたとなればジュスティアの恥になる。
幸いなことにアヒャが名声の類を気にするような人間ではなく、本能のままに生きる人間だったことだ。
<ヽ`∀´>「秘匿したニダ。 あいつをセフトート以外に出ないようにして」
視線の先で、アヒャが駆る棺桶が炎の中から飛び出してきた。
その棺桶はあまりにも不格好だった。
恐らく、素人のアサピーが見てもそのコンセプトを理解することはできないだろう。
それは四機の棺桶を継ぎはぎにして作り出された異形であり、アヒャ以外には扱えない代物なのは明らかだ。
([∴゚[::|::]゚]
絶句しつつ写真を撮るアサピーに、ニダーは静かに説明を続けた。
<ヽ`∀´>「ジョン・ドゥ、ジェーン・ドゥ、ソルダット、そしてエーデルワイス。
それぞれの装甲と腕部をくっ付けたのが、あの棺桶ニダ。
あんな棺桶使うやつはあいつ以外にいないニダ」
骨格のベースはエーデルワイスとジョン・ドゥを合わせたものであり、脚部の構造は速度を重視したジェーン・ドゥ。
装甲の一部はソルダットを用い、防御性能も重視している。
最大の特徴は通常の両椀に加えて、背中から生えた三対の腕だ。
合計で八本の腕がそれぞれ意志を持って動き、近距離から遠距離の戦闘を実現している。
二本の腕は高周波ナイフを構えているが、他の腕は防弾の盾、拳銃、そして長距離射撃が可能な機関銃を持っている。
一言でいえば、滅茶苦茶である。
そう、完膚なきまでの出鱈目であり、不格好そのものだ。
まるで子供が好きな食べ物を一つにまとめたかのようなその棺桶は、セフトートにやってきた元ラヴニカの技術者による作品だった。
複椀を操作するための技術は、基盤だけが生き残った“ヒューマン・センティピード”という名のコンセプト・シリーズのものを使用しており、見た目と中身は何もかも違う。
動かす人間の持つセンスだけでその棺桶は動いており、彼が一人で戦いの中に入って生き残ることのできる所以の一つでもある。
(;-@∀@)「複椀を操作するなんて、聞いたことないです」
<ヽ`∀´>「普通の発想じゃないニダ。
世の中には天才って人種がいるニダ。
数字の羅列を見ただけで計算ができるような類の天才と同じで、あいつは戦場にいるだけで場の空気が全て読める天才ニダ。
だから捕まえられないし、殺せないニダ」
危機察知能力だけでなく、適切に対処する術を感覚で全て行える人間。
その代償かは分からないが、彼の理性のタガは外れている。
欲望のまま、狂気のままに行動する。
あらゆる犯罪に手を染め、動物以上に欲望に忠実に生きているのだ。
(;-@∀@)「うへぇ…… 相手にしたくないですね」
<ヽ`∀´>「まぁ今回ばかりはその天才っぷりに感謝ニダね。
ただ、流石に物量で押されたら勝てないニダよ」
506
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:41:20 ID:J1j5lG3E0
四方八方をカバーできる複椀ではあるが、その隙間を狙った銃撃を防ぎきれるものではない。
盾で守れるのは最大で二方向。
相手がアヒャの危険性に気づき、一斉に攻撃をすれば流石に命はないだろう。
<ヽ`∀´>「セフトートの連中も馬鹿じゃないから、アヒャを守るだろうけど、まぁ手を貸した方がいいニダね」
(;-@∀@)「で、でもこっちの手持ちの武器なんて限られていますし、狙撃ぐらいしかないですよね?」
<ヽ`∀´>「普通はそうニダ」
(;-@∀@)「普通は」
<ヽ`∀´>「でもほら、今は普通じゃなくなったニダ」
全てを諦めたようなアサピーの顔を見て、ニダーは心からの笑みを浮かべた。
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トレバー・アヒャ・フィリップスにとって殺しとは、自慰をするようなものだった。
殺したいから殺す。
その考えが間違っていると言われたが、それを我慢することはできなかった。
生まれつき我慢することが苦手だった彼には、幸いなことにその我儘を貫き通せるだけの筋力があった。
小さな町で生まれ、そこで初めて手を染めた犯罪は窃盗だった。
店にあった玩具を手に取り、そのまま逃げたのだ。
大勢の大人が彼を追いかけてきたが、半殺しにしたことで玩具は彼の物になった。
それから彼は暴力の有用性を学び、次々と実践に移した。
結果として警察が彼を追い、彼は仕方なく生まれた町を出て行った。
行く先々で暴力と窃盗、欲望の発散を行った。
気が付けば世界中どこでも彼を追う人間がいたが、今日まで生きてきた。
([∴゚[::|::]゚]『あっひゃひゃひゃ!!』
507
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:43:03 ID:J1j5lG3E0
そして、今日。
これまでの人生で一番と言えるほどの愉快な時間が訪れていた。
長らく世話になったセフトートが吹き飛び、運よく生き延びた彼の心に生まれたのは、純粋な怒りだった。
故郷と呼べるものを奪われた気分を初めて味わい、これまでにないほどの怒りを胸に戦いに臨んだ。
奪ってきた立場の人間が、奪われて憤るなどあまりにも自分勝手な考えだが、アヒャにはその自覚がない。
彼にとってセフトートは彼を受け入れてくれた唯一の楽園だ。
だからセフトートの軍に入り、街のために働いていた。
([∴゚[::|::]゚]『どうしたぁ!!』
思い出すのは、今はなき街並みと、そこにいた彼の友人たち。
友人でないとしても、彼を受け入れてくれた大切な人間。
その面影がちらつくたび、彼の怒りが燃え上がる。
([∴゚[::|::]゚]『手前ら全員皆殺しだぁ!!』
彼の棺桶には複数の腕だけでなく、死角を補うための複数のカメラが搭載されている。
自分を中心に周囲全方位をカバーする視覚情報をもとに、彼の意思をくみ取った複椀が動く。
余計なことは考えず、目に付いた敵は全て撃ち殺すか、銃弾を防ぐか、ナイフで切り裂く。
〔欒゚[::|::]゚〕『狂人があああ!!』
明らかに指揮官が駆る銃装甲のジョン・ドゥが立ちはだかる。
([∴゚[::|::]゚]『ありがとよ!!』
双方が構える高周波振動ナイフが激突し、火花と甲高い音が手元から発生する。
〔欒゚[::|::]゚〕『こいつを殺せば一気に押し崩せるぞ!!』
([∴゚[::|::]゚]『ははっ、そうかよ!!
だったら手前をぶっ殺す!!
そのついでに全員ぶっ殺す!!』
重装甲だからと言って、あらゆる攻撃に耐えきれるわけではない。
棺桶である以上、狙えるものはある。
([∴゚[::|::]゚]『どっせい!!』
狙ったのは膝関節と顔面だった。
膝を狙った前蹴りと同時に、機関銃で顔面を殴打する。
関節部の強度には限度があり、例え重装甲で名を馳せる棺桶だったとしても、アヒャの一撃を耐えきることは出来ない。
逆側に折れた関節から潤滑油と血しぶきが上がる。
〔欒゚[::|::]゚〕『あっ……ぐおおあああっ!!』
([∴゚[::|::]゚]『そこでおねんねしてな、ベイビー!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『つ…… 捕まえた!!』
508
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:47:47 ID:J1j5lG3E0
残された足で踏み込み、アヒャに抱きついてきたかと思えばそんな事を口走る。
なるほど、とアヒャは冷静に思った。
この程度の人間が指揮官であれば、恐れる必要はない、と。
([∴゚[::|::]゚]『見えてるんだよぉ!!』
炎の中から飛び出した挟撃も。
遠方から狙っている銃腔も。
全ては、アヒャの目には見えていた。
全方位カメラが捉えた敵影に対し、彼の脳波に反応した服椀が即応する。
発砲、防御。
この動作だけがあれば、アヒャが殺されることは無い。
指揮官が捨て身で攻撃を仕掛けてくるということは、それだけ切羽詰まっているということなのだ。
群れを率いる存在が前に出てくるなど愚の骨頂。
理屈ではなく感覚でそれが過ちであると知るアヒャは、嬉々として目の前の男の首を切り落とした。
首の付け根に滑らかに差し込まれたナイフによる一閃は、本人が苦痛を感じるよりも先に切断を終えていた。
首より先に胴体が地面に倒れ込み、最後に首が地面に落ちる。
機関銃から吐き出される薬莢の雨の中、アヒャの両眼は周囲を睨め回し、近接戦闘に備えた。
([∴゚[::|::]゚]『こいやぁ!!』
初めて彼が覚えた感情の正体が、これまで彼が踏みにじってきた感情であることは、アヒャはまだ知らなかった。
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ヽ`|/ | ヽ `´ヽ, .、 ヽ / / /
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同日 PM00:01
世界に夜の帳が降りる少し前に、ジュスティア沖にいた13隻の原子力空母は所定の位置に到着していた。
錨を降ろし、上陸艇に乗った兵士たちが続々とジュスティアに上陸していく様は、巨大なケーキに群がる蟻のようだった。
ジュスティアを守るはずだった海岸警備隊は度重なる砲撃にさらされ、文字通り全滅している。
唯一、スリーピースだけがジュスティアを外敵から守るため、その役割を果たしていた。
509
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:52:24 ID:J1j5lG3E0
そして、その防壁を破壊するだけの威力を持つ主砲を構える超ド級戦艦“ロストアーク”だけが、ジュスティアへの攻撃を完全に停止させていた。
(#´・ω・`)「あの糞野郎どこ行きやがった!!」
停止の原因はたった一人の裏切り者による工作だった。
ショボン・パドローネにとっても、そして彼の所属するティンバーランドにとっても、その工作は十分すぎる効果を発揮していた。
つい数分前までは追う側だったにも関わらず、今では追われる側になっている。
全ては、彼が追っていたワカッテマス・ロンウルフの仕業だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『裏切り者を見つけ出せ!!
あいつはジュスティアの犬だ!!』
噂とは恐ろしい物だ。
ほんの僅か、そう、一滴の毒だけで状況が一変してしまう。
戦時中という特殊な状況下でなおかつ、それに慣れていない人間は容易く噂に流されてしまう。
一度でも噂が流れてしまえば、後はそれが脚色されて広まるのも時間の問題だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『艦長が言った通り、何人もジュスティアの犬がいるぞ!!』
時差で訪れたこの展開は、明らかに混乱を狙ったもの。
要は時間稼ぎのための混乱だが、今のショボンにとっては迷惑極まりない展開だった。
こちらが何を言っても信用されず、何をしても疑いが晴れることは無い。
流された噂は、恐らくショボンがジュスティアの内通者であるという旨のものだったに違いない。
そしてそれは、信用に足る人間の口から漏れ出た言葉が発端だったのは間違いない。
ティンバーランドという組織は広く受け入れをしている反面、その背景については念入りに調べ、決して志がぶれないように注意している。
となると、噂の始まりと今に至る経緯を想像するのは難しくない。
だが、味方がそのことに気づけていないのが問題だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『拳銃に通常弾を装填しておけ。
艦内で徹甲弾を撃てば大惨事になりかねないぞ』
聞こえてくる言葉を真実と仮定すれば、この船の艦長であるスパム・シーチキンにワカッテマスが何かを言ったのだ。
それに対して彼女が何か反応をし、それを聞いた部下が誤解し、仲間に噂を流す。
程よく広がったあたりで、ワカッテマスはショボンから逃げた。
当然、裏切り者を始末するために追うショボンだが、その姿を見る者の視点によって状況は変わってくる。
ワカッテマスが逃亡中に噂を追加で流布すれば、その効果は絶大な物になる。
時間が経てば解決するような噂だが、その時間を生み出すことなど今は無理だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『いたぞ!!』
拳銃から容赦なく銃弾が浴びせかけられる。
辛うじて物陰に隠れ、抗議する。
(#´・ω・`)「だから、俺は違う!!」
510
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:53:47 ID:J1j5lG3E0
反撃を一度もせず、口頭と行動で己の潔白を口にするが、効果は見られない。
こちらが一切の反撃をしていないということにすら気づけてないのは、戦艦という極めて閉塞的な空間がもたらす心理的な圧迫が原因だろう。
既にショボンの命令に従っていた同志は射殺され、ワカッテマスとの立場は逆転した。
ここからの逆転は非常に難しい。
彼は円卓十二騎士の一人、“ウォッチメン”。
何にでもなれる者、の二つ名で呼ばれたジュスティア警察創立以来の最優秀の警官と言ってもいい。
真実を見抜く力に長けているということは、相手の弱点を見抜く力を持っているということ。
遅効性の毒を効果的に用いることで、こうしてショボンを追い詰めている手腕がその証拠だ。
こうしている間にも彼はこの戦艦を無力化しつつ、脱出を図るだろう。
もしもそれが結実すれば、間違いなくロストアークは任務を果たせなくなる。
現に主砲の一部が使用不可能となり、その影響で他の主砲も急ピッチで確認作業が行われている。
その主犯は間違いなくワカッテマスだが、今はショボン一派の犯行ということになっていた。
(#´・ω・`)「同志を撃つんじゃない!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『黙れ裏切り者が!!』
跳弾から逃げるため、流石にその場から走り出す。
鉛弾が船の壁を撃ち抜くことは無いが、ショボンの命を奪うことはあまりにも容易だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『……っ!! おい、こっちで同志が一人殺されてるぞ!!』
(#´・ω・`)「それはお前らが!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『絶対に逃がすな!!』
ジュスティアの攻略にロストアークの援護射撃は不可欠だ。
スリーピースを突破するためには、圧倒的な質量で攻め込むしかない。
ここで戸惑っていては、ジュスティア攻略に時間がかかってしまう。
速攻勝負のこの作戦は、時間が経てば経つほど不利になる。
長期にわたってジュスティアに仕込んだ毒が意味を成す前に終わってしまえば、これまでの努力が水泡に帰してしまう。
(#´・ω・`)「この……馬鹿野郎どもが!!」
もしも自分がワカッテマスの立場であれば。
もしも自分がこのロストアークを無力化しなければならない立場であれば。
今行うべきことは、生き残った主砲の無力化だ。
ロストアークには主砲が合計で40門存在する。
五連装砲が四基、それが艦橋を挟んで前後にそれぞれ設置されている。
ワカッテマスが先ほど行った妨害工作で前方部の数基が無力化されたが、その詳細は分からない。
自動装填装置を破壊されてしまっていれば、1トン以上の重量がある砲弾を人力で装填しなければならない。
そのような訓練を受けた人間は、ほんの数人しかいない。
511
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:54:38 ID:J1j5lG3E0
最悪の場合は砲弾が誘爆し、船が真っ二つになる未来だ。
そこでようやく、ショボンはワカッテマスの所在に思い当たった。
この船の無力化をするならば、沈没させるのが最適解だ。
それを簡単に行えるのは、間違いなく爆発の起きた砲塔の近く。
体にまだ“マックスペイン”の恩恵が残されている間にそこに向かい、ワカッテマスの妨害工作を止めなければならない。
(#´・ω・`)「うおおお!!」
狭い艦内を走り回り、ショボンは最短ルートで目的地に向かう。
砲弾が保管されている場所が近づくにつれ、火薬と物が焼け焦げた匂いが濃くなっていく。
サイレンが鳴り響き、海水を使ったスプリンクラーによる放水が行われているエリアに到着した時には、それは匂いだけでなく黒い煙と共に彼の鼻に入ってきた。
足元に溜まっている海水が、その放水量と時間を如実に物語っている。
(´・ω・`)「……頼むぞ」
それは、味方に対する願いであると同時に、自分の持つ悪運の強さに対する切実な気持ちだった。
そして何より、砲弾への誘爆が一番の心配だった。
最悪の場合はニューソクの誘爆へとつながり、付近にいるオーシャンズ13のニューソクにまで連鎖的に誘爆する展開だ。
頭上からしたたり落ちる水を無視して、ショボンは自動装填装置のある場所に向かった。
彼の推理が当たっていれば、ワカッテマスは間違いなくこの空間で工作をしているはず――
( <●><●>)「――いやはや、本当に来るとは」
角を曲がった瞬間、仁王立ちになったワカッテマスがショボンを出迎えた。
出会い頭に放たれたのは言葉と前蹴り。
完全な不意打ちによって防御不可能な一撃と化した前蹴りは、正確にショボンの鳩尾にめり込んだ。
力を籠めることも出来ず、胃の中身をその場にぶちまける。
(;´・ω・`)「げはぁっ?!」
( <●><●>)「優秀な刑事だったからこそ、私の行動が読めるのも分かっていました。
そしてその読みは、概ね正しいですね」
ドーピングで強化できるのは筋力だけであり、内臓の強化はできない。
痛覚を遮断できることもできないため、膝を突いて苦悶の声を押し殺すのがせいぜいだった。
(;´・ω・`)「あぐ…… 糞ッ!!」
( <●><●>)「おや、悪態が出るならまだいけますね」
無防備な後頭部を狙って、ワカッテマスの踵が振り下ろされる。
当然、防御などできない。
後頭部を直撃した一撃はショボンの意識を現実から遠ざけ、激痛が意識を現実とつなぎとめた。
(;´・ω・`)「目が覚めたよ、糞が!!」
( <●><●>)「さて、優秀な刑事さんに質問しましょう。
どうして私がここであなたを待っていたと思いますか?」
512
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:02:28 ID:J1j5lG3E0
(;´・ω・`)「さぁな、悪趣味な奴の考えなんて分かるかよ」
( <●><●>)「答えは簡単。 同じジュスティアの人間として、お話がしたかったからです。
あぁ、ご安心くださいね。
すでに工作は済んでいるので、この船は沈みます」
(;´・ω・`)「野郎……!!」
痛みが和らいできたが、まだ後頭部に受けた一撃の余波は消え切っていない。
相手が悦に入っている間に、反撃の隙を伺うしかない。
今は耐える時。
だが、次に出てきたワカッテマスの言葉に、ショボンの思考が停止した。
( <●><●>)「ジュスティアの秘密は、どこまで調べましたか?」
一瞬、何を言っているのだろうかと聞き返そうとしてしまう。
こちらの沈黙の意味をくみ取ったのか、ワカッテマスが続ける。
( <●><●>)「力が全てを変える時代に、あの街が生まれたのは何故か。
スリーピースの建造と、防衛装置の技術。
知れば知る程、ジュスティアが分からなくなるんですよ。
私はそれについて調べて、ある人物に辿り着いた。
だけどひょっとしたら、別のアプローチがあるのかもしれない。
そこで、あなたに質問なんですよ。
何か、知っていることはありませんか?」
(;´・ω・`)「何を言ってるんだ、お前は」
流石に、ショボンの中にある疑念が言葉となって口から出てくる。
( <●><●>)「きっと、ジョルジュさんはそれを知っている。
てっきり同郷のあなたに話しているものだと思ったのですが、無駄だったようですね」
興味を失ったように溜息を吐き、ワカッテマスはショボンに背を向けた。
( <●><●>)「後はどうぞお好きに」
(;´・ω・`)「……そうさせてもらうさ!!」
ショボンは一気にその場から駆け出し、ワカッテマスの横を通り過ぎた。
今はこの男に構っている時間がない。
先ほどの言葉が真実だとしても、まだこの船を沈ませるわけにはいかない。
せめて、せめてスリーピースだけでも突破しなければジュスティアを攻め落とすのは難しい。
三重の壁に砲撃で空いた穴から入り込もうと部隊が派遣されたが、その作戦は失敗に終わっている。
空から攻め入ろうとした部隊は砲弾を撃ち落とした兵器によって瞬く間に全滅し、地上からの攻略を余儀なくされている。
だが壁の中は今、甚大な被害を受けているはずだ。
ジュスティアの要所であり、正義の象徴とも言える左右対称に建てられたビル、ピースメーカーが倒壊したことが分かっている。
513
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:03:56 ID:J1j5lG3E0
今が好機なのは間違いないが、スリーピースの入り口は固く閉ざされており、ジュスティア陸軍による厳重な防御陣地がこちらの進軍を阻んでいる。
火薬の匂いが濃くなるにつれ、ショボンの焦りもより強いものになっていく。
ついに作業をする人間の声や跫音、作業をする音が耳に届く場所に到着した彼が見たのは、想像よりも遥かに酷い損傷具合だった。
自動給弾装置は戦艦の要だが、その装置が跡形もなく吹き飛び、床や天井にその破片が突き刺さっている。
他の区画にまで被害が及んでおり、頭上からは日の光が差し込んでいた。
降り注ぐ日の光に反射するのは、消火に使われた海水だ。
その絶望的な光景の中で棺桶に身を包んだ者達が床に走った亀裂を溶接し、砲撃の衝撃で亀裂が広がらないように懸命に修理をしていた。
この船にある他の主砲を撃たないのは、砲弾への細工を警戒しているだけではなかったのだ。
砲塔が直接爆発したのではなく給弾装置が爆発したことにより、砲弾に詰まっていた火薬が炸裂し、これだけの被害をもたらしたのだ。
逆に言えば、砲弾の爆発でもこれだけの被害で抑えたこの空間の堅牢さが分かる。
常に数発だけがその給弾装置内にあり、必要な分は下の階からエレベーターを使って自動で輸送する形をとっていたのも幸いした。
しかしワカッテマスがどのような罠を仕掛け、この船を沈めるのかが分からなければその堅牢さも気休めでしかない。
だが狙うなら、とにかく亀裂だ。
(;´・ω・`)「……くそっ」
ここで声をかけ、ワカッテマスが仕掛けた罠を見つけ出し、解除することが出来れば話は簡単だ。
だが今のショボンは裏切り者としてのレッテルを貼られており、声をかけた瞬間に殺されかねない。
相手が棺桶で武装しており、こちらが生身である以上は一方的な敗北は避けられない。
かといってここで黙っていても、船が沈没する未来が避けられるわけでもない。
ショボンは意を決し、両手を挙げて作業中の仲間たちに声をかけた。
(´・ω・`)「俺の話を聞いてくれ!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『ん?!』
溶接作業をしていたジョン・ドゥの手が止まる。
(´・ω・`)「敵はまだこの給弾装置に罠を仕掛けているはずだ!!
頼む、俺に手を貸してくれ!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『裏切り者がのこのこと!!』
作業をしていたジョン・ドゥがその場から消えた。
超至近距離での加速は常人の視力では捉えられない。
足元に上がった水しぶきだけが移動した唯一の証拠。
思いきり壁に叩きつけられたショボンは肺の中の空気を全て吐き出し、苦悶の声を上げる。
だが一切の抵抗も、回避行動もしなかった。
全身の筋肉を硬化させ、どうにか致命傷を防ぐ程度に抑えたのは、相手がこちらを殺そうとしてなかったからだ。
壁に押し付けて持ち上げられる。
無言で見上げられ、機械仕掛けの両眼の奥にある男の目を正面から見据える。
〔欒゚[::|::]゚〕『……』
(;´・ω・`)「……頼む」
514
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:08:29 ID:J1j5lG3E0
その言葉を聞き、僅かの沈黙。
男はゆっくりと言った。
〔欒゚[::|::]゚〕『……分かった』
〔欒゚[::|::]゚〕『おい、いいのかよ!!
だってそいつ、ジュスティアのスパイなんだろ』
〔欒゚[::|::]゚〕『だったら、こんなところに来やしないだろ。
今は手が必要なんだ』
(;´・ω・`)「助かる」
ジョン・ドゥの手がショボンから離れ、その場に降ろされる。
〔欒゚[::|::]゚〕『それで、アテはあるんだろうな』
(;´・ω・`)「あぁ。 亀裂を塞ごうとしているだろう?
奴は恐らく、亀裂を広げるために爆弾を仕掛けている。
ワカッテマスがここに来なかったか?」
〔欒゚[::|::]゚〕『……それなら、俺が見たよ』
別の場所で作業をしていたと思わしき男が、のそりと姿を現した。
〔欒゚[::|::]゚〕『さっき向こうに行ったやつだろ?
この下のフロアにある弾薬保管庫から出てきたのを見たぞ』
〔欒゚[::|::]゚〕『そこは今誰が見てる?』
〔欒゚[::|::]゚〕『分からない、だが、あそこに入るにはキーコードが必要だ。
俺達じゃ入れないぞ』
その瞬間、空気が一気に変化した。
パズルのピーズがはまり、一枚の絵が出来上がる感覚だ。
誰もがワカッテマスが描いた絵を理解し、今必要なことを理解した。
〔欒゚[::|::]゚〕『艦長に連絡を!! 急げ!!』
後は時間との勝負だ。
弾薬保管庫には主砲の砲弾が弾種ごとにコンテナに数十発単位で収められており、一種のマガジンの様になっている。
それを機械制御で上にある装置へと送り込み、連続した砲撃が実現する。
ワカッテマスが仕掛けた最初の罠の被害がそこまで甚大にならなかったのは、その仕組みのおかげでもある。
そしてそこを狙われれば、この船が一撃で二つに分断されるのは言うまでもない。
だからこそ厳重な管理下にあり、権限を持つ人間でしかアクセスできないようになっている。
そこに入っていたとなると、答えは言うまでもない。
〔欒゚[::|::]゚〕『艦長!!』
515
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:12:03 ID:J1j5lG3E0
艦長である、スパム・シーチキンに連絡が行く。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『なんだ』
〔欒゚[::|::]゚〕『時間がありません、とにかくすぐに前方の弾薬保管庫のロックを解除してください!!』
この船を直感的に操作できるスパムならば、閉鎖された区域のロックを解除するなど何ら苦ではない。
今ならば、まだ間に合う可能性がある。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『……いいだろう。
作業をしながら説明しろ』
〔欒゚[::|::]゚〕『ありがとうございます!!』
すぐにショボンを含めた5人が下の階へと急行する。
分厚い鉄の扉が開き、薄暗い空間に敷き詰められたコンテナの林が彼らを出迎えた。
頭上で輝く蛍光灯の明かりはコンテナに遮られ、満足に物陰を見ることが出来ない。
だからこそ、そこは機械の目を持つ仲間に任せることにした。
〔欒゚[::|::]゚〕『急げ!! 爆発物があれば身を挺してでも処理するんだ!!』
(;´・ω・`)「時間がなかったはずだ、コンテナの装甲が薄い場所を探すんだ!!」
狙うならば、自動給弾に必要不可欠な穴のある個所だ。
そこに高性能爆薬を仕掛ければ、後は勝手に誘爆し、この空間が全て吹き飛ぶ。
ショボンの言葉を理解したジョン・ドゥたちが示し合わせたようにコンテナの上に乗り、不審物の探索をする。
〔欒゚[::|::]゚〕『おい、ここにあったぞ!!』
早速一人が見つけたが、爆弾は一つとは限らない。
〔欒゚[::|::]゚〕『複数ある可能性がある、おい、この通信が聞こえている奴は全員弾薬保管庫に来るんだ!!』
手分けをして大量のコンテナを捜索するが、それが無駄に終わる可能性は極めて高い。
それでも、何もしないでこの船を沈めさせるわけにはいかない。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『総員に告ぐ。 これより本艦はスリーピースに突っ込む。
錨を投棄。 直線上にいるあらゆる友軍は直ちに退避せよ。
艦内にいる同志たちは必要な物を持ち、速やかに脱出せよ。
弾薬保管庫で作業中の同志諸君。
……すまない』
その言葉は事実上の敗北宣言と捉えられるものだった。
作業を中断することなく、誰もが声を荒げる。
まだだ。
まだ終わっていないのだ。
〔欒゚[::|::]゚〕『そんな!! まだ諦めないでください!!』
516
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:12:55 ID:J1j5lG3E0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『諦めてなどいない。 主砲が撃てない戦艦など、よくて盾か囮にしか使えない。
私はこの船と共に奴らに挨拶をしてやるだけだ。
残り時間が分からないなら、終わりの時間はこちらで決めさせてもらう』
スリーピースの突破には主砲が必要不可欠だが、その主砲が使えない戦艦は確かに無用の長物と言ってもいい。
もしもこの規模の船がスリーピースにぶつかるか、接近することが出来ればこの船が橋としての役割を果たせる。
しかし、それは分の悪い賭けだ。
戦艦である以上、出せる速度はたかが知れている。
喫水の事を考えれば、陸上に乗り上げること自体がそもそも不可能に近い。
同時に、ショボンたちがワカッテマスの罠を全て見つけ出すこともまた、不可能に近いのだ。
(´・ω・`)「なら、我々も自分たちの終わりを自分たちで決めさせてもらいますよ」
ショボンたちの作業が成功すれば、この船が突撃する必要はなくなる。
だが時間が分からない。
可能性を信じれば、可能性に殺されることになる。
〔欒゚[::|::]゚〕『糞っ!! タイマーが止まらねぇ!!
残り1分だ!!』
それは、最初に爆弾を見つけた男の発言だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『とにかくコンテナから遠ざけろ!!
誘爆すればもうこの船はお終いだ!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『ああっ、糞!! 糞!!
道を開けてくれ!! このまま外に持っていく!!』
コンテナから飛び降り、男は胸に爆弾を抱えたまま部屋を飛び出した。
その瞬間。
ショボンの背筋に電流の様なものが流れ、全身の血の気が引いた。
(#´・ω・`)「ああああ!!
の野郎おおおおおお!!」
ショボンは叫びながら男が直前までいたコンテナに飛び乗り、そこに置かれていた物を手に取る。
(#´・ω・`)「いぇおう!!」
弾薬保管庫で大爆発が起きたのは、そのすぐ後の事だった。
517
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:23:34 ID:J1j5lG3E0
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ワカッテマス・ロンウルフの得意とする諜報戦は、毒を数滴垂らすことだった。
複数の真実に嘘を一つ紛れ込ませることで、その嘘は遅効性だが威力の高い毒となる。
毒が効果を発揮するタイミングをこちらであらかじめ決めることが出来れば、戦況を変えることは可能。
この戦艦を無力化するために選んだのは、そういった嘘だった。
まずは艦長に対し、ショボンへの信頼を疑わせるよう、スリーピースの情報を流す。
当然、それを聞いていた彼女の部下がそれを他者に話すことも想定している。
ショボンからの追跡を逃れる間、彼が複数のジュスティア人と共に反旗を翻したと噂を流布した。
その噂が艦内に広がり、認識をマヒさせ、こちらの思った通りに毒するには僅かな時間が必要だった。
結果、この艦内におけるショボンの立ち位置と彼に同行した人間は裏切り者のレッテルを貼られ、それまでの立場が逆転することになったのである。
だがそれでも、この戦艦を無力化するにはまだ不足だった。
主砲の一部を破壊したことによって艦内に亀裂が走り、間接的に砲撃を止めることは出来たが、まだ足りないのだ。
溶接作業が行われてしまえば、ある程度の砲撃能力が回復してしまう。
そうなる前に、せっかく生まれた傷を広げない手はない。
主砲を破壊した工作は一度しか使えない物だったが、出来れば砲弾への誘爆を利用してこの戦艦を沈めたい。
そこで、ショボンを利用することにした。
このような組織に落ちぶれ、周囲から追われたとしても、それでも彼の本質はジュスティア人だ。
真実と正義の為に動くようにと、その体は長年の訓練にさらされてきた。
一度体に染みついた習慣はそう簡単には消えない。
ワカッテマスが次に打つ手を考え、対策仕様と躍起になるはずだ。
例え自分が裏切り者として周囲から追われたとしても、彼は正義のためにその身を犠牲にしてこの船を守ろうとする。
518
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:29:00 ID:J1j5lG3E0
だから、与えたのだ。
分かりやすい答えを。
納得のいく、疑問の余地のない答えを。
既に罠は仕掛け終え、ワカッテマスはこの船から逃げ出すという答えを。
事実は逆だ。
罠はまだ仕掛けていない。
そして、ワカッテマスはこの船に残る。
弾薬保管庫への侵入は現実問題として、不可能だった。
だが、ショボンがわざわざ味方を引き連れて艦長に依頼した結果、不可能は可能となった。
後はジョン・ドゥを身にまとい、共に爆薬を探すという体で爆発物を設置する。
その場からの脱出は、爆発物の処理が出来ないから外に出ると言えば簡単に行く。
戦艦の外に出たと同時に、下から大きな爆発音と衝撃が彼を襲った。
いつの間にか、空が灰色に染まりつつあった。
嵐ではない。
何かもっと、別の要因だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『……おかしいですね』
まだ船が沈む気配がしない。
爆薬の量は申し分なかったはずだ。
そう思った時、背後からその答えが現れた。
(#´・ω・`)「はぁ……はぁ……!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『よくもまぁ生きていますね』
傷だらけのショボン・パドローネ。
その姿は傷だらけで、いたるところが煤だらけになっている。
(#´・ω・`)「お前は……っ!!
お前だけは絶対に殺す!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『無理ですよ。 生身で私を殺そうなどと』
(#´・ω・`)「それはどうかな」
そう言って、ショボンが右手を掲げ、指を鳴らした。
その、直後の事だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『?!』
(#´・ω・`)「どぅら!!」
マックスペインの力によって人間離れした速度でその場から駆け抜け、ショボンがワカッテマスの目の前に現れる。
背後は手すりを挟んで海。
後退するのには、僅かばかりの逡巡が生じた。
その逡巡が、命取りとなった。
519
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:35:20 ID:J1j5lG3E0
(#´・ω・`)「一緒にハッピーになろうぜ!!」
その言葉と共にショボンが抱きつき、ワカッテマスはショボンの意図を理解する。
どうしてわざわざ声をかけ、どうして生身でこちらに挑んで来たのか。
マックスペインを重ねて使用し、命を削って得た運動能力。
それは全て、彼が腹に巻き付けた大量の高性能爆薬をこの距離で使うため。
引き剥がすには、もう遅い。
〔欒゚[::|::]゚〕『このっ……!!』
(#´・ω・`)「イピカイエェェェ!! マザファ――」
――形容しがたい大爆発がワカッテマスを襲い、その意識を奪い取った。
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同日 PM00:16
ゆっくりと。
朝日が昇る様に、ゆっくりと、だが確実に意識が覚醒していく。
激痛が全身に広がり、血の気が失われているのが分かる。
爆発の衝撃を受けた正面の骨はほぼ全て折れているだろう。
(;<●><●>)「あ……そ……」
ショボンという男を侮っていた。
あの爆発の規模の理由と彼の傷から導き出される答えは、一つだけ。
こちらの仕掛けた爆弾を味方のジョン・ドゥに向かって投げつけ、それを体で覆わせたのだ。
そうすれば弾薬への誘爆は防ぐことができる。
520
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:35:44 ID:J1j5lG3E0
そしてそのままこちらを追いかけ、どこかで調達した爆薬で自爆してきたのだ。
爆発はジョン・ドゥの装甲を吹き飛ばし、ワカッテマスに致命傷を与えた。
ショボンは爆発四散し、その肉片は戦艦の壁の染みとなっている。
しかし、それでも彼はやり遂げた。
この船を沈めさせない、ということを。
(;<●><●>)「っふふ、流石……」
ワカッテマスは海風を浴びながら、そう呟く。
任務は失敗した。
戦艦の無力化には成功するが、その先がない。
この船は間もなくスリーピースに突っ込む。
(;<●><●>)「いやぁ……まいった……なぁ」
不思議と、後悔はなかった。
ギリギリの綱渡りを楽しんだ結果がこれだ。
自分の気持ちのままに、答えを知りたいがために動いた。
ならばこの結果は因果応報。
相応の結果なのである。
何もかもを最前線で知りたいという欲がこの結果を生み出しただけ。
(;<●><●>)「さぁて……」
打てる手は全て打った状態だ。
主砲の無力化は図らずも成功したが、この船がスリーピースに激突すれば恐らく侵攻は止められなくなる。
(;<●><●>)「……ここまでか」
船底が削れるような振動が船全体を襲う。
まるで悪夢の様にスリーピースが迫る。
(;<●><●>)「ふふっ……こうすることは……分かってましたよ」
そして、その振動がこの戦艦に引導を渡すことになる。
断末魔の様に甲高く、そして重々しい金属が裂ける音が響き渡り、船が傾き始める。
船底に仕掛けた爆弾が振動によって起爆し、船のバランスを崩したのだ。
速度が徐々に失われ、岩礁に乗り上げた戦艦が倒れていく。
肉食獣が眠りにつくようにゆっくりと傾く中、ワカッテマスは嬉しそうな声を上げた。
(;<●><●>)「……おや、来ましたか」
その声が誰かの耳に届くことは無い。
サイレンと悲鳴、金属が千切れる音が船全体に広がっている。
もう間もなく、この船は跡形もなく爆散するだろう。
(;<●><●>)「まったく……君はいつも……」
521
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:36:25 ID:J1j5lG3E0
黒く染まりつつあるジュスティア上空にそれを見た時、ワカッテマスの胸に去来したのは安堵感。
どうにか時間を稼ぐことは出来た。
彼が来るまでの間、ジュスティア内への侵入は防げた。
後は、彼に委ねよう。
――ロストアークが爆散した時、ジュスティアに一機のヘリコプターが降り立った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第十四章 【 Ammo for Rebalance part11 -世界を変える銃弾 part11-】 了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
522
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:36:45 ID:J1j5lG3E0
これにて今回の投下は終了です
質問、指摘、感想等あれば幸いです
523
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 22:50:25 ID:XesLE3W.0
うおお乙
これまで重要な役目を担ってたショボンやらがあっさり死んでいくのは戦争の無情さを感じるね
アサピーが個人的に大好きなんだが生き残れるだろうか…
524
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 23:11:19 ID:OuW63qoI0
乙です
525
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 23:44:22 ID:qSOncVv20
おつ
>>517
の
>ワカッテマスが次に打つ手を考え、対策仕様と躍起になるはずだ。
対策しようと の間違い?
526
:
名無しさん
:2023/04/04(火) 20:33:42 ID:4MYSSGdw0
>>525
Oh NO!
その通りでございます!!
527
:
名無しさん
:2023/04/04(火) 21:10:13 ID:EzKvRTaQ0
乙
散々ワカッテマスさんに振り回されてきたショボンが最期に一矢報いたのは胸が熱くなった
イルトリアのお年寄りさんたちは元気で何より
>>490
空の片隅に"炭"を垂らした
これは多分"墨"の方がいいんじゃないかな
>>492
生産するための向上の品質と材料の確保
ちょっとおかしな言い回しになってるから、生産するための品質の向上と材料の〜でいいんじゃないかな?
上手い言い回しが思いつけなくて申し訳ない……
>>385
>>428
>>505
>>506
>>507
>>508
これ全部"腕"が"椀"になってますね。
>>508
に至っては服椀になってます。
以前の投下分には見逃してました……
>>511
痛覚を遮断できることもできないため
痛覚を遮断することもでいいんじゃないかな
528
:
名無しさん
:2023/04/04(火) 21:16:17 ID:4MYSSGdw0
>>527
いつもありがとうございます!
椀!! みんな飯を食っているのか!!
今回はいつにも増して酷い誤字が……
修正した物をまとめの方に載せさせていただきます……!!
529
:
名無しさん
:2023/04/06(木) 10:59:19 ID:kNPF7c8.0
乙
ショボン死んじまったか…ダイ・ハードで戦ってる所がすごい好きだった
530
:
名無しさん
:2023/06/25(日) 10:29:54 ID:DxVw7D.w0
そろそろ来ないかな
531
:
名無しさん
:2023/06/26(月) 18:28:43 ID:uXya/F0A0
後もうちょっとで書き終わるので、今しばらくお待ちください。
運が良ければ今度の日曜日に投下できるはずです……!!
ちなみに、文量はいつもの二倍ぐらいです
532
:
名無しさん
:2023/06/27(火) 22:05:00 ID:sMxxLnmg0
さすがっすわ待ってます
533
:
名無しさん
:2023/06/28(水) 19:14:29 ID:0m6lxS7c0
今度の日曜日、VIPでお会いしましょう
534
:
名無しさん
:2023/06/29(木) 00:11:45 ID:2DzhpL/Y0
二倍とかすげー
535
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:25:28 ID:EB0RZRkQ0
投下途中に落ちました……
ので、こちらに投下します
536
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:25:49 ID:EB0RZRkQ0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
正義や神や奇跡の有無よりも、私は正義の味方の存在を信じている。
あの人がまた私を救ってくれることを、信じている。
だって、あの人は私を救ってくれたのだから。
――とある少女の日記より
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September 25th AM11:49
足場が激しく上下し、風が何もかもを吹き飛ばそうとする過酷な環境下での射撃など、トラギコ・マウンテンライトは経験したことがなかった。
しかもそれが追われる身であり、空中でとなると体験した人間は世界中どこを探してもほとんどいないだろう。
彼は今、ニョルロック上空からクラフト山脈を経由し、ジュスティアを目指すヘリコプターの中にいた。
そのヘリコプターはジュスティアと因縁の関係にあるイルトリア軍の所属だが、操縦士も、そこに乗っているトラギコも今は過去の遺恨は頭にない。
(=゚д゚)「やっぱり全然当たらねぇラギ!!」
ライフルを構え、弾倉を一つ撃ち切ったトラギコが、操縦席に向かってそう叫ぶ。
操縦士は後ろを見ることなく、的確な答えを告げる。
(::0::0::)『ローターだ!! ローターを狙ってくれ!!
パイロットを狙うのは無理だ!!』
(=゚д゚)「よーく分かったラギ!!」
空になった弾倉を、後ろから迫ってくる敵のヘリ目掛けて投げつける。
当然それは当たらないが、少しは気が晴れた。
新たな弾倉に交換し、狙いを定める。
光学照準の先にいるのは、20機からなる攻撃ヘリの群れ。
双方の距離は徐々にだが、確実に広がりつつある。
飛行性能ならば間違いなくこちらの方が優れている。
だが相手は両翼に機銃を取り付けた攻撃ヘリだ。
距離が開けば開くほど、相手にとっては照準を合わせやすくなる。
可能ならば頭上を飛ぶのが一番だが、そのような余裕はないだろう。
不規則に揺れる状態で照準を安定させることが出来ないため、トラギコは思わず悪態を吐く。
(=゚д゚)「くっそ!!」
こちらの持つ弾の数と、相手の持つ弾の数は圧倒的な差がある。
その差がある以上は、こちらが一方的に撃たれ続けるという展開が濃厚だ。
どれだけ逃げ切れるか、そして、どこで相手が限界を迎え、ジュスティアに到着する前に全滅できるか。
一種のチキンレースだ。
(=゚д゚)「……あれは」
537
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:26:26 ID:EB0RZRkQ0
その時、トラギコの視界に入ったのは青空に向かって立ち上る巨大な黒煙。
雷を纏い、青空を異形の色に染め上げようとする暴力的な爆発。
海に近い陸で起きたその爆発は、あまりも巨大で、以前にティンカーベルで見た物とは比較にならなかった。
ティンカーベルで起きた爆発とは、何かが根本的に違う。
今トラギコの目に映っている爆発は、暴力的、そして無秩序なものだ。
以前のものはどこか調整された、控えめと言っていい爆発だった。
上空に向かって立ち上るその煙は瞬く間に空を黒に染め上げていき、徐々に明るさを失っていく。
(=゚д゚)「なぁ、俺たちは大丈夫ラギか?!」
ヘリコプターは繊細な乗り物だ。
風の影響を受ければ簡単に傾き、場合によっては墜落の危険性さえある。
(::0::0::)『大丈夫だ、あんたは絶対にジュスティアに送り届ける』
衝撃波を一度切り抜ければ、後はどうにでもなるということなのだろう。
(::0::0::)『しっかし、あんな爆発をお目にかかれるとはな』
光学照準器を覗き込み、トラギコは改めて敵の攻撃ヘリに狙いを付ける。
曳光弾のないトラギコにとって、自分の弾の軌道が分からないというのは極めてやりづらいものだ。
(=゚д゚)「曳光弾でもあればよかったラギ」
そう心の声を嘯きながらも、トラギコの目は自分の放った弾がどうなっているのか、先ほどの弾倉一つ分の射撃でつかめていた。
相手のドアガンナーがこちらを狙っているのを見るに、安定した距離を確保したということだろう。
ならば、急激な移動はないはず。
トラギコは息を深く吐き、狙いをやや上に調整して銃爪を引いた。
メインローターの一部で火花が上がった。
狙いは合っているということだ。
更にそこから狙いをずらし、ドアガンナーに狙いを付ける。
ジェットエンジンを搭載しているこちらのヘリに被弾すれば、空中で大きな花火が上がることになる。
体を固定するベルトに体重を預け、トラギコは更に体を外に乗り出し、風の吹きすさぶ中で射撃を行った。
最初の数発は外れたが、ドアガンナーに命中し、力なくうなだれるのが見えた。
弾倉を更に一つ使いきり、新たな弾倉に交換する。
次はローターに狙いを変え、三発ずつ発砲した。
ローターから火が吹きあがり、空中で機体が回転を始める。
高度が落ち、地上に落ちる前に空中で爆散した。
(=゚д゚)「1機落としたラギ!!」
続けて撃とうとした時、銃弾がヘリの横を掠め飛んで行った。
後続のヘリが攻撃を始めてきたのだ。
(=゚д゚)「やりやがったな!!」
538
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:26:46 ID:EB0RZRkQ0
それでも、トラギコの狙いは怒りにぶれることは無かった。
一発ごとに調整を加え、放った銃弾が操縦席のガラスに穴を穿つ。
続けて放った銃弾はその上に着弾し、ローターが火を噴いた。
二機目を落としたが、安心はできない。
(=゚д゚)「もっと速度でないラギか?!」
トラギコが三つ目の弾倉を空にして叫んだのとほぼ同時に、操縦士は唖然とした声色で言った。
(::0::0::)『クラフト山脈が見えてき……
……おい、ランディ、あれが見えるか?』
(::0::0::)『マジか……
あんなの、ありかよ……』
つられて、トラギコは視線を前に移す。
(=゚д゚)「あぁ?! あぁ……」
それを見た時、トラギコも言葉を失った。
まるで巨大なビルが荒野に立っている様に見えたが、それは間違いなく人の形をしていた。
巨大なキャタピラ。
巨大な砲塔。
目に映る全てが規格外の巨大さであり、まるで現実感が湧かない。
だがそれは紛れもなく、兵器だった。
(;=゚д゚)「あれが……ハート・ロッカーか」
近づくにつれ、その全容が明らかになってくる。
だが同時に、その姿の不自然さも明らかになった。
(::0::0::)『だが砲撃してないってことは、何かが起きてるってことだ。
……あれ、倒れてないか?』
転倒しづらいものほど、起き上がるのが困難な構造をしていることが多い。
あれだけの巨体が転倒し、起き上がるとなると相当な時間がかかるだろう。
腕が付いているのはそのリスクを軽減するためだろうが、巨体故に時間を失うのは必然だ。
(;=゚д゚)「あ、本当ラギ。
さっきの爆発に関係してそうラギね」
(::0::0::)『何にしてもラッキーだ、ジュスティアが砲撃されずに済む』
機体が前傾姿勢になり、更に速度を出して進んで行く。
眼前に迫るクラフト山脈が徐々に視界を埋めていく。
しかし、機体は確実に高度を上げ、クラフト山脈を飛び越える態勢を整えていた。
距離が離れたこともあり、トラギコは後ろのヘリに銃撃を浴びせることを止めた。
(;=゚д゚)「さっむっ!!」
539
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:27:08 ID:EB0RZRkQ0
一気に風が氷の様に冷たくなったことに、トラギコは思わず間の抜けた声を上げた。
先ほどまでとは比べ物にならない冷気は、彼の体から容赦なく力を奪っていく。
(::0::0::)『あぁ、悪い。 反対側の扉を閉じるのを忘れてた』
(;=゚д゚)「そ、そういう、レ、レベルじゃないラギ!!」
あまりの寒さに歯の付け根が合わない。
ライフルを構える手からも熱が一気に失われ、構えることが出来ない。
その代わり、追手との高度と距離が瞬く間に離れていく。
曳光弾が飛んでくることがないのがせめてもの救いだった。
(;=゚д゚)「こっちも閉じるラギ!!」
(::0::0::)『おう、早く中に入ってくれ!!』
高高度になればそれだけ空気が薄くなるため、ヘリはその飛行性能を落とすことになる。
それはどちらの機体も同じことが言えるが、こちらのヘリにはジェットエンジンが搭載されている。
このクラフト山脈を越えるため、そしてジュスティアへ最高速で向かうための装備だ。
扉を閉め、トラギコは叫んだ。
(;=゚д゚)「頼むラギ!!」
(::0::0::)『マスク忘れるなよ!!』
言われて息苦しさを思い出し、トラギコは天井から下がる酸素マスクを口に当てる。
既にクラフト山脈の白い壁が目の前を覆い尽くしており、機首がはるか頭上を向く。
ジェットエンジンが点火したことを、トラギコは音よりも先に強烈なGで理解した。
座席に体が押し付けられ、呼吸が止まる。
(;=゚д゚)「おおおお!!」
(::0::0::)『刑事さん、今クラフト山の頂上を越えるぞ!!
なんだったらよく見ておきな!!』
機体が一瞬だけ水平を向き、その拍子に周囲の景色が目に入ってきた。
クラフト山脈の頂上よりも上からしか見られない、圧倒的な光景だった。
たなびく雲の群れ。
深い青色の海の彼方に見える大きな入道雲さえ、あまりにも小さい。
まるで、巨大なハードルを乗り越えたかのような、そんな浮遊感を覚える。
その直後の事だった。
(::0::0::)『あっ』
操縦士のつぶやきは一瞬。
その理由は、ほぼ同時に襲った衝撃が答えた。
見えない手によって機体が背後から殴られたかのような、でたらめな衝撃。
ベルトで座席に固定していたトラギコの体が天井に叩きつけられ、機首が真下を向く。
540
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:28:12 ID:EB0RZRkQ0
(::0::0::)『……くっそ!!』
様々な警告音が一気に鳴り響く。
操縦士の二人は天井のパネルを操作し、手元のレバーを動かす。
(::0::0::)『刑事さん、大丈夫か!?』
(=゚д゚)「何とかな!!」
(::0::0::)『しっかり掴まっていてくれ!!
エンジン再始動、ジェットエンジン再点火準備!!』
(::0::0::)『各数値問題なし、制御系も問題なし!!
エンジン再始動、ジェットエンジン再点火準備ヨシ!!』
(;=゚д゚)「おいおいおいおい、大丈夫ラギか?!」
垂直にクラフト山脈沿いに落下していくヘリの中、トラギコの体は席に押し付けられ、声を出すので精一杯だった。
操縦士たちは冷静さを微塵も失わずに、冷静かつ大きな声で答えた。
(::0::0::)『あんたは絶対にジュスティアに連れて行く、安心しろ!!』
(::0::0::)『エンジン再始動、ローター回転数問題なし!!
姿勢制御開始、後方確認を頼む!!』
(::0::0::)『姿勢制御をオートモードからマニュアルモードに切り替え!!
雪崩よりも早く頼むぞ!!』
(;=゚д゚)「雪崩?!」
振り返ろうにも、落下による加速がトラギコを座席に縫い付けるように押さえつけ、身動きを許さない。
だが機体の横を通り過ぎていく雪の塊が、背後で起きている自然現象を物語っている。
(;=゚д゚)「爆発の影響ラギか……?」
空中のヘリを叩き落す勢いで発生した爆発は、ニューソクの爆発と考えていいだろう。
問題はその威力だ。
ニョルロック付近で遠くに見た爆発とは、明らかに威力が違う。
それはつまり、距離が関係しているはずだった。
最も高い可能性は、ハート・ロッカーが爆発したという可能性だ。
(::0::0::)『ジェットエンジン準備!!
一気にジュスティアに向かうぞ!!
どうせ機体がもたないんだ、限界まで届けてやるぞ!!』
(::0::0::)『予備タンクからの接続を開放!!
刑事さん、少し我慢してくれよ!!』
541
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:28:33 ID:EB0RZRkQ0
機体の向きが思いきり上向きになる。
機首が地面と平行になった瞬間、再びトラギコの背中が座席に押し付けられた。
(::0::0::)『ジェットエンジン点火!!』
その時に発生した加速は、筆舌に尽くしがたい物だった。
目玉が飛び出すのではと思うほどの急加速は、トラギコの肉体を遥か彼方に置き去りにしつつ、それでも前進させるような強引さがあった。
その加速度に思わず目を閉じてしまう。
クラフト山脈を越える時とは、明らかに速度が違う。
(::0::0::)『速度上昇。 機体制御補助装置をオートモードで起動。
数値安定、高度確保。
……ふぅ、どうにかなったな』
(;=゚д゚)「な……にが……」
(::0::0::)『多分だが、ハート・ロッカーが爆発した。
その熱と衝撃波でクラフト山脈の雪が溶けたんだ。
で、雪崩が起きた。
あの爆発の規模だ、山越えできないのに俺たちを追ってきたヘリは全滅だな』
機体側面の鏡に気づき、それを見る。
クラフト山脈の白い姿が遠ざかる中、その背後に立ち上る黒い煙がニューソクの生み出した爆発であることを示唆している。
空が灰色から黒に染まる中、三人を乗せたヘリはまっすぐにジュスティアを目指す。
ようやく体が加速に慣れてきたらしく、トラギコは深呼吸をする余裕が生まれた。
(::0::0::)『スリーピースについて訊いていいか』
(=゚д゚)「あぁ」
(::0::0::)『何か仕掛けがあるんだろ?
空からの侵略にも対抗できる何かが』
(=゚д゚)「そうラギね。
仕組みは知らないけど、とりあえず飛んでくるものなんかは撃墜されるラギ」
スリーピースはジュスティア防衛の要だ。
あらゆる侵略者から市民を守る為に建造されたその三重の防壁は、例えジュスティアの高官でさえも詳細を知らない。
街に入ろうとする人間を調べるための検問所はあるが、そこにいる人間も詳しいシステムなどは分かっていない。
だが、分かっていることは複数ある。
過去に侵入を試みた輩は後を絶たないが、その度にスリーピースに備わった防衛機構が分かるようになっている。
トラギコが知っている対空防御の手段は、彼の上司から聞かされた情報だけだが、真実味はあった。
(::0::0::)『射程距離とかは分からないか?』
(=゚д゚)「いいや、俺も又聞きだから詳細は分からないラギ」
(::0::0::)『刑事さんが中に入る手段とか手筈ってのは、特にないんだよな』
542
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:30:01 ID:EB0RZRkQ0
(=゚д゚)「ないラギね」
(::0::0::)『最高にヤな感じだ。
賭けに出て死ぬのも嫌だが、どうしたもんか』
(=゚д゚)「だけど、大丈夫ラギよ」
そのことだけは、断言出来た。
この先の戦況がどうなるかは分からない。
敵が何を狙いにしているのか、その真意も分からない。
だが、それだけは言い切れる自信があった。
(=゚д゚)「こいつぁ、市長が用意した筋書きラギ。
あんたらがイルトリア市長を信頼しているのと同じように、俺はフォックスを信頼しているラギ」
フォックス・ジャラン・スリウァヤがトラギコをジュスティアに呼び戻すということは、そのための準備は全て済んでいるということだ。
彼が保険としてトラギコを指名した以上、それは絶対だ。
彼の描く筋書きは全て規則正しく進行する。
(::0::0::)『分かった、ならその言葉を信じよう』
(=゚д゚)「割とあっさりラギね」
(::0::0::)『あんたは有名人だからな、俺達軍人の間でも知らない奴はいないよ。
何だったら、あんたのファンもいるぐらいだ』
(=゚д゚)「そりゃどうもラギ」
(::0::0::)『俺も、その一人だ。
あんたをジュスティアに連れて行くってのは、名誉な話だ。
そのあんたが信じるっていうんなら、俺もそれを信じるよ』
(=゚д゚)「恩に着るラギ」
(::0::0::)『今の内に装備を整えておいてくれ。
着陸に成功したとして、その時のジュスティアが安全とは言い切れないからな』
(=゚д゚)「あぁ、分かったラギ」
そして、彼らを乗せたヘリがスリーピースを視認できる距離に来た時。
海に浮かんでいた巨大な戦艦が、波しぶきを上げながらスリーピースに直進する姿が見えた。
(;=゚д゚)「突っ込む気ラギか?!」
(::0::0::)『潔いやつだな』
ジュスティアまで、もう間もなくとなったところで、ヘリが減速する。
急激なブレーキに体が前のめりになるが、どうにか耐える。
543
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:30:23 ID:EB0RZRkQ0
(;=゚д゚)「こっちはいつでも行けるラギ!!
ここから降下するから、あんたらは逃げて――」
(::0::0::)『駄目だ、連中の部隊が下に集まってるし、ジュスティアからしたら俺たちは不法侵入者だ。
あんたが空中で撃ち殺されたら、この作戦が無意味になる。
ヘリで中に降ろすから、それまでどうにか死なないでくれ』
(;=゚д゚)「……分かったラギ!!」
そしてヘリはスリーピースを越え、ジュスティア上空へと侵入に成功する。
高度を下げ始めた時、戦艦が座礁し、大爆発を起こした。
直前に誰かの声を聞いた気がしたが、爆風に揺られる機体の中でそれを詳しく考える余裕はなかった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Ammo for Rebalance!!編
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_ィ‐ ´ ̄ ヽ ヽ⊂))_  ̄)``` ュ_
,ィフィヶ―, ヶ―‐、ニ>=====(__]>__ミー _
_∠∠..._〃::::::::| l l::ll::l :|::::::l l:::::l | ±  ̄``―ニニ―--_
γ´ γ ̄l  ̄ ̄ l ‐ ‐ { .l└ ┘'―' | ii
ヽ、__ ヽ- ´ ィzzz 「l____|__ ______.....
 ̄ ̄ ̄`ィフ、 ̄``.ィZヽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
ヽ_ノ ヽ.ノ
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September 25th PM00:17
迅速に降下を果たした一行は、周囲の状況を確認しながらヘリから降りた。
長時間の飛行で疲弊しながらも、トラギコはライフルで周囲の状況を確認するのを怠らない。
操縦士の二人も座席の下から取り出したH&K MP5Kを構え、安全を確認している。
街は酷いありさまだった。
幾度も撃ち込まれた砲弾で街並みの半分が崩壊し、ピースメーカーは瓦礫の山となっている。
ハンマーで殴りつけて壊した玩具の城の様な有様を見て、相手が質量弾でスリーピースの防御網を突破したのだと悟る。
普通の砲弾であれば防御装置によって迎撃される。
間違いなく、ジュスティア内部からの情報漏洩があったのだ。
(::0::0::)「まだ侵入はされていないみたいだな」
(=゚д゚)「だけどこりゃあ……酷い有様ラギ」
(::0::0::)「エライジャクレイグの到着までに市民を誘導するって言っても、この状況じゃぁな」
(=゚д゚)「何より、暗さが厄介ラギ。
これじゃまるで嵐の前の天気ラギ」
544
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:32:25 ID:EB0RZRkQ0
黒々とした空は、それまであった夏空をかき消している。
九月にしては肌寒い風が吹き、思わず身震いしてしまう。
スリーピースの外側から聞こえてくる銃声と爆発音は、並の戦闘ではないことを意味していた。
ジュスティア陸軍が街への入り口を文字通り死守していれば、民間人が脱出するための時間を稼ぐことが出来る。
人の気配が消えたジュスティアの街並みは、戦争で負けた街の姿そのものだった。
(=゚д゚)「あんたら、本当にいいのか?」
(::0::0::)「あぁ、いいに決まってるさ。
言っただろ? 俺はあんたのファンなんだ」
(::0::0::)「俺はファンって程ではないが、まぁ、ここで戦うのは嫌じゃない。
むしろ、楽しみでさえあるさ」
安全がある程度確認されたところで、二人がヘルメットを外す。
彡 l v lミ「俺はランディ・スズキ・ゴードン、スズキでいい」
( l v l)「俺はゲイリー・ムネオ・シュガートだ。
ムネオって呼んでくれればいい」
(=゚д゚)「よろしく頼むラギ。
とりあえずは、シェルターに向かうラギ」
彡 l v lミ「分かった。 ちょっと待っていてくれ、ヘリを無力化する」
そう言って、スズキがヘリに戻り、いくつかのケースを運び出してからスイッチを操作した。
離れるように指示が出され、ほとんど時間を置かずにヘリが爆発四散した。
彡 l v lミ「敵に利用されたら元も子もないからな。
とりあえず、あんたにお願いしたいのが、この街の人間に俺達が味方だって伝えることだ」
(=゚д゚)「俺がいればどうにかなるラギ」
( l v l)「そりゃ頼もしい。 シェルターってことは、地下か」
(=゚д゚)「あぁ、行き方があるラギ」
彡 l v lミ「案内は入り口まででいい。
俺達が入り口を守っておけば、後はあんたが市民を誘導するだけでいいだろ?」
(=゚д゚)「そこまでする義理、あるラギか?」
彡 l v lミ「ははっ、面白いことを言うな、刑事さんは。
これは義理じゃない。
俺たちは、これがしたいから軍隊に入ったんだ」
545
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:35:51 ID:EB0RZRkQ0
( l v l)「そういうこった。
ジュスティアの人間には理解がし辛いだろうが、発想は同じだ。
だから俺たちが死んだとしても、あんたが何かを感じる必要はない。
この作戦はジュスティア市民を避難させればいいんだ。
俺たちの生死は作戦には加味されていない、そうだろう?」
(=゚д゚)「……そうラギね。
なら、利用させてもらうラギよ」
片手にライフルを、もう片方の手にアタッシェケースを持ったトラギコの前後を囲むようにして、二人が位置につく。
シェルターに通じる経路は複数あるが、最終的にその道は一つに集まる様になっている。
その入り口があるのが、ピースメーカーの地下深くに作られた空間なのである。
既に住民の気配がしないことから、ある程度の避難が完了していることがうかがえる。
戦える者は武器を手に、街のどこかに散っていることだろう。
現在地から最寄りの避難経路を使おうとしたが、すでに封鎖されていたことに、トラギコは違和感を覚えた。
この封鎖という処置は、以降人的災害や自然災害がシェルターを襲わないようにするためのものであって、シェルター側から行うものだ。
街の人間が全員避難を終えているのならば正しい判断だが、果たしてそうだろうか。
(=゚д゚)「……何かあったラギね」
こうなると、恐らくは他の入り口も全て封鎖されていることだろう。
向かう手段はただ一つ。
ピースメーカーにある直通の避難経路を使い、地下に向かうことだ。
シェルターからどうやって列車に乗るのかはまだ分からないが、とにかく、フォックスが残した保険を信じるしかない。
瓦礫の山と化したピースメーカーに向かう途中で、ようやくトラギコたちはジュスティア人に遭遇することになった。
(,,゚,_ア゚)「あっ……!!
トラギコさん!!」
その男は、群青に近い青の制服を着ていた。
それは、非常時に着用が義務付けられている警官の戦闘服だった。
防弾繊維で作られたその服は、衝撃を殺すことは出来ないがナイフや小口径の銃弾であれば防ぐことができるものだ。
(=゚д゚)「状況は?」
幸いなことに、相手はトラギコの事を知っている様だった。
(,,゚,_ア゚)「生き残った全員でシェルターへの直通路を確保しようとしておりまして、その間に生存者を探しているところです」
(=゚д゚)「お前たちが逃げ遅れることになるラギよ」
(,,゚,_ア゚)「それでも、です」
その目は決して絶望に濁ってはいなかった。
これがジュスティア人の強みだと、トラギコは内心で満足する。
少なくとも彼は警官として腐ってはいない。
腐っていない警官がいれば、まだ大丈夫だ。
546
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:37:14 ID:EB0RZRkQ0
(=゚д゚)「いい心がけラギね。
警官はどれぐらい生き残れたラギ?」
(,,゚,_ア゚)「ほとんどが生き残れました。
連中が攻めてくる直前に、市長からありったけの武器を持って街中に散る様に連絡がありました。
おかげで、市民の誘導が十分に行えています」
人がいても武器がなければ戦いにならない。
相手の兵器と対等に戦うためには、それなりの装備が必要だ。
運び出した装備がどの程度の物か、それが重要だった。
(=゚д゚)「連中は棺桶を使っているラギ。
こっちも用意しないと、ジリ貧になるラギ」
(,,゚,_ア゚)「軍の補完していた棺桶は陸、海軍共に軒並み駄目になりました。
直前にタカラ・クロガネ・トミー元帥の指示で移動させたらしく、そこに砲撃が……」
(=゚д゚)「内部の裏切りラギね。
で、ツーとジィは生きてるラギか?」
警察長官ツー・カレンスキーと副長官のジィ・ベルハウスの生存は、生き延びた警官たちにとっては重要な問題である。
指揮官の有無だけでなく、シェルターにいるジュスティア人にとっても希望になり得る。
市長が瓦礫の下にいる今は、それが重要だった。
よほど強い精神を持っていない限り、指揮官を失った組織は瞬く間に疲弊する。
(,,゚,_ア゚)「はい、現在は街の中で生存者を探しています。
とにかく、誰もこの場に残さないようにとの命令を受けています」
だが、その二人が生きている限りは、警察が折れることはない。
(=゚д゚)「なるほどな。
シェルターの警備は?」
(,,゚,_ア゚)「腕に覚えのある警官隊がついています。
軍属は皆、スリーピースの外側で迎撃に向かいました。
海軍がかなり押されていて、壊滅は時間の問題かと」
敵の巨大戦艦が沈んだとはいえ、物量は圧倒的なまでの差がある。
棺桶の性能が高ければ高いほど、海軍は不利になる。
むしろ彼らは、敗北を覚悟した上で市民が逃げるための時間を稼いでいるのかも知れなかった。
(=゚д゚)「分かったラギ。
俺と一緒にいるこの二人は、イルトリアからの援軍ラギ」
(,,゚,_ア゚)「い、イルトリアから?!」
(=゚д゚)「不思議じゃないラギ。 俺たちは今んところ、同じ敵を相手にするラギ」
(,,゚,_ア゚)「と、トラギコさんがそうおっしゃるなら」
547
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:39:24 ID:EB0RZRkQ0
その時、瓦礫の影で悲鳴に似た歓声があがった。
「し、市長?!」
「市長だ、市長がいたぞ!!」
(;=゚д゚)「……え」
歓声と共に、重々しい跫音が近づいてくる。
〔::‥:‥〕『概ね予定通りの時間だね』
それは、重装甲の棺桶の代名詞である、トゥエンティー・フォーだった。
通常と異なるのは、装甲の節々に突き出した複数のパイプ状のフレームだ。
棺桶を脱ぎ捨て、中から出てきたのは紛れもなく、ジュスティア市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤその人。
爪'ー`)y‐「ふぅ、生き埋めの後の一服は格別だな」
葉巻を口に咥え、フォックスはまるで風呂上がりの様に呑気な言葉を口にする。
(;=゚д゚)「あんた、良く生きていたラギね」
爪'ー`)y‐「あぁ、そりゃあそうだ。
私は世界中の悪党から嫌われる街の市長だよ?
執務室に備えをするのは当然だろう。
他の部屋よりも頑丈だし、落下しても生き延びる可能性を作っておくぐらいのことはするさ」
(;=゚д゚)「そりゃあ、まぁ、そうラギね……」
堅牢さならばトゥエンティー・フォーは間違いなく棺桶の中でも五指に入る。
彼が使用していた機体は落下の衝撃を殺すためのダンパーが大量に備え付けられており、ビルの崩落に巻き込まれても体が押しつぶされないように考慮されていた。
緊急時に執務室で己を守るのであれば、それだけの備えをしておかなければならない。
だが、落下の衝撃を完全に殺せない。
棺桶だけでなく、執務室の設計その物に秘密があると考えられた。
瓦礫の山と化したスリーピースを前にそのようなことを考えても、全く意味はないのだが。
爪'ー`)y‐「残念だが、タカラは連中の細胞だったよ。
軍も、そう長くはもたないだろう。
何をどう細工していたのか、その全ては分からないからね。
だが、円卓十二騎士もいる。
市民を逃がすまでの時間は、絶対に確保できる。
だから安心したまえよ」
(=゚д゚)「第一騎士が殺されたらしいが、それでも平気ラギか?」
第一騎士、“魔術師”の名で呼ばれるシラネーヨ・ステファノメーベルの死は、ジュスティアにとって大きな打撃だ。
言わば円卓十二騎士の中でも最強格の人間が殺されたのだ。
相手の実力を推し量るのに、これ以上ないぐらいの話である。
548
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:39:47 ID:EB0RZRkQ0
爪'ー`)y‐「あぁ、平気だ。
彼を含めて、レジェンドセブンが三人死んだとしても、だ」
(;=゚д゚)「んなっ?!」
爪'ー`)y‐「ハローも、ワカッテマスも死んだよ。
幸いだったのは、二人とも爆死したことだな。
これで死体を弄ばれる心配はない。
それに、二人のおかげでもう砲撃の心配がなくなったのも幸いだ」
第二騎士、“影法師”のハロー・コールハーン。
第十一騎士、モスカウの統率者である“ロールシャッハ”こと、ワカッテマス・ロンウルフ。
いずれもトラギコにとっては知らない仲ではない。
どちらもモスカウとは縁の深い存在であり、彼らに世話になった人間は数知れず、解決された事件はその倍以上あるはずだ。
だが今は感傷に浸っている時間はない。
爪'ー`)y‐「何より、ワカッテマスは敵戦艦を安全に沈めてくれた。
ニューソクに誘爆したら、今頃辺り一帯は消し飛んでいただろうさ。
連中の空母、という種類の船は全てがニューソクで動いている。
あれはこちらへの牽制だったらしいが、おかげでどうにかなった」
ハート・ロッカーと敵戦艦の砲撃がなくなれば、スリーピースが時間を稼いでくれる。
籠城戦が出来るならば、まだ市民を逃がすことは可能である。
爪'ー`)y‐「というわけで予定変更だ。
君はギリギリまで戦ってくれ。
何せ人員が少ないものでね」
(=゚д゚)「それはいいけどよ、市長。
俺たちは何時まで踏ん張ればいいラギか?」
爪'ー`)y‐「最低でも午後四時きっかりまでは、持ちこたえなければならない。
逆を言えば、その前にシェルターに侵入されれば終わりだ。
連中の侵入を防ぐためにも避難用の入り口は一か所だけにしている。
最悪はそこを守り切ればいいようにした」
(=゚д゚)「後3時間半とちょっと……
それまで俺たちは持ちこたえられるラギか?」
物量戦に持ち込まれている以上、スリーピースの北と南にある二か所の出入り口が突破される可能性は十分にある。
街の中に侵入されることは避けられないだろう。
それからシェルターの入り口を見つけるまでにどれだけの時間がかかるのか分からないが、余裕はないはずだ。
最後の守りが必要になることは決定事項。
つまり、ジュスティアは今日で――
549
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:41:44 ID:EB0RZRkQ0
爪'ー`)y‐「あぁ、絶対の自信がある。
軍だけでなく、円卓十二騎士がいる。
作戦が狂う要素がない。
だがそれは、君がいてくれればの話だ」
(=゚д゚)「……分かったラギ。
だけど、市民を全員移送できるラギか?」
エライジャクレイグの助力があるとしても、輸送できる人間には限りがある。
列車に乗ることのできる人数を考えれば、一度で送り出せるのは3000人程度だろう。
車輌の編成数にもよるが、1万人を送り出せれば御の字だ。
避難している人間の数は恐らく、10万人を下回ることは無い。
ならば、少なくとも10回は輸送作業を行う必要がある。
円滑に乗車、退避が出来るという前提で計算は出来ない。
そのため、一度の輸送でかかる時間を考えても、1時間は見積もっておかなければならない。
爪'ー`)y‐「詳細は省くが、大丈夫だ。
私の保険が遅れることは絶対にない。
何があろうとも、絶対に定刻通りに到着する。
検問所が突破されるまでの間に警官の君たちは、とにかく取りこぼしのないように街中を見てほしい」
それでも、フォックスの自信は揺るがなかった。
街を守り切るのではなく、街から逃げ出すという選択を受け入れられないのか、近くにいた警官が恐る恐る口を開く。
(,,゚,_ア゚)「街は……街はどうなるのですか?」
爪'ー`)y‐「街が人を作るんじゃない。
人が、街を作るんだ。
この場所にあるジュスティアは捨てざるを得ない。
君たちが市民と共に生き残れば、その場所がジュスティアになる。
さぁ、頼んだよ」
そして、生き残った者たちによって生き残るための最後の作戦が始まったのであった。
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___ 个ミ、{ f艾iァ、≧ \{x√ゞ' jll f㍉从「 `
/////人ヽハ ヽ二彡 ::::::`==彡'_, レ「ヽ__
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///}. {/ ///// 、::::: ヽ:::'´ ィア .///ハ .| i i i } }
// | ∨{ヽ ∨ヽ ^ヽ=ニ三彡′/}:l i ノ .} |
// | ヽ ヽ ∨ \ ー― ' , l:l/ ,
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同日 午後02:44
550
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:43:04 ID:EB0RZRkQ0
夕方から夜に切り替わる寸前の暗さの中で、ジュスティアでの戦闘は行われていた。
ピースメーカーの北部にある検問所前での戦闘は、最後の一人が倒れたことによって終わりを迎えた。
\(^o^)/「……く……そ」
最後の一人となった男の名前は、オワタ・ジョブズ。
そしてその男に拳銃で引導を渡した男の名前は、ジョルジュ・マグナーニだった。
_
( ゚∀゚)「……」
ジュスティア陸軍の大将であるオワタは指揮官でありながら最後まで戦い、そして最後に死んだ。
軍人の姿勢としては合格だが、結果としては不合格だった。
戦争は結果が全てであり、過程は最後の清算時に手向ける花束みたいなものだ。
陸軍と合流し、ティンバーランドの陸軍との戦闘に参加し、善戦したが決め手となったのは所有している棺桶の質だった。
両者ともに多大な犠牲を出したが、それだけの価値があった。
o川*゚ー゚)o「躊躇がなかったね」
拍手と共に、ジョルジュの背後から姿を現したのはキュート・ウルヴァリン。
彼女の棺桶がなければ、結果は違っていたことだろう。
_
( ゚∀゚)「同郷だろうが、今更躊躇するかよ」
彼女の棺桶で陸軍の主戦力を軒並み無力化し、最後に生き残ったオワタをジョルジュの拳銃で殺したのだ。
棺桶を防衛の要としていたのが災いし、北部の防衛を任されていた部隊はキュートの参戦をもって全滅したのであった。
呆気のない決着だが、もしも彼らが棺桶に頼らず、生身でいたならばここまでもたなかっただろう。
全てはキュートの持つ棺桶の性能と、彼女の特技がもたらした結果だ。
o川*゚ー゚)o「まぁいいさ。
……しっかし、やられたね」
確かに、陸軍を全滅させることには成功した。
だが、彼らが最後に見せた維持は、ティンバーランドにとってはあまり歓迎できるものではなかった。
その点では、完全な成功とは言えなかった。
彼らの視線の先にあるのは、街に通じる検問所の前に積み上がった車輌と棺桶、そして死体の山で作られたバリケードだ。
オワタはそのバリケードの前で両手を広げたまま仰向けに息絶え、無言で地面を見つめていた。
入り口を封じればそれだけで時間稼ぎになることを知っているからこそ、兵士たちは最後にこの形になる様に死ぬ瞬間を決めていたのだ。
戦車や車輌の隙間を埋めるように手をつないだ棺桶が並び、死体が積み重なる姿は、不気味なオブジェそのものだ。
ジュスティア人の持つ矜持こそが、世界で最も邪悪な存在なのかもしれない。
そうでなければ、このような造形のオブジェが世に生まれるはずがない。
o川*゚ー゚)o「動ける棺桶はどれぐらい残っている?」
_
( ゚∀゚)「増援がまだ到着してないから、精々30ってところだ。
生き延びた連中の数を考えれば十分すぎるぐらいだ。
円卓十二騎士が来る前に、このバリケードを退けなきゃならねぇ。
お前も手伝えよ」
551
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:46:26 ID:EB0RZRkQ0
彼らは早い段階で見切りをつけていたのか、検問所の奥に戦車が停められ、砲身を動かし、互いに絡み合うようになっている。
まるで、負けることが決まっていたかの様な手際の良さだった。
o川*゚ー゚)o「断るね。 この先、絶対に私の棺桶の力が必要になる。
少なくとも、ジュスティアへの侵入は私がいなければ成り立たない。
そんなことぐらい分かっているだろう?
さぁ、仕事をしなよ」
この作戦における自分の重要性を知っているだけに、キュートの発言力は絶大だ。
彼女がいなければ作戦の成功はなく、彼女がいなければこの先の作戦が進まない。
_
( ゚∀゚)「……分かったよ」
不満げな態度を微塵も隠すことなくそう言い、ジョルジュは一歩前に踏み出した。
その時である。
<_プー゚)フ『好きにさせるか』
機械の作った声が、どこからともなくジョルジュの耳に届いた。
その声は紛れもなく、円卓十二騎士の一人、ダニー・エクストプラズマンのもの。
棺桶は身に着けていないが、その体には力と怒りが満ちているのが分かる。
ここに到着するまでに時間がかかったのは、恐らくだが移動手段が途中でダメになったか、襲われたかだろう。
彼ほどの実力者が襲われて時間を失うことは考えにくいため、棺桶のバッテリーが切れたことが原因に違いなかった。
o川*゚ー゚)o「おやおやおや!!
そんな恰好でどうしたのかな」
嬉しそうにそう言ったキュートは、両手で部下に手を出さないように指示を出す。
まるで彼の存在が脅威ではないと言わんばかりの行動に、流石のジョルジュも呆れ顔を禁じ得なかった。
手負いとはいっても、円卓十二騎士内でも1、2を争う武術派だ。
女の筋力で勝てる相手ではない。
棺桶の力で円卓十二騎士に勝てても、生身で勝てる道理はない。
電子機器の無力化に特化した棺桶ならば、対人戦闘では意味をなさない。
<_プー゚)フ『お前は、俺が殺す』
o川*゚ー゚)o「やれるものなら、どうぞ。
そう言って、第一騎士は無様に死んだけ――」
<_プー゚)フ『邪ッ!!』
電光石火の加速。
エクストの姿勢は地を這うように低く、迎撃が困難な状況を作り出している。
高速で接近して繰り出したのは足払いとは言い難い、膝関節を狙った強烈な回し蹴り。
関節を狙ったその一撃は、その後に続く連撃の合図。
流れるように繰り出されたその一撃は、まるで嘘の様にキュートの足が受け止めていた。
拮抗する力で的確な位置に、的確なタイミングで放たれた一撃はエクストの動きを完全に止めた。
552
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:46:46 ID:EB0RZRkQ0
o川*゚-゚)o「……まぁ、流石は円卓十二騎士か。
だがこの程度では、私は殺せないぞ」
直後にキュートの放った殺意は、ジョルジュでさえ戦慄を禁じ得ない物だった。
これまでに彼女の存在と実力はあまり気にしたことがなかったが、この攻防で分かったことがある。
o川*゚-゚)o「つまらないな」
腰からいつの間にか取り出した大口径の拳銃の銃腔は、すでにエクストの眉間に向けられていた。
撃鉄は起き、銃爪には指がかかっている。
距離、タイミング、共に回避は不可能。
o川*゚-゚)o「避けてみな」
<_プー゚)フ『なっ……!?』
奇襲などせずとも彼女の実力は――
o川*゚-゚)o「犬は犬らしく、地を這えばいいんだよ」
<_プд゚。゚ ・ ゚『ごっ、あ……?!』
――円卓十二騎士以上。
o川*゚-゚)o「……何をぼさっとしている?
さっさと押し入るぞ」
淡々とそう言い放ったキュートの雰囲気に、ジョルジュは既視感を覚えた。
その正体は、すぐに分かった。
_
(;゚∀゚)「……お前、デレシアと何か関係があるのか?」
その問いに、キュートは無言でジョルジュに冷たい視線を向けただけであった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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553
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:48:45 ID:EB0RZRkQ0
同日 同時刻
スリーピース南側では、北側よりも大規模な戦闘が継続していた。
上空からの侵入が不可能と判断したラスト・エアベンダーの大部隊はオセアンからの部隊と合流したが、迎え撃つのはジュスティア陸軍の中でも精鋭部隊。
陸軍、そして海兵隊の大将が判断した防衛の要となる検問所は、南側だった。
オセアンが敵の手に落ちている以上、大規模な増援が可能となる。
対して北側にあるのはシャルラ地方。
数と質を考えれば、南側と比べては危険視する程の物ではなかったのだ。
北側の部隊が全滅したことを知らないまま、南側の兵士たちは地上と上空から襲ってくる敵兵に対して一歩も引かずに応戦している。
だがこの状況は、ティンバーランドの上層部にとっては予定通りの展開だった。
南側での戦闘は突破できれば御の字、戦力を削るのが目的で、もっと言えば時間稼ぎをすることが狙いだった。
更に、もう一つの狙いがあった。
それは、円卓十二騎士を戦場に引きずり出すことである。
( `ー´)「連中の指揮官、見えるか?」
( ノAヽ)「見えないノーネ」
( `ー´)「やっぱり、こいつらは捨て駒じゃネーノ?」
( ノAヽ)「そうだと思うノーネ、兄ちゃん」
バリケードで物理的にも封鎖された検問所を守る最後の要として、スリーピースの頂上部に二人の騎士がいた。
歴代唯一の双子、ネート・グッチとノーネ・グッチである。
第九、そして第十騎士である双子は対物ライフルを使い、遠方から攻撃を行いつつ、敵の指揮官を探し続けていた。
圧倒的な物量に隠された敵の指揮官を見つけ出せれば、戦況を変えられると思ったのだが、それは徒労に終わりそうだった。
数機紛れていた名持ちの棺桶を射殺したが、攻撃の勢いは変わらなかった。
敵味方の死体の数で言えば、間違いなく敵の死体の方が多い。
5度の増援に耐え、4度の挟撃に耐え、3度の自爆攻撃にも耐えた。
それでも、敵の勢いが萎えることはなかった。
まるで馬鹿の一つ覚えの様に攻撃を続け、死体の数を増やしていく。
この勢いが続けば最初に全滅するのはこちらだが、その展開は考えにくい。
いくら敵が無尽蔵の金を持っていたとしても、人員と兵器には限りがある。
( `ー´)「だけど、守るしかないんじゃネーノ」
( ノAヽ)「そうだね、兄ちゃん」
そう言って、二人は深く息を吐き、同時に同じ言葉を口にした。
( `ー´)
『これは語られざる者達の物語。 これは謳われぬ者達の物語。 これは、我らの物語』
( ノAヽ)
554
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:50:31 ID:EB0RZRkQ0
その言葉は、一対のコンセプト・シリーズの棺桶を起動するためのコードだった。
“レター・フロム・アイランド”、そして“フラッグズ・オブ・ファーザーズ”。
完全な復元には成功していないが、コンセプト・シリーズの所以たる特化した機能は復元に成功している。
フラッグズ・オブ・ファーザーズは右腕に、そしてレター・フロム・アイランドは左腕に通信用の装置が収納された円盤状の端末が取り付けられている。
背中にはその稼働を支える大型のバッテリーがあり、装置がついていないもう片方の腕は筋力補助の機能だけが生きている。
( ノAヽ)「いくノーネ!!」
直後に鳴り響いたのは、曇天とは相反する澄み切った独特のソナー音。
レター・フロム・アイランドは左腕にのみ装着され、その特化した機能は索敵だ。
場所を問わずにその効果を発揮するアクティブソナーにより、電子妨害やステルス設計に影響を受けずに敵の位置を把握することが出来る。
有効範囲は半径1キロ。
敵味方識別信号に関係なく、ソナーが反応した兵器の全てがその位置を晒すことになる。
把握した情報を共有するのが、フラッグズ・オブ・ファーザーズの役割である。
だが、共有するための機構が復元できていないため、把握した情報を利用できるのはネーノだけ。
フラッグズ・オブ・ファーザーズの右腕にある受信機は、反応のあった存在の距離と方角を振動と微弱な電流によってネーノに伝える。
( ノAヽ)「変な奴、見つけたノーネ!!
……こいつ、バリケードの中にいるノーネ!!
生身なノーネ!!」
( `ー´)「そいつが本命じゃネーノ!!」
本来であれば視覚情報となって共有されるのだが、不完全な復元が原因で性能の半分以下の力しか発揮できていない。
しかしそれでも、彼らにとっては十分だった。
不完全な棺桶を使っているからこそ、彼が得意とする単独の戦闘が可能になるのである。
( `ー´)「各位、防衛を優先しておけ!!
侵入者は俺が殺る!!」
スリーピースから飛び降りたネーノの右手には対物ライフルが握られており、その弾は機関銃のそれと同じように弾薬箱から弾帯で供給される形をとっている。
極端に切り詰められた銃身からも推測できる通り、単純に威力だけを意識した銃であり、遠距離からの狙撃性能は全く考えていないことが良く分かる。
更には、銃身下部に取り付けられた銃剣が近接戦闘を想定した物であることからも、離れた場所で戦いを挑む気がないのだと分かる。
地面に激突する前にパラシュートを開き、落下速度を落とす。
着地と同時に検問所へと走り出し、ノーネが見つけた異常な存在へと接近する。
どのような手段を使ったかは分からないが、こちらの防御をいともたやすく掻い潜り、侵入を試みた胆力は賞賛に値する。
たった一人を侵入させる為にこれだけの攻撃を仕掛けてきた可能性も視野に入れ、ネーノは気を引き締め、バリケードの前に立つ。
積み上げた車輌を、まるで玉座か何かの様に使って座る女が、そこにいた。
从'ー'从「はぁい」
若い女だった。
防弾ベストを着ているが、その服装は極めて軽装。
銃を持つ代わりに背負ったコンテナが、その目的を如実に物語る。
女が浮かべた笑みに、ネーノの全身が総毛立った。
( `ー´)「……糞ッ!!」
555
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:52:08 ID:EB0RZRkQ0
刹那に感じ取った相手の殺意、そして危険性は、森の中で猛毒を持つ蛇を見つけた時のそれに酷似していた。
放つ雰囲気が、女の積み重ねてきた死体の数の多さを物語っている。
腰だめに構えたライフルをフルオートで放ったのは、彼なりの慈悲でもあった。
痛みを感じる間もなく絶命し得る暴力の驟雨は、だがしかし、女の肉を穿つことはなかった。
背を向け、コンテナで銃弾から身を守りつつ、女は棺桶の起動コードを口にした。
Victory loves preparation.
从'ー'从『勝利の女神は周到な準備にこそ微笑む』
その直後、ネーノの体が文字通り吹き飛んだ。
肉片と化した彼の体が周囲に飛び散り、生命の痕跡の一切を失った。
如何に訓練と実戦を積み重ねた円卓十二騎士であっても、不意打ち的に放たれた数千の対強化外骨格用のベアリング弾を前にしては、成す術はない。
一瞬で挽肉のように引き裂かれたのは、彼の肉体だけではなく、その体に装着していた棺桶も同様だった。
片割れの異変に気付き、弟であるノーネが降りてくる。
散らばった兄の肉片を見ても、彼は円卓十二騎士らしく、冷静に戦闘行動を開始した。
( ノAヽ)「だらぁっ!!」
射撃を得意とする兄とは逆に、弟は近接戦闘を得意とする。
その得物は身の丈ほどの長い高周波刀。
一撃必殺を常とし、一騎打ちであればその戦果は華々しい物である。
彼ら双子が円卓十二騎士として登録されたのも、お互いを補って余りある高い戦闘能力と連携力を買われての事。
だが、その弱点や癖を事前に知る者からすれば、脅威は半減する。
相手からすれば初見だが、ティンバーランド側からすれば何度も研究を重ねてきた対象の答え合わせをする気持ちなのだ。
潔く棺桶を放棄した女は、余裕を持ってそれを迎え撃つ。
その手には小型の棺桶が一つ。
胸の前に抱き、睦言のようにコードを入力する。
从'ー'从『この手では最愛を抱くことさえ叶わない』
両手を覆う、異形の爪。
放つ高周波振動の音を耳にした時には、すでにノーネは攻撃態勢に入っている。
逡巡なく踏み込み、穿つように刃を女の胴体に向けて放つ。
地面に落ちた小型コンテナを蹴り上げ、女はその一撃を防ぐ。
コンテナに弾かれた刃を素早く切り替え、ノーネの二撃目が女の右足を狙う。
生身ならば難なく切断できるその攻撃が形になる前に、ノーネの左肩を強烈な前蹴りが襲い、強制的に距離を取らされた。
着地と同時に次の攻撃に移行する。
この攻防の間、ノーネは呼吸を止めていた。
呼吸をすればその隙を狙われる、そう判断したのだ。
彼の判断は正しかった。
呼吸、瞬き、それらの生理的現象の間を縫うように女は攻撃を行えるだけの技量があり、実際にそれを狙っていた。
从'ー'从「あなたじゃないの、騎士さん。
私が会いたいのは、あなたじゃないのよ」
556
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:54:11 ID:EB0RZRkQ0
( ノAヽ)「ふっ……!!」
女の言葉を無視し、ノーネは再び深く地面を蹴り飛ばし、低空からの斬撃を敢行する。
そこで再び攻撃を邪魔したのは、小型のコンテナだった。
棺桶を収納するコンテナはその性質上、頑丈に作られている。
しかし高周波振動を用いた攻撃や、強力な銃弾を前にしては流石にその力を発揮することはできない。
先ほどの一撃は角度の関係で攻撃が反らされたが、今度の一撃は蹴り飛ばされたコンテナが刃先に当たり、軌道が狂わされたのだ。
鼻先を掠め飛んで行った一撃を冷たい目で見送り、女の繊手が深々とノーネの心臓を貫いた。
从'ー'从「さようなら」
( ノAヽ)「……ご」
――この間、実に10秒。
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ノ,,;;圭圭圭圭圭圭圭圭i//////////\ミ;;;;;;/`゙゙_7´
j;;圭圭圭圭圭圭圭圭,>\//////////,\ヽ /´
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ノ;,;圭圭圭圭圭圭圭/##;; ;,;;;; \,////////ヽ
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ヾ圭圭///////\ Y''; /圭圭i/////#}
~{;;///////////\ ;;; }圭圭圭;;i////i;;;/
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ー´/////,> ////////,/圭圭圭圭圭三;i///i
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同日 PM03:25
ティンバーランドの部隊がスリーピースの北部検問所を突破したのは、午後3時半頃のことだった。
高周波振動発生装置を備えた破城鎚を用いて最後の隔壁を破壊し、数百の部隊がジュスティアへと侵入した。
その陸上部隊を最初に出迎えたのはジュスティアの街並みではなかった。
〔欒゚[::|::]゚〕『……何だ、こいつら』
百人程度の人間が、まるで待ち構えていたかのようにこちらを見据えている。
装備はバラバラだったが、出迎えた人間の服や装備には一様に同じ文字が書かれている。
POLICE
警 察、と。
文字通り本当に警察なら、よほど頭のおかしい連中の集まりに違いないと、誰もが思った。
(*゚∀゚)「来たな」
557
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:56:30 ID:EB0RZRkQ0
その集団の最前列、そして真ん中で腕を組んでいるのは鋭い眼光の女だった。
歳を感じさせる顔だが、その正体に気づいた誰かがその名を口にする。
〔欒゚[::|::]゚〕『……ツー・カレンスキーだ!!
“串刺し判事”の!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『だぁっはははっ!! ってことはこいつらただの警官の集まりかよ!!
“お巡りさん”が、俺たちを止める気なのか!!
逃げておいた方が良かったのにな!!』
背後から嘲笑が起こる。
圧倒的な戦力差がある以上、侵略者の優位性は揺るがない。
棺桶は30機ほどしか生き残っていないが、生身の部隊がまだ生き延びている上に、援軍がもう間もなく到着する予定なのだ。
使用する武装の潤沢さは、間違いなく相手に勝っている。
後は蹂躙するだけであり、今は美食を前に舌なめずりをしているようなものだ。
だが今度は、ツーとその後ろに控える警官隊が嘲笑した。
構えた盾の下部を地面に叩きつけ、拍手の代わりとする。
(*゚∀゚)「はははっ!! 逃げる?
我々は警官だ。
軍人と違って我々には撤退などという言葉はない。
守る街を、人を背にして逃げないからこそ、我々は“お巡りさん”なのだよ。
犯罪者には分からんだろうなぁ!!
弱い者いじめが大好きな弱者には、特に!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『強がりを言うなよ、ババア。
お前らは俺たちに命乞いをする立場なんだ。
今ここで殺さないのは、俺たちが――』
だがその言葉を遮り、ツーが咆哮した。
歓喜と狂気、そして怒気にまみれたその咆哮は獣のそれと聞き違えるほどの迫力だった。
(*゚∀゚)「敵対意思確認!! 逮捕はなしだ!!
叩き潰してやれ!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『っ……ぶっ殺してやれ!!』
その瞬間、空気が震えた。
双方から起きた雄叫びと銃声が鳴り響き、戦闘が始まった。
――その数分後、南部の検問所が突破された。
円卓十二騎士の庇護を失った検問所を最初に突破したのは、装甲車に乗った部隊だった。
ジュスティアに恨みのある人間で構成された部隊は、スリーピース前での戦闘では後方に控え、援護射撃を行っていた。
その部隊が担う役目は、検問所を突破した先で待ち受ける市街戦での道づくりだった。
一般市民が避難しているシェルターへの道のりもそうだが、地図に載っていないような古い地下通路も徹底して確保することが任務だ。
558
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:57:42 ID:Bnrzt0RI0
きたな!
559
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:57:54 ID:EB0RZRkQ0
だがその任務は、すでにその大部分が終わっていた。
街に密かに持ち込ませた薬物により、決して表には出てこない通路や死角の情報が大量に手に入ったのだ。
そうして作られた地図を元に、更に薬をばらまき、その整合性と実用性を確認した。
口伝で手に入れた情報ではなく、実際の情報として得たジュスティアの地図は侵略者にとっては値千金の物である。
〔欒゚[::|::]゚〕『あ?!』
侵入してすぐに、その部隊はその場に止まることになった。
先頭を行く装甲車が急ブレーキを踏み、それに続いて続々と停車する。
行き場を失った車両が検問所の中で渋滞を起こしてしまう。
停車した理由は、警察の格好をした人間の構える数多の銃腔と殺意、そして地面に敷かれた大量のスパイクベルトだった。
出迎えたのは、多めに見積もっても数百人程度の警察官たち。
戦力差は優に十倍はある。
その最前列に、予想外の人間がいた。
爪'ー`)y‐「ようこそ、ジュスティアへ。
と、言いたいところだが君たちは歓迎していないんだ。
お帰り頂こうか」
ジュスティア市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤが葉巻を口に咥えたまま、不敵な笑みを浮かべて指を鳴らした。
直後、銃声が一斉に彼女たちを迎え入れた。
重装甲の装甲車の表面を銃弾が殴りつけ、強化ガラスにひびが入り、細かな破片が運転手を襲う。
中には貫通した銃弾もあり、棺桶を装着できない運転手がその銃弾によって負傷し、悲鳴を上げる。
(::0::0::)「がやあああ!!」
(●ム●)「目が、目がっ……!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『後部席の者が誘導して前進しろ!!』
そう言うよりも早く、装甲車のフロントガラスが黒に染まった。
強盗や誘拐犯が好んで使う速乾性の熱遮断ペイント弾だ。
警察が使うなど、聞いたことがない。
間髪入れずに窓ガラスの隙間から黄色い煙が入り込んでくる。
(●ム●)「げっ……ほああががっ……!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『ガスだ!!
くそっ!! 全員降車しろ!!』
ただの催涙ガスではない。
これもまた、強盗が好んで使う神経毒の類だった。
四肢の自由を奪うことに特化しつつ、意識を混濁させる類の毒だ。
ジュスティア軍でも使用禁止兵器として登録されているが、それを警察が使った例は一度もない。
降車した棺桶を装着した部隊が、煙の中から一斉に飛び出す。
〔欒゚[::|::]゚〕『お前は……!!』
560
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:58:16 ID:EB0RZRkQ0
(=゚д゚)「よぅ、“お巡りさん”は嫌いラギか?」
迎え入れたのは、トラギコ・マウンテンライト率いる武装した警官隊。
〔欒゚[::|::]゚〕『ああっ……!! 糞ッ!!』
盾の壁の隙間から覗き見えた銃腔は、あまりにも大きく、凶悪な殺意を纏っていた。
だが、それよりも強い殺意を纏う人間が、ただ一人だけをめがけて駆け出していたことに、誰も気づいていなかった。
唯一、“虎”と呼ばれる刑事を除いて――
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Ammo for Rebalance!!編
##/ィ|::::〃.:/ /.::/ニニ/.:://'.::::::/// イ::〃/_/_/.://.:::::/. : :}:::/
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# |:::/ft====={'ェェェェミ、ヽ.}〃/ / ,ィェ|/ -t''´’ノ.::〃.;</ /ヽ:/'´.: :∧ : ∧=- .
'/| {/ ゙ミヽ 廴_i!ノ,ィ ` }::/ ,ハ ^ミtl'  ̄/.::; イ / /ヽ.∧: : : : ∧ : ∧: :
| ' ヾtニニ====彡' ,'/ |::{ `ー=ニ// ,'/ /三ニ}: l : : : : ∧:. :∧: : :
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{ |:ム /イ三三ニニ}: l: : : : :.:|: :!⌒ }
第十五章 【 Tiger in my love -愛に潜む虎-】
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同日 PM03:32
彼にとって、敗北と勝利の両方を得るための作戦は初めてだった。
トラギコ・マウンテンライトにとって、この日の作戦は人生で最も忌まわしく、そして、最も警官らしい仕事となるのは間違いない。
そして、煙の間からまるで弾丸のように疾駆してくる影に気づいた時、何もかもが頭から消え去った。
从'ー'从「刑事さん!!」
迫ってくる女の姿が目の前に現れた時、トラギコは傍らに置いていたコンテナを手に取っていた。
否、正確に語るならば、彼女の姿を目にするよりも先に手に取り、構えていたのだ。
それは確信だった。
まるで恋人が近づいていることが分かるような、そんな直感によるものだ。
(=゚д゚)やっぱり来たラギね!!」
振るわれた五指の一線をコンテナでいなし、勢いをそのままに起動コードを口にする。
(=゚д゚)『これが俺の天職だ!!』
コンテナが展開し、トラギコの両腕に籠手を装着させ、大振りの山刀じみた刀を手に取る。
空中で刀を構え、ワタナベ・ビルケンシュトックが振るう二撃目を迎え撃った。
从'ー'从「会いたかったぁ!!」
(=゚д゚)「俺は嫌だったラギ!!」
561
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:58:36 ID:EB0RZRkQ0
押し切られるようにして、トラギコはたたらを踏む。
背後に控えていた警官隊は、すでに盾を構えて別の敵を迎え撃っている。
今は誰もが自分のことを自分でやらなければならない状況だった。
生き残ったジュスティア警察に課せられた使命は、最低でも残った28分を防ぎ切ること。
北部と南部、両方からの侵入を防ぎつつ、避難シェルターに通じる唯一の通路を防いだ状態での防衛戦。
負ける前提での戦い。
つまり時間稼ぎでしかない。
一切の余裕がない中での作戦だが、負けるだけのつもりでいる人間は一人もいなかった。
左右からの連撃を回避し、トラギコはワタナベを引き付けて市街地へと移動することにした。
彼女の戦闘能力の高さは決して油断できるものではない。
ここはトラギコが引き受け、遠ざけるのが正解だ。
(=゚д゚)「内側からやらないってのは、過信ラギか!!」
ワタナベは以前、ジュスティア内部への侵入を成功させていた。
つまりはわざわざ外側から攻め込む必要がないのにも関わらず、こうして大規模な攻撃に参加しているということになる。
その意図が分からないため、どうにか情報を引き出し、敵の次の手を読む必要があった。
単純に力だけでジュスティアを攻め落とすのであれば、話は別なのだが。
万が一、別動隊がシェルターに向かっているとしたら致命的な展開なのだ。
从'ー'从「ううん、そんなことする必要がないからぁ!!」
音からも分かる通り、相手は両手が高周波振動の兵器であり、その一振りが致命傷になり得るのは明確である。
しかし、彼女の両腕の可動域以上の攻撃は不可能であることさえ分かれば、焦る必要はない。
とにかく、ワタナベという存在を警官隊から遠ざけることに意味があった。
从'ー'从「人気のない路地に誘い込んで、何をするつもりかしらぁ!!」
(=゚д゚)「ぶっ殺すためラギ!!」
从'ー'从「やだ怖い!!」
おどけるようにそう言いつつも、ワタナベの攻撃の手が緩まることはない。
全ての攻撃が急所を狙い、確実にトラギコの命を狙っているのが分かる。
殺すつもりで攻撃を仕掛け、殺される覚悟で攻撃を受けている。
トラギコも同様に殺すつもりでワタナベと刃を交えつつ、徐々に誘導していく。
ワタナベはトラギコの意図を知りながら、それに乗って理想的な動きで最前線から離れていく。
まるで、即興の踊りだった。
(;=゚д゚)「……くっそ」
実際問題、トラギコは押されなければならなかった。
ワタナベの攻撃を受けつつ、目的の場所に誘導するにはどうしても受け身にならざるを得なかったのだ。
年齢的、そして体力的な差から、長期戦がトラギコにとっては不利に働く。
从'ー'从「ねぇ、お話ししましょう!!」
562
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:00:36 ID:EB0RZRkQ0
(;=゚д゚)「なら、攻撃してくるな!!」
从'ー'从「やだぁ!!」
以前に会った時よりも確実に自制が効かなくなっているのは、何かに興奮しているからだろう。
興奮の原因は分からないが、刃が触れ合って生まれた火花が照らす笑顔と高揚した頬はまるで恋した乙女のそれ。
殺しを嬉々として行う女の恋心など、不気味としか言いようがない。
だがワタナベという女は、人を殺して性的な快感を得る狂人。
そもそも、何かの尺度で測ろうということ自体が間違いなのだ。
从'ー'从「ねぇねぇ!!」
(;=゚д゚)「このっ!!」
実際問題、一切の余裕のない状況で、ワタナベの攻撃を防ぐだけでそれ以上を得ることは難しかった。
顔が触れるほどの至近距離に近づいたかと思うと、飛び退いて攻撃を回避しなければならなかった。
何かの問答に付き合うのは、極めて神経をすり減らす作業でもあった。
从'ー'从「やっと、他の人を気にしないで一緒になれるねぇ!!」
(;=゚д゚)「あぁっ!? 嬉しくねぇラギ!!」
次第に、トラギコは相手が意図的に攻撃のタイミングをずらし、長引くように仕向けていることに気づいてきた。
受け流した傍から放たれる一撃は、こちらが確実に受けられるように調整されている。
从'ー'从「ずーっと!! ずーっとお話したかったのぉ!!
今日までずっと我慢してきたけど、もう我慢できない!!
我慢なんてしなくていい!!
刑事さん!! お話ししましょう!!」
(;=゚д゚)「これまでの犯罪行為を話したいんなら、留置所で勝手にすればいいラギ!!」
从'ー'从「ううん、違う!!
もっと楽しいお話をしたいのぉ!!
ねぇ、好きな食べ物はぁ? 好きな音楽はぁ? 好きなタイプはぁ?
刑事さんのこと、もっともっと知りたい!!」
(;=゚д゚)「何だぁ、手前……!!
薬でもやったラギか?!」
テンションが明らかに異常だ。
精神を高揚させる類の薬を摂取しているとしたら、かなり厄介だ。
ただでさえ厄介な性格をしている彼女のネジが外れれば、行動の予想などまるで出来ない。
今のところはこちらの意図した通りに前線から離れているが、いつ正気に戻るか分からない。
最悪なのは、この状態でシェルターに侵入されることだ。
その展開だけは絶対に避けなければならない。
ニクラメンで起きた大量虐殺を思えば、ワタナベを生かして民間人の傍に連れて行くことは終わりを意味する。
563
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:01:49 ID:EB0RZRkQ0
从'ー'从「薬? ううん、そんなものじゃないわぁ!!
恋よ!!」
(;=゚д゚)「恋?!」
間違いなく、ワタナベは向精神薬を使っている。
興奮し、神経の伝達速度を上げるような薬物を使われているのであれば、勝てる見込みがない。
从'ー'从「好きな人の事を知りたいって思うのは、恋よ!!
だから、ねぇ教えて!!
何が好きで、何が嫌いで!!
どんな人生を歩んできたのか!!」
連撃の勢いは以降に衰えない。
それどころか、勢いが増すばかりだ。
受け流すどころではなく、攻撃を受けるだけで精いっぱい。
(=゚д゚)「うるっせぇ!!
俺はお前と違って若くねぇんだ、話しながら戦うなんてのは、向いてないラギ!!
歳を考えろ!! 歳をよぉ!!」
从'ー'从「あっはぁ!! 可愛い!!
そんなところも、昔から好きぃ!!」
(;=゚д゚)「……昔?」
その言葉に、トラギコの反応が僅かに鈍る。
狂人の言葉など、耳を貸すべきではない。
しかしそれでも、ワタナベの言葉に反応してしまったのは、彼女が時々見せる理性的な一面を知っているからだ。
毛ほどの油断を見逃さず、ワタナベの繊手は防御が困難な刺突を選択する。
防御か、回避か。
コンマ数秒以下の世界で彼が下した判断は、技術によるカウンターだった。
警察学校時代に学んだ護身術の一つを生かし、突き出された左腕の外側に体をねじ込み、足を首の後ろに素早く絡ませ、足の力と勢いを使って引きずり倒す。
(=゚д゚)「おぅらぁ!!」
从'ー'从「!?」
防御困難なカウンターに、ワタナベの顔がコンクリートの地面にほぼ垂直に吸い込まれる。
顔への一撃が見込まれたが、ワタナベは空いた右手を地面に突き立て、トラギコの攻撃を受け止めた。
右腕一本で自重とトラギコの体重を支えたかと思うと、次の瞬間、二人の体が回転した。
見えていた地面が天井になったかと思うと、背中に衝撃が走る。
(;=゚д゚)「ごっ……はっ……!!」
肺の空気が強引に押し出される感覚。
そしてそれまで、腕と足に感じていたはずのワタナベの感触が失われる。
いち早く態勢を整え、倒れた状態のトラギコの傍で屈んで見下ろしていた。
その気になればトラギコの命を奪えるだけの時間的な猶予があったにも関わらず、そうしなかった。
564
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:05:08 ID:EB0RZRkQ0
从'ー'从「二人でピロートークをするのはまた後っ!!
今は話しながら踊ろうよぉ!!」
手を取られ、強引に引き起こされる。
わざわざ高周波振動を切っての行動に、ますますトラギコの混乱に拍車がかかる。
そして再びの攻撃。
反射的に防ぐほか、トラギコには選択肢はなかった。
(;=゚д゚)「本当に、手前は何なんラギ?!」
从'ー'从「何って、刑事さんの大ファンに決まってるじゃない!!
初めて会った時からずーっと!!」
(;=゚д゚)「ニクラメンでの出会いで、そこまで好かれる理由は――」
从'ー'从「何、言ってるの?」
突如として、ワタナベの声が冷気を孕む。
从'ー'从「十五年前のCAL21号事件。
十二月十六日に、法廷で叫んでくれたでしょう?
どれだけの未来が奪われたと思ってるんだ、って。
あの場で私達の味方は、刑事さんだけだった」
(;=゚д゚)「私……達……?
な、何を……」
从'ー'从「お花屋さんのサンディとカレン、二人とも元気だったでしょう?」
(;=゚д゚)「馬鹿な……手前……まさか……?!」
背筋に冷たい物が走る。
ワタナベが口にしたのは、CAL21号事件の被害者だった少女二人の名前だ。
事件後に二人はジュスティアの施設で引き取られ、新たなファミリーネームを得てそれぞれの人生を歩んだ。
ジュスティアで二人が花屋を営んでいることを知るのは、当時の事件関係者だけ。
そして、CAL21号事件で生き延びた子供は3人だけ。
2人はジュスティアの施設に入ったが、もう1人は名も知らぬ誰かに引き取られたはずだ。
从'ー'从「助けた奴の事なんでいちいち覚えていない、ってよく言ってるよねぇ。
私達はね、イトーイに助けてもらったんだよ。
あの子、刑事さんに会ってから警察官になりたがってたんだ。
どう? これでも思い当たることはない?」
CAL21号事件を解決に導いた一人の少年の名前が挙げられた瞬間。
トラギコは、認めざるを得なかった。
あの少年の存在を知っている人間がいたとしても、名前を知る者はほとんどいない。
更に、トラギコと少年との邂逅を知るのは、施設にいた人間でもごく少数。
565
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:05:28 ID:EB0RZRkQ0
殺し合いの最中に、トラギコは動きを止めた。
それがどれほどの愚行か、彼は良く分かっている。
分かっているが、動きを止めざるを得なかった。
彼の中にある、ただ唯一の心の傷が撫でられたのだ。
(;=゚д゚)「あの時にいた……ガキの一人ラギか?」
ワタナベが満面の笑みを浮かべる。
その笑顔が、トラギコの心臓を掴んだ。
从'ー'从「お久しぶり、役立たずの愛しい刑事さん」
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ワタナベ・ビルケンシュトックが救われた日は、人生の中でわずか2日だけだった。
ブルーハーツ児童養護施設を襲った性犯罪者によって心と体を壊されたが、命を奪われる前にイトーイがその寸前で救ってくれた日。
所謂、“CAL21号事件”である。
そしてもう1日も、その事件に関係のある裁判で判決が下された日だった。
566
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:05:50 ID:EB0RZRkQ0
裁判が始まる前に施設の人間が買収され、被告人に対して然るべき罰が下されないことが決定したことは、その日になって知ったことだった。
あれだけの人間を殺し、その人間の尊厳を奪ったにもかかわらず、告げられた判決は懲役3年。
あの時の静寂と形容しがたい苦痛は、今でも鮮明に思い出せる。
だが、味方のいない裁判所でたった一人だけ声を荒げ、彼女たちの味方をしてくれた人間がいた。
判決は覆らなかったが、その姿に彼女は僅かだが救いを感じた。
しかしそれでも、彼女の心は極めて脆い状態だった。
一夜にしてあらゆるものを奪われ、信じていた施設の人間にも裏切られたという精神的なショックを克服するにはあまりにも幼すぎたのだ。
抗っていたトラギコの姿は脳裏に焼き付いたが、彼女の心が癒える間もなく、環境は瞬く間に変化していった。
裁判の後、ワタナベはすぐにある男に引き取られたが、その夜に犯された。
それが、彼女の心に致命的な傷を負わせた。
屈辱と苦痛に耐える日々の中で、心はそれに順応するために変化をした。
初めての殺人を経て、トラギコへの感謝の気持ちが黒い感情に染まった瞬間は、決して忘れることはない。
彼がもっと早く、あるいは、もう少しだけ救った人間に興味を持っていれば、ワタナベはこのような苦痛を味わわずに済んだかもしれない。
生き延び、味わった苦痛が彼女の生きる糧となった。
同時に、人を殺すことの才能に開花した彼女はそれから殺しを生き甲斐とすることにした。
いつかどこかで、トラギコに会う日が来たら、彼を殺すために。
殺しを続けていく中で、キュート・ウルヴァリンと出会い、性犯罪者を一人残らずこの世から消すために、ティンバーランドへの参加を決めた。
参加の条件にワタナベが提示したのは、彼女の邪魔をしない、そしてトラギコに関する情報を逐一報告するという2点だった。
組織内で力のあるキュートはその要望を受け入れ、殺しが主となる任務に彼女を派遣することを約束した。
そして事前情報の通り、ニクラメンで彼と再会し、罵倒の言葉を浴びせてから殺し合いを始めた。
本気で殺すために攻撃をしたが、彼はそれを防ぎきった。
途中で邪魔もあったが、標的を殺し損ねたのはそれが初めての事だった。
殺しの大将を前にして彼女の下腹部が熱くなるのを感じたのもまた、初めての事だった。
憎しみに似た何かが恋心であることに気づき、その時からワタナベはその気持ちを今日まで押し隠すことに決めたのだ。
トラギコなら、ワタナベのことを受け入れてくれる。
あの日、彼女に救いを与えてくれた正義の味方であれば、きっと。
きっと、彼女を――
从'ー'从「さぁ、続きをしましょう!!
刑事さん、お話をしましょうよ!!」
トラギコは苦虫を潰したような表情を浮かべ、手にした武器を構え直す。
高周波振動を発するその武器は、ワタナベのシザーハンズに対抗できる唯一の武器。
定石はそれを奪うことだが、それでは意味がない。
出来る限り会話を重ね、その末に殺そうとすることに意味があるのだ。
彼の事を知り、理解した状態でなければ意味がない。
(=゚д゚)「絶対にお断りラギ。
……だけど、少しだけ話をしてやるラギ!!」
567
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:06:11 ID:EB0RZRkQ0
こちらの正体を知ってもなお、トラギコは同情するような表情は浮かべなかった。
嫌悪感に近い何か、もしくは鋼の様な心がその正体だろう。
彼は犯罪者に対して、絶対に同情はしない。
これまでに歩んできた彼の歴史が、これまでに見聞してきた多くの犯罪が、今の彼を作っているのだ。
内藤財団が取集したトラギコに関する情報に全て目を通したワタナベは、彼の心の機微まで分かる程にそれに精通していた。
分からないのは、ただ一つ。
正義の味方として、彼は何を感じ、何を思い、何を考えて今に至るのか。
それだけが知りたいのだ。
腐った世界の中でも正義を信じつつも、ジュスティアの方針とは異なった生き方をしている理由。
ジュスティア警察でただ一人の、本物の正義の味方として生き続ける矜持。
CAL21号事件において、ただ一人、世界を敵に回しても構わないと思って行動した人間。
彼こそが正義の味方なのだと、ワタナベが確信に至る情報が得たいのだ。
(=゚д゚)「手前は、俺が止めてやるラギ」
そう言った瞬間、トラギコが一気に前に向けて駆け出した。
速度ではワタナベに劣るが、振るう一撃の重さは確かなものだ。
受け流しが難しい左下方からの切り上げをバックステップで回避し、反動を利用して即座に一歩前に踏み込む。
距離を取らなければ相手に攻撃を許すことになる。
しかし逆に、距離を詰めれば彼女の両手の武器が真価を発揮する。
互いの吐息が聞こえるほどの近距離へと入り込むことによってトラギコの右腕を使用不可能にし、ワタナベは両手をトラギコの背中に回す。
鉤爪が背中に触れた刹那、ワタナベの腹部に触れるものがあった。
直後に貫くような衝撃。
从;'-'从「けっ……はぁっ……!?」
間に合わなかったが、それでも、ワタナベは上半身を弛緩させて攻撃の威力を軽減させることには成功していた。
人間の膂力の攻撃ではない。
いつの間にか、トラギコの拳がそこに構えられているのを見て、ワタナベは苦しみの中で歓喜した。
彼は切り上げを放つことで、こちらが意図した通りに動くように仕向けたのだ。
ジュスティア警察仕込みの直突き。
距離が稼げなくとも上半身の可動だけで繰り出す一撃は、護身における隠し玉だ。
(=゚д゚)「手前があの時の生き残りだとしても、俺は手前を殺すだけの理由があるラギ。
これまでに殺してきた人間が、手前を許さねぇラギ!!」
そう。
それでいい。
憎しみや怒りは置き去りにして、ただ互いを求め合う。
心の求めるまま、刃を交えればいい。
ワタナベの放つ攻撃を、トラギコは巧みに刀を使って防いでいく。
568
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:06:39 ID:EB0RZRkQ0
从'ー'从「ふふっ……!! そうでしょうねぇ。
でも、それが何?
裁判を待たずに逮捕ではなく殺すと決めたのは刑事さんよぉ?
それは刑事さんの意思で決めたことでしょう?
なら、求めているのは、刑事さん自身。
あははっ!! 私達、両想いだったんだ!!」
互いに互いの命を狙い、こうして刃を交わす。
心臓の鼓動が高鳴り、息が荒くなる。
求めるのがお互いの命であれば、それこそは求愛行動と言っても過言ではない。
双方の武器が触れるたび、火花が散る。
火花が二人の顔を照らし、黄昏時と見紛うばかりの空の下で鮮やかな光景を生み出していた。
まるで、二人の傍で爆ぜる極小の花火のようにワタナベの目には映っていた。
いつまでもこの光景を見続けていたいと思う傍ら、心の中にある殺戮症状が鎌首をもたげる。
(=゚д゚)「あぁそうラギね」
从'ー'从「嬉しいっ!!」
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距離を開けたトラギコが右肩に担ぐようにして刀を構え、深く息を吐く。
連続した攻撃か、あるいは重みのある一撃に賭けてくるのか。
両肩から力を抜き、ワタナベはそれを迎え撃つ。
(=゚д゚)「仕方ねぇ、俺がお前を止めてやるラギ」
だがトラギコは、そのままじりじりと距離を詰めてくるだけで、攻撃の気配を見せてこない。
ワタナベの戦闘スタイルが、カウンターや相手の隙を狙うものだと分かったのだろう。
569
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:07:07 ID:EB0RZRkQ0
(=゚д゚)「ほら、来いよ!!」
从'ー'从「いいよ!!」
そして、ワタナベが仕掛ける。
左手を鞭のようにしならせ、深く息を吐きだした瞬間に距離を一気に詰めてから攻撃を仕掛ける。
斜め上からの一撃を防ぐためには、構えた刀を使うしかない。
これによってトラギコは防御を余儀なくされ、攻撃の手を捨てることになる。
ワタナベの狙いはトラギコの動きを奪った上で命を奪うことだ。
高周波振動の兵器を奪いさえすれば、後はこちらの自由だ。
一刻も早くトラギコとの逢瀬を楽しみたいワタナベの心とは裏腹に、その頭の中は冷静に状況を分析していた。
放った一撃は必殺とは言わないまでも、トラギコの肉を割き、血液と戦意を奪い取ることだろう。
それだというのに、トラギコはまるで防御するそぶりを見せない。
構えた刀を使わなければこちらの一撃を防ぐ術はない。
相打ちを狙っている可能性を視野に入れつつも、ワタナベは攻撃を敢行した。
(=゚д゚)「だらぁっ!!」
从'ー'从「っ!!」
振り下ろした一撃は、確かにトラギコを捉えた。
だがトラギコは攻撃が形となる前に踏み込み、ワタナベの腕の内側に入り込んだことによって危険な爪先を一時的に体から遠ざけたのである。
刀での攻撃を犠牲にして肘から先を肩で抑えられているため、それ以上曲がらない。
鞭化した攻撃の欠点を的確にとらえていた。
しかしこれで、トラギコはワタナベの用意したもう一つの攻撃を回避できない距離に入った。
予め用意していた右手を一本の槍のようにして繰り出す突きは、重装甲の棺桶でなければ防御は不可能。
わき腹の肉を抉り取れば動きが鈍る。
この状況、トラギコならどう乗り越えるのだろうか。
1秒にも満たない攻防。
トラギコの目は、まっすぐにワタナベの目を見据えていた。
まるで、全てを見抜いているかのように。
(=゚д゚)「あめぇラギっ!!」
从;'-'从「しまっ……!?」
突き出す前に、トラギコの左手がワタナベの肩を掴んだ。
一瞬の激痛。
そしてそれは熱を持ち、まるで突き刺すような痛みを生み出した。
トラギコの棺桶は筋力補助だけしか機能を持たないが、その単純な機能で彼女の肩を折ったのだ。
肩の骨が折られたことにより、ワタナベは用意した一手を失った。
だが攻撃の手段を失ったのはトラギコも同じはず。
後退しようとした時、トラギコの腕がまだ彼女の肩を掴んでいる事実に驚愕した。
完全に出遅れた。
570
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:07:27 ID:EB0RZRkQ0
この状況でトラギコが次に選ぶ攻撃は、ただ一つ。
(=゚д゚)「せー!!」
そして次の瞬間、トラギコは大きく頭を後ろに引いて――
(=゚д゚)「のっ!!」
从;'-'从「あぶっ!?」
――顔面に遠慮のない頭突き。
鼻の骨が折れたのが分かった。
まともに受けたその一撃によって、ワタナベの涙腺から大量の涙が放出される。
視界が奪われ、思考もマヒする。
突き飛ばされ、反射的にたたらを踏む。
(=゚д゚)「俺はな、女でも容赦なく顔を殴るラギ!!」
从;'-'从「ちいっ!!」
その宣言に思わず無事な左腕で顔を防御する。
体に染みついた戦闘の経験がそうさせてしまったのだ。
(=゚д゚)「ほらよっ!!」
だが衝撃を受けたのは腹。
胃液が逆流する程の一撃に耐えたが、最早、決着はついていた。
両手を掴まれ、そのまま足払いを受け、押し倒される。
腹の上に馬乗りになり、両手を抑えられてしまえば、ワタナベが抵抗する術はない。
体重の差、そして筋力の差が二人の間にはある。
彼が手にしていた刀はワタナベの背が地に着くのと同時に、地面に落ちていた。
高周波振動のスイッチは切られており、全てが囮であったことを如実に語っている。
(=゚д゚)「さぁて、これで落ち着いて話が出来るラギね」
从;'-'从「……」
確かに、対話はワタナベの求めていたものだ。
しかしこのような形での対話は求めていなかった。
殺し合いの中で交わされる言葉だけが真実だと疑ってやまない彼女にとって、生殺与奪を握られた状態での会話は意味がないのだ。
知りたいのは彼の本音なのだ。
(=゚д゚)「お前は、俺に殺されたいラギか?」
从'ー'从「……」
571
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:08:00 ID:EB0RZRkQ0
その一言が、ワタナベの脳を甘く痺れさせた。
こちらの本心を、一瞬にして見抜かれた。
股下がうずく中、口を開く。
从'ー'从「うん」
(=゚д゚)「じゃあ俺は殺さねぇラギ。
死刑執行人にやってもらうラギね」
从;'-'从「何で?! 意地悪しないでよぉ!!」
(=゚д゚)「犯罪者の望みを叶えてやる理由がねぇラギ。
やっぱ手前は逮捕してムショにぶち込むか、別の奴に殺させるラギ。
ツーのババアなら喜んで手前を殺してくれるラギ」
从;'-'从「やだやだ!! 私、刑事さんに殺されたいのぉ!!
ねぇ!! お願い!!」
トラギコは世界最後の正義の味方だ。
彼以外の人間に殺されるなど、決して受け入れられない。
ワタナベの命を求め、奪われるというこの上ない愛情表現の機会を失うことになる。
それはこれまでの彼女の苦労の全てを無に帰すことになる。
彼との対話を重ね、その上でワタナベの命を求めるということによって、彼の正義は本物になる。
正義を。
自分にだけ向けられる一心不乱の正義を、ワタナベは見たいのだ。
それを独占したいのだ。
独占したまま死ぬことが出来るのであれば、死ぬことは何一つ怖くはない。
こちらがトラギコを殺せば、彼の正義を彼女が独占できる。
彼が生涯最後に向けた正義の矛先は、彼女だけの物なのだ。
誰にも譲るつもりはない。
世界の全てを敵に回してでも、トラギコを独り占めしたいのだ。
从;'-'从「殺してよぉ!! 私を!!
それか、私に刑事さんを殺させてよぉ!!」
(=゚д゚)「だったら最初からそう言わなかったのは何でラギ?」
从;'-'从「だって、絶対に嫌って言うでしょ?」
(=゚д゚)「あぁ。 絶対に嫌ラギ」
从;'-'从「ううっ……!!」
このままでは願いが叶わない。
悲願が成就する寸前で終わろうとしている。
僅かの油断。
僅かの慢心。
572
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:08:22 ID:EB0RZRkQ0
あるいは、トラギコを前にして高鳴った胸のざわめき。
十五年も温めてきた想いがそう簡単に抑えられるはずもなく、彼女の理性と判断力を鈍らせたのだろう。
全ては手遅れ。
取り返しのつかない失態だった。
弱みを引き出され、握られ、後は生きたまま殺されるだけ。
(=゚д゚)「……手前の事は気にかかっていたラギ。
これは嘘じゃないラギ。
CAL21号事件以降、手前だけが行方が分からなかったからな。
こんな形で再会して、本当に残念ラギ」
両腕は動かない。
全身の力を総動員しても、トラギコを動かすことはできない。
腹部に感じる彼の体重が愛おしいと思いつつ、抵抗できないことに記憶の奥にある何かが煽られている気がした。
从;'-'从「この状況で、どうするっていうの?」
そう。
まだ状況は終わりではない。
トラギコが彼女の両腕を抑え、跨っている以上は攻撃の手段はない。
ここからの攻防は僅かの油断が左右する。
(=゚д゚)「俺はどうもしないラギ。
あいつが、決着をつけてくれるラギ」
从;'-'从「え?!」
それは、彼女の失いたくない物を引き出したからこそ有効な一言だった。
油断した直後に、彼の体重を乗せた一撃が腹部を襲った。
そしてその衝撃に戸惑う間に放たれた頭部への一撃が、ワタナベの脳を左右に揺らして意識を飛ばした。
彼の両手が彼女の頭部を包み、若干の時間差をつけて打撃を放つことによって脳震盪を引き起こしたのである。
――次にワタナベが目を覚ました時、そこにトラギコはいなかった。
寝かされていた場所には見覚えがあり、トラギコが何を思ってそこに彼女を置き去りにしたのか、意図を汲み取るのは簡単だった。
失恋した生娘のようにワタナベは声を殺して涙を流したが、やがて、何かに導かれるようにしてジュスティアの街を歩きだした。
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573
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:10:02 ID:EB0RZRkQ0
同日 PM03:41
ジュスティアでの市街戦は、どれだけ時間を稼げるかの戦いだった。
戦闘に参加する全ての警官、生き残った軍人がそれを理解していた。
勝ち残ることは無理だろう。
生き残ることも無理だろう。
だからこそ、生きた証として市民の脱出を成功させなければならない。
警官隊による奮闘の甲斐あって、敵を検問所付近で食い止めることに成功はしていたが、徐々にそれも危うくなっている。
特に激戦となっている南部では、円卓十二騎士の中でも実力者に与えられるレジェンドセブンの称号を持つ、イヨウ・ジョセフ・ジャックが最前線で戦っていた。
バリケードを構築しつつ負傷者を後方に運ぶという、一人でも多く生かし、一秒でも長く戦うための戦い。
衛生兵として数多くの戦場で何百人もの命を救ってきた彼は、飛び交う銃弾と砲撃の中でも決して泣き言は言わない。
円卓十二騎士で唯一、武勲ではなく救ってきた人間の数が評価された男である。
(=゚ω゚)ノ「あともう少しだから、目を閉じるじゃないよぅ!!」
最低限の筋力補助を行う棺桶を身にまとい、赤い十字の描かれた盾を構えて負傷者を見つけ出し、危険を顧みずに救助する姿は戦場において極めて異質な姿だった。
殺し合いの中でただ一人、救い続ける人間。
彼は衛生兵としての任務だけでなく、あえて目立つ格好をすることによって敵の注意を引き付けるという役割も担っていた。
これは初めての事ではなかった。
彼がレジェンドセブンとして認められたのは、決してその命がけの行動だけが理由ではない。
円卓十二騎士の中でも極めて優れた防御の才能を持ち、危機回避能力の高さを持つためである。
掲げる盾の頑強さは、棺桶の装甲にも勝る程の分厚い合金で作られており、身を守るためには最適な武器だった。
(-゚ぺ-)「糞ッ……痛てえぇ……」
(=゚ω゚)ノ「後20分耐えるんだよぅ!!
そうすれば、俺たちの勝ちなんだよぅ!!」
一人、また一人と銃弾に倒れていく中で黙々とイヨウは負傷者を物陰に連れて行く。
物陰に避難させられた負傷者たちは、壁を盾にして拳銃を発砲し、少しでも敵の侵入する勢いを殺そうとしていた。
対強化外骨格用の弾を装填した重機関銃を使い、射撃を続けるフォックス・ジャラン・スリウァヤの顔から余裕が消えていた。
爪#'ー`)y‐「まだだ、まだ耐えろ!!」
検問所から出てすぐの場所で待ち受けていたのは、相手の逃げ場所と勢いを奪うためだった。
狭い場所に閉じ込めれば、大群の利は失われる。
相手が装甲車や戦車を使ってくることを知っていたため、検問所内に高性能爆薬を仕掛け、爆発させて動きを鈍らせた。
これにより、南部での戦闘をこの時間まで長引かせることに成功していた。
戦闘開始早々にトラギコが訳の分からない女に巻き込まれ、市街地に消えて行ったのは計算外だった。
しかしフォックスにとって、この状況はまだいい方だった。
海岸沿いに控えている相手の部隊がいつどうやって市内に入り込んでくるのか、それが分からない。
シェルターから市民を全員逃がすための算段に不安はないが、不確定要素には注意を払わなければならない。
――北部の戦闘は、南部よりも苛烈を極めていた。
574
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:10:22 ID:EB0RZRkQ0
ツー・カレンスキー率いる腕利きの警官隊は、特殊警棒と盾を使って敵対勢力を撲殺していった。
後方に控える狙撃手たちの援護射撃は戦場の濃度を高め、故郷に攻め込まれた怒りが暴力性を強くしていく。
だが攻めてきた敵の部隊もまた、怒りに燃える集団であった。
上陸艇を使って現れた援軍は、そのほぼ全員がジュスティアへの恨みを持つ者達で構成されていた。
(・∀ ・)「うおらぁ!!」
奇声と共に戦うのはサイトウ・マタンキ。
度重なる露出行為により警察に指名手配され、セカンドロック刑務所に送られる際に睾丸を砕かれた。
それによって彼は露出することに対して恐怖を抱くようになり、それが警察全体への恨みに変わった。
(-_-)「……死ねよ!!」
ヒッキー・ブラインドの低く、そして小さな声にはそれを凌駕する殺意が込められている。
幼少期に学校で受けた苛めを理由に、近隣の学校に対する脅迫行為を常習的に行った。
遂にその行為に堪忍袋の緒が切れた警察により彼は実家から引きずり出され、地獄とも言えるセカンドロック刑務所の矯正施設に送り込まれた。
施設の人間から受けた暴力行為と家族に売られたという屈辱が、警察への恨みに繋がった。
/ ゚、。 /「ふぅ……!!ふぅ……!!」
スズキ・デイダラ・ダイオードの眼光は、それそのものが鋭利な刃物のように鋭い。
彼女はセフトート出身の卸売業者で、決して人から物を盗むことはなかった。
ただ、墓の下に眠っている金品を発掘し、それを売っていただけだった。
土に還るならばそれを金にして、生きている人間に還元すべきだと考えたのだ。
その考えが根底から否定され、10年以上もセカンドロック刑務所で過酷な生活を余儀なくされた彼女が最初に考えたのが、ジュスティアへの復讐だった。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ふしゅる……!!」
サカキヴァラ・マリントンはジュスティアで保育士として働き、30年以上のキャリアを積んできた。
そのキャリアが、保護者からの苦情によって一日で終わりを告げた。
聞き分けのない子供の頭を思わず殴りつけてしまったのだ。
彼の言い分は全面的に却下され、そして、職を失った彼に残されたのはセカンドロック刑務所での暗い未来だった。
( ,'3 )「ふしゅ……」
マリントンの同僚であり、彼の擁護をしたナカジマ・バルケンは児童への性的虐待を訴えられ、マリントンと共に職を失った。
児童への性的虐待など身に覚えがなかったが、内部の人間の密告が原因だと分かり、その復讐を果たすことにした。
虚偽の密告をした元同僚の顔面が陥没するまで殴り続け、気が付いた時にはセカンドロック刑務所にいた。
刑務所におけるヒエラルキーで最下層に位置するのが、子供を相手にした性犯罪者だ。
彼は謂れのない罪によって投獄され、そして、刑務所内での壮絶ないじめを経験した。
失ったのは尊厳。
奪われたのは誇り。
彼が取り戻そうとしているのは、人生そのものだった。
( ・3・)「あるぇ〜?」
575
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:10:42 ID:EB0RZRkQ0
ボルジョア・ヴェクターは周囲を見渡し、その壮絶な戦いの様子を堪能していた。
合法的な商売で金を稼いでいた彼は、ある日突然ジュスティア警察によって逮捕された。
彼の部下が非合法に稼いだ金をボルジョアに献上していたというのだ。
部下の行動など知らないボルジョアにとって、それは寝耳に水であり、あまりにも理不尽な仕打ちだった。
数十年かけて蓄えた金を一日で失い、活力を失った彼に差し伸べられた手は、内藤財団副社長のそれ。
商才を買われ、内藤財団の発展に一役買いつつも、その胸中にある復讐心は健在だった。
( ^^)「すぅ――」
得た物を失ったという点では、ワタル・ヤマザキも同じだった。
彼は金を稼ぐためではなく、読者のために多くの作品を世に生み出しただけだった。
その内の一冊がとある街の法律に触れ、逮捕されることとなった。
それによって彼の作品は世に広く周知され、更に悪いことに一部の過激な団体に目を付けられ、これまでの全ての本を失うことになった。
声の大きなマイノリティたちに耳を貸したジュスティア警察のせいで、彼は半身を失ったのだ。
(゜3゜)「んふーっ!!」
ポセイドン・ゲッター・タナカは、かつては有名な学者として知られていたが、6年前にとある研究が原因で“モスカウ”に目を付けられ、秘密裏にセカンドロック刑務所に投獄された。
そこで受けた精神的、肉体的な虐待は筆舌に尽くしがたく、彼から言葉を奪った。
失語症になりながらも彼は復讐の心を忘れず、頭の中で研究を続けてきた。
その研究の成果が、ここで披露されることを彼は誰よりも信じている。
そして、その八人の犯罪者たちを率いるのが九人目の犯罪者である、シュール・ディンケラッカー。
誘拐と殺人の罪でセカンドロック刑務所に投獄され、こうしてジュスティアに対して復讐するのを夢見てきた。
九人に与えられた棺桶は極めて短い時間でしか稼働ができない代わりに、極めて強力な威力を発揮するものだ。
全ては、円卓十二騎士の一人に対する復讐を果たすため。
lw´‐ _‐ノv「……いたぞ!!
ショーン・コネリだ!!」
銃弾と悲鳴が飛び交う中、九人はその瞬間を待ち続けていた。
<::[-::::,|,:::]『うおおおお!!』
アーティクト・ナイン。
それを使う人間は、ジュスティアで一人しかいない。
ミニガンと高周波刀を持ち、鬼神の様な戦いぶりを見せている。
増援に次ぐ増援をものともせず、銃弾をまき散らし、警官隊と共に死体の山を作り出していた。
活路が見いだせた瞬間、九人は一斉に走り出していた。
lw´‐ _‐ノv『狙うは一撃、放つは一瞬。
我らの願いは流れ星!!』
それは、棺桶としての機能としては最低限の物だけを搭載したAクラスの量産機。
名持ちの棺桶でありながら、大量生産され、多くのテロリストやゲリラに供給された使い捨ての棺桶。
“ズヴィオーズ”という名の棺桶の特徴は、ただ一つ。
高威力の対棺桶用誘導式ミサイルを放てることにある。
576
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:11:04 ID:EB0RZRkQ0
生身の人間が使用すれば腕を折るほどの反動があるが、このズヴィオーズはそれを補助するための右腕の強化外骨格と一体化している。
混戦状態の時にはあまり役立たないが、ショーンの姿をはっきりと目視できた今、確実に当てられる。
爆風だけでもBクラスの棺桶を破壊することが出来るミサイルを九方向から同時に受ければ、どれだけ技術が卓越していたとしても、確実に爆発に巻き込まれる。
アーティクト・ナインの装甲が軽量であること、そして相手が戦闘に簿等している今が好機。
照準器を覗き込み、標的をマークする。
そして、各々の想いを乗せて銃爪を引いた。
このミサイルの特徴は、発射した直後に直上に急上昇し、落下速度を上乗せして相手の頭上から襲い掛かることにある。
それぞれが発射のタイミングをずらし、位置を変えたことにより、雨を避けるような不可能な技が要求されたショーンに逃げ場はない。
<::[-::::,|,:::]『……?!』
一瞬、何か声が上がったような気がしたが、すぐに爆炎が全てを消し去った。
頭上から現れた殺意の塊。
ましてやこの混戦の中、暗い空から降り注ぐ何かに対して即応できる人間はいない。
濛々と立ち昇る煙が晴れるにつれ、九人の犯罪者たちは血の気が失せるのをこの上なく感じ取っていた。
<::[-::::,|,:::]『……脱獄囚か!!』
ミニガンをその場に投棄し、アーティクト・ナインは一瞬で移動を開始していた。
筋力補助など期待できない棺桶を身に着ける九人は、ただ、己の命が刈り取られるのを待つしかなかった。
一撃目。
それはこの上なく正確に、そして無駄のない動きでマタンキの胴を上下に両断した。
二撃目。
マタンキの臓物が地面に落ちるより前に、ショーンはヒッキーの体を左右で切り分けた。
そこでようやく、攻撃に失敗した理由を考えるよりも殺戮機械から逃げることを選ぶ人間が出現する。
即座に重荷となる棺桶を破棄し、駆けだしたのはシュールだけ。
三撃目。
タナカの首が宙を舞った。
そして、空中でそれが四分割されたのを目視したヤマザキも袈裟斬りの四撃目によって命を落とした。
瞬く間に殺された四人の内、誰よりも先に遠くへと逃げ出したシュールが振り返っていれば、何故ショーンが生き延びたのか、その理由が分かったはずだ。
瓦礫となったピースメーカーの影に隠れる、複数の狙撃手の視線と銃腔。
その中でも抜きんでた命中精度を誇る一人がいたのだ。
だがそれに気づいたのは、ボルジョアの頭がバラのように開花した瞬間だった。
lw´;‐ _‐ノv「っ……狙撃手がまだいたのか……!!」
彼女を筆頭とした部隊の目的は、兎にも角にも突破口を開くこと。
後ろに控える本隊を安全にジュスティア内部に入れることだ。
キュート・ウルヴァリン率いる部隊が無傷で辿り着けば、制圧は時間の問題だ。
言われずともその為の先兵であり、捨て石である自覚はあった。
全ては世界がより良いものになる為に。
榴弾の流れ弾を受けたマリントン、そしてバルケンの肉体が細切れに爆ぜ、その肉片がシュールの肩に付着する。
/ ゚、。;/「し、死にたk――!!」
577
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:11:24 ID:EB0RZRkQ0
助けを求めるスズキの声が途中で銃声の中に消え、いよいよシュールは自分一人だけとなったことに気づいた。
lw´;‐ _‐ノv「ああっ!!」
<::[-::::,|,:::]『ふんっ……!!』
目に映る世界が斜めにずれた。
そして、そこでシュールの役割は終わりを告げた。
だがしかし。
彼女が稼いだ極めて短い時間は、“サウザンド・マイル”をジュスティア内に突入させるのに役立ったのだ。
シュールを殺すことに執着していたショーンは、一斉に向けられた銃腔を前に短い言葉を吐き捨てた。
<::[-::::,|,:::]『……無念』
――午後3時44分の事だった。
o川*゚ー゚)o「さぁ、ただいまだ!! ジュスティア!!」
キュート・ウルヴァリン率いる部隊の制圧力は凄まじいものがあった。
それまでの拮抗状態を瞬く間に崩し、特殊装備で固めた警官隊が次々と命を落としていく。
(*゚∀゚)「来たか、本隊が」
溢れた川を止められないように、入ってきた部隊の威力を殺しきることはできない。
ツー・カレンスキーとジィ・ベルハウスは検問所を囲むように積み上げたバリケードの裏で腕時計を見て、深く溜息を吐いた。
背後に聳え立つ多くのビル群は砲撃によってその多くが損壊しているが、まだ、ジュスティアの街が終わったわけではない。
爪゚ー゚)「後十五分……!!
仕方ない、やりましょう」
(*゚∀゚)「各部隊、全ての武器の使用を許可する。
何としてでも食い止めろ!!
1分でも多く、1秒でも長く!!」
生き残った警官隊に通信を入れ、彼女自身も戦いに向けて棺桶を手に取る。
警察上層部である、この二人に支給されている棺桶。
コンセプト・シリーズでありながら同時に二機の開発がされ、そのまま採用された警察組織専用の棺桶。
(*゚∀゚)
『共に生き、共に死ぬ。
愚行も、蛮行も、あらゆる行いは我らの正義のために。
我々は一生涯の悪友。
この絆こそ至宝。 この絆こそ、世界を照らす力』
爪゚ー゚)
“バッド・ボーイズ”。
Aクラスのサイズでありながらも、そのコンセプトは極めて冒険的な物だ。
Cクラスの棺桶を相手にしても長時間の戦闘が可能、もしくは無力化が可能な性能、である。
その為に最も強化しているのが脚力の補助だ。
578
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:12:41 ID:EB0RZRkQ0
攻撃を受けず、尚且つその機動力を最大限生かすために両腕は捕縛用の装備に特化させている。
軽量の装甲は各関節部を守るだけであり、筋力補助の装置も最低限で済ませている。
だからこその高速戦闘が可能となるのだ。
彼女たちが狙うのは雑兵ではなく、この機に乗じて侵入してくる厄介な敵だ。
コンセプト・シリーズを身にまとっているか、もしくは明らかに指揮官、役職を持っている人間を排除する。
多くの勇敢で優秀な警官を失った今、最後の砦は彼女たち二人と円卓十二騎士の二人。
一人でも多く、厄介な敵を排除すれば侵攻速度が落ちるはずだ。
(*゚∀゚)「こんなのを使うのはポリシーに反するが、仕方がないな」
爪゚ー゚)「その割には笑顔ですね、長官」
(*゚∀゚)「悪の道具が悪を滅するなら、それは素敵なことだろう?」
傍らに用意していたドラムマガジンが取り付けられたショットガンを手に取り、初弾を薬室に送り込む。
ツーの持つショットガンに装填されているのは使用が禁止されている劣化ウランを使用したスラッグ弾。
そして、ジィの持つショットガンには粘度の高い燃料を使用した焼夷弾が装填されている。
いずれも世界では禁止兵器に指定されているが、犯罪組織から押収し、警察に保管されていた。
防衛戦が確定する前に、大量の押収品が搬出され、万が一のために街中に隠されていた。
それを今ここで使い切り、ジュスティア市民が脱出するまでの時間を稼ぐ。
銃弾が飛び交う中、二人の警察官がバリケードから素早く身を出した。
左右に同時に姿を現し、目の前に広がる絶望的な光景を前にしながらも二人の歩みはしっかりとしている。
それに続くように、続々と生き残っていた警官たちが物陰から飛び出す。
狙いは時間稼ぎと要人の排除。
雄叫びを上げながら一気に襲い掛かるが、それは特攻に等しい行動だった。
実際に特攻であり、彼らは死ぬことが前提として攻撃を仕掛けていた。
背中に巻き付けた小型のガスボンベ。
それこそが彼らの覚悟の証だった。
押収した数々の武器の中でも極めて毒性の高いD-VXガスが充填されており、その殺傷力は比類のない凶悪さだ。
高度な対毒ガス装備のない棺桶であれば、一度呼吸をしただけで即死するものだ。
だがその目的はあくまでも、ガスボンベを散らして配置すること。
既にバリケードや街角に複数の罠が仕掛けられ、スイッチ一つで連鎖的に爆破することができる。
そうなればジュスティアの街はたちまち毒ガスで満たされ、侵入者にとっては死の街となる。
o川*゚-゚)o「……へぇ、覚悟を決めたか。
ったく、最後まで正義の味方って奴は」
装甲車の上で足を組み、腕を組み、状況を見ていたキュートの声が聞こえる距離に接近したのは、ツーが最初だった。
言葉もなく構えたショットガンの銃腔は精確にその胴体に狙いがつけられており、銃爪は躊躇いなく引かれた。
だが放たれた凶悪なスラッグ弾は突如として現れた三人の棺桶持ちが一列の盾となり、キュートへの直撃を防いだ。
(*゚∀゚)「ちっ」
o川*゚-゚)o「躊躇いなしか」
579
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:13:04 ID:EB0RZRkQ0
二発目を装填し終えたツーは周りから向けられる銃腔に構わず、キュートへの射撃を敢行する。
四方八方から放たれる銃弾の雨を寸前のところで回避し、片手で発砲。
気だるげに装甲車から飛び降りたキュートは銃弾をやり過ごした。
o川*゚-゚)o「最後のおしゃべりもなしでいいのか?
死ぬ前に色々と教えてやってもいいんだぞ?」
(*゚∀゚)「死ねっ!!」
怒声に乗せた三発目の発砲音。
否、フルオートで放たれたのは合計で10発のスラッグ弾。
ほぼ一つに重なる程の連写速度で放たれたそれは、全てが凶悪な力を持つ。
生身であれば掠め飛んだだけでもショック死する程の物だ。
o川*゚-゚)o「断る」
〔::‥:‥〕
〔::‥:‥〕
どこからともなくキュートの前に現れたのは、強固な装甲を持つトゥエンティー・フォーが2機。
両腕に取り付けられた追加装甲を盾にし、更には自身の装甲も盾にしてキュートを守る。
全ての銃弾がトゥエンティー・フォーの装甲に穴を開けたが、やはり、キュートには届かない。
まるで自分の手足のように部下の命を使うその戦い方を、ツーは見たことがなかった。
常軌を逸した忠誠心か、それともシステムを使った連携力なのか。
キュートという女の本性に気づくのが遅れた今となっては、あらゆる推測は意味をなさない。
o川*゚ー゚)o「ははっ、やはり“串刺し判事”といえども、寄る年波には勝てないか。
あの頃、お前に死刑にされた者達が笑っているぞ」
判事として数多くの犯罪者に死刑を言い渡してきたツーに恨みを持つ人間は、枚挙にいとまがない。
挑発の言葉としてそれを送られはしたが、ツーはそれをまるで意に介することはなかった。
歳をとったのは事実。
実戦から遠ざかったことにより、腕が鈍ったのもまた事実。
(*゚∀゚)「なら私がそれを嗤ってやるさ!!」
o川*゚ー゚)o「やれるものならな」
距離は問題ない。
スラッグ弾の初速と人間の運動速度の限界は圧倒的に乖離している。
トゥエンティー・フォーの壁を失った今、ツーの周囲に障害はいない。
しかし――
(*゚∀゚)「罠を仕掛けるなら、もっと上手にするといい!!」
――それが罠であることは、明白だった。
不自然なまでの余裕。
視線が下を向いたその瞬間を、ツーは見逃さなかった。
580
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:13:27 ID:EB0RZRkQ0
o川*゚ー゚)o「ちっ……!!」
その場から跳び退いたツーの足元が、何の前触れもなく爆発した。
笑顔で舌打ちをしたキュートはそのまま両手を広げ、不敵な笑みを浮かべた。
o川*゚ー゚)o「やれ」
指を銃の形にして、キュートが小さく命令を下す。
(*゚∀゚)「しまっ……!!」
直後、ツーの胸部に巨大な風穴が空き、首と両腕が分離した。
当然、心臓は一瞬で消し飛び、意識も命も、その瞬間に奪われていた。
検問所の影から大型の拳銃を構えていたジョルジュ・マグナーニはようやく瞬きをし、かつての上司を射殺した実感をその手に感じ取っていた。
_
( ゚∀゚)
o川*゚ー゚)o「元上司を殺した感想は?」
無線機を使い、ジョルジュに激励の言葉を送るキュートの声は皮肉がたっぷりと詰まっている。
_
( ゚∀゚)『何もねぇよ。
それより、俺たちはさっさと作戦を始めていいんだろうな?』
o川*゚ー゚)o「あぁ、かまわない。
地下シェルターへの行き方と位置は問題ないな?」
_
( ゚∀゚)『あぁ、糞みたいなクスリのおかげで、この街の完璧な地図があるんだ。
迷う要素がない』
キュートの部下を引き連れ、ジョルジュはジュスティアの街へと侵攻を始めた。
その様子を見送りながら、キュートは周囲を見渡した。
o川*゚-゚)o「もう一人は?」
ジィの姿を探すが、どこかで戦っている様子もない。
別の場所で戦っていないのであれば、ツーが死んだ瞬間を見て、作戦を変えたのかもしれない。
〔欒゚[::|::]゚〕『恐らく南側に向かったのかと』
o川*゚-゚)o「なんだ、つまらない」
〔欒゚[::|::]゚〕『追いますか?』
o川*゚-゚)o「いや、どうせ死ぬんだ。
放っておけ。
それより私は南側に向かう。
無事な装甲車を一台寄越せ」
〔欒゚[::|::]゚〕『了解です』
581
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:14:12 ID:EB0RZRkQ0
ジュスティア北部の侵略が開始された時、その進軍を食い止める人間は誰もいなかった。
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582
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:14:32 ID:EB0RZRkQ0
同日 PM02:51
地下シェルターに入る唯一未封鎖の入り口は、呆気なく発見された。
事前の諜報活動によって露呈した街の地図とジュスティアでの勤続経験があれば、封鎖されていない入り口を特定するのは容易だった。
それが正解であることの裏付けとして、入り口の周囲には大勢の警官が待機していた。
警官たちは善戦したが、数分で勝敗は決した。
シェルターに通じる道はやや下り坂になっていて薄暗いが、足元の白いライトが流れるように明滅し、決して迷わないように工夫されている。
その先頭を歩くのはジョルジュ・マグナーニ、かつては街の治安を守る、法律の番人だった男。
顔に刻まれた深い皺は、これまでに経験した苦行とも言える激務によるものだ。
愛用していた強化外骨格はバッテリーと弾が切れたために、後ろをついてくる部下に持たせている。
彼の周囲はキュートの私兵部隊“サウザンド・マイル”が取り囲み、いかなる距離、兵器からも彼を守れるようにしている。
それは、ジュスティアが用意しているシェルターの特殊性に理由があった。
ジュスティアの地下深くに作られたシェルターは、ジュスティア中にある入り口からの利用が可能になっている。
だがそれは複数の入り口があるのではなく、最終的には同じ道に合流してシェルターに入ることになっていた。
これは、シェルターの入り口を守るために人員が確保できない前提で設計されているからだ。
ジョルジュが知っているのはそこまで。
かつて一度も使われることのなかったシェルターがどのような構造をしているのか、避難民の最終的な脱出手段は何なのかは、まるで分からない。
進むにつれて徐々に光が減り、薄暗くなっていく。
棺桶を使用する人間にとってはその暗さは大した問題ではないが、暗視ゴーグルを欺く罠が仕掛けられている可能性があるため、常に警戒しながらの移動となった。
〔欒゚[::|::]゚〕『……なん』
先頭を歩く男が声を上げた瞬間、銃声が前方から鳴り響いた。
即座にサウザンド・マイルの面々が展開し、応戦する。
銃声が反響し、ジョルジュは咄嗟に両耳を塞いだ。
遮蔽物が一切ないこの通路での撃ち合いは単純な物量ではなく、工夫こそが勝利への鍵となる。
訓練された部隊は盾を構え、矢じりの様な隊列を組む。
少しでも被弾する面積を少なくすると隊列のまま、歩みは緩めない。
だが、盾を構えている者達が続々と倒れていく光景は、あまりにも異様だった。
盾によって急所を守っているにも関わらず、まるでそれが意味のない行為であるかのように。
〔欒゚[::|::]゚〕『う、後ろからだ!!』
その答えを誰かが口に出す。
そしてそれが合図となり、周囲が真昼のように明るくなった。
悲鳴のような声が聞こえたと思った時には、すでに敵の術中にあった。
前後からの挟み撃ち。
〔欒゚[::|::]゚〕『挟撃だろうが敵は一人ずつだ!!
何を手間取っている!!』
その言葉を聞いて、ジョルジュは背筋に冷たい物が走った。
単騎でここまでの戦闘が可能なのは、間違いなく、円卓十二騎士。
狙撃を得意とするのはただ一人。
583
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:14:53 ID:EB0RZRkQ0
_
(;゚∀゚)「モナーのじじいか!!」
モナー・ドレイク。
レジェンドセブンであり、現在ジュスティアで生き残っている狙撃手の中で最高の腕を持つ存在だ。
カラマロス・ロングディスタンスにその座を奪われていた時期もあったが、モナーこそが最高の狙撃手だという人間はかなりの数がいる。
その理由は、彼がこれまでに“動的な物”に対する狙撃を得意としてきており、長距離よりも中距離の狙撃を得意としている点だ。
つまるところは実戦性の高さこそが、彼の名を円卓十二騎士に連ねさせている要因なのだ。
“ウミネコ”の渾名を持ち、船上からの狙撃を容易に行える化け物じみた動体視力の持ち主。
( ◎|[::])
単独での狙撃任務を支援するBクラスの棺桶、“ヤマネコ”の使用によってその実戦力の高さは伝説的な物になった。
頑強な装甲、そしてそれを展開することで自身を守る盾と狙撃時の台座を作ることができる。
複数の派生機が開発されたコンセプト・シリーズだが、彼が使用するのはその最初期の機体となる。
大口径のボルトアクションライフルは連射性が低いが、彼の持つ技術と腰に下がった四丁のサブマシンガンがそれを補う。
ジュスティア軍と互角に戦えるだけの高い練度を持つはずのサウザンド・マイルだが、正確無比に飛んでくる一発必殺の銃弾からは逃げられない。
意識をモナーに向けると、今度は正面から攻撃をしてくる別の存在が命を狙ってくる。
巨大な扉を背にして立つのは、カウボーイハットの様なヘルメットを被る女が一人。
__
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「さぁ、どうした!!」
ジュスティア軍の歴史を紐解いても、カウ・ガルバルディ以上に孤軍奮闘に適した人間はいないだろう。
円卓十二騎士、そしてレジェンドセブンに名を連ねるに至った逸話はあまりにも有名だ。
周囲を荒野に囲まれた小さな町で、セフトート出身の1個大隊に匹敵する人数の強盗団を相手に戦い抜いたのだ。
陸軍出身の彼女が休暇で立ち寄っていたその町で起きたその事件は、後に“最悪の奇跡”と呼ばれることになる。
彼女の使用する棺桶は、今も昔も変わらない。
初期の棺桶によく見られる、単身での戦闘行動を補助することに特化した汎用型のコンセプト・シリーズ。
“ミッドナイト・カウボーイ”。
防弾、携行できる弾薬の多さ、そして各身体能力の増強が目的のAクラスの棺桶だ。
つまるところ、彼女が円卓十二騎士に選ばれたのは完全な実力によるもの。
尚且つレジェンドセブンに選出されたのは、彼女の持つ応用力と判断力の高さだ。
自分の周囲に大量の重火器を並べ、そして分厚い透明の特殊防壁の後ろでライフルを撃っている。
その防壁は分厚く、対強化外骨格用の弾丸でも貫通できていない。
ひび割れも見られないことから、硝子ではないことは明らかである。
その素材の特徴に、ジョルジュは聞き覚えがあった。
棺桶のカメラ越しには視認が出来ない特殊素材で作られた不可視の壁。
極めて貴重な素材を使うため、ジュスティア内では量産を見送っていたはずのもの。
射線を確保できる穴は彼女だけが知るため、一見して無防備な姿だが、その実は安全な場所から確実な射撃が可能な状況にあった。
穴の位置を把握するためには棺桶を脱がなければならない。
こちらが指示をして味方が混乱する可能性を考え、ジョルジュは苦渋の決断を下した。
584
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 21:15:13 ID:EB0RZRkQ0
_
(;゚∀゚)「あぁ、糞ッ!!
兎に角攻めろ!!」
ジョルジュの判断は的確だった。
不可視の壁があったとしても、守りに徹すれば負けることになる。
攻め込み、ガルバルディのライフルの射線上にある隙間から入り込むしかない。
相手が悪いとはいえ、近接戦闘に持ち込めれば勝算は十二分にある。
__
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「どうした、ジョルジュ!!
隠れているのがお前の正義か!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『同志、下がって!!』
コルトM4ライフルから放たれる弾でさえも、ジョルジュを守る勇猛な仲間を容赦なく狙い撃ちにしていく。
絶妙な傾斜が盾では補いきれない隙間を生み出し、そこを集中的に攻撃してきている。
〔欒゚[::|::]゚〕『白兵戦用意!!』
その号令と共に、10機のジョン・ドゥが一斉に加速体勢に入った。
爆発的な加速力を得たジョン・ドゥ達は四方に散り、壁を走り、深く沈むような体勢で駆けた。
高周波ナイフを使えば特殊防壁を切り裂くことができる。
射線の癖からどこに隙間があるのかを察知し、散り散りになったことでガルバルディの攻撃を掻い潜る隙間を作り出したのである。
時間にして実に1秒未満の攻防。
__
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「三下はすっこんでな!!」
次の瞬間、足元から分厚い何かが一瞬でせり上がり、接近していたジョン・ドゥが見えない壁に激突し、転倒した。
まるで空中で停止したかのようにその壁に突き刺さった高周波ナイフが、極圧の特殊防壁の出現を物語っている。
__
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「ここから先は行かせないよ、何があってもね!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『通るんだよ!! 俺たちの歩みは止まらねぇ!!』
ナイフで切り裂けない厚みの防壁であれば、この先に進むことはできない。
長さが足りないのであれば、後は勢いで通るしかない。
壁に突き刺さったナイフを掴み、体重を乗せて一気に下まで切れ目を入れる。
その切れ目に新たなナイフが突き立てられ、奥まで押し込まれる。
強引に切れ目を拡張させ、砕く算段なのだ。
__
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「……」
〔欒゚[::|::]゚〕『うるぁああああ!!』
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