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454
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:43:15 ID:cQao1NtM0
それが出来れば苦労はしないが、選べる手段はその全てが例外なく玉砕覚悟の力技しかない。
これまでに経験してきたほとんどの作戦は、緻密に計算し、準備した上で答え合わせをするようにして遂行されてきた。
イルトリアとジュスティアの諜報員たる者、賭けに出るような真似は最終手段でなければならない。
有益な情報がないまま、時間が差し迫っている今は、下調べなどする時間がない。
とうに覚悟を決めている二人だったが、まだ、完全に諦めているわけではなかった。
自爆は確かに有効かもしれない。
だが仮にそれが有効でなかった場合、このハート・ロッカーを止める人間がいなくなる。
既に部下は退避させているため、ここで戦えるのは二人だけ。
他に何か手がないか、それを考えるのが賢明だ。
ハハ ロ -ロ)ハ「こういう場合、機関部はどこにあると思ウ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「定石で考えれば、一番装甲の厚い部分じゃな。
じゃが、こいつの一番装甲の分厚い脚部は左右に展開できる上に、さっき見てきたからの。
と、なると胸部か腰の部分じゃな。
……胸部じゃ」
ハハ ロ -ロ)ハ「理由ハ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ジョーンズは変態じゃが優秀じゃ。
やつなら、すぐ傍にニューソクがあった方が都合がいいじゃろう。
すぐにメンテナンスが出来るとなると、奴がいる操縦室の近く。
外見的に、このハート・ロッカーで脚部に次いで堅牢なのは胸部じゃ。
そして、胸部には――」
ハハ ロ -ロ)ハ「あぁ、そうカ。
あの死体があったナ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「死体に起動コードを入力させていた。
奴らの要石が壊れれば、ハート・ロッカーは動かなくなる。
こいつは巨大な棺桶じゃ、ならば使用者が死ねば機能が停止するのは道理。
となれば、ますます壊したくないじゃろう」
ニューソクを破壊せずとも、起動コードを入力する際に使った物を破壊すれば、ハート・ロッカーを無力化できる。
手段はまだ残されていた。
ハハ ロ -ロ)ハ「操縦室を襲えば、一石三鳥ぐらい狙えそうダ。
幸先がいいナ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「まぁ、爆薬の一つでも投げ込んでやれば景気づけになるじゃろ」
ハハ ロ -ロ)ハ「で、爆薬はどこにあるんダ?」
455
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:43:35 ID:cQao1NtM0
肝心な部分について、ハローから質問があった。
それを聞いた途端、ギンは目を丸くして驚きを露わにする。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「は? お主持っとらんのか」
ハハ ロ -ロ)ハ「そんな危ないもの、持っているわけないだロ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……はぁ、自力で殺して回るしかないかの」
正直なところ、現地である程度の物を手に入れられると思っていたが、これまで殺してきた兵士が持っていたのは精々手榴弾。
とてもではないが、装甲を破壊したり一度に大勢を殺せるような高性能爆薬ではなかった。
持ってきていた爆薬は基地のニューソクに仕掛けてしまい、当然、予備はない。
ハローならあるいは持っているのではないかと思ったのだが、彼女もどこかに仕掛けてきたようだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「先頭は私が行こウ。
どうせほとんどが生身の人間なら、私の棺桶を使った方が合理的ダ」
爆薬で解決できないならば、手間暇をかけて殺し尽くし、破壊する。
ニューソクを破壊しなくて済むのであれば、彼女たちが生還する道が開ける。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「なら、せめて先に何があるかぐらいは教えてやろうかの。
……入り口は、どうやらあそこのようじゃの」
ギンが指さしたのは砲塔の横、背中に位置する場所にある小さな扉だった。
よく見れば凹凸がそこに向かって続いており、一種の梯子の役割を果たしているのだと分かる。
把手に相当する物が見当たらないため、どこかに開錠するための仕掛けがあるのだろう。
ハハ ロ -ロ)ハ「まぁ、あれしかないナ。
急ぐゾ」
その時、ハローが仕掛けた罠の一つが作動し、ハート・ロッカーの動きが止まった。
まるで歯車に挟まった砂粒。
押し潰そうとする力に対し、小さいながらも懸命な抵抗を見せる。
棺桶の装甲の堅牢さが幸いし、無限軌道を動かす装置に負荷をかけているのだ。
その隙に二人は足の力だけで凹凸を駆け上がり、引手のない扉に手をかける。
すると、手をかけたところ場所の内側から、青白いテンキーが魔法の様に浮かび上がった。
触った個所にパスワードを入力させるということは分かったが、その仕組みはこれまでに見たことがない技術が使われていた。
ハハ ロ -ロ)ハ「……分かるカ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「分からん。 じゃが、力技でいけるかもしれんぞ」
ハハ ロ -ロ)ハ「指をかける場所がないゾ。
隙間にナイフを刺して折れても困るナ。
それ一本しかないんダ」
456
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:44:06 ID:cQao1NtM0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「まぁまぁ、ちとやらせてみろ」
一見して滑らかな表面だが、塗装や製造工程の中で生まれた微細な傷やサビは隠せない。
指を這わせ、具合のいい場所を探る。
二人が立つには狭く、不安定な場所であるために踏み込みも満足には出来ない。
ハハ ロ -ロ)ハ「ははは、それで開いたらビールを奢ってやるヨ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「抜かしたな。
なら、ジュスティアの酒場で店が潰れるまで飲んでやる」
ゆっくりと。
だが、確実に扉が開いてゆく。
彼女の膂力、握力、そして下半身を総動員してやれば出来ないものではなかった。
如何に自動扉とは言っても、安全装置が必ず存在する。
ハハ ロ -ロ)ハ「……馬鹿力ダ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ちょっとした工夫じゃよ。
ほれ、手伝え」
指が十分入るだけの隙間が生まれ、ハローがすぐに加勢する。
すると、急激な負荷に対する防御策としてか、扉が自動で開き切った。
閉まる前に二人は中に入り、すぐに周囲を警戒する。
扉が背後で閉じ、重厚な駆動音が反響する空間が目の前に広がる中、ギンの聴力は必要な音を聞き漏らさなかった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……ニューソクの駆動音じゃ。
それに、人間も大勢おる。
当たりじゃ」
ハハ ロ -ロ)ハ「手ごろな武器でも欲しい所だナ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「贅沢は言えんさ。
ん――」
ギンの背筋が一瞬で凍り付き、次の瞬間には声が出ていた。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「――何かに掴まれ!!」
直後、世界の全てが反転した。
457
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:44:27 ID:cQao1NtM0
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二基のニューソクが爆発した頃、セントラスにある大聖堂、ノーザンライツの地下は恐怖で満ち溢れていた。
地下に作られたシェルターは、長い年月をかけて建造された最後の砦だ。
そして、有事の際に侵入者を一掃するための装置として用意されたのが、“神の怒り”と名付けられた物だった。
シェルター周囲のみならず、ノーザンライツ内にある全ての床を同時に一瞬で崩落させ、最後には十字架とその周囲にいる信心深い人間だけが生き残る装置。
それが起動したことは振動と轟音が如実に物語るが、その装置の存在を知るのは高位の聖職者のみ。
避難に成功した一般人にとっては、何が起きたのかは全て想像するしかない。
もっとも、一般人と聖職者達ではシェルターの階層と構造が異なり、最下層にいる者達の盾として切り捨てられる存在なのだが。
全部で二層あるシェルターの内、一層目にいるミッシェル・エルレガーデンは娘と夫の三人で抱き合いながら、全てが終わるのを待っていた。
彼女たちのいるシェルターは空間の隅に非常食と水が積み上げられ、天井に等間隔で吊るされた電灯以外何もない広い空間だった。
「神よ……」
首から提げた十字架を握りしめて口から出るその名は、先ほどから何度も呟かれていた。
しかし一向に外からの知らせが入って来ないため、不安だけが募ってしまう。
夫のジェリコも、娘のソガンも、そしてミッシェルも一度は口にしたが、今は無言で待つだけだった。
長期休暇を利用してセントラスに来たために、このようなことに巻き込まれるなど、思いもしなかった。
ジェリコは素潜り漁をし、ミッシェルはそれを市場で売るというだけの、平凡な家庭。
これまで争いや暴力行為とは無縁の暮らしをしてきた一家にとって、これは間違いなく人生で最大の困難と言えるだろう。
頭上で重々しい音が響き、階段を下ってくる音が聞こえてきた。
一人分の優し気な跫音。
少なくとも、侵入者ではないだろう。
( ・曲・)『どうも、皆さん』
奇妙な仮面をつけた男が、爽やかな挨拶と共に現れた。
( ・曲・)『侵入者は全員撃退しました。
ご安心ください』
458
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:44:57 ID:cQao1NtM0
「おおっ、神よ感謝します……!!」
先ほど神の名を口にした男が十字を切り、両手を組んで膝を突く。
神への祈り。
誰ともなく、その動きに入ろうとした時、男が手で制して言った。
( ・曲・)『あぁ、いや、違いますよ?
撃退したのは私であって、神ではないです』
「えっ、あぁ、はぁ……」
( ・曲・)『でね、私は皆さんに質問をしに来たんです』
「質問?」
( ・曲・)『ここにいる皆さんは、きっと自分も含めてご家族を愛されていると思うのです。
その愛が持つ強さ、それはどれほどのものでしょうか?』
「は?」
( ・曲・)『愛は勝つ。
愛は強い。
愛があれば他には何もいらない。
ほら、世の中には愛について語る言葉がごまんとある。
ですが私はそれがイマイチ理解できないんですよ。
愛と金を天秤にかける言葉があるなら、金に実体があるように愛にも実像があるはずだ。
だけど、愛には実像がない。
愛していると口にしても不貞を働く者。
愛の尊さを口にしながらも我が子を傷つけ、殺める親。
愛と好意の違いは?
恋と愛の違いは?
愛が究極の感情なのであれば、何故破局するのか?
ここにいる皆さんは、少なくとも自分自身の命を守る為にここにいる。
ならば、自己愛がある。
その自己愛がどの程度の物なのか、ここで実験させてもらいます』
「な、何を言って――」
男は懐から円筒状の物を取り出し、そのピンを引き抜いた。
459
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:45:19 ID:cQao1NtM0
( ・曲・)『これはちょっと変わったガスでしてね。
濃度は薄めてありますが、その場の酸素をすぐに失わせる性質があります。
扉の開閉と換気システムはダウンさせてあるので、そうですね、この広さなら……
10分もあれば、酸素濃度は6%以下になるでしょうね。
そうすれば、一度呼吸しただけで意識を失い、絶命します。
ですが、私の手元に酸素マスクが3つだけあります。
この場にいる皆さんの中で、3人だけ助けてあげます。
どうか皆さんの持つ愛という感情で、答えを出してください』
そう言って、男は筒を投げ捨てた。
すぐに不可視の何かが噴出したのが、音で分かった。
即座にシェルター内は阿鼻叫喚の渦と化した。
「そんなこと、させない!!」
声を上げたのは、ミルスペック・オスビエだ。
建設業を営む彼の体は良質な筋肉で覆われており、ひとたび暴力を行使すればただでは済まない。
「そんな悪魔の契約、受け入れられるわけがない!!」
( ・曲・)『ならばどうします? 神に祈ります?』
「お前を倒して、ここを出ていく!!」
( ・曲・)『あぁ、それは白けるので止めてください。
知っていますか? 酸素が足りなければ、人は――』
「みんな、やるぞ!!」
その言葉に賛同するように、男たちを中心として皆が一斉に立ち上がった。
脅しに屈するのではなく、脅しに立ち向かう。
ジェリコも拳を握って立ち上がり、今まさに駆けだそうとしていた。
理不尽な困難に立ち向かうその姿は、この絶望的な状況下で輝いて見えた。
( ・曲・)『……無駄だって言えばいいですかね?』
その声を聞いた瞬間、ジェリコは立ち止まり、ゆっくりと腰を下ろした。
瞬時に何かを察したのだろうが、それが何なのかは、ミッシェルには分からなかった。
「うおおおおお!!」
雄たけびとともに走り出し、一気に襲い掛かる。
四方八方から攻められれば、武装していようとも生身の人間である以上は勝てるはずがない。
次の瞬間には男が倒され、皆でここから逃げ出す未来を誰もが想像した。
だが。
素手の拳が人間の胸に深々と埋まったり、蹴られた人間が宙を舞い、壁に叩きつけられたりする姿は現実の光景として受け入れられなかった。
460
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:45:57 ID:cQao1NtM0
( ・曲・)『そうやって暴れると、酸素が余計に薄くなりますよ?
ほら、今ならまだ助かる命がありますよ』
男の拳足によって倒された者達が痙攣し、口から白い泡を吹いているのを見ても戦意を保てる者はいなかった。
分厚い胸筋さえ冗談の様に陥没させられたミルスペックは、一目で絶命しているのが分かった。
「ひいっ!!」
( ・曲・)『選べないんなら、私が選んでもいいですか?
では、まずは子供から助けましょう。
この中で一番愛されている子供は?』
怯えながらも、子供たちが皆手を挙げた。
男は溜息を吐いた。
( ・曲・)『一番愛されていると思う子は、私のところに来てください』
最初は自制が効いていたのかもしれないが、親に背を押され、一人が走り出すと全員が一斉に走り出した。
我先にと走り、先を走る子供の服を掴んで引き倒し、男の傍に群がって行く。
あまりにも醜く、あまりにも凄惨な光景だった。
助け合い、慈しみの心の欠片も見られない。
男が殺すのは人の命だけではなく、これまでに築き上げてきた尊厳や信念といったものなのだと、ミッシェルは気づいた。
恐らく最もおぞましい殺人。
悪魔的発想を実行に移す精神性は、最早、男自身が悪魔であると言っても過言ではない。
ソガンを抱きしめたまま、成り行きを見守る。
( ・曲・)『一人だけです。
それ以外はいりません。
話し合うでもいいし、殺し合うでもいいので決めてください。
さて、後二人分ですが……』
子供たちは躊躇ったが、すぐに話し合いを始めた。
だがそれは長く続かなかった。
一人が誰かの肩を押し、それがきっかけとなって殴り合いが始まったのだ。
普段は仲の良かった者同士が、生き残りをかけて暴力に手を染める。
地獄の様な光景だった。
それを満足そうに眺めていた男は、芝居がかった口調で優雅に言った。
( ・曲・)『一つは自分の最愛の人を殺した人に渡しましょう。
ちなみに、残った時間は5分程度ですのであしからず。
あぁ、その間に私は楽しんでいますので』
男は子供たちのところに向かい、地面に倒れて泣いていた少女の傍に屈みこんだ。
歳はまだ一桁ほどだろう、非常に幼い顔立ちをしている。
( ・曲・)『君の名前は?』
「ひっ……!!」
461
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:46:23 ID:cQao1NtM0
( ・曲・)『大丈夫、悪いようにはしないよ。
君の名前を教えてほしいんだ』
「し、シンディ……」
( ・曲・)『そうか、シンディだね。
君は親に愛されていると思ってここに来たんだろう?
こうして君が倒れていても君の親はここに来ない。
それでも愛されていると思うかい?』
「ふぇ……」
( ・曲・)『君の親の愛を、試してみたいんだ。
協力してくれるよね』
答えが出る前に、男は行動していた。
無理矢理シンディの衣服を全て剥ぎ取り、髪を掴んで持ち上げたのだ。
( ・曲・)『私は今からこの娘を犯します。
だがもし、シンディの親がそれを見逃すというのなら、私はこのシンディにマスクを渡しましょう。
しかし他の皆さんにもチャンスを上げます。
我が子を私に差し出すのなら、マスクをその子に譲りましょう。
最後に犯された子だけがマスクを得られる、思いやりのリレーです。
さぁ、急がないと皆死にますよ』
シンディをその場に叩きつけるようにして降ろし、男はチャックを降ろして股間から陰茎を解放した。
その大きさは、子供の腕ぐらいの太さと長さがあった。
常人離れした膂力もさることながら、その陰茎の醜悪さはこれが悪夢であることを心から願う要因の一つとなった。
再びシンディを持ち上げ、小さな秘所にあてがう。
どう見てもそれを受け入れる状態にまで体が成熟していない。
それどころか、規格があまりにもかけ離れすぎており、そのまま殺してしまうのではないかと思うほどだ。
一方、シンディの両親は一向に動く気配を見せない。
我が子が今まさに犯されようとしているのに、確実に生殖機能に後遺症を与えかねない状況なのに。
なのに、動かないのだ。
否、動けないのだ。
動けば助からないことが確定するが、動かなければ確率が生まれる。
( ・曲・)『そー……れっ!!』
肉が避ける音と、少女の悲鳴。
未熟な体に突き刺さった陰茎には大量の血が付着し、さながら経血のようだ。
悲惨の一言に尽きるその光景に、流石に母親が絶叫した。
「止めてええぇぇ!!」
( ・曲・)『あ、分かりました』
462
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:47:01 ID:cQao1NtM0
驚くほどあっさりと男はシンディを開放した。
股関節が外れたからなのか、それとも避けた個所の問題なのかは不明だが、シンディはその場から動かなかった。
まるで壊れた人形の様に小刻みに痙攣し、鼻をすする声がしている。
( ・曲・)『残念、無駄に苦痛を受けただけですね』
直後、男がシンディの腹を蹴った。
衝撃で彼女の体が宙を舞い、母親にぶつかる。
それでも勢いは殺しきれず、母親ともども壁に叩きつけられた。
二人とも、微動だにしなくなっていた。
( ・曲・)『チャンスは今、潰えました。
さぁ、他には?』
我が子を思う気持ちを利用し、究極の天秤にかける。
名乗りを上げてこないのを、男は黙って見ていた。
周りではまだ子供たちが殴り合い、髪を掴み合い、首を絞めている。
大人たちは隅の方で別れの言葉を告げ、どちらが殺されるべきなのかを話し合っている。
( ・曲・)『残り1分。
どっちもダメですね、これじゃあ皆仲良く死ぬしかないじゃないですか。
結局――』
「この子を、助けてっ……!!」
最後までその腕に抱いたままにしようとしていた我が子を、母親の一人が差し出す。
( ・曲・)『じゃあ、股を開かせてください』
「それは嫌っ……!!
でも、お願い……助けて!!」
( ・曲・)『じゃあ、神に祈ってみてください。
今なら世界で最初に願い事を聞き届けてくれるはずですよ。
……あぁ、ですが、時間切れですね』
ふと。
まるで、猛烈な眠気が襲ってきたような感覚があり、そこでミッシェルの意識は途絶えた。
光も音も匂いも、そして温もりさえも。
もう、何も――
463
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:47:24 ID:cQao1NtM0
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マドラス・モララーは死体の山を見渡して、溜息を吐いた。
結局、この中にも愛は見いだせなかった。
我が子を守る為に自ら命を差し出す者もいなければ、全てを賭してモララーを止めようとする者もいなかった。
ましてや、神の奇跡も起きなかった。
結局、愛は言葉でしかないのだ。
宗教は愛ではなく、ただの心の安寧に過ぎない。
神の愛という一切合切存在しない物の呆気なさは、今、こうして証明された。
神の足元と称されるこの場所でさえ、神は現れなかった。
宗教家として人々に神の愛を布教してきた過去は、まるで意味がなかったのだ。
愛を信じれば真実の愛を手に入れることができる。
愛を獲得すると同時に宗教間の戦争を無くす最善の方法としてモララーが考えたのが、ティンバーランドへの参加だった。
十字教の掲げる愛をテストするというその考えは、同じ組織内の誰にも口外していないことだった。
結局のところモララーは自分の欲を満たすことだけが目的であり、世界平和などの高貴な目的は興味がない。
率先して十字教関係の根回しに手を貸し、そして最終局面でこの土地の防衛を任された時から、彼はこの為に動いていた。
長い時間を我慢し続け、そして、得た答えがこれだ。
( ・曲・)『……神はいない、か』
万が一の可能性に賭けてみたが、神は姿を見せることは無く、奇跡は起きなかった。
極限の状況下で互いに見せた思いやりや愛情も、意味はなかった。
( ・曲・)『はぁ……』
満たされない。
ここまでしても、モララーの心は微塵も満たされなかった。
彼が昔に抱いた疑問は、今、核心へと変わった。
神は存在しないのだ。
464
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:47:57 ID:cQao1NtM0
そして、宗教は人を救わない。
十字教を信仰し、その為に他の宗教の人間を殺していた歴史が帰着するのがこの惨憺たる光景である。
この結末は想定していたが、いざこうして目の当たりにすると強い虚無感が襲ってくる。
下の階にいる聖職者は単純にガスで殺し、この世界から十字教が姿を消せばモララーの目的の一部が達成される。
宗教がなくなれば、人々は自らに救いを求めることになるだろう。
そうすれば、きっと、いつか。
モララーの求めている愛が結実するはずなのだ。
( ・曲・)『さて、と――』
――首筋に衝撃があった。
最初は針が刺さったのかと思ったが、どうやらそれは熱を持っている様だった。
否、熱などない。
痛みが熱さに感じ取れただけ。
(;・曲・)『いっ?!』
振り返ると、そこには知らない男がいた。
誰だかは分からない。
「……ふっ」
大きく息を吸った男は、一瞬でその場に崩れ落ちた。
(;・曲・)『こ、い……つ!!』
息を止めて、こちらが油断するのを待っていたのだ。
日常的に呼吸を止めることに長けている人間でなければ、この状況下でその判断を下せるはずがない。
万が一、素人がその手段に出たとしても、パニックになって1分程度延命するだけだ。
呼吸を止め、極限状態に慣れている人間など、軍人でもいない。
ましてやここはセントラス。
戦闘に長けた人間が避難しているなど、あり得ない。
あり得ないと判断したから、モララーはここまで余裕をもって行動していたのだ。
“マックスペイン”を服用していても、筋肉を貫いた刃の痛みとその傷は防げない。
首に刺さった異物を抜くと、信じられない勢いで血が流れ始めた。
それは、十字教徒が首から提げている十字架だった。
先端部が歪に変形し、鋭利さを獲得している。
モララーが余裕を見せている間に影で十字架を加工し、武器にしたのだ。
信仰の対象である十字架に手を加える決断力。
信仰を捨てるのに等しい愚考。
その愚考を、土壇場で実行する人間がこの場にいたのだ。
神を捨てられる人間が。
(;・曲・)『あが……!! くっ……おおお!!』
465
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:48:25 ID:cQao1NtM0
引き抜いたせいで傷口が広がったため、止血が出来ない。
激痛が思考を乱す。
最後の場面でこのような失態を晒すことになろうとは、考えもしていなかった。
(;・曲・)『まだ……愛を……愛が……!!』
体温が失われ、四肢の先端から感覚が消失していく。
力が抜け、地面に膝を突く。
まるで自分の影を染め上げるように、赤黒い血が広がっていた。
(;・曲・)『どうして……こんな』
無意識の内に両手を合わせる。
指と指を絡め、正に祈りのための形となる。
とうの昔に捨てたはずの信仰。
いるはずのない神への懇願。
ここでは終われない。
ここで終わっては、これまで自分が為してきた全てが無意味になる。
その瞬間、彼の中で何かが噛み合わさる感覚があった。
これまで無関係と思われた全てが合わさり、動き、答えとなって導き出される。
( ・曲・)『……そうか』
苦痛が消えた。
寒気もなくなった。
あるのは、穏やかな感情。
( ・曲・)『これが……神の……!!』
白い光に抱かれるような感覚を最後に、モララーは息絶えた。
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ヽ彡ィ/ `ァ ̄「
{,ハハ〉
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
シナー・クラークスは、複数の銃弾を浴びた女の前で膝を突いていた。
ティングル・ポーツマス・ポールスミスという名の女は浅い呼吸を続け、何事かを口にしたかと思えば、そのまま動かなくなった。
首筋に指を添えて確認すると、脈は止まっていた。
466
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:48:46 ID:cQao1NtM0
(;`ハ´)「……」
<=ΘwΘ=>『同志シナー、お怪我は?』
直前まで心から楽しい戦いをしていたシナーにとって、部下の介入は決して望んでいたものではなかった。
ましてや、このような結末など、あってはならないものだ。
だがそれを一度でも口にしてしまえば、部下たちに示しがつかない。
ゆっくりと立ち上がり、シナーは答えた。
(;`ハ´)「……問題ないアル」
<=ΘwΘ=>『チップは?』
倒れたままのティングルを一瞥し、シナーは首を振る。
せめてもの手向けとして、一つの嘘を吐くことにした。
( `ハ´)「……もう壊されていたアル。
撤退するアル。
ラヴニカは後でハート・ロッカーに砲撃してもらえばいいアル」
<=ΘwΘ=>『は、はぁ……』
( `ハ´)「それよりも、次の戦場に行くアルよ」
ラヴニカ攻略が終了した場合、次に行く場所が決まっていた。
( `ハ´)「イルトリアはここなんか比べ物にならないアル。
武器と弾薬を温存して、さっさと行かないと明日到着することになるアル」
部下を急かし、シナーはその場を立ち去る。
後は街の中で戦い合い、疲弊すればいい。
こちらの撤退を知って喜び、勝鬨を上げればいい。
その頭上から襲ってくる砲弾が祝砲代わりとなるだけだ。
そうなれば、ティングルの死体も炎が焼き尽くしてくれるだろう――
467
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:49:13 ID:cQao1NtM0
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( ⌒ヽ、
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F√i-ュ| ̄|明-ュ| ̄L―┐-ュFl-ィニニユ 「 ̄|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ニ´t| /F√i-ュ| ̄|
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――武術において、一撃必殺とは夢の話だ。
一撃で相手を屠り、一撃で勝敗を決める技。
何度も議論が繰り返され、終わることのない探究が続く夢。
当てる箇所、当てる速度、当てる相手など、条件によってその探究結果は悉く否定され続けてきた。
だが例外的に、一つだけその夢を実現させる手段が存在する。
たった一撃で勝敗を決するという点において、これ以上の技は存在しない。
幾度も潜入任務をこなし、死地を越える為に服用した仮死薬によって獲得した特異体質。
(*‘ω‘ *)「……っぷはー!!
あー、死ぬかと思ったっぽ」
ティングルは意図的に心臓の動きを止め、仮死状態を作り出すことが出来る技を身に着けていた。
この技は“相手のあらゆる攻撃を一撃必殺”にする。
その為、相手がこちらの死を疑わないような状況下であれば比類なき効力を発揮するのだ。
シナーは根っからの武人だった。
それ故に、血糊の入った防弾ベストに着弾したことでティングルが部下に射殺されたと思い込んでくれた。
相手が彼でなければ、念のためにとティングルの頭に銃弾を撃ち込んでいたことだろう。
仰向けになり、笑顔で独り言ちる。
(*‘ω‘ *)「はい、武の勝利ってね」
シナーという男は敵にするには惜しい男だ。
彼の中には組織の願いとは違う考えがある。
ラヴニカを火の海にしてでも手に入れようとしたチップを、こうもあっさりと諦めたのがその証拠だ。
無論、ティングルが見せたチップは偽物だ。
しかし、それを見抜く時間はなかったし、その手段もない。
つまり、彼が独断でこの場から撤退したのは紛れもない事実なのだ。
その自我が組織の強みを瓦解させるのは言うまでもない。
468
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:49:36 ID:cQao1NtM0
(*‘ω‘ *)「しかし……」
ラヴニカの上空に立ち上る黒煙。
どうにか任務の一つは達成できたが、無傷とはいかなかった事実がそこにあった。
だがまだ、任務が残されている。
与えられたのは3つ。
一つ目は敵組織に潜入し、妨害工作を行う。
これは潜水艦に積まれていたいくつかの備品に細工を施したことにより、後に効果を発揮することになるだろう。
ニューソクに繋ぐ事で他の施設に電力を供給するケーブルには特に陰湿な細工をしてあり、その役割を果たす時が来た場合、ケーブルをつないだ両者は蒸発することになる。
給電が必要になるということは、相手にとって都合の悪い展開になっているということであり、そこを狙った工作だった。
二つは組織の狙いをギリギリまで見極め、直前で破綻させること。
世界中に宣戦布告するという目的が分かり、ラヴニカの鎮圧と誘導チップの奪取を任された時、妙案が浮かんだ。
以前、ラヴニカに潜入したワカッテマス・ロンウルフが用意していたレジスタンスだ。
殺したと思わせ、地下深くに潜伏させていたギルドマスター達に情報を流し、ラヴニカを奪われることを防がせた。
そして三つ目。
敵組織の弱体化である。
強大な組織であればあるほど、要所にひずみが生じる。
それを狙い、組織に穴を開ける。
迷いのあるシナーを離反させれば、必ず他の作戦に打撃を与えることになる。
彼が目指す先にあるイルトリア。
皮肉なことに、この世界の天秤を保つためには彼らの存在が必要になる。
必要であれば敵対していた街を守る為に命を賭さなければならない。
(*‘ω‘ *)「またあそこに行くことになるとは、不思議なものっぽね」
かつてイルトリアに潜入して唯一生還した人間として、再びあの街に足を踏み入れることになろうとは思ってもみなかった。
しかもそれが、イルトリアを助けるためというのだから、皮肉にもほどがある。
ゆっくりと立ち上がり、服についた汚れを払い落とす。
(*‘ω‘ *)「もう一仕事、頑張るっぽ!!」
街から撤退していくシナーの部下と共に、彼女はラヴニカを後にしたのであった。
469
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:50:01 ID:cQao1NtM0
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八 _,. -=≦___ ⌒ヽ
rチ/=- ミ\ー─┴─‐'` ┐
j, ' `Y ` 、 ,イヽ
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物理的に周囲の世界が反転したハート・ロッカー内で唯一、二人の女だけが即応出来ていた。
味わった衝撃、ハート・ロッカーの巨体を転がす出鱈目な力の原因について思い当たる節があったからである。
ハローとギンは、双方ともに基地の無力化に一手を打っていた。
ストラットバームに潜入した際にハローはニューソクに、ギンはドックにあった電力関係の設備に高性能爆薬を仕掛けていた。
万が一、電力を復旧しようとした場合にそこが爆発するようにというささやかな細工だ。
それが効果を発揮すれば、ニューソクを原動力として動いているあの基地は吹き飛ぶ。
それが今なのだと分かれば、対応に迷う必要はなかった。
受け身が間に合い、二人は転倒と横転の衝撃を最小限に抑え込むことに成功していた。
横転したことにより、二人はパイプひしめく壁を地面として利用し、駆けることが出来た。
目指すのは、多くの声が聞こえてきた操縦室。
今が千載一遇のチャンスであることは言うまでもなく、二人がそのチャンスを逃すことは有り得なかった。
機体がゆっくりと起き上がり、姿勢が変わって行く。
床だったものが壁に。
進行方向だったものが床に。
横転した状態から、うつぶせの状態に切り替わっていく。
その中でも、二人は止まらなかった。
ハート・ロッカーが倒れたままでいれば、破壊せずに無力化できる。
砲撃に必要なのは角度だ。
その角度を確保できない姿勢であれば、驚異足り得ない。
|::━◎┥『何ダ、オ前?!』
反転していく機体内で天井に張り付いていた何かが、驚愕の声を上げる。
ハハ ロ -ロ)ハ「ッ……!!」
|::━◎┥『ダ……?!』
470
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:50:26 ID:cQao1NtM0
ギンの背中に隠れていたハローがナイフで首筋を一撫で。
装甲の継ぎ目に正確に入り込んだ刃が首と胴体を何の抵抗もなく分断し、一瞬で屠る。
死を運ぶ颶風と化した二人は重力を利用し、操縦室と思わしき部屋に直上から侵入した。
一撃で扉を蹴破ると、広い空間が足元に広がっていた。
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機体がうつぶせになったことにより、席に着いている人間達は皆、シートベルトによって辛うじて落下を免れている状態だ。
逃げだそうとすれば顔から落下し、負傷は免れられない。
最前列に座る人間だけは自由が効くが、いつ背後から人が降ってくるか分からない。
重力を強く意識すればするほど、人は抗えない力を前に憶病になってしまう。
ここから先、二人が言葉を交わす必要はなかった。
必要なのはこの状態のままで敵を殲滅すること。
一人残らず殺し、ハート・ロッカーが操縦されることのないようにするだけ。
全てはコンマ数秒で決断し、行動しなければならない刹那の世界だ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……っ!!」
ハローと違い、ギンは獣由来のバランス感覚と身体能力を有している。
故に、例え足場になる物が遥か下に見えていたとしても、その動きに怯えの色が滲み出ることは無い。
下から迫ってくる世界の中、ギンの視線は瞬時に標的を捕捉していた。
イーディン・S・ジョーンズ。
彼を殺せば、間違いなくティンバーランドに大打撃を与えられる。
その為には、他の邪魔になる存在を無力化する。
彼女の四肢は生来の身体能力と鍛錬によって凶器へと錬磨され、生身の人間であれば難なく殺すことが出来る。
人間の上に着地し、後頭部を踏み潰す。
471
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:50:49 ID:cQao1NtM0
衝撃を利用し、高々と跳躍。
突起物に富んだ操縦室を縦横無尽に飛び回るのは、そう難しくない。
掴み、蹴り、そうして上を目指す。
(,,゚,_ア゚)「侵入者だ!!」
ようやく声が出たのか、周囲に絶望的な緊張感が走る。
しかし当然、逃げようとすれば落下死が待っている。
恐怖に室内の空気が染まる中、意外なことにジョーンズが最も冷静に動いていた。
(;’e’)「ギルターボ!!」
[ Д`]『分かったよ、ファーザー!!』
天井を高速で伝って迫るのは、これまでに見てきた異形の棺桶と同型機。
この場所を守る護衛であることは間違いない。
[ Д`]『オオ!!』
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……」
故に、ギンは焦らなかった。
既にグランドイリュージョンはその能力を発動し、彼女の姿は機械の目には映っていない。
見当違いな場所に向かって突進し、そこにいた仲間を殴殺し始めた。
[ Д`]『死ね!!』
(;’e’)「ギルターボ、何をやっているんだ!!
私だ!! 私を!! 私を守れ!!」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「さよならだ、博士」
槍の刺突を彷彿とさせる抜き手が、ジョーンズの喉に突き刺さる。
鍛えていない人間の喉など、彼女の指にとってはパンの様に柔らかく脆い。
深々と突き刺さった指は反射的に喉笛を掴み、引きちぎっていた。
(;’e’)「げぁ……!!」
[ Д`]『ファーザー!! 分かったよ、こいつ!!』
分かったところでもう遅い。
既に最重要人物の殺害は今成った。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「殺れ!!」
ハハ ロ -ロ)ハ「死ネ!!」
472
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:51:27 ID:cQao1NtM0
[ Д`]『おぽっ!!』
ギンの幻影と戦っていた棺桶の首を一撃で切り落とし、ハローは逃げ出せずにいる人間の背中に着地した。
魚を捌くかの様に、自然な手つきで足元の人間の首をナイフで切り、大量に出血させる。
抵抗力を失ったその空間は、瞬く間に死人で溢れ返った。
从´_ゝ从「た、助けて!!」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「駄目じゃ、皆殺しじゃ」
素手で殺される者。
(,,゚,_ア゚)「む、息子がいるんだ!!」
ハハ ロ -ロ)ハ「そうカ」
ナイフで殺される者。
命乞いは意味をなさず、助けを求める悲痛な叫びは聞き届けられることは無い。
ハート・ロッカーが振り撒いた死の数に比べれば少ないが、この先の被害を考えれば実に道徳的な殺戮だった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……おい」
ハハ ロ -ロ)ハ「何ダ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「まだ動いているぞ、こいつ!!」
ゆっくりと。
だが、確かに空間が動いている。
ハハ ロ -ロ)ハ「操作する人間はいないはズ。
何故ダ……!!」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「とにかく、強制的に止めるぞ!!」
二人は死体をどかし、血に濡れた操作盤を見て回る。
何がどうなっているのか、流石に見ただけでは分からない。
その間にもハート・ロッカーは両腕を使い、体を持ち上げ始めている。
転倒から復帰までの時間が予想以上に速いこともそうだが、操縦者が不在となってもなお動き続けるこの棺桶が不気味で仕方がない。
自立行動できる兵器など――
ハハ ロ -ロ)ハ「……そうか、こいつは棺桶ダ。
棺桶持ちをどうにかしないと止まらなイ」
473
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:51:49 ID:cQao1NtM0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「あの死体がか?
死体が動かすなど……」
二人が施設に潜入した際、死体に手を加えた物をハート・ロッカーに挿入していた。
起動コードの入力のためだけに必要な存在だと思っていたが、改めて考えると、それだけではない。
有事の際の保険。
万が一操縦室が制圧されたり、操縦が出来なくなった場合に備え、操縦系統をもう一つ用意しておいたのだろう。
入力された指令を実行するという、極めて単純なものだとしても、今は十分に危険だ。
砲撃が再開されようものなら、ジュスティアの壊滅は必至。
そして次はイルトリアになるだろう。
ここで完全に沈黙させなければ、後顧の憂いとなる。
少なくとも、自動操縦の類がどこまで及ぶのかが分からない以上、砲塔だけでも破壊しなければならない。
ハローは逡巡し、答えを出した。
ハハ ロ -ロ)ハ「分かりやすい場所にあるとよかったが、この状況で探すのは無理ダ。
それより今は、どうにか電源を遮断するゾ。
お前の予想通り、ほラ」
視線の先にはジョーンズの死体。
そしてその後ろには厳重に封鎖された扉がある。
扉に描かれているのは黄色と黒の花の様なマークで、間違いなくそこにニューソクがあることを表しているものだ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……本当に自分の傍にあったのか」
ハハ ロ -ロ)ハ「姿勢が戻らないと作業も探索も出来ないのが問題ダ」
今の状態では扉に向かって登り、重力に逆らった状態での作業になる。
常人には装備がない限り不可能だ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「それならワシがやる。
その間、一つ頼んでもいいか?」
ハローからナイフを受け取り、ギンは言った。
ハハ ロ -ロ)ハ「何ダ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ジュスティアとイルトリア、両方に現状の報告をしておくのと、向こうの様子を聞いてくれ。
これが終わったら、ワシらがどっちに行くべきなのかを考えなければならんじゃろ」
少なくとも、ジュスティアが窮地に立たされているという可能性は高いだろう。
連続した砲撃によって街が受けた打撃もそうだが、陸と海の両方から攻め込まれるとあの街は弱い。
スリーピースの守りがあったとしても、内部に裏切り者が一人でもいれば、それが突破される可能性もある。
安全の保障するのと同時に、街から逃げ出すための機能をマヒさせてしまう壁が問題だ。
474
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:52:09 ID:cQao1NtM0
ハハ ロ -ロ)ハ「分かっタ」
援軍に行くとしたら、距離と状況の関係でジュスティアが優先される。
まだジュスティアがあれば、の話だが。
ふいに、ギンの耳に聞いたことのない音が聞こえた。
それは徐々に増幅し、まるでグラスから水が溢れ出る寸前の様な緊張感を覚えさせた。
音の正体に思い至った時、口から出たのは謝罪の言葉だった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「すまん、やられた……」
ハローはそれだけで察し、これまでに聞いたことのないような穏やかな声と表情で言った。
ハハ ロ -ロ)ハ「まぁ、いいサ。
一緒にやれてよかっ――」
――次の瞬間、二人の世界から色と音が消えた。
その日、三基目のニューソクが爆発した。
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475
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:52:40 ID:cQao1NtM0
イーディン・S・ジョーンズが死ぬ寸前、激痛と苦しみの中でさえ、その瞬間を見られないことを悔やんでいた。
世界が変わることよりも。
自分が死ぬことよりも。
何よりも、ニューソクの炎に抱かれる瞬間を感じることも見ることも出来ないのは、あまりにも無念でならなかった。
ハート・ロッカーには大した思い入れはないが、そこに使用することになったニューソクには思い入れがあった。
彼が復元を手掛け、彼が改造を施し、彼が愛情を注いで生み出した物だ。
恐らく、現代でニューソクを正確に復元できるのは彼だけだろう。
無論、その自負が彼にはあった。
その為、自分が手掛けたニューソクが奪われたり、失われたりすることだけは絶対に避けたかった。
棺桶以外に心惹かれたのはニューソクが唯一だった。
自らの手から離れるのならば、その時はニューソクが奪われるということ。
その時は、ニューソク諸共棺桶を破棄するよう密かに設計していた。
起爆の鍵は二つ。
一つは言わずもがな、ジョーンズの生体情報が失われること。
二つ目は、彼が用意した五人の警備兵の内、ギルターボを含めた半数が失われることだ。
この二つの条件が満たされた時、ニューソクは爆発する。
侵入者が何者であるかは分からないが、ハート・ロッカーの無力化を目論むのであればニューソクの無力化か、内部の完全制圧しかない。
果たして侵入者は、彼が用意した二つの鍵の条件を満たした。
(’e’)「……おや」
故に、今目の前に広がっている白い世界は、間違いなく彼の脳が生み出した幻影に違いないのだ。
音はない。
静かな、本当に静かな空間。
冷たさも暖かさもないその空間が、ジョーンズにとっては心地が良かった。
(’e’)「久しぶりだね」
「……」
目の前には、無言のまま微笑む一人の女性がいた。
(’e’)「今、思い出したよ。
君だったんだよ、私の人生を変えてくれたのは」
「……」
女性は何も答えない。
ただ、微笑みを向けているだけ。
(’e’)「ははっ、なぁに、ここには私しかいない」
「……」
476
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:53:03 ID:cQao1NtM0
ジョーンズの皮肉にも、女性は無反応だった。
それでも構わない。
彼にとって、この時間は人生の清算のようなものなのだ。
聞いてもらえるだけでいい。
いや、口にするだけでいいのだ。
(’e’)「……初めて君を知った時、正直、意味が分からなかったよ。
だからもっと知りたいと思って、大学に飛び級で入ったんだ。
資料の山を見て、ますます訳が分からなくなってね。
で、棺桶に触れるきっかけがあって、君の事を忘れて、今があるんだ。
君には感謝しているよ。
今の今まで忘れていたが、そう、君がきっかけだったんだ」
「……」
(’e’)「組織の中には君に執着する人たちがいたが、だからこそ思い出せなかったんだろうね。
私が諦めたパズルを、彼らは諦めずにずっと解こうとしているんだ。
私らしくもないが、羨ましかったんだろうな。
夢を追い続ける人間というのは、時には眩すぎて人の目を眩ませてしまうものなんだ。
そうやって、見ないようにしていたからこの瞬間まで思い出せなかった。
お恥ずかしい限りだ」
溜息を一つ吐く。
(’e’)「私達のボスは、果たしてどれだけ君の事を追い続けていたんだろうねぇ。
なぁ、これは私の推測なんだが――」
次第に、声が遠くなっていく。
自分の声も、認識も。
周りの白に取り込まれるように、遠ざかっていく。
楽しい時間がすぐに過ぎるように、心が淡い物で満たされていく。
胸の中にあった疑問を口にし続ける。
彼が抱く、世界の疑問。
それを、女性は無言で受け止めている。
最後に、ジョーンズは心の底から残念そうに言った。
(’e’)「――私も見たかったよ、最果てを。
ノ・ドゥノを」
ζ(゚ー゚*ζ
最後の瞬間まで、彼の目の前にいたデレシアは何も言わなかった。
だがそれでも、彼の心は満たされていた。
ジョーンズの独白が終わった時には、彼の世界も穏やかな終わりを迎えていた。
477
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:53:23 ID:cQao1NtM0
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第十三章 【 Ammo for Rebalance part10 -世界を変える銃弾 part10-】 了
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478
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:54:11 ID:cQao1NtM0
これで今回の投下は終了です。
ギリギリ1月に投下出来て安心しました。
感想、指摘、質問等あればお気軽に。
479
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 20:36:17 ID:qyDlQpw20
おつ
大物がどんどんあっけなく死んでいくなぁ
480
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:43:15 ID:cgh8SMTI0
乙
481
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 21:52:28 ID:w3cXrIx60
おつおつ
モララーとジョーンズがこんなにあっさり死ぬとは思わなかったなぁ
諜報組の功績は計り知れないな
482
:
名無しさん
:2023/02/01(水) 21:07:53 ID:QqOflteQ0
乙乙
両陣営とも退場者が増えてきたなぁ……仕方ないとは言え寂しいものだね
モララーを倒した人は何者だったんだろうか
後ティングルさん本当にすごいですね
デレシアさんもまた謎が増えたみたいだし、正体は一体……?
今回気になったのは
>>461
動けば助からないことが確定するが、動かなければ確率が生まれる
言い回しがくどくなるから削ったんだろうなって思ったんだけど、一応動かなければ助かる可能性って意味だよね
>>465
最後の場面で
ここはどっちなのかが分からなかったんだけど、実験の最後って意味なのか、それともモララーの最期なのかがちょっとよくわからなかったって感じですね
後者なら最期の方がいいかなって思います
483
:
名無しさん
:2023/02/01(水) 22:25:25 ID:igtm8VxA0
遅れ馳せながら最初から読み始めたら止まらん
484
:
名無しさん
:2023/02/02(木) 14:35:51 ID:IW..upfA0
乙乙 めっちゃ人が死ぬなあ ちんぽっぽが生きてるのは良かった
モララー殺したのは途中出てきた素潜り漁師してる夫では?
485
:
名無しさん
:2023/02/02(木) 18:23:58 ID:Ce9Hd5PM0
>>482
さん
いつもご指摘ありがとうございます……!!
>>461
は結構迷った部分ですが、仰る通りそういう意味でございます
>>465
は実験の最後という意味でもあるのですが、最期の瞬間でも通じるから厄介な場面でしたね……
モララーを殺したのは
>>484
さんの仰る通り、素潜り漁をしている夫です
486
:
名無しさん
:2023/02/02(木) 19:07:05 ID:URtBh4SI0
ちんぽっぽさん疑ってすみませんでした
とうとう核心に触れそうな言葉が出てきたけど現時点で推測可能なのだろうか
487
:
名無しさん
:2023/02/02(木) 19:30:07 ID:Ce9Hd5PM0
>>486
核心部分については最初から推測可能な状態でございますが、割とヒントがあちこちにあるのでぜひお楽しみください
488
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 12:59:53 ID:pnFIhOjA0
明日の夜VIPでお会いしましょう
489
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:17:44 ID:J1j5lG3E0
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その瞬間、誰もが空を見上げた。
異なる戦場。
異なる立場に関わらず、その光景は絶望的な物に映った。
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誰もがただ、見上げるしかできなかった。
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9月25日。
午後0時4分。
カーテンを閉じるように夏の昼空が灰色に染まり、世界に夜が訪れた。
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September 25th PM00:04
その現象は世界各地の空で観測されていた。
ある者は争いの中で。
ある者は日常の中で。
そして、ある者は死にゆく中で、見慣れた空が変容する様を目撃した。
初めは灰色、あるいは黒い柱が地上から空高くに立ち上っていく様子が確認された。
数秒の内にその柱は世界中で目視されることになったが、似たものを見た経験のある人間はいた。
“鐘の音街”こと、ティンカーベルで観測された巨大な爆発を記憶している人間だ。
あの時は海中で起きた爆発だったため、ここまで巨大なものになることはなかった。
故に、この現象は世界中にいるほとんどの人間にとっては初体験の物と言っても過言ではなかった。
経験済みの人間はティンカーベルで起きた爆発を見た人間ぐらいだが、その規模は桁違いだ。
この現象を世界で最初にカメラに収めた人間は、後にこう語っている。
490
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:19:18 ID:J1j5lG3E0
『あれは、世界の終りの様な光景でしたね。
最初はね、何か、ただの黒い煙だと思ったんですよ。
だけど次第に成長していくから、これは妙だと思ってね。
えぇ、はい。 だから写真を撮りました。
丁度手元にあったし、これを撮っておかないと後悔すると思ったからです。
正解でしたよ、撮影していて』
映された写真は見ようによっては、黒い大樹が生えてきたかのような光景。
刻一刻と形を変え続ける雲は大木に巻き付くツタの様に電流を纏い、光り輝いている。
ほとんどの目撃者が仰け反る程に見上げた辺りで、黒雲が空を覆い始めた。
すぐに衰えるかと思われたその現象は一切萎えることなく、世界中の空に広まった。
『柱の頂上、って言えばいいんですかね。
それがね、まるで見えない天井にぶつかったみたいに横に広がり始めたんです。
その時も写真に撮っていましたよ。
私はあまりオカルトを信じないのですが、あの時確信しました。
この世界にはどうしようもない天井があるんだな、って。
ははっ、もちろん比喩ですよ。
ほら、高山病ってあるじゃないですか。
あれも目に見えない天井を越えた人間にだけ現れますよね。
あの時の煙も、そうした類の天井に阻まれたんでしょうね。
物理的な、そうした壁です。
人間が空の彼方に飛び立てない壁が、そうさせたんでしょうかねぇ』
最も離れた地点から観測した人間――天体観測が趣味の男――でも、空の片隅に炭を垂らしたかのように世界が黒く染まっていくことが確認されている。
空はすぐに青さを失い、濃い灰色の雲によって日の光が遮断された。
神々しくもあり、禍々しくもあるそれは、数分の内に世界中に影響を及ぼし始めた。
太陽光発電は機能を停止し、気温が大幅に低下した。
その現象について、ホッパー・ブリエビオはこう述懐する。
『あれは、暴力的な冬だったよ。
まだ薪の用意も、当然、冬の支度もしていなかったから町中皆が凍えてな。
そうだなぁ……風が一番辛かったな。
突風みたいな、そう、木枯らしとでも言おうか。
生ぬるい風が吹いてきたかと思ったら、一気に冷たい風になってな。
嵐が来る前の空模様に一番近いな。
大きな違いは、太陽からの熱が全くなくなったことだよ。
日差しが完全に遮られているのに、空の高さは分かるってのが、不気味でなぁ……
……これはオフレコなんだが、正直、興奮していたよ。
嵐が来ると思うと、ほら、なぁ?』
491
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:20:38 ID:J1j5lG3E0
神を信じることのなかった人間も、この時ばかりは世界の終わりを予感した。
三基のニューソクの爆発が引き起こしたこの現象は、第三次世界大戦以降初となる人口の冬を作り出した。
だがそれは、冬というよりも夜。
分厚い雲が遮断した陽光は世界のほとんどを夜にしてしまった。
もともと夜だった地域からは星空が失われ、巨大な月も鳴りを潜めた。
暗がりの世界でも、非日常的な光景の前に大勢が冷静さを欠いた。
これが世界を巻き込んだ巨大な戦争の、第二局面の始まり。
即ち――
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――人類が経験する、二度目の核の冬の始まりだった。
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第十四章 【 Ammo for Rebalance part11 -世界を変える銃弾 part11-】
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492
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:21:51 ID:J1j5lG3E0
同日 PM00:07
空に起きた異常事態を前にしても、戦いの勢いが萎えなかったのは世界で唯一イルトリアだけだった。
海と空から攻め込まれた世界最強の街の住人は、だがしかし、悲壮感や絶望感は微塵も感じていなかった。
それどころか、彼らの大部分――赤子を除く――は歓喜していた。
戦争の相手がジュスティアでないだけで、いつかこうした形で戦争が起きることは分かっていた。
世界中に傭兵を派遣し、多くの人間を殺してきた経験を持つ人間が多く住んでいるため、戦争で生じたあらゆる恨みが濃縮されるような街だ。
ここに住む以上、誰もが覚悟を決めていた。
そして、誰もがその時に向けて行住坐臥、殺し合いの準備をしていた。
落下傘部隊はその多くが生きて地面に足を付けることなく死んだが、その死体は爆弾としての役割を持っていた。
体中に装備した爆発物によって死体が爆ぜ、地面や家屋に損傷を与える。
爆発と同時に可燃性の液体が散布され、周囲に引火した。
生きて街を燃やすか、それとも、死体となって燃やすかの違いだった。
だがこれは自爆テロを躊躇しない集団との戦闘で多くのイルトリア人が経験しており、対応法は今も昔も同じだった。
撃ち殺す、ただそれだけだ。
躊躇えばそれだけ被害が増える。
躊躇うことによるメリットは何一つない。
可能であれば余計な動きをされる前に、安全な場所で撃ち殺すに限る。
陸上と違い、空中の的は風によって流されてしまうため、撃ち殺したとしてもそれが安全な場所に落下するとは限らない。
その点で言えば、よく考えられた爆撃だった。
半分は相手の思惑通りに街は空爆を受け、多数の民家が被害を被った。
既に死者も出ているだろう。
イルトリア中に鳴り響く数多のサイレンが、これまでに街が経験したことのない攻撃を受けていることを意味している。
そうした状況下であっても、空の異変に対して彼らの意識が向けられないのは、それどころではないからだ。
目下、イルトリア人にとって空の脅威は雲ではなく、相手の飛行兵器なのである。
現代では貴重品となっているはずのヘリコプターが群れを成して空を飛び、火を噴いて墜落していく。
墜落したヘリコプターが新たな爆弾と化し、イルトリアの街に新たな火柱と黒煙が上がる。
自宅を焼失しつつある人間でさえ、その手に持ったH&K416ライフルの照準がぶれることは無かった。
一家に最低でも人数の二倍の銃器があるイルトリアにおいては、侵略行為は常に意識していたことであり、銃の扱いに慣れた彼らが戸惑うことなど有り得ないのだ。
イルトリアの戦場で最も活躍しているのが軍人であることは当然だが、次いで戦果を挙げているのは退役軍人たちだった。
「ワドル!! 弾よこせ!!」
とある退役軍人用の老人ホームでは、車椅子に座った老人たちが嬉々として銃を手に取って空に向かって発砲していた。
彼らが現役の頃に手にしていた銃に比べれば、かなり高い精度での復元が実現しており、不調は一切感じられなかった。
素材の違いもそうだが、生産するための向上の品質と材料の確保が安定化したのが大きな理由だった。
加えて老人ホームに支給されているライフルはあえて重量を増すことにより、射撃時の安定性を確保していた。
例え老いたとしても、体に染みついた射撃の腕は衰えていない。
安楽椅子で弾薬を準備していたワドル・ドゥランドは、ここ数十年の中で最も生き生きとした表情を見せている。
かつては戦場で機銃を手に猛威を振るった男も、寄る年波には勝てず、銃を構えることが出来なくなっていた。
だが、弾倉に弾を込める速度は今でもほとんど変わらず、空になった弾倉に誰よりも速く弾を込めていた。
「ほれ、落とすなよ!!」
493
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:22:13 ID:J1j5lG3E0
大声でそう叫びながら、弾倉を放り投げる。
その動きと声はまるで鈍さを感じさせない。
彼らが人生の多くを過ごした時が今、ここでこうして蘇っているのだから無理からぬ話なのかもしれない。
心を戦場に置いてきた人間にとっては、この時ほど嬉しい瞬間はない。
彼らにしてみれば、よく間に合ってくれた、と感謝の気持ちさえ抱くほどだ。
もしも戦場がこうして誕生しなければ、彼らは心と離れたまま死ぬことになる。
今日は死んでもいい。
それが、イルトリア中の老人ホームで最も声高らかに叫ばれている言葉だった。
「助かる!!」
受け取ったデズモンド・デサントス・デイランダーは素早く弾倉を交換し、一発だけ空に向けて撃った。
その一発は降下中の棺桶を撃ち抜き、空中で爆散させた。
死体の破片が炎を纏い、落ちてゆく。
最後の降下兵を撃ち殺した時点で、彼ら老兵の仕事は終わった。
後は、今を生きる者達がどう戦うか、だ。
戦える者が市街戦に参加し、そうでない民間人は街で起きている火災等の対処に当たる。
民間人だからと言って敵が手を抜くことはあり得ない。
それを知るイルトリア人だからこそ、街中総出で戦争に参加していた。
大人も。
子供も。
そして、彼ら老人も。
皆、生き残る為に銃を手にし、人を殺す覚悟を決めていた。
「最後のあいつで、俺は20人は撃ち落としたな」
狩りの成果を自慢気に語るデズモンドに対し、ワドルは鼻で笑いながら答える。
「あぁ、それぐらいは落としたな。
だけど、あっちのばあさんたちはもっと落としてたぞ」
老人ホームの庭や屋上に偽装用のパラソルを広げ、優雅に狙撃銃を構えていた老女達の間から朗らかな笑い声が聞こえてくる。
彼女たちの自慢し合う戦果は、最低でもデズモンドの二倍はあった。
潔く自分の負けを認め、デズモンドは溜息を吐く。
「元狙撃手の連中じゃ分が悪い。
さぁて、街の中は若手に任せるかの」
老人にできるのは定点での防衛だけ。
街中で銃を撃ち合えるほど元気であれば、今頃は老人ホームではなく、別の場所にいたはずだ。
彼らにとって重要なのは、この施設を守り切ること。
そして、その周囲の敵勢力を壊滅させることだ。
狙撃手の老人たちを筆頭に、それぞれが施設の形状を利用した防衛陣地を作り上げていく。
「籠城戦に備えるなんて、いつ以来だ」
494
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:23:30 ID:J1j5lG3E0
「冬に塹壕を掘るよりはいいだろ」
「確かにな!! とりあえず、雪かき用のスコップでも用意しておくか」
黒く染まっていく空を見上げ、二人は大昔の戦場に思いを馳せていた。
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同日 PM00:09
イルトリアから北に離れた荒れ地を、複数の装甲車、戦車が高速で移動している。
その最後尾から離れた場所を走るのは、一台のセダンだった。
ハンドルを握るのは細目の男。
助手席でカメラを構え、興奮気味にシャッターを切るのは眼鏡の男だ。
(;-@∀@)「すげっ!! すげぇっ!!」
<ヽ`∀´>「いやぁ、ありゃあ凄いニダね。
前にティンカーベルで報告されたやつと同じような気がするニダ」
(;-@∀@)「確かに!! でも、それ以上ですよ、これは!!
空が侵されているなんて、初めて見ました!!」
すっかり変貌した空模様を見て、アサピー・ポストマンが更に興奮する。
表情を変えはしないが、ニダー・スベヌも正直、この景色には驚きを覚えていた。
微細な変化ならまだしも、天候そのものが変わってしまうほどの何かなど、考えたこともない。
そもそも、人の作り出した物が天候を左右することなど有り得るのだろうか。
<ヽ`∀´>「……方角は分かるニダ?」
495
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:26:17 ID:J1j5lG3E0
(;-@∀@)「あ、えっとちょっと待ってくださいね。
っと、フェッチ山脈があれだから。
クラフト山脈の方ですね。
位置もクラフト山脈からそう遠くないですよ」
<ヽ`∀´>「そこまで分かるニダ?」
望遠レンズで拡大して見ているとはいえ、そこまで断言できるとしたらそれは才能の類だ。
ヨルロッパ地方に踏み入っているにも関わらず、彼の目は目標を違えることなく捉えていた。
観測手として狙撃手の隣にいれば、これほど心強い人間はいないだろう。
(;-@∀@)「えぇ、望遠レンズで拡大して見ていますが、あの黒い柱……
背後にクラフト山脈があって、その比較をすれば何となくは。
いやぁ、デカイ……
ティンカーベルで見たやつの二倍はありそうですね。
あ、でももう一本ありますね。
それも割と近くですが」
二か所で起きたニューソクの爆発。
それらが無関係であるはずがない。
クラフト山脈の近くは円卓十二騎士の一人が潜入予定の施設があり、そこの発電をニューソクで行っていることはほぼ確定している。
敵の本拠地と思わしき場所での爆発だとすれば、ハロー・コールハーンは任務の一つを果たしたことになる。
<ヽ`∀´>「……ってことは、そうニダか」
(-@∀@)「何かありましたか?」
<ヽ`∀´>「いや、こっちの作戦の一部が完了したってだけニダ。
アサピー、空だけじゃなくて前の連中の方の情報も収集してほしいニダ」
(-@∀@)「あ、分かりました。
……うーん、速度は変わらずですね。
そろそろカルディコルフィファームが見える辺りでしょうか」
アサピーの言葉に、ニダーはちらりと左側に広がる海を見やる。
確かに、そこには大きな島が広がっており、ビルが幾つも建ち並んでいるのが見えた。
内藤財団によって復興を果たし、統合された街。
こうやって街の復興に介入してきたのも、自分たちの影響力を高めるため。
そして、イルトリアから近い位置に陣取るためだったのだろう。
広大な大地を生かし、戦力をそこに隠すことも可能。
交易が盛んな街であれば頻繁に船が出入りしても不自然なことはない。
武器と兵器を運び入れるのに、これほど都合のいい場所はない。
イルトリアを攻略するならば陸と海の両方から攻め入るのは必然。
そうでなければ、世界最強の軍隊によって正面から打ち破られるのは火を見るよりも明らかだ。
対して、ジュスティアに対する備えは陸にあった。
陸続きである複数の街に介入し、兵力を増強させ、今日を迎えたのだろう。
496
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:27:55 ID:J1j5lG3E0
<ヽ`∀´>「……そろそろお迎えが来ると思うニダ」
(-@∀@)「イルトリアの陸軍ですか?」
<ヽ`∀´>「そうニダ。 ただ、こっちが巻き込まれないようにしないといけないニダね」
イルトリア陸軍からすれば、侵略者もニダー達も同じ存在にしか見えない。
白旗を上げても意味がないため、合流される前にこちらがイルトリアの味方であることを知らせなければならない。
その最善の手段は一つだけ。
(-@∀@)「結局、我々は何をどうすればいいんで?」
<ヽ`∀´>「あいつらからかっぱらった狙撃銃で、後ろから攪乱してやるニダね。
正直、装備が全然足りないニダ。
イルトリア軍から見て、ウリたちが味方だと思わせるには、それなりの活躍を見せないと駄目ニダ」
挟撃の形を取るようにすれば、イルトリアはこちらを味方と判断してくれるだろう。
少なくとも、可能性の一つではあるが。
(-@∀@)「まぁ、そりゃあそうですけど。
ライフルでどこまでやれますかね」
ニダーが襲った集団が所持していたのは、どれも強力な武器だったが、棺桶が使用する前提の物ばかりだった。
強力な弾が装填されている大口径の狙撃銃は、その反動だけでも十分に危険な物だ。
<ヽ`∀´>「やれるだけやるニダよ。
アサピーは銃をどれぐらい撃てるニダ?」
狙撃銃ともう一種類、鹵獲したアサルトライフルがある。
手に入れた弾薬の数と敵の数は、絶望的なまでの差があった。
だが、ないよりはいい。
(-@∀@)「正直、当てられないと思いますよ」
<ヽ`∀´>「じゃあ写真撮影をしながら、状況をウリに教えてほしいニダ。
その銃は自分の身を護る為に使うニダ」
彼の特性を生かすのならば、戦闘要員ではなく観測手として協力させる方法が最善。
少しでも人手が欲しい所だったが、今回の場合銃が撃てても当てられないのでは意味がない。
(-@∀@)「頑張ってみます」
<ヽ`∀´>「それでいいニダ。
さて、そろそろ挨拶するから、運転代わってほしいニダ」
周囲にあるのは荒野と海。
そして、海に続く高い崖ぐらいだ。
整備された道路ではあるが、遮蔽物になるようなものはない。
ここで仕掛ければ、間違いなく発見される。
497
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:29:20 ID:J1j5lG3E0
(-@∀@)「ま、まぁそう言うなら……」
だが、ニダーがブレーキに足を乗せようとした時、それは起きた。
離れた場所からでも分かる程の爆発が車列の中で発生したのだ。
<ヽ`∀´>「あら?」
(;-@∀@)「え!?」
すかさずアサピーはカメラを構え、様子を窺う。
(;-@∀@)「多分ですが、車列の真ん中で爆発が」
<ヽ`∀´>「事故じゃなさそうニダね」
高性能爆薬による爆破。
対戦車用地雷の可能性もあったが、その爆発の威力は明らかに過剰だった。
地雷の様な指向性がなく、非常に荒々しい爆発だった。
何者かが地中に高性能爆弾を仕掛け、爆破させた可能性がある。
(;-@∀@)「あれ…… 何だ、あれ……?」
丁度下り坂に差し掛かったからこそ、彼らはそれを目視することが出来た。
高速で移動していた車列が最初の爆発に戸惑ったかと思うと、その最前部と最後尾で同時に爆発が起きた。
連続した爆発のせいで、まるで蛇の頭を潰したかのように車列が乱れている。
黒煙を纏った爆発を避けようと、左右に車列が展開する。
そして、更なる爆発。
周囲にオレンジ色の炎が一瞬でまるで海の様に広がり、連鎖的に爆発が起き、周囲を包み込む。
まるで煉獄が一瞬にして生まれたかの様な光景に、ニダーは思いきりブレーキを踏み込んだ。
これ以上の接近はこちらが巻き込まれる。
<ヽ`∀´>「失礼!!」
(;-@∀@)「知ってました!!」
構えていたカメラのシャッターを切りながら、アサピーは叫ぶ。
後に爆発は道に埋められていた物が爆発したのだと、彼のカメラが撮影した写真が一連の動きを説明する貴重な資料となった。
(;-@∀@)「い、イルトリア軍ですか?!」
<ヽ`∀´>「……なんか違う匂いがするニダ」
そう言いつつ、ニダーは車をその場に停め、後部座席から狙撃銃を手に取って屋根の上に乗った。
<ヽ`∀´>「アサピー、状況を教えてほしいニダ」
(-@∀@)「はい、えーっと……
先頭の数台がそのまま行きましたが、半数以上が残っています。
あっちこっちを見て……って、こっちを見ている奴がいます!!」
498
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:30:00 ID:J1j5lG3E0
<ヽ`∀´>「了解ニダ。 もし接近してくる奴らがいたら教えてくれニダ」
そして銃声がアサピーの頭上で響いた。
放たれた大口径弾は車輛から降りたジョン・ドゥの胸部を撃ち抜き、その場に転倒させた。
次弾が装填され、薬莢が屋根から転がり落ちる。
訓練を積んだ狙撃手でさえ運に委ねる要素が強い、一キロ近い距離の狙撃。
ニダーが積み重ねてきた訓練と実戦の濃さがその一発に表されていた。
<ヽ`∀´>「襲撃者はどこの誰ニダ?」
(-@∀@)「い、いえ、それがまだ見つからなくて……
連中も探しているみたいです」
<ヽ`∀´>「……部隊なら、とっくに仕掛けているはずニダ。
どこの誰か知らないけど、何かを狙っているニダ」
敵の敵は味方、とは言ったものだが敵対する存在の素性は少しでも知りたい。
ニダーにとっての情報の価値は極めて高く、時には銃器に勝るものだ。
(-@∀@)「あ…… 多分、あれかな?」
<ヽ`∀´>「見つけたニダ?」
(-@∀@)「うーん、自信はないんですが……
あっ!!」
<ヽ`∀´>「……ありゃ、あれは」
――荒野が、一斉に牙をむいた。
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499
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:32:25 ID:J1j5lG3E0
同日PM00:15
その襲撃は全く予想外の物だった。
対イルトリア用に進軍を開始した10の部隊は、道中で8と2に分かれた。
それ自体も予想外だったが、部隊を途中で切り離してでも進軍が可能な様に打ち合わせは済んでいた。
“アンクル”と“テイルズ”からの通信は途絶していたが、それでも進軍を止めなかったのはそういう訳だった。
だが、追跡者を引き離したかと思えば、イルトリアを前にして襲撃を受けてしまった。
上位3つの部隊である、“ヘッド”、“アイズ”そして“ネック”は離脱に成功した。
大部分がこの荒野に釘付けとなってしまったのには、理由があった。
まず、一つ目が初動である。
敵の仕掛けた高性能爆薬は部隊の中腹である“ストマック”の一部を吹き飛ばし、それと同時に多数の車輛のタイヤが溶けた。
恐らくは化学物質を使った罠。
結果としてタイヤを破壊された車輛がその場に立ち止まらざるを得ず、被害を受けずに済んだ車輌が仲間を助けるために停車したのである。
こうなった場合の指揮系統は上から順に移行するため、“チェスト”の部隊長ニュッ・バランスにその場の指揮を執ることになった。
( ^ν^)「慌てるんじゃない!!」
装甲車の中からインカムを通じて仲間に呼びかけるも、混乱は収まらなかった。
それが問題の二つ目である。
視界を遮り、戦意を喪失させる炎の壁だった。
棺桶はあらゆる攻撃や環境に対応できる力があるが、炎は数少ない天敵の一つだった。
特殊なゴムで作られたタイヤさえ溶かすほどの炎であれば、バッテリーや他の電気系統に支障が出る。
そういった点で言えば寒冷地も弱点の一つだが、今周囲を取り巻く炎は人間の本能にも恐怖を植え付ける。
装甲車の中は比較的安全だが、バッテリーが熱によって爆発しないとも限らないため、ここから先は徒歩での移動が強いられる。
( ^ν^)「俺の声が聞こえる奴は棺桶を装備して敵を迎え撃つぞ!!」
炎の外に脱出しさえすれば、いくらでも手立てはある。
( ^ν^)『全ては、世界が大樹となる為に』
装着が終わった人間から車外に出ることになったが、そこで彼が目にしたのは、予想していない光景だった。
襲撃者の正体はイルトリア軍ではなかったのだ。
その正体は、よりにもよって――
〔欒゚[::|::]゚〕『こいつら、セフトートの残党か!!』
――世界を変える祝砲で散ったはずの、セフトートの生き残りだった。
あらゆる犯罪行為が容認され、あらゆる犯罪者が集う悪徳の街。
その街はハート・ロッカーの砲撃で確かに滅ぼしたが、その残党がこちらの動きに合わせて襲撃してきたのだ。
セフトートの残党であると一目で分かったのは、独特な装飾を施した棺桶にあった。
街である以上、セフトートにも軍隊が存在する。
軍隊という名の盗賊と言い換えるのが適切だが、確かに軍隊がある。
その軍隊では鹵獲した棺桶を使用しているために装備はバラバラ、機体もバラバラだが、同士討ちを避けるために統一した装飾が施されている。
棺桶の頭部、そのマスク部分を更に覆う黒い追加装甲に白い骸骨が描かれているのだ。
500
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:33:10 ID:J1j5lG3E0
[::゚Ш゚::]
圧倒的な威圧感を与えるための装飾。
ヨルロッパ地方、そしてシャルラ地方に近い街だからこそ、その戦闘力の高さは生半可なものではない。
ジュスティアでさえ攻め込もうとせず、派遣警官を密かに潜入させ、犯罪者を逮捕するだけだった。
真っ先に砲撃で狙い打ったのも、そのポテンシャルと反抗心の強さがあったからだ。
そして、ニョルロックに近いという問題もあった。
もしかしたらニョルロックに攻め入ろうとしていた時にこちらの部隊に気づき、襲撃を決めたのかもしれない。
イルトリアともジュスティアとも違う彼らの軍隊の強みは、言うまでもなくその残忍さにある。
奇襲、包囲、そしてこちらが仲間を助けるために車外に出てきた瞬間に四方八方に隠れていた銃腔から放たれた銃弾が、驟雨となって部隊を襲う。
〔欒゚[::|::]゚〕『散開して対応しろ!!
各リーダー、指示を頼む!!』
しかし、ここで慌てているようではイルトリア軍との戦争には勝てない。
彼らは訓練を積んできたのだ。
血の涙を流すほどの憎しみと訓練を経て今日を待ったのだ。
このような場所で、このような相手に手間取ってはならない。
装甲車のドアを力任せに取り外し、即席の盾にする。
ライフルを手に、ニュッは炎の中から飛び出した。
[::゚Ш゚::]『出てきたぞ!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『あぁ、出てきてやったよ!!』
複数の銃腔が彼一人に向けられた瞬間、ニュッはほくそ笑んだ。
これでいい。
彼の使うジョン・ドゥ・カスタムは、トゥエンティ・フォーの装甲を流用した防御特化の物。
上位の棺桶である“名持ち”と称される物と同等か、それ以上の性能を有するジョン・ドゥの防御力は極めて高い。
飛来した対強化外骨格用の強装弾をあえて車の扉で受け、その方向に向けてライフルを斉射する。
片手で発砲したライフルの弾は荒野に吸い込まれるが、悲鳴が聞こえることは無い。
黒く染まった空の下、鳴り響く銃声と発砲炎の不気味なコントラストが戦場を不気味に装飾する。
炎を背に、ニュッは叫ぶ。
〔欒゚[::|::]゚〕『どうしたぁ!!』
司法から放たれる銃弾は装甲表面で潰れ、その場に落ちる。
次々と炎の中から味方が姿を現し、爆発的加速力で襲撃者たちに接近する。
襲撃の優位性を奪い取ればこちらのものだ。
そもそも奇襲をしてくるということは、自分たちの戦力がこちらに劣ると考えている何よりの証拠。
正面突破こそが相手にとっては最も嫌う展開であると分かれば、味方たちの行動は迅速だった。
元イルトリア軍の同志から受けた訓練の成果が、ここで現れる。
〔欒゚[::|::]゚〕『イルトリアの前の前菜だ!!
一人残らず食ってやれ!!』
501
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:34:21 ID:J1j5lG3E0
ライフルを投げ捨て、ニュッは叫んだ。
〔欒゚[::|::]゚〕『近接戦用意!!』
高周波振動ナイフを抜き放ち、疾駆する。
その姿が土煙に隠れるほどの速度に達するのに要したのは、僅かに二秒。
そして眼前に襲撃者を捉えたのはその直後だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『お前たちはこの世界に入らないんだよ!!』
[::゚Ш゚::]『うおおおっ!!』
近接戦の用意をする間もなく、ニュッのナイフが深々と敵の脳天に突き刺さる。
それに呼応するかのように、彼の後ろから続々と味方が飛び出し、反撃に打って出ていた。
[::゚Ш゚::]『全部奪い取れ!!』
だがそれは相手も同じだった。
奇襲の効果が失われる前に放ったその号令で、一斉に近接武器に手が伸びる。
近代兵器を用いても、この距離であればやることは一昔前の殺し合いと同じ。
〔欒゚[::|::]゚〕『何一つくれてやるな!!』
――白兵戦だ。
502
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:35:41 ID:J1j5lG3E0
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ニニ三三三三三_ { ノ
ニニ三>‐ _二二_ヽ`┐_zz〔_
ニ/´ /:::::::/aヾ::::/:i//:::::::ヽヽ_
¨7ー-‐"::::::::::::`¨´i∨i:i:i:l |:::::: ::::::} l 、 \
/ r---─ 、_ jハ:i:i:i:i乂::::::::::ノノ ヽ \
廴ド/ /.: . : . :`弋:i:i:i:i:i:≧=≦--.._ :. : ヽ
(Уヽ/' /. : .,>::::斗≦:i:i/:,r=、ヽ. : . :∨
ゝイ/ー/ ヽ./,ィ .;i:i:i:i:i:i:i:i:i:{::丈ノ丿 . : . ∨
/¨¨  ̄. .ー ^才/ f;i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:≧=<. : . : . : .\
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∨:ヾ:::::::::::::::::_ヽ」_//三三三斗_. . . .ハ三三ニニニ
ヾ:_:才¨¨ ̄`ー ^丈:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:<./. . \三ニニニ
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ニ才三二". : . : . :./ .i:/.: . : . : . . . . . '∧
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<ヽ`∀´>「おーおー、楽しそうなことやってるニダね」
スコープの先で起きた時代錯誤とも言える白兵戦に、ニダーは思わず声を漏らした。
運転席でハンドルを握ったまま、アサピーが尋ねる。
(;-@∀@)「ど、どうします?」
<ヽ`∀´>「連中の装備とかをイルトリアに教えたかったけど、もう手遅れニダね。
あそこまで楽しそうにやってたら、情報の収集なんてイルトリア軍だけで出来るニダ。
本格的に参ったニダね」
二人の作戦は破綻し、ニダーが独自で担っていた役割も無意味になった。
世界の変化があまりにも急激であるため、事前の計画は意味をなさない。
一つだけ意味があるとしたら、散り散りになっている仲間の動向を予想できるぐらいだ。
新鮮な情報は全て現地から得るしかなく、本部に助けを求めることは出来ない。
二人はジュスティアから完全に切り離され、独自の裁量で行動しなければならなくなっていた。
素人のアサピーと共に出来ることは限られていた。
既に敵の一部がイルトリアに向かったことを考えれば、今出来ることは情報取集ではない。
世界のバランスを崩そうとする組織に対抗できる数少ない存在を、これ以上減らさせないようにすることだ。
503
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:36:06 ID:J1j5lG3E0
<ヽ`∀´>「……こっから援護して、弾がなくなったらイルトリアに向かうニダ」
(-@∀@)「なるほ…… えっ?!
やっぱり戦うんですか?!
イルトリア軍じゃないんですよ?!
そのまま素通りしましょうよ!!」
<ヽ`∀´>「仕方ないニダよ。 本当は手を貸したくないけど、セフトートの連中をここで失うのは惜しいニダ。
陸上部隊の半分以上をここで削り切れば、イルトリアにとっちゃ残党はやぶ蚊程度の存在ニダ。
はぁ…… 手を貸すのは本当に嫌ニダ」
セフトートはニダーにとっても、ジュスティアにとっても目の上の瘤の様な存在だった。
犯罪者にとっての楽園は、言い換えれば治安維持組織にとっては癌そのもの。
世界中のならず者が集い、奇妙なバランスと秩序を保ち、弱肉強食の世界のルールをどこよりも色濃く体現していた。
だからこそ今日まで生き延び、真っ先に潰されたのだ。
そんな街に手を貸すのは、警官であるニダーにとっては苦渋の選択だ。
だがこれが最善手である以上、躊躇は出来ない。
後は、彼らが馬鹿でないことを願うだけだ。
<ヽ`∀´>「さっきと同じく、とりあえずウリが気づいていないような敵の動きを教えてほしいニダ」
(-@∀@)「り、了解です」
再度ライフルの光学照準器を覗き込み、息を吐く。
狙いを定め、銃爪にそっと指を添える。
銃声と共に反動が肩に伝わる。
レバーを引いて次弾を装填し、三人目に狙いを定める。
(-@∀@)「……ニダーさん、今何人撃ちました?」
唐突な質問に、ニダーは半ば呆れながら答えた。
<ヽ`∀´>「まだ二人ニダ」
(-@∀@)「おっかしいな…… あっ、やっぱり。
ジョン・ドゥの射殺体が他に4体はあるんですよ」
<ヽ`∀´>「そりゃあ、セフトートの方が仕留めたニダよ」
(-@∀@)「そうですか……」
分かり切ったことをアサピーがあえて訊くということは、何か違和感を覚えたのだろう。
その正体に彼が気づくのを待つのでは間に合わない。
<ヽ`∀´>「だけど、アサピーが変だと思ったのなら、絶対に何かあるニダ」
(-@∀@)「えっ」
504
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:38:39 ID:J1j5lG3E0
<ヽ`∀´>「ウリはお前の事を信頼しているニダ。
ジャーナリストの勘っていうのはかなり信憑性があるニダ」
光学照準器の倍率を変更し、より広域を目視できるようにする。
<ヽ`∀´>「……ひょっとしたら、あいつが生き残っているかもしれないニダね」
(-@∀@)「あいつ?」
<ヽ`∀´>「セフトートがこれまで残っていた理由の一つニダ。
“狂犬”ニダ」
ニダーは遂に、光学照準器にその影を捉えた。
<ヽ`∀´>「やっぱり、トレバー・アヒャ・フィリップスがいるニダ。
ジュスティアが最重要犯罪者として広域手配して、ずーっとマークしている奴ニダ」
初めて犯罪行為に手を染め、警察に追われることになったのが8歳。
それから街を転々とし、犯罪を重ね、気が付けば世界最悪の犯罪者の一人になった。
それだけの重罪人をジュスティア警察が放置するはずもなく、幾度も逮捕もしくは殺害を試みた。
しかし、今日までそれは成功していない。
“モスカウ”の警官が何人も挑み、そして返り討ちにあった。
無論、一対一であればモスカウの警官が後れを取るようなことは無い。
だが、アヒャが潜伏しているのは世界最悪の街だ。
警官が入り込んでいると分かれば、街が総出で排除に尽力するような街。
街に入り込んでも無傷で済めば御の字。
命がある状態で帰還できた警察官の数は、極めて少ない。
ましてや犯人を確保した状態で脱出に成功した人間は、十指に収まる程しかない。
<ヽ`∀´>「あいつがやったことのない犯罪はないニダ。
特筆すべきなのは、戦闘の才能ニダ」
(;-@∀@)「どの程度のものなんですか?」
<ヽ`∀´>「あいつは以前、円卓十二騎士を一人殺したことがあるニダ。
それも、素手で」
(;-@∀@)「うそん」
警官上がりの円卓十二騎士であるその人物は、セフトートへの潜入を成功させ、アヒャとの接触に成功した。
だが、彼を生け捕りにしようとしたのが失敗だった。
寝込みを襲ったところ、警察官の匂いを嗅ぎとったアヒャによって投げ飛ばされ、そのまま殴り殺されたのだ。
<ヽ`∀´>「あいつを逮捕しようとして派遣されたけど、返り討ちニダ」
(;-@∀@)「それだけの人間なのに、どうしてあまり知られていないんですか?」
505
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:39:14 ID:J1j5lG3E0
ジャーナリスト、あるいは新聞記者としての経験があるアサピーでさえその名を知らないのは無理からぬ話だ。
重犯罪者をジュスティアが逮捕できず、あまつさえ円卓十二騎士を殺されたとなればジュスティアの恥になる。
幸いなことにアヒャが名声の類を気にするような人間ではなく、本能のままに生きる人間だったことだ。
<ヽ`∀´>「秘匿したニダ。 あいつをセフトート以外に出ないようにして」
視線の先で、アヒャが駆る棺桶が炎の中から飛び出してきた。
その棺桶はあまりにも不格好だった。
恐らく、素人のアサピーが見てもそのコンセプトを理解することはできないだろう。
それは四機の棺桶を継ぎはぎにして作り出された異形であり、アヒャ以外には扱えない代物なのは明らかだ。
([∴゚[::|::]゚]
絶句しつつ写真を撮るアサピーに、ニダーは静かに説明を続けた。
<ヽ`∀´>「ジョン・ドゥ、ジェーン・ドゥ、ソルダット、そしてエーデルワイス。
それぞれの装甲と腕部をくっ付けたのが、あの棺桶ニダ。
あんな棺桶使うやつはあいつ以外にいないニダ」
骨格のベースはエーデルワイスとジョン・ドゥを合わせたものであり、脚部の構造は速度を重視したジェーン・ドゥ。
装甲の一部はソルダットを用い、防御性能も重視している。
最大の特徴は通常の両椀に加えて、背中から生えた三対の腕だ。
合計で八本の腕がそれぞれ意志を持って動き、近距離から遠距離の戦闘を実現している。
二本の腕は高周波ナイフを構えているが、他の腕は防弾の盾、拳銃、そして長距離射撃が可能な機関銃を持っている。
一言でいえば、滅茶苦茶である。
そう、完膚なきまでの出鱈目であり、不格好そのものだ。
まるで子供が好きな食べ物を一つにまとめたかのようなその棺桶は、セフトートにやってきた元ラヴニカの技術者による作品だった。
複椀を操作するための技術は、基盤だけが生き残った“ヒューマン・センティピード”という名のコンセプト・シリーズのものを使用しており、見た目と中身は何もかも違う。
動かす人間の持つセンスだけでその棺桶は動いており、彼が一人で戦いの中に入って生き残ることのできる所以の一つでもある。
(;-@∀@)「複椀を操作するなんて、聞いたことないです」
<ヽ`∀´>「普通の発想じゃないニダ。
世の中には天才って人種がいるニダ。
数字の羅列を見ただけで計算ができるような類の天才と同じで、あいつは戦場にいるだけで場の空気が全て読める天才ニダ。
だから捕まえられないし、殺せないニダ」
危機察知能力だけでなく、適切に対処する術を感覚で全て行える人間。
その代償かは分からないが、彼の理性のタガは外れている。
欲望のまま、狂気のままに行動する。
あらゆる犯罪に手を染め、動物以上に欲望に忠実に生きているのだ。
(;-@∀@)「うへぇ…… 相手にしたくないですね」
<ヽ`∀´>「まぁ今回ばかりはその天才っぷりに感謝ニダね。
ただ、流石に物量で押されたら勝てないニダよ」
506
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:41:20 ID:J1j5lG3E0
四方八方をカバーできる複椀ではあるが、その隙間を狙った銃撃を防ぎきれるものではない。
盾で守れるのは最大で二方向。
相手がアヒャの危険性に気づき、一斉に攻撃をすれば流石に命はないだろう。
<ヽ`∀´>「セフトートの連中も馬鹿じゃないから、アヒャを守るだろうけど、まぁ手を貸した方がいいニダね」
(;-@∀@)「で、でもこっちの手持ちの武器なんて限られていますし、狙撃ぐらいしかないですよね?」
<ヽ`∀´>「普通はそうニダ」
(;-@∀@)「普通は」
<ヽ`∀´>「でもほら、今は普通じゃなくなったニダ」
全てを諦めたようなアサピーの顔を見て、ニダーは心からの笑みを浮かべた。
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トレバー・アヒャ・フィリップスにとって殺しとは、自慰をするようなものだった。
殺したいから殺す。
その考えが間違っていると言われたが、それを我慢することはできなかった。
生まれつき我慢することが苦手だった彼には、幸いなことにその我儘を貫き通せるだけの筋力があった。
小さな町で生まれ、そこで初めて手を染めた犯罪は窃盗だった。
店にあった玩具を手に取り、そのまま逃げたのだ。
大勢の大人が彼を追いかけてきたが、半殺しにしたことで玩具は彼の物になった。
それから彼は暴力の有用性を学び、次々と実践に移した。
結果として警察が彼を追い、彼は仕方なく生まれた町を出て行った。
行く先々で暴力と窃盗、欲望の発散を行った。
気が付けば世界中どこでも彼を追う人間がいたが、今日まで生きてきた。
([∴゚[::|::]゚]『あっひゃひゃひゃ!!』
507
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:43:03 ID:J1j5lG3E0
そして、今日。
これまでの人生で一番と言えるほどの愉快な時間が訪れていた。
長らく世話になったセフトートが吹き飛び、運よく生き延びた彼の心に生まれたのは、純粋な怒りだった。
故郷と呼べるものを奪われた気分を初めて味わい、これまでにないほどの怒りを胸に戦いに臨んだ。
奪ってきた立場の人間が、奪われて憤るなどあまりにも自分勝手な考えだが、アヒャにはその自覚がない。
彼にとってセフトートは彼を受け入れてくれた唯一の楽園だ。
だからセフトートの軍に入り、街のために働いていた。
([∴゚[::|::]゚]『どうしたぁ!!』
思い出すのは、今はなき街並みと、そこにいた彼の友人たち。
友人でないとしても、彼を受け入れてくれた大切な人間。
その面影がちらつくたび、彼の怒りが燃え上がる。
([∴゚[::|::]゚]『手前ら全員皆殺しだぁ!!』
彼の棺桶には複数の腕だけでなく、死角を補うための複数のカメラが搭載されている。
自分を中心に周囲全方位をカバーする視覚情報をもとに、彼の意思をくみ取った複椀が動く。
余計なことは考えず、目に付いた敵は全て撃ち殺すか、銃弾を防ぐか、ナイフで切り裂く。
〔欒゚[::|::]゚〕『狂人があああ!!』
明らかに指揮官が駆る銃装甲のジョン・ドゥが立ちはだかる。
([∴゚[::|::]゚]『ありがとよ!!』
双方が構える高周波振動ナイフが激突し、火花と甲高い音が手元から発生する。
〔欒゚[::|::]゚〕『こいつを殺せば一気に押し崩せるぞ!!』
([∴゚[::|::]゚]『ははっ、そうかよ!!
だったら手前をぶっ殺す!!
そのついでに全員ぶっ殺す!!』
重装甲だからと言って、あらゆる攻撃に耐えきれるわけではない。
棺桶である以上、狙えるものはある。
([∴゚[::|::]゚]『どっせい!!』
狙ったのは膝関節と顔面だった。
膝を狙った前蹴りと同時に、機関銃で顔面を殴打する。
関節部の強度には限度があり、例え重装甲で名を馳せる棺桶だったとしても、アヒャの一撃を耐えきることは出来ない。
逆側に折れた関節から潤滑油と血しぶきが上がる。
〔欒゚[::|::]゚〕『あっ……ぐおおあああっ!!』
([∴゚[::|::]゚]『そこでおねんねしてな、ベイビー!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『つ…… 捕まえた!!』
508
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:47:47 ID:J1j5lG3E0
残された足で踏み込み、アヒャに抱きついてきたかと思えばそんな事を口走る。
なるほど、とアヒャは冷静に思った。
この程度の人間が指揮官であれば、恐れる必要はない、と。
([∴゚[::|::]゚]『見えてるんだよぉ!!』
炎の中から飛び出した挟撃も。
遠方から狙っている銃腔も。
全ては、アヒャの目には見えていた。
全方位カメラが捉えた敵影に対し、彼の脳波に反応した服椀が即応する。
発砲、防御。
この動作だけがあれば、アヒャが殺されることは無い。
指揮官が捨て身で攻撃を仕掛けてくるということは、それだけ切羽詰まっているということなのだ。
群れを率いる存在が前に出てくるなど愚の骨頂。
理屈ではなく感覚でそれが過ちであると知るアヒャは、嬉々として目の前の男の首を切り落とした。
首の付け根に滑らかに差し込まれたナイフによる一閃は、本人が苦痛を感じるよりも先に切断を終えていた。
首より先に胴体が地面に倒れ込み、最後に首が地面に落ちる。
機関銃から吐き出される薬莢の雨の中、アヒャの両眼は周囲を睨め回し、近接戦闘に備えた。
([∴゚[::|::]゚]『こいやぁ!!』
初めて彼が覚えた感情の正体が、これまで彼が踏みにじってきた感情であることは、アヒャはまだ知らなかった。
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同日 PM00:01
世界に夜の帳が降りる少し前に、ジュスティア沖にいた13隻の原子力空母は所定の位置に到着していた。
錨を降ろし、上陸艇に乗った兵士たちが続々とジュスティアに上陸していく様は、巨大なケーキに群がる蟻のようだった。
ジュスティアを守るはずだった海岸警備隊は度重なる砲撃にさらされ、文字通り全滅している。
唯一、スリーピースだけがジュスティアを外敵から守るため、その役割を果たしていた。
509
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:52:24 ID:J1j5lG3E0
そして、その防壁を破壊するだけの威力を持つ主砲を構える超ド級戦艦“ロストアーク”だけが、ジュスティアへの攻撃を完全に停止させていた。
(#´・ω・`)「あの糞野郎どこ行きやがった!!」
停止の原因はたった一人の裏切り者による工作だった。
ショボン・パドローネにとっても、そして彼の所属するティンバーランドにとっても、その工作は十分すぎる効果を発揮していた。
つい数分前までは追う側だったにも関わらず、今では追われる側になっている。
全ては、彼が追っていたワカッテマス・ロンウルフの仕業だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『裏切り者を見つけ出せ!!
あいつはジュスティアの犬だ!!』
噂とは恐ろしい物だ。
ほんの僅か、そう、一滴の毒だけで状況が一変してしまう。
戦時中という特殊な状況下でなおかつ、それに慣れていない人間は容易く噂に流されてしまう。
一度でも噂が流れてしまえば、後はそれが脚色されて広まるのも時間の問題だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『艦長が言った通り、何人もジュスティアの犬がいるぞ!!』
時差で訪れたこの展開は、明らかに混乱を狙ったもの。
要は時間稼ぎのための混乱だが、今のショボンにとっては迷惑極まりない展開だった。
こちらが何を言っても信用されず、何をしても疑いが晴れることは無い。
流された噂は、恐らくショボンがジュスティアの内通者であるという旨のものだったに違いない。
そしてそれは、信用に足る人間の口から漏れ出た言葉が発端だったのは間違いない。
ティンバーランドという組織は広く受け入れをしている反面、その背景については念入りに調べ、決して志がぶれないように注意している。
となると、噂の始まりと今に至る経緯を想像するのは難しくない。
だが、味方がそのことに気づけていないのが問題だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『拳銃に通常弾を装填しておけ。
艦内で徹甲弾を撃てば大惨事になりかねないぞ』
聞こえてくる言葉を真実と仮定すれば、この船の艦長であるスパム・シーチキンにワカッテマスが何かを言ったのだ。
それに対して彼女が何か反応をし、それを聞いた部下が誤解し、仲間に噂を流す。
程よく広がったあたりで、ワカッテマスはショボンから逃げた。
当然、裏切り者を始末するために追うショボンだが、その姿を見る者の視点によって状況は変わってくる。
ワカッテマスが逃亡中に噂を追加で流布すれば、その効果は絶大な物になる。
時間が経てば解決するような噂だが、その時間を生み出すことなど今は無理だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『いたぞ!!』
拳銃から容赦なく銃弾が浴びせかけられる。
辛うじて物陰に隠れ、抗議する。
(#´・ω・`)「だから、俺は違う!!」
510
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:53:47 ID:J1j5lG3E0
反撃を一度もせず、口頭と行動で己の潔白を口にするが、効果は見られない。
こちらが一切の反撃をしていないということにすら気づけてないのは、戦艦という極めて閉塞的な空間がもたらす心理的な圧迫が原因だろう。
既にショボンの命令に従っていた同志は射殺され、ワカッテマスとの立場は逆転した。
ここからの逆転は非常に難しい。
彼は円卓十二騎士の一人、“ウォッチメン”。
何にでもなれる者、の二つ名で呼ばれたジュスティア警察創立以来の最優秀の警官と言ってもいい。
真実を見抜く力に長けているということは、相手の弱点を見抜く力を持っているということ。
遅効性の毒を効果的に用いることで、こうしてショボンを追い詰めている手腕がその証拠だ。
こうしている間にも彼はこの戦艦を無力化しつつ、脱出を図るだろう。
もしもそれが結実すれば、間違いなくロストアークは任務を果たせなくなる。
現に主砲の一部が使用不可能となり、その影響で他の主砲も急ピッチで確認作業が行われている。
その主犯は間違いなくワカッテマスだが、今はショボン一派の犯行ということになっていた。
(#´・ω・`)「同志を撃つんじゃない!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『黙れ裏切り者が!!』
跳弾から逃げるため、流石にその場から走り出す。
鉛弾が船の壁を撃ち抜くことは無いが、ショボンの命を奪うことはあまりにも容易だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『……っ!! おい、こっちで同志が一人殺されてるぞ!!』
(#´・ω・`)「それはお前らが!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『絶対に逃がすな!!』
ジュスティアの攻略にロストアークの援護射撃は不可欠だ。
スリーピースを突破するためには、圧倒的な質量で攻め込むしかない。
ここで戸惑っていては、ジュスティア攻略に時間がかかってしまう。
速攻勝負のこの作戦は、時間が経てば経つほど不利になる。
長期にわたってジュスティアに仕込んだ毒が意味を成す前に終わってしまえば、これまでの努力が水泡に帰してしまう。
(#´・ω・`)「この……馬鹿野郎どもが!!」
もしも自分がワカッテマスの立場であれば。
もしも自分がこのロストアークを無力化しなければならない立場であれば。
今行うべきことは、生き残った主砲の無力化だ。
ロストアークには主砲が合計で40門存在する。
五連装砲が四基、それが艦橋を挟んで前後にそれぞれ設置されている。
ワカッテマスが先ほど行った妨害工作で前方部の数基が無力化されたが、その詳細は分からない。
自動装填装置を破壊されてしまっていれば、1トン以上の重量がある砲弾を人力で装填しなければならない。
そのような訓練を受けた人間は、ほんの数人しかいない。
511
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 20:54:38 ID:J1j5lG3E0
最悪の場合は砲弾が誘爆し、船が真っ二つになる未来だ。
そこでようやく、ショボンはワカッテマスの所在に思い当たった。
この船の無力化をするならば、沈没させるのが最適解だ。
それを簡単に行えるのは、間違いなく爆発の起きた砲塔の近く。
体にまだ“マックスペイン”の恩恵が残されている間にそこに向かい、ワカッテマスの妨害工作を止めなければならない。
(#´・ω・`)「うおおお!!」
狭い艦内を走り回り、ショボンは最短ルートで目的地に向かう。
砲弾が保管されている場所が近づくにつれ、火薬と物が焼け焦げた匂いが濃くなっていく。
サイレンが鳴り響き、海水を使ったスプリンクラーによる放水が行われているエリアに到着した時には、それは匂いだけでなく黒い煙と共に彼の鼻に入ってきた。
足元に溜まっている海水が、その放水量と時間を如実に物語っている。
(´・ω・`)「……頼むぞ」
それは、味方に対する願いであると同時に、自分の持つ悪運の強さに対する切実な気持ちだった。
そして何より、砲弾への誘爆が一番の心配だった。
最悪の場合はニューソクの誘爆へとつながり、付近にいるオーシャンズ13のニューソクにまで連鎖的に誘爆する展開だ。
頭上からしたたり落ちる水を無視して、ショボンは自動装填装置のある場所に向かった。
彼の推理が当たっていれば、ワカッテマスは間違いなくこの空間で工作をしているはず――
( <●><●>)「――いやはや、本当に来るとは」
角を曲がった瞬間、仁王立ちになったワカッテマスがショボンを出迎えた。
出会い頭に放たれたのは言葉と前蹴り。
完全な不意打ちによって防御不可能な一撃と化した前蹴りは、正確にショボンの鳩尾にめり込んだ。
力を籠めることも出来ず、胃の中身をその場にぶちまける。
(;´・ω・`)「げはぁっ?!」
( <●><●>)「優秀な刑事だったからこそ、私の行動が読めるのも分かっていました。
そしてその読みは、概ね正しいですね」
ドーピングで強化できるのは筋力だけであり、内臓の強化はできない。
痛覚を遮断できることもできないため、膝を突いて苦悶の声を押し殺すのがせいぜいだった。
(;´・ω・`)「あぐ…… 糞ッ!!」
( <●><●>)「おや、悪態が出るならまだいけますね」
無防備な後頭部を狙って、ワカッテマスの踵が振り下ろされる。
当然、防御などできない。
後頭部を直撃した一撃はショボンの意識を現実から遠ざけ、激痛が意識を現実とつなぎとめた。
(;´・ω・`)「目が覚めたよ、糞が!!」
( <●><●>)「さて、優秀な刑事さんに質問しましょう。
どうして私がここであなたを待っていたと思いますか?」
512
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:02:28 ID:J1j5lG3E0
(;´・ω・`)「さぁな、悪趣味な奴の考えなんて分かるかよ」
( <●><●>)「答えは簡単。 同じジュスティアの人間として、お話がしたかったからです。
あぁ、ご安心くださいね。
すでに工作は済んでいるので、この船は沈みます」
(;´・ω・`)「野郎……!!」
痛みが和らいできたが、まだ後頭部に受けた一撃の余波は消え切っていない。
相手が悦に入っている間に、反撃の隙を伺うしかない。
今は耐える時。
だが、次に出てきたワカッテマスの言葉に、ショボンの思考が停止した。
( <●><●>)「ジュスティアの秘密は、どこまで調べましたか?」
一瞬、何を言っているのだろうかと聞き返そうとしてしまう。
こちらの沈黙の意味をくみ取ったのか、ワカッテマスが続ける。
( <●><●>)「力が全てを変える時代に、あの街が生まれたのは何故か。
スリーピースの建造と、防衛装置の技術。
知れば知る程、ジュスティアが分からなくなるんですよ。
私はそれについて調べて、ある人物に辿り着いた。
だけどひょっとしたら、別のアプローチがあるのかもしれない。
そこで、あなたに質問なんですよ。
何か、知っていることはありませんか?」
(;´・ω・`)「何を言ってるんだ、お前は」
流石に、ショボンの中にある疑念が言葉となって口から出てくる。
( <●><●>)「きっと、ジョルジュさんはそれを知っている。
てっきり同郷のあなたに話しているものだと思ったのですが、無駄だったようですね」
興味を失ったように溜息を吐き、ワカッテマスはショボンに背を向けた。
( <●><●>)「後はどうぞお好きに」
(;´・ω・`)「……そうさせてもらうさ!!」
ショボンは一気にその場から駆け出し、ワカッテマスの横を通り過ぎた。
今はこの男に構っている時間がない。
先ほどの言葉が真実だとしても、まだこの船を沈ませるわけにはいかない。
せめて、せめてスリーピースだけでも突破しなければジュスティアを攻め落とすのは難しい。
三重の壁に砲撃で空いた穴から入り込もうと部隊が派遣されたが、その作戦は失敗に終わっている。
空から攻め入ろうとした部隊は砲弾を撃ち落とした兵器によって瞬く間に全滅し、地上からの攻略を余儀なくされている。
だが壁の中は今、甚大な被害を受けているはずだ。
ジュスティアの要所であり、正義の象徴とも言える左右対称に建てられたビル、ピースメーカーが倒壊したことが分かっている。
513
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:03:56 ID:J1j5lG3E0
今が好機なのは間違いないが、スリーピースの入り口は固く閉ざされており、ジュスティア陸軍による厳重な防御陣地がこちらの進軍を阻んでいる。
火薬の匂いが濃くなるにつれ、ショボンの焦りもより強いものになっていく。
ついに作業をする人間の声や跫音、作業をする音が耳に届く場所に到着した彼が見たのは、想像よりも遥かに酷い損傷具合だった。
自動給弾装置は戦艦の要だが、その装置が跡形もなく吹き飛び、床や天井にその破片が突き刺さっている。
他の区画にまで被害が及んでおり、頭上からは日の光が差し込んでいた。
降り注ぐ日の光に反射するのは、消火に使われた海水だ。
その絶望的な光景の中で棺桶に身を包んだ者達が床に走った亀裂を溶接し、砲撃の衝撃で亀裂が広がらないように懸命に修理をしていた。
この船にある他の主砲を撃たないのは、砲弾への細工を警戒しているだけではなかったのだ。
砲塔が直接爆発したのではなく給弾装置が爆発したことにより、砲弾に詰まっていた火薬が炸裂し、これだけの被害をもたらしたのだ。
逆に言えば、砲弾の爆発でもこれだけの被害で抑えたこの空間の堅牢さが分かる。
常に数発だけがその給弾装置内にあり、必要な分は下の階からエレベーターを使って自動で輸送する形をとっていたのも幸いした。
しかしワカッテマスがどのような罠を仕掛け、この船を沈めるのかが分からなければその堅牢さも気休めでしかない。
だが狙うなら、とにかく亀裂だ。
(;´・ω・`)「……くそっ」
ここで声をかけ、ワカッテマスが仕掛けた罠を見つけ出し、解除することが出来れば話は簡単だ。
だが今のショボンは裏切り者としてのレッテルを貼られており、声をかけた瞬間に殺されかねない。
相手が棺桶で武装しており、こちらが生身である以上は一方的な敗北は避けられない。
かといってここで黙っていても、船が沈没する未来が避けられるわけでもない。
ショボンは意を決し、両手を挙げて作業中の仲間たちに声をかけた。
(´・ω・`)「俺の話を聞いてくれ!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『ん?!』
溶接作業をしていたジョン・ドゥの手が止まる。
(´・ω・`)「敵はまだこの給弾装置に罠を仕掛けているはずだ!!
頼む、俺に手を貸してくれ!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『裏切り者がのこのこと!!』
作業をしていたジョン・ドゥがその場から消えた。
超至近距離での加速は常人の視力では捉えられない。
足元に上がった水しぶきだけが移動した唯一の証拠。
思いきり壁に叩きつけられたショボンは肺の中の空気を全て吐き出し、苦悶の声を上げる。
だが一切の抵抗も、回避行動もしなかった。
全身の筋肉を硬化させ、どうにか致命傷を防ぐ程度に抑えたのは、相手がこちらを殺そうとしてなかったからだ。
壁に押し付けて持ち上げられる。
無言で見上げられ、機械仕掛けの両眼の奥にある男の目を正面から見据える。
〔欒゚[::|::]゚〕『……』
(;´・ω・`)「……頼む」
514
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:08:29 ID:J1j5lG3E0
その言葉を聞き、僅かの沈黙。
男はゆっくりと言った。
〔欒゚[::|::]゚〕『……分かった』
〔欒゚[::|::]゚〕『おい、いいのかよ!!
だってそいつ、ジュスティアのスパイなんだろ』
〔欒゚[::|::]゚〕『だったら、こんなところに来やしないだろ。
今は手が必要なんだ』
(;´・ω・`)「助かる」
ジョン・ドゥの手がショボンから離れ、その場に降ろされる。
〔欒゚[::|::]゚〕『それで、アテはあるんだろうな』
(;´・ω・`)「あぁ。 亀裂を塞ごうとしているだろう?
奴は恐らく、亀裂を広げるために爆弾を仕掛けている。
ワカッテマスがここに来なかったか?」
〔欒゚[::|::]゚〕『……それなら、俺が見たよ』
別の場所で作業をしていたと思わしき男が、のそりと姿を現した。
〔欒゚[::|::]゚〕『さっき向こうに行ったやつだろ?
この下のフロアにある弾薬保管庫から出てきたのを見たぞ』
〔欒゚[::|::]゚〕『そこは今誰が見てる?』
〔欒゚[::|::]゚〕『分からない、だが、あそこに入るにはキーコードが必要だ。
俺達じゃ入れないぞ』
その瞬間、空気が一気に変化した。
パズルのピーズがはまり、一枚の絵が出来上がる感覚だ。
誰もがワカッテマスが描いた絵を理解し、今必要なことを理解した。
〔欒゚[::|::]゚〕『艦長に連絡を!! 急げ!!』
後は時間との勝負だ。
弾薬保管庫には主砲の砲弾が弾種ごとにコンテナに数十発単位で収められており、一種のマガジンの様になっている。
それを機械制御で上にある装置へと送り込み、連続した砲撃が実現する。
ワカッテマスが仕掛けた最初の罠の被害がそこまで甚大にならなかったのは、その仕組みのおかげでもある。
そしてそこを狙われれば、この船が一撃で二つに分断されるのは言うまでもない。
だからこそ厳重な管理下にあり、権限を持つ人間でしかアクセスできないようになっている。
そこに入っていたとなると、答えは言うまでもない。
〔欒゚[::|::]゚〕『艦長!!』
515
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:12:03 ID:J1j5lG3E0
艦長である、スパム・シーチキンに連絡が行く。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『なんだ』
〔欒゚[::|::]゚〕『時間がありません、とにかくすぐに前方の弾薬保管庫のロックを解除してください!!』
この船を直感的に操作できるスパムならば、閉鎖された区域のロックを解除するなど何ら苦ではない。
今ならば、まだ間に合う可能性がある。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『……いいだろう。
作業をしながら説明しろ』
〔欒゚[::|::]゚〕『ありがとうございます!!』
すぐにショボンを含めた5人が下の階へと急行する。
分厚い鉄の扉が開き、薄暗い空間に敷き詰められたコンテナの林が彼らを出迎えた。
頭上で輝く蛍光灯の明かりはコンテナに遮られ、満足に物陰を見ることが出来ない。
だからこそ、そこは機械の目を持つ仲間に任せることにした。
〔欒゚[::|::]゚〕『急げ!! 爆発物があれば身を挺してでも処理するんだ!!』
(;´・ω・`)「時間がなかったはずだ、コンテナの装甲が薄い場所を探すんだ!!」
狙うならば、自動給弾に必要不可欠な穴のある個所だ。
そこに高性能爆薬を仕掛ければ、後は勝手に誘爆し、この空間が全て吹き飛ぶ。
ショボンの言葉を理解したジョン・ドゥたちが示し合わせたようにコンテナの上に乗り、不審物の探索をする。
〔欒゚[::|::]゚〕『おい、ここにあったぞ!!』
早速一人が見つけたが、爆弾は一つとは限らない。
〔欒゚[::|::]゚〕『複数ある可能性がある、おい、この通信が聞こえている奴は全員弾薬保管庫に来るんだ!!』
手分けをして大量のコンテナを捜索するが、それが無駄に終わる可能性は極めて高い。
それでも、何もしないでこの船を沈めさせるわけにはいかない。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『総員に告ぐ。 これより本艦はスリーピースに突っ込む。
錨を投棄。 直線上にいるあらゆる友軍は直ちに退避せよ。
艦内にいる同志たちは必要な物を持ち、速やかに脱出せよ。
弾薬保管庫で作業中の同志諸君。
……すまない』
その言葉は事実上の敗北宣言と捉えられるものだった。
作業を中断することなく、誰もが声を荒げる。
まだだ。
まだ終わっていないのだ。
〔欒゚[::|::]゚〕『そんな!! まだ諦めないでください!!』
516
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:12:55 ID:J1j5lG3E0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi『諦めてなどいない。 主砲が撃てない戦艦など、よくて盾か囮にしか使えない。
私はこの船と共に奴らに挨拶をしてやるだけだ。
残り時間が分からないなら、終わりの時間はこちらで決めさせてもらう』
スリーピースの突破には主砲が必要不可欠だが、その主砲が使えない戦艦は確かに無用の長物と言ってもいい。
もしもこの規模の船がスリーピースにぶつかるか、接近することが出来ればこの船が橋としての役割を果たせる。
しかし、それは分の悪い賭けだ。
戦艦である以上、出せる速度はたかが知れている。
喫水の事を考えれば、陸上に乗り上げること自体がそもそも不可能に近い。
同時に、ショボンたちがワカッテマスの罠を全て見つけ出すこともまた、不可能に近いのだ。
(´・ω・`)「なら、我々も自分たちの終わりを自分たちで決めさせてもらいますよ」
ショボンたちの作業が成功すれば、この船が突撃する必要はなくなる。
だが時間が分からない。
可能性を信じれば、可能性に殺されることになる。
〔欒゚[::|::]゚〕『糞っ!! タイマーが止まらねぇ!!
残り1分だ!!』
それは、最初に爆弾を見つけた男の発言だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『とにかくコンテナから遠ざけろ!!
誘爆すればもうこの船はお終いだ!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『ああっ、糞!! 糞!!
道を開けてくれ!! このまま外に持っていく!!』
コンテナから飛び降り、男は胸に爆弾を抱えたまま部屋を飛び出した。
その瞬間。
ショボンの背筋に電流の様なものが流れ、全身の血の気が引いた。
(#´・ω・`)「ああああ!!
の野郎おおおおおお!!」
ショボンは叫びながら男が直前までいたコンテナに飛び乗り、そこに置かれていた物を手に取る。
(#´・ω・`)「いぇおう!!」
弾薬保管庫で大爆発が起きたのは、そのすぐ後の事だった。
517
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:23:34 ID:J1j5lG3E0
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丶、v{ ヒ! i!||il. , 八 Z
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_  ̄`ζ」'(´ ヽ j! ゛ ,ィ彡′_.. -
二 ニ ゙て∠rιク_;.,、_,ー-'^- =ニ_
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ワカッテマス・ロンウルフの得意とする諜報戦は、毒を数滴垂らすことだった。
複数の真実に嘘を一つ紛れ込ませることで、その嘘は遅効性だが威力の高い毒となる。
毒が効果を発揮するタイミングをこちらであらかじめ決めることが出来れば、戦況を変えることは可能。
この戦艦を無力化するために選んだのは、そういった嘘だった。
まずは艦長に対し、ショボンへの信頼を疑わせるよう、スリーピースの情報を流す。
当然、それを聞いていた彼女の部下がそれを他者に話すことも想定している。
ショボンからの追跡を逃れる間、彼が複数のジュスティア人と共に反旗を翻したと噂を流布した。
その噂が艦内に広がり、認識をマヒさせ、こちらの思った通りに毒するには僅かな時間が必要だった。
結果、この艦内におけるショボンの立ち位置と彼に同行した人間は裏切り者のレッテルを貼られ、それまでの立場が逆転することになったのである。
だがそれでも、この戦艦を無力化するにはまだ不足だった。
主砲の一部を破壊したことによって艦内に亀裂が走り、間接的に砲撃を止めることは出来たが、まだ足りないのだ。
溶接作業が行われてしまえば、ある程度の砲撃能力が回復してしまう。
そうなる前に、せっかく生まれた傷を広げない手はない。
主砲を破壊した工作は一度しか使えない物だったが、出来れば砲弾への誘爆を利用してこの戦艦を沈めたい。
そこで、ショボンを利用することにした。
このような組織に落ちぶれ、周囲から追われたとしても、それでも彼の本質はジュスティア人だ。
真実と正義の為に動くようにと、その体は長年の訓練にさらされてきた。
一度体に染みついた習慣はそう簡単には消えない。
ワカッテマスが次に打つ手を考え、対策仕様と躍起になるはずだ。
例え自分が裏切り者として周囲から追われたとしても、彼は正義のためにその身を犠牲にしてこの船を守ろうとする。
518
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:29:00 ID:J1j5lG3E0
だから、与えたのだ。
分かりやすい答えを。
納得のいく、疑問の余地のない答えを。
既に罠は仕掛け終え、ワカッテマスはこの船から逃げ出すという答えを。
事実は逆だ。
罠はまだ仕掛けていない。
そして、ワカッテマスはこの船に残る。
弾薬保管庫への侵入は現実問題として、不可能だった。
だが、ショボンがわざわざ味方を引き連れて艦長に依頼した結果、不可能は可能となった。
後はジョン・ドゥを身にまとい、共に爆薬を探すという体で爆発物を設置する。
その場からの脱出は、爆発物の処理が出来ないから外に出ると言えば簡単に行く。
戦艦の外に出たと同時に、下から大きな爆発音と衝撃が彼を襲った。
いつの間にか、空が灰色に染まりつつあった。
嵐ではない。
何かもっと、別の要因だ。
〔欒゚[::|::]゚〕『……おかしいですね』
まだ船が沈む気配がしない。
爆薬の量は申し分なかったはずだ。
そう思った時、背後からその答えが現れた。
(#´・ω・`)「はぁ……はぁ……!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『よくもまぁ生きていますね』
傷だらけのショボン・パドローネ。
その姿は傷だらけで、いたるところが煤だらけになっている。
(#´・ω・`)「お前は……っ!!
お前だけは絶対に殺す!!」
〔欒゚[::|::]゚〕『無理ですよ。 生身で私を殺そうなどと』
(#´・ω・`)「それはどうかな」
そう言って、ショボンが右手を掲げ、指を鳴らした。
その、直後の事だった。
〔欒゚[::|::]゚〕『?!』
(#´・ω・`)「どぅら!!」
マックスペインの力によって人間離れした速度でその場から駆け抜け、ショボンがワカッテマスの目の前に現れる。
背後は手すりを挟んで海。
後退するのには、僅かばかりの逡巡が生じた。
その逡巡が、命取りとなった。
519
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:35:20 ID:J1j5lG3E0
(#´・ω・`)「一緒にハッピーになろうぜ!!」
その言葉と共にショボンが抱きつき、ワカッテマスはショボンの意図を理解する。
どうしてわざわざ声をかけ、どうして生身でこちらに挑んで来たのか。
マックスペインを重ねて使用し、命を削って得た運動能力。
それは全て、彼が腹に巻き付けた大量の高性能爆薬をこの距離で使うため。
引き剥がすには、もう遅い。
〔欒゚[::|::]゚〕『このっ……!!』
(#´・ω・`)「イピカイエェェェ!! マザファ――」
――形容しがたい大爆発がワカッテマスを襲い、その意識を奪い取った。
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同日 PM00:16
ゆっくりと。
朝日が昇る様に、ゆっくりと、だが確実に意識が覚醒していく。
激痛が全身に広がり、血の気が失われているのが分かる。
爆発の衝撃を受けた正面の骨はほぼ全て折れているだろう。
(;<●><●>)「あ……そ……」
ショボンという男を侮っていた。
あの爆発の規模の理由と彼の傷から導き出される答えは、一つだけ。
こちらの仕掛けた爆弾を味方のジョン・ドゥに向かって投げつけ、それを体で覆わせたのだ。
そうすれば弾薬への誘爆は防ぐことができる。
520
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:35:44 ID:J1j5lG3E0
そしてそのままこちらを追いかけ、どこかで調達した爆薬で自爆してきたのだ。
爆発はジョン・ドゥの装甲を吹き飛ばし、ワカッテマスに致命傷を与えた。
ショボンは爆発四散し、その肉片は戦艦の壁の染みとなっている。
しかし、それでも彼はやり遂げた。
この船を沈めさせない、ということを。
(;<●><●>)「っふふ、流石……」
ワカッテマスは海風を浴びながら、そう呟く。
任務は失敗した。
戦艦の無力化には成功するが、その先がない。
この船は間もなくスリーピースに突っ込む。
(;<●><●>)「いやぁ……まいった……なぁ」
不思議と、後悔はなかった。
ギリギリの綱渡りを楽しんだ結果がこれだ。
自分の気持ちのままに、答えを知りたいがために動いた。
ならばこの結果は因果応報。
相応の結果なのである。
何もかもを最前線で知りたいという欲がこの結果を生み出しただけ。
(;<●><●>)「さぁて……」
打てる手は全て打った状態だ。
主砲の無力化は図らずも成功したが、この船がスリーピースに激突すれば恐らく侵攻は止められなくなる。
(;<●><●>)「……ここまでか」
船底が削れるような振動が船全体を襲う。
まるで悪夢の様にスリーピースが迫る。
(;<●><●>)「ふふっ……こうすることは……分かってましたよ」
そして、その振動がこの戦艦に引導を渡すことになる。
断末魔の様に甲高く、そして重々しい金属が裂ける音が響き渡り、船が傾き始める。
船底に仕掛けた爆弾が振動によって起爆し、船のバランスを崩したのだ。
速度が徐々に失われ、岩礁に乗り上げた戦艦が倒れていく。
肉食獣が眠りにつくようにゆっくりと傾く中、ワカッテマスは嬉しそうな声を上げた。
(;<●><●>)「……おや、来ましたか」
その声が誰かの耳に届くことは無い。
サイレンと悲鳴、金属が千切れる音が船全体に広がっている。
もう間もなく、この船は跡形もなく爆散するだろう。
(;<●><●>)「まったく……君はいつも……」
521
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:36:25 ID:J1j5lG3E0
黒く染まりつつあるジュスティア上空にそれを見た時、ワカッテマスの胸に去来したのは安堵感。
どうにか時間を稼ぐことは出来た。
彼が来るまでの間、ジュスティア内への侵入は防げた。
後は、彼に委ねよう。
――ロストアークが爆散した時、ジュスティアに一機のヘリコプターが降り立った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第十四章 【 Ammo for Rebalance part11 -世界を変える銃弾 part11-】 了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
522
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 21:36:45 ID:J1j5lG3E0
これにて今回の投下は終了です
質問、指摘、感想等あれば幸いです
523
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 22:50:25 ID:XesLE3W.0
うおお乙
これまで重要な役目を担ってたショボンやらがあっさり死んでいくのは戦争の無情さを感じるね
アサピーが個人的に大好きなんだが生き残れるだろうか…
524
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 23:11:19 ID:OuW63qoI0
乙です
525
:
名無しさん
:2023/04/03(月) 23:44:22 ID:qSOncVv20
おつ
>>517
の
>ワカッテマスが次に打つ手を考え、対策仕様と躍起になるはずだ。
対策しようと の間違い?
526
:
名無しさん
:2023/04/04(火) 20:33:42 ID:4MYSSGdw0
>>525
Oh NO!
その通りでございます!!
527
:
名無しさん
:2023/04/04(火) 21:10:13 ID:EzKvRTaQ0
乙
散々ワカッテマスさんに振り回されてきたショボンが最期に一矢報いたのは胸が熱くなった
イルトリアのお年寄りさんたちは元気で何より
>>490
空の片隅に"炭"を垂らした
これは多分"墨"の方がいいんじゃないかな
>>492
生産するための向上の品質と材料の確保
ちょっとおかしな言い回しになってるから、生産するための品質の向上と材料の〜でいいんじゃないかな?
上手い言い回しが思いつけなくて申し訳ない……
>>385
>>428
>>505
>>506
>>507
>>508
これ全部"腕"が"椀"になってますね。
>>508
に至っては服椀になってます。
以前の投下分には見逃してました……
>>511
痛覚を遮断できることもできないため
痛覚を遮断することもでいいんじゃないかな
528
:
名無しさん
:2023/04/04(火) 21:16:17 ID:4MYSSGdw0
>>527
いつもありがとうございます!
椀!! みんな飯を食っているのか!!
今回はいつにも増して酷い誤字が……
修正した物をまとめの方に載せさせていただきます……!!
529
:
名無しさん
:2023/04/06(木) 10:59:19 ID:kNPF7c8.0
乙
ショボン死んじまったか…ダイ・ハードで戦ってる所がすごい好きだった
530
:
名無しさん
:2023/06/25(日) 10:29:54 ID:DxVw7D.w0
そろそろ来ないかな
531
:
名無しさん
:2023/06/26(月) 18:28:43 ID:uXya/F0A0
後もうちょっとで書き終わるので、今しばらくお待ちください。
運が良ければ今度の日曜日に投下できるはずです……!!
ちなみに、文量はいつもの二倍ぐらいです
532
:
名無しさん
:2023/06/27(火) 22:05:00 ID:sMxxLnmg0
さすがっすわ待ってます
533
:
名無しさん
:2023/06/28(水) 19:14:29 ID:0m6lxS7c0
今度の日曜日、VIPでお会いしましょう
534
:
名無しさん
:2023/06/29(木) 00:11:45 ID:2DzhpL/Y0
二倍とかすげー
535
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:25:28 ID:EB0RZRkQ0
投下途中に落ちました……
ので、こちらに投下します
536
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:25:49 ID:EB0RZRkQ0
┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
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正義や神や奇跡の有無よりも、私は正義の味方の存在を信じている。
あの人がまた私を救ってくれることを、信じている。
だって、あの人は私を救ってくれたのだから。
――とある少女の日記より
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September 25th AM11:49
足場が激しく上下し、風が何もかもを吹き飛ばそうとする過酷な環境下での射撃など、トラギコ・マウンテンライトは経験したことがなかった。
しかもそれが追われる身であり、空中でとなると体験した人間は世界中どこを探してもほとんどいないだろう。
彼は今、ニョルロック上空からクラフト山脈を経由し、ジュスティアを目指すヘリコプターの中にいた。
そのヘリコプターはジュスティアと因縁の関係にあるイルトリア軍の所属だが、操縦士も、そこに乗っているトラギコも今は過去の遺恨は頭にない。
(=゚д゚)「やっぱり全然当たらねぇラギ!!」
ライフルを構え、弾倉を一つ撃ち切ったトラギコが、操縦席に向かってそう叫ぶ。
操縦士は後ろを見ることなく、的確な答えを告げる。
(::0::0::)『ローターだ!! ローターを狙ってくれ!!
パイロットを狙うのは無理だ!!』
(=゚д゚)「よーく分かったラギ!!」
空になった弾倉を、後ろから迫ってくる敵のヘリ目掛けて投げつける。
当然それは当たらないが、少しは気が晴れた。
新たな弾倉に交換し、狙いを定める。
光学照準の先にいるのは、20機からなる攻撃ヘリの群れ。
双方の距離は徐々にだが、確実に広がりつつある。
飛行性能ならば間違いなくこちらの方が優れている。
だが相手は両翼に機銃を取り付けた攻撃ヘリだ。
距離が開けば開くほど、相手にとっては照準を合わせやすくなる。
可能ならば頭上を飛ぶのが一番だが、そのような余裕はないだろう。
不規則に揺れる状態で照準を安定させることが出来ないため、トラギコは思わず悪態を吐く。
(=゚д゚)「くっそ!!」
こちらの持つ弾の数と、相手の持つ弾の数は圧倒的な差がある。
その差がある以上は、こちらが一方的に撃たれ続けるという展開が濃厚だ。
どれだけ逃げ切れるか、そして、どこで相手が限界を迎え、ジュスティアに到着する前に全滅できるか。
一種のチキンレースだ。
(=゚д゚)「……あれは」
537
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:26:26 ID:EB0RZRkQ0
その時、トラギコの視界に入ったのは青空に向かって立ち上る巨大な黒煙。
雷を纏い、青空を異形の色に染め上げようとする暴力的な爆発。
海に近い陸で起きたその爆発は、あまりも巨大で、以前にティンカーベルで見た物とは比較にならなかった。
ティンカーベルで起きた爆発とは、何かが根本的に違う。
今トラギコの目に映っている爆発は、暴力的、そして無秩序なものだ。
以前のものはどこか調整された、控えめと言っていい爆発だった。
上空に向かって立ち上るその煙は瞬く間に空を黒に染め上げていき、徐々に明るさを失っていく。
(=゚д゚)「なぁ、俺たちは大丈夫ラギか?!」
ヘリコプターは繊細な乗り物だ。
風の影響を受ければ簡単に傾き、場合によっては墜落の危険性さえある。
(::0::0::)『大丈夫だ、あんたは絶対にジュスティアに送り届ける』
衝撃波を一度切り抜ければ、後はどうにでもなるということなのだろう。
(::0::0::)『しっかし、あんな爆発をお目にかかれるとはな』
光学照準器を覗き込み、トラギコは改めて敵の攻撃ヘリに狙いを付ける。
曳光弾のないトラギコにとって、自分の弾の軌道が分からないというのは極めてやりづらいものだ。
(=゚д゚)「曳光弾でもあればよかったラギ」
そう心の声を嘯きながらも、トラギコの目は自分の放った弾がどうなっているのか、先ほどの弾倉一つ分の射撃でつかめていた。
相手のドアガンナーがこちらを狙っているのを見るに、安定した距離を確保したということだろう。
ならば、急激な移動はないはず。
トラギコは息を深く吐き、狙いをやや上に調整して銃爪を引いた。
メインローターの一部で火花が上がった。
狙いは合っているということだ。
更にそこから狙いをずらし、ドアガンナーに狙いを付ける。
ジェットエンジンを搭載しているこちらのヘリに被弾すれば、空中で大きな花火が上がることになる。
体を固定するベルトに体重を預け、トラギコは更に体を外に乗り出し、風の吹きすさぶ中で射撃を行った。
最初の数発は外れたが、ドアガンナーに命中し、力なくうなだれるのが見えた。
弾倉を更に一つ使いきり、新たな弾倉に交換する。
次はローターに狙いを変え、三発ずつ発砲した。
ローターから火が吹きあがり、空中で機体が回転を始める。
高度が落ち、地上に落ちる前に空中で爆散した。
(=゚д゚)「1機落としたラギ!!」
続けて撃とうとした時、銃弾がヘリの横を掠め飛んで行った。
後続のヘリが攻撃を始めてきたのだ。
(=゚д゚)「やりやがったな!!」
538
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:26:46 ID:EB0RZRkQ0
それでも、トラギコの狙いは怒りにぶれることは無かった。
一発ごとに調整を加え、放った銃弾が操縦席のガラスに穴を穿つ。
続けて放った銃弾はその上に着弾し、ローターが火を噴いた。
二機目を落としたが、安心はできない。
(=゚д゚)「もっと速度でないラギか?!」
トラギコが三つ目の弾倉を空にして叫んだのとほぼ同時に、操縦士は唖然とした声色で言った。
(::0::0::)『クラフト山脈が見えてき……
……おい、ランディ、あれが見えるか?』
(::0::0::)『マジか……
あんなの、ありかよ……』
つられて、トラギコは視線を前に移す。
(=゚д゚)「あぁ?! あぁ……」
それを見た時、トラギコも言葉を失った。
まるで巨大なビルが荒野に立っている様に見えたが、それは間違いなく人の形をしていた。
巨大なキャタピラ。
巨大な砲塔。
目に映る全てが規格外の巨大さであり、まるで現実感が湧かない。
だがそれは紛れもなく、兵器だった。
(;=゚д゚)「あれが……ハート・ロッカーか」
近づくにつれ、その全容が明らかになってくる。
だが同時に、その姿の不自然さも明らかになった。
(::0::0::)『だが砲撃してないってことは、何かが起きてるってことだ。
……あれ、倒れてないか?』
転倒しづらいものほど、起き上がるのが困難な構造をしていることが多い。
あれだけの巨体が転倒し、起き上がるとなると相当な時間がかかるだろう。
腕が付いているのはそのリスクを軽減するためだろうが、巨体故に時間を失うのは必然だ。
(;=゚д゚)「あ、本当ラギ。
さっきの爆発に関係してそうラギね」
(::0::0::)『何にしてもラッキーだ、ジュスティアが砲撃されずに済む』
機体が前傾姿勢になり、更に速度を出して進んで行く。
眼前に迫るクラフト山脈が徐々に視界を埋めていく。
しかし、機体は確実に高度を上げ、クラフト山脈を飛び越える態勢を整えていた。
距離が離れたこともあり、トラギコは後ろのヘリに銃撃を浴びせることを止めた。
(;=゚д゚)「さっむっ!!」
539
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:27:08 ID:EB0RZRkQ0
一気に風が氷の様に冷たくなったことに、トラギコは思わず間の抜けた声を上げた。
先ほどまでとは比べ物にならない冷気は、彼の体から容赦なく力を奪っていく。
(::0::0::)『あぁ、悪い。 反対側の扉を閉じるのを忘れてた』
(;=゚д゚)「そ、そういう、レ、レベルじゃないラギ!!」
あまりの寒さに歯の付け根が合わない。
ライフルを構える手からも熱が一気に失われ、構えることが出来ない。
その代わり、追手との高度と距離が瞬く間に離れていく。
曳光弾が飛んでくることがないのがせめてもの救いだった。
(;=゚д゚)「こっちも閉じるラギ!!」
(::0::0::)『おう、早く中に入ってくれ!!』
高高度になればそれだけ空気が薄くなるため、ヘリはその飛行性能を落とすことになる。
それはどちらの機体も同じことが言えるが、こちらのヘリにはジェットエンジンが搭載されている。
このクラフト山脈を越えるため、そしてジュスティアへ最高速で向かうための装備だ。
扉を閉め、トラギコは叫んだ。
(;=゚д゚)「頼むラギ!!」
(::0::0::)『マスク忘れるなよ!!』
言われて息苦しさを思い出し、トラギコは天井から下がる酸素マスクを口に当てる。
既にクラフト山脈の白い壁が目の前を覆い尽くしており、機首がはるか頭上を向く。
ジェットエンジンが点火したことを、トラギコは音よりも先に強烈なGで理解した。
座席に体が押し付けられ、呼吸が止まる。
(;=゚д゚)「おおおお!!」
(::0::0::)『刑事さん、今クラフト山の頂上を越えるぞ!!
なんだったらよく見ておきな!!』
機体が一瞬だけ水平を向き、その拍子に周囲の景色が目に入ってきた。
クラフト山脈の頂上よりも上からしか見られない、圧倒的な光景だった。
たなびく雲の群れ。
深い青色の海の彼方に見える大きな入道雲さえ、あまりにも小さい。
まるで、巨大なハードルを乗り越えたかのような、そんな浮遊感を覚える。
その直後の事だった。
(::0::0::)『あっ』
操縦士のつぶやきは一瞬。
その理由は、ほぼ同時に襲った衝撃が答えた。
見えない手によって機体が背後から殴られたかのような、でたらめな衝撃。
ベルトで座席に固定していたトラギコの体が天井に叩きつけられ、機首が真下を向く。
540
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:28:12 ID:EB0RZRkQ0
(::0::0::)『……くっそ!!』
様々な警告音が一気に鳴り響く。
操縦士の二人は天井のパネルを操作し、手元のレバーを動かす。
(::0::0::)『刑事さん、大丈夫か!?』
(=゚д゚)「何とかな!!」
(::0::0::)『しっかり掴まっていてくれ!!
エンジン再始動、ジェットエンジン再点火準備!!』
(::0::0::)『各数値問題なし、制御系も問題なし!!
エンジン再始動、ジェットエンジン再点火準備ヨシ!!』
(;=゚д゚)「おいおいおいおい、大丈夫ラギか?!」
垂直にクラフト山脈沿いに落下していくヘリの中、トラギコの体は席に押し付けられ、声を出すので精一杯だった。
操縦士たちは冷静さを微塵も失わずに、冷静かつ大きな声で答えた。
(::0::0::)『あんたは絶対にジュスティアに連れて行く、安心しろ!!』
(::0::0::)『エンジン再始動、ローター回転数問題なし!!
姿勢制御開始、後方確認を頼む!!』
(::0::0::)『姿勢制御をオートモードからマニュアルモードに切り替え!!
雪崩よりも早く頼むぞ!!』
(;=゚д゚)「雪崩?!」
振り返ろうにも、落下による加速がトラギコを座席に縫い付けるように押さえつけ、身動きを許さない。
だが機体の横を通り過ぎていく雪の塊が、背後で起きている自然現象を物語っている。
(;=゚д゚)「爆発の影響ラギか……?」
空中のヘリを叩き落す勢いで発生した爆発は、ニューソクの爆発と考えていいだろう。
問題はその威力だ。
ニョルロック付近で遠くに見た爆発とは、明らかに威力が違う。
それはつまり、距離が関係しているはずだった。
最も高い可能性は、ハート・ロッカーが爆発したという可能性だ。
(::0::0::)『ジェットエンジン準備!!
一気にジュスティアに向かうぞ!!
どうせ機体がもたないんだ、限界まで届けてやるぞ!!』
(::0::0::)『予備タンクからの接続を開放!!
刑事さん、少し我慢してくれよ!!』
541
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:28:33 ID:EB0RZRkQ0
機体の向きが思いきり上向きになる。
機首が地面と平行になった瞬間、再びトラギコの背中が座席に押し付けられた。
(::0::0::)『ジェットエンジン点火!!』
その時に発生した加速は、筆舌に尽くしがたい物だった。
目玉が飛び出すのではと思うほどの急加速は、トラギコの肉体を遥か彼方に置き去りにしつつ、それでも前進させるような強引さがあった。
その加速度に思わず目を閉じてしまう。
クラフト山脈を越える時とは、明らかに速度が違う。
(::0::0::)『速度上昇。 機体制御補助装置をオートモードで起動。
数値安定、高度確保。
……ふぅ、どうにかなったな』
(;=゚д゚)「な……にが……」
(::0::0::)『多分だが、ハート・ロッカーが爆発した。
その熱と衝撃波でクラフト山脈の雪が溶けたんだ。
で、雪崩が起きた。
あの爆発の規模だ、山越えできないのに俺たちを追ってきたヘリは全滅だな』
機体側面の鏡に気づき、それを見る。
クラフト山脈の白い姿が遠ざかる中、その背後に立ち上る黒い煙がニューソクの生み出した爆発であることを示唆している。
空が灰色から黒に染まる中、三人を乗せたヘリはまっすぐにジュスティアを目指す。
ようやく体が加速に慣れてきたらしく、トラギコは深呼吸をする余裕が生まれた。
(::0::0::)『スリーピースについて訊いていいか』
(=゚д゚)「あぁ」
(::0::0::)『何か仕掛けがあるんだろ?
空からの侵略にも対抗できる何かが』
(=゚д゚)「そうラギね。
仕組みは知らないけど、とりあえず飛んでくるものなんかは撃墜されるラギ」
スリーピースはジュスティア防衛の要だ。
あらゆる侵略者から市民を守る為に建造されたその三重の防壁は、例えジュスティアの高官でさえも詳細を知らない。
街に入ろうとする人間を調べるための検問所はあるが、そこにいる人間も詳しいシステムなどは分かっていない。
だが、分かっていることは複数ある。
過去に侵入を試みた輩は後を絶たないが、その度にスリーピースに備わった防衛機構が分かるようになっている。
トラギコが知っている対空防御の手段は、彼の上司から聞かされた情報だけだが、真実味はあった。
(::0::0::)『射程距離とかは分からないか?』
(=゚д゚)「いいや、俺も又聞きだから詳細は分からないラギ」
(::0::0::)『刑事さんが中に入る手段とか手筈ってのは、特にないんだよな』
542
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:30:01 ID:EB0RZRkQ0
(=゚д゚)「ないラギね」
(::0::0::)『最高にヤな感じだ。
賭けに出て死ぬのも嫌だが、どうしたもんか』
(=゚д゚)「だけど、大丈夫ラギよ」
そのことだけは、断言出来た。
この先の戦況がどうなるかは分からない。
敵が何を狙いにしているのか、その真意も分からない。
だが、それだけは言い切れる自信があった。
(=゚д゚)「こいつぁ、市長が用意した筋書きラギ。
あんたらがイルトリア市長を信頼しているのと同じように、俺はフォックスを信頼しているラギ」
フォックス・ジャラン・スリウァヤがトラギコをジュスティアに呼び戻すということは、そのための準備は全て済んでいるということだ。
彼が保険としてトラギコを指名した以上、それは絶対だ。
彼の描く筋書きは全て規則正しく進行する。
(::0::0::)『分かった、ならその言葉を信じよう』
(=゚д゚)「割とあっさりラギね」
(::0::0::)『あんたは有名人だからな、俺達軍人の間でも知らない奴はいないよ。
何だったら、あんたのファンもいるぐらいだ』
(=゚д゚)「そりゃどうもラギ」
(::0::0::)『俺も、その一人だ。
あんたをジュスティアに連れて行くってのは、名誉な話だ。
そのあんたが信じるっていうんなら、俺もそれを信じるよ』
(=゚д゚)「恩に着るラギ」
(::0::0::)『今の内に装備を整えておいてくれ。
着陸に成功したとして、その時のジュスティアが安全とは言い切れないからな』
(=゚д゚)「あぁ、分かったラギ」
そして、彼らを乗せたヘリがスリーピースを視認できる距離に来た時。
海に浮かんでいた巨大な戦艦が、波しぶきを上げながらスリーピースに直進する姿が見えた。
(;=゚д゚)「突っ込む気ラギか?!」
(::0::0::)『潔いやつだな』
ジュスティアまで、もう間もなくとなったところで、ヘリが減速する。
急激なブレーキに体が前のめりになるが、どうにか耐える。
543
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:30:23 ID:EB0RZRkQ0
(;=゚д゚)「こっちはいつでも行けるラギ!!
ここから降下するから、あんたらは逃げて――」
(::0::0::)『駄目だ、連中の部隊が下に集まってるし、ジュスティアからしたら俺たちは不法侵入者だ。
あんたが空中で撃ち殺されたら、この作戦が無意味になる。
ヘリで中に降ろすから、それまでどうにか死なないでくれ』
(;=゚д゚)「……分かったラギ!!」
そしてヘリはスリーピースを越え、ジュスティア上空へと侵入に成功する。
高度を下げ始めた時、戦艦が座礁し、大爆発を起こした。
直前に誰かの声を聞いた気がしたが、爆風に揺られる機体の中でそれを詳しく考える余裕はなかった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Ammo for Rebalance!!編
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_ィ‐ ´ ̄ ヽ ヽ⊂))_  ̄)``` ュ_
,ィフィヶ―, ヶ―‐、ニ>=====(__]>__ミー _
_∠∠..._〃::::::::| l l::ll::l :|::::::l l:::::l | ±  ̄``―ニニ―--_
γ´ γ ̄l  ̄ ̄ l ‐ ‐ { .l└ ┘'―' | ii
ヽ、__ ヽ- ´ ィzzz 「l____|__ ______.....
 ̄ ̄ ̄`ィフ、 ̄``.ィZヽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
ヽ_ノ ヽ.ノ
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September 25th PM00:17
迅速に降下を果たした一行は、周囲の状況を確認しながらヘリから降りた。
長時間の飛行で疲弊しながらも、トラギコはライフルで周囲の状況を確認するのを怠らない。
操縦士の二人も座席の下から取り出したH&K MP5Kを構え、安全を確認している。
街は酷いありさまだった。
幾度も撃ち込まれた砲弾で街並みの半分が崩壊し、ピースメーカーは瓦礫の山となっている。
ハンマーで殴りつけて壊した玩具の城の様な有様を見て、相手が質量弾でスリーピースの防御網を突破したのだと悟る。
普通の砲弾であれば防御装置によって迎撃される。
間違いなく、ジュスティア内部からの情報漏洩があったのだ。
(::0::0::)「まだ侵入はされていないみたいだな」
(=゚д゚)「だけどこりゃあ……酷い有様ラギ」
(::0::0::)「エライジャクレイグの到着までに市民を誘導するって言っても、この状況じゃぁな」
(=゚д゚)「何より、暗さが厄介ラギ。
これじゃまるで嵐の前の天気ラギ」
544
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:32:25 ID:EB0RZRkQ0
黒々とした空は、それまであった夏空をかき消している。
九月にしては肌寒い風が吹き、思わず身震いしてしまう。
スリーピースの外側から聞こえてくる銃声と爆発音は、並の戦闘ではないことを意味していた。
ジュスティア陸軍が街への入り口を文字通り死守していれば、民間人が脱出するための時間を稼ぐことが出来る。
人の気配が消えたジュスティアの街並みは、戦争で負けた街の姿そのものだった。
(=゚д゚)「あんたら、本当にいいのか?」
(::0::0::)「あぁ、いいに決まってるさ。
言っただろ? 俺はあんたのファンなんだ」
(::0::0::)「俺はファンって程ではないが、まぁ、ここで戦うのは嫌じゃない。
むしろ、楽しみでさえあるさ」
安全がある程度確認されたところで、二人がヘルメットを外す。
彡 l v lミ「俺はランディ・スズキ・ゴードン、スズキでいい」
( l v l)「俺はゲイリー・ムネオ・シュガートだ。
ムネオって呼んでくれればいい」
(=゚д゚)「よろしく頼むラギ。
とりあえずは、シェルターに向かうラギ」
彡 l v lミ「分かった。 ちょっと待っていてくれ、ヘリを無力化する」
そう言って、スズキがヘリに戻り、いくつかのケースを運び出してからスイッチを操作した。
離れるように指示が出され、ほとんど時間を置かずにヘリが爆発四散した。
彡 l v lミ「敵に利用されたら元も子もないからな。
とりあえず、あんたにお願いしたいのが、この街の人間に俺達が味方だって伝えることだ」
(=゚д゚)「俺がいればどうにかなるラギ」
( l v l)「そりゃ頼もしい。 シェルターってことは、地下か」
(=゚д゚)「あぁ、行き方があるラギ」
彡 l v lミ「案内は入り口まででいい。
俺達が入り口を守っておけば、後はあんたが市民を誘導するだけでいいだろ?」
(=゚д゚)「そこまでする義理、あるラギか?」
彡 l v lミ「ははっ、面白いことを言うな、刑事さんは。
これは義理じゃない。
俺たちは、これがしたいから軍隊に入ったんだ」
545
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:35:51 ID:EB0RZRkQ0
( l v l)「そういうこった。
ジュスティアの人間には理解がし辛いだろうが、発想は同じだ。
だから俺たちが死んだとしても、あんたが何かを感じる必要はない。
この作戦はジュスティア市民を避難させればいいんだ。
俺たちの生死は作戦には加味されていない、そうだろう?」
(=゚д゚)「……そうラギね。
なら、利用させてもらうラギよ」
片手にライフルを、もう片方の手にアタッシェケースを持ったトラギコの前後を囲むようにして、二人が位置につく。
シェルターに通じる経路は複数あるが、最終的にその道は一つに集まる様になっている。
その入り口があるのが、ピースメーカーの地下深くに作られた空間なのである。
既に住民の気配がしないことから、ある程度の避難が完了していることがうかがえる。
戦える者は武器を手に、街のどこかに散っていることだろう。
現在地から最寄りの避難経路を使おうとしたが、すでに封鎖されていたことに、トラギコは違和感を覚えた。
この封鎖という処置は、以降人的災害や自然災害がシェルターを襲わないようにするためのものであって、シェルター側から行うものだ。
街の人間が全員避難を終えているのならば正しい判断だが、果たしてそうだろうか。
(=゚д゚)「……何かあったラギね」
こうなると、恐らくは他の入り口も全て封鎖されていることだろう。
向かう手段はただ一つ。
ピースメーカーにある直通の避難経路を使い、地下に向かうことだ。
シェルターからどうやって列車に乗るのかはまだ分からないが、とにかく、フォックスが残した保険を信じるしかない。
瓦礫の山と化したピースメーカーに向かう途中で、ようやくトラギコたちはジュスティア人に遭遇することになった。
(,,゚,_ア゚)「あっ……!!
トラギコさん!!」
その男は、群青に近い青の制服を着ていた。
それは、非常時に着用が義務付けられている警官の戦闘服だった。
防弾繊維で作られたその服は、衝撃を殺すことは出来ないがナイフや小口径の銃弾であれば防ぐことができるものだ。
(=゚д゚)「状況は?」
幸いなことに、相手はトラギコの事を知っている様だった。
(,,゚,_ア゚)「生き残った全員でシェルターへの直通路を確保しようとしておりまして、その間に生存者を探しているところです」
(=゚д゚)「お前たちが逃げ遅れることになるラギよ」
(,,゚,_ア゚)「それでも、です」
その目は決して絶望に濁ってはいなかった。
これがジュスティア人の強みだと、トラギコは内心で満足する。
少なくとも彼は警官として腐ってはいない。
腐っていない警官がいれば、まだ大丈夫だ。
546
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:37:14 ID:EB0RZRkQ0
(=゚д゚)「いい心がけラギね。
警官はどれぐらい生き残れたラギ?」
(,,゚,_ア゚)「ほとんどが生き残れました。
連中が攻めてくる直前に、市長からありったけの武器を持って街中に散る様に連絡がありました。
おかげで、市民の誘導が十分に行えています」
人がいても武器がなければ戦いにならない。
相手の兵器と対等に戦うためには、それなりの装備が必要だ。
運び出した装備がどの程度の物か、それが重要だった。
(=゚д゚)「連中は棺桶を使っているラギ。
こっちも用意しないと、ジリ貧になるラギ」
(,,゚,_ア゚)「軍の補完していた棺桶は陸、海軍共に軒並み駄目になりました。
直前にタカラ・クロガネ・トミー元帥の指示で移動させたらしく、そこに砲撃が……」
(=゚д゚)「内部の裏切りラギね。
で、ツーとジィは生きてるラギか?」
警察長官ツー・カレンスキーと副長官のジィ・ベルハウスの生存は、生き延びた警官たちにとっては重要な問題である。
指揮官の有無だけでなく、シェルターにいるジュスティア人にとっても希望になり得る。
市長が瓦礫の下にいる今は、それが重要だった。
よほど強い精神を持っていない限り、指揮官を失った組織は瞬く間に疲弊する。
(,,゚,_ア゚)「はい、現在は街の中で生存者を探しています。
とにかく、誰もこの場に残さないようにとの命令を受けています」
だが、その二人が生きている限りは、警察が折れることはない。
(=゚д゚)「なるほどな。
シェルターの警備は?」
(,,゚,_ア゚)「腕に覚えのある警官隊がついています。
軍属は皆、スリーピースの外側で迎撃に向かいました。
海軍がかなり押されていて、壊滅は時間の問題かと」
敵の巨大戦艦が沈んだとはいえ、物量は圧倒的なまでの差がある。
棺桶の性能が高ければ高いほど、海軍は不利になる。
むしろ彼らは、敗北を覚悟した上で市民が逃げるための時間を稼いでいるのかも知れなかった。
(=゚д゚)「分かったラギ。
俺と一緒にいるこの二人は、イルトリアからの援軍ラギ」
(,,゚,_ア゚)「い、イルトリアから?!」
(=゚д゚)「不思議じゃないラギ。 俺たちは今んところ、同じ敵を相手にするラギ」
(,,゚,_ア゚)「と、トラギコさんがそうおっしゃるなら」
547
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:39:24 ID:EB0RZRkQ0
その時、瓦礫の影で悲鳴に似た歓声があがった。
「し、市長?!」
「市長だ、市長がいたぞ!!」
(;=゚д゚)「……え」
歓声と共に、重々しい跫音が近づいてくる。
〔::‥:‥〕『概ね予定通りの時間だね』
それは、重装甲の棺桶の代名詞である、トゥエンティー・フォーだった。
通常と異なるのは、装甲の節々に突き出した複数のパイプ状のフレームだ。
棺桶を脱ぎ捨て、中から出てきたのは紛れもなく、ジュスティア市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤその人。
爪'ー`)y‐「ふぅ、生き埋めの後の一服は格別だな」
葉巻を口に咥え、フォックスはまるで風呂上がりの様に呑気な言葉を口にする。
(;=゚д゚)「あんた、良く生きていたラギね」
爪'ー`)y‐「あぁ、そりゃあそうだ。
私は世界中の悪党から嫌われる街の市長だよ?
執務室に備えをするのは当然だろう。
他の部屋よりも頑丈だし、落下しても生き延びる可能性を作っておくぐらいのことはするさ」
(;=゚д゚)「そりゃあ、まぁ、そうラギね……」
堅牢さならばトゥエンティー・フォーは間違いなく棺桶の中でも五指に入る。
彼が使用していた機体は落下の衝撃を殺すためのダンパーが大量に備え付けられており、ビルの崩落に巻き込まれても体が押しつぶされないように考慮されていた。
緊急時に執務室で己を守るのであれば、それだけの備えをしておかなければならない。
だが、落下の衝撃を完全に殺せない。
棺桶だけでなく、執務室の設計その物に秘密があると考えられた。
瓦礫の山と化したスリーピースを前にそのようなことを考えても、全く意味はないのだが。
爪'ー`)y‐「残念だが、タカラは連中の細胞だったよ。
軍も、そう長くはもたないだろう。
何をどう細工していたのか、その全ては分からないからね。
だが、円卓十二騎士もいる。
市民を逃がすまでの時間は、絶対に確保できる。
だから安心したまえよ」
(=゚д゚)「第一騎士が殺されたらしいが、それでも平気ラギか?」
第一騎士、“魔術師”の名で呼ばれるシラネーヨ・ステファノメーベルの死は、ジュスティアにとって大きな打撃だ。
言わば円卓十二騎士の中でも最強格の人間が殺されたのだ。
相手の実力を推し量るのに、これ以上ないぐらいの話である。
548
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:39:47 ID:EB0RZRkQ0
爪'ー`)y‐「あぁ、平気だ。
彼を含めて、レジェンドセブンが三人死んだとしても、だ」
(;=゚д゚)「んなっ?!」
爪'ー`)y‐「ハローも、ワカッテマスも死んだよ。
幸いだったのは、二人とも爆死したことだな。
これで死体を弄ばれる心配はない。
それに、二人のおかげでもう砲撃の心配がなくなったのも幸いだ」
第二騎士、“影法師”のハロー・コールハーン。
第十一騎士、モスカウの統率者である“ロールシャッハ”こと、ワカッテマス・ロンウルフ。
いずれもトラギコにとっては知らない仲ではない。
どちらもモスカウとは縁の深い存在であり、彼らに世話になった人間は数知れず、解決された事件はその倍以上あるはずだ。
だが今は感傷に浸っている時間はない。
爪'ー`)y‐「何より、ワカッテマスは敵戦艦を安全に沈めてくれた。
ニューソクに誘爆したら、今頃辺り一帯は消し飛んでいただろうさ。
連中の空母、という種類の船は全てがニューソクで動いている。
あれはこちらへの牽制だったらしいが、おかげでどうにかなった」
ハート・ロッカーと敵戦艦の砲撃がなくなれば、スリーピースが時間を稼いでくれる。
籠城戦が出来るならば、まだ市民を逃がすことは可能である。
爪'ー`)y‐「というわけで予定変更だ。
君はギリギリまで戦ってくれ。
何せ人員が少ないものでね」
(=゚д゚)「それはいいけどよ、市長。
俺たちは何時まで踏ん張ればいいラギか?」
爪'ー`)y‐「最低でも午後四時きっかりまでは、持ちこたえなければならない。
逆を言えば、その前にシェルターに侵入されれば終わりだ。
連中の侵入を防ぐためにも避難用の入り口は一か所だけにしている。
最悪はそこを守り切ればいいようにした」
(=゚д゚)「後3時間半とちょっと……
それまで俺たちは持ちこたえられるラギか?」
物量戦に持ち込まれている以上、スリーピースの北と南にある二か所の出入り口が突破される可能性は十分にある。
街の中に侵入されることは避けられないだろう。
それからシェルターの入り口を見つけるまでにどれだけの時間がかかるのか分からないが、余裕はないはずだ。
最後の守りが必要になることは決定事項。
つまり、ジュスティアは今日で――
549
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:41:44 ID:EB0RZRkQ0
爪'ー`)y‐「あぁ、絶対の自信がある。
軍だけでなく、円卓十二騎士がいる。
作戦が狂う要素がない。
だがそれは、君がいてくれればの話だ」
(=゚д゚)「……分かったラギ。
だけど、市民を全員移送できるラギか?」
エライジャクレイグの助力があるとしても、輸送できる人間には限りがある。
列車に乗ることのできる人数を考えれば、一度で送り出せるのは3000人程度だろう。
車輌の編成数にもよるが、1万人を送り出せれば御の字だ。
避難している人間の数は恐らく、10万人を下回ることは無い。
ならば、少なくとも10回は輸送作業を行う必要がある。
円滑に乗車、退避が出来るという前提で計算は出来ない。
そのため、一度の輸送でかかる時間を考えても、1時間は見積もっておかなければならない。
爪'ー`)y‐「詳細は省くが、大丈夫だ。
私の保険が遅れることは絶対にない。
何があろうとも、絶対に定刻通りに到着する。
検問所が突破されるまでの間に警官の君たちは、とにかく取りこぼしのないように街中を見てほしい」
それでも、フォックスの自信は揺るがなかった。
街を守り切るのではなく、街から逃げ出すという選択を受け入れられないのか、近くにいた警官が恐る恐る口を開く。
(,,゚,_ア゚)「街は……街はどうなるのですか?」
爪'ー`)y‐「街が人を作るんじゃない。
人が、街を作るんだ。
この場所にあるジュスティアは捨てざるを得ない。
君たちが市民と共に生き残れば、その場所がジュスティアになる。
さぁ、頼んだよ」
そして、生き残った者たちによって生き残るための最後の作戦が始まったのであった。
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/////人ヽハ ヽ二彡 ::::::`==彡'_, レ「ヽ__
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///}. {/ ///// 、::::: ヽ:::'´ ィア .///ハ .| i i i } }
// | ∨{ヽ ∨ヽ ^ヽ=ニ三彡′/}:l i ノ .} |
// | ヽ ヽ ∨ \ ー― ' , l:l/ ,
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同日 午後02:44
550
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:43:04 ID:EB0RZRkQ0
夕方から夜に切り替わる寸前の暗さの中で、ジュスティアでの戦闘は行われていた。
ピースメーカーの北部にある検問所前での戦闘は、最後の一人が倒れたことによって終わりを迎えた。
\(^o^)/「……く……そ」
最後の一人となった男の名前は、オワタ・ジョブズ。
そしてその男に拳銃で引導を渡した男の名前は、ジョルジュ・マグナーニだった。
_
( ゚∀゚)「……」
ジュスティア陸軍の大将であるオワタは指揮官でありながら最後まで戦い、そして最後に死んだ。
軍人の姿勢としては合格だが、結果としては不合格だった。
戦争は結果が全てであり、過程は最後の清算時に手向ける花束みたいなものだ。
陸軍と合流し、ティンバーランドの陸軍との戦闘に参加し、善戦したが決め手となったのは所有している棺桶の質だった。
両者ともに多大な犠牲を出したが、それだけの価値があった。
o川*゚ー゚)o「躊躇がなかったね」
拍手と共に、ジョルジュの背後から姿を現したのはキュート・ウルヴァリン。
彼女の棺桶がなければ、結果は違っていたことだろう。
_
( ゚∀゚)「同郷だろうが、今更躊躇するかよ」
彼女の棺桶で陸軍の主戦力を軒並み無力化し、最後に生き残ったオワタをジョルジュの拳銃で殺したのだ。
棺桶を防衛の要としていたのが災いし、北部の防衛を任されていた部隊はキュートの参戦をもって全滅したのであった。
呆気のない決着だが、もしも彼らが棺桶に頼らず、生身でいたならばここまでもたなかっただろう。
全てはキュートの持つ棺桶の性能と、彼女の特技がもたらした結果だ。
o川*゚ー゚)o「まぁいいさ。
……しっかし、やられたね」
確かに、陸軍を全滅させることには成功した。
だが、彼らが最後に見せた維持は、ティンバーランドにとってはあまり歓迎できるものではなかった。
その点では、完全な成功とは言えなかった。
彼らの視線の先にあるのは、街に通じる検問所の前に積み上がった車輌と棺桶、そして死体の山で作られたバリケードだ。
オワタはそのバリケードの前で両手を広げたまま仰向けに息絶え、無言で地面を見つめていた。
入り口を封じればそれだけで時間稼ぎになることを知っているからこそ、兵士たちは最後にこの形になる様に死ぬ瞬間を決めていたのだ。
戦車や車輌の隙間を埋めるように手をつないだ棺桶が並び、死体が積み重なる姿は、不気味なオブジェそのものだ。
ジュスティア人の持つ矜持こそが、世界で最も邪悪な存在なのかもしれない。
そうでなければ、このような造形のオブジェが世に生まれるはずがない。
o川*゚ー゚)o「動ける棺桶はどれぐらい残っている?」
_
( ゚∀゚)「増援がまだ到着してないから、精々30ってところだ。
生き延びた連中の数を考えれば十分すぎるぐらいだ。
円卓十二騎士が来る前に、このバリケードを退けなきゃならねぇ。
お前も手伝えよ」
551
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:46:26 ID:EB0RZRkQ0
彼らは早い段階で見切りをつけていたのか、検問所の奥に戦車が停められ、砲身を動かし、互いに絡み合うようになっている。
まるで、負けることが決まっていたかの様な手際の良さだった。
o川*゚ー゚)o「断るね。 この先、絶対に私の棺桶の力が必要になる。
少なくとも、ジュスティアへの侵入は私がいなければ成り立たない。
そんなことぐらい分かっているだろう?
さぁ、仕事をしなよ」
この作戦における自分の重要性を知っているだけに、キュートの発言力は絶大だ。
彼女がいなければ作戦の成功はなく、彼女がいなければこの先の作戦が進まない。
_
( ゚∀゚)「……分かったよ」
不満げな態度を微塵も隠すことなくそう言い、ジョルジュは一歩前に踏み出した。
その時である。
<_プー゚)フ『好きにさせるか』
機械の作った声が、どこからともなくジョルジュの耳に届いた。
その声は紛れもなく、円卓十二騎士の一人、ダニー・エクストプラズマンのもの。
棺桶は身に着けていないが、その体には力と怒りが満ちているのが分かる。
ここに到着するまでに時間がかかったのは、恐らくだが移動手段が途中でダメになったか、襲われたかだろう。
彼ほどの実力者が襲われて時間を失うことは考えにくいため、棺桶のバッテリーが切れたことが原因に違いなかった。
o川*゚ー゚)o「おやおやおや!!
そんな恰好でどうしたのかな」
嬉しそうにそう言ったキュートは、両手で部下に手を出さないように指示を出す。
まるで彼の存在が脅威ではないと言わんばかりの行動に、流石のジョルジュも呆れ顔を禁じ得なかった。
手負いとはいっても、円卓十二騎士内でも1、2を争う武術派だ。
女の筋力で勝てる相手ではない。
棺桶の力で円卓十二騎士に勝てても、生身で勝てる道理はない。
電子機器の無力化に特化した棺桶ならば、対人戦闘では意味をなさない。
<_プー゚)フ『お前は、俺が殺す』
o川*゚ー゚)o「やれるものなら、どうぞ。
そう言って、第一騎士は無様に死んだけ――」
<_プー゚)フ『邪ッ!!』
電光石火の加速。
エクストの姿勢は地を這うように低く、迎撃が困難な状況を作り出している。
高速で接近して繰り出したのは足払いとは言い難い、膝関節を狙った強烈な回し蹴り。
関節を狙ったその一撃は、その後に続く連撃の合図。
流れるように繰り出されたその一撃は、まるで嘘の様にキュートの足が受け止めていた。
拮抗する力で的確な位置に、的確なタイミングで放たれた一撃はエクストの動きを完全に止めた。
552
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:46:46 ID:EB0RZRkQ0
o川*゚-゚)o「……まぁ、流石は円卓十二騎士か。
だがこの程度では、私は殺せないぞ」
直後にキュートの放った殺意は、ジョルジュでさえ戦慄を禁じ得ない物だった。
これまでに彼女の存在と実力はあまり気にしたことがなかったが、この攻防で分かったことがある。
o川*゚-゚)o「つまらないな」
腰からいつの間にか取り出した大口径の拳銃の銃腔は、すでにエクストの眉間に向けられていた。
撃鉄は起き、銃爪には指がかかっている。
距離、タイミング、共に回避は不可能。
o川*゚-゚)o「避けてみな」
<_プー゚)フ『なっ……!?』
奇襲などせずとも彼女の実力は――
o川*゚-゚)o「犬は犬らしく、地を這えばいいんだよ」
<_プд゚。゚ ・ ゚『ごっ、あ……?!』
――円卓十二騎士以上。
o川*゚-゚)o「……何をぼさっとしている?
さっさと押し入るぞ」
淡々とそう言い放ったキュートの雰囲気に、ジョルジュは既視感を覚えた。
その正体は、すぐに分かった。
_
(;゚∀゚)「……お前、デレシアと何か関係があるのか?」
その問いに、キュートは無言でジョルジュに冷たい視線を向けただけであった。
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553
:
名無しさん
:2023/07/02(日) 20:48:45 ID:EB0RZRkQ0
同日 同時刻
スリーピース南側では、北側よりも大規模な戦闘が継続していた。
上空からの侵入が不可能と判断したラスト・エアベンダーの大部隊はオセアンからの部隊と合流したが、迎え撃つのはジュスティア陸軍の中でも精鋭部隊。
陸軍、そして海兵隊の大将が判断した防衛の要となる検問所は、南側だった。
オセアンが敵の手に落ちている以上、大規模な増援が可能となる。
対して北側にあるのはシャルラ地方。
数と質を考えれば、南側と比べては危険視する程の物ではなかったのだ。
北側の部隊が全滅したことを知らないまま、南側の兵士たちは地上と上空から襲ってくる敵兵に対して一歩も引かずに応戦している。
だがこの状況は、ティンバーランドの上層部にとっては予定通りの展開だった。
南側での戦闘は突破できれば御の字、戦力を削るのが目的で、もっと言えば時間稼ぎをすることが狙いだった。
更に、もう一つの狙いがあった。
それは、円卓十二騎士を戦場に引きずり出すことである。
( `ー´)「連中の指揮官、見えるか?」
( ノAヽ)「見えないノーネ」
( `ー´)「やっぱり、こいつらは捨て駒じゃネーノ?」
( ノAヽ)「そうだと思うノーネ、兄ちゃん」
バリケードで物理的にも封鎖された検問所を守る最後の要として、スリーピースの頂上部に二人の騎士がいた。
歴代唯一の双子、ネート・グッチとノーネ・グッチである。
第九、そして第十騎士である双子は対物ライフルを使い、遠方から攻撃を行いつつ、敵の指揮官を探し続けていた。
圧倒的な物量に隠された敵の指揮官を見つけ出せれば、戦況を変えられると思ったのだが、それは徒労に終わりそうだった。
数機紛れていた名持ちの棺桶を射殺したが、攻撃の勢いは変わらなかった。
敵味方の死体の数で言えば、間違いなく敵の死体の方が多い。
5度の増援に耐え、4度の挟撃に耐え、3度の自爆攻撃にも耐えた。
それでも、敵の勢いが萎えることはなかった。
まるで馬鹿の一つ覚えの様に攻撃を続け、死体の数を増やしていく。
この勢いが続けば最初に全滅するのはこちらだが、その展開は考えにくい。
いくら敵が無尽蔵の金を持っていたとしても、人員と兵器には限りがある。
( `ー´)「だけど、守るしかないんじゃネーノ」
( ノAヽ)「そうだね、兄ちゃん」
そう言って、二人は深く息を吐き、同時に同じ言葉を口にした。
( `ー´)
『これは語られざる者達の物語。 これは謳われぬ者達の物語。 これは、我らの物語』
( ノAヽ)
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