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Ammo→Re!!のようです

354名無しさん:2022/08/22(月) 21:53:02 ID:uIzofZlI0
そして、ピースメーカーの横腹に巨大な砲弾が直撃した。
一瞬にして爆炎が建物を包み込み、炎の柱と化す。
続けて新たな砲弾が着弾し、建物の半分が吹き飛んだ。
ジュスティアの街の中心にある70階建ての建物が倒壊するのに、5分とかからなかった。






――この日、世界の天秤が大きく傾いた。






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                                γ ⌒ ⌒ `ヘ
                             イ,,,, ""  ⌒  ヾ ヾ
                          /゛゛゛(   ⌒   . . ,, ヽ,,'' ..ノ )ヽ
                         (   、、   、 ’'',   . . ノ  ヾ )
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                      :::::::::::::::::::::( ノ( ^ゝ、、ゝ..,,,,, ,'ソノ ) .ソ::::::::::::::.......::::::
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工___                       ミミ|彡ム-''~~ーv'~ ~:::::;;;::   i-‐i |~~|  |   |
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第十章 【 Ammo for Rebalance part7 -世界を変える銃弾 part7-】 了

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355名無しさん:2022/08/22(月) 21:53:25 ID:uIzofZlI0
これにて今回の投下は終わりです

質問、指摘、感想等あれば幸いです

356名無しさん:2022/08/23(火) 08:33:52 ID:sv/hzXxg0


357名無しさん:2022/08/23(火) 21:00:22 ID:dPAyngWE0
おつ!!
キュートさん兵器に頼ってイキリ倒すとか小物すぎん?
結局自分で殺してないし
しかし一気にやばい展開になったなジュスティア

358名無しさん:2022/08/24(水) 20:27:01 ID:jmrCIGqQ0

円卓十二騎士が来たからって無双できるわけじゃないのが、ティンバーランド組の強さの証明になってるねぇ
相性とかもあるかもだけど、手玉に取られるなんてね
両方に信念があるからやってることはひどいけど、ティンバーランド組も嫌いになれないんだよねぇ〜
ショボンとワカッテマスのキャッキャウフフはいつまで続くのかな?
後、>>323の<::::_/''>『雑魚が集まったところで、何も変わらん』からのくだりすごい好き


>>321
顔を両断するはずだった"一線"を避けた

"一線"じゃなくて"一閃"だね

359名無しさん:2022/08/24(水) 21:18:19 ID:yacQ7iCk0
>>358
ぐわああ!!今回はばっちりだと思ったのですが、まだまだ未熟でした……ありがとうございます!

360名無しさん:2022/08/24(水) 21:21:24 ID:5/LBdX4Y0

ミルナって社長の護衛にいたから幹部クラスかと思ってたけど実力的には円卓以下なのか
今のところキュートとジョーンズが敵の中で頭一つ抜けてる感じだな

361名無しさん:2022/08/24(水) 22:39:15 ID:Gdj.AzkQ0
デレシア無双が始まるのは何時になるやら

362名無しさん:2022/08/25(木) 19:02:19 ID:Ekg3/1ZU0

エクストめっちゃ強くてかっこいいんだけど地の文がずっとダニー呼びなの草

363名無しさん:2022/08/27(土) 16:56:02 ID:vRFXToxQ0
>>360
ミルナはNo.3でキュートより上だった気がする

364名無しさん:2022/10/06(木) 21:42:44 ID:.n.QkDYE0
今度の日曜日にVIPでお会いしましょう

365名無しさん:2022/10/06(木) 22:09:41 ID:9PLqIPyU0
わーーーーーーーーーー!

366名無しさん:2022/10/09(日) 19:40:47 ID:HZj.FCC60
VIPにスレ立てが出来ないので、もうしばらくお待ちください

367名無しさん:2022/10/09(日) 20:39:26 ID:HZj.FCC60
明日駄目ならこちらに投下させていただきます……

368名無しさん:2022/10/10(月) 19:16:14 ID:.jWT7Gas0
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日常にはスキャンダルしかない。
野生にはドラマしかない。
戦場にはスクープしかない。
本当のカメラマンであれば、世界の一瞬を切り取り、世界を揺るがしたいのであれば。

どこを撮影場所に選ぶかは、言うまでもない。

                            ――戦場カメラマン ロンドベル・キャパシティ

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September 25th AM09:17

戦車の搭乗口から見上げる空は、どこまでも澄み渡る青空だった。
無限軌道がアスファルトの舗装路を削りながら進む音がいくつも重なり、本来聞こえてくるはずの潮騒がどこか遠く感じる。
周囲の景色は代わり映えのない緑と茶色の風景で、右手側には遥か離れた場所にある巨大なクラフト山脈がうっすらと見える。
クラフト山脈に近い場所ほど緑が多く、自然が豊かなことが分かる。

重厚で無機質な戦車が奏でる駆動音はそうした景色の中で初心を忘れさせない、一種のBGMとしての役割を担っていた。
通常、戦車は四人で運用する物だが、ティンバーランドが用意した戦車に搭乗する人間は三人で済むようになっている。
操縦士、砲手、そして指揮官だ。
砲弾の自動装填装置があるため、従来よりも一人少なくて済んでいるのだ。

搭乗口には銃座が備え付けられており、装填されている銃弾は対強化外骨格用のもので、生身の人間に当たればたちまち肉塊と化すほどの威力を持っている。
緊急時には一人で操縦と砲撃が行えるなど、操作系統にかなりの工夫がされている。
イルトリアへ進軍を進める部隊の殿を務める貞子・ハンス・ルアゴイフはかつて夫と見上げた青空を思い出していた。
彼と最後に見上げた青空は、ちょうど、今日の様な青空だった。

川д川「ふぅ……」

長い黒髪を風になびかせ、貞子は目を細め、口元を緩める。
夫と見た最後の青空は、故郷の町の外れにある小高い丘でピクニックをした時だ。
手作りのサンドイッチと水筒に入れた紅茶をもって、二人だけで過ごす久しぶりの時間。
見下ろした町の小ささに思わず二人そろって笑い、そして、慈しみを覚えた記憶がある。

翌日、唐突に起きた近くの町との戦争によって彼は帰らぬ人となった。
もしもあの時、イルトリアの傭兵を雇ったのがこちらの町だったら、結果は違っていたのかもしれない。
しかし全ては過去の事。
町と夫を戦争で失った事実に変わりはないが、久しぶりに空を直視することが出来た。

ふと、視線を背後に向けた。
本来そこには遠ざかるニョルロックの街並みだけが見えるはずだったが、一台のセダンがいることに気が付いた。
一般車両の可能性もあるが、彼女はヘルメットについたインカムを使って味方に報告をすることにした。
出発して間もないが、このタイミングが彼女の中に何か嫌な予感を思わせたのだ。

369名無しさん:2022/10/10(月) 19:24:04 ID:.jWT7Gas0
貞子は首から提げた双眼鏡を手にし、運転席を見る。
そこには目の細い男と、眼鏡をかけた男がいた。
眼鏡の男はカメラを首から提げていた。

川д川「“テイルズ”より報告。 セダンが一台、後ろにいます。
     カメラを持った男が乗っています」

先頭を走る荒巻・スカルチノフからの返答は極めて淡々としていた。

/ ,' 3『可能性に悩む手間が惜しい。
   スクープ狙いのマスコミなら死んでも誰も気にしないだろう。
   残念だが、死んでもらってくれ』

あまり残念そうに聞こえなかったが、貞子の腕は微塵のためらいもなくM2重機関銃に伸びていた。
レバーを引いて薬室に確実に弾を送り込む。
上部に取り付けられたダットサイトを覗き込み、ゆっくりと両手の親指でレバーを押そうとしたが、思いとどまった。

川д川「せっかくだから、主砲の練習をします。
     私以外のテイルズ部隊は止まらず、先に行きなさい」

インカムにそう告げると、主砲がゆっくりと回頭してセダンを向いた。
微調整が行われ、いつでも撃てる状態になる。

川д川「ってぇー!!」

戦車砲が火を噴いた。
放たれた砲弾はセダンのやや手前に着弾し、ダメージを与えられていない。
すぐに自動で装填作業が行われ、車外に薬莢が排出される。
即座に砲声が響き、地面を吹き飛ばしていく。

だがセダンは、まるでこちらの狙っている先が分かっているかのように、爆風の殺傷範囲から巧みに離れながら接近してくる。
かなり名うてのドライバーに違いない。
スクープの為に有名人を追いかけまわし、恨みを買うジャーナリストは多い。
その為、ジャーナリストの中にはプロのドライバー顔負けの技術を持つ人間がいると聞く。

戦車隊を尾行するだけの自信がある人間ならば、そういった類の人間であることは十分にあり得る。
再装填が行われる僅かな間に運転手が交代し、セダンが急加速してきた。
何という豪胆。
何という無鉄砲。

戦車相手にセダンで何が出来るというのか。

川д川「骨のあるジャーナリストだねぇ!!
    だけどさぁ!!」

機関銃で相手の進路を制限し、誘導すれば自ずと砲弾に飛び込むことになる。
所詮はジャーナリスト。
信念と実力の天秤が釣り合っていない人間など、恐れる必要はない。
M2重機関銃が火を噴き、次々と弾丸を放っていく。

370名無しさん:2022/10/10(月) 19:24:41 ID:.jWT7Gas0
曳光弾の軌跡と砂の柱が徐々にセダンを追い詰めるが、こちらが苦手とする軌道を知っているかのように回避する。
戦車とセダン、その機動力は全てにおいてセダンに軍配が上がる。
攻撃力ならば負ける気がしないが、いざ回避行動に専念されると厄介だ。
砲撃主と連携した攻撃をしなければ当たる気がしない。

不意に、セダンの助手席から男が身を乗り出した。

川д川「へぇ、ガッツがあるねぇ!!
    おもしろ――」

<ヽ`∀´>凸 ファッキュー

が、男は歯が見えるほどの笑顔で中指を立てて車内に戻った。
たかがジャーナリスト。
人の不幸を食って生きる害虫の類だ。
安い挑発に乗り、本気にするような価値のある相手ではない。

これからこちらはイルトリア軍を相手にするのだから――

川#д川「……野郎ぶっ殺してやる!!」

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                  // ̄ ̄ ̄ ̄ ̄       ==-、、
                //                      ヽ、`∀´>凸
              /´ ̄}//                       ヽ、
           ー-/ `、 ̄ ̄ ̄、 ̄    ――---   __  ヽ´ ̄}
             ∥   `、    丶                ',    ̄\゙く
             .ハ 「ΓΤ二二ニT Tニニ __  ―┬ ┬‐--  ⊥ム
            ∧|ニ=┴‐-- __ ⊥ ⊥二二二 __―| |二ニニl  |
             ∥, |三lニニニコ===「 ̄ ̄_―‐---  ̄ ̄ __ 二ニ=ハ
            || |、|―‐---  ̄二ニ= ┌―===┬-- _ ┘ ̄lニニニコ|
             || |T 、_└┴‐__ ⊥⊥凵      |ΤΤT T   ┬‐ ┘|
          :. Ⅵ{リリリリリ}三≧==≦三二ニ= ┘三二ニ==‐┘_/'リリ
           乂=彡'////          ̄ ̄ ̄ 、=彡'/乂=彡'////
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第十一章 【 Ammo for Rebalance part8 -世界を変える銃弾 part8-】

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セダンのハンドルを握るアサピー・ポストマンにとって、車の運転は歩くようなものだった。
ティンカーベル支社で勤めていたとき、車が最重要の移動手段だったのもあるが、彼がカメラマンを心がけた時に尊敬する人間の言葉が大きな影響を与えた。
スクープは足で稼ぐ、故にあらゆる足に精通しているのが真のカメラマンである。
その為、移動手段となり得る物は一通り動かせるように練習していた。

その努力が今、最悪の形で実を結んだ。

(;-@∀@)「な、何で挑発をしたので?!」

371名無しさん:2022/10/10(月) 19:25:02 ID:.jWT7Gas0
車内に戻ってきたニダー・スベヌは爽やかな笑顔で答えた。

<ヽ`∀´>「え? 面白いからに決まってるニダ。
      そんなことより、ちゃんと写真撮ったニダ?」

(;-@∀@)「こんな状況で撮れるわけないでしょ!!」

必死に声を荒げながらも、アサピーはしっかりとハンドルを握って飛んでくる砲弾と銃弾を避けていく。
心底愉快そうに笑い声をあげ、ニダーは器用にウィンクをして言った。

<ヽ`∀´>「じゃあまたやるから、ちゃんと撮るニダ」

(;-@∀@)「滅茶苦茶怒ってるのにですか?!」

機関銃を持つ女の形相は鬼のそれだ。
ヘルメットからこぼれた黒髪の下に見える目尻は、怒りで凄まじい角度になっている。

<ヽ`∀´>「機関銃の弾は無限じゃないダニ。
      撃ち尽くさせるニダ」

(;-@∀@)「あ、なるほど。
      その後はどうすれば?」

<ヽ`∀´>「戦車の真横に車をつけるニダ。
      それまでは写真を撮って油断させて、とにかく遊んでやるニダ」

(;-@∀@)「分かりましたけど、質問をしてもいいですか?
      このセダン、実は防弾仕様とか?」

バッテリーやシャフトに被弾すれば、車が動かなくなり、的になる。
そして的になれば、生き残る可能性はゼロになってしまうのだ。
ニダーの事だ、きっと何か策を用意しているに違いないとアサピーは期待を込めて聞いた。

<ヽ`∀´>「これが? んなわけないニダ。
      ただのセダンニダ。
      あ、ミラーが取れたから気をつけるニダよ」

ニダーに言われて初めてサイドミラーが失われていることに気が付いた。
銃弾か砲弾の破片か、何が原因かは分からない。
最も恐ろしいのは、それに気づけなかった自分だ。
これがエンジンルーム、もしくはアサピー自身に起きていたらと思うとぞっとする。

(;-@∀@)「ああっ!! ミラーが!!」

<ヽ`∀´>「写真、忘れないようにするニダよ」

そして再び、ニダーが窓から身を乗り出し、今度は両手で中指を立てた。

凸<ヽ`∀´>凸 フルファッキュー

372名無しさん:2022/10/10(月) 19:27:09 ID:.jWT7Gas0
悲しいほどの性で、アサピーはシャッターを切ってその光景を写真に収めた。
ニダーが細工をしていたのか、不必要なフラッシュが炊かれた。
これではガラスに反射して白くなってしまう可能性がある。
しかし、カメラの小型ディスプレイに映った女の顔は色白になってしまったが、その詳細までしっかりと映し出されていた。
  _,
川#゚益゚川

(;-@∀@)「うわ、すげぇ顔……」

表示された女の顔は先ほどとは比べ物にならない形相をしており、正直なところ、直視に耐えかねるものだった。
人は怒りでここまで醜くなるのかと感心すらした。
気が付けば自発的にもう一枚写真を撮っていた。

<ヽ`∀´>「今の良いニダね!!」

(;-@∀@)「見たところ、給弾ベルトの残りは――」

<ヽ`∀´>「――そろそろ始めるニダよ」

言葉と同時、いやさ、それよりも早くアサピーはアクセルを踏み込んでいた。
セダンが急加速し、戦車の真横に向かって一気に走り出す。
だが向こうは完全に油断している。
こちらの目的が写真だと思っているのだ。

ニダーは満を持してその手に拳銃を持ち、再び身を乗り出した。

<ヽ`∀´>「お邪魔するニダ」

そう言ってニダーは戦車に飛び乗り、アサピーはセダンで並走し続けることにした。

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                                   rァヒコ_...  -───ァ冖、
                                     rv    r─rf三|    / fr㍉l
                                    しーrrn─┴ ┴   ̄| 、-ノh
                                  /  川 |  ____________」    !|
                                  ∠二二Ti「 じ       | {こ} 「
                        _厶==、_____レ┴─‐--L仁_    }   __!___j
   y'´  /       `ー─个'´        / ̄ j  /          V´ ̄/
   〈   /                /        /  /  ヽ   ー─、─j }ニ7
    い/ イ  /                    |   ′   }         ̄丁´
   ∨   |            ;′        |   |      ‐──一ァ′
    ヽ                    |   |    ヽ       ノ
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一瞬の出来事だった。
装弾しようとしている隙にセダンが急加速したかと思うと、先ほどまで中指を立てていた男が戦車に乗っていたのだ。
しかもその手には拳銃が握られており、しっかりと銃腔はこちらを向いている。
貞子は戦慄した。

373名無しさん:2022/10/10(月) 19:27:31 ID:.jWT7Gas0
実戦で銃腔を向けられる経験は初めてだったが、生きたような心地のしない嫌な気分だった。
マスコミを装った襲撃者。
完全に油断してしまっていた。

川д川「あんたぁ、謀ったのかい……!!」

<ヽ`∀´>「馬鹿が勝手に誤解しただけニダ」

戦車にとって致命的な展開が一つある。
それは、取りつかれることだ。
ただでさえ戦車は近接戦が不得意であり、近接用の戦闘手段がないのだ。
直上という弱点に取りつかれたが、生身の人間であることが唯一の救いだった。

川д川「何が狙いだい」

しかし、相手が馬鹿で助かった。
すぐに殺さず、こちらが常に無線をつないでいるという可能性を考えていない。
既に全体にこちらの状況は伝わっている。
友軍が助けに来ることを、貞子は確信していた。

<ヽ`∀´>「知りたいことがあるニダ。
      とりあえ……あれ、ちょっと待つニダ……!!
      あれ何ニダ?!」

男が突如として形相を変えて貞子の後ろを指さす。
思わずそちらを振り返ると、そこで意識が途絶えた。
次に目を覚ました時、そこは停車した戦車の中だった。
強烈なライトで目を潰され、次の瞬間には顔に衝撃が三度。

奥歯が折れ、口の中が切れて血の味が広がった。
両手両足は結束バンドの類で拘束されており、自由に動かせない。
椅子に座らされた貞子の上に男が馬乗りになっているため、そもそも抵抗が出来ない状態だ。
仲間は皆、座席付近に血を残してどこかに消えていた。

<ヽ`∀´>「“敵は無力化した”と報告するニダ」

先ほどの男がヘッドセットをこちらに差し出し、そう言った。

川д川「ぺっ」

口の中の血を顔に向けて吐き捨て、拒絶の姿勢を示す。
悲鳴も命乞いもしない。
そんなもの、戦場に足を踏み入れることを決めた人間にとっては弱さの象徴でしかない。
男は顔に付着した唾を指で拭い、貞子の上着で拭いた。

<ヽ`∀´>「困ったニダね。
      ……仕方ないから、1分あげるニダ。
      耐えきれるか、見せてもらうニダよ」

374名無しさん:2022/10/10(月) 19:29:33 ID:.jWT7Gas0
凌辱だろうが、拷問だろうが、貞子には耐えきるだけの自信があった。
夫を戦争で失って以来、彼女は失うことに対して何ら恐怖を抱かなくなったのだ。
最愛を失うことに比べれば、それ以上の痛みはない。
そう、思っていた。

彼女が想定していた痛みは所詮、想像の中の痛みでしかなかった。
男が使ったのはナイフ一本だった。
溜息を吐くようにナイフが一閃し、激痛が貞子を襲う。
こちらに覚悟を与える間もなく右目から光が奪われ、鼻がそぎ落とされた。

悲鳴を上げようとしたが、ナイフが口の中に差し込まれて何もできなかった。
歯茎の根元から右奥歯を乱暴に削り取られ、そのまま右頬が内側から大きく切り裂かれた。
上の前歯の間に刃が差し込まれ、前歯が抉り取られる。
悲鳴を上げた瞬間、ナイフの切っ先が舌を切り裂き、喉の奥に血が溜まってゴボゴボと声にならない音が出る。

次に左頬が右頬同様に内側から切り裂かれ、下唇に男の指が触れた。

<ヽ`∀´>「これで一気に皮を剥げるニダ」

川д川「あがっ……!!」

何か軽口をたたく間もなく、貞子の下顎の皮膚が剥がされた。
顎先まで剥がされた唇が垂れ下がる。
ようやく自分が失禁していることに気づいたが、最早それは些事でしかなかった。
恐怖に耐えるための覚悟の時間もなく、瞬く間に体のパーツを失うという恐怖。

失ったという現実は、あらゆる想像に勝る力を持っていた。

<ヽ`∀´>「ちゃんと話してくれれば、殺しはしないニダ」

川д川「ひっ……ひぐっ……!!」

顔色一つ変えずに淡々と解体作業をするように貞子の体を切り刻むその男は、貞子の下唇を指で弾いてそう言った。
激痛が思考の大半を占め、残りの半分は恐怖で埋まっていた。
意地や誇りの類はどこにもなかった。

川д川「い、い……くそっ……」

言葉を紡ぎきる前に、ナイフが左耳を切り落とした。
思わず体が震えた。

<ヽ`∀´>「次は髪ニダ」

夫が奇麗だと褒めてくれた髪。
それは、彼女にとっての自慢だった。
体の部位が失われるより、その髪を失うことが嫌だった。
唯一彼女に残された思い出を、たった一つの誇りを失うような気がするからだ。

375名無しさん:2022/10/10(月) 19:29:54 ID:.jWT7Gas0
それに気づかれてしまった。
ナイフが髪に触れたその瞬間に体が起こした、あるかないかの僅かな反応。
いや、この男はひょっとしたら最初から気づいていて、最後まで残しておいたのかもしれない。

<ヽ`∀´>「どうするニダ?」

この男はそれを見逃さない。
まるで植物に対して実験をするかのように、こちらの反応を観察しているのだ。

川д川「やめっ……やめろお……」

きっと、生け花にされる花はこんな心地なのだろう。
成す術もなく自分自身を切り刻まれ、相手の望む結果となるしかない絶望感。

<ヽ`∀´>「頭皮ごと剥がすニダ?」

川д川「わぁっ、分かった……分かったから……」

<ヽ`∀´>「……」

だが。
貞子の心は折れていなかった。
この男は気づいていないのだ。
既に味方がこちらの異常に気付き、行動していることに。

ヘッドセットには生体反応を監視する装置が付いており、それが異常な状態を感知した時、即座に味方に共有される。
本来は市街戦ではぐれた味方の安否を確認するための物だったが、今、それが役に立っている。
今の自分に出来ることは時間を稼ぐこと。

<ヽ`∀´>「アサピー!! そのまま先に行くニダ!!
      連中、こっちに気づいたニダ!!」

男が車外に向けて大声で叫ぶ。

「でぇぇ?! 何でぇええ?!」

<ヽ`∀´>「さぁ、それは知らないけどとりあえずこの女にやられたニダ!!
      まぁいいニダ。
      役には立ってもらうニダよ」

自慢の髪を乱暴に掴まれたかと思うと、そのまま首に巻き付けられ、手綱の様に引っ張られた。
首が締まり、呼吸が止まる。

<ヽ`∀´>「ちょっと生け花して、遊んでから追いつくニダ!!」

男の楽しそうな声が聞こえたが、それからすぐに貞子の意識は途絶えていた。

376名無しさん:2022/10/10(月) 19:32:09 ID:.jWT7Gas0
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ヘリカル・アルエフにとって、戦争とは常に被害者を生み出し続ける忌むべき存在だった。
彼女の住んでいた街で起きた内戦は、昨日までの隣人を今日の敵にした。
隣人がショットガンを手に家を訪ねてきた時、ヘリカルは何かの冗談だと思っていた。
彼女の両親が撃ち殺され、自分が凌辱された時でさえ、悪夢を見ているのだと感じていたほどだ。

内戦がわずか二日で終わり、街の人口が大きく減ったが、若い女たちの妊娠率は劇的に上昇していた。
街唯一の産婦人科は堕胎手術を拒否し、別の街で堕胎することさえも規制された。
街から出られないまま、望まれない子供たちが生まれ、人口は回復していった。
言葉ではとても言い表せない屈辱的な日々。

忌々しい存在が体の中にあると思うだけで、死を望むほどだった。
しかし、彼女は死を選べなかった。
殺された人々の存在が、彼女に復讐を望んでいると考えたのだ。
彼女は力を欲し、精神的な強さを求めた。

彼女の覚悟に呼応するかのように、彼女の体は身籠った命を流産させた。
戦争で凌辱された者たちが密かに集まり、復讐に向けた日々が始まった。
自分たちを犯した人間を見つけ、マークし、監視を続けた。
そして街に少しずつ、情報という毒を広めることにした。

毒が街に広まって再び内戦が始まった時、ヘリカルはその手に銃を持っていた。
彼女と共に立ち上がった女たちによって、街にいたほとんどの男たちが殺された。
実に爽快だった。
全てが終わってからは、虚しさだけが残った。

377名無しさん:2022/10/10(月) 19:33:30 ID:.jWT7Gas0
崩壊を待つだけとなった街を救ったのは、内藤財団だった。
彼らは街の体制を変え、内戦の被害者たちへの手厚いサポートを行った。
街に蔓延っていた毒は消え失せ、平穏な日々が戻ったのは、間違いなく彼らのおかげだった。
それと同時に、彼女たちの戦いが無駄ではなかったことが報われたのだと胸が熱くなった。

世界にはまだ多くの戦争被害者がいる。
この世界から戦争が消えない限り、彼女の様な悲しみを味わう人間がいなくなることはない。
街に派遣されてきた貞子と意気投合し、彼女はティンバーランドへと参加することになった。
世界から戦争を無くすための、最後の戦争の為に。

“アンクル”の部隊長としての役割を持つ彼女は、貞子からの連絡が途絶えたことに悪寒を覚え、独断で引き返していた。
部隊長が二人も最後尾に向かうなど、用意されていたマニュアルにはない動きだ。
だが、友人を見捨てるなど彼女にはどうしても我慢できなかった。
確かに今は間違っているかもしれないが、それが正解である可能性もあるのだ。

友情にマニュアルはない。
同様に、同志を思いやる気持ちにマニュアルなど意味がないのだ。

*(‘‘)*「貞子さん、無事で――」

兵員輸送用装甲車の銃座についていたヘリカルは、貞子の乗っていた戦車がこちらに向かってくるのを見つけた。
そして、その主砲の上に乗せられた赤い塊に気づく。
まるで枯れた彼岸花の様に見えたそれは、人間だった。
顔の皮膚を花弁の様に切り裂かれ、頭皮を髪ごと左右に半分剥がされた人間。

戦車の振動なのか、それとも息をしているからなのか、その人間の形を辛うじてとどめた物体は上下に揺れていた。
生きているのならば正に生き地獄だろう。
死んでいるのだとしても、その残虐極まりない処置は人間の所業ではない。
血で固まった長い黒髪が風に揺れているのを見て、ヘリカルは全身に鳥肌が立った。

あれは、貞子だ。
自慢の黒髪を誇らしげに語っていた、ヘリカルにとって母親の様な存在だった貞子だ。
命そのものを冒涜した残虐な所業。
それだけの悪逆に手を染められる人間が、まだこの世界にいることが恐ろしかった。

*(‘‘)*「ひっ……ひどすぎるっ……!!」

あえて主砲に乗せているのは嗜虐的な趣味もあるだろうが、こちらに対する圧倒的なまでの威圧と牽制が目的だ。
怒りと恐怖を掻き立て、指揮系統を混乱させる目的に違いない。
一度装甲車の中に戻り、ヘリカルは同乗する四人の部下に言った。

*(‘‘)*「同志貞子が殺された!!
    敵は戦車一台だが、油断せずに全力で敵勢力を殺すぞ!!」

(::0::0::)「了解!!」

戦車はただの支援用。
イルトリアに攻め入るための要は、当然、強化外骨格だ。
戦車相手でも正面から戦える棺桶ならば、例え体力的に男に劣る女でも互角の殺し合いが出来る。

378名無しさん:2022/10/10(月) 19:33:51 ID:.jWT7Gas0
(::0::0::)『全ては、世界が大樹となる為に』

四人が一斉に起動コードを入力。
車内に取り付けられていたコンテナ内に取り込まれ、装着を終えると、車外に直接姿を現す。
輸送車と連動したこのシステムによって、安全な場所で装甲を身にまとい、即座に出撃することが出来るようになっていた。
対イルトリア戦は速度が命であるのと同時に、一切の妥協を許さないことから生み出されたこのシステムを最初に使うのがよもやこの時になるとは。

ヘリカルも位置につき、コード入力をする。

*(‘‘)*『化け物には化け物をぶつけ――』

しかし、言葉を最後まで言い終る前に装甲車を衝撃が襲った。
装甲車は横転し、ヘリカルはその中で頭部を何度も頭を打ち付けてしまったため意識が朦朧とした。
砲撃を受けたのだと理解するのに、僅かな時間が必要だった。
車外に這い出ると、すでに戦車とジョン・ドゥが戦闘を開始していた。

〔欒゚[::|::]゚〕『あああ!!』

用意した戦車はただの戦車ではない。
イルトリア軍の棺桶との戦闘を想定し、頑強な装甲と強力な火砲を用意している。
こちらの装甲車が横転だけで済んだのは単に当たり所がよかっただけで、もしも直撃していれば今頃ヘリカルの体は車輛と共に爆散していたに違いない。
戦車砲が火を噴き、その直撃を受けたジョン・ドゥが花火の様に飛び散った。

車体に取りついている者もいたが、砲撃の衝撃で振り落とされてしまっている。
だが、砲身に括り付けられている貞子の体はぶらぶらとしているだけで、落ちていなかった。

*(‘‘)*「糞ッ……!!」

横転した装甲車に戻り、棺桶を装着すべく位置につく。
だが、衝撃によって装置が動作を停止しているのを見て、舌打ちをした。
仕方なく対物ライフルを手に戦車に向かって走り出したが、何かに躓いて転んでしまった。
それが、彼女の命を救った。

戦車砲が頭上を通過し、装甲車に直撃。
装甲を貫通した砲弾が車内で爆発し、車体が宙を舞った。
あれでは棺桶用のコンテナもひとたまりもない。

*(‘‘)*「戦車一両で、よくも!!」

棺桶と戦車では、その機動性に大きな差がある。
そのはずなのだが、目の前にある戦車はまるで闘牛のように動き、接近を許さない。
下手に近づけば履帯で踏み潰されるというあまりにも現実的な暴力が目の前にある。
ライフルを構え、ヘリカルは履帯に向けて発砲した。

履帯のつなぎ目を壊せれば、戦車は機動力を失う。
轢殺される心配もなくなる。
後は主砲さえ黙らせればこちらの勝ちだ。

*(‘‘)*「履帯だ!! 履帯を撃て!!」

379名無しさん:2022/10/10(月) 19:34:21 ID:.jWT7Gas0
ヘッドセットに向けて放たれた彼女の指示に、生き残った三人の部下が即座に従う。
履帯の装甲と構造であれば、手持ちの銃の強装弾で破壊できる。
集中して放たれた銃弾により、呆気なく左右の履帯が壊れ、戦車が止まる。
砲塔が回転するのを、味方が強引に止めた。

後は搭乗口から中にグレネードを放り込めば、決着がつく。

*(‘‘)*「油断するなよ、相手を熊だと思え」

――直後、砲塔に乗せられていた貞子の体が爆散した。
周囲に肉片が飛び散り、近くで砲塔を止めていた味方が衝撃で飛ばされた。
爆発物の威力は棺桶の装甲を破壊する程ではなかったが、一瞬の隙を生む。
爆散した貞子の血肉が棺桶のカメラに付着し、即応を妨害した。

<ヽ`∀´>「ハロー」

拳銃を持った男が姿を現したが、相手は生身。
こちらは完全武装だ。
恐れる必要はない。

<ヽ`∀´>σ「お前だけ生きていればいいニダ」

――そう、思っていた。
三体の棺桶が取り囲んでいるのに、男はこちらを見て指をさしてそう言ったのだ。
鮮やかなほどの動きで拳銃がひらめき、銃声が四度。
ライフルを構えていた全員の腕の中で、ライフルが暴発した。

〔欒゚[::|::]゚〕『ひっ?!』

*(‘‘)*「きゃっ?!」

構えてから射撃までの時間はほとんどなく、こちらが体勢を崩し、狙いをつけている隙に全ては起きていた。
どこの所属の人間なのかを考えるよりも先に、ヘリカルはしびれた腕で腰にあるはずの拳銃をまさぐっていた。
棺桶三機では勝てないかもしれないと、瞬時に判断してしまったのだ。
ライフルを失った棺桶はそれでも、人間を殴り殺すには十分な力を持っている。

〔欒゚[::|::]゚〕『多少はやるようだが!!』

<ヽ`∀´>「さっさとするニダ」

男は戦車の上に仁王立ちになり、圧倒的不利な状況にあるにも関わらず、あまりにも大胆すぎる態度だった。
思わず、ヘリカルの口から言葉が漏れ出てしまう。

*(‘‘)*「馬鹿かこいつ……」

〔欒゚[::|::]゚〕『なめるな!!』

〔欒゚[::|::]゚〕『死にたがりがよ!!』

380名無しさん:2022/10/10(月) 19:34:45 ID:.jWT7Gas0
キャサリン・ブブラサーモンとフィージー・ニッケージの二人が、声を荒げて男に飛び掛かった。
二人は共に戦争で男に対して恨みを持っており、戦闘訓練には積極的に参加し、イルトリア軍出身の教官からは高い評価を得ていた。
彼女の率いる部隊の中でもその実力は五指に入る。
ライフルを失ったとしても、彼女たちには徒手がある。

<ヽ`∀´>「あ〜、これニダよ……」

男が何事かを口にし、溜息を吐いたように見えた。
逃げ道のない戦車の上で、何が出来るというのか。
空を舞う燕の様に素早く接近した二機のジョン・ドゥの攻撃は、だがしかし、男に当たることは無かった。
男はネコ科の動物を彷彿とさせるしなやかな体捌きでそれまでいた場所から地面に転がり、その途中で二発の銃弾を放った。

一瞬の出来事だったが、その一連の動きはヘリカルの目に鮮烈に焼き付いてしまった。
あまりにも美しい動きは例え戦場で殺し合いをしている最中であっても、こちらの心を奪ってしまうのだと、教官が嘯いていたことを思い出した。
それはイルトリアではなくタルキール出身の人間で、その武術は組織内でも極めて上位の腕の持ち主。
しかし、その教官よりも遥かに洗練された動きに、ヘリカルは羨望に似た絶望を覚えた。

*(‘‘)*「なん……」

着地と同時に銃腔はロキシー・デキシーの頭部を正確に撃ち抜き、直立したまま絶命させた。
瞬く間に三機の手練を殺した男は、準備運動を終えたばかりの様に息一つ乱さずにヘリカルを見つめた。

<ヽ`∀´>「情報、話してもらうニダ」

細い目の奥にあるどろりとした黒い感情の炎に、ヘリカルの全身は硬直した。
脚は震え、指先から血の気が失われていく。
結果がどうなるのかは、想像しなくても容易に分かってしまった。

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381名無しさん:2022/10/10(月) 19:35:17 ID:.jWT7Gas0
同日 AM11:30

無限軌道の巨大さから想像は出来ていたが、その振動はこれまでに経験したことのないほど巨大な地震を思わせた。
足元から、天井から、そして壁から。
あらゆる場所が振動し、共振し、地鳴りよりも酷い騒音に包まれた空間。
鋼鉄と熱が溢れたその空間は街を攻撃目標とした対都市攻略用強化外骨格、“ハート・ロッカー”の内部だった。

高層ビル並みの高さを有するそれが砲撃するたび、内部は巨大な手によって振り回された壺の様に全てが揺れた。
優れた身体能力を有するアスリートでさえ、その空間では通常の力の三分の一以下しか発揮できないだろう。
現に、イルトリアとジュスティアが誇る高い身体能力を持つ諜報員たちが四苦八苦しているのを見れば納得のいく話だ。
二人が特に苦戦していたのが、物理的に足場が失われる瞬間だった。

どれだけバランス感覚や腕力に優れた人間でも、足場がなければその力は本来の一片すら発揮できない。
移動するだけでも一苦労だが、入り組んだ迷路のように狭い空間が何よりも二人を苛立たせた。
血管の様に張り巡らされたケーブル類はどれも分厚い外皮で守られ、その内側は鋼鉄の被膜で保護されている。
ギン・シェットランドフォックスとハロー・コールハーンがハート・ロッカー内部で行う予定だった破壊工作は、未だにその兆しが見えていなかった。

砲撃が始まっている段階で、彼女たちの任務は完全な形での遂行は不可能となっていた。
この規模の失態は彼女たちの長いキャリアの中でも初めてのものであり、この上ない屈辱を感じていた。
しかし、屈辱を味わってはいたが、冷静さを失いはしなかった。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「見当たらんな」

ハハ ロ -ロ)ハ「次の砲撃までの間があるということは、何かしらの変化があったんだろうナ」

使える武器は道中で手に入れた高周波振動のナイフだけだが、何もないよりかはいい。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「胸部、もしくは腰の部分までのルートがないとなると、厄介じゃな」

天井が低いのは幸いだが、その天井の奥にある物が分からない。
迂闊に高周波刀で切りつけ、火花が引火するようなことがあれば元も子もない。
ハート・ロッカーの無力化とは砲撃能力の無力化であり、次いで機動力の無力化だ。
このハート・ロッカーの動力がニューソクなのは間違いないが、それ以外の何かが組み込まれているかは分からない。

脚部に侵入してからまだ何一つとして任務遂行に必要なことが行えていないのは、間違いなくハート・ロッカーの構造が関係している。
恐らくだが、再構築の際に侵入者対策に複雑化したのだろう。
完全に独立した設計なのであれば、一度外に出て改めて胴体への侵入を試みなければならない。
既に脚部のエンジニア達の居場所は確認しており、いつでも尋問が可能だ。

彼女たちが探索した脚部は全体の半分ほどの面積を有しており、100メートルほどの高さを持つビルを探索するのに等しい労力と時間が必要だった。
その中でエンジニア達を見つけられたのは重畳だったが、ここで彼らを殺したところで、メンテナンス担当程度の存在だったのであれば無駄に警戒心を植え付けることになりかねない。
情報を聞き出すのもそうだが、制圧するのに要する時間は極めて短い間で完結させる必要がある。
確認しただけでも10人はいた。

一人でも殺し損ねれば、二人がここに閉じ込められて任務が失敗する可能性は大いにある。
万が一に備えて二人は念入りに調べ、そして、結論を出した。

ハハ ロ -ロ)ハ「外に出て、砲塔を使えないようにするしかなイ」

382名無しさん:2022/10/10(月) 19:35:44 ID:.jWT7Gas0
内部からの制圧が困難、あるいは時間がかかるのであれば、直接的に手を下すのが正解と言える。
爆発物がないため、ニューソクを破壊するのが最短かつ確実だ。
だがそれは、二人とも命を落とすという結末に縛り付ける行為でもある。
別の手段を模索している時間があればいいが、すでに砲撃が始まっている現実が、覚悟を決めさせた。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ニューソクを爆発させるか、砲弾を誘爆させるしかないのぅ」

ハハ ロ -ロ)ハ「そのどちらもどこにあるのか、どうやって保護されているのかが問題ダ。
       ニューソクが脚部にないということは、上半身のどこかだろうナ。
       砲弾は訓練の動きから察するに、外ダ。
       ……隠密作戦はもはや意味がなイ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「同感じゃ。 大暴れして、最後に花火を上げるのも悪くはないな」

それが意味するところを、ハローは理解していた。
どちらの手段を取るにしても、結果としてこのハート・ロッカーは大規模な爆発を生み出すことになる。
砲弾に誘爆させたとしても、結局のところニューソクが爆発することになるのは明らかだ。
つまり、派手な葬式が待っているということだった。

ハハ ロ -ロ)ハ「なら、最後まで付き合ってもらうゾ」

正義の為に働き続け、汚れ仕事を請け負ってきたハローの人生が今日、ここで終わる。
そのことに対してハローは微塵も後悔の念を抱いていなかった。
いつかは死ぬ日が来ることは分かっていたし、何より、後悔をしないためにこの仕事をしているのだ。
これまでに汚した手は、何も己の命惜しさにではない。

円卓十二騎士として得た“影法師”の名は、決して伊達ではない。
影で生き、影で死ぬ。
それは今彼女の目の前にいるギンも同じだ。
相対する街で似た役割を担う彼女もまた、同じような生き方をしてきた人間。

覚悟など、とうの昔にできているのだ。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「もとよりそのつもりじゃ。
       と、なればじゃ。
       ここに味方を近寄らせるわけにはいかんな」

ハハ ロ -ロ)ハ「ティンカーベルで報告されたあの規模の爆発は、流石にナ。
       私が爆破させル。
       通信手段を奪って、味方に連絡を入れてから合流しロ。
       間に合わなかったらその時は諦めるんだナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ジュスティアはいいのか?」

ハハ ロ -ロ)ハ「この作戦は私単独でやる予定だからナ。
       お前は部下を待機させているんだろウ?」

383名無しさん:2022/10/10(月) 19:39:10 ID:.jWT7Gas0
イ从゚ ー゚ノi、「あぁ。 じゃが、こちらの状況を伝えておく程度じゃ、すぐに済む。
       一度外に出ないと電波が拾えんが、増幅器の類がないか探してみる。
       ダメなら外で通信する」

ハハ ロ -ロ)ハ「分かっタ。 すぐに来イ」

二人はそこで分かれ、それぞれの行動に移った。
ギンが向かったのはエンジニア達が集まる一種の通信室だった。
脚部には常時数人のエンジニアが点検の為に巡回しているが、その部屋を中継地点にしているのはほぼ間違いない。
一網打尽にするのであれば部屋に集まっているところを狙えばいいし、巡回している人間は個別に殺せばいい。

跫音一つさせずに進むギンの姿は、正に暗闇を歩く一匹の黒猫の様に静かで優雅だった。
道中で見つけた部屋の扉を開き、僅かな隙間から中に侵入した。
逆手に構えた大振りのナイフが天井の明かりを反射し、光の尾を残してその場に居合わせた3人のエンジニア達を襲い始める。
ギンの姿を目視した唯一のエンジニアは、耳を境に頭部を上下に両断された。

(::0::0::)「にゃっ……」

そのまま手放されたナイフはギンに背を向けていた男の後頭部に突き刺さり、壁に縫い付ける。
最後の一人は物音に気付いてようやく振り返り、ギンの放った金的を食らい、そのまま天井に頭を打ち付けて即死した。
部屋の中にはDATが2台並び、画面にはハート・ロッカーの全身像が青色の線で表示されている。
そこに細かな数字が表示され、細かな制御が行われていることが分かる。

だが、恐れていた通りの事態が起きた。
目の前のモニターの脚部に赤い文字で警告文が出たのである。
そこには短く、生体情報喪失、とあった。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「なるほどな」

侵入されることを想定し、それぞれの作業員に生体情報を発信する装置を付けていたのだ。
つまり、彼女たちがここに来ることを予期していた。
今は術中にあると言っても過言ではない。
DATを使ってハート・ロッカーの制御を狂わせようとしたが、直後にモニターが黒くなり、一切の操作を受け付けなくなった。

端末にナイフを突き立て、二台とも破壊する。
異常事態に対応するための処置としてか、ハート・ロッカーの移動が停止した。
これで僅かでも時間稼ぎが出来ればいいのだが。

イ从゚ ー゚ノi、「通信装置は上か」

死体の耳にはインカムがついている。
大きさから察するに、それは内部での通信用の物だった。
砲撃を担当する人間のいる場所に通信装置があるのは間違いない。
制御装置の類を壊したいところだったが、そのコントロール権は恐らく別の人間に譲渡されたはずだ。

DATを脚部に二台も用意できるだけの資金と備え、そして転用するための技術と知識を持つイーディン・S・ジョーンズがいればそれは自明の理。
味方への連絡手段を手に入れるには、上に行くしかない。
ギンは溜息を吐き、部屋を出た。
その時だった。

384名無しさん:2022/10/10(月) 19:39:31 ID:.jWT7Gas0
鈍い金属音が空間全体に響き渡った。
地響きや無限軌道のそれとは異なる音。
優れた聴力を持つ彼女の耳が聞き取ったそれは、まるで呼吸のように思えた。
更に、その音に紛れて聞こえたのはハローの荒い息遣い。

急いで音の方に向かうと、そこには――

/◎ ) =| )

ハハ ロ -ロ)ハ「ぐっ……ぬ……!!」

――灰色の強化外骨格が、ハローの首を絞めようとしているところだった。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「しっ!!」

強化外骨格の膂力と人間の膂力とでは、桁が違う。
ハローの腕がかろうじて相手の攻撃を封じていたのは、決して奇跡の類ではない。
二本の腕を使って首を絞めようとすると、体格差によってその可動域が限定される。
彼女が行ったのは相手の末端を狙うこと。

首を絞めようと伸びてきた両腕の中指を的確にとらえ、それ以上相手との距離が縮まらないようにしているのだ。
時間が経てば破れる状況だが、今は違う。
疾風のように駆けたギンは名も知らない強化外骨格、即ち棺桶の死角となる両者の間からその頭部を強襲したのである。
合金が仕込まれたブーツの踵が杭打機の様に正確に顎を捉え、大きく揺さぶった。

棺桶はカメラの関係で一部の例外を除き、人間の頭部は棺桶の頭部の位置にある。
故に急所として絶対的な位置を確立しており、生身で棺桶を相手にする時には真っ先に狙う場所だった。
そして、顎という末端を的確に狙い打った一撃は、その奥にある生身の脳を揺さぶるのに十分な威力を発揮したはずだ。

/◎ ) =| )『む……う……』

その場からハローが離れたのを確認する間もなく、ギンは不安定な地面を強く蹴り、相手の顎に対して追撃を加える。
脳震盪を誘発すれば時間を稼げる。
ここで無理に戦う必要はない。

/◎ ) =| )『なんてな!!』

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「なっ?!」

伸びてきた腕を辛うじて回避し、ギンは構えを取る。
大きさから分かるのはBクラス。
この狭い空間での戦闘は行えるが、決して利があるとは言えない。
問題となるのは、どうしてその巨体でハローを襲うことが出来たのか、という点だ。

ハハ ロ -ロ)ハ「気をつけロ!! そいつは――」

385名無しさん:2022/10/10(月) 19:42:28 ID:.jWT7Gas0
――ギンはハローの言葉とほぼ同時に、その謎が理解できた。
相手の下半身がなく、まるで魔法の様に壁に張り付いていたのである。
恐らくは磁力を利用して金属に張り付き、移動する構造なのだろう。
それならば、配管の一部として擬態し、ハローを待ち伏せして襲うことが可能だ。

頭部に与えたダメージが効いていないのは、人体の構造を無視したその棺桶に秘密があるのは間違いない。
恐ろしいほど静かに、そして素早く二人から距離を取ったその棺桶は、両肘から蒸気を噴射し、構えを取る。
素人の構えだが、金属の塊が襲ってくると考えれば楽観視はできない。
しかも、壁を移動できるということは、天井も移動できるということ。

ハート・ロッカーの中は全て相手の道であり、そこに上下の制限はないのだ。
狭い空間で正面から襲われでもしたら、無傷では済まない。
ここで殺さなければ、後々の面倒になる。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「こいつの面倒は任せろ。
       すぐに追いつく」

ハハ ロ -ロ)ハ「分かっタ」

ハローがその場から駆け出そうとした時、灰色の棺桶が動いた。
まるで蒸気の力を溜めていたかのように、一気に壁を移動してきたのである。
しかしあまりにも直線的な移動。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ワシが面倒を見ると言うたじゃろうに!!」

ギンは笑顔でそれを迎え撃つ。
構えから察していたが、棺桶の性能に頼った素人のそれだ。
恐れる必要があるのは棺桶の性能だけ。
考えなしに突っ込んでくる馬鹿の思考を恐れる必要はない。

武術を身に着けた馬鹿ならまだしも、そうでない馬鹿であれば、殺すのは容易い。
無論、疑念がないわけではない。
脳震盪不可避とも言える一撃を二度受けながらも、その動きにはまるで影響が見受けられない。
その点を踏まえ、ギンは間接的に人間に攻撃を加えるのではなく、直接的な攻撃に転じるしかないと判断していた。

使用できる武器も時間も限りがあるため、より短時間での決着が望まれる。

/◎ ) =| )『ラララアアアイイイ!!』

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ちぇいっ!!」

蒸気を噴出させて加速した巨椀がギンの体を捉え、頭部を水風船のように破裂させて即死させる。
一瞬、その幻像が相手のカメラには映ったことだろう。
ギンの使用する棺桶、“グランドイリュージョン”は先刻よりすでに相手のカメラに干渉し、幻像を見せていた。
真逆の方向に向かって攻撃を加えた相手の背後に飛び乗り、高周波振動ナイフを頚椎に突き立て、一気に首を切り落とした。

386名無しさん:2022/10/10(月) 19:42:50 ID:.jWT7Gas0
だが、ギンは奇妙な手応えに眉を顰めた。
人間の首を切り落としたにしては、あまりにも軽い。
そして実際に、噴出するはずの血がないことがこれまでの疑念に答えを出した。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ちっ……!!」

コンマ数秒の逡巡。
そして、刹那の判断がなければギンは命を落としていたに違いない。
関節の可動域を無視して、背中に向けて伸びてきた二本の腕を避ける。
飛び退き、着地したギンが首の切断面に見たのは人間の両目だった。

(^J^)「ゲームオーバーかぁ……」

まだあどけなさの残る、少年と言っていい年頃の顔立ちをしている。
棺桶を使う時、その規格と体格が見合わないことがある。
体格が最低基準に満たない場合、それを補助するための器具があるが、それが使われることは非常に珍しい。
特に、成人男性よりも頭一つ分大きい程度のBクラスでそれを使うことなどまずない。

着地とほぼ同時に投擲したナイフに額を貫かれ、呆けた顔のまま死んだ少年に近寄る。
下半身が壁に張り付くには、当然、そこに下半身があってはならない。
考えられる可能性は、ただ一つ。
脳の一部が付着したナイフを抜き取り、それを使って魚を解体する様に手早く装甲を切り開く。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……なるほどのぅ」

そこにあったのは、四肢のない少年の体だった。
人体の構造を無視した動きも、その構造も、これで説明がつく。
最初から四肢がなければ、人体の制約に囚われない動きが出来る。
棺桶の復元においても、下半身が失われた物を利用できるという大きなメリットがある。

デメリットは、生身よりも繊細さに欠けた動きになるという点ぐらいな物だろう。
無論、通常以上に使用者の力量に左右されるという点については言うまでもない。
この一機だけがハート・ロッカーに配備されているとは考えにくい。
各要所の防御と整備の補助が目的だろうか。

いずれにしても、狭い空間で動きに制約を受けにくい設計をしている棺桶は厄介だ。
例えその技量が糞の様なものだとしても、逃げ場が制限されてしまう以上は、環境が向こうの味方をしてしまう。
残り何体いるのか、それが気になるところだが、まずは目的の達成が最優先。
こちらに向かっているであろう増援に対して警告をしなければ、余計な犠牲と手間を生み、そして時間を失うことになる。

ハローの後を追い、ギンは外の空間へと急いだ。
道中、不運なことに出会ったエンジニアを撫でるように殺し、ほどなくしてハート・ロッカーの外に通じる扉を開くことが出来た。
目に飛び込んできたのは、荒野。
澄んだ青空、そして純白の入道雲。

387名無しさん:2022/10/10(月) 19:43:24 ID:.jWT7Gas0
押し開いた気密扉の向こうは、信じられないぐらいに澄み切った夏の空気と空が広がり、一瞬の間戦争を忘れさせるほどの物だった。
無限軌道の頂上部、胴体との接合部は平面な空間が広がっている。
胴体の正面を除いてハート・ロッカーを覆うような形の空間の端には、整備中の転落防止のためか柵が設けられていた。
見渡しても、ハローの姿はなかった。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「もう行ったのか…… いや、違うか」

それにしては早すぎる。
風の音に混じった彼女の音を探る。

ハハ ロ -ロ)ハ「らあっ!!」

金属が砕ける音とハローの雄叫び。
それは、ギンの頭上から聞こえてきた。
音の方を見ずに、ギンはその場から跳躍して離れた。
目の前に何かを抱いて落下してきたハローは、流れるような受け身をとって落下のダメージを軽減。

高さのダメージを一身に受け、装甲に半ばまで埋まっているのはやはり下半身のない棺桶だった。
より正確に言えば、両腕も失った棺桶だ。

(十)『ぎ……ギ……!!』

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「さっきの奴な、四肢のないガキじゃった」

ハハ ロ -ロ)ハ「こいつは小人症ダ。
       胴体に入ろうとしたら襲ってきタ。
       やっぱり金属部分に張り付いていやがっタ」

共通点は体の小ささだ。
狭い空間内での戦闘を有利に進めるためには、どうしても体格がネックになることがある。
規格外の体型をしている人間は、そうした場所でも戦うことが出来る。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ということは、各所にこいつらがいるということか。
       面倒じゃな、正直」

ハハ ロ -ロ)ハ「今の内に通信をして、作戦を進めロ。
        このクソガキは私が処分すル」

(十)『だ……く……キ……だ……!!』

息も絶え絶えに紡がれたその言葉を、ハローは最後まで聞くことは無かった。
元より四肢がなく、その上両腕を切断された強化外骨格など、恐れることは無い。
乱暴に引きずりながら、二人はどこかへと消えた。
尋問と掃除をハローに委ね、ギンは無線機を起動した。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「本部、聞こえるか? こちら火狐0」

388名無しさん:2022/10/10(月) 19:43:49 ID:.jWT7Gas0
『こちら本部。 火狐0どうぞ』

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ハート・ロッカーはニューソクで動いておる。
       それを爆破して無効化する故、友軍へは別の指示を」

『本部了解。 すでにそちらに向かっている部隊がいるため、指示を出す』

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ワシの部下にも同様に指示を頼む」

『了解』

これが生涯最後の通信になるとしても、両者ともに感情を出すことは無い。
任務が始まった時から、いつ命が失われても不思議ではないことは覚悟の上だ。
イルトリアの前市長が率いた“ビースト”の一人だとしても、それは例外ではない。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「よし」

ハハ ロ -ロ)ハ「こっちも終わっタ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「早いな。 どうやって捨てた?」

ハハ ロ -ロ)ハ「関節部に頭から詰めておいタ。
       ハート・ロッカーが動けば潰れるようにしたから、少しは時間稼ぎが出来ル」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ははっ、流石じゃな。
       さぁて、山登りを始めようかの」

ハハ ロ -ロ)ハ「どっちかと言えば、墓穴を掘る作業だがナ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「確かにそうじゃな。 ここがワシらの墓になるんなら、もう少し豪華にしてやろうか。
       いや、棺桶といったほうがいいのか」

ハハ ロ -ロ)ハ「お前と一緒に死ぬだけならまだしも、同じ棺桶に入るなんて思ってもみなかっタ。
       ……だが悪い気はしなイ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「あぁ、悪くないな。 さぁ、ワシらの葬式を始めるかの。
       ド派手な奴をな」

二人はかつて意図せずに行った共同作戦の日に一瞬だけ思いを馳せたが、それはコンマ数秒の事。
任務を遂行するため、二人は先を急いだ。

389名無しさん:2022/10/10(月) 19:45:21 ID:.jWT7Gas0
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同日 AM11:45

高高度を飛ぶヘリコプターに通信が入ってきた時、すでにニョルロックが目前に迫っていた。

ミ,,゚Д゚彡『予定変更だ』

それは、イルトリア市長、フサギコ・エクスプローラーの声だった。
背後からは爆発音や発砲音が聞こえており、イルトリアでも戦闘が始まったことを如実に物語っている。
答えたのはトラギコ・マウンテンライトだった。

(=゚д゚)「だろうな。 で、どんな変更ラギ?」

作戦が全て予定通りに進むことは無い。
刑事としての実戦経験が多い彼にとって、予定の変更は逆に予定通りとも言える。

ミ,,゚Д゚彡『ハート・ロッカーは既に起動し、ジュスティアに砲撃をしている。
     破壊工作として取れる手段がニューソクの破壊に伴う爆破になった。
     トラギコ、お前はジュスティアで支援をしてほしい。
     やつらの拠点についてだが、心配ないとのことだ』

トラギコの任務、もとい、役割はハート・ロッカーの無力化だった。
事前に潜入している人間は、イルトリアとジュスティアを代表する工作員。
“茶会事件”の当事者同士ということもあって、その力量は計り知れない。
しかし、ハート・ロッカーの起動と砲撃は彼女たちの任務が予定外の形で動いてしまっていることを物語っている。

そしてイルトリアの市長が当初の予定と違ってジュスティアに戦力を割くことを指示するのは、更に予定外の事が起きていることを意味している。
つまり、ジュスティアに何かが起きたのだ。
彼にとってジュスティアは故郷であり、彼の守るべき場所の一つでもある。

390名無しさん:2022/10/10(月) 19:45:44 ID:.jWT7Gas0
(=゚д゚)「……分かったラギ。
    ジュスティアの現状は分かるラギか?」

ミ,,゚Д゚彡『正直に言うと、非常にまずい。
     戦艦とハート・ロッカーの砲撃で被害がかなり出て、上陸して攻め込まれるのは時間の問題だ。
     ピースメーカーは砲撃を受けて崩落、別の場所では円卓十二騎士が一人死んだ。
     第一騎士だと聞いている』

円卓十二騎士の第一騎士、シラネーヨ・ステファノメーベルは紛れもなく実力者であり、歴戦の猛者だ。
最古参でありながらその力量は衰えを知らず、ある種の伝説と言ってもいい次元にいた存在。
その彼が、死んだということはにわかには信じがたいが、受け入れなければならない現実だ。
敵の備えは、こちらが想像している以上の物なのだと再認識しなければならない。

トラギコが最も驚いたのは、ピースメーカーの崩落だった。
スリーピースと同様にジュスティアを象徴する物であり、それが崩落することの街全体への影響は計り知れない。

(;=゚д゚)「市長は?」

市長であるフォックス・ジャラン・スリウァヤは、その執務室をピースメーカーに設けている。
彼が耄碌しない限り、この状況下でも執務室にいたはずだ。

ミ,,゚Д゚彡『ピースメーカーにいたことは確認されているが、その後は分からない。
     だがあいつは保険をいくつかかけていた。
     その保険の一つが、お前だ。
     民間人の避難を完了させる為に、働いてほしいそうだ』

(=゚д゚)「スリーピースがある以上、避難はそう簡単に行かないラギよ。
    ありゃあ檻みたいなものでもあるラギ」

外部からの攻撃、侵略に対して有効なスリーピースではあるが、内側から外に出る道は限りがある。
早期段階での市民の避難が行われていれば別だが、ジュスティア地下に存在するシェルターに避難させるのがこうした場合のセオリーだ。
逃げ出した市民を狙われるのを避けるのが目的だが、何より、それによって開いた出口から敵が侵入してこないとも限らない。
避難民に扮した敵の内通者がいれば、その出入り口を開いた状態にされることも考えられる。

ミ,,゚Д゚彡『普通はそうだ。 だが言った通り、保険がある。
     一度に避難できる人数には上限があるから、それを何度実行できるかが問題だ』

(=゚д゚)「保険? 俺以外にも保険があるラギか?」

ミ,,゚Д゚彡『あいつが用意した保険は複数ある。
     世界最長の街がその一つだ』

世界最長の街。
それはつまり――

(=゚д゚)「エライジャクレイグ……?!」

鉄道都市であり、世界最長の都市でもあるエライジャクレイグ。
スノー・ピアサーを始め、テ・ジヴェなどの多くの列車を持つ街だ。
確かに内藤財団の介入を受けていない街の一つだが、この状況下で手を貸してくれるというのは驚きだ。

391名無しさん:2022/10/10(月) 19:47:15 ID:.jWT7Gas0
ミ,,゚Д゚彡『地下鉄を使って、可能な限り乗せて移動させるそうだ。
     だが奴が危惧しているのは、別件だ。
     内部からの突破、それを恐れていた。
     だからトラギコ、内外に精通したお前が必要なんだそうだ』

(=゚д゚)「まぁ、俺は大丈夫ラギ。
    でも、そうするとデレシアは?」

もう一人の乗客であるデレシアを見て、トラギコは言った。
話を振られた本人はまるで表情も態度も変えず、トラギコの視線に対して笑みと共に答えた。

ζ(゚ー゚*ζ「私はニョルロックで降りるわ。
       適当な移動手段を見繕って、それから目的地に向かうだけだから」

恐らく、トラギコが初めて見た時と同じ服装。
カーキ色のローブ――腕を通す穴とフードが付いた特殊な物――と、通気口の付いたデザートブーツ。
豊作を確信する程の黄金色を思わせる金髪の下にある、空色の瞳。
化粧を一切必要とせず、その生のままで圧倒的な美貌を保有している。

しかし、もしも幾度も命のやり取りをしたことのある者であれば、その全身が醸し出す恐るべき気配に気づけるはずだ。
近づけば命がない、という確信。
白熱化した鉄、轟く雷鳴、荒れ狂う嵐の海。
それこそが、トラギコの持つデレシアという女に対する印象だった。

(=゚д゚)「ってことで、こっちは問題ないラギ」

ミ,,゚Д゚彡『負担をかけるがが、よろしく頼む』

直後、ヘリが機首を下に向けて一気に降下を始めた。

(=゚д゚)「そっちは大丈夫ラギ゙か?」

ジュスティアが苦戦している今、イルトリアが無事である保証はない。
世界最強の軍隊を保有していると自負していても、圧倒的な物量を前にしては無傷ではないだろう。

ミ,,゚Д゚彡『あぁ、こっちは気にするな。
     だが、砲撃がこっちに向けられると困る。
     これ以上奴らを勢い付かせたくない』

フサギコの懸念も現状も、今の一言で十分にトラギコに伝わった。
苦戦をしてはいないが、楽な戦いをしているわけでもないのだろう。
敵にとっての安全圏内から致命的な攻撃を仕掛けてくる相手など、厄介以外の何物でもない。
長引かせればそれだけこちらが不利になる。

(=゚д゚)「まぁ、ジュスティアは俺に任せてくれていいラギ」

ミ,,゚Д゚彡『フォックスの事は気にせず、思い切りやれ。
     あいつなら大丈夫だ』

392名無しさん:2022/10/10(月) 19:48:37 ID:.jWT7Gas0
その言葉は慰めの類ではなく、まるで、目の前にある事実を述べているかのように自信と確信に満ちていた。
しかし、例えフォックスが優れた人間だとしても、生身で物理的な打撃による致命傷を克服できることはない。
他にも落下による衝撃など、自然の摂理に反することは誰にでも無理なのだ。

(=゚д゚)「ピースメーカーが崩落したんだったら、流石に楽観視は出来ないラギよ」

ミ,,゚Д゚彡『それでも、だ。
     なぁに、俺を信じろよ。
     あいつのことはお前よりもよく知ってるんだ。
     さて、ここから最短でジュスティアに向かうには、どうしてもクラフト山脈を越える必要がある。

     燃料を少しでも節約するために、低空飛行に切り替えることになるが、敵の攻撃が予想される。
     どうにかしてくれ』

高高度を飛ぶためには、どうしても推進力である燃料が必要になる。
ローターで飛ぶためには空気が必要であり、高度が上昇するにつれてそれは薄くなってしまう。
その為、ある一定の段階でヘリは上昇することが出来なくなってしまうのだ。
先ほどまで飛行していたのは、積載した燃料を燃やして推進力を得ていたにすぎない。

クラフト山脈を越えるためには燃料が不可欠。
敵が対空部隊を用意していたとしたら、かなり嫌な状況になる。

(=゚д゚)「予想されるっていうか、もう確定しているんじゃないのか?」

ミ,,゚Д゚彡『まぁな。 偵察部隊からの報告で、ニョルロック周辺に攻撃ヘリが複数確認されている。
     ライフルは持ってるだろう? それでどうにかしてくれ』

(=゚д゚)「それ以外の選択肢がないんだったら、そうするラギ」

手元にあるライフルならばヘリを落とせるが、そのためにはかなりの技量が必要になる。
果たして揺れるヘリの中から当てられるだろうか。
その問題に目を瞑れば、問題はないと言ってもいい。

ミ,,゚Д゚彡『ははっ、上出来だ』

頼もしく笑ったフサギコの声に、トラギコもつられて薄く笑った。
状況は良くはないが、悪くもない。
戦争は始まったばかりなのだ。

ミ,,゚Д゚彡『……それと、デレシア。
     ブーン達は無事に奴らの航空機に乗り込んだ。
     そこから先は分からん。
     何せ連絡をくれたのは、あー、なんだ』

それまで一度も言い淀むことのないフサギコだったが、僅かに躊躇いの様な間を挟んだ後、続けた。

ミ,,゚Д゚彡『……ディ、からなんだ』

393名無しさん:2022/10/10(月) 19:50:20 ID:.jWT7Gas0
その名前を、トラギコは知っていた。
デレシア達が使用しているバイクの名前だ。
バイクが報告をする、という非常識な話が出れば、誰だって戸惑う。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、あの子も粋なことするわね。
       ってことは、別行動になったのね」

ミ,,゚Д゚彡『あぁ、ディは今ウチの戦艦に収容されてる。
     自分で最寄りの船に連絡して、自分で色々とした。
     流石に船長もびっくりしてたよ。
     あいつ、相当賢いな』

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、とっても賢いの」

話の次元が違うことは間違いない。
機体内のランプが緑色に点灯し、酸素マスクを外してもいいという合図が出る。
機内の二人はマスクを外し、溜息を吐く。

(=゚д゚)「……そろそろじゃないのか、デレシア?」

体を機体に固定していたベルトを外し、扉を開く。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 私はこの辺りで降りるわ。
       それじゃあね、刑事さん」

そう言って、いつの間にかパラシュートを背負っていたデレシアはヘリコプターから一切躊躇うことなく飛び降りた。
眼下に広がるのはニョルロックの街並み。
背の高いビル群の間から湧き上がる様にして、人々の興奮が伝わってくる。
まるで祝祭。

世界経済の中心とも言えるニョルロックは内藤財団系列の企業がひしめき、その恩恵にあずかっている人間は数知れない。
街全体が今回の戦争を祝福し、肯定しているのは不気味ですらある。
普段は戦いと無縁の人間達が争いを肯定し、そして、支援する。
やがてそれは義憤にも似た感情を生み出し、戦いに身を投じる人間の数を増やすことだろう。

人を動かす最も簡単な方法は、感情を揺さぶることだ。
長い時間をかけて内藤財団の言葉に力を持たせた結果がこれだ。
もしもこれが、新興宗教が突然言い出したのであれば、誰も耳を傾けないだろう。
仮に十字教だとしてもその影響力は気にするほどでは無い。

だが、生活の中に入り込み、多くの慈善事業をしてきた企業の一言がもたらす力は絶大だ。
全てはこの日の為に準備されてきたのだと、ニョルロックの平穏な空気を感じ取って痛感する。
しかし、その祝祭ムードが間もなく終わることになる。
相手はデレシア。

破滅と破壊、絶望と崩壊をもたらすでたらめな存在だ。
すでに彼女の姿は街の中に消え、トラギコを乗せたヘリはジュスティアに向けて転進する。

(::0::0::)『……マジか』

394名無しさん:2022/10/10(月) 19:50:42 ID:.jWT7Gas0
ヘリの操縦士の間の抜けたような声が、トラギコの耳に入ってきた。
しかし、それとほぼ同時にトラギコも同じような気持ちを抱いて視線を別の方に向けていた。
視界の端に映ったその非常識な光景は、ティンカーベルで見たことがある。
天に昇る火柱、地面から生えてきたマグマの血が通う石柱のような姿。

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...ノ'"  .,.. -''',゙..r''“゙゙“´             i|  i     |i               `'''ー、、
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゛ l゙                     i| i      |i
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  ヽ                    i|   i     |i
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'" ./   ,/ /     .、  i|          i            |i   l   ヽ    ヽ
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./   ./ ./      ./ i|  i                        |i     |″ l
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同日 AM11:48

それは、ニューソクが爆発した時に見せる恐るべき光景に相違なかった。
その光景に一喜一憂する余裕はなかった。
直後に響いた警告音とヘリの急加速。

(::0::0::)『悪いな、刑事さん。
    お客さんを出迎えてくれ』

(=゚д゚)「おっしゃ!!」

395名無しさん:2022/10/10(月) 19:51:10 ID:.jWT7Gas0
ここまで来たら、大企業が相手であろうとも善良な市民であろうとも、戦うしかない。
自身の体とヘリをつなぐワイヤーの接続を今一度確認し、扉から体を半分だけ出す。
眼下のビルから飛び立ったのは、実に20機もの攻撃ヘリ。
飛び立ったのが高層ビルの屋上ということもあり、追いつかれるのはそう遅くない。

こうなることを予期していたのか、それとも保険だったのか。
ハート・ロッカーに向かうこのヘリの存在が報告され、それに備えたと考えるのがいいだろう。

(;=゚д゚)「って、多すぎラギ!!」

(::0::0::)『悪いが、このヘリに武器は積んでない。
     持ってきたのでどうにかしてくれ』

(;=゚д゚)「ちいっ、とりあえずジュスティアまで急いでくれラギ!!」

(::0::0::)『あぁ、ジェットを使って急ぐ。
     だが、それはクラフト山脈を越えてからだ。
     ジェットの付いてないやつらのヘリじゃ、クラフト山脈は越えられないはずだ。
     任せた』

マスターキーの付いたH&KG36A2を肩付に構え、トラギコは息を吐いた。
本来は屋内での戦闘を予定していただけに、弾倉の数は十分とは言えない。
だが威力はBクラスの棺桶を想定した弾であるために十分だ。

(=゚д゚)「……へっ、俺の勘は当たってたラギね」

オセアンから始まり、そして気が付けば世界中を巻き込んだ戦争。
事件を一目見た時に感じたその直感は、間違いなく正しかった。
トラギコの刑事人生をこれで終わりにしてもいいと思える、大きな仕事。
彼の持つ夢。

誰にも教えたことのない夢が、叶うかもしれない。
今世界で起きていることを、ビロード・フラナガンが聞いたらどう思うだろうか。
今世界で起きていることを、ドクオ・マーシィが見たらどう思うだろうか。
今世界で起きていることを、ラブラドール・セントジョーンズが知ったらどう思うだろうか。

トラギコは誰にも見せたことのない笑顔で、心の底から楽しそうに叫んだ。

(=゚д゚)「やっぱり、これが俺の天職ラギね!!」

銃爪を引き、トラギコの人生において最初で最後の空中戦が幕を開けたのであった。

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第十一章 【 Ammo for Rebalance part8 -世界を変える銃弾 part8-】 了

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396名無しさん:2022/10/10(月) 19:51:45 ID:.jWT7Gas0
これにて今回の投下は終了です
相変わらずVIPでのスレ立てが規制されているので残念です……

質問、指摘、感想等あれば幸いです

397名無しさん:2022/10/10(月) 20:44:11 ID:HjSrQ6ek0
おつ

398名無しさん:2022/10/12(水) 20:15:08 ID:TqBDzvQw0

この花屋さんの生け花は遠慮したいですね…
いやーホントにディさん優秀ですね。出来ない事がないんじゃないっかてぐらい
最後のシーンでトラギコが思い返してる人たちは夢鳥花虎の人達だよね。こういう作品間の繋がりがあるってやっぱいいよね!

>>377
戦いが無駄ではなかったことが報われたのだと

ここなんだか言い回しが気になっちゃって、無駄ではなかったと報われたのだと
の方がいいような気がするけど、そのままでよかったのならすみません…

>>378
ヘリカルはその中で頭部を何度も頭を打ち付けて

ここ頭部と頭が意味が被っちゃってるから片方だけでいいんじゃないかな?

399名無しさん:2022/10/12(水) 21:44:36 ID:t3m.hXxY0

色々ありすぎてこの戦争の結末がどうなるかわかんねえな…
個人的にはデレシアとヒート・ブーンの動向が気になる

400名無しさん:2022/10/13(木) 19:27:01 ID:X1P2xk/.0
>>398
うはぁ……ご指摘いただいた通りです……!!
毎回本当にありがとうございます!

401名無しさん:2022/10/16(日) 14:42:16 ID:1aexbhPw0
おつ!
目まぐるしいな
棺桶とかの兵器戦闘が主だったからそれに頼らないニダーの強さがかっこいいわ
そしてアサピー有能すぎる

402名無しさん:2022/12/02(金) 20:22:32 ID:l1uQgmjk0
長らくお待たせいたしました。
VIPでのスレ立てが引き続き規制されているので、場合によってはこちらで日曜日にお会いしましょう。

403名無しさん:2022/12/03(土) 09:29:26 ID:RCoxUfBs0
ひゃっほーう

404名無しさん:2022/12/05(月) 19:44:00 ID:/v63KFhk0
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人の中に愛を見つけた者がいると聞いた。
だが私は見つけられなかった。
神の中に愛を見た者がいると聞いた。
だが私は見つけられなかった。

私は、愛を見つけたいだけなのだ。
理解してくれるのは、きっと、神だけなのだろう。

                                     ――ある神父の手記より抜粋

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十字教の聖地、セントラス。
静謐かつ荘厳な空気の漂うその街で銃声が響くのは、極めて珍しい事だった。
しかしそれ以上に珍しいのは、セントラス内で戦闘が起きていることだった。
街を守るための“クルセイダー”は遠征しており、外敵との戦闘は銃を手に戦うことを決めた一般市民たちだった。

彼らの信仰する十字教の教えに反する行為だったが、それを破ってでも戦わなければと覚悟を決めたのだ。
だが現実は非情で、奇跡が起こることもなく、一人またひとりと銃弾に倒れていった。
セントラスを攻め落とす為に現れたのは、彼らがこの世界の地図上から消そうとしているストーンウォールの精鋭たち。
戦闘経験も覚悟も段違いだったが、何より、加護と奇跡を信じていないのが大きな差だった。

銃弾の恐ろしさを知るストーンウォールの人間は自らの安全を確保した上で射撃し、英雄的行動などはとらずに淡々と攻撃を加えた。
街の防御はお世辞にも万全とは言えなかった。
特に、外敵からの攻撃に対する防御手段が何もないのは致命的だった。
壁か、あるいは簡易的な地雷原でもあれば展開は違ったことだろう。

多数の車輌を止めるだけの手段がないセントラスは、ストーンウォールの部隊を発見してから僅か3分で侵攻を許してしまった。
街の法律上、路上駐車の存在がなかったことにより、まるで山から流れ込む川の水のように、武装した人間がセントラスの大地を進んで行く。
機動力を生かした電撃戦は、平和に慣れ、自衛手段が手元にないセントラスに対して極めて有効だった。
やがて、川の行き着く先が海であるかのように、ストーンウォールの大部隊はセントラスの中心に集まっていた。

――即ち、大聖堂“ノーザンライツ”。

そこが、セントラスとストーンウォールの戦いの終着点となった。

405名無しさん:2022/12/05(月) 19:44:21 ID:/v63KFhk0
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                     (⌒)
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            ,.´llllllllllllllllllllliiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii .、            ||
            illllllllllllllllllllllliiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii_:|          γ ⌒ヽ
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            TIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII了        l⌒ll⌒ll⌒l|
            l__i__i__i__i__i__i__i___†___i__i__i__i__i__i__l         li :;;|l;;;;;|l::..||
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ラヴニカで起きている戦闘は、依然としてその激しさを増すばかりだった。
初撃の混乱は既に収まりを見せ、ゲリラ戦の有利を失ったラヴニカの人間達は地の利と武器の質を頼りに戦っている。
使用される多くの武器が大量生産されていない物ばかりで、棺桶に至っては初めて起動する類の物も混じっていた。
複雑に入り組み、高低差のある街の構造を知るだけでも彼らにはかなりの利がある。

内藤財団の支援を受けている弱小ギルドも参戦していたが、ラヴニカの意思と反する存在はあらかじめマークされており、早々に殲滅されていた。
彼らの決起は組織立っており、尚且つ計画的だった。
世界規模で起きた同時多発的な内藤財団の戦闘行動の利点は、その突発性だ。
その突発的にも思える攻撃に対し、出鼻を挫くことが出来たのは世界でもイルトリア、ジュスティア、そしてこのラヴニカだけである。

蜂の巣をつついたような反応。
そして祝祭の様な熱狂。
街中に散らばる約8000人の敵勢力に対し、街がほとんど総出で対応すれば、これまでラヴニカで開かれたどんな祭りよりも盛り上がることは必至だった。
素人の8000人ならば即座に降伏する程の抵抗だったが、それぞれが古強者の戦闘員で構成された部隊。

地の利と数の不利を負いながらも、彼らは一歩も引かずに街中で戦闘を繰り広げていた。
極めて小さな探し物。
たったそれだけの為に、ラヴニカは戦場と化していた。
消耗戦が予期されたが、それは長くは続かなかった。

――“灯内戦”の最終局面は、文字通り炎と共に幕を開けた。

拮抗状態が崩れたのは、街に火が放たれてからだった。

406名無しさん:2022/12/05(月) 19:44:44 ID:/v63KFhk0
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_二.|..|..二.. ,..|..|二 `Y´( i/ ̄'.  ̄'l.,/    く、  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄
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第十二章 【 Ammo for Rebalance part9 -世界を変える銃弾 part9-】

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マドラス・モララーが十字教の信者となったのは、生まれた時からだった。
彼の両親は敬虔な十字教の信者で、息子である彼も入信させたのは自然なことだった。
生まれてから彼の周囲には十字教の人間が多く、学校で作った友人も皆同様だった。
宗教は彼にとって、日常生活の一つであると言っても過言ではない環境だったが、それは世界中にいる信者にも言えることだ。

十字教の教えを教育に生かした学校に入り、彼は多くを学んだ。
教養。
友情。
集団生活。

そして、命の事。
彼が初めて命の終わりを見たのは、6歳の時だった。
クラスで飼育していた金魚が死に、校庭に埋めた。
皆が泣く中、モララーだけがその理由を分からずにいた。

死んだ者は皆神の傍に旅立つと教えられていたからだ。
家庭で、そして学校で。
彼は死を悲しむことが理解できなかったが、他にも涙を流していない人間がいたので、自分がおかしいとは思わなかった。
13歳の時、再び彼は死を知ることになる。

彼の祖母が死に、葬式が開かれた。
彼にとって、初めて身近な人間の死だった。
歌を歌い、色とりどりの花で満たされた棺桶に彼もまた花を添えた。
祖母の死に顔は穏やかな物だった。

407名無しさん:2022/12/05(月) 19:45:16 ID:/v63KFhk0
だが、彼の心は凪いでいた。
祖母にはよくしてもらった思い出しかない。
お小遣いも、おやつも、全てが優しさで溢れていた。
しかし、祖母が急逝したと聞いた時も、こうして死体を見た時も、湧き出る感情は金魚の時と同じく虚無だった。

死は、果たして悲しい物なのだろうか。
神の傍に行くことが悲しい事なのだろうか。
神のいる国は悲しみも苦しみもない楽園だと教えられた。
そう教えた大人たちが、一人の人間の死に対して涙している光景は、彼の目には異常に映った。

モララーが神について学ぶにつれ、疑念が膨らんだ。
神の実在と同様に、聖書に現れる愛という言葉。
その二つはまるで同義の様に語られ、使われている。
つまりは、神と愛は同時に存在し得る存在なのだと結論付けたのは彼が16歳の時。

丁度その時、彼に好意を寄せる異性がいた。
彼と同じ学校、そしてクラスにいる異性だった。
彼の事を好いていると言ってくれた。
年頃の彼にとって、初めての恋愛だった。

彼は恋が分からなかった。
それ故に、この機会を大切にしようと思った。
手を繋ぎ、下腹部に熱い何かを感じた。
口付けを交わし、下腹部に熱いものを感じた。

だが、愛は感じられなかった。
彼の生殖器だけが反応するだけで、心はまるで揺らがなかった。
彼の心を揺るがしたのは、彼女の言葉だった。

「私はあなたを愛しているの、モララー」

愛していると告げられたのは、これが初めてだった。
いや、ひょっとしたら過去に両親が言ったのかもしれない。
しかし彼の記憶にある最初の言葉は、それが初だった。
その時の感情は、彼の記憶に強烈に残されている。

何と。
嗚呼。
何と、陳腐な物なのだろう。
神が皆に与えているという無償の愛。

その正体は、果たして、こんなに安っぽい物なのか。

「あなたは私を愛している、モララー?」

問いかけられ、彼は答えに窮した。
何が正解なのかは分かっている。
だが、ここで答えてしまえばその言葉の陳腐さを肯定することになる。
彼は反射的に答えた。

408名無しさん:2022/12/05(月) 19:45:54 ID:/v63KFhk0
( ・∀・)「うん」

愛している、と口にしなかったのは彼に残されたたった一つの希望からだった。

「嬉しい」

その時。
世界に、一匹の獣が生まれた。
愛を知る為に、愛を貪る獣が。
16歳、それが彼の最初に殺人を犯した年齢だった。

街から離れた森で、恋人だった異性――名前は忘れた――は彼の手によって絞殺された。
つい先ほどまで目を潤ませて愛を口にしていた彼女は、死ぬ寸前の虫の様に四肢をばたつかせて死んだ。
愛は、そこにあったのだろうか。
果たして、その死体のどこに愛があるのだろうか。

その手で命を奪ったという実感はあったが、感慨はなかった。
蚊を潰したような、そんな感覚だった。
手に愛は残されていない。
神は、愛は、果たしてどこにあるのだろうか。

死体と化した恋人を見て、モララーが抱いた感情はただ一つ。
この死体と己の殺人をどのようにして正当化するかという、極めて単純な困惑だった。
床に水をこぼして、それをどうするか悩む程度の感情。
つまり、彼女とモララーとの間には正しい愛はなかったのだと考え、後悔は一切なかったのだ。

結局、死体は野生動物に食わせ、彼自身は獣から逃げるために崖から落ちたという設定にして誤魔化せた。
学校を卒業してから、彼は聖職者としての仕事を得て、世界中に派遣されることになった。
若さとその傾聴力によって、多くの異性が彼に惹かれた。
そして、その多くが彼の手によって殺された。

命をどれだけ冒涜しても、どれだけ分解しても、その中に愛は見つけられなかった。
最後の希望である神は、未だに見つかっていない。
世界を愛で満たせば神が見つかると考え、世界を変える為に戦うことを決めた今となっても、未だに答えは出ていない。

( ・∀・)「うんうん、いい感じですね」

彼はノーザンライツの屋上で、恍惚とした表情を浮かべていた。
足元からは銃声と悲鳴が響き、爆発音も時折聞こえてくる。
命が消え、その魂という概念は神という概念に吸収されていく。
目に見えないその連鎖が、今、足元で起きている。

それらは全て想像に過ぎない。
仮に直視していたとしても、その循環を直視することは出来ない。
見られないからこそ、見ないのだ。
観測しなければ可能性は存在し、彼の中に残された神と愛という存在を否定することは無い。

409名無しさん:2022/12/05(月) 19:46:48 ID:/v63KFhk0
死体の山の中に神を、愛を見出せるかもしれない。
全ては、まだこれからなのだ。
殺し合いの果てに愛はあるのか。
戦いの果てに神は姿を見せるのか。

まだ、何も分からない。
愛と神の観測者になるためには、何もかもが不足している。
ギコタイガー・オニツカ・コブレッティは信奉する正義の為に戦いに赴いているが、モララーはまだ戦う必要性を感じていなかった。
セントラスという街が滅びるのは、正直なところ、計画の一つでもあるからだ。

世界中に影響力を持つ宗教を利用したのは単純に組織の根を張り巡らせるためで在り、その後は切り捨てる予定だった。
無論、モララーは今でも十字教徒だ。
しかしそれとセントラスの存続とは、まるで別問題だった。
聖地が失われることで神の力に影響が出るのであれば、それまでの話であり、信仰心に影響が出るのであればその程度の存在ということだ。

全てはただの名称であり、大した意味を持たない。

( ・∀・)「はぁ…… 悲鳴はいい……」

ノーザンライツにいるのはほとんどが非武装の人間で、戦闘などとは無縁の人間達だ。
自分たちの街を守る為に攻め入ってきた相手に対して出来ることは、神の愛やその類を口にする程度の知識しかない。
そんなもので守れるものは何もないのだと知りながら、今、銃殺されていく人間の悲鳴はどんなワインよりも豊潤で雄弁だった。
女子供も関係なく、ストーンウォールの人間達は殺していくだろう。

彼らの存在を否定する相手に遠慮など無用。
道徳や倫理に反することだと知っていても、生存するためにはやむを得ないと割り切って殺してくれる。
全ては生存のため。
互いに殺し合い、疲弊し、極限まで削り切った後に残るものが愛なのかもしれない。

モララーはその残滓を覗き見たいがために、組織の意とは別の動きをしているのであった。

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410名無しさん:2022/12/05(月) 19:47:39 ID:/v63KFhk0
ギコタイガー・オニツカ・コブレッティはジュスティア警察の中でも、ある意味で異質な存在として知られていた。
正義の味方に憧れて警官になる人間は大勢いたが、トラギコ・マウンテンライトに憧れて警官になったと公言する人間は一人だけだったからだ。
ジュスティア警察内でトラギコと言えば、はみ出し者の厄介者。
警察の汚点とも言える存在だったが、一部の界隈では彼の暴力的な素行を肯定する者がいるのも事実だった。

“CAL21号事件”は、特にそうした力による正義の執行を是とする人間達にとって、まるで伝説の様に語り継がれる話だ。
ギコタイガーはトラギコの姿に憧れ、彼の様になるべく、型破りな捜査で事件の解決を図った。
だが警察上層部も馬鹿ではない。
ジョルジュ・マグナーニとトラギコの存在だけで頭を痛め続けてきたこともあり、第二、第三の無法者を生み出さないために徹底して規則の順守を言い渡した。

表面上、彼は上層部のいいなりとなり、大人しく模範的な警察官として事件に関わることになった。
実際は違った。
法で裁けない犯罪者を、彼は闇夜に紛れて殺して回ったのだ。
あらゆる犯罪者は、より残酷に、より凄惨に殺された。

殺人を犯した者も、窃盗を働いた者も、ギコタイガーが関わっていない犯罪者も、皆殺された。
ナイフで、銃で、素手で、その辺にあった石で。
警察内部でもその異様さに気づいた者がおり、ギコタイガーを事件担当者から外すなどの措置が取られたが、彼はその手を血で汚すことを止めなかった。
事件が起きたことを聞きつければ、人知れず現場となった街に繰り出し、容疑者を殺した。

一時、ジュスティア警察の未解決事件の数が増えたのはこのためであると言われている。
彼の信条は極めて単純だった。
犯罪者を全て殺せば、犯罪は起きない。
その結果、犯人と確定していない段階で殺された人間が大勢生まれ、その犯行が内部の人間によるものだと確定した。

警察は内部の汚点を世に知らしめることを嫌い、確たる証拠を見つけずに一連の事件を迷宮入りにさせた。
犯人候補であるギコタイガーは現場から遠ざけられ、監視を付けられることになった。
資料整理係という現場から離れた、いわば警察署内でも隠居した老人たち向けの業務へと追いやられたのは自然な流れだった。
しかし、それこそが彼にとって転機となった。

資料整理の中、彼はジュスティアが歴史の闇に葬り去ろうとしたある事件の資料を見つけたのだ。
“CAL21号事件”。
トラギコが関わり、そして、その後の警察全体に影響を与えた大きな事件だ。
警察署内でこの事件について知らない人間はいない。

無論、ギコタイガーはこの事件について誰よりも興味を持ち、調べてきたと自負していたが、彼の知る情報と事実は違った。
“金の羊事件”、“砂金の城事件”、そしてCAL21号事件。
この事件は全て連鎖的に起きており、その起爆剤は言うまでもなくトラギコだった。
そのトラギコが、この事件を機に“モスカウ”へと転属になったのは周知の事実である。

彼が関わったこの3つの事件。
その後、それぞれの街に復興の名目で介入したのはいずれも内藤財団だった。
目が覚めた思いだった。
トラギコの成してきた正義の代償は、街の経済に対する絶望的な打撃だ。

暴力だけでは世界は救えない。
経済力だけでは世界は救えない。
その両方を持った存在が必要なのだ。
ギコタイガーが内藤財団を訪れ、そして、ティンバーランドに参加したのはあまりにも必然だった。

411名無しさん:2022/12/05(月) 19:49:51 ID:/v63KFhk0
彼は今、夢の中にいた。

<゚Д゚=>「はぁ……はぁ……!!」

興奮で息が上がる。
彼の陰茎は勃起し、全身が性感帯になったかのように敏感になっている。
彼にとって暴力は性交のようなものだった。
だがそれを自制できるからこそ、彼は警官としていられた。

今、その暴力性を存分に解き放てる。
弱者を守る為に。
圧倒的な悪者たちに対し、世界の平和を乱す輩に対し、思う存分振るえるのだ。

<゚Д゚=>「いいぞ、もう少しだトラァ!!」

ノーザンライツの正面玄関。
分厚い金属で作られた扉の閂が、外側から火花を散らして切断されている。
避難指示に従わず、遅れて避難してきた人間達は皆扉の前で射殺された。
銃弾が扉に当たる音も、必死の思いで扉に爪を立てて開こうとする音も、神の名を呼ぶ声も。

全て、ギコタイガーは分かっていた。
数多の死が、今後の教訓になるだろう。
避難指示に従わなければどうなるのか。
不当な暴力を前にどうすればいいのか。

宗教で平和ボケした人間達にはちょうどいい薬になったことだろう。

<゚Д゚=>「俺はここだ、ここにいる!!」

ノーザンライツは巨大な施設であると同時に、巨大な避難施設でもある。
天災や人災から聖職者たちが自分を最優先に守りつつ、信者に恩を売ることが出来る重要な施設だ。
その為、地下にはシェルターと脱出路を用意しており、外壁は極めて頑丈な金属の複層構造。
建物はその外壁が突起の少ない滑らかな形状をしているだけでなく、全ての階の壁が反った形をしているために、よじる昇ることも出来ない。

噴き出した噴水、あるいは、芽吹いた花の様にも見える。
宗教的な象徴性を持たせつつ、侵入者を徹底して排除する構造は籠城にうってつけだ。
そしてそれを正面から迎え撃つ準備と覚悟さえあれば、後は、問題なく殺せる。
扉の前から音が聞こえなくなり、頃合いだと判断した。

相手は今、この扉を爆破するために工作している頃。
扉を吹き飛ばすと同時に突入してくるだろうが、その出鼻を挫く。

<゚Д゚=>『お前ら全員病気だ!! 俺が特効薬だ!!』

口にしたのは、彼が与えられたCクラスの強化外骨格の起動コード。
警察組織が軍に開発を依頼し、あまりにも殺傷力が高すぎるために実戦配備を見送られた量産機。
重武装暴徒鎮圧用強化外骨格“コブラ”。
艶のない黒色の装甲に施された黄色の縞模様のマーキングは、遠目に見ても警告色であることを意味している。

412名無しさん:2022/12/05(月) 19:50:12 ID:/v63KFhk0
装甲は衝撃を吸収しやすくするためと、電撃による攻撃を無力化するために表面を特殊樹脂でコーティングしている。
右腕部には空気銃が組み込まれており、棺桶に対しても有効な威力を持った高圧電流弾を撃ち込める。
左腕部には催涙効煙幕弾の射出装置が付いており、その煙が持つ粘性はガスマスクを無力化するだけでなく、生身の人間が吸えば呼吸器官の全てを塞ぐことになる。
高すぎる殺傷力のため、集団での戦闘には不向きだが、単身で多数を相手にする時には非常に優秀な力を持っていた。

そしてこのコブラは、この場所を防衛するために徹底した改造が施されている。

[::-■=■]『来いよ!!』

避難してきた人間達は皆、建物の中心部にある礼拝堂に押し込めてある。
入り口は無数にあり、扉の頑強さは正面扉の数分の一。
爆薬を使わずとも、棺桶の蹴りで簡単に破壊されてしまう。
だからこそ、燃えるのだ。

彼の声に呼応するかのように、目の前で扉が吹き飛んだ。
そして、彼が夢にまで見た防衛戦が始まったのであった。

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ストーンウォールの人間達にとって、十字教徒は常に敵だった。
彼らの在り方を全否定し、居場所を奪い続けてきた。
理解は不可能だと諦め、こちらからの接触は一切してこなかったが、十字教徒は何かにつけて攻撃を仕掛けてきた。
同性愛者や性的少数派が性犯罪を起こした時、それだけでストーンウォールが槍玉に挙げられた。

聖職者が犯罪に手を染めた時、彼らは沈黙した。
しかしそれでも、ストーンウォールは戦争を望まなかった。
自分たちにとっての聖域が守られている限りは、その外で何が起きていようとも気にする必要がないからだ。
だが、今回の戦争は違った。

セントラス内にいる人間が、クルセイダーが攻め入る予定であることを密告してきたのだ。
彼は十字教徒でありながら、同性愛者であることを隠して生き続け、クルセイダーが遠征することを知ってセントラスを裏切ることを決めたのだという。
半ば半信半疑だったが、送られてきた写真や他の詳細な情報から、それを信じることにした。
街が総出で対応することに対して異を唱える者は、一人としていなかった。

413名無しさん:2022/12/05(月) 19:50:33 ID:/v63KFhk0
そして、戦争が始まった。
作戦通り、そして予定通りに人間と兵士が動き、十字教の拠点に足を踏み入れたのだ。
狙いはただ一つ。
セントラスを乗っ取ることだ。

彼らがしようとしていたように、ストーンウォールがセントラスを滅ぼす。
その最初の一歩が、ノーザンライツの破壊だ。
この街にいた協力者は無事に脱出していることが確認されており、後は、この街にいる人間を皆殺しにすれば終わりだ。
争いには争いで対抗するしかなく、人数と武装で劣るストーンウォールの人間達にできるのは電撃戦しかない。

街に攻め入ると同時に、部隊は二つに分かれた。
一つは街の中にいる民間人を殺す部隊。
そしてもう一つが、大聖堂ノーザンライツを攻略する部隊だ。

(゚A゚* )「一人も生かしておいたらあかんで!!」

これは生き残りをかけた殺し合いなのだ。
十字教の考えが残る限り、ストーンウォールを居場所にする人間達にとって安住の地はない。
ノー・ガンズ・ライフが口にしたその言葉は、彼らの覚悟の表れだった。
不毛を極めるその言葉は、非道徳的ではあったが、最も理にかなった言葉だった。

終わらない争いを終わらせる、最短の道。
冥府魔道。
殺される前に殺す。
十字教の教えがストーンウォールの滅亡を望んでいる以上、十字教を根元から滅ぼさなければならない。

どちらかが滅びなければ、この戦いは未来永劫続くことになる。
荒廃した世界になり、兵器が失われても、石と木の枝で殺し合うだろう。
これはそういう戦いなのだ。
一人でも生き残れば遺恨が生まれ、再び争いが始まる。

(゚A゚* )「女子供、老人も関係なしや!!」

避難の遅れた市民たちを、容赦なく撃ち殺していく。
銃弾の節約をしたいと思う者は銃剣や適当な石で殺し、家には火を放った。
ここに正義はない。
あるのは、殺戮だけ。

そして、ノーザンライツに通じる正面扉の前が血で染め上げられた頃、そこにいたセントラスの人間は全員死体となっていた。
子供を庇うようにして死んだ母親。
祈りを捧げる途中で射殺された老人。
正に、地獄絵図だった。

扉は物理的に封鎖されており、それを開けるには爆破する以外の手段がないことは事前に調べて分かっていた。
他にも侵入者を防ぐための幾つもの防衛装置の存在も承知しており、最短で最大の戦果を挙げるルートは決まっていた。
高性能爆薬を要所に設置し、即座に起爆。
内側に向けて吹き飛んだ分厚い扉が、ゆっくりと倒れる。

414名無しさん:2022/12/05(月) 19:52:35 ID:/v63KFhk0
事前の指示通り、牽制射撃と同時に焼夷手榴弾が投げ込まれた。
爆発と発火。
薄暗がりだった屋内に、オレンジ色の光が満ちた。

[::-■=■]

炎の中で仁王立ちになっていたのは、警告色をした棺桶。
大きさはBクラス、いや、Cクラスはある。
少なくとも、こちら側が得ていた情報にはない機体だった。

[::-■=■]『いくぞトルァ!!』

防衛を目的としてそこにいるはずなのに、何一つ躊躇せずに飛び出してきた。
振り上げた右手には、棍棒の様な武器が握られている。
何かしらの防衛手段を講じているとは考えていたが、まさか、頭の悪そうな者が一人だけとは思いもよらなかった。
棺桶には棺桶を。

力には力を。

(゚A゚* )「やっちまいなぁ!!」

後方に控えていた棺桶部隊が、彼女の号令よりも早く飛び出していた。
近接戦を得意とする棺桶は、総じて装甲に自信がある。
並みの銃弾では止められないことを瞬時に理解し、その部隊は援護の為にライフルを構えて散開した。
代わりに、一機の棺桶が迎え撃つべく跳躍していた。

対接近戦に特化した武器を構えているのは、クロマララー・バルトフェルドのジョン・ドゥカスタムだ。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『だりゃあああ!!』

構えていたのは、一振りの巨大な太刀。
ジョン・ドゥの身長と同じだけの長大な太刀は、その刃先が高周波振動によって絶叫の様な音を上げている。
切り上げるようにして、振り下ろされた棍棒を迎え撃つ。

[::-■=■]『ちぇぇい!!』

空中で激突し、同時に着地。
即座に鍔迫り合いが始まった。
互いに響かせる高周波振動の金切り声が、ノーザンライツ内に木霊する。
倒れた扉の上で激突した両者だったが、その巨大さが仇となった。

複数で防ぐならばまだしも、単騎でこの広さは防ぎきれない。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『先に行け!!』

二人の脇を通って、続々とノーザンライツ内部に棺桶で武装した味方たちが進んで行く。
だが。

(゚A゚* )「あかん!! 一旦引かなあかん!!」

415名無しさん:2022/12/05(月) 19:53:05 ID:/v63KFhk0
意外にも、ノーの言葉が味方の前進を止めた。
その言葉が届かなかったのか、あるいは足を止められなかったのか、数人がノーザンライツに入った後だった。
棺桶の身体補助機能が災いし、彼女の声が耳に届いたところで足を止めるには遅すぎたのだ。
内部は煙と炎で満ちていたが、その煙の量が尋常ではないことに、クロマララーもようやく気が付いた。

焼夷手榴弾の高熱でも、流石に無機物を燃やすことはできない。
建物全体が頑丈な素材で作られているノーザンライツを燃やせるのならば、最初からそうしている。
つまり、今発生している煙は敵が意図的に生み出した物で、罠であると考えるのが妥当だ。
彼女の判断と警告は適切だったが、如何せん、遅かった。

『ぶ……はあっ……!!』

聞こえていた声が徐々に小さくなり、そして聞こえなくなった。
ガス攻撃であれば、棺桶に備わっているガスマスクがある程度防ぐはずだ。
だが、そういった類の攻撃ではなさそうだった。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『何をしやがった』

[::-■=■]『さぁな!! 異常性欲者にとっちゃ、この建物は毒みたいだな!!』

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『先にこいつをやるぞ!!』

[::-■=■]『やれるんならなぁ!!』

直後、男の持つ棍棒に青白い電流が走ったのを目視した。
それはクロマララーの持つ大太刀に流れ込み、高周波振動装置を破壊。
呆気なく折れた刃が地面に落ちる前に、その棍棒がクロマララーの頭部目掛けて振り下ろされていた。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『うおおっ!?』

電撃を放つ武器と、高周波振動の武器が両立するのは極めて難しい。
特に、高圧電流によって電気系統を破壊する程の物となると、その装置が破損するだけで自爆行為になりかねない。
危険を承知で設計された武器なのか、それとも、その危険性を克服した武器なのか。
近接用の武器を失った瞬間、彼は半ば反射的にその場から跳び退いていた。

それでも、完全な回避は間に合わず、胸部を棍棒が掠めていった。
装甲が剥がれ落ち、生身の胸部が露わになる。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『こいつ!!』

[::-■=■]『逃げるか、変態!!』

棍棒による刺突が、むき出しの胸部に向けて突き出される。
回避運動をするにも、彼の両脚はまだ空中。
接地する前に棍棒が胸を貫くのは必至。
刹那の猶予の中、彼が選べたのは両腕による防御だけだった。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『があっ!?』

416名無しさん:2022/12/05(月) 19:54:27 ID:/v63KFhk0
高周波振動の打撃は、斬撃と違って芯に響く攻撃だ。
装甲の内側に向けて放たれるその一撃は、防御に使用した両腕の間に巧みにねじ込まれた。
骨に響く攻撃は激痛としか表現しようがなく、まるで直接骨を殴られたような衝撃だった。
踏み込みすらせずに放った一撃だったことが幸いし、棍棒が彼の胸を貫くことは無かった。

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『これ以上好き勝手は!!』

周囲からの援護射撃がなければ、二度目の刺突でクロマララーの胸はザクロの様に爆ぜていただろう。
対強化外骨格用の銃弾を浴びせかけられながらも、男はまるで怯まなかった。

[::-■=■]『一匹ずつ駆除だ』

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『弾が……当たらない!?』

誰よりも間近で見ていたクロマララーの次の言葉が、それを正確に説明した。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『曲がってる!!』

銃弾の軌道はある程度までは直進し、途中から減退し、下方に向かう。
しかし、クロマララーが見た銃弾の軌道はそれとは違った。
弾が天井に当たり、更にはクロマララーの耳元を掠め飛んで行ったのだ。
それを曲がったと即断したのは、似た性能を持つ棺桶を知っていた彼の知識と経験だった。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『こいつ相手に銃は使うな!!
      同士討ちになる!!』

あの棺桶は周囲に強力な磁界を形成し、電流の強弱によって磁力を操作する。
強装弾に使用されている金属は磁力に反応する性質があるが、それは極めて強力なものに限る。
この棺桶は、それは実現させるだけの力を持っており、銃弾は荒れ狂う磁界によってその軌道を捻じ曲げたのだ。
理屈では可能だが、それを実現させるにはかなりの電力が必要になるはずだ。

かつてラヴニカで技術者として働いていた経験のあるクロマララーは、その装置に関するデータを見た記憶があった。
“フォーチュン計画”という名目の兵器設計図で、あまりにも現実離れしたその構想を鼻で笑った。
一瞬起動させるだけでも棺桶のバッテリーを全て消耗する程のもので、実用性が皆無だったのだ。
だが、今目の前にいる棺桶はその装置を使っている。

補助電源ケーブルもなしに、そんな芸当が可能なのだろうか。

[::-■=■]『おうおう、どうしたぁ!!』

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『調子に乗りやがって……』

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『こいつに構うな、中の信者どもを殺すんだ!!』

[::-■=■]『曰く、神は来る者を拒まないそうだ。
      まぁ、ゆっくりしていけトルァ!!』

417名無しさん:2022/12/05(月) 19:54:56 ID:/v63KFhk0
直後。
クロマララーの全身が、ノーザンライツに向けて引っ張られる感覚が襲った。
何かが触れているわけではない。
見えない力が四肢を掴み、引き寄せているのだ。

正体は磁力。
銃弾の軌道を捻じ曲げるだけの、圧倒的な磁力が金属の塊とも言える棺桶を引き寄せている。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『まずい、金属の物を捨てろ!!
      引き込まれるぞ!!』

〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『願ったり叶ったりだ!!』

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『違う!! 磁力で動けなくなるぞ!!』

的確な言葉が瞬時に出てこない。
辛うじて出てきた単語で、誰かが察してくれることを願うが、通じない。
手にした武器も、棺桶を身に着けた味方も。
あらゆる金属が、一気にノーザンライツに取り込まれる。

クロマララーもその場に踏ん張ることが出来ず、磁力によってノーザンライツに取り込まれた。
陽光で淡い明るさに照らされるノーザンライツ内は、芸術品の様な美しい内装をしていたが、それを堪能する者は一人としていなかった。
地面に縫い付けられるようにして倒れている棺桶が、最初に突入した味方であるのは間違いない。
煙幕の中で何かが起きて、そして、ここで死んだのだ。

[::-■=■]『ゴキブリは、そこで死んでな』

投じられた煙幕弾が、濛々と白煙を噴出させる。
すぐに視界をその煙に奪われたが、ここで何が起きたのか、その身をもって理解することになった。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『はぁ……はっ……あっ……!?』

ジョン・ドゥのマスクは優秀だ。
粉塵や毒ガスから使用者を守るため、有害な酸素を無害化するためのフィルターを搭載しており、どんな状況下でも戦える。
だが。
酸素の供給が途絶えてしまえば、生身の人間は生きていけない。

粘性の高い煙幕がフィルターを詰まらせ、酸素の供給を停止させたのだ。
それを取り除こうにも、内部に入り込んだ煙を指で掻きだすことは出来ない。
これが生身の人間だったならば、呼吸器官を無力化させられ、窒息死するだろう。
カメラにも煙が張り付き、どのモードに切り替えても何も見えない。

逃げ出そうにも、強力な磁力で足が捉えられているため、その場から動くことが出来ない。
何もできず、ただ酸素だけが奪われていく。
仲間に事態を伝えようとしても、酸素がなければ声が出せない。
この備えがあったからこそ、あの男は一人でここを防衛していたのだと、ぼんやりとした意識の中でクロマララーは納得した。

僅かな酸素を全て失い、クロマララーが窒息死するまでにはそう時間は必要なかった――

418名無しさん:2022/12/05(月) 19:55:32 ID:/v63KFhk0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

――時を同じくして、ラヴニカでの内戦は次の舞台に移っていた。
ラヴニカは黒煙に包まれていた。
それは火事による黒煙でもあり、発煙筒による黒煙でもあった。
スーツ姿のシナー・クラークスの堪忍袋は既に張り裂け、組織から指示された目的は忘却の彼方に置き去っていた。

( `ハ´)「状況は?」

<=ΘwΘ=>『駄目です、足取りさえ』

( `ハ´)「もっと家を燃やせば出てくるアル」

<=ΘwΘ=>『ですが、これ以上燃やせばこの街の復興が……』

( `ハ´)「焼き畑っていうのを、お前は知らないアルか。
     燃えた分は、いい肥料になるアル」

<=ΘwΘ=>『……かしこまりました』

目的としていたチップは手に入らない。
ならば、この街を灰の山にしたところで問題はない。

( `ハ´)「……私は一人になりたいアル。
     護衛はいらないから、さっさと行けアル」

彼の周囲にいた部下は装甲の下で驚愕の表情を浮かべたが、小さく頷いてその場から走り去った。
炎と煙、そして悲鳴と銃声がその場に残された。
ラヴニカが誇っていた技術の多くが、この戦いで失われることだろう。
保管していた貴重な何かも、例外ではない。

419名無しさん:2022/12/05(月) 19:55:52 ID:/v63KFhk0
( `ハ´)「さっさと出てくるアル。
     モーガン・コーラ」

(*‘ω‘ *)「……気づいてました?」

物陰から姿を現したのは、土壇場でシナーを裏切った女だった。
分厚い化粧の下に隠された表情は、決して真実を物語らないことだろう。
彼が初めて見た時と顔はまるで別人だが、放つ不愉快な雰囲気は変わらない。
あえてこちらに気づかせようとしている可能性もあるが、今となってはどうでもいい。

モーガン・コーラという名前も偽名だったのは、言うまでもない。

( `ハ´)「化粧臭いアル」

(*‘ω‘ *)「失礼しちゃう!! けっこういい値段の化粧品なんですけど」

( `ハ´)「チップを手に入れたのに、どうしてここに残ってるアル?」

(*‘ω‘ *)「保険ですよ、保険。
      ラヴニカはこの世界に必要な街なのでね、滅茶苦茶にされないようにしないと」

( `ハ´)「だったらもう手遅れアル。
     ……で、何でここに来たアルか」

(*‘ω‘ *)「いやぁ、礼儀として決着をつけてあげないと」

( `ハ´)「礼儀? 決着?
     随分と高貴な考えアルね、反吐が出るアル」

言いぐさがまるで騎士だ。
土壇場でこちらを裏切り、逃げ回っていた人間の言葉とは思えない。

(*‘ω‘ *)「まぁまぁ、死ぬ前にせめて何かしらの武勇伝を持っておきたいじゃないですか。
      タルキール出身なら、そういう考えあるんでしょう?」

( `ハ´)「いつタルキール出身なんて言ったアルか?」

(*‘ω‘ *)「アクセントもそうだし、料理の好みで分かりますよ。
      さぁ、私が憎いんでしょう?
      ラヴニカと同じぐらい憎いなら、今ここで私と戦うのはいい気分になりますよ」

こちらの逆鱗を撫でるように、女は言った。

( `ハ´)「貴様、これ以上私を愚弄するアルか」

(*‘ω‘ *)「あぁ、勿論素手で戦ってあげますよ。
      いいハンデでしょう?
      負傷を言い訳にしたとしても、十分だと思いますが」

420名無しさん:2022/12/05(月) 19:56:28 ID:/v63KFhk0
(#`ハ´)「挑発しているつもりなら、最高の挑発アルね。
     ただの女が、私に素手で勝つ?
     面白い、やってみればいいアル!!」

(*‘ω‘ *)「その言葉を待っていました、シナー。
      ここから先は、一人の武人としてお相手願いましょう」

(#`ハ´)「武人?! お前が?!
     ふざけるな!!」

(*‘ω‘ *)「……少し、愚弄しすぎたみたいですね。
      こうでもしないと、あなたは本気で乗ってこないと思いましてね」

左手は後ろ腰の位置に。
右手は甲を下に向け、槍の様に束ねた指先をシナーに向ける。
指をゆっくりと曲げ、勝負に誘われる。

(#`ハ´)「女だからといって、油断も手加減もしないアルよ」

(*‘ω‘ *)「“タルキールの龍”、そう呼ばれていた時もあったそうですね。
      街にいる連中は、その時の部下でしょう?」

流通の中継地点。
“竜の口”の名で知られるタルキールは、栄はするものの、決して豊かになることは無かった。
他の街が生み出す流通によって栄えているだけであり、そこに生じる僅かな需要によって生きながらえているだけの街だ。
シナーは街の未来を危惧し、己の未来を憂いた。

安全な道が一つ生まれてしまえば、それだけでタルキールの活気は激減するだろう。
ヨルロッパ地方にある街がいくつも協力し合えば、それが実現してしまう。
生まれた街が衰退するのは見たくない。
幼少期から祖父に武術の英才教育を受けた彼は、仲間を募り、タルキール以外の街で盗賊行為に手を染めた。

狙ったのは金持ち、あるいは権力者。
得た金は貧しい者に分け与え、己の行為を正当化した。
武器は極力使わず、徒手によって相手を無力化した。
部下が増え、思想が生まれた。

思想は広まり、更に部下が増えた。
世界のバランスは極めて危うく、力を持つ誰かのちょっとした匙加減で崩れてしまう。
数千人の部下を各地に持っても、世界を変えることは出来ない。
そんな折、シナーはある組織からの接触を受け、彼らの参加に入ることにしたのだった。

シナーが本当に許せなかったのは。
世界を変えたいと願ったのは――

(;`ハ´)「……情報通らしいが、それだけじゃ勝てないアルよ」

(*‘ω‘ *)「勿論、情報で戦うつもりはありません。
      私があなたのことをよく知っている、それを理解した上で戦ってもらいたいのです。
      全力で、死力を尽くして、持てる全てを注ぎこんで戦ってほしいのです」

421名無しさん:2022/12/05(月) 19:58:33 ID:/v63KFhk0
(#`ハ´)「私じゃない、お前が死力を尽くすアル!!」

(*‘ω‘ *)つ◆「これ、何だと思います?」

小さく、そして金属特有の輝きを放つその人工物。
血眼になって探し、街に火を放ってでも手に入れようとしたチップだ。

(#`ハ´)「……」

(*‘ω‘ *)「私を倒せば、簡単に奪えますよ」

それを胸ポケットに入れ、女は挑発的な笑みを浮かべた。

(#`ハ´)「調子に乗ったアルな、お前」

(*‘ω‘ *)「これでやる気が出たでしょう?
      さぁ、いつでも」

強い踏み込みが強い打撃を生むのは事実だが、それが欠けたとしても、それを補うための技術がある。
飄々とした様子だが、醸し出す芯の強さは偽物ではない。

( `ハ´)「……名前を聞いてやるアル」

(*‘ω‘ *)「ティングル・ポーツマス・ポールスミス。
      あなたを殺す女の名前です」

( `ハ´)「いいや、墓石に刻む名前アル」

悠然と一歩を踏み出し、シナーは静かに拳を突き出した。
ティングルはその意図を汲み取り、同じようにして拳を突き出した。
磁力に引き寄せられるようにして、両者の拳が触れ合う。
それが、開始の合図。

( `ハ´)「ふんっ!!」

(*‘ω‘ *)「?!」

拳に込めた絶妙な力。
足元から発生させた力を腰、背中を使って加速させ、拳に移動させる。
そして捻転するような力の流れへと変化させ、相手の腕を通じて体全体にその歪みを伝える。
自分の体に流れ込んでくる不愉快な力から逃げようと咄嗟に動いたティングルは、シナーの思惑通りにバランスを崩す。

そのまま倒れるほどの力で放ったのだが、踏み込みの浅さが災いして、片膝を突かせるだけにとどまった。
それで十分。
絶好の位置に頭が落ちてきたことにより、シナーは躊躇わずにローキックを放つ。
連撃は、だがしかし、ティングルの絶妙な防御によって阻まれた。

顔に当たる寸前でシナーの足を受け止め、低い体勢を利用して、彼の股間目掛けてアッパーを繰り出してきた。

( `ハ´)「ちっ!!」

422名無しさん:2022/12/05(月) 20:00:05 ID:/v63KFhk0
(*‘ω‘ *)「ぽっ!!」

体捌きで攻撃を回避した直後、ティングルの裏拳がシナーの鼻先を掠める。
まるでハンマーの様に思い一撃。
鼻孔の奥がジワリと痛み、鉄臭がした。
鼻の奥から血が垂れてくる前に、シナーは親指でそれを拭い取った。

( `ハ´)「ハンデのつもりあるか?」

今の場面なら、足払いが来るはずだった。
そうすれば、シナーを転倒させ、有利な状況を生み出せた。
まるで最初からその選択肢を選ばないようにしているかのような攻撃に、思わず言葉が出ていた。

(*‘ω‘ *)「いいえ、ハンデではありませんよ。
      あのタルキールの龍に勝つということは、正面から技で勝負するということですから」

(#`ハ´)「それの驕りがハンデアル!!」

倒れ込むようにしてその場に両手をつき、シナーは四足歩行の形態をとる。
次の瞬間、両腕の力を使って両足を持ち上げ、ティングルの頭上に向けて振り下ろした。

(*‘ω‘ *)「ぽっ!!」

ティングルは両腕を交差させてその一撃を防いだ。
こちらの攻撃を受ける必要などないのに。
まるでプロレスの様な動きに、シナーは苛立ちを抑えきれない。

(#`ハ´)「ぬうあっ!!」

(*‘ω‘ *)「ぼ?!」

防御され、効果がないと分かった瞬間、シナーの次のプランは動いていた。
両足でティングルの足を挟み、強引に引きずり倒したのだ。

(*‘ω‘ *)「ぃんっ!!」

致命的な一撃になり得た攻撃だったが、ティングルは受け身を取って衝撃を緩和。

(#`ハ´)「ちぇぃ!!」

両手が地面についた状態のティングルの上に跨り、シナーは絶対的に優位な位置を手に入れた。
マウントポジション。
体格差のある馬乗りの状態は、決着をつけるにはあまりにも簡単すぎる。
しかし、相手が女子供でも、シナーの拳は容赦なくその命を奪う。

踏ん張れないのであれば、踏ん張る必要性の少ない体勢に持ち込むしかない。
ティングルの腹の上に乗ったシナーは、一瞬の躊躇いもなく拳を彼女の顔に向けて振り下ろした。

(*‘ω‘ *)「流石っ!!」

423名無しさん:2022/12/05(月) 20:02:05 ID:/v63KFhk0
(;`ハ´)「ぐっ!?」

瞬間的に下半身の力でシナーが持ち上げられたことによって、彼の拳は何もない地面に直撃していた。

(*‘ω‘ *)「だけど、優秀だから次の一手が分かりますよ」

( `ハ´)「……なるほど、認識を改めるアル」

再び拳を振り上げ、シナーはティングルの胸骨に向けて左の一本拳を放った。

(*‘ω‘ *)「エッチ!!」

それを難なく横から叩き、軌道を反らせつつ手首を掴まれる。
が、シナーの右拳はティングルの腹に乗せられていた。

(*‘ω‘ *)「しまっ……!!」

無寸勁、あるいはノーインチパンチ。
触れた状態からでも十分に人体にダメージを与えられるその攻撃を受け、ティングルは初めて苦悶の表情を浮かべた。
悲鳴と共に腹の底から空気を吐き出し、悶絶する。
だがシナーの攻撃は止まない。

( `ハ´)「じぇい!!」

解放された左拳で顔を殴りつけ、右拳で眼球を狙う。
女という生き物である以上、顔を徹底的に痛めつけられることに耐性はない。
左右の連打によって徹底的に戦意を奪おうとしたが、目に攻撃を受けないよう、頭部を動かすだけの冷静さはあった。
鼻血を出し、口の中を切り、頬に痣が出来ても――

(* ω *)「……ははっ」

――女は、笑っていた。

(;`ハ´)「こいつっ!!」

直後。
シナーの判断が一瞬だけ遅れた。
それまでほとんど無抵抗だと思っていたティングルが、突如として体を持ち上げ始めたのだ。
腹の上に男を一人乗せたままブリッジを行い、シナーの体制が崩れたところに、体重を乗せた右ストレートを放った。

それはガラ空きの肋骨を捉え、的確にダメージを与えた。
更に、そこに指をねじ込み、骨を圧迫してきた。
筋肉で覆われているはずの肋骨を、指で破壊しに来たのだ。

(;`ハ´)「ぐっ……おおお!!」

痛みから逃げようと、攻撃を加える。
その都度肋骨を刺激され、大した威力を発揮できない。
更に、左手が得物を狙う蛇の様に股間に伸ばされているのを察知したシナーは、流石にその場から跳び退かざるを得なかった。

424名無しさん:2022/12/05(月) 20:03:45 ID:/v63KFhk0
(;`ハ´)「えげつない戦い方するアルね」

(*‘ω‘ *)「ぺっ! あなたも、女の顔を殴るなんてえげつないですね」

地面に吐き出した血の中には、歯の欠片が入り込んでいた。
これだけ打撃を受けていながら、ティングルの目には涙一つ浮かんでいない。
まるでプロボクサーだ。

(;`ハ´)「……どこの組織の人間アルか?」

(*‘ω‘ *)「ふふっ、知りたければ……ね?」

軍人の女でも、ボクサーの女でも、ここまでの豪胆さは手に入らない。
乗り越えてきた修羅場の質と数は、恐らく、こちらが想像している以上。
武術の心得はあるが、技量ではシナーに劣っている。
しかし、それを補うだけの汚れた戦い方をしてくる。

的確に急所を狙い、的確に攻撃を防ぐ。
軍人としての経験は間違いないだろう。
戦場格闘技に通じる動きがある。
ならば、技術で押し通す。

( `ハ´)「……」

シナーは己の右手を前に出した。
先ほどティングルが仕掛けてきたのと同じように、今度はシナーが勝負を仕掛ける番だ。

( `ハ´)「来いアル」

(*‘ω‘ *)「面白そうですね、では遠慮なく」

お互いに手の甲を触れ合わせた瞬間、シナーが動いた。
ほとんど無意識の内に体が動き、ティングルの手首を掴む。
関節と骨を利用し、その場に投げ飛ばそうとした。
だが、途中で攻撃が止まってしまう。

(*‘ω‘ *)「さぁ、どうしました?」

(;`ハ´)「こ……の……馬鹿力がっ……!?」

曰く、理想の筋肉とは緩急の差が著しい物を指す。
この時のティングルの筋肉は、万力を想起させるほどの頑強さで、シナーの技術を受け付けなかった。
冗談の様に硬くなった腕と、服の上からでも分かる隆起した筋肉。
特出しているのは、布地が弾けんばかりに膨張した下半身の筋肉だ。

上半身の筋力不足を補って余りある下半身の筋肉が、こちらの理をねじ伏せているのだ。
どういう生き方をすれば、ここまでの筋肉を手に入れられるのだろうか。
馬乗りの状態から逆転されたのは、この下半身の筋肉が原因だろう。

425名無しさん:2022/12/05(月) 20:05:07 ID:/v63KFhk0
(*‘ω‘ *)「腕力よりも脚力の方が出力は上。
       で、あれば踏み込みが万全でない人の技など私の筋力では意味がないんですよ」

(;`ハ´)「膂力なんぞ!!」

(*‘ω‘ *)「打撃戦において膂力は絶対。
      さぁ、どうします!!」

まるでこちらを試しているような物言いだが、拮抗状態が出来ている事実は覆せない。

( `ハ´)「ふっ!!」

力むことによって生み出した、筋力の拮抗状態。
それを打破するのは、言うまでもなく技術だ。
生み出された不用意な力を利用し、ティングルの体を宙に浮かせる。

(*‘ω‘ *)「なっ?!」

( `ハ´)「きゃおらっ!!」

狙うはわき腹。
体の中心軸を狙うことにより、姿勢を乱す狙いだ。
抉り込むようにして掌底を放ち、吹き飛ぶことで威力を軽減させようとする目論見も、腕を掴み合っている今は通じない。
掌底がティングルの腹に当たった瞬間、太いタイヤに対して打撃訓練をしていた日々が脳裏をよぎった。

生半可というレベルではない。
筋肉に対する圧倒的なまでの信仰心。
無駄を削ぎ落した体に残された筋肉は、正に結晶体と言ってもいいだろう。
ここまでの次元の筋肉を持つ人間は、これまでに見たことがない。

組織でも1、2を争う筋量を持っているクックル・タンカーブーツも、ここまでの密度には至っていなかった。

(*‘ω‘ *)「女性のお腹を触るなんて!!」

(;`ハ´)「ちっ!!」

着地され、その勢いを利用して押し倒されそうになる。
踏ん張ろうとした時、両足に激痛が走り、抵抗むなしく尻から地面に倒れ込んでしまった。
そのまま馬乗りされ、先ほどまでとは逆の立場となった。

(*‘ω‘ *)「技術も、怪我には勝てませんか」

女には男と違って、一撃で悶絶させ得る器官が露出していない。
だが、共通する弱点はある。

(;`ハ´)「軽いアル!!」

426名無しさん:2022/12/05(月) 20:07:26 ID:/v63KFhk0
今出来る範囲内で脱力し、加速させた右手が放ったのは、顔面への強烈な平手打ち。
顔を正面から打ち付けたその一撃は、打撃に慣れている人間だとしても怯まざるを得ないものだ。
目、鼻を同時に攻撃したことにより、反射的に大量の涙が溢れ出る。
激痛とは違い、まるで電撃を浴びたかのような痛みが瞬間的に思考を支配する。

(*;ω; *)「ぬぁっ?!」

(;`ハ´)「技術は!!」

背中に回した左手で脊椎に直接攻撃を与える。
本人の意思とは無関係に直立してしまったティングルは、何が起きたのか理解できていない様子だった。

(;`ハ´)「膂力に!!」

下半身の筋力に対する自信を、シナーは逆手に取った。
脚の付け根を掴み、骨の内側に対して防御不可能な一撃を放つ。

(*;ω‘ *)「AッChiiッ!?」

その痛みを形容するなら、焼けた針を骨に突き立てられたようなもの。
如何に優れた体感、筋力を持っていても、瞬間的なこの痛みには対抗できない。

(#`ハ´)「勝る!!」

崩れた体勢。
しかしこちらは倒れたまま。
それでも、シナーには勝算があった。
狙いは一つ。

筋肉で補えない、関節。
流れるようにティングルの利き足である右足に絡みつき、足緘――下方から相手の膝を破壊する関節技――を放つ。
これを用いて足を折れば、勝機はこちらにある――

(*‘ω‘ *)「……はぁ、面白くない事しましたね」

(;`ハ´)「んなっ?!」

――シナーが関節技を放ったまま片足で持ち上げられ、地面に叩きつけられるまでは、そう思っていた。

(;`ハ´)「がっ?!」

(*‘ω‘ *)「関節技対策を怠っていると思ったのなら、残念でしたね」

(;`ハ´)「化け物か……!!」

関節部の頑強さは並ではない。
男一人を持ち上げて、叩きつけられるだけの力。
馬鹿力ではなく、技術に対抗するための力を持っている。

427名無しさん:2022/12/05(月) 20:09:09 ID:/v63KFhk0
(*‘ω‘ *)「タルキールの龍ならあるいは、と思いましたが。
      残念です、この程度で」

(#`ハ´)「勝手に期待して、勝手に失望してるんじゃないアル!!」

背中を打ち付けられたことによって呼吸が乱れていたが、すでに回復しつつあった。
関節技は既に解かれているが、まだ、奥の手がある。
立ち上がり、ゆっくりと息を吐く。

( `ハ´)「ふぅ……!!」

(*‘ω‘ *)「培った技術、この程度ではないでしょう?
      どうします? マックスペインを使いますか?」

こちらが隠し持っている薬物について読まれていたのは予想外だったが、それでもかまわない。
もとより、それに頼るつもりはない。

( `ハ´)「こんなもの、使う必要はないアル」

ジャケットの内ポケットから取り出したアンプルを地面に叩きつけ、踏み砕く。
一時的な身体強化の薬など、感覚を鈍らせるだけだ。

( `ハ´)「かかってこい、筋肉馬鹿」

(*‘ω‘ *)「では、行かせていただきましょう」

そう言って、ティングルが仕掛けてきた。
踏み込みを感じさせない程の短く低い跳躍。

( `ハ´)「破ッ!!」

真っすぐに伸びてきた右ストレート。
それに合わせて、左の手のひらで受け止める。
加速した上に伸びきった状態に合わせたため、その衝撃でティングルがよろめく。

(*‘ω‘ *)「んぬ!!」

( `ハ´)「邪ッ!!」

続けて放つのは崩拳。
縦に構えた拳を踏み込みと同時に放つ。
両足に激痛が走るが、それを意識の外に追いやる。
常軌を逸した集中力こそが、シナーの奥の手だ。

(*‘ω‘ *)「ちいっ!!」

こちらの様子が豹変したことに気づいたのか、ティングルが防御の為に両腕を交差させる。

( `ハ´)「腕もらった!!」

428名無しさん:2022/12/05(月) 20:10:18 ID:/v63KFhk0
触れた瞬間、抉る様にして威力を上げる。
拳の下で、骨に当たる感触。
下半身とは違い、上半身の膂力は一般人よりも優れている程度。

(*‘ω‘ *)「があっ!!」

だが、こちらの威力を殺すためにティングルは僅かに後方に跳躍していた。
そして着地と同時に前蹴りが飛んできた。

( `ハ´)「ふあっ!!」

それを右手で受け止め、ティングルがやったのと同じように跳躍して威力を殺す。
ただし、こちらのそれは確かな技術の産物。
消力。
己の四肢を極限まで弛緩させ、あらゆる攻撃の威力を霧散させる高等技術だ。

( `ハ´)「どうしたアル?」

(*‘ω‘ *)「……これが消力ですか」

( `ハ´)「来ないならこっちから行くアル!!」

大股で接近し、シナーは弛緩させた右腕を思いきり振り抜いた。
狙いは顔。
反射的にティングルはそれを左腕で防いだ。

(*‘ω‘ *)「ぎっ!?」

( `ハ´)「いくら我慢しても無駄アル」

続けて太腿。
服の下にある人体最大の器官、皮膚への攻撃は筋力や年齢の一切を無視する。
両椀を鞭にした一撃は、技術を軽んじた人間にはよく効く。
鞭の様な打撃、これ即ち鞭打。

( `ハ´)「しゃっ!!」

(*‘ω‘ *)「ぬぇい!!」

しかし、すぐに攻撃の隙を見つけてきた。
鞭化するのはあくまでも先端部分。
その軌道は結局のところ根元が事前に示すため、防御するためには攻め込むのが最善の手となる。
台風の中心部に向かうような恐怖の中、ティングルは的確にシナーの関節に打撃を当て、鞭打を無力化する。

膝蹴りがシナーの顔に飛んできた。

( `ハ´)「は……ぬ?!」

429名無しさん:2022/12/05(月) 20:11:00 ID:/v63KFhk0
咄嗟に消力で無力化しようとした瞬間、首の後ろにティングルの両手が回された。
なるほど。
消力最大の弱点は脱力後に攻撃の威力を減退させる距離の有無だ。
壁に追い込まれれば消力が無力になるのと同じように、こうして捉えられてしまえば威力を殺すことなど不可能。

この僅かな攻防で弱点を理解したとは、恐ろしいほどのセンスだ。
両手を顔の前に出し、威力を可能な限り殺す。
自らの手と主に顔に受けた衝撃は殺されることなく、二度、三度と膝蹴りが顔を襲う。
四度目の攻撃が来る前にシナーはティングルを持ち上げ、地面に叩きつけた。

(*‘ω‘ *)「げぁっ!?」

(#`ハ´)「ふーっ!!」

距離を取り、構えをとる。

( `ハ´)「さぁ、まだアルよ!!」

格闘戦でここまで苦戦することは、これまでに一度もなかった。
苦戦することが楽しいと思ったのは、これが初めてだった。

(*‘ω‘ *)「楽しいですね!!」

( `ハ´)「むかつく奴アルね!!」

最初は憎しみ。
今は楽しみ。
思う存分己の技術を出し切れる相手がいるというのは、幸せなことなのだ。
武器や兵器の性能に左右されることなく、鍛え上げた拳足と技術で戦う純粋さ。

(*‘ω‘ *)「あなたの技量、感服しました。
      研鑽の日々に敬意を表します。
      故に、円卓十二騎士、末席の騎士としてここで引導を渡しましょう」

ジュスティアの最高戦力である十二人の騎士。
その一人というのであれば、この馬鹿げた戦闘能力の高さも頷ける。
よもや、こうして騎士と戦える日が来るとは。

( `ハ´)「……やっぱり、その類だったアルか。
     だが、肩書は実力じゃないアル!!」

(*‘ω‘ *)「本当はもっと戦いたかったのですが、ここで幕引きとします。
      お詫びに、私が得たものをお見せしましょう。
      武人として知りたいでしょう?
      一撃必殺を」

( `ハ´)「はっ! 一撃必殺なんていうのは――」

430名無しさん:2022/12/05(月) 20:11:58 ID:/v63KFhk0
(*‘ω‘ *)「そう、武人の夢です。
      そして、悪を滅すると誓った人間にとっての理想。
      私はこの手に掴んでいるんですよ、その技を」

――その言葉は、シナーの中にある夢の一つだった。
許せなかったのは不平等。
納得できなかったのもまた、不平等だった。
富める人間がいて、飢える人間がいる。

何故助け合えないのか。
同じ人間ならば、助け合えばいい。
隣人や友人同士が助け合えるのなら、隣町が、離れた街が助け合ってもいいはずだ。
力によって何もかもが変わってしまうこの世界のルールがなければ、世界は一つになれるのに。

文句を言う輩を黙らせることが出来ればと、彼は技を身に着けた。
そして戦いの中で気づく、一撃必殺という言葉の遠さを。
急所を的確に狙い打てば殺せるが、確実ではない。
結局のところ武器に頼るしかないのだと、どんな武人でも諦める夢。

( `ハ´)「面白い、やってみるアル!!」

見たかった。
ぜひとも、見たかった。
世界の正義を名乗るジュスティアの騎士が放つ一撃必殺。
常人離れした筋力を獲得し、技を力でねじ伏せるほどの人間が言う一撃必殺を。

任務も、義務も。
シナーの心には、幼少期からの夢が満ち溢れていた。
これまでに多くの武術家が夢見て到達できなかった幻想の一つ。
仮にそれが完成していたとしたら、それを打破したい。

幻想は幻想のままだと。
夢は夢のままだと。
全てを、否定してみせたい。

(*‘ω‘ *)「言い残すことは?」

( `ハ´)「夢見たまま死ねアル」

直後にティングルが見せた構えは、あまりにも無防備だった。
両肩を脱力させ、視線だけはこちらに向けた姿。
まるで幽鬼のようだが、下半身が語るのは圧倒的な加速への用意。
速度、そして脱力。

先ほどシナーが見せた消力の亜種とでも言おうか、緊張と緩和の差による威力の増大を狙った攻撃。
なるほど、とシナーは内心で溜息を吐いた。
結局のところ、打撃の威力を高めるには脱力が欠かせないのだ。
最速で放つ一撃を的確に急所に当てる。

431名無しさん:2022/12/05(月) 20:12:21 ID:/v63KFhk0
それが、ティングルの言う一撃必殺の正体だ。
これは誰もが考え、そして挫折するものだ。
急所に当たりさえしなければ、何も恐れなくていい。
片腕を犠牲にすれば、十分に対応できる。

自分の左肩をティングルに向くように捻り、備える。
刹那。
何かが、シナーの背後から頬を掠めていった。

(;`ハ´)「あ?」

直後に銃声。
目の前では、ティングルが膝を突いていた。
その表情は呆気に取られており、動揺の色が浮かんでいる。

(*゚ω゚ *)

<=ΘwΘ=>『同志!!』

(;`ハ´)「な」

<=ΘwΘ=>『この糞尼!!』

(;`ハ´)「止めろ、撃つな!!」

――警告は、僅かに遅かった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
            :,:           :(::)
            /⌒''⌒) :,,゜      '         ,,,,,,,
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           τ'::/ .;:
            )/
         。            '  、       ;: 。
                               `'''`~''・    ' `
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432名無しさん:2022/12/05(月) 20:14:15 ID:/v63KFhk0
[::-■=■]『はぁ……はぁ……!!』

ギコタイガーは膝を突き、肩で呼吸をしていた。
武装は全て使い果たし、高周波振動と電撃を同時に放てる警棒は折れ曲がっている。
地下からのワイヤレス式の電力供給がなければ、こうしていることすらできていない。
目の前に転がるのは侵入を試みたストーンウォールの兵士たち。

そして、背後に転がるのもまた、ストーンウォールの兵士たちの死体だ。

[::-■=■]『ったく……てこずらせ……やがって!!』

防御に特化した棺桶でも、ここまで耐えきることは難しかっただろう。
強力な磁力、そして煙幕弾がなければ持ちこたえることは不可能だった。
特別にあつらえた装甲はその防御性能を失い、銃弾を曲げたり防いだりすることはもうできない。
満身創痍。

死に物狂いで襲い掛かってきた人間達は控えめに言っても強敵だった。
科学力の差が勝敗を分けたと言っても過言ではない。

[::-■=■]『う……!! 雄おおおおおお!!』

しかしそれでも、ギコタイガーは咆哮を上げた。
疲弊しきった体でも、その声は上げずにはいられなかった。
勝利を確信し、己の達成した偉業を知らしめる叫び声は、ノーザンライツ内に木霊した――

ノリ, ゚ー゚)li「……何かぶつぶつ言ってるねぇ」

(゚A゚* )「大方、自分が英雄にでもなった夢やろ、しょうもない」

――彼の耳に聞こえるのは、彼の死に際に放った雄叫びの残響。
目に映るのは勝利の名残だけだった。
現実とは違うことに気づけぬまま、彼は幸せな夢を見る。
幸せな夢がいつまでも、そう、いつまでも続くのだ。

433名無しさん:2022/12/05(月) 20:18:05 ID:/v63KFhk0
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ノーザンライツ自体に何かしらの細工があることは、調べるまでもなく分かっていることだった。
十字教の要であることに加えて、十字教の重鎮が住まう施設ならば、それは必然。
防御に特化させた仕掛けが複数あることは想定しており、それらを打破するために備えはしていた。
ノー・ガンズ・ライフたちが用意したのは、大量の高性能爆薬だった。

建物の壁を破壊するために用意したものだったが、唯一の入り口を塞ぐ厄介な棺桶を相手に使うことを躊躇いはしなかった。
それだけ相手の用意が厄介であり、一度に多くの犠牲を出してしまったことが決断を速めた。
加えて、磁力を使っていることは明白であり、それを利用しない手はなかった。
自分自身が移動する時にだけは磁力を弱め、防御に徹する時は最大出力で対応する。

実に分かりやすい相手だった。
クロマララー・バルトフェルドが死んでしまったのは非常に手痛い代償だったが、得たものはあった。
相手は、究極的な馬鹿ということが分かったのだ。

(゚A゚* )「残りの爆薬は?」

答えたのは、ジャンヌ・ブルーバードだった。

ノリ, ゚ー゚)li「さっきの扉1枚ぐらいだねぇ。
      でも、内側はそこまで手厚くないって情報だよ」

(゚A゚* )「しゃーない、最悪は高周波ナイフで蝶番を切り落とせばえぇ。
    残りはこの中にいるのは間違いないはずや!!
    ええか、ここで殺さな、ウチらが殺されるんや!!
    応酬の連鎖はここで終わりにするんや!!

    マイノリティがノーマルになるんなら、ここしかないで!!」

434名無しさん:2022/12/05(月) 20:18:25 ID:/v63KFhk0
控えている仲間たちに声をかけ、世界最後の悪役になる覚悟を決める。
内藤財団がその役を担おうとしていたようだが、実際は違う。
彼らが代弁するのは大多数の意見であり、世界の日陰に生きてきた人間の声ではない。
ここで立ち向かわなければ、マイノリティは駆逐の対象となり、これから先の世代の一部を切除することになる。

性とは人の命そのものだ。
辛みを好む人間がいれば、苦みを好む人間がいる。
それと同じこと。
それを否定する世界は間違っており、それを前面に押し出そうとする世界は決して受け入れてはならない。

これは自分たちの存在を否定させないための戦いであり、そのために悪になると決めた人間達の行動だ。
故に、虐殺と言われる行為に手を染めようとも、一向にかまわなかった。
自分たちと同じマイノリティが虐げられてきたように、彼らもまた、それを実行に移すだけに過ぎない。
不毛な応酬と言えばそれまでだが、それがここで終わるのならば、決して不毛ではない。

中央の礼拝堂に街の生き残りがいるのもそうだが、教皇のクライスト・シードがまだ見つかっていない。
街の外に通じる地下通路が存在している可能性があるため、早めにこの建物を崩落させなければならない。
だが残された爆薬の量では、それは叶わない。
残された手段は、焼き払うことだけだ。

(゚A゚* )「油断せず行くで!!
     さっきみたいなけったいな装置がないとも限らん。
     クリアリング、報告を徹底するんや!!」

建物内全てを消毒すれば、いずれにしても十字教の権威は失墜する。
十字教という巨大な組織がなくなれば、マイノリティの居場所は確保できる。
宗教とは価値観。
ならば、その価値観が瓦解すれば、差別や偏見が変わるのは間違いない。

6人一組を原則とし、ノーたちは建物中に散り散りになった。
無論、彼女を筆頭とする腕に覚えのある者達は礼拝堂に通じる扉の前に立っていた。
これから行うのは、間違いなく虐殺行為になるものだ。
逃げ場を奪い、最後にすがるものとして神を選んだ哀れな十字教徒を殺す。

各々、ライフルの残弾を確認し、準備が整ったことを確認し合う。
先陣を切ることになったのは、ジャンヌ。

ノリ, ゚ー゚)li『握り拳と握手は出来ない』

両腕に“マハトマ”を装着し、続けて別の棺桶の起動コードを入力する。

ノリ, ゚ー゚)li『忘れないで。私だって男の子に愛してほしいと言っているだけの、ただの女の子よ』

小型ポーチの形をしたコンテナに収められていた布を取り出し、それを眼前に掲げる。
すると、その布が一瞬の内にはためきを止め、一枚の盾の様に固まった。
携帯用護身布を使用する“ノッティング・ヒル”は携帯性に優れ、電流によって硬度を変える繊維によって防御と攻撃の両方を可能とする。
扉に右手をかけ、左手はノッティング・ヒルを盾として構え、上半身を守る。

その背後で、仲間たちが銃を構え、いつでも射撃が可能な状態にあった。

435名無しさん:2022/12/05(月) 20:18:52 ID:/v63KFhk0
ノリ, ^ー^)li「よーし……」

次の瞬間、豪華な装飾を施された重厚な扉が冗談の様に吹き飛んだ。
マハトマの筋力補助だけでなく、ジャンヌ自身の膂力とセンスの成す技だ。
宙を舞った扉が、厳かな空気の礼拝堂に並ぶ椅子をいくつも潰す。
部屋の中央にある巨大な十字架を囲む形で並べられた木製の椅子は、恐らくそれ一つだけでも数百万ドルの値が付くほどのアンティークだ。

高い天井から差し込む日の光が部屋を程よく照らし出し、壁画や天井画の鮮やかな色合いが目に付く。

ノリ, ^ー^)li「ジャジャーン!!
       どうもー、神の使いです!!」

十字架の足元には、身を寄せ合って怯えすくむ老若男女がいた。
数にして100人ほどだろうか。
誰も手に武器を持たず、十字架だけを持っている。
女子供は泣きだし、男は十字架を握りしめて祈りを捧げている。

諦めたか現実逃避をしているのか、穏やかな表情を浮かべている者さえいる。

ノリ, ^ー^)li「神様にお祈りは済んだ?
       じゃあ、ここまで!!」

背後でライフルが火を噴いた。
容赦なく一斉に放たれた銃弾がジャンヌの視線の先にいた人間を、肉の塊にしていく。
悲鳴も祈りの声も、嘆きの声すらも、銃声が上書きする。
次々と死体が増える中、ジャンヌは疑念を抱いていた。

数が少なすぎる。

ノリ, ゚ー゚)li「地下室でもあるのかな?」

「正解です」

その声は、十字架の裏から聞こえてきた。
出てきたのは、スーツ姿の男だった。

( ・∀・)「この十字架をどかすと、教皇とその愉快なお仲間たちがみんな隠れていますよ」

ノリ, ゚ー゚)li「民間人は?」

( ・∀・)「地下は二重構造になっていて、民間人が手前、その奥に教皇たちです」

ノリ, ゚ー゚)li「情報ありがとう。 で、君は誰?」

( ・∀・)「マドラス・モララーです。
     親しい人もそうでない人も、皆モララーと呼びます」

ノリ, ゚ー゚)li「そうか、モララー。
       その情報が正しいかどうかは分からないけど、一応感謝しておくよ」

436名無しさん:2022/12/05(月) 20:19:55 ID:/v63KFhk0
( ・∀・)「いえいえ、お気になさらず。
     で、行きます? それなら、私が色々と案内しますよ」

ノリ, ゚ー゚)li「遠慮しておくよ。 罠でない保証がない」

( ・∀・)「あらら、残念。
     では、私は行かせてもらいますね」

ノリ, ゚ー゚)li「狙いは何?」

( ・∀・)「愛を手に入れるんです」

ノリ, ゚ー゚)li「愛?」

( ・∀・)「えぇ、愛。 私ね、こう見えて前は牧師をやっていたんです。
      皆が愛って言葉を使うから、私はそれが欲しくなりましてね。
      人だけが持つ愛ってやつが、どうしても手に入れたいんです」

ノリ, ゚ー゚)li「……あっそう。
      だけど、モララー、君はここで死んでもらうよ。
      狂人のふりをしているセントラスの人間なら、生かす理由はないからね」

( ・∀・)「どうしても駄目ですか?
     私がこれからすることは、決して皆さんの損にはなりませんよ」

ノリ, ゚ー゚)li「それは言葉だけだからね。
       じゃあね」

手を上げ、発砲を促す。
無慈悲に放たれる無数の銃弾。
しかし、モララーはその場から動くことも、目を閉じることもしなかった。

( ・∀・)「……私はね。 神とやらに愛されているみたいなんですよ」

だが、銃弾は一発も彼の服に穴を開けなかった。
両手を広げ、不敵な笑みを浮かべる。

( ・∀・)「だけど、愛が分からない。
     己の愛の為に他者の愛を踏みにじる君達なら――」

ノリ,;゚ー゚)li「ちっ!!」

銃弾が当たらない芸当なら、先ほど見たばかりだ。
ジャンヌは迷わずに接近戦を選び、疾駆した。
ノッティング・ヒルを細長くし、槍の様に突き出す。
金属以外の物も曲げられるのならば話は別だが、そうでなければこれでトリックが暴ける。

( ・∀・)「――私に、愛を与えてくれるかもしれませんね」

437名無しさん:2022/12/05(月) 20:20:50 ID:/v63KFhk0
膂力を強化した一投は、だがしかし、当たるかと思われたその直前に眼前に掲げられた小型のコンテナに阻まれた。
人間の腕力ではない。
ドーピングをしているか、棺桶を使っているに違いない。
だが、攻撃を防いだということは、こちらの攻撃を危険視したということ。

攻撃は通じる。
銃弾は駄目だが、近接戦闘ならば問題はない。

( ・∀・)『食えるときは無礼な奴を食うんだ。 野放しの無礼な奴を』

コンテナを眼前に掲げたまま、モララーがそう告げた。
中身が空になったコンテナが地面に落ちると、そこには口元を覆い隠す異形の仮面があった。

( ・曲・)『さぁ、愛の対話をしましょう!!』

ノリ, ゚ー゚)li「ペトロヴィッチ、タルコフ!! こいつの相手を!!」

ソルダットに身を包んだペトロヴィッチ・グラスゴーとタルコフ・ホップスターが前に出る。

([∴-〓-]『任せろ』

([∴-〓-]『神父を殺すのが夢だったんだ』

ノリ, ゚ー゚)li「拳で殺せ。 油断するなよ、さっきのあいつと似たような装置を使っているぞ」

( ・曲・)『では、どこまでの覚悟があるのか見せてもらいましょう。
     ……ねぇ?』

地響き。
そして、巨大な振動が一同の足元から生まれた。

ノリ,;゚ー゚)li「なんっ?!」

      ラース・オブ・ゴッド
( ・曲・)『神 の 怒 り。 教皇たちは“ラスゴ”と呼んでいましたね』

次の瞬間、モララーと十字架の周囲を残して全ての地面が消失した。

438名無しさん:2022/12/05(月) 20:21:54 ID:/v63KFhk0
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第十二章 【 Ammo for Rebalance part9 -世界を変える銃弾 part9-】 了
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439名無しさん:2022/12/05(月) 20:22:18 ID:/v63KFhk0
これにて本日の投下は終了となります

質問、指摘、感想等あれば幸いです

440名無しさん:2022/12/05(月) 21:08:23 ID:1mqPoQOc0


441名無しさん:2022/12/07(水) 20:45:11 ID:vP1mjYos0
乙乙
ティングルさん普段でも戦闘中でもぽっぽ言ってるくせに一回ぼって言ってるwwwとか笑ってたらまさかの……
モブ兵士くんさぁ……
仕方ないとはいえ敵も味方もネームドの人達が結構やられてくねぇ

今回別にいいと思うんだけど、あえて口うるさく言わせてもらうなら

>>404
一人またひとりと銃弾に倒れていった。

ここの一人は平仮名か漢字かどっちかに合わせた方がいいかもって思うんだよね。

442名無しさん:2022/12/07(水) 22:54:43 ID:4jbZNraE0
おつ!
ちんぽっぽさん流石に戦争のど真ん中で横槍想定してないとかないよね…?
それにしてもシナーがかっこいい

443名無しさん:2022/12/08(木) 19:09:11 ID:SDhe36uk0
>>441
いつもありがとうございます!
確かに、合わせた方がいいですね
あともうちょっとだったか……

444名無しさん:2022/12/25(日) 21:01:43 ID:/AJ47ZnE0

ティンカーベル編の時からモララーの得体の知れなさ好きだなあ

445名無しさん:2023/01/23(月) 20:38:41 ID:shnMO2vc0
来週の日曜日、VIPでお会いしましょう

446名無しさん:2023/01/23(月) 21:58:00 ID:44PD4wHo0
ッシェイ

447名無しさん:2023/01/25(水) 22:29:19 ID:i0tzziqA0
きたな!!あけおめ!!

448名無しさん:2023/01/30(月) 19:40:29 ID:cQao1NtM0
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日が傾き、夏の空に朱が滲む頃。
戦火は世界中に飛び火し、燃え広がっていた。
その中で最も激しい戦闘を繰り広げていたのは、間違いなくイルトリアだ。
だが。

周辺への圧倒的な破壊を見せた戦いであれば、それは別だ。
地形が変わり、生態環境が変わったのは別の戦場だった。

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深海を航行していたレッド・オクトーバーがストラットバームに通じる海底トンネルに到着した時、すでに予定の時間は過ぎていた。
そこから更に、ドックへと通じる扉が停電の影響で開かず、潜水作業用の棺桶を使って開くしかなかった。
艦に搭乗していた全員がこうした状況への訓練を積んでおり、尚且つマニュアルがあったことが唯一の救いだった。
だが、到着してから追加で2時間も費やしたのは完全な誤算であり、致命的失敗だった。

頭上で分厚い扉が開き、明かり一つないドックへと浮上していく。
棺桶で武装した兵士たちが続々と降り立ち、施設を復旧させる為に奔走した。
無線で施設内の仲間に呼びかけるも、酷いノイズだけが返ってくる。
一体どれだけの大部隊がこの施設に攻め込んできたのか、想像するだけで寒気がした。

ティンバーランドの要石とも言えるこの施設は、難攻不落であると誰もが信じていたのだ。

〔欒゚[::|::]゚〕『くそっ、通信は相変わらずか……!!』

〔欒゚[::|::]゚〕『……酸素濃度が低い、換気システムもダウンしているらしい。
      生存者がいるかどうか、怪しいな』

地下に深くに作られたこの施設の泣き所は、空気だった。
酸素濃度を保つための換気システムには予備電源があてがわれているが、現在全ての電源が失われている。
脱出しようにも各所に設置された侵入者対策の扉が冷たくそれを拒む。
天蓋と呼ばれる垂直方向の隔壁は、停電したとしてもそれが閉鎖するよう設計されていた。

侵入者対策のための装置が転じて、中にいる者達を閉じ込める蓋となったのである。
地上に近い所にいた人間は助かるが、そうではない非戦闘員たちに待っているのは酸欠による死。

〔欒゚[::|::]゚〕『酷いマネしやがる……』

暗視ゴーグルが映す世界の片隅に、作業着に身を包んだ死体が転がっていた。
ハート・ロッカーの整備を担当していたのか、それとも、この施設の電源を復旧させようとしていたのか。
中には、抱き合ったまま息絶えている同志たちがいた。
もっと早く到着していれば、この中の誰か一人でも救えたのではないかと思うと、誰もが胸を痛めた。

だがとにかく、ストラットバームはティンバーランドにとって重要な拠点であるため、一刻も早く電源を復旧させ、使用できるようにしなければならない。
作戦はまだ続く。
世界を変えるための戦いがすぐに終わらないことは、誰もが理解している。
世界の正義を名乗る街と、世界最強の街を地図から消すには時間がかかる。

449名無しさん:2023/01/30(月) 19:40:54 ID:cQao1NtM0
逆を言えば、その二か所を落としてしまえば、抵抗する街はなくなるだろう。

〔欒゚[::|::]゚〕『こちらゴードン、レッド・オクトーバーと発電機をケーブルでつなぐ!!
      一気に活を入れてやれば復旧できるぞ!!』

レッド・オクトーバーもストラットバームも、その主たる電力はニューソクによってもたらされるものだ。
停止したニューソクを再稼働させる手段の中で、最も簡単なのが膨大な電力を流し込むことによって再稼働を促す方法だ。
通信を聞いた人間達によって、すぐさまケーブルが発電室まで運ばれてくる。
作業は慎重に行われ、すぐにレッド・オクトーバーから電力が流し込まれた。

〔欒゚[::|::]゚〕『よしっ、でんげ――』

――そして、ストラットバームは地図上から跡形もなく蒸発した。

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第十三章 【 Ammo for Rebalance part10 -世界を変える銃弾 part10-】
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AM11:48

ストラットバームで発生したニューソク2基の爆発の衝撃は、たちまち周囲に大きな影響を与えた。
地下深くで発生した爆発はまず大地を揺るがし、観測史上最大の地震を引き起こした。
クラフト山脈では大規模な雪崩が発生し、ストラットバームに面していた一部は一瞬で蒸発、残りは麓の町や森を襲った。
天蓋は溶けてなくなり、ハート・ロッカーを地上に押し上げるリフトを通じ、炎と衝撃波が直上に吹き上がった。

450名無しさん:2023/01/30(月) 19:41:15 ID:cQao1NtM0
それが、世界中ほぼ全域で観測されるほどの中間圏を越える程のキノコ雲を作り出した。
さながら銃腔、あるいは砲口の様な形となって放たれたそれらのエネルギーは、余力だけで半径10キロの全てを焼き尽くした。
湖を一瞬で蒸発させる熱を帯びた風が森を訪れ、燃え上がり、舞い上がった砂埃が新たな丘を作り、それまであった丘が埋もれ、削れて消えた。
音の振動が空にいた鳥を叩き落し、風がそれを離れた場所に押し飛ばす。

生まれた風と振動は、離れた位置で砲撃の準備をしていたハート・ロッカーの背中を容赦なく襲った。
如何に安定性のある三角形のフォルムをしていても、ニューソクが生み出す暴風には耐えられなかった。
前のめりに転倒し、更に悪いことに、砲身が地面にぶつかった衝撃で横転してしまったのだ。
前後への転倒対策は出来ているが、横倒れになるのはほとんど考慮に入れていない。

無限軌道を展開し、足のように使うハート・ロッカーの形態が仇となっていた。
起き上がれないことは無い。
だが、あまりにも時間と労力がかかるため、それはまだ一度もテストしてなかった。
全体が安定性に優れる三角形の姿をしているのに加えて、規格外の重量を持つハート・ロッカーが転倒するなど有り得ないと考えたからだ。

(;’e’)「があっ?!」

転倒した瞬間、操縦室にいた全員が、例外なくパニックに陥った。
地震が起きたかと思えば、次の瞬間にはハート・ロッカーが倒れていたのだから無理もない。
イーディン・S・ジョーンズを始めとした全員が、シートベルトを着用していたことに心から感謝した。
もしも体が固定されていなければ今頃は頭が爆ぜたザクロの様になっていたに違いない。

(;’e’)「何が起きた?!」

(::0::0::)「不明です!! 後部カメラに切り替えます!!」

そして映し出されたのは、真っすぐに立ち上る炎の柱と巨大なキノコ雲。
その光景を見た瞬間、ジョーンズは射精していた。

(;’e’)「お……おぉ……!!
    奇麗だ……!! ティンカーベルで見た物とは比べ物にならんな……!!
    そうか、ストラットバームとレッド・オクトーバーの2基の光か!!
    はははっ、ストラットバームが吹き飛んだだけはあるな!!

    その価値があるぞ、これは」

(::0::0::)「ストラットバームが?!」

(;’e’)「あれはニューソクの光だ、間違いない。
    今の内によく見ておきたまえ。
    生きている間にあれを二度も見られるとは、いや、生きてみるものだ」

ジョーンズは興奮のあまり、落ちそうになりながらも身を乗り出して画面を食い入るように見つめていた。
パネルを操作し、ズームし、血の様に赤い炎を凝視する。
圧倒的な破壊力。
その付近にいた者は最後に光を見て、白い世界に消え去ったことだろう。

451名無しさん:2023/01/30(月) 19:41:51 ID:cQao1NtM0
資料で知る限り、その光が生み出す熱は太陽に匹敵するほどだという。
有害な物質は生み出されないが、その破壊力は街一つを余裕で消し去る。
人は、本能的に強い物に惹かれる性質がある。
動物でも、道具でも。

強い物は美しい。
そして、その美しさを手中に収めたいと思うのは人間であるが故の本能だ。

(;’e’)「私はしばらく映像を見ているから、復帰作業は君たちでやりなさい。
   ギルターボに協力させるといい」

投げやりにそう言って、ジョーンズは画面を見つめ続ける。

(::0::0::)「で、ですが横転時のマニュアルはまだ不完全で……
     それに、侵入者もまだ……」

(#’e’)「マニュアルや他人に頼らないと何もできないのか君たちは!!
    頭を使ってくれよ、頭を!!
    何のための“保険機能”があると思っているんだ!!
    侵入者がまだ生きているっていうなら、さっさと殺してくればいいだろう!!」

激昂した口調でジョーンズがそう告げると、誰もが口を紡いだ。
彼のこのような姿を、これまでに見たことがない。
どんな状況下でも余裕を持った横柄な態度を崩すことなく、的確に対処をしてきた知的な姿の欠片もない。
プレゼントをもらった子供の様に、今はニューソクの爆発に目も心も奪われている。

(’e’)「はぁ……!! いい……!!」

故に、自分たちに迫っている危機に対する警戒心があまりにも疎かになっていた。
ハート・ロッカーに用意していた警備では圧倒的に力が不足していることは、誰も考えていなかった。

452名無しさん:2023/01/30(月) 19:42:14 ID:cQao1NtM0
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      人  \_公。           ,ふ    /\厂:::::::::::::::::::::::::::\_: : |\: : \: : \    \|
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ストラットバームまだ地図上にあった時、ハート・ロッカーには二人の招かれざる客がいた。
二人の目的はハート・ロッカーの無力化。
そしてそのために下した決断は、心臓部であるニューソクを破壊することだった。
ニューソクの破壊が大規模な爆発に直結することは承知しており、文字通り命がけで止めることを決めていた。

ニューソクがあると思わしき胴体に入る前に、二人は可能であれば砲塔の無力化を先に行うことにした。
多少の危険が伴ったとしても、ニューソクの停止までに時間がかかるようであれば、その間に砲撃によってどこかの街が吹き飛ぶ可能性が生まれてしまう。
巨大な移動基地としての機能も有するハート・ロッカーには必然、乗り込んでくる侵入者に対する迎撃要員がいる。
通常の基地と違って機体の中を移動することが前提となっていない作りであるため、その中での作業に特化した装備が必要だった。

その為に選ばれたのが、先天的あるいは後天的に身長や四肢が通常の人間よりも小さな人間だ。
彼らは専用の棺桶を身に着け――上半身部分はコンセプト・シリーズのそれ――、まるでコバンザメの様にハート・ロッカーの表面を滑るように移動する。
電磁石を利用したその移動速度と軌道は常人にとっては異次元のものだ。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「しっ!!」

だが、ギン・シェットランドフォックスにとっては問題なかった。

/▽▽『ラララララ!!』

高機動であっても、移動できる個所が装甲表面に限定されている以上、攻撃の予期は容易い。

/▽▽『痺れろ!!』

453名無しさん:2023/01/30(月) 19:42:53 ID:cQao1NtM0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「断る」

振り下ろされたのは異形の腕。
関節が三つあり、それを振るえば意思のある三節混が出来上がる。
回避行動を始める前に彼女の耳が、その腕に通る高圧電流の音を聞き取っていた。
高機動に加え、ほぼ全ての関節が通常の人体よりも一つ多くあり、さながら昆虫の様な構造をしていることを一瞥しただけで把握する。

しかしどれだけ棺桶の関節の数を増やしたところで、人間の関節はそれに対応しきれない。
使用者が自分の四肢以外を使うことに長けていなければ、それを使いこなすことなど決してできない。
ギンに襲い掛かってきている襲撃者は、間違いなく四肢を欠損し、義手の扱いに長らく長けている人間だった。

/▽▽『力こそが!!』

戦い方にも切れがあり、素人とは思えない。
元軍人か、その類だろう。

ハハ ロ -ロ)ハ「うるさいバカ」

それまで砲塔に対する工作を行っていたハロー・コールハーンが、横合いから男に襲い掛かった。
手に持っているのは巨大なパイプレンチだ。
振り下ろされたそれを、男は反射的に腕で防御する。
だがすでにハローはパイプレンチを手放しており、ギンに投げて寄越された高周波振動のナイフを深々と男の胸部に突き立てていた。

使用者の体の大きさに関わらず、その中心部を狙えば何かしらのダメージは期待できるためだ。
小型で高機動となれば、装甲の厚みはあってもBクラス程度。
その読みは的中し、男は一撃で息の根を止められていた。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「どうじゃ、砲塔部の破壊はできそうじゃったか?」

ハハ ロ -ロ)ハ「いいや、やっぱり駄目ダ。
       高周波ナイフでもダメだろうな、単純に装甲が厚すぎル。
       砲弾に細工をして爆発させて、ニューソクの誘爆を狙うカ」

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ニューソク周辺の装甲は一番堅牢じゃろうな。
       誘爆に備えていないとは思えん」

ハハ ロ -ロ)ハ「やっぱりそう思うカ。
        ……よし、機関部に行くゾ」

ハローは死体からナイフを回収し、逆手に構える。

ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「そっちには爆薬が通用するといいんじゃがな」

ハハ ロ -ロ)ハ「強度が気になるのは同意ダ。
       だが、万が一に備えてのメンテナンスを考えると、入り方があるはズ。
       状況によっては、ニューソクの停止よりも、操縦室に行って皆殺しにするしかなイ」


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