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Desperado Chariots
293
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:13:37 ID:Y6pO/fks0
('A`)「だってよ」
映像通信が遮断され、身を隠す土嚢の一部が砲撃で弾け飛ぶ。徳雄はさして慌てもせず、文彦へと振り返った
(;^ω^)「だ、だってよって……」
('A`)「聞いてなかったのか?奴は今から、これまで培った全てを使ってテメーをボロクソにした相手にリベンジを果たそうとしてんだ」
(;^ω^)「そ……それが?」
('A`)「『お前』はどうすんだ?」
二発目で、土嚢の半分が消し飛ぶ。流石にマズいと、徳雄はペダルを踏み込んだ
先ほど横転させた『五番隊』は、ビギナーズラックで討ったと言っていい。復讐心を煽りに煽った七番隊を相手に、同じ手は使えない
つまり、この状態で勝つには此方も耐久値に依存しない反撃を行わねばならない。アビリティを扱えるキャプテンがいない今、残った手段は『砲撃』に限られている
「来いよ宇都宮ァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
('A`)「やなこったっと……!!」
猛烈な勢いで迫る七番隊を背に、徳雄は逃げに徹した。頼りの前面装甲は半壊、側後装甲は一発でも喰らえば即大破は免れない
尚且つ、怒り昂るジョッキーを除いた二人のチームメイトは、比較的冷静な精神状態だ。少しでも気を抜けば、五番隊と同じ末路を辿るのは避けられない
綱渡りの逃走の中、文彦の説得に使える時間は僅かだ。一から十まで説き伏せる必要は無いものの、徳雄の心には少々の焦りが芽生え始める
(;'A`)「お前が蟒蛇に何されたかなんて、俺らにとっちゃどうでもいいし、聞いたところでどうしようもねえ……っぶねッ!!」
車体の左上部を砲弾が掠め、薄氷に石を投げ入れたかのように『クリアボディ』に皹が走る
互いの距離感は二百メートルそこそこ。重量差から徐々に引き離してはいるが、射程範囲からは逃れられそうになかった
294
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:14:45 ID:Y6pO/fks0
(;'A`)「重要なのは、お前は連中を『どうしたいか』だ!!」
(;^ω^)「!!」
正面に土嚢が迫る。右にフェイントを入れて、進路を前に戻す。つられた砲弾が、地面を深く抉った
土嚢を残ったブレードで押しのけ、砲撃の影響で土煙が上がった右方向へと舵を切る。『ヘッジホッグ』の踏ん張りが災いし、車体は慣性に従って左に傾いた
(#'A`)「クソがッ!!」
ペダルの踏み込みと同時に重心を右へと寄せて修正し、視界が悪いうちに塹壕へと潜り込んで急停止する
(;'A`)「ハァッ、ハァッ……クソ、まだ慣れねえな……」
バイクレースでは『砲弾』など襲って来ない。VRゲームは非現実が売りだが、やり慣れていない者には未知のプレッシャーを与える
(;'A`)「猫山さん言ってたぜ?『贔屓目抜きにしても、文彦の実力は唯一無二』だと」
(;^ω^)「……」
(;'A`)「お前の手に握ってるモンは、この車体に乗っかってる砲は、そんでこのゲームは、自分の才能で合法的に相手をぶん殴れるモンじゃねえのか?」
「どうした宇都宮!!逃げ腰かァ!?デカい口叩いてんのはどっちだ!?あァ!?」
タイヤが土を蹴る音が近い。煙に撒くのは成功したが、見つかるのは時間の問題だ
(;'∀`)「ああ、悪ぃ悪ぃ。今更説くまでもねえよなこんなしょうもねえこと。お前はその快感を既に知ってるんだからよ」
(; ω )「……」
徳雄が五番隊を横転させた時の快感に、文彦はどこか懐かしさを覚えていた
それは自らの砲撃で、相手からキルを奪った瞬間と酷似していたからだ
295
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:16:22 ID:Y6pO/fks0
(; ω )「……宇都宮さんは」
('A`)「なんだ?」
(; ω )「どうして、チャリオッツを始めようと思ったんですかお……?」
質問をした本人は、その答えを思い出せなかった。プロになるもっともっと以前、初めてガンナーの席に座った時の気持ちを忘れていた
徳雄は20代前半だ。若いとはいえ、ジョッキーを始めるには少し遅いとも言える年齢。何故、この時になってチャリオッツを、日本最高峰の大会を制しようと思ったのか
('A`)「知れたこと」
徳雄の答えは、文彦の初心と全く一緒だった
('∀`)「愉しいからよ」
(; ω )そ「ッ!!」
.
296
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:17:09 ID:Y6pO/fks0
ただし
('∀`)「調子乗った連中を蹴落とすのがな」
(;^ω^)「ええ……」
余計な一文が追加されてなければの話だが
297
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:18:48 ID:Y6pO/fks0
('∀`)「愉しい愉しい愉しい!!愉しくて仕方がねえ!!こんな世界があるんなら、我慢なんてせずにサッサと始めりゃあ良かった!!」
狂ったかのように嗤い始めた徳雄は、車体を急発進させる。すぐ側まで迫っていた七番隊が、反射的に砲撃する
今度は右側面の装甲に命中し、柔いクリアボディがパンと弾けた。耐久値のバーがゴッソリと減り、黄色に変化する
('∀`)「自分が強いと思っている奴を半殺しにするのが愉しい!!自分が優れていると思っている奴を貶めるのが愉しい!!神に感謝したことだってあるぜ!?俺を腐った見た目と性格にしてくれてどうもありがとうとな!!」
(;^ω^)そ「い、イかれてんのかお!?」
('∀`)「俺の唯一のダチはな!!強いし優れてるし見た目もハンサム!!その癖一度も驕ったことのねえ非の打ち所がない完璧野郎だ!!そんな最高の男を、チャリオッツの大舞台でぶっ殺してぇ!!!!!!そりゃあ最高に気持ちが良いだろうぜ!!!!!!」
コンプレックスの裏返しだろうか。それにしては、心底愉しそうに話すではないか
きっかけはそうであったかも知れない。だが、この極地に到るまで徹底的に暴力を突き詰めたのだ
だからこそ強く、だからこそ恐ろしく、だからこそ『憧れてしまうほどにかっこいい』
:(;^ω^):
身震いが起きた。脳天から背筋に痺れが奔り、グリップを持つ手に力が籠る
この男に比べれば、蟒蛇の持つヒール性などお子様のごっこ遊びだ。目を背けたくなるほどの醜悪な『凶悪』に文彦は魅入られてしまった
('∀`)「文彦、お前は――――」
遂に砲撃が足下で弾けた。視界がブレるほどの衝撃が車体を転がし、スクリーン映像と筐体内部は縦横無尽に掻き回される
耐久値は風前の灯火だ。運良く車体が起き上がったとしても、ジャッジは走行不能の判断を下すだろう
文彦は、ゲーム内の挙動と連動して上下左右と目まぐるしく稼動するコクピットの中で、スコープゴーグルを掴んで顔に添えた
七番隊からは、紙装甲の車体が吹き飛ぶ無様な様が見えているのだろう。一度も砲口を向けられずに、完全勝利を成し遂げたと勝ち誇っているのだろう
耐久値は風前の灯火だ。だが、ゼロでは無い。僅かでも復帰の余力が残っていれば、試合終了のホイッスルは鳴らない
298
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:19:18 ID:Y6pO/fks0
( ^ω[◎]
スコープからは、洗濯機の中に放り込まれたかのように残像を伴って移り行く車外映像が覗えるだけだ
遠心力と重力によって座席から転がり落ちないよう、シートベルトが贅肉をキツく締め上げる。戦場でしか味わえない圧迫感に、気も引き締まった
七番隊が放ったのは火力重視の榴弾。貫通弾に比べて、被弾時には大きく車体が揺れ動く。軽車両なら紙細工のように宙へ舞うことだってある。今の状況は良い見本だ
恐らくは、出来る限り痛めつけた上で報復を叶えたいが故のチョイスなのだろう。文彦にとっては非常に好都合だった
299
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:20:42 ID:Y6pO/fks0
( ^ω[◎]
6shooterは固定砲であり、『前』にしか飛ばない不器用な代物だ。照準を合わせるのはジョッキーとキャプテンの仕事であり、ガンナーはただ撃鉄を起こしてトリガーを引くだけの単純な作業に終始する
『ヘッジホッグ』は高すぎるグリップ性能故にドリフトを用いた方向転換に向いていない。徳雄には『問題ない』と言ったが、踏ん張りを得る為に旋回能力を犠牲にするカスタムは文彦の『得意』と相性が悪かった
( ^ω[◎]「スゥ……」
内藤 文彦は、自分と同じく不器用な6shooterが好きだった。現在のチャリオッツ環境には見向きもされない『ネタ砲』だとしても
この『相棒』を扱うのに関して、自分の右に出る者はいない。今でもそう思っているし、プロの世界でも通じると信じていた
( ^ω[◎]「……」
『6shooterは時代遅れだ。此方の指定する砲に替えたまえ』
蟒蛇の監督兼オーナーの言う事も最もだったかもしれない
『俺らが必死こいて照準合わせても、手柄持ってくのはあのデブだぜ?やってられるかよ』
わざと聞こえるような陰口も、当然かもしれない
『 ( Д )「ここにお前の未来は無い」 』
憧れの最上位に君臨する者から突き放されるのも、納得出来るかもしれない
( ^ω[◎]「……」
自らを否定されたようで、腐りに腐った挙句、『幼稚な嘘を吐いて大会を放棄する』のも、仕方がないのかもしれない―――――
300
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:21:10 ID:Y6pO/fks0
(# ゚ω[◎] そ ん な ワ ケ が あ る か ! ! ! ! ! ! !
.
301
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:21:59 ID:Y6pO/fks0
時代遅れ?だからどうした
手柄を持ってく?それがガンナーの仕事だ
未来は無い?あるに決まっている
誰よりも『相棒』を愛する自分が、『相棒』を扱うのを放棄してどうする!!
誰になんと言われようと、自分の『誇り』に替えは無い
回転式シリンダー搭載シングルアクション。連射速度は使い手次第、ガンナーの成長に必ず応えてくれる唯一無二の主砲
『6shooter』こそが
(# ゚ω[◎]「最強なんだおッッッ!!!!!!!!!!!
.
302
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:24:54 ID:Y6pO/fks0
砲撃で宙に舞った軽車両は、激しい回転によって身体の向きを『前』から『後ろ』へと移す
走行不能ギリギリのピンチに訪れた一瞬のワンチャンス。悠長に狙いを澄ます余裕はない。『文彦以外のガンナー』ならばの話だが
6shooterは『真正面』にしか撃てない不器用な主砲だ。逆に言い換えるなら、どんな状況でも必ず『真正面』に発射できるという信頼感があると言う事
その使い手も、照準合わせをジョッキーとキャプテンに任せ、撃鉄を起こしてトリガーを引くことしか出来ない
逆に言い換えるなら、『撃鉄を起こしてトリガーを引くこと』に関しては、他の追随を許さぬと言う事
照準器の枠端に五番隊の車体が入る。撃鉄は既に起きていた。蟒蛇は戦闘特化のプロ集団。装甲も厚く、一撃では破壊しきれない
装甲の破壊に『二発』。コクピットにトドメの『一発』を撃ち込まねばならない。『落下と回転が伴う車体からの砲撃で』だ
『何も問題無かった』
例え相手が回避行動を行おうと、『アビリティ』で煙に撒こうと、ほんの一瞬だけ照準が合えば、その二つの勝利条件を満たすことが出来る
スコープ内の十字ラインの交差点と車体が重なった瞬間―――――
(# ゚ω[◎]「ッ!!!!!!!!!!」
頭より先に、指は動いた
『フェザータッチ』。触れただけで撃鉄が作動するほどに『軽い』トリガーが、一撃目の号令を下す
一仕事を追え、『寝た』撃鉄を人差し指ですぐさま起こす。重ねるように二撃目を放った
休む暇を与えず、人差し指に追随してやって来た中指で起こす。三撃目。勢い余った薬指が、ダメ押しの四撃目を呼び出す
303
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:25:28 ID:Y6pO/fks0
('A`)
先日、猫山に見せて貰った文彦のプレイ動画に、徳雄はピンと来なかった。『現実味が無かった』とも言えるかもしれない
実際に彼を乗せ、彼の射撃を目の当たりにして、腹の底から響く『6shooter』の咆哮を食らって初めて
('∀`)「こいつぁ……」
『親友』以外にも凄い男がいるのだと知ったのだった
304
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:26:11 ID:Y6pO/fks0
(=#゚д゚) 「勝」
砲撃で吹き飛んだ『宇都宮の車両』を見て、勝利を確信した高城は勝鬨を上げる所だった
前面装甲の覗き窓から差し込んだ閃光が、『爆破』によるものと勘違いを起こす程度には舞い上がっていた
(=#゚д゚) 「っ」
カメラのフラッシュを浴びた時がそうであるように、眩んだ目が視力を取り戻すのに時間は掛からなかった
その間に、前面装甲が吹き飛び、コクピット内部への直接ダメージを伝える大きな衝撃が座席を揺らした。頭の中が白く染まる
(=;゚д゚) 「っ……た」
揺さぶられた脳と視界に若干の吐き気を催しながら、高城は前へと向き直る
憎き相手を叩きのめして浮かれた脳内は、一転して最悪の想像を掻き立てた
『Lose』
敗北を伝える英単語が、青白い文字で映し出される。座席がゆっくりと定位置へと戻り、安全ロックを掛けて稼動を停止させた
身体からハーネスが外され、『さぁ次だ』と追い出さんばかりに筐体は扉を開く。『現実』からは、観衆のどよめきと『五番隊』の怒号が遠慮なしに入り込んでくる
(=;゚д゚) 「あっ……ぐ、ぐぅ……!!」
スクリーンに映るリザルトを、何度見返しても同じだった。ラストキルのリプレイは、爆発でも何でもなく『吹っ飛んだ車両からの四連射』だった
(=#゚д ) 「く……ぐ……!!」
「クソがあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
.
305
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:27:44 ID:Y6pO/fks0
(;^ω゚ )「ふーっ、ふーっ……」
グリップを握る手、撃鉄を起こした指が小刻みに震える。脳からジワリと溢れ出た『物質』を、瞼をギュッと瞑って堪能した
チャリオッツから離れて数か月。夢にまで見たこの『瞬間』。何度味わっても飽きが来ない、『勝者』の気持ち良さ
取るに足らない自分が、英雄にでもなったかのような多幸をもたらす優越感に、しばし酔いしれた
('A`)「やるじゃねーか」
(;^ω^)そ「いって!!」
パンと肩を叩かれて、ようやく酔いから醒めた文彦は、『その後』の対応について全く何も考えていないと気づく
筐体の外では、内輪もめによる怒りの声が響く。出て行けば矛先は此方にも向くのだろう
(;^ω^)「どどど、どう、どうしどうしよう……」
('A`)「堂々と出て行きゃいいんだよ」
徳雄は掌を扉へと差し伸べ、『お先にどうぞ』と促す。顔面は変わらずブサイクだったが、その姿はどこか―――――
(,,^Д^)
彼とは似ても似つかない、優しい従兄と重なって見えた
306
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:28:08 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「……」
いや、無いわ。それは無いわ。普通に最悪のシンクロだわ。ギコ兄ぃにすっごい失礼だわ
早々に忘れようと心に決め、文彦は居心地と気色の悪い筐体から逃げるように抜け出した
307
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:29:10 ID:Y6pO/fks0
( #゚∀゚ )「この恥さらしのクソルーキーが!!!!!」
(= д )「……」
(;^ω^)そ「うおっ」
出迎えたのは歓声ではなく、観衆の視線を意に介さない『敗者』の責任の押し付けだった
高城は金髪に胸倉を掴まれるままに、ガクリと項垂れて此方へと見向きもしない。文彦に気付いた優男が、勇み足で近づいてきた
(#^^)「てめえやっただろ!?」
(;^ω^)「えっ、なん、何?何をですかお?」
(#^^)「『チート』だよチート!!じゃなきゃクソチビにあんな馬力だせるワケねーだろ!!」
胸倉を掴み上げられ、顔に飛沫を飛ばされながら、ありもしない『不正』を糾弾される
試合開始前は萎縮して口答えも出来ない存在だったが、今となってはなんだか滑稽に見えて
( ^ω^)・'.。゜「ブフッwwwwwwwwwww」
我慢できずに噴き出してしまった
(#^^)「てんめぇ……おちょくるのもいい加減にしろやァッ!!!!!!」
優男が拳を振り上げ、観客は思わず息を飲む。徳雄はよっこいしょと筐体から出た所で、暴行を止めようと思えば止めれたが
('A`)(まぁ一発くらいなら耐えるだろ……デブだし……)
と、メタボの防御力に任せようと静観した
シャンクスも勝利も敗北も知り逃げ回って涙を流して男は一人前になる泣いたっていいんだ乗り越えろって言ってたし
308
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:29:43 ID:Y6pO/fks0
「せーのォッ!!!!!!!!!」
(;^^)そ「ッ!?」
彼らを取り囲む観客の背後から、突如として気合の入った雄叫びが放たれたが
(メ) ゚ω゚ )・'.。゜「シャトルッ!?」
別に拳は止まらなくて普通に殴られた
309
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:31:20 ID:Y6pO/fks0
「「「「「ミミミン!!!!!!!!ミミミン!!!!!!!!ふーーーーーーーーーみひこッ!!!!!!!!!!」」」」
:(メ) ゚ω゚ ):「痛……?」
え!!!!!!!!!!!!!!???????????????????ウサミンコール!!!!!!!!!!!???????????
デレマスのサービスは2023年3月30日に終了しているのである。文彦にとって、ミンミン民にとっては、ミセリのコールとして馴染み深いものだ
それが、自身の名に変わって繰り返されている。二度、三度と続けて。彼らの『推し』に贈る時に負けないほどの声量で
('A`)「へぇ……」
声量、熱量、そして異臭に圧されて観客は道を開ける。コール集団の先頭には、水でも被ったのではないかと見紛うほどに汗を掻いたオタクデブ
(;@з@)「ミミミン!!!!!!!!ミミミン!!!!!!!!ふーーーーーーーーーみひこッ!!!!!!!!!!」
ライブ会場から『同士』を率いて現れた彼の姿は、見苦しくも『王』の風格を纏っていた
(;@з@)「文彦氏!!!!!!!!!天晴れな腕前にございましたぞぉぉぉ!!!!!!!!!」
:(メ) ゚ω゚ ):「木本くん……」
「やりますねぇ!!!!!!!!」
「この連射速度……VIPクオリティ!!!!!!!!!!」
「ニュータイプは伊達じゃない!!!!!!」
「乳首はダメでござるwwwwwwwwダメでござるよwwwwwwwwww」
拍手と共に次々と称賛の言葉が贈られる。呆気に取られた観客たちも、一人二人と拍手を始め―――――
(;^^)「っ……」
( ;゚∀゚ )「……」
瞬く間に『万雷』となり、ゲームセンター内を大きく振るわせた
310
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:32:20 ID:Y6pO/fks0
木本が言った『オタクの恐ろしさ』の本質は団結力にある
数多くのイベント、ライブを渡り歩いたミンミン民は、例え顔見知りで無くとも共通の一体感を持つ
一糸乱れぬコールや、スタッフの指示に従い物販の列に並ぶ統率。打ち合わせなどしなくとも、無言の連携が取れる猛者達なのだ
その上、活躍を魅せたのは推し同じくするミンミン民。そして彼らとは対極を成す存在である不良プロチームが叩きのめされたとくれば
「引っ込め負け犬ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
「メシウマァァァァーーーーーーーーーーーーwwwwwwwwwww」
「アホくさやめたらプロ選手」
「乳首はダメでござるwwwwwwwwwダメでござるよwwwwwwwww」
ここぞとばかりに総攻撃を行うのは至極当然の話であった
('∀`)「あっはっはっはっはっは」
これもまた、集団による暴力に他ならない。滅多に見れないオタクブス共の口撃に、内外共にウルトラブサイクは手を叩いて喜んだ
:(メ) ゚ω゚ ):「???????」
笑ってないで早く助けて欲しかった
311
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:33:25 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「テメェら仕組んでやがったな!?」
蟒蛇はプロだ。どうしても、無名の連中に負けたと認められないのだろう
金髪は高城を突き飛ばし、徳雄へと詰め寄った
('∀`)「は?何が?」
( ;゚∀゚ )「すっとぼけんじゃねえ!!チート使って俺らを貶め、オタク共に盛り上げさせて恥かかせようって魂胆だったんだろ!?」
('∀`)「あはははははは!!!!!随分都合の良いオツムしてんだな!!」
( ;゚∀゚ )「テメェ!!!!!」
胸倉に伸びた腕を、今度ばかりは好き勝手させずに掴んで止める。小さな徳雄は大柄の金髪の身体に覆い隠され、観客からは『凄まれている』ようにしか見えなかった
( ;゚∀゚ )「あっ、ぐ……?」
実際には
('A`)「いい加減にしとこうぜお兄さん」
金髪の手首が押し潰れるほどの握力で掴まれ、動けずにいるだけだった
312
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:34:07 ID:Y6pO/fks0
('A`)「退き際もわからねえか?押し問答で俺らが折れても、蟒蛇の評判が今以上に下がるだけで何の得もねえぞ」
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「そうだそうだー」
('A`)「それでも納得いかねえってんなら、ゲームでも喧嘩でも付き合ってやるよ。ただし、さっきみてーに生温い扱いはしてやらねえ。次は初っ端から文彦がブッ放すぜ?勝てる自信があんのか?」
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「やれやれー」
( ;゚∀゚ )「タダで済むと思ってんのかよ……!!」
('A`)「脅すのは自信の無さの表れだぜ?テメーらより番付が下の高城の方がよっぽど気合い入ってたよ。それとも……」
手首の骨身が軋むほどの圧力に、金髪は耐えきれず低い悲鳴を上げた
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「わぁー、すっごい痛そう」
('A`)「『喧嘩』で白黒着けるか?いいぜ大歓迎だ。俺ぁそっちの方が愉しめるからなぁ。オラ、大怪我する前に早くどうするか決めろよ。ええ?プロのお兄さんよ」
313
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:35:58 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「ぐあ……」
恵まれた体躯に恵まれた容姿。彼は生まれた時から『敵』に出会ったことの無い人間だった
学生時代は気の合う仲間と我が物顔で教室を支配し、気弱な生徒を捕まえては雑用を押し付け。気に食わない者には腕っ節を見せつけて黙らせた
自らの力では敵わないと悟った者には媚び諂って上手く取り入り、美味しい蜜を吸ってきた。暴力と世渡りをバランスよく使い、肩で風を切って人生を歩んできた男だった
('∀`)
彼は初めて『見誤った』。取るに足らない生意気なチビのブサイクだと思っていた男は、人生の殆どを『敵』だけを相手にして生きてきた男だった
『獏良 良樹』と出会うまでは気の合う仲間など作れず、何かにつけて容姿をバカにされ、理不尽を振るわれた
清潔を保っているにも関わらず、汚物が如き扱いをされた。気に食わないという理由だけで集団に囲われ嬲られた
例え自らの力では敵わない相手だったとしても、時間を掛けてそれら全てを一個人の暴力で捩じ伏せ、一切合切を支配した
( ;゚∀゚ )「ヒッ……」
歩んだ人生の『難易度』が、圧倒的に違う。金髪は今になってようやく、『宇都宮 徳雄』という格上を相手にしていると肌感覚で理解した
( ;゚∀゚ )「わ、悪かった!!悪かったよぉ!!頼む、俺の負けだぁ!!」
膝を折って声を震わせ、小さく醜い男に懇願するみっともない姿が、公衆の面前に晒されたが、金髪にはもう体面を気にする余裕は残ってなかった
心底つまらなそうに大きな溜息を吐いた徳雄は、金髪の手首を投げ捨てるように解放する
('A`)「ガッカリだよ」
抵抗の意志すら消えた金髪は、徳雄にとって既に価値の無いタダのザコであった
314
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:37:04 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「す、すまなかった!!もうアンタには関わらねえよ!!」
('A`)「先に撤回することがあるんじゃねえのか?」
( ;゚∀゚ )「ア、アンタの実力は本物だ!!負けを、負けを認める!!」
('A`)「他には?」
( ;゚∀゚ )「ほ、他!?」
('A`)「ハァー……」
(;@з@)「ぬ?」
顎でクイと指す先には、彼らが小馬鹿にした『キモオタ』こと、敗北感を徹底的に押し付ける為に画作した『王』の姿があった
( ;゚∀゚ )「へ……?」
金髪はポカンと口を開けた。徳雄が求めている行為が何なのか解らなかったからだ
数秒経ってようやく意味を理解した金髪は、今以上にサァと顔を青ざめさせた
315
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:38:37 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「あ、あの……」
('A`)「何?」
( ;゚∀゚ )「勘弁、してくんねっすか……?お、俺にも、面目ってもんが」
グチャグチャと女々しい言い訳を聞き終える前に、徳雄は金髪の襟首を掴み上げ、木本の足下まで引き摺り出した
蟒蛇の仲間は目の前の非現実的な光景に、文彦に迫っていた優男ですら、止めることも出来ずに呆然と突っ立っているだけだった
('A`)「はい」
( ;∀; )「勘弁してください……勘弁してください……」
遂にさめざめと泣き始めた金髪に、徳雄は続け様にこう放った
('A`)「『はい』」
( ;∀; )「ッ……」
『事を済ますまで解放しない』。その意志を、たった二文字で伝え終える
この瞬間、徳雄への恐怖が面目を上回った。木本へと向き直り、額を床へと叩きつけ
( ;∀; )「すいませんでした!!すいませんでした!!」
嗚咽混じりで謝罪した
(;@з@)そ「お゛!? お゛ぉ゛!?」
ビックリして下痢便漏れる時と同じ声が出た
316
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:39:46 ID:Y6pO/fks0
('A`)「何がすまなかったんだよ?」
( ;∀; )「ヒグッ……ヒグッ……」
('A`)「なぁオイ、何に対して謝ってんのかって聞いてんだよ」
こんなんもうパワハラなのである。長い間それに耐え続けた男は、その手口も良く勉強していた
( ;∀; )「キモオタとバカにしてすいませんでした……!!」
('A`)「他には?」
(;@з@)そ「宇都宮氏!!!!!もういいでござるよ!!!!!なんかこっちが居た堪れないでござる!!!!!」
('A`)「でもこいつ、オメーに謝るのを『面目が』どうのこうの言って一回拒否しようとしたんだぜ?」
(;@з@)「そんなの別に気にしないでござるよ!!ささ、金髪氏。顔を上げてくだされ。昨日の敵は今日の友と言うでありましょう。お互い、笑って忘れようではございませぬか」
性格と顔面が最悪のドブサイクと比べて本当に出来たオタクブスだった。土下座する金髪に手を差し伸べ、傲慢を許す光景に観客一同は二度目の拍手を贈り始める
( ;∀; )
しかし、この期に及んで
( ;∀; )「……ソがよ」
金髪は情け深い木本の慈悲すらも受け付けなかった
317
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:42:07 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「金髪氏?」
格上に叩きのめされるよりも、『格下』に許されるのが我慢ならない。チンケなプライドだけが残っていた
勝てると思っていた勝負に負け、口でも力でも完膚なきまでに叩きのめされ、公衆の面前で恥を晒した
惨めな男の知性は、怒りと恥辱で幼稚になっていく。後先は考えられず、只々『八つ当たりの矛先』を求めた
( ;∀; )「うわあああああああああああああ!!!!!!」
『どうせ恥を拭えないなら、目の前のオタクだけでも道連れにしてやる』
土下座の姿勢から勢いよく立ち上がった金髪は、腰の入っていない拳を放った
('A`)「ハァ……」
到達前に止めるのは容易い。文彦と違って一目置けるオタクブスにこれ以上迷惑を掛けるのは忍びなかった
引導を渡そうと拳を固めたが、彼よりも先に、観衆を割って現れた誰かが
(#^Д^)「このバカ野郎がァッ!!!!!!!!」
金髪の脇腹を盛大に蹴り飛ばした
318
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:42:49 ID:Y6pO/fks0
(; ∀ )・'.。゜「カッ……!!」
大柄な身体が一瞬、宙に浮くほどの強烈な蹴りに、僅かな肺の空気と胃液を吐き出す
徳雄は『愉しみ』を横取りした乱入者に一つ文句でもくれてやろうと口を開いたが、蟒蛇を含むこの場の全員の空気が変わったのを感じて飲み込んだ
(;^^)「ふ……蕗也さん……!!」
('A`)「ん……?」
ゲームセンター前での一悶着で、蟒蛇のメンバーの一人がその名前を言っていたのを思い出す
乱入者の正体を知らないのは、チャリオッツ界隈に疎い徳雄だけであった
(#^Д^)「一般人相手に迷惑かけやがってクソバカ共が!!お前らそんなにご立派な存在か!?アァ!?」
(;^^)「い、いやでも蕗也さん……因縁着けて来たのは向こうからで……」
(#^Д^)「だからって馬鹿正直に喧嘩を買ってんじゃねえ!!ガキじゃねえんだぞ!!」
乱暴な口調に反して、仰ることは至極真っ当である。乱入者は蟒蛇メンバーの頭を一発ずつ殴り、金髪を除く全員を横一列に並べさせ
(;^Д^)「お騒がせして申し訳ございませんでした!!!!!」
この場の全員に向けて、深く頭を下げたのであった
319
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:43:49 ID:Y6pO/fks0
('A`)「誰だよ……」
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「知らないですかぁ?彼こそがトップアタッカーチームの最頂点、チームランク一位『バジリスク』のキャプテンである『宝木 蕗也』さんですよ」
('A`)「へぇ……」
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「男性ファッション誌『タフガイ』の専属モデルで、チャリオッツプレイヤー投票でも常に上位をキープする人気者!!ヤンチャなのは見ての通りですが、決して堅気には手を出さない任侠の男でもあるんです」
('A`)「へぇ……」
(;'A`)そ「アンタも誰!!!!!?????」
若くて可愛いチャンネーは解説だけしてどっか行った
(;^Д^)「キミ、怪我はないか?ウチの者がすまなかった。こいつらは俺がキツく叱っておく」
(;@з@)「お、お気になさらず……」
(;^Д^)「キミにも迷惑を掛けたな。申し訳ない」
('A`)「ああ、いや……俺は別に」
『随分と、思っていた印象と違うな』。毒気を抜かれた徳雄は、バツが悪そうに頭を掻いた
しかし、宝木以外の蟒蛇メンバーの、文彦に対する扱いを見れば、外面だけ繕っている可能性も捨てきれない
恐らく文彦が蟒蛇を抜ける理由も知っているのだろうが、無関係の人間が数多く存在するこの場で聞き出すのも忍びなかった
(;^Д^)「……文彦」
(;^ω^)そ「お……お久しぶり、ですお……」
蚊帳の外だった文彦は、気まずそうに一礼をする。戦々恐々なのは目に見えてわかるが、どこか罪悪感を抱いているようにも見えた
320
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:45:59 ID:Y6pO/fks0
(;^Д^)「悪かったな……今後一切、お前に近づかないように言い聞かす。許してやれとは言えないが、どうか溜飲を下げて欲しい」
(;^ω^)「だ、大丈夫ですお……」
('A`)「……」
目を合わせず、行き場のない両手をモジモジと組み合わせる。その様は、まるで悪戯がバレる寸前の子どもそのものだった
文彦の態度を見て、徳雄は一つの仮説を立てる。『蟲毒でのトリガー不具合は、本当に文彦の虚言だったのでは無いか』と
どうしてそんな嘘を吐く必要があったのかは定かで無いが、迷惑をかけた自覚が無ければこれほど都合が悪そうにはしないのではないか?
この際、一切合切を吐き出して貰おうではないか。徳雄は即席で一計を案じた
('A`)「文彦、お前も言う事あるんじゃねえのか?」
(;^ω^)そ「え!?ななななな、何をだお!?」
('A`)「すっとぼけんじゃねえよネタは上がってんだ」
勿論、嘘である。だが、徳雄のバックについている人物が、その嘘に説得力を含ませる
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> (´^ω^`) 金持ってるクズ!!!!!!!!!!!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
そう、皆さまご存じ、金を持ってるクズである。一学生の身元を調べ上げるなど造作もないと考えるだろう
('A`)「お前もそこで転がってるバカみてーにみっともねえ野郎になりたかねえだろ?きっちりケジメつけとけや」
(;^ω^)「……」
321
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:46:37 ID:Y6pO/fks0
(;^Д^)「文彦……?」
ガクガクと膝を震わせ始めた文彦に、宝木は首を傾げる。若くて可愛いチャンネーはi-ringのメモアプリを起動した
( ;ω;)「すんませんでしたお!!!!!!!」
(;^Д^)そ「文彦!?」
(;@з@)そ「文彦氏!?」
突然の土下座に、宝木も木本も驚きを露わにする。徳雄は自身の仮説が当たっていたのを確信した
( ;ω;)「ヒグッ、こ、蟲毒での不具合は、僕の嘘だったんです!!ぼ、僕のわが、わがままで!!蟒蛇に泥を塗って、すいませんでした!!!!!」
人々は揃って口を閉ざす。ピコピコと明るい電子音が、随分と場違いなBGMを奏でていた
堂々のカミングアウトを放った文彦は、鼻を啜りながら『すいません、すいません』と繰り返す
( ^Д^)「……文彦、良く……」
やがて、宝木が文彦の前でしゃがみ込み、肩に手を置いた
( ^Д^)「良く……謝ってくれたな」
( ;ω;)「すいません……すいません……」
( ^Д^)「良いんだ。気にするな」
322
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:47:16 ID:Y6pO/fks0
謝罪と、宥恕。ドラマのワンシーンにもなりそうな、感動的な場面に
(;@з@)「ふ゛み゛ひ゛こ゛し゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛」
「これが……VIPヌクモリティ!!!!!!」
「#用意したティッシュで涙を拭いた」
「イイハナシダナー」
「乳首はダメでござるwwwwwwwwダメでござるよwwwwwwwwww」
オタクブス集団は汚く泣いた。だが、この男だけは
('A`)「……?」
宝木の口元に浮かんだ、慈悲や友愛由来ではない笑みを見逃さなかった徳雄だけは、蟒蛇の頂点に立つ男の底知れなさを感じ取った
323
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:48:13 ID:Y6pO/fks0
泣きじゃくる文彦をしばらく慰めた後、宝木は徳雄へと向き直った
粗相を起こしたチームメイトへ向けていたドスの強さは無く、温和で優し気な表情で手を差し出す
( ^Д^)「キミにも迷惑を掛けたな。それと、文彦を支えてくれてありがとう」
('A`)「……ああ」
握手を返し、これにて手打ち。大団円で締めくくりに差し掛かっていた
(;^Д^)「っ!?」
しかし、徳雄の疑問はまだ解消されていなかった。宝木が逃げ出せぬよう、右手を強く握りしめ、手前へグッと引き込む
('A`)「可笑しな話だなぁ。蟒蛇の兄さんよ」
そして、声を潜めて語り掛ける。残る疑問の答えを知る者にしか聞こえないように
('A`)「わざわざデカい大会で、下らねえ嘘吐いてまでプロの看板に泥を塗った野郎だぜ?俺ァ、奴がそこまでしなきゃならねえ理由が気になってしょうがねえんだ」
(;^Д^)「……思うところが、あったんじゃないか?俺は済んだ話を、掘り返す真似はしたくないんだが」
('A`)「随分と人が出来てらぁな。だったらどうして、文彦が愚行を犯す前に真摯に向き合ってやらなかった?心境の変化でもあったのかよ?」
(;^Д^)「何が言いたい……?」
結果だけ見れば、蟲毒での文彦の発言は嘘であり、責任は彼にあると言った蟒蛇陣営は間違ったことを言っていない
問題はそこに到った『経緯』だ。咄嗟の思い付きで糞を漏らす人間がいないように、ワケも無く嘘を吐く理由も無い
だとすれば、結局のところ文彦の愚行の原因は、所属していた組織にあるのではないか?
('A`)「『あいつに何しやがった』?」
回答次第では、頭を下げるのは文彦ではなく『お前』になる。脅しを込めて、宝木の右手を更に強く握りしめた
324
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:48:39 ID:Y6pO/fks0
( ^Д )「……」
('A`)「!!」
表情こそ変えなかったが、握力の『応戦』に打って出た宝木に、徳雄は少々面食らった
焦りを見せていた表情は、先ほどの柔らかなものへと変化していたが、能面のような無機質さを感じ取れる
得体の知れない男は、抱きしめるように徳雄の耳元へと顔を近づける
( ^Д )「俺はお前と『同類』さ。宇都宮 徳雄」
('A`)「……」
質問の答えになっていない。だが、徳雄にはそれで十分だった
('A`)「そうか」
互いに背を二回叩き、あたかも友好を深め合ったかのような演出を行い、互いの『拘束』を解く
振り向きざまに徳雄へ笑みを投げかけた宝木は、今度は木本を始めとしたオタク軍団へと謝罪と感謝を伝えに行く
('A`)「……」
何が『同類』なものか
('A`)「回りくどい野郎だ……」
此方は敵を作るのに、面倒な手段など必要としないのだから
325
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:50:00 ID:Y6pO/fks0
(#∵)「とても警備員だ!!!!!!!!!!!!!!!暴力があったと聞きつけて参上した!!!!!!!!!!」
(#∴)「とても暴力を振るった野郎はどいつだ!!!!!!!!!!とても丁寧にぶっ殺してやる!!!!!!!!!!」
('A`)「っとぉ……」
そこに、群衆を掻き分けて警備員が現れる。流石に騒ぎが大きくなり過ぎた。捕まるのは面倒だと思案していると
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「あ!!!!!!!!!!!あそこにチンチン丸出しのおじさんが!!!!!!!!!」
若くて可愛いチャンネーが明後日の方向を指さして叫んだ
(#∵)「とてもわいせつだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(#∴)「とても汚いモノを切り取って野郎の口に詰め込んでやる!!!!!!!!!!!!!!」
暴力よりチンチンの方がとてもヤバいと判断した警備員は、すぐさま対象を移し替える
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「どうぞ」
(;'A`)「ああ……どうも」
一体誰なんだろうかこのチャンネーは。とは言え、ありがたい援護射撃だった
文彦の腕を掴み、木本にアイコンタクトを送ってすぐさまこの場を離れることにした
( ;ω;)「うおおおおおん!!!!!宝木さん!!!!!!!」
しかし、デブはその場から動くのを拒否した
徳雄は今からでもどこかで試合を見てたクズにチンチンを丸出しにして貰って時間を稼ぐように仕向けようか迷った
326
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:51:44 ID:Y6pO/fks0
( ;ω;)「僕、チャリオッツに戻りますお!!!!!!」
それは、文彦に関わる全員が待ち望んでいた言葉だった
327
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:52:15 ID:Y6pO/fks0
( ^Д^)「……ああ!!」
『これで奴の思い通りか』。徳雄はどうにも、掌の上で転がされた気がして癪に障った
だが、ようやく目的が達成されたのに変わりない。軽く会釈をすると、力ずくで肉塊を引っ張り、群衆の中へと紛れていく
『神業』を目の当たりにした観客も文彦には好意的のようで、皆口々に激励の言葉を掛けつつ、それとなく二人の姿を警備員の目から庇った
( ;ω;)「オーイオイオイ……!!!!!!」
(;'A`)「しっかり歩けよ……クソ、めんどくせえ!!もしもしデミさん!?車回してくれ!!」
《了解》
i-ringで連絡を済ませ、ゲームセンターを出た瞬間、高級車が目の前でピタリと止まった
仕事の早さに舌を巻きつつ、後部座席に泣き虫デブを押し込む。続いて
(;@з@)「ハァ、ハァ……宇都宮氏!!文彦氏!!」
(;'A`)「オメーも乗れ!!」
(;@з@)そ「うわなにをするやめ!!!!!!!!!!!」
後を追って来た木本も流れで押し込み、自身は助手席に素早く乗り込んだ
(;'A`)「ッハァーーーーーーーーーーーーーー……」
(´・_ゝ・`)「お疲れ様」
(;'A`)「どもっす……」
(´・ω・`)「なぁオイ」
328
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:52:44 ID:Y6pO/fks0
(´・ω・(( ;ω;(;@з@)「何!?どなた!?拙者をどこに連れて行くのでござるか!?」
(´・ω・`)「死にそうなんだが?」
続けざまに臭いデブ二匹をギチギチに詰め込まれた本八は、前部座席を恨めしそうに睨んだ
('A`)「別に構わねえけど?」
(´・_ゝ・`)「文句あるなら降りろ」
(#´^ω^`)「俺さぁ!!!!!!!!!!上司!!!!!!!!!経営者なんだけど!!!!!??????」
盛岡は無言で車を出した
329
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:53:12 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――
―
( ^ω^)「今日の疲れが、すっかりとれましたお」
(´・_ゝ・`)「うん」
三ツ星レストランではない。参羽鴉グループが経営する宿泊施設『めいじ館』の一室である
いつもなら徳雄が勤務する『OHANAMI』へ直行する流れだが、ライブとチャリオッツ直後の汗臭い三人を飲食店に連れて行くのはマズいと判断し
入浴と食事が出来るこの場所へと足を運んだのだった
(´^ω^`)「いやぁオメエ中々根性のあるオタクだな!!ウチで働かねえか!?」
(;@з@)「せ、折角のお誘いでござるが、一応アプリの開発で生活できる目途は立っておりますので」
(´^ω^`)「クソがよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(;@з@)そ「宇都宮氏!!!!!!!!この御仁何者でござるか!!!!!!!!!!????????」
('A`)「クズ」
(´^ω^`)「死ね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
('A`)「な?」
(;@з@)「はぁ……なるほど……」
(´・ω・`)「なるほどじゃないが??????」
330
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:54:08 ID:Y6pO/fks0
(´・_ゝ・`)「しかし、想定以上に大事になったね。見なよ。SNSでは既にトレンド入りしてる」
あの場にいた観衆の誰かが、録画した試合映像をアップしたらしく、SNS上では瞬く間に拡散していた
(´・ω・`)「それだけじゃねえ。既に記事まで上がってんぞ」
('A`)「記事?」
(´・ω・`)「『名も無きジョッキーと、元蟒蛇のルーキーガンナー。プロチームを返り討ち。大型ルーキー誕生か』だと」
にわかには信じられず、徳雄も自身のi-ringでニュースサイトを調べてみる。すぐさま、本八の言ったタイトル記事がヒットした
内容も嫌に具体的で、試合後の金髪とのやり取りすら事細やかに記載されている。まるで、この記事を書いた記者がその場に居合わせたかのようだった
(;'A`)「……」
【 i!iiリ゚ ヮ゚ノルv 】
そういやなんか居た気がする。なんかヤジ飛ばしてたような気がする
(´^ω^`)「有名人だな!!!!!!!!!」
(;'A`)「いやぁ……まぁ……うん……」
注目に慣れていない徳雄は、少々気恥ずかしかった
331
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:55:08 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「して、この集まりは一体?」
(´・_ゝ・`)「文彦くんをチャリオッツに復帰させようの会って所かな……社長」
(´・ω・`)「おお。ほれデブ」
契約書とペンを差し出し、サイン欄を指で叩く。文彦は緊張した面持ちで姿勢を正した
(;^ω^)「お……」
(´・ω・`)「もう引き返せねえぞ。お前らは二軍とはいえプロチームの一角を落とした。ここまで大々的に報じられりゃあ、超新星である『ハヤテ』と並んだも同然だ」
('A`)「……」
(´・ω・`)「『勝ち馬』の乗り心地はどうだったよ?これでもまだ、今年のジャパンカップ制覇は無理だと思うか?」
爆発的な加速力。真正面から砲撃されても怯まぬ胆力。小さい身体からは想像もできない膂力に、話術による心理戦。蟒蛇など取るに足らぬと思えるほどの、凶悪な暴れ馬だった
かれこれ十年近くチャリオッツをプレイしてきたが、今日の一戦ほど心ときめいた瞬間は無かった。『人馬一体』。銃座に座る自身ですらも、勝ち馬の一部と思えるほどに
332
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:55:35 ID:Y6pO/fks0
( ^ω^)「……」
『ジャパンカップ制覇』。誰もが夢見る、日本最強の称号。文彦も例外ではない
勝ち馬に当てられ再燃した意欲が、万人が『無謀』とあざけ嗤う行為に挑もうとしている
浮足立った今だけの興奮なのかもしれない。一日も経てば後悔に苛まれるのかもしれない。だが、恐らくは
( ^ω^)「……」
こんなチャンスは二度と来ない
( ^ω^)「無理だお」
(#´^ω^`)「殺ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
本八が花瓶を握ると同時に、文彦はペンを取って自らの名前を書き込んだ
( ^ω^)「『とびきり上等なガンナー』がいない限りは」
今度こそ、『相棒』に顔向けできる自分になる為に――――――
333
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:56:26 ID:Y6pO/fks0
(#´^ω^`)三三つ)メ ゚ω^)・'.。゜「えええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!??????????????」
(;@з@)そ「文彦氏ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」
腰の入った左ストレートだった
334
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:56:50 ID:Y6pO/fks0
(#´゚ω゚`)「散々金と手間かけさせやがって調子乗ってんじゃねえぞオタクデブが……」
ほぼ私怨だった
('A`)「幾ら掛かったんです?」
(´・_ゝ・`)「割と。まぁ、そこそこの金額は回収出来るからトントンだと思うけどね」
(メ)#^ω^)「いてーおクズ!!!!!!!!!!!大人が子供に暴力振るってんじゃねえお!!!!!!!!」
(#´゚ω゚`)「るせーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!オタクデブは成人男性としてカウントしていいって法律で決まってんだよ!!!!!!!!!!!!!」
2121年現在、そのような横暴な法は残念ながら成立していない。ギャイギャイと掴み合いを始めた二人を、木本が宥めた
(;@з@)「ま、まぁまぁ二人とも……どのような経緯で知り合ったのか存じませぬが、雨降って地固まると言うでござろう。文彦氏の新たな門出を祝おうではござらんか」
(メ);^ω^)「お……キングがそう言うな」
335
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:57:25 ID:Y6pO/fks0
(#´^ω^`)三三つ)メ ゚ω^)・'.。゜「らあああああああああああああああああああああああああああああ絶対殺すこのクズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(;@з@)そ「文彦氏ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????」
もう収拾がつかなかった
336
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:58:04 ID:Y6pO/fks0
(´・_ゝ・`)「放っといていいよ。年甲斐もなくはしゃいんでんだよあのクズ」
ジャパンカップ『予選』まで、六か月弱
(;@з@)「な、なんて傍迷惑なはしゃぎ方……と、所で、拙者は何のためにここに?」
親友を殺す為に蘇った『鬼』と
('A`)「いやなんか……巻き込みてえなって」
(´・_ゝ・`)「そうだね。度胸も統率力もあるし、なにより善良だ。ここでお別れは余りに惜しい。キミ、サポーターにならない?給料弾むよ」
(;@з@)「サポーターってお金貰ってやるものではないのでは……?」
相棒の価値を証明する為に再起した『ガンマン』が
(メ)#^ω^)「ミセリに貢献できたんだから名誉ある金の使い方だろうがお!!!!!!!そもそも何でもかんでも金で解決できると思ってるオッサンの方が悪いんじゃねーかお!!!!!!}
悪役に憧れ続けた『夢追い人』の下に集った
(#´゚ω゚`)「何でもかんでも金で解決してきたからなぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!貧乏人にはわかんねえかザコがよ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
三十二年という年月を経て
337
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:58:36 ID:Y6pO/fks0
『ならず者たちの自転戦車』が始まったのであった―――――
.
338
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/09(金) 23:59:12 ID:Y6pO/fks0
第一幕 【結成】
完
.
339
:
名無しさん
:2022/09/10(土) 00:00:15 ID:Q6j9TZaA0
乙!!!!!!!!!!
340
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/10(土) 00:09:28 ID:Nb/YQeI.0
次回予告
(´^ω^`)「ジョッキー、ガンナー確保!!!!!!!!!ついでにサポーターも手に入った!!!!!!!!ブスばっかだな!!!!!!!目が腐るわ!!!!!!!!」
(´・_ゝ・`)「いよいよ本格始動ですね」
(´・ω・`)「は?」
(´・_ゝ・`)「え?」
(´・ω・`)「ハァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……わっかんねぇかなぁ……」
(´^ω^`)「わかんねえか!!!!!!!!!!!!!!!ハゲだから!!!!!!!!!!!!!ギャハハ!!!!!!!!!!」
(´・_ゝ・`)「」
(´メ)ω(メ`)「ブサイクとデブの実力を底上げする『トレーナー』がいねえだろうがすぐ暴力を振るうなハゲ」
(´・_ゝ・`)「まぁ……確かに。アテは?」
(´メ)ω(メ`)「アンラ・マンユの元キャプテン」
(´・_ゝ・`)「は?面識は?」
(´メ)ω(メ`)「俺には金がある!!!!!!!!!!」
(;´・_ゝ・`)「待て、流石に考え直せ」
(´メ)ω(メ`)「次回、『Desperado Chariots』第六話。『憧れを訪ねて』。そんじゃ、行ってきまーーーーーーーーー!!!!!!!カチコミカチコミ申す!!!!!!!」
(;´・_ゝ・`)そ「待てって言ってんだろクズコラ!!!!!!!!!!!!」
341
:
◆L6OaR8HKlk
:2022/09/10(土) 00:12:25 ID:Nb/YQeI.0
終わりですお疲れさまでした
今まで書いたブサイクの中で一番悪いブサイクが出来て楽しかったです
342
:
名無しさん
:2022/09/10(土) 00:20:18 ID:Q.y7/dRg0
乙!!!!!!!!!!!!!!!
久しぶりの更新助かる!!!!!!!!!!
343
:
名無しさん
:2022/09/10(土) 01:18:17 ID:Yd62V6Wc0
乙!!一気読みしたッ!!やっぱりアンタは天才だぜ!!
344
:
名無しさん
:2022/09/10(土) 01:44:01 ID:MkS0xpo.0
乙!!!!相変わらず超面白え!!!
345
:
名無しさん
:2022/09/10(土) 14:48:12 ID:VYmClhq60
復活だぁーーーーーーーーー!!!!!!
346
:
名無しさん
:2022/09/18(日) 17:59:44 ID:6oDxSUMM0
乙!!!!!!!
怯えて笑ってスカッとした!!!!!!!!!!!!!!
次回はもうちょい早めに頼むよ。首を長くして待ってたんだ
347
:
名無しさん
:2023/01/04(水) 14:57:20 ID:t7cW21JQ0
六話は今夜投下します
348
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:32:12 ID:9tcidWTk0
『ジャパンカップ』
大晦日に開催される年に一度の日本最大のチャリオッツイベント
その歴史は四十年と古く、TV視聴率は紅白歌合戦を差し置いて脅威の40%台を記録する
十一月に行われる予選ではプロ、アマ問わず三万を超えるチームが参加。激戦を勝ち抜いた18チームだけが本戦への進出が叶う
優勝した暁に得られるものは、賞金ニ億円と日本最強の称号。加えて、世界最強への
天分の才能、血が滲むような努力、そして幸運。全てを揃えてようやくか細い栄光への道が開けるのだ
そう、『血が滲むような努力』である
(; ω )「ブヒー!!!!!!!ブヒー!!!!!!!」
(´゚ω゚`)「寝てんじゃねえぞ豚ァ!!!!!!!!!!!!!!勝つ気ねえのかゴラァ!!!!!!!!!!!!」
ガンナーであろうとも体重90キロのオタクデブが乗ってるチームなど門前払いも良いところなのだ
349
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:32:59 ID:9tcidWTk0
第六話
『憧れを訪ねて』
.
350
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:38:02 ID:9tcidWTk0
一日の摂取カロリーが増えた昨今、メタボリック人口の増加と並んで『ダイエット』は発展を遂げた
低カロリーで満腹感を得られる食品や、内脂肪を減らす医薬品。医療技術を駆使しての減量など
だがしかし、どれだけ小手先に頼ろうとも、結局は一つの結論に至る
『運動』こそ、もっとも効果的に痩せられるダイエット方法であると
(´・_ゝ・`)(酷いな……)
参羽鴉が保有する社員向けスポーツジムの床で寝っ転がる豚をボロクソに罵倒するクズの横暴さではなく、これまで『運動』に関わってこなかったオタクデブの体力の無さに盛岡は苦言を呈した
22世紀現在、学生の登校は義務化されていない。それに伴い、必須科目では無くなった授業が存在する。『体育』である
部活動に参加していない生徒にとって、唯一義務的に運動をする機会であったが、登校の自由化によって年々参加人数が減少し、子どもの運動不足は社会問題となった
VR技術を使った体育を取り行う学校もあるが、運動場、体育館といった広々とした場所で行う運動と比べると消費カロリー量に大きな差が生じる
満足に身体を動かしたい者は部活動に参加するが、元から運動が苦手な者は益々スポーツから遠退いてしまっているのだ。文彦もその一人であった。とは言え
(´・_ゝ・`)(いい歳したオッサンとの併走で先に若者がバテるとはなぁ……)
実際に目の当たりにして、ここまで深刻な運動不足とは思いもよらなかったが
文彦がチームに加入して既に二週間が経過し、季節は既に七月に入った。無謀は承知だが、予選開始まで出来る限り絞らねばならないと言うのに
(´・_ゝ・`)(それに比べて……)
クズとブタが走っていたランニングマシーンから少し離れた区画にはエアロバイクが並んでいる。その一角で
(;'A`)「フッ、フッ……」
盛岡一行がジムを訪れる前から淡々と走行距離を稼ぐ汗まみれドブサイクの姿があった
(;@з@)「フンフンフンフン!!!!!!!」
( ゚∋゚)「いいよぉ!!!!!!!!キミ、いいよぉ!!!!!!!ハムストリングス悲鳴あげてるよぉ!!!!!!!!!」
(;@з@)「フヒッ!!光栄であります!!」
そしてなんか文彦の家にいたんでついでに連れてきたキングが、胸筋を狂喜乱舞させるトレーナーに応援されながらスクワットを繰り返してた
彼の名前は九十九 闘隆(つくも とうる)。全日本ボディビル選手権三年連続チャンピョンにして料理系配信者としても人気の敏腕マッスルトレーナー。魅惑の唇九十九 闘隆と言えば、筋肉界隈で知らない者はいない
うーん、ナイスバルク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
351
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:39:03 ID:9tcidWTk0
(; ω )「み、水…………」
(#´゚ω゚`)「ケンシロウ気取りかアアーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!???????オメーみてーな豚にリンが水差し出すと思うなよ!!!!!!!豚は豚小屋に行け!!!!!!!!」
一方動けないタイプの貧弱オタクデブはハート様扱いされていた。いでえよーーーーーーーーーーー!!!!!!!
満身創痍感をを演出しているが、走った距離はまだ1キロにも達していない。よほど甘やかされて育ったのか、我慢と意志の弱さが露呈していた
とは言え、鞭だけで家畜を動かすのも酷と言うもの。飴とのバランスも考えなければならない。盛岡はボトルを手に文彦へと近づいた
(´・_ゝ・`)「ほら、水だよ」
(; ω )「コ、コーラですかお……?」
(´・_ゝ・`)「……」
コーラの海に沈めて殺そうかと思った
(´・_ゝ・`)「いや、真水」
(; ω )「ハァ……そうすか……ま、いいすけど……」
(´・_ゝ・`)「なんでお前が譲歩してやった感出してんだよ」
流石にキャラが崩れたが、髪型は崩れなかった。そう、元から崩れるほど髪が残ってないのである
352
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:43:07 ID:9tcidWTk0
(; ω )「ンゴッ、ンゴッ、ンゴッ!!!!!!」
うわ!!!!!ビックリした!!!!!!豚かと思った!!!!!!
驚く事に豚ではなく豚に似ている人間である。大して発汗していない分際で飲む水の量だけは一丁前だった
(;^ω^)「ふぅーい……今日はこの辺で勘弁しといてやるお。そんじゃ、ミセリの配信あるんで」
(#´゚ω゚`)「殺すぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぅ!!!!!!!!!!!!」
やばいクレーマーのSUSURUの一面が出た。怒りの余り卓上調味料を全部倒してしまうかもしれない
( ^ω^)「ハァーーーーーーーーーーーー……体育会系ノリキッツ……今までメンバーが集まらないワケだお」
盛岡は本八が衝動的に振り上げたダンベルを掴んで止めた
(´・_ゝ・`)「気持ちは痛いほどわかりますが落ち着いてください。これまでの投資を不意にする気ですか?」
(´゚ω゚`)「今まで色んなクソ野郎を見てきたが、こんだけ我慢ならねえガキは初めてだ……」
『相当だな』と、盛岡はこめかみを掻いた。多少の生意気なら可愛げとして処理できるくらいの器量はあるものの
行動に熱意を感じられず文句だけ言い続ける『あまえんぼう』は、本八が最も嫌悪する人種なのだ。何がやーのだお前を殺ーのしてやろうかって感じ
(´・_ゝ・`)「文彦くん。ほら、配信ならここでも観れる。ウォーキングでもいいから、まずは三十分だけ続けてみないか?」
( ^ω^)「いやもう脇腹が痛いんだお。無理は身体に悪いって知らない?激務で髪が消失した例が目の前にいるからわかんだおね。そういうの」
今度は盛岡が振り上げたダンベルを本八が止めた
(#´・_ゝ・`)「おう離せや本八!!!!!!!!このガキに大人の厳しさ教えてやんだからよ!!!!!!!!」
(;´・ω・`)「数秒前に言ってたこと忘れたのかオメー!!そんだけキレられたら逆に冷静になるわ!!ちょっと頭冷やしに行こうぜ!!な!?」
353
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:44:37 ID:9tcidWTk0
ギャーギャーとハゲ散らかす盛岡を引きずり、ジムのエントランスへと向かう
途中、若い女性トレーナーに指示を出して文彦の面倒を見るように伝えた
快諾した彼女が文彦に近づくと、先ほどまでのだらけ振りが嘘のようにキビキビと運動を再開しだした
(´・ω・`)「わかりやすいガキ……」
本八はウォーターサーバーから二杯分の水を取り、一つを盛岡に差し出した
(´・_ゝ・`)「ハァ……あのデブ、向こうでもあの調子だったからハブられたんじゃないんですかね?」
(´・ω・`)「かもな。木本はドのつくお人好しだからアレとして、あんだけよろしくねえ性格してたら嫌われもすらぁな」
他人のことをとやかく言えるほど出来た性格ではない二人だが、仮にも大企業の社長とその腹心である。人付き合いの一つや二つ、軽くこなせて当たり前なのだ
文彦に関して抱える問題は、肥満並びに痩せる気の無さ。そして『リスペクト』の欠如である
彼らが求めたチームメンバー条件の一つとして、『本八の立場に物怖じしない者』があったが、それは好き勝手に振る舞って良いという話では無い
チームプレイを構築するのには互いの尊重が不可欠だ。本八自身、徳雄と文彦のことは外見、内面共にクソの極みと捉えているが、彼らの才能には一目置いているし、彼ら無くしてジャパンカップ制覇は不可能とも考えている
イカレの暴力中毒者である徳雄ですら、他者を尊重し、認めるだけの人格は備わっている。こちらから突かなければ、暴言も拳も振るいはしないだろう
(´・_ゝ・`)「無礼られてますね完全に」
(´・ω・`)「だよなぁ……」
本八には社会的地位と資産がある
徳雄には培った膂力と胆力がある
だが、最年少の文彦にはあって二人には足りないものが一つだけ存在する。チャリオッツの経験だ
プロとして認められるほどの腕前に絶対の自信を持つ文彦は、それ相応の傲慢も身に付いている
複数人、あるいは集団の中で『一人だけ特別に優れている者』がいるならば、自ら舵取りを行おうとするのは自明の理だ
文彦は契約時、こう言った。『とびきり優秀なガンナーがいなければ、ジャパンカップなど勝てやしない』
今このチームは、元プロだった自分がいて初めて成り立っている。カーストの最上位に君臨している
スポーツやゲームの玄人が持つ優越感が、文彦とかいうカスに余裕と怠惰を与えていた
354
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:46:38 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「どうしましょうか。何なら、一度猫山さんに相談するのもアリかと」
(´・ω・`)「奴は身内に甘ぇよ。よしんば言って聞かせても、サラッと流されて終わるだろうよ」
(´・_ゝ・`)「ではいっぺんシメますか?」
(´・ω・`)「お前も相当キてんな……」
幸いな事に、文彦は豚カスとは言えまだ子どもである。ここからの軌道修正は、頭が凝り固まった大人より容易いだろう
しかし考え方が染まりやすいのも子どもの特徴だ。下手に諭せば、更に捻じ曲がった方向へと進む可能性もある
最良なのは、文彦が目指すべき対象を用意してやることだ。チャリオッツに精通し、実績を収めた指導者であるならば、オタクデブも聴く耳を持つだろう
(´・ω・`)「それに、不安なのは文彦だけじゃねえ。あのブサイクもだ」
(´・_ゝ・`)「そうですね……」
怠惰な文彦とは正反対の、ストイックが服を着たブサイクである徳雄。彼の問題点は、その『ストイックさ』にあった
(´・ω・`)「よぉニイちゃん。そこでチャリ漕いでるブサイク、いつからトレーニングしてる?」
呼び止められた職員は、的確ではあるが随分な物言いに眉を顰めたものの、経営者相手に苦言を呈するほどの度胸は無かったようで
「ええと……エアロバイクの彼ですか?そう言えば、朝からずっといますね」
と、素直に答えて足早に去っていった
(´・ω・`)「あいっつはホントによぉ……」
現時刻は夕方の五時。本八が文彦らを連れてやって来たのが一時間ほど前
ジムはフルタイムで営業しているが、甘めに見積もっても凡そ八時間はトレーニングしている事となる
355
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:48:12 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「相変わらずのオーバーワークですね」
(´・ω・`)「とことん追い込む気だろうよ。本番までまだ半年もあるってのに」
以前にもオーバーワークを指摘し、トレーニング量を減らせと命じたが、徳雄はこう返した
('A`)「俺のことは俺が一番わかってる。それに、文彦の体重を言い訳に負けるなんて無様は晒したくねえ」
('A`)「あのデブだって本番はちゃんと仕事はするだろうよ。食うなり寝るなり好きにさせたらいいじゃねえか。その分、俺が引っ張れば問題はねえよ」
と
(´・ω・`)「頼りになって何よりだが、それまでに潰れちまっちゃクソの役にも立たねえってのによ……」
(´・_ゝ・`)「彼も彼で人の忠告を聞きませんからね」
徳雄は確かに頼りになる男だ。しかしそれは彼が歩んできた孤独な人生から成り立つものであり
逆を返せば『他人を頼ることに慣れていない』『他人に期待しない』表れとも言える
自らの負担が増える事に苦言を呈さないのは美徳の一つだろう。だが、心身の耐久力にも限りがあるが故に、決して利点であるとは言い切れない
許容値を超え続ければ、いずれどこかにガタが来る。強靭が自慢の徳雄であっても例外ではない
何より、ジョッキーはチャリオッツに置いて最も過酷なポジションだ。キャプテンとガンナーはその負担を軽くする義務がある
もっと我を、『要望』を出して然るべきなのだ。課題を挙げ、計画、実行、評価、改善のサイクルを経て、より強いチームへと成長する為に
(´・ω・`)「どうしたもんかね……」
本八は天を仰いだ。怠慢と勤勉。相対する問題点の解決は、仲間集めほど単純には済まない
金に物を言わせるにしても、徳雄には加虐以外の欲は無く、文彦は要求がエスカレートしていくのが目に見えている
人の意識を根本から変えるには、教え導き、自らの気づきを誘発させなければならない。それは年長者の役割であったが困った事に―――――
(´・ω・`)「俺らじゃ無理だ」
彼らは『経営者』だった
356
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:50:41 ID:9tcidWTk0
『仕事』に携わる社員らの教育であるならば、幾らでも指導のしようがある。会社の存続、社員の生活に直結する、生きるに置いて必要不可欠な『労働』であるからだ
だが、ジャパンカップへの挑戦は、『別に挑まなくとも生きていける』二次的なものであり、多大な賞金も栄誉も、『それが無いと生きていけない』ものではない
『生きる為に必要不可欠な行為』では無いからこそ、更に深い情熱と勝利への執念が求められるのだ
そして二人には、それらを奮起させるほどの『専門的指導力』と『経験値』が足りていない
本八は契約こそ結んだ雇用主であるが、チームメイトとしては同じ立ち位置で、まだ何も成し遂げていない挑戦者だ。徳雄と文彦を説得しようにも、馬耳東風で終わるだろう
餅は餅屋。やはりチャリオッツに置いて実績を挙げた人物こそ、彼らの指導者に相応しいと到ったのだ
(´・ω・`)「コーチが必要だ」
(´・_ゝ・`)「……では」
盛岡はi-ringからリストを立ち上げ、本八へと送信する
(´・_ゝ・`)「幾つか見繕っておきました」
(´^ω^`)「仕事が早いねえ」
ホログラムを立ち上げ、スワイプして流し見する。新進気鋭の育成所から、幾度もビックタイトルを獲得するチームを生み出した歴戦の老コーチまで。目移りするようなラインナップが揃っている
本八はリストを上から下まで全て確認し、もう一往復目を通して結論を出した
(´^ω^`)「無理」
(´・_ゝ・`)「でしょうね」
新進気鋭とは言え、育成所が短期間でジャパンカップを制覇できるチームを育て上げられるワケがなく
老コーチのスパルタを履き違えた指導には文彦は耐えられない上、カビ臭い頑固な気質は攻撃的な徳雄とは絶対的に合わない
その他もパッとしない実績や、当たり障りの無い指導法など、本八の眼鏡に適う指導者は見つからなかった
(´・_ゝ・`)「また人材探しですか……」
(´^ω^`)「なんでこんな苦労しなきゃなんねえんだオラ腹立ってきたゾ」
一難去って何とやら。本八は地球育ちのサイヤ人の一面を見せつけながら、空になった紙コップをクズ入れへとスラムダンクした
そう、99年前の12月3日に公開したアニメ映画である。当時、劇場に足を運んだファンは口を揃えてこう言ったという
「もう無理、限界」と
357
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:52:20 ID:9tcidWTk0
(´・_ゝ・`)「……」
『それにしちゃ余裕があるな』。本八の態度には焦燥を感じられず、『想定通り』と言いたげだった
チャリオッツのコーチとしての能力こそないが、他人の能力を計ることに関しては一流の経営者
自分が手を回さずとも、最初からアテはあったのだろう。余計な仕事させやがって殺すぞと思った
(´・_ゝ・`)「殺すぞ……」
(;´・ω・`)「え……?」
(´・_ゝ・`)「ああいや、死n……失礼しました」
(;´・ω・`)「お前今死ねって言い掛けた?」
(´・_ゝ・`)「耳腐ってんのか死ね」
謂れのない暴言が本八を襲った
(´・ω・`)「言いたいことはわかるぜ。『アテがあんなら最初から言えや』だろ?」
本八の看破に、盛岡は素直にこう返した
(´・_ゝ・`)「気持ち悪……」
(´・ω・`)「なんだハゲコラテメェオイ」
通りすがりの攻めの反対は受けと答えるタイプの女性職員は二人のやり取りを見て
「てぇてぇ……」
思わず死語を呟いた。正気か?クズとハゲだぞ?
358
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:53:55 ID:9tcidWTk0
(´・ω・`)「とにかく、この件は俺に任せろ。お前は出来るだけガキどものサポートをしてくれ」
(´・_ゝ・`)「体良く面倒を押し付けやがってよぉ」
「あの……」
声を掛けて来たのは、先ほどの男性職員だった
「彼、上がるみたいですけど……」
(´・ω・`)「おん?」
シャワーと着替えを終えた徳雄が更衣室から覚束ない足取りで現れる
ハードなトレーニングで表情は焦燥し切っていたが、目の奥のギラつきだけはより一層激しさを増していた
(;'A )「……」
二人の存在にすら気づかないのか、挨拶どころか会釈すら交わさず、出口へと向かっていく
「やれやれ」と、早速の『面倒』を引き止めようとした盛岡を、本八が手で制した
(´・_ゝ・`)「どうしました?」
(´・ω・`)「シッ」
動かぬ唇の僅かに開いた隙間から、小さな呟きが漏れている
359
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:54:57 ID:9tcidWTk0
(;'A )「足りねえ……もっと……出し切らねえと……」
(;´・ω・`)「……」
(;´・_ゝ・`)「……」
二人は戦慄を覚えた。徳雄の自罰的なストイックさもそうだが、何より『獏良 良樹』に対する固執に
徳雄が再戦を誓った時に、彼に対して『ぶっ殺してやる』と言った。それは不良が脅し文句に使うような軽々しさではなく
『競技』という凶器で殺害するという、本気の宣言だったのだ
(;´・_ゝ・`)「……アレを矯正出来るんですか?」
友情と呼ぶには重過ぎる、恋慕すら凌駕する執着。本八の『アテ』が相手する狂気を前に、盛岡の不安は増した
(;´・ω・`)「まぁ……どうにかするしかあるめえよ」
徳雄は自動ドアを抜け、更なる肉体の酷使の為にランニングを始めた
遠ざかっていく後ろ姿を、二人はただ眺めることしか出来なかった―――――
360
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:56:21 ID:9tcidWTk0
―――――
―――
―
宇都宮 徳雄に甘酸っぱい青春の記憶は無いが、『出待ち』の経験は数多くある。その殆どが、報復の為に人員をかき集めた不良の類だった
荒んでいた中学時代は喜んで相手をしてやったが、スポーツに打ち込んだ高校時代にはなるべく避けて通っていた
('A`)「……」
それ故、今回のケースは初となる
( ^Д^)「やっ」
喧嘩も恨みも売った覚えのない宝木が、自宅のアパート前で待機していたのは
('A`)「はぁ……こんちわ」
『獏良には足下にも及ばないが、絵になる男だな』。なんてぼんやりと思いながら、高級ミニバンの車窓から顔を覗かせる宝木に気の抜けた返事を返す
やや訝しげな徳雄に対し、宝木は朗らかに笑いかけ、『乗ってくれ』と言いたげに首を傾けた
( ^Д^)「食事でもどうかな?」
('A`)「……口説く相手、間違えてんじゃねーすか?」
軟派な誘い文句に嫌味を返したが、宝木の瞳は真っ直ぐに徳雄を捉え、「お前で間違いない」と伝えてくる
チャリオッツでは高名なヒールチームと聞いていたが、憧れのスーパーヒーローを前にした子どものような無邪気な視線に、徳雄の毒気は抜かれた
('A`)「ちょっと待ってて貰っても?」
( ^Д^)「構わないよ」
足早に自宅へと戻り、スポーツウェアを選択カゴへ投げ捨てて汗を拭き、干しっぱなしの服を取って着替える
冷蔵庫から飲料水のボトルを取り出して半分ほど飲み干し、必要最低限の荷物だけ纏めて出ようとした辺りで
('A`)「……」
念の為、盛岡にメッセージを送っておいた
361
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:58:03 ID:9tcidWTk0
('A`)「お待たせしました」
( ^Д^)「早いね。それじゃあ乗ってくれ」
助手席のドアを開け、先に後部座席を確認する
('A`)「……あの子は?」
車内にはもう一人、連れ合いが乗っていた。蹲るように座席の上に足を乗せ、此方には一瞥もくれず携帯ゲーム機に熱中する
(-_-)「……」
中学生くらいの子どもの姿
( ^Д^)「ああ、ウチのガンナーだ。守(まもる)、挨拶を」
(-_-)「……っす」
微塵の興味も無いのだろう。一瞬だけ徳雄に目をやり、消え入りそうな声で挨拶らしきものを放った
362
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 20:58:38 ID:9tcidWTk0
(;^Д^)「悪いね。人見知りなもので」
('A`)「別に構わねっすけど……」
無礼な態度よりも、守というチームメンバーの性格が気に掛かった
徳雄と文彦が相手した二軍連中は、総じて殴り甲斐のある粗暴な不良だったが、守には微塵もそのような気配を感じられない
文彦のようなクソカスオタクデブであろうとも、活躍し続けられる環境ではあったのだろう
('A`)「そんで……」
文彦を追い出したのに深い意味はあるのか?その答えを聴けるだけでも、損はないだろう
助手席に乗り込んだ徳雄は、座り心地の良いシートに身を深く沈めて腕を組んだ
('A`)「何を食わせてくれるんすかね?」
宝木は悪戯っぽく笑い掛けると
( ^Д^)「『精のつくもの』さ」
意味深なヒントを返した
363
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:09:12 ID:9tcidWTk0
三十分ほど車を走らせた先に辿り着いた繁華街。その裏通りに、宝木行きつけの店がひっそりと佇んでいた
「喰いねぇ……」
コンクリート張りの、お世辞にもオシャレとは言えない無骨な飲食店
北極熊は無理でも、月の輪熊くらいならくらいならこの拳で十分よと言いそうな店主が持ってきた大皿には―――――
(;'A`)「ええ……」
ぶつ切りにした長細いホースのような『肉』の揚げ物がたんまりと盛られている
その頂点には、大口を開いてこんがりきつね色に揚がった『蛇』の頭が鎮座している
( ^Д^)「戴こうか。ここの蛇料理は絶品なんだ。ああ、頭は食べるんじゃないぞ。それは飾りだから」
宝木は躊躇いなく一つ手掴みで取り、筋肉質な身に齧り付く。守もそれに続き、小動物のようにチビチビと食べ始めた
複数人相手でも一切怯まない徳雄も、流石に口に蛇を入れるのは初めてで、中々手が伸びずにいた
(;'A`)「アンタら、蟒蛇って名前のチームなのに蛇食うんすね……」
( ^Д^)「ハハ、ウチはメンバー同士で地位を喰い合うチームだぜ?仲間の肉は大好物さ。さ、キミも遠慮せず」
スタメン争いのようなものだろうか。恐らく彼も、仲間を喰って喰って喰いまくって頂点捕食者になったのだろう
少しばかり羨ましくなる環境だ。宝木を倣って、徳雄も意を決して蛇の肉に齧り付いた
364
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:10:44 ID:9tcidWTk0
(;'A`)「喰いづら……」
脂を感じられない、鶏に似た肉質は、引っ張ると繊維に沿って縦に避けていく
臭みは無く、唐揚げと同じく食欲をそそる生姜とニンニクの香りが口内から鼻へと抜けていった
抵抗はあったものの、一度口にすれば案外あっさりと解消され、小骨の多さに四苦八苦しながらも一本目を完食した
( ^Д^)「イケルだろ?」
('A`)「まぁ……悪くはねえす」
不味くはないが、普通に鶏の唐揚げの方が美味いし食べ易い。物珍しさこそ満たせたが、頻繁に食べたいかと訊かれれば、首を傾げざるを得ない
それでも徳雄の答えに気を良くしたのか、宝木は店主に追加のオーダーを頼んだ
( ^Д^)「酒はイケるクチかな?」
('A`)「いや、あんまり……」
( ^Д^)「すみませーん!!生き血のワイン割り二つ!!」
('A`)「話聞いてる???????」
365
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:12:19 ID:9tcidWTk0
「呑みねぇ……」
水と空気が違うのでデカくなったっぽい店主は、ショットグラスになみなみと注がれた赤い液体を二つ運んできた
「マムシの血だ……キくぜこいつぁ……」
('A`)「困るわぁ……」
正直な感想だった
( ^Д^)「蛇の血の栄養価は高い。滋養強壮や食欲不振、胃の不調なんかに効くそうだ。ま、天然のアミノバイタルってとこかな」
『それって別に生き血じゃなくてて養命酒でも良くね?』とは、流石に店主の前では言えず
ウキウキとした様子で手渡された生き血を丁重に断る機会も逃してしまった
( ^Д^)「乾杯」
(;'A`)「か、乾杯……」
なんでこんな罰ゲームみたいなことさせられてんだろう。徳雄は溢れそうになった文句を、血と共に一息で飲み込んだ
('A`)「ん……?」
ワインで割っているからだろうか。血特有の鉄臭さやクセは無く、スルリと喉を通っていく
キョトンと醜く目を丸くさせる徳雄に、店主はガハハと豪快に笑った
「ニイちゃんよ!!今夜の息子は暴れん坊だぜぇ!!チン棒だけにつってな!!ガハハ!!」
('A`)「……」
いい歳したオッサンってみんなアレになんのかなって思った
366
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:14:58 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「フフ、泣く子も黙る『鬼迫』も、案外普通の男なんだな」
('A`)「……」
ゲームセンターで初めて出会った時、宝木は自分の素性を知っている素振りを見せた
別に隠し立てているわけではないが、武勇伝として大層に語っているわけでもない
彼は自分の事を、『お前と同類』と言った。徳雄自身、宝木の性格や過去を知っているわけではないので、否定も肯定も出来ない
一つだけ確かにあるのは、出会って間もない他人に内情を見透かされている不快感だけだ
('A`)「……『お友達になってくれ』だなんて、サムい話をしにわざわざ席を設けたんじゃねえんだろ」
唐突な誘いも、ゲテモノ料理も、見ようによっては主導権を握る為の手段として捉えられる
徳雄は蛇の唐揚げを一つ摘み上げ、今度は骨ごとバリバリ噛み砕いた
('A`)「サッサと本題に入っちゃくれねえか?ニヤケ面のニイちゃんと無愛想なガキに囲まれちゃ、こっちも居心地が悪いんでな」
臨戦態勢に入った徳雄を見て、宝木は恐れと喜びが入り混じった身震いをした
守はそんな先輩の姿に、聴こえるか聴こえないかの声量で「キモ……」と正直な感想を述べた
( ^Д^)「文彦は良いチームに拾って貰ったようだ。これこそ、俺が望んでいた展開だよ」
('A`)「……あいつとヤりてえってだけか?」
( ^Д^)「それもある」
宝木はリキッドタイプのニコチンレスタバコを取り出すと、深く水蒸気を吸って吐き出した
唐揚げの油とスパイスの香りに混じって、ミント特有の清涼感ある白い靄が鼻に付き、徳雄は眉間に皺を寄せる
367
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:16:06 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「文彦は扱い難いだろう?」
('A`)「……さぁな。アレを欲しがってたオッサン連中は、苦労してそうだが」
( ^Д^)「手厚く面倒を見てもらってるようで何よりだ」
文彦が痩せようが痩せまいが徳雄にとって大した問題ではない。自分の仕事はどんなハンデを背負おうが獏良に勝つの一点だけであり
その為に過剰なまでの鍛錬を積んでいるに過ぎない。文彦に期待しているのは、『その他』のつゆ払いだけで、仕事さえこなしてくれれば後は好きにして構わなかった
( ^Д^)「文彦に限った話じゃないが、プロに入った時点で満足するプレイヤーも数多い。先日、キミらが相手した馬鹿どもが最たる例だ。あの程度の連中なら、幾らでも腐ってしまって構わないが……」
( ^Д^)「文彦は別だ。キミもその目で見ただろう?世界規模で見ても、6shooterのポテンシャルをあそこまで引き出せるガンナーは数少ない。大袈裟に言ってしまえば、『神童』とも呼べる才能の持ち主だ」
(-_-)「あんなの……大したこと、無い……」
対抗意識からか、守は今日一番のハッキリした声量で文彦を否定した
368
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:19:12 ID:9tcidWTk0
('A`)「だったらセンパイがキッチリ指導してやりゃあよかったんじゃねえのか?」
( ^Д^)「……俺はね、才能を持つ者が更に強くなる条件は二つに分類されてると考えてる」
一つ、と親指を立て、そのまま守を差した
( ^Д^)「向上心を持つ才能を、恵まれた環境下で手厚く育て上げるか」
二つ、と人差し指を立てた
( ^Д^)「怠慢な者を谷底へと突き落とし、死に物狂いで這い上がるのを待つか。文彦はこっちに属していると思ったんだ」
('A`)「ほぉ〜?」
まるで思いやりから文彦を突き放したかの物言いに、徳雄は戯けた様子で感嘆を返した
随分と無責任な話ではないか。憧れと夢を抱いてプロ入りした新参を、『そっちの方が良いから』という個人的主観だけで追い出したのだから
('A`)「他力本願も良いとこだぜ?文彦がそのまま腐っちまう可能性だってあったろうによ」
( ^Д^)「『そうはならなかった』だろう?」
結果論を、さも当然かのように言い放った宝木に、徳男の神経が僅かに逆立った
ご都合良く文彦を拾って貰って、目論見通りに事が進んでいるのはさぞかし気分が良いのだろう。運命に愛されてると言わんばかりの態度が癪に触った
('A`)「何様のつもりだ?」
宝木は噴き出し、盛大に声を上げて笑った
( ^Д^)「キミの口からそのような言葉が出るとは驚きだ!!とっくの昔に理解しているものだと思ってたのだがね!!」
('A`)「……何をだ?」
( ^Д^)「『俺たち』をさ」
369
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:21:11 ID:9tcidWTk0
ピタリと笑いを止めた宝木は、身を乗り出して向かいの席に座る徳雄へと迫る
爛々と輝く瞳が、興奮の余り小刻みに動いている。対して徳雄は、挑み返すように眼光を強めた
( ^Д^)「俺はこれでもプロチーム『蟒蛇』の玉座に座る国内屈指のキャプテンだ強いんだよ!!強ければ多少の粗相も我儘も許されるのが『スポーツ業界』なんだ。納得いかないかい?だが歴史が証明してるだろう?かわいがりの過ぎる横暴な横綱が角界から追い出されないように!!女遊びが過ぎた野球選手がスキャンダルの翌日でもホームランを打ったように!!卑下た挑発を繰り返すボクサーがベルトを巻いたように!!『強さ』と『人気』があれば大衆は寛容になる!!ああ勿論!!度が過ぎれば干されもするだろうだが『そうはなっていない』!!誰が杞憂している?文彦というポッと出の選手が、短期間で問題を起こし脱退したのを!!誰も騒ぎ立てやしなかったし、時間が経てば忘れられていただろう『そうはなっていない』!!大衆はヒーローを愛し、運命に愛されているからヒーローと成る!!強さってのはそういう、我儘を通すだけの力を持っているんだキミにも覚えはあるだろう宇都宮 徳雄!!!!」
息を吐かずに捲し立てられた持論。冗談の類ではないのは、狂気を渦巻く目の色が証明している
いつか見た、本八のそれと良く似ている狂気の色だった。なんでも自分の思い通りに人生が進むと本気で思い込んでいる、全能感に染まった色だった
('A`)「一緒にしないで貰いたいね。俺ぁアンタと違ってなんてこたぁないタダの小市民で、そこまでおめでたく自惚れたオツムはしてねえよ」
( ^Д^)「いいや身に覚えがある筈だ惚けようったってそうはいかない。キミには『補導歴』が無い。そうだろう?」
('A`)「……」
確かに、暴力を糧に生きていた小中学時代、徳雄は一度も警察の世話になった事はない
それどころか、『大人は誰も徳雄が加害者である』とは見抜けなかった
小さく醜い容姿が、いじめられっ子を彷彿とさせるからだろうか。誰一人として徳雄を咎めず、それどころか憐憫の目すら向けられた事すらある
('A`)「それが何か?」
おくびには出さなかったが、徳雄の背に僅かな冷や汗が流れた。それは『同類の指摘』から出たものではなく
徳雄の『経歴』を事細やかに知る宝木の不気味さによるものだった
370
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:22:09 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「その時のキミにはあった筈だいいや確かにあった!!神が描いた極上のシナリオを賜った優越感全能感が!!それが今のキミを作り出したんだそう!!誰にも靡かず誰にも愛されず、そして誰もが恐れる『鬼』、宇都宮徳雄を!!自覚のある無しに関わらず、俺たちみたいな人種はいるんだ確かに今!!ここにいるんだよ!!『運命に背中を押されている者』が!!」
('A`)「……」
『付き合ってられない』。徳雄は視線を切ると、油で汚れた指と口元をおしぼりで拭った
('A`)「くっだらねえ与太話を、くっせえ芝居でくっちゃべりたいが為に、わざわざ不味い飯に連れて来たのか?」
( ^Д^)「いいや?本題はこっちだ」
宝木は徳雄の顎を掴み、力づくで再び視線を合わせた
( ^Д^)「どうか文彦をよろしく頼むよ。今よりもっと大きく肥えた才能に、大舞台で平らげるに相応しい『ご馳走』にしてやってくれ」
徳雄の目に映ったのは、鎌首擡げて獲物を待つ、舌なめずりした『蛇』の姿
目指すはゴールという到達点では無く、殲滅を目的とした超攻撃型プロ集団。そのトップに君臨する男の、底なしの『食欲』を見た
371
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:22:40 ID:9tcidWTk0
('A`)「……」
徳雄は、鼻から深く長い溜息を吐くと
(;^Д^)そ「ムゴッ!?」
その『蛇』の口を塞ぐように顎を鷲掴みにした
372
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:23:36 ID:9tcidWTk0
('A`)「知ったこっちゃねえよてめえの性癖なんざ」
宝木の手は徳雄の顎から放れ、口元に食い込む右手を引き剥がそうと掴む
骨が軋みそうなほどの強い圧迫感。自己陶酔に浸った目の色は一瞬にして焦りと恐怖へと変化する
身体のバランスが崩れ、咄嗟に手をテーブルへと突いて支える。料理の乗った皿が跳ね、クロスを汚した
('A`)「おまんまを他人に用意させるボクちゃんの言う事なんざ誰が聴く耳持つかよ。運命だのなんだのとお綺麗な言葉で飾ろうが、結局テメーはオタクデブにすら正面切って喧嘩を売れねえタダの腰抜けだ。ガッカリさせてくれるじゃねえか?なぁ、蟒蛇のオウサマよ」
チャリオッツが上手かろうと強かろうと、結局はその界隈に限られた人気と支持でしかない。宝木はそこを見誤った
宇都宮 徳雄にチャリオッツへの思い入れなど、ましてやプロ選手への尊敬や憧れなど微塵も存在せず
ただ『親友』が関わっていたから、親友と雌雄を決する場であったから、本八の誘いに乗ったに過ぎない
本人がその口で言った通り、チャリオッツに限っては知名度も実績も宝木の足下にも及ばないタダの小市民。だからこそ―――――
('A`)「タマナシ野郎が思い上がってんじゃあねえぞ」
親友以外の『その他』など、ハナから眼中に無かった
373
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:25:05 ID:9tcidWTk0
(;^Д^)「ゴッ……ガッ……」
('A`)「俺の貴重な時間を無駄にさせてくれたな?この落とし前どう着けるんだ?ん?」
徳雄の手首に爪が食い込むほど強く抵抗するが、万力で固定されたかのように、顎を掴む手は解けない
顔は血が昇って赤く染まり、血走った目が天井に剥く。脚はパニックからか力が上手く入らず、膝が崩れ落ちた
いよいよ骨身が軋みを上げ、焦りは最高潮に達する。テーブルを支えていた手は、バランスよりも脱出を優先し、『ある物』を急いで探り始めた
(#^Д^)「ッ!!」
銀に光る、四つ股のフォーク。鋭利に尖る矛先を、徳雄の顔面目掛けて振り上げられた瞬間―――――
('A`)「!?」
テーブル上の料理が、徳雄の右肩の方角から飛来した『ボール』によって弾け飛んだ
意識外からのアクションによって、徳雄は咄嗟に顎から手を放す。少し遅れて振り下ろされたフォークが、カツンと力なくテーブルに突き立てられた
(-_-)「そこまで」
これまで静観を保っていた守が、制止を告げた。特に慌てた様子も無く、手持ち無沙汰を解消するかのように、三センチ大の『スーパーボール』を、テーブル上で跳ねさせている
奇しくも、料理に突っ込んだボールと同じ種類の物だった
(-_-)「あんまり白熱すると、取り返しのつかない事態になるよ……」
(;^Д^)「ハァ……ハァ……」
('A`)「……」
守は向かって左前の席に座っている。彼女はその位置から、恐らくボールを『反射』させて料理皿へと投げ込んだのだろう
理屈を説くのは簡単だが、素人が狙って出来るほど簡単な技では無い。文彦とは違う、『向上心のある才能』。チャリオッツトップクラスガンナーの実力の片鱗を見た
374
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:25:41 ID:9tcidWTk0
('A`)「……気は済んだな?俺は帰るぜ。相棒の嬢ちゃんに礼はしとくんだな」
何はともあれ、今の一発で完全にシラけてしまった徳雄は、i-ringのクレジット機能を使って店に適当な額の支払いを済まし、席を立った
('A`)「送り出しも結構だ。楽しい時間をどうもありがとう。文彦には宜しく言っとくよ。それじゃあ、これで」
(;^Д^)「……」
饒舌だった口から別れの挨拶は無く、宝木はフォークを突き立てたまま、ただ項垂れていた
彼が今、抱いているであろう敗北感や嫌悪感。その全てが徳雄にとってどうでもよく
('A`)「口直しにカレーでも食いに行くか……」
店を出た頃には既に、好物の事しか頭に無かった
375
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:26:46 ID:9tcidWTk0
('A`)「ん?」
i-ringの振動が着信を告げる。これまでほとんど通話をしたことがない徳雄にとって、あまり慣れない機能だった
相手は盛岡で、そう言えば家を出る時にメッセージだけ送っていたっけなと思い出す
('A`)「もしもしデミさん?」
《ああ、徳雄くん。連絡が遅れて済まないね。クソガk文彦くん達を送ってたもんで》
('A`)「いや、構いませんよ。此方もちょうど終わったとこなんで」
《……まさかとは思うが、派手に喧嘩などしてないだろうね?》
自分では無く、『相手』に対しての心配を孕んだ声色に、徳雄は思わず噴き出した
('A`)「美味しいディナーを頂いただけっす」
《何かの隠語かい?》
('A`)「俺ぁどんだけ信用が無いんですかね?」
売られた喧嘩は漏れなく買うが、喧嘩の安売りなどしない。徳雄は少々心外であった
《まぁ、大事なければいいさ。それより、何故キミをご指名だったのかな?》
('A`)「……」
記憶を探っても、とんと心当たりが無い。しかし、宝木は最初に会った時から何故か自分に対してシンパシーを感じている口振りだった
かつて呼ばれていた『鬼』という忌み名にしても、喧嘩に明け暮れた過去にしても、彼は徳雄の事を良く知り過ぎている
ストーカーに狙われた気持ちとは、恐らくこのようなものなのだろう。徳雄は改めて、宝木に得体の知れない気持ち悪さを覚えた
('A`)「『文彦をよろしく頼む』だそうですよ」
だが、それを盛岡に伝えるまでも無かった。危害を与えられたのなら話は別だが、不愉快なだけなら忘れてしまっても問題無いと判断した
盛岡も、徳雄の言葉に疑問を抱かず、「そうかい」とだけ応え、それ以上の言及は無かった
376
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:27:46 ID:9tcidWTk0
《もう帰宅したのかい?》
('A`)「これから飯食って帰るとこっす」
《足りなかったのかい?何にせよ、気をつけて帰りなさい。それと、しっかり休むようにね》
('A`)「わかってますよ。そんじゃ、失礼します」
通話を切った後、徳雄は自分の顔が綻んでいるのに気づいた
気遣いの言葉を掛けられるなど、長らく無かったからだ
('A`)「……疲れてんな」
中年ハゲの言葉が、不覚にも染み入ってしまうとは。相当参っているに違いない
徳雄は盛岡の言う通り、今日はゆっくりと休むことにしたのであった
377
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:28:17 ID:9tcidWTk0
.
378
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:28:59 ID:9tcidWTk0
(-_-)「早く帰りたい」
樋木 守(ひのき まもる)は帰りたかった。のめり込んでるネットゲームのレイドバトルイベントに忙しかったからだ
本来ならば今日も一日中、上位10位以内のプレイヤーが貰える限定アイテム目指して周回している筈だった
そんな中、気持ち悪いリーダーにアポも無しに突然自宅から連れ出され、よく知らない男と美味しくない蛇料理を食べさせられたのだから堪ったものではなかった
(;^Д^)「フ、フフ……見たかあの迫力あの威圧感……宇都宮 徳雄は耄碌したどころか、ますます磨きが掛かってる……」
(-_-)「帰りたい」
クソどうでも良かったし、なんなら宇都宮さんもかなり迷惑だっただろうなと同情するレベルで気持ち悪かった
(;^Д^)「アレが、アレが俺が憧れた最も恐ろしい『ヒール』だ!!わ、わかるか守!?蟒蛇のトップである俺など歯牙にも掛けず、ゴミでも見るような目で見下す、『無頼漢』の体現者!!ああ……まさか、まさか文彦が彼と組んでくれるだなんて……!!」
恍惚とした表情を両手で覆い、天井を仰ぐ。守はとにかく気持ち悪いし早く帰りたかったが、なんか付き合ってやらないと満足しなさそうなので渋々
(-_-)「ハァ……昔の知り合い?」
と、軽く踏み入れてやった
( ^Д^)「俺がまだチンケなゴロツキのパシリだった頃、彼一人に十三人が病院送りにされたんだ。俺は直接対峙したワケじゃないが、物陰で見ていたよ。彼の、情けも容赦もない嵐のような暴力を!!」
(-_-)「へぇそうなんだ」
男ってホントバカって感じだった
( ^Д^)「恐ろしかった。だが同時に強烈な憧れも抱いたよ。あれほど身勝手に振る舞えたなら、男の頂点に君臨したも同然だとね」
(-_-)「……」
男ってホント子どもよねって感じだった
( ^Д^)「歳を重ねるにつれ、彼の武勇は鳴りを潜めた。高校生になってスポーツに打ち込んでると耳に挟んだ時は心底失望したよ。しかも、しかもだ!!彼はヒルクライムの大会で、『他人を案じて失格』となった!!あり得ない光景だったよ!!俺が知ってる宇都宮 徳雄ならば、轢き殺してでも勝ちに行っただろうね!!」
(-_-)「へぇー」
厄介オタク丸出しの言動に、ますます宝木の株が下がった
379
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:30:57 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「だが今日で確信したよ。彼は変わったんじゃない『変われない』んだ!!どれだけ歳を重ねようと、結局は孤独で凶暴な一匹狼……いや、孤高の『鬼』なのだと!!ああ、神様……感謝するッ!!俺に、彼へ挑む機会を!!チャリオッツの舞台で叩き潰すチャンスを与えてくれたのを!!」
(-_-)「店長さんタクシー呼んでください」
まだ掛かりそうだなって思った
( ^Д^)「ああ……今日は最高の一日だ……」
絶頂の余韻を味わうようにしばし恍惚とし、その後、『ああ』と思い出して後方へと顔を向けた
( ^Д^)「おい帰ったぞ!!そろそろ顔を見せたらどうなんだ!?」
宝木が店の奥へと乱暴に呼びかけると、顔中が青や紫のアザで染まる高城がゆっくり現れる
『負け犬』が良く似合う見窄らしい姿に、宝木は『愉悦』を喉奥で鳴らした
(=゚д゚) 「……」
( ^Д^)「懐かしい光景だったでしょう『高城先輩』。あの日の喧嘩は、俺が心酔していた対象が貴方から彼に変わった記念日だ!!貴方が彼と再会し、しかも名前を覚えられていたと聞いた日は嫉妬で眠れやしませんでしたよ!!」
(=゚д゚) 「っ……」
かつての『先輩』は、奥歯を痛むほど噛み締めた。学生時代に顎で使っていたパシリは今やプロチームの頂点で、ルーキーである自分には口答えも出来ない存在だ
屈辱と悔しさが滲み出る高城に、宝木は歌でも歌い出しそうなほど上機嫌に話しかける。それが余計に癪に障った
380
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:32:11 ID:9tcidWTk0
( ^Д^)「さて、此処に赴いた理由をお聞かせ願おうか?」
(=゚д゚) 「……『バジリスク』のジョッキーの座、貰い受けようかと」
宝木は鼻で笑うと、食べ終えた蛇の残骸を高城の顔に投げつけた
( ^Д^)「お願いに来たのか?宇都宮徳雄の情報提供と、先日のプレーに免じて『降格処分』は免じてやっただろう?これ以上を俺に望むのは、幾ら何でもツラの皮が厚過ぎるぜ先輩?」
(#=゚д゚) 「……誰がお前なんかに……!!」
( ^Д^)「あ!?なんだって!?」
喉の奥から搾り出すような声を、仰々しい大声と態度で掻き消した
守は最悪な空気をこれ以上吸いたく無くて、タクシーまだ来ないのかなぁって思った
(=゚д゚) 「『決意表明』です」
( ^Д^)「へぇ?具体的には?」
(=゚д゚) 「年度末の『ジャパンカップ』。その予選までに、貴方のご期待を越えるほどの実力で、バジリスクの『心臓』の座に着きます」
高城が抱く徳雄への感情は、宝木とは全く別の性質だ。強く深い『怨恨』。一度ならず二度、三度と、辛酸を舐めさせられた怨みが、性根の底にまで染まっている
それもまた、行動への強い『原動力』となる。宝木は感心したように腕を組み、頷いて見せた
( ^Д^)「良いだろう『三ヶ月』だ。今から三ヶ月後の登用テストで、お前の実力を示して見せろ」
(=゚д゚) 「必ず」
( ^Д^)「但し、合格しなければ今度は除籍処分だ。昔馴染みと言えど、今度は情状酌量の余地は与えない」
(=゚д゚) 「煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
( ^Д^)「ハハ、期待せずに待っていますよ。高城『先輩』」
嫌味ったらしく強調された『先輩』に、高城は無言で頭を下げた
しかし視線は宝木に向けられたまま、射殺そうとせんばかりに怒りと憎しみを送りつけていた
381
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:33:02 ID:9tcidWTk0
(#=゚д゚) 「では、失礼します」
高城は足早にその場を去り、乱暴に扉を開けて出て行った
「守ちゃん、タクシー来たぜぇ……」
夜叉猿に指喰われたり腸出されたりしてそうな店長が、待ち侘びた迎えの到着を告げると
(-_-)「じゃあ僕も帰る……」
めっちゃテキパキと帰り支度を済ませて出て行った
( ^Д^)「ツレないな。せっかくライバルになるだろう偉大なお方と会わせてやったってのに」
「オメエそんなんだから彼女出来ねえんだぜぇ……」
呆れた店長が放った軽口が、その日一番宝木に刺さったのであった
382
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:34:16 ID:9tcidWTk0
―――――
―――
―
大潮 本八は大企業の社長らしく肥えた舌を持つグルメ家だ。創業以来変わらぬ味の一串80円のみたらし団子がこの世で一番美味い食べ物なのは変わりないが
有り余る財力を使い、この世のありとあらゆる美食美酒を堪能してきた。唯一無理だったのが女体盛りという文化だった。だってチンポクズでも無理なもんは無理やもん衛生的にカスだろアレって感じだった
(´^ω^`)「今日は、此処だ!!」
チートデイが強さの秘訣。今日も祝勝をかねてとびきり美味いものを食べに行くでお馴染みのボディビルダー。筋肉の化身(マッスルリバース)こと天王寺美貴久の一面を見せながら、クズの食指が選んだ店は
隠れ家的名店、江戸前寿司『くおうち』である
(´^ω^`)「いらっしゃっせー!!」
( ゚д゚ )そ「いらっ……え!?」
引き戸を開けると同時に先制アイサツ。店員の出鼻を挫くのはクズの流儀であり、特に何の意味もない
383
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:35:26 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「ど、どうぞ」
(´・ω・`)「はい」
店内はカウンター六席のみ。無駄に目力の強く掘りの深い皺顔の大将が一人で切り盛りしているのが見てとれた。オオカミ城の可能性がある
閉店に近い時間だからか、客は本八一人だった。勧められるがままに奥の席へと座り、熱々のおしぼりを受け取る
(´^ω^`)「っかー!!」
オッサンなんで顔拭くのは予定調和だった
( ゚д゚ )「何にしましょう?」
(´・ω・`)「とりあえずビールと……そうだな、ここは大将のお任せで」
( ゚д゚ )「はいよっ!!」
お通しと共に提供されたキンキンに冷えた瓶ビールと、凍ったグラス。高い酒なんて浴びるほど呑んだがやっぱり―――――
(´^ω^`)「くぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!うんめえーーーーーーーーー!!!!!!!」
一杯目のビールに敵うものは無かった
384
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:36:20 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「お仕事終わりですか?」
手際良く魚に包丁を入れながら、大将は気さくに話しかけてくる
閉店間際の一人客など、本来煩わしい存在だろうに、一片たりともそれを匂わせない辺り、仕事人としてのプライドと自信、そして客への感謝と歓迎を表している
飲食店を経営する者として、尊敬に値する職人だった
(´・ω・`)「ええ。少々難儀な仲間に手を焼かれまして」
( ゚д゚ )「心労をご察しします。はい、こちら旬のイサキの握りです」
カウンター越しから二つ並んで寿司下駄に置かれた光り物の握り。一つ手に取って醤油をチョンと付け、口へと運ぶと
(´・ω・`)「う〜ん……」
思わず唸りが出るほどの新鮮さと味が口から鼻へと抜けていく
(´・ω・`)「旨いですね」
( ゚д゚ )「ハハ。イサキも冥利に尽きるお言葉ですよ」
385
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:38:13 ID:9tcidWTk0
本心からの味の感想に気を良くしたのか、大将は次々と寿司を握っていく
同じく旬の車海老に、酢締めのキスの握り。芽ねぎの握りで口内をさっぱりとさせたところで、箸休めの茶碗蒸し
本八も酒が進むにつれよく口が回るようになってくると、自身も同じく飲食店経営者である身の上を吐露。同業者としての悩みや喜びを共有し、会話に華が咲いた
( ゚д゚ )「やはり寄る年波には勝てなくて、仕入れを業者に依頼するようにしたんですがこれがまぁー良い仕事してくれましてね。私がやってた時より良いネタを選んでくれるんですよ。こんな事ならもっと早いうちに頼んでおくべきでしたね」
(´・ω・`)「確かに、ここまで上等なネタはよっぽどの店じゃないとお目に掛かれないですね。しかし、葛藤もあったのではないですか?これは偏見かもしれませんが、職人はこだわりが強いと思っていましたが」
( ゚д゚ )「いやぁ、お師匠がその手の人間でね。激務が祟って早くに亡くなったんです。ですが、昔と比べて寿司職人の伝統や気質は随分と柔軟になりました。ネタどころか握ったシャリすら外注する店も少なく無いんです」
(´・ω・`)「時代ですね。俺達が常識と捉えていた考え方や仕組みは、若ぇモンがドンドン効率的に作り変えて行く。かつての俺らがそうだったように」
( ゚д゚ )「何を仰る。お客さんはまだまだ『作り変えて行く側』でしょう。はい、テキサス・ブロンコロールお待ち!!」
(´・ω・`)「なんかテリーマン宿してそうな寿司来た」
ネタには魚ではなく牛ひき肉、みじん切りにした玉ねぎとピクルスを酢飯で巻き、海苔の代わりとしてスライスチーズが使われている
早い話がチーズバーガーの具を巻き寿司にした一品だった。これまで普通の寿司だけ出て来たのにいきなりイロモノが出てきて本八は眉毛ハゲそうだった
(´・ω・`)「でも美味いんだよなぁ」
( ゚д゚ )「五割の確率で怒られますがね」
(´・ω・`)「出すのやめな???????????」
386
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:39:07 ID:9tcidWTk0
冗談のような寿司を挟みながら、定番のネタが次々と握られていく。本八も二本目のビールを注文し、顔に赤みが差し始めた
(´^ω^`)「ガハハハハハ!!!!大将も一杯どうでぇ!!!!奢らせてくれや!!!!!」
( ゚д゚ )「宜しいんで?」
(´^ω^`)「アンタが構わねえんなら幾らでも飲んでくれ!!」
大将はチラリと時間を確かめ、今日はこれ以上の客は来ないと判断したのか、そそくさと暖簾を下ろしに向かった
(´^ω^`)「……」
(´^ω^`)(よし)
『乗った』。釣り針にバシッと魚が掛かったような手ごたえを感じた。個人経営の飲食店、多少の『緩さ』がある
元より、この店の大将は閉店後に常連と飲むことがあるのは事前調査で確認済み
短時間の話術で『取り入れば』、このように人払いと交渉の場の用意を同時に行える
387
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:40:28 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「そんじゃ、失礼して」
(´^ω^`)「ほれほれぇ!!」
隣に座った大将のグラスに酌をする。白くきめ細かな泡が立つ黄金色の酒を、その日の労を洗い流すように豪快に喉を鳴らして飲み込んだ
(*゚д゚ )「っかぁー!!この為に生きてんだよなぁ!!」
(´^ω^`)「マジそれー!!そらもう一杯!!」
一杯目は景気づけ。二杯目は語らいの燃料として。本八の狙い通り、今度は味わうようにビールを飲む
(´^ω^`)「いやしかし、良い店を見つけられたぜ!!大将はいつから握ってんでぇ!?」
( ゚д゚ )「店を構えたのは二十年前だ。娘が産まれた年に一年発起してな」
互いに砕けた口調となり、本八は更に踏み込んでいく
(´・ω・`)「それまでは師匠の店で握ってたのかい?」
( ゚д゚ )「いや、色んな店を点々と渡り歩いていた。俺は他の職人と比べて、修行開始が遅くてな。とにかく早く一人前になる為に必死だったよ」
(´・ω・`)「するってぇと……歳にして二十後半辺りかい?」
( ゚д゚ )「鋭いな。二十六の頃に、さっき言ったお師匠の店に弟子入りしたんだ」
(´・ω・`)「脱サラ?」
( ゚д゚ )「……そんなとこだな」
388
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:41:39 ID:9tcidWTk0
大将は言葉を濁し、グラスに半分残ったビールを更にもう半分減らす
( ゚д゚ )「お師匠……叔父は厳しい人でな。何度も頭を下げに行ったよ。その度にこう言うんだ。『今まで遊んでいたようなガキに、寿司を握れるか!!』とな。根負けして俺を迎え入れてくれた後も、毎日のように怒鳴り散らされていた」
(´・ω・`)「脱サラなら、遊んじゃいねえのでは?それとも、叔父さんは寿司職人以外は仕事じゃねえと考えてるタイプだったのか?」
( ゚д゚ )「あー……何と言うか……人によっては、遊んでるようにしか見えない仕事だったもんで」
(´^ω^`)「おぉ!!納得したぜ!!大将もしかして、配信者かプロゲーマーだったりしたのか!?」
(;゚д゚ )「お客さん、探偵も兼業しているのか?さっきから的確に言い当ててくるな」
(´^ω^`)「俺そういうのすっきやねん!!結構有名だったんじゃねえの!?」
(;゚д゚ )「いやいやとんでもない!!少しの間頑張ってみたが、鳴かず飛ばずで終わったよ」
389
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:42:51 ID:9tcidWTk0
(´^ω^`)「そんなワケねえよな?」
.
390
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:43:33 ID:9tcidWTk0
突然の否定に、大将の身体はピキリと強張る。リセットされた思考が、疑心と共に本八の『仕込み』を読み解き始めた
酒を飲まされてから、過去を掘り下げるように会話を誘導されている。その節々で、歳や過去の職種を大まかながら言い当てている
そこから導き出される『答え』に気付いた時には、既に手遅れだった
(´^ω^`)「2089年。第十二回チャリオッツジャパンカップ。初の連覇が懸かった『トップ・ギア』は、無名のチームによって夢を断たれた」
(;゚д゚ )「……」
(´^ω^`)「トップ・ギアに『悪夢』を見せるほどの実力を持ちながら、たった一度の参戦でチャリオッツ界から姿を消した『幻のヒール』」
(´・ω・`)「鳴かず飛ばずとは言わせねえぞ?『アンラ・マンユ』のキャプテン『ヤクシャ』こと、三浦 紘一(みうら こういち)さんよ」
彼は、気前が良く親しみ易いこの客は、消したいほどの過去を辿ってやって来た者なのだと―――――
391
:
◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:44:47 ID:9tcidWTk0
(;゚д゚ )「な……」
『何の話だ?』と、惚けようとして、無駄な足掻きになるだろうと頭を振った。下手な芝居で追い返せるような相手ではないと悟ったのだ
勢いづける為に、グラスに残ったビールを一口で飲み干す。仕事終わりの美酒だった筈だが、瞬く間に『苦汁』となって胃に落ちた
( ゚д゚ )「……どうやって探り当てた?『アンラ・マンユ』は全員がマスク・プレイヤーだった。これまで正体を暴かれたことは無かった」
『マスク・プレイヤー』。覆面プロレスラーのように、覆面を被ってチャリオッツをプレイするチームの総称だ
キャラクターを立たせる要素としては勿論、プライベートに干渉させない為の措置として正体を隠す者も少なくない
(´・ω・`)「これでも金持ってる方でね。割と早い段階で正体は掴めてたよ」
そう言って差し出されたビール瓶に、三浦は首を振って拒絶をする。今は気持ちよく酔える気分ではなかった
( ゚д゚ )「何が目的だ?」
(´・ω・`)「俺らのコーチをお願いしたい」
互いに老練。無駄なやり取りなどせず単刀直入に言葉を交わす。三浦は疲れと頭痛を誤魔化すように目尻を摘み揉んだ
( ゚д゚ )「ここは寿司屋だ他を当たれ」
(´・ω・`)「他じゃ無理だ。今年のジャパンカップに間に合わない」
( ゚д゚ )「何故だ?」
説明が無くとも、三浦の『何故』には複数の意味を孕んでいるのが分かった。本八は順に訳を話す
(´・ω・`)「時間が無い、ジャパンカップ優勝経験の持つ指導者が欲しい、俺がアンラ・マンユのファンだから。以上の理由からアンタしか該当者がいない」
( ゚д゚ )「……最後に関しては、光栄と言っておこう」
(´・ω・`)「後でサインください」
マジなのかふざけてるのか分からなかった
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◆L6OaR8HKlk
:2023/01/04(水) 21:48:01 ID:9tcidWTk0
( ゚д゚ )「しかし最初のは解せないな。ジャパンカップは一年に一度、大晦日に開催される人気行事だ。何も今年じゃ無くても良いだろうに」
(´・ω・`)「いいや、今年でないといけない。トップ・ギアの三連覇が懸かった今年でないといけないんだ」
ジャパンカップ過去四十三回の歴史の中で、『三連覇』は前人未到の偉業とされている
そこに王手を掛けたのが、トップ・ギア所属のマスク・プレイヤーチーム『クワイエット』である
『今年でないといけない』と言った男の狙いは、ファンならば誰もが夢にまで見る歴史的快挙の阻止
もう一度トップ・ギアに『悪夢』を見せるのが目的なのだ
( ゚д゚ )「……」
『寝言をほざくな』。そう切って捨てられなかったのは、客商売で磨いた慧眼が、目の前の男が『ガチ』なのだと見抜いてしまったからだ
不幸なことに、三浦は真面目であった。相手が気に食わなければ、深く慮ずに罵り喧嘩腰になる『江戸っ子』に似つかわしくない寿司職人だった
( ゚д゚ )「何故だ?」
今度は、たった一つの意味しか持たない『何故』。どうしても阻止しなければいけない理由があるのかと問うた
(´・ω・`)「アンタが見た景色が見たい。それだけよ」
(;-д- )「っ……」
『単純』が故に、拒絶が効かない。この身勝手を押し通す客には、やると言ったらやる『スゴ味』があった。徐倫の可能性がある
ギュウと瞑った瞼の裏では、本八が望む『かつて見た景色』が鮮明に映し出される。当時、禁じ手と呼ばれたアビリティを使ってまで掴んだ勝利だった
その先に待っていたのは、数万を超える観客からの失望と罵声。偉業を阻んだ代償は、若き日の彼らには耐え難い苦痛であり、チャリオッツの表舞台から姿を消すには、十二分の理由であった
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