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ブーン系ビブリオバトル 投下スレ

74 ◆YA2dQ7l6ss:2020/09/28(月) 00:44:37 ID:56cYcIKE0
給与の振込先は妻子の苗字に名義変更されていた。
私の瑣末な生活必需品の一切は遠方の関西圏へと郵送され、その一週間後には顔も名前も知らない六畳一間への引越しを余儀なくされた。
解放されたのも束の間、精神疾患の診断を受ける。

エディプスコンプレックスに憧れを抱いていた私に投げ付けられた診断名は、やはり予想通りの鬱病だったが、家内にその旨を一報寄越したところ怠け者の一言で済まされた。
私のほうが一層強く辛いと言い腐られてしまっては、取り付く島などどこにもなかった。

兎に角、休みたかった。

路頭に迷い侘しい独居房で暇を肥やす私は、色々と考えた。
刺戟の全部を取り払われた静寂を極めし部屋の中、嫌味なほどに高い天井を見上げて成せる行為と云うのは、三十路を過ぎた脳味噌を放埒に動かす作業だけだったのだ。

ようやっとここで、第二次成長と自我の獲得を果たす。

しかしこんな私を、一体誰が哀れんで呉れるというのだろうか。
両親を逆恨みし世間様から借財された地位すら失って、挙句の果てには中途半端な成功者にすら嫉妬する始末。
ペシミズムを弄んだ若者たちが行き着く先に、堕落に敷衍し続けた道程の先に、私は到着しているのだ。

ふと思う。あの頃、切磋琢磨と作り上げた想像の人々。
三和土の上で広げた世界の数々。

私は彼らへ自罰的な思考回路を埋め込んだ。持ちうる低脳の数々と矮小な卑語を存分に載せて、
作者の脳内で既定路線の結末を辿るレールに登場人物を無理矢理に嵌め込ませ、屈辱的な人生を歩ませてきた。

きっと良い人生を歩めたはずである。
順風満帆な生活を謳歌し尽くし、陶酔境の至のまま、重い荷を降ろすことも可能だったはずだ。

しかし私はそうはしなかった。そうはできなかった。
満たされない思いのままでいる作者を、読者を差し置いて、そうあるべきの幸せを許せなかった。

だから、恵まれた関係と純粋な環境の中で生を享受する感情の擬人たちへ、私は奈落に続く道を勧め、行く末を深淵へと導いたのである。
万年床に横たわり附記された文言を辿る行為は、ある種耽美的だったのかもしれない。

凡百な悲嘆に分かりやすく共感できる自身の感性を、見つめ直すのには良い機会だったのだ。


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