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(゚、゚トソンたまねぎのようです
621
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:15:07 ID:BoYVctQs0
小さな二人が、ちぐはぐな会話を繰り返している。
支離滅裂で意味の無い問答を、ただなんとなく続けている。
純粋で眩しい二人の姿が微笑ましい。
周りに同い年くらいの子が何人か一緒に遊んでいる中で、何故かふたりっきりで遊んでいる。
不穏な空気はまるっきり無いが、ただ、なんでだろうと疑問に思った。
(`・ω・´)「お前んちの子、めっちゃ元気だよな。ペニサスちゃんだっけか?」
ガタイのいい男性が、膂力溢れる声で隣の男性に話しかける。
声量に反して響きは穏やかで、包容力のある独特な声質だった。
対して隣の男性は、呆然とした目つきで幼子二人を見守っている。
622
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:16:45 ID:BoYVctQs0
(´・ω・`)「ははは、元気だけが取り柄な子なのさ。
デミタス君だって、いい勝負じゃないか」
先ほどオムツ交換に苦戦していた男性と同じ声だ。
声から力強さは感じられず、どこか達観しているかのような、哀愁のある響きを持っている。
(`・ω・´)「まぁ、まだ3歳だからなぁ。
二人とも遊びたい盛りだし、家も近いってのもあっから、相性がいいんだろうよ」
(´・ω・`)「ほんとだよね。ペニサスもデミタス君も、他の子供たちなんて目もくれず、二人でばかり遊んでいるからねぇ」
(`・ω・´)「…ったく、お前もたまには遊んでやれよな。子供ってのは目を離した隙に、グングン成長しちまうんだから。
カミさんも一緒に連れてきて、みんなで遊んでやれよ?」
623
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:18:24 ID:BoYVctQs0
言われた男性は、僅かに顔に翳が差す。
少し俯きながら、小さな声で呟くように話す。
(´ ω `)「僕だって、できることなら毎日遊びたいさ。
あいつもここに連れてきて、あの頃みたいに二人で支え合いながら、我が子の成長を見守りたい」
(`・ω・´)「…そんなに悪いのか? ウチの嫁さんも産後うつにはなったけどよ、お医者に見せて、程よく休暇を堪能したら、直ぐにケロって元通りだったぜ」
(´・ω・`)「あんまり公に言えないけども、あいつのお母さん、分裂病なんだよ。
精神疾患と遺伝の関連性はまだ不明だけども、そういう血統は発症する確率があるって、ドクターが言ってたんだ」
(;`・ω・´)「⋯⋯⋯」
(´・ω・`)「今日だって、できれば連れてきたかったけども…あいつも仕事がある以上、なかなか都合良く休暇を合わせられないんだよ。
僕だって、家族を養っていくために、しっかりしなきゃいけないんだし」
624
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:19:57 ID:BoYVctQs0
(`・ω・´)「あんまり気負い過ぎんなよな。
お前は昔っから、色々と背負い込み過ぎなんだよ。
素直に言いたいことを吐いちまったほうが楽になる時だって、あるんだからな。
近所には俺らが住んでんだから、いくらでも頼れよな…迷惑かけてるなんて、思うんじゃねえぞ」
(´・ω・`)「兄さんには敵わないな、本当に。
全部お見通しってわけか」
(`・ω・´)「お前は顔に出やすいからな、表情みりゃー発さ。
ペニサスちゃんも気丈に振舞ってはいるが、寂しがりやだからな。
…あんなに小さい子が他人に、しかも大人に向かって気を使ってるなんて、余りにも残酷すぎる。
子供ってのは、本来純粋であるべきだ。
カミさんと仕事のことでいっぱいいっぱいかも知んねぇが、しっかりあの子自身を見てやれよ」
(´・ω・`)「そうだな…。
あと、悪いんだが明後日…」
625
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:21:23 ID:BoYVctQs0
(`・ω・´)「わかってるって、保育園の送り迎えくらい、いつでも行ってやるさ。
ついでにお前らの分の飯も、作っといてやるよ」
(´・ω・`)「毎回すまない、本当に。いつか埋め合わせするよ」
(`・ω・´)「いいっていいって! そもそも保育園の先生が、子供に優しくすんのは当たり前だろうが。
お前はただ、自分が出来ることを頑張ればいいんだよ」
(´ ω `)「僕の、出来ること、かぁ…」
(`・ω・´)「言っとくが、仕事のことじゃねぇからな。家族のことだからな。
お前が家族のために仕事に精を出してんのは知ってるが、心ってのは金だけで育つもんじゃねぇ。
家族からの、両親からの愛情が必要不可欠な栄養なんだよ。
ちゃんと、ペニサスちゃんに笑いかけてやれよな」
626
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:22:39 ID:BoYVctQs0
男達が話しているタイミングで、帰宅を告げるチャイムが鳴り響く。
腕時計が示す時刻は、午後17時ちょうどだった。
公園に備え付けられたスピーカーから哀愁のある『タ焼け小焼け』の旋律が流れている。
(・、・*川「おとーさーん! かーえーろっ!」
砂場から、つい先ほどまで砂遊びしていた少女が窶れた男性に向けて駆けてくる。
少し遅れて後ろから、おどおどした様子で片割れの男の子が歩いてくる。
女の子のタックルを、男性は両手で優しく受け止める。
(・、・*川「デミタスくんとねー、すなあそびしてたのっ!
デミタスくん、にゃんにゃんつくるの、じょーずなんだよー!」
(´・ω・`)「ははは、デミタス君はすごいなぁ。お父さん、憧れちゃうな」
627
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:24:38 ID:BoYVctQs0
(・、・*川「でもね、でもねー! ペニサスも、じょうずにできたんだよー!
デミタスくんとおなじくらい、じょーずなんだよー!」
(´・ω・`)「そっかー、ペニサスはすごいなぁ。
お父さんにも今度、ネコさんの作り方、教えてなぁ」
(・、・*川「うんっ!
こんどは一、せんせ一も一、デミタスくんもー、おとーさんもおかーさんも、みーんなであそぼーねー!」
(`・ω・´)「はっは、ペニサスちゃんは優しいな。
明日は保育園のみんなと一緒に遊ぼうな」
ガタイのいい男性は、女の子に返事する。
そして近くの男の子と女の子の頭に腕を伸ばし、ガシガシと撫でる。
その筋骨隆々とした腕が、どこかで見たことあるような気がして、私は隣に座っているデミタスを見た。
腕の太さや大きさが、とてもよく似ている。
デミタスがリモコンを操作しチャンネルを切り替える。
一瞬の砂嵐。
628
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:26:58 ID:BoYVctQs0
※
(´・_ゝ・`)「言わなくても分かるかもしれないけども、これは僕たちの記憶を映し出している」
ああ、やっぱりそうなのね。
(´・_ゝ・`)「ペニサスには、心当たりの無い記憶が多いと思う。
僕だって、正直言ってこんなに幼い頃の思い出は、鮮明には覚えてない」
そうよね。
じゃあ、ここに写っている映像は、誰かの想像が作り出したものなのかしら。
(´・_ゝ・`)「いや、恐らくそうじゃない。
深層心理に刻みつけられた記憶を、そのままの形で映し出しているんだと思う」
ふぅん?
(´・_ゝ・`)「記憶ってのは、脳の松果体や海馬が保管していると考えられている。
と言っても、人の記憶をデータ化して抽出する手段は実現できていないから、まだ憶測の域を出ないんだけどもね」
629
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:28:00 ID:BoYVctQs0
想起できない思い出でも、脳の奥には全てが記録されているってことかしら?
(´・_ゝ・`)「僕はそうだと考えている。
だって、そうじゃないと、この映像が説明できないじゃないか」
でも、デミタスは最初に言ったよね。
ここが僕の夢、だって。
(´・_ゝ・`)「ああ、あれね。今更だけど少しだけ語弊がある。
ここは僕の心理が基底にあるけども、同時にペニサスの記憶をテレビを媒介して抽出しているんだ。
原理はよく分からないけども、僕の心の中に他人が存在してる時点で、僕たちの理解できる範疇を超えてると思うし」
630
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:28:47 ID:BoYVctQs0
思考停止は怠惰よ。停滞は死を意味するわ。マンガのキャラがそう言ってた。
(´・_ゝ・`)「重い言葉だね。でもそれは、ペニサスが言うからこそ、重厚なんだろうね」
どういう意味かしら?
(´・_ゝ・`)「そのままの意味だよ。皮肉じゃないから安心して」
なんだか要領を得ない会話ね。
つまり何が言いたいのよ。
(´・_ゝ・`)「ペニサスと僕に共通する出来事、つまりさっきまで見ていたような一家の映像と、その後に引き起こされる悲劇とのギャップで、ペニサスは心を閉ざしてしまったってこと」
私が過去から逃避している原因のことね。
631
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:31:31 ID:BoYVctQs0
(´・_ゝ・`)「先に結論だけ言おう。
ペニサスの父親は、事故で既に亡くなっている。
君の母親は、僕の父に過度の飲酒が目撃され、精神状態が不安定なことから病院へ入院。
その後、重度の統合失調症を発症し、現在彼女には母親としての魂は宿っていない」
母が入院しているのは知ってるけども、事故? 飲酒? 何なの?
(´・_ゝ・`)「時系列順に、先にペニサスの母親について話そう。まずは彼女が産後うつに陥った原因だが……酷な言い方になるが、ペニサスのことだ」
私なの?
(´・_ゝ・`)「というよりも偶然の産物だよ。
ペニサスは超低出生体重児として、この世に生を受けた。
生まれつき身体が弱くて、大きく育たない可能性があった。
君の母は、ペニサスを強く生んであげれなかったことを自分のせいにした。
自責の念にかられて、せめて必死に仕事をして、金銭的に恵まれれば、罪滅ぼしになると考えたんだろう。
だが、産褥婦というのは職場によっては奇異の眼差しに晒されるし、精神状態は常に不安定だ。
不器用な君の父は常に彼女に寄り添おうと四苦八苦したが、一家の大黒柱としての責任もある。
家族と共に過ごす時間よりも、仕事で家を空ける時間の方が、長かったんだ」
今の私があるのは、その頃の両親が必死になって頑張ってくれたからなのね。
(´・_ゝ・`)「良くも悪くも、そういうことだね」
632
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:33:40 ID:BoYVctQs0
それで、飲酒ってのは何なの?
過去の記憶はほとんど無いけども、母から暴力を受けた痣なんて、身体に無いわよ。
(´・_ゝ・`)「過剰防衛だったんだろうね。僕の父も、あの後何度も頭を抱えて悩んでいた。
ある日、父がペニサスのお父さんに頼まれて、君の送迎のために家を訪れたんだ。
君の母親は当日、急な体調不良で仕事を休んでいた。
その情報が、僕の父には入ってなかったことが要因の一端だったんだろうね。
…僕の父が合鍵を使って玄関を開けると、鼻を突く強いアルコール臭が充満していた。
恐る恐る室内を伺って見ると、君の母が顔面蒼白の状態で床に倒れているのを見つけたんだ。ペニサスは眠っていたから分からなかったと思うけど、その時の強いアルコール臭が無意識下でトラウマになったんだろうね。
…そのお酒が、君が夢で何度も見てきたアブサント。
アルコール度数が非常に高く、依存性も酒類の中では抜群、おまけに幻覚作用まであるお酒だ。
薬物中毒者が薬代わりに飲んでいる酒としても、有名だね」
633
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:36:00 ID:BoYVctQs0
それで母は入院。
院内で更なる自責に駆られて、精神病棟へ移転となった…って感じかしら。
(´・_ゝ・`)「そうだね、もともと色んな事を溜め込んで、自分で処理してきた人だったんだろう。
お酒に関しても、ペニサスの母は酒を嗜む人じゃないから、あのアブサントも一時しのぎのつ
もりだったんだろうね」
それで、そのあとはどうなるの?
(´・_ゝ・`)「……君の父は、強い責任感に苛まれる。
ペニサスには今まで以上に良く接するようになり、仕事もそれまでの倍以上勤労するようになる。
たぶん、壊れてしまったんだろう。
彼がペニサスに向ける笑顔は極めて無機質で、会話も長く続かない。責務のような愛情だった。
もしくは、ペニサスを見てなかったのかもしれない」
634
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:36:40 ID:BoYVctQs0
どういう意味?
(´・_ゝ・`)「君を通して、自分が追いやってしまった最愛の人を眺めていたんだろうね。
瓜二つな君の母を、ペニサスに投影していたんだろう」
……。
635
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:39:48 ID:BoYVctQs0
(´・_ゝ・`)「続けるよ。
そんな歪な環境の中にも光はあった。うぬぼれだけど、差し伸べられる手はあったんだ。
君の両親が破綻してから、僕たち家族が一層ペニサスの面倒を見るようになった。
家族といっても、母は僕が物心つく前に亡くなっていたんだけども。
君の両親に代わって、僕の父は僕に向ける以上の愛情を君に注いだ。持ち前の太い腕で、君の頭をよく撫でていたっけ。
ただ、ペニサスは何もしなくても愛情が感受される環境にのめり込んでしまった。依存してしまった。
愛ってのは、人が思っている以上に複雑だ。
使いようによっては、毒にも薬にもなる。
この場合、悪い方に転んでしまったんだろう。
……中学に上がると同時に、君は引きこもりになった。
誰かに苛められるわけでも、勉強や運動ができないわけでもない。
対価を払わなくても好意を甘受できる環境に、依存したんだ。外敵の存在しない、居心地の良いあなぐらに。
その時君が使ってた部屋の扉が、あの青緑色の扉。
黄色いプラスチックのテーブルは、君が机代わりにしていたもの。
愛と言う名の毒と薬で乖離した感情を、あの老婆達は揶揄していたんだろうね」
636
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:41:18 ID:BoYVctQs0
……嬉しかったの、純粋に、真っ直ぐな感情を向けてくれるデミタスが。
愛されることが、守ってもらえることが、心地良かったの。
あの人の……シャキン先生のゴツイ腕で頭をガシガシ撫でられるのが、私は好きだったの。
父は不器用だったから、私との接し方がぎこちなかった。
もともと要領の良い人じゃなかったから、余りにも離れすぎてしまった娘との距離を埋める方法が、見つからなかったのね、きっと。
言葉と感情が反発し合ってて、私はこの人が何を考えているのか読めなくなって、日々不信感と不安だけが募っていったわ。
637
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:42:46 ID:BoYVctQs0
(´・_ゝ・`)「僕もペニサスの家庭がどういう状態にあるのか、子供心に分かっていたから、嫉妬はしても憎むような事は無かった。
…小さい頃から、好きだったことが大きいんだけどね。
女の子だから愛情一杯に育てて、男の子は女の子を守れるようにならなきゃいけないって、父に何度も言われ続けてきたよ。
でもそんな義務感じゃなくて、ただペニサスが好きだったってことを、分かってほしいな。なんてね」
義務感とか、責任感だとかと思っていたわ。
(´・_ゝ・`)「それがまるっきり無かったとは、否定しないさ。…話を戻すね。
僕の父が、四人で遊園地に行こうって計画したんだ。
兄として、弟の振る舞いに見兼ねた部分があったんだろうね。これを機に、ペニサスとペニサスの父との仲を修復しようと考えたんだ。
もちろん、息抜きが名目だけどね。
その頃は、みんな本当に一杯一杯だったから」
638
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:43:48 ID:BoYVctQs0
遊園地…赤黒い錆と硝煙の匂い。
豚の死体、内臓。
双子と、犬がいる……?
……ねぇ! これは何? 私は何を見たの?
せまいよ、こわいよ、くらいよ。
ここはどこなの?
何が起こってるの?
ねぇ!
.
639
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:44:47 ID:BoYVctQs0
「ジェットコースター、コーヒーカップ、ゴーカートにお化け屋敷。メリーゴーランド、観覧車」
見たくなかった。
楽しかった。
コンクリートの焦げた匂い。
眩い世界に、ぎこちない笑顔の父。
縦に割れて、肉の焼ける生臭い匂い。
.
640
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:47:26 ID:BoYVctQs0
「早めに切り上げて、時刻は大体14時頃。
それでも十二分に楽しんだ僕たち二人は、後部座席で午睡を摂っていた」
照り返す太陽光と生暖かい熱風。
ああ、あの豚は。
風に流れて飛んでくる青葉の、なんて瑞々しいこと。
筋肉がそげ落ちて、過労と不摂生が溜まった、脂肪に満ちた肉体。
充満するエアコンから排出された人工的な気温。
だから、だからあの豚が――
.
641
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:49:39 ID:BoYVctQs0
「ああ、帰りは俺が運転するよ。
お前は疲れてるんだから、助手席でゆっくり休んでろ」
「僕は全然元気だよ、兄さんこそ、疲れてるでしょ」
「お前ほどじゃねぇさ。
いいから、大人しくしてろって…ったく、ペニサスちゃんの頑固さは、父親譲りかねぇ」
四ツ辻。
青信号。
横断歩道に、私たちと同い年くらいの双子。
後ろに、犬のリードを持った老婆。
――思い、出した。
.
642
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:52:49 ID:BoYVctQs0
※
遊園地からの帰り道。
私の父は日頃の疲労が起因して、存分に楽しめていない様子だった。
ただ、久しぶりに見た混じり気のない疲れた顔が、なんだか嬉しくて、私はそれなりに満足していた。
父の嘘偽りのない表情を見ることができたから。
でもやっぱり疲れているのは誰から見ても明らかで、シャキン先生が代わりに運転して帰った。
助手席には私の父、後ろには私とデミタス。
デミタスはまだまだ元気いっぱいで遊び足りない様子だったけど、私はクッションに腰を下ろした時点で睡魔に負けた。
一瞬で暗転する世界。
UVカットの窓越しに注がれる穏やかな太陽光が、ちょうど良い温度を分け与えてくれて、効き過ぎのエアコンも気にならなかった。
643
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:54:00 ID:BoYVctQs0
自分の叫び声で目が覚めた。
重力の向きが変わった。
左が下に、割れた窓に半身が押し付けられていた。
右半身に僅かに掠る大きな存在。
横転。
前を見る。
父の姿が見当たらない。
急激に覚醒する意識と、相変わらずまどろみの中にある感覚とが、一緒くたに混ざり合う。
鼻を劈く焦げ臭い匂いと、目の前に広かる赤い血の海。
644
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 00:58:15 ID:BoYVctQs0
生臭い。
スーパーの魚介コーナーの臭。
腐敗臭と赤黒い鮮血。
視線の先、違くのガードレールが赤くひしゃげていた。
付着するのは、縦に割れた、赤と黄色と黒と白。
正中線で裂けた肉塊。
あれは何?
たっぷり乗った脂肪が誰かに似ているような、でもあの誰かに脂肪は無かったんじゃないか。
あれ。
(´・ω・`)らんらん♪
ブタさん。
.
645
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:00:36 ID:BoYVctQs0
肉塊の後を追うように灰色のコンクリートを走るのは、これまたカラフルな肉塊。
引き伸ばされた、白くて長い腸。
真っ赤なレバーに、黄色っぽい膵臓。
太くて赤い、血管が引き伸ばされている末端には、拍動を止めた心臓。
父だ《豚だ》
肉塊だ《死んでない》
誰だ、あれは。
なんなの、これ。
なんなの。
意識が途切れる間際、私の頭は筋骨隆々とした腕に掴まれた。
646
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:01:38 ID:BoYVctQs0
「大丈夫か! しっかりしろ! 今すぐ助け出してやるからな!」
彼の、シャキン先生の、腕だった。
647
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:03:39 ID:BoYVctQs0
※
テレビが消える。
不意に訪れる、開放感と爽やかな風。
取り払われた窓枠から、舞い込んでくる一陣の突風。
顔を面面から見上げると、青い水平線が見渡せる。
ぐるりと一周してみれば、青々と茂った樹林群と、海岸沿いに疎らに点在する住居が見える。
眼下には、小さくなったコーヒーカップにメリーゴーランド、錆まみれで風化しつつある黒く煤けたジェットコースター。
私が座っている椅子は冷たく硬質な表面で、ザラザラとした手触りが伝わってくる。
648
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:04:34 ID:BoYVctQs0
荒廃した遊園地の、観覧車の中。
隣にはデミタス、向かいの座席には、黄色い毛並みで糸目の猫又が座っている。
テレビはどこにも見当たらない。
長い年月を感じさせる遊園地。
私たちがいるのは、観覧車の天辺にある一室。
小さな島が一望できるほどの高所、島の天辺。
649
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:06:21 ID:BoYVctQs0
(´・_ゝ・`)「それで……ペニサスは、どうしたい…?」
デミタスが私に目線を合わせて話しかける。
相変わらず、感情の読み取れない平担な口調だった。
('、`*川「あの腕は…デミタスのお父さん……シャキン先生、だったんだね」
(´・_ゝ・`)「そうでもあるし、違うとも言える。
最初はペニサスのお父さん。次に僕の父。
最後に、僕の腕を表していたんだ」
('、`*川「似てるものね、みんなガッチリした体格だし」
(´・_ゝ・`)「運動神経はからっきしさ」
力なく笑う姿が、私の父と重なる。
650
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:08:00 ID:BoYVctQs0
(´・_ゝ・`)「信号待ちしてたお婆さんの腕から犬が逃げて、それを捕まえようとした双子が飛び出してきたんだ。
犬は無事だったらしいけども、二人と僕たちが乗ってた車は、思いっきり正面衝突しちゃってね」
('、`*川「私のお父さんが、窓から投げ出された」
(´・_ゝ・`)「双子の方は兄が死亡、ペニサスのお父さんは、即死だったらしい。
その後、うちにペニサスは引き取られるんだけど、僕の父は事故のことで自分を責めて、失跡してしまったんだ。巨額の遺産を残してね。
僕んちは父子家庭だから、そのまんまあのアパートで、僕とペニサスの二人で暮らすようになったってわけ」
なんだか、とことん不幸な話だ。まるで他人事のようにすら聞こえる。
でも、これはまごう事なき真実で、私が逃避していた過去の全貌だと理解している。
これは他人の歴史ではなく、私にまつわる出来事なのだ。
651
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:09:26 ID:BoYVctQs0
(´・_ゝ・`)「ペニサスが望むのなら、僕はこの夢で一緒に生きる。現実を捨て、こちらの世界に残る。
一人を望むのなら、僕は喜んでここから立ち去るよ」
目前で猫が口を開きかけるのを遮って、私は声を出す―――。
652
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:10:02 ID:BoYVctQs0
('、`*川「にゃあ」
.
653
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:12:08 ID:BoYVctQs0
彼は嘘をついたから。
本心そのままの言葉に薄い表皮を被せて、ごまかそうとしたから。
だから私は、彼に正直な言葉を求めた。
(´ _ゝ `)「……一緒に、いたい」
彼の呟き。
猫が、耳まで避けた大きな口で欠伸をする。
夏っぽくない乾いた風が、割れた窓から流れてくる。
心地良い。
彼の本音を聞けたんだから、私の答えは既に決まっていた。
('、`*川「――家に、帰ろう」
654
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:18:30 ID:BoYVctQs0
24.而木またんき
.
655
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:20:04 ID:BoYVctQs0
夢を見た。
廃墟の街の
図書館の
高校の
九龍の
猫の
――の
夢。
656
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:21:43 ID:BoYVctQs0
茜色に翳む地平線。
儚い金星の空色。
ゴミだらけの街が窓から見える。
窓枠しか存在しない窓。
(・∀ ・)「まーた夢かよ」
657
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:24:00 ID:BoYVctQs0
何度目だ、この夢。何回俺はこれを繰り返す。
せめてこの記憶が覚めても保持されていれば、俺は救われるってのに。
木製のささくれだったテーブルに、背もたれのない椅子。
机の上にはお飾り程度の照明と、一冊の本。
表題には分かりやすく『過去』の二文字のみ。
薄っぺらい本だ。キャンパスノート程度の厚みしかない。
これを読み終えれば、夢から覚めることを俺は知っている。
何度も繰り返し見てきた夢の断片から俺が導いた、それっぽい真実が書かれた本。
黒い装丁に手のひら大の大きさ。
最初のページに、幾つか手書きの文字が疎らに書かれている。
658
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:25:08 ID:BoYVctQs0
『而木 またんき
高校一年生、16歳、男子。缺ヒッキーと付き合っている。
同性愛者。身長は177cm、高校生の平均以上。
自ら危険に飛び込む性格。刹那主義。
ヒッキーとくるうが高校からの同級生だと知っている。付き合っていたことは知らない。
両親とマンションで3人暮らし、4LDK。一部屋空いている。
中学生で同性愛者だと気づく。
自分よりデカい物が苦手。
幼少期の記憶が曖昧。容姿端麗だが自己を醜い姿にしか認識できない。だから鏡を嫌う。
代償行動は歪曲。
中学より以前の記憶がない。』
659
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:26:00 ID:BoYVctQs0
おそらくここまでが、現実での俺だ。
自分で認識できている自我を俯瞰的に記してある。
三人称視点で自分を見つめたほうが、頭にすんなり入ってくるんだ。
自分の存在が、物語の登場人物みたいに見えるから。
次のページを捲る。
風化して、がさついた紙質。
660
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:27:13 ID:BoYVctQs0
『双子の兄がいた。非常に仲が良く心身共に鏡写しの二人だった。
特に障害も無くスクスク育つ。両親からの過度な愛情の下で育つ。
やや過保護な家庭だった。
わんぱくで悪戯好きな性格に育つ。ガキ大将キャラだった。
世の中は自分を中心に回っていると思っていたタイプ。
中学の頃、シャキンの運転する車が事故した原因が二人。
対向歩道で両親が待っているとき、後ろの老婆がリードを離し、その犬を追って赤信号を無視して渡る。
事故に二人共巻き込まれる。』
661
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:28:05 ID:BoYVctQs0
『兄の臓器が一部移植され弟のまたんきは生き延びる。
その事故でそれ以前の記憶を無くす。
両親は兄弟それぞれへの愛情や言葉を彼一人に向ける。
二つ分の意識を彼一人に向けるようになり歪な人格が出来上がる。
物置と言われている部屋は鍵が掛かっており入ったことが無い。
実際は兄の部屋がそのまま残っている。』
662
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:28:41 ID:BoYVctQs0
たぶんこっちは、夢の中でしか認知できない過去。
現実の俺の支離滅裂さ、破綻した性格を鑑みるに間違っていないと思う。
本から顔を上げる。
剥き出しのコンクリート壁に背中を付けて、腕組している影。
スーツ姿で俺と瓜二つな体型。
( ・∀・)
兄だ。
663
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:29:35 ID:BoYVctQs0
ここ最近は、俺の周りで色々と人助けしていたらしい。
他人の無意識下で夢を導いている、この噂の出所。
ネットの住人にも影響を及ぼしているかは知らねぇが、あの話に触発されてトソン達は夢を見たんだろう。
窓から顔を出して景色を眺める。
使い古したブラウン管テレビ、鉄骨の残骸、複数の空き缶類を正方形に圧縮したスクラップの山、得体の知れない生ゴミの詰め込まれた半透明のポリ袋。
瞼にそれらは映らない。
この高所から遥か下を見下ろしたところで、具体的に呼称できるものは何も分からない。
だが。
664
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:30:45 ID:BoYVctQs0
雲の下に鎮座してある無数のゴミ山の情景が、俺には手に取るように分かる。
トソンが見たって言ってた、夢の情景そのものだ。
寧ろ俺が見てる方が原初なんだろう。
あいつが同じ景色を見た理由も、理解できる。
トソンは人一倍、他人に敏感な性格だからな。
665
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:31:49 ID:BoYVctQs0
人には、その人となりの核が存在している。
細胞の核とか、地球のマントルだとかと同じように。
トソンはそれが、全部他人由来で出来ている。
本来なら個人の核の上に、他人からの影響や自身の経験が種み重なって人格ができていくんだが、あいつの性根は100%他人で構成されている。
あいつ自身は、その真実を否定するだろうけどな。
666
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:33:39 ID:BoYVctQs0
面白い人間、興味深い物事、珍事やらに興味津々なのは、本当の意味で芯の無い自分を形成するために他人が必要だからだ。
たまねぎみたいに、無限に剥がれる心の持ち主だから。
形骸だとしても面白いものが、あいつには必要だったんだ。
生きる手段だったんだろうよ。
否定しないさ、応援する。
中途半端に自分が無い人間は無数にいるが、完全に自分がいない人間なんて、そうそう見つからない。
そんな自我の欠如を深く考察して、心理を理解している女子高生なんて、まさに稀有だ。
そういう意味なら、あいつは誰にも負けない天才だと思う。
紛れもない才能の持ち主だって、胸張って言ってやる。
667
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:34:26 ID:BoYVctQs0
こんな風な思考が根源にあるから、現実の俺も、あいつと縁を切れないんだろうよ。
傍からみりゃ、外見だけが美人なクソ真面目の堅物だからな。
モテない理由は分からないが、内面を見れる俺みたいなやつ以外にはグッとこない人間性なんだろうよ。
このままの俺が目覚めることが出来るなら、俺はトソンに告白するだろう。
押し付けがましくないし、他人の意見を否定せずに尊重する。
スタイルは良いし、クソ真面目だがノリも良い。
それに、そもそも俺は同性愛者じゃないしな。
668
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:35:05 ID:BoYVctQs0
現実で活動している俺は、それは酷く破綻していただろう。
自分勝手なのに正義漢ぶってて、生き方そのものを設定ゆえだと考えてる、痛い中学生みたいなやつ。
仕方ないんだ。意識の根底に俺がいるから。
歪んだ性格も一貫性の無い発言も、現実逃避に徹した俺が、選んだ人格だったんだ。
そうじゃないと、生きられないんだ。
669
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:35:57 ID:BoYVctQs0
どこかの誰かと違って、俺には差し伸べられる腕がない。
心の底から愛を見つめ合った、最愛の人間がいない。
他人に屈することを由としない、偏屈な人間性しか持ち合わせちゃいない。
670
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:37:23 ID:BoYVctQs0
俺は現実から逃げた。
自分で均した安寧な夢の世界へ、本性を隠した。
逃避を、享受したんだ。
自業自得さ。
ここから出られないのも、本音じゃここを住処とする事に諸手を挙げているからさ。
自虐趣味なんだろうよ。
地響きがする。
そろそろ朝だ。
ここは雲の上なのに、天はさらに上に存在する。
彼方から幾許もの蓮の首が落ちてきたから、散華もそろそろ終わる頃なんだろう。
671
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:38:26 ID:BoYVctQs0
肌が焼ける。
意識が空気に溶けてゆく。
無言の行はまだ続くのか、先が思いやられるな、全く。
( ・∀・)「……」
小奇麗なスーツに身を包んだ兄が、机に置かれた本を手にする。
そのままスーツの懐に忍ばせて、窓枠を軽く跨ぎ姿を消した。
あいつはまた、『過去』を理由に夢を運んでゆくのだろう。
仄暗い過去を直隠しにして生きている人間へ、収容された根幹を運んでゆく。
672
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:39:50 ID:BoYVctQs0
ぬらぬらと、天涯から赤い血が降ってくる。
生温くて、唾液の乾いた味がする、赤錆の膿が既に世界を埋めていた。
(´・ω・`)
滲む夕日が梵天模様で、そのひしゃげた顔が癪に障る。
俺がどうにかできることじゃない。
見ることの叶わない社会に願いを馳せて。
どうか、現実に生きる人びとに、幸のあらんことを。
673
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:43:52 ID:BoYVctQs0
25.六十トソン
.
674
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:45:47 ID:BoYVctQs0
今日は8月15日、晴れ。
私はお泊まり会以降、例の夢を見なくなっていた。
そもそも実りのある夢を見る頻度が低かったこともあったので、特に感慨深さは無い。
最後に見たのはデミタス先輩の家で寝た時の、知らない高校の夢。
夢の中だと、妙に思考が落ち着いて考えを巡らせることができたので、そこだけが少し心残りだ。
ペニサス先輩の昏睡事件が起きてから、既に何日か経過している。
どうしてデミタス先輩が眠ったのか、私はよく分からなかったが、くるうさん日く『デミタス君が眠って夢を見れば、ペニちゃんに会って説得できるかもしれないから』だそうだ。
675
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:46:43 ID:BoYVctQs0
夢の共有があんなに簡単にできるのだから、その気になればコンタクトなんてすぐに取れるだろうと思ったが、多分その辺りの事情は、私が考えているよりも複雑なのだろう。
元来変人の集まりだったが、例のお泊まり会以来、変人たちは変人なりに、少しずつ変わっていった。
以前はあれだけ連絡を避けていたヒッキーさんとくるうさんが、わりかし頻繁に接触するようになっていた。
二人とも、まるで本物のカップルのような関係になっていたが、真偽のほどは定かではない。
気がかりがあるとすれば、学校の夢で見た二人のまぐわいだろうか。
676
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:48:12 ID:BoYVctQs0
互の虚を埋めるような、激しい性交。
貪り合って、補い合って、酷く歪んで見えた光景。
二匹の黒い獣という表現は、今現在もわりかし的を射た説明だったと自負している。
二人が互いに夢中になっている中で、心配なのはまたんきだった。
ヒッキーさんに首ったけで、彼以外眼中に無いほど盲目的な愛を注いでいたのだから、自暴自棄になってもおかしくない。
そんな私の心配は、あっさり外れる。
彼は以前と変わらず二人に接しているし、それなりの嫉妬や羨望は見せるものの、会話に大きな変化は見当たらない。
677
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:49:01 ID:BoYVctQs0
ただ、時々またんきの発言が意図している内容が理解出来なくなる。
昨日言っていた発言と、今日話す意見が食い違う事例が、拍車にかけて増加している。
不気味なほどに支離滅裂で、一貫性が欠如している。
酷な表現になるが、元々足りなかった頭のネジが更に抜け落ちてしまったようにさえ見える。
それと同時に、自分の心情を吐露することが増えた気がする。
最近の傾向だと、ヒッキーさんへの愛情を告げると、間を挟まずに自分が実は異性に欲情する旨を話して聞かせたり、とか。
678
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:50:04 ID:BoYVctQs0
変わらず会話は面白いし、一緒にいて退屈しない人間性ではあるので、関わり方を大きく変えようとは思わない。
ただ、彼の破綻振りがおふざけでない事が分かるのが、怖いだけだ。
彼はたぶん壊れているんだろう。
パーツが足りないわけでも最初から欠落しているわけでもないが、本人は望んで直さずにいる。
暗間で彷徨うことに、慣れてしまったんだろう。
或いは急速に進化と成長を遂げてゆく人々への、歪んだ羨望と嫉妬心。
夢の中で彼は真理を見失い、混迷の沼沢に溺れていた。
679
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:51:22 ID:BoYVctQs0
私の身勝手な希望としては、彼には治ってもらいたい。
心が欠けた状態を維持し続ければ、いずれ限界が来るからだ。
私たちはまだ若い。傷は長い時間をかけて修復することができる。
或いは彼の場合は、進行方向を変えることだって出来ると思う。
あべこべでありながらも会話やコミュニケーションにおいて抜きん出た才能を発揮できる人物なんだから、試しても失敗しないだろうと予想できる。
彼に何があったのか、私には分からない。
またんきは、夢の中ではデミタス先輩とペニサス先輩としか会っていないと話していた。
学校の図書室で、ヒッキーさんとくるうさんが交わっているのを見たわけでも無さそうだった。
680
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:52:43 ID:BoYVctQs0
高校生は多感な時期だ。
人付き合いや将来への漠然とした不安、恋人や友人、大人との交わり方など、いくつもの機会に遭遇する。
その中で自己を内省し、成長してゆく準備期間でもある。
故に、彼が自我に迷走するのも分からなくない。
私は飽くまで一人の友人として、彼と変わらない人間関係を堪能してゆこうと思う。
変化を起こすほど現状を憂いているわけでは無いし、人は勝手に進化してゆくからだ。
私には私のスタイルがある。
彼にも彼のスタイルがある。
違いを認めるのも時には必要なことなのだから、私は私なりのやり方で、彼を見守ってゆくとしよう。
681
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:53:25 ID:BoYVctQs0
デミタス先輩とペニサス先輩が変わったがどうかは、私には判断出来なかった。
彼らとはまだ出会って間もないし、互いにどんな性格の人物なのか分かっていないからだ。
自分の中で他人を評価するには、判断材料が足りなすぎる。
ただ、第一印象と現在の印象は、かなり変化したと思う。
682
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:54:31 ID:BoYVctQs0
デミタス先輩が眠った次の日の朝、二人はほぼ同時に目を覚ました。
あの時の情景は、今でもありのままを思い出せる。
デミタス先輩は不思議と清々しい顔立ちをしていて、私は思わす見惚れてしまった。
ペニサス先輩が目を覚まし、隣で起き上がったデミタス先輩を見ると、突然彼に抱きつき大きな声で泣き始めた。
(;、;*川「怖かった! もう会えないかもしれないって思って、それが嫌で! 寂しくて、でもまた会えて! 嬉しくて、嬉しくて、たまらないの!!」
纏まらない無垢な言葉と、顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡らした幼い素振りが愛らしくて、自分よりも歳上な人物なのに、とても微笑ましく感じた。
幼子が、父親に泣きついているかのような姿だったから。
683
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:55:40 ID:BoYVctQs0
それを優しく肯定しながら頭を撫でるデミタス先輩の姿が、親子みたいで面白くて、今思い出しただけでも自然と顔がほころぶ。
彼はきっと、いいお父さんになるだろう。
私がデミタス先輩に抱いた第一印象は、無気力で存在感の希薄な巨人だった。
だが、ペニサス先輩を抱きしめる姿や表情からは父性や包容力を感じさせ、体つきも筋肉質に戻っていた。
希薄な存在感だけは相変わらず漂ってはいたが、恐らくそれは彼のアイデンティティなのだろう。
彼を彼たらしめるのに必要不可欠な要素。
684
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:56:29 ID:BoYVctQs0
ペニサス先輩に持った最初の印象は、大人びた雰囲気の少女だった。
泣き崩れる姿やデミタス先輩に純枠に甘える様子などを見ていると、その印象は真逆だったと痛感する。
大人びた姿を演技することで、自分を騙っていたのだろう。
彼女には憮然としたしかめっ面よりも、あどけなく満面の笑みを浮かべた、素直な表情の方がきっと似合うだろうと思う。
685
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:57:14 ID:BoYVctQs0
……周囲の人物をかく評価してきた私はというと、誰よりも何も変わっていない。
悲観しているわけではない。この短時間で、私の根底が変化するとは考えていないだけの話だ。
他人を評価することで自己の評価を無視するのは、私の得意技だから。
686
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 01:59:55 ID:BoYVctQs0
――潮風が頬を掠める。
海猫の静かな鳴き声と、足元に打ち付ける汐のささやき。
強い太陽光が波止場の剥き出しのコンクリートから反射して、皮膚をジリジリと焼いていくのを実感する。
日焼け止めクリームを塗ってきといて正解だった。
今日のコーディネイトはシンプルそのもの。
ウェッジヒールのエスパドリーユに、生成りリネンのワンピース。
紫外線対策の一環でもあるが、ツバの広い麦わら帽子。私のお気に入り。
程よく力の抜けたスタイリングが、この季節と場所にはちょうど良い。
687
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 02:01:53 ID:BoYVctQs0
川* ゚ 々゚)「トソンちゃーん! 早く旅館に行こ一よー!」
後方から、くるうさんの呼び声が響いてくる。
こんなに大きな声を恥じらいもなく出せる人だったのが意外だった。
振り返ると、彼女がこちらへ駆けてきていた。
ノースリーブの水玉ブラウスに、インディゴブルーのショートデニム。
足袋を模したサンダルは、とあるブランドのアイコニックアイテムだった。
彼女が着れば、どんな服装でも様になる。
彼女が隠し続けていた素肌。透き通るような青白い肌。
688
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 02:03:22 ID:BoYVctQs0
腕には縦横無尽に奔る無数のリストカット痕と、まあたらしい紫斑の滲む複数の水泡。
足にも腕にも所狭しと瘡蓋が犇めき合っているが、この傷を見るのは、実は初めてではない。
高校の夢を見てから、彼女は露出の多い服をよく着るようになっていた。
本人日く「露悪趣味」とのこと。
あまり突っ込んで聞いていいか憚られたので、くるうさんの傷に言及するつもりは無い。
それに、こうして白日の下に晒しているのだから、本人にとっては既に過ぎたことだと思う。
それをいちいち掘り返すのも、野暮だろう。
689
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 02:04:40 ID:BoYVctQs0
私たちは今、"猫島"と言われる場所へ旅行に来ている。
二人が夢から覚めて間もなく、デミタス先輩とペニサス先輩が提案したのだ。
ヒッキーさんとまたんきは用事があるとのことで、ここには私とくるうさんとデミタス先輩とペニサス先輩の四人で来ている。
なんと驚き、旅費はデミタス先輩が出してくれた。
690
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 02:06:06 ID:BoYVctQs0
川* ゚ 々゚)「ネコッ」
ミ´- _- 彡「ニャー」
川* ゚ 々゚)「ねこねこ」
ミ´- _- 彡「ニャー」
(゚、゚トソン「……」
川* ゚ 々゚)「ニャア、ニャー!」
ミ´- _- 彡「ムフー」
川* ゚ 々゚)「ゴロゴロー」
ミ´- _- 彡「!」
(゚、゚トソン「…」
川; ゚ 々゚)「あっ…ニ、ニャーニャー!」
ミ´- _- 彡「ムっ、フっ」
(゚、゚トソン「…」
川; ´ 々`)「むふー〜〜……」
(゚、゚トソン「……」
691
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 02:07:28 ID:BoYVctQs0
足に猫が擦り寄ってくる。
極めて人慣れしていて、ともすれば危うさすら感じる。
黄色くて短い毛並みの、糸目で脂肪たっぷりな巨大猫。
ヒールを履いてる私の、脛くらいほどの大きさ。
この貫禄やふてぶてしさから察するに、俗に言う猫又というやつだろう。
決して可愛い顔つきではないが、擦り寄られて悪い気にはならない。
顎の下を撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らす。
その姿が本当に可愛くなくて、逆転した愛おしさすら覚える。
692
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 02:08:18 ID:BoYVctQs0
(゚、゚トソン「…」
ミ´- _- 彡「…」
(゚、゚;トソン「……」
ミ´- _- 彡「ニャー」
(゚、゚;トソン「……に…」
ミ´- _- 彡「?」
(゚、゚;トソン「に、ニャッ」
ミ´- _- 彡「…」
(゚、゚;トソン「…………」
ミ´- _- 彡「ニャー」
(゚、゚トソン「…」
ミ´- _- 彡「ゴロゴロ」
(゚、゚*トソン「…」
693
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 02:10:36 ID:BoYVctQs0
折角の旅行なんだから、精神論は無しにしよう。
いくら思考を煮詰めても、納得のいく結論が出ないことはざらにある。
考えを巡らすのは、また別の様会にとっておこうと思う。
いずれ時間が解決する。
流れる時間の中の私が諭してくれる。
葛藤は、最期の最後までとっておこう。
夢から覚めるまで、覚るまで。
(゚、゚*トソン「ニャア!」
694
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 02:12:29 ID:BoYVctQs0
(゚、゚トソンたまねぎのようです 終
695
:
◆MSKEobRqzo
:2020/06/18(木) 02:13:33 ID:BoYVctQs0
以上です。
大量に他作品のネタをパクりまくって、本当に本当に申し訳ございませんでした。
696
:
名無しさん
:2020/06/18(木) 02:20:01 ID:uUYYQHGw0
乙!!、!
697
:
名無しさん
:2020/06/20(土) 01:06:08 ID:.1vdG8wg0
この作品読むことができて良かったわ
乙
698
:
名無しさん
:2020/06/22(月) 17:17:44 ID:cJ.BY/fE0
あーーーめちゃくちゃ良かった
すごくよかった
699
:
名無しさん
:2020/07/08(水) 16:55:40 ID:QJUIAjU.0
急にらん豚ブッ込んでくんなや!シリアスだったのにわろてまうやんけ!
乙!
700
:
('A`;削除)
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701
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702
:
名無しさん
:2020/07/21(火) 13:03:38 ID:hSC5AW.A0
へんぴ
703
:
MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 12:53:30 ID:/VREY1p60
7話投下し忘れていたので今夜落とします。
今更で申し訳ありません。
704
:
名無しさん
:2020/08/12(水) 18:58:53 ID:St0Att760
楽しみ
でも酉がちょっとおかしい
705
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:33:32 ID:wgN5bZDE0
7.缺ヒッキー
706
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:35:13 ID:wgN5bZDE0
(-_-)「それにしても現実問題、外泊なんて許されるのか?
というか、誰の家でやるつもりなんだよ」
僕らは今、都心の大型ショッピングモールの中にいる。
両手にはファンシーなぬいぐるみが大量に押し込められたビニール袋と、大手ブランドのショッパーバッグ、それにアニメのキャラクターをあしらった風船が3つほど握られている。
殆ど全て彼の戦利品だ。
一先ず今はモール内のフードコートにて休息を摂っている。
彼の所有物である以上、地べたに置くわけにもいくまい。
707
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:36:10 ID:wgN5bZDE0
(・∀ ・)「外泊については、両親けっこー寛容だから許可はもらえるだろーよ。
俺自体に問題は無い。
友達んちに暫く世話になるとか言っとけば、納得するだろうしさ」
彼は近郊のマンションにて両親と暮らしている。
三人家族、間取りは確か4LDKだったはず。
なぜ三人なのにそんな広い物件に住んでいるのかと尋ねると、
(・∀ ・)「残った一部屋は物置」
とだけ言っていた。
部屋以外にキッチンやダイニングもあるのだから、スペース的に十分すぎるような気もするが。
708
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:37:04 ID:wgN5bZDE0
彼は両親に自分達の関係や性的嗜好は告白していない。
自分が同性愛者だと気づいたのは中学に上がったばかりの頃だと言っていた。
幼い頃から男女の隔たりなく誰とでも仲良く遊んでいた、活発な少年だったらしい。
彼は昔から整った顔立ちをしていた為、よく女の子と間違えられていた。
体つきも華奢で今よりも線が細く、所謂美少年だった。
初恋の相手は女の子で小学校低学年の頃。
709
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:38:30 ID:wgN5bZDE0
ただ、何となく違和感のような物は、その頃からあったという。
恋をしてもキスをしても友達の延長線のような認識しかなく、後の彼女もそうだったと。
中学に上がると、近隣小学校の見知らぬ子供たちが入りこんでくる。
彼は他の学校から来た男の子に、何かときめきを感じたと話していた。
しかしその淡い恋心は告げることなく、自身がLGBTである事実は今もなお公にはしていない。
怖いのだという。勇気が出ないのだとも言っていた。
詳しい話は教えてくれない。まだ言いたくないらしい。
それらを語っていた時の彼の表情は、なぜか妙に楽しそうな笑顔だった。
710
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:39:55 ID:wgN5bZDE0
両親にとっては一人息子である故、孫の顔を見せることが出来ない可能性を示唆するカミングアウトは未だ出来ていないらしい。
僕も一人息子ではないとはいえ、孫の顔を親に見せられないのは申し訳なく思っている。
彼も似たような状況なので、両親に同性愛者だと告げることが出来ない気持ちもよく分かる。
それ故、僕達はまだ家族についての込み入った事情については話し合っていない。
いずれ時が来た時に話すべきだと思っている。
…しかし、いずれとはいつのことなのだろう。
深い事情の話を時間のせいにして遠回しにしていると、いずれその日が訪れなくなるのではないかと時々思う。
果たして、その語り合うべき時は本当に来るのだろうか。
711
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:40:55 ID:wgN5bZDE0
(・∀ ・)「ヒッキーは一人暮らしだから問題ないだろうけどもよ。
…悪いが俺には、泊めてくれそうなやつの心当たりは無い。
ってか逆に、ヒッキーは誰か宛があったりするのか?
お前の部屋は何人も宿泊できるほどデカくねーしさ」
外泊が問題無いとなると、重要なのはそこだった。
誰に泊めてもらおうか。
またんきが今言ったとおりで、僕の住居はポロアパートのワンルームだ。
広さ四畳半の和室、窓際に大きめのクローゼットが鎮座している。
築65年の民家を2年前にリフォームした物件。
クローゼットやら本棚やら冷蔵庫やら食器棚やら平たいベッドやらが所狭しと押し込められた空間であるため、実質的な生活スペースは2畳にも満たないだろう。
712
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:41:54 ID:wgN5bZDE0
僕はそんなゴミ箱みたいな部屋で生活している。
他人を泊められる余裕は一切無い。
(-_-)「そうだよな、それが一番頭を悩ましているところなんだよ。
トソンさんの部屋とかは、どうなんだ?」
女の子の、まして女子高生の部屋であるため、自分で言っておいて気が引けている。
(・∀ ・)「あいつんちには何回か行ったことあるけどよ、ヒッキーの部屋より整理整頓されてるってだけで、広さは大して変わらなかったぜ。
それにあいつは、自分ちに野郎二人も泊めたくないだろ。
俺がもし女だとしても、年頃の男二人と寝床を共にするなんて、まず考えらんねーし。
…だとしたらくるうさんちも、おんなじ間取りだから難しそうだよなぁ…」
713
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◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:43:06 ID:wgN5bZDE0
彼は僕の元カノである韶実くるうの存在を既に認知している。
過去に付き合っていたということは話していないが、またんきのことだから恐らく何かを察しているのかもしれない。
彼がそれを知っていて聞いてこないのか、気付いていないのかは僕には分からない。
彼は不用意に他者の生活に干渉しないし、自分の心情に関与する意見も同様に表出しない。
本当の意味での本音を、真意を誰にも語りたがらない性格だ。
…誰かと瓜二つだ。
もしかしたらそれも、僕が彼と一緒にいる理由の一つなのかもしれない。
714
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:44:10 ID:wgN5bZDE0
(-_-)「正直なところ、その二人がこの提案に乗るかどうかすら怪しいけどな。
くるうはともかく、トソンさんが同じ屋根の下、他人と寝れるかって時点で少し怪しい。
…二人とも、面白い事には目が無いって部分だけは、共通してるんだがな」
(・∀ ・)「トソンの場合、なんやかんや当事者の疑惑もあるし、首突っ込まずにはいられないだろうよ。
あと可能性があるとするならー」
(-_-)「あの二人ぐらい?」
(・∀ ・)「あの二人? ……あー、先輩のこと?」
自分たちの事情を知っていて、且つ許容出来る人物だと、もう彼ら二人ぐらいしか思い当たらない。
715
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◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:45:34 ID:wgN5bZDE0
一人は、仆盛 デミタス(フモリ デミタス)。もう一人はその彼女の、厭藤 ペニサス(イトウ ペニサス)。
デミタス君は、またんきやトソンさんと同じ高校の先輩に当たる人物で、確か今年受験生だった筈だ。
彼の両親は既に故人であったが、その二人の遺産のおかげで彼は現在、少し大きなマンションで暮らしていたと思う。
ペニサスさんは現在高校二年生、またんき達とは別の学校に通っている。
彼氏であるデミタス君と同居中だ。
その事実を聞いたときは随分とませた高校生だなと思っていたが、どうにも折入った深い事情がある様子だった。
詳細については聴くことが憚られたので、あまり認知していない。
716
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◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:46:35 ID:wgN5bZDE0
デミタス君とは美術展で知り合った。
全国の都道府県で選び抜かれた学校の美術部員が描いた作品が一斉に展示される催しが近所で開催されていて、その時に心を奪われた絵画を制作したのが彼だったのだ。
それ以来二人とは何かと縁があって、現在では僕の数少ない友人の一人になっている。
少し前に会った際、幾つか使っていない部屋があると話していた。
二人の了承さえ得られれば、どうにかなるだろうと思う。
因みにデミタス君とペニサスさんは、くるうやトソンさんとは面識が無い。
カップル二人については考えるのも杞憂な気がするが、くるうとトソンさんはどうだろうか。
717
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◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:47:24 ID:wgN5bZDE0
(・∀ ・)「あのカップルか…。
別にいいけどもさ、俺ちょっと、デミタス先輩苦手なんだよね」
(-_-)「そうだったか? 学校ではよく世話になってるって言ってなかった?」
(・∀ ・)「いや、会話とかは寧ろウマが合う。
そうじゃなくてだな…その、こう、体格的な部分というか、外見的な部分というか…」
(-_-)「なるほど、そういうことか」
(・∀ ・)「これマジで誰にも言うなよ?」
(-_-)「分かってるって。
いや、でも何というか、未だその事に慣れてなかったんだな」
718
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:48:40 ID:wgN5bZDE0
またんきは自分より背の高い物が苦手だ。
恐らく誰しも感じたことがあるだろう、自分を上から見下ろされる感覚。
或いは見下されているかのような圧迫感。
デミタス君の場合は威圧感とも言えるだろうか。
仆盛デミタス。彼は異常な程に巨大だ。190cmは優に超えるだろう。
もしかしたら2mをも超えるかも知れない。
性格も一筋縄にはいかないが、その圧倒的な巨体で彼と距離を取る人間は少なくないだろうと予想できる。
決して悪人に部類されるような人物ではない。
寧ろ性格は極めて穏やかで、常に柔和な笑みを携えた、優しい心の持ち主だ。
ただ、一枚岩な性格では無いというだけの話である。
719
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◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:49:27 ID:wgN5bZDE0
(・∀ ・)「とにかくっ!」
(;-_-)「うおっ」
いきなり大きな声を挙げるから驚いてしまった。
彼は怯えている自分を鼓舞するかのように話し始める。若干早口で聞き取りづらい。
(・∀ ・)「これで役者は揃ったわけだ。
早速みんなに連絡して丸め込もうぜ! 善は急げって言うしな」
嬉々とした表情で話す彼は、何故か生き急いでいるような、或いは死に急いでいるかのような儚さを醸し出していた。
720
:
◆MSKEobRqzo
:2020/08/12(水) 21:50:20 ID:wgN5bZDE0
以上になります。
失礼致しました。
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