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(゚、゚トソンたまねぎのようです

1 ◆MSKEobRqzo:2020/06/15(月) 02:02:54 ID:jSXdpIt60
使い方、間違っていたらすいません。スレ立て始めてなもんで。
一応閲覧注意

672 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:39:50 ID:BoYVctQs0
ぬらぬらと、天涯から赤い血が降ってくる。
生温くて、唾液の乾いた味がする、赤錆の膿が既に世界を埋めていた。


(´・ω・`)


滲む夕日が梵天模様で、そのひしゃげた顔が癪に障る。

俺がどうにかできることじゃない。


見ることの叶わない社会に願いを馳せて。

どうか、現実に生きる人びとに、幸のあらんことを。

673 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:43:52 ID:BoYVctQs0


25.六十トソン


.

674 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:45:47 ID:BoYVctQs0
今日は8月15日、晴れ。
私はお泊まり会以降、例の夢を見なくなっていた。
そもそも実りのある夢を見る頻度が低かったこともあったので、特に感慨深さは無い。

最後に見たのはデミタス先輩の家で寝た時の、知らない高校の夢。
夢の中だと、妙に思考が落ち着いて考えを巡らせることができたので、そこだけが少し心残りだ。

ペニサス先輩の昏睡事件が起きてから、既に何日か経過している。
どうしてデミタス先輩が眠ったのか、私はよく分からなかったが、くるうさん日く『デミタス君が眠って夢を見れば、ペニちゃんに会って説得できるかもしれないから』だそうだ。

675 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:46:43 ID:BoYVctQs0
夢の共有があんなに簡単にできるのだから、その気になればコンタクトなんてすぐに取れるだろうと思ったが、多分その辺りの事情は、私が考えているよりも複雑なのだろう。

元来変人の集まりだったが、例のお泊まり会以来、変人たちは変人なりに、少しずつ変わっていった。

以前はあれだけ連絡を避けていたヒッキーさんとくるうさんが、わりかし頻繁に接触するようになっていた。
二人とも、まるで本物のカップルのような関係になっていたが、真偽のほどは定かではない。

気がかりがあるとすれば、学校の夢で見た二人のまぐわいだろうか。

676 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:48:12 ID:BoYVctQs0
互の虚を埋めるような、激しい性交。

貪り合って、補い合って、酷く歪んで見えた光景。

二匹の黒い獣という表現は、今現在もわりかし的を射た説明だったと自負している。

二人が互いに夢中になっている中で、心配なのはまたんきだった。
ヒッキーさんに首ったけで、彼以外眼中に無いほど盲目的な愛を注いでいたのだから、自暴自棄になってもおかしくない。

そんな私の心配は、あっさり外れる。

彼は以前と変わらず二人に接しているし、それなりの嫉妬や羨望は見せるものの、会話に大きな変化は見当たらない。

677 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:49:01 ID:BoYVctQs0
ただ、時々またんきの発言が意図している内容が理解出来なくなる。

昨日言っていた発言と、今日話す意見が食い違う事例が、拍車にかけて増加している。
不気味なほどに支離滅裂で、一貫性が欠如している。
酷な表現になるが、元々足りなかった頭のネジが更に抜け落ちてしまったようにさえ見える。

それと同時に、自分の心情を吐露することが増えた気がする。
最近の傾向だと、ヒッキーさんへの愛情を告げると、間を挟まずに自分が実は異性に欲情する旨を話して聞かせたり、とか。

678 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:50:04 ID:BoYVctQs0
変わらず会話は面白いし、一緒にいて退屈しない人間性ではあるので、関わり方を大きく変えようとは思わない。
ただ、彼の破綻振りがおふざけでない事が分かるのが、怖いだけだ。

彼はたぶん壊れているんだろう。
パーツが足りないわけでも最初から欠落しているわけでもないが、本人は望んで直さずにいる。
暗間で彷徨うことに、慣れてしまったんだろう。

或いは急速に進化と成長を遂げてゆく人々への、歪んだ羨望と嫉妬心。
夢の中で彼は真理を見失い、混迷の沼沢に溺れていた。

679 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:51:22 ID:BoYVctQs0
私の身勝手な希望としては、彼には治ってもらいたい。
心が欠けた状態を維持し続ければ、いずれ限界が来るからだ。

私たちはまだ若い。傷は長い時間をかけて修復することができる。
或いは彼の場合は、進行方向を変えることだって出来ると思う。

あべこべでありながらも会話やコミュニケーションにおいて抜きん出た才能を発揮できる人物なんだから、試しても失敗しないだろうと予想できる。

彼に何があったのか、私には分からない。
またんきは、夢の中ではデミタス先輩とペニサス先輩としか会っていないと話していた。
学校の図書室で、ヒッキーさんとくるうさんが交わっているのを見たわけでも無さそうだった。

680 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:52:43 ID:BoYVctQs0
高校生は多感な時期だ。
人付き合いや将来への漠然とした不安、恋人や友人、大人との交わり方など、いくつもの機会に遭遇する。
その中で自己を内省し、成長してゆく準備期間でもある。
故に、彼が自我に迷走するのも分からなくない。

私は飽くまで一人の友人として、彼と変わらない人間関係を堪能してゆこうと思う。
変化を起こすほど現状を憂いているわけでは無いし、人は勝手に進化してゆくからだ。

私には私のスタイルがある。
彼にも彼のスタイルがある。

違いを認めるのも時には必要なことなのだから、私は私なりのやり方で、彼を見守ってゆくとしよう。

681 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:53:25 ID:BoYVctQs0
デミタス先輩とペニサス先輩が変わったがどうかは、私には判断出来なかった。
彼らとはまだ出会って間もないし、互いにどんな性格の人物なのか分かっていないからだ。
自分の中で他人を評価するには、判断材料が足りなすぎる。

ただ、第一印象と現在の印象は、かなり変化したと思う。

682 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:54:31 ID:BoYVctQs0
デミタス先輩が眠った次の日の朝、二人はほぼ同時に目を覚ました。
あの時の情景は、今でもありのままを思い出せる。

デミタス先輩は不思議と清々しい顔立ちをしていて、私は思わす見惚れてしまった。
ペニサス先輩が目を覚まし、隣で起き上がったデミタス先輩を見ると、突然彼に抱きつき大きな声で泣き始めた。


(;、;*川「怖かった! もう会えないかもしれないって思って、それが嫌で! 寂しくて、でもまた会えて! 嬉しくて、嬉しくて、たまらないの!!」


纏まらない無垢な言葉と、顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡らした幼い素振りが愛らしくて、自分よりも歳上な人物なのに、とても微笑ましく感じた。
幼子が、父親に泣きついているかのような姿だったから。

683 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:55:40 ID:BoYVctQs0
それを優しく肯定しながら頭を撫でるデミタス先輩の姿が、親子みたいで面白くて、今思い出しただけでも自然と顔がほころぶ。
彼はきっと、いいお父さんになるだろう。

私がデミタス先輩に抱いた第一印象は、無気力で存在感の希薄な巨人だった。
だが、ペニサス先輩を抱きしめる姿や表情からは父性や包容力を感じさせ、体つきも筋肉質に戻っていた。

希薄な存在感だけは相変わらず漂ってはいたが、恐らくそれは彼のアイデンティティなのだろう。
彼を彼たらしめるのに必要不可欠な要素。

684 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:56:29 ID:BoYVctQs0
ペニサス先輩に持った最初の印象は、大人びた雰囲気の少女だった。
泣き崩れる姿やデミタス先輩に純枠に甘える様子などを見ていると、その印象は真逆だったと痛感する。

大人びた姿を演技することで、自分を騙っていたのだろう。
彼女には憮然としたしかめっ面よりも、あどけなく満面の笑みを浮かべた、素直な表情の方がきっと似合うだろうと思う。

685 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:57:14 ID:BoYVctQs0
……周囲の人物をかく評価してきた私はというと、誰よりも何も変わっていない。
悲観しているわけではない。この短時間で、私の根底が変化するとは考えていないだけの話だ。

他人を評価することで自己の評価を無視するのは、私の得意技だから。

686 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 01:59:55 ID:BoYVctQs0



――潮風が頬を掠める。
海猫の静かな鳴き声と、足元に打ち付ける汐のささやき。

強い太陽光が波止場の剥き出しのコンクリートから反射して、皮膚をジリジリと焼いていくのを実感する。
日焼け止めクリームを塗ってきといて正解だった。


今日のコーディネイトはシンプルそのもの。

ウェッジヒールのエスパドリーユに、生成りリネンのワンピース。
紫外線対策の一環でもあるが、ツバの広い麦わら帽子。私のお気に入り。

程よく力の抜けたスタイリングが、この季節と場所にはちょうど良い。

687 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 02:01:53 ID:BoYVctQs0
川* ゚ 々゚)「トソンちゃーん! 早く旅館に行こ一よー!」

後方から、くるうさんの呼び声が響いてくる。
こんなに大きな声を恥じらいもなく出せる人だったのが意外だった。

振り返ると、彼女がこちらへ駆けてきていた。

ノースリーブの水玉ブラウスに、インディゴブルーのショートデニム。
足袋を模したサンダルは、とあるブランドのアイコニックアイテムだった。
彼女が着れば、どんな服装でも様になる。

彼女が隠し続けていた素肌。透き通るような青白い肌。

688 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 02:03:22 ID:BoYVctQs0
腕には縦横無尽に奔る無数のリストカット痕と、まあたらしい紫斑の滲む複数の水泡。
足にも腕にも所狭しと瘡蓋が犇めき合っているが、この傷を見るのは、実は初めてではない。

高校の夢を見てから、彼女は露出の多い服をよく着るようになっていた。
本人日く「露悪趣味」とのこと。

あまり突っ込んで聞いていいか憚られたので、くるうさんの傷に言及するつもりは無い。

それに、こうして白日の下に晒しているのだから、本人にとっては既に過ぎたことだと思う。
それをいちいち掘り返すのも、野暮だろう。

689 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 02:04:40 ID:BoYVctQs0
私たちは今、"猫島"と言われる場所へ旅行に来ている。

二人が夢から覚めて間もなく、デミタス先輩とペニサス先輩が提案したのだ。
ヒッキーさんとまたんきは用事があるとのことで、ここには私とくるうさんとデミタス先輩とペニサス先輩の四人で来ている。

なんと驚き、旅費はデミタス先輩が出してくれた。

690 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 02:06:06 ID:BoYVctQs0
川* ゚ 々゚)「ネコッ」

ミ´- _- 彡「ニャー」

川* ゚ 々゚)「ねこねこ」

ミ´- _- 彡「ニャー」

(゚、゚トソン「……」

川* ゚ 々゚)「ニャア、ニャー!」

ミ´- _- 彡「ムフー」

川* ゚ 々゚)「ゴロゴロー」

ミ´- _- 彡「!」

(゚、゚トソン「…」

川; ゚ 々゚)「あっ…ニ、ニャーニャー!」

ミ´- _- 彡「ムっ、フっ」

(゚、゚トソン「…」

川; ´ 々`)「むふー〜〜……」

(゚、゚トソン「……」

691 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 02:07:28 ID:BoYVctQs0
足に猫が擦り寄ってくる。
極めて人慣れしていて、ともすれば危うさすら感じる。

黄色くて短い毛並みの、糸目で脂肪たっぷりな巨大猫。
ヒールを履いてる私の、脛くらいほどの大きさ。

この貫禄やふてぶてしさから察するに、俗に言う猫又というやつだろう。
決して可愛い顔つきではないが、擦り寄られて悪い気にはならない。

顎の下を撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らす。
その姿が本当に可愛くなくて、逆転した愛おしさすら覚える。

692 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 02:08:18 ID:BoYVctQs0
(゚、゚トソン「…」

ミ´- _- 彡「…」

(゚、゚;トソン「……」

ミ´- _- 彡「ニャー」

(゚、゚;トソン「……に…」

ミ´- _- 彡「?」

(゚、゚;トソン「に、ニャッ」

ミ´- _- 彡「…」

(゚、゚;トソン「…………」

ミ´- _- 彡「ニャー」

(゚、゚トソン「…」

ミ´- _- 彡「ゴロゴロ」

(゚、゚*トソン「…」

693 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 02:10:36 ID:BoYVctQs0
折角の旅行なんだから、精神論は無しにしよう。

いくら思考を煮詰めても、納得のいく結論が出ないことはざらにある。
考えを巡らすのは、また別の様会にとっておこうと思う。

いずれ時間が解決する。
流れる時間の中の私が諭してくれる。

葛藤は、最期の最後までとっておこう。
夢から覚めるまで、覚るまで。



(゚、゚*トソン「ニャア!」

694 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 02:12:29 ID:BoYVctQs0





(゚、゚トソンたまねぎのようです 終

695 ◆MSKEobRqzo:2020/06/18(木) 02:13:33 ID:BoYVctQs0
以上です。
大量に他作品のネタをパクりまくって、本当に本当に申し訳ございませんでした。

696名無しさん:2020/06/18(木) 02:20:01 ID:uUYYQHGw0
乙!!、!

697名無しさん:2020/06/20(土) 01:06:08 ID:.1vdG8wg0
この作品読むことができて良かったわ


698名無しさん:2020/06/22(月) 17:17:44 ID:cJ.BY/fE0
あーーーめちゃくちゃ良かった
すごくよかった

699名無しさん:2020/07/08(水) 16:55:40 ID:QJUIAjU.0
急にらん豚ブッ込んでくんなや!シリアスだったのにわろてまうやんけ!
乙!

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701('A`;削除):('A`;削除)
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702名無しさん:2020/07/21(火) 13:03:38 ID:hSC5AW.A0
へんぴ

703MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 12:53:30 ID:/VREY1p60
7話投下し忘れていたので今夜落とします。
今更で申し訳ありません。

704名無しさん:2020/08/12(水) 18:58:53 ID:St0Att760
楽しみ
でも酉がちょっとおかしい

705 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:33:32 ID:wgN5bZDE0

7.缺ヒッキー

706 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:35:13 ID:wgN5bZDE0
(-_-)「それにしても現実問題、外泊なんて許されるのか?
というか、誰の家でやるつもりなんだよ」

僕らは今、都心の大型ショッピングモールの中にいる。
両手にはファンシーなぬいぐるみが大量に押し込められたビニール袋と、大手ブランドのショッパーバッグ、それにアニメのキャラクターをあしらった風船が3つほど握られている。

殆ど全て彼の戦利品だ。
一先ず今はモール内のフードコートにて休息を摂っている。
彼の所有物である以上、地べたに置くわけにもいくまい。

707 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:36:10 ID:wgN5bZDE0
(・∀ ・)「外泊については、両親けっこー寛容だから許可はもらえるだろーよ。
俺自体に問題は無い。
友達んちに暫く世話になるとか言っとけば、納得するだろうしさ」

彼は近郊のマンションにて両親と暮らしている。
三人家族、間取りは確か4LDKだったはず。
なぜ三人なのにそんな広い物件に住んでいるのかと尋ねると、

(・∀ ・)「残った一部屋は物置」

とだけ言っていた。
部屋以外にキッチンやダイニングもあるのだから、スペース的に十分すぎるような気もするが。

708 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:37:04 ID:wgN5bZDE0
彼は両親に自分達の関係や性的嗜好は告白していない。

自分が同性愛者だと気づいたのは中学に上がったばかりの頃だと言っていた。
幼い頃から男女の隔たりなく誰とでも仲良く遊んでいた、活発な少年だったらしい。

彼は昔から整った顔立ちをしていた為、よく女の子と間違えられていた。
体つきも華奢で今よりも線が細く、所謂美少年だった。
初恋の相手は女の子で小学校低学年の頃。

709 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:38:30 ID:wgN5bZDE0
ただ、何となく違和感のような物は、その頃からあったという。
恋をしてもキスをしても友達の延長線のような認識しかなく、後の彼女もそうだったと。

中学に上がると、近隣小学校の見知らぬ子供たちが入りこんでくる。
彼は他の学校から来た男の子に、何かときめきを感じたと話していた。

しかしその淡い恋心は告げることなく、自身がLGBTである事実は今もなお公にはしていない。
怖いのだという。勇気が出ないのだとも言っていた。
詳しい話は教えてくれない。まだ言いたくないらしい。

それらを語っていた時の彼の表情は、なぜか妙に楽しそうな笑顔だった。

710 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:39:55 ID:wgN5bZDE0
両親にとっては一人息子である故、孫の顔を見せることが出来ない可能性を示唆するカミングアウトは未だ出来ていないらしい。
僕も一人息子ではないとはいえ、孫の顔を親に見せられないのは申し訳なく思っている。
彼も似たような状況なので、両親に同性愛者だと告げることが出来ない気持ちもよく分かる。

それ故、僕達はまだ家族についての込み入った事情については話し合っていない。
いずれ時が来た時に話すべきだと思っている。


…しかし、いずれとはいつのことなのだろう。
深い事情の話を時間のせいにして遠回しにしていると、いずれその日が訪れなくなるのではないかと時々思う。

果たして、その語り合うべき時は本当に来るのだろうか。

711 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:40:55 ID:wgN5bZDE0
(・∀ ・)「ヒッキーは一人暮らしだから問題ないだろうけどもよ。
…悪いが俺には、泊めてくれそうなやつの心当たりは無い。
ってか逆に、ヒッキーは誰か宛があったりするのか?
お前の部屋は何人も宿泊できるほどデカくねーしさ」

外泊が問題無いとなると、重要なのはそこだった。
誰に泊めてもらおうか。

またんきが今言ったとおりで、僕の住居はポロアパートのワンルームだ。
広さ四畳半の和室、窓際に大きめのクローゼットが鎮座している。
築65年の民家を2年前にリフォームした物件。

クローゼットやら本棚やら冷蔵庫やら食器棚やら平たいベッドやらが所狭しと押し込められた空間であるため、実質的な生活スペースは2畳にも満たないだろう。

712 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:41:54 ID:wgN5bZDE0
僕はそんなゴミ箱みたいな部屋で生活している。
他人を泊められる余裕は一切無い。

(-_-)「そうだよな、それが一番頭を悩ましているところなんだよ。
トソンさんの部屋とかは、どうなんだ?」

女の子の、まして女子高生の部屋であるため、自分で言っておいて気が引けている。

(・∀ ・)「あいつんちには何回か行ったことあるけどよ、ヒッキーの部屋より整理整頓されてるってだけで、広さは大して変わらなかったぜ。
それにあいつは、自分ちに野郎二人も泊めたくないだろ。
俺がもし女だとしても、年頃の男二人と寝床を共にするなんて、まず考えらんねーし。
…だとしたらくるうさんちも、おんなじ間取りだから難しそうだよなぁ…」

713 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:43:06 ID:wgN5bZDE0
彼は僕の元カノである韶実くるうの存在を既に認知している。
過去に付き合っていたということは話していないが、またんきのことだから恐らく何かを察しているのかもしれない。
彼がそれを知っていて聞いてこないのか、気付いていないのかは僕には分からない。

彼は不用意に他者の生活に干渉しないし、自分の心情に関与する意見も同様に表出しない。
本当の意味での本音を、真意を誰にも語りたがらない性格だ。

…誰かと瓜二つだ。
もしかしたらそれも、僕が彼と一緒にいる理由の一つなのかもしれない。

714 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:44:10 ID:wgN5bZDE0
(-_-)「正直なところ、その二人がこの提案に乗るかどうかすら怪しいけどな。
くるうはともかく、トソンさんが同じ屋根の下、他人と寝れるかって時点で少し怪しい。
…二人とも、面白い事には目が無いって部分だけは、共通してるんだがな」

(・∀ ・)「トソンの場合、なんやかんや当事者の疑惑もあるし、首突っ込まずにはいられないだろうよ。
あと可能性があるとするならー」

(-_-)「あの二人ぐらい?」

(・∀ ・)「あの二人? ……あー、先輩のこと?」

自分たちの事情を知っていて、且つ許容出来る人物だと、もう彼ら二人ぐらいしか思い当たらない。

715 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:45:34 ID:wgN5bZDE0
一人は、仆盛 デミタス(フモリ デミタス)。もう一人はその彼女の、厭藤 ペニサス(イトウ ペニサス)。

デミタス君は、またんきやトソンさんと同じ高校の先輩に当たる人物で、確か今年受験生だった筈だ。
彼の両親は既に故人であったが、その二人の遺産のおかげで彼は現在、少し大きなマンションで暮らしていたと思う。

ペニサスさんは現在高校二年生、またんき達とは別の学校に通っている。
彼氏であるデミタス君と同居中だ。
その事実を聞いたときは随分とませた高校生だなと思っていたが、どうにも折入った深い事情がある様子だった。
詳細については聴くことが憚られたので、あまり認知していない。

716 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:46:35 ID:wgN5bZDE0
デミタス君とは美術展で知り合った。
全国の都道府県で選び抜かれた学校の美術部員が描いた作品が一斉に展示される催しが近所で開催されていて、その時に心を奪われた絵画を制作したのが彼だったのだ。
それ以来二人とは何かと縁があって、現在では僕の数少ない友人の一人になっている。

少し前に会った際、幾つか使っていない部屋があると話していた。
二人の了承さえ得られれば、どうにかなるだろうと思う。

因みにデミタス君とペニサスさんは、くるうやトソンさんとは面識が無い。

カップル二人については考えるのも杞憂な気がするが、くるうとトソンさんはどうだろうか。

717 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:47:24 ID:wgN5bZDE0
(・∀ ・)「あのカップルか…。
別にいいけどもさ、俺ちょっと、デミタス先輩苦手なんだよね」

(-_-)「そうだったか? 学校ではよく世話になってるって言ってなかった?」

(・∀ ・)「いや、会話とかは寧ろウマが合う。
そうじゃなくてだな…その、こう、体格的な部分というか、外見的な部分というか…」

(-_-)「なるほど、そういうことか」

(・∀ ・)「これマジで誰にも言うなよ?」

(-_-)「分かってるって。
いや、でも何というか、未だその事に慣れてなかったんだな」

718 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:48:40 ID:wgN5bZDE0
またんきは自分より背の高い物が苦手だ。

恐らく誰しも感じたことがあるだろう、自分を上から見下ろされる感覚。
或いは見下されているかのような圧迫感。
デミタス君の場合は威圧感とも言えるだろうか。

仆盛デミタス。彼は異常な程に巨大だ。190cmは優に超えるだろう。
もしかしたら2mをも超えるかも知れない。
性格も一筋縄にはいかないが、その圧倒的な巨体で彼と距離を取る人間は少なくないだろうと予想できる。

決して悪人に部類されるような人物ではない。
寧ろ性格は極めて穏やかで、常に柔和な笑みを携えた、優しい心の持ち主だ。
ただ、一枚岩な性格では無いというだけの話である。

719 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:49:27 ID:wgN5bZDE0
(・∀ ・)「とにかくっ!」

(;-_-)「うおっ」

いきなり大きな声を挙げるから驚いてしまった。
彼は怯えている自分を鼓舞するかのように話し始める。若干早口で聞き取りづらい。

(・∀ ・)「これで役者は揃ったわけだ。
早速みんなに連絡して丸め込もうぜ! 善は急げって言うしな」

嬉々とした表情で話す彼は、何故か生き急いでいるような、或いは死に急いでいるかのような儚さを醸し出していた。

720 ◆MSKEobRqzo:2020/08/12(水) 21:50:20 ID:wgN5bZDE0
以上になります。
失礼致しました。

721名無しさん:2020/08/13(木) 13:28:17 ID:rVvhvIlI0
おつおつおつ


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