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錬金術師は遂せるようです
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◆vXEvaff8lA
:2020/05/03(日) 00:52:43 ID:YLCyI6VU0
日本全国津々浦々、数ある駅の中でも五本の指に入る乗降者数を誇るターミナル、
美府駅の地下道を行き交う人混みは、揃いも揃って黒々しい。
何故なら親子連れから年若いカップルに至るまで、
魔法使いの格好をしていたからだ。
クリスマスにバレンタイン、ハロウィンにイースター。
数ある宗教イベントを食い潰してきた資本主義が
お次に目を付けたのは、ドイツの祝祭――ワルプルギスの夜だった。
春の到来を喜ぶその祭りは、厄除けを兼ねて
魔女の仮装をし、篝火を焚くのが本来の習わしである。
だが妥協と利率の折半により、和製ワルプルギスの夜は、
春季ハロウィンパレードと化していた。
中にはアメコミのヴィランやゾンビまで混じっているのだから、
明らかにハロウィンの衣装を使い回していることが伺えた。
帰宅ラッシュを大幅に超える人の波は、
これより地上を練り歩き、騒ぎ狂うのだろう。
だがどんな場所にも、例外は存在する。
( ^ν^)チッ...
舌打ちする男――入間の内心は、
( ^ν^)(どいつもこいつも、魔女宅の
焼き増しみてぇな格好しやがって)
このように穏やかではなかった。
しかし彼が見つめる喧騒とやらは、
些細な怒りに目を向けることはなかった。
入間の纏うグレイのスーツは萎びており、
かろうじて見える襟元は皺にまみれていた。
スラックスは細身の彼にはやや大きいらしく、
行き場のないプリーツが突き出すように山を張っている。
だというのにソックスは真っ白で、
まるで中学生が履くブリーフのようだった。
唯一目を向けられるのは、革靴くらいだろうか。
黒曜の輝きを放つそれは、行き交う人々の姿を映す鏡そのものだった。
俯きながら壁に寄りかかり、エナジードリンクの空き缶を
握り潰す入間は、ブラック企業の社畜以外の何者でもなかった。
ゆえに人々は機嫌の悪そうな彼を、
無意識のうちにシャットダウンしていた。
楽しいワルプルギスの夜に参加することで、
彼らの頭はいっぱいいっぱいだったからだ。
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