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( ^ω^)病んでヤンでレボリューションのようです

24 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/13(金) 23:09:11 ID:HVKX06LI0

ζ( д *ζ「そうか、そっかぁ……つまり、内藤君は私に強い人になれって言ったんだね?」

(; ^ω^)「お……お?」

ζ(゚д゚*ζ「内藤君好みの女になれってことなんだね? うふふ、そうかぁ、遠回しに私のこと、嫌いじゃないって言ってくれたんだね!?」

(; ^ω^)「ん、んん〜……?」

ζ(゚∀゚*ζ「分かったよ! 内藤君がそう望むなら私は世界で一番強い女の子になる! そして内藤君のお嫁さんになるの!」

(; ^ω^)「あ、いや、その、デレさん?」

ζ(>∀<*ζ「内藤君、私頑張るよ! 全身全霊を賭して内藤君に見合う女になる! 
        内藤君に近づこうとするメスブタがいたら血祭にしてあげるね! 内藤君を傷つけようとする腐れ外道がいたら一族郎党皆殺しにするね!」

(; ^ω^)「いやいやいやいや、デレさん!? なに言ってんだお!?」

25 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/13(金) 23:10:32 ID:HVKX06LI0




m9ζ(゚д゚*ζ「見ててね、内藤君! 大好きなあなたの為に、私、滅茶苦茶頑張るからね! 愛してるよ、私の未来の旦那様!」

(; ^ω^)「どうしようなんか余計悪化した気がする!! 不思議ぃ!!」




 彼女、出流デレさんは我が校のマドンナと称される。
 品行方正で何もかもが完璧、皆に慕われ愛されとても大切にされているが……彼女のこう言った性格を知るのは僕だけで。

 彼女の病的な愛情と異常的なポジティブ精神を垣間見た僕はもう色々と限界で。
 その晩、壁に五万回ほど頭をぶつけたけど、悲しいことに今回の出来事を忘れることは出来なかった。


.

26 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/13(金) 23:11:05 ID:HVKX06LI0
本日はここまで、おじゃんでございました。

27名無しさん:2019/09/14(土) 01:15:52 ID:H3PY9THo0
乙カレイション

28名無しさん:2019/09/14(土) 09:35:31 ID:0jwsefVQ0
デレちゃんならこれも許される

29名無しさん:2019/09/14(土) 10:48:49 ID:yY.zyIe60
wwwwwwwwwwwwww

30 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:09:50 ID:s2F8ABvQ0



 明くる日、僕は自分の教室に到着すると言葉を失った。

( ^ω^)「……なにこれ?」

 だって僕の机の上に花が活けてあるんだもん。

 例えばその花が花瓶におさめられていて、しかも菊だったりしたら、ああ、悲しいかなこれはイジメだ……と判断できるだろう。
 ところが僕の机の上はそんなもんじゃない。
 何故か知らないけど机の上にミニガーデンが出来上がっている。

 土の匂いと瑞々しい花々の薫香……ああ、朝から爽やかだな、なんて現実逃避をしつつ、僕は活けられた薔薇や百合の花を見て目を細め、そうして朗らかに笑むと――

ζ(^ヮ^*ζ「おはよう、内藤くん!」

( ^ω^)「ちょおまっ」

――背後から美少女に抱き付かれ、瞬時にこの机上の惨状は彼女がやらかしたのだと悟る。

ζ(゚ヮ゚*ζ「どうかな? 昨日の謝罪もこめてお花を用意してみたよ!」

( ^ω^)「これはあれかお? 供花かお?」

ζ(゚ぺ*ζ「え? そんな縁起の悪いものじゃないよ! もう、なに言ってるの内藤くんは!」

( ^ω^)「そうかぁ、なら君は周囲の状況と反応を見るといいお……」

31 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:10:19 ID:s2F8ABvQ0

 そうですとも、お忘れになっちゃ困るのですが、この出流デレさんは我が校で超絶の人気を誇る超絶美少女だ。
 そんな彼女が僕のような空気極まる凡人に朝っぱらから抱き付いて、しかも超密着して甘い声色で言葉を紡ぐものだから、教室では僕を取り囲む陣形が出来上がっていた。

(#'A`)「内藤……これはどう言うことだぁ……? 腐れ内藤よぉ!?」

( ^ω^)「いや僕の方が知りたいって言うか」

(#'A`)「忘れたのか、内藤よ……俺達は共に一生非モテ道を歩む仲であると。この世を腐らせる悪しきアベック共の根絶を誓った仲だろうが!」

( ^ω^)「そんな覚えねーお。そもそもそんな怨嗟に塗れた道いきたくもないお」

(#'A`)「やかましゃあ! 貴様、よりにもよってなんたる、なんたる羨まけしからんことをぉ……! そのお方をどなたと心得る! 天下の出流デレ嬢だぞ!」

( ^ω^)「分かってるお。けど頼むから落ち着いてくれお、他の皆も。じゃないと……」

 僕の背後で風が吹き抜け、それまで僕に密着していた質量が消え去った。


モルスァ!!  おらぁあああ!!!!
 ̄ ̄\| ̄    ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   (#゚A(とζ(゚Д゚#ζ 三三三


 それと同時に僕へと詰め寄っていた友達――ドクオがデレさんにぶん殴られ、更には床に突っ伏したところに短刀を突きつけられているのを見て言葉を失った。

32 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:10:46 ID:s2F8ABvQ0

ζ(゚- ゚*ζ「何してるの……? ねぇ誰に何しようとしたの?」

(;゚A゚)「あ、あがっ……! まっ、まっへ! おひふいへ!」

ζ(゚- ゚*ζ「日本語もちゃんと喋れないの? その舌切り取る?」

( ∩ω∩)「あー……」

 喋れない理由はね、きっと君が刃を口の中に突っ込んでるからだと思うんだ。

ζ(゚д゚#ζ「よくも私の内藤くんに殺意を……許さない……許さない、許さない、許さない許さない許さない許さない許さない許」

(; ^ω^)「落ち着いてくれおデレさん! 皆もすぐに逃げてお願いだから!」

33 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:11:11 ID:s2F8ABvQ0

ζ(゚Д゚#ζ「落ち着け!? 落ち着けないよ内藤くん! この男子今から殺して関与した奴等も皆殺しにしてやるぅ!
       私の未来の旦那様を傷つけようとしたその蛮行愚行を今ここで後悔し懺悔し死と言う罰を受け入れ贖罪を繰り返しリンボを彷徨えばいいんだよ!
       こんな糞同然のカス野郎死んで当然のゴミだよ! 待っててね内藤くん、今この虫ぶっ殺してあげるね! あ、内藤くんは見ちゃダメだよ!
       こんなカスが死ぬところ見ちゃダメ、目が腐っちゃうからね! ほらさあ準備はいい? 死んでね?
       数億回はぶっ刺して切り刻んであげるから喜んで果てて消えて死んでね?」

(;゚A゚)「ぶっ、ぶひっ、ぶひぃいいいい!?」

ζ(゚Д゚#ζ「豚のように啼くとか畜生の腐れゴミなの? いいよじゃあミンチにして他の関与した奴等に食べさせて処理させるから。
       よかったね生きた意味があったんだよ、皆の体組織の一部になるんだよ? やったねゴミくん、名前も知らないけど君には意味があったんだよ!
       でも内藤くんを傷つけようとしたその罪はどれだけ贖っても無意味だしこの私が永遠に絶対に許さないからね? だから死んでね?
       今から咽喉を切り裂いてそのまま鎖骨を叩き切って心臓を抉りだして――」

(; ^ω^)つ「止めなさいデレさん!」

ζ(゙д゙*ζ「あはぁんっ! は、はいぃ、内藤くんんん……!」

 あわや殺人事件、となる寸前で彼女の頭を軽い調子で叩く。
 するとデレさんはとても嬉しそうに嬌声をあげて、しかも簡単に僕に服従した。
 もう突っ込む気力もないので何も気にしないことにする。

34 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:11:41 ID:s2F8ABvQ0

( ^ω^)「……デレさん。よく聞いてほしい」

ζ(゙∀゙*ζ「は、はいぃ、ご主人しゃまぁ……!」

(; ^ω^)「誰がご主人だ……じゃなくて、デレさん! 僕は今怒ってるんだお!」

ζ(゚д゚;ζ「……!? どうして!?」

(; ^ω^)「何その信じられないみたいな反応!?」

ζ(゚д゚;ζ「だって超危ない状況だったんだよ!? 私がさっきのゴミをどうにかしなきゃ、もしかしたら内藤くんが怪我したかもしれないんだよ!?」

(; ^ω^)「だとしても! 簡単に暴力を振るったり、あまつさえ殺そうとするんじゃないお!」

ζ(゙〜゙;ζ「だ、だってぇ!」

(; ^ω^)「だってじゃないお! どう考えてもやり過ぎだし、彼は……まあ一応、僕の友人なんだお!」

ζ(゚ー゚;ζ「えっ……そ、そうなの……?」

35 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:12:06 ID:s2F8ABvQ0

( ^ω^)「君は、あと少しで僕の友だちを殺すところだったんだお……」

ζ(゚д゚;ζ「わ、私はなんてことを……!」

( ^ω^)「彼に罪はない。そして他の生徒達も同様……いいね?」

ζ(゚д゚;ζ「そ、そんなの優し過ぎ――」

( ^ω^)「デレさん」

ζ(゙べ;ζ「うっ……うぅうううぅー……!」

( ^ω^)つ「ほら、これ……あげるから」

ζ(゚∀゚;ζ「こ、これはっ……内藤くんのお箸ぃいい!? いいの!? 食べていいの!?」

( ^ω^)「おっお。たぁんとお食べ」

ζ(゙д゙*ζ「わーい! やったー! あむあむペロペロんむんちゅあふぅ!」

( ^ω^)「おっおっ……」

 周囲の空気……語るまでもない。
 あの憧れのマドンナが一心不乱に僕のお弁当のお箸を貪り舐めまくっている光景……閉口し言葉を失っている。

36 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:12:34 ID:s2F8ABvQ0

 けど僕はもう何も考えられない。
 狂気に支配されている彼女を完全に手玉に取る僕と言うのは謎の人物だと思う。
 誰がどう見ても超変態な出流デレさんを飼い馴らし、しかも褒美までやるものだから、男子も女子も僕を冷たい目で見てくる。

( ^ω^)「……皆。これは夢だお。いいね。あの出流デレさんがこんなことをすると思うかお?」

ζ(゙〜゙*ζ「はむはむペロペロ! おいひぃよぉおお! 内藤家の洗剤の味がするよぉおお! んほぉおおお!」

 僕の言葉に皆は静かに首を横に振った。
 それを見た僕は静かに頷き、改めて教室を見渡す。

( ^ω^)「ああ、その通り。だから皆、この光景は気にしないで、今から席についてゆっくりと朝の時間を過ごそうお。
      ほら、乱れた席を正して……そうそう。ああ、読書もいいおね。僕は花の手入れでもするお。おっおっ……」

 僕達の視界には普段通りの朝の景色しか映らない。
 例えば僕の机の傍で狂気を振り撒いて箸を舐めまくっているマドンナを誰も視界におさめないし、倒れ伏しているドクオのことだって目に入らない。

 皆は朝の空気をいつもと変わらない日常のままに穏やかに過ごし、ある生徒達は和気あいあいと会話に花咲かせ、ある女子のグループは恋愛についてを語ったり。
 僕はそんな景色を横目で見ると笑みを浮かべ、机の上にある小さな花壇を見つめて少し困った。

37 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:12:54 ID:s2F8ABvQ0

( ^ω^)「ん、どうしよう……薔薇の数が多いお。百合をこっちに移動させて……あ、でも勉強するときどうするかお?」

ζ(゙〜゙*ζ「あむあむぺろべろぉお! ふぎゃひぐむぐあぷぅあ!」

( ^ω^)「あ、そうだ、猿飛の机をつかわせてもらおう。今日はどうせ欠席扱いだろうし」

ζ(゙〜゙*ζ「んぐんぐんぐ……あっ、折れちゃった! 内藤くーん! 折れちゃったよぅ! これ持って帰っていい!?」

( ^ω^)「いいお」

ζ(゙∀゙*ζ「わーい! 内藤くん大好きー!」

( ^ω^)「おっおっ……」

……誰か助けてください。切実に。

38 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:13:23 ID:s2F8ABvQ0



 出流デレの噂は瞬く間に広がった。
 曰く一人の男子生徒に恋をしたと言うが、しかしその内容が異常の一言に尽きた。

 例えば廊下を這い蹲る彼女を見かけた生徒は、彼女がピンセットを片手に体毛を採取している場面を見たと言う。
 ある男子生徒曰く、突然男子トイレに駆け込んできた彼女が、とある男子生徒が使用した便器に顔を近づけ深呼吸をしていたと言う。

 つまり気が触れたものばかりで、彼女の奇行はそれまで皆が抱いていた儚い想いを粉砕した。
 中にはそう言った性格……一途が極まって病的な行動をとる姿こそが可愛らしいと言う人もいるらしいけども、どう考えても変態の一言に尽きるので彼女に戸惑う人が大多数だった。

('A`)「内藤よ」

( ^ω^)「何だおドクオ」

('A`)「本当にお前と出流嬢がそう言う仲になったってのか……」

( ^ω^)「いや、まったくそんな事実ないんだけど」

(#'A`)「だがお嬢の態度は正に恋する乙女じゃねーか!」

( ^ω^)「あれを恋する乙女で片づけられるお前の感性どうなってんの?」

39 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:14:06 ID:s2F8ABvQ0

(#'A`)9m「兎に角! お前は自分の立場をちゃんと理解した方がいい!」

(; ^ω^)「どういうことだってんだお……」

 僕の前の席に腰かけたドクオは身を乗り出してくる。

('A`)「言わずともお前も知ってるだろうが、出流嬢はそりゃもう超人気者だ」

( ^ω^)「お……知ってるお」

('A`)「そんなお嬢の奇行はどうであれ、未だ恋心を寄せる奴も少なくはない」

( ^ω^)「でも大半の人たちは百年の恋も冷めたとかなんとか――」

(#'A`)「そんなミーハーレベルのなんちゃって片思い連中と重度のファンを一緒にするんじゃねえ!」

( ^ω^)「今時ファンクラブなんてあるんだ……」

('A`)「あの美貌と素晴らしきボディを見て憧れねえ奴がいると思うか?」

( ^ω^)、「まあ、そりゃあ……」

 正直、男なら誰だって見惚れるに決まってる。
 僕だって彼女を高嶺の花と認識していた。つまり、どうあっても彼女は超絶な美女だ。

40 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:14:41 ID:s2F8ABvQ0

(#'A`)「だのに、そんなお嬢が、お前程度の空気野郎を相手に……ぐぬぬ、許せん、やっぱ納得いかねー!」

( ^ω^)「だから何度も言ってるだろうお。僕にそんなつもりはないし、彼女の場合は恋愛感情以前の問題だって」

('A`)「……確かに先日からお嬢は奇行が目立つ。だがそれも愛故の行動となれば……萌えずしていられるか!?」

( ^ω^)「知らねーよアホかお前」

 どこに萌えるポイントがあるのか小一時間問い詰めたい。

( ^ω^)「第一、僕の立場になってみろお……行く先々で待ち構えられたり、帰り道は視線を常に感じるし、
      見えないところでは僕の所持品漁ってんだお……恐怖でしかないお」

(#'A`)「この糞野郎が! それがどれ程幸福なことかも知らずに……この欲張りめ! 社会の敵だぞ!」

( ^ω^)「どこの社会だ……兎に角、僕は迷惑してんだお。何度断っても妙にポジティブな捉え方するし、もうどうしたらいいか……」

 美人に迫られて悪い気はしない……と言うのは普通だと思う。むしろ誰だってウェルカムだろう。
 けれども内容が通常とは異なるような、それこそ異常の一言に尽きるようなものばかりだったら、そりゃ当然迫られる側としては地獄のようなもので。
 彼女に愛を告げられてから二日経ったけれども、既に僕はノイローゼ気味だった。

41 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:15:27 ID:s2F8ABvQ0

(#'A`)「贅沢な悩みにも程があるが……だが問題はお嬢だけじゃあねぇ」

( ^ω^)「お……?」

('A`)「お忘れか、内藤よ……お嬢には熱狂的なファンが大量にいるんだぜ」

( ^ω^)「それがなんだってんだお」

('A`)「鈍いなぁ……お前は知らんかもしれんが、往々にしてアイドルとして崇められる存在が恋愛事情で問題を抱えると……」

 そこで一度言葉を切ったドクオは、わざとらしく不安を煽るように低い声で言葉を続ける。

('A`)「暴徒と化す」

( ^ω^)「暴徒……?」

('A`)「あーよ。例えばブログやツイッター等は炎上し怨嗟の嵐になる」

( ^ω^)「えっ」

('A`)「だがお嬢のファンは皆彼女を愛している、そりゃもう大層に。寵愛されるお嬢もさぞ幸せだろうよ……」

(; ^ω^)「いや、ちょっと待てお、ドクオ。なんだか凄く嫌な予感がするんだけどお……」

 暴徒と聞いて嫌な汗が流れる。
 それはあまりにも穏やかな言葉じゃない。

42 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:16:13 ID:s2F8ABvQ0


ド━━m9('A`)9m━━ン「端的に言おう。内藤よ、お前はこれから……死ぬ!」


(; ^ω^)「何その確定事項!?」

('A`)「正確に言うなら他殺……それもお嬢のコアなファン集団により無残に悲惨に殺されるだろうなぁ……」

(; ^ω^)「え、これ回避できるパターンだおね? 前情報でこうして伝えられるってことはなんとかなるパターンだお?」

('A`)「そうはいかないのがデッドコースター形式だな」

( ^ω^)「ジェノサイドパターンかぁー」

 しかしそうは言っても受け入れ難いし納得も出来ない。

43 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:16:53 ID:s2F8ABvQ0

(; ^ω^)「そもそも、僕は別に彼女の好意に頷いた訳じゃねーお」

('A`)「だが恋心を寄せられているのは事実だ。関係性云々の前に愛されているだなんて何それ羨ま死刑って訳だな」

( ^ω^)「なんだその妬み僻み」

('A`)っ「男の嫉妬とはかくも恐ろしいものよ……これを見ろ、内藤」

( ^ω^)「お? 何だおこれ?」

 言葉を切ったドクオは、何やらバケツのようなものを取り出したのだが……。

('A`)「今朝、隣のクラスの生徒がお前にこれをぶちまけようとしてたんだ」

(; ^ω^)「くさっ! なにこれくっさ! え、これ腐った牛乳!?」

('A`)「おう。寸前に俺が気付いて止めたが……今頃お前はこれを頭から被ってたかもしれねーな」

(; ^ω^)「て言うかこれ捨てようお……くっさ、本当にテロですやめてください!」

('A`)「このようにお前を狙う輩は少なくない。俺の知る内だけでも画策を練る集団は凡そ三、四……
    とあるクラスではお前を討とうと武装決起する寸前だな」

(; ^ω^)「いや大袈裟にも程があるだろうお……第一、そんなに好きなら、何で誰もデレさんに好意を伝えないんだお……?」

44 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:17:39 ID:s2F8ABvQ0

('A`)「それが協定ってやつだ、内藤」

(; ^ω^)「協定ぇ?」

('∀`)っ「皆で彼女を愛でる……それが出流ファンクラブの絶対の掟さ。かくいう俺も……ふふ、会員でね」

(; ^ω^)「こ、これはっ……実在したのか出流ファンクラブカード! しかも一桁だと……!」

(#'A`)「俺だって本当ならお前を血祭りにあげたいところだ……だがお前は我が親友! どうしてそんな酷な真似が出来るってんだ!?」

( ^ω^)「昨日取り囲んでどうこうしようとしてた奴の言う台詞じゃないよね」

(#'A`)「そして何より、出流嬢が恋をするとなれば……それを応援してあげるのが我々の為すべきことじゃねーのか!?」

( ^ω^)「その精神は素晴らしいとは思うけど、でも過激派はそうは思ってないんだろうお?」

 穏健派や過激派と言うのはどんな組織であれ生まれる様子で。
 この出流ファンクラブ内でも二つの派閥がのっぴきならないことになっているらしい。

45 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:18:26 ID:s2F8ABvQ0

(#'A`)「出来るなら同志を手にかけたくはねえ。だがもしも出流嬢に迷惑がかかるんなら、
    これは穏健派代表として過激派を粛清しなきゃいけねえ……!」

( ^ω^)「そこまで大事になってるんだおねぇ……」

(#'A`)「当然だろうが! お前は自覚がねーのか!? 出流嬢こそこの学園でも一、二を争う人気者!
    誰もが憧れを抱くマドンナだろうが! そんな姫君を手前はぁ!」

(; ^ω^)「いででで! ちょ、やめろお! 頭が割れる!」

 自覚がない訳ではない。一応、彼女と言う人種がどう言った位置にあるかは知っている。
 まあ、ファンクラブが実在していたのには少々驚いたけれど。

 でも、どうやら彼女が恋をすることは大問題らしい。
 それって当人の問題であって他人が口を挟むことではないだろう、と思うけど……恋は盲目と言う奴か、誰もが己の信念を正しいとして疑わないようだ。

 僕は飛び掛かってきたドクオをいなしながら、この場にデレさんがいないことに安堵しつつも……彼女に自由らしい自由がないことに、少し哀れみを抱いた。

46 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:18:49 ID:s2F8ABvQ0



ξ゚⊿゚)ξ「……ちょっと、邪魔なんだけど」


 そんな時だ。床の上でもつれあっている僕達を見下ろす人物が一名。
 高いソプラノに高圧的な態度。少女であることは間違いないが、その声を聞いたドクオはすかさず立ち上がり、件の女子の前に跪いた。

(;'∀`)「こここ、これは津々矢(つつや)ツン嬢! 今日も今日とて麗しゅう!」

ξ゚⊿゚)ξ「……うるさい」

 校則に反する金髪は両サイドで結ばれる――所謂ツインテールと言うやつだ、緩く巻かれたそれはぴこぴこと跳ねる。

 身に纏う制服姿……スカートの丈は超ミニでリボンもしていない。完全に素行の悪い不良だ。おまけに口も悪い。
 折角退いてくれたドクオに対して喧しいの一言……少々僕の方がむっとする。
 しかしそんな不良少女を叱ろうと思う者はいない。何せ彼女はとても……可愛らしいのだ。

47 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:19:21 ID:s2F8ABvQ0

ξ゚⊿゚)ξ「……何よ」

( ^ω^)「……別に」

 僕を見上げるその少女の名前は津々矢ツン。
 身長は百四十センチ前後、体つきは細く、彼女の美貌と言えばあのマドンナと称される出流デレと並ぶほどだ。

 不良のような素行だがそれがまったく似合っていない。
 どう見ても少女な津々矢はその美貌も相まって我が校のヒロインと呼ばれている。つまりこの少女こそはデレさんと双璧をなす人物だった。

 そんな不良少女――の見た目をしているだけ――は僕と同じクラスだった。
 彼女の登場と共に景色は賑やかしくなり、特に男子は熱烈な視線を送っている。

ξ゚⊿゚)ξ「いいから退いてくれる」

( ^ω^)、「あ、ああ……どうぞ」

 つんけんした態度……その可愛さがあるから許されるようなものだけど、僕には関係がない。

 彼女は学校をサボることも少なくなかった。そう言った不真面目な態度や傲岸不遜な態度が鼻持ちならない。
 ヒロインと呼ばれるのならそれ相応にあって欲しいと思うのは……僕だけなのだろうか。

( ^ω^)(勿体無い、と思うのは僕だけなのかお)

 あんなに可憐なのに――そう思いつつ席へと腰かける僕は、一つ溜息を吐いて机の中から教科書を取り出そうとする……の、だが。

48 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:20:02 ID:s2F8ABvQ0

( ^ω^)つ▼「……なぁに、これぇ?」

 ついつい間抜けな声が出てしまった。けどそれも仕方がないと思う。
 だってね、手を突っ込んで指先に触れたそれの感触は柔らかくてね、気になって取り出せば……パンツなんだもん。

 しかもスケスケのティーバックですよ、黒ですよ。
 こんなドのつく変態趣味の下着が何故僕の机の中に入っているのか、と言うのもなんとなく予想がつく。
 だって教室の戸に隠れて熱烈な視線を送ってくる変態少女がいるんだもの。

(; ^ω^)つ▼「デレさん!? 何これぇ!?」

ζ(゙ヮ゙*ζ「あっはぁ、ようやく気付いてくれたね内藤君! おはよう! それはさっきまで私が履いてたおパンツだよ!
       勝負下着だよ! 内藤君の為に履いてきたんだよ!」

(; ^ω^)「朝からドキムネなプレゼントに冷や汗が止まらないんだけどお!?」

ζ(゙д゙*ζ「そ、そんなに感動してくれるだなんて……! なんだったら今私が履いてるパンツもあげるよ!?
       ご飯にかけて食べるもよし、頭に被って私の温もりを感じるもよし、なんだったら私そのものを食べてくれても――」

(; ^ω^)「断固お断りだお!」

ζ(゚ぺ*ζ「ぶーっ! いけずー!」

49 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:20:43 ID:s2F8ABvQ0

(; ^ω^)「要らないものは要らんお! て言うか近いから! 机の上に乗るんじゃないお! なんか秘密の花園が御開園しそうだから!」

ζ(゙ー゙*ζ「内藤君になら……いいよ……?」

(; ^ω^)「うるせえ薄い本の世界の住人かお前は!」

 昨日から既に空さんの奇行は皆の知るところで、遠巻きからは彼女のファンと思わしき生徒たちが殺意の籠った瞳で僕を見ている。

(;'∀`)「い、出流嬢! おはよう御座います!」

ζ(゚ー゚*ζ「え? あ、どうも」

(;'∀`)「つきましては先日の一件……その、有難う御座いました!」

ζ(゚ー゚*ζ「えーと……何かしたっけ?」

(;'∀`)「見事な右フック、俺はちゃんと身体に刻み込みましたよ……最高のご褒美でした!」

 どうやらドクオはデレさんに半殺しにされたことにより妙な性癖に目覚めてしまったらしい。
 今後彼とは距離をおこうと思う。

50 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:21:11 ID:s2F8ABvQ0

(;'∀`)「手前、名を打田(うつだ)ドクオと申します……以後お見知りおきを!」

ζ(゚ー゚*ζ「え、うん。分かりました」

( ^ω^)「ドクオ、これ確実に覚えてないパターンだからね。デレさんすっごくどうでもよさそうにしてるからね。そもそもお前を見てないからね」

(;'∀`)b「だがそれがいいんだ!」

( ^ω^)「そっかぁ、まったく理解出来ないよ」

 そんな風に早朝から騒いでいる僕達だけれども、ふと僕は視線を感じた。
 それは嫉妬や殺意に狂う男子生徒達のものではない。
 教室の隅の方、窓際の最後尾。そこに座る女子生徒が僕を見ていた。


ξ゚⊿゚)ξ「……馬鹿みたい」


 そう呟いたのは津々矢ツンで、しっかりと耳に捉えていた僕は、情けない話だけど……確かにな、と同じことを思っていた。

51 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/16(月) 02:21:34 ID:s2F8ABvQ0
本日はここまで。
おじゃんでございました。

52名無しさん:2019/09/17(火) 10:00:41 ID:1HUVn.tw0
おつ めちゃくちゃ面白い

53 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:55:59 ID:QWaUXxPw0

 例えば学校からの帰り道、絶世の美女に追われると言うのはどうだろう。
 それってある意味素敵だ。思うに、理想とする恋愛物ではよくあるパターンだと思う。
 けど普通は逆だ。男が追う側で、女がそれを待つだとか、あるいは逃げる側だ。

ζ(゙∀゙*ζ「待ってよ内藤くんどこに行くの今から楽しいことをしようよいや気持ちのいいことをしようほら直ぐそこのホテルの
       ネオンが私達を誘うかのように明滅を繰り返してるよ大丈夫安心して内藤くんを絶対に気持ちよくしてあげるから
       分かってるよ初めてで緊張してるんでしょ恥ずかしがり屋さんだなぁもうでもそんな可愛いところも大好きだよだから
       ほら今すぐ私といいことしよう気」

(; ^ω^)「誰か助けてくれおー!」

 例えば……満面の笑みを浮かべて全力疾走しながら独り言を軽機関銃のように吐き続ける美少女に追われると言うのはどうだろう。
 それをリアルタイムで体感している僕から言わせてもらえば恐怖でしかなかった。

 何故こんなことになったのかなんて特にストーリーはない。
 本日、僕はデレさんからパンツを寄越されたり変なニオイのする弁当を寄越されたりしつつもそれ等を回避し、ようやっと一日の授業が終わりを告げ帰路につこうとしていた。
 だけどもそうは問屋が卸さんと出流デレ氏が昇降口で待ち構えていた。それも何故かは知らないけど発情し切った空気を醸しながら。

 僕は仁王立ちをする彼女を見て確信をする。
 ああ、これは間違いなく関わっちゃいけない空気だ、と。
 だから僕はローファーを履きこんで荷物を抱えたら彼女の横を素通りする。

 けどそう甘くなかった。

m9ζ(゚ー゚*ζ『お兄さんちょっとつきあわなぁい?』

(; ^ω^)『遠慮します!』

 その一言が長い追いかけっこの幕開けを意味した。
 例え狂気の迸るような眼光で涎を垂れ流しながら景色を駆け抜けようとも、やっぱり彼女は美人さんで完璧な人種だなと思う。
 いやそう思わないと僕の精神が崩壊しそうだからそう思わせて欲しい。

54 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:56:19 ID:QWaUXxPw0

(; ^ω^)「くそぉ、なんでこんなことしてんだお、僕は……!」

 正面切って文句の一つでも言えばいい。もしくは完全に無視でもすればいい。
 彼女の一途の極まった性格からすれば、結構素直に従う気もする。

 けどこの気迫と対すればそんな気も失せる。鬼気迫るっていうのはつまり彼女を言うのである。

 とは言え既に追いかけっこを開始してから三十分弱。
 景色はさんざめく街中に変わり、空は宵に暮れた。
 じきに夜になるが、果たしてどこまで逃げれば彼女は諦めてくれるのだろうか。

ζ(゙∀゙*ζ「なぁああいとぉおおおくぅううううんんんん! あぁあそびぃいいましょおぉおおおお!」

(; ^ω^)「それ絶対健全な遊びじゃないだろうお!?」

ζ(゙д゙*ζ「いやいや超健全だよぅ!? しかも健康的だよぅ!? ベッドの上でプロレスするだけだよぅ!?」

(; ^ω^)「今時そんな比喩表現しないから! 暗喩にせよ隠喩にせよまったくナンセンスだお!」

 兎角、彼女をどうにかして撒かなければ……焦った僕は走り続けながらも周囲を見渡す。
 場所は繁華街。制服を着た男子女子やスーツ姿の社会人の男女も入り混じって景色は実に賑やかだった。
 そんな景色の中を駆け抜ける僕とデレさんは完全に注目の的だったけれども、僕は咄嗟に近くにあったゲームセンターへと駆けこんだ。

(; ^ω^)「こ、ここならなんとかなるかお……!?」

 中は喧騒に満ちている。電子音楽だとか若い男女の声、他にもよく分からない機械音がひっきりなしに鳴り響いている。
 僕は中を適当に駆け回り、なんとかデレさんをやり過ごそうとする。

ζ(゙д゙*ζ「なーいとーくーん……どーこー……!?」

(; ^ω^)「ひいぃ……!」

 こんな騒がしい中でも聞こえてくる彼女の声に戦慄しない者がいようか。
 僕は必死で逃げ惑い、どこか隠れる場所はないか、とゲームセンター内を徘徊していたのだが――

55 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:56:42 ID:QWaUXxPw0

(; ^ω^)「あ、あそこなら……!」

 シューティングゲームの筐体には丁度よく隠れられそうな空間があった。狭いが今はあのくらいが丁度いい。
 焦りつつも滑り込むようにして物陰に隠れた僕は、そのままデレさんが過ぎ去るのを待つ。
   、_
ζ(゙べ*ζ「ぐぬぬぬっ……内藤くんの霊圧が消えただとぅ……一体どこにいったの、内藤きゅぅん……!」

(; ^ω^)(早く帰ってくれぇー……!)

 内心、彼女に対する心配もあったりする。
 この時間帯――十八時程度ならまだ治安もそう悪くはない。
 けどこれ以上遅くなりそうだったら、素直に姿を見せて彼女に帰宅するよう告げようと思っていた。
 なんだか行動とかみ合っていない気もするけど……本気で恐ろしい思いをすると人間ってこうもなるのです。
   、_
ζ(゙д゙*ζ「くしょおぉ、逃げられちゃったよぅ……」

 暫く周囲を観察していた彼女だが、どうやら諦めた様子だった。
 トボトボと肩を落として帰る姿はなんだか哀れにも思えて、心が痛みもしたけれど、ここで出ていったら元の木阿弥だ。
 兎に角、彼女が早いうちに帰宅することを願いつつ、僕は危機が去ったことを悟ると静かに物陰から姿を現すのだが――
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「何してんの、あんた……」

(; ^ω^)「え……」

 地を這う形の僕は聞き覚えのある声に顔を上げる。視界に捉えたのは同じクラスの津々矢ツンだった。
 金髪のツインテールに低い背丈、華奢な身体に甘いソプラノ。見間違える訳も聞き間違える訳もなかった。
 彼女は小銭を手に、今まさにシューティングゲームをしようとしていた。そんな最中に突然姿を見せた僕に彼女は少々驚いている様子だ。

56 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:57:04 ID:QWaUXxPw0

(; ^ω^)「い、いや、別にやましい理由や目的はないんだお! ただ隠れてただけで!」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……隠れてたって、何でよ」

(; ^ω^)「あー、いや、それは……」

 女性から逃げていた、だなんて言える訳もない。確実に馬鹿にされるからだ。
 津々矢と僕は親しい間柄にある訳じゃなかった。単に同じクラスなだけで、会話だってほんのちょっとしかしたことがない。

ξ゚⊿゚)ξ「まあいいや。それより邪魔なんだけど」

(; ^ω^)「え。あ、ご、ごめん……」

 突っ立っていた僕は彼女の邪魔をしていたらしい。
 眉間に皺を寄せて睨んでくる津々矢だが、その可愛らしい顔では凄みなんて出ない。

 少し笑いがこみあげてきたけれどもここは素直に退くことにする。
 そんな僕に対して礼を言いもせず彼女はお金を投入し、プラスチックの模造銃を手に取ると、慣れたような動作で出現する敵を撃ち殺していく。

 その様子は絵に描いたような不良少女だった。
 銜えている飴は煙草の代用品だろうか。不機嫌そうに銃を撃ってはいるが、果たして日頃のストレスはちゃんと発散できているのだろうか。
 しかし……その光景に違和感を得る。それと言うのも彼女は一人だったからだ。

( ^ω^)(友達と一緒じゃないのかお……?)

 常日頃男女問わずから可愛がられている津々矢ツン。
 こう言う場に来るとすれば誰かと共にいるものだと思っていたが、しかし彼女は当然のように一人でゲームをしている。

( ^ω^)(うーん、しかも一人が当然みたいな空気……妙に慣れてる風にも見えるけどお……)

 と、疑問を抱き視線を向けていた僕だったが、ゲーム音に紛れて舌打ちが聞こえた。

57 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:57:24 ID:QWaUXxPw0

ξ゚⊿゚)ξ「……何見てんのよ」

( ^ω^)「お……いや、上手いな、と思って」

ξ゚⊿゚)ξ「……そんな感想言う為にそこに突っ立ってる訳?」

(; ^ω^)「別にそう言う訳じゃないお。迷惑だったならすまんお」

 僕の視線が気に障ったのか、津々矢は苛立たし気に言葉を紡いだ。
 何だか居づらくなって僕は謝罪の言葉を残して去ろうとするれど……ふと、何故か足が止まった。

( ^ω^)「あまり遊んでないで、早く帰れお?」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……は?」

 彼女の背中を見た時に感じたのは……寂寥感だった。
 元より小さな背丈がより小さく見えて、なんだか喧騒の渦に飲み込まれていくかのように見えた。
 それが何故か見ていられなくて、僕は彼女の背にお節介な台詞を投げて寄越してしまう。

( ^ω^)「もう十八時になる。あんまり帰りが遅くなると親御さんが心配するお」

ξ゚⊿゚)ξ「……何あんた。余計なお世話なんだけど」

( ^ω^)「そうだろうけど、同級生からの心配くらい素直に受け取ってくれお」

ξ#゚⊿゚)ξ「心配? 馬鹿なの? あたしを子供と勘違いしてるんじゃないの?」

 勘違いも何も、制服を着た小学生に見える……と言ったら間違いなく激怒するだろうから口にはしないでおく。

58 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:57:46 ID:QWaUXxPw0

( ^ω^)「津々矢さん、だったおね」

ξ゚⊿゚)ξ「そうだけど、何? まだ説教の真似事でもするつもり?」

( ^ω^)「おっお。まあうざったいと思うおね、自分でもそう思うお」

 けれども僕の口は自然と動く。

( ^ω^)「でも、危ないからお、夜は。だから早く帰った方がいい」

ξ゚⊿゚)ξ「……マジで馬鹿じゃないの? あんたと同い年なんだけど?」

( ^ω^)「だとしても、一人でこんなところにいるのは危ないお。ただでさえそんなに可愛いらしいんだから――」

 と、自然と口にしてしまった自分自身に驚き、次いで羞恥が生まれた。
 当の本人と言えば言われ慣れているからか、逆にげんなりとした顔をする。

ξ-⊿-)ξ「……ああ、なるほどね。ナンパか。はいはいもういいわ、失せて」

(; ^ω^)「ちがっ、そう言うんじゃねーお!」

ξ-⊿゚)ξ-3「いやもう結構ですんで。あーアホらし……」

 軽率な台詞もあったものじゃない。当人だって呆れた様子だ。
 そりゃ、思いやりの言葉だったとしても下心があったら誰だって軽蔑するに決まっている。
 けど僕は決してそんな思いはなかったんだ、これは本当のことだけど……後の祭りと言う奴で。

59 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:58:08 ID:QWaUXxPw0

ξ゚⊿゚)ξ「結局あんたも他の連中と一緒ってことよ」

(; ^ω^)「え?」

ξ-⊿-)ξ「……別に。何でもないから早く失せてよ、邪魔」

 彼女が小さく呟いた言葉を僕は確かに聞いた。
 他の連中と一緒、と言うのはどういう意味か。

( ^ω^)(……ミーハー集団の一人ってことかお?)

 僕はそう言った集団が苦手だし嫌いだ。こと、この津々矢ツンを崇める集団は問題外だ。
 だって誰も彼女の素行を咎めないし注意の一つもしない。教師のほとんどまでもが彼女を甘やかしている始末だった。

 決して違いはないはずだ。彼女と僕、他の生徒に隔たりや違いはない。それは差別的なものに僕は思えた。
 彼女の素行の悪さ――授業をサボるのも、制服を崩して着るのも、僕はとても残念に思っている。

( ^ω^)「それだけ可愛いのに、勿体無い限りだお」

ξ゚⊿゚)ξ「は……? 何言ってんの?」

( ^ω^)「別に。ただ……危険だから早く帰りなさいって言ってるだけだお」

 僕は彼女の腕を掴むと無理矢理に引っ張る。

ξ#゚⊿゚)ξ「ちょっ、何すんのよ!」

( ^ω^)「誰も注意しないのなら僕がする。そして次に君はお節介、この偽善者、と言うお」

ξ;゚⊿゚)ξ「お節介、この偽善者――はっ!?」

( ^ω^)「別に御節介だろうが偽善者だろうが至極どうでもいいお。正義ぶるつもりもない。こんなのは所詮、僕のエゴだお」

 何となく、僕の中にはデレさんの顔が浮かんでいた。

 デレさんと双璧をなすヒロインとして知られる津々矢嬢。
 品行方正、才色兼備を体現するデレさんとは対極的に津々矢さんは勉強も運動も苦手だと聞く。

60 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:58:30 ID:QWaUXxPw0

 別に他人だからどうでもいいと思う。そう言った不真面目な態度こそが愛嬌であると思う誰かもいるのだと思う。
 けど、じゃあ、それを理由にして彼女が学校をサボったり乱れた服装をしたりするのが許されるのか。
 それって不公平だし、何より……彼女をダメにするのはそう言った周囲の人達なんじゃないのか。

ξ#゚⊿゚)ξ「うっざ、うざいんだけどあんた! 何様のつもりよ!」

( ^ω^)「その口の悪さもよくないお、津々矢さん」

 彼女はいつだって無気力で感情らしい感情を思わせない瞳をしている。
 まるで世の全てを小馬鹿にするかの如く――僕は思っていた以上に彼女を観察していたらしい。

 だが今の彼女と普段の彼女の違いが明確に分かる。
 彼女の瞳には確かに感情が宿っていた。それは怒りを思わせるが、僕はそんな感情表現に笑いそうになる。

ξ#゚⊿゚)ξ「あんた、いい度胸してるじゃない、あたしを子供みたいに扱って……!」

( ^ω^)「見た目は小学生そのままじゃないかお。低いおね、背丈」

ξ#゚⊿゚)ξ「んなっ……人が気にしてることを!」

( ^ω^)「でも、やっぱり可愛らしいからお。だから心配になるしどうにかしなきゃと思うよ、普通は」

ξ#゚⊿゚)ξ「……普通は無理矢理連れてかないし」

( ^ω^)「無理矢理とは聞こえの悪い。同意の上と言って欲しいお」

ξ#゚⊿゚)ξ「無理矢理でしょうが!」

 勿体無い、惜しい……そう思ってきた僕は今になって理解する。

 ああ、そうか、この子は誰にも叱られたことがないんだ、と。
 所作や振る舞いを注意されてきたことがない、だからこう言った素行なんだ、と。
 傲岸不遜な態度に僕は少々驚くけれど、それでも彼女の表現した感情が僕は結構、嫌いじゃなかった。

61 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:58:52 ID:QWaUXxPw0

ξ#゚⊿゚)ξ「……なんであたしを怒るのよ」

( ^ω^)「怒っちゃいないお、注意しただけ」

ξ#゚⊿゚)ξ「今、無理矢理外に連れ出そうとしてるじゃない」

( ^ω^)「別にどう思われてもいいお。けど、きっと僕じゃなくても、他の誰かがいつか君をこんな風にしたと思うお?」

ξ#゚⊿゚)ξ「……なんでよ」

( ^ω^)「だって心配だし、勿体無いと思うし、何より……」

ξ#゚⊿゚)ξ「何より、何よ」

( ^ω^)「いや……見た目が幼いからお、心臓に悪いんだお、色々と……」

Gξ#゚⊿゚)ξ「……殴っていい?」

( ^ω^)「よくない、よくないからその振り上げた拳をおさめよう、ね?」

 小学生程度の背丈をした女の子が夜遅くまで出歩くだなんて危険にも程がある。世には変態が多い。そう言った趣味を持つ輩も当然いる。
 だからやっぱり、僕じゃなくてもいつかは他の誰かが彼女を叱ったり注意しただろう。彼女が絶望を味わう羽目になる前に、誰かが正さねば――

62 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:59:18 ID:QWaUXxPw0

ζ(^ー^*ζ「うふふ。みつけたよぉ?」

( ^ω^)「へ……?」

……さて、今、僕は騒がしいゲームセンターから一歩を踏み出して外に出た訳なのだが、どう言う訳か頬に吐息がかかった。耳を濡らすような甘い声に背が震える。
 その言葉と声に僕は生きた心地がしない。だってそれから逃れる為にゲームセンターで隠れていたんだ。
 なのに、なんだろうか。なんで今、外に出たばかりの僕の真横に、拳一つ分の距離すらない位置に、彼女が……出流デレさんがいるのでしょう。

ζ(^ー^*ζ「ふふ、ふふふ……かくれんぼは終わりかなぁ? 楽しかったね、内藤くぅん……」

( ^ω^)「あれれぇ……帰ったはずじゃぁ……」

とζ(^ヮ^*ζ「はいこれ」

( ^ω^)つ「え、何これ?」

 僕の肩を掴んだデレさん。その腕力は女子にあるまじき程で僕は逃げることが出来ず。
 もがく僕だったが、そんな僕に彼女は自分の携帯電話を見せてきた。
 その端末の画面には地図のようなものが表示されているが……。

ζ(゚ー゚*ζ「何だと思う? これね、内藤くんの居場所を表示してくれるの!」

( ^ω^)「……え?」

ζ(^ヮ^*ζ「うふふ、凄いでしょ? 発信機がね、ほら……これっ」

 僕の鞄のサイドポケットに手を突っ込んだデレさんは、何だか豆粒のような……スパイ映画とかでよく見る、分かりやすい発信機を指に乗せて僕に差し出す。

(; ^ω^)「い、いつのまに……て言うかなんでそんな物を持ってんだお!?」

ζ(゚ー゚*ζ「パパが持ってたから借りてきたの! でも凄いよこれ、正確な位置が分かるもん!」

63 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 06:59:40 ID:QWaUXxPw0

(; ^ω^)「また親父さんが要らぬものをぉ……いやいや、それより! なんで位置が分かってたのに僕をあえて泳がせるような真似を……!?」

ζ(゚、゚*ζ「え? だってあの時は内藤くん、心の準備が出来てなかったんでしょう? だからゲームセンターの物陰で休んでたんだよね?」

(; ^ω^)「……はい?」

ζ(゚ヮ゚*ζ「だからこうしてね、内藤くんが落ち着くまで外で待ってたんだぁ。追いかけっこも楽しかったけど、私の勝ちー!」

 そう言って嬉しそうに笑う彼女を見て、不覚にも胸が高鳴る――

(; ^ω^)(訳ねぇええ! 完全に犯罪だよこれ! なんでそんな犯罪グッズを持ってんだお!?
      て言うか聞いたことあるぞ、こう言う性格の人……確かサイコパスって言うんだっけ……)

 唐突だが問題を出そう。
 仮に自身が強盗犯だとして、適当な部屋に押し入り物色しようとした際、困ったことに住人が室内にいた。
 住人は押し入れに駆け込み固く戸を閉めてしまう。

 さて、ではここから自身はどうするか――そんな問題だ。
 普通の人は、例えば無理矢理踏み入って殺すだとか、いっそ燃やしてしまうだとか、急いで逃げると言うような回答をする。
 ところがある人種はこう答える。

ζ(^ヮ^*ζ「うふふ、うふふー!」

 戸の前で出てくるまで待つ――彼女は正にそれだった。
 そう答える精神は異常の部類らしくて、それを当然のように口にした彼女は、もしかしたら狂っているのかもしれない。

(; ^ω^)(いやまあ今更なんだけどね!)

 人の上靴を舐めたり食べたり煮込んで味噌汁にしたりそれを飲んだりパンツを寄越してきたり、どこに正常があるんだろうね。あるなら教えて頂きたいね。

64 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 07:00:02 ID:QWaUXxPw0

ζ(^ヮ^*ζ「でもね、内藤きゅん……その後ろの子は何なの?」

(; ^ω^)「はへっ」

 先から蕩けた目で僕を見ていたデレさんだけど、急に鋭い目つきをして僕の背後を見た。
 僕は思いました。あ、これ完全にやばいパターンだって。

ζ(^ー^*ζ「あなた……津々矢さんだっけ?」

ξ゚⊿゚)ξ「は……? 誰だっけあんた?」

ζ(^ー^*ζ「私は出流。こうして会話するのは……初めてだね?」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……出流ですって?」

 背後で状況を見ていたのは御存じの通りに津々矢ツンだ。
 先まで不機嫌そうだった彼女はデレさんの名前を聞くと……何故か不機嫌そうに顔を歪める。

( ^ω^)(お……? なんだお?)

 不思議に思うも、そんな津々矢に迫ったデレさんは、なんだか全身から不穏な空気を解き放っていた。
 目がまったく笑っていない。めちゃくちゃ恐ろしい。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇねぇ、何してたの? 内藤くんと何で会話なんてしちゃったの?
       不良のあなたが何で善良な一生徒である内藤くんから説教を受けてるの? 何そのご褒美羨ましいんだけど?」

( ^ω^)「そこかー」

65 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 07:00:22 ID:QWaUXxPw0

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ? つーか邪魔だしうざいんだけど。前見えないでしょうが、この牛乳女。どいて」

ζ(゚ー゚*ζ「背も低ければ胸もないお子様が私から内藤くんを奪うつもりなの? ねぇねぇ? 馬鹿なの? 死ぬの?」

ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、こいつなんなの?」

( ^ω^)「僕が聞きたいかなぁ」

 暗黒の笑みを湛えるデレさんを前にしても津々矢はまるで怯む様子もなく、しかも邪魔だとか失せろだとかとのたまった。
 よもやこの佳人二名が対峙する時が訪れるだなんて思いもしなかったが、現にそうなってしまったから事は重大な問題だ。

( ^ω^)「て言うかお、デレさん」

ζ(゚ー゚*ζ「なぁに内藤きゅん? ちょっと待っててね、今この生意気なチビロリ少女にお仕置きしなきゃだから」

( ^ω^)「必要ないと思うんだ、ぼかぁ。いやね、それよりデレさん。
      流石にお、こんな往来でのっぴきならない空気を醸すのやめましょう? ねぇ?」

 夕暮れの繁華街のど真ん中で美少女と美少女が対峙する景色。
 当然周囲は何事だと注目をする。だがそんな美少女たちに挟まれる形の僕は周囲からどのように見られると言うのか。

 修羅場と勘違いされるだけまだマシかもしれない。
 だって人波から寄せられる視線と言えば殺意の混じったような感じで、それらは全て男性からのもので、つまり分不相応な小僧だと思われているのだろう。

 そんな視線を寄越される僕の胸中は穏やかじゃない。それこそ酷い勘違いだからだ。
 僕は嫌な汗を滝のように流しながら、どうにかこの騒ぎを落ち着かせようと思慮を巡らせる。

66 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 07:00:42 ID:QWaUXxPw0

ξ゚⊿゚)ξ「あたしになんの文句があるわけ?」

ζ(゚ー゚*ζ「文句? あるよ? そもそもあなたと内藤くんに接点なんてなかったじゃない。なのに何で仲睦まじげにしてるの?」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ? 別に単なるクラスメートだし今さっき初めてまともに会話したんだけど?」

ζ(゚ー゚*ζ「そっか、それだけでも極刑ものだけど内藤くんが困ってるから今日は見逃してあげる。だからもう帰っていいよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「だから帰る途中だっつーの……ほれ、行くわよ内藤」

( ^ω^)「へっ」

 初めて津々矢に名を呼ばれた僕はその事実に少々驚く。
 だがそれ以上の驚愕もあり、何と彼女は当然のように僕の手を取った。
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「何驚いてんの? あんたが帰れっつったんじゃない。まさかあれだけ説教しといて送る素振りもないとか?」

(; ^ω^)「い、いやいや、あのね、津々矢さ――」

ξ゚⊿゚)ξ「ツン」

(; ^ω^)「……はい?」

ξ゚⊿゚)ξ「ツンでいい。“ちゃん”とか“さん”もいらないから」

(; ^ω^)「え、あ、はい」

……どうしよう。名前で呼べと言われたことは本当にびっくりだし、まさか途中まで送る羽目になるとは思わなかった。
 けど本当にどうしよう。だって……。

(; ^ω^)(デレさんが殺意剥き出しの般若のような形相してるぅううううう!)

 オーラ、と呼ばれるものが実在しているならば間違いなくデレさんは全身に纏っているだろう。
 津々矢――ツンを睨みつけ、今、ゆっくりとその手を彼女へと伸ばすのだが……。

ξ゚⊿゚)ξ「なに?」

 そんなデレさんの手を掴んだのはツンで、両者は真正面から見合う。

67 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 07:01:02 ID:QWaUXxPw0

ζ(゚ー *ζ「ふ、ふふふ……ふふふふふ。ねぇねぇあなた、何してるの? 何ランデブーしようとしてるの?
       内藤くんの手を勝手に取って連れ出そうとしただけには飽き足らず送れ?
       送れですってこの淫売……たかだか一日足らず会話した相手に近くまで送れとか頭パーなの?
       そもそも私の内藤くんに気安く触れて話しかけて呼称まで命令してふざけてるの? 殺されたいの?」

ξ#゚⊿゚)ξ「はぁ? なんであんたにそんな風に言われなきゃならないわけ? 口にした以上責任を持てって言ってるだけなんだけど?
       そもそも帰宅しようとするあたしを邪魔してるのはあんたでしょうが。いいからどきなさいよ、いい加減にしないと……怒るわよ」

 あ、これ完全に殺戮の未来が待ち構えてるパターンだ。こうなったら逃げるが勝ちだろうか。

 だが……このまま放置して騒ぎは解決するのだろうか。
 て言うか何でこんな騒ぎになったんだ。そもそも僕のこれは巻き込まれているだけじゃないのか。

 第一、いくら好意を寄せているとは言え、デレさんの行動はやっぱり度が過ぎているんじゃないのか。

( ^ω^)(……そうだお。何で僕はこうも後手になってんだお)

 どう考えてもこの状況に一番の不服を抱き訴えることが出来るのは僕だろう。
 だって可笑しいもの、何もかも。
 元はと言えばデレさんに追っかけまわされたのが始まりで、彼女から解放されたと思ったらツンを発見して、彼女に帰宅を促し己も帰宅をしようとしてこんなことになっている。
 そこまで考えてようやっと僕は自覚をした。ああ、この騒ぎを鎮めるのは己の責任でもあり、己がやりたかったことなのだ、と。

 それはつまり……制裁だ。

( ^ω^)「二人とも」

 果たしてツンに非があるかと問われたら否だろう。
 ならばやはりデレさんこそが罰を与えるべき相手だが、僕は睨み合う二人の間に割って入る。

ζ(゙д゙;ζ「な、内藤きゅん!? かかかか、顔がちかいよぅ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「あぁ? 何よ内藤。ちょっとどきなさいよ」

 まったくもって反応の異なる二人だが僕は構わず二人に言葉を向けた。

68 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 07:01:31 ID:QWaUXxPw0

( ^ω^)「デレさん、僕一人に色々するならまだしも、ツンに対して殺意を向けたり怒りを向けるのはお門違いだお。
      そもそもデレさんが発端だお? そこをまず自覚してる?」

ζ(゙д゙;ζ「えっ、あっ、そのっ」

( ^ω^)「してないおね、分かってる。けどお、こんな風に周囲に迷惑かけて注目までされて僕はとても嫌な気分だし、
      何よりデレさんまで変な目で見られるのはもっと嫌だお」

ζ(゙∀゙;ζ「ふ、不意のプロポーズぅううううう!?
       こここ、これはもうお嫁さんになって赤ちゃん生んで老後も穏やかに過ごし死んだ後も永劫共に生きようって言うあれなのぉ!?」

( ^ω^)「いや全然違うよ? 兎も角……デレさん!」

ζ(゙д゙;ζ「ひゃいっ!」

( ^ω^)「君は怒る立場にはないの! 分かった!?」

ζ(゙∀゙*ζ「わかりまひひゃぁっ!」

 確実に理解していないだろうけどそこは突っ込まない。
 蕩けた表情をするデレさんに続き、今度はツンへと迫った。

( ^ω^)「ツン。確かに理不尽なままにデレさんに喧嘩を売られたのは腹が立つかもしれない。けど駄目だお、安易に売ったり買ったりしちゃ」

ξ#゚⊿゚)ξ「は、はぁ? 別にあんたに説教される謂れなんて――」

( ^ω^)「あるお。だって名前で呼び合うってことは親しい間柄にあることを言うんだからお。
      僕はそうであるならちゃんと意見を口にするし……注意もする」

ξ#゚⊿゚)ξ「なっ……何様のつもりよっ」

( ^ω^)「先も言った通り僕のエゴでしかないお。けど他者に迷惑をかける行為はどうあっても悪だお。
      なまじ、好奇の目に晒されたことが僕は気に入らないお」

69 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 07:01:53 ID:QWaUXxPw0

ξ#゚⊿゚)ξ「……はん、何よ。結局は自分のことを――」

( ^ω^)「君達のことだお」

ξ゚⊿゚)ξ「……え?」

( ^ω^)「君達は只でさえ美人さんなのに、だのに二人ともそう言った性格だろうお? 別に僕はそれでいいと思うお。
      けど好奇の眼差しで二人が見られるのは気に入らないし、それはとても勿体無いことだお」

 見てくれに騙される人って言うのは多いと思う。
 何度も言ったようにツンは素行さえよければ完全完璧な美少女と呼べる。デレさんだって言わずもがな美少女だ。
 二人とも難のある性格だけれど、それが原因で周囲から妙な視線を寄越されたり、何と言うか……嘲笑のようなものまで向けられると、他人事だとしても気に入らない。

 だってそうだろう。
 何せこの二人は我が校のマドンナとヒロインだ。
 僕だってデレさんには憧れの念を抱いていたし、ツンを無意識のうちに視線で追っていたことを自覚した。
 そんな彼女達が奇妙に思われるのは糞喰らえだ。

( ^ω^)「……デレさん、一人で帰れそうかお?」

ζ(゙∀゙*ζ「だいじょうぶれふぅっ……」

( ^ω^)「お、分かったお。ツン、君の家は?」

ξ゚⊿゚)ξ「……私、電車通だし」

( ^ω^)「となると直ぐそこの駅かお。送るお」

ξ;゚⊿゚)ξ、「い、いいわよ、別にっ……」

 どことなく赤い顔をするツンは照れ臭いのか何なのか、先まで送れと言っていた割に己で誘いを断った。

ξ;-⊿゚)ξ「本当、何なの今日は……散々なんですけど」

 背を向けたツンは不機嫌そうに言葉を漏らす。
 そう思うのも無理はないだろうな、と頬を掻いた僕だったが――

70 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 07:02:13 ID:QWaUXxPw0

ξ゚⊿゚)ξ「……内藤」

( ^ω^)「え? 何だお?」

ξ゚⊿゚)ξ「初めてよ、あたしを叱った人って」

( ^ω^)「え……?」

ξ-⊿-)ξ「……何でもない。さよなら」

 何だか妙に気になるような台詞を残して彼女は駆けだした。
 小さな背丈の少女は景色に溶け込み、僕は彼女の捨て台詞を反芻する。

( ^ω^)(……初めて、か)

 叱られたことがないだなんて普通は有り得ない。
 けど彼女のああいった性格は、やっぱり周囲の接し方が関係する筈だ。

ζ(゚ー゚*ζ「……ほらね。やっぱりそう」

( ^ω^)「デレさん……?」

 それまで蕩けていたはずのデレさんが唐突にそんな言葉を零す。
 何を指して言っているのかが分からず、僕は彼女の名を呼んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「やっぱり自覚ないんだねぇ。内藤くんはね、凄く優しいんだよ?」

( ^ω^)「……? いや、別に普通だと思うんだけどお……」

ζ(^ー^*ζ「ふふふ……まぁ、そう言う無自覚なところも素敵だよ、内藤きゅんっ」

 無自覚……何がだ、と思う。
 兎角、僕は再度襲い掛かろうとしてきたデレさんを適当にいなしつつ、騒ぎの収束に安堵のため息を大きく吐いた。

71 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/19(木) 07:02:43 ID:QWaUXxPw0
本日はここまで。
感想等ありがとうございます、嬉しいです。
それではおじゃんでございました。

72名無しさん:2019/09/19(木) 12:59:16 ID:XE1jUTr60


73名無しさん:2019/09/19(木) 20:25:19 ID:jUvt/basO

ブーンは大人だな

74名無しさん:2019/09/20(金) 03:43:49 ID:M/2DKGbc0
おつ
ぶーん呪詛

75名無しさん:2019/09/20(金) 23:52:25 ID:X7BwYLJA0

ブーンのデレへの対応が楽しみ

76 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:37:51 ID:CTw9IfU.0

 昨日の騒動から明けた日の朝、目覚めてすぐに僕の視界に予期せぬものが映りこんだ。

ζ( ー *ζ「ぬふっ、ぬふふふぅ……」

 それは物体だった。おまけに動く上に呻きまであげる。
 その声に僕は聞き覚えがあったし、身体の上に覆い被さる重量と肉感にも覚えがあった。

 押し付けられる肉感の正体は豊満な胸である。
 成程、この至宝とも呼ぶべき感触は誠、桃源郷へと誘う苞であるや否や……なんて悟りの境地に達する勢いだけれども、僕の意識は次第に覚醒を果たした。
 ぼやけるピントが修正され、僕を見下ろしている誰かを認識する。
 まあ誰かと言っても想像がつく、と言うか察しがつく。

( ^ω^)「……何やってんだお、デレさん」

ζ(゙ヮ゙*ζ「あはぁ、おはよう内藤きゅん! 寝顔も超プリティーだけど寝起きのお顔も超きゃわたんだよぅ!」

 そうです。ここのところ僕を散々悩ませまくっている我が校の誇るマドンナ、デレさんでした。

(; ^ω^)「な――なななな、何で僕の家にいるんだおぉ!?」

ζ(゚ー゚*ζ「何でって、おはようからおやすみまで内藤くんの生活を見守るのがこの出流デレの役目だからだよぅ!」

(; ^ω^)「初めて聞いたおそんな話!」

 そこらへんに落ちている衣服をかき集め、身を護るようにそれらで我が身を包み込む。
 対するデレさんは先まで僕が寝入っていた布団に頭から突っ込み、何故か深呼吸を続けている。

77 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:38:13 ID:CTw9IfU.0

ζ(゙∀゙*ζ「はふぅ、朝から内藤きゅんの超濃厚スメルを堪能できるだなんて……なんて贅沢なんだろう!
       もふもふもふもふ! お布団もふもふ! 内藤くんの沈んでいたお布団もふぺろ!」

( ^ω^)「ぺろぺろは止めてください本当勘弁してください」

ζ(゚ぺ*ζ「ぶーっ。いけず!」

( ^ω^)「クンカクンカともふもふは許しますから唾液は勘弁してください、お願いします」

ζ(゙∀゙*ζ「もう、しょうがないなぁ内藤きゅんは……じゃあ存分にもふってクンカクンカしちゃうもんねー!」

 何で僕が遜っているのかはさておき、取り敢えず僕は自分の身体を確かめる。
 寝間着に乱れはないし身体に違和感はない。一先ず襲われてはいないことに安堵した僕だが、けれども入れ違うように今度は焦燥感が我が身を襲う。

 だってですよ、目覚めたらなんかしらないけど他人の家の子がいるんですよ。それって既に事件でしょう奥さん。

(; ^ω^)「ちょ、ちょっとデレさん……色々と聞きたいことがあるんだけどお……」

ζ(゙д゙*ζ「クンカクンカもふもふ、はぁはぁっ……ん? 何かな内藤きゅん?」

(; ^ω^)「あの、どうやって僕の部屋に入ってきたんだお? て言うか何で僕の家を知ってんの?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ? そんなの簡単だよぅ、ほら昨日のあれ……発信機でね、位置を把握しましたぁ!」

……ああ、忘れていた。
 この美少女は何ともない調子で言うけれど、彼女は僕に発信機を装着し、僕の現在位置をリアルタイムで知ることが出来てしまう。
 それって完全に犯罪じゃんよ、と言っても彼女のことだ、問題を理解しないと思うので突っ込むのは止めておく。

78 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:38:40 ID:CTw9IfU.0

ζ(゙∀゙*ζ「突っ込むの!?」

(; ^ω^)「何でそこに喰いつくかなぁ……て言うか、発信機まだ僕につけてたのかお!?」

ζ(゚ー゚*ζ「あったよー? 鞄の他にも制服でしょー? 靴でしょー? それから筆箱の中にも忍ばせてー、それとねー」

(; ^ω^)「多すぎぃ!」

 一つで十分だろうにどれだけ用意周到、と言うか徹底しているのだろうか。

 しかし恐れていた事態がいよいよ現実になってしまった。
 彼女に自宅がバレてしまった、と言うことは安全地帯だった我が家ですらも危機の迫る場所になったと言う訳だ。

 昨日、改めてデレさんの異常性と言うのが明らかになった。
 デレさんは所謂、そっちの人だ。普通の感性とは違い、独特の……それも、少し変わった人種に程近い性格をしている。
 そんな彼女の行動と言うのは今後エスカレートしていきそうで、それを想像するだけでも震えが走る。

ζ(゙д゙*ζ「ふむむむぅ、このお布団持って帰っていい、内藤くぅん……?」

(; ^ω^)「ダメに決まってるでしょう……」
    、_
ζ(゙д゙*ζ「えー」

(; ^ω^)「えー、じゃないお」

 けれど、これも人徳なのか何なのか、デレさんが不法侵入をしようが人の布団を占拠しようが、何故か許せてしまうと言うか、寛大な気持ちになってしまえる。
 それはきっと僕だけではない。周囲の、それこそ学校で生活する他の生徒達もそうだろう。

 その理由はやっぱり彼女の美貌と纏う空気感だろう。
 おまけに普段の生活態度は品行方正のままで、今まで彼女が築いてきた信用信頼、他に実績と言うものは覆しようがない訳で。
 結果的に、彼女の異常行動は許されるのが往々だ。

79 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:39:01 ID:CTw9IfU.0

(; ^ω^)「とは言え僕は頷かないけどお!」

ζ(>д<*ζ「あぅっ!」

 ぺい、と。僕の布団にくるまり簀巻き状態になっているデレさんから布団を引きはがす。
 名残惜しそうに僕の布団を見つめるデレさんだが、流れに身を任せたら僕の都合は全て御破算だ。

(; ^ω^)「ああもう、朝からとんだ大騒ぎだお、まったく……」

ζ(゚ぺ*ζ「そんなこと言わないでよ内藤くぅん! こうして朝起こしてあげたでしょう? 役に立ったでしょう?」

(; ^ω^)「そう言うのは目覚まし時計で十分だお……」

ζ(゚д゚*ζ「でも役に立ったでしょ!?」

(; ^ω^)「そこ主張するんだね?」

dζ(゚д゚*ζb「寝坊助な旦那さまを起こすのは良妻の役目ですから!」

(; ^ω^)「いつそんな関係になったんだお……そもそも起こす気なかっただろうお?」

ζ(゚ー゚;ζ「え、えぇ? いやいや、起こす気満々でしたよぉ?」

(; ^ω^)「なら何で鼻息荒く僕を見てたんだお、ちゃんと聞こえてたお、変な吐息と声」

ζ(゚∀゚;ζ「えっ、き、聞こえてた!?」

(; ^ω^)「圧し掛かられて息苦しかったし、そりゃ起きるお……」

 まあ、朝からデレさんのナイスバディーを堪能できたのは……内心、役得だと思ったりなんだったり。
 とは言えそれよりも不法侵入と言う事実があるので、邪な考えを抱く以前として、やっぱり恐怖を抱いたりもするのだ。

80 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:39:22 ID:CTw9IfU.0

( ^ω^)「……ん?」

 そんなことを考えて僕は思う。
 よくよく考えればこの状況は……可笑しくないか。

(; ^ω^)「え、と……デレさん?」

ζ(゚ー゚*ζ「なぁに、内藤くん?」

(; ^ω^)「家の中に、どうやって入ったのかな……?」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなの決まってるよ! お義母さまに入れて頂いたんだよ!」

 予想的中の言葉を聞くと僕は部屋を飛び出してリビングへと向かう。
 階段を駆け下り、途中で躓きそうになりつつも、僕はリビングへと侵入し彼女を招き入れた問題の人を大きな声で呼んだ。

(; ^ω^)「母上ぇ!? いや母さん!? ちょっと何してんのマジで!?」

从 ゚∀从「あん? なんだぁ愚息め、ようやっとお目覚めか?」

 食卓に料理を並べていたのは我が母だった。
 いつ見ても変わらないその若々しさはさておき、そして乱暴な口調もさておき、母と言えば僕を見るなり何故か含んだ笑みを浮かべやがり。

(; ^ω^)「お目覚めか、じゃないお! 何してくれてんだお!」

从 ゚∀从「何ってなんだ? つーかお前よぉ、ブーン……いつのまに彼女なんざこさえたんだよ。しかも超ベッピンさんじゃねぇか!」

(; ^ω^)「違うから! そんなんじゃないから! むしろストーキングされまくってるから!」

从 ゚∀从「何言ってんのかよく分からんけど、お前も罪な奴っつーかよ、もう少し優しくしろよ?
      来るなら来るってアタシに伝えとけよなぁ、あの子外でずっと待ってたんだぜ?」

81 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:39:44 ID:CTw9IfU.0

(; ^ω^)「え……?」

 と、告げられた情報に僕は挙動を失う。

从 ゚∀从「新聞を取りに外でたらあの子がいたんだよ。何してんだって訊いたらお前を待ってるだとかでよ。
      流石に外で待たす訳にもいかないし、ついでだからお前を起こしてもらったんだよ」

(; ^ω^)「それってご飯作り始める前からってこと……?」

从 ゚∀从「んだな。六時にはもう外で待ってたみたいだな」

 それは予想外にも程がある情報だった。

ζ(゚ヮ゚*ζ「あ、お義母さま! 内藤くんを起こしてきましたよ!」

从*゚∀从「おぉ、デレちゃん! ありがとうね、こいつ本当朝はダメでさぁ。いやぁ、お前もいい彼女つくったねぇ」

( ^ω^)「既に名前で呼び合う仲、だと……?」

 女子同士――女子に母が含まれるか否かは別として――気が合いさえすれば仲良くなるのも早いそうで、その光景にたじろぐ僕。
 この状況を受け入れろと言うのですか。既に外堀が埋められつつあるのですが、これどうなってるんでしょうね。

从 ゚∀从「まあ何にせよ朝ごはんにするかいね、二人とも。聞けよブーン、今朝はデレちゃんも手伝ってくれたんだぜぇ?」

( ^ω^)「えっ。何それ嫌な予感しかしないんだけど」

从;゚∀从「お前失礼な奴だねぇ……見なよこの豪華な献立を」

 失礼だと言われても身構えるさ。何せ先日、デレさんから手作りのお弁当を重箱で寄越された僕だけれども、内容と言えば妙な物が多く。
 例えば髪の毛のような物が入っていたりしたし、爪らしき物が入っていたりもしたし、他にも妙に鉄臭い物もあったし。
 そう言う前例があるからとてもじゃないが平然とすることは出来ない。

82 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:40:05 ID:CTw9IfU.0

 が、しかし……僕は食卓に並ぶ料理の数々を見て言葉を失った。
 何せそこにあるのはどれもこれも普通だったからだ。

 今朝の献立はホットサンドにサラダ、ターンオーバーにウィンナー、他にコーンスープだ。
 何だか予想以上にモーニングしている景色に僕は反応を取ることが出来なかった。

从 ゚∀从「デレちゃん、朝は和食派なんだろう?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですねぇ、でも洋食も好きですよ! 内藤家の朝は洋食なんですよね?」

从 ゚∀从「んだんだ。おいブーン、このサラダとターンオーバはデレちゃん作だぜ、お前の好みを聞いて作ってくれたんだ、感謝しろよ?」

( ^ω^)「お……あ、うん……」

 拍子抜け、と言う訳じゃないけど安全過ぎる食事の数々。
 更には僕の好みを聞いて自身の手で作ったと言う事実を聞くと、なんだか胸の中がくすぐったくなる。

 何だよ、普通のご飯も作れるんじゃないか、と僕は照れくささを誤魔化すように呟きつつ、母とデレさんに促されて食事の席へと腰かける。
 の、だが……。

とζ(^ヮ^*ζ「はい、あーん!」

 ホットサンドを手に取ろうとしたらそれが皿の上から消え去った。
 あれ、何処に消えたのだろう、と思っていると……僕の口元に寄せられるアツアツのホットサンド。それと同時に聞こえてきた甘いソプラノ。
 氷解した僕はげんなりした顔付きのままに、当然のように隣に腰かけた美少女を見つめた。

83 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:40:30 ID:CTw9IfU.0

( ^ω^)「えぇと、いやいや……自分で食べるから、ね? だからほら、返して……」

とζ(^ヮ^*ζ「あーん!」

( ^ω^)「いや、だから……」

とζ(゚д゚*ζ「あぁああああん!!」

( ^ω^)「……ははっ」

 涙目になるデレさんから視線を逸らすと今度は向かいにいる母と目が合う。
 僕は助けを乞うが……母と言えば強く僕を睨み付け、いいから食ってやれ、と無言のままに促すのだ。
 いよいよこうなると僕に逃げ場はなかったし、素直に言ってお腹もすいていた。
 なので、ここは仕方なしと諦めて、僕は観念すると口を小さく開ける。

ζ(^ヮ^*ζ「はーい、召し上がれ!」


 モグモグ      ウフフ

((( ^ω^))) ζ(^ー^*ζ



( ^ω^)「んぐんむっ……」

……正直、滅茶苦茶恥ずかしい。これではママゴトだ。
 口元に寄せられたホットサンドを齧る。内包されたトマトやチーズ、他にチキンやらの風味が口腔に広がり、テクスチャを確かめながら僕は必死で味覚に集中しようとする。
 美味しい、と思う。母のご飯は美味しい。このホットサンドは僕のお気に入りで、朝の活力はこれにより賄われる。
 が、しかし……口内に広がる味わいと言えば雲を噛みしめるようなもので、つまり、簡単に言えば味がしなかった。

84 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:40:52 ID:CTw9IfU.0

(; ^ω^)(き、緊張してんのかお、僕は……)

 そりゃするさ。だって隣に腰かけるのは絶世の美少女なんだもの。しかも幸せそうに笑い、僕が咀嚼する姿をじっと見つめてくるのだ。
 何か面白いのか、と問いたくもなるが言葉を発する余裕もない。
 ああそうさ、ここはパライゾで僕は天使に触れているのだ。見たままにデレさんは佳人で、そんな佳人に施しを受ければ誰だってこうなる。

从 -∀从「いやぁ、こりゃ孫を早く拝めそうだねぇ……」

(; ^ω^)「ぶふぅう!?」

 そんな光景をにたにたと見つめていた母はそんなことを言う。
 堪らず――否、溜まらずに噴き出した僕は少しばかり咽る。
 慌ててデレさんが飲み物を僕に手渡し、僕はオレンジジュースを一気に飲み干すと母を睨んだ。

(; ^ω^)「ねぇ、母さんや……言っとくけどお、僕とデレさんはそういう関係じゃないんだお!」

从 ゚∀从「は? いやいや、んな訳ねーだろどう考えても」

(; ^ω^)「本当なんだって!」

 そこまで強く言い切ると、隣にいるデレさんが俯いて悲しそうな顔をする。
 彼女の様子を見た母は少々驚いた顔をした。

从;゚∀从「……え、マジで? 違うの?」

(; ^ω^)「そうだお、まったく……そもそも僕なんかじゃデレさんに見合わないだろうお」

从;゚∀从「けど、こんだけお前に尽くしてるし……デレちゃんだってお前のこと大好きだって言ってたぞ?」

ζ(゚ー゚*ζ「超愛してます! 私も寵愛されたいです!」

( ^ω^)「上手いこと言えてるようで言えてないからね?」

 事実を知った母は面食らったようで、けれどもデレさんの気持ちを聞くと腕を組む。

85 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:41:12 ID:CTw9IfU.0

从 ゚∀从「ふぅむ……つまりあれかい、ブーンや。お前、こんだけ愛されてるのに応える度胸がないってことかい?」

(; ^ω^)「いやいやそう言うことじゃないお! 母さんは知らないだろうけどね、デレさんは色々と問題が――」

ζ(-、-*ζ「いえ、いいんですお義母さま……これは私が頑張らなきゃいけないことなんです……」

从 ゚∀从「デレちゃん……」

( ^ω^)「え、あれ僕の話は?」

ζ(゚д゚*ζ「今はこうして尽くすくらいしか出来ないのかもしれません……けど、いつか絶対に内藤くんを振り向かせてみせますから!」

从*゚∀从「よく言ったデレちゃん! アタシゃあんたが気に入ったよ! よっしゃ頑張んな! この朴念仁の阿呆小僧をメロメロにしてやるのさぁ!」

( ^ω^)「うわぁ、外堀が埋まる瞬間を垣間見たぞぉ」

 デレさんがこれまでに仕出かしてきた事実を幾つか語ろうと思った矢先、二人の間には男子では立ち入れぬ程の強く硬い絆が生まれた様子で。

从 ゚∀从「ちなみにブーンのどこに惚れたんだ?」

ζ(゚ー゚;ζ「え? あ、そ、それはぁ、そのぉ……」

从 ゚∀从「いいじゃんいいじゃん、恥ずかしがらず教えてちょうだいな。母としても気になるのよさ」

ζ(゙д゙*ζ「あのぅ、第一に、やっぱり優しいところがぁ……」

(; ^ω^)「せめて僕のいないところでやってくれませんかねぇ!?」

 女性はコイバナとか言うのが大好きらしい。
 当人を目の前によく盛り上がることが出来るな、と呆れるけど……これが結構、恥ずかしかったりもして。
 二人が面白そうに笑うのを他所に、僕は不機嫌なままに朝食をかっこんだ。

86 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:41:37 ID:CTw9IfU.0



 デレさんと関わってからの日々は正に目まぐるしい具合で、たった数日の間に僕は彼女の扱いをある程度マスターしていた。

ζ(^ヮ^*ζ「わーい、内藤くんと登校だよ! ねぇねぇ! まるでカップルみたいだね内藤くん!
       とは言えいずれカップルになるし結婚までするけどね! ね!」

( ^ω^)「ははっ……」

 登校の支度が整えば、玄関で嬉々とした顔で待ち構えている美少女がいた。
 そもそもとして我が家に押しかけてそのまま帰る訳もなく、本日は通常通りに登校日なので、やっぱり一緒に学校へと向かうことになった。

 そんな佳人の隣を歩く僕の内心は逃げ出したい一心だった。いやだって皆に殺意向けられるんですもの。
 そもそもこの状況は不可抗力な訳で、僕の意思なんて微塵も介在しておらんのですよ。そこのところ皆に分かっていただきたい。

とζ(゚ヮ゚*ζ「ん!」

( ^ω^)「え、何?」

とζ(゚ヮ゚*ζ「手!」

( ^ω^)「いやいや……」

 落ち着かない気持ちのままだった僕だが、唐突にデレさんが僕に手を差し出した。
 それが何を意味するのか理解出来ず首をかしげると、デレさんは手を繋ごう、とお誘いくださった。

ζ(゚д゚*ζ「繋ごうよー! ね! 指先だけ! 指先だけだから!」

( ^ω^)「何か卑猥だよぉ」

ζ(゚∀゚;ζ「大丈夫! 食べないし舐めないから! ね!? 安全安心だよ!?
       ほらほら私の手はふわふわほわほわだよー? 素敵な手だよー?」

( ^ω^)「やっぱり卑猥だよぉ」

 朝っぱらからハイテンションなデレさん。
 この人の電池切れっていつなんだろう。

87 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:41:58 ID:CTw9IfU.0

ζ(゙д゙*ζ「もう、内藤きゅんは恥ずかしがり屋さんだなぁ……でもそんな内藤きゅんもきゃわたんだよ!
       けどそんな態度がまるで誘ってるようにも見えるんだよねぇ。誘い受けってやつなんでしょ?
       私をその気にさせて朝から人目も憚らず往来であんなことやこんなことをして欲しいと思ってるんでしょ?
       今もぼうっとしてるのは脳内で私をどう滅茶苦茶にするのか考えてるからだよね?
       首輪を繋いで地面に四つん這いにさせて衣服ひん剥いて私を犬と見立ててお散歩したいんだよね?
       それですれ違う主婦の方々に自慢するんだよね? ほら、電柱だぞ、マーキングしろよって無理矢理リード引っ張って
       私の両脚に腕をかけて力づくで開脚させてあられもない姿を往来の場で晒して恥辱に塗れる私を悦として見下ろし剥
       き出しになってる私のお尻を叩いて悪い子だもっと躾が必」

( ^ω^)「朝からどうしろっていうのさぁ」

 今日も彼女は絶好調らしいが、桃色な妄想に浸る彼女を無視して僕は先を歩く。

ζ(゚д゚;ζ「ああっ、もう内藤くんったら私を置いていこうとして! いやでもごめんなさい、私がご主人様のお言いつけを守らないから悪いんだよね……!」

( ^ω^)「誰がご主人様だお……」

ζ(゙∀゙*ζ「なんなりとご命令を! なんだったら、い、今すぐにでもここであなた様の情欲の捌け口にだって……じゅるりっ!」

( ^ω^)「おまわりさーん、痴女ですよおまわりさーん。仕事して公務員ー」

 危なっかしい息遣いをするデレさんは最早襲い掛かる寸前だけれども、何やかんや会話をしながら歩いていると、気付けば学校最寄りの駅に辿り着いた。

( ^ω^)(駅か。そう言えばツンって普段どこから通ってるんだお?)

 思い浮かぶのは昨日偶然出会った美少女、津々矢ツンだ。
 昨日は彼女を巻き込む羽目になってしまい、内心では申し訳なく思ったりもする。
 更にはお節介が過ぎた。自身の行動や言動を振り返れば……いやもう、穴があったら入りたいくらいで。

88 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:42:21 ID:CTw9IfU.0

ζ(゙д゙*ζ「使う!?」

( ^ω^)「何言っちゃってんの?」

ζ(゙∀゙*ζ「朝からお盛んなんだからぁ……んもう、内藤くんのえっち!」

( ^ω^)「おまわりさーん、いや本当おまわりさーん、いないのねー」

 さておき……ヒロインではあるが不良としても有名なツン。学校をサボることも多々ある。
 果たして本日は来るのだろうか――

ξ゚⊿゚)ξ「おはよう、内藤」

( ^ω^)「え……」

 ふわり、と風が踊り、それに乗って甘い香りがやってきた。
 更には可愛らしいソプラノが中耳に突き刺さり、僕はその香りと声の主に直ぐ様察しがつくと顔を跳ね上げる。

 そこには背丈の低い美少女が……件の津々矢ツンが立っていた。
 本日も変わらず超ミニのスカートに前の開いたブラウス姿だ。ツインテールの金髪は朝日を受けて眩い程に輝く。

ξ゚⊿゚)ξ「何よその反応は。朝からボケてんの?」

(; ^ω^)「あ、いや、その」

 歯切れ悪く僕は言葉を紡ぐ。対してツンは小さな足取りで僕の眼前までやってくると、そのあどけない表情で僕の顔を覗き込んでくる。

 大きな瞳に長い睫毛。小さな唇に通った鼻筋。
 正に天使じゃないか、なんて思ってしまうくらいに彼女は可憐だった。流石はヒロインと謳われるだけはある。

 兎角、僕は咳払いをすると迫ってきたツンに挨拶を返そうとする……のだが。

89 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:42:43 ID:CTw9IfU.0

ζ(゚ー゚*ζ「あれぇ、何かなぁ。まーた邪魔な野良猫のご登場かな……?」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「あぁ……?」

 ずい、と僕とツンの間に入ってきたのはデレさんだった。
 彼女と言えば暗黒の笑みを湛え、更には全身からどす黒いオーラを解き放ち、ツンを威圧するように見下ろす。
 だが対するツンも先までのあどけない顔付きから一変、眉間に皺を寄せるとデレさんを睨み付け、不機嫌な態度を隠しもせずに接近する。

ζ(゚ー゚*ζ「それで威嚇してるつもり? 子供みたいな背丈に顔付きで頑張ったって無意味だよ? て言うか何してるの?
       不良のあなたがこんな朝から真面目に登校するだなんて何のジョーク?」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたこそ朝っぱらからなに上等こいてる訳? つーか喧嘩売るんならもう少し潔く出来ない?
      一々人の見た目を馬鹿にしたりさ、あんた碌な性格してないわね」

ζ(゚ー゚*ζ「馬鹿にしてないよ? 事実を見たままに口にしただけなのになんでそんな過剰に反応しちゃうの?
       あ、もしかしてコンプレックスだったのかな? それならごめんねぇ? 何だか知らないうちに傷つけちゃったみたぁい」

ξ゚⊿゚)ξ「はっ、無駄に育ったそのデカチチと阿呆みたいな態度を見りゃ怒る気もしないし哀れみすら抱く勢いだっつの。
      あーあー朝から喧しい牛と出会ったものだわ。ほら、モーモー鳴けば? そんで乳でも垂れ流してなさいよ、牛女」

……あの、これ逃げていいですかね。

ζ(゚ー *ζ「ふ、ふふふ……なんて失礼な子なんだろうね、あなたは……少しお仕置きが必要かなぁ……?」

ξ-⊿゚)ξ「ふん、かかってくれば? それとも小学生じみた見た目の女に負けるのが怖いの、牛ぃ?」

ζ(゚ー゚*ζ「は?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ?」

 睨み合う両者。
 互い、同じ動作同じ拍子で通学鞄へと手を突っ込みました。

90 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:43:15 ID:CTw9IfU.0

ζ(゚- *ζ「吐いた唾は飲めないよ、津々矢さん……昨日から内藤くんの周囲でうろちょろと……邪魔だよ……?」

ξ# ⊿゚)ξ「何が邪魔だのどうだのと……あんたこそ目障りなのよ、牛……少し痛い目見る……?」

(; ^ω^)「ちょあー! やめて朝からやめてくれお! デレさんその短刀しまって!
      ツンも何で特殊警棒なんて持ってんだお!? 近頃の女子高生の間では武器を携帯するのが流行ってるの!?」

ξ# ⊿゚)ξ「「乙女の嗜みですから!」」ζ(゚д *ζ

(; ^ω^)「そうなの!?」

ξ# ⊿゚)ξ「「そうなの!」」ζ(゚д *ζ

 最近の女の子ってすごいんだな、と思いつつもこの状況を見過ごせる訳もなく、得物を引き抜いた二人の間に割って入った僕は全力で二人を宥める。

(; ^ω^)「喧嘩はやめてくれお! ね!?」

ζ(゚д *ζ「どいて内藤きゅん! その子殺せない!」

ξ# ⊿゚)ξ「ちょっと邪魔よ内藤! 躾が出来ないじゃない!」

(; ^ω^)「馬鹿なことしてないで落ち着いてくれお!」

 殺意漲る乙女二人。これが朝の景色だって言うから泣けてくる。
 既に僕のライフはゼロに等しいくらいで、出来るならこのまま家に引き返して暖かな布団に包まれて眠りたい。

(; ^ω^)「て言うか何考えてんだお!? こんな人目のある場所で凶器に手を掛けるとか馬鹿なの!?
      いやそんなの所持してること自体が可笑しいんだけどお!? でも常識で考えて頂けませんかお!?」

ζ(゚д゚;ζ「で、でもでもぉ!」

(; ^ω^)「だまらっしゃいデレさん! 僕は怒ってんだお! もうその刃物没収です!」

ζ(゙д゙;ζ「あぁん、そんなぁ!」

91 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:43:50 ID:CTw9IfU.0

(; ^ω^)「それからツンも! 喧嘩売られたからって買っちゃいけないお! 寄越しなさいその特殊警棒を!」

ξ#゚⊿゚)ξ「あたしは別に悪くないし!」

(; ^ω^)「悪いったら悪いお! そもそもお、そんな危なっかしいものを持って喧嘩すること自体可笑しいから!
      それ殺し合いだから! 怪我でもしたらどうすんだお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、なによぅ……!」

 無理矢理に二人の手元から凶器を奪い僕の鞄の中へと突っ込む。そうして二人の手を取り、僕は直ぐ様その場から離れるのだ。
 いや、普通に考えて欲しい。朝っぱらから人目のある場で刃物を抜いたとあっちゃ、そりゃもう事件だ。
 しかも多くの人々がその景色を見ていた訳で、そうなれば先まで登場を待ち遠しくしていたおまわりさんがご登場なされる訳で、当然後のことは穏やかではなくなる。
 ので、僕は脱兎の勢いで二人の手を取り駆け出した。

(; ^ω^)「はぁ、はぁ……これだけ離れたら大丈夫かお……?」

 ある程度走り続け、僕は乱れた息を整えつつ状況を窺う。
 場所は我が校に至る坂道の途中で、周囲では先の状況を知る由もない学校の生徒達が僕の様子を見て怪訝な顔をしていた。
 皆の反応を見つつ、これで一安心だろうか、と胸を撫で下ろす僕だったが……。

ζ(゙д゙;ζ「はふ、はふぅ……!」

ξ;-⊿゚)ξ「な、なんなのよ、もう……!」

 思い出したように僕は手に伝わる温もりに気付き、振り返ると……そこには僕と同じく息を切らす美少女が二名。
 この二人を庇う目的で駆けだした僕だが、すっかりそれを忘れていた。
 それ程無我夢中だった訳だけれども、対して二人は各々別の反応をしている。

92 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:44:17 ID:CTw9IfU.0

ζ(゙∀゙;ζ「な、ななな、内藤きゅんと手を繋いじゃった、あわわわわ……!」

ξ;゚⊿゚)ξ「い、いきなり手を掴んで走り出すとか、なんなの本当に……!」

 どうやらデレさんは息切れをしている訳ではなく、興奮しているらしい。
 瞳を輝かせ僕と繋いでいた自身の手を見つめ、歓喜のままに天へと腕を掲げていた。
 対してツンと言えば何故か顔を赤らめそっぽを向き、ぶつくさと文句を垂れている。

 何だかこれじゃ救った気がしないな、と思いつつ。
 けれども二人の態度や反応に僕は不思議と笑みを浮かべてしまった。

( ^ω^)(なんだかんだ、素の時の二人が揃うと……絶景だお)

 二人の仲がどうして悪いのかはさっぱり不明だけれども、こうしていがみ合うこともせず同じ空間に二人が立つと、そこは華やいでいるようにも見えた。
 そんな二人の傍に立っている僕は結構レアな状況に出くわしていると言える。
 が、それは他所に僕は思い出したように時計を見つめ、既にホームルームまで間近なのを把握し二人を急かした。

(; ^ω^)「こりゃまずい、逃げ惑ってたら変に遅れちゃったお! ほら、行くお二人とも!」

ζ(゙∀゙*ζ「ききききき、今日は記念日だよぉおお! あふぅ! 幸せだよぉおお!」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「うっさいわねぇこの牛は……いいからとっとと走りなさいよ!」

 本当、朝から賑やかしい限りだ。
 デレさんに愛を告げられてからと言うもの、落ち着ける時と言うか、平凡と呼べる景色が遠のいた。
 ツンが関わると、これがもう本当に化学反応でも起こす勢いで景色は騒がしくなり、尚更平穏と呼べるものが遠ざかる。

93 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:44:39 ID:CTw9IfU.0

 けれども自然と笑みが浮かぶのは何なのだろうか。
 ある種、これが青春と言う奴なのかもな、なんてくだらないことを考えつつ、僕は坂道を美少女二名と駆けていく。

( ^ω^)(……お?)

 そんな時、僕は不意に視線を複数感じる。
 それがどこから向いているのかは謎だったけれども、何となし首筋を這うようなその視線に、僕は無意識に身を震わせた。

94 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/21(土) 14:45:03 ID:CTw9IfU.0
本日はここまで、おじゃんでございました。

95名無しさん:2019/09/21(土) 15:57:26 ID:wkCHl9rQ0
おつ
ふーんもげろ

96名無しさん:2019/09/21(土) 20:48:42 ID:gbSi6fcc0

やべえのが近くにいるから霞むけどこれブーンも大概だな

97 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:48:40 ID:3SDs1zYg0

('A`)「申し開きはあるか、内藤よ……」

( ^ω^)「ありすぎて困っちゃうくらいかなぁ……」

 朝のホームルームが終われば僕は吊し上げられていました。

(#'A`)「朝から遅刻ギリギリの登校に、しかも貴様と言えば、
    貴様と言えばぁっ……出流嬢だけには飽き足らず津々矢嬢まで篭絡せしめたのか糞がぁ!」

(; ^ω^)「覚えがないどころか勘違いでしかないおそれは! て言うかお願いだからおろしてくれおドクオ!」

(#'A`)「聞かぬ! 裏切りの徒に落ちた腐れ外道の願いなど聞き入れぬわ! おい槍持ち、こやつを懲らしめい!」

(; ^ω^)「あだっ! ちょ、モップで突かないでくれお! 冗談抜きで痛いから!」

 さて、何故このような事態になったのかと言えば……。

(#'A`)「朝っぱらから佳人二名を侍らせ重役出勤だと貴様! それでも非モテ道を行くと決めた士(さぶらい)か! なんと情けない奴よ!」

(; ^ω^)「だからそんな道突き進む気ねーお!」

(#゚A゚)「だまりゃ糞が! そもそも誰を連れて歩いたかを貴様は理解しておらんのだ、
    内藤よ……あれだけ言っただろうが! 両陣営どちらにもコアなファンが大量にいると!」

(; ^ω^)「聞いてたけど吊し上げられるとか思わないし! 第一僕の意思で一緒に登校した訳じゃないし! 成り行きだお!」

(#゚A゚)「その成り行きで我が校の誇る出流嬢、そして津々矢嬢と同伴とは羨ましいにも程があるぞ糞がぁあ!」

( ^ω^)「本音それじゃねーか」

98 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:49:00 ID:3SDs1zYg0

(#'A`)「当然だ馬鹿野郎が! 大概にしろ貴様! 我等がどれだけ両者を愛し敬い見守り陰ながらに支えてきたのか知らんだろう! え!?」

( ^ω^)「いや知らねーよ」

(#'A`)「ならば聞け! お二方が歩く道に水溜りがあれば我等がそれを拭い! 
    お二方が風に吹かれたらば我等が壁と成りて風を防ぎ! お二方に忍び寄る魔の手あれば我等が暗躍し悪を滅ぼしてきた!」

( ^ω^)「ストーカーじゃねーか」

(#'A`)9m「否ぁ! そんなゲスな輩と一緒にするな! 我等は尽すこと、
      そしてお二方の日常をまっとうすることにこそ喜びを抱く者なり! だのに、だのに貴様は……!」

 俯き震えるドクオは般若のような形相で再度僕を見上げてくる。

(#'A`)「我等が抱き育んできた想いを無視して一人だけ甘露を啜りやがって! 恥はないのか!」

( ^ω^)「その言い方どう考えてもおかしいからね? 別にやましいことしてないからね?」

(#'A`)「じゃかぁしいわタコめが! そもそも何故に津々矢嬢とまで親しくなってんだ! 可笑しかろうが!」

(; ^ω^)「そ、それは……いやそれこそ成り行きって言うか……」

(#゚A゚)p「成り行きで朝の時間を共に過ごす関係になるとかふざけるなよ貴様ぁあ! もういい、もう自慢は結構だ! 
     判決を下す! 貴様は死刑! 死刑だ! 皆の者ぉ! こやつを血祭りにあげちまえー!」

(; ^ω^)「ざっけんな!?」

 掃除道具で武装した男子達がドクオの号令に従って一斉にモップを構えた。

99 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:49:23 ID:3SDs1zYg0

(#'A`)「さあ祈れ、内藤……断罪の時だ……!」

( ^ω^)「傍から見たら悪は間違いなく君達だと思うんだ、ぼかぁ」

(#'A`)「しゃぁしぃ! 幼い頃からこれまで長い付き合いだったが……裏切りとあっては見過ごせぬ! 親友としてお前の生涯に幕を引いてやろう!」

( ^ω^)「畜生なにも通じそうにない!」

m9(#'A`)9m「さあやれ! 羨ま死刑執行でゃー!」

 と、一斉にモップが突き出るところだったのだが。

ζ(^ー^*ζ「ふふ、ふふふふ。何してるの君達ぃ?」

ξ-⊿゚)ξ-3「内藤も何してんのよ、阿呆らしい……」

 こつり、と。男子達の背後に静かに立ったのはデレさんとツン。
 二人の声を耳にした男子達は即座に身を固め、更には蒼白とした顔で静かに振り返る。

 が、振り返ると同時に皆は絶望と対面するのだ。
 何せ二人の手の中には先程僕が没収したはずの短刀と特殊警棒が握られていて、しかも二人はそれを当然のように構えていた。

ζ(゚ー゚*ζ「今すぐおろしてくれる? じゃないと殺すよ?」

ξ゚⊿゚)ξノシ「つーか散開しなさいよ、鬱陶しいにも程があるから。何なら無理矢理蹴散らしてやるわよ有象無象ども」

 ツンは軽い調子で警棒を振るうが、対してデレさんの瞳には感情の色合いはなかったし、逆手に握られた短刀はどう考えても殺人を是とした者の風体だった。
 愛しの二人に迫られた皆だけれども、殺意を向けられると潔く武装解除し、更には蜘蛛の子を散らすように場からはける。
 後に残ったのは総長ドクオ閣下のみで、彼と言えばまるで寂静の音を耳にしたような、そんな悟りの境地に至ったような清々しい顔をするのだ。

100 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:49:43 ID:3SDs1zYg0

('∀`)「ふふ……こんな奇跡があっていいのか? 見ろ、内藤……ここにおわすは天女と天使よ。このお二方が肩を並べる日がくるとは、そしてそれを間近で見るとは……」

( ^ω^)「ドクオ……」

('∀`)「ああ、これぞ浄土へと召される今際なのやもしれぬ。我が友、内藤よ……吾人は幸せであったぞ……」

( ^ω^)「ドクオォ……!」

('∀`)「あ、出来ればお二方のおっぱいとちっぱいに挟まれて死にた――」

ζ(゚ー゚*ζ「はい無理ー☆」

ξ゚⊿゚)ξ「ほれ死ねー☆」


    ドラアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!


三三三 ξ#゚⊿゚)ξ┌┛)A(┗ヽζ(゚ー゚#ζ 三三三
  

           ンギモッディイイイイイイ!!!!!


 結局、デレさんもツンもドクオを拳で殴ると、這い蹲ったところに容赦なく蹴りを何度も見舞うのだった。

(;'∀`)「あふぅ! これたまらぬぅ! ほんにこれたまらぬふぅ!
     あっ、なっ、なりませぬそこは! そこは我が秘境に御座るぅうう!」

ζ(゚ー゚*ζ「お尻蹴られて悦ぶとか正真正銘の変態なのかな? 気持ち悪いなぁ、生きてて恥ずかしくないの?」

(;'∀`)「はい! 生きててしゅみましぇえん! 叱責いただき感謝の極みでしゅぅ!」

ξ゚⊿゚)ξ「マジでキモイし……何お礼言ってんの? て言うか人語介せるんだ? 偉いねあと五百発蹴り続けてやるわ」

(;'∀`)「ぶっ、ぶひぃ! ぶひひぃいあああ!」

101 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:50:10 ID:3SDs1zYg0

 美少女二名に蹴られて悦ぶ変態を見て僕は言葉を失う。あれが僕の友達だとは思いたくない。
 こんな時どう言う顔すればいいんだろう。て言うか誰か早くおろしてくれませんか。

ζ(^ヮ^*ζ「笑いなよ内藤きゅん! 待ってて今おろすからね!」

( ^ω^)「そっちかぁー」

 冷静に突っ込みつつも、ようやく僕は地に足が着く。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、大丈夫なの内藤?」

( ^ω^)「あ、ツン。うん、ちょっと腕が痛むけど、まぁ何とか……」

ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん。ちょっと見せてみなさいよ」

(; ^ω^)「え、あっ」

 先まで極められていた腕を摩っているとやってきたのはツンだった。
 彼女は首をかしげつつも僕の様子を知ると、当然のように僕の腕を取ろうとする……の、だが。

ζ(゚ー゚*ζ「はいそこまでぇ。勝手に内藤きゅんに触ろうとしないでくれるかなぁ? 障るでしょう?」

 そんなツンの腕を掴んだのはデレさんで、てっきり関係が改善したかと思っていた僕だが……どうやらそれは酷い勘違いだったらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「あ……? 何勝手にあたしの手を掴んでるわけ? 無礼千万極まるんだけど?」

ζ(゚ー゚*ζ「それこそあなたが言えた言葉じゃないと思うけど? 不躾な態度ばかりで恥もないの?」

ξ゚⊿゚)ξ「恥じらいならあんたこそ持てば? ことあるごとに内藤、内藤って。馬鹿にしか見えないけど?」

ζ(゚ー゚*ζ「恋は盲目だって知らないの? それとも恋愛のれの字も知らないのかな? やっぱり見たままにお子ちゃまなんだね?」

ξ゚⊿゚)ξ「少なくともあんたのそれが正しい恋愛観ではないと思うわ。つーかまた見た目を馬鹿にしたわね……本当に性格悪いわよねあんたって」

ζ(゚ー゚*ζ「それはあなたに対してだけだよ。私は捻くれてないもの。不良のあなたと違ってね?」

102 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:50:32 ID:3SDs1zYg0

 見つめ合うと素直にお喋りできないって言ったの誰だよ、って突っ込みたくなるくらい二人は睨み合って暴言を撒き散らしていました。
 僕はその隙をついてそそくさと逃げます。もうこの状況で今更平和を取り戻せるとは思えませんので。

(#)A(#)「いいやぁ、待てよぉ、内藤ぉ……」

(; ^ω^)「なっ、ドクオ……いやドクオかお前!? 生きてたのかお!?」

(#)A(#)「聞き間違いかなぁ、内藤……」

(; ^ω^)「何がだお、僕は今急いでいるんだお! 意味不明なことを言っていないで――」

(#)A(#)「なぁ、内藤よ。お前先程、津々矢嬢を……ツン、とお呼びしたのか……?」

(; ^ω^)「え……」

……いやぁ、そりゃ最初は慣れなかったさ。だって女子だもの。しかもファーストネームで呼ぶっていうのは、それって親しい間柄であるからこそだろうし。
 けれども僕は昨日、ツン本人からそう呼べと言われている。
 早朝の騒動で既に彼女に対する緊張感はなくなり、自然と名前で呼ぶようになっていたが……それは他者から見たらどう思われるのだろうか。

(#)A(#)「なぁ、内藤よ……知ってるだろう? 両陣営にはコアなファンが数多居ると言うことを……」

( ^ω^)「お前まさか……」

(#)A(#)「ちなみにな、内藤……俺は津々矢ツンファンクラブのナンバースリーなんだよ糞ボケがぁあああ!」

( ^ω^)「マッッッジで節操ねーなお前!」

(#)A(#)「黙れタコ助が! もう許せん、我慢ならん! 者共出あえ出あえー! この愚者を滅ぼせぇええ!」

103 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:50:52 ID:3SDs1zYg0

(; ^ω^)「だ、誰か! デレさん! ツン!」

ζ(゚д゚#ζ「もう我慢ならない! あなたって本当に嫌な子だよね!
       これだから津々矢の人間は! 今ここでメッタメタのクソクソにしてやるぅううう!」

ξ#゚⊿゚)ξ「上等じゃないのよ、デカイ乳揺らしてむかつくのよあんたはぁ!
       これだから出流の人間は嫌いなのよ! 散々に躾けてやるからかかってこいやおるぁあ!」

(; ^ω^)「そっちも大問題だねぇ! どうしよう危機だねこれぇ!」

 毎度のことだが……思わずにいられない。

(; ^ω^)「なんで毎度毎度僕が巻き込まれるんだおぉおおお!」

 これ僕何も悪くなくね、と。

104 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:51:14 ID:3SDs1zYg0



 今朝から続いた大騒動はまた別にして、噂はたちまちに広がった。
 その内容と言うのは僕がツンにまで手を出したとかなんとか、謂れのない意味不明なものだ。

 そもそも近頃の僕は時の人の扱いで、それと言うのもやっぱりデレさんに愛を寄せられているからだった。
 最も、僕は決してデレさんと恋仲にある訳ではないし、ツンに手を出した訳でもない。
 デレさんの場合は僕が迷惑することが多々だし、ツンの場合は向こうからちょくちょく絡んでくると言った具合で。
 果たしてデレさんの場合、僕に愛を寄せる理由は、まあ、百歩譲って理解するとして、ツンが何故僕に接してくるのかが僕自身は謎のままだった。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと」

 ぼう、と考えていると隣から可愛らしい声がやってきた。今は情報の授業で場所は情報室。目の前にはコンピュータのモニターがある。
 基本この科目はフリーだ。何がフリーかと言えば授業の内容で、やることはほぼ自由なので暇だったりする。
 教師も適当に見て回ってはいるが、恐らく適当なままで注意を向けやしないと思う。
 そんな僕の隣には何故か当然のようにツンが座っていた。視線を向ければ、相も変わらず小さい背丈の少女が僕を見つめて少々不機嫌そうにしている。

( ^ω^)「お、どうしたお?」

ξ゚⊿゚)ξ「なんか英語しか打てなくなっちゃったんだけど、どうすれば戻るの?」

( ^ω^)「あー……どれどれ」

 どうやらツンはパソコンが苦手のようだった。
 彼女は思い通りにならないからか口先を尖らせ、なんとかしてくれと僕に頼んできたのだ。
 仕方なしに彼女のキーボードに触れ、英数変換を解除してやると彼女は大きな瞳を僕に向け、小さな声で礼を言う……こともせず感心した様子でしかなかった。

105 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:51:43 ID:3SDs1zYg0

ξ゚⊿゚)ξ「詳しいのね、こう言うの」

( ^ω^)「詳しいって言うか、現代人で今時の若者なら大抵理解してると思うお?」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇー……ん? ねぇ今遠まわしにあたしのこと馬鹿にした?」

(; ^ω^)「いやいやしてないお。ただ、パソコンに慣れてないんだなって思ったくらいだお」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「ふん、どうだか。まぁ……こう言うのは不得意よ。得手不得手なんて誰にだってあるし、そもそもあたしはこう言うのに触れたことが少ないのよ」

( ^ω^)「ゲーセンにはよく通ってるのに、パソコン機器は駄目なんだおねぇ」

ξ゚⊿゚)ξっ□「まるで使い方も目的も違うじゃない。そもそも、こんなの使わなくったってスマホで済むことの方が多いのが今時でしょ?」

( ^ω^)「まぁ、それもそうだけどお」

 携帯電話を取り出して誇らしげにするツン。
 なんだか本当に子供っぽいな、と思いつつ、僕は今更ながら彼女と当然のように会話している事実に気付く。

(; ^ω^)「そ、それよりツン。あまり僕と会話しない方がいいお」

ξ゚⊿゚)ξ「え? なんで?」

(; ^ω^)「いや、だって……君の沽券にかかわると言うか、僕如きと会話なんてしちゃよろしくないだろうお、色々と」

ξ゚⊿゚)ξ「如きって、またひどく卑下するわねあんたも」

(; ^ω^)「少なからず僕だって君の立ち位置くらい理解してるからお。
      ヒロインとまで称される君がこんな冴えない男子と仲睦まじげにしてごらん、そうなりゃ皆良い気はしないお」

106 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:52:04 ID:3SDs1zYg0
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「何それ、馬鹿じゃないの?」

 呆れたように言うツンだが、しかしこちらからすれば結構……いや、完全に死活問題だ。
 既にホームルーム後の騒動がそれを証明付けているのに、しかし彼女は己がかかわった所為であのような騒ぎになったという自覚がないらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「勝手よね。知らない間に祭り上げて神格化までしちゃうんだから。あたしからすれば、どこがどういいのか自分でも分かんないわよ」

 自身の魅力には気付き難いのが人なのかもしれない。
 恐らくデレさんも無自覚なんだろうと思う。己の美貌や空気感がどれだけ他者に影響を及ぼすのかを。

 ツンは何度も言ったように不良のような見た目だ。
 髪は金髪のツインテール、スカートは超ミニ、ブラウスは肌蹴ている。
 学校をサボることも少なくはないし、ゲーセンにだって足繁く通いっている様子だった。

 だが、それらのマイナス要素が吹き飛ぶくらいにツンは美少女だ。
 低い背丈もあいまって下手をしたら小学生にすら見えてくる。
 素行は不良だが無垢を思わせる所作や空気感、そのギャップに人々は心を射抜かれる訳だ。

ξ゚⊿゚)ξ「実に馬鹿馬鹿しいわよね、呆れしかないわ」

( ^ω^)「またさっぱりと言うおね……」

ξ゚⊿゚)ξ「昔からそうだもの。何をしても持て囃されて許されて受け入れられて……本当、どいつもこいつも馬鹿みたいよね」

( ^ω^)「……?」

 吐き捨てるように言った彼女の顔は、どことなく悲しそうな、或いは……寂しそうなものに見えた。
 しかし言葉の真意が分からないのでどう返事をしていいのかも分からず、僕はただ彼女を見つめるだけで。

107 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:52:27 ID:3SDs1zYg0

ξ゚⊿゚)ξ「……ねえ。なんであたしを叱ったの?」

( ^ω^)「え? 叱ったって?」

ξ゚⊿゚)ξ「昨日のことよ」

( ^ω^)、「お、どうしてか……まぁ、エゴもあるお、間違いなく。と言うかそれが根本だお」

ξ゚⊿゚)ξ「エゴ」

( ^ω^)「偽善かどうかは別としても、単純に見過ごせないってだけの話だったんだお。
      まぁこんな僕程度が何を偉そうにって思うかもしれないけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「本当よね。同い年の、しかも冴えない男子があたしの手を引っ張ったりしてさ」

(; ^ω^)「そ、それは、まぁ、やり過ぎたとも言えるけど……」

 果たして何故許せなかったのか、と自問した時に頭の中を過ったのはデレさんだ。

ξ゚⊿゚)ξ「何よ、美女とは斯くあり、とか語るつもり?」

( ^ω^)「そんなつもりはないけど……て言うか美女って自分で言うのかお?」

ξ-⊿゚)ξ「さんざっぱら言われたら認めるわよ」

( ^ω^)「おぉ……まあ、うーん、そうだおね、君は心底嫌がった訳じゃないからお」

ξ゚⊿゚)ξ「は?」

( ^ω^)「君が本当に嫌悪して僕を突き飛ばすとかしていたら、そりゃ諦めるお。けど君は素直に従ったお?」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

 可笑しいな、と思う。
 不良って言うのは反骨精神を持っていて、誰に対しても噛みついたりするものだろう。
 けど、僕は今まで彼女がそう言った真似をした話を聞いたことがなかった。

108 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:52:48 ID:3SDs1zYg0

 何度も言うが彼女は不良な素行だが、素行程度でしかない。
 津々矢ツンと言う少女は、端的に言うなら反抗期のままに高校生になってしまったような少女だ。
 何故今も尚それが続くのか、と言うのは、やはり取り巻く環境が原因になると思われる。

( ^ω^)(何でだろう。あの時の後姿を見た時、何で寂しそうだなんて思ったんだお)

 思い返すのは慣れたように一人でシューティングゲームをやるツンの後姿だった。
 表情は見えなかったけど、何となし漂うのは孤独感や寂寥感で、僕は彼女を放っておけないと、そう思った。

ξ゚⊿゚)ξ「……あんたってお人好しよね」

( ^ω^)「え?」

ξ゚⊿゚)ξ「それでいてエゴイスト。面倒くさいタイプよね」

(; ^ω^)「そこまで言わなくったって……」

ξ゚ー゚)ξ「けど……違うのね、あんたは」

 何となし自己嫌悪していた僕だが、けれどもツンが言葉を続ける。

ξ゚⊿゚)ξ「下心とかないの?」

( ^ω^)「え? 何で?」

ξ゚⊿゚)ξ「……そう。本当に根っからのお人好しなのね」

(; ^ω^)「お、おぉー……? 何でそんな風になるんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「無自覚ってのはいいもんよね。けど……そう言う性格だからこそ、あの牛女もあんたにお熱なのかもね」

 何だか一人で納得しているツン。
 何がどういうことなのさ。

109 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:53:10 ID:3SDs1zYg0

ξ゚⊿゚)ξ「あいつとは違うけど、あたしもまあ……ある意味では似た環境だったから分かる。ねえ、知ってる?」

(; ^ω^)「な、なにを?」

 それは刹那のことだ。
 本当に一瞬、僕は見た。ツンと言う美少女の見せた……寂しそうな、悲しそうな瞳を。

ξ゚ -゚)ξ「何をしても、どんなに悪い振る舞いをしても許されることってね、凄く、凄く……虚しいのよ。
      間違ってることをしても受け入れられて、勝手に可愛がられて、更に親までもが許しちゃったら……何もかも、馬鹿馬鹿しくなるのよ」

( ^ω^)「ツン……?」

ξ-⊿-)ξ「……あの牛もきっと、何の見返りも求めない優しさに触れたのは初めてだったんでしょうね。
       あたしとは対極的だったこれまでだけど……でもお互い、きっと求めていたのは同じなのね」

( ^ω^)「あの……何を言って……?」

 突然に意味の分からないことを語り始めたツン。
 僕はどうアクションをとっていいのか分からず、取り敢えず頬を掻くのだが……。

ξ゚⊿゚)ξ「こぉんな普通のナリと面なのに、あんたって存外恐ろしいわね、内藤」

(; ^ω^)「はいぃ?」

ξ゚ー゚)ξ「ふん、本当お馬鹿さんなのね。ならこれだけは理解しなさい」

 そんな僕の鼻を人差し指で軽く突いたツンは、それはもう気持ちのいいくらいの笑みを浮かべて言うのだ。

ξ゚ー゚)ξ「あんただけよ、あたしを心底から叱った人は」

 その言葉の意味はよく分かった。やっぱり彼女は誰にも咎められたことがないのだ。
 けど、そんな理解は今は他所に置く。何せ今、僕の心臓は早鐘を打つのだ。

110 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:53:32 ID:3SDs1zYg0

 今までツンと対峙して心音が高鳴った回数……少ないと言える。だがこの時ばかりは爆発しそうなくらいだった。
 天使の微笑みに特別を意味する言葉。それらを寄越されてどうして正常を保てよう。

 そう、どうやって正常を保つと言うのだ……。

(#'A`)「なぁあいいとぉおおおおおお!? 何でだろかな今の台詞はぁああ!?」

 そうとも、そりゃ早鐘を打つさ。
 だって全方位から怒り心頭の男子達が参集してくるんだもの。
 全身から汗を垂れ流しつつ、僕は迫りくる総大将、ドクオを見る。

 ああ、ドキがムネムネする。これってやっぱり感情の昂りだ。
 ツンを見ているだけでそれはもう爆裂しそうになるくらいで、つまり、本当、簡単に言えば……迫りくる危機に僕は恐怖し絶望をするのだ。

(#'A`)「覚悟しろ腐れ内藤ぉおお!」

(; ^ω^)「いい加減くどいんだお他の手を考えろこのアホがおぉ!」

 情報室から飛び出し廊下を突っ走る僕、を追いかけてくる男子生徒達。
 うん、みんな血眼だ。

ξ゚⊿゚)ξノシ「生きて帰ってきなさいよー」

(; ^ω^)「分かっててやったおね、ツンんんん!」

 呑気に手を振って適当な言葉を寄越すツン。
 まったくあの少女ときたら、本当、こう言う真似を平気でする。
 昨日の仕返しかは知らないが、僕を玩具にするとは……。

(; ^ω^)「ふっざけんじゃねえおおお!」

 ところで、手を振っていたツンが浮かべていた笑みを見た者はいるのだろうか。
 いないのならばそれは損だったと言える。
 何せ彼女のその笑みは、今まで見たことがないくらいに無邪気で、とても彼女らしい、可憐な笑顔だったのだから。

111 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/25(水) 18:53:57 ID:3SDs1zYg0
書き込みエラー多すぎて発狂しかけつつも本日はここまで、おじゃんでございました。

112名無しさん:2019/09/26(木) 13:23:49 ID:zGTZdIEs0
良きラブコメや

113名無しさん:2019/09/26(木) 17:47:11 ID:3f3QAMIg0
乙です!れ

114名無しさん:2019/09/29(日) 06:03:15 ID:PkWFnSd6O
誤字報告

>>ξ゚⊿゚)ξ「詳しいのね、こう言うの」

×こう言うの→これは間違い

◯こう云うの→が正解。

「〜という」の「いう」は喋るという意味とは異なるため、文語表現漢字の「云う」を用いねばならない

115 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:17:51 ID:qyQNNjXU0

 ◇

('A`)「なあ、内藤よ」

( ^ω^)「何だお、ドクオ」

 お昼時、僕ドクオと昼飯を囲っていた。
 場所は自分の教室だ。
 ドクオはコンビニで買ってきたと思われる菓子パンとおにぎりを手に取りつつ僕を見つめた。

('A`)「ここのところ、何故お前はそうも恵まれているのだろうかな」

( ^ω^)「恵まれている、か……そう思うのかお、ドクオ」

('A`)「ああ、思わない方が可笑しいだろう。今のお前を見て羨望を抱かない奴なんているわけねえ」

 さて、菓子パンを食べているドクオに対して僕は何も手につけていない。
 何故食事時に手を動かさないのか、なんて質問の答えは至極簡単なもので。

とζ(^ヮ^*ζ「はい、内藤きゅん! あーん!」

 僕の隣に座るマドンナ、デレさんが自身の箸を操作して僕にご飯を食べさせているからだった。
 デレさんと言えば、僕に愛を告げてからと言うもの毎日こうして甲斐甲斐しく弁当を作ってくる上に、親鳥の如く僕にご飯を食べさせるのだ。
 一見すれば誰もが羨む景色かも知れないが、密着され、更には内容の濃い昼ご飯を前にすれば、それはある意味では苦行林だったりもした。

116 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:18:46 ID:qyQNNjXU0

( ^ω^)「ねえ、デレさん? なぁにこれ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ん? これ? これはねぇ、スッポンの血で煮詰めた牡蠣だよ!」

( ^ω^)「暗黒物資かと思っちゃったお。こっちは?」

ζ(゚ヮ゚*ζ「こっちはニンニクのウナギ巻きだよ!」

( ^ω^)「創作料理かな。見た目気持ち悪い肉塊にしか見えないおこれ」

 先にも触れた通り、デレさんの料理は重箱でやってくる上に内容はとんでもないものが並ぶ。
 おまけと言えばマムシドリンクが用意されている具合だ。

ζ(^ヮ^*ζ「さぁさぁ内藤きゅん! 今日もたくさんあるからね! 召し上がってね!」

( ^ω^)「いや止めて、本当止めて、なんか吐き気を催すニオイが凄いから、すごっ……やめろぉ近づけるんじゃないお!」

(#'A`)「ぐぬぬ、内藤貴様ぁ! あーんまでしてもらうとはどう言う了見だ糞が! 羨ま死ね!」

(; ^ω^)「なら代わってくれおドクオぉ! この地獄のメニューを全部食べてくれお!」

('A`)「……さぁて、俺はデザートにおにぎりでも食べかな」

(; ^ω^)「お前散々羨ましいだとか言うくせに危機と分かると即座に逃げるよね! ていうか普通菓子パンがデザートだと思うけどね!」

(#'A`)「黙れ内藤、お前は自身の幸福の度合いがどれ程のものか分かっちゃいねーんだ! そうして寵愛され飯を与えられるなら黙って喰らうのが男だろうがよ!」

(; ^ω^)「おすそ分けしたいんだけどぉ!?」

('A`)「……美味いなぁ、こんぶのおにぎりは。この何とも言えぬ風味がまた……」

(; ^ω^)「畜生誰も助けてくれない!」

117 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:19:35 ID:qyQNNjXU0

 普段から僕に殺意を向けてくる多くの人たちの視線も昼時ばかりは哀れみになったりする。
 とは言え僕の隣に腰かけるデレさんを見れば、やっぱりそれだけで羨望に変わったりするが……。
 しかしデレさんの箸が摘まむ料理を目にすると静かに目を背ける。

(; ^ω^)「いいんだお、皆こいお! デレさんの手作り弁当食べたいだろぉ!? 食べていいお! いいからこっちきなお!」

(#'A`)「貴様、内藤ごるぁあ! 何たる台詞だ! お前の為を思って作ってくださったものだぞ!」

(; ^ω^)「そりゃ料理なら食べるけど料理じゃないもんこれ!」

とζ(^ヮ^*ζ「ほらほら内藤きゅん、次はこのアボカドとマカと納豆とチーズを混ぜて焼いた特性お焼きだよ! 美味しいよほら!」

(; ^ω(と 「くっさ! 何これくっさい! チーズと納豆の奏でるハーモニーが破壊的な上にネチャネチャドゥロッドゥロしてるぅ!」

 朝は普通のご飯を作ってくれたのに何故お昼はこうなってしまうのか。朝食を思うに、きっとデレさんは料理が上手な筈だ。
 なのにどうやったらこんなことになるんだろう。
 僕は眼前まで寄せられた奇妙な塊から必死で逃げるけれどもデレさんに襟を掴まれ引き戻される。

とζ(^ヮ^*ζ「はい、あーん!」

(; ^ω^)「ぐあっ、がっ……あががががががが!」

118 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:20:09 ID:qyQNNjXU0



 チョマジヤメテホントゴメムウボアアアアアアアアア!!!!


     (; ゚ωとζ(^ヮ^*ζ


           メシメシメシメシメシアガレー☆


 ドクオが何とも言えない表情で僕を見つめている。
 クラスの男女達はまるで我関せずと言った具合で、僕の悲鳴を聞きもしない。

(; ω ).∴「がはっ!」

ζ(^ヮ^*ζ「うふふ、美味しかった、内藤くん?」

(; 'ω`)「も、もう無理だお……」

ζ(゚、゚*ζ「あれぇ……? もしかして美味しくなかった?」

(; ^ω^)「当然だろうがお! なんか後味変な感じがするし舌がビリビリするんだけどぉ!?」
   、_
ζ(゚ぺ*ζ「えぇー、可笑しいなぁ……この料理ならきっと内藤くんも喜んでくれるだろうって言ってたのに……」

(; ^ω^)「誰がだお!? 普通に考えて誰も喜ばないお! 寧ろ殺す気としか思えないお!」

ζ(゚д゚*ζ「そんなことないよ! 射止める気しかないよ!」

(; ^ω^)「息の根をでしょお!?」

119 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:20:43 ID:qyQNNjXU0

 どうにも聞いた様子、誰かが彼女に余計なアドバイスをしているみたいだった。
 もしや我が母の仕業か、と思ったが二人が知り合ったのは今朝だからそれはないだろう。
 と言うか、そもそもウナギ丸々だとかマカだとかスッポンの血だとかをどうやって用意しているのか。普通に売っているものなのだろうか。

(; ^ω^)「どこで手に入れてくるんだお、そんな怪しげな食材を……」

ζ(゚ー゚*ζ「え? 問屋さんだよ?」

(; ^ω^)「どんな問屋さんなの!?」

ζ(゚ー゚*ζ「うーん、家がよくお世話になってるところだねぇ。いろいろな食材扱っててね、これが面白い物が多いんだよー」

(; ^ω^)「お、おぉ……?」

 なんだか会話に疑問が浮かぶ。
 問屋から直接食材を卸しているとなると、もしやデレさんのお家は飲食店経営でもしているのだろうか。

(; ^ω^)(あれ、そう言えば今更だけど……)

 出流デレと言う個人。彼女は実のところ謎に包まれていたりもする。
 そりゃ僕と彼女の付き合いは一週間にも満たないけど、けれどある程度学生っていうのは他人の話から当人の情報を聞いたりする訳で。

(; ^ω^)(デレさんの情報って皆無……だおね?)

 聞いたことがなかった。と言うか誰も口にしない、が正しいのかもしれない。
 彼女の情報は超絶美人で成績優秀で誰もが憧れるマドンナ、と言ったものばかりで、それ以外……つまり彼女の近辺的な情報は一切が不明だった。

 別に可笑しいとは言えない。
 けど、例えば仲がいい女子なんかがデレさんの家に行けば、彼女の家は云々、家族構成は云々、住まいや通学路はどうのこうのと噂になるだろう。
 ところがそれらがない。誰もが注目を寄せる出流嬢はかなり謎だった。

120 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:21:17 ID:qyQNNjXU0

( ^ω^)(そうだ、そもそもだお。この子ってば可笑しな物もいっぱい持ってるし……)

 例えば初めての出会いの時。
 彼女は僕の指紋を採取したと言ったが、果たしてそんな道具をどうして女子高生が持っているのか。

 極めつけは普段から鞄の中に忍ばせている短刀だ。
 いや短刀って、と思うのが普通の反応だが、彼女の場合はそれを当然のように護身用の物として携帯していた。

 曰く、彼女の父がそれを持たせているとのことだが、どんな親がそんなことを許すと言うのか。
 世には多くの危機があるのだから、そうなれば護身用の武器くらいは必要になるかもしれない。
 ツンだって特殊警棒を持っていたし、恐らく今時の女子の間では武器を携帯するのが流行りなのだ。

 だが凶器をも霞ませる異常な物を彼女は持っていた。それこそが発信機だ。
 聞けば父の所有物を勝手に拝借してきたと言うが……。

(; ^ω^)「ね、ねぇ、デレさん?」

ζ(゚ー゚*ζ「ん? なぁに、内藤くん!」

 謎……謎極まる。
 今になって思うが、何故誰も彼女のそう言う情報を持ち得ないのか。

 そもそも彼女と親しい間柄にある誰か、と言うのがまず存在しない。遊んだことのある誰かも当然いない。
 もしかしたら近づくことすら憚られる、と皆は共通意識を持っていて、学校外で彼女の生活に関わることをよしとしないのかも知れない。

 それはそれでまた悲しい話だけど、やっぱり高嶺の花と言うのは孤高に咲く一輪の花な訳で、皆の思いや判断というのはある種は当然なのかもしれない。

 しかし僕は当然気になる。だって常日頃から言い寄られているのだし、今朝なんかはいよいよ我が家に押し入ってきた。
 これで僕の安全圏と呼べるものはなくなった訳だが、果たしてこの状況下で僕はどうするべきか。

 少なくとも彼女のことに詳しくならないといけないだろう。
 一方的に知られっぱなしと言うのは危機でしかないからだ。
 せめて対抗手段として彼女の素性を把握し、最悪は彼女の身内に相談をしたいところだ。

121 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:21:53 ID:qyQNNjXU0

(; ^ω^)「デレさんって……何者?」

ζ(゚- ゚*ζ「え……?」

 僕がその一言を口にすると、彼女は驚いた顔をする。
 更には可笑しなこととして、騒がしかったはずの教室が水を打ったように静まり返った。
 僕の前に腰かけておにぎりを貪っていたドクオですら驚愕に染まる顔をして僕を見ている。

(; ^ω^)「え……え? 何? 皆どうしたんだお?」

 皆の様子。それは一言で言うなら……何言ってんだこいつ、と言ったもので。
 けれど僕からすれば皆の反応にこそ戸惑う。何でそんな呆れたような顔をされなきゃならないんだろう。

(;'A`)「内藤、お前……何も知らねーのか……?」

( ^ω^)「え、何だおドクオ、その反応」

(;'A`)「……いや、何でも」

 ドクオと言えば少々歯切れ悪く言葉を紡ぐ。
 その反応からして、と言うか皆の反応からすると、もしやデレさんの素性と言うのは、実のところ……。

( ^ω^)b(これ僕だけ知らないパターンだおね!)

 と、言う感じだと理解する。

122 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:23:03 ID:qyQNNjXU0

( ^ω^)「いやいや、ちょっとドクオよ。もしかして何か知っているのかお」

('A`)「何だ内藤よ。今は食事中だぞ、胸倉を掴むんじゃあねえ」

( ^ω^)「いやぁ君の食事よりも僕の疑問の方が重要だと思うんだお。なんだか僕一人だけ浮いてるじゃない」

('A`)「そりゃ、まぁ……と言うかよく平然と訊けたもんだな、内藤」

( ^ω^)「え……」

('A`)「お前、本当に聞いたことがないのか?」

(; ^ω^)「な、なにが?」

(;'A`)「いや、だから……」

 ちら、とドクオが窺うような視線でデレさんを見た後に僕を見つめて口を動かす。

(;'A`)「出流の名を知らねーのか?」

( ^ω^)「へ……?」

 出流、と言うのはデレさんの名字だが……それが何だと言うのだろうか。

('A`)「……そうか、知らねーのか。お前は何だかんだで無知だが、いやしかし、無知と言うのは罪だぜ、我が友よ……」

(; ^ω^)「えっ。いやいやどういうことなんだお! なんか僕が変みたいじゃねーかお!」

(-A-)「少なくともその話題をお嬢の前でするな」

(; ^ω^)「ど、どうしてだお」

(#'A`)「……兎に角、出流嬢は超絶佳人で完璧なお方でいいだろうが! そうも気にすんな、ケツの穴の小さい奴め!」

(; ^ω^)「何これすっごく納得いかない!」

123 ◆hrDcI3XtP.:2019/09/29(日) 22:23:46 ID:qyQNNjXU0

 腑に落ちないどころの騒ぎじゃない。
 僕はデレさんのことを何も知らないのに皆は語ろうともしないんだ。
 そもそも、彼女の名字がなんだと言うのか。

ξ-⊿゚)ξ-3「本当、あんたのそう言うところってある意味すごいかもね」

(; ^ω^)「ツン……?」

 ドクオに詰め寄って騒いでいるところに教室の戸が開かれる。皆の視線は入ってきた少女――ツンに集中する。
 彼女の手の中には購買で買ってきたと思わしきパンが複数あり、ジュースを飲みつつ呆れた表情をしていた。

ξ゚⊿゚)ξ「けど、それ以上の詮索はやめてあげた方がいいかもね。見なさいよ、牛の面を」

(; ^ω^)「え……」

 ツンはデレさんとは反対の位置、僕の側面へとやってくるとそう促す。
 言われて僕はデレさんへと視線を向けるのだが……。

ζ(^ー^;ζ「あ、あははー……」

 デレさんは困ったような顔をしていた。
 それは苦笑いと言うか、なんとか笑みを保っているというか、取り繕っている感じだった。
 先まで元気溌剌としていたのにまるで人でも違えたようだった。
 と言うかこんな反応をするデレさんを見たことがない。元気いっぱいで、ちょっとやり過ぎなくらいが彼女らしいのに。

(; ^ω^)「え、と……デレさん?」

ζ(゚ー゚;ζ「あぁーと、今日はもうクラスに戻るね?」

(; ^ω^)「えっ。いやちょっ」

ζ(゚д゚;ζ「じ、じゃーねー!」


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