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( ^ω^)病んでヤンでレボリューションのようです
124
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:24:43 ID:qyQNNjXU0
高速で重箱を片付けたデレさんは焦ったような様子で荷物を纏めて風のように去っていった。
どうやら僕は最上の切り札を手にしてしまったのかもしれない。これはかなり使えそうだ、と思いもするが……。
ξ゚⊿゚)ξ「……気になる?」
( ^ω^)、「ん、まぁ……」
デレさんの困ったような笑み。それがとても印象的で、そんな笑顔を見たことがない僕は何故だか胸に靄が生まれた。
何とも言えない表情をする僕を見つめるのはツンで、彼女は僕の机に頬杖を突くと覗き込んできてそう問うのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「知らない方がレアなんじゃない? 普通は知ってるわよ、出流って名前くらい」
( ^ω^)「そ、そうなのかお……?」
ξ゚⊿゚)ξ「そうでしょ。いや、まあ知らないのも無理ないかもね、あんたもあたしたちも子供だし。けどこの町に住んでたら自ずと聞く名前だと思うけど」
( ^ω^)「いや、そうは言われても……」
まるで僕だけが可笑しいみたいじゃないか。
ヒロインの口にする台詞に教室にいる皆が無言で肯定を示したようにも思えた。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、内藤?」
( ^ω^)「な、なんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「あの牛の出自は兎も角……あたしの名前は知ってる?」
( ^ω^)「え? ツンだお?」
ξ-⊿゚)ξ「違う違う。あたしの名前……津々矢を、よ」
と、彼女がそう言うと再度教室の中が張り詰めたような空気になる。
一体全体何なんだ。確かに出流も津々矢も珍しい部類に入るが、何故誰もが知っていて当然みたいな反応なんだ。
( ^ω^)、「いや、知らないけど……」
ξ゚ー゚)ξ「……そう」
125
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:25:11 ID:qyQNNjXU0
僕が返答すると、なぜかツンは面白いものを見たとでも言う感じで朗らかに笑う。
何が面白かったのかは知らないが、もしも無知な僕を馬鹿にするのならばそんな謂れはないと言っておこう。
(;'A`)「お前、凄い奴だな内藤……そこまで無知だと流石に呆れるぜ……」
( ^ω^)「あーはいはい、何だか知らないけど、別に知らなくても恥でもなんでもないお」
(;'A`)「い、いやでもな……」
( ^ω^)「皆はデレさんやツンの何かを知ってるのかもしれないけど、僕からすれば二人共普通でしかないお」
まあ、なんとなく何かがあるのは分かったけども、それだけだ。
例えば普通じゃないとしても僕が関わりを持つのは当人達なので他はどうでもいいと言えばどうでもいい。
知らないとなると不利、と言いはしたが、どうも先の皆の様子や当人達の様子からしてそれは触れてはならないものだと理解をする。
僕は決して傷つける目的など持ちはしない。
それが当人達にとって好ましくない、或いは踏み込んではいけないような内容であるならば僕は耳にしないし口にしない。
( ^ω^)「対峙するのは僕ら当人だお。だったら正面切ってデレさんを相手取るだけだお」
(;'A`)「っとに、あいっかわらずだなぁ、内藤は」
( ^ω^)「相変わらず?」
('A`)「いやさ、面も体格も全て凡な割に、その芯となる部分は、誠……愚直だよなぁ」
( ^ω^)「愚かとは失礼な。僕はね、そういう風に育ってきたんだお。母さんの性格を知ってるだろう?」
('A`)「ああ、まぁ、あのお袋さんならなぁ……」
ξ゚⊿゚)ξ「何よ、気になる話題ね。内藤のお母さんってどんな人なのよ」
僕の隣にまで椅子を引きずってきたツンがそれに腰かけ、興味津々な様子で問いを向けてきた。
(*'A`)「お、おぉ、これは津々矢嬢! 本日は御日柄もよく!」
ξ゚⊿゚)ξ「そう言うのマジでいらんから。いいから話しなさいよ」
( ^ω^)「こら、ツン。駄目だおそんな口の利き方、失礼だお」
と、僕が彼女を叱ると再度皆が驚愕のままに僕を見つめた。
126
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:26:12 ID:qyQNNjXU0
(;'A`)「なっ……おま、内藤!? 今、お嬢になんて!?」
( ^ω^)「何って……何か可笑しいかお? 注意しただけだけど……」
(;'A`)「お前、マぁジで変わった奴だなぁ……」
(; ^ω^)「いやいや、ドクオ、級友に命令口調とか絶対おかしいでしょ」
(*'A`)「べ、別に俺は、その、寧ろご褒美と言うか……」
( ^ω^)「そんな真面目な顔で言われてもさぁ」
どうにかして欲しいくらいだ。
( ^ω^)「普通だお、悪い態度や言動を注意するのは。ましてや級友だお、ドクオ。誰も注意しないってそれこそ異常だろうお」
(;'A`)「で、でもな……」
( ^ω^)「特別視するばかりなんて言語両断だお。有り得ちゃならない。悪い事は悪い事なはずだお?」
('A`)「……やっぱ、その性格はお袋さん譲りだよなぁ」
そう呟くドクオを無視して僕はツンを見る。
( ^ω^)「ツン」
ξ;゚⊿゚)ξ「な、なによ」
( ^ω^)「あんまり悪い口きいちゃだめだお、不快に思うのが普通なんだから。喧嘩にでもなったらどうするんだお」
ξ;-⊿゚)ξ「一々うっさいわね、本当……親気取りなわけ?」
( ^ω^)「その親御さんがどんな教育をしてるか知らないけど、僕ならそんな台詞向けられたら嫌だもの。怒るさ」
127
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:27:00 ID:qyQNNjXU0
ξ゚⊿゚)ξ「……どんな教育、ね」
( ^ω^)「……?」
言葉を繰り返したツンは、どことなく寂しそうな顔をした。
(;'A`)「あ、ほら津々矢嬢? こいつの母君はですな、そりゃもう超絶真っ直ぐな女人でしてね!?」
( ^ω^)「女人ってなにさ、ドクオ……」
('A`)9m「気にするな内藤! 兎角、何と言うかな、誰に対しても分け隔てなく接し、善悪の判断を徹底的に内藤は躾けられたとかなんとか!」
ドクオはそう言うが、まあ間違ってはいない。
幼い頃から僕の父は仕事で忙しなく、母は僕の世話に付きっきりだった。
ある意味では女手一つのような形だったけれども、母は父の代わりになろうと僕に色々な教育を施した。
中でもくどく言われたのが善悪や正否のことで、母曰く、結局のところ、客観性の存在しないこの世では主観による感情論が物を言うが、
それでも悪い事を正しいと口にするだとか、間違いを見過ごすのは男として失格だ、とよく語っていた。
つまり公平性や平等性ってやつで、これが僕の根底にある。
それは独善であり偽善にもなり得るが、モラルなんて誰だって持っていて当然な訳で、偽りであろうが間違いは見過ごしてはならない。
それを母は誰よりも嫌うし、僕も嫌うところだ。
ξ゚⊿゚)ξ「善悪の判断……」
( ^ω^)「まあ、そんな大それたものなんかじゃないお、ツン。あの人なりの哲学とか、精神論だおね」
母の話を聞くと、ツンは僕をじっと見つめる。
そうして、善悪、という単語を口にするのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「今まで、怒られたりしてきたの?」
( ^ω^)「え? そりゃあるお。子供の頃から今まで叩かれたのも叱られたのも数え切れないし……」
ξ;゚⊿゚)ξ「た、叩かれる?」
( ^ω^)「だお。何か可笑しいかお? まあツンは女の子だし、男児の家とはまた違うかもお。暴力的な意味合いではなく躾的な意味合いだお」
128
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:27:35 ID:qyQNNjXU0
ξ;゚⊿゚)ξ「でも、それって痛いでしょ……?」
( ^ω^)「そりゃお。でもほら、僕ら男だしお。女性に叩かれて泣くだなんて恥ずかしいし」
ξ;゚⊿゚)ξ「そう言うものなの?」
( ^ω^)「さあ、少なくとも僕はそう思うお」
誰だって経験している筈だと思う。親に怒られる、叩かれるなんて当然の景色と言うか、それが一般家庭の日常だろう。
だがツンは目をパチクリとさせて、まるで信じられないと言ったような顔をした。
( ^ω^)(そう言えば言ってたっけお。誰も自分を叱らなかった、自分を叱ったのは僕だけ、って……)
言葉の内容をそのままに捉えるならば、彼女は今までの生涯で注意されたことも叱られたことも、ましてや叩かれたこともないそうだ。
まあ女の子だし、それもまた今時の教育と言うか、そう言う家庭があるのも当然なのかもしれない。
しかし、ツンが僕を見る目と言うのが面白くて、まるで普通と言う言葉を知らないような、未知に触れたような表情をするのだ。
( ^ω^)(出流に、津々矢……)
ツンは言った。その二つの名前を知らないのか、と。
僕は知らない。無知と言われたらそれまでだけれども、しかし、なんとなく……何か問題のある御家柄なのだろうな、と言うのは察しが付く。
( ^ω^)(……まただお)
ツンとドクオ、他、教室の生徒達とはまた違う視線。それを僕は再度感じる。
それは僕に殺意を抱く誰かだとは思うが、その正体は一体何なのか。
てっきりデレさんやツンのファンの人々かと思っていたが、どうにもそれらとは次元の違う恐ろしい野獣のようにも思え、自身の粟立った項を静かに撫でつけた。
129
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:28:10 ID:qyQNNjXU0
◇
昼休み以降、デレさんは僕のところにやってこなかった。
久々に得た平穏と言えば何だか逆に落ち着かないくらいで、いっそ罪悪感すら抱いた僕は、その日の放課後にデレさんの教室にまで足を運んだ。
( ^ω^)「あれ……?」
が、教室の中にデレさんの姿はなく、どうにも帰ってしまったようで、僕は謝る機会を失ってしまう。
何故謝るのか――言わずもがな彼女を傷つけてしまったからだ。
昼休みの時の周囲の空気、そして当人の反応からして、あの話題はタブーだったに違いない。
( ^ω^)「うーん、どうしようかお……明日謝ればいいかお……?」
結局、彼女の姿を見つけることが出来ずに僕は帰路を辿る。久しぶりに一人で下校をしていた。
秋風が妙に肌寒く感じて、僕は冷える手をポケットに突っ込んで夕暮れの空を見上げた。
( ^ω^)(でも、気になるお……なんなんだお、デレさんのお家は……?)
皆の反応は知っていて当然と言った感じだった。
僕のような知らない方が少数派なのは理解したけれども、本心では真実を知りたくもある。
しかし誰かに聞くと言うのも違うだろう。そもそも教えてくれる気もしない。
( ^ω^)(それだけ有名だって言うんなら調べれば出るかな)
出流家。なんだか荘厳と言うか堅苦しいと言うか、おっかない感じだ。少しデレさんのような絶世の美少女には似合わない。
( ^ω^)(それと、津々矢家、かお……)
ツンもまた名の知れた御家であることは察した。
こちらも厳めしい感じだけれども凛々しいような雰囲気がある。
(; ^ω^)(しっかし、僕なんかがあの二人と仲良くなるだなんて……)
思考を切り替え、遅い自覚が襲い掛かってきた。
散々語ったことだが、デレさんもツンも皆の憧れだ。
130
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:28:56 ID:qyQNNjXU0
マドンナとヒロイン。うち、一方からは愛を寄せられているが、僕にはまったく現実味がなかったりもする。
そもそもの理由やら発端を聞きはしたが、まるで僕には理解し難い。
と言うか僕如きなんかはやっぱり見合わないから、返事をする以前として疑問を抱くばかりだ。
もう一方の美少女も何故か僕によく絡んでくるようになった。
これは友情のようなものだとは思うが、それでも彼女の傍にいると僕は落ち着かない。
こちらも先と理由は同じで、僕なんかじゃ分不相応だと思う。
( ^ω^)(優しい、か)
マドンナとヒロイン両者に言われた言葉。優しさとは利他的なものであり、利己的のものは悪と判断されると言う。
僕が二人にとった行動はそんな大したことじゃない。デレさんの場合は落とし物を拾ってあげただけ、ツンの場合は注意しただけのこと。
もしかしたらどちらも利他的と言えるのかもしれない。
けど僕自身、これは優しさだとは思えない。特にツンの時なんてお節介でしかなかった。
けれどもゲームセンターの前でツンを見送った時にデレさんは僕を優しい人間だと言い、ツンも情報室で偽善的だが見返りを求めない優しさがどうのこうのと言っていた。
(; ^ω^)「ぜんっぜん分かんねーお……」
僕のこの性格は母の教育あってのものだ。困っている人がいたら助け、悪事は必ず咎めろと口うるさく言われてきた。
母自体が粗暴な性格で口も悪いけれども、精神性に関してはとても大きな人だと思う。
存外、子は親の背を見て育つと言う言葉は外れてはいないのかもしれない。
( ^ω^)「まぁ考えるのは止めだお。久しぶりの平穏なんだし、これは存分に謳歌しないとお!」
デレさんに対する心配は……ないと言えば嘘になる。
傷つけてしまったとあればそれだけで胸が痛む。
だがここのところの僕はそりゃもう忙しなかった。
となれば改めて明日謝り、今日のところは束の間の休息にどっぷりたっぷり浸ろうではないか。
( ^ω^)(……あれ、また……?)
と、少々軽くなった足取りで家を目指していた僕だが、またしても視線を感じた。
それは今日一日常に感じていたもので、てっきり学校の誰かが僕に敵意や殺意を向けているものだとばかり思っていたが、しかしこの状況で何故視線を感じるのか。
131
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:29:46 ID:qyQNNjXU0
立ち止って辺りを見渡す。場所は道路沿いの歩道だ。
車が行きかい下校途中の他校の生徒やらスーツ姿の人達もちらほら見受ける。人目があるのは当然の時間帯――未だ夕暮れ時。
( ^ω^)(なんだお、この嫌な予感は……)
ここ最近の僕の生活と言うのは散々に伝わっていると思う。つまりは危機の連続だった。その間に培われた危機察知能力が警笛を掻き鳴らすのだ。
三百六十度の景色に注意を向ける。車道では変わらず色々な車が走っている。歩く生徒達やスーツ姿の人々からは特に何も感じない……。
( ^ω^)「……ん?」
……否だった。
僕は気付いた。確かに景色は通常、と言うか街並みのありふれた風景だと言える。
けれども……。
( ^ω^)(ん、んんー……なにかなぁ、この黒塗りのお車たちはぁ……)
先からなんか厳つい黒塗りのセダンばかりが目に映る。次いで周囲を見渡すと黒いスーツ姿の男の数が多くなってきていた。
夕暮れ時なのに何なのかな、この夜の空気を纏う怪しい車や人達は。
しかも複数の車両が視界の先で路肩に停車していた。そこで僕は冷静な頭で後方へと振り返り、焦らずにゆっくりと足を踏み出す。
( ^ω^)(うん……おかしいね、あれ間違いなく近寄っちゃいけないタイプの車だおね。あっちの方からくるスーツの人達、皆強面だしね。なんだお、任侠映画の撮影でもしてんのかお……)
汗を大量に浮かべながらきた道を戻る僕。
そんな僕の後ろをついてくる複数のスーツの怖いお方達、アンド……黒い車両が徐行の速度で僕の隣についてきた。
132
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:30:15 ID:qyQNNjXU0
_
( ゚∀゚)「もし……もし、そこの少年。ちぃと待っちゃくれねぇか」
( ^ω^)「…………」
_
( ゚∀゚)「もしもし、少年……?」
( ^ω^)「…………」
_
( ゚∀゚)「困ったな……あー、内藤くん? 内藤ブーンくん? 君だろう、少年?」
あ、これ無理。
絶対無理。
ヤバイどころの騒ぎじゃない奴ですねこれ。
スモーク張りの窓が開いたと思ったらタコみたいなスキンヘッドのおじさまが御顔を出されたのですが……隻眼でした。
しかも顔中に刀傷あるんですよ。これもうダメでしょ色々と。
こう言う手合いとは目を合わせてはダメだと聞いている。
僕は前を見据えて真っ直ぐに歩くのですが、何でしょうね、何故僕の名前を呼ぶのでしょうか。と言うか何で知ってるんだ。
秋口だと言うのにもかかわらず僕は全身から汗を滴らせる。警笛は一向に止まない。
いっそ駆け出してやろうと思ったけれども、前方からも同族と思わしき方々がスーツを翻しながら歩いてくる。
再度後方へと振り返るが退路を断つように待ち構えているスーツ姿のおっさん共。
右を見やれば黒い車両、その後列に何台ものセダンが追従する。
133
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:31:36 ID:qyQNNjXU0
( ^ω^)(神様、僕……本当に何か悪いことしましたっけかお……)
状況の理解なんて及ばないけれども、どう考えてもこれはピンチだ。
察するに、恐らく僕に用がある様子だが……いや、やっぱり分からない。
何で僕なんだ。名前を知っていることからしても疑問に尽きる。僕はその筋の方々と関わりなんてない。
頭の中を駆け巡る何故と言う言葉。思考は鈍り身体も強張る。
そうして間もなくすれば、僕を挟むかのように前後から迫る男達が手を伸ばしてくる。
ああ、これはもうどうにもならないのか……。
(; ^ω^)「いや超逃げますけどね! うぉおおおおおおお!」
「あ、おいどこ行きやがる!」
「待てや小僧ごるぁあああ!」
(; ^ω^)「待てと言われて待つ人はいねえおおおおお!」
だがしかし、お生憎様だがここのところの僕は逃げることに関してはプロの領域なのだ。何せどこにいても迫りくる美少女がいる。
帰宅部な上に運動が苦手だった僕だけども、この一週間弱程度で体力は増大し、おまけに足も速くなった。
ああ、これぞ努力の賜物よ……なんて景色を駆けつつ僕は思う。
それが素晴らしい努力かと問われたら閉口せざるを得ないけれども、今は感謝をするべき時だろう。
駆けだした僕は眼前に迫っていた男達の合間を縫い、我武者羅なままに突っ走る。
よもや逃げられるとは思っていなかったのか、男達は荒い声をあげて再度追いかけてくるが、けれども僕の足は止まらない。
134
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:32:50 ID:qyQNNjXU0
「待て糞ガキャぁー!」
「逃げられると思うなよジャリがぁー!」
「無駄な抵抗はやめてくれねーかなぁ、内藤くんよぉおお!?」
(; ^ω^)「なななななんなん、何で何がどうして僕なのぉ!? 何の用なのぉ!? て言うか何で名前まで知ってるのぉ!?
もう訳が分からな過ぎて頭が沸騰しちゃいそうでゃー!」
黒い車両や男達が背後から怒鳴りつつ追いかけてくる。
景色はもうパニックだ。だって夕暮れ時にヤの字の人達が男子高校生を追いかけ回すんだもの。
お願いだから誰か警察呼んでお願いします。
_
( ゚∀゚)「あー……おいおい坊主、一々逃げたりしないでくれねぇか」
涙を垂れ流しながら全力疾走する僕だけれども、結局それは人の速度でしかない。僕の真横にまでやってきたのはさっきの先頭車両だった。
再度面を覗かせたのは隻眼の男の人で、不機嫌そうな声色と刺々しい言葉に僕は恐怖に飲まれかける。
いや普通に考えてほしい。だって相手はその筋の人ですよ。
人殺してそうな目で見つめられてドスの利いた声寄越されりゃおしっこチビりますよ当然でしょうが。
(; ^ω^)「ににに、逃げるに決まってるでしょうがぁ! 何なんですかあなた達は!? 僕が何かしましたかお!?」
_
( ゚∀゚)「走ってるのに喋る余裕があるたぁ驚きだ。結構体力あるな、坊主」
(; ^ω^)「そりゃ最近鍛えられてますからお! いや本当にぃ!」
思い返すと不思議と涙が出てくる。
おかしいな、きっとこの一週間弱ばかりは凡そ青春と呼べる景色だったはずなんだけど……どうしてだろう、毎度碌な目に遭わなかった気がするんだ。
135
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:34:15 ID:qyQNNjXU0
(; ^ω^)「だのにまたこんな感じかお! いい加減にしろお本気で! 怒りますおそろそろ!」
_
( ゚∀゚)「いやいや少し落ち着け坊主、お前さんの苦労は全部知ってっからよ。
だから泣いてくれるな、申し訳なくなってくるぜ……」
(; ^ω^)「はぁあ!? 下手な慰めなんていらんのですお!
て言うか苦労云々言うくらいならどっか行ってくださいお! 何でこんな意味不明な事態にぃ……!」
と、文句をぶちまけていた僕だが……なんだろう。なんか今の会話可笑しくなかったか。
今僕の隣を並走している車両に乗る隻眼の男の口にした言葉。
何だ、苦労を全部知っているって。それに申し訳なくなってくるってどう言うことなんだ。
(; ^ω^)「ち、ちょっと待って下さいお……あの、色々と意味不明すぎて何が何やらなんですけど……」
_
( ゚∀゚)「ああ、だろうな……こっちもこっちでいきなり接触した訳だし仕方あるめぇよ。
聞けばお前さん、お嬢のことを何一つ知らんそうだから……この状況の理由も分からねえだろう?」
(; ^ω^)「お、お嬢……?」
_
( ゚∀゚)「そこからか……いや、そりゃそうか」
(; ^ω^)「勝手に自己完結しないでくださいお!? そもそも何で僕なんですかお!? 名前も知ってるみたいだし!」
_
( ゚∀゚)「あぁ、それこそお嬢が関係してるんだが……名前どころじゃねぇ、坊主の個人情報は全て把握済みだ」
(; ^ω^)「……はぁあ!? 何してくれてるんですかお!? 最近の僕の個人情報筒抜け過ぎぃ!」
_
( ゚∀゚)「そらぁ一般人相手ならそんなもんよ。つーかよ、坊主……あー、内藤でいいか、呼ぶの?」
(; ^ω^)「いきなり急接近する親密感に違和感しか覚えない!」
136
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:35:38 ID:qyQNNjXU0
_
( ゚∀゚)「兎に角よ、内藤。別に俺たちゃお前さんをメタクソにしてやろうだとかタコ殴りにしてやろうって気はないんだぜ。
ちっとばっかお前さんに用があるってだけのことよ」
(; ^ω^)「嘘だ! さっきから背後で罵詈雑言が飛び交ってるんですけどぉ!? あれ悪意そのままでしょお!?」
_
( ゚∀゚)「いや、ありゃ俺達流の挨拶みたいなもんさ。そう怯えるこたぁねぇよ」
(; ^ω^)「こちとら一般人ですのよぉおお! 怖いに決まってるでしょぉお!」
背後から響く声……待て、ボケ、ぶっ飛ばす、クソガキ、殺す、死ね、嘗めんな、等々。
もしかしてお国が違うのかな。挨拶ってもっと丁寧な気がするし言葉が違うと思うの、僕。
_
( ゚∀゚)「何にせよ……そろそろ話を聞いちゃくれねぇか、内藤」
(; ^ω^)「そ、そんなこと言ったって聞く義理も必要もないでしょう!」
_
( ゚∀゚)「そうは言うがお前さん、状況を理解しない限りこの騒ぎは理不尽のままでしかねぇぜ。
それに色々お前さんにゃ話をせにゃならん」
(; ^ω^)「知りませんよそんなこと!」
_
(;-∀゚)「こいつぁ困った坊やだ。しかしいつまで走り続ける気だ、資料にゃ運動が苦手だって書いてあったんだがな……」
(; ^ω^)「資料!? 何、資料って!?」
_
( ゚∀゚)「……気にするな」
(; ^ω^)「めっちゃ気になるぅ!」
137
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:36:27 ID:qyQNNjXU0
可笑しい。いや可笑しいのは端からだけど……そもそもだ、何故僕のことを調べ上げる必要がある。
僕は所詮一般人だ。特別裕福な家庭と言う訳でもないから、やっぱりヤの字の人が僕に興味を抱く理由がない。
更なる疑問はその話、とか言うやつだ。
話すことがあるとは言うが……いや、やっぱり僕が関係すること自体が謎だ。
けれどもこのおじさんが先程口にしたお嬢、と言う単語。それがどうにも引っかかる。
だが引っかかるとは言え今はただ逃げることに必死だ。捕まったら何をされるか分かったものじゃない。
(; ^ω^)(よし、大通りはやめて路地に逃げ込めば……!)
視界の先には路地に続く道が見えていた。このままそこに突っ込んで追跡の手を拒んでしまえばいい。
今一度全身の筋肉を動かし、僕は息も忘れて小道へと突っ込もうとし――
_
( ゚∀゚)「よし、こうしよう。手を挙げろ、内藤」
138
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:37:22 ID:qyQNNjXU0
_
( ゚∀゚)つy=ー (^ω^ )
(^ω^ )「えっ」
_
( ゚∀゚)「撃つぞ。こいつぁ……脅しじゃあねぇ」
――たところで僕は急停止した。
何で、と問うことなかれ。今し方隻眼の人が懐から変な物を取り出して僕に向けたからだ。
馴染みはない。手に触れたこともない。
でもテレビやデームや漫画なんかじゃよく登場するから、種類とかは分からなくても物自体の概要は理解出来た。
(; ^ω^)「銃ぅうううう!?」
向けられたそれは……拳銃。
ああ、やっぱりヤの字の人にはお似合いだな、と僕は思い。
両手を挙げて直立不動になった僕は、追いついてきたスーツ集団に取り囲まれ、そのまま手錠らしきものをはめられ、見たままに御用となってしまった。
139
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:39:14 ID:qyQNNjXU0
◇
ドナドナと言う歌がある。
曲の内容は子牛が売られていく様子を歌ったものだ。
(===ω=)「あの、ヤの字さん」
_
(;゚∀゚)「安直な呼び方もあったもんじゃねぇな……どうした、内藤」
(===ω=)「取り敢えず拉致されたのは一旦おいときますお」
_
( ゚∀゚)「寛大な心の持ち主だな」
(===ω=)「よく言われますお。ですが質問があるんですお」
_
( ゚∀゚)「何だ、言ってみろ」
(;==ω=)「どうして目隠しとか手錠とかされるんですかおぉ!?」
さて、今の僕は変わらず意味不明な状況のままだった。
先程帰宅途中に恐ろしい筋の人達に追いかけ回され、挙句は銃を突き付けられもした。
非現実の連続に僕の思考は停滞する。
あれよあれよと言う合間に僕は手錠をはめられ目隠しまでされてしまい、そのまま車両へと乗せられた。
140
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:40:04 ID:qyQNNjXU0
_
( -∀-)「済まねえな、まぁ……察してくれ」
(;==ω=)「何をどう察しろってぇ!?」
_
( ゚∀゚)「いやさ、道中を見られるのも困るし、場所を把握されるのも困るんだ」
まるで映画のような話だ。
けれど現実で起きると結構緊張感が凄い。と言うか銃を突きつけられた時点で命の危機なんですが。
_
( ゚∀゚)「なんだったら猿ぐつわもするか?」
(;==ω=)「嫌ですお! て言うかなんでそんなものまであるんですかお!?」
_
( ゚∀゚)「用途は舌を噛まないようにする為だが……俺の趣味だ」
(;==ω=)「聞きたくない情報すぎてどうリアクションしよう!」
_
( ゚∀゚)「ちなみにその目隠しと手錠も俺の私物だ」
(;==ω=)「どーりで何となく甘い香りとかするわけだよこん畜生! 使用済みじゃないのさ!」
古いヤクザのまんまな口調や見た目で倒錯した性癖を暴露しないでほしいなと思いました。
しかしヤの字の人がSM好きなのはさておき。
141
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:41:26 ID:qyQNNjXU0
(;==ω=)「と、兎も角、そろそろ色々教えてもらいたいんですけどお!」
_
( ゚∀゚)「あ? あぁ……そうだな、着くまでもうしばらくかかるしな。内藤はどっから聞きたいんだ?」
(;==ω=)「山ほどあり過ぎて選べませんけど……第一に、何で僕を浚ったんですかお」
_
( ゚∀゚)「うむ、まぁ……さっきも言ったように、お前さんがお嬢と関わりを持ったからだ」
(;==ω=)「お嬢って言うのは……」
_
( ゚∀゚)「お嬢の話は後だ。まぁそんでだ、お嬢と戯れてるお前さんに興味を持った御方がいらっしゃるのさ」
(;==ω=)「……え?」
_
( ゚∀゚)「ん? 何だ?」
(;==ω=)「え、いや、その……僕に興味を持つって言うのは……」
先から出てくるお嬢と言う単語。
誰のことかはさっぱり分からないけれども、どうやら僕に興味を持ったのは別の誰かさんらしい。
とは言え、恐らくそのお嬢って言う人と繋がりのある人物だろうと思う。
(;==ω=)「え、と……その、そもそも本当に僕で間違いないんですかお、用のある人物は?」
_
( ゚∀゚)「間違いないな。内藤ブーン……歳は十六、美歩高校の一年四組で、住まいは――」
(===ω=)「あ、間違いない感じですね」
_
( ゚∀゚)「そりゃな、こっちもそう言う仕事してっから間違えることもねぇ……第一、一般人をどう探るかなんて小細工も必要としねーさ」
(===ω=)「そうなんですねー……」
人違いだったらな、なんて思ってたけどどうやら完全に僕が目当ての様子だった。
142
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:42:57 ID:qyQNNjXU0
_
( ゚∀゚)「そうだ、こっちからも先に言っておくぞ、内藤」
(;==ω=)「な、なんですかお?」
_
( ゚∀゚)「今回、手荒な真似をしちまったが……まず第一に、俺達はお前さんに危害を加えるつもりはない」
(===ω=)「…………」
_
(;゚∀゚)「……おい、なんだその沈黙は」
(===ω=)「いや……すっごい信用ならないなって……」
_
(;-∀-)「あのな、確かに俺達は暴力団と呼ばれる集団だ」
(===ω=)「あー、やっぱりその筋だったんですおねぇ」
_
( ゚∀゚)「まあ今更取り繕っても意味ねぇし、そもそもどんだけ体裁よく取り繕ったって誰がどう見ても分かる通りだろうしな」
(===ω=)「だと思いますお。その隻眼とかもう、ザ・ヤクザって感じで」
_
( ゚∀゚)「……存外、お前さんも肝が据わってるなぁ。怖くねえのかい?」
(===ω=)「怖いの通り越して逆に冷静になっちゃいましたお。目隠しされてるせいで情報も入ってきませんし」
_
( ゚∀゚)「適応能力がすげぇなぁ……ま、それもお前さんの特徴の一つなのかもしれねぇな」
(===ω=)「……? どういう意味ですかお?」
_
( ゚∀゚)「まんまさ。資料を見た時も思ったが、どこからどう見ても平凡な……そこらへんにいる男子高校生だよな、お前」
(===ω=)「自慢じゃないですが、僕はどこまでも普通ですお!」
_
(;゚∀゚)「キリッとした顔で言うことじゃねーぞそれ……そんで、こうやって間近で見ても、やっぱ普通にしか見えん」
(===ω=)「そりゃ普通の男子高校生ですもの」
143
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:44:41 ID:qyQNNjXU0
_
( -∀゚)「けども……恐怖を通り越したとは言え、この状況に適応して、しかもサシでまともに会話するってのは、ちょいと異常かもな」
異常、と言われて僕は首をかしげた。
_
( ゚∀゚)「分け隔てなく人と対する、か。それがお前さんの特徴、かつ突飛な性格な訳だ。そこにお嬢は惚れ込んだのかもなぁ……」
(;==ω=)「い、いやいや、何を一人で納得してるんですかお。
と言うかさっきから失礼ですお、何ですか異常だとかなんだとかって! 初対面の他人に向かって!」
_
( ゚∀゚)「俺達相手に物怖じせず文句まで言うときた。お前さんは間違いなく大物だよ、内藤」
(;==ω=)「何が大物ですかお、まったく……」
_
( -∀-)「ただ……ここからは気を付けな、内藤」
(;==ω=)「な、なにがですかお」
_
( ゚∀゚)「俺とか、他の三下相手にそう言う態度を取ったって構いやしねえさ。
そもそもお前は無理矢理連れ去られてんだ、怒れる立場なのは間違いない」
(;==ω=)「悪いと自覚しつつもこう言うことするんですおね、あなた方は……」
_
( ゚∀゚)「まぁそんな態度は俺の前ならいい。だが……この先では口には気を付けろ」
呆れたように、けれども面白そうに小さく笑いを零したヤの字さん。
しかし言葉の最後は真剣そのもので、僕はその言葉を聞いて知らず内に喉を鳴らした。
(;==ω=)「あ、あの……その、僕を御所望の人って言うのは……?」
_
( ゚∀゚)「……いいか、本当に気を付けろよ内藤。俺は常に傍につくが……下手な真似はするな」
(;==ω=)「え、いやだからどこのどなたさんが」
_
( ゚∀゚)「よし着いたぞ、降りろ」
( ^ω^)「お前マジ御都合かふざけんな必要な情報くらい寄越せ小便ぶちまけんぞおい」
144
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:45:31 ID:qyQNNjXU0
彼のその言葉と同時に軽い震動が身を包む。どうやら車両が停車したようだった。
それと同時にドアの開く音がして、僕はヤの字の人に手を引かれて何処とも知らない場所を歩かされる。
(;==ω=)(これ、やっぱりピンチだおね……)
見ようによっては……いや、誰が見たってこれは殺される寸前の景色だ。
どれだけ虚勢を張ってもやっぱり怖いものは怖い。
ヤの字の人は僕を大した小僧だと言ったけど、そんなことはまったくありはしない。
結局、こんな理不尽な状況で僕は従うことしかできないでいる。
打破する術がないとは言え、まるで本当にドナドナされた子牛のようじゃないか。
(;==ω=)(どこだろう、ここ……)
玉砂利を踏みしめる感触。耳に入ってくるのは大勢の足音だ。
_
( ゚∀゚)「お前さんを確保する為だけに五十人くらい使ったからなぁ。中々の事件だぞ、これ」
僕が四方八方に首を回しているからか、ヤの字の人が足音の数を教えてくれた。
(;==ω=)(ご、五十人って……そこまでして僕を捕まえる理由って何なんだお……?)
大袈裟どころの騒ぎじゃないだろう。むしろ行き過ぎだ。
(;==ω=)(て言うか……待てお? それだけの人数を動かせる人って、もしかして……)
果たして僕にその筋のことはよく分かりゃしない。何せ一般人だからだ。
しかしそれを一般的な会社のような組織で見た場合、そう言うことが出来る人ってかなり偉い人じゃないと無理な気がする。
(;==ω=)「あ、あの、ヤの字さん?」
_
( ゚∀゚)「静かにしとけ。そろそろ着く」
(;==ω=)「いや、あの……ヤの字さん? もしかしてなんですけど、その、僕に用がある人って……」
145
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:46:50 ID:qyQNNjXU0
砂利を踏む感触が消えると僕は一旦その場に止められ靴を脱がされる。
スリッパのようなものを履かされると、今度は屋内と思わしき中を歩かされた。
妙に静まり返った中、響くのは床を踏みしめる乾いた音、或いは擦れる音だ。
張り詰めたような緊張感は、恐らくこの空間にいる全ての人が放つものなのだと理解をする。
先から嫌な予感がする。
こんな大それた手段を行使した人物は間違いなく格下の人物ではない。
僕の手を引いているヤの字の人がこの部隊の統率者と言うか、一番偉い人なのだろうと察する。
けれどもそんな人をも扱使う人物って、ああ、いや、もう、うん……。
「長岡ぁ! おせぇぞこの馬鹿野郎がぁ!」
(;==ω=)「ひぅっ!?」
突然怒声がした。
鼓膜が震える程の声量で、僕は折れそうになった脚を自分の手で支える。
_
( ゚∀゚)「親父! 遅れて申し訳ありやせん!」
「まったくだぞこのタコ! いつまでかかってんだ、ったくよぉ……!」
先まで飄々とした態度だったヤの字の人――長岡さんがはっきりした口調で謝罪を口にした。
それに対して大声の主はまるで寛容性の欠片もない。場の空気も更に張り詰める。僕の背に汗が大量に流れる。
「んぉ……おい、長岡! その少年か!? それが噂の……!」
_
( ゚∀゚)「そうです、親父。この少年が内藤ブーンです」
目隠しをしている僕だが、今、目の前に途方もない熱量が迫った気がする――いや、気がするのではない。間違いなく大きな何かがいる。
それは獣の如くだ。鼻息が近くで聞こえる。おまけに見下ろされている感じがする。
146
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:47:49 ID:qyQNNjXU0
ああ、心臓が早鐘を打っている。もう爆発寸前なくらいだ。
僕を見下ろす誰かは間違いなく偉い人で、この集団を纏め上げるリーダー格な訳だ。
そんな人が僕に迫ってくるって言うのは、そりゃもう疑う余地もなく、ましてや改めてどうこうやり取りする必要もない訳で。
「ようやく……ようやく会えたなぁおい! ごるあぁ!?」
(;==ω=)(あ、あわわわわわわ……!)
声の大きさに畏縮すると共に血の気が引く。
お母さん、お父さん、どうやら僕は今日死ぬみたいです。
だってもう、なんかこれ……無理ですやん。
生きて帰れる気が微塵もせんのですもん。
怒涛の連続だったこの一週間、こんな幕切れで人生終了か。
何ともやるせないけど、でも、それが人生なのかもしれない。
(===ω=)(これが涅槃寂静か……我、色即是空を体得せり……)
ああ、きっと僕は間も無く殺される。
この目の前にする姿も顔も見えない誰かに。
(;==ω=)「こ、殺すならいっそ一思いにやってくださいお!」
終わるのであれば、せめて苦しい思いをせず終わりたい。
が、そんな僕の叫びを聞いた目の前の誰かと言えば……。
「こ、殺す? なにを言ってんだ……?」
(;==ω=)「え……?」
まるで意味不明だ、とでも言いたげにそんな台詞を漏らし、つられて僕も呆けたように言葉を返してしまった。
147
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:49:17 ID:qyQNNjXU0
_
(;゚∀゚)「おいおい、内藤……さっき言っただろう、俺達はお前を傷付けるつもりはないってよ」
(;==ω=)「え……い、いや、でもなんか、目の前にいる人が凄い怒ってるみたいだったんで……」
_
(;-∀-)「……親父ぃ。お客人相手なんですよ、もう少し落ち着いて、穏やかなトーンで言葉をですね……」
「ぬ、ぬぅ……長岡、うるせぇぞお前!」
_
(;-∀゚)「当の本人が怯えてるんですってば……おい、内藤、少しじっとしてろ」
困惑する僕だったけれども、しかしそんな僕の手錠が外され、次に目隠しが外される。
ようやっと自由になった腕を少々動かしつつ、僕は封じられていた瞼を開いた。
少々の眩しさによりピントがずれる。
しかしややもすれば修正が済み、僕は改めて視界を取り戻すと、ようやっと目の前にいる人物を見る……。
( ^ω^)「……人ぉ?」
(,,゚Д゚)「おぉん? 人に決まってんだろう?」
……山だった。それはもう巨大な……山にしか見えなかった。
背はニメートルそこらで、筋肉マッチョだった。動物で例えれば熊がいいのかもしれない。
その威圧感は半端じゃない。短く刈られた髪や鋭い双眸、更に無精髭も相まって厳めしい風貌だ。
そして着流し姿ではあるが、胸元には当然入れ墨があったし、腕も足も全て末端部位まで入れ墨があった。所謂ドンブリってやつだろう。
再度全身から汗を垂れ流し僕は後退る。
しかしその分の距離を目の前の熊が一歩を踏み出して埋めるのだ。
148
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:50:34 ID:qyQNNjXU0
(,,゚Д゚)「待ってたぞ、そりゃもう待ってたぜぇ……!」
(; ^ω^)「ちょ、ちょっと、あの」
(,,゚Д゚)「君に会う日を待ち遠しく思ってたんだぞ、ごるあぁ……!」
(; ^ω^)「や、やめっ、その腕で何する気なんですかぁー!」
伸びてくる太い腕。
やっぱり殺されるんじゃないか、と涙を垂れ流しながら僕は逃げようとするが、しかしそんな僕の肩を掴んだ熊。
捕食されるか、滅茶苦茶に破壊されるか……どっちにせよ救いはない。
(; ^ω^)「わぁあー! 誰か助けてくれおおおお!」
肩を掴まれ引き寄せられる僕。
熊の表情なんて見るまでもない、怒り狂ったそれに違いない――
149
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:51:39 ID:qyQNNjXU0
……ぽん、と。僕の両肩に巨大な手を乗せた熊。
更には先までの険しい表情が嘘のように朗らかな笑みに変わり、僕の視線に合わせて屈みまでした。
(,,^Д^)「いやぁ、すまんな内藤くん……手荒な真似をしてしまったなぁ。
誰も変なことしちゃいねーか? 殴られたり蹴られたりはしてないか?」
(; ^ω^)「え……え? あの……?」
(,,゚Д゚)「まぁ見やるにそんな痕跡もないな。
しっかし、おい長岡ぁ! お前、ちゃんと状況の説明は済んでるんだろうな!?」
_
( ゚∀゚)b「ある程度は済ませておきましたぜ、親父」
( ^ω^)「いや済んでねーだろ」
(,,゚Д゚)-3「ふん、ならいいぜ」
( ^ω^)「いやだから済んでないって……」
(,,^Д^)「いやぁ、名乗り口上遅ればせながら、いやはや何とも済まんこってすなぁ、内藤くん! ぎこはははは!」
(; ^ω^)「あ、あははー……?」
ばしばしと背を叩かれる僕。
いや、あの、その……何がどうなっているのやら……。
150
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:52:40 ID:qyQNNjXU0
_
( -∀゚)「ん、んん! あー……内藤。お前さんは何も知らんみたいだから教えてやる」
( ^ω^)「(やっとかよ)え、あ、はい」
_
( ゚∀゚)「今、お前の目の前にいる人物……そのお方がお前さんを連れてこいと俺達に命じたのさ」
( ^ω^)「あ、はい」
_
( ゚∀゚)「そのお方が何者か、と言うのは……ほれ、後ろにある代紋を見ろ」
促されて室内の奥にあった、これまた厳めしい大きな代紋を見つけた僕。
(; ^ω^)「……ん?」
_
( ゚∀゚)「理解したか?」
(; ^ω^)「いや、あのヤの字さん?」
_
( ゚∀゚)「長岡だ」
(; ^ω^)「長岡さん? あの、なんか……見間違いかもしれないんですけど……」
僕は震える指をその代紋へと向ける。
何故震えるのか、なんて言うのは語るまでもない。
だってその代紋にある名前なんですがね……。
151
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:54:24 ID:qyQNNjXU0
(; ^ω^)「い、出流って、書いてある気がするんですけど……?」
珍しい名前だな、と思っていた。滅多に見ないものだ。おまけに厳めしい上に彼女に不相応だとすら思った。
僕はこの瞬間、昼間の教室でドクオやツンが言っていた台詞を思い出し、更には一人で合点すると硬直までした。
_
( ゚∀゚)「ああ、そうだぞ内藤。今、お前さんの前に立っている御方こそは日本最大の暴力団、
出流一家が組長の出流ギコ組長で、我等がお嬢……デレお嬢様の実のお父上様だ」
(; ^ω^)「……はぁあああ!?」
(,,^Д^)「ぎこははは! まずは酒だな! いや茶か!? 兎に角、手前等、盛大にお客人をもてなせやごるぁああ!!」
にっこにっことしている目の前の熊さん。
どうやら一つの組の頭領だそうで、更にはその熊さんの正体は、我が校のマドンナであらせられるデレさんの……お父様だった。
152
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/29(日) 22:55:21 ID:qyQNNjXU0
本日はここまで。
少しばかり一回の投下量を増やします。恐らく十月半ばまでには完結すると思います。
それではおじゃんでございました。
153
:
名無しさん
:2019/09/29(日) 23:14:49 ID:j9z6io2c0
創作の修羅か?
154
:
名無しさん
:2019/09/30(月) 00:47:26 ID:p.p2VC3c0
おつ ほんと面白い
155
:
名無しさん
:2019/09/30(月) 11:08:22 ID:aEhrnxjI0
おつ
シリアス寄りになっていくと思ったら平常運行で安心した
内藤肝座りすぎだろ
156
:
名無しさん
:2019/10/01(火) 07:44:49 ID:w7qwZ/mIO
書くのはえーよ
乙!
157
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:24:49 ID:D/306Sm.0
拝啓、お母さまへ。
今日は帰りが遅くなると思いますが心配はしないでください。
今、僕は見知らぬ場所にいます。
ここが何処にあるのかも分かりませんが、通された室内は純和風で、広間は全面畳でした。
左右には多くの人達が控えていて皆黒いスーツを着ていますが、恐らくカタギではないでしょう。
でも心配はいりません。
今、僕のいる場所は恐らくヤクザの本拠地で、目の前にする熊さんがそのドンで、しかもあのデレさんのお父さんだったとしても、きっと何の問題もないでしょう。
少しばかりお茶を飲んで、談笑して、夜になる前には家まで送ってもらえると思うのです。
だって僕は一般ですから。その筋の御方が何故カタギに手を出しましょうか。
拉致紛いのことをされたって僕はへっちゃらです。何せお母さんの息子ですから。
それに長岡って言う人も僕の神経は図太いと言ってくれました。つまり強い子なのです。てへへ。
(; ^ω^)「あ、あばばば! 帰ります帰ります今すぐ帰るって言うか帰して逃がしてくださいいいい!」
何故……そう、何故、と言う疑問が浮かぶ。
僕を御所望した理由が不明だが、しかし実のところそんなの考えるまでもない。
ここ一週間ばかりデレさんは僕に首ったけだった。
恐らくその情報を知り得たこの熊さん……ギコ組長は僕を八つ裂きにするつもりなんだろう。
我が愛娘に手を付けやがって、覚悟はできてるんだろうな坊主……だとかと言うに決まってる。
158
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:25:24 ID:D/306Sm.0
だが弁明をさせて欲しい。
決して僕は彼女に手を出してはいないし、そもそも受け入れた覚えもないのです。
と言うか寧ろ僕には申し立てることが多くある訳で、例えば僕の私物を拝借したり家にまで押しかけてきたり、他様々な異常行動の全てをぶちまけたいくらいだ。
けれどもそんなことを口にすればどうなるかなんて明らかだ。
言い訳をするなだとか嘘を吐くなと突っぱねられて僕の首は吹っ飛ぶ。そうして打ち首獄門よろしく、橋の上に生首が置かれる訳だ。
ああ、何故僕はここまでついていないのか……神様がいたら顔面を思い切り殴ってやりたいくらいだ。
ゴゴゴゴ(,,゚Д゚)ゴゴゴゴ「内藤くん……」
(; ^ω^)「ひゃいぃ! なんでしょうかお組長さん! せめて殺すなら痛くないようにお願いします!」
ゴゴゴゴ(,,゚Д゚)ゴゴゴゴ「何を言ってんだごるぁ? 俺は――」
(; ^ω^)「いいえ言わなくっても十分に理解出来てますお! 娘さんに近寄って挙句は親しそうに日常を共に過ごしたことは正に罪!
それを断罪なされると言うのならば最早申し開きも糞もありませぬぅ!」
ゴゴゴゴ(;゚Д゚)ゴゴゴゴ「いや、ちょっと落ち着いて」
(; ^ω^)「皆まで仰るなオジキィ! あっしはチンケなカタギでやんすが、しかし誓っておたくの娘さんにゃぁ手ぇ出しとらんのです!
それだけはどうか、どうかご理解いただきたく申し上げ候ぉ!」
ゴゴゴゴ(;゚Д゚)ゴゴゴゴ「……おい長岡。どうしちまったんだ、内藤くんは」
_
(;゚∀゚)「あー……大分切羽詰まってるみたいですね。あとそのゴゴゴゴってやつの所為じゃないすか?」
(;゚Д゚)っゴゴゴゴ「オーラがダメかぁ……」ベリッ
159
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:26:27 ID:D/306Sm.0
泣き叫びつつ土下座をしつつ、僕は無様も気にせず必死になる。だって死にたくないもの。
それに勘違いされたまま人生終了って死んでも死にきれないっすもん。
_
( ゚∀゚)「だから落ち着けよ、内藤。親父も言ってただろう? お前をどうこうするつもりはねぇんだって、俺達は」
(; ^ω^)「そそそそ、そんなこと言っておいて油断したところを寄ってたかってタコ殴りにしたりするんでしょお! その手には乗らんざきぃ!」
_
(;゚∀゚)「テンパるとすげぇ面倒くせえな、お前さん……親父、どうしやすか」
(;゚Д゚)「どうもこうもなぁ……」
僕の土下座を前にギコ組長は困ったようにそう呟く。
(,,゚Д゚)「……内藤くん」
(; ^ω^)「ひゃい!」
(,,゚Д゚)「面ぁ上げてくれんか」
(; ^ω^)「お、おぉっ……おもてをですかお……」
(,,゚Д゚)「おうよ。そうも額突(ぬかづ)かれちゃ顔も見れねえ。俺ぁ君の面を見ねえとならねえんだ」
あ、これもう無理っすね。有無を言わせぬような、はたまた感情の宿らない声色が僕に終わりの時を告げている気すらするね。
よし、腹を括ろう。せめて理不尽と対峙しても僕は正々堂々としていたと胸を張って言えるような、そんな顔で死のう。
僕は決意をすると、静かに顔をあげるのだが……。
160
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:27:17 ID:D/306Sm.0
(,,-Д-)「御足労かけて……更には無理矢理な形できてもらって、誠、すまんこってす」
(; ^ω^)「……え?」
なんとそこには、頭を下げる組長さんの姿があった。
_
(;゚∀゚)「親父ぃ! 正気ですかい! ガキ相手に……土下座だぁ!?」
(#゚Д゚)「黙れ長岡! 手前等も突っ立ってねえで内藤くんに頭下げねえか!」
_
(;゚∀゚)「で、でもそいつは……!」
(#゚Д゚)「馬鹿野郎が! メンツだなんだと言うつもりならぶん殴るぞ長岡!
極道が一般に無礼働いてんだ、そうなりゃ謝るのは当然至極だろうが! 筋も通せねえ極道者なんざ俺の組にゃ要らねえ!」
_
(*゚∀゚)「親父ぃ……!」
大声量で怒鳴り散らす組長。
状況に困惑していた構成員の方々とそれを纏める長岡さんは、組長さんに続くように皆して膝を突いて僕に頭を下げた。
(; ^ω^)「え、え、え!? 何ですかおこれ!? いやいややめてくださいお! なんでこんな……!」
(,,-Д-)「内藤くん、君には大層迷惑をかけている。今回の件もそうだが、うちの娘が……デレがお転婆をやらかしているだろう」
(; ^ω^)「え……!」
頭を伏せたままそう言う組長さん。デレさんの名前を当然のように紡いだことに少々驚いた。
やっぱり彼女の親なんだと改めて僕は認識する。
161
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:28:14 ID:D/306Sm.0
けれども意外過ぎる言葉だ。
今、組長さんが口にした言葉は、つまり、デレさんが仕出かしているハチャメチャな行動に対して謝罪をするということで。
(; ^ω^)「と、取り敢えず頭をあげてくださいお、組長さん! 皆さんも! お願いですから!」
(,,゚Д゚)、「いやしかしな……」
(; ^ω^)「お、落ち着かないんですお! だからあげてあげて! どうか!」
(,,゚Д゚)「まぁ、そう言うんなら……手前等、面ぁ上げろ!」
やっとこさお顔を上げてくださった組長さん。
他の面々も何とも言い難い顔付きのまま、改めてその場に座り寡言になる。
再度僕の隣にきた長岡さんは座布団を僕の足元におき、促される形でその上に正座をした。
僕と対面するのは組長さんだ。やっぱり巨大で、その見てくれは熊のままだ。
そんな組長さんを観察していると隣の襖が開いて女中さんらしき人がお茶を持ってきてくれた。
それを受け取り、組長さんが湯呑を傾けるのを待ってから僕も内容を啜る。あ、梅昆布茶だこれ。
(,,゚Д゚)「内藤くん……一応、長岡からある程度は聞いているという話だったが……」
(; ^ω^)「え、と……その、本当に軽い程度にですけどお……」
(,,゚Д゚)「んむぅ……何故ここに呼ばれたのかはもう把握してるか?」
(; ^ω^)「はい、その、お嬢って言う人と僕が関わっているからだ、とは聞いてましたけど……まさかデレさんのことだったなんて……」
162
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:29:44 ID:D/306Sm.0
最初からデレさんだって言ってくれたらいいのに、何故そこをはぐらかしたのだろうか。
_
( ゚∀゚)「お嬢のお名前を口にする訳にゃいかねえのさ。畏れ多いにも程がある」
(; ^ω^)「そ、そこまで徹底してるんですかお……?」
_
( ゚∀゚)「当たり前だろう? 親父の一人娘……俺達からしてみりゃおひいさまだ。俺達三下風情がどうして口にできるってんだ」
どうやらデレさんは皆に神聖視されている様子だった。
(,,゚Д゚)「まぁ、理由はそれそのものなんだ、内藤くん。君はここ最近、デレと親しくしているだろう」
(; ^ω^)「や、やっぱりそのことでお怒りなんですかお!」
長岡さんや他の組員さん方がデレさんの名前を口にすることが出来ないってなると、それって箱入り娘って言うか超絶大切に育てられたお姫様だ。
そんな彼女と関わりを持てば、やっぱり親としては許せないんじゃ……。
(,,゚Д゚)「いや、寧ろその逆なのさ、内藤くん。俺ぁな、今日、君に……礼と、もう一つは謝罪をするつもりだったんだ」
(; ^ω^)「え……?」
震えているところに、予想だにしない台詞を寄越されてしまった。
我が耳を疑いつつ、僕は少々の沈黙の後に訊き返してみる。
163
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:30:44 ID:D/306Sm.0
(; ^ω^)「え、と……感謝と、謝罪……ですかお?」
(,,゚Д゚)「うむ……これまでに何があったのか……君の身におこった不幸とも呼べるこの一週間弱の問題の数々。
それ等は俺の教育不足が招いた結果とも言える」
(; ^ω^)「んなっ……そ、そんなことは……」
(,,-Д-)「それとはまた別に、あの子の心を開放してくれた君には……誠、頭があがらねえ」
(; ^ω^)「は、はい……?」
(,っД;)「あの子がよもや恋をするとはなぁ……その報告を聞いた時、不覚にも涙が零れたよ。あぁ、今思い出しても泣けるっ……」
_
( -∀-)っ□「親父、ハンカチでござんす……」
(,,;Д;)「済まねぇな、長岡……はぶふぅあぁあ!」
豪快に鼻水を絞り出した組長さんだが、しかし今し方彼が口にした言葉を聞いて、僕は首をかしげた。
(; ^ω^)「え、とですお、組長さん。その、謝罪の方は今は他所にしてですけど……」
(,,゚Д゚)「ん? なんだ?」
(; ^ω^)「その、感謝の理由……デレさんの心を開放しただとかって言うのはどう言う意味ですかお……?」
普通、娘が男に恋をしたら親父っていうのは怒るものだと思っていた。
だが彼の場合はそれの対極で、デレさんが僕に恋をしたことに大層感激している様子だった。
しかしそこには何らかの理由があるのだろう。
紡がれた開放という言葉。まるで今までの彼女は深く閉じこもっていたようにも聞こえる。
164
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:32:12 ID:D/306Sm.0
(,,゚Д゚)「……親の俺が言うのもあれだが、ほれ、デレは超絶美少女だろう?」
( ^ω^)「そうですね、それは本当に否定のしようもないです」
(,,゚Д゚)「賛同感謝するぜ。兎角、デレは幼い頃から美人さんでな。同年代の子らからも、そして大人の世代からも大層可愛がられてきた」
( ^ω^)「いいことじゃないですかお。嫌われるよりもよっぽどいいですお」
(,,゚Д゚)「と、思うだろ? けどな、デレは年頃はまた別にしても、幼い頃から色々と感じ取っていたみたいでな……」
( ^ω^)「感じ取る……?」
人格の形成は五歳の頃までと言われている。
それまでの生活……家庭の環境だったり、人間関係なんかで性格が決まってしまうと言うことだ。
親となる人達は生まれてからの五年間に大層気を遣うそうで、そう言えば母もそんなことを言っていたな、とふと思い出した。
さて、そんな時期のデレさんは今と変わらず周囲の人々に滅茶苦茶可愛がられていたそうだが……。
(,,゚Д゚)「モテるというのは辛いこともあるんだろう」
( ^ω^)「辛いこと……」
(,,゚Д゚)「内藤くん。もし君が女性だった場合、下心満載で迫ってくる男をどう思う?」
( ^ω^)「殴りたいですおね」
(,,゚Д゚)「だろう? それが普通だ。だが“それ”がもし普通になるような環境だったら……男は皆下心を持ち迫ってくるような環境だったら、
果たして向けられる方はどう思うだろうかな。人格というものはどうなる、心はどうなるだろうか?」
( ^ω^)「え……?」
幼い頃から美人さんでモテモテだったデレさん。
その年の頃の男児に性的な欲求がないとしても、男としての性と言うか、デレさんに対して純情とはまた違う思いを向けていたそうだ。
165
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:33:12 ID:D/306Sm.0
(,,゚Д゚)「デレの私物はよくなくなった。日常的にセクハラまがいのことまでされていたしなぁ……」
(; ^ω^)「えっ、本当ですかそれ!?」
(,,゚Д゚)「ああ……まあ幼い時期と言えば当然スキンシップはあるだろうけどよ、
スカートを捲るだけにとどまらず尻に触れようとするだとか、追いかけ回して衣服ひん剥こうとするだとかもあった」
(; ^ω^)「クソガキじゃないですかお、それ!」
(,,゚Д゚)「魔性の女、という言葉は……正しくデレの為にあると言ってもいいだろう。
あの子は立っているだけで人を惹きつける。よからぬ感情を駆り立てる……ニンフォマニアってやつだろうなぁ」
……確かに、デレさんは美貌も含めその豊満な肉体がとても魅力的だ。
だが他に挙げるとすれば、何度も触れていることだが――あの空気感だ。
生まれ持ったものと言ってもいい。
デレさんはつまり、普通よりも濃く強い色香を授かったようなものだった。
(,,゚Д゚)「流石においたが過ぎる子供らは躾をしたけどよ。まぁ同年代の男児に常々そんな真似をされてきたせいで、
あの子は非常に控えめで大人しい子になっちまったんだ」
(; ^ω^)「…………」
それはきっとトラウマと呼べるのかもしれない。
当事者たちに悪意はないにせよ、被害者であるデレさんにとっては……幼少期の頃と言うのは辛かっただろうと思う。
166
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:34:56 ID:D/306Sm.0
(,,゚Д゚)「こう言ったことの他に、大人の世代からも可愛がられたが、これは、まぁ……何となく分かるだろう、内藤くん」
(; ^ω^)「組長さんに取り入ろうとして、デレさんを可愛がっていた、とか……?」
(,,-Д-)「ごるあぁ……皆してデレを可愛がったが、真の意味であの子を大切にしてくれた奴等はうちの組の者のみだぜ。
他の奴等は浅ましい目的であの子に近づいたが……子供ってのは、驚くほどに鋭敏でな。そう言う大人の気持ちや感情をあの子は察していたんだろう」
子供って本当に鋭い。
言葉足らずで思慮も足りないけど、それでも本能的と言うか直感が冴えていて、特に観察眼が長けている。
そうやって成長するのが子供なんだろう。
言葉を持たないから人の顔を観察する。仕草を見る。声の大小を判断する。
その人が何を考えているのか、どう言う思いを抱いているのかを見て感じて理解する。
(,,゚Д゚)「結果、あの子にとって男と言う生物は皆下心やら浅ましい思いを秘める生き物に見えていた訳だ。
近寄る奴等は肉欲の権化、或いは野心に燃える家畜同然、ってな」
( ^ω^)「…………」
その見てくれとその家に生まれたから――それだけと言えばそれだけだ。
けどデレさんに責任はないし、そんなデレさんを捻じ曲げた男共は素直に糞だと思った。
幼い頃からそんな環境だったら、そりゃ男性に対する信用なんて皆無だろう。
おまけに成長するにつれて男女は誰もが知識を得て経験を欲し憧れを抱く。
皆にとってデレさんはマドンナだ。
それって僕達の気持ちだけど、じゃあそれを向けられていたデレさんの内心って言うのは、本当のところは……どうだったんだろう。
167
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:36:09 ID:D/306Sm.0
(,,゚Д゚)「高校に入ってからのデレは家の中でも静かになっちまった。外じゃ品行方正だなんだと言われているそうだが、んなこたぁねえ。
あの子は俺の前じゃお転婆のまま……そうだな、君に見せる時のままさ、内藤くん」
( ^ω^)「そう、だったんですかお……」
(,,-Д-)「けれども俺の前ですら静かになった時、俺は己の無力を呪ったよ。うちの子に生まれたというだけでも申し訳ない気持ちでいっぱいだが……」
_
( ゚∀゚)「親父ぃ! そんなこたぁねぇですよ!」
(#゚Д゚)「うるせぇ長岡! 手前にゃ分からねえさ、親の気持ちなんざな……」
( ^ω^)、「組長さん……」
_
( ゚∀゚)、「親父……」
悲痛な面持ちになるギコ組長。それを見て場にいた人たちは皆顔を伏せた。
対面して直ぐは恐ろしい人物にしか見えなかった僕だけれど、今の組長さんはどこからどうみても人の親で、自責の念に埋もれる可哀想な人にも見えた。
(,,-Д-)「けど、そんなあの子が、うちのデレがな……一週間前に、俺の前にきてこう言った」
――好きな人が出来た。
その言葉を聞いて組長さんは驚きのあまり思考が吹っ飛んだと言う。
168
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:37:27 ID:D/306Sm.0
(,,゚Д゚)「歳を重ねるにつれて翳るばかりにも見えたデレが、満面の笑みを浮かべて、赤い顔をして俺にそんなことを言った。
あの子が誰かに関心を抱くことは今までなかったが……それが君だったんだ、内藤くん」
( ^ω^)「僕……」
恋なんてしたことがないデレさん。
どうしていいのか分からず、その日は……僕の上靴を持って帰ったそうだが、流石の組長さんもそれは可笑しいと叱ったそうな。
(;゚Д゚)「あの子は経験も何もねーからなぁ。漫画やら小説やらから学んだそうだが、しかし可笑しな方向にいっちまったみたいでよ……
まさか上靴を煮込んでそれを出汁にして味噌汁にしやがるとは思わんかったぜ」
(; ^ω^)「それ本当だったんですかお!?」
(;-Д-)「ごるあぁ……しかも副菜には君の髪の毛で和えたサラダだとかもあったしよ……」
(; ^ω^)「何やってんのデレさん!?」
うん、一気に今のデレさんのイメージに追いついたね。
(;-Д-)「そんな行動が我が家でも見られたから、こりゃマズいと思って暫く監視してみたが……いやはや、君を追いかけ回したり、
護身の為にと渡した匕首で君に迫る輩を傷つけようとしたり、仕事道具の発信機を勝手に持ち出したり……完全にこれは俺の教育不足だぜ……」
(; ^ω^)「い、いや、多分教育云々の問題じゃないと思いますお、組長さん……」
(;-Д゚)「だが君に迷惑を掛けたのは事実。今日はどうやらデレと一緒にいなかったみてえだから、この機を逃すまいと思って君に来てもらった次第なんだよ」
と、そこで了となり、僕はようやっと合点となる。
169
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:39:13 ID:D/306Sm.0
今日、僕を連れ去った理由はデレさんに関することを伝える為。
彼女の過去、そしてこの一週間ばかりに起きた迷惑な問題の数々に対する謝罪、それと感謝の言葉が目的だった訳だ。
まあ他にも僕を呼ぶ手段があったとも思えるが、どうやら組長さん的にはデレさんに気取られる前に済ませたかったように思える。
結局、僕は本日もこうして迷惑を被った訳だが……。
( ^ω^)(デレさん……)
少しばかり彼女に対する思いが変わったのは事実だ。
僕以外の皆は彼女の生まれを知っていた。
過去のことについてはどうか分からないけども、少なくとも情報は僕よりも持っていただろう。
昼時のあの張り詰めた空気、そしてデレさんの狼狽えた様子。
彼女は僕が何も知らないことに驚いたんだろうけども、では何故それ以降接触してこなかったのか。
( ^ω^)(生まれや過去を知らないからこそ、僕がそう言う態度を取ると……そう思ったのかお……?)
真実を知れば僕も有象無象の一人になると思ったのだろうか。
或いは恐怖されることを恐れて僕の前から消え去ったのだろうか。
どちらにせよ僕は今――
( ^ω^)「物申したいお……」
(,,゚Д゚)「ん? 何か言ったかい、内藤くん?」
心の中で何かが湧く。
それはよく分からないものだったけれども、ただ、今、僕はどうしてもデレさんに会いたかった。
170
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:39:56 ID:D/306Sm.0
( ^ω^)「デレさんは御在宅ですかお?」
(,,゚Д゚)「いや、それがまだみたいでよ。それだからこうして急いで君を呼んだんだ」
( ^ω^)「成程。それじゃ……デレさんが帰ってくるまでいてもいいですかお?」
_
( ゚∀゚)「おいおい、内藤、そいつはちっと親父のお考えとは違うぜ」
( ^ω^)「デレさんの知らないところでコソコソとやるのがよかった訳ですかお」
_
( ゚∀゚)「……口には気を付けろって言ったはずだぞ、内藤」
僕の発言によって場に緊張が走った。
それは長岡さんが発するもので彼は僕を強く睨む。
しかし僕はそんな彼に対して視線を返す。
( ^ω^)「話がしたいんですお。デレさんと」
_
( ゚∀゚)「……内藤」
(,,゚Д゚)「内藤くん……」
そうだな、多分、この感情は……苛立ちに近い。
まるで僕も“そいつら”と同じじゃないか。
結局、真実を知れば僕も有象無象と同義になるとでも思っているんだろうか。
だとしたら、それはもう、本当に――嘗めているとしか思えない。
171
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:41:03 ID:D/306Sm.0
「そうだよねぇ。本当……嘗めてるよねぇ、内藤くん」
( ^ω^)「へ?」
さて……少しばかり話は変わるが、ここのところの僕の生活は滅茶苦茶だ。怒涛と呼んでもいい。
それもこれもデレさんと関わるようになってからだが、けれどもそんな怒涛を更に混沌へと導いた誰ぞかもいるのだ。
「たっ、大変です組長!」
(#゚Д゚)「なんだ、どうしたぁ!」
「そ、それが、本家周辺に……武装した集団が押し寄せてきてるんです!」
(#゚Д゚)「あぁ!? なんだとごるあぁあ!?」
今、僕の思考を読み取ったような声が響いた。
それの出所は先程女中の人が出てきたのとは反対側の襖……つまり縁側の方からだった。
そんな声に反応を示す以前に、どこからか駆けてきた組員の台詞に場は騒然となる。
172
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:42:19 ID:D/306Sm.0
よもや殴り込みか、どこの組が――皆は慌てふためくが、しかし僕の注意は先から変わらず縁側の方へと向かう。
「嘗めている……いや実に嘗めているだろう。この私が見ている傍で拉致……?
ふん、これだからヤクザ者は嫌なんだ。実に実に不愉快だ」
_
(#゚∀゚)「おい、そこにいるのは誰だ! 出てきやがれ!」
(#゚Д゚)「何処のどいつだこら!! 俺ん家の敷居勝手に跨いだんかごるぁあ!?」
立ち上がった僕に直ぐ様駆けよる長岡さんはドスの利いた声で怒鳴り散らす。
周囲の混乱も他所に、ギコ組長も僕の後ろに立つとそう叫ぶのだが……。
( ・∀・)「――喧しいな。弱い犬程よく吠えるとは言うが……お前は相も変わらずに喧しいぞ、出流ギコ」
(;゚Д゚)「んなっ……! なんで手前がここに!?」
静かに、軽やかに戸は開いた。まるで喧騒を切り裂くような勢いに誰もが数瞬挙動を忘れる。
皆の視線は、今、戸を押し開き姿を見せた男に集まった。
(; ^ω^)(だ、誰だお……?)
白いスーツを着たオールバックの風貌。見るからに紳士を思わせるのは雰囲気によるものだろうか。
身に着ける装飾品の数々……腕時計や指輪はどれもこれも高級そうだ。
紳士の君は突然の登場と共に、土足厳禁の畳の上を当然のように革靴で歩いてくる。
173
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:43:16 ID:D/306Sm.0
( -∀・)「何故? 何故と問うなよ出流。お前の娘が彼に……内藤くんに御執心のように、我が娘も同じくなのさ」
(; ^ω^)「え……えっと……?」
( ・∀・)「ああ、済まないね内藤くん。どうにも混乱している様子だ。
しかしこのような体面になるとはなぁ……実に済まない。あまりにも不恰好だねぇ」
……さて、そう言えば昨日くらいからとある少女と僕は親しくなった。
彼女との馴れ初めに特別なものはない。学校生活でもご飯を一緒に食べたり、宿題を見せてやる程度の間柄だ。
だが彼女と言う存在は特別な部類で、それと言うのも……あのデレさんと双璧を成すとまで呼ばれている。
(#゚Д゚)「不恰好も糞もねえぞこの馬鹿野郎が! 外の兵隊は手前のところのか!?」
( ・∀・)「その通りだ出流。彼を勝手に連れ去るとはいい度胸をしているじゃないか」
(#゚Д゚)「何がいい度胸だ、お前こそ仕事をほっぽりだしてこんな派手な真似しやがって!
それでいいのか、大財閥の長……津々矢モララー!」
その少女の名前は津々矢ツン。
彼女もまた特別な御家柄だと言うのは察していたが……。
174
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:44:04 ID:D/306Sm.0
( ^ω^)「……大財閥?」
_
( ゚∀゚)「なんだ、知らんのか内藤。津々矢財閥を」
( ^ω^)「え?」
_
( ゚∀゚)「通称津々矢グループ。ほれ、開発投資やら食品やら保険やら家電やら工業系まで他様々に手広くやってる一族だ」
( ^ω^)「え、えぇと……?」
_
( ゚∀゚)「本当に知らんのか? お前さんが最近お嬢以外にもうつつを抜かしてる相手……津々矢ツンのお家じゃねぇか。
あの男が津々矢グループの主体とも呼べる浄土院商事の代表取締役社長の津々矢モララーで、津々矢ツンの実父だろう?」
最早驚くまいと思っていたんだけれどね、あのね……。
(; ^ω^)「……マジでえええええええ!?」
_
( ゚∀゚)「マジマジ」
予想つく訳ないよね。無知で本当にごめんなさい。
175
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:44:37 ID:D/306Sm.0
◇
( ・∀・)-3「久しぶりに上がったが……どうにも剣呑としているな。何かあったのか、出流?」
(#゚Д゚)「何かも糞も、手前がやってきたから一つの騒ぎになってんだろうが!」
僕を挟んで対峙するのは熊さんと紳士さん。
かたや出流一家という組織の頭領、かたや津々矢財閥と言う組織の頭領。
これって見方によれば裏の世界と表の世界が正面切って戦争しようとしている景色にも見えたりする。
ああ、つまりは頂上決戦にも等しいんじゃ、なんて思いつつ僕は遠くを見つめぼうっとしていました。
_
( ゚∀゚)「いやいや現実逃避をするなよ内藤。ちゃんと受け止めなきゃいけねぇよ」
(; ^ω^)「無理に決まってるでしょう!?」
先から周囲は騒がしい。
それと言うのも現在、僕のいるここ――出流組本家の周囲を武装した一派が取り囲んでいるからだった。
よもや仁侠映画よろしく殴り込みだろうか、なんてドキドキする僕だけども……。
(#゚Д゚)「表立って私兵を動かすたぁ大胆だな津々矢……いいのか、マスコミに知られでもしたらとんでもないことになるぞ」
( ・∀・)「何、そんな心配は無用だ。どこぞの誰かが見ていようとも不足はないよ。
そもそも……我がグループに連なるマスメディアが如何程か知らないお前じゃあるまい、出流」
睨み合う二人はどう見ても一触即発だった。
何でまた僕はこんな騒ぎの中心にいるんだろう。これもまた宿命ってやつなのだろうか。
176
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:45:47 ID:D/306Sm.0
_
(;゚∀゚)「親父ぃ! 集団が塀を越えてきやすぜぇ!」
(#゚Д゚)「ちっ……退く気はねぇのか、津々矢」
( ・∀・)「ないな。これは私の見ている前で図に乗ったことに対する制裁だ。潔く受け入れ蹂躙されろ」
(#゚Д゚)「相も変わらずの利かん坊が……手前等、道具持ってこい!」
_
(;゚∀゚)「お、親父! ヤる気で!?」
(#゚Д゚)「何年経ってもこいつとは反りが合わんが、この只今こそが因縁に終止符を打つ時よ!」
( -∀・)「いい度胸だな、出流。社会のはみ出し者程度がこの津々矢モララーに勝てる道理はないと知れ……!」
(; ^ω^)「いや止めて! 本当止めて! なんか銃撃戦とかめっちゃ聞こえてくるんですけどお!?」
外ではドンチャン騒ぎがする。なんか甲高い音だとか鎬を削るような音もするけど、多分覗き見ちゃいけない奴だと思う。
僕は板挟みになりつつ二人を抑えとどめようとする。長岡さんと言えば奥に駆けていったと思ったら日本刀を持ってきた。
_
( ゚∀゚)「親父ぃ! 道具を持ってきやしたぜぇ!」
(#゚Д゚)「ご苦労だ長岡、手前も暴れてこい!」
_
( ゚∀゚)「御意に!」
(; ^ω^)「待って長岡さん! あなたくらいしか話通じる人いないのにこの状況で僕を一人にしないでお願い!」
_
( ゚∀゚)「おおそうだ内藤! これをやろう!」
自身の懐を漁った長岡さん。
そのまま内容を手に掴むと僕に手渡すのだが……。
177
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:46:39 ID:D/306Sm.0
( ^ω^)っy=ー「……何これ?」
_
( ゚∀゚)「銃だ」
( ^ω^)っy=ー「え?」
_
( ゚∀゚)「撃ち方は分かるか?」
(; ^ω^)っy=ー「分かる訳ないでしょお!?」
_
( ゚∀゚)、「そうか、ならまずこのセーフティを……」
(; ^ω^)っy=ー「そうじゃないと思うお!? 長岡さん正気に戻って!?」
初めて手にした拳銃は結構ずっしりとしていて、これが命の重みってやつなのかな、なんて思ったりもして。
そんな僕にレクチャーを施そうとする長岡さんに突っ込みつつ、僕は意を決して対峙する覇者二名に言葉を紡いだ。
(; ^ω^)「や、やめてくださいお二方! 何でいきなり争ってるんですかお!」
(#゚Д゚)「止めてくれるなぃ内藤くんよ! この糞野郎だきゃぁ痛めつけてやらにゃいけねえ!」
( ・∀・)「やぁ内藤くん、少し待っていておくれ、この屑共を殲滅したら場を改めて色々と――」
(; ^ω^)「だからぁ!」
そりゃ男の子だもの、喧嘩くらいするだろう。
その規模が普通とは呼び難くても気に入らないことがあれば誰だって怒るし、看過できなきゃ争うだろう。
けどね、あのね、それに巻き込まれる僕のことをね、少しでもいいから考えて頂きたいのです。
178
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:47:41 ID:D/306Sm.0
(; ^ω^)「二人の因縁確執がどういったものか知りませんけどお! 少なからず僕に用向きがあるなら津々矢さん……えぇと、モララーさんは僕のお客人な訳でしょお!?
なら手出しは無用ですお組長さん! それと社長さんも矛をおさめてくださいお! こんな騒がしくちゃまともに話も出来ないでしょお!?」
精一杯声を張り上げて叫ぶ僕。
僕の紡いだ台詞に先まで喧騒に満ちていた景色から音が掻き消えた。
それこそは争い合う人たちがその手を止めたからで、皆は愕然とした様子で僕を見る。
(,,゚Д゚)「……成程。確かに内藤くんはすげぇな」
(; ^ω^)「お……え?」
( ・∀・)「ふむ、この胆力は確かに……ツンが執心するのも頷けるな」
(; ^ω^)「はい?」
二人は何故か面白いものを見るような感じで、朗らかな笑みを向けられる僕は困惑をする。
(,,-Д-)「仕方ねぇ……客人の前だ、粗相はするまいよ。手前等、得物を下ろしな」
( ・∀・)「皆も武器をおさめろ。私情に駆られ闘争を仕出かすとは、少々気が幼かったやもしれん」
二人はある程度の冷静さを取り戻すと入り乱れる人の群れにそう命令を下す。
ボスの命令とあらば従わない訳にもいかず、皆は少々不服そうにしつつも静かに武器をおろして沈黙した。
それを見た僕は安堵により胸を撫で下ろし息を深く吐く。
179
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:48:37 ID:D/306Sm.0
( ・∀・)「いや、済まなかったね内藤くん」
(; ^ω^)、「あ、その……」
俯いている僕の肩を叩いたのは大財閥の長のモララー社長だった。
彼は申し訳なさそうに言うけれど、僕はどう対応していいのか分からず口をまごつかせる。
(,,゚Д゚)「……ふん。おい、長岡ぁ! 茶ぁ持ってきてやれや!」
_
(;゚∀゚)「な……いいんですかい、親父!」
(,,-Д゚)「構やしねぇ……如何に相手が津々矢と言えどもよ、こいつの面ぁ……人の親の面してやがる」
_
(;゚∀゚)「親父……」
_,
(,,゚Д゚)「いいからさっさとしやがれ!」
_
( ゚∀゚)「へい、ただいま!」
様子を隣で見ていた組長は見かねた様子で、取り敢えず改めて場を仕切ってくれた。
(,,゚Д゚)「おい津々矢よ。ここは一先ず休戦だ」
( ・∀・)「……御節介焼きにでもなったか、出流」
(,,-Д゚)「じゃかぁしい。どうせお前も俺と同じ目的で内藤くんに近寄ったんだろ?」
( -∀-)「一緒にしないで欲しいが……それは事実だ」
座布団に座り直した僕は三つ巴の形で二人と対する。
そんな折、先程出ていった長岡さんが僕達にお茶を差し出す。あ、これ玉露だ。
180
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:49:47 ID:D/306Sm.0
(; ^ω^)「えぇと、その……」
( ・∀・)「ああ、挨拶が遅れてしまったね内藤くん。改めて……初めまして、私の名前は津々矢モララー。ツンの父親です」
(; ^ω^)「は、初めまして」
正面切って対峙すると改めて伝わってくるものがある。
その身嗜みは十分に紳士と呼べたけど、風格と言うか覇気と言うか、纏う空気が一般の人とは大きく違う気がした。
まるで後光でもさすかのような貫禄を受ける。ギコ組長が羅刹だとすればモララー社長は帝釈天と呼べた。
( ・∀・)「このような形が初の顔合わせになるとはね……申し訳ない気持ちと共に残念で仕方がない。
済まないね……それもこれもこの出流の馬鹿が全て悪い」
(#゚Д゚)「あぁん!? なんだと手前!」
(; ^ω^)「お、落ち着いてくださいお、組長さん! 社長さんも一々煽らないでくださいお!」
何で直ぐ喧嘩しようとするのだろう。それ程までに根が深い仲なのだろうか。
_
( ゚∀゚)「内藤、一応言っておくがこの二人は幼馴染だ」
(; ^ω^)「えっ」
_
( ゚∀゚)「とは言え昔から仲が大層に悪い。今も確執は続いている。それを覚えておいてくれ」
そう言う情報はもっと早く教えてほしい。とは言え今が知る最大の機会だったか。
181
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:51:05 ID:D/306Sm.0
(; ^ω^)「と、兎に角……あの、社長さんも僕に用立てがあったんですかお?」
( ・∀・)「ん、あぁ……その通りなんだ内藤くん。君とはいずれ話をしようと思っていたんだよ」
(; ^ω^)「僕と、ですかお……?」
( -∀-)「第一に感謝を告げたかった。娘と仲良くしてくれてありがとう、内藤くん」
(; ^ω^)「い、いやいやいや! そんな簡単に頭を下げないでくださいよ!」
組長さんと言い社長さんと言い、どうしてこうも簡単に頭を下げるのだろう。仮にも一組織の首魁だろうに……。
( ^ω^)(それが親、なのかお……?)
ツンと関わりをもったのは昨日のことだ。
ゲームセンターで孤独に遊ぼうとしていた彼女を見かねた僕はお節介を焼いてしまったが、明くる日の今日、何故か彼女は僕によく付き纏った。
とは言えデレさんのように愛を紡いでくるわけではない。簡単に言ってしまうとあの距離感は友達の空気であって、やっぱり特別とは呼び難いと思う。
( -∀-)「いいや、それが特別なんだよ内藤くん」
(; ^ω^)「え……?」
( ・∀・)「再度礼を言おう、内藤くん。我が娘を、ツンを……叱ってくれてありがとう」
(; ^ω^)「……はい?」
……驚きの台詞にも程がある。
だって普通、説教をかました相手に礼を言う人なんていないだろう。
しかも愛娘相手に、生意気にも一般人の身分である僕程度が御高説垂れたのだから腸が煮えくり返りもするんじゃないか。
なのに社長さんは頭を下げる。僕はもう、どうしていいのか分からず慌てふためくが、そんな社長さんの隣に座っているギコ組長は渋い表情をして一人頷いた。
182
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:52:18 ID:D/306Sm.0
(,,゚Д゚)「内藤くんや。俺が言うのもあれなんだが……君は確かにお節介だろう」
(; ^ω^)「うぐっ……や、やっぱりですか……?」
(,,゚Д゚)「ああ。だが君のそれは立派だと言えるぜ」
立派……何がどう立派なんだろう。
(,,゚Д゚)「君の凄いところはな、例え相手がどんな肩書を持っていようが、“それ”を単一の個としてしか見ん。君は相手を只の人だと思って対峙する」
(; ^ω^)「え……?」
それって普通じゃないのか、と思うけど組長さんと社長さんは首を横に振るった。
( ・∀・)「普通はね、内藤くん。それは無理なんだ」
(,,-Д-)「ごるあぁ……意識して相手を同等の地位にまで思い込むか、或いは相手の土俵に上がることはあれども、
それでも根底にある“差”と言うのは埋め難く、また越え難い」
(; ^ω^)「“差”、ですか?」
( ・∀・)「生まれや環境……人は必ず何かを得て生を授かる。それは育まれステータスとなり、その者を形作る一部となる」
(,,゚Д゚)「生まれながらに極道の娘、生まれながらに大企業の娘。それを知っていたら普通は尻込みするだろうし、
やっぱり美貌も相まって特別視するだろう。俺らなんぞは組織のドンだし、余計に壁を感じるだろうよ」
( ・∀・)「だが君は私達を……いわば頂点に立つ者を前にしても普通だね。取り繕うとかそう言う訳でもない。
君は知ろうが知るまいが“差”を無視してしまえる。それは凄いことだ」
183
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:54:10 ID:D/306Sm.0
言われても僕にはよくわからない。だって相手は人間じゃないか。
例えばステータスと言えば王族貴族の流行った中世なんかじゃ普通の話だったんだろうけど、そんなのは古い話な訳で、今じゃ階級身分なんて関係ない。
相手が組の親分だったり財閥の代表だとしても情報はそれだけだ。他に特別な何かがあるのだろうか。
この自由平等社会で未だに差別意識や特別意識を持つ方が変じゃないのか。
(,,゚Д゚)「……どういう教育をされてきたのかが気になるなぁ。よほど父君と母君は平等主義者だったらしい」
( ・∀・)「それは脆い部分にも思えるが、しかし意見を口にし相手と真正面から対峙することは私には美徳に思えるね」
(,,゚Д゚)「ああ、違いねえ。むしろ俺らからすりゃ面白くて仕方がない」
( -∀・)-3「まったくだ。周囲の愚鈍共と言えば辟易するくらいにどうしようもないからな」
何だか意気投合しているお二方だが、僕はおずおずと訊ねてみる。
( ^ω^)、「そ、それで、僕がお節介なのは自覚していますけどお……それとツン……あ、いや、ツンさんを叱りつけたのとどう関係性が?」
( ・∀・)「うん、そうだね。出流は察してくれたようだけど……ねぇ内藤くん。我が娘のツンはとても可愛らしくて初心で天使のようだろう?」
そう言われた僕は無言のまま、けれども刹那で頷きを返した。
184
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:55:15 ID:D/306Sm.0
(* ・∀・)「あの小さく華奢な背、軟い肢体は誰もが釘付けになる……端正な顔立ちは言わずもがな男女問わず虜にしてしまうだろう。
おまけにあのツンケンした性格がもう小悪魔で堪らない……そうだろう内藤くん!」
(; ^ω^)「え、あの、えっと」
(;゚Д゚)「落ち着け馬鹿野郎が、何を一人で盛り上がってんだ……」
(* ・∀・)「兎に角! 我が娘、ツンには死角がないのだ! 小ぶりな胸や低い背丈を含めてもあまりある魅力を持っている!」
( ^ω^)「実の父がなに言っちゃってるんですか?」
_,
(,,゚Д゚).「けど、俺の娘のボンキュッボンっぷりと比べたらなぁ……」
(^ω^ )「組長さんもなに言っちゃってるんですか?」
( ・∀・)「……だがね、内藤くん。それ程までの魅力を持つと、この親の私ですらもあの子を特別視してしまうんだ」
( ^ω^)「特別視、ですかお? それって親な訳だから当然なんじゃ……」
( ・∀・)「いいや、そう言うのとはまた別でね。私は確かに忙しい身だからあの子の面倒を見るときは少ない。
それは昔から変わらない。そんな私は彼女を存分に愛で、存分に甘やかしてきた」
我が子が可愛くて仕方がないのは普通だと思う。
よく目に入れても痛くないっていうけど、それくらい親って言うのは子供を愛している訳で。
けれどもそれとはまた別に、ツンの面倒を見てきた周囲の人々も、父であるモララー社長と同等か、或いはそれ以上に甘やかしまくったとかなんとか。
185
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:56:32 ID:D/306Sm.0
( ・∀・)「あの子はね、今まで一度も叱られたことがない。ましてや叩かれたことだってない。
女児であれ躾ける、体罰をするというのは一般的だろう?」
( ^ω^)「まぁ、今の時代的には少数派だと思いますけどお……」
( ・∀・)「だがね、悪いことをしたらそれを叱るのが当然だ。私だって父や母や従者達にそうやって躾けられてきた。
それはきっと、どの家庭でも同じだ。女児はまた別にしたって、やはり悪は悪であると教えなければならない」
( ^ω^)「それは、そうですけど……」
(,,゚Д゚)「俺の場合はデレを叱りまくってたぞ。甘やかすのと大切に育てるのとはまた違う話だ」
( -∀・)「それはお前の家系が暴力一家だからだろう、このヤクザ者め」
(#゚Д゚)「ママのパイオツにしがみ付いて小便垂れ流してた幼少期を思い出したかぁ、お坊ちゃん?」
( ・∀・)「……やはり徹底的にやらねば格の違いが分からんか、チンピラめが」
(#゚Д゚)「ははは……葬儀屋への手配は済ませておけよ、お坊ちゃまよぉ……!」
(; ^ω^)「だから睨み合わないでくださいって!」
再度張り詰めた空気を僕がぶった切る。
186
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:58:11 ID:D/306Sm.0
(,,゚Д゚)「……まぁ、なんだ。親と言うのは子の模範だし、そうなりゃ善悪や正否の判断をしっかり教えんといけねえ。
何も知らず社会に出たら子供本人が苦労する訳だしな」
( ^ω^)「そうですおね、それは確かに。一般的な倫理観や他常識と呼べる事柄って、結構親から教わってるかも……」
( ・∀・)「そう、それが当然だろう。私自身もそれは痛感するところだ。けれどもね……」
そこで言葉を切った社長は渋い表情をして溜息を吐いた。
(; -∀-)-3「……出来ないんだよ、不思議と。あの子に対して叱るだとかが。むしろ許してしまえるんだよ、何を仕出かしても……」
( ^ω^)「え……?」
(; -∀-)「私だけじゃない。周囲の人間は皆そうだった。ツンは昔からやんちゃでね、よく物は壊したし他人に迷惑をかけたりもあった。
だがそうなっても……誰も叱らないし責めない。被害者である当人ですら笑って受け入れ、どころかツンに謝罪までする光景も多々ある」
その話を聞いて僕は呆けたような顔になる。
だって、それってまるで御姫様のままだからだ。特権階級にも等しい扱いじゃないか。
( ・∀・)「ツンは常々そういう扱いだった。通う学校では教師も生徒も皆彼女を愛したが、彼女が問題を起こしても誰も注意なんてしなかった。
それを受け入れ許す――どころではなく彼女に罪や罰と呼べるものは端から用意されていなかったんだ」
(; ^ω^)「そ、そんなのって……」
有り得ない、と紡ごうとしたが僕は思い出す。
デレさんが特殊とも呼べる空気感を持つように、ツンにもまた特別な空気感があった。
187
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 14:59:45 ID:D/306Sm.0
不良の真似事をしている彼女を叱る人は誰もいなかった。
学校をサボっても教師は注意しなかったし、生徒達も彼女の素行の悪さに対して注意をしなかった。
それって異常に思える。
デレさんの場合は神聖視だが、ツンの場合のそれは神格化された存在……罪を問われない個人に思えた。
( ・∀・)「ツンはね、そんな環境をとても嫌っていたんだ。それを私は知っていたが、けれどもあの子の醸す空気感は親である私ですら無視できない。
あの子が髪を染めても褒めてしまう、あの子がスカートの丈を短くしても笑んでしまう。それくらいにあの子は許され体質なんだ」
( ^ω^)「…………」
それってどうなんだろう。
親であるなしはこの際別にして、本当に彼女のことを思うなら悪い事は悪い事だと言わなきゃいけない。
例えば法に触れるような真似をするなら注意して叱りつけるのが当たり前なはずだ。
ツンの素行の悪さを全て知っている訳ではない。
普段から一匹オオカミで張り詰めている様子なのは見ていたから知っている。
しかしそんな彼女が実のところ浮いているようにも見受けた。
( ・∀・)「浮く、か。それも間違ってはいないだろうね。あの子は別格の扱いな訳であって、
あの子を慕う皆は意識的にせよ無意識的にせよ“差”を感じ、或いは自分から用意する」
( ^ω^)「特別だから、ですかお?」
( -∀-)「ああ。ツンは特別な少女、罪に問うことなかれ、彼女の行動は全て善であり許すべし……そんな共通意識があるんだろうね」
( ^ω^)「まるで宗教ですおね……」
( ・∀・)「故の神格化、故の許され体質なんだ。不良の真似事をしたとて許さなければならない、認めなければならない……そう思うんだ」
( ^ω^)「…………」
188
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:00:56 ID:D/306Sm.0
果たしてツンが孤独だった理由は不明だ。
なんでいつも不機嫌そうだったのかも謎だし、どうして不良の真似事をしているのかも分からなかった。
だが僕はモララー社長から話を聞いて氷解する。
彼女の全ての行動には一つの目的がある。それこそは――
( ・∀・)「反抗だろうね。周囲の態度があの子は気に入らないんだろう」
何を仕出かしても許される、特別視される、皆に神格化されてヒロインと称されて――壁を用意される。
皆は平等に彼女を愛すけど、じゃあそれって彼女を真の意味で大事に思ったり大切に扱うことと呼べるのか。
( -∀-)「あの子が髪を染めるのも、制服を着崩すのも、遅くまで遊びまわるのも……全ては意思表示。
自身の行動は全て世間で言うところの悪なんだ、と……そう言いたいんだろうね」
( ^ω^)「けど皆はそれを許してしまう……」
( ・∀・)「そうとも、内藤くん。そう言った行動をしても皆は受け入れて納得してしまう。
ああ、我等が姫君はそう言うお年頃なのだ、しからばお見守りしてあげねば、と」
僕はツンが零した呟きを思い出す。
それは情報室でのことだが、ツンは憎らし気にこう言った。
( ^ω^)「“何をしても持て囃されて許されて受け入れられて……本当、どいつもこいつも馬鹿みたい”」
( ・∀・)「そう言っていたのかい?」
( ^ω^)「ですお。間違いなく」
( -∀-)「……そうか」
189
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:02:10 ID:D/306Sm.0
(,,-Д-)「……叱られないと言うことは……ある意味では無関心とも呼べるからなぁ」
( ^ω^)「組長さん……」
(,,゚Д゚)「子供はな、内藤くん。よくウソ泣きをする」
( ^ω^)「ウソ泣き、ですかお?」
(,,゚Д゚)「ああ。特に生まれて間もない頃はよくする。多くの親はこれの見分けがつく。
本当に泣く姿と嘘で泣く姿はまるで別物なんだ」
( ^ω^)「別物……」
(,,゚Д゚)「何故ウソ泣きをするか分かるか?」
( ^ω^)「えぇと、思い通りにならないから、ですかお?」
(,,゚Д゚)「勿論状況は多くあるが、帰結するならば大半はその通りだ。悲しくて泣くんじゃねえ、
不服があるからそう言った意思表示をする。そうして他者の関心をひこうとする」
構って欲しい、話を聞いて欲しい――子供は言葉を持たない代わりに行動で示す。
それがウソ泣きだったり駄々を捏ねることだったりやり方は様々で。
(,,゚Д゚)「津々矢の娘の場合はな、それそのものさ。悪い素行によって他者の関心を得たいんだろう。構って欲しい訳だな」
ツンは言った。己のどこがいいのか分からない、神格化することなんて馬鹿らしい、と。
彼女は見て欲しかったんだ。悪いことをしている自分をちゃんと見て欲しくて、それに対して感情を向けて欲しかったんだ。
190
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:03:45 ID:D/306Sm.0
だって許されるばかりで受け入れられる彼女は事実として孤独だった。
みんなが彼女を神格化することにより彼女は己が望まないままに一人になり、ヒロインとして崇められ奉られる。
それって酷い話だ。誰も彼女の本音を聞こうとしないようなものだ。
態度や所作に現れる彼女の意思を皆は無視してる訳で、彼女の全てを黙殺してるのと変わらないじゃないか。
( ^ω^)(ツン……)
思い出すのは彼女の寂しそうな背中。
一人でシューティングゲームをやる彼女を見た時に僕は思った。どうしてこの子は一人なんだろう、と。
あれ程皆に可愛がられ特別な目で見られてるのに、だのに彼女は一人だった。
それも慣れた様子で……一人で遊んでいた。
きっとずっとそうだったんだろう。あの子にとってはそれが普通だったんだ。
だが彼女はそれが嫌で仕方がなかった。だから不良の真似事を始め、皆に叱って欲しかった――構って欲しかったんだ。
( ・∀・)「それを成し遂げたのは……君だけだ、内藤くん」
( ^ω^)「……僕は何もしていませんお、社長さん」
( -∀-)「いいや、した。君は彼女が待ち望んでいた初めての“誰か”なんだ」
……だって、放っておけないじゃないか。
あれだけ皆に女神だ姫だと祭り上げられている子が不良の真似事をしてるんだ。そんなの勿体無いと思うじゃないか。
あんなに可愛らしいのに、どうしてそんな真似をするのか理解出来なかった。
更には周りがそんな彼女を受け入れて許す状況が鼻持ちならなかった。
だから叱ったまでだ。それは完全に僕の独善でしかない。それが正しいとは自分でも思わない。
けど言いたくなる。
だって同じクラスで同じ時間を共有する級友だし、それに僕だって彼女をデレさんと同等の乙女として認識していたんだ。
191
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:05:06 ID:D/306Sm.0
( ・∀・)「あの子の従者から昨日連絡を貰った。ツンの機嫌がすこぶるよいとね。それを聞いて何かがあったと理解をしたよ。
直ぐ様調べ上げたが……その要因こそが君だ、内藤くん」
( ^ω^)「僕、ですかお」
( ・∀・)「ああ、そうだ。あの子を叱ったのは彼女の生涯においては君だけだ。あの子を真っ直ぐに見てあげたのも……君だけだ」
ツンの機嫌がよかったかどうかは分からない。僕と彼女の関係は昨日今日程度だからだ。
けれども僕から見る彼女は不機嫌そうではあるが小生意気な性格の美少女で、それが僕にとっての彼女の姿だから、本来の彼女がどう言った具合なのかはさっぱりだ。
( -∀-)「親として私は失格だ。あの子を傷つけていたも同義だからね。そんな私が感謝をすることは間違っているのかも知れないし、笑われることなのかもしれない。
けれども……君には感謝の気持ちを素直に伝えたい。ありがとう、内藤くん。我が娘を叱ってくれて……ありがとう」
(; ^ω^)「そんな、別に僕は……」
お節介なだけだし、こう言う性格なだけだ。きっと僕がしなくてもいつか他の誰かが彼女を注意しただろう。
( ・∀・)「だが事実として君がツンを救ってくれた。だから礼をさせてくれ」
(; ^ω^)「救っただなんて大袈裟な……」
( -∀-)「いいや、大袈裟ではないよ。本当に君には感謝しているんだ、内藤くん」
(; ^ω^)「い、いやいや、言い過ぎですお!」
( ・∀・)「しからば君に対する感謝の気持ちとしてね、このようなものを用意したんだ」
と、突然にモララー社長は己の懐に手を突っ込んだ。
そうして何かを引っ掴むと僕の前に差し出すのだが……。
192
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:06:13 ID:D/306Sm.0
( ・∀・)っ「これなるは婚姻届けである」
( ^ω^)「……ん?」
( ・∀・)「君は未だ十六らしいが、なに、署名したものを僕が預かっておこうじゃないか」
( ^ω^)「え、ちょ」
(* ・∀・)「君になら我が娘を任せられる。ツンも君を心の底では慕っているだろうしね……ふふふ、父の目は誤魔化せんのだよツン。
昨日今日と観察記録を見せてもらったが、まるで恋する乙女の顔付きのままじゃないか……」
( ^ω^)「いやあの」
(* -∀-)「ああ、ツンが幸せに笑む未来が見える……その隣では君が連れ添い、愛を育む姿が見える……」
(; ^ω^)「これが感謝の気持ちですかお!?」
( ・∀・)「え? そうだよ? 親の了承も即座に得られたからよかっただろう? 親公認の許婚だよ?」
(; ^ω^)「いやいや色々と可笑しくないですか!?」
( ・∀・)っ「勿論これ以外にもお礼の品はあるよ? ほらこれ」
(; ^ω^)「え、何この紙切れ」
( ・∀・)「小切手さ。小金で申し訳ないが」
( ^ω^)「見たことない数字の羅列になんもリアクショできねえ」
193
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:07:40 ID:D/306Sm.0
( ・∀・)φ「十億程用意したが……どれ、零をもう一つ足してあげよう」
(; ^ω^)「いやいりませんおこんな大金! 婚姻届けにも名前書きませんお!?」
(; ・∀・)「何ぃ!? この程度では不服なのかい!? うぅむ、ならば他に土地を幾つかもあげよう!」
(; ^ω^)「いらないし本人の意思を無視した婚姻の取決めとか止めてくださいお!」
(; ・∀・)「何を言っているんだい、ツンは間違いなく君にホの字だよ!」
( ^ω^)「例えが古いね!」
まるで押しせまるセールスマンのようにも思えるモララー社長さん。
しかしそんな掛け合いを横で見ていたギコ組長は静かに立ち上がると、何故かその手に日本刀を握りしめているのだった。
(,, Д )「おい、津々矢……手前は何をしようとしてんだ……」
( ・∀・)「ふむ……何かな出流。何をそうも狂気を振り撒く」
(#゚Д゚)「当然だ腐れ外道が! 何を勝手に内藤くんを手籠めにしようとしていやがる! 彼は俺のデレと結婚させるんだよ!」
( ^ω^)「今初めて聞いた目的に戦慄しちゃう! 不思議ぃ!」
(# ・∀・)「何ぃ……? 内藤くんをお前の娘とだと? はっ、馬鹿を言えよヤクザ風情が……
彼は我が津々矢家に迎え入れる! ツンと幸せな未来を歩んでもらうのだ!」
(#゚Д゚)「勝手なことをほざくんじゃねえぞ手前! そこに内藤くんの意思はあるのか!」
( ^ω^)「いやあなたも僕の意思を無視して婚約させようとしてましたよね?
て言うか思惑が透けて見えると本当あなた達二人ってどうしようもなくない? ねえ?」
194
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:09:32 ID:D/306Sm.0
ああ、二人とも親馬鹿なんだ。
娘の慕う男と結ばれて欲しいと思っているそうだが、何でそんなことで僕を取りあうのですか。
そもそも僕の意思関係ないじゃないっすか。
景色は再度闘争のそれだった。
ギコ組長が刀を抜き、モララー社長が懐から拳銃を引き抜くと両陣営は殺意を展開し再び得物に手を掛け合う。
(#゚Д゚)「デレと結婚するんだ!」
(# ・∀・)「いいやツンとだ!」
(; ^ω^)「だから僕の意思を聞いてくれおぉお!」
四方八方から聞こえる銃撃の音や刃で対峙する音。
僕は走り回って逃げようとする――のだが。
ζ( ー *ζ「何をしてるの、パパ……?」
凛、と響いたその声。
あまりにも場に似つかわしくないものだったが、それはまるで染み入るように景色に響く。
ξ ⊿ )ξ「勝手に盛り上がって……あたし達が不在だってのに、どんちゃんしてんじゃないわよ」
更にもう一つの声。甘いソプラノに皆の意識が蕩けかける。しかし声色から窺える感情は怒気だった。
襖を開けて逃げだそうとした僕だが、そんな僕が戸に手をかけようとしたところで突如それは開かれる。
更には向こうの景色から肩を掴まれるのだ。それは今し方声を紡いだ二人の誰かによるもので、左右から掴まれた僕は直立不動になる。
195
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:10:47 ID:D/306Sm.0
(;゚Д゚)「な……ななな、しまった、すっかり失念していたぞぉ……!」
(; ・∀・)「い、いや、それよりも……何故お前がここにいるんだ……!」
騒ぎの中心であるギコ組長とモララー社長は青ざめた顔をし、更には得物を捨てると後退る。
先の声の主二名は僕を引きずって二人のもとへと歩いていくのだ。
そうするだけまるでモーセの十戒よろしく人波は裂けていった。
ζ( ー *ζ「ねぇ、私思うの。あなたのこと大嫌いだけど、きっと今抱く感情は一緒なんじゃないかな」
ξ ⊿ )ξ「あたしだってあんたは大嫌いよ。けどそうね、この感情は恐らく同じでしょうね、牛」
ζ( ー *ζ「本当に口の利き方がなってないよね。これだから津々矢の人って嫌いなの」
ξ ⊿ )ξ「そっちこそ態度改めなさいよ。なんで出流の人間ってそうも不遜な態度すんのかしら」
お二方を僕はよく知っていました。だってここ最近すっごい関わってるし、今なんかは二人の話を散々聞かされていたからだ。
今日この場に二人はいなかった。組長さん曰く、当人不在の方が話がしやすい、と言うことだったけど……。
ζ( ー *ζ「ねぇ、パパ? 何をしてるの? 何で私たちの代理のように取りあい合戦して内藤きゅんを困らせてるの?」
(;゚Д゚)「ち、ちが、違うんだデレ、これには深い訳があるんだって!」
ξ ⊿ )ξ「お父様? 普段から忙しく奔走してるくせに、なんで一般人にこんな粗相しでかしてる訳?
しかもあたしとこいつを勝手に結婚させようとか嘗めてんの?」
(; ・∀・)「い、いやいや、これもまた父の思いやりであってだね?」
ξ# ⊿ )ξ「「問答無用!」」ζ( д #ζ
(;゚Д゚)「「はひぃい!」」(・∀・ ;)
196
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:12:13 ID:D/306Sm.0
乙女二人の手にはそれぞれ凶器が握られている。かたや短刀、かたや特殊警棒。
ああ、最近の女の子の間では武器の携帯が流行している――訳じゃなかった。
その二人は特殊な生まれで、そう言った凶器は親に与えられた護身用のもので、それが与えた本人に向けられると言うのは……皮肉と言おうか何と言おうか。
( ^ω^)「あのね、二人とも」
ζ(゚ー゚#ζ「なぁに、内藤きゅん?」
ξ#゚⊿゚)ξ「何よ、内藤」
その二人の乙女の名前は出流デレと津々矢ツン。
我が校の誇るマドンナとヒロインであり、その正体こそは極道の娘と大企業の御令嬢だった。
( ^ω^)「あまり痛めつけない程度にやってお?」
(;゚Д゚)「「内藤くぅううん!?」」(・∀・ ;)
ζ(^ヮ^#ζ「うん、了解だよぅ、未来の旦那様ぁ☆」
ξ#゚⊿゚)ξ「一応頭の隅にはおいといてやるわよ、このすっとこどっこい」
そんな乙女二名は血を濃く継いだ御様子で、迫る愛娘を相手に父二名は震えあがり。
ζ(゚ー゚#ζ「ねぇ、パパ。私の内藤きゅんに手を出す輩はね、例え誰であっても……全殺しなんだよ?」
ξ#゚⊿゚)ξ「あのね、お父様。この馬鹿はそもそもあたしの物なのよ。それを理解出来ないんなら……お仕置きだね?」
(; Д )「「ひっ、ひぃい――いぎゃぁあああああ!」」( ∀ ;)
間も無く、出流組本家で悲痛な叫びが響く。
それはこの国を代表する表と裏の顔だけれども、そんな二名が泣き叫んで許しを請う姿を誰もが哀れみの瞳で見つめた。
197
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/06(日) 15:12:48 ID:D/306Sm.0
本日はここまで。
次の投下で最後になると思います。
それではおじゃんでございました。
198
:
名無しさん
:2019/10/06(日) 17:08:12 ID:3DMtjMFo0
展開ワロタ 内藤すげーな
199
:
名無しさん
:2019/10/06(日) 22:13:28 ID:kgDvYMXM0
乙〜〜〜〜〜
200
:
名無しさん
:2019/10/06(日) 23:39:30 ID:ftoH5eFs0
おつ
お父様方からも取り合われるとは流石内藤
お母様方からはどうなんだろう
201
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:20:11 ID:0E69q/ug0
◇
結局、組長さんと社長さんは愛娘達に折檻される羽目になり、僕は無残に横たわる二人を見下ろして黙祷を済ませた。
切った張ったを繰り広げていた出流陣営、ならび津々矢陣営もデレさんとツンの怒りを前にして意気消沈、騒ぎは収束に向かった。
ζ(゚- ゚*ζ「本当にごめんね、内藤くん……パパ達が迷惑を掛けて……」
ξ-⊿゚)ξ「まったく、いい歳した大人が何やってんのって感じよ……くだらないったらありゃしないわ」
そんなこんな、今の僕は解放されて帰路を辿っていた。
帰るとなれば車の一つでも出すか、と長岡さんに言われたけど丁寧に断る。
そうなるとまた隊伍を組んだ軍隊よろしくな景色になると察したし、何よりも僕は少女達に用があった。
僕の両隣を歩くのは我が校の誇るマドンナとヒロイン。
両親を散々痛めつけた二名は後のことも全て放置し僕を送り届ける為に着いてくる。
先までの喧騒がまるで嘘だったかのように付近は静かだった。
もう時刻は夜の時分で、暗がりの道を乙女二名を連れて僕はとぼとぼと歩く。
(; ^ω^)「いや、まぁ二人に責任はないし、謝らなくってもいいお」
ζ(゚- ゚*ζ「でもでも迷惑だったでしょ……?」
(; ^ω^)「まぁ、それはそうだけど……」
ξ-⊿゚)ξ-3「本当、馬鹿馬鹿しいわよ。あんたも大概面倒なことに巻き込まれるわよね、内藤」
(; ^ω^)「はは……それももう、この一週間弱で十分慣れたから、今更何ともお」
自然と溜息を吐いてしまうのは心労がたたってのことだろうか。
肩を落とした僕を見てデレさんは焦ったような顔をし、ツンは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
202
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:20:44 ID:0E69q/ug0
ζ(゚- ゚*ζ「……嫌になった?」
( ^ω^)「え? 何が?」
ζ(゚- ゚;ζ「いや、その……」
背後で立ち止まる音がした。
振り向けばそこには俯くデレさんがいる。ツンは彼女の様子を見ると渋い面をして言葉を零す。
ξ゚⊿゚)ξ「そりゃ嫌になるでしょうよ。普通に考えなさいよ。あたし達の家庭事情ってのはこんなもんなのよ、内藤」
( ^ω^)「ツン……」
ξ゚⊿゚)ξ「極道の娘、財閥の娘……それだけでもウンザリするのに、周囲はああ言った馬鹿どもばかりだし、あたし達を見る他人の目も……糞ばかりよ」
ζ(゚- ゚*ζ「…………」
二人の表情は暗い。
先まで騒動の中心にいた僕は二人の生い立ちや環境を知った訳だが、こう言った時、二人の今までの苦労が窺い知れる気がした。
ζ(゚- ゚*ζ「ねぇ、内藤くん」
( ^ω^)「何?」
ζ(゚- ゚*ζ「私のこと……聞いたんだよね」
( ^ω^)、「……お」
ζ( - *ζ「……そっか。そう、だよね」
203
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:21:35 ID:0E69q/ug0
まるでいつものデレさんらしくない。
それは今にも枯れそうな花のようで、僕はそんなデレさんを見て胸が痛んだ。
知らなかったからこそ僕が今までああいう態度をしていた、と思っているのだろう。
知ってしまったら以前までのようにはなれない、戻れないと思っているのだろう。
確かに態度は変わるかもしれないし、話を聞く以前のような状態には戻れないかもしれない。
( ^ω^)「別に関係ないお」
ζ(゚- ゚*ζ「え……?」
ξ゚⊿゚)ξ「内藤……?」
けど、そんな程度だ。僕はただ話を聞かされて情報を得たという、それだけのこと。
二人は極道の娘と財閥の娘。およそ一般人である僕からすればまるで別次元に住む世界の人々にも思える。
けど……それがなんだって言うんだ。
( ^ω^)「ただ二人の過去を聞かされただけ、今まで二人がどんな環境にいたのかを知っただけ。それは確かに大事なお話だと思うお。
二人を構築する上で過去の様々な出来事……特に辛いことや悲しいことはとても深い要素だっていうのは当然だと思うお」
人を構築する上で重要視される環境や生まれ。
それに差異があれど、或いは持って生まれた能力に差異があれど、今こうして僕達は同じ場所を歩き、同じ学校に通い、言葉を交わし意思を交わしている。
( ^ω^)「僕にとってはお、そっちの方が重要なんだお。だって僕が君たち二人と関与しているのは今だからだお。
過去は嫌なことばかりだったろう、それって誰にも触れて欲しくないことなんだろうと思うお。けど僕は……知ったうえでも、こうして君たちと言葉を交わしている」
聞かされた内容はプライベートなことだった。他人には聞かれたくなかっただろう。
204
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:22:36 ID:0E69q/ug0
( ^ω^)「僕が君達をどんな風に見てるか知ってるかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「「え……」」ζ(゚- ゚*ζ
( ^ω^)「煩くて暴れん坊で、人に直ぐ迷惑を掛けるし……デレさんは積極的過ぎるし、ツンは傲岸不遜極まってるし、
とてもマドンナやヒロインとは呼び難い、やんちゃな子達だと思ってるお」
ξ゚⊿゚)ξ「「……」」ζ(゚- ゚*ζ
皆が称したマドンナとヒロイン。
本人達の意思を無視して祭り上げられた二人は、人には言えない傷を抱えていて、それを誰に言うでもなく秘密にしていた。
或いは周囲の生徒たちは二人の特殊な生まれを知っていただろうし、それ故に誰もが二人に近寄るまいとしていたのかもしれない。
結局、彼女達は闇を抱え続け誰にも知られることなく痛みと対峙し続けてきた訳で、それはきっと今も尚続いている。
対峙することに終わりはないのかもしれない。
過去に体験した出来事により今がある訳で、それを自覚する度に闇と対峙する羽目になるのかもしれない。
( ^ω^)「けど……変わらないお」
僕は二人を見据えて言葉を紡ぐ。
( ^ω^)「二人はやんちゃで利かん坊だけど、変わらないお。誰もが見惚れる美人さんで、誰もが憧れる高嶺の花。
二人がどう言った過去を持とうが……今の二人を知る僕からすれば、今の君達こそが出流デレと津々矢ツンだお」
哀れみはある。けど……それだけだ。
僕は二人の闇を知ったが、それを聞かされて怯えるだとか怖気づくだとか、ましてや近寄るまいとするだとか――今までの関係を全て否定するような真似はしない。
205
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:23:46 ID:0E69q/ug0
だって二人は二人だろう。
過去はどうあれ、今のデレさんは男の人に恋をすることが出来る、ツンは下手なりにでも思うことを態度や口に出せるようになった。
それでいいじゃないか。僕にとって重要なのはそこだ。
二人は決して過去に囚われたままと言う訳じゃない。
切っ掛けがなかっただけで、それさえ得れば二人は闇の中から自分の足で踏み出すことが出来たじゃないか。
( ^ω^)「強い人だお、二人は」
ξ゚⊿゚)ξ「「……!」」ζ(゚- ゚*ζ
それが僕の感想だ。
過去と対峙し今に至った二人は間違いなく強いはずだ。
腐れるだけで終わる程、この美女二名は弱くなんてない。
まあ大袈裟な言い方かもしれないけど、人それぞれに闇と言うのはあって、それの苦心は当人にしか分からないことだ。
だが一歩を踏み出すことが出来た彼女達は間違いなく……美しいんだ。
( ^ω^)「だから嫌いになんてならないし、僕は僕のまま、今まで通りに接するだけだお。それとも二人の思う僕はそんなにヘタレた感じなのかお?」
ζ(゚- ゚*ζ「内藤くん……」
ξ゚⊿゚)ξ「内藤……」
(; ^ω^)「まあ何にせよ今日は疲れたし早く帰って休みたいお……本当、怒涛と言うか激動と言うか、今日は一日はちゃめちゃが押し寄せた日だったおぉ……」
天を仰いで僕は愚痴を零す。
本当、この二人と関わってからというもの平穏とやらが消え去った。
日々は騒がしく、殺意は常に寄せられるし、心休まる時なんてなくなった。
ただ、それでも思うことがある。
僕は凡を極めたような凡夫だが、そんな僕の傍に立つ美少女達を間近で見ることは、結構役得だったりするのだ。
206
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:24:18 ID:0E69q/ug0
ζ(;д;*ζ「な、内藤くぅーん!」
(; ^ω^)「うわっ、ちょ、何だおいきなり!? 何で抱き付いてくるんだお!?」
ζ(;д;*ζ「だってだってぇー! なんて優しいひとなのぉー! びえぇええええん!」
(; ^ω^)「な、泣かないでおデレさん!」
ξ゚⊿゚)ξ「……ちょっと、この馬鹿内藤」
(^ω^ ;)「わ、え? どうしたんだおツンまで? 袖をそんなに引っ張らないでくれお! こけるこける!」
ξ#゚⊿゚)ξ「いいから早く帰るんでしょ! その邪魔な牛ほっぽっときなさいよ! ほら!」
(; ^ω^)「ちょちょちょ、落ち着いてくれお、二人とも! 危ないから!」
207
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:24:56 ID:0E69q/ug0
僕は二人を高嶺の花として見てきた。
高嶺――それは文字の通りに高根を意味する。
手の届かない比喩であったりする訳だけど、けれども……花と言うものは愛でるものだろう。
誰もが二人と距離を置き、誰もが彼女達を特別な目で見て壁を用意する。
けどそれじゃ意味がない。
花は放ったらかしにしてしまえば枯れてしまうだけだ。
だから僕は今、結構役得だ。
だって高嶺の花にこうして触れて、愛でることが出来るんだから。
とは言え、まあ、僕に特別な感情はない。
これは花を前にして掻き立てられる庇護欲であり、そう、多分……。
今、胸にあるこの安堵感は、麗しい花々の薫香に中てられてのことなのだろう。
.
208
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:25:49 ID:0E69q/ug0
◇
騒動が過ぎ去れば平穏が訪れる――
ζ(^ヮ^*ζ「内藤きゅぅううん! おっはよぉー!」
ξ#゚⊿゚)ξ「ちょっとうっさいわよ牛! 朝っぱらから!」
訳がなかったね。
皆さんお早うございます、今日も清々しく天気が宜しい上に我が寝室に当然の如くやってきた美女二名がおります。
御存じの通りにデレさんとツンで、二人は制服姿で寝入る僕に迫ってくる。
ζ(゚ヮ゚*ζ「ほらほら起きないとダメだよ内藤くん! もう朝だよ! ウェカピポだよ!」
ξ゚⊿゚)ξっ「意味わかんないわよ……ほら、さっさと起きなさいよ馬鹿内藤」
( 'ω`)「…………」
昨日の大騒動から明けて一日なんですけどね、なんでしょうね、何でこの子達もう普段通りなのかな。
僕なんて未だに疲労困憊と言った具合で、肉体的にも精神的にも睡眠を欲しているくらいだ。
だのにこの美女達はまったくそんな様子を見せない。
僕は両サイドから迫ってきた声量に抗うべく布団を頭まで被る。
が、それに手を掛けたツンが無理矢理にはぎ取ってしまった。
ζ(゙д゙*ζ「あはぁ、これだと寝起きに襲うような感じぃ! 内藤きゅん食べたいよぅ、はぁはぁ……!」
ξ;゚⊿゚)ξ「朝っぱらから欲情してんじゃないわよこのド淫乱のド変態! 搾乳してあげようか? あ?」
( 'ω`)「……さむい」
209
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:26:50 ID:0E69q/ug0
秋の気温は他所にして、朝は低血圧な僕はぎゃんぎゃんと騒ぐ二人や肌寒さ、更には睡眠の邪魔をされたことにより苛立つ。
が、そんな僕の様子を気にもせず言い争う美女二名。
僕はいよいよキャットファイトを繰り広げようとしている二人をぼうとして見つめつつ、一つ伸びをして階下に向かった。
( 'ω`)「おはよう母さん……」
从 ゚∀从「おうおはようさん。あんたもやるねぇ平助、もう一人彼女作ったのかよ?」
(; 'ω`)「んな訳ないし、そもそも彼女なんていないから……」
从 -∀从-3「あーあー、まーだどっちつかずな態度とってんのかぁ? そんなんじゃいつか刺されるぜ?」
( 'ω`)「ははっ……」
从 ゚∀从「つーか早起きじゃん。まだ六時なのに。飯も出来てないけど」
( 'ω`)「……ははっ」
あの二人は何時に起きてるんだろう。どんだけ早起きなのさ……。
とζ(゚д゚*ζ「あ、内藤きゅん! 酷いよ放置してくなんて!」
ξ;゚⊿゚>ξ「あだだだっ、こら頬をひっはふはぁ!」
( ^ω^)「人のお家でなんで朝からどんちゃんしてるのかなこの子達は……」
食卓に腰かけ母と会話をしていると階段から美女二人が縺れて落ちてきた。
もうどこから突っ込めばいいのか分からないけど、とりあえず短刀と特殊警棒は取りあげておいた。
210
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:27:55 ID:0E69q/ug0
( ^ω^)「て言うかデレさんはさておき、何でツンまで……?」
ξ;゚⊿゚)ξ「な、なによ、何か悪い訳?」
( ^ω^)「いや悪いも何も……」
ξ;゚⊿゚)ξ「この牛が調子乗った真似してあんたに迷惑かけてるっていうから、あ、あたしもあんたに迷惑かけてやろうと思っただけだし!」
( ^ω^)「どんな理由なのさ……」
何故か赤面するツン。
恐らくは構って欲しさ故にこうしてデレさんと一緒に押しかけてきたんだろうけど……。
( ^ω^)「いや迷惑でしかないからね二人とも? 普段ならあと一時間眠ってるからね、僕」
ζ(゚ー゚*ζ「えぇっ。それは寝すぎだよ内藤くん! 確かに昨日の寝入りは遅かったけど、それでも四時間二十一分三十四秒も眠れたんだから!」
( ^ω^)「何で秒単位まで把握してるの? て言うか何で寝入りの時間を知ってるの?」
ξ゚⊿゚)ξっ「こんなの見つけたわよ、内藤」
(; ^ω^)「何これ小型カメラ!? いつの間に!?」
ζ(゚ー゚*ζ「いやぁ、昨日の朝、起こす前にね?」
(; ^ω^)「何してんのデレさん!?」
ζ(^ー^*ζ「つい出来心で……てへぺろっ☆」
( ^ω^)「出来心で平然と犯罪しないでほしいんだぁ……」
朝っぱらから溜息を吐いて僕は項垂れる。
211
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:28:57 ID:0E69q/ug0
( ^ω^)「……それで、その後二人はどうだったんだお?」
ζ(゚ー゚*ζ「え? どうって?」
( ^ω^)、「いや、あの騒ぎの後……僕は知らないからお」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、そのことね。別に大したことはないわよ」
さて、今回の騒動は実際とんでもない事態だったりもした。
だって出流一家っていう国内最大の暴力団と津々矢財閥っていう国内最強の組織が争ったからだ。
これがマスコミに漏れでもしたら国を揺るがす騒ぎになる。
が、そう言えばモララー社長曰く、そう言ったマスメディアの多くも津々矢グループの一門であると言っていたので隠蔽はお手のものなのかもしれない。
それはまた別にして、表と裏の代表とも呼べる二組織のその後が問題だ。
もしもこの騒動を発端として戦争になったら、それはもう日本社会が転覆する事態となる。
、_
ζ(゚д゚*ζ「ないない。あの二人はいつも喧嘩してるもん」
ξ-⊿゚)ξ「そうよ、今更慌てる人なんて誰もいないわよ」
(; ^ω^)「い、いつも喧嘩してるのかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、そうだよ? 聞いた話、昔っからあの二人って仲悪いみたいだし」
ξ゚⊿゚)ξ「そもそも敵対関係にも等しいし、こうして激突するのだって年に十回はあるし」
(; ^ω^)「そんなに喧嘩してんのかお!?」
212
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:30:17 ID:0E69q/ug0
ζ(゚ー゚*ζ「馬鹿みたいだよねぇー……だから嫌なんだぁ、津々矢の人って。喧嘩っ早くて」
ξ-⊿゚)ξ「はっ、それを出流の人間が言うわけ? いつも喧嘩売ってきてんのあんたらじゃないのよ」
ξ#゚⊿゚)ξ「「……あぁん?」」ζ(゚ー゚#ζ
( ^ω^)「よしよし、睨み合わないで落ち着こうね二人とも」
やはり二人は親の血を濃く受け継いでいるらしい。
( ^ω^)「でも、昨日は止めに入ってくれてありがとうだお、二人とも」
ζ(゙∀゙*ζ「そ、そんな! 内藤きゅんにお礼を言われる日が来るだなんて……! 感無量だよぉー!」
ξ-⊿゚)ξ「一々大袈裟なのよあんたは……まぁ、止められるのってあたし等くらいだろうし。そもそも発端はあたし達だしね」
とは言え実質喧嘩をしたのは親二名であり二人に責任はないだろう。
僕は昨日の光景を思い返して苦笑いを浮かべるのだが……。
( ^ω^)「あれ……? そう言えば、何で二人は同時にあの場にやってきたんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「「え?」」ζ(゚ー゚*ζ
今更ながらそれが疑問だった。
そもそも犬猿の仲とも呼べる二人が揃って赴くとは考えにくい。
デレさんは実家だったから帰ってくるのは当然だとしても、何故ツンが居合わせたのか……。
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、それなら簡単よ。あんたが拉致されたって報告を私兵から受けてね」
( ^ω^)「私兵って……いやうん、もう突っ込むのも野暮だけどさ、うん……」
ξ゚⊿゚)ξ「そんで車で向かう途中でこの馬鹿牛を見つけたのよ」
ζ(゚ー゚*ζ「今何か言ったかなぁ、おチビさん?」
ξ゚⊿゚)ξ「後で殺すわよ腐れ牛……まぁ、この牛ったら川辺でたそがれててね。
なんか気取ったように見えてムカついたから声をかけて邪魔してやったのよ」
ツンが言うにはこんなやりとりだったそうだ。
213
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:31:07 ID:0E69q/ug0
ξ゚⊿゚)ξ『何してんの牛。なんか見てて不快なんだけど』
ζ(゚- ゚*ζ『……津々矢のおチビさんか。何か用?』
ξ゚⊿゚)ξ『今はその無礼な呼び方は許してあげる。つーかこんなとこで油売ってていいわけ?』
ζ(゚- ゚*ζ『……何が?』
ξ゚⊿゚)ξ『どうせ報告受けてんでしょ。内藤が面倒に巻き込まれてるって知ってんでしょ』
ζ(゚- ゚*ζ『…………』
ξ-⊿-)ξ『はぁ、うざったいくらいに暗いわね……』
ζ(゚- ゚*ζ『別に、どうしようもないし……パパったら全部話す気なんだよ。もう最悪……』
ξ゚⊿゚)ξ『それで一々ヘタレてるって訳ね。普段から超ハイテンションで迫ってるくせに、いざ過去を知られるとなるとそれ?』
ζ(゚- ゚*ζ『……あなただって分かるでしょ』
ξ゚⊿゚)ξ『……別に、あたしは何とも思ってないし』
ζ(゚- ゚*ζ『嘘ばっかし。本当は嫌で嫌で仕方ない癖に』
ξ゚⊿゚)ξ『うっさいわね。そりゃ嫌よ、あの馬鹿内藤に知られるのは。
けどそれ以上に気に喰わないのよ、こんな出鱈目なやり口、どうして見過ごせるってのよ』
ζ(゚- ゚*ζ『…………』
ξ゚⊿゚)ξ『あたしは行くわよ、お父様をこらしめてやるんだから』
ζ(゚- ゚*ζ『あっそう……』
ξ゚⊿゚)ξ『あんたはそうやって気取ってたそがれてれば?』
214
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:32:43 ID:0E69q/ug0
ζ(゚- ゚*ζ『…………』
ξ゚⊿゚)ξ『……うっざ。本当のあんたってそんなんなのね。そりゃ内藤も嫌気さすんじゃない?』
ζ(゚- ゚*ζ『は……?』
ξ-⊿゚)ξ『あーあー、あんたの過去聞かされて、更には今のあんた見りゃ幻滅してあいつあんたのこと嫌うんじゃない?
こんな不細工なデレさんはいやどぅあー、とか言ってさ』
ζ(゚- ゚;ζ『んなっ……』
ξ゚⊿゚)ξ『何よ、どうでもいいからそうして気取ってんでしょうがよ。何で一々腹たててんのよ』
ζ(゚- ゚;ζ『それは……』
ξ-⊿゚)ξ『ふん、うざいわね。そうやって一人で浮き沈み繰り返してなさいよ、この牛』
ζ(゚- ゚;ζ『…………』
ξ゚⊿゚)ξ『そうやって……内藤を甘く見てなさいよ、このバカ牛』
ζ( - ;ζ『っ……』
ξ゚⊿゚)ξ『あいつがそんな程度で幻滅するかってのよ……本当、馬鹿よあんたは。
ウジウジと女々しくしやがって……気に入らないったらありゃしないわ』
ζ(゚- ゚*ζ『津々矢さん……』
ξ-⊿-)ξ『……さっさと乗りなさいよ。ついでだから送ってやるって言ってんのよ、このバカ牛』
と、言った感じだったらしい。
215
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:33:34 ID:0E69q/ug0
( ^ω^)「……ツンってかなり男前な性格だおね。モテるでしょ、女の子から」
ξ;゚⊿゚)ξ「はぁ? なに言ってんのよあんたは」
ζ(^ー^*ζ「まぁ低い身長と子供っぽい顔付きで全部台無しだと思うけどねぇー。ぷぷぷっ!」
ξ゚⊿゚)ξ「殺すわよ腐れ牛?」
なんともまぁ、二人の仲と言うのは犬猿ではあるけども……。
( ^ω^)(二人とも……友だち、ちゃんと出来たじゃないかお)
僕は内心でそんなことを思い、睨み合う乙女二名を見つめて小さく笑みを浮かべた。
从 ゚∀从「なぁにニヤけてんだよブーン?」
(; ^ω^)「べ、別にニヤけてなんかないお、母さん!」
从 ゚∀从「嘘こけ、どう見ても変質者同然なスケベ顔だったぜ」
(; ^ω^)「偏見にも程があるお!」
从*゚∀从っ「まぁアタシとしてはよ、いくらでも恋人つくってくれて構わねえし、子供もバンバンつくってくれても構わんから、まあ……気張れよ!」
( ^ω^)「親が何言っちゃってんの?」
ζ(゚д゚*ζ「わ、私頑張ります、お義母さま!」
ξ*゚⊿゚)ξ、「べ、別にあたしはそういうんじゃないし……!」
( ^ ω ^)「なんでツンまで顔を赤らめるの???????」
从;゚∀从「お前なんちゅー顔になってんだよ……」
216
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:34:40 ID:0E69q/ug0
ああ、本当、僕の日常は大きく様変わりをしてしまった。
これまでは平凡に過ごしてきたけれど、今の僕にそんな景色は見当たらない。
从 ゚∀从「ほれほれ、そうこうしてる間に飯出来たぞ。二人も食べるかい?」
ζ(゚∀゚*ζ「いただいてもいいですかお義母さま!」
ξ゚⊿゚)ξ、「じ、じゃあ、遠慮なく……」
从 ゚∀从「なぁに、いずれ我が義理の娘になる二人だしぃ、今の内から親睦を深めたいのが親としての気持ちだしぃ?」
ξ*゚⊿゚)ξ「「そ、そんな、義理の娘って……」」ζ(゙∀゙*ζ
( ^ω^)「同時に顔赤らめないでー。と言うか僕の意思どこにあるのねー」
ある夕暮れ時、僕はデレさんと出会ってしまった。
最悪な出会いだったし、最悪な告白のされ方だった。
それを運命と呼ぶのなら、神には慈悲も糞もないと思う。
( ^ω^)「それじゃ行ってくるお」
ζ(゚д゚*ζ「道中の安全安心は私にお任せを、お義母さま!」
ξ;゚⊿゚)ξ、「あ、あの、朝ごはんありがとうございましたっ……」
从 ゚∀从「んむー。二人とも実に可愛らしいねぇ。うちの馬鹿息子はどうでもいいから、二人とも気を付けて行ってきな!」
( ^ω^)「母上? 僕は実の息子ですよ? 扱い酷くないです?」
从#゚∀从「うるせえ将来の娘達の方が可愛いんだよ!」
( ^ω^)「もうやだこの馬鹿母ぁ! うわーん行ってきますお!」
217
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:35:21 ID:0E69q/ug0
ζ(゚д゚;ζ「あ、内藤きゅん待ってー!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、急に走るんじゃないわよ!」
ある夕暮れ時、僕はツンと出会ってしまった。
酷い騒ぎが巻き起こり、酷い扱いを受けた気もする。
それを必然と呼ぶのなら、神には情けも容赦もないと思う。
( ^ω^)「うわぁ、なんかあからさまに怪しい人たちがいるんだけどお……」
ζ(゚- ゚*ζ「もう、パパったら一々大袈裟なんだから……!」
ξ;-⊿゚)ξ「お父様までわざわざ仰々しいわよ、馬鹿らしい……」
( ^ω^)「取り敢えず無視していこう……」
ζ(゚ー゚;ζ「そうだね……」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、向こうの通りで一般人が拉致られたわよ、牛の組員に」
(; ^ω^)「え!? 何で!?」
ζ(゚ー゚*ζ「あー、内藤きゅんを見てたからだろうねぇ。きっと羨望の眼差しだったんじゃない?」
ξ゚⊿゚)ξ「少しでも危険だと判断すればああなるわよ、内藤」
(; ^ω^)「いやいや止めて! お願い止めて! 僕のせいで罪もない人が消されるとか冗談じゃないお! ちょっと組員さーん!」
ζ(゚д゚;ζ「あわわ、だから待ってよ内藤くーん!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ああもう、朝から忙しないわねぇ……」
218
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:36:38 ID:0E69q/ug0
彼女達は特別な立場で、特殊な生まれで、僕とは程遠い存在と言うか、別次元にある人達だ。
けれども僕はそんな二人に特別な想いを向けられている。
それを僕は未だに受け入れちゃいないし、応えるだけの器量や度量はないと自覚している。
所詮僕は一般人。どこまでも凡で、どこまでも普通だ。
だから僕程度が二人と親しくなると言うのは、やっぱりはばかられることだろう。
( ^ω^)「おはようだお、ドクオ……」
('A`)「おう、我が友よ。今日も美女二名を侍らせ登校とは実に度し難……い……?」
ζ(゚ー゚#ζ「だからなんであなたはいつもいつも私の邪魔をするの? ついに手を繋いで登校できるとこだったのに!」
ξ#゚⊿゚)ξ「はぁ? あんたが邪魔臭く歩いてたから内藤の手を引っ張ってやっただけでしょ? つーか朝から暑苦しいんだけど?」
ζ(゚д゚#ζ「……分かった。もう我慢ならない。今日と言う今日は徹底的に教育してやるぅ……!」
ξ#゚⊿゚)ξ「はっ、やれるもんならやってみなさいよ、このバカ牛……このあたしに対して上等こいた罪、今償わせてやる……!」
( ^ω^)「ドクオ、羨ましいんだろぉ? ならどうかあれを止めてきてくれお……」
(;'A`)「……さーて。皆の者……逃げるんだぜぇー! お嬢達が大喧嘩をおっぱじめようとしてるぞぉー!」
( ^ω^)「本当お前ってここぞという時に最低だよね!」
(;'A`)「ええい離せ内藤! 俺は逃げるぞ! こんな恐ろしい環境にいてたまるかぁ!」
ξ#゚⊿゚)ξ「「うるさい黙れモヤシ!」」ζ(゚д゚#ζ
(#)A(#)「あぎゃぶぁ!」
( ^ω^)「ド、ドクオー!」
219
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:37:54 ID:0E69q/ug0
けど……そんな僕でも、こうして傍で見つめるくらいは許されるんじゃないのか。
だって花は愛でるものだ、こうして触れずとも、二人のこれからを傍で見守ってやるくらい許して欲しい。
ζ(゚д゚#ζ「内藤きゅんは私のものなの! あなたはすっこんでてよ! このチビ!」
ξ#゚⊿゚)ξ「誰がチビだこの牛女! こいつはあたしのものって決めてんのよ! 分かったら諦めて帰れバーカ!」
(; ^ω^)「いやいやもうやめて落ち着いて二人とも! その短刀と特殊警棒おさめてくれお!」
ζ(゚д゚#ζ「あ、内藤きゅん! 内藤きゅんは私の方がいいよね!? こんなチビより私の方が好きだよね!?」
ξ#゚⊿゚)ξ「バッカじゃないの? どう考えてもあんたみたいな暴走機関車選ぶとかないから!
一々答えなくていいわよ内藤、少なくともこいつではないのは理解してるから!」
(; ^ω^)「別にどっちとかはないけどお!? けどお!? こんな騒ぎを起こしちゃいけないと思うんだ、ぼかぁ!」
ζ(゚д゚#ζ「ほら怒ってるじゃない! あなたが怒られてるんだからね、このおチビさん!」
ξ#゚⊿゚)ξ「どう考えてもあんたが説教されてるだけだし、あたしは何も悪くないわよ!」
(; ^ω^)「二人とも悪いに決まってるだろうがおぉおお!」
ただ、その……よく言うじゃないか。綺麗な花には棘があるって。
更には見守っていたらいつしか蔦が伸びてきて、僕はそれにがんじがらめにされている訳で。
僕はそんな変わった花々と共にいる訳だけど、ああ、本当、こう、何と言うか。
(; ^ω^)「この病んでる子とヤンキー娘どうにかなんないのぉ!?」
ξ#゚⊿゚)ξ「「それは無理ぃ!」」ζ(゚ー゚#ζ
(; ^ω^)「だと思ったおこんちきしょぉおおお!」
二人との出会いは僕の日常に革命を……大変革を齎し。
そんな日々に立つ僕は、きっと息をつく暇もないんだろうな、なんて思いつつ。
暴れ回る二人を前にして僕は盛大な溜息を吐くと、大きな声で文句を叫び散らすのだった。
220
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:38:19 ID:0E69q/ug0
( ^ω^)病んでヤンでレボリューションのようです
終
.
221
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/10/12(土) 22:39:01 ID:0E69q/ug0
読了、お疲れ様です。以上で「( ^ω^)病んでヤンでレボリューションのようです」は了となります。
元々は某所で一般文芸として公開していたものだったのですが、それをブーン系に改編したものとなります。
とは言え時期で言えば三、四年前のものなので、手直ししている最中に「ひでえなこれ」と思う箇所も多く。
しかしあまり弄ったりせず、ぶっ飛んだテンポを殺さずに済んだかな、と思います。
さて、続編と呼べるかは不明ですが、これからは微笑むシリーズの書き溜めをしようと思います。
とは言え少々リアルが忙しくなってきましたので、早くても年末に投下出来るかどうか、と言った具合になります。
どうか気長に待っていただけたらばと思います。
それではお付き合いいただきありがとうございました。
おじゃんでございます。
222
:
名無しさん
:2019/10/13(日) 10:48:04 ID:7ZmMnljE0
おつ
面白くてニヤニヤが止まらなかった
223
:
名無しさん
:2019/10/13(日) 14:47:16 ID:x2caqsBQ0
乙、面白かったよ!
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