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(,,゚Д゚)クリフォトに微笑むようです
137
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 01:55:01 ID:zxPp5njw0
何もかも上手くいかない、もう出世の見込みもない。だが――このままでは終わりたくない。
素晴らしい野心だ。拍手でもおくりたくなる。しかし……愚かしいにも程がある。
人間と言うものは追い込まれると短絡的な思考になる。古く、頭の固い性格だと言うから必然的と言えるのかもしれない。
(;メ∀・)-~『若頭の宝木って奴は未だ四十前半程度……にしたって若頭のポジションは年齢的にも可笑しくはないし、稼ぎは事実上トップだ』
(;゚Д゚)『主な収入ってのは……?』
(;メ∀・)-~『まぁ、薬物から始まり武器の横流し……ああ、最近はビットコインなんかもやってるらしいぜ』
_,
(;゚Д゚)『仮想通貨ぁ? 儲かるのかよ?』
(;メ∀・)-~『元々そっち系が強いらしいからな。仮想通貨も中々どうして、利益は出てるってよ』
どうやら本当にやり手のようだった。
しかし荒巻氏はそういう仕事を好まないだろう。聞いた限りでは分かり易く単純なものを好む人品だ。
と、なると武器や兵器関連に思えるが――
(;メ∀・)-~『そっちならまだよかったんだけどな……宝木が抱え持つ仕事で大きく収益を出す内容がある』
(;゚Д゚)『あ?』
(;メ∀・)-~『国内外への遺体配送だ』
遺体配送――今一ピンとこなかった。
それが一体何の利益になるのだろうか。
138
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 01:56:03 ID:zxPp5njw0
(;メ∀・)-~『例えばお前がよ、中国でもアメリカでも、まあどこでもいい。兎に角、他所の国で死んだとするだろ』
(;゚Д゚)『ん……あぁ』
(;メ∀・)-~『そしたらよ、お前、他国の大地で眠りてえか?』
そう訊かれ、僕は首を横に振る。
(;メ∀・)-~『そう言った連中を運ぶ仕事だ。遺体を国内外に搬送、搬入する仕事って訳だよ』
(;゚Д゚)『……? それってまともな収益になんのかよ?』
(;メ∀・)-~『いーやならねえ。何せ単なる死体だ。そりゃ家具を売り買いするより遥かに金になるけどよ、それでも……一家の柱になる程の稼ぎにゃならねえ』
(;゚Д゚)『だっつーんなら……』
が、そこで茂良は割り込むように言葉を続けた。
(;メ∀・)-~『けど、それが単なる死体じゃなかったら?』
(;゚Д゚)『…………』
(;メ∀・)-~『今時は武器も薬物も持ち運びが難しい。だから少なからず死体を入れ物として使うこともあるらしいぜ』
(;゚Д゚)『ギャング映画かよ……』
(;メ∀・)-~『が、だ。国内で出た死体……これの経緯はどうだろうな。そもそも“その人物が本当に存在しているのか”すら分からないことも少なくねーんだと』
(;゚Д゚)『あ……?』
139
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 01:57:14 ID:zxPp5njw0
(;メ∀・)-~『つまり戸籍っつーか、IDがないんだ。パスポートの偽造なんて少なくない。そもそも不法的に入国する奴等だって数え切れねえ。それらの手伝いだってしてるしな』
(;゚Д゚)『つくづく糞だな、ヤクザってのは』
(;メ∀・)-~『まあそんな訳で、正体不明な奴や存在を消された奴なんかの内臓は回収するわな。他にも……科学実験の被験者とかな』
(;゚Д゚)『あー、それが一番金になりそうだな。引く手数多じゃねえのか』
(;メ∀・)-~『大当たりだぜ。世の製薬会社や科学工場の裏側と言やぁひでーなんてもんじゃねえ。つまりは人体実験の被害者ってこった』
(;-Д゚)『……マジであんのかよ』
(;メ∀・)-~『昔からアジア人は都合のいい検体だぜ……聞いた話だけどな』
なんとも……聞きたくないというか、知りたくもないアングラを突き付けられると、この世は実に薄暗く、碌なものではないと思ってしまう。
それを餌に金を稼ぐヤクザなんてものはハイエナと同義だ。
(;メ∀・)-~『ま、そんな金になる夢の肉袋が……沿岸倉庫に保管されてるのさ』
(;゚Д゚)『それを奪いに行ったって……?』
(;メ∀・)-~『ああ。宝木の娘……椎名しぃを人質にすりゃあ、明け渡すだろうとよ』
(;゚Д゚)『マジで頭が馬鹿なのか……?』
(;メ∀・)-~『白根組は超がつく武闘派だってのは知ってんだろ? オヤジは古株でよ、暴れるしか能がなかった時代の遺物だ。そんなのに頭を使ったやり方なんざできねーって』
(;゚Д゚)『……盃、返した方がお前の為だと思うぜ、茂良』
(;メ∀・)-~『あ゙〜、もう関係ねーよ。このナリみろよ。破門だなんだってボッコボコよ』
そう言われて茂良の姿に納得する。
何が発端となったのか、と言うのは聞かなくても分かる。椎名を浚い、あまつさえ人質にする――そのやり方が気に入らなくて噛みついた結果、袋叩きにされたんだろう。
140
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 01:58:14 ID:zxPp5njw0
(;-Д-)『お前のところの小僧共に襲われたぜ、茂良。すっかりそのジジイの言いなりらしい』
(;メ∀-)-~『まぁ無理もねえさ、俺がこのザマだしな。ガキ共はビビって言うことに従うくらいしか出来ねえだろ』
(;゚Д゚)『にしたって、何で俺を? 狙いは椎名だろ?』
(;メ∀・)-~『大方、ここ最近椎名と仲良くしてたからじゃねーか? 危険因子っつーか邪魔が入られちゃ困る、って感じか』
(;゚Д゚)『いやいや大袈裟すぎるだろ』
(;メ∀・)-~『よく言うぜお前。どんだけ名が通ってると思ってんだ? ヤクザを相手にしようが引かねえ上にノしちまうだろうが。そんなの誰だって真っ先に消してーわ』
(;゚Д゚)『あーあー、つまり日頃の行いが物を言う、と』
(;メ∀・)-~『だから言ってんだろ。どんだけお前自身が否定しようがな、お前はドのつく不良なんだよ』
そこで会話は止まり、僕は頭の中を整理する。
整理すると言っても……思った以上に事態はシンプルだ。
頭の悪い爺様が他人を妬んだ末に人質として椎名を浚い、金持ちの収入源を独占し奪い取ろうとしているようで、僕はそれに巻き込まれたらしい。
(;メ∀・)-~『ちげえだろ。お前が巻き込まれに行こうとしてんだろ』
茂良はそう言うと僕を見つめる。
(;メ∀・)-~『なあ、やっぱお前らしくねえぜ、埴谷。あれだけ面倒を嫌って世の全てが鬱陶しいとでも言いたげだったお前が、なんだってあんな小娘を相手に必死になりやがる』
(,,゚Д゚)『…………』
僕と幾度となく衝突を繰り返した茂良。僕は今も変わらずにこの不良が大嫌いだが、しかしそんな茂良こそが、もしかしたら僕のことを一番理解しているのかもしれない。
141
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 01:59:49 ID:zxPp5njw0
(;メ∀・)-~『惚れてる訳じゃねーんだろ』
(,,゚Д゚)『ちげえよ』
(;メ∀・)-~『ならなんだってんだ。あの女の顔や仕草やらを否定するってんなら、惹かれるものなんて何も――』
僕と椎名の関係は……なんだろうか。
学校の級友、同じクラスの生徒――事件現場に居合わせた被害者同士。それくらいしか思い浮かばない。
お互いはお互いのことを詳しく知る訳じゃない。証拠に、僕は今し方椎名がヤクザの娘だと言うことを――義理のようだが――知ったところだ。
つまり、僕と椎名の関係性は、とても希薄なもので他人にも等しい。共に過ごした時間だって少ない。
では相性――はっきり言うが最悪だと思う。何せ僕が彼女をとことんまで嫌っている。
既に理由は腐る程語った。だから今更言うまでもない。
(,,゚Д゚)『むかつくんだよ』
(;メ∀・)-~『……あ?』
ならば、何故僕はこの状況を放っておかないのか。
関係性も相性も、どちらも不足極まるのに、何故僕が放っておかないのか――なんて、そんなのは。
実に単純なことなんだ。
(,,゚Д゚)『俺はよ、茂良。椎名のことを悪そのものだと思ったんだ』
(;メ∀・)-~『は……?』
(,,゚Д゚)『だってよ、あの女は、いつだって死んでる風なのに、他者の死があって初めて……笑顔になりやがるんだ』
あの夜の笑顔が忘れられない。野々へと死化粧を施し、満面の笑みを浮かべた瞬間が焼き付いて離れない。
恐ろしいと思った。おぞましいとも思った。
だが一番の気持ちは――腹立たしい程の、妬む気持ちだった。
(,,゚Д゚)『悪そのものなのに。悪を惹きつけ悪に惹かれる人間なのに。あいつは……笑ったんだ』
それが許される訳がないのに。自身が発端となった最悪の状況で、他者の死を受け入れ、それに笑顔を浮かべるだなんて。
そんな、生き生きとして実感を得るだなんて――許されてはいけないんだ。
(,,゚Д゚)『だから……俺はあいつに、ヤキを……いれてえんだよ」
(;メ∀・)-~『…………』
気に食わないと、受け入れ難いと、関わり合いになりたくないと、面倒事はもう御免だと、そう言っていたのは、きっと……建前だ。
彼女を真正面から見つめることは、僕にとって、結構、辛いことだった。
何せそれは……。
142
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:00:10 ID:zxPp5njw0
(,,゚Д゚)(自分と向き合うことに等しいからだ)
143
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:01:45 ID:zxPp5njw0
拳を握りしめ、僕は木刀を背負うと踵を返す。
目的の場所は分かった。そうなればあとは向かうだけだ。
(;メ∀・)-~『待て馬鹿野郎。お前、相手は仮にもヤクザだぞ。武装だってしてる』
(,,゚Д゚)『だろうよ』
(;メ∀・)-~『数だって多いぜ。何せ相手のシノギ奪うってんだからよ。それなりの兵隊がいるだろ』
(,,゚Д゚)『分かってるって言ってんだろ』
(;メ∀-)-~『〜〜〜っ……ったく、本当手前はよぉ……!』
おい、と茂良が僕を呼び止めた。
振り向くと、僕に何かを投げて寄越す。
(;メ∀・)-~『いででっ……使えよ、俺の単車の鍵だ。転がし方くらい分かんだろ?』
(,,゚Д゚)『……いいのか?』
(;メ∀・)-~『あー、いい、いい。どうせ何言ったって特攻かますんだろ? だったらこれ以上何も言わねえよ』
寄越された鍵を手に取る。何故だかクマの可愛らしいキーホルダーがついていた。
意外性に少し笑いそうになるが、僕はそれを仕舞い込むと背を向けて駆けだす。
(;メ∀・)-~『お前はよぉ、埴谷。やぁっぱ……ドのつく不良だって』
そんな言葉を背中に寄越されるが、僕は返事もせず、荒い息のままにクラブハウスから飛び出す。
店の傍に停めてあった茂良のバイク――GSX1100Sに飛び乗ると、キーをさし込み、アクセルを開いて通りへと飛び出した。
(;゚Д゚)『っとと……バイクなぁ……実はあんま乗ったことねーんだけどなぁ……』
しかし文句は言えないだろう。
大嫌いな奴から与えられた手段に心の中で感謝しつつ、僕は爆音を轟かせて夜の景色へと溶け込んでいく。
144
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:02:10 ID:zxPp5njw0
三 其の二
145
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:03:30 ID:zxPp5njw0
夜の海辺は思ったよりも静かだった。
立ち並ぶ倉庫群の中、僕は単車から降りるとそれと思しき建物を目指す。
(,,゚Д゚)(しかし静かだな……本当にドンパチがあったのか……?)
詳しい建物の情報を聞いてはいなかったが、どうせ派手なことになっているからすぐに目的の場所が分かると思っていた。
が、しんと静まった空気に僕は首を傾げる。
しかしそんな中でも目立つのは、煌々と輝きが漏れ出ている一つの建物だ。僕は落ち着いた足取りで迫っていく。
(;゚Д゚)(にしても、今更ながらに……木刀一本でなんとかなるか……?)
背にある木刀を手の内へと持ち、握りを幾つか確かめる。
耐久性は悪くない得物だ。とは言え相手はヤクザ。しかも抗争が前提だとすれば拳銃等の凶器を所持している可能性が高い。
茂良の注意は至極当然のことだったろう。傍から見れば死地へと赴く、どころか自殺志願者でしかない。
だがしかし、それでも僕の中にあるのは死への恐怖ではなく、椎名の奪還のみだった。
(,,゚Д゚)(ヤクザ……ヤクザな。どれだけの訓練を積んでるか今一分からねえ。さっきの連中はプロだったろうけど、それでも危険性は低かった)
悪くない動きだった、と思う。対人における躊躇いや戸惑いもなかった。恐らく人を壊すことには慣れていた風だった。
しかし、それだけだった。死を覚悟する程の相手ではない。
プロを雇うくらいならば、ヤクザの実力――腕力、暴力的な意味合いだ――は大した程度ではないのかもしれない。
凶器を、それこそ日本刀だとか拳銃を持てば危険性は跳ね上がるが、果たして全員が全員殺しに慣れているのか、と言う疑問もある。
(,,゚Д゚)「……なるようにしかならねえ、か」
特に計画も作戦も練らないまま、僕は建物の前に立つ。
大胆不敵にも程がある、と言えるかもしれない。何せ敵地の真ん前に立つだなんてことは自殺行為に等しいからだ。
ところが、僅かに開かれた扉の奥からは何も音が聞こえない。内部から漏れ出る明かりによって地面の色合いが明らかになるが――
146
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:05:08 ID:zxPp5njw0
(,,゚Д゚)「静かだと思えば……遅かったか」
赤黒かった。それは酸化した血潮の色合いだった。
僕は扉の隙間から身体をねじ込み、内部へと踏み入る。
天井は高く、内部には北東西とそれぞれに通じる扉があった。恐らくはそれぞれ向かう先に冷蔵する為の装置や施設があると思われる。
が、それらの情報を得る前に、飛び込んでくるのは――
(,,゚Д゚)「こいつらが茂良のところの組連中か……?」
多くの死体の山だ。数にして十、ないし二十……多い数がそこら辺に転がっている。
例外なく深い外傷を負っている。或いは銃で撃ち殺されたような傷もあり、或いは刃で深く刺されたような傷もある。
一つ一つの死体を詳しく見て回りたいがそんな暇もない。この状況から察するに、茂良の親分――荒巻組の作戦は失敗に終わったと見ていい。
件の荒巻氏が誰かはさっぱり不明にせよ、今夜の襲撃が椎名の義父――宝木琴尾にバレていて、返り討ちにあったと思われる。
だが――
(,,゚Д゚)(それにしたって妙だ)
単に静かすぎるのならばいい。問題は“何一つ掃除が済んでいない状況で静かなこと”だ。
間違いなく大きな騒ぎになっていた筈だ。銃を持ち出しているのも明らかだ。そこら辺に空薬莢が落ちているし、古臭い大型の拳銃が幾つか落ちている。
衝突からどれだけの時間が経過したのかは分からない。しかし死体も片付けず、武器等の危険物も回収せず、何もかも放置して残していくだなんて不用心が過ぎる。
警察機関の動きがどうなっているのかも不明だ。通報の一つや十は入っていると見ていいが、そうなると僕にとっての時間的猶予はない。
早くこの場から退散しなければ、もしかしたら警察に逮捕される可能性だってある。
(;゚Д゚)「……何がどうなってんだ」
恐らく椎名はここにはいないだろう。そうなれば宝木の下に帰ったと見ていい。
それならば一件落着だ。僕の出る幕はない。
故にこのまま帰った方がいい。そう、その方が断然いい、のだが……。
147
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:06:44 ID:zxPp5njw0
(;゚Д゚)「……! この刀傷……」
状況は混迷を極めるが、僕は北の通路の道半ばで地に伏す死体に注目した。
それの背中には深く傷が走っており、覗ける傷跡から腹部まで刃が到達しているのが分かる。
(;゚Д゚)(おいおい、なんつー技量だ。背中から斬って……背骨を容易に切断して、腹の皮一枚だけ残すだなんて……)
一目で分かる――とんでもない奴がこの場にいたのだ、と。
僕は死体の様子を確認すると立ち上がり、死体が向かっていたであろう方向――北の扉を見やる。
(;゚Д゚)(空気が重い……?)
先まで何ともなかったのに、今の死体を見てから僕の中の何かが変わった気がした。
それは緊張感だ。死体の山を目の当たりにしても特に感想すらなかったのに、今、僕の中の警笛は激しく鳴り響く。
(;゚Д゚)(何があるってんだ、一体……)
茂良の話からすれば、この倉庫には少なからずの死体が保管してある筈だ。
今し方の倉庫内には死体が散乱しているが、それはさておき、僕は重い足取りで北の扉の前に立つ。
警笛は未だに鳴り響いている。この倉庫内に脅威になり得る誰かがいるとは限らない。状況からして撤退したと見てもいい。
だが――説得力に欠けている。
置き去りにされたままの死体の山々、武器兵器のそれ等、未だ駆けつけない警察機関――以上のことだけでも不気味だ。
更には先の刀傷を負った死体。それらの情報が危機感を煽る。
(;゚Д゚)「う、おっ……」
扉を押し開けると、中はとても寒かった。冷気で満たされる室内は白い色合いで、ラックのような物が整列されている。
ビニルで覆われた各ラックだが、半透明の先に見えるのは……蒼白い死体の数々だった。
吊るされているそれ等は噂のまんまで、間違いなく宝木のシノギそのものと言える。
なんとも気味の悪い光景だった。ある意味は死体の展覧会だ。これに興奮を覚えるドのつく変態もいるのかもしれないが、一般的感性の持ち主からすれば嘔吐ものだ。
148
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:08:31 ID:zxPp5njw0
(;゚Д゚)「思ったより数があるんだな……」
ハンガーにかけられた衣服のように整列される死体達。肌の色も髪の色も正しく十人十色で、グローバルだな、と感想が零れる。
(;゚Д゚)(んで、こっちにも死体が転がってんのか)
当たり前のように複数の死体が転がっている。それ等は先と同じく、鋭い刀傷を負い絶命していた。
先の切り裂き魔によるものだ。全て一撃で命を喰らい尽している。
(;゚Д゚)(只者じゃねえ……ヤクザにこんな奴がいんのかよ……)
どれも太刀筋に迷いが見受けられない。その上全てが急所を狙ったものばかりだった。
首が飛んでいる男性の死体を見やる。切り口を覗くと、切断面はとても滑らかだった。
血の噴出具合も――既に硬化しているが――勢いがいい。一瞬のことだったのは間違いない。
誰にでも出来る芸当じゃない。ましてやならず者のヤクザ程度に出来るとは微塵も思えない。
あるいはそう言った達人もいるのかもしれないが、僕はどうにも納得が出来ない。
(;゚Д゚)「ん……?」
そんな風にしていると、ふと、僕は視線を感じたような気がした。
それは部屋の北――真正面にある壁からだ。
(,,゚Д゚)「なんだ、これ……?」
そこは壁のようだったが、しかし、機巧的な装置を発見する。
単なるボタンだ。開閉スイッチのようで、僕はそれを見ると、再度正面の壁をよく観察する。
(,,゚Д゚)「ん……これ、隔離壁みてーなもんか……?」
何故そんなものが、と思うが、僕はスイッチを押してみる。
もしかしたらスペシャリティな死体でも保管してあるのだろうか。
例えば某国の要人だとか、或いは我が国のお偉い人だとか。
そう言った死体を厳重保管する為の装置か、なんて思いもするが、僕は開け放たれた先の景色に茫然とするのだ。
149
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:09:36 ID:zxPp5njw0
(;゚Д゚)「……? なんだ、ただの死体じゃねーか……」
壁がせり上がると、硝子越しに正面を向いた死体三つと対面する。
それらは右から嬰児、幼女、成人したくらいの女性の死体だった。
それぞれの顔を見やるが、どうにも有名人だとか政界人には見えない。見た覚えがないからだ。嬰児に至っては赤ん坊だから尚のこと不明だ。
まるでどこにでもいるような、そんな普通の死体なのに、何故にこうも特別扱いして、それも展示するように――
いや……鑑賞するように飾ってあるのだろう。
(,,゚Д゚)「……あ、れ?」
だが、僕はその違和感に気が付く。先からこの三つの死体に特別なものはないと思っていた。
しかし、共通点がある。嬰児は別としても、少女の死体と成人女性の死体は、見目麗しい顔付きだった。
死体故かそこまで美貌に輝きはないように思える。だが、それでも生きていたら、きっと素敵な笑顔を振りまいたことだろう。
(,,゚Д゚)「この人たち……似てねえか……?」
だがそれ等よりも、もっと気になることがある。
そう、そうだ。この既視感。この見慣れているような感じ。
150
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:09:56 ID:zxPp5njw0
(,,゚Д゚)「椎名しぃに、似てる――」
151
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:10:19 ID:zxPp5njw0
「誰だい、君」
152
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:12:10 ID:zxPp5njw0
――その声が聞こえるのと同時、僕は振り向きざまに木刀を構えた。
背筋に氷を宛がわれたような気分だった。項は粟立ち、全身の神経が刃のように鋭くなる気がした。
(;゚Д゚)「っ……」
白い靄の中、声がした方向は先程僕が入ってきた場所――入口からだ。
空気の変動は感じなかった。音の一つもしなかった。
いつの間にこの空間に入ってきた――
(;゚Д゚)(違う……いたんだ、初めから。あいつは、あそこに)
僕が入室した時、そいつは僕の隣に――入口の壁に寄り掛かっていたのだろう。隠れるでもなく、僕の様子を観察していたんだろう。
白い靄を割いて、そいつは確かな足音を響かせながら歩いてきた。
「どうした、答えられないのかい。或いは先の糞共の生き残りかと思ってたんだけど……しかし幼過ぎるしなぁ」
腰に、日本刀と……脇差をさしている。
今時大小を持つだなんて、いつの時代の侍気取りだ、なんて感想も出てくる。
(;゚Д゚)(声……高い、いや低い? 中性的だ……)
彼我の距離が近くなる。そう広いとは呼べない室内だ。間も無く互いは衝突するだろう。
僕は木刀の握りを幾度もなおす。更には切っ先を正眼へと備えた。
(;゚Д゚)(先の切り裂き魔かどうかは分からねえ。声色からして緊張は窺えない。足取りも……通常だ。刃に手をかけてもいない)
それでも警笛は止まない。僕の全神経が防衛本能を前面へと押し出した結果、構えは必然として正眼になった。
それを見て声の主は意外そうにするのだ。
「……へぇ。木剣なんて持って、しかもその強面からヤンキー小僧かと思えば……」
ごつり、と。僕の数歩先で足音が止まった。
重い足音――ブーツだ。ソールの感触からして履きなれていない、恐らく新品同様だろう。
それならば足はこちらが有利だ。それだけでもいい情報を得た――
153
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:13:56 ID:zxPp5njw0
(;゚Д゚)(先手を――!!)
僅かに弛緩させていた筋肉を一気に緊張状態に。一歩と踏み込めば全身のバネが僕を切り裂き魔へと飛び込ませる。
正眼から迷いもせずに突きを選んだ。古今においてこれはある種の完成形だ。この状況であるからこそ最善手と言える。
だのに――
「君……剣が得意なのか」
切り裂き魔は、そんな僕の突きを、鞘に入ったままの刀身――否、否、大いに否。
柄尻で切っ先を撃ち払うのだ。
(;゚Д゚)「っ――!?」
この速度に、突飛な一撃に余裕なままで返された。
僕は撃ち落とされた木刀を引くと、即座にその場から数歩引き下がり、左半身を押し出し、軽く腰を落とし、脇をしめると刃を天へと構える。
必然的に得物を抱きしめるような形――八相の構えと言うが、僕にとってこれは“陰の構え”だ。
「成程……しかも伊達じゃない。即座に脇中段か。ボクの刃を受けると言うのなら……それもまた面白そうだね」
攻めて勝てる相手ではないと即座に悟る。ならばどうする――逃げるのが大正解だ。
危機に対してどう対処するのが正解か、と言うのは、どう考えたって逃亡だ。
相手取る必要なんてない。僕は多くの不良共を相手にしてきたが、それらは“危機になり得ない”から相手にしてきただけだ。
危機とは何かと問われたらば、僕はこう答えよう。
(;゚Д゚)(“手に負えない”……“敵わない相手”)
全身で汗をかいていた。先まで肌寒かったはずなのに、僕の心臓は爆音を奏で、いよいよ露わになった切り裂き魔の顔を見る。
(;゚Д゚)「――お、んな……?」
そいつは、まるで殺意が姿を持って歩いているような、そんな風体だった。
瞳には狂気の色合いが渦巻き、まるで世の憎悪全てをかき集めた坩堝のようにも見えた。
逃げたい――そんな気持ちが胸中に渦巻く。だが唯一の逃走経路は切り裂き魔の背、つまり僕が入ってきた入り口のみ。
154
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:15:38 ID:zxPp5njw0
「おぉ、やっぱり身体が大きいね。しかもよく鍛えられている。ウェイトは幾つかな、若い感じだけど……九十くらいはあるのかな」
切り裂き魔が刀を抜く。綺麗な音だった。鞘を走る刀身は先まで人を斬りまくっただろうに、だのに突っかかりもせず、滑らかで涼し気な音を響かせ世に放たれた。
途端に、景色に血潮の香りが舞った。それは刹那で室内を覆い、まるで血の海に包まれたような錯覚に陥る。
(;゚Д゚)「……何者なんだ、手前……」
そいつは、切り裂き魔は……全身が古傷だらけだった。
可憐な顔立ちだった。美しいと、綺麗だと、そう素直に思った。
けれども、そいつは女性なのに刃を持ち、転がる死体には見向きもせず、狂気を孕む瞳で僕を見つめながら、小さく……微笑む。
(;゚Д゚)「その剣も、風体も、何もかも――普通じゃねえ……!!」
いつか、僕は聞いたことがある。
笑み、と言うのは動物の世界では威嚇を意味するという。
歯牙を覗かせることそのものが敵意を示すらしい。
だから自然界で動物が大きく笑う時と言うのは、敵と定めた存在を仕留める時や、餌となる獲物を狩る時だそうだ。
(;゚Д゚)(こいつ……こいつは、人なのか)
鬼――鬼と言う言葉がある。
それは本来「おぬ」と呼ばれ、意味合いとしては理解し難い、許容し難い何かしらを恐れた時に使われたと言う。
それは魔を、闇を、悪を意味し、つまり鬼と言う言葉は、人ならざる、恐ろしいものを指す際に呼ばれる。
「……そうだね。果たし合うと言うのであれば名乗るのが礼儀だ。君はその“道”を往く人のようだしね。いやしかしその若さでご立派ご立派……」
そいつは刃を天へと思い切りよく掲げる。
大上段――必殺必死の構え。それは明確な殺意を形にした分かり易い構え。
僕は自然と咽喉を鳴らす。極まった姿やその気迫に呑まれる寸前だった。
しかし、それすらも見て、切り裂き魔は――否。
155
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:16:10 ID:zxPp5njw0
(#゚;;-゚)「ボクの名前は『屍』……横堀でい。しがない殺人鬼をしている。君は何て言うのかな、不良君」
(;゚Д゚)「……埴谷銀。不良じゃあ、ねえ……!!」
156
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:16:41 ID:zxPp5njw0
殺人鬼は微笑んだ。
157
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:17:08 ID:zxPp5njw0
三 其の三
158
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:18:48 ID:zxPp5njw0
受けの構えをとった僕だが、生きた心地がしない現状、生存の確立は極めて低い。
一合を凌げば逃げの筋は見えるかもしれない。だがその一合を凌げるのかと僕は自問する。
(#゚;;-゚)
横堀でいと名乗った女は大上段の構えのままに僕を睨んでいる。
見た感じ、未だ歳は二十代後半程度だろうに――
(;゚Д゚)(なんつー堂に入った姿だ……)
極まっていた。歴戦の兵のような、死合うことに慣れたような、実に美しく、剣の理合とは斯くありと語る姿勢だった。
彼女は微動だにしていない。呼吸の間隔が非常に浅い。まったく動きの先が読めない。徹底して空気を、呼吸を殺している。
普通、人間は呼吸の一つだけで先の動きが読めてしまえる。構えから利き手、足も読める。視線から感情や計画も読める。
(;゚Д゚)(……久しぶりだ、こんなに極まった奴)
それでも、徹底的に隠そうとしても僕には読み取れる情報がある。
よく鍛えられている。背は百六十五センチ程度だが全身の筋肉はとてもいい具合だ。
足捌き――新品同様のブーツで先の動きだ、恐らく僕では完全には対応できない。
重心のブレは皆無。最早天から地へと一本の棒でも通っているように完璧だった。
剣の構え、持ち方、それに倣う全身の動きも無駄が一切ない。恐ろしきは自然な動作で先の大上段へと持って行ったことだ。
(;゚Д゚)(けど……)
“何かが違う”気がする。この殺人鬼には“決まり事”が欠けている気がする。
研鑽の果てに今の彼女があるとしても、その中に、もっと言うと核心的な物の中に――
(;゚Д゚)「“道”は――ねえんだな!?」
(#゚;;-゚)「おっ……!?」
刹那の時を切り取るかのような速度だった。いつ動いたのかも分からない。
だが、目前に殺人鬼の刀身が迫ると、僕はそれを撃ち払う。
一合凌いだり――だなんて歓喜する暇はない。殺人鬼は少々の驚愕を浮かべるが、僕が踏み込み、胴――ではなく逆胴を打つと、それを返す手の鎬でいなされる。
159
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:21:03 ID:zxPp5njw0
それを見て背が震えた。このままでは刀身を這わされ迫られる――“橋を架けられる”。
そんなことを黙って許しはしない。理想とするなら上段から一気に唐竹にぶった斬ることだが、それはどうあっても叶わない。
故に手首の動作だけで得物を回転させる――“巻き撃ち”により上段を取ってみせた。
(#゚;;-゚)「おぉ、凡そその歳の小僧に出来る芸当じゃないね」
が、頭へと撃ち迫った木刀は、またもや柄尻で受けられる。
ほんの一瞬の間が生まれた。その隙を逃すまいと殺人鬼は僕へと体当たりをかますと即座に距離をとる。
大したダメージはない。衝撃は軽い程度だったし、今の感じからして彼女は超近接戦闘が苦手なのだと悟った。
(;゚Д゚)(逃がさねえ――いや、離れたら殺される……!!)
ヒリヒリと伝う殺気に怖気ていたら終わりだ。そして彼女の圏内こそが僕にとっての活路だろうと察する。
単純な腕力なら僕の方が確実に上だ。全てが完璧であっても、越えられない男女の差とは、つまりはパワーそのものだ。
元より僕の身体は恵まれていると言える。高い背丈に発達した筋肉。持久力だってある。それに――目だっていいんだ。
(;゚Д゚)(初動……くる、斬る気だこの女!!)
僕が肉薄すると同時、殺人鬼は柄を深く持ちほんの少しだけ重心を右へと流した。
僕の懐中へと突っ込み顎を撃ち砕くか、はたまた切り裂くか――どちらにせよこの動きを許したら僕は死ぬ。
(;゚Д゚)「おっらぁ!!」
(#゚;;-゚)「……!」
ならば――蹴り飛ばす。
豪快に右膝蹴りを殺人鬼へと叩きつける。そのまま壁際まで無理矢理に押し続ける。
殺人鬼は咄嗟に肩で庇うが、そのままでいい、そのまま壁まで迫ったら、あとは我武者羅に滅多打ちにしてしまえば――
160
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:24:28 ID:zxPp5njw0
(;゚Д゚)(――あ、ダメだ、死ぬ気がする――)
その考えは僕の中の死の直感により否定された。
激しい呼吸により乱れる視界の中、僕は確かにコンマの世界でそれを見た。
彼女の自由になっている左手が、脇差へと伸びたのを。
許せばどうなるかなんて言うまでもない。刺し殺される。
(;゚Д゚)「ふぅっ……!!」
ならば手を奪うしかない。右足をあげた姿勢のままに上段から木刀を振り下ろした。
対する殺人鬼は今し方抜いた脇差を僕の腹部へと突き刺す――のではなく、迫った木刀に対して撃ち付ける。
(#゚;;-゚)「成程……やっぱり単純な腕力ってのは恐ろしい。刺し殺してもよかったけど頭を潰されちゃ困る」
(;゚Д゚)(息の一つもきれちゃいねえ、どころか全然余裕かよこの女……!)
音を立てて互いは距離を置く。
僕は再度正眼へと木刀を構えたが、しかし妙な違和感を左腕に覚えた。
(#゚;;-゚)「その歳にして……恐ろしい勘と機転がある。実力は見込み以上……目もいい。“組み打ち”のような肉弾戦闘も出来るとなると近付きたくなくなるよ」
二の腕に、薄く、一閃が引かれていた。
傷の具合は浅い。いつの間に、と思うが先程の膠着を解いた瞬間に、恐らく先のお返しにと、逆胴から脇差を振られたのだと思う。
流れる血を厭いもせず、僕は眼光鋭く殺人鬼を睨んだ。
(#゚;;-゚)「仮に十年前のボクだったなら……もしかしたら君を相手に不覚を取ったのかもしれない」
(;゚Д゚)「はっ……なんだその言い方。まるで十年前から人を斬りまくっていたように言いやがって……」
(#゚;;-゚)「いいや、もっとだ。ボクはもっと前から人を斬り続けているよ」
何を言ってんだ――そう言おうとしたが口が上手く動かない。
今、僕は怒涛の殺意を向けられていた。それは今までに味わったことがない程の濃度で、背は滝のように汗が流れていた。
161
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:26:02 ID:zxPp5njw0
(#゚;;-゚)「君のその目……普通じゃないね。まだ拙い具合だけど、そうか、成程……流石は“埴谷”の血なだけはあるのかな」
(;゚Д゚)「っ――」
その言葉に心臓を撃たれたような衝撃を得るが――
(#゚;;-゚)「実を言うと君のことは知っていたんだ。先の問答は、まぁ、闘争の切っ掛けとでも思ってくれて構わない。しかし状況も碌に分からないまま……よくも鉄火場に足を踏み入れたものだよ」
――しかしそれよりも尚、強い驚愕を僕は得た。
(#゚;;-゚)「では……折角ここまできたのなら、試してみようか。どこまで追い切れるか……それともここでボクに殺されてしまうか」
殺人鬼は間違いなく一歩を踏み出した。それは分かる。彼女の各筋肉の動きも理解出来ている。僕にはそれ等が全て分かる。
分かるのに――
(;゚Д゚)(え、なんだ、これ)
一歩、一歩と間違いなく彼女は僕へと迫っている。
だが――“速過ぎる”気がする。そして“遅過ぎる”気もする。
互いの距離は間違いなく埋まっている。その距離は見紛うことなく一歩ずつの距離だ。
ならばこれはなんだ、何故僕の目には――彼女の動きがメチャクチャに見えているんだ。
(;゚Д゚)(これは、動きの緩急……!?)
律動が読めない。呼吸の間隔も読めない。それによりリズムを、拍子を、そして何より――闘争のテンポを崩されていくのが分かる。
162
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:28:46 ID:zxPp5njw0
(#゚;;-゚)「この世界には律動と言う概念がある。リズムだね。例えば一歩を踏み出すだけでもリズムとなる。
そしてその拍子には強拍、弱拍とが存在し、それが連なることで時間と言うものになる。時の流れそのものだ」
殺人鬼の右に握られている打刀が袈裟に振られる。それをいなそうとするが、予想していたタイミングで刃は衝突しなかった。
ほんの少し、たった少しの刹那の後に僕の木刀に刃が撃ち落とされる。
芯に響く一撃だった。重い衝撃により僕の構えが崩れる。
(#゚;;-゚)「人は無意識にせよ意識的にせよ律動の中で生きることを当然としている。例えばこれそのものを武道で言うところの呼吸や起こりと呼ぶこともあるね」
その隙を衝くように、今度は左手に握られている脇差が振られる。
それもまた“速いのか遅いのか分からない”速度だ。
(;゚Д゚)(まるで早送りと巻き戻しを繰り返すような、いや、一時停止を幾度もかけるような、けれどもそれらが全て流れるように、一瞬で完了しちまってる――)
どのタイミングでくるかは最早分からない。だがそれでも受けることだけは出来る。
先の一撃を凌いだ僕は木刀を思い切り引く。腰の位置まで引いたことにより、僕は胴に迫った脇差を受けることに成功する。
だが、脇差の刃は木刀に減り込むのだ。あと少し、ほんの少し遅く撃てたなら、僕は脇差の一撃を完全にいなし、次の手を即座に打てただろう。
しかし木刀の自由は一瞬程度奪われてしまった。それこそが勝敗を決する形となった。
(#゚;;-゚)「ではそれを……律動を、人の思うところの一秒だとか一瞬だとか刹那を理解してしまえたら、そしてそれを支配し、
自身で意図的にコントロール出来てしまえたら……どうなるだろう?」
眼前に、霞の位置に備えられた殺人鬼の刃があった。
僕は目を見開き静かに木刀を落とす。
その力量の差に愕然とするのだ。今し方死を突き付けられている状況は最早覆らない。
(;゚Д゚)「……出来る訳がねえ。人間に、超自然的な概念を理解して、コントロールするだなんて……」
(#゚;;-゚)「けれどこれが現実だ。例えば相対性理論って分かりやすいよね。君の思う一秒と他人の思う一秒は違う。
これをタイム感と呼ぶ。完全に個人の中の律動が他人と合致することなんてないって訳だけど……」
163
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:31:40 ID:zxPp5njw0
例えば今、僕が最後の抵抗にと殴りかかればどうなるだろうか。
決死の一撃だ、もしかしたら殺人鬼の身体のどこかに一撃は叩き込めるかもしれない。
だが見返りは確実に死だ。そもそもこの状態からして死は免れないだろうが、しかし……死に様と言う言葉もあるように、僕は術を探していた。
それは逃げの術ではない。
この殺人鬼に対抗する術だ。
(#゚;;-゚)「呼吸を悟らせないって言うのは、つまり、自身のタイミングやリズムを敵対する者に悟らせないことを言う訳だね。初動がバレたらそれを封じられる、
肩の上げ下げだけで攻撃の瞬間だって分かってしまう。故に人はリズムを徹底的に隠し、悟らせまいとする。それこそが死を招く原因だからね」
御高説を垂れている殺人鬼は勝ったつもりでいる。
それはまあ、当然だろう。何せ実力は雲泥の差だし、僕の動きを彼女は完全に掌握している。
恐らくどう動いたって看破され膾にされるだろう。
しかし――
(#゚;;-゚)「……目上の人間の言葉はちゃんと聞くべきだよ、少年」
(; Д )「はっ……生憎、分かり切ってる内容なんでね……」
ここで終わるのか、と自身に問う。
滅多刺しにされようが、散々なまでに切り刻まれようが、それでもまだ僕は現状、生きている。
先の動きを見破られていようが、どう対処されようが、それでもこのまま、ただ為すがままにされるだなんてのは――
(#゚Д゚)「真っ平ごめんなんだよ、腐れ殺人鬼……!!」
僕は右手で殺人鬼の構えている剣の先を掴む。
刃が手に食い込み、それによって血が垂れ流れる。
殺人鬼は少々呆れたような顔をするが、それでも僕は刃を離さない。
(#゚;;-゚)「……!」
彼女は刀身を引き抜こうとするが、しかし微動だにしないことに驚いた顔をする。
僕は全力で刃を掴んでいる。例え全ての指を失ったとしても、絶対に、何があっても、この刃を手放さない。
164
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:33:34 ID:zxPp5njw0
(#゚Д゚)「先から偉そうにどうのこうのと喧しい……更には勝った気でいるのが尚のことムカツクんだよ……」
刃を寸前で止めやがった――その事実。
ムカツク。実に。腹立たしくて仕方がない。
こいつは、この殺人鬼を自称した女は、確実にあの瞬間に僕を殺せていた筈だった。
だのにそうしなかった。或いはそれを情けと呼ぶのかも知れない。今夜だけでも散々に斬り殺しただろうに、それでもまだ年端もいかない少年を切り捨てるのは忍びないと。
(#゚Д゚)「嘗めるのも大概にしやがれ……!! この俺を――僕を!! 剣で!! コケにするんじゃねえ!!」
刃を握ったままに、それを無理矢理に引き寄せる。
その動きによって殺人鬼は軽く姿勢を崩した。余裕の態度だ、そりゃ隙だって出来るだろう。
だが――それもまた、僕の怒りを煽るのだ。勝敗は決したと、何もかも自身が優っていると、そう思っていやがる。
事実、僕は間違いなくこの殺人鬼に劣る存在だ。何せ僕は必死だし全力だったが、彼女は息の一つも乱さず、汗の一滴もかいていない。
故に彼我の実力差は圧倒的だが――その事実が超絶なまでに気に入らないんだ。
嘗めるな。
侮るな。
僕を相手に、ましてや剣を持った殺人鬼が、殺さずに情けをかけるだなんて――
(#゚Д゚)「僕を殺してから偉そうにギャンギャンと喚きやがれぇええええ!!!!」
迫る脇差を手の甲で払いのけ、彼女の懐へと潜りこむ。
そのままに――“右半身”を彼女へと接触させた。
(;゚;;-゚)「――おいおい、君、これは――」
165
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:34:10 ID:zxPp5njw0
――脳裏に過る黄金の景色がある。
止まぬ蝉時雨の中、僕は泣きじゃくり、優しい笑みを浮かべる祖父により頭を撫でられる。
そんな祖父の手には剣があった。
俯き、泣きじゃくる僕の手の中にも……剣があった。
『生きなさい、銀坊。きっとお前は幸せになれる。だから生きなさい、強く。その手に刃を持ち、破壊の衝動と殺意の風を受け入れて』
その言葉の後に、僕は祖父を失った。
誰よりも優しくて、誰よりも強くて、誰よりも――
166
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:34:44 ID:zxPp5njw0
――……剣を求めた人だった。
167
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:36:53 ID:zxPp5njw0
(#゚Д゚)「“埴谷流”の“組み打ち”は心底痛いぜ……!!」
――暮れる景色の中、僕は血に塗れた剣を握り、静かに息を引き取る祖父にしがみ付き、泣いていた。
僕はきっと全てを壊してしまう。物も、人も、何も関係なしに傷つけてしまう。
これは全て呪いだと思っていた。この血に生まれた者の――“埴谷”に生まれた者の運命にも等しい呪いだと。
(# Д )(――じいちゃん)
あなたは言った。僕の“これ”は誰かを助ける力になると。己と言う存在を嘆くなと、呪うなと。
それは実際、難しい話で、僕はずっと他者を避け続けてきた。
だけれども……最近、妙に鬱陶しい少女がいる。
そいつは実に気に食わない少女で、人の死に満面の笑みを浮かべる頭の可笑しな奴だ。
生まれ持った美貌に皆は騙されてるけれども、本当のそいつは、結構、意地悪で、ストーカー気質で、実にウザったい奴だ。
そんな奴が、今、どういう訳か面倒に巻き込まれていると言う。
僕からすれば実にどうだっていい話だ。これでようやっと面倒がなくなったと喜んだっていい、
だが――喜べやしない。
(#゚Д゚)(もう気持ちの悪い笑みなんて浮かべるんじゃねえ、椎名……!!)
あの少女を泣かせてやりたい。
他人事のような態度も、張り付けたような笑みも、何もかも嘘くさくて、実に信用ならない。
本当にお前は笑いたかったのかと問いたい。この状況に至って、お前は何を考えるのか、何を思っているのか聞きたい。
悪を愛し、悪に愛されるお前と言う存在は、本当に――悪そのものなのかと訊きたい。
(;゚;;-゚)「成程……流石は埴谷家、恐ろしい因子を残すなぁ――」
だから――まだ終われない。こんなところで、殺人鬼如きに殺されちゃあ堪らない。
僕はお前を泣かすと決めた。徹底的にヤキをいれると決めた。
だから……あと少しだ。ほんの少し、そう、この糞みたいに嘗め切った腐れ殺人鬼を――
168
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:37:32 ID:zxPp5njw0
(#゚Д゚)「おぉおおおおおらああああああああああああ!!!!!!!」
“当て身”でぶっ飛ばしたら、すぐに、お前を泣かせに行ってやる。
169
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:38:53 ID:zxPp5njw0
接触した部位から、自身の体重とイコールになる衝撃を殺人鬼へと叩きこむ。
それにより彼女は吹き飛び、壁へと激突した。
衝撃によって手の内から刃は引き抜かれたが、代償として掌は大きく抉れてしまい、鮮血が滴るように落ちていく。
(; ;;- )「おぉ〜……いや、大したものだね、君……これ程うまく“当て身”が出来るとは……」
だが……ウェイト約九十キロの衝撃を喰らっても、殺人鬼は当然のように立ち上がり、首を鳴らすと僕を真っ直ぐに見やる。
(;゚Д゚)(……化け物かよ)
普通なら意識を手放すどころか血反吐を撒き散らす程なのに、しかし内臓に対するダメージすらないようで、僕は本日何度目かの驚愕を得る。
急いで僕も体勢を立て直そうとするが、出血の割合からしても、完全に生き残る道が閉ざされたように思う。
ここで果てるのか――元から生存確率は果てしなく低かった。寧ろよくぞここまでやったものだと自身に呆れを覚える。
(;゚Д゚)(息巻いたはいいけど……結局、僕はこんな程度なのか)
さあ、ではこの後はどうなるだろう。既に僕に抗う術はない。同じ手が通じる相手には思えない。
では潔く殺されるのを待つか、はたまた奇跡でも待つか――
170
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:39:27 ID:zxPp5njw0
「なーにやってんのよ、でい!」
171
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:41:07 ID:zxPp5njw0
そんな時だった。突然に扉を蹴り開けて一人の女性が飛び込んできた。
(;゚Д゚)(……? 誰だ……?)
全身にタトゥーを彫った派手な女性だった。
金髪のツインテールが特徴的で、猫の目のようにつり上がった瞳には不思議な色合いが浮いている。
それは何と言うか……歪のようで、けれども無垢を思わせるような、今まで見たこともない色合いだった。
(;゚;;-゚)「いやいや参った、予想以上にこの少年が出来る子でね」
「とか言って遊びすぎなのよあんたは! しかも関係ない奴等殺しまくってからに! また怒られるわよ、布佐さんに!」
(;゚;;-゚)「えー……とは言っても襲われたのはボクの方だよ? 正当防衛だよ、正当防衛」
「それで済んだら警察いらないから……って、なぁんかこのやり取り、前にもあった気が……?」
(;゚;;-゚)「なんのこっちゃだよ」
女性は殺人鬼へと近づくと手を差し伸べ、それを受けた殺人鬼はゆっくりと立ち上がる。
二人は見知った仲、というよりかは……まるで互いの全てを知った相棒のような感じで、僕は新たに出現した女性を敵なのだと理解する。
(;゚Д゚)(こいつも……強い。間違いなく)
何故かギターのハードケースを持つ女性は、この場には完全に不釣り合いだった。
しかし、不思議と感じるのは彼女の覇気と呼ぼうか、或いは張り詰めた空気と呼ぼうか。
ぎゃんぎゃんと騒いでいる癖に隙もない。寧ろ誘い受けるような空気がある。
かかってこい、とでも言いたいのだろうか――しかし今の僕にそんな余裕はない。
(;゚Д゚)(どうする……どうやってこの場を突破して椎名の下へ……)
この状態ではまともに戦えない。となると今この場にあるもの全てを利用して状況を打破しなければならないが――
172
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:42:59 ID:zxPp5njw0
「げ、ちょいちょいそこの坊や! 何よその手! 血塗れじゃん!」
(;゚Д゚)「……は?」
僕の警戒心も他所に、女性は慌てた様子で駆け寄ってきて、僕の手を取ると今し方に負った傷を見る。
「ちょ、ちょおおおおお!! これ絶対でいでしょ!? あんた子供相手に容赦なさすぎるわよ!」
(;゚;;-゚)「いやいや、それはその子が無理矢理に刃を握ったからで――」
「しゃあしい、この殺し狂い!! あんたは昔っからそんなんだからねえ!?」
(;゚;;-゚)「分かった、分かったから手当てしてあげなよ……本当にお前はいつもいつも喧しいなぁ……」
「あ、何その態度、ちょっとそれはむかつくんだけど!? ん!? ねえ!?」
何故か言い争いを始めた二人。女性はハードケースを開くと、その中から消毒液と包帯を取り出し僕の手をぐるぐる巻きにしていく。
(;゚Д゚)「んなっ――」
僕が驚いているのは彼女の行為に対してではない。そのハードケースの中身だ。
(;゚Д゚)(ぶ、武器庫かよ、これ……!?)
中には大量の武器類が収納されていた。
銃器は勿論だが、しかして用途も不明な、よく分からない武器類もある。
少し大袈裟な形状をしたダーツだとか、大振りな鉈……ではなく、包丁のような刃物。
そしてナイフ――ではなく匕首に、最も疑問的なものと言えば……どこにでもあるような包丁、牛刀だ。
(;゚Д゚)(これ、全部この女が使うのか……?)
あまりにも過多な装備だ。まるで戦争にでも行くのかと疑問を抱くほどだ。
僕が女性を疑うような眼差しで見つめていると、それに気付いたのか、何故か女性は気持ちのいいような笑みを浮かべ、おまけに親指まで立てる。
「あらあら少年、もしかして私に見惚れてた? こりゃいけないねぇマセてるねえ! いやしかしお目が高いと言おうかしら……この私に惚れるたぁ見どころが――」
(#゚;;-゚)「んな訳あるかアホ女。お前が胡散臭いから引いてるんだよ。分かりなよそれくらい」
「はぁああああ!? どこが胡散臭いのよ!! このスーパーハイパーウルトラ超絶究極完全無欠なビューティフルオーガレディーに――」
どん、と女性は自身の胸を叩き、僕を見つめ――
173
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:43:34 ID:zxPp5njw0
ξメ゚⊿゚)ξ9m「この津出鶴子ことツンちゃん様に!! 胡散臭いところなどあるはずもなかろうがよ!?」
そう、自身を強く名乗った。
174
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:44:14 ID:zxPp5njw0
(#゚;;-゚)「いや何もかも胡散臭いし五月蠅いしもう帰っていいよ邪魔」
ξメ;Д;)ξ「おい辛辣過ぎんだろ!! もう少し優しくしなさいよバカでい!!」
(#゚;;-゚)「いやぁ無理だね」
Gξ#゚⊿゚)ξ「きっさまっ……ならばやはりぶち殺すのみ!!」
(#゚;;-゚)「マジでお前の百面相忙し過ぎない?」
(;゚Д゚)(えええ……なんなのこの女の人達……)
何だか気が抜けるような……そんな漫才を目の前で繰り広げられる。
しまいには殺人鬼――横堀でいに頭を叩かれ、津出鶴子と名乗った女性は沈黙するのだった。
175
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:44:52 ID:zxPp5njw0
三 其の四
176
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:46:06 ID:zxPp5njw0
先までの緊張感はどこへやら、突如乱入してきた女性――津出鶴子は僕の治療を終えるとハードケースに包帯等を仕舞い込む。
_,
ξメ゚⊿゚)ξ「しっかしまぁ……こりゃ、どうすりゃいいやらって感じねぇ」
何故か困った顔をして殺人鬼――横堀でいへと視線を配る。
そうすると横堀は溜息を吐き、寄りかかっていた壁から背を離すと僕達の方へと歩み寄ってきた。
(#゚;;-゚)「どうもこうもね……セオリー通りならこの少年は抹殺するべきじゃないのかい?」
(;゚Д゚)「っ……」
よくも本人を前にしてあっけらかんと言ったものだが、横堀は自身を殺人鬼と名乗るくらいだ、殺すことは日常の一部のようなものだろう。
しかしその言葉に津出は納得がいかないようだった。
ξメ-⊿゚)ξ「あのねえ、そんな簡単に殺していい訳ないでしょうが。普通の人間だし……そもそもこの子は今回の件にはまったくの無関係でしょう?」
(#゚;;-゚)「いや、そうとも言い切れない。何せ宝木の娘と関係があるようだし」
宝木の娘――それは椎名のことだ。
元よりこの場に居合わせた者同士、どうあっても椎名、或いは宝木に関係はあるだろう。
ξメ゚⊿゚)ξ「まぁ……確かにここ数日、仲がいいみたいね。なにさ少年、椎名しぃは君の彼女なの? スケなの?」
(;゚Д゚)「……別に、そう言うんじゃねえよ」
_,
ξ*゚∀゚)ξノシ「おっほ、照れよる! かっわいぃー! でもでも好意はあるんでしょ? ラブなの? ラブしちゃってんの?」
(;゚Д゚)(なんなんだこの女……)
177
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:47:50 ID:zxPp5njw0
Ω
ξ; Д )ξ「あだっ、あだまっ!! あだまいでええええ!! タンコブ!! ねえ!! タンコブできてないこれねえ!?」
(#゚;;-゚)「バカは放っておくとして……埴谷銀くん、だったね」
(;゚Д゚)「なんだよ……」
横堀の鋭い目に射抜かれるとやはり生きた心地がしない。
事実、僕は彼女に敗れた。そうなれば生殺与奪の権利は全て彼女の手にあると言っていいだろう。
(#゚;;-゚)「君は……何故ここにきたんだい?」
(;゚Д゚)「…………」
(#゚;;-゚)「確かに君と椎名しぃはここ数日で急接近している。けれど……こう言ったヤクザの抗争に首を突っ込む程の関係じゃないはずだ」
今頃になってだが、果たしてこの二人は何者なのだろうか。
そりゃ、この場にいるから全員に共通事項はある。しかし、二人はどこからどうみてもヤクザだとか、それに所縁のある人間には思えなかった。
確かに凶器を手に人を殺すだろう。横堀は殺人鬼と名乗るくらいだし、その実力は疑いようがない。
先程、津出が“関係ない人間を殺し過ぎ”と言った。となるとやはり、複数見た斬殺死体は彼女の手によるものだろう――
(;゚Д゚)(関係ない、人間……?)
その言葉を反芻し、尚のこと謎が深まった。
もしかしたら二人は誰ぞかに雇われた殺し屋で、荒巻氏や、或いは宝木の命を狙ってきたのかもしれない。
それならば標的以外の命を狙うのはリスキーだし無駄そのものと呼べる。故に頷けなくはないが……。
178
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:48:15 ID:zxPp5njw0
>>177
修正
どうにも調子が狂う人物だ。完全に彼女のペースに呑まれかけている。
が、そんな津出の頭に再度横堀の拳骨が落とされ、津出は地面をのたうち回った。
Ω
ξ; Д )ξ「あだっ、あだまっ!! あだまいでええええ!! タンコブ!! ねえ!! タンコブできてないこれねえ!?」
(#゚;;-゚)「バカは放っておくとして……埴谷銀くん、だったね」
(;゚Д゚)「なんだよ……」
横堀の鋭い目に射抜かれるとやはり生きた心地がしない。
事実、僕は彼女に敗れた。そうなれば生殺与奪の権利は全て彼女の手にあると言っていいだろう。
(#゚;;-゚)「君は……何故ここにきたんだい?」
(;゚Д゚)「…………」
(#゚;;-゚)「確かに君と椎名しぃはここ数日で急接近している。けれど……こう言ったヤクザの抗争に首を突っ込む程の関係じゃないはずだ」
今頃になってだが、果たしてこの二人は何者なのだろうか。
そりゃ、この場にいるから全員に共通事項はある。しかし、二人はどこからどうみてもヤクザだとか、それに所縁のある人間には思えなかった。
確かに凶器を手に人を殺すだろう。横堀は殺人鬼と名乗るくらいだし、その実力は疑いようがない。
先程、津出が“関係ない人間を殺し過ぎ”と言った。となるとやはり、複数見た斬殺死体は彼女の手によるものだろう――
(;゚Д゚)(関係ない、人間……?)
その言葉を反芻し、尚のこと謎が深まった。
もしかしたら二人は誰ぞかに雇われた殺し屋で、荒巻氏や、或いは宝木の命を狙ってきたのかもしれない。
それならば標的以外の命を狙うのはリスキーだし無駄そのものと呼べる。故に頷けなくはないが……。
179
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:49:40 ID:zxPp5njw0
(;゚Д゚)(いや……だったら余計にこんな鉄火場で殺そうだなんて思わんよな。普通は狙撃とかの暗殺だろうし……)
そう言った世界のことはよく分からないが、混戦するような状況や複数人の目のある状況でわざわざ標的を殺そうとするだろうか。
僕だったら何事もない平凡な日に、それこそ油断している一時を狙う。
で、あるならば何故この場に二人はやってきたのだろうか。
(#゚;;-゚)「……ああ、そうか。そりゃボク達の方が気になるか」
(;゚Д゚)「素性の一つも知れない相手に、そう易々と喋る気にはなれねえよ。ましてや……」
一度そこで言葉を切り、僕は呼吸を整える。
(,,゚Д゚)「……“埴谷”の名を知っているような奴等には、尚のこと」
(#゚;;-゚)「……成程、そりゃそうだね」
横堀はかぶりを振るうと、未だに転がりまわっている津出を見やる。
視線に気づいた津出は何となくのところで察したようで、ただ頷くだけだった。
(#゚;;-゚)「まあ、そうだな……ボク達はとある要件で宝木を殺さなくちゃいけないんだけどさ」
(;゚Д゚)「また簡単に言うなぁ……」
(#゚;;-゚)「けどそれには明確な証拠と言うか、確証が欲しくてね」
宝木を殺す理由と言うのは、まあ多くあるんだろう。
全てはヤクザだから、という言葉で済む気がする。恨みを買うことも少なくないだろうし、公的機関が直接手を出せない代わりに鉄槌を下しにきたのかもしれない。
故にこの死体保管所の実態を探り、その証拠を以って宝木を抹殺する――
180
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:51:00 ID:zxPp5njw0
ξメ゚⊿゚)ξ「ああ、そう言う綺麗な話じゃないわよ」
(;゚Д゚)「え?」
よっこいせ、と言いつつ津出は起き上がると僕の思考を読み取ったように言葉を紡いだ。
ξメ゚⊿゚)ξ「確かにまぁ……宝木は方々で悪さしてるし、実際のところ、存在そのものが厄介なのは間違いないわね。それは各界隈において、ね」
(;゚Д゚)「各界隈……?」
ξメ゚⊿゚)ξ「色々よ。ヤクザってーのは思う以上に手が広いし節操ないから。それこそ政界にまで根は広がってるし」
(;゚Д゚)「あー……やっぱりそう言うことがあるのか……」
ξメ゚⊿゚)ξ「特に宝木は稼いでる方だし、尚更色んなパイプを持ってた訳よ。まあそれが原因で厄介な存在になっちゃったんだけどね」
(;゚Д゚)「……?」
今一要領を得ない僕を思ってか横堀が口を挟む。
(#゚;;-゚)「顔が広くなれば当然多くの情報を得る。言わずとも情報って言うのは強力な武器だ。政治外交も軍事も同じくね」
(;゚Д゚)「はぁ……」
(#゚;;-゚)「多くのパイプを持つに従って宝木はコネも金も多く手に入れ、それに伴い有権者共の個人的な情報等も耳に入ってくる」
ξメ゚⊿゚)ξ「あとはまぁ簡単よ。そう言った情報で優位性を確保して有権者共を操作したり、自身が関与する事件の隠蔽だとか好き放題出来ちゃう訳よ」
181
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:52:38 ID:zxPp5njw0
(;゚Д゚)「一介のヤクザにそんな真似、出来るのか……?」
ξメ゚⊿゚)ξ「出来る出来る。さもなきゃ組織犯罪なんて問題にならんもの。即座にぶっ潰せるもの、ヤクザなんつー組織程度」
(#゚;;-゚)「けどまぁそう簡単には潰せないからね。故にヤクザってのは煙たがられる。下手に武力まであるから余計に性質が悪い」
なんとも……この世は正しく金と権力だな、と思えてしまう。
何とも虚しいことだが、しかしそんな悲観に浸っている時ではない。
(;゚Д゚)「それで、好き放題しまくったツケとして、警察……いや、多分公安か? その筋からあんたらに白羽の矢が立った、と」
何となく読めた話の筋だが、どうにも……宝木は多くの悪だくみをしていたようだ。
そもそもヤクザだ、後ろ暗い話なんていくらでもあるだろうし、殺しもすればシャブだって売るのが当然だ。だからそこまで驚愕ではないが――
ξメ゚⊿゚)ξノシ「え? いや全然?」
(#゚;;-゚)ノシ「確かに遠からずだけどそんな権力者共の云々なんてボク達は至極どうでもいいけど?」
(;゚Д゚)「えええ……」
ところがどっこい、僕の読みは大きく外れてしまう。
てっきり有権者共に雇われた身の上かと思いきや、まったくの見当外れだと二人に否定されてしまった。
(;゚Д゚)「なら、一体なんの用があって宝木に……?」
まったくもって理解が及ばない。
私怨だとか組織的な障害ではないとしたら、あとはもう、何が残ると言うのか。
182
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:53:52 ID:zxPp5njw0
ξメ゚⊿゚)ξ「先も言ったじゃない。私達は宝木をぶっ殺すつもりではいるけど、決定的な証拠が欲しくてここにきたのよ」
(;゚Д゚)「証拠って……あんたらの求めてる証拠って、なんだ……? 麻薬とか札束とか武器兵器じゃないとしたら……」
(#゚;;-゚)「いやいや、さっき君が見せてくれただろう? ほら、これだよ」
そう言って横堀が指差すのは、隔壁の先にあった三名の死体だ。
まるでショーウィンドウに飾られるマネキンのように、嬰児、幼女、成人女性の死体が正面を向いた姿で吊るされている。
やはりどこか不気味だし、三名の雰囲気から――嬰児は何とも言い難いが――共通して椎名しぃのような空気感がある。
(;゚Д゚)「これの、一体何が証拠に……?」
疑問符を浮かべる僕だが、二人は勝手に納得したような顔で三名の死体を見つめている。
ξメ゚⊿゚)ξ「……一種のネクロフィリアかしらね」
(#゚;;-゚)「それはあるだろうね。けど……なんだか引っかかる」
ξメ゚⊿゚)ξ「美形揃いなところ? 普通は美形が好みじゃない?」
(#゚;;-゚)「いや、そうじゃない。三名とも顔付きが一緒だ」
ξメ゚⊿゚)ξ「ふぅんむぅ……椎名しぃに?」
(#゚;;-゚)「ああ」
二人はやはりと言うか、椎名しぃのことを御存じのようだ。
津出は携帯端末を取り出すと画像ファイルを展開する。
そこに映っているのは椎名しぃの姿だが――
183
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:55:13 ID:zxPp5njw0
(;゚Д゚)「ちょい待ち」
ξメ゚⊿゚)ξ「ん? なしたね坊や」
(;゚Д゚)「なんで俺も映ってんだ?」
ξメ゚⊿゚)ξ「そりゃここ数日の様子だもの。君とのデートシーンが多いのは外では君としかつるんでないからよ」
僕と一緒に映っている椎名の姿ばかりだった。
例えば僕のアパートの前で身を潜めている椎名の姿もあった。夕暮れの中、僕の隣を歩く姿もあった。
夜の歓楽街で茂良と言い争っている光景もあったし、更には――本日のことだろう、複数の男共に拉致される椎名の姿もあった。
(,,゚Д゚)「……こりゃ、なんだ」
ξメ゚⊿゚)ξ「おぉっと、変な勘違いはよしてよね、坊や。生憎だけどこの写真は私達が撮った訳じゃないのよ。末端の情報提供者ね」
(#゚;;-゚)「つまりボク達は現場に居合わせちゃいないんだよ。助けられる訳がない」
あんたらなら余裕で助けられただろう――そう言おうと思ったが、二人の言葉からして、やはり回避できなかった事態だと察する。
しかし、こうして盗撮されたものを見させてもらったが、どうにも不思議だ。
そりゃ宝木の娘だからチェックリストには当然入っているだろう。しかし、だからと言って、椎名しぃばかりを観察しているのは何故だ。
(#゚;;-゚)「数日前になるか。君と椎名しぃがとある事件に巻き込まれたのは」
その言葉に僕は数瞬硬直する。
(#゚;;-゚)「ストーカー事件……樋木と呼ばれる男子生徒が椎名しぃに執拗に迫った挙句、それを助けようとした野々と言う女子生徒に刺された、と」
ξメ゚⊿゚)ξ「んでその女子生徒はトラックに押し潰されたんだっけ? カルマを感じるわねえ、いやはや恐ろしい事故……いやぁ、事件もあったものじゃないわね」
(;゚Д゚)「…………」
184
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:56:28 ID:zxPp5njw0
実によく調べているな、と感心しそうになる。
だが、事件、と言い直したところが妙に引っかかった。
ξメ゚⊿゚)ξ「お生憎様だけど、君が野々って子に突き飛ばされたのは知ってんのよね。公表されてなかったみたいだけど」
(;゚Д゚)「え……」
(#゚;;-゚)「樋木って子と野々って子は元々共犯者なんだろう? 行方の知れない死体の幾つかはこの数日の間に幾つか発見されたよ。安心していい」
先から僕は言葉を失っていた。
何せ、今し方この二人が口にした内容は、世間には一切発表されていないし、知る人間だって僕と椎名くらいだった。
だのに何事もないように、当然のように、自然と真実を口にするものだから、僕は閉口するのみだ。
(#゚;;-゚)「嘗めちゃいけないよ。所詮子供の仕出かす悪事なんてたかが知れてる」
ξメ゚⊿゚)ξ「それにね、その二人の仕出かした事件みたいなのこそが……私達の取り扱う業務内容だしね」
(;゚Д゚)「……?」
ξメ゚⊿゚)ξ「なぁに、この世にはね、普通の人種とそうでない人種がいるのよ。んで往々の後者は糞みたいな事件を起こすのよさ」
(#゚;;-゚)「その元凶となる異常者共をぶち殺すのがボク達の仕事なんだ」
……よくは分からないが、要約すると、この二人は特殊だとか、或いは特異に値する異常性の高い事件を追う組織の人間なのだろうか。
例えば公安に属する組織にも思えるが、しかしこれは集団犯罪ではないし、カルト的なものや政治的、または社会秩序を乱す犯罪とも呼び難い。
185
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:57:52 ID:zxPp5njw0
ξメ゚⊿゚)ξ「いやはや驚きよね。椎名しぃって子……やっぱりこの子、呼び寄せる“体質”なんじゃない?」
(#゚;;-゚)「うーん、確かに。例えばお前は自分から近づいてしまう“体質”だけど、それとは対極的に思えるね」
ξメ;⊿;)ξ「なんとも哀れなるかな、しぃちゃん……悪に苛まれることの恐ろしさなら私が一番よく分かるわよ、ええ、そりゃもう痛いほどにね……」
(#゚;;-゚)「お前は“それそのもの”が“欲求”だろうに、何言ってんのさ」
ξ#;⊿;)ξ「望みもしない糞みたいな状況なんて単なる地獄でしかないのよアホでい! あんたにだって昔殺されかけてんのよこちとらは!」
(#゚;;-゚)「その所為でこっちはどこぞの殺人鬼に半身粉砕されたけどね」
_,
ξ*゚⊿゚)ξ「あん時は心底『ざまあwwwww』って思ったわ」
(#゚;;-゚)「よしやっぱ殺す」
ξメ;⊿;)ξ「いや嘘だから! やめて構えないで脇差を下ろして! あー! あー! 空が! 零が! まだこっちにくるのは早いって! ねえほら!」
(#゚;;-゚)「いや見えないから。お前それだととっくに三途の川に足突っ込んでる状況じゃないの」
ξメ゚∀゚)ξ「あんたは突っ込みまくりだけどね……ツッコミ的な意味でもね!! ぶへへ!!」
(#゚;;-゚)「本気で口を閉じて黙っていてほしい。一生。死ぬまで」
散々に言い合っている二人だが、その喧しさはさておき……余程強い絆があると見受ける。
さっぱりその正体も素性も不明だが、単なる悪人ではないような、そんな気すらしてくる。
186
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 02:59:56 ID:zxPp5njw0
(,,゚Д゚)「……結局、なんであんたらは宝木を狙うんだ。なんで椎名しぃのことまでこうも調べてんだ……?」
僕は二人のやり取りを後目に、再度三名の死体を見つめる。
やはり、どことなく椎名しぃと全員似ている。まったくの一致、と言う訳ではない。
(,,゚Д゚)(……例えば)
先に、僕はこの光景を展覧会のようだ、と言った。
悪趣味にも程があるけれども、仮に生死は不明な状態だとすれば、この三名の並ぶ光景と言うのは美しいの一言に尽きる。
けれども、この展示される芸術には、どうにも一つ、ピースが欠けている気がした。
(,,゚Д゚)(これが、そう、例えば……時間の経過を現すとしたら……)
嬰児から幼子へ、そして少女の姿を経て大人へとなるのが人間の成長だ。
今、この展示される芸術の枠には、一つだけ足りていない“瞬間の欠片”がある。
それは――少女の時代だ。
(;゚Д゚)(そうだ、そうなんだ。この違和感は……)
共通する事柄がある。この三名は皆美人だと僕は言った。
そしてもう一つ――三名は三名とも、空気感が似ている、と。
僕は一人だけこの三名と似た人物を知っている。歳は僕と同じで、つい最近、その人物は久しく学校生活に復帰を果たした。
彼女の素性を僕は知らなかったが、つい先ほどにそれを知ることになった。
曰くは白根組の稼ぎ頭である宝木琴尾の養女だと言う。
養女――つまり血縁のない赤の他人だ。
ヤクザが何故に養女を欲するだろう。女なんて困らないだろうし、子供が必要なら抱え込む女を適当に孕ませまくればいい。
だのに何故に椎名を――
187
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 03:00:22 ID:zxPp5njw0
(;゚Д゚)(この人たちに、似ているから……?)
188
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 03:01:30 ID:zxPp5njw0
例えば欲しい物があるとする。
それは簡単には手に入れることはできないが、金もあり、権力もあり、ある程度の揉め事や面倒事を隠したり消したりも出来るとする。
そんな人物になら、欲しい物を欲しいがままに手に入れることも出来るだろう。
例えそれが……生きた人間であっても。
(;゚Д゚)「ここに椎名がおさまれば……完成、になる……?」
僕がその言葉を漏らすように呟くと、津出と横堀が僕の名を呼んだ。
振り向くと、そこには先までのふざけた様子などは微塵もなかった。
(#゚;;-゚)「少年。世には異常者がいる。時としてそいつ等は惨憺な事件を起こす。ボク達はそれ等を処理する特務機関に所属している」
ξメ゚⊿゚)ξ「今回、とある筋……まあ言っちゃうけど、“公安部”から直接に依頼がきたのよ。とある人物を抹殺するように、ってね」
(#゚;;-゚)「彼等の目的は遺体等の違法ビジネスの解体が主だが、しかしこれを理由にボク達のような殺人集団は行動を起こせない」
ξメ゚⊿゚)ξ「けれど……異常性を極めた内容が明らかになると、いよいよ行動せん訳にはいかないのよ」
先に、茂良が言っていた――椎名が白根組の手によって殺されてしまうぞ、と。
それはどうやら防ぐことが出来たのだろう。それも宝木の手によって。
だが本当にそれで椎名の命は救われたのか、と僕は思う。
今、こうして僕は見目麗しき三名の死体と対峙をし、言葉にならない不安を得る。
何かが足りない――だが足り得るであろう人物に心当たりがある。
(;゚Д゚)(ああ、やっぱりあいつ……悪に愛されてやがる)
果たして本当に彼女は救われたのか――この光景を前にして、その言葉に頷けるのか。
189
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 03:02:34 ID:zxPp5njw0
ξメ゚⊿゚)ξ「……不安なら、どうよ、一緒にくる?」
(;゚Д゚)「え?」
(;゚;;-゚)「ちょ、おい、ツン!?」
一緒にくるって、一体どこに向かうんだ――なんてことは、聞かなくたって分かっている。
何せこの二人はそれを解決する為にやってきたと言うのだから、そうであるならば、間違いなくそうするだろう。
ξメ゚⊿゚)ξ「いいじゃないのよ、別に。仮にも“埴谷”の血なんでしょ? なら平気でしょ」
(;゚;;-゚)「そりゃそうだけど、いやでも完全に関係ない一般人を――」
ξメ゚⊿゚)ξ「なーに、時既におすし、ってね。私だってね、こうやって巻き込まれたんだもの。時代は繰り返すってやつよ」
(;゚;;-゚)「……お前なぁ」
ξメ゚ー゚)ξ「ふっふーん。んでどうよ、坊や? このまま見過ごして何もかも知らぬふりをするか、それとも――」
津出鶴子は手を差し伸べると、僕を見つめてこう問う。
190
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 03:03:18 ID:zxPp5njw0
ξメ^ー^)ξつ「一緒に白根組直系……宝木組に殴り込みかける?」
ああ、実にいい笑顔だ、と思う。
それは横堀のようにおぞましく、えげつなく、途方もない怨嗟を秘めた笑みだった。
全身から殺意のようなものが湧きたっている。何故笑うだけでそんなことになるんだと思うくらい、それは歪な微笑みだった。
けれども――
(,,゚Д゚)つ「……上等じゃねえか」
僕はその手を掴んだ。
世の悪の全てを受け入れたかのように微笑む殺人鬼の手を。
191
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 03:03:43 ID:zxPp5njw0
三 了
192
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 03:06:33 ID:zxPp5njw0
本日は以上となります。
久しぶりにツンを書くと妙な安心感があって、非常に楽しかったです。
次回の投下で最後となります。
来週の土日のどちらかを予定していますが、また急な用事が入ってしまうことがあるかもしれませんので、
不確定な内容として捉えて頂けたら幸いです。
それではおじゃんでございました。
193
:
名無しさん
:2019/09/01(日) 08:36:43 ID:fxVOz0gY0
乙乙
194
:
名無しさん
:2019/09/01(日) 09:05:35 ID:boYYwXFM0
おつ 濃厚で面白い
前作も好きだから続き楽しみにしてる
195
:
名無しさん
:2019/09/01(日) 19:42:07 ID:yrUOtXyI0
乙です
久々のツンに感動してしまった
しかし次で最後か…寂しいけど楽しみだ
196
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:36:24 ID:AxJX7IKA0
今回、最後の投下となりますが、非常に長ったらしいので途中で休憩をはさむことがあるかもしれません。
悪しからず。
197
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:36:57 ID:AxJX7IKA0
四 其の一
198
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:37:53 ID:AxJX7IKA0
僕は沿岸倉庫に向かった時と同じくGSX1100Sに跨っていた。
しかし位置はタンデム席で、ステアリングを握るのは可憐な女性だった。
全身をタトゥーで埋め尽くしたその女性は御満悦の表情で、法定速度を超過した速度を弾き出しつつ、風に顔を打たれつつも笑う。
ξ*゚⊿゚)ξ「ほああ〜!! ひっさびさに単車乗ったけどやっぱ最高!! しかもカタナ!! いい趣味してんねぇ坊や!!」
(,,゚Д゚)「いや、俺のじゃないけど……」
ξ*゚⊿゚)ξ「あ、そうなの!? まぁ何でもいいや、カタナ好きに悪い奴はいないのよ、知ってたぁ!?」
(,,゚Д゚)「あー……どうだろう……」
女の名前は津出鶴子と言う。
先の倉庫で姿を見せた彼女だが、茂良から借りてきた単車を発見していたようで、僕から鍵を奪い取ると遠慮もせずにエンジンに火を灯す。
何やら感慨深そうな表情で、少しばかり遠くを見るような瞳は、往時を懐かしむというより追慕するような色合いだった。
どう言ったことを思い出し、また、何を想うのかは不明にせよ、兎角、彼女はタンデムシートを叩くと、僕にただ一言……乗りな、と言ってきた。
『おい、ツン。あんまりはしゃいでないでさ』
ξ*゚⊿゚)ξ「あーはいはい、分かってるわよ、でい。ただ少し懐かしくてさ?」
爆速を弾き出す津出、それに同乗する僕。
人をケツに乗せておいて遠慮の一つもない速度だったが、そんな僕達の背後を追従する車両がある。
漆黒に染まったゲレンデを運転するのは殺人鬼、横堀でい。
津出と僕の耳元に装着されたインカム越しに伝わるのは呆れたような声で、それに対して津出は甘えるような、子供のような返答をする。
『少年……あー、埴谷くん、大丈夫かい?』
(,,゚Д゚)「ああ、まぁ……」
『そうか、ならいい。それじゃあ移動の最中だけど作戦を伝達するよ』
今現在、僕達は目標地点である白根組直系、宝木組の本部施設へと向かっている途中だった。
何故に本家ではなく本部に向かうのか、と言うのは単純な理由だ。
先の荒巻氏の強襲作戦により警戒態勢に入った宝木組は、武装展開を含む戦闘領域に陣を構えた。
そんな敵陣に僕達は――真正面から突っ込むと言う。
作戦も糞もあったものじゃない。簡潔に伝えられた内容に僕は痛む頭を摩る。
199
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:38:46 ID:AxJX7IKA0
ξメ゚⊿゚)ξ「まったくもって要らないことを仕出かしてくれたわね、荒巻とか言う爺さんは。本部の状況はどうなってんの?」
『情報によれば組員五十名が総出で警備しているらしい』
ξメ゚⊿゚)ξ「そこに件の御姫様もいる、って?」
『その通り。まあ浚われた本人だからね、そりゃ分からなくはない防御態勢だなぁとは思うけど……』
ξメ゚⊿゚)ξ「やり過ぎだろって?」
『まぁねぇ』
既に宝木組と荒巻組の決着はついているのにもかかわらず、この厳戒態勢は少々……いや、大分奇妙だった。
障害となる勢力は排除されている現状、これ以上の武装展開に意味はない。寧ろ行動が派手になって注目を集める。
故に収束した状況であるならば即時散開し、組の親である白根組の大親分の下へと話をつけに行くべきだろう。
ξメ゚⊿゚)ξ「……私達の存在がバレてる?」
『いや、それは確実に有り得な――……くはないなぁ』
ξメ゚⊿゚)ξ「あー……“公安部”?」
(;゚Д゚)「え? それって確か、あんたらに今回の依頼をしてきた人達だろ?」
疑惑のやり玉に依頼主である“公安部”が挙げられた。
何故に疑うのだろう、と僕は首を傾げる。
ξメ゚⊿゚)ξ「組織ってのにも色々な事情や体制やらがあるのよ。元より“公安部”は私達の組織とはある種、敵対関係にあるしね」
(;゚Д゚)「は……はぁ!? 敵なのに仕事の依頼してきたのかよ!?」
『これもまあ仕方がないんだよ、埴谷くん。彼等はどうあっても警察機関に属する。そうすると武力による抑止や実力行使なんてのは論外だ』
ξメ゚⊿゚)ξ「んでまぁそうなると憎くて憎くて堪らない殺人集団を利用するしかなくなるって訳よ。そうすることで彼らの懸念事項が抹消できるなら、ってね」
(;゚Д゚)「…………」
何とも……後ろ暗い話と言うか、大人の世界は複雑と言うか、法に従うはずの組織ですら法を度外視するんだなと……僕は呆れた気持ちになる。
そりゃ、そういう話はあるんだろう。世の安寧や社会秩序を保つためには、どうあったって暴力が必要になる時がある。それは絶対のことだ。
しかしその手段が禁じられているのならば、暴力を生業とする組織に仕事の依頼をして案件を片付けたいと思うだろう。
200
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:39:23 ID:AxJX7IKA0
だが、それは実に、何と言うか……汚い話だな、と思う。
正義を掲げる警察組織が殺しを黙認するどころか許可するだなんて、そんなことが罷り通る世の中に、果たして……正常と呼べるものはあるのか。
ξメ゚⊿゚)ξ「けどね、そうしないと護れないのよ。君達を」
(;゚Д゚)「っ……」
果てしない速度を弾き出す津出。身体を叩きつける風の中、不思議なくらい彼女の声が中耳に突き刺さる。
ξメ゚⊿゚)ξ「君達が何げなく過ごす“普通”や“いつも通り”はね、その実、多くの不条理だとか出鱈目の上に成り立ってるのよ」
(;゚Д゚)「……だからって、人を護る組織が人を殺すことを正当化するのかよ?」
ξメ゚⊿゚)ξ「そうよ。それが人の世に仇なす存在であるのならば殺すのよ」
まるで人を人じゃないように言う――その声色に感情が含まれていないことに気付く。
ξメ゚⊿゚)ξ「平穏や安寧に浸る君達を、微温湯の中で、安全に平和に過ごせる世の中にする為に、彼等“公安部”は日夜死に物狂いになっている。
そうすることこそが国益であり、それが護国報国の全てになると信じているからね」
(;゚Д゚)「…………」
ξメ゚⊿゚)ξ「世界各国、諜報機関員はそうやって国家の為に、ひいては国民の為に身を粉にして人や組織を相手に切った張ったを続けている。
君達の知らないところでは暗澹で凄惨な血生臭いことが秒刻みで実行されているのよ」
出会ってから今まで、僕は津出鶴子と言う人間を、どことなく楽天家のような、言ってしまえば昼行燈のような人間だと思っていた。
身に纏う風格は覇者のそれに等しいし、武器庫にも思える過多な装備からして、凡そ普通とは程遠い人種であることは明らかだ。
だがそれ等を感じさせない程に彼女の性格は陽気で、人当たりがよくて、満面の笑みと言えば屈託がなくて、気持ちのいい人間性だと感じていた。
けれど、それはきっと、彼女を築くうちの一面性でしかないのだろう。
僕は前に跨る津出の背中を見る。
女性の割に肩幅がある。背は広く、重心はとても安定している。
筋肉質な身体全体にはタトゥーが所せましと埋まっているけれども、しかしてその墨の下にあるのは数え切れない無数の古傷の山。
(,,゚Д゚)(この女も、横堀って女も……一体どれだけ闘い続けてきたんだろう)
彼女の犀利な空気に呑まれかけていた。これもまた彼女の一面性なのだと悟った。
201
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:40:29 ID:AxJX7IKA0
『……まあ、そんなことは君達一般人は知らないままでいいんだ。そもそも、ボク達は“公安部”のような正義面した糞垂れ集団じゃないしね』
(,,゚Д゚)「糞垂れて……」
ξメ゚⊿゚)ξ「いやいやマジで糞垂れだからあいつら。先も言ったけど、そもそも私達と“公安部”は相容れない関係なのよ。互いの理念はまったく正反対だからね」
『そんな“公安部”からしてみなよ、確かに今回の仕事の斡旋は苦渋の選択だったろうけど、もしもボク達とヤクザ共がかち合う状況になってごらん』
(;゚Д゚)「あー……共倒れしてくれたらラッキー、的な……?」
_,
ξメ゚⊿゚)ξ-3「大体そんなところでしょうよ。つまり私達の情報が“公安部”の手によってリークされた可能性が高いって訳よ。本当面倒極まるわよねぇ〜」
(;゚Д゚)「成程……」
と、呟いた僕だが……。
Σ(;゚Д゚)「いやそんな簡単な反応で済ませていい話じゃねえだろ!? つまり俺達の行動が筒抜けな上に裏切られたってことかよ!?」
ξメ゚⊿゚)ξ「そうなるわねぇ。恐らくこっちの抱え持ってる末端の情報提供者共も懐柔されたか消されたか……」
『こうなると途絶された孤軍状態だね』
(;゚Д゚)「いやいやいやいや調子軽すぎるだろうが!? 今から大軍が犇めく敵本陣に突撃かますってのに、そんな呑気なことを――」
言いかけたところで、後方から激しいライトが僕の身を叩いた。
それ等は複数あり、僕は眩しいハイビームを受けつつ、何事かと振り返る。
現在、位置は中央からやや離れた幹線道路。片側三車線の道は普段ならば通行量は多いが、時刻は既に日を跨いでいる。
故に車の数は少ないが、それだからこそに目立つ一塊があった。
『ツン、後方から四台。全部黒塗りのセダン』
ξメ゚⊿゚)ξ「あー、早速おいでなすったわね。了解、無力化してくるわ」
『頼んだよ』
背後から追い縋るように迫ってくるのは黒塗りのセダン車だった。四台のそれらは凸の字を成している。
途端に身を焦燥感が包んだ。現状、僕はタンデムシートに腰かけているだけだ。木刀は未だに背負ったままだが、流石に車を相手になんて出来やしない。
しかも状況は加速する景色の中にある。足すことの、二輪車と言う無防備極まる乗り物だ。これでは狙い撃ちにされるのがオチだ。
だというのに、津出は横堀の通信を聞くと速度を緩め、ゲレンデの背後に尾き、セダン四台を遮るようにして陣取った。
その行動には流石の僕も生きた心地がしない。今ここで銃撃戦になってみろ、僕たちは蜂の巣にされて終わりだ。
202
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:40:59 ID:AxJX7IKA0
(;゚Д゚)「な、何考えてんだあんた!! このままじゃ狙い撃ちに――」
ξメ゚⊿゚)ξ「まーまー落ち着きなさいよ坊や。別にこんな程度の状況……なんの問題にもならんでしょうよ」
津出がそう言うのと、何かを複数個背後に放り投げたのは同時だった。
同じくして四台の車両に動きがある。助手席と後部席から銃を持った男達が身を乗り出すのだ。
ああ、やはりヤクザ共、そして予想通りの狙い撃ち状態。絶体絶命の最中だというのに、だのに、津出の表情と言ったら――
ξメ゚ー゚)ξ「死中求活の只中にあろうとね、そう簡単に諦めを抱いちゃダメなのよ、坊や」
笑んでいる。それも朗らかに、優し気に。
(;゚Д゚)(ああ……これ、こいつ、完全に悪だ)
津出の笑みと同時、今し方後方で激しい音が響き、次いで爆風が吹き荒れた。
闇夜に浮かぶ赤黒い色と黒煙に煽られ単車は体勢を崩しそうになる。
が、なんとかステアリングとアクセルワークで姿勢を取り戻した津出は、先と同じ笑みで僕を見つめる。
ξメ゚ー゚)ξ「ね?」
(;゚Д゚)「い、今のって……」
『手榴弾だよ、結構高火力の。ジャストのタイミングだね、流石と言おうかな』
ξメ゚⊿゚)ξ「いやあいつらが間抜けだったのが救いよ。集団戦闘に慣れてないのかしらね。なんで密集してるやら」
『仕方ないよ、名ばかりの暴力集団だもの。戦闘の経験も碌にないだろうし』
ξメ゚⊿゚)ξ「でもフランスとかの外人部隊に派遣されたりしてるんでしょ? 他国の警備会社とかにもさ」
『組織の人員全てを? それだけの情熱があれば今頃ヤクザは世界を制覇してるよ』
ξメ゚⊿゚)ξ「あー、それもそうねぇ」
……先から何ともない調子だが、信じ難い光景を僕は見た。
何せ手榴弾だ。普通に生きていれば見る事も使用する状況にも遭遇する機会なんてありはしない。
しかもそれを実戦で使用した上に、効果的に敵戦力を無力化してみせた。
203
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:43:10 ID:AxJX7IKA0
ξメ゚⊿゚)ξ「通常の展開なら旗艦を立てて縦陣になるのよ。意味合いとしては攻防の両立ね。あと退路の確保」
(;゚Д゚)「き、旗艦? 縦陣?」
『司令塔を置いて縦一列になることだね。まあ旗艦は最後尾に配置するのが妥当かな』
(;゚Д゚)「なんで縦一列……?」
ξメ゚⊿゚)ξ「そもそも敵戦力……私達の装備が不明でしょ? それに仲間がいるかも分からないじゃない。あんな風に攻撃特化の陣形じゃ背後取られたらそれで詰みだし、
両翼まで展開してたら逃げ場がないでしょう? ギチギチの道路で取れる行動なんて前進のみでさ、しかも全戦力が視覚で明確化されてちゃ間抜けの極みよ」
『縦一列にすることで分断して攻めるもよし、そのまま後方に逃げるもよし、或いは状況から包囲展開するもよし、と自由度が跳ね上がる。
こと、兵法において退路の確保は大前提だ。旗艦一台を逃す殿のような役割を残り三台に期待したいところだね』
ξメ゚⊿゚)ξ「私なら一車両目で背後を確保して二車両目でゲレンデの頭を取るかしらね。残りで両翼をとるか、或いは片側全部とるか」
『包囲敷く程かな? ロケット弾で掃滅した方が早いよ』
ξメ゚⊿゚)ξ「確かにそうだけど道路は限定的な地形だし、余波に巻き込まれたら堪らんわよ」
『ただバイクの機動性があるから如何ともし難いね。早々に排除したいけどその間にゲレンデに逃げられたら――』
ξメ゚⊿゚)ξ「そしたら単車に二台を割いて集中砲火しつつ、残りで――」
三車線とは言え道路自体が広大な訳ではない。ある意味では制限された空間だ。凸字に展開された陣形では機動性が失われてしまう。
それを教科書通りと言わんほど当然なまでに津出は真っ向からぶっ潰した。そしてそれに対する感想は“間抜け”の一言だ。
しかし先から繰り広げられる戦略内容だが、あまりにも手馴れているような気がする。
(;゚Д゚)「……あんたらどう言った経歴なんだよ?」
ξメ゚⊿゚)ξ「ほえ? 私達?」
『経歴かぁ……うーん、二年前までは中東で半年間戦闘に参加したり、その前は東欧の戦闘に少しばかり参加したり、かな』
ξメ゚⊿゚)ξ「基本的には日本国内で過ごしてるんだけどね。けどまぁ我が組織もここ数年で結構様変わりしたからねぇ、そうなると実戦経験積まないとって感じでさ」
『実戦の数はまぁ、どうだろうね。数えたら六年分になるのかな、ボク達』
ξメ゚⊿゚)ξ「そうねぇ、それくらいかしらねぇ」
(;-Д-)「……日本人とは思えねえ……」
204
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:44:07 ID:AxJX7IKA0
ξメ゚⊿゚)ξ「いやいや日本人でも結構戦闘に参加してる人多いわよ? 民間軍事会社に定期的に、んで相互的にお世話になってる組織もあるし」
『自衛隊も個人的に戦闘に参加する人は少なくないよ。特に“特戦群”の連中がそうだね』
_,
ξメ゚⊿゚)ξ「流石は日本のグリーンベレーってね。私財投げうってでも殺し合いするくらいだから最早病気よ、病気」
彼女等の言う戦闘という言葉は……戦争を意味している。
世界各国どこにでも紛争地帯やらはあるし、未だに……いや、現代だからこそ戦場は巨大なマーケットと呼べるだろう。
そんな過酷な場所に、戦場に、彼女等は数えて六年も身を投じていたという。
まだ二十代後半程度なのに、しかも女性なのに、一体全体何故にそうも殺意の渦巻く場所へと赴くのだろうか。
『仕方ないよ、それが国の令だし。それにそうしないとツンは生きられないからね』
(;゚Д゚)「え?」
ξメ-⊿゚)ξ「別に死にゃしないわよ、大袈裟ね」
『けど正気を手放しちゃうだろう。そうするとボクがお前を殺さなきゃいけなくなる』
ξメ゚⊿゚)ξ「要らん世話よ。戦闘に限らず、こう言った状況に参加するだけでも“満たされる”んだから」
『それが最早大問題なんだよ。よくもまぁお前の存在が未だ許容されてるもんだよ』
ξメ゚∀゚)ξ「まぁあれよ、持ち前の美貌でお偉いさん方をメロメロにしてるからね? ぬほほ」
『そのお偉いさん方を一度散々なまでに痛めつけた癖に、よくもまぁぬけぬけと……』
……どうやら、この津出と言う女性には多くの問題があるように見受ける。
未だ謎の多いこの二人だが、そもそも――
(;゚Д゚)「あんたら、何の組織に属してんだ……?」
一体、どこの誰なんだろうか。
この世界にはきっと、僕のような一般人では想像にも及ばないような組織が存在するのだろう。映画の世界で見るようなスパイ活動なんてのも嘘なんかじゃないんだろう。
では、この二人は何者なのか。それこそ非現実的なスパイ組織なのだろうか。或いはヤクザよりも更に性質の悪い殺し屋のような殺人集団なのだろうか。
ξメ゚⊿゚)ξ「それはひ、み、つ☆」
『状況に巻き込んだとは言え教えることはできないかな』
_,
(;゚Д゚)「えええ……」
205
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:44:34 ID:AxJX7IKA0
どうやら教えてはくれないらしい。
散々色んなこと――恐らく口外してはいけない情報――を好き放題喋りまくっていた癖に、自身等のことになると黙秘ときた。
なんとも身勝手な連中だな、と思うが、そりゃ実態を語る程の間抜けがいる訳はないだろう。そんなバカが世の暗がりで生き残れるとは思えない。
ξメ゚⊿゚)ξ「ま、そのうち知るんじゃない?」
(;゚Д゚)「え?」
少しばかり納得がいかない僕だったが、何ともないように津出が呟く。
ξメ゚⊿゚)ξ「ま〜あれよ。将来さ、就職先に困ることはないよ、坊やは」
(;゚Д゚)「……どういう意味だよ」
ξメ゚∀゚)ξ「ひっひっひ、まあいいじゃないのよ。そもそも坊やみたいな人種こそ向いてると思うし」
僕みたいな人種――その言葉に疑問符を浮かべるが、津出はミラー越しに僕を見ると、はっきりと言った。
ξメ゚⊿゚)ξ「“埴谷”……その血統ほど説得力がある存在もないもの」
(,,゚Д゚)「――……」
僕はその言葉に閉口する。自然と腕に力が行き渡ったが、僕は冷静さを取り繕った。
ξメ゚⊿゚)ξ「装備、本当に木刀なんかでよかったの?」
(,,゚Д゚)「……いい。これでいい」
ξメ゚⊿゚)ξ「それ“が”いい、でしょ?」
僕の背中には先の戦闘によって傷んだ木刀がある。未だ耐久性は健在だが、果たして殴り込みに向いた武器とは呼び難い。
そんな僕の装備に津出は疑問を寄越してくる。そんな玩具でいいのか、と。
ξメ゚⊿゚)ξ「言ってくれたら何でも貸すわよ。銃、短刀、剣やら日本刀やら……何でもござれだけど?」
(,,゚Д゚)「…………」
ξメ゚⊿゚)ξ「……そ。ならいいわ」
無言を拒否と受け取った津出はそれ以上何も言わなかった。
無線越しに横堀が何かを言いたそうにしているような、そんな気配を感じる。
だが彼女は何も言わず、それだけで少々の沈黙が降りる。
206
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:44:57 ID:AxJX7IKA0
無言を拒否と受け取った津出はそれ以上何も言わなかった。
無線越しに横堀が何かを言いたそうにしているような、そんな気配を感じる。
だが彼女は何も言わず、それだけで少々の沈黙が降りる。
『ツン、あと三分くらいで目標に到達する』
しかしそんな沈黙もほんの少しのことで、インカムから寄越された情報に僕の心臓は跳ねた。
別に覚悟をしていないとかそう言うことではない。ただ、僕はこれから、本当の殺し合いの場所に飛び込むんだという実感に包まれるのだ。
(;゚Д゚)(っとに、何してんだかなぁ、僕は)
茂良に言われた先の台詞――らしくない、と言う言葉。
ああ、まったくもってその通りだ、と自分でも思う。面倒を嫌い普通を愛する僕が、何故に己から修羅場に飛び込むと言うのか。
けれども、そうでもしなければ僕は椎名を泣かせることが出来ない、ヤキをいれることが出来ない。
だから……仕方がないから、僕は赴く。面倒が極まる場所に。
(,,゚Д゚)「で、本当の作戦は?」
ξメ゚⊿゚)ξ「え?」
(,,゚Д゚)「いや、さっきは真正面から突っ込むとか言ってたけど……それは敵方の傍受を想定しての表向きの内容だろ?」
恐らく、彼女等は通信の傍受を警戒し、こうして最も接近した状況で作戦を伝達する算段だったんだろう。
先の強襲が全ての答えだ。最早敵方にはこちらの動きが全てバレている。情報の漏洩とは実に恐ろしい限りで、現代戦において勝敗はこれに尽きると言っても過言ではないだろう。
故に必要以上の情報を口にしない。先までの秘匿事項――“公安部”等の情報――は恐らく敵方に対する煽りにも等しい行為だ。
成程、伊達に戦場で通算六年も戦い通しだった訳ではない。きっと彼女等にはこの超少数人数でも実現可能な、とても実効性と有効性のある作戦があるはず――
207
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:45:18 ID:AxJX7IKA0
ξメ゚⊿゚)ξ「いや? 真正面から突っ込むけど?」
(,,゚Д゚)「え?」
『んじゃもう間近だし、ボクが前に出るよ』
ξメ゚⊿゚)ξノシ「はいはい、正面突破よろしくねぇ〜」
『構造は……うん、正門があって間も無くの位置に建物入り口がある。普通のビル的な構造だ』
ξメ゚⊿゚)ξb「んじゃ入り口までぶっ潰しちゃう感じで!」
『出来るかなー……装甲車じゃないし』
ξメ゚⊿゚)ξ9m「なぁに、ゲレンデの名は伊達じゃないわよ! メルセデスの信頼とはずばり超剛性! いけるいける!」
(,,゚Д゚)「……あれぇ?」
208
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:46:02 ID:AxJX7IKA0
……可笑しい。もう既に目標はすぐそこだった。いつの間にか目前にあるものは真夜中だと言うのにもかかわらず煌々と明かりを放つ巨大な建物だった。
そこは僕達の目標地点である宝木組本部。見やれば高い壁で囲まれており、門前やら建物周辺には兵隊が配置されているようだ。
ようだ――そうとも、最早肉眼で確認できる距離だった。そんな状況だと言うのに、僕達の駆る車両は速度を緩めない、どころか――跳ね上げていく。
(,,゚Д゚)「ええっとぉ……津出さん? 横堀さん?」
ξメ゚⊿゚)ξ「ん? なしたね坊や?」
『何か用かな? もう時間ないから早くしてほしいんだけど』
(,,゚Д゚)「いや、だから作戦はぁ……?」
ξメ゚⊿゚)ξ「いやいやだから、突っ込むから。ほらしっかり掴まってなさいよ?」
(,,゚Д゚)「あれ――れぇええええええええええ!?」
轟、或いは弩、と言う激しい音が響く。ついで宙を舞うのは建物の門だった。
それが落下する寸前に僕と津出を乗せたGSX1100Sが過ぎ去り、今し方門を突破したゲレンデは未だ勢いを止めもせず、そのままに建物の入り口へと突っ込んだ。
激しい音が再度響き、土煙が舞い、辺りに響くのは怒号やら驚愕の叫びやらで、僕は気付けば地面に投げ出されていたようで、手をついてゆっくりと立ち上がった。
ξ;゚⊿゚)ξ「っちゃあ〜……まぁたカタナ壊しちゃったよ……ごめんね坊や――」
(#゚Д゚)「いやだから作戦は!!!?!?!?!?!?」
どうやら単車は勢い余ってスリップしてしまったようで、視界の先を見やれば、壁に激突し大破したGSX1100Sの傍で項垂れている津出の姿がある。
そんな彼女は頭を掻きながら謝るけれども、僕と言えば敵地のど真ん中で大きな声で叫び散らす。
(#゚Д゚)「可笑しいだろ何もかも!? 何だよ正面突破って!? 敵地だぞ!? 情報筒抜けなんだぞ!? だのになんだこりゃ、あぁ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「おおお、落ち着き給え若人よ! どこも怪我してない? 手足はちゃんと動くの?」
(#゚Д゚)「動くよ!! 動くけど!! そうじゃなくてよぉ!?」
ああ、頭が爆発しそうだ。何とも大胆不敵な作戦もあったものじゃない。そりゃ僕だって先の倉庫では正面から突入したけど、それは敵地が鎮静化された状態だったからだ。
だがここは、この宝木組本部はそうじゃない。既に何事かと大勢の兵隊が足音を響かせて迫ってきている。
未だ晴れぬ土煙の中、僕は早々に訪れた窮地に絶望を通り越して怒り心頭だった。
(#゚Д゚)「五十人が待ち構えてる敵地で、しかも武装が前提で何があるかも分からない場所だってのに!! あんたらはマジもんの馬鹿なのかよ!?」
209
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:46:46 ID:AxJX7IKA0
普通に考える間でもない。これは愚行だし作戦とは呼び難い内容だ。つまり自殺も同義だ。
ああ、こんなことになるならこいつらに関与しなければよかった。
状況的にそれは不可能だったろうけれども、それでも僕なら侵入経路を探し出して、静かに忍び込み、椎名を探し出しただろう。
(#゚;;-゚)「っあ〜……結構な衝撃だったなぁ。ほらツン、ハードケース」
ξメ゚⊿゚)ξ「んー、有難う、でい。身体に異常は?」
(#゚;;-゚)「無問題。流石はメルセデスって感じかな」
ξメ゚⊿゚)ξ「ほれみなさい、言った通りでしょ?」
僕が怒鳴り散らす最中にハードケースを持ってのったりゆったりと横堀が歩み寄ってきた。
先程突撃をかました横堀だが、相変わらず腰に大小をさし、特に問題はないと言ったような風だった。
あまりにも……呑気だった。もう敵の姿は、武装したヤクザ共は目に見える距離だった。
だのにこの余裕は、少々……いや、あまりにも嘗め腐っている。
(#゚Д゚)「くっそ――」
僕は先の衝撃で地に落ちていた木刀を拾うと左手のみで構える。
先の横堀との戦闘により右手は使い物にならなくなった。これだけで戦力は半減している。
だが、ただ突っ立っているだけでは嬲り殺しにされるだけだ。最早状況は覆しようもないくらいに圧倒的な不利。
とは言え、ここで馬鹿正直に殺されて堪るか――
ξメ゚⊿゚)ξ「落ち着きなさいよ、坊や」
そんな状況なのに、愚行極まった果てにある絶望なのに、津出はあまりにも落ち着いたトーンでそう言う。
そうして静かに彼女はハードケースを押し開けると、中から複数の投げ矢――ダーツを取り出した。
ξメ゚⊿゚)ξ「そりゃ普通に考えりゃ正面からの突撃なんて自殺行為よ。考える間でもなくね。だからお怒りの理由は十分に理解出来る」
そのダーツは、先にも思ったが形状が歪だった。
普通のそれよりも大きく、それらを津出は全ての指の間に挟むと大袈裟に上下に振った。
すると、その動作によってか、各ダーツの末端部位から小さな唸りが生まれる。
ξメ゚⊿゚)ξ「敵総勢力五十名で保有する武器も、そもそも敵方の練度も不明……まあ恐ろしいわよねぇ」
それは……空気を取り込むような音だった。
恐らく、複雑な機巧が積まれているのだろうと察する。しかし察しはすれど、未だ概要は明らかではない。
ダーツ――起源は狩猟用の武器で、投擲を手段としている。
信頼性はあまりにも低く、そもそもは人力での射出だし、このご時世、拳銃等の圧倒的な火力を誇る武器がある中で、その存在感はあまりにも薄い。
210
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:47:37 ID:AxJX7IKA0
ξメ゚⊿゚)ξ「けれどね――それだけなのよ、敵の全ては」
そんな頼りない武器を津出は構えた。
土煙が晴れていく。やにわに群がる敵影の輪郭がはっきりしてくる。既に距離はそう遠くない。
間もなくすれば、今し方銃器を構えたヤクザ共がトリガーを引くだろう。それによって僕達は文字通り蜂の巣にされ人生は終了だ。
けれども――津出は笑う。朗らかに、優しく、慈しみに溢れたような微笑みを浮かべる。
ξメ゚ー゚)ξ「分かりやすくていいじゃない。つまり……五十人のヤクザをぶっ潰せば今作戦は終了なの、よ!!」
ヤクザ共がトリガーを引くよりも早く、計八本のダーツは投げ放たれた。
それと同時にダーツの末端部位が派手な音を上げ、人の速度で投擲された筈の古代の投げ矢は――目で捕らえられない速度を弾き出した。
(;゚Д゚)「な、んだそりゃぁ……!?」
放たれた八つのダーツは全てヤクザ共に命中した。
それぞれは致命傷の部位ではなく、例えば肩だとか、太腿だとか、敵方の戦意や行動力を削ぐ位置に着弾する。
まるで殺しを避けているような、そんな狙いだった。
しかし人体に叩きつけられたダーツの速度は並ではない。与えられた衝撃により吹き飛びつつ意識を手放した八名のヤクザは泡(あぶく)を吐いて地に倒れ伏す。
(#゚;;-゚)「――まあ、そう言うことだよ、埴谷くん」
凛、と涼しい音が一つ。それは鍔鳴りの音だった。
声に振り向けば、今し方適当にヤクザを剣で殴り沈黙させた横堀が納刀しながらに僕を見やる。
(#゚;;-゚)「散開されるよりも局地に敵を集中させて一網打尽にした方が楽だ。悪手と言えば悪手。だが敵方の練度からしてこれで十分だよ」
言いつつ、今し方横堀はヤクザの一人に発砲されるが、彼女は分かり切っていたようにそれを躱すと、先の“出鱈目な速度”で地を駆け抜け、真正面からヤクザを斬り殺す。
ξ#゚⊿゚)ξ「あ、また殺したわねでい! ダメでしょう、“普通の”人間を殺しちゃ!」
(#゚;;-゚)「それは難しい話だよ。ボクにそんな優しさなんてありゃしないし、敵は殺意を持ってる。なら殺す」
ξ#゚⊿゚)ξ-3「もうっ……布佐さんに説教喰らっても知らないわよ!」
(#゚;;-゚)「ふふっ……いいさ、それも呑む。そもそも“公安部”はさ、ボクのそう言った行動を期待してるんじゃないのかい」
211
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:48:12 ID:AxJX7IKA0
血脂を払いつつ、横堀は僕の前にやってくると、まるで守護奉るように立ちはだかり、剣を構えた。
(#゚;;-゚)「ボクが宝木組を壊滅させることを……全員斬り殺すことを」
ξ;-⊿-)ξ「っとに、私等ってば今回はいいように使われてるわよねぇ……参っちゃうわ」
更に、そんな横堀の隣に津出がやってくる。
手にあるのは……牛刀と匕首。
包丁なんかを武器にするのか、と疑問に思うも、そんな僕の不思議そうな顔を気にもせず、津出と横堀は僕へと顔だけで振り返る。
ξメ゚⊿゚)ξ「つー訳だから。私とでいはここで暴れまくってるから、ほれ、行ってきなさいよ、坊や」
(;゚Д゚)「……え?」
(#゚;;-゚)「だってその為にきたんだろう? 君の愛する姫君を助けにさ」
誰が愛する姫君だ――そんなことを言いかけて、僕は言葉を飲み、更には驚愕の顔になる。
(;゚Д゚)「……囮になる、ってのか」
ξメ゚⊿゚)ξノシ「違う違う、役割分担ってやつ。坊やは確かにその歳の割には戦える方よ。その血も……やっぱり証明付けるものだと思う」
(#゚;;-゚)「けどね、木剣なんかで戦闘に参加されたって迷惑でしかない」
二人の言いたいことはこうだ――“戦闘の邪魔だからさっさと探してこい”。
ああ、と思う。そりゃそうだ、と。
だって、確かに僕は誘われるがままに津出達に同行したけど、彼女達はその道のプロで、今回、僕は完全に予期せぬ人物な筈だ。
そんな僕に何を期待するだろう。そりゃ僕は戦える方だ。
だが、殺し合いなんて……出来やしない。
銃――脅威だ。弾丸なんて目に見えない。先の横堀は当然のように避けていたけど、同じ真似をしろと言われても僕には出来っこない。
冷静さ――ある訳がない。シャブでも喰ってんのかと思うくらいこの二人は平常心だ。緊張感は当然あるだろうが、それでも一切表には出ていない。
殺し合い。これが、殺し合いの場。そんな場所に偶然に飛び込んだ僕と言う小僧。
そりゃあ……邪魔でしかないに決まっている。
本来なら、きっと、作戦はあったのかもしれない。先の倉庫での会話を思い出す――念入りに情報を集めていたようだった。万全を期すような、正にプロの仕事だと思った。
それが全て御破算になる外的要因だと言うのに……彼女等は僕を迎え入れ、ここまで導いてくれた。
212
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:49:00 ID:AxJX7IKA0
果たして僕が単独でここに乗り込んだとして勝機はあっただろうか。
全ては夢見がちな小僧の妄想だったんじゃないだろうか。
プロの格闘家を相手にしたって何も恐れない、どんな不良やヤクザと喧嘩をしたって負けない、ましてや木刀を持っているのであれば自信は更にある。
だが……この現状を、現実を前にして、そう言った矜持に等しいものは霧散していく。
銃器が普通に出てくる、爆弾だって投げやがる、車両で突撃なんかも当然のように仕出かす、敵は複数が前提で襲い掛かってくる。
(;-Д-)(バカかよ、僕は……)
生き残れたのか、本当に、一人で。辿り着けたのか、生きたまま椎名しぃの下へ。
今夜の騒動で一人で勝手につま先立ちをして、大人の気分になって、そう言った闇に生きる連中とも肩を並べることが出来る――そんな馬鹿げたことを考えていたんじゃないのか。
ξメ゚⊿゚)ξ「坊や。弾丸はね、避けられるのよ」
(#゚;;-゚)「君の目はいい。未だ拙いとは言えしっかり“機能”している。銃口を、相手の腕の動きを、視線や表情をよく見るんだ」
ξメ゚⊿゚)ξ「躊躇っちゃダメよ。これと決めたら迷わず行動しなさい。一瞬で全てが覆るのが戦闘よ」
(#゚;;-゚)「刃物が相手なら君は確実に有利だ。だが落ち着いて対処するんだ。いいね」
二人がヤクザ共を睨みつつも僕に多くの助言をくれる。
迷惑を散々なまでにかけただろうに。それでも親切心か、或いは子供に対する老婆心か、はたまた憐憫か、出来る限りの言葉をくれる。
果たして僕は巻き込まれた立場なのか。それとも自分から巻き込まれに行ったのか。
きっと切っ掛けは巻き込まれたことからだ。だがここにいる僕は、確かに僕の意思でここにいる。
だから――自分の意思で巻き込まれに行ったなら、自分で自分の面倒を見るのが道理だ。
(;゚Д゚)「……ありがとう、二人とも」
僕はそう言うと、左手に握った木刀を肩に担ぎ上げ、二人の背に己の背を向ける。
視線の先には先程横堀が突破した一階正面玄関がある。既に敵の多くはここ、中庭に集結しているようで、建物内の様子は比較的に静かだった。
少なかれ敵はいるだろう。だがその数は圧倒的に減ったはずだ。
ξメ゚⊿゚)ξ「坊や」
(;゚Д゚)「え?」
津出が僕を呼び、僕は顔だけで振り返る。
彼女は相変わらず敵方を睨み続け、僕を見ない。
ξメ゚⊿゚)ξ「本当にいいのね、木刀で」
(;゚Д゚)「っ……」
213
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:49:39 ID:AxJX7IKA0
その声色は真剣なものだった。先までの穏やかな空気は皆無。まるで白刃を突き付けられたような、そんな鋭利な台詞だった。
それに対し、僕は少々言葉を失う。こう言った鉄火場において、やはり絶対的とも呼べる武器を持つのが当然だろう。
だが……だが――
(;゚Д゚)「……木刀で、いい」
僕は、そう、確かに言った。
(;゚Д゚)「俺は……絶対に、人を殺さない」
ξメ゚⊿゚)ξ「…………」
(;゚Д゚)「だから、これで――」
ξメ゚⊿゚)ξ「椎名しぃは、その所為で死ぬかもしれないわよ」
それは……有り得る未来なのかもしれない。
どう言った状況になるのか、また、椎名がどう言った状況にあるのかは不明だ。
だが、もしかしたら、僕が本物の真剣を手にしていれば、或いは、椎名が絶体絶命の状況に陥っても、それを救い出せるかもしれない。
津出の言いたいことは分かる。甘ったれたことを言ってんな、だ。
至極当然。納得がいく台詞だ。その言葉の重みも普通の人間が言うより遥かにある。
けど、それでも……僕は木刀を強く握りしめる。
(;゚Д゚)「だったら、その絶望も、僕が……ぶった斬る」
ξメ゚⊿゚)ξ「その木刀で?」
(;゚Д゚)「ああ……!!」
甘い、甘い、実に甘い――分かっている。そんなの言われるまでもない。
けど、それでも……僕は言い切る。
ξメ゚ー゚)ξ「ふふっ……甘ちゃんね。そこまで頑なだってんなら、もう何も言わないわよ」
(;゚Д゚)「…………」
ξメ゚ー゚)ξ「行ってきなさいな。失うことの怖さを……君は知っているでしょう。なら、自分の命を賭してでも、彼女の絶望をぶっ潰しなさい」
214
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:50:26 ID:AxJX7IKA0
失うことの怖さ――知っている。僕はそれに背を向けたけど、それでも……僕の心は未だに黄金の景色の中にある。
だからこそ、失うのが怖いからこそ……僕は刃を握れない。
それが……真剣が救いになるのかもしれない。それによって状況が変化するのかもしれない。
でも――その刃が、椎名に向くことになるのかもしれない。
ξメ゚ー゚)ξ「“鬼”に……“ならない”為に足掻くその姿。イかしてんじゃんよ、坊や?」
(; Д )「ははっ……そうだったらいいんだけど、そう上手くいくかって、ね……」
僕は再度眼前を睨む。宝木組本部。この建物のどこかに椎名しぃがいる。
一歩を踏み出し、次第に速度を上げ、いつしか僕は両腕を振り、駆け出すのだ。
(;゚Д゚)「――行くぜ、糞垂れ……!!」
背後で津出と横堀の動く気配がある。状況が加速していくのを感じる。
だがそれらに背を向け、僕は単身、建物へと突っ込んでいく。
鬼――鬼か。
陰(おぬ)から鬼(おに)へと変化したその言葉は、やはり魔を、悪を、闇を意味する。
では鬼とは何だ。それは負の全てか。
悪徳――クリフォト。世に溢れる禍悪とは悪意によって意味を持ち、人々はそれを嫌悪し、善や神性を求める。
決してそれになれやしないのに、それでも人々は悪を拒み続ける。
(;゚Д゚)(鬼になるのは、いつだって……人だろう)
縋り続け、拒み続け、それでもその気持ちや衝動こそが……欲望と言う名の悪徳からくるものだと理解出来るだろうか。
それを恐れるからこそ、自身にとって不利益になったり理解し難い何かしらを否定するからこそ、悪と言うものが確立されると理解出来るだろうか。
悪とは、クリフォトとは、きっと……いや、絶対に切っても切り離せない、人を形作る上で重要な要素の筈だ。
それを完全に否定した先に、果たして完全足る善になるのか――神性と呼ばれるものを確立できるのか。
それは否だ。僕には理解出来る。何せずっと悪を拒み続けてきたからだ。
それではダメだと気付く。こと、この状況に至り、深く実感をする。
或いはそれを……人々が嫌う魔や、悪や、闇と言った負を、クリフォトを、拒んだり否定するのではなく、受け入れ、理解したならば――
(;゚Д゚)(優しく……強く、なれんのかなぁ……)
脳裏に過る黄金の景色の中、僕はその問いを風の中に向ける。
そうするといつかのように、優しい微笑みと温かな手が、僕の頭を撫でたような……そんな気がした。
215
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:50:48 ID:AxJX7IKA0
四 其の二
216
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:53:49 ID:AxJX7IKA0
内部は三階建ての構造だった。各階は思った以上に豪華な造りで、通路には赤い絨毯が敷かれ、大理石で覆われた一面もあった。
流石は白根組一の稼ぎ頭なだけはある、と思いつつも、僕は今し方扉の向こうから飛び出してきた黒服――ヤクザの面を木刀で打ち、倒れたそれを見下ろしていた。
(,,゚Д゚)(……冷静に、だ)
両手のうち、健在なのは左手だけだ。右手には血に塗れた包帯が巻かれている。
こんなことになるなら横堀の真剣を握らなければよかった、と思うが後の祭りだ。
兎角、僕は倒れたヤクザ者を飛び出してきた部屋の中へと引きずり込む。
(,,゚Д゚)(にしても、内部の構造は分かれども、詳細が不明瞭だな……)
構造自体はよくある形だとしても各部屋の内容が分からない。
ここが仮に本家と呼ばれる場所、つまり居住目的の施設だったならば、例えば宝木の私室や、或いは椎名の私室を目的に行動すればいい。
ところが本部の役割とは会議等の意思決定に用いる場であったり、今回のように戦闘時の本営としての役割を持つ。
こうなると目的は指令室のような場所になるだろうが、果たしてそこはどの階のどの部屋にあるのだろうか。
(,,゚Д゚)(普通に考えれば……三階だろうけど。問題は移動経路だなぁ……)
この建物には当然階段が設けられ、これにより各階の行き来をする訳だが、敵方は当然警戒している。
となれば封鎖されていたり、或いは歩哨のような存在がいる可能性が高い。
こうなると一階からの突破は危険度も難易度も跳ね上がるが……。
(,,゚Д゚)(さて……どこまで通用するかね)
僕は今し方気絶させたヤクザが着るスーツを剥ぎ取る。追剥のようだな、なんて思いつつ、慣れない背広に腕を通した。
少しばかり丈が足りないが、しかし文句は言っていられない。奇跡的に革靴は丁度いいサイズだった、これには感謝だ。
(;゚Д゚)「うおぉ……スーツって動きにくいな……」
肩の狭い感じや喉元をしめるネクタイが窮屈で仕方ない。
これでよくも戦えたもんだと感想を呟きつつ、着替えを終えた僕は扉を開け、堂々と通路に立つ。
王道も王道だが、敵に扮して敵地に侵入する、と言うやつだ。まるでスパイ映画のままで内心は落ち着かない。
しかし緊張感を抑えなければ挙動不審だと怪しまれてしまう。
そもそもとして僕がヤクザ者に見えるか、と言うのも疑問的だが、これで何とか凌ぎたい――
217
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:54:27 ID:AxJX7IKA0
「お? どこ行くんだお前?」
(;゚Д゚)「――!!」
階段を見つけてみればやはりと言おうか、武装したヤクザ者が二名いた。
恐らくここ以外の階段、そして階にも同じだけの人員が配置されていると思われる。
そんな二名の隣を何食わぬ顔で素通りしようとしたが、片方の男に呼び止められてしまった。
(;゚Д゚)「あ、あぁ……いえ、オヤジに呼ばれて……」
「あー? オヤジに? お前誰だっけ?」
(;゚Д゚)「っ……あー、そのぉ、最近入った新米なんですがぁ……」
オヤジ――宝木琴尾のことを指す。新米のチンピラを装ってみたが、当然ながら嘘八百だ。僕は宝木の顔すら知らない。
なんとか誤魔化そうとするが、しかし僕の言葉にヤクザ二名は首を傾げる。
侵入して早々詰みか、と項垂れると、僕は木刀を構えようとする――が。
「あ、さてはお前かぁ? オヤジとお嬢に不味い茶出したガキってのは?」
(;゚Д゚)「……! あー、そうなんですよ、そうそう! いやぁ、不慣れなもんで、へへ……」
「あっはっは、いやまあ仕方ねえよ、誰もが通る道だ。部屋番すらまだ数きてねえだろ? これからだよ、これから」
(;゚Д゚)「あはは、いやぁ、叱咤激励マジ感謝っす……」
どうやら上手く誤魔化せたようだ。おまけにいい情報も得られた。
(,,゚Д゚)(やっぱり二人は同じ空間にいるんだな)
必死で頭を下げつつ確かな情報に内心でほくそ笑む。
これで目標を同じくして達成出来る。僕の第一目標は変わらずに椎名しぃだが、第二の目標に宝木琴尾も含まれている。
理由は単純なものだ。僕の為に気張ってくれた津出や横堀に恩返しとして宝木を拘束しようと考えていた。
出過ぎた真似かもしれないが、それでも可能な限り手伝いはしたい。
「ほれ、オヤジなら変わらずにお嬢と二人で会議室にいるよ。場所まで忘れちゃいないよなぁ? 三階の大広間だぞ?」
(,,゚Д゚)「……へぇ、いやいや忘れてませんよぉ。それじゃあ、失礼しますね」
あまりにも順調に情報が入ってくる。大広間に会議室が設けられているようだった。
そこに二人きりで椎名と宝木はいるようだが……。
218
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:55:59 ID:AxJX7IKA0
(,,゚Д゚)(……不用心じゃねえか?)
当然護衛は複数いるだろうが、しかし室内には二人きりのようだ。
そうなると、もしも本当にこのまま上手くいけば、僕は何の障害もないままに目的を達成できる。
「お、上行くのか? オヤジ、今お嬢様とお話してる最中みたいだから、あんま喧しくすんなよ?」
(,,゚Д゚)「ええ、はい、分かりました」
二階に到達し、そのまま変わらない速度で上昇を続ける。
やはり踊り場の付近ではヤクザ者が警邏していた様子だが、それも自然な流れで突破できた。
一階でのやり取りから既に僕も少なからずの余裕を得られた。
堂々としていればいい。やるなら大胆不敵に、と言う奴だろう。
(,,゚Д゚)(……にしちゃあ、上手くいきすぎじゃねえのか)
それにしたって事態は好転のし過ぎだった。確かに僕は強面だろうし、ヤクザ者のように見られても可笑しくはないだろう。
だからと言ってこうまで素通り出来るものなのか、と疑問に思う。
そもそもが非常事態で戦闘の最中だ。幾ら戦闘の中心が中庭にあるとは言え、普通ならば敵組織の侵入を何よりも警戒するはずだ。
故に移動経路となり得る階段や通常の通路にだって警邏の姿がある。
(,,゚Д゚)(いや、そもそも……)
僕は一歩一歩と階段を上り、気付けばあと少しで三階に到着するところだった。
やけに静かだった。それもこれも、やはり親分である宝木と椎名の団欒に気遣ってのことか、と思うが――不穏すぎる。
(,,゚Д゚)(新米だっつったって……通じるのか……?)
部屋番――それは部屋住みのことを言う。
普通、極道の世界では、新米の人間は事務所等での雑居生活を強いられる。
勿論全てのヤクザ団体がそう言った習慣を通例とする訳ではない。ある種は力を持つ組織のみがそれを通過儀礼の一つとしている。
これの理由と言うのは単純なもので、ようは極道世界の常識や礼儀作法を、自分の兄貴分やらにご教授願う、というよりかは半ば無理矢理に教育される仕組みだ。
完全な縦社会として知られるヤクザの世界。当然ながらに礼儀作法を欠くことは許されてはいけない。
特に宝木組は白根組においては強力な組織だ。全国にも通用するレベルだとすれば、その環境は劣悪を極めたような地獄だろう。
そんな組織であれば部屋住みは至極当然。最早部屋番と耳にした時点で気付くべきだったが……。
(,,゚Д゚)(顔……覚えてるはずだよな、組員の連中は、全員分)
かつり、と。僕は三階に到着すると目前の景色に言葉を失くす。
219
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:57:14 ID:AxJX7IKA0
「あのなぁ……大胆不敵にも程があるだろぉ、小僧ぉ……」
三階には大きな通路があり、その先に両開きの扉があった。
恐らくはあそこが目標の場所――大広間で、今僕が立つ位置は歓談の場のような、憩いのスペースだろうと思われる。
が、そんな通路には五名のヤクザが待ち構えていた。手にはそれぞれ凶器を握っている。
(,,゚Д゚)「……やっぱそう上手くはいかねえか」
そう呟くのと、背後――階下から複数の足音がするのは同時だった。
少しもせずに顔を見せたのは先程僕と言葉を交わしたヤクザ共だった。
そいつらは一様に厭らしい笑みを浮かべ、僕は挟撃される形になった事実に溜息を吐くと、通路の中程にまで後退る。
「そもそもお前なぁ、小僧……俺達の界隈でも名が通ってるし、当然面だって割れてんだよ」
(,,゚Д゚)「はぁ、そいつはどうも」
「スカしてんなよ? 最近はお嬢様と距離が近いしよぉ? そんなお前の存在に気付かない程俺達極道が間抜けだとでも思ってんのか?」
つまり、端から僕は誘致されていた形だった、と言う訳だ。
僕をよく知っているとなれば単純な話、第一に纏まった戦力を必要とするだろう。ツーマンセルでは確かに不安だ。僕からしても特に脅威にはなり得ない。
第二に自身等にとっての有利な状況、あるいは地の利を求める。これも当然だ。喧嘩とは違う殺し合いの場となれば有利な環境を整えることこそが前提だからだ。
結果的に、ヤクザ共は作戦勝ちをしたと言える。
背後からは四名が、そして眼前には五名……数えて九名の敵だ。しかも全員が武装している。
「銃は使うな。こいつ以外に当たっちゃマズイ」
(,,゚Д゚)(しかも頭は悪くない、か)
存外、優秀な奴が指揮しているようだった。
単純に見れば銃を使って狙い撃ちにした方がいい、と思えるかもしれない。
ところがそれは愚策だし愚昧極まると言える。何せ互いは正面を切っている状態で障害物等もない狭い空間で、更には挟撃――包囲の陣形に近い。
こうなると同士討ちの心配がとても強い懸念事項になる。銃と言う武器は確かに強力だ。しかしそれ故に簡単に命を奪うことが可能になる。
何故、今の時代になってもヤクザが刃物を愛用するか、と言う理由は、つまりこう言う事態が多いからだろう。
日本人だから真剣を愛する、或いは大和魂とは日本刀也、とでも言うのかもしれない。そう言った理由もとても重要だろうが、腐っても“暴力団”……戦闘を根底におくからこそなのだろう。
「そんな木刀一本でよく乗り込んだもんだ。こっちは真剣だぜ」
(,,゚Д゚)「だったら……なんだってんだ?」
九名各々が刃を構える。白鞘の長ドス――真剣だ。紛い物ではなく本物の日本刀だった。
それらが一斉に僕へと向けられる。九つの切っ先に睨まれると、普通ならばかなりの恐怖だろう。生きた心地もしないし緊張感に包まれるだろう。
220
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:58:03 ID:AxJX7IKA0
だが――
(,,゚Д゚)「分かっちゃいねえな。例えあんたらが本物の真剣を持ってもな……何一つ脅威になりゃしねえんだよ」
「あぁ……?」
何も恐ろしいと思えない。
全員、刃を持つくせに、あまりにもお粗末だった。
握り――九人全員が糞だ。足の配置は二名くらいはまともだった。殺気――どれも荒く、研ぎ澄まされたものは一つもない。
呼吸はどいつもこいつも大袈裟だった。視線は先の二名以外は泳ぎっぱなしで集中もしていない。
何よりとして――緊張感に欠けている。
(,,゚Д゚)「そりゃそれだけの人を用意したんだ、勝ったも同然だと思うだろうよ……」
もう既に雌雄は決したと言わんばかりの態度だった。
戦うまでもなく、奴等は自身等が有利であり、その状況のみに満足を得ている。
それがどれほどの怠慢であり傲慢であり不遜な態度か……きっと分かってはいないだろう。
(,,゚Д゚)「相手は所詮は十六の小僧、巷じゃ名が通りはするが所詮はヤンキー……大人の腕力やら知恵やらの前にゃ敵う道理はない、って――」
態度も、構えも、備えも、何もかも。
今現在僕を取り囲むヤクザを名乗る、暴力を生業にする腐れの暴力主義者共は何も分かっちゃいない。
(#゚Д゚)「嘗 め 腐 っ て ん じ ゃ ね え ぞ !!!! お い !!!!」
この僕に、あまつさえ剣を持ち、しかも対峙し、戦うでもなく勝利を得たと勘違いをすると言うのならば――準備も覚悟も不足極まるのであれば、最早それは許されない。
僕の咆哮一つにヤクザ共は虚を衝かれたようで、九人全員が刹那の硬直をする。
(#゚Д゚)「ふぅっ――!!」
「おごっ――」
すかさずに後方にいた一人を逆袈裟に撃つ。切っ先は顎を捉え、件のヤクザは気持ちよく吹き飛ぶと階段から雪崩落ちていった。
結果を確認せず、次いでその隣にいた一人の胴に一閃を叩きこむ。
「がへっ!?」
息を大きく漏らしたところで足を払い、前のめりに倒れたそいつの頭を革靴で思い切り踏み付けた。
鈍い感触と乾いた音が幾つかする。それは前歯が圧し折れる音と眼窩が砕ける音だ。
それを耳にしつつ、ようやっと硬直から脱したヤクザ者――左方からくる――の袈裟懸けを大上段の一撃で無力化する。
221
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 17:58:53 ID:AxJX7IKA0
「えぇっ!?」
(#゚Д゚)「ボケが、そんなんだったら突いてくりゃよかったろうが……!!」
地に叩きつけられた真剣にヤクザは驚愕するが、そんな顔面に僕の右掌底を叩きつける。
掌底とは言え細工をしてある。親指の角度だ。まるで棘が潜むように手の内に向いた親指が相手の左目に突き刺さる。
“目潰し”――別に珍しい手段ではない。こう言った、所謂禁じ手と呼ばれるような技術は……古流武術には多く見受けられるし、それは現代まで受け継がれている。
(#゚Д゚)「――おぉっ!!」
視界を奪われたヤクザを右腕で“投げ飛ばし”、今度は右方と後方から同時に打ち込んでくる二人組みに意識を向ける。
右方は上段、後方は刺突の形だった。拍子はほぼ同時と見える。が――
(#゚Д゚)「こっちだ」
「〜〜〜!?!?」
右方の方が僅かに剣が速い。
上段に対し、僕は木刀の峰で流しいなす。僕の前方にそいつはよろけたように立ち、背から迫る刺突を返す木刀で撃ち払う。
足の捌きを殺さず、僕は背後へと振り向く形となる。刺突を仕出かしたヤクザ者と互い、面を切った形となり、相手は突然に接近した僕の顔に息を飲んだ。
(#゚Д゚)「おらぁ!!」
「べぼっ――」
そんなヤクザの頬に木刀の柄尻を叩きこむ。間もなくすれば意識を手放し、未だ構えたままの木刀を背後へと振り切れば、先程よろけていたヤクザ者の後頭部へと刀身の腹が叩き込まれる。
「がへっ――」
一度木刀を払い、僕は大上段の構えをとる。
腰は少しばかり低く、足は前後左右に自由がきくように広めに配置した。
それによって今し方僕を取り囲む四名を睨むのだ。
通常ならば八相――“陰の構え”をとるのが普通だ。持久戦や乱戦に等しい現状だから出来る限り消耗を避ける構えを取るべきだ。
けれども僕は迷わずに大上段を選ぶ。例え左腕だけだろうとも、その切っ先は一寸とてブレない。
(#゚Д゚)「どうした、残りはこんだけかよ。余裕だった癖して大したことはねーんだな」
僕の構えを前に誰も踏み込んでこない。
大上段――必殺必死の構えだ。これは先の横堀との戦闘で見せられたものと同じ構えだが、これが誠、恐ろしい構えだったりする。
傍から見れば実にシンプルな構図だ。刃を背に反らせる程大きく上段に構えた、ただそれだけの姿だ。
ところがこれを目の前で構えられると足が竦む思いをする。勿論それは剣士の実力にもよるが、何故にこの構えが恐ろしいのか、と言う最大の理由こそは――
222
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:00:07 ID:AxJX7IKA0
(#゚Д゚)「こねえんなら、こっちから行くぞ――」
構える者の顔を隠すものが何もなくなることだ。
多くの構えは切っ先や剣身、腕やらによって表情が隠されてしまう。故に剣を構えている時の素顔と言うのが実際のところでは全てが分かり得ない。
ところが上段はそうではない。その面魂に真正面から対峙することになる。
つまりそれは、剣を構える者の気迫だとか、殺意だとか、全身全霊の全てを叩きつけられることを言う。
更には大上段は尚のこと恐怖だ。背に反り返る程に切っ先がくる、ということは、その破壊力と速度は最大級であることを意味する。
それを寄越されるかもしれないと言う緊張感。それと真っ向から対峙することへの恐怖感。
仮にこれを真剣でやられたら、と言うのは語るまでもないだろう。
僕は横堀の大上段を前に咽喉を鳴らす程だった。それ程の緊張と恐怖を得た。
では今、僕に睨まれる残りの四名はどうだ。
どいつもこいつも剣とは無縁に思える。足と視線がまともなのは二名のみ、とは言え構えは不出来な正眼な上に瞳には恐怖の色合いが渦巻いている。
(#゚Д゚)(――呑まれたな)
全員、最早敵とはなり得ない。四名の面は蒼白く染まり、汗を滴らせ、先の機を窺うでもなく不動に立ち尽くしている。
そうとなれば――手心を加えてやるのが情けだ。
そして僕にとっての情けと言うのは、速やかに無力化してやることだけだった。
(#゚Д゚)「っし――!!」
「ひっ――」
前方の一人に対し木刀を撃ち落とす。決して当てはしない。そいつの眼前すれすれに撃ち落としただけだ。
だがそれだけでヤクザの一人は小さな悲鳴をあげてしまう。
あまりにも無様で見ていられない。故に僕は距離を詰めると右の掌底で顎を打ってやる。
即座に意識を手放したそいつを後目に、左右から迫る二人のヤクザを意識する。
(#゚Д゚)(挟撃……)
果たして挟撃というものはどう対処するのが正解なのか、と言うのは、実を言うと古い時代からのテーマだった。
片方を避けてから一方を打ち取り、続け様に残りを打つ、と言うのが無難と言うか、一つの流れとしての完成形だ。
或いは一度距離を取り地を改める、ないしは誘致する、と言った型も当然のように存在する。
つまりやりようは幾らでもある、ということで、どれが最適な対処か、と言うのは誠に難しいものだ。
では僕の場合はどうするか――
(#゚Д゚)「お ら あ あ あ あ !!!!」
前方、果ては後方の百八十度に刃を描く――そんな力任せの我武者羅な剣だ。
悪手と呼べる。況や剣と言うものは無駄を嫌うものだが、しかしてこの形も悪くないはずだ、と僕は思う。
前提として剛腕でなければ実現は不可能だろうが、しかしその前提さえ完了していれば――
223
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:01:06 ID:AxJX7IKA0
「いっで!?」
「おっ、わっ!?」
相手の得物を無理矢理に奪い取ることが可能だ。
半円に切り結べばその射程内にあった敵二名の刃が巻き込まれ、それらは知らぬ行方に飛んでいく。
凶器を失った事実に二名は狼狽えるが、片方の顔面に右拳を叩き込み、片方の鳩尾に膝蹴りを突き立てる。
「ひあ――」
「あがぁ――」
意識を失った二名を見下ろし、僕は最後の男――指揮を執っていた男を睨んだ。
が、そんな男の手の内に先まで握られていたはずの長ドスはない。代わりに握られているのは――
「勇ましいにも程があるだろ、手前ぇ……!!」
(#゚Д゚)「っ……」
拳銃だった。
大型だ。恐らく結構なヴィンテージだろう。古臭い形状が時代を物語っている気がする。
そんな黒く、大袈裟な拳銃は僕へと向けられている。覗ける銃口は若干の震えを見せていた。
「何がどうなってんだ……手前、たかだか十六歳の小僧がぁっ、ヤッパ持ったヤクザ相手に圧勝なんて有り得る訳ねえだろうがぁっ!?」
受け入れ難い状況だろう。そんなのは当然だ。
無頼漢然とした無法者の集い、ヤクザ。社会に不要とされ見捨てられた彼らは暴力で生きていくしかない。
そんなならず者共は暴力だけが唯一の取り柄であり、他者を脅すことが出来る唯一の手段でもある。
自身等を否定された気分なのだろう。或いは矜持とも呼べぬ程度のプライドが傷つけられた思いなのだろう。
「図に乗ってんなよ、全部奇跡でしかねぇっ!! クソガキがぁっ、手前なんざ滅茶苦茶にぶっ殺してやる!! 俺達が、俺達ヤクザがガキ相手に負けて堪るかよ!!」
口から唾と涎を撒き散らす勢いで叫ぶ最後のヤクザ。目は充血し息遣いはとても荒い。
さあ、では本当にこの腐れヤクザはトリガーを引くだろうか。
(#゚Д゚)(引く。間違いなく)
殺しの経験があるように見える。瞳の中に黒い色が見え隠れしている。
故にこれは躊躇いはするが実行もするだろう。だから間違いなく僕に弾丸を射出する。
では、それに対して僕はどうする。距離はメートルの単位で開きがある。そこまで駆け抜ける――その間に僕は何発撃たれるのか。
弾数も不明だ。果たして拳銃とは何発の弾が装填されているのだろう。僕はそう言った知識をまったく持たないから何も分からない。
224
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:02:14 ID:AxJX7IKA0
(#゚Д゚)(弾道は……本当に直線的なのか。一発を撃った後、次射までにどれだけの時間が生じるんだ。射撃の際の反動や拳銃そのものの動き、腕の動きはどうなるんだ)
僕は一歩を踏み出す。それにヤクザは目を見開く。
正気なのか、と問うような目だった。それに対して僕は……呆れたような笑みを浮かべてしまうのだ。
(#゚Д゚)「ははっ……あんたぁヤクザの癖によぉ……」
覚悟も準備も不足極まるような、そんな不出来な人間が……“武”の象徴である真剣を握り、矜持の為に“道”になり得ない拳銃を手に取る。
それらの事実に僕は笑いを堪え切れない。こんな、こんな無様で情けのない連中がこの世の暗がりを制するだなんて――
_,
(#゚Д゚)「――滑稽すぎるだろ、なぁ……?」
その一言により、男の怒りが頂点に達したことを悟る。
瞳に紅蓮の赤が咲いた。次いでトリガーにかかる指が動きを見せる。
それらの情報を得ると同時、僕は再度一歩を踏み出し、全身の筋肉を一気に緊張させ、景色を駆けだす。
「死ねや小僧おおおおおおお!!」
トリガーが引き絞られる。それにより一瞬の閃光と激しい音、更には弾丸が景色へと出現する。
それらは全てがほぼ同時進行で実現され、速度は全てコンマの世界だった。
だのに――
(#゚Д゚)(一発目――銃口は僅かに僕から反れてる)
見える――“視える”。僕の眼は確かに情報を捉えている。
僕の横顔を通り抜けるのは一発目の弾丸だ。過ぎ去るその刹那、頬に熱を感じたがそれを気にもせず更に足を踏み出す。
ヤクザは続け様に二発目を撃ち放った。
(#゚Д゚)(二発目……思い切り弾道がズレてる。先の反動で銃口も腕も上を向いたままだ。頭上を通過してく――)
僕は確認しつつ、速度を跳ね上げる。
全てがスローモーションに見えていた。まるで世界そのものが遅くなったような、或いは……僕が一方的に速いのか。
(#゚Д゚)(不思議な感覚だ。これはあの時と同じだ。初めて椎名と遭遇した時……トラックに轢かれそうになった時と)
僕の全感覚が研ぎ澄まされているのが分かる。脈動する自身の鼓動すら輪郭を帯び、巨大な心音すらも感じる。
そんな中、三発目、四発目と銃弾が射出されるけれども、僕は景色を複雑な足取りで駆けつつ、今、ヤクザの前へと飛び出す。
(#゚Д゚)(軌道を狂わせるために標的である僕自身が不規則な動きをすればいいのか。なんだ、そんなに怖くないな……銃って)
僕は上段へと木刀を振り上げていた。ヤクザは焦燥した顔付きで、急いで標準を僕の額に向けようとする。
だが最早時は遅い。僕はヤクザの行動よりも早く木刀を撃ち落とす。
225
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:03:06 ID:AxJX7IKA0
(#゚Д゚)「ありがとよ、いい勉強になった。これでまた一つ……剣を理解出来た、ぜ!!」
「おっごあぁっ!!」
激しく頭部を強打されたヤクザは鼻血と折れた歯牙をばら撒きながらに地に伏せた。
そんな最後の敵を見下ろすと、僕は一度木刀を衣服の袖で拭い、再度肩へと担ぐ。
(,,゚Д゚)「……そんで、最後の場所って訳か」
一度呼吸を整える。今し方の騒ぎがあっても視線の先にある扉――大広間の扉が開くことはなかった。
そうなると残る戦力はないと思われる。
総勢力五十人……外に対して三十名程度、残る二十名程度は内部に配置されていたと見ていい。
そのうちの約半数を打ち取った訳だから、状況に対して憂いや心配はない。
外に対する心配――そもそもありはしない。あの二人の女性ならばこんなヤクザ程度、相手にすらならないだろう。
(,,゚Д゚)(いや……怒り心頭になれたのが丁度よかったのか。先を取るように虚を生み出せてよかった。あの咆哮が咄嗟に出なかったら……)
もしかしたら今頃僕は死んでいたかもしれない。
やはりまだまだ未熟な小僧だと自身を強く戒める。頬を軽く張り、少しばかりの疲れや緊張感をほぐす為に両肩を回す。
そうして数秒の間目を瞑ると、再度色彩を取り戻した景色を強く睨んだ。
(,,゚Д゚)「んじゃぁよ……そろそろいいんじゃねえか」
僕は呟きつつ、目標地点の扉を蹴り開ける。
両開きの扉は《ν》の扉とは比べ物にはらないくらいに重厚なつくりだった。
しかしそれを無理矢理の脚力で押し開けると、僕は最後の場所へと踏み入る。
(,,゚Д゚)「なぁ……椎名」
中は広く、床全面は赤い絨毯で覆われていた。
そんな広間の隅に、豪華な装飾を施された椅子に腰かける可憐な花が一輪。
僕の登場にその花は顔を跳ね上げ、珍しく瞳の中には驚愕の色合いがあり、混乱のようなものもあった。
僕は歩みを進め、そんな可憐なる花の前へと立つと、視線を合わせる為に身を屈める。
(*゚ -゚)「埴谷、くん……?」
白く綺麗なミディアムショート、華奢で冬の雪のように透き通った肌。
大きな瞳に長い睫毛。小さく赤い唇に通った鼻筋。
背は低く、声は鈴を鳴らすような、或いは季節の小鳥が歌を奏でるような、そんな耳に心地のよい高低感。
(,,゚Д゚)「よう……ヤキをいれにきたぜ」
彼女の名前は椎名しぃ。
我が校のマドンナにしてヒロイン。
今宵の騒ぎの中心人物であり、世の悪を愛し、世の悪に愛される、悪そのもの――
226
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:03:31 ID:AxJX7IKA0
クリフォトの樹に咲く、一輪の花のような少女だった。
227
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:03:52 ID:AxJX7IKA0
四 其の三
228
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:05:05 ID:AxJX7IKA0
(*゚ -゚)「どうしてここに……?」
椎名は珍しく狼狽えたような反応だった。
いつもの仮面はどこに消え去ったのだろうと思いつつ、僕は彼女の言葉に小さく笑う。
(,,゚Д゚)「言ったろ、ヤキをいれにきたってよ」
椅子に腰かける椎名しぃ。まるで精巧につくられた人形のようにその様子は完成された美に思えた。
そんな彼女の前に膝を突き、声をかける僕の姿と言うのは、画としては奇妙そのものだろう。
僕の言葉に彼女は眉根を寄せ、理解し難い、と呟いた。
(*゚ -゚)「……先からの騒ぎは、埴谷くんの仕業なの?」
(,,゚Д゚)「さてな」
(*゚ -゚)「とぼけるんだ」
(,,゚Д゚)「そりゃな。何せ重要なことは、そんな詰まらねえことじゃあない」
僕は彼女の手を掴む。再度椎名は驚いたように目を見開く。
(*゚ -゚)「……自分が何をしてるか分かってるの?」
(,,゚Д゚)「ああ、分かってる。むかつく女にヤキをいれにきた……そんな程度のことだ」
(*゚ -゚)「ふざけないで」
彼女は一度も笑わない。いつも通りの張り付けたような笑みも、あのおぞましくも美しい笑みも浮かべない。
ただただ人間的な顔をして、僕を睨むのだ。
(*゚ -゚)「帰って。すぐに」
(,,゚Д゚)「お前の命令に従う道理はねえ」
(*゚ -゚)「……ヤキがどうだとか、意味不明な理由で首を突っ込んでいいことじゃないのよ、埴谷くん」
229
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:06:29 ID:AxJX7IKA0
(,,゚Д゚)「へぇ、なら大した理由がありゃ首を突っ込めるってのかよ」
(*゚ -゚)「…………」
拒絶の意思が瞳の中に浮かんでいる。だがそれは揺らめきを見せ、その奥には別の色合いがある。
僕はそれを見続けていた。彼女と視線を交わす中、一度として目をそらさない。
(*゚ -゚)「私がヤクザの養女だって――」
(,,゚Д゚)「知ってる。今に至るまでの騒動も全部。沿岸倉庫にも行ってきた」
経緯を纏めれば、僕のしていることは出過ぎた行動に尽きる。
そもそもは荒巻組と宝木組を抗争だ。そこに椎名が巻き込まれ、結果として彼女はここ――宝木組の手の内に戻った。
件の荒巻組も壊滅。残るは今宵、宝木の首を狙う津出や横堀を抹殺すれば宝木組の憂いは全て消え去る。
(*゚ -゚)「何一つ関係ないじゃない」
(,,゚Д゚)「ああ、関係ねーよ。寧ろまた面倒事に巻き込まれてるようなもんだ」
(*゚ -゚)「違う、巻き込まれにいったんでしょ。馬鹿なの」
(,,-Д-)「……ははっ。なんだぁ、お前。そう言う態度取れるんじゃあねえか」
いつもいつも他人事で、何もかも興味の外にあったような風なのに、今、彼女は僕に対して「馬鹿」と言った。
その上表情と言えば蔑んだような、冷徹な感じで、僕はそんな彼女の反応と言葉に不思議と笑みが零れてしまう。
(*゚ -゚)「埴谷くん、今言ったよね。面倒事だって。そもそも道理もないって」
(,,゚Д゚)「ああ、言った」
(*゚ -゚)「……いつも不機嫌で、何もかもにうんざりした風のあなたが、私を疎ましく思うあなたが、何で……?」
彼女の感想は至極のものだ。僕は彼女を幾度となく拒絶してきたし、事実、僕は彼女を疎ましく思っている。
けれど、だからこそと言おうか。それだからこそに――僕は文句を言える立場でもある。
230
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:08:09 ID:AxJX7IKA0
(,,゚Д゚)「お前はよ、椎名。俺に謝るべきなんだ」
(*゚ -゚)「は?」
(,,゚Д゚)「毎度毎度しつこく付き纏って、住居まで特定して俺のバイト先にまで押しかけやがる。俺の心休まる時を悉く奪いやがったろうが」
(*゚ -゚)「……それで?」
(,,゚Д゚)「迷惑だっつってんだ。だからお前に対して今日この時、ヤキをいれにきたのさ」
(*゚ -゚)「……本当に馬鹿じゃないの。そんなくだらない理由でここまできたの」
(,,゚Д゚)「じゃなきゃ今ここにいねーだろ」
(*゚ -゚)「私が浚われたり、荒巻組の人達が殺されたり、今正に抗争の真っただ中にある状況で、私に文句を言う為に?」
(,,゚Д゚)「不服か?」
(* - )「迷惑よっ」
語気が荒れ、彼女は僅かに顔を伏せた。その言葉やら仕草に僕は少しばかり驚く。
(* - )「本当に馬鹿らしい。こんな危険な状況で、なに、英雄気取りなの? かっこつけてさ、木刀なんて持って、変装紛いにスーツなんて着ちゃって。
それで言うに事欠いて“不服か”? 今までの言葉や理由が行動に対する動機になるだなんて――」
(,,゚Д゚)「俺はよ、椎名。巷じゃドのつく不良と呼ばれてるらしい」
僕は椎名の言葉を遮る。
(,,゚Д゚)「俺自身、そんなことは認めちゃいないし、不名誉極まりないと思ってる。ああ言った糞共と同類に見られるのは実に不本意だ」
(* - )「…………」
(,,゚Д゚)「けどよ、そんな俺でも……ツッパリてぇ時くらいあんだよ」
僕は今も未だ椎名の手を握っている。
それを彼女は離さない。先からどうのこうのと捲し立てる癖に、瞳には拒絶の意思も浮かんでいるのに、それでも彼女は僕を完全に突き放そうとしない。
僕は改めて彼女の顔を覗き込む。
231
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:09:10 ID:AxJX7IKA0
(,,゚Д゚)「――嘗め腐った女が嘗め腐った状況を受け入れて、立ち枯れに消えいこうとしてるのがよ、気に入らねえんだ」
(* - )「っ……」
潤んだ瞳がある。いつもの彼女らしくもない。そんな揺れる雫に、期待を抱くような色がある。
それが零れる前に僕は彼女の涙を拭った。彼女は未だ顔を俯けたまま、僕の手を強く握ったまま。
(,,゚Д゚)「逃げるぞ……椎名。文句も何でも好きなだけ後で言えばいい」
(*。 - )「……うん」
立ち上がらせ、彼女の華奢な背を支えてやる。
酷く震えていた。いつだって毅然と咲く花のように背を張る彼女が恐怖に苛まれている。
それに僕は何を言うでもなく、彼女の手を引きつつ大広間から立ち去ろうとするが――
232
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:09:30 ID:AxJX7IKA0
「お砂糖、スパイス、すてきなものをい〜〜〜っぱい……」
233
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:11:03 ID:AxJX7IKA0
こつり、こつりと響く足音がある。
それは広間の脇にある部屋――恐らく給仕部屋――から伝い、同時に誰ぞかの声も生まれた。
その声に椎名は強張った表情をし、僕の背後へと隠れる。
「全部まぜると、むぅ〜〜〜っちゃかわいい女の子ができる……はずだった」
まるでお道化た調子だった。声の主はどこぞで聞いた覚えのある台詞を口にしつつ姿を見せる。
高級そうなスーツを着た男だった。歳は壮年の頃合いで、顔には刻まれたように笑顔がある。
( ,,^Д^)「いやぁ、ユートニウム博士はヘマをこいた訳だ。けれど私はそうも間抜けじゃないんだ、これがね」
銀盆を手に男は歩いてきた。盆の上には今し方淹れたであろう茶と菓子が載せられている。
僕を一瞥し、それでも表情を崩しもせず男は悠然と歩くと、大広間を彩る円卓の適当な席に腰かけ、静かにカップを傾けた。
(,,゚Д゚)「……宝木、琴尾か」
( ,,^Д^)「如何にも私がそうだ、埴谷銀くん」
どうかね、と言いつつ男――宝木は僕を席へと促す。
( ,,^Д^)「アールグレイだ。急な来訪ではあったが君の分もある。飲むべきだ」
(,,゚Д゚)「……俺の存在も御存じ、ってか」
( ,,^Д^)「愚問だねぇ……我が愛しの花に群がる虫は全て承知だよ」
(,,゚Д゚)「承知してたってんなら……椎名を中心に巻き起こってた怪事件の全ても理解してたはずだよな」
( ,,^Д^)「怪事件? ああ、野々さんと樋木くんが仕出かしてた悪事かい? いやーあれはいい二人組だったよ、余計な手間が省けた」
宝木は再度カップを傾けると内容を啜る。
(,,゚Д゚)「わざわざ手前の手駒を動かさずに済んでよかった、ってか。あんた、娘の同級生が人を殺して回ってたんだぞ」
( ,,^Д^)「それが? 私達も人を殺したり運んだりしているよ?」
(,,゚Д゚)「手前の娘を主軸として問題が巻き起こってたんだぞ」
( ,,^Д^)「ふふ、それもまた我が愛しき花の美を証明付けるものだよねぇ」
(,,゚Д゚)「……屑が」
234
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:12:41 ID:AxJX7IKA0
僕は静かに木刀を無行の位置へと持ってくる。
視線は宝木を捉えたままだ。
( ,,^Д^)「屑、ね……“埴谷”の名を持つ君がそれを言える立場かね」
(;゚Д゚)「っ……」
( ,,^Д^)「おや? 何で知ってんだって顔だけど、いやいや君こそ分かり切ってるだろう。寧ろ私達の側こそが君の御家をよく理解していると」
いよいよ宝木は内容を飲み干すと僕を見つめる。
視線だけで着席を求められたが僕は頑として頷かない。
それに彼は溜息を吐くと、静かに椅子から立ち上がった。
( ,,^Д^)「それで……なんの用かね、埴谷くん。我が花と近頃親密だそうだが、私はそれに目を瞑っていてあげたんだよ。感謝される覚えはあれど、そうも睨まれる筋合いはない」
(,,゚Д゚)「……どうかな。あんたが“埴谷”を知ってて、かつ俺の存在も知ってたんなら、それこそ……虫よけとしては最適な人物に思えたんじゃないのか」
( ,,^Д^)「お〜……存外察しがいいねぇ。野々さんが死んでしまってからはあまりにも不安だったからね、その代わりに最適過ぎる人物だったのは間違いない」
だが、と彼は僕を見つめる。
( ,,^Д^)「恋を許した覚えはないんだよ、坊や」
(,,゚Д゚)「んな甘く切ないもんじゃあねえよ」
( ,,^Д^)「なら何だって言うのかな?」
(,,゚Д゚)「椎名が殺されることに黙っちゃいられねえのさ。こいつは……俺が泣かすんだぜ、糞野郎」
先から僕は違和感を覚える。椎名しぃを花と喩える宝木だが、言葉の節々では愛情を感じるが必死さが伝わってこない。
普通、娘の為となれば親というものは全身全霊になるのではないだろうか。ましてやどこの馬の骨とも知れぬ、どころか巷では名の知れる不良に誑かされたとあれば尚更だ。
が、果たして宝木はそう言う情熱を抱く父親か、と言うのは……確実に否だろう。
235
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:14:38 ID:AxJX7IKA0
(,,゚Д゚)「沿岸倉庫にあった三名の死体。嬰児は別としても……残る二名は椎名にそっくりだった」
僕の背後で椎名が息を飲んだ。対して宝木は眉一つ動かさない。
(,,゚Д゚)「聞いた話、椎名はあんたと血の繋がりはないらしい。姓も違う。にしたって、子が欲しけりゃお抱えの愛人でも何でも孕ませりゃいいだろうに、何で椎名しぃを引き取ったんだ、宝木」
僕は無行に備えていた木刀を正眼へと持ってくる。
その動作によって大広間の空気は張り詰めた。
(,,゚Д゚)「どうしても椎名しぃでなきゃいけない理由でもあったのか。例えば……あの三名の死体に相応しい、姿も顔付きも似た、椎名しぃでなきゃいけない理由がよ」
そう訊くと、宝木は一度顔を俯けた。
不審に思いつつも、そんな彼からくぐもったような笑い声が溢れてくる。
次第にそれは響きを増し、部屋全体に広がると、彼は背を仰け反らせるような勢いで笑い始めた。
( ,,^Д^)「はははは! おいおい坊や、要らぬことに嘴を挟むんじゃないぞ!? そもそもは無関係だろうに、だのに何を名探偵気取りをしているんだ!?」
(,,゚Д゚)「無関係じゃあねえよ。俺ぁこの椎名しぃに散々迷惑かけられたんだ。そうなりゃし返しの一つもしたくなるさ――」
そこで言葉を切り、僕ははっきりと続きを口にする。
(,,゚Д゚)「――生きているうちにな」
その言葉にはたと笑いが止まる。静寂に支配された室内だが、静々と溢れるのは殺意の海。
それは僕から溢れ、同時に――宝木からも溢れてくる。
( ,,^Д^)「……全てを失った君になら分かるかもしれん話だ、坊や」
宝木は天を見上げていた。後ろ手に腕を組み、何かを思い出すように瞳は閉じられている。
( ,,^Д^)「私の生まれは貧しく、幼少期の当時はあばら家で暮らしていた。日々を凌ぐのも困難でね、私は新聞配達だとか物売りなんかをしていたよ」
こつり、こつりと宝木は小さな足取りで歩き始める。
その動向に注意を払いつつ、僕は残る右腕で椎名を庇うように立ち塞がる。
( ,,^Д^)「私には母しかいなかった。父は何処かへと姿を消し、近しい親族もいない。そんな中で、私の生活は母だけが支えであり頼りであり、何より……母の笑顔のみが救いでもあった」
236
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/08(日) 18:15:26 ID:AxJX7IKA0
宝木は語る。
貧しく育った宝木は母と二人で慎ましくもひた向きに日々を過ごし、貧乏ながらに満たされた生活だった、と。
( ,,^Д^)「だが天は平穏を許さなかったらしい」
ある日のことだ。
宝木が小学校から帰ってくると、押し入りの強盗に家が襲われていたと言う。
あばら家故に価値のある物品などあるはずもなく、当然室内は荒れ果てはしたが物取りはなかった。
しかし――
( ,,^Д^)「確かに私は奪われてしまったんだ。最愛の人を、かけがえのない光を……ただ一人の母を」
彼の母親は惨殺死体で発見された。
室内は酷く散乱し、争った形跡は勿論、性的暴力の痕跡もあったと言う。彼の母の死は壮絶なものだった。
( ,,^Д^)「腹を裂かれ、手足を砕かれ、首は絞められた挙句に百八十度捻じられていた。おぞましくも膣や肛門は直結する程に乱暴をされ、まともな部位はなかった」
第一発見者の少年宝木琴尾の慟哭が響く。
当時幼かった宝木だが、普通ならば精神的障害は多大であり、崩壊しても可笑しくはない。
しかし彼は正気を保ち続けた。そうしなければならない理由が彼にはあった。
( ,,^Д^)「哀れだろう、そんな様は。世に善悪とあるように、母は正しく善人だった。そんな善人が悪の手によって殺される不条理を許すつもりなどない」
故に彼は正気を保った。ただ一つの目的を果たす為に、それこそは復讐――
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