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Ammo→Re!!のようです

898名無しさん:2021/06/28(月) 20:05:23 ID:1iVpT/J.0
乙です

899名無しさん:2021/06/28(月) 22:37:11 ID:JzjN1bvE0
乙乙
またハート・ロッカーが出てくるとは思わんかった

900名無しさん:2021/06/29(火) 02:04:40 ID:O5ZPA3K.0
>>861
ζ(゚ー゚*ζ「挑戦したのはロブ・クラークという男性でね……」
〜中略〜
ノパ⊿゚)「……ボブって奴は、何で山を登ったんだろうな」

どっからボブ出てきた

901名無しさん:2021/06/29(火) 06:19:46 ID:yrQEBrEw0
>>900

何で……ボブ……(´・ω・`)(´・ω:;.:…(´:;….::;.:. :::;.. …..

902名無しさん:2021/06/29(火) 11:18:56 ID:OZ7Q43/E0
敵のほぼ本拠地に一人ってギコさん結構やばくね?

903名無しさん:2021/06/30(水) 12:55:46 ID:xIHJtbMw0
しかし序盤で死ぬモブだと思ってたオサムがここまでメイン張るとは

904名無しさん:2021/06/30(水) 20:35:25 ID:Eo5jtc8s0
乙 今回も面白かった!
語彙力がなくて申し訳ないんだけど、実力のある人がいかにも強いってわかるような雰囲気が出ているところがカッコ良くて好き。

>>851
離れた痛場所でそれを聞き咎めた給仕係は頷き

は離れていた場所、もしくは離れた場所 の間違いかな?

>>888
アサピーの服の裾をつまんだまま、イモジャ・スコッチグレインは何か言いたげに唸り声をあげた。
カントリーデンバー

<ヽ`∀´>「イモジャはどうするニダ?
      勿論、駅の外までは連れていくニダよ」

このカントリーデンバーは、何か意味があったり?

905名無しさん:2021/06/30(水) 20:44:21 ID:t5v4lWo20
>>904
ぎにゃああ!! どうして!! どうしてこうなるの!!
いつもありがとうございます……!!

906名無しさん:2021/07/23(金) 18:11:58 ID:Rk6IoSeE0
遅ればせながらおつ
ポットラックが無事に終わりそうで何より
ギコは兄弟への復讐だけじゃ足らんのか
どこまでやるのか楽しみ

907名無しさん:2021/08/08(日) 10:40:44 ID:Xp0t60oA0
明日の夜VIPでお会いしましょう

908名無しさん:2021/08/08(日) 21:28:59 ID:i98gZZrM0
まってます!!

909名無しさん:2021/08/10(火) 20:42:33 ID:VMzYVuKw0
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経済の世界には不思議な現象が起こることがある。
均衡を保とうとする不思議な力だ。
我々はそれを“神の見えざる手”と呼ぶ。

動物の世界には不思議な現象が起こることがある。
個体を変化に適応させようとする不思議な力だ。
我々はそれを“進化”と呼ぶ。

人間の世界には不思議な現象が起こることがある。
不自然を維持しようとする不思議な力だ。
我々はそれを何と呼ぶべきなのだろうか。

                         ――アルプス・スプラウト著『進化論』より抜粋

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September 23rd 某時刻

その空間は広く、そして明るかった。
間接照明によって白く照らされた部屋の中央には、ガラスで作られた円卓があり、その周囲を囲む形で柔らかそうなクッションのついた椅子が並ぶ。
高い天井全体が淡く発光し、まるで陽光のように穏やかな光が降り注いでいる。
各人の前には透明のカップに注がれた紅茶が並び、小皿には茶菓子が盛られていた。

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                                         The Ammo→Re!!
                                    原作【Ammo→Re!!のようです】

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その空間には年齢、性別の違う人間ばかりが集まっていたが、彼らの志は同じだった。
時計が予定の時刻を指示した瞬間、最初に口を開いたのは、禿頭の男だった。
男の佇まいはどこか老犬を思わせるものがあったが、その目は死んでいるどころか、爛々と輝いている。
その体には真新しい傷が幾つもついているが、まるで弱々しさを感じさせない声でショボン・パドローネは第一声を発した。

(´・ω・`)「報告から始めよう。
     我々はジュスティア警察に捉えられ、拷問を受けたが、情報は何一つとして流していない。
     ただ、我々を救出する段階で同志カラマロス・ロングディスタンスが死んだ。
     奴らの罠だった。

     それでも、同志ドクオの助力がなければ全滅していただろうな」

かつて警官だっただけあり、その声は張り上げてすらいないのに、聞く者の耳にまっすぐに届いた。
長い黒髪の男の方を見て、ショボンはそう言って会話のバトンを渡した。
名前を呼ばれたドクオ・バンズは気恥ずかしそうに鼻の頭を指で掻き、報告の続きを始めた。

910名無しさん:2021/08/10(火) 20:42:57 ID:VMzYVuKw0
('A`)「同志キュートと共に救出を試みました。
   奴らは護衛の中に身動きの取れない状態の同志カラマロスを連れてきていて、咄嗟の判断で判別するのは不可能でした」

ドクオは同意を求めるように、女性に目を向けた。

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                脚本・監督・総指揮・原案【ID:KrI9Lnn70】

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紅茶を上品に飲み、くすんだ空を思わせる碧眼でドクオを一瞥したキュート・ウルヴァリンが溜息を吐く。
それから何事もなかったかのように全員を見渡し、言った。

o川*゚ー゚)o「彼の言うとおりだ。
       こちらは一刻を争う状況だったため、いちいち敵勢力の素性を確認などしていられなかった。
       同志カラマロスは気の毒だったとしか言えないな」

彼女の物言いは極めて落ち着いたものであったが、有無を言わせぬ何かがあった。
組織内における彼女の立ち位置だけでなく、紛うことなき実力者である彼女の言葉が持つ説得力。
更には、実際にその現場に居合わせた人間の多さが疑問を挟む余地を与えなかったのである。
オールバックした黒髪の男は細目を僅かに開き、シナー・クラークスはキュートの言葉に頷き、補足説明を行った。

( `ハ´)「同志キュートと同志ドクオには感謝しているアル。
     解せないことは多々あるが、それでも、あの空間から救われたのは事実アル。
     同志カラマロスのことは気の毒アルが、それでも一人の犠牲で済んだのは奇跡ネ」

ジュスティア警察で広報担当者として勤務していたビロード・コンバースは、シナーの言葉に激しく頷いた。
現職の彼はこの場の誰よりもその難易度を理解しており、実際に助けられた人間の一人だった。
実際に殺されてもおかしくない経験をした一方、強烈な疑問を抱いた人間の一人だ。

( ><)「あいつらは我々全員を殺すつもりで拷問していました。
      それを開放した理由だけが、分からないんです」

腕を組んで話を聞いていたジョルジュ・マグナーニが、静かに口を開いた。
彼自身もまた、ドクオとキュートによって助けられた元ジュスティア警察の人間で、ビロードよりも深い部分でジュスティアという街の仕組みを理解していた。
ショボンとジョルジュ。
この二人がジュスティアの暗部について語る言葉は、真実以上の重みがある。
  _
( ゚∀゚)「気にするな。
    どうせ、そうやって疑心暗鬼にさせるのが奴らの狙いだ」

そして僅かの沈黙が間に挟まり、小さな咳払いと共に、次の男が口を開いた。
スーツを着て身綺麗にした短い茶髪の男は、どこか芝居めいた口調で言葉を紡いだ。

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     総合プロデューサー・アソシエイトプロデューサー・制作担当【ID:KrI9Lnn70】

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911名無しさん:2021/08/10(火) 20:44:39 ID:VMzYVuKw0
( ・∀・)「我々の報告をさせていただきましょう。
      セントラスとの業務提携、滞りなく進みました。
      十字教の教会、信者に支給されるあらゆる物の製造については、我々の手が入ることになります。
      では詳細について、同志モーガン」

マドラス・モララーに促され、新入りのモーガン・コーラが口を開く。
その素性について細かなことは誰も知らないが、彼女の功績で作戦が進んだことは紛れもない事実だった。

( *´艸`)「教皇、クライスト・シードと交渉して、我々が介入する許可を得たんです。
     ほら、十字教は世界中に広がっているじゃないですか。
     それに追いつけるだけの供給力と安価さを提示したら結構簡単に食いつきました」

十字教が必要とする物資は多岐にわたる。
衣類、食料品、果ては住居に至るまでほとんどの物が教義に従って用意され、販売されている。
その製品には厳格なルールがあり、決してミスは許されない。
例えば衣類であれば、使用する素材の種類は勿論、染色方法に至るまで細かな規定があり、食事についても同様だ。

従来は御用聞きの店が営んでいたが、それ故に高額な料金がかかっていた。
そこに、彼らは活路を見出した。
信者を逃さないためにも、十字教としては売りつける物が不足している事態は回避したい。
常に速度を求めている宗教家にとって、内藤財団の助力は喉から手が出るほど欲しいものだったはずだ。

交渉は難航するかに思われたが、二人の話術によってそれは杞憂に終わった。
十字教に根を下ろすということは、世界中に根を下ろすのと同義なのだ。
信者に扮して入り込むことも、信仰心を利用して計画を進めることも出来る。
モーガンの報告に、数人が驚いた表情を浮かべたが、静かに挙手をした女性の動作によってそれはすぐに消え去った。

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           編集・録音・テキストエフェクトデザイン【ID:KrI9Lnn70】

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川 ゚ -゚)「次は我々だ。
     博士」

クール・オロラ・レッドウィングは淡々と言い放ち、視線を隣の席にいるイーディン・S・ジョーンズに向けた。
視線を向けられたジョーンズはそれに気づき、手に持って香りを楽しんでいた紅茶を優雅に一口啜ってから答える。

(’e’)「あぁ、うん。
   えーっと、オセアンから回収したハート・ロッカーの修理だが、昨日無事に完了したよ。
   最初に言っていた通り、四門の砲塔部分は改修させてもらった。
   これで最大射程が伸びて、この場所にいてもイルトリアに撃ち込むことが出来る。

   ただし、残るは砲弾だけだ。
   砲弾の件については私ではなく、えーっと、誰だったかな」

言葉ではそう言いつつ、ジョーンズはそれ以降の話について興味を持っていない様だった。
視線を周囲に向けるでも、思い出そうとするわけでもなく、彼の手は茶菓子に伸びてそれを口に運んだ。
もったいぶるようにして咀嚼し、嚥下してから感嘆の声を上げる。

912名無しさん:2021/08/10(火) 20:47:01 ID:VMzYVuKw0
(’e’)「このクッキー、美味しいじゃないか。
   まぁいい、とりあえず、砲弾以外の部分については問題なく稼働することも確認済みだ。
   同志キュートと同志クールのおかげで、遠隔での操作も可能になった。
   さっきも言ったが、後は飛ばす物次第だよ。

   ただの砲弾ならいいが、長距離に高精度で飛ばすとなると、物が違う。
   燃料の調合もそうだが、コントロールチップも必要だからね」

技術的な話を理解できる人間はその場にほとんどいないが、彼はそのことを全く気にも留めていなかった。

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      撮影監督・美術監督・美術設定・ビジュアルコーディネート【ID:KrI9Lnn70】

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( ゚д゚ )「……ラヴニカがまだ完全に我々の手に落ちていないため、生産のメドが立っていない。
    だが時間の問題だ」

ジョーンズの言葉に苛立つようにして、ミルナ・G・ホーキンスが話を引き継いだ。
組んでいた太い腕を組みかえ、話はそこで終わりだとばかりに瞼を降ろした。
しかし。

从'ー'从「何で完全じゃないのかしらぁ?」

神経を逆なでするような甘い声を出したワタナベ・ビルケンシュトックによって、彼は瞼を開かざるを得なかった。
ラヴニカでの作戦は極めて重要な物であり、その報告についてはまだ欠けている物があるのは事実だ。
それを補足したのは、新参のワカッテマス・ロンウルフだった。

( <●><●>)「全部のギルドマスターが殺せたのならばよかったのですが、キュヒロギルドだけは代理人を立てていたのですよ。
       これは性急な会議をねじ込んだハスミ・トロスターニ・ミームのせいですね」

从'ー'从「なら、直接キュヒロギルドのマスターを殺せばいいんじゃないかしらぁ?」

( ゚д゚ )「そんなことをすれば我々の努力が無駄になるのも分からないのか、同志ワタナベ」

从'ー'从「やだぁ、言ってみただけよぉ」

けらけらと笑い、ワタナベは紅茶を一口飲んで喉を潤した。

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     総作画監督・脳内キャラクターデザイン・グラフィックデザイン【ID:KrI9Lnn70】

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从'ー'从「そう言えばぁ、結構酷い目にあった人がいるみたいだけど、その報告はするのかしらぁ?」

913名無しさん:2021/08/10(火) 21:02:07 ID:VMzYVuKw0
彼女の言葉に身を震わせたのは一人。
存在しない拳を握りしめたのが一人。
いずれも、最近になって深手を負った人間だった。
先に口を開いたのはハインリッヒ・ヒムラー・トリッペンだった。

从 ゚∀从「ヴィンスでの作戦行動中に、“戦争王”に襲われました。
      ですがヴィンスへの介入は成功しています」

从'ー'从「それは良かったわねぇ。
     で、“今年”は何を獲られたの?」

彼女の事情を知るワタナベは、まるで面白い玩具を前にした子供のように無邪気に質問をした。
ハインリッヒが冷や汗を流したのは、単純にその時のことを思い出したからではなかった。

从;゚∀从「右足の指……全てです……」

从'ー'从「良かったわねぇ、その程度で済んで。
     それで、同志アニーは?
     あれぇ? そういえば、弟の同志オットーは?」

いつの間にか主導権を握ったワタナベであるが、彼女の言動を咎められるだけの地位の人間はそう多くない。
更には、数少ないその地位にいる人間も彼らに起きたことについて興味があるのが事実だった。
果たして何者がここまで手ひどい傷を負わせたのか、その復讐に興味がある人間と、人の不幸に興味がある人間の二種類がその場にはいた。
ワタナベは間違いなく後者だった。

アニー・スコッチグレインは苦虫を潰したような顔をして答えた。

( ´_ゝ`)「……療養中、ギコ・カスケードレンジにやられました。
     弟が殺され、妹が行方不明です」

从'ー'从「何か恨みを買うことでもしたのかしらぁ?」

( ´_ゝ`)「我々の計画通り、ペニサス・ノースフェイスを殺したのが原因かと」

从'ー'从「そっかぁ、なら安く済んだわねぇ」

この場においてもワタナベの悪癖は治ることは無かった。
彼女の興味を持たない人間、あるいは弱い立場にいる人間に対して、その神経を逆なでするような言葉を発することは組織内で問題視されていた。
仮に、その発言が事実だとしても、それは組織として許されるものではない。
それを咎められる人間の一人が、今まさに彼女の発言に対してガラスのテーブルが震えるほどの怒声を発したクックル・タンカーブーツだった。

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            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】

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( ゚∋゚)「挑発行為はやめろ、同志ワタナベ」

从'ー'从「ごめんなさいねぇ、そんなつもりはないわよぉ」

914名無しさん:2021/08/10(火) 21:02:29 ID:VMzYVuKw0
大して気にした様子も見せないが、ワタナベは演技めいてそう言ってみせた。
丸太のように太い腕に込めた力が苛立ちを示すが、クックルの言葉は先ほどと変わらない口調で続けられた。

( ゚∋゚)「それで、そちらの進行状況はどうなっているんだ?」

从'ー'从「えぇ?」

( ゚∋゚)「とぼけるな、ティンカーベルの報告だ」

从'ー'从「あぁ、今進行中ってところですぅ」

( ゚∋゚)「ほぼ何だ、進行中とは。
    予定では完了しているはずだろう」

从'ー'从「どっかの馬鹿が色々としくじってくれたおかげで、ジュスティアが怒ってるのよ。
     写真まで出ちゃってるから、こっちの会社が介入するところにジュスティアもセットになっちゃってるんです。
     何せ、脱獄に際して潜水艦やら新型の棺桶まで披露しちゃったからねぇ。
     ねぇ、心当たりあるかしらぁ?」

ティンカーベルで起きた一連の大騒動は、今もまだ鎮火し切れていない。
彼らが狙っていたニューソクは爆破され、今は棺桶を発掘し、それを秘密裏にニョルロックに送り届けるだけの作業でさえ難航している。
安全上の監視としてジュスティアが目を光らせ、コンセプト・シリーズが発掘。
市場に流さずに内藤財団が保有し、それが何かしらのテロ行為に使われていると分かれば、これまでの努力に泥を塗ることになる。

クックルは何か言いたげに眉を吊り上げたが、それ以上何も言うことは無かった。
彼は沈黙が雄弁である時を心得ており、今は何も言わないのが得策であることも理解していた。
ワタナベという女の言葉は常に火種を探しており、それに乗れば無駄な時間が増えるということを知っているからだ。

( ゚∋゚)「ふん……」

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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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それから細かな報告が終わると、誰もが口を噤み、沈黙を生み出した。
あのワタナベでさえ、紅茶を啜る程度にしか音を立てておらず、皆の視線は二人の人間に注がれていた。
一人は、金髪の女性。
内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾン。

鋭い眼光を光らせ、決して油断することのない決意を露わにし、彼女が言葉を発する。
その言葉は静かに、そして力強く、その空間にいた人間の鼓膜を震わせた。

915名無しさん:2021/08/10(火) 21:03:03 ID:VMzYVuKw0
ξ゚⊿゚)ξ「残りの歩みはあと一歩です。
      それぞれ計画通り、所定の都市に向かってください。
      開始の号令は予定通りです。
      力が世界を動かすなどというルールは、もう間もなく失われます。

                  r e b a l a n c e
      我々が、この手で、ルールを変えるのです。
      この世界に今蔓延っている、力を使って」

そしてもう一人。
ツンディエレの隣に座る内藤財団社長、西川・リーガル・ホライゾン。
会議が始まってから、否、会議が始まる前から笑顔を保った彼の口が次に何を語るのか。
その場にいる全員が心得ていた。

それは彼らの行動理念であり、彼らの目的であり、彼らの悲願でもある言葉だ。
ティンバーランドが目指す、最終目的地。
彼らのこれまでの何もかもは、その言葉に集約されるのだ。

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               これは、力が世界を動かす時代の物語
      This is the story about the world where the force can change everything...

                 そして、新たな旅の始まりである
              And it is the beginning of new Ammo→Re!!

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そう、全ては――






( ^ω^)「――全ては、世界が大樹となる為に」





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916名無しさん:2021/08/10(火) 21:04:38 ID:VMzYVuKw0
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               Ammo for Rebalance!!編

                 ,-┐ ∧ヾ V7 rァ
              ,r-、」 k V ハ Y / //__
                ィx \マ ィ、 〈 | 、V rァ r‐┘
             > `‐` l/,ィ V / 〉 〃 ,ニ孑
            f´tァ 厶フ ヽ! fj |/厶7厶-‐¬
             │k_/`z_/> ,、    ,、 xへ戈!│
            | l      ̄ | f^´  ̄    !│
            ヽ`ー--、____| |      / /
             \       __ ̄二ニ='/
              `<ニ二、_____/
                    ``ー----─ '´

           序章【dreamers-夢見る者達-】 了

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917名無しさん:2021/08/10(火) 21:06:04 ID:VMzYVuKw0
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音もなく、影もなく。
我らの目は全てを見届け、我らの耳は全てを聞き届ける。
知られずに知ることこそが、我々なのだ。

                   イルトリア陸軍諜報部“FOX”所属、ビルボ・ヘイルストーン

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September 24th AM09:55

ニョルロックに吹き込むクラフト山脈からの冷気は、周囲を取り囲む背の高いビルによって遮られるが、完全ではなかった。
特に、高層ビルの窓ガラスに空いた巨大な穴から吹き込む風は、防ぎようがない。
街の治安維持組織“レプス”の殺人事件担当者は既に鑑識による徹底した捜査が行われた現場に足を運び、何か見逃していることがないか、改めて確認をしていた。
四日前に起きたフィンガー・ファイブ社の重役二人の射殺事件は、街を管理する内藤財団から強い圧力がかかり、情報が秘匿されている。

長距離からの狙撃は日が沈む前に行われたにも関わらず、目撃者などの情報は何一つ出ていない。
使用された銃弾は口径の大きな対物ライフルから放たれ、被害者二人の頭部を正確に吹き飛ばしていた。
頭部を貫通した銃弾は社長室の壁に二つの穴を開け、鑑識チームがそれを取り出すのに相当苦労をしていた。
頭を失った二つの死体の身元が分かったのは、彼らが身に着けていたIDカードのおかげだった。

被害者はハハジャ・スコッチグレインとチチジャ・スコッチグレインの夫婦で、フィンガー・ファイブ社の社長と副社長だった。
街の中では内藤財団傘下の一社として重要な地位にあったが、確かに傭兵派遣会社という特性上、恨みを買う商売ではあった。
二人を殺して得をする人物の特定にはまだ時間がかかっており、内藤財団の圧力がその足を引っ張っているのは間違いない。
カラクッド・クランド現場責任者はレプスで三十年以上務めるベテランだが、ここまでやりづらさを感じる事件は初めてだった。

何より、内藤財団からの圧力がかかる事件というのは往々にして複雑な利権が絡んでいる物ばかりだ。
だが、新聞社への情報提供は勿論だが、情報の聞き込みによって周囲に悟られるのも許されていなかった。
従業員たちの中でもこの事件を知るのは一部の人間だけで、その人間達は今、レプスの監視下に置かれて情報が流れないように徹底されている。
ビルに空いた大きな穴はガラス掃除の際に起きた事故として処理され、社長と副社長の不在については急な会議によって内藤財団のビルに呼ばれたことになっている。

果たしていつまでその情報統制が可能なのか、それはカラクッドには分からない。
彼に情報封鎖を電話で伝えてきた内藤財団の人間とは、連絡が全くつかない状態になっている。
秘密主義の弊害だ。
こちらから接触することも、確認することも出来ないため、完全に手詰まりなのだ。

(+゚べ゚+)「うーむ……」

射角を考えると、少なくともキロ単位の距離が必要である。
銃の性能が良くても射手の腕が悪ければ当たらないが、今回の場合、狙撃手は二発を完璧に当てている。
事前の下調べを徹底し、風の流れなどを把握したとしても、高層階にいる人間を撃ち殺せるものだろうか。
既に限られた捜査員たちが該当しそうな建物の屋上を調べているが、実りのある情報は得られていない。

彼らを悩ませる最大の要因が銃声だった。
当日、街の中では銃声の通報は一件も寄せられていない。
だが代わりに、別の事件が起きたことによる通報は山のようにあった。
四日前にニョルロックに到着した列車の一部が爆発、炎上したのである。

918名無しさん:2021/08/10(火) 21:07:38 ID:VMzYVuKw0
その際、かなり大規模な消防団が現場に急行し、消火作業にあたった。
幸いなことに犠牲者は一人もいなかったが、今にして思えば、その爆破が今回の事件に関係している可能性は大いにある。
爆破のタイミングで発砲すれば、銃声よりも爆音の方に人の意識が向く。
仮に銃声を耳にしていたとしても、それが爆発による音だと認識を書き換えるには十分な程の音だった。

それだけの音を発生させながら犠牲者がいないのは、どこか作為的な物を感じる。
カラクッドは無線機を取り出し、本部に連絡を取ることにした。

(+゚べ゚+)「俺だ、カラクッドだ。
      四日前の爆発事故、担当者は誰だ?」

返答はすぐにあった。

『担当はバルザイ・スミノフです。
周波数、140.85』

(+゚べ゚+)「了解」

周波数を合わせ、すぐに無線をつなぐ。

(+゚べ゚+)「カラクッドよりバルザイへ。
     爆破事故のことについて訊きたいことがある」

数十秒後、空電の後にバルザイの声が聞こえてきた。

『こちらバルザイ。
何を訊きたいんだ』

(+゚べ゚+)「使用された爆薬の特徴だ。
     音と威力が食い違うような物じゃなかったか?」

『……そうだ。 使用されたのは少量の爆薬と、大量の閃光手榴弾だ。
実際、起きた火災は派手に広がってたが、すぐに消火できた。
貨物車の被害も軽く済んでいたし、吹き飛んだものは肉の入ったスチロールだった』

(+゚べ゚+)「やっぱりそうか。
     その事件のレポート、後で俺の机の上に置いてくれ」

『仕方ねぇな。
貸しだぞ』

(+゚べ゚+)「助かるよ。 じゃあな」

通信を切り、カラクッドは現場を後にした。
しかし、その約束は果たされることは無かった。

919名無しさん:2021/08/10(火) 21:09:50 ID:VMzYVuKw0
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同日 AM11:10

イルトリアから遠く南に離れたクラフト山脈の中腹に、山肌と雪を利用して作られた偽装掩蔽壕があった。
天然の優秀な断熱材である雪を表面に使うことで、掩蔽壕内部は比較的温かな空間となっている。
超高倍率の望遠レンズを使い、防寒装備に身を包んだ軍人はその視線の先にある景色を見つめていた。
白い目出し帽の下の軍人の名はビルボ・ヘイルストーン。

イルトリア陸軍に所属する偵察兵であり、諜報部である“FOX”に属し、主に偵察と情報収集を行う兵士だった。
いかめしい顔も、彼の象徴である鳥の巣のような茶髪も、今は全て白い装備で隠されてしまっている。
しかし、次の瞬間彼の口から紡がれた言葉には紛れもない喜びと驚きが混じっていた。

(::0::0::)「……動いたぞ」

それは彼らが待っていた瞬間の到来だった。
無援の状況で2か月以上、過酷な自然の中で監視を続けていた偵察兵は三名。
ビルボの言葉を聞いて仮眠の状態から一瞬で目を覚まし、無線機を掴んだシャルル・ルーシェだ。

(::0::0::)「本部、応答せよ。
     こちら“火狐1”」

空電をほとんど挟まず、彼女の無線機から応答があった。

『こちら本部。
“火狐1”続けろ』

シャルルが無線機をビルボに手渡すと、彼はすぐに対応した。

920名無しさん:2021/08/10(火) 21:10:12 ID:VMzYVuKw0
(::0::0::)「対象に動きを確認。
     湖に潜水艦が浮上。
     数、2。
     更に山岳部から車輌12を確認。

     車種、色は全て別。
     ナンバープレートはない。
     ……分散した。
     ヨルロッパ地方へ7、その他に5」

『了解、火狐1。
潜水艦の種類は?』

(::0::0::)「不明だ。 だがでかい。
     報告のあった潜水艦と思われる。
     ……っ!!」

突然、ビルボが軍人らしからぬ狼狽に満ちた声を上げた。
それは彼がこれまでに定説任務を行う中で、初めて見せた行為だったが、報告を急かされたのも初めてだった。
あらゆる状況下で情報の伝達を行うことを最優先とするべき彼が、明らかに狼狽えている。
無線機の向こうにいる軍人は、彼を落ち着かせるため、あえて通常と変わらない態度で続報を要求した。

『どうした、火狐1。
状況を報告しろ』

咄嗟の判断は、ビルボの精神を任務へと引き戻すことに成功した。

(::0::0::)「や、山が震えています……!!」

『地震ではないのか?』

(::0::0::)「地震のそれとは異なる感じがします。
     何より、山だけが震えて、麓の湖にも変化がありません。
     地下、あるいは山の内部で起きた人工的な揺れだと思われます」

すぐに落ち着きを取り戻したビルボは、的確に状況の説明を行った。
彼の視線の先に映る光景は、彼が報告した通りのものだった。
山肌が震え、落石が起きているが、そこから離れた場所にある大きな湖は波打っている様子がない。
潜水艦に打ち寄せる波にも変化がなく、彼の見間違いということではなかった。

ならば、人工的な揺れが山の内側で発生し、それが山を震わせているのだと考えるほかない。

『震えている地点の座標を送れ』

(::0::0::)「92597 96662、繰り返す。 92597 96662」

無線機の向こうで、同じ座標が繰り返し読み上げられ、確認が完了する。
それから僅かの間があり、再び声がした。

『火狐0は?』

921名無しさん:2021/08/10(火) 21:10:34 ID:VMzYVuKw0
ビルボの手から奪うようにして無線機を受け取ったのは、彼ら偵察兵を束ねる人間だった。
若い女性の、どこか蠱惑的な、それでいて凛とした声は刃を思わせた。

(::0::0::)「こちら火狐0。
     何じゃ?」

スニーキングミッション
『隠密潜入任務だ。
期間、手段は問わない。
できるか?』

小さく笑い、FOXの指揮官は短く答えた。

(::0::0::)「任せておけ」

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                    ≧=ー-
            ノ             ∧ ヽ
           /               ∧  \
            ∧                |   ヽ
          rfiヾー-                    ∨
          ⅵ    >    i!≧ー-         |
          i!        >i!   ニ二彡     |
         斥i!          廴  辷ムヾー> 乂
    /ヾーイ  `ヽ .r‐z       >   ̄`/ ヾ≦´
   /  ∨ ン⌒   |三|         |>   斗-
   ス   ∨ マ    .|三|       /  ヽ  .〉
  ノ \  廴\   乂介      /         /
        ゙`´三≧ヾ≧x ゞ卞         〆
三二≡=z    `ヾ三 `ゞ三≧=zx     /
 ̄ ̄ ̄ ̄`ヾーz   ∨`i!k ミメミメ==     |
        辷ヌ  .∨i!i!辷∨∧  ヾー<
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\          \ヽ     .∨∧
  \ヽ      ゙i! ∨マ    \∨∧
   ー       i!  ∨ヌ     ∨ i
            i!   .∨ノ    \i!
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同日 同時刻

イルトリア退役軍人の会は、老若男女問わずに参加が可能であり、従軍の長さも所属も不問だった。
彼らに共通しているのは“何かしらの理由”により戦場から足を洗わざるを得ず、戦闘行為が出来なくなった人間ということだ。
年齢、四肢の欠損、あるいは精神的な病気による除隊など理由は数多くある。
かつて同じ戦場で敵味方として相対した人間同士でも、彼らにとっては古き日の思い出でしかない。

退役軍人の集いは彼らが心を戦場以外に向けるためのものでもあり、心が戦場から帰ることのない人間達の救済の場でもあった。
彼らはあまりにも多くの物を目の前で失い、そして奪ってきた。
戦場という極限の状況下では、後悔は後を絶たない。
戦友に庇われ生き延びた人間、戦友を盾にして生き延びた人間、あるいは自らの失敗で仲間を失った人間。

922名無しさん:2021/08/10(火) 21:11:07 ID:VMzYVuKw0
生き延びたという罪悪感。
それを少しでも和らげるため、彼らは同じ境遇の人間と対話することで傷を癒そうとするのだ。
無論、それは一部の理由に過ぎず、純粋に退役後の穏やかな時間を過ごす場として利用している人間も多くいる。
その日、退役軍人の会では毎月恒例のバーベキューが行われ、皆が持ち寄った食材を豪快に焼き、食べ、そして飲んでいた。

イルトリア陸軍の軍人用家屋の並ぶ広大な敷地の一角は、まるで祭りのような賑やかさに包まれている。
誰もが身近な人間と語り合い、肉を食らい、酒を飲んでいた。
その片隅でディートリッヒ・カルマは誰とも話すことなく、不機嫌そうに顔をしかめたまま、木陰のベンチに腰掛けて泡の消えたビールを口にしていた。

(●ム●)「……」

戦争の影響で彼の両目は強い光を嫌うようになり、例え夜でもサングラスをかけて生活しなければならなかった。
ディートリッヒが人付き合いが苦手だということは、既に退役軍人の会では周知の事実だ。
それでも彼は年に数回、こうして顔を出してくるのだから不思議なものだと、誰もが内心で思っていた。
彼自身、何故こうして慣れない食事の場に足を運んでいるのか分かっていなかった。

紙皿に大量の肉と野菜を乗せた黒髪の少年が静かな場所を探し、彼の横に座ったのはある意味では必然だった。
誰かの子供だろうと思ったディートリッヒは気にしないつもりだったが、何かに誘われるように視線だけを少年に向けた。

(∪*´ω`)「んあー」

垂れた犬の耳を持つ、耳付きの少年だった。
大きな口を開き、フォークに突き刺した肉を口いっぱいに頬張る。
咀嚼し、嚥下し、また新たな肉と野菜を口に運ぶ。
その食べっぷりは、大人顔負けの物だった。

山のように盛られていた肉と野菜はたちまちなくなり、少年は満足そうに息を吐いて立ち上がり、新たな肉と野菜を取りに行った。
少年を見かけた大人たちは皆、競うようにして彼の皿に肉と野菜を盛り、特製のソースを上からかけた。
少しだけ恥ずかしそうに礼を言って、少年は料理をこぼさないように歩き、そして再びディートリッヒの隣に腰かけ、食事を始める。
玉ねぎをフォークに刺し、嬉しそうに口に運びかけ、その手が止まった。

(∪´ω`)「お?」

彼の視線に気づいた少年が、ようやくディートリッヒを見る。
深い海を思わせる青い瞳が、真っすぐ射貫くようにディートリッヒの目を捉える。

(●ム●)「……美味いか」

(∪´ω`)゛「はい、美味しいですお」

そう言って、彼は玉ねぎを口に入れた。
シャキシャキとした音を立てながら食べ、飲み込み、生の人参をぼりぼりと食べ始める。
心なしか、皿の上には肉よりも野菜の方が多く盛られていた。

(∪´ω`)「おー 食べますかお?」

ずっと自分のことを見ているディートリッヒのことが気になったのか、少年はそう声をかけてきた。

(●ム●)「いや、俺はいい」

923名無しさん:2021/08/10(火) 21:12:42 ID:VMzYVuKw0
(∪´ω`)「美味しいですお」

(●ム●)「そうか」

(∪´ω`)「んあー」

不思議そうに小首を傾げつつ、少年は食事を再開した。
見た目の年齢にしては落ち着きのある少年だが、耳付きという人種の受ける差別や境遇を考えれば、大人しい耳付きの方が普通だ。

(●ム●)「ボウズはどこから来たんだ?」

(∪´ω`)「んぐんぐ」

大きく分厚い肉を噛みちぎり、少年はそれを口に含んだところだった。
嚥下してから、少年は答えた。

(∪´ω`)「オセアンの方からですお」

(●ム●)「オセアン? 随分と遠くから来たんだな」

(∪´ω`)「でも楽しかったですお!」

(●ム●)「どうやって来たんだ?」

(∪´ω`)「バイクに乗って、列車に乗って、船に乗って、ディに乗って、それからまた列車に乗って、ディに乗って……」

少年は指を折り、思い出しながら全ての行程を説明した。
一人での旅ではないことは間違いない。
しかし、それだけの長旅を無事に生き延び、こうしてイルトリアにまで来たことは驚きと言う他ない。

(●ム●)「ディってのは何なんだ?」

(∪´ω`)「おー、すっごい頭のいいバイクですお」

子供らしく、バイクに名前を付けているのだろうか。
物に名前を付ける行為は物への愛着心を高めるうえで欠かせない物だ。
与えられていた名前ではなく、自分だけが呼ぶ特別な名前。
軍属の人間が自分のライフルに名前を付けて整備するのと同じ原理である。

(●ム●)「そうか」

(∪´ω`)「おっ」

ここで会話を断つことも出来たが、ディートリッヒの口は次の疑問を紡ぎ出していた。

(●ム●)「ボウズはどうしてここに来たんだ?」

旅人がイルトリアに来ることは多々あるが、退役軍人の会に顔を出す旅人は聞いたことがない。
ましてやオセアンから来たとなると、考えられるのは退役軍人が家族にいる人間だ。

924名無しさん:2021/08/10(火) 21:13:51 ID:VMzYVuKw0
(∪´ω`)「おー 友達に会いに来ましたお」

(●ム●)「友達か」

(∪´ω`)「友達ですお」

(●ム●)「友達は大切にしろよ」

(∪´ω`)「はいですお」

それから無言の時間が訪れ、ディートリッヒはグラスの中のビールを一気に飲んだ。
席を離れ、すぐに新たな酒を手にベンチに戻る。
少年はまだそこに座り、食事を続けていた。
幸せそうにステーキを頬張り、誰かが作ってきたであろうピクルスが盛られた皿が傍に置かれていた。

この短時間でまた食事の追加があったのだろう。
人参を縦に四分割したもの、縦に半分切った長いきゅうり、そして一口大に切られたセロリが目に付く。
ステーキの合間に少年はそれをぼりぼりと食べ、その度に嬉しそうに頬を緩めるのだ。

(●ム●)「そのピクルス美味いか?」

(∪´ω`)「美味しいですお!
      食べますかお?」

(●ム●)「……もらうよ」

きゅうりのピクルスをフォークに突き刺し、ディートリッヒはそれを食べた。
この会に参加してから初めて食べるピクルスだった。
強めの酸味とハーブの香りが一気に口の中に広がり、それまで口の中にあったビールの名残を跡形もなく消していく。
持ってきたグラスに並々と注いだバーボンを飲むと、思わず大きなため息が出る。

彼の中の緊張の糸、あるいは別の何かが崩れ落ちた気持ちがした。

(●ム●)「美味いな」

(∪´ω`)゛「おっ」

再びバーボンを胃袋に流し込み、彼はバーベキューに興じる人間達を遠い目で眺める。
果たしてこの場に自分の居場所があるのか、実のところ彼はまだ分かっていなかった。
彼は軍で訓練を積み、傭兵として派遣された先でかつて仲間だったイルトリア軍と殺し合ったことがある。
それはこの街では自然なことだ。

イルトリア軍は街の治安を維持するだけでなく、世界中の紛争地に傭兵として派遣され、戦うことが主な仕事なのだ。
同じ戦地で同郷の人間に出会うことは決して珍しくない。
イルトリア軍では先に契約した勢力に派遣が決定すると、敵対勢力への派遣は原則的に禁止とされている。
しかし、間に別の組織が挟まるのであれば話が変わってくる。

925名無しさん:2021/08/10(火) 21:14:18 ID:VMzYVuKw0
それを理解した上で敵対組織側への派遣を受け入れた人間が、自分たちとは関係のない誰かの戦争に参加し、殺し合うのだ。
これがイルトリアの現実であり、真実だ。
だがイルトリア人の多くはそれでも軍人の道を選ぶ。
力が世界を動かす時代だからこそ、力でしか変えることのできないものがあると信じているのだ。

(●ム●)「……俺はディートリッヒっていうんだ。
     ボウズの名前は?」

(∪´ω`)「僕、ブーンです」

(●ム●)「なぁ、ブーン。
      俺はな、友達がいないんだ」

(∪´ω`)「お?」

(●ム●)「みんな、俺が……殺しちまったんだ。
     戦場でな」

ディートリッヒにとって、それは決して癒えることのない傷だった。
イルトリア軍から傭兵派遣会社に転職し、彼は多くの戦果を挙げることになった。
当時の彼はそれを誇りにしていたし、後悔もしていなかった。
彼が傭兵派遣会社を辞めることになったきっかけは、数年前に捕虜にされた時に心が折れたことが原因だった。

本来傭兵――しかも老兵――は見捨てられるのだが、幸運なことに同じく捕虜となった人間の救助に現れた人質救出専門の人間に救われたのだ。
老兵としての役割を悟り、彼は老後をイルトリアで過ごすことに決めた。
そこで彼は、自分がこれまでに何をしてきたのかをようやく痛感したのである。
自分の友人たちが皆戦死し、その戦場で彼が敵対していたのが自分だと帰郷して初めて認識することになった。

その認識が彼の心を閉ざす要因となり、こうして退役軍人の会に参加はするものの、誰かとの会話をするには至っていない理由だった。
彼と同じ境遇の人間は他にもいるが、同じ傷だとしても、別の人間がそれを克服できるかは別の話だ。
彼は今、自分の弱さとこの場に自分が足を運んでいる理由にようやく向き合うことが出来ていた。
バーボンを呷り、辛い記憶や弱音を押し込もうとするも、上手くいかない。

堰を切ったように、弱音が口から出てくる。

(●ム●)「殺さなきゃ殺されていたかもしれない……
      だから仕方がなかったんだなって思うが、それでも……俺は……」

(∪´ω`)「おー」

ブーンは相槌を打ちながら、ディートリッヒの話に耳を傾けていた。

(●ム●)「俺は、どうしたらいいんだろうな」

(∪´ω`)「生きればいいと思いますお」

子供らしい、シンプルな回答だった。
そもそも子供に何を相談しているのかと考えるだけの理性が、今の彼にはなかった。
わざわざ度数の高い酒を飲んだのは、これまで彼の言葉を遮ってきた理性を抑え込むために無意識の内に選んだ行動だった。
今、彼の中には余計な理性は残されていなかった。

926名無しさん:2021/08/10(火) 21:15:04 ID:VMzYVuKw0
どうしてか、ほとんど会話らしい会話をしていないにも関わらずブーンの瞳を見ると、何かをしなければと強く思ってしまうのだ。
普段であれば子供に何を期待しているのかと一笑に付すところだが、今はどんな言葉でも聞きたいという気持ちが勝っている。
そして得られた言葉は、彼が欲していた言葉だった。

(●ム●)「そ、そう思うか」

(∪´ω`)゛「はいですお」

(●ム●)「俺は、生きてもいいのか?」

(∪´ω`)「この前、ガーミンおじいさんも言ってましたお。
      “死んで逃げるよりも、後悔しながら生きればいい”って」

恐らく、同じ境遇の人間に対して使われた言葉なのだろう。
普段であればその言葉は彼の心に届くことは無いのだが、今回は違った。
砂に水を注ぐように彼の心に沁み込み、肩から力が抜け落ちた。

(●ム●)「……そうか」

(∪´ω`)「んぐんぐ」

ディートリッヒは言葉に詰まり、誤魔化すようにしてグラスの中のバーボンを飲み干す。
ブーンは食べかけていたステーキを頬張り、ピクルスを食べた。

(●ム●)「ありがとうな、ブーン」

(∪´ω`)「お? ど、どういたしましてお?」

静かに立ち上がり、ディートリッヒは静かに覚悟を決めた。
この日、一人の少年と話したことがきっかけで、ディートリッヒの中で止まっていた時間が動き出したのであった。

927名無しさん:2021/08/10(火) 21:18:57 ID:VMzYVuKw0
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                    .!////.ム_ ァ‐- _: : :          乂ヽ \‐-  _ 、
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                    .!///ノ  l////////////ヽ; ;;;       /ミミミx ヽ   ,'
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Ammo for Rebalance!!編
第一章【awaken of dreamers-夢見る者達の目覚め-】

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同日 同時刻

イルトリア市長、フサ・エクスプローラーはゆっくりと受話器を置き、鼻から深い息を吐きだした。
危惧していた、あるいは予期していたことがいよいよ動き出すという報告は彼に喜びの感情を抱かせた。
世界最強の軍隊を有するイルトリアにとって、争いは常に歓迎している物だった。
特に、自分たちに対しての挑戦とも受け取れる争いは大歓迎だった。

日頃の訓練を存分に生かせる相手は極めて貴重な存在であり、とりわけイルトリアに直接喧嘩を売ろうとする存在など稀有なのだ。
執務室にいるもう一人の人間に向けて、フサは言葉を投げかけた。

ミ,,゚Д゚彡「連中が動いた。
     そろそろ何か始めるみたいだな」

その話を聞いた豪奢な金髪と空色の碧眼を持つ旅人、デレシアは静かに笑みを浮かべた。
それは愉快な気分になったからではなく、冷笑、嘲笑の類だった。

ζ(゚ー゚*ζ「そう。 じき、この街にも来るわね」

デレシアの言葉は淡々としており、この先、回避することが出来ない未来に対しての予報を読み上げているようだった。
彼女の言葉にフサは頷き、話を続けた。

ミ,,゚Д゚彡「だろうな。
      一人、連中の施設に潜入させることにした。
      ギンを覚えているか?」

928名無しさん:2021/08/10(火) 21:19:17 ID:VMzYVuKw0
ζ(゚ー゚*ζ「あら、ギン・シェットランドフォックス?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、そうだ。 今、ウチの陸軍の諜報部で現場責任者をやってるんだ。
     情報が届いたらお前にも伝える。
     ……しっかし、ついにこの日が来たか」

それは期待に打ち震える声だったが、その目には喜び以外の感情の色が宿っている。
フサはデレシアからティンバーランドの存在とその目的について聞いており、以降は可能な範囲で準備を進めてきた。
何年もかけた準備だが、相手の準備はそれを優に上回ることもあるだろう。

ζ(゚、゚*ζ「本当は来ない方がよかったんだけど、今回はタイミングが読めなくてね。
      まぁ、やることは変わらないわ」

だがデレシアにとっては、準備などする必要のない事だった。
彼女は世界の影で誰が暗躍していようと、彼女の旅の邪魔にならなければ気にも留めない。
幾度も潰した組織が再びデレシアに喧嘩を売るのであれば、それを買うだけだ。

ミ,,゚Д゚彡「この日の為に備えてはおいたが、万全かどうか。
     ははっ、未だに心配で仕方がねぇ!!」

ζ(゚ー゚*ζ「いつだって本番までは分からないものよ。
      “戦争王”として、やれることはやったのでしょう?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、勿論だ。
      だからこそ心配なのさ。
      こっちの備えが十分すぎやしないか、ってな!!」

ζ(゚、゚*ζ「相手にもイルトリア軍の出身がいるみたいだから、そこは警戒しないとね」

退役したとしても、イルトリア軍人は間違いなく厄介な存在だ。
イルトリアに入り込むための警備的な穴もそうだが、個人的なコネクションが生きている可能性もある。
特に、強力な“棺桶”を所有しているとなると、それこそ脅威である。

ミ,,゚Д゚彡「クックル・タンカーブーツとミルナ・G・ホーキンスだろ?
     俺の聞いた情報だと、“エクスペンダブルズ”の改修型と“マン・オブ・スティール”だったな。
     なぁに、手はあるさ」

一度は破壊されたエクスペンダブルズが、その姿を変えてティンカーベルで使用された話は聞いていた。
間違いなくイーディン・S・ジョーンズの仕業だ。
そして、デレシアの記憶にない人間が使用していると言われるマン・オブ・スティールは厄介な棺桶だった。
適切な運用を適切なタイミング、場所で行えばその打撃力は相当な物である。

ジュスティアが不適切な対処をすれば、一機で街を半壊させられかねない程だ。

ζ(゚、゚*ζ「除隊した理由は知ってるの?」

フサの吐いた溜息はまるで己を恥じ入るかのような、妙な間があった。

929名無しさん:2021/08/10(火) 21:19:52 ID:VMzYVuKw0
ミ,,゚Д゚彡「……まぁ、方向性の違いって奴だな。
     あいつら二人とも、耳付きに対して嫌悪感をむき出しにしていたからな。
     任務中に色々やらかして、結果、KIA――戦闘中の死亡――扱いされる前に除隊したってわけだ」

ζ(゚、゚*ζ「なるほどね」

ミ,,゚Д゚彡「さて、俺たちもそろそろバーベキューを楽しみに行こう」

二人は執務室を出て、市長邸宅前に停められていた車に乗り込んだ。
運転手は無言で車を走らせる。
運転席と後部座席はスモークスクリーンで仕切られ、互いの顔が見えないようになっているが、デレシアは確信をもって運転手に声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶり、トソン」

まるでその言葉を待っていたかのようにスモークスクリーンが開く。
ハンドルを握るのは、イルトリア二将軍の一人、トソン・エディ・バウアーだった。
冬の湖の色をした瞳がバックミラー越しに向けられ、その口元が僅かだがつり上がり、微笑を浮かべる。

(゚、゚トソン「流石ですね。
     お久しぶりです、デレシア様」

僅かに驚きの感情が込められた返答を聞き、フサはくつくつと笑う。

ミ,,゚Д゚彡「な、言っただろ? 絶対にばれるって」

(゚、゚トソン「どこで私だと判断されたんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「女の勘よ」

(゚、゚トソン「なるほど、納得しました。
     ブーンとヒート様はどちらに?」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃんはバーベキュー会場ね。
       退役軍人会の人たちに相当気に入られたみたいよ」

退役軍人会の人間は、ブーンが耳付きであることについてもそうだが、彼の出自について誰も訊こうとしなかった。
むしろ彼らの関心はペニサス・ノースフェイスの最後の教え子であるという一点に注がれ、生前の彼女の武勇伝などをまるで自分のことのようにブーンに言い聞かせるのだった。
かなり歳の離れた先輩と後輩、もしくは、兄弟のような扱いだった。
ブーンは嬉々としてそれに耳を傾け、自分を受け入れてくれる大人たちの中での立ち回りを学んでいた。

元々ブーンは人見知りをする性格だったが、イルトリアの滞在中にそれはかなり改善されていた。
そして、ヒート・オロラ・レッドウィングは思いがけない再会を利用し、己の力を高めようと奮闘していた。

ζ(゚ー゚*ζ「ヒートは海軍でシャキンと一緒に訓練中ね。
       昔に面識があったみたいよ」

イルトリア海軍の大将、シャキン・ラルフローレンは軍内部でも五指に入るベテランの人間だが、その力もまた五指に入る程だ。
特に近接戦闘に拳銃を使った動きに関して右に出る者はおらず、その動きがヒートの戦い方に大きな影響を与えているのは明らかだった。
殺し屋として生きていたヒートの実力は大したものだが、軍人との訓練の中で学ぶことは多いだろう。
これから先、激化する戦闘に備えるのは極めて重要なことだ。

930名無しさん:2021/08/10(火) 21:20:15 ID:VMzYVuKw0
“レオン”があっても、結局は使用者の力次第なのだ。
それは相手にとっても言えることで、優れた性能の棺桶が勝敗を決するとは限らない。
最悪を想定し、最善を備える。
いつ相手の襲撃があるか分からない状況下では、それが最適解だ。

ミ,,゚Д゚彡「頼もしいことだな。
     ブーンはどこまでやれるんだ?」

それが何を意味しているのか、デレシアは分かっていた。
そしてその答えは、イルトリアを訪れた理由の一つでもある。

ζ(゚ー゚*ζ「抗うことはできるわ。
       でも、殺したりは出来ないわね。
       だからせめて、守ることだけでも覚えてもらいたいの。
       あの子に合う銃を見繕いたいんだけど、軍の射撃場を借りてもいいかしら?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、勿論だ。 好きに使ってくれ。
     撃ったことはあるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズの中で何度かね。
      オートマチック、9ミリぐらいの小口径がいいわね」

ミ,,゚Д゚彡「なるほどな。 ダブルカラムでも持てるか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、大丈夫だったわ。
       その辺を中心に使ってみたいの」

フサは顎に手を当て、髭を撫でながら少し考えるそぶりを見せた。

ミ,,゚Д゚彡「その後、ちょっとうちの連中とペイント弾で遊んでみるか?
      いい練習になるぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、いいの?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、ただの訓練ばっかりだと飽きるからな。
     お前ら三人となら、そうだな……10人でいいかもな」

ζ(゚ー゚*ζ「いいの? 10人で」

ミ,,゚Д゚彡「数が多けりゃいいってものじゃないからな、選りすぐるさ。
     昼飯の後に銃を見繕うとして……そうだな、夕飯前にやろう。
     メンバーは始めてからのお楽しみって奴だ」

それから車はバーベキュー会場に向かって静かに走り始め、道中、期せずして海軍の保有する軍用車に乗ったヒートとシャキンと合流をした。
窓から見るヒートの髪は汗で濡れ、ダークグレーのタンクトップは汗で黒に変わっていた。
頭頂部で髪を結わき、透明な水筒から何かを飲んでいる。
しかしその顔は達成感に満ち、笑顔が浮かんでいた。

931名無しさん:2021/08/10(火) 21:22:34 ID:VMzYVuKw0
一方、ハンドルを握るシャキンは汗ひとつかいておらず、涼しげに手を挙げて挨拶をする余裕を見せた。
十分ほどして、両者はほぼ同時にバーベキュー会場に到着した。
酒と肉が参加者全員の体に程よく吸収されたからか、どことなく陽気な空気が漂っている。

ノパー゚)「肉の焼けるいい匂いだ!!」

車から出ると、ヒートは開口一番そう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「お疲れ様、訓練はどうだった?」

傍に来たデレシアを見て、ヒートは笑みを浮かべた。
少し興奮した様子で、訓練の様子を話し始める。

ノパー゚)「いやぁ、すげぇのなんのって……!!
     でも、どうにかついていけてるよ」

ミ,,゚Д゚彡「海軍の訓練についていけるってことは、やはり素質があるんだな。
     シャキン、いい人材を見つけたのなら何故報告しなかったんだ?」

(`・ω・´)「あの時は非番でしたし、何よりここまでの成長を見せる間もなく死ぬと思っていたので」

ノパ⊿゚)「辛らつだな、じいさん」

(`・ω・´)「じいさんじゃない。
      “おじさま”だ」

ノハ;゚⊿゚)「どっちも同じじゃねぇか」

(`・ω・´)「いいや、違う」

顔色一つ変えずにシャキンはそう断じた。
そのやり取りを聞いていたデレシアは、そっと微笑を浮かべる。

ζ(゚ー゚*ζ「孫娘みたいで恥ずかしいの?」

(`・ω・´)「恥ずかしがる? この私が?
      御冗談を」

シャキンは肩をすくめ、フサと共に先に歩き出す。
二人だけで話が出来るようにという二人の配慮を甘んじて受け、ヒートは耳打ちするような小さな声で囁いた。

ノパ⊿゚)「……それで、何か進展はあったのか?」

デレシアは頷く。

ζ(゚、゚*ζ「大きな動きがあったそうよ。
      多分、これから複数の街に分散して、ラジオを利用しての同時展開をするんでしょうね」

ノパ⊿゚)「ってことは、あんまり時間はなさそうだな。
    予想だとどのくらいの規模なんだ?」

932名無しさん:2021/08/10(火) 21:22:59 ID:VMzYVuKw0
ζ(゚、゚*ζ「大雑把にしか言えないけど、世界中を巻き込むつもりでしょうね。
      無論、下準備をしている街はすぐに済むはずよ。
      問題なのは、相手が仕掛けた時に抵抗する街ね。
      そういった街を、奴らがみすみす見逃すとは思えないから、事を始める前に細胞を送り込むってところかしら」

ノハ;゚⊿゚)「イルトリアにも来るって事か……
     後はジュスティアか?」

ζ(゚、゚*ζ「そうね、世界を思い通りにしたいなら、この二つの街は欠かせないわね。
      それはフサも分かっているわ。
      でも、それよりも先に多分、“中立の街”ブーオを見せしめ的に狙うと思うわ。
      何にしても、相手の送り込んでくる規模が気になるところね。

      白いジョン・ドゥが量産されていたら、ちょっと面倒になるから」

第三次世界大戦で活躍し、大量に生産された傑作量産機、ジョン・ドゥ。
簡単だが独自の改造を施し、塗装を変更した白いジョン・ドゥの姿をここ最近よく見るようになった。
つまり、相手が量産体制を整え、すでに世界各地に配備済みである可能性が高い。
例え戦闘の素人でも戦車と正面から戦える力を与える棺桶は、今も昔も戦場の花形である。

質の劣る部隊だとしても、圧倒的な数で攻め込めば高い質の部隊を凌駕することも出来る。
世界最高の棺桶研究者であるイーディン・S・ジョーンズの存在が厄介なのは、言うまでもない。
過去の大戦で使用されたコンセプト・シリーズの復元にも成功しているだけでなく、研究の為に世界中の棺桶に携わっており、その知識量は大したものだ。
ティンバーランドが所有している多くのコンセプト・シリーズは、彼が復元したものなのだろう。

内藤財団の財力とジョーンズの技術と知識があれば、棺桶を使用する部隊を世界各地に派遣することなど造作もない。
弱小な町であれば、ジョン・ドゥ一機で十分に陥落させることが出来る。
ただし、デレシアの中で疑問になっているのは、彼らが選ぶ手段だ。
ラジオを使い、世界中で同時に決起させるのは容易に想像が出来るが、その後の動きも容易に想像が出来てしまうことだった。

彼らは力を行使するはずだ。
その為に棺桶を復元し、脱獄囚や軍人上がりの人間を仲間に迎え入れたのだ。
だがジュスティアとイルトリアを相手にするとなると、当然、一筋縄ではいかない。
街の中に相当な数の細胞を潜り込ませようとしても、この二か所だけは恐らく彼らの思った通りには行かなかっただろう。

ならば、完全な力で制圧を試みるはずだ。
そのような簡単な方法で夢を叶えようとするのであれば、それは乱暴と言う他ない。
長い目で見ればそのような方法で統一した思想は脆い物だ。
そうなると、考えられるのは――

ノパ⊿゚)「まぁ、ジュスティアなら平気か。
    円卓十二騎士を表立って動かすぐらいだから、よっぽど警戒してるんだろうな」

ζ(゚、゚*ζ「警戒というよりも、怒っているって言ったほうがいいわね」

ノパ⊿゚)「まぁ、結構やられまくったからな」

ζ(゚ー゚*ζ「それぐらいの方がちょうどいいわね。
      そうそう、話は変わるけど、お昼ご飯を食べたらブーンちゃんの銃を探そうと思うんだけど、一緒にどう?」

933名無しさん:2021/08/10(火) 21:24:31 ID:VMzYVuKw0
ノパー゚)「おっ、そりゃいいな。
    あたしも色々と使ってみたい銃があるから、一緒にやらせてもらうよ」

ζ(゚ー゚*ζ「でね、その後でフサが一緒に遊ぼうって」

ノハ;゚⊿゚)「……“戦争王”が? どんな遊びだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ペイント弾を使った遊びよ。
      実際に人に対して銃を向けて銃爪を引くのは、練習しないと本番で撃てないからね」

ノパー゚)「なんだ、そういう遊びか。
    それならあたしも一緒に楽しめそうだな。
    デレシアもやるんだよな?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、せっかくだから遊ばないとね」

ノパ⊿゚)「平気なのか、色んな意味で」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、気遣ってくれるの?」

デレシアの冗談に、ヒートは期待通りの反応を示した。

ノハ;゚⊿゚)「イルトリアの軍人相手でも、デレシア相手なら100人単位がいるんじゃないかと思って」

ζ(゚ー゚*ζ「10人ぐらいって言ってたわよ。
      選りすぐりを用意してくれるでしょうから、すぐには終わらないわよ。
      それに、私は最低限しか手を出さないわ」

ノパー゚)「まぁ、夕飯までに終わるようにあたしも頑張るよ」

肉の焼ける匂いが濃厚になってくるにつれ、人の話し声や笑い声、肉の焼ける音、瓶がぶつかる音がよく聞こえるようになってきた。
大勢の人間が思い思いに肉を食らい、語り合っていたが、人混みの中でもブーンの姿はすぐに見つけられた。
酒の入ったグラスを片手に持つ上機嫌な老人に肩車をされ、その肩の上でスペアリブを頬張っていたのである。
サングラスをかけた老人は周囲の人間と和気あいあいと話をしており、時折ブーンも相槌を打っている。

(∪*´ω`)
 (●ム●)

その老人はかつて“戦場の掃除屋”として恐れられた傭兵だったのだが、それを気にする人間はその場にはいなかった。

934名無しさん:2021/08/10(火) 21:26:52 ID:VMzYVuKw0
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同日 PM01:57

イルトリア軍の射撃場はその広さと設備だけでなく、保有する銃器類の種類と数も世界最高のものだった。
射撃場にはありとあらゆる銃が用意されており、その試射が可能になっている。
無論、その力を発揮するための設備があってこその射撃場だ。
近距離、あるいは混戦状態、屋内、雨天時、悪路走行中などあらゆる状況下で試すことが出来る。

昼食後、ブーンはデレシア達と共に基地内にある射撃場に向かい、自分に合った拳銃探しを始めた。
軍によって用意された銃は数十挺、弾薬は数千発にも及んだ。
ヒートは市街戦におけるライフルの取り回しを身につけるため、銃と弾薬を持って移動した。
デレシアはブーンの後ろに立ち、射撃のアドバイスをすることにした。

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズでの事を思い出してね。
      それじゃあ、始めましょう、ブーンちゃん」

(∪´ω`)「おっ!」

船上都市オアシズの中で銃を取り扱った経験があっても、それが体にどの程度沁みついているかは不明だ。
同じ銃でも型が異なる物が用意されているため、より細かくブーンの好みの銃が分かるようになっている。
トリガーガードの微妙な変更や、使用する弾の違い、弾倉の違いによる銃把の太さの違いだけでも取り扱いが変わってくるのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあまずはこれから使っていきましょう」

小口径の拳銃を手に、ブーンはかつてデレシアが教えた通り、両手でそれを構えた。
彼の視線の先、銃腔の果てには金属で作られた的が置かれている。
10メートルほどの距離だが、素人がそれだけ離れた的に当てるのは至難の業だ。
しかし、彼にはセンスがある。

935名無しさん:2021/08/10(火) 21:27:56 ID:VMzYVuKw0
人間を凌駕する視力と筋力。
それらが合わされば、標的を見誤ることはない。
一発。
銃声が轟くが、金属同士がぶつかる音はなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「風があるから、それを考えて撃ってみましょうか」

(∪´ω`)゛「はいですお」

以前、ブーンが射撃練習を行ったのは船内だ。
風の影響などない中での射撃だったが、この場では自然環境が大いに関係してくる。
二発目は的の端に掠めるようにして当たり、三発目は丁度胴体の部分に命中した。

ζ(゚ー゚*ζ「どう? 撃ってみた感想は」

(∪;´ω`)「ちょっと大きくて持ちにくいですお」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、別のにしてみましょう」

それから同じようにして銃を取り換えては試射し、自分の手に合う銃を探し続ける。
拳銃を使うことになるのであれば、それは遠距離ではありえない。
10メートル以内の戦闘でブーンが自らの身を守ることが出来るための練習だが、デレシアはその先を見据えていた。
この世界で生きるには、自分を守るだけでは足りないことが多い。

(∪´ω`)「おー、銃の癖って色々あるんですおね」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、作っている人にもよるわね。
      銃弾がある程度真っすぐ飛ぶのは短い距離だけで、後はゆっくり落ちていくの。
      でも作り方次第で、それが横にずれたりするの」

(∪´ω`)「なるほど」

そして新たな銃を手に取り、弾倉を入れてから遊底を引く。
初弾が薬室に送り込まれ、発砲の準備が整う。

ζ(゚ー゚*ζ「何にでも言えることだけど、試してみないと分からないからね。
      例えば、今ブーンちゃんが持っている銃。
      それはね、ヒートが使っているのと同じ銃なのよ」

(∪´ω`)「え? でも、ヒートさんのはここにナイフが付いていますお」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ヒートはそうやって改造しているの。
      重くなった分取り扱いが大変だけど、逆に、反動を抑えられるからね。
      試しに撃ってみましょうか」

(∪´ω`)゛

頷き、ブーンは銃爪を引き絞った。

ζ(゚ー゚*ζ「次は、親指でセレクターを下げて、銃爪を引いたままにしてみましょう」

936名無しさん:2021/08/10(火) 21:28:19 ID:VMzYVuKw0
言われた通り、ブーンは親指を使ってセレクターを下げた。
狙いを定め、銃爪を引く。
三発の銃声が響き渡り、ブーンは驚きで目を丸くした。

(∪´ω`)「バババーって出ましたお!」

ζ(゚ー゚*ζ「拳銃の中にもそうやって弾をたくさん撃てるのがあるんだけど、その分当たらないでしょ?」

(∪´ω`)゛「一発しか当たりませんでしたお」

ζ(゚ー゚*ζ「それを抑え込めるようにならないと、そういう銃はあまりお勧めできないわね」

(∪´ω`)「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「これはちょっと大きく感じるけど、その分反動が楽になっているやつね」

そう言いつつデレシアが差し出したのは、トラギコ・マウンテンライトも使用しているベレッタM8000だ。

(∪´ω`)「あ、これトラギコさんのやつですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうよ。
       ジュスティア警察で採用されている銃よ」

(∪´ω`)「使ってみてもいいですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「勿論」

そしてブーンは慣れてきた手つきで作業を進め、銃爪を引いた。
甲高い金属音が連続で響き、彼が撃った全ての弾は命中していた。

ζ(゚ー゚*ζ「お見事」

(∪*´ω`)「やたー」

それから射撃練習は続き、用意された全ての拳銃を試し終えた時には、すでに時刻は午後四時半を回っていた。
その頃にはヒートも二人の元に戻り、ブーンの射撃の様子を眺めていた。
最終的に残った候補は三丁。
シグザウェルP365、ベレッタM84、そしてグロック26だ。

いずれも小型の拳銃で、ベレッタ以外は護身用に携帯性を高めた物だ。

ノパー゚)「三丁にまで絞り込めたんだな。
    こっからどうする?」

ζ(゚ー゚*ζ「後は実際に使ってみての感覚ね。
      フサの言っていた遊びに持ち込んで決めてみましょうか」

(∪*´ω`)「遊ぶんですかお?」

937名無しさん:2021/08/10(火) 21:29:21 ID:VMzYVuKw0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、遊びよ。
      ただ、相手は全員大人だから本気でやらないと負けちゃうわよ」

(∪*´ω`)「頑張りますお!」

デレシアは三丁の拳銃を手に取り、二人を車に乗せて“遊び場”に連れて行った。
遊び場は三階建てで、二棟が連なって建てられたものだ。
二階に作られた連絡通路はガラス張りになっており、離れた場所からでもそこを移動する人間を目視することが出来る。
どこかの病院にも見えるし、どこかの商業施設、あるいはホテルにも見えた。

遊び場の前にはすでに都市迷彩の施された装甲兵員輸送車が停車しており、準備が整っていることを示していた。
三人は車から降り、輸送車の前で水筒から何かを飲んでいるフサに声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ」

ミ,,゚Д゚彡「いいや、今さっき来たところだ。
     どうだ、ブーン。
     良さそうな銃は見つかったか?」

(∪´ω`)「おー、三つですお」

ミ,,゚Д゚彡「なら全部試してみるのが一番だな。
     ペイント弾はそこにあるから、弾倉に詰めればすぐに実戦で試せる。
     通常の弾と同じように使えるしバレルも汚さないから、特に部品の交換はしなくていいぞ」

実銃を使い、更に、実際に使用する弾薬とほとんど同じ反動を味わうことが出来る。
より実戦に近い訓練をするためには、実戦で使用する道具と同じものが使えるのが一番なのだ。
そのためにイルトリアではペイント弾の製造をラヴニカに依頼し、バレルなどの部品の交換を必要としない物を使用している。
意外に知られていないことだが、そのペイント弾はジュスティアの軍や警察の訓練でも使用され、その使用料がイルトリアに支払われていた。

ζ(゚ー゚*ζ「助かるわ。
      それで、シナリオは?」

(∪´ω`)「シナリオ?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、訓練をする時にはその状況を設定するんだ。
     例えば人質救出とか、強襲とかな。
     今回のシナリオは強襲だ。
     デレシア達が建物にいて、俺の部下がそれを襲う。

     そっちにとっちゃ、これから起こり得るし、これまでにもあった話だろ?
     ちなみに、俺の部下には相手のことは伝えてない。
     形式は殲滅戦、ペイント弾が当たればその時点で退場だ。
     最後の一人まで退場させればその時点で終わりだ。

     退場する時には両手を挙げて、静かに建物の外に出てくれればいい。
     退場者が他の人間に情報を流すのは駄目だ。
     戦闘中の禁止行為は特にないが、相手を殺すことだけは駄目だ。
     確か、ヒートはナイフを使うんだったな」

938名無しさん:2021/08/10(火) 21:29:42 ID:VMzYVuKw0
ノパ⊿゚)「あぁ、銃剣だけどな」

ミ,,゚Д゚彡「流石にそれはゴム製のナイフに変えてもらう。
      ナイフの判定も銃弾と同じだ。
      切った個所に色が付くように加工してある」

ノパ⊿゚)「分かった」

ミ,,゚Д゚彡「ちなみに、グレネードの使用も有り得る。
      勿論、ペイントが飛び出す仕組みの水風船みたいなもんだけどな。
      何か質問はあるか?」

その言葉は主にブーンとヒートに対して向けられたものだった。
ヒートは首を横に振り、ブーンは考えている様子だった。

(∪´ω`)「おー」

ミ,,゚Д゚彡「遠慮なく訊いてくれていいんだぞ」

(∪´ω`)「ペイント弾って、当たると痛いんですかお?」

ミ,,゚Д゚彡「まぁ、それなりに痛いな。
     っと、そうだ。
     汚れるだろうから、せめて防弾ベストを着ておいてくれ。
     それとゴーグルとヘルメットは絶対につけてくれよ」

ノパ⊿゚)「分かった。 いつから始めるんだ?」

ミ,,゚Д゚彡「そっちの準備が整ったら教えてくれればいい。
      食後の腹ごなしになるといいな」

三人はそれからすぐに準備を始めた。
ヒートとデレシアはそれぞれの弾倉に先端がピンク色のペイント弾を込め、ブーンもそれを見て自分が使う銃の弾倉に弾を込めた。
弾が込められた弾倉の容易が済むと、それをチェストリグに詰め始めた。
防弾ベストの上からそれを着て、最後に三人はヘルメットとゴーグルを装着した。

脱いだローブを畳みながら、デレシアはフサに言った。

ζ(゚ー゚*ζ「今から五分後に始めていいわよ」

ミ,,゚Д゚彡「分かった。 楽しんでくれ」

三人は小走りで建物の中に入り、それから話を始めた。

ノパ⊿゚)「で、どうする?」

ζ(゚ー゚*ζ「待ち伏せるか、それとも迎え撃つか。
      今日は何回戦かできると思うから、まずは待ち伏せをしてみましょう。
      その方がブーンちゃんの練習にもなるからね」

939名無しさん:2021/08/10(火) 21:31:10 ID:VMzYVuKw0
(∪´ω`)゛「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「さて、まずは待ち伏せの基本ね。
      自分の中に死角を作らない、相手の行動を制限するに尽きるわね」

(∪´ω`)「死角を作らない、行動の制限。
      おー、どうやって死角を作らないようにすればいいんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「よくあるのが角部屋ね。
       二方向を壁にすれば、少なくとも、見るべきは正面に限られるでしょう?
       後は仲間との連携ね。
       でも、相手が熟練の場合はそれが通じない場合もあるから、今回はいい経験になるはずよ」

(∪´ω`)「なるほどですお」

ノパ⊿゚)「相手はライフル、こっちは拳銃。
    中々厳しいな、正直」

ζ(゚ー゚*ζ「厳しいぐらいがちょうどいい練習になるわ」

ノパ⊿゚)「それで、あたしたちはどうやって待ち伏せするんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「相手が考えることを考えて、嫌がることをすればいいのよ」

ノパ⊿゚)「嫌がること、ねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「連携を乱されることよ」

複数人で同時に行動する際、基本となるのが役割分担と指示系統の統一だ。
個の強い人間が連携せずに作戦を遂行しようとすれば、自ずと作戦は破綻する。
チームによる狩猟というのは、言い換えればそれを前提としているため、万が一それが崩れた際に隙が出来る。
その隙を狙えば、後は逃げ惑う鹿を撃ち殺すようなものだ。

ノパー゚)「オッケー、あたしも同じ考えだ。
    となると、側面攻撃する人間が必要になるな。
    ……あたしがやるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ私はブーンちゃんと一緒に行動するわ。
       お願いするわね」

ノパー゚)「任されよう」

三人は三階に向かい、端の部屋に入り込んだ。
そこには窓はなく、入り口は二か所しかない理想的な構造をしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「そろそろ相手が動き始めるから、お迎えしてあげましょう」

ノパ⊿゚)「おっしゃ、いっちょ頑張ろう。
     どうせなら勝ちたいな」

940名無しさん:2021/08/10(火) 21:31:33 ID:VMzYVuKw0
(∪´ω`)゛「お!」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、お迎えしましょうか」

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       γ´       \                          γ´ヽ `ヽ
       /i         i ヽ                         j   辷≧x∨
      ./ .i!        i   ∨                     q     i゙ーi
      |i i!         i!  .∨      _ __                  |    .|}kj
      |i i!         i!    i       /i  /ヽ             ノヾー 彡ノ/、
      |i i!         i! ノ! |r x    i |  i  |       ____/ i .`ヾ彡/ i___
     ーi| ,i!≦三二 、ー, 、‐ヾ |:::::i  /| ミ彡ノ .j`ヽ     ./ |::/  \   /  .iヽ>o。
    _./ 弋 弋 て・孑 〈 辷彡 ノ .j\;/ i! ≧≠/  ヾ、   ノ  .|::´i`ヽ  ヽ _jー‐ ┘|
‐=≦/ rf::::i≧=≦ ノ三》`¨¨   |  >o。.ー=彡∥   .)rf    .|:::::|  \ /    ./| | i!、,!i
  ./  ヾ::::ヾメ  ノ三刈       |     ヾメ .∥   .γ⌒ヾメ、 ,|:::::| 、__i___ノi!| | i!i!i!i
  /   ∧:::::ヾメヾ弋__     ,〈      i!   \ /   .ヾ`゙|:::::|  ¨`゛|   `゙i!i!| |,i!i!i!ii
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 ー=≦三三≧=彡ミ≧≠  /  /   r―-- Jヽ       ヽ  `ヾ\::::::|    .|=≦三三i| |ノ卅
i!,、 ミ三二彡´  \  ー=≦´/   \::::::::::::::|     .∧  少ーx´ーzx .|三三三i!j| |i⌒ヽ
i!i!i!´  ノノヽ     .\    ./ / ̄i`゙::::::::::::::::|   |     ∧f´ γ´ ゝ-zx´≧=ーo。. ノノ|
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 ヾ ゞ、 .\    ==孑i!        |::::::::::::::::::::|   |      ヾミメ二彡   /;:;:;:;//>
  i  ヾメ ミマ  \    ヽ     |i:::::::::::::::::::| .J       |i!三三三三 i;:;:;://
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同日 PM04:50

イルトリア軍の訓練は命の奪い合いがない実戦であり、訓練に参加する人間は常に殺し、殺される覚悟で挑んでいる。
今回、臨時の訓練に召集された10人の軍人は、全員が実戦経験豊富で名立たる作戦に参加した経験の持ち主ばかりだ。
陸軍、そして海軍から集められた精鋭たちは無駄のない動きで降車し、ライフルを掲げて建物へと素早く駆け出した。
彼らに与えられたシナリオはテロリストの潜伏する建物への突入、そして殲滅だ。

ただし、彼らの通信機器は使用できないという制約があった。
だが、彼らはハンドサインによる意思疎通がメインであり、そもそも言葉を使うことはほとんどないため影響は軽微だ。
無言のまま進み、すぐに二手に分かれた。
一棟に対して5人。

否――

(::0::0::)「おわっ?!」

――殿を務めていた男の胸にペイント弾の鮮やかなピンク色の花が咲くと同時に、銃声が響いた。
建物の三階から放たれた銃弾によって一人脱落が決定したが、彼らの計画に変更はなかった。
相手の武装についての情報は不明だが、この距離で正確に当てるということは、ライフルを装備している可能性が高い。
駆け抜けるようにして建物の壁に背中を当て、入り口の扉に手をかける。

941名無しさん:2021/08/10(火) 21:32:09 ID:VMzYVuKw0
ブービートラップの可能性が高いが、それを警戒させるのもテロリストの常套手段だ。
僅かに扉を開き、ワイヤートラップの類がないことを確認し、双方は同時に突入した。
互いの死角を補うようにして進み、内部で更に一階のクリアリングを行う班と、二階に進む班に分かれた。
四人に減った班は一人を失ったにもかかわらず、その動きに乱れはなかった。

建物内の部屋中の扉を開いては確認していく。
カービンライフルを抱くようにして構え、その銃爪には常に指先がかかっている。
順調にクリアリングを進める中で、一階の角部屋のドアノブに手をかけた時、そこに僅かな抵抗を感じ取った。
ジェイ・シェイクスピアは海軍に所属するベテランで、僅かな違和感に対して最大級の警戒をすることで知られている。

(::0::0::)

ハンドサインでハッシュ・モンテ・アミアータに一時停止するように伝える。
角部屋は待ち伏せ、あるいは敵をやり過ごすのには最適な場所だ。
扉から離れ、ジェイは扉を蹴り飛ばした。
開かれた扉の向こうにハッシュが銃腔を向ける。

だがしかし、その先には誰もいない。
扉の裏側にはパイプ椅子が転がっていて、それがジェイの感じ取った抵抗の正体だった。

(::0::0::)「……っ」

人の気配を感じ取って振り返るが、そこには誰もいない。
代わりに、跫音が遠ざかっていく音が耳に届いた。
それが味方のものでないことはすぐに分かったが、罠である可能性の高さを考え、二人は慎重に部屋を出た。
互いに背中を合わせ、不意打ちに備える。

ドットサイトの向こうに常に敵がいると想定し、腰をかがめながら進む。
その時、銃声が二階から轟いた。
単発ではなく、弾倉内の全てを撃ち尽くさんばかりの猛烈な銃声。
銃声は彼らの持つカービンライフルから放たれるそれに聞こえた。

味方が接敵したと判断しつつも、それでも二人はクリアリングを行うことを優先した。
味方であれば対処できると信頼し、各々のやるべきことに専念することを選んだ。
その間にも銃声は響き渡り、激しい戦闘が続いていることを物語っている。
やがて銃声が止み、階段を降りる跫音が聞こえてきた。

敵か。
それとも味方か。
階段側を向いているのはハッシュだ。
その緊張が背中越しに伝わってくる。

(::0::0::)「味方だ」

蚊の鳴くような小さな声で、ハッシュがそう報告した。
しかし、その直後。

(::0::0::)「いや、違う――!!」

942名無しさん:2021/08/10(火) 21:32:42 ID:VMzYVuKw0
警告よりも動く方が早かった。
ハッシュが後退しつつ制圧射撃をするのと同時に、ジェイがスモークグレネードを胸から取り出し、放る。
瞬く間に視界を白い煙幕が覆い、射撃が止む。
その間もジェイの視線は退路に向けられ、挟撃に対しての警戒は一切緩められていない。

(::0::0::)「二階に行くぞ。
     相手は俺たちの装備をごっそり奪ってる」

最も警戒すべき、そして、最も危惧すべき対応だった。
市長からは事前に“最も厄介な相手”と言われていたが、その意味が分かった気がした。

(::0::0::)「連絡通路から隣の棟に行って、仲間と合流しよう」

単独で相手をするにはいささか厄介を極めた相手であると判断し、ジェイはそう提案した。
味方の武装が奪われているということから、すでに二階に向かった二人が敗れた可能性が極めて高い。
合流すべきは、もう一つの班だ。
この短時間の間に三人を失うという失態は、これまでに経験したことがなかった。

もう一つの階段を駆け上り、最短距離で連絡通路を目指す。
ガラス張りの危険な通路だが、ペイント弾では貫通させることが出来ない。
本番を想定しての訓練だが、各々が置かれている状況を適切に利用するのもまた訓練の目的の一つだ。
二人は片時も警戒を解くことなく連絡通路に到着し、前進した。

ジェイが前方を。
そしてハッシュが後方を。
ハッシュは弾倉を交換し、静かに息を吐いた。

(::0::0::)「ふぅ……」

二人の視線はしっかりと銃腔の先、あるいはその周辺に向けられ、影が揺らいだとしても見逃すことのない集中力を発揮している。
見逃しはなかった。
少なくとも、銃腔の向いている先については。
風が頬を撫でたときには、もう遅かった。

(::0::0::)「ガラスがない……?!」

風の存在に気づいた二人がほぼ同時にそちらの方向を向く。
そして、頭上のガラスを破って手榴弾とスモークグレネードが投げ込まれ、二人の足元に転がり落ちる。
ハッシュはその上に覆い被さり、爆風を自分の体で受け止めた。
ペイントとはいえ、衝撃で僅かに体が持ち上がる。

(::0::0::)「くそっ……!!」

一人になったジェイは一目散にその場から離脱を選択し、隣の棟へと移動を完了させた。
絶好の機会を作り出したにもかかわらず、襲撃者は姿を見せるどころか、銃撃すらしてこない。
手近な扉を押し開き、すぐに扉を閉じる。
狩る側がいつの間にか狩られる側に回ってしまったことにより、ジェイは本当の意味で相手が厄介であることを理解した。

一息ついた瞬間、扉が音を立てて乱暴に開かれた。
咄嗟にライフルを構えるが、そこに現れたのは味方の姿だった。

943名無しさん:2021/08/10(火) 21:33:57 ID:VMzYVuKw0
(::0::0::)「何だ、ジェイか。
     てっきり敵かと思った」

(::0::0::)「俺もだよ。 ノミアン。
     一人なのか?」

扉を後ろ手で閉じながら、ノミアン・パロディウスは首を横に振った。

(::0::0::)「今このフロアをクリアリングしているんだ。
     銃声が聞こえたが、もう襲われたのか」

(::0::0::)「奇襲された。 俺以外はたぶん全滅だ」

(::0::0::)「あのメンツがやられるってことは、相当な相手だな……
     楽しくなってきた」

その言葉に、ジェイは心から同意した。

(::0::0::)「あぁ、こんなにやりがいのある相手は久しぶりだ」

(::0::0::)「こっちはまだ誰とも接敵していないが、どんな奴らなんだ?」

(::0::0::)「姿もまだ見ていない。 すでにこちらの装備を奪っているのは確認できた。
     手榴弾にスモーク、ライフルも俺たちの使ってきた」

その時、廊下から何かが落ちる音が聞こえてきた。
金属質の何かが地面に落ちる音だった。

(::0::0::)「ますます楽しみな相手だな。
     三階に向かおう。
     俺の後ろを任せる」

(::0::0::)「了解」

気を取り直し、ノミアンが先頭になって扉を押し開いた。
僅かに開いた扉の隙間から敵の姿を確認し、扉の開閉と二人の体の動きを合わせて死角を補い合う。
左右のどこに隠れていたとしても、即応できる動きだ。
すぐに銃腔を上下左右に向け、異変の有無を確認する。

(::0::0::)「……ん?」

階段に向かって慎重に足を踏み出していたノミアンが動きを止めた。

(::0::0::)「どうした」

背中越しに伝わるのは彼の動揺、あるいは困惑。

(::0::0::)「……薬莢だ」

(::0::0::)「んっ……?!」

944名無しさん:2021/08/10(火) 21:34:24 ID:VMzYVuKw0
直後、頭上に殺気を感じた時には手遅れだった。
二人の頭頂部に衝撃と共に銃声が落ち、足元に着地した何者かが両手に持つ拳銃の銃腔はまっすぐに二人の喉に向けられている。
しかし、二人の体もほぼ反射的に銃をその人間に向けられているが、銃爪は引けなかった。
これが実戦であれば二人は死亡しており、脊髄販社の奇跡で銃爪が引けたとしても、銃弾はあらぬ方向に飛んでいくことになるだろう。

通気口メンテナンス用の天板が外されていることに気づいていれば、この事態は回避できたかもしれない。
二人の注意が廊下にだけ向けられ、地面に落ちていた薬莢によって視線が固定されていたことも敗因の一つだった。
それでも、待ち伏せと強襲の技術は見事の一言に尽きる。
ここまで気配と物音を消すことが出来るのは一種の才能だ。

ノパ⊿゚)「……」

それは若い女だった。
油断も慢心もないイルトリア軍の軍人を二人相手に、見事な奇襲を仕掛けてきた女。
その顔に二人は見覚えがなかったが、ただの腕自慢という訳でないことは目で分かった。
二挺のベレッタM93Rの銃身下部には折り畳み式フォアグリップの代わりに、銃剣が取り付けられており、特徴的な形をしていた。

その銃を使う人間について、ジェイは思い当たる節があった。
女はゆっくりと立ち上がり、二人のチェストリグから弾倉とグレネード類、そしてジェイのカービンライフルを奪った。
二人は両手を挙げ、静かにその場から退場することにした。
彼女がヴィンスで大暴れした殺し屋、“レオン”なのだと理解し、そしてその実力が本物だということに納得せざるを得なかった。

――残った四人は、下の階から聞こえてきた二発の銃声で全てを察していた。

(::0::0::)「……ちぃっ」

追い詰める側の立場で襲撃をしたにも関わらず、彼らは皆、駆り立てられる側の立場になっていることに焦りを覚えていた。
銃撃も物音も、気配もある。
しかし、相手の姿が見えない。
本来であればもっと素早く行動した上で制圧できるはずなのに、それが一切できない。

思えば、最初の一人が撃たれたところから何かの歯車が狂い始めていた。
心の中に小さな恐れの種が植え付けられ、動作に僅かな遅れが生じている。
未だに相手の姿を視認できていないことが彼らに焦りを覚えさえ、動きから繊細さを、感覚から鋭さを奪っていく。
彼らがクリアリングを終えていないのは三階だけであり、敵が潜伏しているとしたらこの階が濃厚だ。

一人が扉を開き、二人が入る。
残った一人が周囲を警戒し、一つずつ可能性を潰していく。
本来は二人で十分としている作業だが、その倍の人間を使わなければならない相手だと判断せざるを得なかった。
クリアリングを済ませていない部屋が三つになった時、周囲の警戒に当たっていたトッティ・トルテが口を開いた。

(::0::0::)「妙だ……」

(::0::0::)「どうした」

リカルド・ルーンファクトは視線を向けずにそう言った。

(::0::0::)「まるで気配がしない。
     それに、こうして一部屋ずつ潰していけば、どん詰まりになった奴らが出てくる。
     あいつらがそれを選ぶか?」

945名無しさん:2021/08/10(火) 21:34:50 ID:VMzYVuKw0
(::0::0::)「……そう思わせるための陽動かもしれないが、理があるな。
     二手に分かれよう。
     相手がこっちを狙うとしたらクリアリングのタイミングだ」

頷き、無言の内に二手に分かれた。
リカルドとトッティはクリアリングをしている二人の背後を守る手に出て、一切の死角を生み出さないようにした。
天井、床、曲がり角の向こう側。
あらゆる可能性を考慮し、警戒した。

窓の外に一本のロープ――消火用のホース――が垂れ下がってきたのを見て、リカルドは叫び声をあげた。
訓練中、彼が初めて上げる類の叫び声だった。

(::0::0::)「外だ!!」

二人が一斉にライフルを構え、そして、思い出す。
自分たちが今回使う武器について。
非殺傷のペイント弾では、ガラスを撃ち抜けない。
それは敵も同じだ。

ならば、これは視線を誘導するための罠。
同時に気づき、銃腔を廊下の方に向け直す。
しかし、本命は別にあった。
窓の外でホースが揺れ、括りつけられた消火器が窓ガラスを砕き、二人にガラス片が降り注ぐ。

(::0::0::)「うおっ?!」

思わず目を庇い、その反動で視線が再び窓の方に向けられる。
クリアリングをしている二人は既に部屋の中に入った後で、この数秒間で起きたことに対応はできていない。
ライフルの銃腔は既にあらぬ方向に向き、ゴーグルをつけている目を庇った腕の向こうで見たのは、金髪の女が両手に構えた銃を発砲している瞬間だった。
黒塗りのデザートイーグル。

ζ(゚ー゚*ζ

避けることなどまるで出来ぬまま、二人は胸部に銃弾を受け、その場で退場が確定した。
女は割れた窓ガラスの向こうから優雅に廊下に降り立った。
しかし、クリアリングをしていた二人が素早く部屋から飛び出し、ライフルを構える。
その時はまだ、イルトリア側の誰もが勝利を確信していた。

銃爪を引くタイミングが早い方が殺し合いを制するのは常識だ。
そう。
確かに、その女のデザートイーグルがまだ次弾を薬室に収め切っていない状態を考えれば、勝敗はイルトリア軍側にあった。
デザートイーグルは反動もそうだが、遊底が大きく後退する特性があるため、次弾の装填と発砲には刹那の時間がかかる。

それこそがこの場における勝機だと、誰もが思った。
女の腰にしがみついていた少年が発砲し、二人を仕留めるまでは。

(∪´ω`)

946名無しさん:2021/08/10(火) 21:36:01 ID:VMzYVuKw0
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同日 PM05:15

カラクッド・クランドは黄昏の空に染まったニョルロックの街並みを見上げ、溜息を吐いた。
彼の捜査は行き詰まり、打つ手がなかった。
バルザイ・スミノフが用意していたはずの資料は行方不明になり、彼自身も行方が分からなくなっていた。
同僚の人間に訊いてもその行方は分からず、連絡もつかない。

まるでカラクッドの手の内が全て読まれているかのように、あるいは、あざ笑うかのように真実が遠ざかっていく。

(+゚べ゚+)「まいったな……」

947名無しさん:2021/08/10(火) 21:36:25 ID:VMzYVuKw0
雑踏の中、彼の独り言は風と共に後方へと流されていく。
捜査は難航するどころか、そもそも船出すらしていない状況だ。
犯人は犯罪に関して天才的と評価せざるを得ない相手だ。
バルザイの身に何かが起きたのか、それは分からないが、嫌な予感がする。

この街で“レプス”に手出しをすればどうなるのか知らない者はいない。
つまり、外部からやってきた人間の仕業だ。

(+゚べ゚+)「この街で何をしようってんだ」

建物に取り付けられた大型電光掲示板に、様々な広告が映し出される。
三色の光を利用し、文字だけでなく映像も映し出すことが出来る最新の物だ。
この技術はつい最近導入されたばかりの物で、目新しさに通行人が立ち止まり、目を向けている。
一日中この街で仕事をしているカラクッドでも、その目新しさは変わらない。

世界で起きたニュースが音声と文字で流れて行き、合間に広告が映される。
その間、すれ違う人々が彼に軽くぶつかっていくが、それもこの街でよくある光景だ。

(+゚べ゚+)「……ふうむ。
     考えても仕方ないか」

事件を解決するための鍵は、いつだって自分の足で探してきた。
極秘裏に調査をしなければならない以上は、頼れるのは自分だけなのだ。
決意を新たに、雑踏の中を歩く。

(-@∀@)「今夜は何を食べます?」

<ヽ`∀´>「うーん、連日カレーだったから流石に別のを食べたいニダね」

l从・∀・ノ!リ人「ビーフシチューがいいのじゃ!」

(;-@∀@)「それほとんどカレーですよ」

(+゚べ゚+)「……ん?」

それ違った三人組。
その内の一人の顔に、カラクッドは見覚えがあった。
スコッチグレイン家の一人、イモジャ・スコッチグレインだ。

(+゚べ゚+)「あ、なぁ、ちょっと」

思わず声をかけると、目の細い男が振り向いた。

<ヽ`∀´>「ウリたちのことニダ?」

(+゚べ゚+)「そうだ、あんたたちだ。
     ちょっと訊きたいんだが」

<ヽ`∀´>「面倒なことならお断りするニダよ」

948名無しさん:2021/08/10(火) 21:36:54 ID:VMzYVuKw0
その反応は当然の物であり、カラクッドが予想していたものの一つだ。
懐に手を伸ばしつつ、己の自己紹介をする。

(+゚べ゚+)「俺はカラクッド・クランド、この街の治安維持組織の人間だ」

しかし、彼の手がそこで止まる。
懐に入れていたはずの身分証がなくなっているのだ。

(+゚べ゚+)「……なに?」

<ヽ`∀´>「自己紹介してもらったところ悪いけど、相手をすることは出来ないニダ」

そのまま立ち去られる間も、カラクッドは身分証を探すが、どこにも見当たらない。
財布はある。
護身用の拳銃もある。
しかし、身分証だけが忽然と姿を消しているのだ。

(+゚べ゚+)「まいったな、どこに落としたんだ……」

落とすことなど有り得ないことは分かっている。
彼の身分証はパラコードで拳銃のホルスターと結びつけられており、外れることは無い。
改めてパラコードを見て、カラクッドは驚愕した。

(+゚べ゚+)「……嘘だろ、おい」

パラコードはその性質上、切断面に多くの情報が現れる。
乱暴に切れば切断面は乱れ、鋭い刃で切断すれば乱れはほとんど見られない。
今彼が目にしているのは、後者の切断面だった。

(+゚べ゚+)「くっそ!!
      どこの誰だ!!」

怒りと共に振り返るも、見えるのは見知らぬ人間の背中ばかり。
当然、盗人が振り返るはずもない。

(+゚べ゚+)「おい!!」

声を荒げ、かまをかけてみる。
大抵のスリはこの一言で何かしらの反応を示す。
だが当然、怪訝な顔をして振り返る通行人ばかりだ。
先ほどの三人組はこちらに見向きもしない。

(+゚べ゚+)「えぇいい!! 糞っ!!」

悪態を吐き、カラクッドは周囲を見渡す。

(+゚べ゚+)「やられたっ……!!」

949名無しさん:2021/08/10(火) 21:37:18 ID:VMzYVuKw0
恐らくは、彼が追っているであろう何者かの仕業だ。
バルザイの行方が分からなくなっている原因にも関わっている可能性がある。
すでに彼は相手の術中にはまっていると考えると、極めて不気味、否、生きた心地がしない。
彼の本能がその場からの逃走を強いたのは、無理からぬ話だ。

相手がその気になれば、彼の胸元から奪うのは身分証ではなく命だったに違いない。
では、彼が生かされている理由は何か。
走りながら、カラクッドの灰色の脳細胞は必死に動き、思考し続けた。
思考は目まぐるしく動き続けているが、逆に、彼の注意力は散漫になっていた。

逃げる獲物の思考は極めて予想しやすく、追い詰めやすい。
そのような初歩的な発想にさえ、今の彼には考えるだけの余地がなかった。
レプスの本部に足が自ずと向かってしまうのは、安全を求める心理的な行動だ。
屋内に逃げるようにして入ったカラクッドは、すぐに自分のデスクに向かい、引き出しの中を漁る。

あるいは、そこに彼が身分証を置き忘れた可能性を模索したのだが、それも無意味だった。
それどころか、彼は引き出しの中に入れていたはずの手帳等が消えていることに気づいた。

(+゚べ゚+)「おい、今日俺の机に近づいた奴はいるか?!」

だが、誰もが首を横に振るばかりだ。
そんなはずはない。
確かに存在した物が消えているということは、何者かが手を出したということだ。
その目撃情報がないということは、相手はこの組織のことをよく知っているはず。

安全な場所がないと判断したカラクッドは建物から出て、すぐに近くのホテルに身を顰めることにした。
ホテルの部屋に入ってすぐに鍵とチェーンをかけ、部屋中の扉を開いて誰もいないことを確かめる。
シャワーを浴びる際にもすぐに拳銃が手に取れるようにし、練る際には枕の下に置いた。
まるで逃亡中の犯罪者のような念入りな対処だったが、彼の中ではこれでも足りないぐらいに感じていた。

――事実、それは致命的なまでに不足していた。

950名無しさん:2021/08/10(火) 21:38:09 ID:VMzYVuKw0
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Ammo for Rebalance!!編

_,‐二// \\\::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::::::::::::::::::::::::゚::::::::::::::::::::::::::゚:::::|::::|:::::|:::丁:=- _::::::::
二//\\.:\.:./::::::::::゚::::::::::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::::::::::::::::゚:::::::::゚:::::::::::::::::::::。::::::|::::|:::::|:::::|:::::|:::::|ニ=
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爻爻爻x:::: /::::/:::::。:::::::::::::゚::i| iニ二二二二ニi |i:::::::::::゚::::::::::::::::::::::::゚::::::::::::::___::::::::::::::
爻爻爻ミj/::::/:::::::::::::::゚:::::::::i| iニニニ二ニニニニi |i:::::::::::::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::|\ xxXXxx
爻爻;爻;/::::/:::::::::::::::::::::::::::i| iニ二三三三二ニi |i:::::::::::゚:::::::::::::::。::::::::::::::::::|  爻狄ソ狄
爻;爻ミ;/::::/___::::::゚:::::::::i| iニi二i三i三i三iニiニi |i::::::::::::::::゚:::::::::::::::::。::::::::|  狄狄狄狄
:爻:ミ:/::::/ ̄ ̄/∧:::::::::: i| i二i三i三i三i三i三iニi |i::::::゚::∧ニニニ-_::::::::::::::::\X狄ソ狄淡
爻ミ/::::/X ::::::///∧::゜:::i| i三i三i三i三i三i三i三i |i::::::/::∧ニニニ‐_:::::::::::::::::爻狄i狄淡
ミミ/::::/爻ミ;ミ;ミ;ミx/ ∧::::i| iニiニiニiニiニiニiニiニi |i::/::/: ∧ニニニニ‐_::。:::::::::/爻狄ソ狄
c/::::/爻爻ミ;ミ;ミ;ミ;Xx/:::i| i二iニiニ.iニiニi二i二iニiニi |i:∨::/: ∧ニニニニ‐_:::゚::/  爻狄狄
/::::/淡爻爻ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミミxニ二i二iニiニiニiニiニiニiニi |i::∨::/:::ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;。/   狄ミ狄
::::/慫淡淡淡ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;xニiニiニiニiニiニiニiニiニi |i:゚:∨::ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;XxixX爻狄狄
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淡淡炎淡淡kミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミく::i二i二i二iニiニi二i二i二i |i:::xミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ刈狄狄
淡淡淡淡淡淡ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ二i二i二i二i二i二i二i二i |iミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミミ;ミミ刈狄

第一章【awaken of dreamers-夢見る者達の目覚め-】 了
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951名無しさん:2021/08/10(火) 21:38:50 ID:VMzYVuKw0
これにて今回のお話はお終いです

質問、指摘、感想などあれば幸いです

952名無しさん:2021/08/10(火) 22:01:45 ID:Wtr6JUg.0
乙乙

953名無しさん:2021/08/10(火) 23:53:43 ID:Iu8cSGnA0
おつです
ブーンも結構強くなったんだな。ティンバーランド側のブーンはどうなんだろ。
こっちも英才教育されてんのかな。

954名無しさん:2021/08/13(金) 20:40:12 ID:jEhCvKCI0
乙乙

相変わらず面白い。
ディートリッヒさんとブーンの会話のシーンに和んだり、訓練の息が詰まるような緊迫した描写が最高に良かった。


>>944

これが実戦であれば二人は死亡しており、脊髄販社の奇跡で
の部分の"脊髄販社"じゃなくて"脊髄反射"だね。

955名無しさん:2021/08/13(金) 21:47:32 ID:md8pDu6E0
>>954
今回こそは誤字ないと思ったのに……!!
いつもご指摘ありがとうございます!!

956名無しさん:2021/08/14(土) 00:04:19 ID:LuYD0Ops0
おつ!
渡辺さん意外と地位が高いのね
意図的にやらかしてばっかのイメージだけど結構功績残してるのかな

957名無しさん:2021/09/14(火) 16:55:22 ID:mxspAYHA0
今度の土曜日にVIPでお会いしましょう

958名無しさん:2021/09/14(火) 22:21:37 ID:EdNAzNJc0
待ってた!

959名無しさん:2021/09/14(火) 22:55:05 ID:QsKGDP520
月1の楽しみです!
待ってます!

960名無しさん:2021/09/15(水) 23:41:25 ID:h3JigoBs0
うおおおお!!

961名無しさん:2021/09/19(日) 08:16:14 ID:ctbjoZXk0
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あの日。
我々の街が戦場と化したあの日。
誰一人として、その日が来ることを予見し得た者はいなかった。

                                      ――アダム・サラゲトラーナ

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September 24th PM06:33

世界には力が溢れ返っているが、力に頼らずに力を誇示する街は、“中立の街”ブーオしかない。
あらゆる争いに対しての介入を拒絶し、助力を拒み、世界中あらゆる街からの干渉を排除し続けてきた。
クラフト山脈の南にある島に位置し、その環境が彼らの守りを強固な物にしている。
観光業と島の自然を使った産業だけで街が成り立っているのは、ブーオに住んでいる人間達の層にある。

大金を稼いだ人間が不毛な争いに巻き込まれることを嫌い、穏やかな老後を過ごすためにこの街に移住してくる。
彼らは安全を金で買うことに何の抵抗も抱かないため、ブーオは税金によって街の治安と平穏を維持する工夫がされているのだ。
内藤財団の影響も、十字教の影響さえも受けない絶対中立の街。
街を束ねるガガーリン・ザラキは前市長からその座を継承し、父親譲りの手腕を発揮する若い女だ。

執務室で爪を切っていた彼女の元に、秘書が一通の電報を持って現れた。

川_ゝ川「……内藤財団が?」

( ゚ー゚)「観光業でぜひ助力をさせてほしい、と」

川_ゝ川「そう言って我々の街に介入する口実を作るつもりなのだろう。
    ヴィンスも、ラヴニカもそうだ。
    あいつの助力は侵略と同義だ。
    返事をするまでもない、いつも通り無視しろ」

ブーオが今日まで中立の立場を貫き続けることが出来たのは、外部組織とのつながりを徹底して排除することだった。
特に彼らが警戒するのは、善意を盾にして侵略を試みる輩だ。
内藤財団という大きな組織で見れば、確かに経済的な成長は見込めるだろう。
しかし、内藤財団はニョルロックだけでなく、カルディコルフィファームも経営しており、実質的には複数の街の支配者だ。

今までに一度も彼らの介入を受け入れていないのも、僅かな根が入り込むことを忌避してのこと。
雑草の根は思った以上に深く入り込み、気が付いた時には手遅れになることが多い。

( ゚ー゚)「かしこまりました」

秘書は笑顔を崩すことなく頷き、部屋を出て行った。
残されたガガーリンは爪をやすりで整え、磨き、そして溜息を吐いた。

川_ゝ川「ふぅ……」

962名無しさん:2021/09/19(日) 08:17:08 ID:ctbjoZXk0
内藤財団が介入を提案するのは、これが初めてではない。
この街が力を持ち始めてから、一年に数回は話を持ってくる。
無償で観光船の手配をする、無償で設備の点検と保守を行う、無償で街の漁業を守るための警備艇を派遣するなど、彼らは必ず甘言を使ってくる。
その甘言に一度でも首を縦に振れば、この街の中立性は失われると、遥か昔の市長から代々引き継がれてきた考え方があった。

そのため、内藤財団がラジオを無償で世界中の街に配った時でさえ、彼らはその受け取りを拒否した。
街の財政は苦しいわけではないし、むしろ、年々潤いを見せているほどだ。
それだけ安寧を求めている人間が多くいるということは、世界情勢が平和から遠ざかっているということなのだろう。
中立の街はそういった争いから遠ざかる最後の楽園と言っても過言ではない。

ストーンウォールも似た背景を持っているが、こちらは岩礁と多数の島に囲まれた孤島だ。
近くの海には機雷を浮かべ、こちらが許可した船にだけ安全な航路を伝える方式がある以上、侵略は困難を極める。
密かにラヴニカに復元を依頼した“名持ち”の棺桶が街の守り神として控えており、万が一侵入者が来たとしても、撃退することが可能だ。
年に数回、島にある貴重な鉱物や動物を盗もうとする船が来るたび、街の人間は狩り感覚でその船を沈めてきた。

大口径の機関銃で徹底して破壊された船は海の藻屑と化し、海に飛び込んで逃げようとした人間は鮫に食われた。
おかげで近海の魚たちは肥え、最終的に不届き者たちの命は街の貴重な食料を育てる餌として役立っている。

川_ゝ川「……警戒しておくか」

これまで硬くなに無視し続けているブーオに再び連絡を取るということは、何かを狙っているということが考えられる。
企業である彼らは常に利益を優先した行動をとる。
ラジオの配布でさえ断った街に、今更観光の話を持ってくるというのは、いささか不自然だった。
狙いは別にあるとみて間違いない。

――後にその警戒心が、ブーオの歴史を変えることになるのであった。

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963名無しさん:2021/09/19(日) 08:17:33 ID:ctbjoZXk0
同日 PM06:39

イルトリア軍人との“遊び”は思った以上に白熱し、予定していた殲滅戦以外にも、フラッグ戦、確保戦などのレクリエーションも行われた。
一戦目を終え、軍人たちは自分たちが三人を相手に負けたことを悔しがったが、同時にその実力を認めた。
結果はデレシア達の全勝で終わったが、ヒート・オロラ・レッドウィングとブーンは数回被弾する結果になった。
一度も被弾せずに済んだのはデレシアだけだった。

肌寒い空気の中での勝負だったが、全員が程よく汗をかき、空が紫色になる頃に互いに健闘を称えた。
最後にデレシアが軍人たちにいくつかアドバイスし、ブーンとヒートは逆にアドバイスをもらうことが出来た。
ヒートの評価は非常に高く、現在海軍の訓練に参加していることを聞き、全員がその実力について納得した。
対して、ブーンは土壇場での冷静さや思い切りの良さを評価され、ペニサス・ノースフェイスの弟子であることを聞き、一気に興味を持たれることになった。

その後、食堂へと全員で移動し、夕食をとることになった。
食堂は大勢の軍人で賑わいを見せ、食欲をそそる複数の香辛料が入り混じった香りが溢れていた。
軍服の上にエプロンを着たチハル・ランバージャックが全員を出迎え、腰に手を当てながらまるで全員の母親であるかのように質問をした。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「おかえりなさい。
      先にお風呂とご飯、どっちにする?」

ζ(゚ー゚*ζ「ただいま。
       先に夕食をいただいてもいいかしら」

(∪*´ω`)「美味しそうな香りがしますお!!」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「今夜は皆大好きなカレーだよ。
      私特製の無水カレーだから美味しいよー」

(∪*´ω`)「無水カレー?」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ふふん、食べながら説明をしてあげるから、まずは手を洗って来ようね」

(∪*´ω`)「はいですおー」

一同は石鹸で手を洗い、競うようにして列を成してトレイを手に食事を皿に盛り始める。
サラダ、卵のスープ、そしてカレーライス。
それぞれ自分で食べられる、あるいは食べたい量を盛り付け、席に戻る。
席に着くなり、誰もがカレーの香りに誘われるようにしてスプーンですくい、口に運んだ。

ブーン達も食事前の挨拶を済ませ、そして食事を始める。

(∪*´ω`)「美味しいですお!!」

ノパー゚)「うんまい!!」

ζ(゚ー゚*ζ「ほんと、美味しいわ」

964名無しさん:2021/09/19(日) 08:17:57 ID:ctbjoZXk0
香辛料が複雑に絡み合った香りの奥に、辛味、酸味、仄かな甘味を感じ取ることが出来る。
人参、タマネギ、アスパラ、トマトそして大きく切った豚肉。
変わった材料が入っているわけではないが、驚くべきは味の持つ奥行だ。
単純に辛いだけではなく、旨味の理由を探ろうとすればするほど、深みに足が取られて沈んでいく感覚に襲われる。

濃厚な味は一口だけで口内が十分に満たされ、更なる食欲の増進に繋がる。
豚肉は恐らく焦げ目が出来るまで焼いたものを入れ、じっくりと煮詰めたのだろう。
歯応えを残しながらも柔らかく、そして肉の旨味が生きている。
付け合わせに用意されたきゅうりのピクルスも、酸味の効いたこのカレーによく合う。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ふふーん。 そうでしょう、そうでしょう。
      無水カレーっていうのは、水を使わずに作ったカレーなの。
      トマトの缶詰と後は野菜から出る水分だけで、結構濃厚になるんだー。
      後はね、隠し味にコンソメとワインと、すりおろしたリンゴを入れてるの」

(∪*´ω`)゛

説明を聞きながらも、ブーンはスプーンを動かす手を止めなかった。
大きな口を開けて次々とカレーを頬張り、嬉しそうに咀嚼する。

ノパー゚)「この酸味がいいな」

カレーを口に運びつつ、改めてヒートは賛辞を贈る。
兵士たちは黙々と食べているが、しかし、何度も追加のカレーライスを取りに行く姿を見ればその評価は訊かなくても分かる。

ζ(゚ー゚*ζ「ミセリは学校?」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ううん、学校はもう終わって、今はリハビリしているはずですよ。
      “バイセンテニアル・マン”にはまだ慣れていないから」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、前に見た時には結構使いこなしているように見えたんだけど?」

ミセリ・エクスプローラーは四肢と両目の視力を失っていたが、強化外骨格によって失われた身体機能を取り戻すことが出来ていた。
バイセンテニアル・マンは使用者に合わせて最適化される設計のため、数日もあれば違和感なく使用することが出来るはずだ。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「日常生活の方は全然大丈夫なんだけど、棺桶を使うとなるとまたちょっと違うみたいなんですよ」

ζ(゚ー゚*ζ「なるほどね」

種類の異なる強化外骨格を合わせて使うのは、極めて難易度の高い話になる。
棺桶はそもそも生身の人間が使用することを前提として設計されているため、生体情報を取得して稼働するのが前提だ。
目の動き、筋肉の緊張、体温の変化などを読み取って適切な調整が行われる。
しかし、他の強化外骨格を使用している場合、その生体情報を読み取ることが出来ないことがある。

965名無しさん:2021/09/19(日) 08:18:26 ID:ctbjoZXk0
そうなれば、適切な装着もままならず、実際に動かす際に問題が生じることになる。
量産機であるジョン・ドゥなどは、基本的にAクラスの棺桶との併用が出来ない。
そもそも併用を前提としている棺桶はその数が非常に少なく、開発されたものはもれなく“駄作”の烙印を押されている。
そのため、併用が可能な棺桶を選び、それを使うしかない。

幸いなことにイルトリアには多種多様な棺桶が揃っており、彼女が使用するのに最適なものが見つけられる可能性は非常に高い。
特に、使用者を厭わない設計思想を持つ棺桶であればその可能性は高くなる。

ζ(゚ー゚*ζ「そう言えば、ロマ達はどうしてるの?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、客人がこの街に来たみたいでな。
     知ってるだろ? トラギコ・マウンテンライトとオサム・ブッテロ。
     ミセリのバイセンテニアル・マンを届けに来た運送業の連中と一緒に来たみたいだぞ」

その時、デレシアは思わず驚きを声に出した。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、意外。
      殺し屋と刑事さんが一緒とは、面白い組み合わせね」

ミ,,゚Д゚彡「お前のことを探してここまで来たみたいだから、街の中を歩いていたらどこかで鉢合わせるかもな。
     まぁ、基地の中に入れるつもりはない。
     どうする? 街の外に放り出すか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいわよ、そこまでしなくても。
      それにしても、大した執念ね」

ノパ⊿゚)「あの行動力は敵にしたくねぇな……」

ζ(゚ー゚*ζ「平気よ、今はね。
      それよりも、せっかくだからこのままイルトリアにいてもらったほうがいいわね。
      連中がここに来た時に、役に立つはずよ」

(∪´ω`)「おー」

カレーを食べ終えたブーンはサラダを頬張り、デレシアの話を聞いていた。

(∪´ω`)「ししょーは今どこにいるんですかお?」

ミ,,゚Д゚彡「ししょー? あぁ、ロウガか。
     多分おやっさんと一緒にいると思うぞ」

(∪´ω`)「おやっさん?」

ミ,,゚Д゚彡「ロマネスクのことだ。
     二人とも今夜はこっちに顔を出すって言ってたが――」

食堂の入り口に二つの影が音もなく現れた時、食事をしていた兵士たちがその手を止めた。
漂わせる存在感、そして迫力。
上下黒のスーツを着て、琥珀を思わせる黄金瞳が周囲に向けられる。
歳と共に成熟された気配の主は、ロマネスク・O・スモークジャンパーその人だった。

966名無しさん:2021/09/19(日) 08:18:57 ID:ctbjoZXk0
( ФωФ)「――やはりカレーか」

!ヽ, __ ,/{
リi、;゚ー ゚イ`!「トマトカレーですね」

その隣で、同じく黒のスーツを着た狼の耳と尾を持つ女性は、ロウガ・ウォルフスキン。
二人の姿を見て、ブーンは声を出して喜びをあらわにした。

(∪*´ω`)「ししょー!! ロマさん!!」

食事を中断し、ブーンは二人の元に駆け寄った。
彼がロマネスクの名を口にした瞬間、兵士たちは皆目を丸くして彼を見たが、丸まった尻尾を左右に振りながら駆ける彼を咎める人間はいなかった。

( ФωФ)「おお、ブーン!!
       久しいな!!」

足元に駆け寄ってきたブーンと抱擁を交わし、ロマネスクは笑顔を浮かべた。
恐らく、その場にいた兵士たちの中には彼の笑顔を始めてみた者もいただろう。
兵士の中には、手に持っていたスプーンを取り落とす者もいたほどの衝撃的な光景だった。
ロマネスクとの抱擁が終わると、今度はロウガと抱擁を交わす。

!ヽ, __ ,/{
リi、;゚ー ゚イ`!「少し大きくなったか?」

(∪*´ω`)「分からないですお!」

!ヽ, __ ,/{
リi、;゚ー ゚イ`!「重さも筋肉の質も変わっている。
       たくさん食べて沢山運動をしたんだな、いいぞ」

(∪*´ω`)「お!!」

ロマネスクは手に持っていた紙袋を掲げ、ブーンに言った。

( ФωФ)「お前の為に最高のリンゴを持ってきたぞ。
       後で一緒に食べよう」

(∪*´ω`)「はいですお!!」

967名無しさん:2021/09/19(日) 08:19:17 ID:ctbjoZXk0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編
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第二章 【roar of dreamers-夢見る者達の咆哮-】

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同日 PM09:47

ニョルロックにある内藤財団のビル前に二台のSUVが到着し、三人の男女が車から降りた。
その周囲を素早く武装した男たちが取り囲み、他者の視線や接近の一切を防ぐ陣形を構築する。
迅速な動きによって囲まれたのは、一組の男女。

( ^ω^)

一人は西川・ホライゾン。

ξ゚⊿゚)ξ

もう一人は西川・ツンディエレ・ホライゾン。
内藤財団社長、そして副社長は警護に囲まれたままビルの中に入っていく。
その後ろを、ミルナ・G・ホーキンスが静かについていく。

( ゚д゚ )「アニー、お前はどうする?」

車の中に一人残っていたアニー・スコッチグレインに声をかけると、彼は短く答えた。

( ´_ゝ`)「会社の方に行きます。
     父と母と話をしたいと思って」

968名無しさん:2021/09/19(日) 08:20:48 ID:ctbjoZXk0
( ゚д゚ )「……辛い話だな。
    焦らなくてもいいと思うが」

弟と妹を失い、自身は左脚を除いた四肢を失った。
唯一残った左脚は腱を切られ、機械なしでは歩くこともままならない。
睾丸も失い、生殖機能は失われた。
この姿を報告するのは、かなりの重責だ。

( ´_ゝ`)「世界を変える前に、せめて、二人の犠牲が無駄じゃなかったことを知ってもらいたくて」

( ゚д゚ )「まぁ、それはお前次第だな。
    だが、最後まで油断はするなよ。
    まだあと一歩、博士の言っていた物が揃わない限りは始めるわけにはいかない。
    慢心と油断は、いつでも作戦を狂わせる」

( ´_ゝ`)「はい、分かっています」

( ゚д゚ )「連絡はまた後日する。
    出来るうちに親孝行するんだな」

アニーは頷き、車を発進させた。
彼の両手、そして両足には医療用の強化外骨格が取り付けられている。
失われた身体機能の補助をするだけでなく、彼の身を守るための武器でもあった。
ギコ・カスケードレンジという男が彼への復讐を望んでいるのならば、必ずまた姿を現すはずだ。

その時、無力なままでは終わりたくないという彼の願いを聞き届けたイーディン・S・ジョーンズの計らいで、彼は新たな手足を手に入れることが出来たのであった。
すぐ近くにあるフィンガーファイブ社に向かう前に、まずは安全な宿を確保するために馴染みのホテルに寄ることにした。
明日にはニョルロックを去り、彼が担当する地域に向かわなければならない。
両親と話をするのは今夜が最後になるかもしれないと思うと、若干焦りもする。

ホテルのエントランス前に車を停めると、すぐに従業員が駆けつけてきた。
従業員の男はアニーの顔を見て、無言の内に全ての対応を完璧にこなした。
車から降りたアニーに部屋の鍵を渡し、荷物は別の従業員たちが素早く駆け寄り、アニーよりも先に部屋に向けて運び始めた。
軽い会釈だけでチェックインを済ませたアニーは、部屋の窓から星空のように輝くニョルロックの街並みを見下ろした。

( ´_ゝ`)「……」

ようやく。
ようやく、夢の実現に向けた大きな歩みが始まる。
あらゆる苦痛も、困難も、悲しみも。
全てはこの時の為にあったのだ。

世界を変える偉大な一歩、その道のりを振り返ると、あまりにも短く、そして険しい物だった。
両親は彼が何をしてきたのかを知らないが、知れば必ず賛同するはずだ。
父親が傭兵派遣会社を設立したのは、力のない人間が自衛をするための力を格安で提供し、大切なものを失う人間が一人でも減ればと願ったからだ。
弱小な町は力のある町に武力で飲みこまれ、その際に多くの人命や財産が失われる。

969名無しさん:2021/09/19(日) 08:21:11 ID:ctbjoZXk0
フィンガーファイブ社はそうした小さな町に積極的に声をかけ、守るための力を提供しているのである。
もしもアニーたちの夢が成就すれば、今後、フィンガーファイブ社の様な会社は大きく需要を減らすことになる。
淘汰され、最後には傭兵派遣以外にも手広く商売を行っているか、強いパイプがなければ生き残ることは難しいだろう。
その点、フィンガーファイブ社は安泰だ。

一時的な収益の激減はあるが、会社が消えることは無い。
両親もアニーたちの夢に理解を示し、協力を惜しまないはずだ。
フィンガーファイブ社に所属する腕利きを数人、アニーと同行させてもらえれば、安心して目的地に向かうことが出来る。
これから彼が向かおうとしているのは、盗賊たちの楽園、“セフトート”。

世界の腫瘍であり、歩みの妨げになる路傍の石だ。
彼の役目はその街を世界から切除し、無害化することにある。
ラヴニカから最後の一歩が届くまでにはまだ時間がかかるが、場合によっては前倒しで計画が始まることもある。
それに備え、各自要所となる街に向かう必要があるのだ。

冷水で顔を洗い、気持ちを引き締める。
長い運転で疲労がたまっていたが、久しぶりに両親に会って話が出来ることを思えば苦ではない。
入ったばかりの部屋を出て、アニーは夜風に当たって頭を冷やすために徒歩でフィンガーファイブ社ビルに向かった。
仕事熱心な両親はまだこの時間であれば――夜の10時過ぎ――まだ仕事をしているはずだ。

争いの絶えないこの世界であれば、フィンガーファイブ社への依頼が絶えることは無い。
イルトリアとは異なり、こちらは敵対する組織に対しても派遣をすることが往々にしてある。
武力を平等に与えなければ世界のバランスが偏るため、要望があればどこにでも傭兵を派遣する。
最終的な派遣の決定をするのは両親に委ねられているため、その判定の為に夜遅くまで残らなければならない。

ビルの前には武装した傭兵が立っており、接近するアニーに警戒の目を向けた。
しかし、見知った顔を前に、彼らは銃爪にかけていた指をゆっくりと離した。

(`・_ゝ・´)「どうも、アニーさん。
      随分久しぶりですね」

( ´_ゝ`)「あぁ、ちょっと両親に挨拶をしたくてね」

(`・_ゝ・´)「お二人は内藤財団との会談で、数日前から離れています」

( ´_ゝ`)「内藤財団と? 聞いていないな」

(`・_ゝ・´)「確か、9月20日だったと思いますが、その日から今日までずっと御出勤はされていません」

極めて奇妙な話だった。
両親が内藤財団と話をする際は、基本的に電話を使う。
直接会うのは時間の無駄であると同時に、相手が掴まらない可能性が極めて高い。
そのため、直接会って話をするのは極めて重要な話であることになる。

しかし、そうであれば、ニョルロックに向かう途中の車内でホライゾンから何かしらの話があってもいいはずだ。
というよりも、二人は今日この街に着いたばかりなのだから、そもそも両親が話をしているはずがない。
あり得ない矛盾。
アニーの背中に、知らず、冷や汗が浮かんでいた。

970名無しさん:2021/09/19(日) 08:28:34 ID:ctbjoZXk0
考え得るのは異常事態。
想像し得るのは緊急事態。
確信するのは最悪の展開。

(;´_ゝ`)「ちょっと社長室に向かわせてくれ」

(`・_ゝ・´)「……それが、現在社長室への立ち入りは一切禁止されています。
      例えオットーさんであっても、その許可をすることは我々には出来かねます」

(;´_ゝ`)「誰の権限だ?」

アニーの言葉はフィンガーファイブ社の権限で言うならば、その地位は第三位に位置する。
その言葉に対して、傭兵が放ったのは規定通りの言葉だった。

(`・_ゝ・´)「お答えできません」

だがそれは、アニーにとっては十分な情報だった。
フィンガーファイブ社に圧力をかけられる組織は二つ。
一つは内藤財団、そしてもう一つ。
この街の治安維持を担当する“ルプス”だ。

間違いなく何か。
極めて受け入れがたい何かが発生したと考えるしかない。
不安が顔に出たのを察したのか、男はとぼけたように話を続けた。

(`・_ゝ・´)「社長室へは、どなたも入れてはならないという命令があります」

(;´_ゝ`)「……封鎖はされているのか?」

(`・_ゝ・´)「はい、キーコードがなければ立ち入りは出来ないようになっています。
      万が一、許可がない状態で人が入ったのを機械が感知すれば5分で警備が到着します」

それはつまり、入ってから5分であれば部屋を見ることが出来るということだ。
その心遣いに感謝し、アニーは短く礼を言った。

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

エレベーターに乗り、すぐに社長室に向かう。
心臓が早鐘を打つ。
行くべきではないと足が震える。
体中の水分が冷や汗に変わり、足の裏に汗をかく反面、唇はひび割れを錯覚するほどに乾いている。

舌で乾いた唇を舐め、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
考えすぎだと言い聞かせ、エレベーターの扉が開くと同時に、アニーは義足で走り出した。
軋む金属の音と、床を蹴る硬い音、そしてアニーの呼吸音が暗い廊下に響き渡る。
社長室へと続く扉の前に薄らと光を放つ入力版には、0から9までの数字が並んでいた。

971名無しさん:2021/09/19(日) 08:29:05 ID:ctbjoZXk0
考え得るのは異常事態。
想像し得るのは緊急事態。
確信するのは最悪の展開。

(;´_ゝ`)「ちょっと社長室に向かわせてくれ」

(`・_ゝ・´)「……それが、現在社長室への立ち入りは一切禁止されています。
      例えオットーさんであっても、その許可をすることは我々には出来かねます」

(;´_ゝ`)「誰の権限だ?」

アニーの言葉はフィンガーファイブ社の権限で言うならば、その地位は第三位に位置する。
その言葉に対して、傭兵が放ったのは規定通りの言葉だった。

(`・_ゝ・´)「お答えできません」

だがそれは、アニーにとっては十分な情報だった。
フィンガーファイブ社に圧力をかけられる組織は二つ。
一つは内藤財団、そしてもう一つ。
この街の治安維持を担当する“ルプス”だ。

間違いなく何か。
極めて受け入れがたい何かが発生したと考えるしかない。
不安が顔に出たのを察したのか、男はとぼけたように話を続けた。

(`・_ゝ・´)「社長室へは、どなたも入れてはならないという命令があります」

(;´_ゝ`)「……封鎖はされているのか?」

(`・_ゝ・´)「はい、キーコードがなければ立ち入りは出来ないようになっています。
      万が一、許可がない状態で人が入ったのを機械が感知すれば5分で警備が到着します」

それはつまり、入ってから5分であれば部屋を見ることが出来るということだ。
その心遣いに感謝し、アニーは短く礼を言った。

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

エレベーターに乗り、すぐに社長室に向かう。
心臓が早鐘を打つ。
行くべきではないと足が震える。
体中の水分が冷や汗に変わり、足の裏に汗をかく反面、唇はひび割れを錯覚するほどに乾いている。

舌で乾いた唇を舐め、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
考えすぎだと言い聞かせ、エレベーターの扉が開くと同時に、アニーは義足で走り出した。
軋む金属の音と、床を蹴る硬い音、そしてアニーの呼吸音が暗い廊下に響き渡る。
社長室へと続く扉の前に薄らと光を放つ入力版には、0から9までの数字が並んでいた。

972名無しさん:2021/09/19(日) 08:29:25 ID:ctbjoZXk0
アニーは迷うことなくその数字を叩くと、扉は何の抵抗もなく開いた。
部屋に入った瞬間、アニーはそこに漂う匂いに違和感を覚えたが、その正体は分からなかった。
天井から床にまで至る大きな窓ガラスから街の明かりが入り込み、部屋の中を白と黒、そして群青色に照らし出す。
床に並ぶ三角形の札、黒い染み、砕けたガラス片、人型に白く囲われたテープ。

(;゚_ゝ゚)「……はぁっ、っはあっ!!」

あり得ない。
あり得ないと言い聞かせる。
眼前に広がる光景は自分には関係のない、全く別人のそれなのだと。
呼吸が乱れるどころではない。

心臓が乱れ、息の仕方を忘れ、思考が停止する。
足だけは、彼のあらゆる意志に反して前に向かって進み続けていた。
恐らくそれは、彼の脳髄の片隅に残されていた僅かばかりの理性だったのかもしれない。
目の前の現実を否定するため、更に深みへと突き進もうとする現実逃避のそれ。

正解ではなく不正解を求めるための歩み。
壁に飛び散っている黒い染みは、果たして、何なのか。
その正体を知る前に、アニーの背後でエレベーターが動き出す音がした。
気が付けば時間が来ていたのだ。

ようやくアニーの足が理性的な判断に従って、社長室を出てその扉の前で立ち止まることを選んだ。
エレベーターからライフルを持った男が二人降りて、扉の目で立ち止まるアニーに声をかける。

(`・_ゝ・´)「あぁ、アニーさんでしたか」

( ´_ゝ`)「あ、あぁ、ちょっと用があったんだけど、扉が開かなくてね」

茶番を演じ、三人はエレベーターで下の階へと戻った。

(`・_ゝ・´)「……それではお気をつけてお帰り下さい」

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

そして、アニーが車に近寄った夜10時23分。
それは何の前触れもなく始まった。

973名無しさん:2021/09/19(日) 08:29:49 ID:ctbjoZXk0
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同日 PM10:23
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爆発の衝撃でアニーは呆気なく吹き飛ばされ、植え込みに落下した。
傭兵二人は顔を庇っていた腕を退け、すぐに無線機を使って報告を始めた。

(`・_ゝ・´)「車輛が爆発した!!
      警戒しろ、襲撃の可能性が――」

だが、その報告は最後までされることは無かった。
男が突然口を噤むと、その場に倒れ込んだのである。
顔の左半分が失われ、誰が見ても即死の状態だった。
もう一人の傭兵もそれを追うようにして倒れ、赤黒い血溜まりが地面に広がる。

燃え盛る車の炎が死体を煌々と照らすが、襲撃者の姿はまるで見えない。
しかし、アニーには確信があった。

974名無しさん:2021/09/19(日) 08:30:54 ID:ctbjoZXk0
(;´_ゝ`)「ギコォォォォ!!」

アニーの叫び声は夜空に木霊し、返答の代わりに、彼の唯一無事とも言えた左脚の膝に大きな穴が開いた。
膝を撃ち抜かれ、たまらずに悲鳴を上げる。
何もできず、必死に両手で止血をする間、彼にできたのは遠くからサイレンの音が近づいてくるのを待つだけだった。
既にこの街にギコ・カスケードレンジが入り込んでおり、狙撃が出来る環境を整えているというのは極めて由々しき問題だ。

自分の身よりも、アニーが心配だったのはティンバーランドの重鎮二人の身だ。
今ここで自分が囮として相手を引き付けている間に逃がすことが出来る。
どうにかして連絡を取らなければと考え、這いつくばりながら死体となった傭兵の元に向かう。
彼らの無線機を使い、どうにか連絡を取ることができれば先手を打てる。

サイレンを鳴らして急行してきた5台のSUVがアニーを庇うようにして停車し、中から棺桶に身を包んだ男たちが降りてくる。
骸骨に抱かれるようなその姿は軽量の棺桶、キー・ボーイだった。

〔欒(0)ш(0)〕「大丈夫ですか?!」

(;´_ゝ`)「内藤財団に――」

言葉よりも、アニーの顔に男の脳髄が降り注ぐ方が早い。

〔欒(0)ш(0)〕「――っ狙撃だ!!」

次弾が次々と撃ち込まれ、キー・ボーイの薄い装甲の下にある急所を容赦なく破壊する。
大口径の狙撃中につきものである反動をまるで感じさせない精密狙撃を前に、駆け付けた男たちもたまらず車輛の影に逃げる。
アニーを車輛の影投げ飛ばした男は、首を撃ち抜かれ、首を傾げたままその場に倒れ込んだ。
銃撃が止むが、誰も物陰から出ようとはしない。

(;´_ゝ`)「……一人でこの街を相手にするつもりか」

その言葉を肯定するかのように、遠くから爆発音が響いた。
クラクション。
悲鳴。
おおよそニョルロックの日常とは無縁の物が、一気に夜の世界にあふれ出す。

この日、ニョルロックはたった一人の男によって戦場と化した。

975名無しさん:2021/09/19(日) 08:31:31 ID:ctbjoZXk0
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                                γ ⌒ ⌒ `ヘ
                             イ,,,, ""  ⌒  ヾ ヾ
                          /゛゛゛(   ⌒   . . ,, ヽ,,'' ..ノ )ヽ
                         (   、、   、 ’'',   . . ノ  ヾ )
                      .................ゞ (.    .  .,,,゛゛゛゛ノ. .ノ ) ,,.ノ........... ........
                      :::::::::::::::::::::( ノ( ^ゝ、、ゝ..,,,,, ,'ソノ ) .ソ::::::::::::::.......::::::
                        ::::::::::.:::::(、;''Y ,,ノ.ノ ,,,^ ^,,,;;;ノ)::::::::::::..:::::::::
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                                 ( ,,,人、..ツ. ノ ) ::::.:::::
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工___                       ミミ|彡ム-''~~ーv'~ ~:::::;;;::   i-‐i |~~|  |   |
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同日 PM10:31

内藤財団本社ビルの反応は、ニョルロックのどの組織よりも迅速で的確だった。
最初の爆発音の直後、重要な部署の窓に防弾シャッターが下りていた。
続いた銃声が鳴り響く頃には、社長と副社長、そしてその護衛は地下駐車場に降りていた。
駐車場に着くと同時に、新たな護衛達が三人の周囲を取り囲む。

社長、西川・リーガル・ホライゾンの隣に目出し帽を被った“ルプス”の戦闘部隊隊長のマッキー・シェリルが並ぶ。
爆発と発砲の現場がすぐ近くのフィンガーファイブ社であることを報告すると、リーガルは苛立ちのこもった声を吐き出した。

( ^ω^)「少し街を開けただけでこの治安の乱れ具合は何ですか」

(::0::0::)「申し訳ございません」

( ^ω^)「犯人の目的と目星は?」

(::0::0::)「いずれも不明です。
     4日前にいたずら程度の爆発騒ぎがあり、それと関係しているかと。
     他には何も……」

直後、マッキーの胸倉を掴み、持ち上げた男がいた。
ミルナ・G・ホーキンスだ。

( ゚д゚ )「嘘を吐くな。
     何があった」

976名無しさん:2021/09/19(日) 08:31:55 ID:ctbjoZXk0
彼の膂力であれば人間一人を、例え訓練で鍛え上げられた肉体を持つ男でさえも、簡単に縊り殺すことができる。
百戦錬磨の腕を誇るマッキーだが、生粋のイルトリア軍人だったミルナに膂力で勝つことはできない。

(::0::0::)「ぐっ……げぇっ……!!
     フィ、フィンガーファイブ社の……社長と……副社長が……暗殺されました……!!」

丸太のように太いミルナの腕を掴み、抵抗を試みるマッキーの声は次第にか細くなっていく。
僅かに見える目出し帽の奥にある顔は赤く変色し、目は充血している。

( ^ω^)「どうして黙っていたのですか?
     最優先で連絡するべき事柄でしょうに」

(::0::0::)「ごっ……極秘で……と……ツンディエレ様から……連絡があったと……
     ルプ……スの……事件責任者……が……」

その言葉を聞いた西川・ツンディエレ・ホライゾンは眉をしかめた。

ξ゚⊿゚)ξ「私が? そんな連絡、一切していません」

( ^ω^)「……図られましたか。 そうか、ギコ・カスケードレンジか。
     ミルナ君、降ろしなさい」

それまで機械のように直立していたミルナが手を離すと、マッキーはその場に倒れた。
咳込み、必死に息を吸う姿に目もくれず、リーガルとツンディエレは用意されていた防弾仕様の車に乗り込んだ。
ミルナはその扉に手をかけたまま、動きを止める。
番犬が主人の指示なしでは動かないのとは違い、彼の場合、何かを待っているかのようだった。

( ^ω^)「この街に入ってきたのか。
     復讐の為に? はっ、何とも健気な」

( ゚д゚ )「どのように対処いたしますか」

リーガルはミルナの顔を見て、意地の悪い笑みを浮かべた。

( ^ω^)「……同志ミルナ、君ならどうします?」

( ゚д゚ )「同志アニーはセフトートの担当です。
     彼をここで失うのは、いささか手痛い。
     何より、この街でこれ以上の治安悪化があるとなると、我々の歩みに支障が出ないとも限りません。
     ギコを撃退、もしくはこの街から排除する必要があります」

( ^ω^)「誰ならできますか?」

( ゚д゚ )「正直、並の人間では太刀打ちできないでしょう。
    だが、私と私の棺桶があれば何も問題はありません。
    奴のやり方は、私が一番知っています」

( ^ω^)「わかりました。 この一件、任せます。
     マッキー君、ミルナ君に全面的に協力し、この騒動に取り掛かってください。
     日を跨ぐことは決してないように」

977名無しさん:2021/09/19(日) 08:33:33 ID:ctbjoZXk0
(::0::0::)「かっ……かしこまり……ました……」

この決断により、ニョルロックで起きた戦争は第二局へと移ることになった。
果たしてそれがこの街にとって英断だったのか、それとも愚断だったのか。
当然、その判断を下すのは後の歴史であり、他の誰かだ。

( ^ω^)「全て、予定通りに行います。 
     後で合流しに来てください」

( ゚д゚ )「かしこまりました」

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      ,.。>      /ハ ゚,}:::ソ j/∧ / | ./ .,゚/ _   } 〈 《l! .!` ーヽ
   ──ァ      // i !{::} ,゚ / ∨  {/  {′\ jぇリ、}_!|} ハ
       ,リj     / 八 `゚ /./               `  r‐ァ| |`ヽ
        ハリ  ///   ゚ヽ ミ,′               ∨rxハ
       ,リ/ //∧   ┃                 ∨ `ヽ 「失敗は許しません
      //,イ゚゙___ミ}_  ┃               ¬ _〉           断じて」
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三三≧x代三三三三二二二7        _,.。-_ ノ
三ニニニ≧x三三三二ニニ7≧x        `ヽ(
三三三ニニ≧x三ニニニニ∧:.:.:.:.:.:>、        r‐’
三三三ニニニ≧xニニニニ7 {:.:.:.:.:.:.:.:_:.>、    {
三三三三ニニニ≧二ニニ7  ミ'⌒ヽ´、  `¨ ー‐┛
三三三三三三三三≧xニ】   }   ∧V≧x
二二二二二二二二二¨≧x   r'三三三ム
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同日 PM10:45

トラギコ・マウンテンライトとオサム・ブッテロはイルトリアでの働き口を探していたが、素性の知れない人間を雇い入れるのはいずれも性産業だけだった。
彼らが追っている人間が男であれば、風俗店に足を運ぶことを考慮して待ち伏せをすることができる。
だが、あいにくと性別は勿論、そうした店には寄り付くような相手ではない。
仕方なしに二人は性産業の日雇い用心棒として働くことにし、当面の間、街に滞在するための資金を調達することに成功していた。

(=゚д゚)「……」

とはいえ、例え風俗店であってもイルトリアの街で粗相を働く人間はほとんどおらず、客層は落ち着いたものだった。
客層のほとんどが傭兵、もしくは軍人であり、トラブルはほとんど起きない。
トラブルを起こせばどうなるのか、彼ら自身がよく分かっているのだ。
だが稀に、店の女に入れ込むあまりに冷静さを欠いた人間が現れることがある。

978名無しさん:2021/09/19(日) 08:33:59 ID:ctbjoZXk0
その際、居合わせた軍人たちが手を出すことがあるが、店側としては穏便に済ませたいという意向がある。
そこで、適度な力を持つ人間が用心棒として店にいれば、派手な騒ぎに発展させずに店を継続できるという利点がある。
風俗店はその性質上、あまり公に仕事をすることができない。
半ば黙認された存在である風俗店が仕事を続けるためには、目立たないことが重要なのだ。

支給されたスーツを着て、トラギコは控室でラジオを聞きながら、新聞を読み、そしてカフェインレスコーヒーを飲んでいた。

【占|○】『臨時ニュースをお伝えします。
     現在、ニョルロックで大規模なテロが発生したとのことです。
     死傷者の数は不明。
     また、テロ実行者の声明も出ておらず、現在治安維持組織“ルプス”が対応に当たっています』

(=゚д゚)「……へぇ」

( ゙゚_ゞ゚)「意外だな、ニョルロックでテロなんて」

ホットドッグに齧り付き、コーラを飲むオサム。
その態度からは、このニュースに対して大した興味もなさそうな印象を受けるが、次の言葉がそれを否定した。

( ゙゚_ゞ゚)「前にあの街で仕事をしたが、死ぬかと思った」

(=゚д゚)「良く生きてたラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「命からがらってやつだ。
    おかげで、もう一度あの街に行けば俺は蜂の巣にされる」

殺し屋として名を馳せたとしても、それが生み出すメリットは報酬と依頼数の向上だけだ。
実際問題、あまりにも名が知れ渡れば、様々な街で命を狙われる側に回るため、仕事をする場所は重要な要素になる。
イルトリア、ジュスティアは勿論だが、ニョルロックもまた、犯罪者にとっては心の休まる場所ではない。
この街にオサムが足を踏み入れてもまだ五体満足でいられるのは、彼がここで仕事をしたことがないからなのだろう。

(=゚д゚)「しかし、よっぽどの相手だろうな。
    こうしてニュースになるぐらいラギ。
    普通は大事にならない内に収束させるもんラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「隠す余裕がないってことか。
     職業病が出てきたか?」

すっかりぬるくなったコーヒーを一口飲み、トラギコは答えた。

(=゚д゚)「いいや、俺には関係のない話ラギ。
    ただ……」

( ゙゚_ゞ゚)「ただ?」

(=゚д゚)「よっぽど骨のある奴がやってるんだろうな、ってだけラギ。
    信念のある相手は、いつだって厄介ラギ。
    どうなるのか、ちょっとだけ気になるラギね」

979名無しさん:2021/09/19(日) 08:35:41 ID:ctbjoZXk0
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           _,-‐" ̄ ゙゙゙̄'''‐-、
          /          ヽ、
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      / .  i i        i! i    i
       //   i i∧i i i!  i! i i i   i
     / i i i i! i/`ト、i!  i!i i!i\i!  i
.       i.! i ト, ´/ ̄ !i゛レ i/i i丿\i  i
        ! lト.i |         i  ヽ\i
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            ̄L ‐"   //     __ヽ
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              ヽ/'"             \
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同日 同時刻

同じジュスティア人のニダー・スベヌはトラギコと似た感想を抱いていた。
普段浮かべている笑みとはまるで別の、最高のおもちゃを目の前にした獣の笑みが一瞬だけ浮かぶほどだった。
しかし、その笑みを見た人間はその場に誰もいなかった。
だが声をかけられる人間はいた。

<ヽ`∀´>「……アサピー、ウリはちょっと外に行ってくるニダ」

(-@∀@)「あ、じゃあ僕も行きます」

ホテルのベランダから望遠レンズで爆発現場を撮影していたアサピー・ポストマンは、すぐにカメラのレンズを交換し、準備を済ませた。

<ヽ`∀´>「危ないニダよ」

(-@∀@)「ってことは、ライバルはいないってことですからね」

根っからのカメラマンであるアサピーにとって、大都会での大事件はカメラマン冥利に尽きる物だ。
今しか撮影できない物に溢れている現場に、誰よりも早く駆け付け、誰よりも多くの写真を収める。
強迫観念ともいえるその使命感は、だがしかし、彼の中では冷静な判断によって制御されていた。
ジュスティア市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤが二人をこの街に派遣したのは、決して偶然の類ではないはずだ。

何かが起きると確信し、備えるためだろう。
ではその備えに、アサピーが選ばれた理由は何か。
彼にしかない武器があるからだ。
写真を撮る、ただそれだけ。

たった一枚の写真が世界を変え得ることを、フォックスは知っているのだ。
ならばここでアサピーが尻込みする理由がない。
信頼に応え、報いることが何よりも重要なのだ。

(-@∀@)「あの子はどうします?」

<ヽ`∀´>「……そのままでいいニダ」

980名無しさん:2021/09/19(日) 08:36:03 ID:ctbjoZXk0
イモジャ・スコッチグレインは今、隣の部屋で眠っている。
両親の急な出張によって再会ができなかった彼女は、しばらくの間ニダーたちと行動を共にする選択をした。
彼らにとっては別に問題にはならないが、今の状況では、彼女の存在は問題だった。
万が一二人が何らかの事件に巻き込まれた時、イモジャの存在を利用しようとする人間がいないとも限らない。

ほぼ無関係の幼子を巻き込むのは二人の本意に反するため、緊急事態の際には距離を取るべきだと決めていた。
今夜二人が彼女を置いてどこかに立ち去ったとしても、宿泊先のホテルについては会社の人間に伝えてあるため問題はない。
多少、心に傷を負うかもしれないが、これからの長い人生で見ればかすり傷のような物だろう。

<ヽ`∀´>「じゃあ、ウリたちの仕事を始めるニダよ」

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                         /ヽ     _,,      イリ
                        / ̄ ̄`ヽ        /ヘ:\
               圭二二ニ=─-、_)、_____/   ∨::\、
                   /, ′/´ ̄ ̄`ヽ 八  /       ',::::::∧`:::...、、
                _ .. ´.::/    , -―- 、__ソ /二∧      j!:::::: ∧:::::.:.:.:` . . 、
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          . . : : :.:.:.::::::::l      ////`ヽ丿 ∨/V〃\ /  ! :::::::::: ∧:::::.:.:.:. . . . .
          . . . : : :.:.:.::::::::l    `Y/////ヽ }//{    ′  ! ::::::::::::: ∧:::::.:.:.:. . . . .
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同日 同時刻

ラジオでニョルロックの速報を聞くより早く、ジュスティア市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤはその情報を手に入れていた。
正確に言えば、四日前に起きた爆発事件の情報も彼の耳に入っていた。
今の彼にとってはニョルロックでの騒動は大した興味の対象ではないが、別件と連動していると考えると、多少の興味も湧いてくる。
葉巻を口に咥え、フォックスは呟いた。

爪'ー`)y‐「……騒がしくなるだろうね。
      さて、我々の備えが万全か、そろそろ分かるか」

その呟きは自分自身に対して。
あるいは、彼が持つ受話器の向こうにいる人間に対してか。

爪'ー`)y‐「そっちの調子はどうだ?」

すぐに帰ってきた返事に、フォックスはめったに見せない素の笑顔を浮かべた。

爪'ー`)y‐「ははっ、それはそうか。
      そう言えば、私のプレゼントと手紙は届いたか?」

次に受話器の向こうから聞こえてきた言葉に、フォックスは目を丸くして驚いた。
憤りや怒りの驚きではなく、純粋に数奇な巡り合わせというものに驚いたのだ。

爪'ー`)y‐「本当か。 いや、そんな指示は一切していない。
      まぁ結果としては良かったのかもしれないが、そうか、ふふっ……
      少し迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼むよ」

981名無しさん:2021/09/19(日) 08:36:42 ID:ctbjoZXk0
そう言って葉巻を咥え、煙を口に含み、舐めるようにして味わう。
深く息を吐きだし、フォックスは続けた。

爪'ー`)y‐「そうだ、うちの情報を共有させてもらおう。
      “ミラーフェイス”と“影法師”からの情報を合わせると、今夜、ブーオで何かが起きるらしい。
      あぁ、そうだ。 もう出し惜しみはなしだからな。
      ……そうか。 なら、“影法師”にもそう伝えておこう。

      ふふっ、久しぶりだな、こんなに心躍るのは。
      祭りの前日みたいな気分だよ。
      あの日以来だよ、こんな気分になるのは。
      あぁ、そっちも元気でな」

受話器をそっと置いたフォックスの顔には、まだ笑みが残ったままだった。

爪'ー`)y‐「さぁて、あっちもこっちも大騒ぎだが、どう動くかな。
      この一手、見守らせてもらおうか」

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_ _ ), . : : : ;  `¨⌒>.:.:.:.:.     . : : : :  ; .:.:.:.:.:.:::::::::::::::::::::::::::⌒'爻: : : _ _彡'⌒〜 ノ'´´: :⌒
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爻::::::ノ⌒¨^´  ノi:i:i:《_,、-〜〜ミ::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::_,、シ:   \ `丶ノ  ノし  j乂. . :xX
慫慫爻⌒:::.:.:)ノ⌒X'^´: : : : : : : ミx:::::::::::::::::::ノ⌒ヽ::::7´ 乂  . .)、   ). . : : : : : : ノし爻父
慫爻⌒::::::ノ´ : . .  `: . .  . . : : 爻x'^^'<⌒. . : : :爻.. . . :爻⌒  . . : : .:.:.:::,xX爻淡慫慫
慫淡爻'⌒::: : : 乂__ノ´:::::爻., . . : ノ´ ). . :)   . ノ: . .  ≫爻父: . .: ,xX爻淡慫慫慫淡慫慫
慫慫淡爻⌒.: .: : ノ'´::::::ノ:.:.:.:爻'´. . . : : : x'⌒ 爻、、、xX爻爻淡淡慫慫戀戀戀戀戀慫戀戀
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982名無しさん:2021/09/19(日) 08:38:38 ID:ctbjoZXk0
同日 PM11:01

ブーオの夜は波の音と森のざわめきが島中を包む、穏やかなものだ。
夜空には雲一つなく、澄み切った空気の中に、大きな月の姿が浮かんでいる。
もしも島の中に、天体観測に使用する望遠鏡を使い、月を見ている人間がいたら、その後の何もかもが変わったのかもしれない。
島に入るためには海を渡らなければならない。

その固定観念が島に大きな防衛の穴を作っていることに気づいてはいたが、歴代の市長たちはそこまで重要視していなかった。
上空3000メートル。
音もなくそこを漂う、一隻の飛行船がいた。
全体を夜空と同じ深い群青色と黒で塗装し、一切の明かりも漏れ出ていない。

酸素マスクを装着した男が、格納庫に向けて静かに言葉を発した。

(::0::0::)「目標降下地点に到達。
     降下準備」

格納庫には一人の女が座っていた。
化粧で固めたかのような笑顔を貼り付けた女は酸素マスクを外し、立てかけていたコンテナを背負う。

(::0::0::)「いつでもいいぞ」

その言葉を聞いた女は笑みを浮かべたまま、囁くように言葉を紡ぐ。

从'ー'从『さぁ、坊や。さぁ、さぁ、よい子の坊や。さぁ、さぁ、さぁ、眠ろうか』

まるで子守歌の様な言葉が続いた直後、女の体はコンテナの中に取り込まれていった。
そしてそのコンテナが開き、次に姿を現したのは、黒い外套を身にまとった死神を思わせる異形だった。

/、゚買゚〉

真紅の輝きを放つ双眸。
手にした巨大な三角錐。
そのいずれも、敵対する存在に対して最大級の畏怖を与えるためのデザインだ。
事実、その強化外骨格は死を振り撒くことに特化した物であり、“プレイグロード”の起動コードはある意味で皮肉に満ちたものだった。

それまで格納庫を照らしていた明かりが赤色に変わる。
格納庫の扉がゆっくりと開き、外気が一気に入り込んでくる。
凍えるような冷たい風の中、男は指を三本立てた。

(::0::0::)「降下3秒前」

プレイグロードが一歩前に踏み出す。

(::0::0::)「降下2秒前」

三角錐の主兵装“ファイレクシア”を腰に固定し、更に一歩を踏み出す。

(::0::0::)「降下1秒前」

983名無しさん:2021/09/19(日) 08:40:22 ID:ctbjoZXk0
その背中には強化外骨格用のパラシュートが装着されている。
すでにその体は空と格納庫との境目に来ており、もう一歩を踏み出せばその体は虚空へと投げ出されることになる。

/、゚買゚〉『行ってきまぁす』」

甘い、糖蜜のような声でワタナベ・ビルケンシュトックはそう言って、最後の一歩を踏み出した。
この夜。

(::0::0::)「“厄病女神”の降下を確認。
     上空で待機、観測を行います」

――ブーオの空から、殺戮が降ってきた。

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.              _,ノ  ̄ ̄ ̄\_
         _彡 ̄ ̄`\     \\
          /^丶、             }}}`、
         \、`¨¨¨¨\      /  \
        \ 'ニ=- .._ \    /    ,ハ二ニ=‐-
          { 'ニニニニ=-   │/  / }‐-=ニ二ニ\
          \ \二二二{  // /  /      }ニ二\
           ヽ、 ̄ ‐ニニ{///  /   /    /ニニニ二
                  ̄\\}/__/  //    /ニニニニ二
                     ア゛ _.. -‐=ニ/    /ニニニニニ二
                 / ∠二二ニニ    /ニニニニニニ二
                   /∠二二二ニ=-‐=ニ二二二ニニニニニニ\_
                  /          \ニニニニニニニニ二二二二{
              // ̄ ̄\      \ニニニニニニニ_二(⌒
                //        }        'ニニニ二二二二 }ニニ
            l |        /     |   |二二ニニニニニ}}ニ(⌒
            l |     /       /  |.ニニ二/ニニ二{{二⊂
               l l    /    /   / 二//ニ二二二}\二
              /l  l    /    /    _ニ/ /二二二二{  \
.             |   l  /   /     //  /-/ニニニニ\
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 同時刻

最初に気づいたのは、市長邸宅の中庭を警備する犬だった。
空から降ってくる黒い影に気づき、吠えたてるが、平和に慣れていた警備兵はそれを大して気にも留めなかった。
しかし、月明かりが陰り、己の足元に別の影が降りていることに気づいた時、彼の顔は上空に向けられた。
直後、彼の目は自分の背中を見て、犬と共にそのまま絶命した。

物音を聞いた警備兵たちが中庭に立つ禍々しい棺桶を目視した時、警告ではなく発砲が優先された。
対人用の弾は黒いローブに阻まれ、地面に落ちていく。

( 0"ゞ0)「襲撃だ!!」

984名無しさん:2021/09/19(日) 08:40:48 ID:ctbjoZXk0
本番のように訓練を受け、訓練通りに本番を迎える。
その教えが、警備兵の一人に警報を鳴らさせるという行動をとらせた。
邸宅中に鳴り響く警報音。
無数のライトが一面を照らし、まるで真昼の様な光景を作り出す。

浮かび上がる人影。
そして、遅れて空から落ちてきたパラシュート。

/、゚買゚〉『訪問よぉ』

腰に手を伸ばし、そこにある三角錐“ファイレクシア”を手に取る。
巨大な鉄塊を悠然と構え、そして、赤く染まった先端部をワイヤー誘導で射出した。
避けることも、目視することも敵わないまま、警備兵の一人が生きたまま串刺しにされる。

( 0"ゞ0)「おごっ……ふっ……!?」

警備兵はそのまま横薙ぎに振り回され、仲間たちに体をぶつけられる。
その衝撃で警備兵は全身の骨が砕かれ、内臓は破裂し、血反吐をまき散らしながら宙を舞う。
途中、男の腹部からファイレクシアが抜け、絶命寸前の体は市長邸宅窓ガラスを破って市長の眼前に転がり込んだ。
ガガーリン・ザラキは悲鳴を上げた。

川_ゝ川「いやあぁぁぁ!!」

だが、現場で対応をしている人間達は彼女の悲鳴も、恐怖も気にしている暇も余裕もなかった。
直ちに棺桶を装備した部隊が出動し、現場へと急行する。
その間にプレイグロードは歩きながら邸宅へと向かい、道中に現れる警備兵たちを一人、また一人と屠っていった。

( 0"ゞ0)「応援を!! 軍隊でもいいから寄越してくれ!!
      相手はプレイグロードだ!!」

そして始まった棺桶同士の戦闘は、ブーオ史上最も激しいものとなっていった。
重装備の“アストレア”はブーオの守り神であり、全土に配備されている量産型のBクラスの棺桶。
白、黒、そして赤色の特殊なカラーリングを除けば、その姿はどこかジョン・ドゥを思わせるものがあるが、こちらは“名持ち”の棺桶だ。
拡張性、そして汎用性共に優れた物があり、何より運動性と防御性能は極めて高い数値を誇っている。

そして、ブーオが使用するアストレアは全てのそれが腰に大型の高周波刀を装備しており、近距離戦においては絶対的な自信を有している。
彼らは一日たりとも訓練を怠らず、外部からの侵略行為に向けて備えていた。
対応にあたったのは、邸宅に控えていた10機の棺桶持ち。
地面に転がり、戦闘不能になっているのがその内の4機。

985名無しさん:2021/09/19(日) 08:42:30 ID:ctbjoZXk0
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       弋__/〉/f´/ /l 「|/ ,.ィア≠二アハV| |ヽ
        ` <.{ {l./ }/  ̄}イ//)\ V∧Ⅵ ∧
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.           .′{/ / /rイ/ ヽ\/{__>"´}」::::::∧
            Ⅵ{ .r┴{マヽ\ >"´─=彡イ \|ヽ.∧
            V.八  ∨/<:::` ー──=イノ     \!
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                 rィ「几r=ミ / /
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<]゚王゚[>『せあああぁぁぁっ!!』

気合と共に、隊長機が正面から一気に距離を詰める。
それに合わせ、後方、左右から味方も接近する。
しかし、プレイグロードの使用者は彼らの想定をはるかに超えた力量の持ち主だった。
倒したアストレアの落とした高周波刀をファイレクシアの先端部で絡め取り、それをワイヤー誘導で振り回しているのだ。

そのため、接近するためには死地に潜らなければならず、隙を突いたつもりの味方が次々と倒されていった。
それを打破するため、隊長機は捨て身の覚悟で死地に踏み込んだのである。
ワイヤー誘導の得物は、その先端の動きを事前に使用者の手元が教えてくれる。
それを見極め、隊長機はワイヤーの内側へと入り込む。

プレイグロードで最も恐れなければならないのは、ワイヤー誘導で繰り出される一撃ではない。
真に恐れるべきなのは、ファイレクシアに装填されている猛毒“D-VXガス”だ。
だがその猛毒は現代の技術で復元するには莫大な資金が必要であり、一介のテロリストが入手できるものではない。
世界中でテロ行為を行う集団でさえその入手は困難とされており、こうして現れた正体不明の人間がその毒を手にしているはずがない。

もしも毒を手にしているのならば、こうして戦う前に散布し、決着させることが出来たはずだ。
毒を持たない蛇を恐れることのないように、隊長機は確信をもって決着を急いだのだ。
その光景を、500メートル離れた建物の屋上に到着した狙撃部隊の隊員達が目視する。
既に対強化外骨格用の弾丸を装填した狙撃銃を構え、発砲の機会をうかがっていた。

高倍率のスコープの中では黒い影同士が争っているようにしか見えないが、特徴的なシルエットが狙撃手に正確な情報を伝える。

<]゚王゚[>『狙撃位置に着いた、これより発砲を開始する』

踏み込んだ隊長機がワイヤーを切断し、攻撃の手段を奪う。
そしてそのチャンスを、周囲の部下たちも見逃さず、一気に接近し――

<]゚王゚[>『あぐっ……げあぁぁぁあっ!!』

986名無しさん:2021/09/19(日) 08:43:30 ID:ctbjoZXk0
全員がその場に倒れ、虫のように、陸に捨てられた魚のようにもがき苦しみ始めた。
その声は人間の発するものとはとても思えないほどに歪み、おぞましい物だった。
断末魔の叫び。
屠殺所の家畜の悲鳴。

消える寸前の命の炎が放つ輝き。
プレイグロードの毒が散布されたことを何よりも如実に物語る光景は、狙撃手たちの指を凍り付かせた。
手にすることが出来ないはずだと思われていた毒が実在し、使用された。
既に周囲の警備兵たちは生きていることを後悔する苦しみに苛まれた挙句、絶望の中で死んでいくのだろう。

絶望が声となったそれが、少し、また少しと消えていく。
やがてその声が消え、思い出したように誰かが口走る。

<]゚王゚[>『くそっ、撃て!!』

狙いを定めた者から銃爪を引き絞り、必殺の弾丸を放つ。
しかし、黒い棺桶は近くのアストレアを掲げ、その銃弾を防ぐ。
こちらの姿を目視したのか、それとも、殺気だけを感知しての技か。
大口径の銃弾が強化装甲をえぐり、砕くがプレイグロードには届かない。

ついに、邸宅の一角にある木の陰に隠れ、姿を見せなくなった。
温度感知式のカメラに切り替え、まだそこに隠れているのを見て安堵する。

<]゚王゚[>『奴は木の影にいる、誰か、頼む!!』

『――僕たちが止めて見せます』

『行くぞ』

その声はマイクを通して警備兵たち全員に届いた。
ブーオが誇る二人の守護神。
“慈愛のラキ”と呼ばれるラキ・マハトラーマ、そして“苛烈のスーラン”の渾名を持つスーラン・ラザトゥーユの声だ。
これまで街を襲った未曽有の災害、大規模な侵略行為。

それら全ての害悪から街を守るため、ブーオは守護神と謳われる2名の腕利きの棺桶持ちを選出している。
歴代の守護神たちが使用してきたアストレア・カスタムを引き継ぎ、改良し、今日に至る。
中でもラキとスーランは最も優秀な守護神と評され、持って生まれた才能も、訓練を経て身に着けた実力も最高のものだ。
市長邸宅から飛び出した二機の棺桶は、迷うことなくプレイグロードに襲い掛かった。

<]゚王゚[>『あああああ!!』

両手に構えた大型の高周波刀を振り下ろしたのは、スーランだった。
近接戦闘において比類のない技術を有する彼の一撃を、プレイグロードはその場を十分すぎるほどの後退で凌いだ。
後退した直後、プレイグロードの体を大口径の対強化外骨格用の銃弾が襲った。

<]゚王゚[>『ちっ!!』

987名無しさん:2021/09/19(日) 08:45:51 ID:ctbjoZXk0
両肩、両腰、そして両手に銃身を切り詰めたライフルを装着した射撃特化のカスタム機。
ラキの第一射で仕留められなかったのは、プレイグロードの体を覆う分厚い特殊布のせいだ。
だがその布を貫通し、装甲にかなりの打撃を与えられたのは間違いない。
その証拠に、プレイグロードはその場に倒れ、動かなくなっている。

<]゚王゚[>『スーラン、そいつは殺すな!!』

<]゚王゚[>『分かってる!!』

ガスがなければプレイグロードは恐れる必要がない。
牙を失った毒蛇など、容易に命を落とす。
ラキが作った勝機が薄れる前に、スーランは一気にプレイグロードに接近していた。
彼らに余計な言葉はいらない。

/、゚買゚〉『ふぅん……!!』

バッテリーを破壊しようとしたスーランの斬撃を、プレイグロードは地面を転がって回避した。
転がる先にラキが次々と射撃を行う。
一度に六発の銃弾が放たれ、プレイグロードの装甲が次々と剥がれ落ちていく。

/、゚買゚〉『いいのかしらぁ、そんなに撃っちゃって!!』

<]゚王゚[>『……ラキ、下がれ!!
     こいつはまだ毒を持っている!!』

その警告は早く、次に取った行動も早かった。
だが、遅かった。
プレイグロードは腰から朱色の弾頭を取り出し、それを宙に放り投げていた。
既に地面は何かで濡れたように黒くなり、毒が漏れ出ていることを暗に示している。

スーランはその場から一気に距離を取り、毒ガスを吸い込まないよう、液体が付着しないように遠ざかる。

<]゚王゚[>『スーラン!! 弾頭を!!』

弾頭が衝撃を受ければ中の毒ガスがあふれ出し、それが夜風に運ばれて周囲に甚大な被害をもたらすことになる。

/、゚買゚〉『守ってみせてよぉ!!』

プレイグロードが立ち上がり、ファイレクシアを構える。
その構えを見る前に、ラキは発砲準備を終えていた。
だが銃爪は引けない。
相手がどれだけの数の毒を所有しているか分からない以上、銃撃は出来ない。

もしも、プレイグロードが別の毒を持っていたとしたら、ラキの銃撃はそれだけで多くの被害を生む。
特に気をつけなければいけないのは、プレイグロードが身にまとっている繊維の下の存在だ。
防弾繊維というだけでなく、こちらの目から武装を隠すという効果もある。
目視できない位置に毒の塊があれば、それだけで脅威となる。

988名無しさん:2021/09/19(日) 08:46:22 ID:ctbjoZXk0
スーランを含め、近くに誰もいない状態になって初めて銃撃が可能になる。
最悪のパターンはバッテリーに被弾し、誘爆することだ。
ファイレクシアの先端には今、何も付いていない。
宙に放られた猛毒が落下することを避けるため、スーランは呼吸を止め、一気に跳躍した。

/、゚買゚〉『真っすぐだけど、面白くないわねぇ』

心底退屈そうな声がスーランの下から聞こえてきたと思った瞬間、プレイグロードは構えたファイレクシアをスーラン目掛けて投擲した。
咄嗟にスーランは上体を反らし、その攻撃を回避する。
超人的な反射神経と運動能力が可能にしたその曲芸は、だがしかし、彼の寿命を縮めることになった。

<]゚王゚[>『しまっ……!!』

ファイレクシアは彼が掴もうとしていたD-VXガスに直撃し、目の前で砕けた。
猛毒が一瞬で空中から地上に散布され、その直撃を受けたスーランの絶叫が夜の空に木霊する。

<]゚王゚[>『スーラン!!』

生きながらに死に貪られる恐怖。
その中でも、スーランは己の使命を忘れてはいなかった。

<]゚王゚[>『ラ……ラキ……!!
     ガ、が……ガガーリンを……!! だのむっ……!!
     ――ブーオに栄光あれ!!』

その言葉が引き金となり、スーランの体を包んでいたアストレアがまばゆい光を放ち、爆散した。
二人に与えられた棺桶にだけ搭載された自爆装置。
それは機密情報を守るだけでなく、彼が仕留め損なった場合、爆発の殺傷範囲内にいるであろう敵を諸共に爆殺するための最後の牙だった。
半径10メートル以内の全ての酸素を燃やし尽くす業火は、D-VXガスにとって数少ない弱点でもあった。

D-VXガスはその性質上、解毒剤が存在しない。
しかし、万が一それが流出した際の対抗策は用意されていた。
ある一定の――極めて高い――温度以上の炎によって蒸発し、無力化することが出来る。
彼らのアストレア・カスタムの自爆装置がもたらす爆炎の最高温度は約三千度。

耐熱性に優れることを自慢にする棺桶でさえ、その炎に耐えられるのは極一部だけだ。
プレイグロードには当然、その炎に耐える術はない。
周囲の酸素を食らいつくすようにして燃え、に風が爆心地に向けて吹き荒れる。
燃えカスと灰だけが残された空間には、プレイグロードの姿はなかった。

<]゚王゚[>『スーラン……!!』

幼馴染が最後に見せた命の輝きを、ラキはまだ受け止められずにいた。
最高の相棒であり、最強の守り神がこうも呆気なく死んだとは、とても思えないのだ。
しかし、自爆によって生まれたクレーターと灰燼が何より如実に彼の死を物語っている。
受け入れるしかない。

989名無しさん:2021/09/19(日) 08:46:49 ID:ctbjoZXk0
――スーランの死も、自爆する寸前に棺桶を破棄してその場から襲撃者が一瞬で逃げたことも。
優れた運動性能がないとしても、事前にこちらの動きを予期した上で後方に全力で跳躍しつつ装甲を脱ぎ捨てれば慣性に従ってその使用者だけが高速で離脱できる。
何度も視線を潜り抜けた棺桶持ちならば知っている、ある種の応用技だ。
その襲撃者が若い女であることもまた、受け入れなければならないことだった。

从'ー'从「まったく、もうちょっと楽しめないのかしらぁ」

若い女は僅かに振り返り、ラキを見た。
その両手は胸の前で何かを抱いているように見えた。

<]゚王゚[>『お前だけは……!! 許さない!!』

从'ー'从「許してほしいなんて言ってないわよぉ」

<]゚王゚[>『何で、こんなことを!!』

女は少し考えるようにして仰ぎ、自分の胸を抱き込むようにして俯いた。

从'ー'从『この手では最愛を抱くことさえ叶わない』

何かが女の手の中でうごめき、そして、その両手に禍々しい鉤爪が現れた。
Aクラスの棺桶であることは間違いないが、飛び道具を持っている様には見えない。

<]゚王゚[>『ここで!! お前を!! 止める!!』

六つの銃腔が女に向けられ、銃爪が引かれた。
いずれの弾も命中すればそれだけで死に至らしめる威力を有しており、脚部の強化がない状態の人間には回避など無理な射撃だ。
醜い肉塊に女の姿が変わることを幻視したラキは、次の瞬間、驚愕にその双眸を見開くことになる。

<]゚王゚[>『なっ――』

从'ー'从「理想だけじゃあねぇ」

明らかに人間の脚力ではない速度で移動した女は、瞬く間にラキの足元に出現していた。
射撃武器がメインのアストレア・カスタムでは即応できない距離。
女の鉤爪が不気味な音を発していることにその時初めて気づいたが、反応が追い付かなかった。
膝関節の一部を切り落とされ、ラキはその場に膝を突く。

理由よりも、理屈よりも、ラキの体は染み付いた戦闘本能に従って動いた。

从'ー'从「……っと」

必殺の銃声が三つ響く。
女は高々と跳躍し、一瞬の内にラキの背後に回り込む。
その隙にラキは間合いを取り、体勢を整える。

<]゚王゚[>『マックスペインか……!!』

990名無しさん:2021/09/19(日) 08:49:38 ID:ctbjoZXk0
刹那の邂逅で、ラキは女の首筋に僅かな注射痕を目撃していた。
激痛と引き換えに人間離れした筋力を得られる薬物ならば、このバカげた戦闘能力の高さも頷ける。
効果は一時間。
ブーオにとっては、絶望的ともいえる時間の長さだ。

しかし、プレイグロードの破壊に成功したのは大きな功績だ。
近接戦闘を得意とするスーランと引き換えに得たその優位性を、ここで失うわけにはいかない。
増援が合流するまでの辛抱だ。
ほぼ生身の人間に恐怖するなど、ありえない。

从'ー'从「さぁ、どうやって遊ぼうかしらぁ?」

<]゚王゚[>『……遊ぶ? 殺し合いを、遊びだと思っているのか、お前は!!』

恐怖を克服する術を、ラキは知っている。
心を殺し、無慈悲を徹底するための訓練で得た一種の能力。
女が使ったマックスペインとは違い、こちらは一時的な力ではない。
幼少期から彼らは催眠と薬物投与により、自己催眠による戦闘力の向上を可能としている。

心の中に種を抱え、それを発芽させるイメージ。
激昂したラキは次の瞬間、まるで凪いだ海のように静かな心境となり、あらゆる無駄を削った正確無比な戦闘機械へと切り替わった。
腰の鞘から小型の高周波刀を逆手に構え、疾駆する。

从'ー'从「あらぁ?」

左右から繰り出した合計七回の斬撃。
女はそれを全て見切ったかのように、両手の鉤爪ではじき返す。
膂力ではラキの圧勝だが、女の技量はラキのそれを凌駕している。
この殺し合い、最後に勝つのは意地を貫き通した方だ。

<]゚王゚[>『お前の様な奴がいるから、争いは消えないんだ』

从'ー'从「だから何ぃ?
     人の本質でしょう?」

<]゚王゚[>『違う、人の本質は理解し合うことだ』

更に速度を上げた三度の斬撃は、全て寸前のところで回避される。
逆に女は躱しざまにアストレアの装甲に傷をつけていく。
どれも致命傷にもならない浅い傷だが、まるで甘噛みされているかのように心が落ち着かない。

从'ー'从「私のコミュニケーションは殺すことなのぉ。
     頭ごなしに否定されると傷つくわぁ」

<]゚王゚[>『うるさい、もう、黙っていてくれ』

从'ー'从「あらぁ、対話を拒むのかしらぁ?」

刃の嵐のように、二人は斬撃を繰り出し合う。
高周波振動をする刃同士がふれあい、悲鳴のような音が上がる。

991名無しさん:2021/09/19(日) 08:51:51 ID:ctbjoZXk0
<]゚王゚[>『お前のは対話じゃない、ただの殺戮だ』

从'ー'从「人を殺すって、とっても気持ちいいのよぉ?
     その人の人生がそこで終わるの。
     あぁ、今日までせっかく善人でいたとしても、一瞬で終わるのよぉ。
     この手で、終わらせてあげられるのぉ。

     今頃、街の人たちもそうやって終わっているはずだけど、あなたは気づかないでしょう?
     そんなものよぉ」

<]゚王゚[>『なっ……!!』

その動揺が、ラキにとっては致命的であり、女にとっては絶好の機会だった。
僅かに遅れた斬撃の隙間を、女の一撃は見逃さなかった。
滑りこむ様にして脇の下の装甲の隙間に入り込み、その奥にあるケーブルを切断する。
両腕の駆動系を破壊されただけでなく、ラキの体にまでその一撃は到達した。

血管の集中する場所への一撃は、彼の体から一気に血液を奪い取った。

<]゚王゚[>『あっ……がぁっ……』

从'ー'从「あははっ!! ね?
     さっきまで元気だったのに、いい事言っていたつもりなのに、呆気ないでしょう?
     これまでの人生の何もかもは、こうやって私に殺されるためにあったのぉ」

<]゚王゚[>『ぶ……ブーオに……』

从'ー'从「あぁん、駄目よそんなことしたら」

ラキの喉を、鉤爪が貫いた。
音声入力による自爆コードの起動が奪われ、女を巻き添えに殺すことも叶わない。
あらゆる攻撃手段は彼の血液と共に急速に失われ、意識が遠のく。

从'ー'从「死ぬ前にガガーリンちゃんに会いたいでしょう?
     あっ、違うかぁ。
     死ぬ前のガガーリンちゃんに会いたいでしょう?
     まぁ何にしても会えないんだけどねぇ」

<]゚王゚[>『ご……の……』

从'ー'从「安心して、ちゃんと命は無駄にはしないわよぉ。
     命の最後の一滴まで、ちゃんと私が楽しんであげるわぁ」

ラキの左手首を一瞬で切断し、女はそれを拾い上げた。
女はその場にラキを残し、まるでデートを前にした少女のような足取りで歩き出す。
増援が来ない理由よりも、ラキは今、自分の自信が粉々に打ち砕かれ、無力感に苛まれていた。

<]゚王゚[>『に、にげろ……が……っ――』

992名無しさん:2021/09/19(日) 08:53:13 ID:ctbjoZXk0
――ラキが絶望の中で死に抗っている頃、ガガーリン・ザラキは絶望を前に立ち向かう道を選んでいた。
彼女がブーオ最後の砦であることは、彼女自身がよく理解している。

<]゚王゚[>『く、来るな!!』

金色のアストレア・カスタムは、ブーオの市長が代々引き継いでいる由緒ある棺桶だ。
戦場では何一つ優位性を生まない黄金色の塗装は、ブーオの市長である証。
邸宅内にいた護衛は全て殺され、今、絶望が目の前にいた。

( ・トェェェイ・)「いやいや、そう拒否しないでくださいよ」

悪魔の顎としか形容できないマスクを装着した男は、護衛と秘書を兼ねていた女の死体を一瞥した。

( ・トェェェイ・)「私は対話に来たのに、こんなに手荒な歓迎を受けるなんて……」

<]゚王゚[>『黙れ!! 侵略者を我々は断固拒否する!!』

( ・トェェェイ・)「はぁ……交渉は決裂ですか」

<]゚王゚[>『今すぐ消えろ!! 消えてなくなれ!!』

次の瞬間、男は笑顔を浮かべた。

( ・トェェェイ・)「いいですね、その気丈な態度。
       どうやれば壊れるのか、ぜひ試したい」

<]゚王゚[>『無礼るなぁ!!』

大口径のライフルを構え、威嚇射撃を行う。
それは彼女の体に染みついていた一撃目。
いかなる相手でも、対話の道を用意することがブーオ市長の務めなのだ。

( ・トェェェイ・)「あぁ、駄目ですって、そんな虚勢。
       人を撃ったことがないのがすぐに分かってしまって……あぁ、興奮しますよ」

男が一歩で間合いを詰め、ガガーリンの手を取る。
優雅、あるいは紳士的なまでのその仕草には一切の殺意がない。
そのため、致命的なまでの接近を許したことに半瞬遅れて気が付いた。

<]゚王゚[>『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!』

男の顎が接吻をするように、ガガーリンの右腕を食い千切った。
焼き鏝を当てられたかのような激痛が走り、次いで、肉が焦げる嫌なにおいがした。

( ・トェェェイ・)「うぅん、いい声ですね。
       思った通りだ、貴女は強がるよりもそうやっている方が素敵だ」

<]゚王゚[>『こっ、この!!』

( ・トェェェイ・)「落ち着いてください、興奮していると対話が出来ないですから」

993名無しさん:2021/09/19(日) 08:54:57 ID:ctbjoZXk0
無事な左手で男を殴りつける。
その拳を口で受け止め、男はガガーリンの拳を噛みちぎる。
親指以外の指が装甲ごと噛み取られ、男は口に挟んだ指を弄ぶように転がし始める。

<]゚王゚[>『ひっぎぃいい!?』

地面に指を吐き捨て、男は言った。

( ・トェェェイ・)「血の気が多いわりに、どうにも鉄分が少ないみたいですね。
       さぁ、対話の準備はよろしいですか?」

从'ー'从「どう? お話は出来そう?」

両手に鉤爪をつけた女が割れた窓から入り込み、そんな言葉を吐き出した。

<]゚王゚[>『お前たちはっ……!! 内藤財団の奴らだな!!
     こんなっ……こんなことをして!!』

从'ー'从「世界に発信するって?
     あははっ、無理よぉ。
     船には全部仕掛けをしてあるから、みんな沖に出た頃に沈んでいるはずよぉ」

<]゚王゚[>『そ、そんな……』

( ・トェェェイ・)「あー、後は兵士の話を忘れていましたね。
       どうします? 私から説明します?」

从'ー'从「えぇ、どうぞお好きに」

( ・トェェェイ・)「兵舎の空調機器にDV-Xガスを仕掛けたから全滅していますよ。
       残念ですね。
       いや、本当に心からお悔やみを申し上げますよ」

<]゚王゚[>『ば、ばか……な……』

( ・トェェェイ・)「冗談でも嘘でもないですよ。
       ほら、さっき庭の方でこの女性が使っていたでしょう?」

从'ー'从「あ、そうそう。
      これ、お土産」

女が造作もなくガガーリンの前に投げたのは、人間の手首から先だった。
その指は血で汚れているが、薬指にはめられている指輪は見覚えがある。
彼女の夫であるラキに送られた銀の指輪だ。

<]゚王゚[>『ら、ラキ……!? きっ……!!
     貴様らぁあぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』

994名無しさん:2021/09/19(日) 08:55:36 ID:ctbjoZXk0
从'ー'从「予定通り、交渉は決裂みたいね」

( ・トェェェイ・)「じゃあ、後は好きにさせてもらいましょう。
       あ、そうそう。 一つ質問なのですが――」

<]゚王゚[>『死ねぇ!!』

( ・トェェェイ・)「――血液型、教えてもらえませんか?
       輸血しながらヤりたいので」

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    . : : : :l : : : |  : : :/u | . : : /ニ| /ニ! :/||
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  : : : : : |: |∧ /‐ヘ : : | \| : / ィ彡;=、`ミj / / . :
: l . :|: : : 、| ,ム{=rミ、: :|  l: /〃{、厶リ ノ^ / . :
: l : :|、: : 、: k〈{_厶リ ヽ|  l/‐=三三彡  / . : :
`lヽ: :|/\ ヽ\≧彡’/ヘ            / : /
  ヘ: l: :/ \:ト‐\   <_〉           /:/
.  ハ!:/   . |     ヽ             /ア    . :
 /  /  : : '、    _z, -―-、     /:/    : /:
. l: /l   : : : >、   {Z三三__)    //l   . :/: :
./'   |  . : : イ . >、  ―         /´/  . : イ: : /
.    l  : : / |: /  \            _/  . :/_j : /
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この夜。
ブーオの歴史は大きな変化を迎えた。
内藤財団の交渉を拒否したことにより、彼らは滅びの道を辿ることになる。
外部から島に接触する手段がないことが災いし、島から外に情報と人間が流出することの出来ない鳥かごと化したのだ。

凌辱の限りを尽くされ、死を懇願する程の扱いを受けたガガーリンの心は完全に壊れ、あらかじめ用意されたシナリオ通りに動く人形となった。
言われた通りに書類にサインをし、島全体に放送をかけて声明を発表した。
更にいくつかの録音が完了すると、ようやく、ガガーリンは死を許された。
しかしある意味で、その結末は彼女にとっていい物だったのかもしれない。

――この後、ブーオに文字通り降り注いだ終末を見ないで済んだのだから。

995名無しさん:2021/09/19(日) 08:56:10 ID:ctbjoZXk0
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同日 PM11:59

イーディン・S・ジョーンズは防寒着を着込んだ状態で、その場に腕を組んで立っていた。
彼の耳にはイヤーマフが装着され、視線は星空に向けられている。
正確には星空ではなく、その下。
修復が完了した規格外の巨大さを誇る“対都市攻略用強化外骨格”棺桶、ハート・ロッカー。

約240メートルの巨体がこうして空の下に姿を晒すのは、恐らく、開発されてから初めてのことだろう。
とは言え、地下に作られた施設の天井が開いただけであり、その全貌を地上に出しているわけではない。
今から行う実験に伴い、一時的にその姿を見せるだけなのだ。
右肩に装着された巨大な砲門は、狭い場所での運用を可能にするために折り畳み式の砲身を採用した。

折りたたんだままでの使用も可能だが、今回の実験では展開して長距離精密砲撃を行う必要があった。
ジョーンズは無線機に向かって声をかけた。

(’e’)「よーし、用意はいいかな?」

彼らには時間がなかった。
世界を変えるという大義を実現するためには、圧倒的に時間が不足している。
今現在、ラヴニカから部品の到着を待っている段階だが、いつまでも待つことが出来ない。
彼らに今必要なのは、超長距離精密砲撃が可能であるという事実と実績だった。

(’e’)「よし、位置につきたまえ」

再び無線機に声をかける。
しかし返事はない。

996名無しさん:2021/09/19(日) 08:56:34 ID:ctbjoZXk0
(’e’)「コードの入力だ」

その言葉に対して、返事とは言えないが、反応があった。

『そして、大好きだった物も忘れていく。 私には一つだけ残っている』

淡々とした女性の声が無線機から聞こえてきた。
その直後、ハート・ロッカーの全身が僅かな軋みをあげて動き始めた。
やや前傾姿勢を取り、折り畳まれていた砲身を動かす。
長大な砲身を上空に向けたまま、ゆっくりと無限軌道が後退する。

地響きのような音が響き渡る前に、ジョーンズはイヤーマフを装着していた。

(’e’)「うんうん、いいぞ。
   さて、後は微調整だな。
   砲身をもうちょっと下にしてくれ」

細かな指示はそれから2分ほど続き、ようやく砲身が固定された。

(’e’)「じゃあ、撃ってみよう」

直後、爆音が施設中に響き渡った。
閉鎖的な空間の空気全てを震わせるほどの音は、イヤーマフを貫通し、ジョーンズの耳の機能を一時的に奪った。
夜空に向けて放たれた巨大な砲弾は弧を描き、南に位置するブーオに向けて進んでいく。
3分ほどして、ジョーンズの持つ無線機に反応があった。

『……ちらスカイアイ。 繰り返す、こちらスカイアイ。
聞こえるか?』

(’e’)「あぁ、聞こえるよ。
   で、どうだった?
   修正はどれくらい必要かね?」

『着弾先は市長邸宅。
市街地への被害は見られません』

(’e’)「ひとまずは命中か。
   よし、次は焼夷弾とフレシェット弾を連続で撃ってみよう」

大型クレーンによってハート・ロッカーから巨大な薬莢が取り除かれ、すぐさま別の砲弾が装填される。
その間、ジョーンズは腕時計の秒針に目を向けていた。

(’e’)「装填完了に15秒だ!! 次はもっと短縮してくれたまえ!!
    ようし、座標の修正を完了したかな?
    では二発目、いってみよう!!」

再びの爆音。
しかし、先ほどとは違い、クレーンの作業員はすぐさま薬莢を取り除き、装填作業を行う。
お互いの聴力がまだ完全でない中、ジョーンズは聞こえていないことを前提に声を荒げた。

997名無しさん:2021/09/19(日) 08:56:54 ID:ctbjoZXk0
(’e’)「12秒!! いいぞ!!
   着弾点はどうだ?!」

『市街地に着弾、山にも引火しました。
消防隊が動き出しています』

(’e’)「うんうん、いい判断だ。
   フレシェット弾、いってみよう!!」

災害的なまでの音が、三度施設を揺らした。
放たれたのは数万の鋼鉄製の雨を降らせるフレシェット弾。
木造の家屋程度であれば、容易に貫通し得るものだ。
そしてその圧倒的な数、起爆するように設計された高度。

鉄の驟雨は容赦なく住宅地に降り注ぎ、地上に血の海を作り出す。

『……着弾を確認。
まだ生存者がいる模様』

(’e’)「うーん、そうなると後は……
   毒でもまいてみようか。
   よし、装填作業開始!! 今度はベストタイムを頼むよ!!」

排莢と装填。
射撃と成果の確認。
修正と実行。
そして再び排莢と装填を行い、砲撃精度の確認がされる。

全ては訓練通りに行われ、ブーオは一夜にして死で溢れ返った。
対岸でその爆音と炎を確認した人間は大勢いたが、その原因を知る者はいなかった。
翌日、一部のラジオと新聞ではブーオが秘密裏に開発していた兵器が暴走、爆発を起こした結果の悲劇であることを報じた。
だがどの報道関係者も、ブーオに取材に行こうとはしなかった。

海には依然として機雷があり、命がけで取材をしなければならないからだ。
そこまでして中立の街を取材する価値が見いだせない以上、誰も真実を探ろうとは思わない。
それよりも記者たちの関心事は、クラフト山脈で発生した雪崩と轟音の関係性についての方に向けられていたが、それもごく僅かだ。
しかし――

――イルトリアとジュスティアだけは、ブーオに起きた一連の事件に関する精確な情報を得ていた。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編

第二章 【roar of dreamers-夢見る者達の咆哮-】 了

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