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从 ゚∀从機装化精神病のようです
1
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 01:16:01 ID:Ccn78cE20
おわはじ祭り用です。
90
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:44:10 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「……トーンさん。確かに危険ではあります。
ですが、精神病患者との空間共有は奴の為でもあるんです」
「ハインリッヒさんのため?」
(,,゚Д゚)「あいつも病気みたいなもんですからね」
(,,-Д-)「映画でも見るか演技でもして心を整えりゃいい……尤も今回は、さて……」
※
鉄板を張り合わせた床に汚れた毛布が広がっている。
そこには使い終わったリキッドピン、粉の付着すら消えた紙筒、安い酒瓶、
そしてトイレットペーパーを全身に巻き付けたハインリッヒが転がっている。
ハインリッヒの顔面と髪は口から溢れた吐しゃ物で汚れている。
彼女を管理するギコ・ドーセットがバイオ・ヴィジョンが通さずとも、
昼間に食べたバーガーの構成とアルコール度数を解明できよう事は、
生理的な臭気を超えて放つ強いアルコールとバーガー特有の油の臭いを嗅げば分かるだろう。
ハインリッヒが寝返りを打って再びゲロの中を転がりそうになると、
それを制するかのように彼女の頭の中で着信音が響き渡る――ハインリッヒは応答する。
「う、うぐ、うぎぎぎぎ……」
「も、もし、もし。こ、こちらの電脳はただいま使われておりま――」
『俺だ。珍しく出たと思ったらつまらねえボケかましやがって。
昨日連絡した通り今からそっちにブーン君とお父さんを連れていく。顔洗っとけ』
91
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:44:34 ID:Ccn78cE20
「う、うえ〜〜! め、面倒くせえ〜! 勘弁してくれよもー」
『だめだ。どうしても命の大恩人であるお前に直接お礼が言いたいんだそうだ。
断る俺の身にもなってみろ。これ以上お前に代わって無礼するつもりはない。
お前はイケすかねえハリウッドスターでもなんでもねえんだ。ちゃんとしとけ』
「む、昔はあとちょっとでスターに―――」
『いいから身なりを正して待ってろ。
どうせゲロ塗れにでもなってんだろうからな』
ハインリッヒはその辺に巻き散らかしたトイレットペーパーを拾い、
顔中にまとわりつく自分の吐しゃ物を適当に拭いながら
从 ゚∀从「よくわかったな。実はお前が昨日おごってくれたハンバーガーの中を泳いでた」フキフキ
『テメエふざけんなあ……! 俺からバーガー食う気を奪いやがって……!』
从 ゚∀从「ぶひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwwww」
『クソジャンキーが……っつーかシャワー通ってんだろうな?
今月も俺が水道代とガス代は別口座に分けて入れてやったはずだが』
从 ゚∀从「そうか……それ使えば良かったのか……」
『いい加減ふざけた事言ってんじゃねえぞ! マジで全部薬に変えちまうつもりか!
俺が、俺がせっかく、善意でやってやってるってのに……』
从 ゚∀从「マジウケる」
『死ね』
92
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:44:56 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「ったく、一々そんなに恩を感じられてもって感じだが。
しょーがねえ。シャワ―浴びて待ってっから早くしろ」
『どうせテメエ暇してんだろうが』
从 ゚∀从「暇じゃありませーんエイガカンに行く予定とかあるんですー」
从 ゚∀从「……っつーかよクソギコ、昨日捕まえた捕虜はどうなってんだ?」
『あ?』
从 ゚∀从「ほりょっつってんだよ! 引っぱたくぞテメー」
『悪い、初めてお前から真面目に話振られて、ニューロがイカれたかと思った』
从 ゚∀从「ねえ、人のやる気削ぐのやめてくれる? おばちゃん怒るよ?」
『お互いにな』
『……捕虜の件だが、昨夜からドクオ、ヒート、ショボンに任せてある。
今日中に何かしら情報が上がるだろう』
『……昨日、ブーンのスペースで起こった事を気にしてんのか?』
从 ゚∀从「ああ? どういう意味だよ?」
『俺が心配しているのはお前の頭ん中だ。“あれ”は何だ?』
从 ゚∀从「何でもねえよ。私はまだ大丈夫だ。っつーか心配すんな気持ち悪い」
93
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:46:19 ID:Ccn78cE20
从#゚∀从「あんなクソウィルスを売り捌くクソ野郎がどんな顔してんのか、
ちょっと見たいだけさ……Nightmareだと? 笑えねえんだよ」
※
ホライゾン親子を乗せた車が第8区画内を走り抜ける。
「……映像で見た事はあるが」
(;^ω^)「ひっでーお」
この街に住んで20年。
防弾ガラスを隔てて初めて見る地下の地下に二人は目を丸くして
次々に飛び交う数多の古臭いネオンやARを茫然と視界に入れている。
この日もトンネル内は重金属酸性雨が配管の罅から噴き出して空に虹を描いている。
ギコからの指示で耐酸性ジャケットを着こむように言われた二人は、
それまで縁の無かった衣服をわざわざ店で購入した理由がようやく理解出来た。
確かにトンネル内の街を無防備な状態で歩き続ければ、
スキンはいずれ溶けて銀色の素体が剥き出しとなるだろう。
しかしながら不思議なのはジャケットを着てまで出歩く者が見当たらない事だ。
ブーンがギコに理由を尋ねてみる。
(,,゚Д゚)「そりゃブーン君。殆どまともな住人がいないからさ。
厳密にはいるんだが違法のID抜きをやったような人間なんかが集うのが最下層だ。
日中は慎ましく部屋で過ごして、夜になれば何処からか湧いて出てくるよ」
(;^ω^)「こええええええ!!!」
ブーンはすっかり元気になっていた。
ウィルスの結合はあくまで一時的な物ではあるらしい事は、Cの有線結合で明らかになっている。
それ以上にトーンとの蟠りが解けた事が、彼に活力を与えていた。
94
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:49:08 ID:Ccn78cE20
「ブ、ブーン! 絶対にこんな所、一人で来たりするんじゃないぞ!」
(,,゚Д゚)「一人でもボディガード付きでも日中でもダメです。
身なりのいい子供なんて一瞬で攫われて強請るネタになりますから」
「わかってますとも。もう二度と同じ轍は踏みません。ブーンは必ず私が守る」
(*^ω^)「と、トーチャン……!」
(,,゚Д゚)「ああ、それに関してなんですが、トーンさん。私の方から2点申し上げたい事が」
「何でしょうギコさん?」
(,,゚Д゚)「しばらくはプライベートミリタリーなんかを雇った方がいい。
私の方から信用出来る会社を紹介する事も可能です」
「また狙われる可能性があるからですね?」
(,,゚Д゚)「どうも最近ロスの治安が更に悪くなった……よそ者が増えてるんです。
ここ数年で革新的な技術が集まる街となった為でしょう」
「とはいえ今更会社を縮小させる訳には……この社会に貢献したいですから」
(,,゚Д゚)「それに貴方は大勢の社員を抱えていらっしゃいますからね」
「ええ、彼等を露頭に迷わすなんて事は出来ません……それで、もう1点は?」
(,,゚Д゚)「ブーン君の市民IDについてです」
95
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:50:10 ID:Ccn78cE20
(;^ω^)「あ、そういえばノーバディ状態だったお」
「再発行、してくださるんでしょう?」
(,,゚Д゚)「勿論可能ですが申請から発行までは数週間を要します。
専属の弁護士さんがいらっしゃるようなのでもう少し話が早く進むかもしれませんが」
(,,゚Д゚)「少し話が前後しますが、我々レイチェルは皆ノーバディのようなものです」
(;^ω^)「え!?」
「どういうことです?」
(,,゚Д゚)「仕事上、顔や名があまり知られるのも困りものですのでね」
(,,゚Д゚)「パーソナルがないという利点は大まかに2つありまして、
まず位置情報の特定が出来ない事、ハッキング除けにもなります。
もう1点は身分不明という点で価値が無くなるという事です」
「……なるほど、言わんとしている事が大体理解できました」
(;^ω^)「どういう事だお?」
「つまり、ブーンのIDを復旧させない方が安全かもしれない、って事ですね?」
(,,゚Д゚)「IDで管理される世ですから、学校に通えなくなったり買い物に困ったり、支障は出ますがね」
(;゚ω゚)(……え? なにこの流れ、ニート待ったなし……?)
96
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:51:31 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「と、まあ色々踏まえた上で、ちょっとご相談があるのですが……」
「なんでしょう?」
(,,゚Д゚)「まあ俺より年功者がその辺りは相談が上手いか。
さすがに今日は滅茶苦茶にラリってねーだろうが……と、着きました」
(,,゚Д゚)「ここです」
( ^ω^)
車を降り、親子は立ち尽くす。目の前に窓があるからだ。
これがアパートのドアだとギコが説明すると、親子は目を合わせて唖然とした。
外壁をくり抜いて造られた3階から成るアパートの至近距離で、
最下層から地上へ毎時駆け巡るリニアモーターの巨大な線路が天井に敷かれている他、
地中から剥き出しになっている太いコードがアパートの壁に沿って縦列で走り、
その反対では勢いよく重金属酸性雨の元となる排水を行う配管が滝のような音を立てて煙を上げている。
アパートの横では古ぼけたホログラムが淫靡な広告「おっぱい安いヨ」が点灯している。
内部で絶賛商売中であるようで、断続的に酒で焼けた嬌声が
継ぎ接ぎの鉄板の隙間から通り抜けて15のブーンの耳にも及び、
最下層スラムの何たるかを親子に思い知らせるのであった。
周囲を見渡しても草木の一つも存在しない。
あるのはアパートと同レベルの建造物か、重金属酸性雨を浴びて滲む広告があるのみだ。
( ^ω^)「もう、どこなんだよここ……」
(,,゚Д゚)「ほんとそれな」
97
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:52:00 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「笑えるくらいひでえだろ?」
( ^ω^)「写真で見た事なんかはあるんですけど」
( ^ω^)「実物の迫力はハンパネエっすわ……ってか、くっさ……」
「こ、こんなところに、本当に彼女は住んでいるのか……」
(,,゚Д゚)「おい! 人以下のクソジャンキー! 着いたぞ!」
< おーう入れー!!
「本当にハインリッヒさんが、住んでらっしゃった……」
(,,゚Д゚)「若干ハイになってやがるな……まあいい、入りますか」
(;^ω^)(部屋の中が全く想像できねえお)
(,,゚Д゚)「言っとくが部屋の中は外の10倍以上酷いからな」
「ええ……」
( ^ω^)「だんだんこわいを通り越して楽しくなってきたお……」
ギコが開きっぱなしの窓に足を掛ける。親子もそれに倣ってアパート内に入り込む。
立ち込める臭気が一気に鼻孔に押し寄せ、トーンはこれ以上害されぬよう鼻を覆った。
98
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:52:44 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「あ? なんだこりゃ」
ギコの眼窩に埋め込まれた光学スコープのバイオヴィジョンモードが、
ハインリッヒの部屋の前の床に転がっている異物を捉える。
黒い袋に入れられて膨らんだそれは、一般的に「生ゴミ」や「萌エナイゴミ」と呼ばれるものだ。
吐しゃ物を拭いてまとめたものや、酒瓶、ドラッグリキッドピンなどが封じられているようだ。
(,,;゚Д゚)「あいつが、掃除しやがった、だと……?」
( ^ω^)「え? ギコさんなんて?」
(,,;゚Д゚)「馬鹿な、そんな、馬鹿な」
ギコがドアノブに手を掛け、ドアを開ける。
从*゚∀从「いらっしゃーい! へへへ、ようこそようこそ!
ささ! 何もない汚い部屋なんですけどねぇ……」パァァァァァッ
「いやいや、キレイなお部屋じゃないですか。
今日は無理言ってお邪魔させていただいてすみません」
(*^ω^)「ハインリッヒさん! こんにちはですお!」
从 ゚∀从「おうブーン。なんだテメエ、もう元気そうじゃねえか。よかったな」
( ^ω^)「ええ、おかげ様ですっかり……ってギコさん、膝着いてどうしたんですかお?」
(,,;゚Д゚)「うそだ、うそだー」
( ^ω^)
99
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:53:13 ID:Ccn78cE20
(,,;゚Д゚)「なんだこれは。なんなんだよこれはよお……俺は今、現実を見てるのか?
ひょっとしてハッキングでもされてんのか??
ま、まさか遂に俺も精神病になって、現実の区別が……?」
「ちょ、ギコさん! 落ち着いて! ブーン! ギコさんからドラッグを取り上げて!」
(;^ω^)「ちょ、ギコさん現実ですおちゃんと!
なんともないですお! 普通にきれいな部屋ですお!」
(,,;゚Д゚)「は?」
(,,;゚Д゚)「え? は? これ、現実なのかよ? 本当に言ってんのかよ?」
(;^ω^)「えー……」
从 ゚∀从「ぶひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwwwwwwww
腰抜かしてやがるwwwたまには掃除もしてみるもんだなーwwwww」
(,,;゚Д゚)「は? お前が今、掃除してみたっつったの?」
从 ゚∀从「生まれて初めて発してるみたいに言うんじゃねえ。
あ、ブーンと親父さん適当にくつろいでよ。いま茶ァ出すから茶ァ」
(,,;゚Д゚)「茶? 茶? お前が茶を出すの? 嘘だろ? 酒と間違えてんだろ?」
从#゚∀从「しつけえな。ちゃんとしとけっつったのテメエだろうが」
(,,;゚Д゚)「……いや、そうだが……マジかよお前……」
100
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:53:33 ID:Ccn78cE20
※
从 ゚∀从「いやーわざわざ改まって礼なんていいのによー。
なんかこっちが悪い気するっつーか」
「押しかけてしまい申し訳ございません」
从;゚∀从「あー謝って欲しい訳じゃないってば」
(,,゚Д゚)「一言多いんだテメエは」
古びた木製の「チャブダイ」を囲い、4人は何かが染みた絨毯に腰を下ろしていた。
茶を注がれた黄ばみのあるコップに手を付けない訳にもいかず、
トーンなどは「茶」の渋さの中に礼儀の重さを見出すほどだ。
息を吐いてトーンが日本式の作法で感謝を示す。
首を深々と曲げてから切り出した。ブーンも父親の姿に倣う。
「この度は本当にありがとうございました。
特にハインリッヒさん。危険だったにも関わらず息子の為にダイブを……
本当に何と言ってよいのやら……」
( ^ω^)「ありがとうございましたお」
从 ゚∀从「んな日本式で堅苦しくなくっていいってば。もークソ面倒くせえって」
(,,゚Д゚)「言葉を慎め。それにトーンさんも、こんな奴に勿体ないです」
「そんな事など……! ハインリッヒさんは息子を救って下さっただけではありません!
私とブーンの、親子としての絆まで救って下さったんです!」
从 ゚∀从「ああ?」
( ^ω^)「そうだお。よく覚えてない部分もあるけど、
でもハインリッヒさんの言葉はちゃんと覚えてるお!」
101
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:53:56 ID:Ccn78cE20
「目が感じ取る現実に大きな意味は無い。
大切なものは目を閉じても見えるものだ」
( ^ω^)「現実を生きていくのに、勇気をもらったんだお」
ブーンの口から紡がれたセリフでハインリッヒは顔を伏せた。
ジャケットのポケットに手を突っ込むとギコが睨みを利かせたが、
取り出したのは電子タバコとコーラフレーバーのリキッドだった。
泡の弾ける甘ったるい煙を鼻孔に通しながらハインリッヒがブーンに言う。
从 ゚∀从「そりゃ映画の引用で私の言葉じゃないんだ。
レトロなサイコホラー映画でヒロインが言ったセリフだよ」
从 ゚∀从「お前を勇気付けたのは私じゃない。カーラだ。
親子の絆を守ったのは私じゃない。そこにいるトーンだ。
私がやった事はお前が見るべき者の姿を演じただけに過ぎないよ」
从 ゚∀从「私は映画のように一方的な教訓を与えただけ。
どう考えるかは観客次第……そういう感じ」
( ^ω^)「……それは、僕のスペースで答えた通りだお」
从 ゚∀从「そういえばそうだったな」
102
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:55:50 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「……ここの重金属混じりの雲があの島まで流れなきゃいいなっ、と」
と、ハインリッヒが徐に立ち上がって耐酸性ジャケットのフードを被る。
心中察したギコが袖を掴んで座るよう促すが、
从 ゚∀从「んだよ。面倒臭いから出かけんじゃねえよ。
もういいだろ? この人達はもう大丈夫だってば」
(,,゚Д゚)「そうじゃない。まだ話は終わってねえ」
ギコの視線を辿ると傾げたブーンの顔がある。
何の話かと言葉を待つ親子を交互に見てから、ハインリッヒはギコの手を払って言う。
从 ゚∀从「……好きにしなよ。任せるぜ。ただ私にゃ面倒見切れねえよ、たぶん」
(,,゚Д゚)「おい」
言い残してハインリッヒはブーツを履いて錆びた扉を開けて出た。
Alpha社のVELVET-200の靴底と縦ラインが残す赤い残像を親子は茫然と見つめる。
ギコが遠慮無しに電子タバコを吹かし、泡をぷくぷくと浮かべる。
(,,゚Д゚)「はあ……トーンさん。しばらくブーン君を我々に預けてみませんか?」
( ^ω^)
(;^ω^)「え!?」
「ギコさん、理由をお聞かせいただきたい」
戸惑いを隠せないブーンとは対照的にトーンは落ち着いていた。
ギコが続ける。
103
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:58:16 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「体や精神状態の経過を診たいという考えもありますが……
我々に協力するという形ですが偽装IDを付与され、保護出来ます。
勿論危険な行為は一切させません。
名前と経歴を変えて潜伏するという訳になりますな」
(;^ω^)「保護?」
「まだ息子が狙われる可能性があると?」
(,,゚Д゚)「そうではないのですが……今後敵を抱える事になる貴方にとって、
その方が都合が良くなるかもしれません。ブーン君にとってもです。ID無しじゃ生活は困難だ」
「しかし……」
( ^ω^)「大丈夫だお、トーチャン」
( ^ω^)「僕はもう、大丈夫だお。だからトーチャンは仕事に専念するお。
それに、何らかの形でギコさん達に協力出来るかもしれないのは嬉しいお」
「ブーン……」
トーンは薄汚れたコップを握り、半分ほど残っていた「茶」を飲み干す。
「チャブダイ」と鳴らす乾いたコップの底の音はトーンの意の表れのようだった。
「分かりました。この社会でムーブメントを起こすには、そのくらいの制約や代償は覚悟しなければ。
ギコさん。どうか息子を、お願いします」
(,,゚Д゚)「はい。必ずブーン君は我々が保護します」
104
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:58:39 ID:Ccn78cE20
なみなみと注がれた「茶」を見つめるギコの視界には情報を羅列するARで埋め尽くされていた。
バイオ・ヴィジョンを通せばコップの底を見通せそうだが、
今朝ドクオ達から送信されたレポート内容の妙なきな臭さは見抜けそうになく、
光学スコープの真鍮色の枠を厳めしく曲げる。
ショボンとヒートによる取引と尋問の効果なく、
致し方なくドクオがハックした瞬間、捕虜の脳核は自らの防壁に焼き尽くされてしまったという。
辛うじて引き抜けた情報もデリートを免れ切れず、
黒いノイズだらけの焦げた写真のような画像だけがドクオの頭に残された。
顔は不鮮明。だが首筋に走る独特な線から置換施術した事が伺える。
ありふれたロングコートの襟には蒼く光る漢数字の装飾が施されている。
タトゥーの有無も服に隠されて見えない。
フードから覗く髪型、口元の骨格、口紅などで示すセクシャルは女である。
ドクオは、素体はアジア系の女だと分析している。
本部のデータベースに引っかからないノーバディであるという事を添えて。
(,,゚Д゚)(こいつがNightmareのプッシャーである可能性は高い)
(,,゚Д゚)(何処から迷い込んできたメス犬か知らねえが、必ず尻尾を捕まえてやる)
ARを閉じ、「茶」だけが視界に映る。
ギコは「茶」を飲み干し、コップの底を「チャブダイ」に叩きつけた。
(,,゚Д゚)「……不味いな、こりゃ」
「ハハ、でしょう?」
( ^ω^)「飲まなくてよかったお」
105
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:58:59 ID:Ccn78cE20
※
ハインリッヒはリニアモーターの振動に身を委ねていた。
列車で上り、第4区画に存在するレトロな映画館に向かっている最中だった。
最下層を走っている時の列車がハインリッヒは好きだった。
がらんとした列車内の光景に薬が授ける心地良い空虚さが重なる。
目をじっと向ければ派手な広告やロゴのARが浮かび上がる事はあるが、
掴む者を待つ吊り革の動きが列車内のリアルをハインリッヒに感じさせている。
誰にも邪魔されずアイスを打てる空間である事も間違いないが、
肘に手首がある奇形や、VRゴーグルに没入した状態の子供、
ドラッグリキッドピンを複数差し込んだビジネスマン等、現実味の無い人間と空間を共有しないからだ。
暗く淀んだ地下に住まうのも同じような理由からだった。
列車が速度を落としていく。まだ第7区画。
「トッキュウ列車」ではない故に人がいないステーションで濁った空気をわざわざ取り入れる。
まるでノーバディ気取りのパンクスが乗り込んでくるのもまだ先だ。
「やらなきゃ、やらなきゃ」
从 ゚∀从「……あん?」
そこへふらりと、耐酸性のロングコートから煙を登らせる者が乗車してきた。
俯いてフードが作るミラーシェードの保護フィルターの中でブツブツと一人呟く様子を見て、
機装化を重ねて病んだ人間と思うと同時、乗客の珍しさに思わず目を向けた。
106
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:59:25 ID:Ccn78cE20
※
ハインリッヒはリニアモーターの振動に身を委ねていた。
列車で上り、第4区画に存在するレトロな映画館に向かっている最中だった。
最下層を走っている時の列車がハインリッヒは好きだった。
がらんとした列車内の光景に薬が授ける心地良い空虚さが重なる。
目をじっと向ければ派手な広告やロゴのARが浮かび上がる事はあるが、
掴む者を待つ吊り革の動きが列車内のリアルをハインリッヒに感じさせている。
誰にも邪魔されずアイスを打てる空間である事も間違いないが、
肘に手首がある奇形や、VRゴーグルに没入した状態の子供、
ドラッグリキッドピンを複数差し込んだビジネスマン等、現実味の無い人間と空間を共有しないからだ。
暗く淀んだ地下に住まうのも同じような理由からだった。
列車が速度を落としていく。まだ第7区画。
「トッキュウ列車」ではない故に人がいないステーションで濁った空気をわざわざ取り入れる。
まるでノーバディ気取りのパンクスが乗り込んでくるのもまだ先だ。
「やらなきゃ、やらなきゃ」
从 ゚∀从「……あん?」
そこへふらりと、耐酸性のロングコートから煙を登らせる者が乗車してきた。
俯いてフードが作るミラーシェードの保護フィルターの中でブツブツと一人呟く様子を見て、
機装化を重ねて病んだ人間と思うと同時、乗客の珍しさに思わず目を向けた。
107
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:00:12 ID:Ccn78cE20
その者はがらがらのシートに目もくれず、「ツリカワ」に掴まることもせず、
窓の向こうの壁に広がる虫の巣のような廃墟群をぼうっと見ているようだった。
分厚い襟には「零」という文字が蒼く浮かび上がっている。
フードの横に手をやりフィルターを解除する。
ふわりと金の巻き毛がフードの中から現れる。
「やらなきゃ、私は、やらなきゃいけない」
从 ゚∀从「なんだよブツブツうるせえな……おいアンタ、何か良いモンでも打ってんじゃ―――――」
从 ゚∀从「――――――え?」
立ち上がって声を掛けたハインリッヒは、
ガラスに映るその顔を見て言葉の続きを失う。
108
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:00:54 ID:Ccn78cE20
ξ ⊿ )ξ「必ず自由になってやる」
30年以上前に生き別れたかつての親友が、
暗いトンネル内を通すガラスに張り付いていた。
茫然とハインリッヒはその背を見つめる。
視覚には何ら拡張現実表示は無い。
それでも、サイバネティックスが作るARの現実に根を下ろしたバーチャルなのか、
ちょうどアイスが溶けかかっていたハインリッヒの頭では判断が付かなかった。
从;゚∀从「ツン、ちゃん?」
幽霊に話しかけている気分だった。
あるいはARやMRに真面目に話しかける間抜けを演じているような感覚だった。
「え?」
息を呑んだのか肩を僅かに跳ねさせる素振りは、
到底造り物のインテリジェンスとは思えぬ反応だとハインリッヒに印象を与える。
109
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:01:27 ID:Ccn78cE20
从;゚∀从
ξ;゚⊿゚)ξ
振り返って見せた顔を見て、ハインリッヒは腰を抜かした。
ラリって幻覚を見ているのか、夢を見ているのか。
もはや拡張現実にいるのか仮想現実にいるのかも解らない。
意識した視界の中心には、その人物を取り巻く広告が湧いていて、
走り出した列車の慣性を受けて揺れ動く「ツリカワ」にすら
もはや現実味を帯びていないようにハインリッヒには感じられた。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「ハイン……なの?」
从;゚∀从「嘘、だ」
ハインリッヒが小さく呟いた。
ぼやける認識の中で30年前と変わらぬレイコ・ツルデを否定したく。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ
ξ ⊿ )ξ「嘘みたいよね。でも」
110
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:03:23 ID:Ccn78cE20
ξ ⊿ )ξ「私には、ハッキリとアンタが見えているわ、ハイン」
从; ∀从「嘘だ、こんなの、嘘だ」
ξ ⊿ )ξ「現実よ。私はここに存在しているわ」
ツンは背を向けてドアの前に立つ。
「カイソク列車」が第6区画に停車する旨を伝える無機質なアナウンスを車内に流す。
ξ ⊿ )ξ「……この街から逃げなさい。
私は、自由を掴む為に、やるべき事があるから」
从; ∀从「わ、私は大丈夫、まだ、大丈夫……これは、現実、じゃない」
ハインリッヒはドラッグソケットにブルーアイスリキッドを挿入し、
リキッドピンを握りしめたまま震え続けている。
从; ∀从「そうだ、いるわけない、幻覚か、ARに、決まってる」
ξ ⊿ )ξ「……聞こえてないの? それとも、聞いていないの……?」
列車が止まり、開かれたドアを抜けて無人のステーションに足を着ける。
ドアが閉まる寸前、ハインリッヒを憐憫の目でなぞる。
髪型、首輪、薬を打ち続ける様を。
ξ゚⊿ )ξ「……まるでレイチェルそのものね。縛られている様もそっくりで。
何も信じられず、薬に没頭して現実から逃げているアンタは」
111
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:03:51 ID:Ccn78cE20
ξ゚⊿ )ξ「嘘じゃない。これが現実」
ξ゚⊿ )ξ「私はアンタみたいにはならない。
これで終わりなんかにならない、絶対に」
ツンは首を締め付ける黒い輪に爪を掛けて呟いた。
『クソジャンキー、最近ちゃんと電話に出るじゃねえか』
「…………」
.
112
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:04:42 ID:Ccn78cE20
『ドクオのレポートは見たな? この女がNightmareのプッシャーだ』
知ってる。
『こいつを暫定的に“零”と呼んで追跡する。襟に書かれた漢数字から取った』
それ、大昔に私が付けたあだ名。胸が無いからゼロのツンちゃんな。
『こいつが売るウィルスでまた新たな発症者が出た。
必ず俺達レイチェルで零を捕まえるぞ。
目的を知る為にも、背後の組織を暴く為にも、街からクソウィルスを消す為にもな』
「言われるまでもねえよ、クソギコ」
『ああ?』
「うるせえな。また後でな」
『あ、ちょ、待てテメ――――』プツン
「……縛られているのは私だけじゃなく、ツンちゃんも、きっと」
.
113
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:06:02 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「私が必ず助けてやるぞ、ツンちゃん」
重金属酸性雨を降らすどす黒い雲に覆われ、空は昼間だというのに薄暗く、
スパイク状に尖る高層構造物に取り巻く千差万別の灯りも陰っていた。
その間を縫う列車の横っ腹に埋め込まれた古い映画の再上演の広告が強調表示されると、
昔の事を思い出し口の角をそっと下げ、前髪で隠す視覚インプラントの表面を指先で掻いた。
リキッドを落としたが如くアメーバ状に版図を広げ続ける西岸部の大都市、ロス。
ハインリッヒは現実と仮想が猥雑に絡み合う都市の影に身を投じ、かつての友を追う。
目を閉じれば友と過ごした輝ける日々があった。
終わりなどではない。終わりにもさせない。
また、あの日々を再び始める為に。
ハインリッヒが48になったばかりの夏だった。
从 ゚∀从 機装化精神病のようです
『繝ヅク』
.
114
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:07:52 ID:Ccn78cE20
そういえばブレードランナーも2019年の世界だった。
追い付いてしまった。
現行が終わったら続きを始めたいなーと思っています。
ありがとうございました。
意識したテーマ
おわりとはじまり
序章
別れ
発端
地獄
始動
うんこ
115
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:24:42 ID:X/k.EpWE0
明日の仕事に絶望してたら神がいた
116
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 08:39:31 ID:eDKTvl.E0
乙!!!
117
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 08:56:35 ID:C5B03niA0
すっごいいい作品乙です
続き楽しみです
118
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 17:11:32 ID:6Naue2W.0
ええやんけ 乙!!
119
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 17:31:36 ID:/N9rXSKE0
乙!
120
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 20:41:48 ID:ANooleoY0
乙
またわくわくする終わり方をしてくれるな
121
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 22:19:25 ID:nIInCTQU0
面白くて洋画観たくなったよ
122
:
名無しさん
:2019/01/10(木) 00:08:54 ID:h5Fp4l060
乙ゥ^〜
平成ももうすぐ終わる2019年に
ブーン系でこんな名作と出逢えるなんて…
123
:
名無しさん
:2019/01/10(木) 12:16:05 ID:9XZ7QM5s0
面白かった 乙
続きも楽しみ
124
:
名無しさん
:2019/01/10(木) 13:25:40 ID:2Lt5s9EQ0
めちゃくちゃ面白くて最高です、乙
125
:
名無しさん
:2019/01/10(木) 20:44:17 ID:ENzjNdYU0
現行や過去作品教えてくれ
126
:
名無しさん
:2019/01/13(日) 00:16:08 ID:pcJgxc9A0
面白そうすぎるじゃんふざけんな逃亡すんなよほんとに乙
127
:
名無しさん
:2019/01/13(日) 01:39:10 ID:Vp86VWJQ0
ショボンとか零の者とかまさか!?
128
:
名無しさん
:2019/01/13(日) 05:34:34 ID:jazQZGJ60
ブーンのIDがMCGRI1101315なんだよなぁ
129
:
名無しさん
:2019/01/13(日) 08:11:49 ID:vBtx2nDI0
街狩りの作者だぞ
Twitterで分かるけど
130
:
◆jVEgVW6U6s
:2019/01/16(水) 19:47:54 ID:0m7BhVCg0
投下期間も終わったので酉出しときます。
読んでくださいましてありがとうございます。
街狩りが終わったら続き物として再始動しますので、その際はまたよろしくお願いします。
131
:
名無しさん
:2019/01/19(土) 14:30:06 ID:NlYI/j460
了解やでー
132
:
名無しさん
:2019/01/20(日) 12:09:44 ID:6/qVi3I60
めちゃくちゃ面白いなこれ
133
:
名無しさん
:2019/01/25(金) 13:58:40 ID:M0kvqOAw0
おつ
めっちゃわくわくする
134
:
名無しさん
:2019/01/25(金) 19:34:38 ID:aO8oqegg0
映画見てるみたいな気分で読めて好きだ。続き楽しみにしてる
135
:
名無しさん
:2019/01/28(月) 13:42:51 ID:xjsUSAPA0
ブレードランナー
デトロイト ビカムヒューマン
アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?
影響が大きいのはこのあたりかな? どれも好物だぜ
136
:
名無しさん
:2019/01/28(月) 13:53:35 ID:mrM//0Oc0
>>135
ブレードランナーの原作が電気羊
137
:
名無しさん
:2019/05/09(木) 06:09:51 ID:Vstbqo9s0
うおあああ読もうと思ってたらこんなに時間経ってた!!!おつ!
面白かったぞ!続き待つわ!!
138
:
名無しさん
:2021/12/19(日) 12:10:58 ID:7L7gpHjM0
まだかなー
139
:
名無しさん
:2022/05/29(日) 17:01:36 ID:Jmqje6HI0
全裸待機
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