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从 ゚∀从機装化精神病のようです
39
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:00:05 ID:Ccn78cE20
「考えている内に気が変わっちまった……念の為にお前達を殺しとく……。
これでデータが偽造だったりしたらやばいしな……警告も兼ねてね。
仮にそうだッたら次は社長さんの女でも攫うかなぁ……」
(,,^Д^)「そんな勝手してアンタらクライアントに怒られちゃいません?
まあ、何でもいいんですけどね」
「あ? 何だてめえ? トチ狂ったか?」
(,,^Д^)「人質さえ渡してもらえればこっちのもんですから」
言い切るや否や、ギコが思い切り背後のコンテナの裏へとブーンをぶん投げ、
茫然とブーンを眼で追う部下の一人に駆けて詰めていた。
ギコの左手首にある2つのドラッグソケットには神経補助とダウナー系のラベルを貼られた
ドラッグリキッドピンが挿されている。
薬物作用を受け、スローモーションの世界の中で弾丸を回避する。
セラミックボディを持つ男の背後に回り込んだギコは、
男を盾にしながら直撃を回避しつつ、力が抜けた手から銃を奪い取り、反撃。
粗悪な銃の反動を計算しながら飛び交い入り乱れた敵位置にエイムを調整。
機械処理を行っている事を右目の横のLEDが光の具合で示す。
「てめえ! ふざけやがっつぶぅあっ!!」
数人の頭部が一気に弾け飛び、機器と脳漿、疑似体液と血液を中空にぶちまける。
ヒートによる狙撃が壁を突き破り、ターゲットの脳核を貫いたのだ。
口元はそれまで垂れていた涎の跡が引いているが、今ヒートの顔は張り詰めて締まっている。
(´゚ω゚`) ヴィィィイイイイイイイイイイン
ギコがブーンを投げたのを合図に、ショボンは正面の警備を排除して介入を開始していた。
全身義体のこの男は壁を走って場に闖入、瞬く間に一人の脳核に深々とナイフを突き立てる。
血と油に塗れた右手には同色に染まった振動ナイフが握られている。
別の手に握る妊婦用ビタミン剤を仕事終わりの一杯の如く口に煽りながら、
Alpha社製の義手JF-2000の精密な感覚にも満足していた。
40
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:01:12 ID:Ccn78cE20
「な、な、な」
(,,゚Д゚)「なんだお前らってか?」
(,,゚Д゚)「仮にハックしたとしても分からねえよ。全員が偽造ID持ちの“DOG”でな」
「く、クソォ―――――ッ!」
構え直したリーダー格の銃をヒートの狙撃が破壊。
足元に滑り込んでいたショボンが右靱帯を裂傷させてダウンを取る。
最後にギコが回り込んで背後を抑え、銃底を後頭部に思い切り叩きつけて失神させた。
力なく沈む男の体を支え、ギコは左手首のソケットをこじ開けて鎮静催眠薬を投与する。
(,,゚Д゚)『制圧完了。人質も無事に回収、捕虜も捕らえた』
(,,゚Д゚)『ドクオ、周りは?』
('A`)『おう。酔っ払いの声の一つも無いぜ。
だが念の為このままヒートに警護してもらおうぜ』
そこへブーンを抱えたCが駆けつける。
ブーンの症状は先ほどと打って変わらず、虚ろに口を開いて小さな悲鳴を上げている。
(,,゚Д゚)「C、ブーン君は?」
(*゚ー゚)「さすがに金持ちの息子って感じよ。
ギコ君が派手にぶん投げたなのに傷一つなし。でも」
(,,゚Д゚)「ノーバディ、自我を失っちまってるか。
例のウィルス……Nightmareの作用で間違いないか?」
(*゚ -゚)「ええ。間違いないわね。防壁を通してID閲覧を試みたけど……
ウィルスは綺麗さっぱりパーソナルデータと結合して消し去ったみたいね。
自我を失ったのはARとVRの双方に働きかける作用が原因ね」
(,,゚Д゚)「了解……おいクソジャンキー、今からそちらへ急行する」
41
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:02:11 ID:Ccn78cE20
※
从 ゚∀从「待ちくたびれたぞ」
(,,゚Д゚)「ラリってねえな?」
从 ゚∀从「ハイになる訳ないじゃーん。お仕事中だもーん」
車から降りたギコが顔を合わすや吐き出した言葉に、ハインリッヒは手を挙げて答える。
耳障りな甲高い声と素振りで判断すれば嘘だと思う者が殆どだろうが、
ギコはバイオ・ヴィジョンにてバイタルを隈なくチェックし、安堵の息を吐く。
続いてホライゾン親子に目をやる。
泣き崩れた顔で父親のトーンが、痙攣し続けている息子ブーンの手を握っている。
(,,゚Д゚)「準備は万全だな?」
从 ゚∀从「演じられる程度には。脚本もそれなりに」
知らぬ者が見ればミサイルランチャーでも積んでいるような巨大なケースに見えるだろう。
大型のケースを片手で持つハインリッヒは、しっかりした足取りで血塗れの空間へ入り込む。
Cが結線を解いてブーンを仰向けに寝かせながら、ケースを開くハインリッヒの横顔を覗いた。
ハインリッヒは親指の付け根を開いてコードを取り出し、ケース内の巨大なデバイスのジャックに接続。
デバイスを挟んで横たわるブーンにも同じ処置を施す。
そして前髪に隠れたインプラントを開いてコードを引き出し、ブーンの後頭部のジャックに接続する。
デバイス、ブーンとの接続状況が問題無い事をシグナルランプで確認し、仰向けに横たわった。
42
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:02:50 ID:Ccn78cE20
(*゚ー゚)「お父様、ダイブを行います。その間、ブーン君には鎮静剤を投与します」
「鎮静剤……息子には一度も与えた事も無いが……ま、任せた!
た、頼む! 何としてでも息子を助けてやってくれ!
私にはこの子しか、この子しか、もう……!」
从 ゚∀从「任せとけって親父さん」
ハインリッヒは答えながら左手首のドラッグソケットにダウナー系のアイスを2つ挿し、
一つのピンの底を弾いて体内投与を開始した。
从 ゚∀从「ドックン、何かあったら頼んだ」
(;'A`)「そうならない事を祈る」
从 ゚∀从「しぃちゃん、状況に応じて薬入れて」
(;゚ー゚)「ドクオに続いてそうならない事を祈るわ」
从 ゚∀从「クソ野郎」
(,,゚Д゚)「俺がお前の為に祈る事など無い。何だ?」
43
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:03:18 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「ほんと可愛くねーやつ……外の事は任せたぞ」
(,,-Д-)「いいから集中しろ」
从 ゚∀从「わぁーったよもう」
('A`)『デバイス“エイガカン”に異常無し。
間もなく上演開始です。上映中は何とかお席を立たずにご辛抱を。
それとシートベルトの着用とジャックの再確認をお願い申し上げます』
ノハ;゚⊿゚)「いつもながらドキドキしますね!」
(;´゚ω゚`) ポリポリ……
从 ゚∀从「……正直、あんまり演じたくねー役なんだよなぁ」
(;゚ー゚)「……ハイン、万が一の時は」
从 ゚∀从「わぁーってる、わぁーってる」
('A`)『ハインリッヒ及び対象のニューロ接続を確認。
対象のパーソナル領域に“エイガカン”のVRをロードする……んだこりゃ?』
(,,゚Д゚)『ドクオ、どうした?』
('A`)『視界情報のモニターが確認できた……前回のNightmareより強力に作用したようだ。
VRは展開出来たが万が一剥がれでもしたら……最悪だぞこりゃ、滅茶苦茶だ。
ハイン、その時はバックドアへ走って逃げろ』
从 ゚∀从「マジかよ……そんなやべーのか、こいつの頭ん中は」
(,,゚Д゚)「クソジャンキー、時間だ」
44
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:03:44 ID:Ccn78cE20
「OK。アクトする」
ハインリッヒの意識は、ブーンの所有スペース内に形成されたVR空間へと移行された。
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.
45
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:04:07 ID:Ccn78cE20
『海辺に残した思い出』
.
46
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:04:30 ID:Ccn78cE20
世界から切り離されたような孤島にいる。
ダイブしたハインリッヒはそのように認識した。
都会文明から完全に隔絶され、
ガジェットやインプラントも売る人間も居なければサイバネ医師も勿論居らず、
視界を遮るスパイクの一つすら存在しない自然の素朴さだけがただあった。
島の男は生まれたままの姿で歳を重ね、何の疑問も無く漁業に従事し、
女もまた男に従事し、島のように静かに生涯を終えていく。そんな島だ。
00年代後期、東南アジアにおいても貴重となった透明度の高いライトグリーンの海を持つ島は、
虜となったセレブの手によって長い間密かに守られてきた。
海辺の近くには小さな家がある。
ホライゾン家も島に配慮のある小さな別荘を一軒購入し、
まだ小さな息子のブーンと共に真夏の季節を健やかに過ごしていた。
(トーンの独白とデータから精巧に再現されたセットだ)
白色のドレスを纏う女が一人、海辺を歩いている。
細く長い指には白いハイヒールが引っかかっている。
気まぐれな風が吹き抜けると、女はハッとして麦わら帽子が攫われるのを防いだ。
黒髪が緩やかに靡いては薄く焼けた肩に再び掛かる。
遮蔽物の一切を持たない水平線に朱色が。
そこへ黒いシルエットが幾つか通り過ぎる。鳥だ。
壮麗な鏡映しの光景は我が物であると歌っているようだ。
小麦粉を踏みしめているようなきめ細かい砂の上には足跡が残されていた。
一人分。まだ小さく、子供が歩いたと思われる跡が延々と続いている。
(ブーンの認識もハックされてセットに引っ張り出されている)
女は海辺を横目にしながら、小さな足跡を辿ってゆく。
女の名を、カーラ・ホライゾンと言った。
47
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:05:04 ID:Ccn78cE20
しばらくカーラは歩いた。島の裏側に着くのではないか、と思いながらも足跡を辿る。
刻々と日も水平線に向かってその身を落とし始めている。
熱く燃える火が落ちるに連れて海水が量を増して零れているように女は感じる。
日とは反対を振り返ると星空が見え始めていた。
重金属混じりの雲とはまるで別の美しい漆黒に目を奪われるも、
カーラは振り切って足を早めた。
(いた……よし、ここまではバレていない)
浜辺にぽつんと腰を下ろす足跡の主をようやく見つけ、
波の音の隙間を見計らって声を張り上げる。
「ブーン! ご飯だよー!」
しかし返答は無い。
少年はただじっと前足を手で抱えて海を見つめている。
カーラはハイヒールを捨てて少年に走り寄った。
「ブーン、何してんだいここで」
( ω )「……ブーンって、何?」
( ω )「僕は、何?」
( ω )「分からない、分からない。何も考えられない」
( ω )「気が付いたらここにいて、でも、なんだか妙に落ち着くんだ」
( ω )「さっきまで、怖い夢を、見ていた気がする。これも、その続きなのかな」
48
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:06:05 ID:Ccn78cE20
( ω )「あなたは、誰?」
(やっぱり記憶が欠落してんのか)
「何寝ぼけた事言ってんだい、お前は」
『ブーン君のバイタルは?』 『正常よ。鎮静剤が効いてアバターも安定してる』
『ボリボリボリボリ』
『やっぱかなり記憶が欠落してやがるな……』
『Nightmareの特性ね』 『ボリボリボリ!!』 『上映中食べる音はお控えください』
『なあ、しぃ、このままで大丈夫かな?』 『ドックンの演出で補強する?』
『VRは正常に動いてるか?』 『大丈夫よ。ブーン君が現実と認識してるくらいに』
『幼児退行の理由は何だ?』 『ウィルスから心を守ろうとしたのかも?』
『おまえらうるせー!特にクソ野郎黙ってろ!』
「カーチャンよ、お前の。忘れちゃったの?」
( ω )「カーチャンって……?」
「カーチャンはお前を産んで育てた、カーチャンだよ」
( ω )「僕を、産んで、育てた」
「そうだよ。お前は私の自慢の息子のブーンじゃないか」
( ω )「ブーン、ブーン……が、僕の名前?」
「そうだよ。全部忘れちゃったんだねえ。
まあいいんじゃないのかい?」
( ω )「え?」
49
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:06:32 ID:Ccn78cE20
「白い砂浜みたいにさ、一回すっきりした方が整理が付くってもんだい。
ほら、歩いてきた方を見てごらんよ」
( ω )「足跡」
「そう。お前がここまでどうやって歩いてきたのか残ってるじゃないかい。
ああ、そういえば、ブーンは小さい時それが面白くっていっぱいここを歩き回ってたっけねぇ」
( ω )「小さい時」
「……ここ、本当に覚えていないのかい?」
( ω )「……ここは、ええと、何だっけ……引っかかってるんだけど」
「ここはさ、ブーンが小さい頃、よくトーチャンとカーチャンで来た島だよ」
「毎年、夏になると決まってこの島に遊びにきたじゃないか。
何して遊んだか、思い出してみよっか」
( ω )「……魚釣り?」
「お前がトーチャンに魚を釣ってってせがんでたっけねぇ」
( ω )「魚は、焼いて、食べた」
「釣った魚はカーチャンが焼いてあげたんだよ。
でもカーチャン下手だから焦がしちゃったんだ、ごめんね」
( ω )「夕日を眺めてたお」
「あの時もこういう風に並んで座って、暗くなるまで眺めてたっけね」
( ω )「あの、時も……あの時、あの時……ああ」
50
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:07:20 ID:Ccn78cE20
( ω )「ああ、ああ……」
( ゚ω゚)「あ、あ、ああああぁぁぁあああ!!」
一陣の風が抜けていく中、ブーンに記憶がフィードバックされていく。
(;゚ω゚)「そうだ、そうだ」
眩しくて見られなかった太陽も海の中に沈むと見えるようになって。
真夏の暑い日差しを浴びて出来た焼け跡もいつの間にか消えて。
ぼうっと眺めていた好きな形の雲も気づけば何処かへ流れていて。
白い砂浜に建てた砂の城も潮が攫って無くなって。
慌てて食べて喉に刺さった魚の骨もいつの間にか取れて。
(そうだ、思い出せ。自分の大切な思い出を)
走り回っている内に空は青色から赤へ、色を失くして黒くなって。
太陽が消えると星が流れて月が笑って。
花火はすぐに灯りを消して。
寝かしつけてくれたカーチャンの子守歌もいつの間にか聞こえなくなって。
(;゚ω゚)「それから……それから……?」
カーチャンがいつの間にかカーチャンではなくなって。
カーチャンは飛び降りて。
それで――――――――
(;゚ω゚)
僕は絶望した。
トーチャンも絶望した。
鉄格子の中で狂う変わり切った妻の末路を見て。
トーチャンは忙しくても僕に話しかけるよう努力はしていた。
だが、次第に会話は少なくなっていった。
今回の事も果たして僕が必要で救助を頼んだのか、仕事が大切で救助が頼んだのか。
僕にはもう、親を信じたり理解する事は、出来ない。
51
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:07:43 ID:Ccn78cE20
(;゚ω゚)「カーチャン、どうして」
「それは、カーチャンが――」
(;゚ω )「ねえ」
( ゚ω )「どうしてだお」
『ブーンの様子が妙だぞ。クソ野郎、ブーンに安定剤おかわりだ』
『まずいな、気づきやがったのか? クソジャンキー、セットが剥がれるぞ』
ブーンの背後の空間にノイズが生じる。
ライトグリーンの海を切り取って縦向きに貼り付けたかのようだ。
次に世界の左右が湾曲して立ち上がり壁のようにせり上がってゆく。
それは通路のように姿を変え、65536kmもの全長に及ぶ巨大な空間へと変貌した。
( ゚ω )「どうしてだお、カーチャン。どうしてブーンを置いてったんだお?」
蒼い海辺がオーバーレイ群で覆われて重金属酸性雨を降らす雲のようにくすんでゆく。
湾曲した壁には腹を食いちぎられた魚の死骸が流されている。
揺れ動く波にはペンダゴン形状のホログラムが漂流する筏を思わせた。
『やべえぞ、こいつの闇めっちゃ深い。いや、前回よりもウィルスが強力なのか……?』
『ハイン! こちらでは処理し切れなくなっている。反撃に備えてくれ』
『了解ドックン。でもまだだ、まだカーラを演じて落ち着かせる』
52
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:08:29 ID:Ccn78cE20
ペンダゴン状のホログラムはモノクロの砂嵐で乱れながら次々に映像を切り替え、
頭部切開し配線を垂らす女の顔、半開きの瞼から覗く白目、
薄汚れて古びた白いドレス、左手首の汚れ切ったドラッグソケットを映し出す。
機装化して末期を迎えたカーラの末路の様相だろうか。
《ブーン、それは뷧覩苣膓ꏣ膡ꯣ膊蓣膧》
ブーンの背後に続く細い通路の奥からノイズだらけの女の声――カーラの声が聞こえる。
ブーンが母親の声の方へと顔を向けた。
ハインリッヒはまずいと思い、コピーしたカーラの声を投げる。
从 ゚ー`し「―――――あのね、ブーン、カーチャンは、」
ブーンがクリアなカーラの声に反応して向き直すが、
( ゚ω )「……あ? カーチャンじゃ、ない?」
从 ゚∀`し「さっきから何寝ぼけて言ってんだい、カーチャンだよ?」
( ゚ω )「誰だ、か、かか、勝手に、はは入ってきた、のは」
从;゚∀し(やべ、私も剥がされてるのかよ!)
母、カーラの扮装が解け始めている――ブーンが異物に対し攻性防壁を利用して排除を開始したのだ。
ハインリッヒの足元や頭上から蒼緑のブロックノイズが次々と現れる。
从;゚∀从『クソ! 何なんだよこれ!』
カーラのアバターを解除したハインリッヒはジャケットのフードを揺らして回避し続ける。
53
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:09:22 ID:Ccn78cE20
『おーい! 手に負えねえよ!どうにかしてくれー!』
『ギコ、まずいぞ』 『ギコ君、安定剤を入れる!?』
『素体に危険を及ぼすがブーン君に戦闘用の精神安定剤を入れろ』
『とっくにショボンが入れてます!』
『クソジャンキー、何とか耐えろ』
『ボリボリボリ!!』
『アクション俳優じゃねえんだよ!』
( ゚ω )「ここここここここは僕のスペーススススス出ででででてけけけけけけけケケ」
( ゚ω )「う、う、うい、い、い、と、お、いと、とととととと」
( ゚ω )「トトトトトーチャンは仕事が大事でででで僕に見向きもしなかったたたたたた
俺俺おれ僕僕僕僕よりも奪われたたたたデータガガガ大切なはずなんだだだだだだだ」
( ゚ω )「こたえてててカーチャンンンンンン
どどどどうしてどうしてどうしてどうしてどうして」
( ゚ω )「どうしてどうしててててああああんなふうににににににに
あれはカーチャンじゃじゃじゃじゃじゃないちがうちがうちがうちがう
あんな化物ははははははははカーチャンなんかかかかかじゃあ、あの、」
54
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:09:48 ID:Ccn78cE20
(; ω:;.,+'「あの時の、海辺の時こそ、僕の――――」
言いかけてブーンが消え去る。同時に攻性防壁の攻撃も停止する。
从;゚∀从「消えた? どうなってんだ……どこ行きやがった?」
すぐにハインリッヒは周囲を確認する。
前方は柱のように突き刺さったブロックノイズで塞がれている。
ハインリッヒの左右にはそれぞれ異なるドアが存在している。
左側のドアは銀製の傷一つ持たない新品のようなドア。
右側のドアは錆びた鉄製の表面に赤黒い血を塗りたくられたドア……僅かに隙間が開いている。
『ハイン、左のドアは逃走用のバックドアだ。帰るなら今しかない』
从 ゚∀从「右は?」
ドクオの通信がハインリッヒの頭の中に入る。すかさずハインリッヒは尋ねた。
応えたのはギコだった。
『ブーン君のパーソナルスペースの更に奥、深層心理へと続く侵入口だ。
元々は海辺を望む別荘のドアだったんだがな……。
僅かに開いているのはブーン君が残した……逃走の痕跡だな』
从 ゚∀从「助けてもらいたいって事かよ」
『……確証は無いがな』
55
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:10:24 ID:Ccn78cE20
『最後に口調が変化したのも抵抗の表れのはずだ。鎮静剤の効き目とも捉えられる。
カーラに扮したお前の演技も活きての事だと思われる……と言っておく』
从 ゚∀从「一発でキメられなかったのが最悪だ。
脚本の書き換えなんてしやがって、クソウィルスが」
『ああ。ウィルスの後遺症が恐怖と混乱をぶり返させてブーン君の防壁に作用させ、
大量のノイズとオーバーレイを生み出したんだ。
デバイスで偽装したブーン君のパーソナルスペースを覆して戻す程のレベルでな』
『クソジャンキー。繰り返すが、右側のドアの向こうは今のブーン君の深層だ。
つまりブーン君のトラウマで構成された地獄のような世界だ。
精神安定剤じゃ辛うじて自我を保つのが精いっぱいだったようだ』
从 ゚∀从「そうか。じゃあまだ母親を演じられるチャンスがあんだな」
『だが深層心理だ。先程もそうだったが、今のブーン君は攻撃的だ』
腰のホルスターに収まっているハンドガンを抜き出す。
ドクオが事前に忍ばせた銃だ。
錆びついたドアノブにハインリッヒが手を掛けようとすると、
外側で見ているギコが通信して制する。
『一度入れば確実に防壁がロックダウンを開始する。ブーン君を救助するしか脱出方法は無い。
俺達との通信も切れるしバックアップだって望めない』
从 ゚∀从「わぁーってる。だがそっちの判断で薬の投与だけは頼んだぞ」
『本当に解ってんのか?』
从 ゚∀从「ああ?」
56
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:10:46 ID:Ccn78cE20
『仮に救出が成功したとしてもだ。
精神異常者の深層へのジャックはダイバーに強烈な影響を及ぼす。
ARで埋め尽くされた現実とVRとの区別が付かず、薬の過剰摂取でボロボロになり、
やがては終わらない悪夢の中を彷徨う事になるかもしれないんだぞ?』
从 ゚∀从「何テンパってんだクソ野郎。もう頭ん中ボロボロのババアだって知ってんだろ?
寝ても覚めてもハッピーな幻覚しか見えてねーよ」
『ハインさん! そうじゃありませんって!』 『ボリボリボリ!!』
『ハイン、進行を促すってギコは言ってんだ!』
从 ゚∀从「SHUT THE FUCK UP。ご忠告どーも」
『ハイン、本当に行くの? 今回ばかりは危険すぎるわ』
『Cの言う通りだ。クソジャンキー、本当に理解してんのか?』
从 ゚∀从「……大切なものは目を閉じても見えるものだ。
あの映画のファンだったら私の言っている事を理解出来るだろ?」
从 ゚∀从「レイチェルのリーダーだろうがテメエは。ずっしり構えとけ」
『お前……』
从 ゚∀从「どんな状況にも状態にも陥ろうが、私には何が真実なのか判断出来んだよ」
57
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:11:57 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「多分、な」
ドアノブを掴み、ハインリッヒが血染めの扉の向こうへ踏み入る。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
〓〓〓〓〓〓〓〓
〓〓〓〓
霧の深い暗い夜の街にいるとハインリッヒは認識する。
360度回って周囲を確認する。
血が滴る肉と鉄に構成されたスパイクが周辺に軒並み立っており、
どの窓からも警告灯の点滅が断続的に霧を赤く染め上げている。
天辺を包む霧の中にペンダゴン状のホロがやはり赤く発光している。
全てのスパイクに崩れかけた橋が繋がれており、連結した一つの構造物だとハインに思わせる。
从;゚∀从「……これが精神異常者の、スペースの深層か」
今にも崩れそうな頼りない機械の橋にハインリッヒは立っていた。
光景の全てにAR表示があてられて詳細な寸法や距離の測定値が記述されており、
まるでこれは現実だと言わんばかりであった。
58
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:13:46 ID:Ccn78cE20
橋の下から響く叫び声がある。
ブラックボードを引っ掻いたような女の声と重なる男の怒号は人外同士の性交を想起させ、
再びハインリッヒは現実と何ら変わらぬ日常のようだと感じながら、
下の様子を見ようと手すりから首を伸ばす。
从;゚∀从「うおっ!?」
瞬間、顔面を輪切りにして臓器サイバネを露出した顔が目の前に現れ。ハインリッヒは硬直した。
それは手を伸ばして無防備なハインリッヒを抱きしめ、
重金属酸性雨を降らす雲よりも黒い吹き溜まりの中へ共に身を投じた。
視界が流転する中、ハインリッヒは瞼を閉じて叫び声を上げる。
『―――ンキー、おい! クソジャンキー!』
从;゚∀从「――――――はっ!?」
ギコの声に我が返る。
ハインリッヒはスパイクの根本に広がる街にいた。
尻をつける地面は夥しい程の血が広がっている――先ほどの女がバラバラに弾けて作ったものだ。
自分のアバターに損傷は無い。
シャッターを切った瞬間、世界が変わったような異質な感覚のみが体に残っている。
視界の右側でARが表示される。警告だ。
体を中から裏返したような、骨格にサイバネと臓器をぶら下げて歩く白衣の男達が向かってくる。
ホライゾン・インダストリーの腕章を巻く腕には血が滴るメスやドリルが握られている。
ハインリッヒに気づいている様子は無い。
彼等が通り過ぎていくのをハインリッヒは身動きせずじっと息を呑んで待とうとする。
しかし、彼等は進路を変え、叫び声を上げて一気にハインリッヒに迫った。
59
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:14:40 ID:Ccn78cE20
『ハインさん! 応戦して排除してください! 殺されます!』
从;゚∀从「なんだってんだよ! 了解だヒート!」
ハインリッヒは咄嗟に立ち上がり銃のトリガーを絞る。
矢継ぎ早に放たれる弾丸は金属に覆われた脳核に穴を空けて黒い血を噴かせる。
しかし白衣の男達は霧の中から続々と現れハインリッヒに殺到する。
从;゚∀从「多すぎィ!」
『任せろ!』『対処するわ!』『ボリボリボリ!!』
从;゚∀从「ドックン! しぃちゃん! ショボン!」
ドクオの声がハインリッヒの中で響く。
蒼色のブロックノイズの群が何処からともなく現れ、白衣の男達の進行上に聳える柵となった。
白衣の男達は柵に衝突し、殺到し続ける群れの圧力に押されて血を絞り出した。
反射的にハインリッヒは目を瞑り、手で血が掛かるのを防ごうとする。
瞼の裏が作る数秒の闇の中で叫び声が小さくなってゆく。
次に瞼を開いた時、ハインリッヒの目の前からブロックノイズは消えていた。
そして臓器の山の上にホログラムが展開されてゆくのを認識する。
60
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:15:04 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д::.『無事か』
現れたのはギコだが、映像にはノイズが走っている。
(,,゚Д::.『ロックダウンが進行しつつある。お前を閉じ込めてここで殺すつもりらしい。
いいか、トーンから得た情報をヒントに痕跡を追え。
俺達の通信も鷣芍そろ切れが、
お前のバイタ???は監視韣膦適・のアイスは入れてや・』
从;゚∀从「あ? なんだ?」
(,,゚'l;+.::.『必ず壽綾縺」てヲ縺い』
从;゚∀从「おい」
,l,-'+;.::.『生滄d繧を祈▲縺ヲ縺?kぞ、ハꓣ莳ꫣ莃ヒ』
从;゚∀从「おい! クソ野郎! クソギコ! ……ギコ!」
呼び掛けは虚しく、プツンと音を鳴らしてホログラムは消え去った。
61
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:15:52 ID:Ccn78cE20
ハインリッヒはギコの指示を忘れないよう視界の隅にARログを作る。
①ロックダウンが完了、ブーンのスペースに閉じ込められた。
②脱出するにはブーンを救助し脱出口を造らせる。
③その為にまず、トーンから得た情報をヒントにブーンの痕跡を探す。
从;゚∀从「親父さんから得た情報」
これはカーラに扮していた際にもハインリッヒは視界の左隅にARを展開していた。
从;゚∀从「ブーンは甘えん坊で母親にはベッタリだった。母親もブーンを溺愛した……」
しかしその内、カーラは機装を重ねVR上で過ごす時間が増えるに連れ
重度の依存症を仕事とプライベートの両方に抱える事になる。
それを緩和しようと睡眠剤、鎮静剤、そうして薬物への依存を同時に強めていった。
从;゚∀从「で、ヤクのオーバードースで死んじまったんだろ?」
侵入前にギコがハインリッヒに告げた警告は、昨今ではよくある話でもあった。
ARが入り乱れる現実世界と仮想世界は今やその差が少なく、
区別する為に知らぬ間に精神負担が強まってゆく。
精神安定剤無しでは日々を耐えられず、やがて暴力的な報酬を脳内に齎すブラックアイスに手を伸ばした。
62
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:16:30 ID:Ccn78cE20
ハインリッヒは考察を続けながらあても無く街を歩く。
銃口は下ろさずに胸元に構えたまま、直感を頼りに霧の深い通りを進み続ける。
変わり映えの無い重厚な肉混じりの鉄の建造物が左右に並んでいる。
締められたドアや窓からは人のものとは到底思えぬ断末魔のような声が響き続けていた。
从;゚∀从「だいたいよぉ、イマイチ気が乗らなかったんだ」ブツブツ
ハインリッヒは叫び声には耳を貸さずというより気にならず呟いていた。
自分が住む第8区画では時折耳にするような声であるからだ。
あくまでブーンの恐怖の対象が造り上げる世界であり、自分の恐怖する物とは種類が異なった。
从;゚∀从「オーバードースで死んだ母親を演じるとか……」
从;゚∀从「……嫌でもママの事を思い出しちゃうだろうがよ……」
そう呟いた瞬間、ハインリッヒの進行先に黒い影が立ち込める。
从;゚∀从「……冗談だろ。薬が切れちまったのか? おい、クソ野郎」
徐々に形を成し、人型のシルエットと化した。
あれは、ダメだ。
从;゚∀从「ギコ! 早くしろ!!」
シルエットは首を持ち上げ、数多の配線を断面から伸ばしたまま両手に抱えた。
63
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:19:08 ID:Ccn78cE20
その存在を認識したハインリッヒは突然体を震わせ、激しく呼吸した。
从; ∀从「く、来るな……」
後退りするハインリッヒの方へ、それは霧を纏いながらゆっくりと近づく。
同じシルエットが霧の中で増えてゆく。
最初の一体が霧を払い人形の姿を垣間見せると、
両手に持った首だけをハインリッヒの目の前に差し出した。
実父と実母の顔を割って合わせたアンドロイドの首だった。
視線を左右上下に飛ばす両目、薄く空いた口から透明な疑似体液が流れ出している。
从; Д从「あ、あ」
ハインリッヒは腰を抜かして血塗れの地面にどさりと座り込む。
銃を構える事すら出来ず、小さく嗚咽を漏らして震えた。
続々とハインリッヒの元にアンドロイドは集まり、等しく貼り合わせた両親の顔を突き付ける。
从; Д从「や、やめろ、やめろ」
やがて、髪型のシルエットが異なる一体のアンドロイドが彼等をかき分け、
ハインリッヒの前に現れる。
64
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:19:43 ID:Ccn78cE20
霧に包まれて明瞭ではないが首は繋がれたままなのがハインリッヒにも分かる。
霧の中でそのシルエットは首を持ち上げ、
ふわりと巻き髪を揺らしながらハインリッヒの目の前に差し出した。
ξ ●)ξ「繝上う繝ウ縲√ワ繧、繝ウ……あ、い……ん……」
かつての親友の顔面をくり抜かれた首だった。
从; Д从「――――――――」
ハインリッヒは自分のこめかみに銃を押し当てる。
その時、突然通りに大雨が降り注いだ。
身が凍える程の冷たい雨だ。
その冷たさにではなく、恐怖で震えるハインリッヒは、歯を鳴らしながら空を見上げる。
从; Д从
从; Д从「あ……ああ……」
从; Д从「ああ…………」
そしてそっと銃口を下ろし、雨水を体内に求めて舌先を口から伸ばした。
65
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:20:11 ID:Ccn78cE20
ハインリッヒは目を閉じ、
獄中で瞼の裏側に描き続けた未来、過去のそれぞれを想起する。
瞼から伝い落ちるのは雨と涙の両方であった。
『目が感じ取る現実に大きな意味は無い。大切なものは目を閉じても見えるものだ』
そして何度も映画館に足を運んで見た思い入れのあるシーンを再生した。
ハインリッヒは、瞼を開けて視線を通りへと落とした。
雨が降り注ぐ視界の中にハインリッヒの恐怖の投影はもう存在していない。
从; Д从「はあ、はあ」
从; Д从「はあ……はあ……あー」
从;゚∀从「あっぶねえ……助かったぜクソ野郎。帰っても礼は言わねえぞ」
“外側”でハインリッヒのバイタルを監視するギコが判断し、
強力な作用を齎す違法のクリスタルアイスをドラッグソケットに挿していた。
从;゚∀从「クソみたいな妄想と幻覚でまた自殺する所だった……クソが!
でも大丈夫、私はまだ大丈夫だ……アイスさえありゃ余裕なんだよ」
ハインリッヒは力強く立ち上がり、霧の中を手探りで進み続ける。
体は雨に打たれて冷え切っていた。
66
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:20:33 ID:Ccn78cE20
ハインリッヒは目を閉じ、
獄中で瞼の裏側に描き続けた未来、過去のそれぞれを想起する。
瞼から伝い落ちるのは雨と涙の両方であった。
『目が感じ取る現実に大きな意味は無い。大切なものは目を閉じても見えるものだ』
そして何度も映画館に足を運んで見た思い入れのあるシーンを再生した。
ハインリッヒは、瞼を開けて視線を通りへと落とした。
雨が降り注ぐ視界の中にハインリッヒの恐怖の投影はもう存在していない。
从; Д从「はあ、はあ」
从; Д从「はあ……はあ……あー」
从;゚∀从「あっぶねえ……助かったぜクソ野郎。帰っても礼は言わねえぞ」
“外側”でハインリッヒのバイタルを監視するギコが判断し、
強力な作用を齎す違法のクリスタルアイスをドラッグソケットに挿していた。
从;゚∀从「クソみたいな妄想と幻覚でまた自殺する所だった……クソが!
でも大丈夫、私はまだ大丈夫だ……アイスさえありゃ余裕なんだよ」
ハインリッヒは力強く立ち上がり、霧の中を手探りで進み続ける。
体は雨に打たれて冷え切っていた。
67
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:21:27 ID:Ccn78cE20
ぐにゃり。
从 ゚∀从「……あん?」
アバターで経由するニューロを通じ何かを踏んだと認識した。
臓器でも踏んだかと思って足をどかすと、血と砂に塗れた魚を視認した。
しゃがみ込んで地面を注視する。
拡大表示されたARには海水だと表記がある。
そこで臭いにも僅かな変化がある事にハインリッヒは気づく。
山羊のミルクのように濃い霧と咽るような血生臭さが漂う世界に隠されていたが、
海と海水魚が齎す塩臭さが僅かに混ざり始めていたようだ。
从 ゚∀从「ブーンも何か言い残してやがったが……海辺に残した思い出を辿れば、恐らく」
視線を落としたまま先を見る。魚の死骸が薄く口を開けて横たわっている。
裂かれた腹から腸が飛び出している。
ハインリッヒは魚の死骸をゆっくりと追う……魚の死骸が通りに続いている。
こちらだと言わんばかりに死骸は一様に同じ方向に頭を向けている。
追うと、やはり深いままの霧の中に何かが蠢いている事にハインリッヒは気づく。
大人の男程の背丈のそれは、しかし頭部はペンダゴン状の機械で置換しているようだ。
ハインリッヒを認識しているのかは不明で、ただ肩を揺らしている。
握るハンドガンの側面に埋め込まれた小さなLEDと、
ハインリッヒの左目の横にあるLEDが同時発光する。
親指下から伸びるコードを通じ、無意識的にハンドガンの出力を高めて対象に近づく。
68
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:22:43 ID:Ccn78cE20
撃つべきか考えている隙に、それがハインリッヒに気づいて近づく。
くんくん、と鼻を利かせる僅かな音が鳴っている。
霧の中から姿を現したペンダゴン・ホロには顔面の表層に数多の引っ掻き傷を付けた女の顔があった。
血で汚れぼさぼさに伸びた黒髪を垂らし、機装した眼を半開きの瞼の中で泳がせている。
从 ゚∀从(お前は……)
カーラだ。
指先はスキンが削り取られて魚の背骨に似た物を露出してしまっている。
ペンダゴンの中のカーラが、血だらけの口を動かす。
「薬を、ちょうだいな、トーン」
从 ゚∀从「ブーンの深層が投影するカーラがこれか……おい、ブーンはどこにいる?」
「薬を、ちょうだいな、薬、薬、ブラックアイス、早く、薬薬薬薬薬薬薬」
从 ゚∀从「……息子の事すら解らなくなっちまった。それがお前の最期だったな」
「あなたから、いいにおいがする。アイスの、鼻を擽るにおい」
「あ、あ、ああ、アイス、アイス、アイスアイス繧「繧、繧ケ繧「繧、繧ケ繧「繧、繧ケ!!」
从 ゚∀从「確かに私は匂いが染みついちまってる程のジャンキーかもしれねえがな、
お前みたいに狂う感じは全くしないね、まだ」
ハインリッヒがペンダゴン・ホロの中のカーラを撃ち抜く。
画面の弾痕に沿って血が走り、倒れ込む。
地面に強く打ち付けて弾けた体から配線を繋いだままの四肢が四方に散った。
ハインリッヒは死骸に一瞥もやらずに先を往く。
69
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:23:09 ID:Ccn78cE20
通りを抜けて拓けた空間で巨大なスパイクが聳えていた。
入口には火花を散らす「第一区画精神科医療センター」のダークグリーン色の看板がある。
魚の死骸と共に、血に漬けたハイヒールでスタンプを押したような跡が内部へ続いている。
ひび割れたコンクリの地面に似つかわしくない砂も散っている。
まるで海辺からそのまま来たかのようだ。
ここでハインリッヒは推測する。
凄惨な魚の死骸はブーンの居所を示すと同時に、恐怖心に塗り替えられた記憶なのだろうかと。
从 ゚∀从「あるいはクソウィルスの仕業……それとも両方と考えるべきか」
ハインリッヒはAR上のヒントを更新した。
④海辺の記憶を辿った先にブーンがいる可能性が高い。
⑤しかし混濁した精神状態が記憶を改竄し恐怖へと挿げ変えている。
⑥トラウマの投影=カーラや科学者達の妨害がある。それはより具体性を増してきている。
⑦やはりカーラは深刻な薬物中毒の末にブーンすら忘れたようだ。
从 ゚∀从「この先に最大のトラウマがあるに違いない。
そしてそこにブーンが囚われている可能性も高いな……」
从 ゚∀从「ダイハードなサイコホラーファンで良かった。
この程度の演出じゃ私のハートは跳ね上がんないぜ」
ハインリッヒが入口を過ぎると、火花を散らすダークグリーンの看板が静かに息を引き取った。
70
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:24:21 ID:Ccn78cE20
ハインリッヒを迎えたのは血以外の物を含む臭気だった。
横長の受付の前で整列するロビーチェアと床は真新しい血と汚物がアメーバ状に広がっている。
VR空間内での診断を受ける為に備えられたエレクトロードも、
太い配線の集合体と先端の6突に疑似体液や血の糸を引いていた。
アイスが無ければと、汚物に塗れた光景に流石のハインリッヒもゾッとする。
鼻から目に掛けて黄ばんだ一筋の煙が充満するような不快感に震えるだろう。
そんな事を冷えた頭で考えながら、ARが強調表示する受付内の問診票に注目する。
ホライゾンと記入されている問診票は砂に塗れていた。
それを認識して視線を通路へやった瞬間、影の顔を持つスーツ姿の男が受付前に現れる。
从 ゚∀从(親父さんか)
襟元を飾る社章を見てハインリッヒは投影の父親だと判断し、
顔の無い理由は疎遠となっていた父子の関係性を怯えているように感じた。
この時期の父親の顔を覚えていないだろうか。
受付を終えたらしい投影のトーンがハインリッヒに近づく。
影の顔に口だけが現れて黄ばんだ歯を僅かに見せた。
「薬は、どこで、買えるんだろうか。カーラに必要な、薬は」
問われ数回瞬きをする。
そのシャッターの間に何かがいると思ったが、何もいなかった。
71
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:25:01 ID:Ccn78cE20
「薬は、どこで、買えるんだろうか……カーラが必要としている、薬は……」
呟いた一人の投影が通路の奥のエレベータへと向かってゆく。
向かう先はカーラの部屋がある病棟だろう。
ハインリッヒは投影に対しARの枠を囲い強調してから視線をロビーへと戻す。
光景は数度のシャッターの間に変わり果てていた。
長椅子には体を痙攣させるカーラや、涎を垂らして虚ろに歩くカーラ、
エレクトロードに繋がれた白目を剥くカーラ、毟って髪を無くしたカーラ、カーラ、カーラ。
狂ったカーラでロビーは埋め尽くされていた。
从;゚∀从
カーラが一斉にハインリッヒに注目し、椅子の足を鳴らして立ち上がる。
妨害だ。ハインリッヒはLEDを発光させて近くの投影の頭を容赦なく撃ち抜く。
エレベータが到着したチャイム音を耳が拾うや全力で通路を駆けた。
「譌ゥ縺剰脈繧貞ッ?カ翫○??シ!!」
発狂しながら一人のカーラが汚物を投げつける。
避け切れなかったハインリッヒは足首に付着させてしまう。
がくりと態勢を崩し、違和のある足を見ると足首から先がノイズが溢れていた。
アバターに浸食していく様だと判断して、ハインリッヒは自ら銃で箇所を撃つ。
从; ∀从「痛っっっっってぇ!! クソが! クソがあ!!」
ニューロ接続が足に鋸を掻けたような痛みを共有する。
モノクロの砂嵐が視界に広がる中、ハインリッヒは辛うじてエレベータへ体を滑り込ませた。
閉まる扉の僅かな隙間には呪う言葉を吐き出す歯の無い口だけが並んでいた。
72
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:26:00 ID:Ccn78cE20
すぐさま傍らの投影のトーンに銃を向ける。
だが敵意を抱いている様子はなく、やはり口だけしかない影の顔をハインリッヒに向けて話しかける。
「先生。カーラは、妻は、助かるのでしょうか」
「…………そうですか……では、もう……」
「私にも、大きな責任があります。だから最期まで、妻と向き合ってみます」
そう言い残し、投影のトーンは砂へと姿を変えて消え去った。
足元に広がる小麦粉のような砂の色は、まるで父親の誠実さを表すように白かった。
ブーンが心の奥で信じる父親の像だろうか。
そう思うハインリッヒの頭に、息子の無事を願うトーンの泣き崩れた顔が過る。
投影の言葉は、外で聞いたトーンの独白の通りの物だった。
トーンは最期までカーラの見舞いに来ていたようだが、
鉄格子付きの病室に入れた時には既にカーラは人ではなくなっていたらしい。
様々な治療や手術を施すも効果は無く、壊れた頭はブラックアイスの報酬を求め、
そして現実と仮想の区別が無いまま窓から飛び降りて素体と脳核を破壊したのだ。
从;゚∀从「ここが、ブーンの恐怖の原点、なら、きっとこの先に……」
脚の痛みは視界のノイズと同じ激しさのままだった。
アイスで落ち着いていたはずの動機もエレベータに沿って上昇しているようだった。
ハインリッヒは歯を食いしばって耐え、ドアが開かれるのをただ待った。
ドアが開く。
到着した先は既に病棟ではなく、雨が降りしきるスパイクの根本だった。
そこにブーンがいた。カーラと思われる遺体を見つめている。
原型は無い。
73
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:28:28 ID:Ccn78cE20
ハインリッヒは雨を浴びながらブーンに近づく。
( ω )「な、何故、カーチャンは、こんな、ば、化物、に」
( ω )「な、何故、カーチャンは、く、薬、なんて、ものを」
ブーンは濡れた髪の隙間から、機械と肉が猥雑に絡み合った塊を見つめて問いかける。
素体から溢れる血は疑似体液に混ざり、頭上の重金属を含有する雲の黒さに似ていた。
砕けた銀色の容器から形を崩して垂れる脳漿の様は、
脳核に内包されていたカーラの人格の悲惨な終わりを物語っているようだった。
だが、展開されたままの左手首のドラッグソケットの先端は弾けていた。
从;゚∀从「違う、それは違う」
( ゚ω )「……何が?」
从;゚∀从「解った。お前が真に囚われている物が」
( ゚ω )「……何?」
从;゚∀从「疑問だ。社会に対する疑問。ドラッグが必要な現実社会に対する疑問」
从;゚∀从「私じゃ説得力に欠けるがよ、普通いらねーんだよそんなもんは」
74
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:29:54 ID:Ccn78cE20
ハインリッヒが確かな口調でブーンに声を投げ、両脚を動かす。
降りしきるブルーアイスと鎮痛剤の雨がノイズを溶かしていた。
ハインリッヒが浴びるものとは色の違う雨をブーンは受けている。
手の届く距離まで詰めてハインリッヒが続けた。
从 ゚∀从「カーラが断てなかったのは薬じゃない。機装への依存だ。
重金属で汚れ切った世界が曇らせたのは、目だ。
機械の目が通す世界は確かに美しいが、次第に曇っていっちまう」
从 ゚∀从「カーラのような機装化精神病者で世界は溢れている」
( ゚ω )「それが、なんだってんだ?」
ブーンが振り向くと同時、黒い雲を突き破る爆撃機が飛来する。
投下された爆雷が爆炎とモノクロのブロックノイズと共に街を崩してゆく。
活火山の如く活動している深層はブーンの怒りそのものと言えよう。
( ゚ω )「これが僕にとっての現実だ。寝ても覚めても、逃げても引き返しても、
現実でもVRの中でも、認識の中にいつも狂った母親の影があった。
父も逃げた。現実から逃げ続けていた」
从 ゚∀从「トーンはお前を見捨てたんじゃない。お前がトーンを見なかったんだ。
お前はトーンのように現実を見ず、トーンのように立ち向かわず、
今と同じようにただ怯えていただけだった」
吹き荒れる炎が放つ熱波を浴びる中、両者は睨み合いを続ける。
75
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:31:02 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「カーラが調子良い時にトーンに伝えた言葉がある。
しかしトーンはお前に聞かせる事を無く、ただそれを実行しようとしていた。
お前は父を見ようとも、耳を傾ける事もしなかった」
( ゚ω )「トーチャンは、仕事で全てを忘れようとしていただけだ。それが真実だ」
从 ゚∀从「目が感じ取る現実に大きな意味は無い。
大切なものは目を閉じても見えるものだ」
( ゚ω )「何を、言ってんだ」
从 ゚∀从「よく聞け。ブーン」
从 ゚"*::.,+「ブーンを」
「ブーンを、どうか私のようにしないでやって。
そして、私のような人間を、どうか減らしておくれ」
( ゚ω )
76
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:32:40 ID:Ccn78cE20
「トーチャンは私の遺言を守ろうとした。お前に許した機装は最低限のもののみ。
最初はお前と向き合いながら人々の為にも身を費やそうと努力したよ。
でも、次第にお前との時間が減っていったのは、お前の言う通りかもしれないね」
( ゚ω )
「忙殺されそうな日々の中でトーチャンは苦難していた。
私への罪悪感に苛まれ続けていたトーチャンは会社を上げて精神病と向き合った。
お前とは向き合う時間があまり取れず、でも、お前の将来の為にも仕事に身を捧げた」
(;゚ω )
「お前も努力していた事をトーチャンは知っているよ。
お前もトーンも、カーチャンみたいにARとVRに没入する事を恐れた。
でも社会に適応しようと苦しんでいた。
頭の中に鉛があるような違和感をずっと抱えていた事を、トーチャンは知っているよ」
77
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:35:03 ID:Ccn78cE20
「疲れた体で家に帰ると、ベッドにうなされているお前がいる。
そんな時あの人は、朝日が差し込むまでずっとお前の手を握っていた」
(;゚ω゚)
「他の家庭では鎮静剤や睡眠剤の投与が珍しくない中、
お前に愛情だけを与えていたんだよ」
.
78
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:35:23 ID:Ccn78cE20
「思い出しな、ブーン。差し込む朝日で薄く開けた時、
そして微睡んで瞼を閉じた時、いつも何を感じていたんだい?」
(;゚ω゚)
(;゚ω゚)「と、」
.
79
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:35:48 ID:Ccn78cE20
( ;ω;)「トーチャン……」
大雨が幾重にも覆われたオーバーレイ群やブロックノイズをみるみる溶かしてゆく。
鼻につく匂いも、赤く染まる光景も、海と空が齎したものとなる。
( ;ω;)「そうだ、いつも、トーチャンは近くにいた気がするお。
どんなに会話が減ったと思っても、トーチャンは、トーチャンが……」
燃えるような夕日を見つめてカーラは静かに続けた。
「ブーン、カーチャンはね」
.
80
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:36:23 ID:Ccn78cE20
「カーチャンはね、弱虫だったから死んじゃったんだよ。
カーチャン、心が弱かったから、薬に手をだしちゃったよ、ごめんねカーチャン馬鹿で」
( ;ω;)「なんで、薬なんか……」
「今の世界は便利よ。カーチャン、
とっても便利だからすっかり頼っちゃうようになっちゃったんだよ。
その内、だんだん、だんだん、心が弱ってきちゃってねぇ……」
「カーチャンみたいに今の世界に甘えちゃダメだよ、ブーン」
「……目を開けた時の世界が本当はどう映っているのか、何が正しいのか。
そして何が大切なもの、目を閉じてもわかるように、
しっかり自分の目と頭で考えんだよ」
( ;ω;)「……えっと、やっぱりVRなら、カーチャンに逢えるって事かお?」
「はあ、まったくこの子は本当に甘えん坊で馬鹿だねえ……ごめんねブーン」
「もうお前が見るカーチャンは幽霊なんだよ。本当のカーチャンじゃない」
( ;ω;)「カーチャンは、本当にもう、いないのかお……?」
「ごめんね、カーチャンもういなくって、ごめんね。でもね」
81
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:36:44 ID:Ccn78cE20
「でも、瞼の裏にいるブーンのカーチャンを思い出しておくれ。この海辺と一緒に」
( ;ω;)「か」
( ;ω;)「カーチャン……」
( ;ω;)「うう、ずっと、ずっと寂しかったんだお。
トーチャンは、忙しくて、僕、ずっと一人で」
「ごめんね。でも安心しな。トーチャンは昔からブーンの事をずっと大切にしてるからね。
今日だって仕事ほったらかしでブーンを心配してたんだから」
( ;ω;)「ほ、本当、かお?」
「本当だよ。ほら、トーチャン心配してるから、早く帰っておやり」
( ;ω;)「うん」
「……もしまた迷う事があったら、トーチャンと二人でこの島に来てごらん。
きっと心の整理が出来て落ち着くよ」
「……カーチャンも、そうすれば良かったのかもねえ……」
( ;ωと)ゴシゴシ
82
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:37:28 ID:Ccn78cE20
( ^ω^)「……また昔みたいにトーチャンにせがんで、来てみるお。
絶対にVRなんかじゃなくて、自分達の足で。そして自分達の目で確かめるお」
カーチャンが好きだった、この島の海辺を。
カーラ・ホライゾンがブーンに手を差し伸べる。
ブーンが手を取ると、カーラはブーンを引き寄せてブーンを抱きしめた。
周囲の光景が早送り再生のように移り変わってゆく。
夜空はより色を濃くし、やがて水平線から発せられた白い光を受けて帳を溶かし始める。
白い光は浜辺の二人に伸びて包み込み、ブーンの抱くカーラは次第にフェードアウトしていった。
「あ、ブーン。大事な事だから改めて言うけどな」
( ^ω^)「なんだお?」
カーラとは異なる声が光の中から聞こえ、ブーンが振り向く。
光を浴びる女の美しさに思わず息を呑みながら、ブーンは耳を傾けた。
83
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:37:48 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「薬、ダメ、ぜったい」
(;^ω^)「あ、え? あ……は、はい」
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84
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:39:57 ID:Ccn78cE20
『海辺に残した思い出』
Cast
从 ゚∀从 カーラ・ホライゾン ハインリッヒ・ハイウォーカー
プロデューサー ギコ・ドーセット
ディレクター ギコ・ドーセット
アシスタントディレイクター シィナ・C・パーシバル ヒート・ブライアント ショボン・V・セバスチャン
脚本 ハインリッヒ・ハイウォーカー
演出/美術/音響 ドクオ・ストラットン シィナ・C・パーシバル
製作 レイチェル
協力 ホライゾン・インダストリー
ジャンル サイコホラー
.
85
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:40:22 ID:Ccn78cE20
※
レイチェルの面々はホライゾン家が地上の郊外に抱える一等地の屋敷に招かれていた。
一同は、その豪華絢爛な内装と、長いテーブルに置かれた料理の数々に目を奪われていた。
ヒートは食欲に従い次から次へとフォークとナイフを刺して口に放り込んでいる。
ホライゾン・インダストリーの何人かの重役に声を掛けられたので社交辞令に応じようとしたが、
口が塞がって唸り声が上がるだけなのでワインを探し求めて奔走を始めた。
ドレスを捲り上げて走り抜ける様は些か淫らだろうか。
ショボンは取り分けた料理にビタミン剤を振りかけ、それを一気に口にかっ込んでいる。
眼窩で光るミラーシェードのサングラスから彼の気持ちは察する事が出来ないし、
僅かに緩む口元が笑っているのか苦しんでいるのか、唯一答えを知るヒートは忙しなく動いている。
ドクオはスーツ姿の男達と談笑している。
専門用語を飛び交わせる一陣の方へ次々に人が集まってくるが、
その中心にいるドクオはヒートが喰らいつくすテーブルの上が気になって仕方がなかった。
ギコとCはグラスを片手にトーンと共にバルコニーで夜風に当たっている。
「今回は、本当にお世話になりました」
(,,゚Д゚)「いえ、いいんです。それに人助けが我々の仕事ですから」
86
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:42:01 ID:Ccn78cE20
「もし差し支えなければ弊社の製品とサービスを何でも無償で提供させていただけないでしょうか?
恩人の皆様に少しでもお役に立てればと思うのですが……」
(,,゚Д゚)「いや、それは何というか……悪いですよ、トーンさん」
「いえ、大した事ではございません。それにまだ依頼は済んでおりませんでしょう?
息子を攫った連中の背後を突き止めるまでは、微力ながら協力させていただきたい」
(,,゚Д゚)「……そうでした。分かりました、ご協力に感謝します」
(*゚ー゚)「実は頭の中で皮算用してるでしょ?」
(,,゚Д゚)「どこかのクソジャンキーと一緒にすんな」
「……そういえば、ハインリッヒさんは?」
トーンは先ほどから視線をあちこちに行き来させていた。
しかしハインリッヒの姿は何処にも見当たらずにいた。
(*゚ー゚)「彼女は家にいるんじゃないですかね?」
「それほど疲弊している、という事でしょうか……?」
(,,゚Д゚)「それもありますが……トーンさん、直接礼なんて言わないでいいんです。
あんな女には近づかない方が賢明なんですよ」
「し、しかし、言い尽くせないほどの礼があるんです!
彼女がいなければ今頃ブーンは、廃人のままだったんだ……」
87
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:42:24 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「そう申されましてもですね、ありゃ不潔で、粗悪で、
生活感の欠片も無く、ただ自堕落でどうしようもないジャンキー、それが正体です」
「そ、そういう風には見えませんでしたが……? そ、そうだとしても改めてお会いしたい!
ブーンと一緒に改めてお礼を申し上げたいのです」
(*゚ー゚)「ねえ、会わせて差し上げたら?」
「この通りです、ギコさん」
(,,゚Д゚)「……困りましたな」
(*゚ー゚)「ギコ君も一緒なら心配ないでしょ?」
(,,-Д-)「……分かりました。明日の午前中にでも行きましょう。
あいつの家に行くには夜が深いですからね」
「ありがとうございます! 息子も喜びます!
しかし、ハインリッヒさんはそんなに遠くに住んでいるのですか?」
(,,゚Д゚)「……第8区画の犬小屋以下のクソアパート使ってんです。
ああ、言うのも情けない。なんで俺がいつもこんな役回りばかり……」
「だ、第8、区画……? ほ、本当に人が、住めるのか……?」
(,,゚Д゚)「だから嫌なんだ……なんで俺がこんな恥ずかしい思いをしなきゃならない……」
88
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:42:47 ID:Ccn78cE20
「そ、それはおいといて……ギコさん一体、彼女、本当は何者なんです?
それに貴方達も……一体どういう組織なんでしょうか?
他人の電脳にダイブして不明となった自我をサルベージ……
或いはインセプションとも言える行為をやってのけるなんて、尋常じゃない事です」
(,,゚Д゚)「……機密ですので詳しくはお答え出来ませんが、
我々は国に雇われた救急医療サービスなんです。武装した、ね」
「国に?」
(,,゚Д゚)「ええ。私設のミリタリや医療サービスとは異なります。
上部が精神病絡みだと判断した場合、真っ先に我々が派遣されるって仕組みでして」
(*゚ー゚)「まあロス市限定の試験的なものなんですけどね」
(,,゚Д゚)「ダイブに関して扱うデバイスの設計等は機密事項なので言えません。
ただ……あの女について一つ教えますと、あれは元々女優です」
掘り出し物というか骨とう品というか何というか。
ぶつぶつと呟くギコの足が行き場を求めて右往左往している。
無意識に胸元から電子タバコとコーラリキッドを取り出した。
「女優……確か、彼女もそんな事を言っておりましたな」
泡立つ煙を巻きながらギコが返す。
89
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:43:27 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「患者のスペースを偽装する行為を我々は“セット”と呼びます。
そこで奴は収集した患者の情報からヒントを得てストーリーやキーパーソンを構築し、
患者と共に記憶の再現、追体験を行うんです」
(*゚ー゚)「精神病患者のスペースにそのままダイブすると、
例えばインサイド・フレンドとの鉢合わせを起こして更に混乱を招く恐れがある。
だからデバイスで偽装スペースをロードする必要があるんです」
(,,゚Д゚)「しかしながらそれでも患者の潜在意識に偽物かどうかを悟られてはならない。
悟られた瞬間、攻性防壁の反撃が始まり排除されてしまいます」
「それで、演じる、と言ったのか……」
(,,゚Д゚)「そうです。インサイドの問題原因となる何者かに扮して心を整理してやる。
元々女優だったあいつにしか出来ない仕事でしょう。
これが心理学者なんかでは上手くいかなくって……おっと、この話は忘れて下さい。
ともかく、これまでに何人もの人間を機装化精神病から救ってきました」
(*゚ー゚)「ただ、今回のように重症者へのダイブは危険で、例外が多いと知りました。
抑制の利かない恐怖心が防壁に連動して空き容量を浸食しダイバーに反撃を――」
(,,゚Д゚)「おい、C」
(*゚ー゚)「あ」
「あ、あの、ハインリッヒさんにとってそんなに危険な行為だったんですか?
それにブーンも、そこまで深刻な状態だったなんて……なんて事だ……」
(,,゚Д゚)「C、患者に配慮がねーっつってんだろ、いつも。トーンさんに心配させんな」
(;゚ー゚)「あーはははは……いやー……ね、はい、すいませんでしたあ!」
(,,゚Д゚)「その語り癖直せ」
90
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:44:10 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「……トーンさん。確かに危険ではあります。
ですが、精神病患者との空間共有は奴の為でもあるんです」
「ハインリッヒさんのため?」
(,,゚Д゚)「あいつも病気みたいなもんですからね」
(,,-Д-)「映画でも見るか演技でもして心を整えりゃいい……尤も今回は、さて……」
※
鉄板を張り合わせた床に汚れた毛布が広がっている。
そこには使い終わったリキッドピン、粉の付着すら消えた紙筒、安い酒瓶、
そしてトイレットペーパーを全身に巻き付けたハインリッヒが転がっている。
ハインリッヒの顔面と髪は口から溢れた吐しゃ物で汚れている。
彼女を管理するギコ・ドーセットがバイオ・ヴィジョンが通さずとも、
昼間に食べたバーガーの構成とアルコール度数を解明できよう事は、
生理的な臭気を超えて放つ強いアルコールとバーガー特有の油の臭いを嗅げば分かるだろう。
ハインリッヒが寝返りを打って再びゲロの中を転がりそうになると、
それを制するかのように彼女の頭の中で着信音が響き渡る――ハインリッヒは応答する。
「う、うぐ、うぎぎぎぎ……」
「も、もし、もし。こ、こちらの電脳はただいま使われておりま――」
『俺だ。珍しく出たと思ったらつまらねえボケかましやがって。
昨日連絡した通り今からそっちにブーン君とお父さんを連れていく。顔洗っとけ』
91
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:44:34 ID:Ccn78cE20
「う、うえ〜〜! め、面倒くせえ〜! 勘弁してくれよもー」
『だめだ。どうしても命の大恩人であるお前に直接お礼が言いたいんだそうだ。
断る俺の身にもなってみろ。これ以上お前に代わって無礼するつもりはない。
お前はイケすかねえハリウッドスターでもなんでもねえんだ。ちゃんとしとけ』
「む、昔はあとちょっとでスターに―――」
『いいから身なりを正して待ってろ。
どうせゲロ塗れにでもなってんだろうからな』
ハインリッヒはその辺に巻き散らかしたトイレットペーパーを拾い、
顔中にまとわりつく自分の吐しゃ物を適当に拭いながら
从 ゚∀从「よくわかったな。実はお前が昨日おごってくれたハンバーガーの中を泳いでた」フキフキ
『テメエふざけんなあ……! 俺からバーガー食う気を奪いやがって……!』
从 ゚∀从「ぶひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwwww」
『クソジャンキーが……っつーかシャワー通ってんだろうな?
今月も俺が水道代とガス代は別口座に分けて入れてやったはずだが』
从 ゚∀从「そうか……それ使えば良かったのか……」
『いい加減ふざけた事言ってんじゃねえぞ! マジで全部薬に変えちまうつもりか!
俺が、俺がせっかく、善意でやってやってるってのに……』
从 ゚∀从「マジウケる」
『死ね』
92
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:44:56 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「ったく、一々そんなに恩を感じられてもって感じだが。
しょーがねえ。シャワ―浴びて待ってっから早くしろ」
『どうせテメエ暇してんだろうが』
从 ゚∀从「暇じゃありませーんエイガカンに行く予定とかあるんですー」
从 ゚∀从「……っつーかよクソギコ、昨日捕まえた捕虜はどうなってんだ?」
『あ?』
从 ゚∀从「ほりょっつってんだよ! 引っぱたくぞテメー」
『悪い、初めてお前から真面目に話振られて、ニューロがイカれたかと思った』
从 ゚∀从「ねえ、人のやる気削ぐのやめてくれる? おばちゃん怒るよ?」
『お互いにな』
『……捕虜の件だが、昨夜からドクオ、ヒート、ショボンに任せてある。
今日中に何かしら情報が上がるだろう』
『……昨日、ブーンのスペースで起こった事を気にしてんのか?』
从 ゚∀从「ああ? どういう意味だよ?」
『俺が心配しているのはお前の頭ん中だ。“あれ”は何だ?』
从 ゚∀从「何でもねえよ。私はまだ大丈夫だ。っつーか心配すんな気持ち悪い」
93
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:46:19 ID:Ccn78cE20
从#゚∀从「あんなクソウィルスを売り捌くクソ野郎がどんな顔してんのか、
ちょっと見たいだけさ……Nightmareだと? 笑えねえんだよ」
※
ホライゾン親子を乗せた車が第8区画内を走り抜ける。
「……映像で見た事はあるが」
(;^ω^)「ひっでーお」
この街に住んで20年。
防弾ガラスを隔てて初めて見る地下の地下に二人は目を丸くして
次々に飛び交う数多の古臭いネオンやARを茫然と視界に入れている。
この日もトンネル内は重金属酸性雨が配管の罅から噴き出して空に虹を描いている。
ギコからの指示で耐酸性ジャケットを着こむように言われた二人は、
それまで縁の無かった衣服をわざわざ店で購入した理由がようやく理解出来た。
確かにトンネル内の街を無防備な状態で歩き続ければ、
スキンはいずれ溶けて銀色の素体が剥き出しとなるだろう。
しかしながら不思議なのはジャケットを着てまで出歩く者が見当たらない事だ。
ブーンがギコに理由を尋ねてみる。
(,,゚Д゚)「そりゃブーン君。殆どまともな住人がいないからさ。
厳密にはいるんだが違法のID抜きをやったような人間なんかが集うのが最下層だ。
日中は慎ましく部屋で過ごして、夜になれば何処からか湧いて出てくるよ」
(;^ω^)「こええええええ!!!」
ブーンはすっかり元気になっていた。
ウィルスの結合はあくまで一時的な物ではあるらしい事は、Cの有線結合で明らかになっている。
それ以上にトーンとの蟠りが解けた事が、彼に活力を与えていた。
94
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:49:08 ID:Ccn78cE20
「ブ、ブーン! 絶対にこんな所、一人で来たりするんじゃないぞ!」
(,,゚Д゚)「一人でもボディガード付きでも日中でもダメです。
身なりのいい子供なんて一瞬で攫われて強請るネタになりますから」
「わかってますとも。もう二度と同じ轍は踏みません。ブーンは必ず私が守る」
(*^ω^)「と、トーチャン……!」
(,,゚Д゚)「ああ、それに関してなんですが、トーンさん。私の方から2点申し上げたい事が」
「何でしょうギコさん?」
(,,゚Д゚)「しばらくはプライベートミリタリーなんかを雇った方がいい。
私の方から信用出来る会社を紹介する事も可能です」
「また狙われる可能性があるからですね?」
(,,゚Д゚)「どうも最近ロスの治安が更に悪くなった……よそ者が増えてるんです。
ここ数年で革新的な技術が集まる街となった為でしょう」
「とはいえ今更会社を縮小させる訳には……この社会に貢献したいですから」
(,,゚Д゚)「それに貴方は大勢の社員を抱えていらっしゃいますからね」
「ええ、彼等を露頭に迷わすなんて事は出来ません……それで、もう1点は?」
(,,゚Д゚)「ブーン君の市民IDについてです」
95
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:50:10 ID:Ccn78cE20
(;^ω^)「あ、そういえばノーバディ状態だったお」
「再発行、してくださるんでしょう?」
(,,゚Д゚)「勿論可能ですが申請から発行までは数週間を要します。
専属の弁護士さんがいらっしゃるようなのでもう少し話が早く進むかもしれませんが」
(,,゚Д゚)「少し話が前後しますが、我々レイチェルは皆ノーバディのようなものです」
(;^ω^)「え!?」
「どういうことです?」
(,,゚Д゚)「仕事上、顔や名があまり知られるのも困りものですのでね」
(,,゚Д゚)「パーソナルがないという利点は大まかに2つありまして、
まず位置情報の特定が出来ない事、ハッキング除けにもなります。
もう1点は身分不明という点で価値が無くなるという事です」
「……なるほど、言わんとしている事が大体理解できました」
(;^ω^)「どういう事だお?」
「つまり、ブーンのIDを復旧させない方が安全かもしれない、って事ですね?」
(,,゚Д゚)「IDで管理される世ですから、学校に通えなくなったり買い物に困ったり、支障は出ますがね」
(;゚ω゚)(……え? なにこの流れ、ニート待ったなし……?)
96
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:51:31 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「と、まあ色々踏まえた上で、ちょっとご相談があるのですが……」
「なんでしょう?」
(,,゚Д゚)「まあ俺より年功者がその辺りは相談が上手いか。
さすがに今日は滅茶苦茶にラリってねーだろうが……と、着きました」
(,,゚Д゚)「ここです」
( ^ω^)
車を降り、親子は立ち尽くす。目の前に窓があるからだ。
これがアパートのドアだとギコが説明すると、親子は目を合わせて唖然とした。
外壁をくり抜いて造られた3階から成るアパートの至近距離で、
最下層から地上へ毎時駆け巡るリニアモーターの巨大な線路が天井に敷かれている他、
地中から剥き出しになっている太いコードがアパートの壁に沿って縦列で走り、
その反対では勢いよく重金属酸性雨の元となる排水を行う配管が滝のような音を立てて煙を上げている。
アパートの横では古ぼけたホログラムが淫靡な広告「おっぱい安いヨ」が点灯している。
内部で絶賛商売中であるようで、断続的に酒で焼けた嬌声が
継ぎ接ぎの鉄板の隙間から通り抜けて15のブーンの耳にも及び、
最下層スラムの何たるかを親子に思い知らせるのであった。
周囲を見渡しても草木の一つも存在しない。
あるのはアパートと同レベルの建造物か、重金属酸性雨を浴びて滲む広告があるのみだ。
( ^ω^)「もう、どこなんだよここ……」
(,,゚Д゚)「ほんとそれな」
97
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:52:00 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「笑えるくらいひでえだろ?」
( ^ω^)「写真で見た事なんかはあるんですけど」
( ^ω^)「実物の迫力はハンパネエっすわ……ってか、くっさ……」
「こ、こんなところに、本当に彼女は住んでいるのか……」
(,,゚Д゚)「おい! 人以下のクソジャンキー! 着いたぞ!」
< おーう入れー!!
「本当にハインリッヒさんが、住んでらっしゃった……」
(,,゚Д゚)「若干ハイになってやがるな……まあいい、入りますか」
(;^ω^)(部屋の中が全く想像できねえお)
(,,゚Д゚)「言っとくが部屋の中は外の10倍以上酷いからな」
「ええ……」
( ^ω^)「だんだんこわいを通り越して楽しくなってきたお……」
ギコが開きっぱなしの窓に足を掛ける。親子もそれに倣ってアパート内に入り込む。
立ち込める臭気が一気に鼻孔に押し寄せ、トーンはこれ以上害されぬよう鼻を覆った。
98
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:52:44 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「あ? なんだこりゃ」
ギコの眼窩に埋め込まれた光学スコープのバイオヴィジョンモードが、
ハインリッヒの部屋の前の床に転がっている異物を捉える。
黒い袋に入れられて膨らんだそれは、一般的に「生ゴミ」や「萌エナイゴミ」と呼ばれるものだ。
吐しゃ物を拭いてまとめたものや、酒瓶、ドラッグリキッドピンなどが封じられているようだ。
(,,;゚Д゚)「あいつが、掃除しやがった、だと……?」
( ^ω^)「え? ギコさんなんて?」
(,,;゚Д゚)「馬鹿な、そんな、馬鹿な」
ギコがドアノブに手を掛け、ドアを開ける。
从*゚∀从「いらっしゃーい! へへへ、ようこそようこそ!
ささ! 何もない汚い部屋なんですけどねぇ……」パァァァァァッ
「いやいや、キレイなお部屋じゃないですか。
今日は無理言ってお邪魔させていただいてすみません」
(*^ω^)「ハインリッヒさん! こんにちはですお!」
从 ゚∀从「おうブーン。なんだテメエ、もう元気そうじゃねえか。よかったな」
( ^ω^)「ええ、おかげ様ですっかり……ってギコさん、膝着いてどうしたんですかお?」
(,,;゚Д゚)「うそだ、うそだー」
( ^ω^)
99
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:53:13 ID:Ccn78cE20
(,,;゚Д゚)「なんだこれは。なんなんだよこれはよお……俺は今、現実を見てるのか?
ひょっとしてハッキングでもされてんのか??
ま、まさか遂に俺も精神病になって、現実の区別が……?」
「ちょ、ギコさん! 落ち着いて! ブーン! ギコさんからドラッグを取り上げて!」
(;^ω^)「ちょ、ギコさん現実ですおちゃんと!
なんともないですお! 普通にきれいな部屋ですお!」
(,,;゚Д゚)「は?」
(,,;゚Д゚)「え? は? これ、現実なのかよ? 本当に言ってんのかよ?」
(;^ω^)「えー……」
从 ゚∀从「ぶひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwwwwwwww
腰抜かしてやがるwwwたまには掃除もしてみるもんだなーwwwww」
(,,;゚Д゚)「は? お前が今、掃除してみたっつったの?」
从 ゚∀从「生まれて初めて発してるみたいに言うんじゃねえ。
あ、ブーンと親父さん適当にくつろいでよ。いま茶ァ出すから茶ァ」
(,,;゚Д゚)「茶? 茶? お前が茶を出すの? 嘘だろ? 酒と間違えてんだろ?」
从#゚∀从「しつけえな。ちゃんとしとけっつったのテメエだろうが」
(,,;゚Д゚)「……いや、そうだが……マジかよお前……」
100
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:53:33 ID:Ccn78cE20
※
从 ゚∀从「いやーわざわざ改まって礼なんていいのによー。
なんかこっちが悪い気するっつーか」
「押しかけてしまい申し訳ございません」
从;゚∀从「あー謝って欲しい訳じゃないってば」
(,,゚Д゚)「一言多いんだテメエは」
古びた木製の「チャブダイ」を囲い、4人は何かが染みた絨毯に腰を下ろしていた。
茶を注がれた黄ばみのあるコップに手を付けない訳にもいかず、
トーンなどは「茶」の渋さの中に礼儀の重さを見出すほどだ。
息を吐いてトーンが日本式の作法で感謝を示す。
首を深々と曲げてから切り出した。ブーンも父親の姿に倣う。
「この度は本当にありがとうございました。
特にハインリッヒさん。危険だったにも関わらず息子の為にダイブを……
本当に何と言ってよいのやら……」
( ^ω^)「ありがとうございましたお」
从 ゚∀从「んな日本式で堅苦しくなくっていいってば。もークソ面倒くせえって」
(,,゚Д゚)「言葉を慎め。それにトーンさんも、こんな奴に勿体ないです」
「そんな事など……! ハインリッヒさんは息子を救って下さっただけではありません!
私とブーンの、親子としての絆まで救って下さったんです!」
从 ゚∀从「ああ?」
( ^ω^)「そうだお。よく覚えてない部分もあるけど、
でもハインリッヒさんの言葉はちゃんと覚えてるお!」
101
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:53:56 ID:Ccn78cE20
「目が感じ取る現実に大きな意味は無い。
大切なものは目を閉じても見えるものだ」
( ^ω^)「現実を生きていくのに、勇気をもらったんだお」
ブーンの口から紡がれたセリフでハインリッヒは顔を伏せた。
ジャケットのポケットに手を突っ込むとギコが睨みを利かせたが、
取り出したのは電子タバコとコーラフレーバーのリキッドだった。
泡の弾ける甘ったるい煙を鼻孔に通しながらハインリッヒがブーンに言う。
从 ゚∀从「そりゃ映画の引用で私の言葉じゃないんだ。
レトロなサイコホラー映画でヒロインが言ったセリフだよ」
从 ゚∀从「お前を勇気付けたのは私じゃない。カーラだ。
親子の絆を守ったのは私じゃない。そこにいるトーンだ。
私がやった事はお前が見るべき者の姿を演じただけに過ぎないよ」
从 ゚∀从「私は映画のように一方的な教訓を与えただけ。
どう考えるかは観客次第……そういう感じ」
( ^ω^)「……それは、僕のスペースで答えた通りだお」
从 ゚∀从「そういえばそうだったな」
102
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:55:50 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「……ここの重金属混じりの雲があの島まで流れなきゃいいなっ、と」
と、ハインリッヒが徐に立ち上がって耐酸性ジャケットのフードを被る。
心中察したギコが袖を掴んで座るよう促すが、
从 ゚∀从「んだよ。面倒臭いから出かけんじゃねえよ。
もういいだろ? この人達はもう大丈夫だってば」
(,,゚Д゚)「そうじゃない。まだ話は終わってねえ」
ギコの視線を辿ると傾げたブーンの顔がある。
何の話かと言葉を待つ親子を交互に見てから、ハインリッヒはギコの手を払って言う。
从 ゚∀从「……好きにしなよ。任せるぜ。ただ私にゃ面倒見切れねえよ、たぶん」
(,,゚Д゚)「おい」
言い残してハインリッヒはブーツを履いて錆びた扉を開けて出た。
Alpha社のVELVET-200の靴底と縦ラインが残す赤い残像を親子は茫然と見つめる。
ギコが遠慮無しに電子タバコを吹かし、泡をぷくぷくと浮かべる。
(,,゚Д゚)「はあ……トーンさん。しばらくブーン君を我々に預けてみませんか?」
( ^ω^)
(;^ω^)「え!?」
「ギコさん、理由をお聞かせいただきたい」
戸惑いを隠せないブーンとは対照的にトーンは落ち着いていた。
ギコが続ける。
103
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:58:16 ID:Ccn78cE20
(,,゚Д゚)「体や精神状態の経過を診たいという考えもありますが……
我々に協力するという形ですが偽装IDを付与され、保護出来ます。
勿論危険な行為は一切させません。
名前と経歴を変えて潜伏するという訳になりますな」
(;^ω^)「保護?」
「まだ息子が狙われる可能性があると?」
(,,゚Д゚)「そうではないのですが……今後敵を抱える事になる貴方にとって、
その方が都合が良くなるかもしれません。ブーン君にとってもです。ID無しじゃ生活は困難だ」
「しかし……」
( ^ω^)「大丈夫だお、トーチャン」
( ^ω^)「僕はもう、大丈夫だお。だからトーチャンは仕事に専念するお。
それに、何らかの形でギコさん達に協力出来るかもしれないのは嬉しいお」
「ブーン……」
トーンは薄汚れたコップを握り、半分ほど残っていた「茶」を飲み干す。
「チャブダイ」と鳴らす乾いたコップの底の音はトーンの意の表れのようだった。
「分かりました。この社会でムーブメントを起こすには、そのくらいの制約や代償は覚悟しなければ。
ギコさん。どうか息子を、お願いします」
(,,゚Д゚)「はい。必ずブーン君は我々が保護します」
104
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:58:39 ID:Ccn78cE20
なみなみと注がれた「茶」を見つめるギコの視界には情報を羅列するARで埋め尽くされていた。
バイオ・ヴィジョンを通せばコップの底を見通せそうだが、
今朝ドクオ達から送信されたレポート内容の妙なきな臭さは見抜けそうになく、
光学スコープの真鍮色の枠を厳めしく曲げる。
ショボンとヒートによる取引と尋問の効果なく、
致し方なくドクオがハックした瞬間、捕虜の脳核は自らの防壁に焼き尽くされてしまったという。
辛うじて引き抜けた情報もデリートを免れ切れず、
黒いノイズだらけの焦げた写真のような画像だけがドクオの頭に残された。
顔は不鮮明。だが首筋に走る独特な線から置換施術した事が伺える。
ありふれたロングコートの襟には蒼く光る漢数字の装飾が施されている。
タトゥーの有無も服に隠されて見えない。
フードから覗く髪型、口元の骨格、口紅などで示すセクシャルは女である。
ドクオは、素体はアジア系の女だと分析している。
本部のデータベースに引っかからないノーバディであるという事を添えて。
(,,゚Д゚)(こいつがNightmareのプッシャーである可能性は高い)
(,,゚Д゚)(何処から迷い込んできたメス犬か知らねえが、必ず尻尾を捕まえてやる)
ARを閉じ、「茶」だけが視界に映る。
ギコは「茶」を飲み干し、コップの底を「チャブダイ」に叩きつけた。
(,,゚Д゚)「……不味いな、こりゃ」
「ハハ、でしょう?」
( ^ω^)「飲まなくてよかったお」
105
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:58:59 ID:Ccn78cE20
※
ハインリッヒはリニアモーターの振動に身を委ねていた。
列車で上り、第4区画に存在するレトロな映画館に向かっている最中だった。
最下層を走っている時の列車がハインリッヒは好きだった。
がらんとした列車内の光景に薬が授ける心地良い空虚さが重なる。
目をじっと向ければ派手な広告やロゴのARが浮かび上がる事はあるが、
掴む者を待つ吊り革の動きが列車内のリアルをハインリッヒに感じさせている。
誰にも邪魔されずアイスを打てる空間である事も間違いないが、
肘に手首がある奇形や、VRゴーグルに没入した状態の子供、
ドラッグリキッドピンを複数差し込んだビジネスマン等、現実味の無い人間と空間を共有しないからだ。
暗く淀んだ地下に住まうのも同じような理由からだった。
列車が速度を落としていく。まだ第7区画。
「トッキュウ列車」ではない故に人がいないステーションで濁った空気をわざわざ取り入れる。
まるでノーバディ気取りのパンクスが乗り込んでくるのもまだ先だ。
「やらなきゃ、やらなきゃ」
从 ゚∀从「……あん?」
そこへふらりと、耐酸性のロングコートから煙を登らせる者が乗車してきた。
俯いてフードが作るミラーシェードの保護フィルターの中でブツブツと一人呟く様子を見て、
機装化を重ねて病んだ人間と思うと同時、乗客の珍しさに思わず目を向けた。
106
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 02:59:25 ID:Ccn78cE20
※
ハインリッヒはリニアモーターの振動に身を委ねていた。
列車で上り、第4区画に存在するレトロな映画館に向かっている最中だった。
最下層を走っている時の列車がハインリッヒは好きだった。
がらんとした列車内の光景に薬が授ける心地良い空虚さが重なる。
目をじっと向ければ派手な広告やロゴのARが浮かび上がる事はあるが、
掴む者を待つ吊り革の動きが列車内のリアルをハインリッヒに感じさせている。
誰にも邪魔されずアイスを打てる空間である事も間違いないが、
肘に手首がある奇形や、VRゴーグルに没入した状態の子供、
ドラッグリキッドピンを複数差し込んだビジネスマン等、現実味の無い人間と空間を共有しないからだ。
暗く淀んだ地下に住まうのも同じような理由からだった。
列車が速度を落としていく。まだ第7区画。
「トッキュウ列車」ではない故に人がいないステーションで濁った空気をわざわざ取り入れる。
まるでノーバディ気取りのパンクスが乗り込んでくるのもまだ先だ。
「やらなきゃ、やらなきゃ」
从 ゚∀从「……あん?」
そこへふらりと、耐酸性のロングコートから煙を登らせる者が乗車してきた。
俯いてフードが作るミラーシェードの保護フィルターの中でブツブツと一人呟く様子を見て、
機装化を重ねて病んだ人間と思うと同時、乗客の珍しさに思わず目を向けた。
107
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:00:12 ID:Ccn78cE20
その者はがらがらのシートに目もくれず、「ツリカワ」に掴まることもせず、
窓の向こうの壁に広がる虫の巣のような廃墟群をぼうっと見ているようだった。
分厚い襟には「零」という文字が蒼く浮かび上がっている。
フードの横に手をやりフィルターを解除する。
ふわりと金の巻き毛がフードの中から現れる。
「やらなきゃ、私は、やらなきゃいけない」
从 ゚∀从「なんだよブツブツうるせえな……おいアンタ、何か良いモンでも打ってんじゃ―――――」
从 ゚∀从「――――――え?」
立ち上がって声を掛けたハインリッヒは、
ガラスに映るその顔を見て言葉の続きを失う。
108
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:00:54 ID:Ccn78cE20
ξ ⊿ )ξ「必ず自由になってやる」
30年以上前に生き別れたかつての親友が、
暗いトンネル内を通すガラスに張り付いていた。
茫然とハインリッヒはその背を見つめる。
視覚には何ら拡張現実表示は無い。
それでも、サイバネティックスが作るARの現実に根を下ろしたバーチャルなのか、
ちょうどアイスが溶けかかっていたハインリッヒの頭では判断が付かなかった。
从;゚∀从「ツン、ちゃん?」
幽霊に話しかけている気分だった。
あるいはARやMRに真面目に話しかける間抜けを演じているような感覚だった。
「え?」
息を呑んだのか肩を僅かに跳ねさせる素振りは、
到底造り物のインテリジェンスとは思えぬ反応だとハインリッヒに印象を与える。
109
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:01:27 ID:Ccn78cE20
从;゚∀从
ξ;゚⊿゚)ξ
振り返って見せた顔を見て、ハインリッヒは腰を抜かした。
ラリって幻覚を見ているのか、夢を見ているのか。
もはや拡張現実にいるのか仮想現実にいるのかも解らない。
意識した視界の中心には、その人物を取り巻く広告が湧いていて、
走り出した列車の慣性を受けて揺れ動く「ツリカワ」にすら
もはや現実味を帯びていないようにハインリッヒには感じられた。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「ハイン……なの?」
从;゚∀从「嘘、だ」
ハインリッヒが小さく呟いた。
ぼやける認識の中で30年前と変わらぬレイコ・ツルデを否定したく。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ
ξ ⊿ )ξ「嘘みたいよね。でも」
110
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:03:23 ID:Ccn78cE20
ξ ⊿ )ξ「私には、ハッキリとアンタが見えているわ、ハイン」
从; ∀从「嘘だ、こんなの、嘘だ」
ξ ⊿ )ξ「現実よ。私はここに存在しているわ」
ツンは背を向けてドアの前に立つ。
「カイソク列車」が第6区画に停車する旨を伝える無機質なアナウンスを車内に流す。
ξ ⊿ )ξ「……この街から逃げなさい。
私は、自由を掴む為に、やるべき事があるから」
从; ∀从「わ、私は大丈夫、まだ、大丈夫……これは、現実、じゃない」
ハインリッヒはドラッグソケットにブルーアイスリキッドを挿入し、
リキッドピンを握りしめたまま震え続けている。
从; ∀从「そうだ、いるわけない、幻覚か、ARに、決まってる」
ξ ⊿ )ξ「……聞こえてないの? それとも、聞いていないの……?」
列車が止まり、開かれたドアを抜けて無人のステーションに足を着ける。
ドアが閉まる寸前、ハインリッヒを憐憫の目でなぞる。
髪型、首輪、薬を打ち続ける様を。
ξ゚⊿ )ξ「……まるでレイチェルそのものね。縛られている様もそっくりで。
何も信じられず、薬に没頭して現実から逃げているアンタは」
111
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:03:51 ID:Ccn78cE20
ξ゚⊿ )ξ「嘘じゃない。これが現実」
ξ゚⊿ )ξ「私はアンタみたいにはならない。
これで終わりなんかにならない、絶対に」
ツンは首を締め付ける黒い輪に爪を掛けて呟いた。
『クソジャンキー、最近ちゃんと電話に出るじゃねえか』
「…………」
.
112
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:04:42 ID:Ccn78cE20
『ドクオのレポートは見たな? この女がNightmareのプッシャーだ』
知ってる。
『こいつを暫定的に“零”と呼んで追跡する。襟に書かれた漢数字から取った』
それ、大昔に私が付けたあだ名。胸が無いからゼロのツンちゃんな。
『こいつが売るウィルスでまた新たな発症者が出た。
必ず俺達レイチェルで零を捕まえるぞ。
目的を知る為にも、背後の組織を暴く為にも、街からクソウィルスを消す為にもな』
「言われるまでもねえよ、クソギコ」
『ああ?』
「うるせえな。また後でな」
『あ、ちょ、待てテメ――――』プツン
「……縛られているのは私だけじゃなく、ツンちゃんも、きっと」
.
113
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:06:02 ID:Ccn78cE20
从 ゚∀从「私が必ず助けてやるぞ、ツンちゃん」
重金属酸性雨を降らすどす黒い雲に覆われ、空は昼間だというのに薄暗く、
スパイク状に尖る高層構造物に取り巻く千差万別の灯りも陰っていた。
その間を縫う列車の横っ腹に埋め込まれた古い映画の再上演の広告が強調表示されると、
昔の事を思い出し口の角をそっと下げ、前髪で隠す視覚インプラントの表面を指先で掻いた。
リキッドを落としたが如くアメーバ状に版図を広げ続ける西岸部の大都市、ロス。
ハインリッヒは現実と仮想が猥雑に絡み合う都市の影に身を投じ、かつての友を追う。
目を閉じれば友と過ごした輝ける日々があった。
終わりなどではない。終わりにもさせない。
また、あの日々を再び始める為に。
ハインリッヒが48になったばかりの夏だった。
从 ゚∀从 機装化精神病のようです
『繝ヅク』
.
114
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:07:52 ID:Ccn78cE20
そういえばブレードランナーも2019年の世界だった。
追い付いてしまった。
現行が終わったら続きを始めたいなーと思っています。
ありがとうございました。
意識したテーマ
おわりとはじまり
序章
別れ
発端
地獄
始動
うんこ
115
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 03:24:42 ID:X/k.EpWE0
明日の仕事に絶望してたら神がいた
116
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 08:39:31 ID:eDKTvl.E0
乙!!!
117
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 08:56:35 ID:C5B03niA0
すっごいいい作品乙です
続き楽しみです
118
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 17:11:32 ID:6Naue2W.0
ええやんけ 乙!!
119
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 17:31:36 ID:/N9rXSKE0
乙!
120
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 20:41:48 ID:ANooleoY0
乙
またわくわくする終わり方をしてくれるな
121
:
名無しさん
:2019/01/09(水) 22:19:25 ID:nIInCTQU0
面白くて洋画観たくなったよ
122
:
名無しさん
:2019/01/10(木) 00:08:54 ID:h5Fp4l060
乙ゥ^〜
平成ももうすぐ終わる2019年に
ブーン系でこんな名作と出逢えるなんて…
123
:
名無しさん
:2019/01/10(木) 12:16:05 ID:9XZ7QM5s0
面白かった 乙
続きも楽しみ
124
:
名無しさん
:2019/01/10(木) 13:25:40 ID:2Lt5s9EQ0
めちゃくちゃ面白くて最高です、乙
125
:
名無しさん
:2019/01/10(木) 20:44:17 ID:ENzjNdYU0
現行や過去作品教えてくれ
126
:
名無しさん
:2019/01/13(日) 00:16:08 ID:pcJgxc9A0
面白そうすぎるじゃんふざけんな逃亡すんなよほんとに乙
127
:
名無しさん
:2019/01/13(日) 01:39:10 ID:Vp86VWJQ0
ショボンとか零の者とかまさか!?
128
:
名無しさん
:2019/01/13(日) 05:34:34 ID:jazQZGJ60
ブーンのIDがMCGRI1101315なんだよなぁ
129
:
名無しさん
:2019/01/13(日) 08:11:49 ID:vBtx2nDI0
街狩りの作者だぞ
Twitterで分かるけど
130
:
◆jVEgVW6U6s
:2019/01/16(水) 19:47:54 ID:0m7BhVCg0
投下期間も終わったので酉出しときます。
読んでくださいましてありがとうございます。
街狩りが終わったら続き物として再始動しますので、その際はまたよろしくお願いします。
131
:
名無しさん
:2019/01/19(土) 14:30:06 ID:NlYI/j460
了解やでー
132
:
名無しさん
:2019/01/20(日) 12:09:44 ID:6/qVi3I60
めちゃくちゃ面白いなこれ
133
:
名無しさん
:2019/01/25(金) 13:58:40 ID:M0kvqOAw0
おつ
めっちゃわくわくする
134
:
名無しさん
:2019/01/25(金) 19:34:38 ID:aO8oqegg0
映画見てるみたいな気分で読めて好きだ。続き楽しみにしてる
135
:
名無しさん
:2019/01/28(月) 13:42:51 ID:xjsUSAPA0
ブレードランナー
デトロイト ビカムヒューマン
アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?
影響が大きいのはこのあたりかな? どれも好物だぜ
136
:
名無しさん
:2019/01/28(月) 13:53:35 ID:mrM//0Oc0
>>135
ブレードランナーの原作が電気羊
137
:
名無しさん
:2019/05/09(木) 06:09:51 ID:Vstbqo9s0
うおあああ読もうと思ってたらこんなに時間経ってた!!!おつ!
面白かったぞ!続き待つわ!!
138
:
名無しさん
:2021/12/19(日) 12:10:58 ID:7L7gpHjM0
まだかなー
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