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( ^ω^)ぼくたちの物語が終わるようです

1名無しさん:2018/12/30(日) 01:30:11 ID:NbNBiuIA0
おわりとはじまり祭り参加用です。

2名無しさん:2018/12/30(日) 01:31:21 ID:NbNBiuIA0
始まった物語は、終わりを迎えなければならない。
開かれた幕は、いつか閉じられなければならない。
始点があれば必ず終点がある。始発駅があれば必ず終着駅がある。
それは確実に対称であり、例外はない。
この世界もそうだ。このシステムもそうだ。この物語もそうだ。

幕が開く。ブザーが鳴る。物語が始まる。
そして、物語は終わりを迎える。

3名無しさん:2018/12/30(日) 01:31:50 ID:NbNBiuIA0



( ^ω^)ぼくたちの物語が終わるようです

4名無しさん:2018/12/30(日) 01:34:12 ID:NbNBiuIA0
物語が始まった。

ぼくは目を覚ました。身体を起こして周囲を見渡す。
ニュータウンの一軒家の一部屋。小学生入学時から使っていそうな学習机。ハンガーにかかった学生服。カーテンから漏れる光。
時間は朝で、ぼくは学生で、一軒家に住んでいるのだと分かる。とても分かりやすい、平均的な設定だ。
良く言えば王道で、悪く言えば安直。ぼくはこのような学生生活を何百回と繰り返している。
きっとそろそろ、母親役が起こしに来るか声をかけるはずだ。

J( 'ー`)し「起きてるー?」

( ^ω^)「起きてるお!」

まさに、いつもどおりだ。

ぼくは内藤ホライゾン、通称ブーン。いわゆるブーン系の代表キャラクターだ。
ブーン系小説はスター・システムであらかじめキャラクターが定められている。
書き手によって若干の違いはあるものの、基本的には同じような設定で物語に用いられる。
例えばぼく、内藤ホライゾンはぽっちゃり体型で陽気な性格、おっちょこちょいだったりする。主人公を任される事が多い。
同じ主役級ならばドクオだ。暗い性格であるものの、ライトノベルの主人公のような扱いやすさでよく主人公に選ばれる。
ヒロイン役ならばツンや素直クールだ。ツンは絵に描いたような金髪ロールのツンデレで、素直クールは絵に描いたようなクールで聡明なヒロインだ。
ぼくはツンと、ドクオはクーとの組み合わせが多い。今回も学生であるため、きっとその組み合わせだろう。
とはいえカップリングや配役に決まりなどない。ぼくを脇役にしてもいいし、マイナーなキャラクターを主人公に抜擢しても良い。
あまり見ないようなカップリングで物語を進めても良い。キャラクターの性別をひっくり返したっていい。
スター・システムに則って展開しているだけで、不正解などはないのだ。書き手の自由な発想に全ては委ねられている。

5名無しさん:2018/12/30(日) 01:35:35 ID:NbNBiuIA0
J( 'ー`)し「おはよう」

( ^ω^)「おはようだお」

学生服に着替えてリビングに降りる。
少しばかり雑然としている対面キッチン、家具量販店で売っているダイニングのセット、一般的な三十二インチの液晶テレビ。
やはりごく一般的な一軒家だ。そして母親役は案の定と言うべきか、カーチャンである。

このようにぼくは物語が始まると自身のステータスを確認する事から始める。
自分に与えられた役柄、環境、そして物語の趣旨を理解していく。紡がれる物語できちんと役割を果たすために。演じるために。
ぼくはそうして何百という物語を演じてきた。何百という世界を旅してきた。

ジャンルや世界観は書き手、すなわち作者に全て委ねられている。
ブーン系はキャラクターに関してスター・システムを導入しているだけで、それ以外は完全に自由なのだ。
青春ラブコメ、冒険ファンタジー、ミステリ、SF、なんでも自由に描かれる。
ある時は剣士で、ある時は殺人鬼で、ある時はパイロットで、ある時は社長だった。
ぼくは色んな世界で様々な役柄を演じてきた。
今日も、これからも。

J( 'ー`)し「そろそろ家を出る時間よ〜」

( ^ω^)「分かったお」

6名無しさん:2018/12/30(日) 01:37:15 ID:NbNBiuIA0
おそらく高校のものであろう学ランから察するに、学園ラブコメあたりだろう。もしかしたら異世界転生ファンタジーかもしれないけれど。
きっとヒロインはツンで、悪友がドクオ、といったいつもの組み合わせかもしれない。まさに定石だ。悪く言えばベタであるけれど、王道ではある。

( ^ω^)「じゃあ行ってくるお」

玄関でローファーを履き、ドアノブに手をかける。平凡な一軒家の外はきっと平凡な住宅地がある。
もしかしたら幼馴染みの女の子、それこそツンが待っているかもしれない。
ドアを開ける。

( ^ω^)「おっ…」

つい足が止まってしまった。ドアの先には小ぶりな庭があり、一台分の車庫にはホンダ・フリードと自転車。
その先だった。コンクリートの車庫の先。そこにあるべき道路、というより街並みはなかった。住宅地はなかった。
幼馴染みはおろか車も通らず自転車も通らず猫も通らない。その先は平原だった。

( ^ω^)「なんだこれ…」

家を出たら平原だった。完全な平原である。
足を踏み出してみる。今までのような一般的な一軒家があるような文明がない。
奥には山が連なっているし遠くには空を飛ぶドラゴンが見える。
急に世界観が変わってしまった。青春ラブコメではないらしい。

7名無しさん:2018/12/30(日) 01:38:29 ID:NbNBiuIA0
平原を歩いてみると小さな動物が現れては去っていく。
それはいわゆる地球上に存在するような動物ではない。モンスターと表現するのが一番だろう。

( ^ω^)「ファンタジーだったのかお…?」

あるいはやはり異世界転生ファンタジーだったのだろうか。それにしても展開が雑すぎる。
主人公が事故で死んだり、何らかのゲートを通過する事によって異世界に転生する条件が得られる。
家を出ただけで異世界に足を踏み入れてしまったのでは、物語の導入にしては粗雑だと言わざるを得ない。

仕方がないので暫く歩いてみる。間もなく洞窟が見える。
自分は相変わらず学ランという装備としては心許ないどころのものではないけれど、とりあえず進んでみる事にする。
洞窟に入る。ひんやりと冷たい。足元が覚束ないものの奥の方に明かりが見えるのでそれを目指して歩く。

( ^ω^)「お…」

洞窟を出る。出たはずだった。そこは街だった。木造ばかりの家屋が並んでいる。街をゆく人は着物を着ている。

( ^ω^)「え…江戸時代かお」

振り返るとぼくが出てきたのは蕎麦屋だった。
街には人が多く活気に満ちている。行商人が忙しく行き交っている。
すぐ近くを川が流れていて木製の大きな橋が架かっていた。

( ^ω^)「歌川広重の日本橋…」

8名無しさん:2018/12/30(日) 01:41:21 ID:NbNBiuIA0
どこかで見た浮世絵そのままの光景だった。
しかし普通の一軒家、ファンタジーらしき平原と洞窟の次は江戸時代ときた。
既にどういう世界観なのかすっかり理解出来なくなっている。

「お前、なんだその格好は!」

突然怒声を投げかけられた。
見ると数人の町奉行がぼくを指さしている。
確かに考えてみれば江戸時代に学ランではタイムスリップものの典型的な現地人の洗礼を受けるのは当たり前だった。

( ^ω^)「あ、怪しい者ではないですお」

「嘘をつけ!」

( ^ω^)「もう…!」

捕縛されればろくな展開にはならない。町奉行とは反対方向に向かって駆け出す。
日本橋の途中まで逃げるも向かい側からも町奉行がやってくる。

「馬鹿め、挟み撃ちだ!」

(; ^ω^)「ベタな…!」

9名無しさん:2018/12/30(日) 01:42:54 ID:NbNBiuIA0
万事休す。
しかしこんなところで捕まりたくはない。
日本橋の高欄に足をかける。
そのまま勢いで川に飛び込んだ。
衝撃と共に身体が沈んでいく。
意識が遠のいていく。

「…ですよ」

揺れている。
いや身体が揺さぶられている。

「終点ですよ」

(  ゚ω゚)「はっ」

目を覚ますと確かにそこは終点だった。銀座線の渋谷駅。
地下鉄に乗っていたはずなのに終点に着くとビルの中に出る不思議な駅だ。
不機嫌そうにぼくを起こした駅員に頭を下げて列車から飛び降りた。
一緒に乗っていた乗客たちはぞろぞろと改札口へ進んでいく。
天井から吊り下げられたデジタル時計を見ると二十四時を回っていた。
間もなく他の路線の最終列車が発車するのか小走りで急ぐ人も多い。
改札口を出るとくたびれたスーツ姿で座り込んでいる若い男が目に入った。

( ^ω^)「…ドクちん?」

男はばっと顔をあげる。

('A`)「ブーンか?」

10名無しさん:2018/12/30(日) 01:44:30 ID:NbNBiuIA0
やはり男はドクオだった。
ぼくと同じぐらいの主人公級のキャラクターだ。

( ^ω^)「そうだお、どうしたんだお」

('A`)「いや…なんか今回の世界意味分からないし、他に誰もいないし」

( ^ω^)「ぼくも変だとは思ってたお。 ついでに初めて会ったのもドクちんだお」

('A`)「そうか…とりあえずブーンと会えて良かった」

ドクオが立ち上がって尻を払った。

('A`)「お前その格好は?」

( ^ω^)「見ての通り学ランだお。 一軒家からスタートだったからてっきり青春ラブコメかと」

('A`)「そうか。 俺は社畜ものだと思っていた」

( ^ω^)「あー、ドクちん似合うお」

('A`)「勘弁してくれ。 それよりこれからどうするか」

( ^ω^)「てきとうに歩いてみるお。 ぼくはもうここで、四つめの世界だお」

('A`)「四つめ?」

( ^ω^)「色んな世界観がごちゃごちゃになってるんだお」

('A`)「なるほどな…まぁ行ってみるか」

11名無しさん:2018/12/30(日) 01:45:47 ID:NbNBiuIA0
目の前にあったJRの改札口を通りホームへ降りる。
山手線内回り大崎止まりの列車はくたびれたサラリーマンばかりだった。
車窓から見える夜の街は日付を越えたというのに眠る事を知らないようで煌々と明かりを灯している。
急に明るくなる。景色が変わる。ドームが見える。東京ドームだ。
ビル群が見える。双頭の高いビルはワールド・トレード・センターだ。
城が見える。ノイシュヴァンシュタイン城だ。

('A`)「ワールドスクエアみたいだな」

( ^ω^)「だお」

列車はステンレス製のE231系500番台から木製の古いものに変わっていた。
メンテナンスの行き届いていないレールを曲がるたびに車体が恐ろしいほど軋む。
列車はやがて古びた駅に着いた。他の乗客が降りていくのでぼくたちも降りる。
街は煉瓦造りの家屋が並び石畳の道が続いていた。日没後らしく薄暗い。

('A`)「ずっとこんな感じなのか?」

( ^ω^)「そうだお。 脈絡のない、ぶつ切りの世界観が続いてるお」

('A`)「訳分かんねーな…他の奴らはどうしているだろう」

( ^ω^)「確かに」

12名無しさん:2018/12/30(日) 01:47:51 ID:NbNBiuIA0
ふっと視界の奥の方が明るくなる。音が遅れて響く。
オレンジのような光がぼわっと目に入る。火だ。遠くで悲鳴も聞こえる。
頭上を何かのエンジン音が聞こえる。飛行機だ。随分と近い。低空飛行をしている。
少し先でまた火の手があがる。今度ははっきりと爆音も聞こえる。

( ^ω^)「マジか」

爆撃機は旋回して更に石畳の薄暗い街に戻ってくる。火の手があがる。爆音が響く。悲鳴がちぎれる。
逃げ惑う人々にまぎれて走る。煉瓦が砕けてガラスが降る。すぐ近くで爆発して馬車が飛ぶ。

('A`)「こっちだ」

隠れられそうな裏路地を見つけて飛び込む。爆撃がやむ。
空が見えなくなる。そこはどこかの室内だった。無機質なコンクリートの壁。
暗い通路を進んでいくと向かいから誰かが来る気配がした。
僅かに設置された蛍光灯が何かエナメル質のものを照らす。

「誰だ」

よく通る凛とした女性の声。

('A`)「…クーさん?」

川 ゚ -゚)「ん、ドクオにブーンか」

姿を現したのはブーン系において主役級の多いヒロイン、素直クールだった。

13名無しさん:2018/12/30(日) 01:50:05 ID:NbNBiuIA0
('A`)「なんすかその格好」

クーは身体のラインがはっきりと分かるボディスーツを身に着けていた。
露出が多く大きく膨らんだ胸や尻が強調されている。普通の服ではない事だけは確かだ。

川 ゚ -゚)「これか、これは対魔忍だな」

('A`)「あ、対魔忍っすか」

( ^ω^)「対魔忍じゃあ仕方ないお」

対魔忍じゃあ仕方ない。

川 ゚ -゚)「お前たちこそスーツに学ランと変な組み合わせだな」

('A`)「さっき合流したところっす。 別々の世界観で始まってて」

川 ゚ -゚)「別の?」

('A`)「俺は社畜ものっぽい現代社会もの」

( ^ω^)「ぼくは青春ラブコメっぽい学園もの」

川 ゚ -゚)「ふむ、じゃあ今回は対魔忍ものじゃあないのか?」

( ^ω^)「違うかと」

川 '゚ -゚)=3プピー「なんだ…」

( ^ω^)「なんでちょっと残念そうなんだこの人…」

14名無しさん:2018/12/30(日) 01:51:43 ID:NbNBiuIA0
('A`)「ともあれクーさんと合流出来て良かったっす、今回色んな世界観がごちゃごちゃで」

川 ゚ -゚)「とりあえずは合流しよう、みたいな感じか」

( ^ω^)「話が早いお」

かくして学ラン、スーツ、対魔忍のパーティーとなる。クーだけ完全に浮いている。

川 ゚ -゚)「そういえばツンはいないのか?」

( ^ω^)「まだ出会ってないお」

川 ゚ -゚)「珍しいな、お前たちはいつも一緒なのに」

確かにそうだ。ぼくとツンはどの作品でも、どの世界でも、いつも一緒だった。

('A`)「クーさんはここで何を?」

川 ゚ -゚)「隠密行動だよ。 対魔忍だからな」

('A`)「完全になりきってたんすね…」

( ^ω^)「まぁ進むお」

川 ゚ -゚)「うむ」

コンクリートの通路を抜ける。そこはゲレンデだった。
雪がびゅうびゅう吹いている。全員薄着なのでさすがに寒い。クーに至ってはボディスーツだ。
三人がけのスキーリフトに乗る。足だけが空中に投げ出される。
足をぶらぶらさせながら三人で座って景色を眺めていた。リフトは続く。ケーブルはずっと先まで続いている。
そこは農村の軽トラックの荷台だった。そこは魔法高校の中庭のベンチだった。そこはモンスター討伐後に集まる酒場だった。
ロープウェイは大涌谷駅に着く。駅舎を出ると独特のにおいが鼻を突く。地獄谷から白煙が立ちこめる。
大涌谷くろたまご館の自動ドアが開く。多くの歓声が聞こえる。そこは闘技場だった。
円形の競技場を観客席がぐるりと囲む。その中心に一人の少女が立っていた。
戦士らしき少女の背後では炎があがる。

15名無しさん:2018/12/30(日) 01:53:20 ID:NbNBiuIA0
ノパ⊿゚)「次の相手はお前たちかあああああ!」

叫ぶと同時に炎がまた燃え上がった。

川 ゚ -゚)「何やってるんだヒート」

ノパ⊿゚)「あれ、クー姉」

炎がしぼむ。

('A`)「何ここ? 闘技場?」

ノパ⊿゚)「うん、闘技場。 ここで勝ち抜けデスマッチやってるんだけど」

('A`)「すごい事やってんな」

vノパ⊿゚)v「いま百十七連勝ちゅう」

('A`)「しかもめっちゃ無双してる」

ノパ⊿゚)「みんなは? ていうかクー姉そのエロい格好なんなの?」

川 ゚ -゚)「これは対魔忍だ」

ノパ⊿゚)「対魔忍かぁ…対魔忍じゃあ仕方ないや」

対魔忍じゃあ仕方ない。

ノパ⊿゚)「ブーンとドクオは?」

16名無しさん:2018/12/30(日) 01:55:04 ID:NbNBiuIA0
( ^ω^)「ぼくは見ての通り学生だお」

('A`)「俺は見ての通り社畜」

ノパ⊿゚)「じゃあみんなばらばらだね。 能力系バトルものだと思ってたんだけど」

そういえば、とぼくは気がつく。

( ^ω^)「ツンを見なかったお?」

ノパ⊿゚)「ツン? 見てないよ。 いっしょじゃないの?」

( ^ω^)「いや、まだ見つからないんだお」

ノパ⊿゚)「ふーん、めずらしいね、いつもいっしょなのに」

川 ゚ -゚)「ヒートはどうする? 私たちは引き続きツンを探すつもりだが」

ノパ⊿゚)「んー、ここでもうちょっと連勝する! めっちゃいい感じだから」

川 ゚ -゚)「分かった、じゃあまたな」

ノハ^⊿^)「うん!」

ヒートの背後にあった扉を開ける。
新たな挑戦者が現れたのか後ろから一際大きな歓声があがった。
しかし通路を進むとすぐに聞こえなくなる。

17名無しさん:2018/12/30(日) 01:57:05 ID:NbNBiuIA0
トンネルを抜けると荒野だった。見渡す限り荒野で、赤茶色の地面が続いている。
そしてアスファルトの道路がまっすぐ伸びていた。

歩いてみても何もない。風が吹いているだけだ。
途中で車の姿が見える。ドクオがヒッチハイクを試みる。RV車は無情にも走り去っていく。
乾燥していて日差しも強烈でとにかく暑い。行き倒れになるのでは、と危惧しているとまた前方から車の影が見える。

( ^ω^)「ドクちんじゃあダメだお、ここは女子だお」

川 ゚ -゚)「ふむん」

ピチピチボディスーツのクーが仁王立ちでヒッチハイクをする。着ているもの以外は様になっている。
車の姿が次第に大きくなる。オンボロトラックだ。かなりのスピードを出していたものの制動がかかる。
急ブレーキで車体を軋ませながらなんとか停まった。壊れるんじゃないかと心配になるような音がトラックから漏れる。
運転手がひょっこり顔を出す。

( ,,^Д^)「おうお前ら、こんなところで何やってんだ」

('A`)「タカラか」

( ,,^Д^)「まぁいいや、後ろでいいなら乗ってけよ」

( ^ω^)「助かるお」

幌付きの荷台に乗り込む。
ドクオがクーに手を貸して荷台に引き上げるとトラックは再び出発した。
ようやく灼熱地獄から解放されて一息つく。

( ^ω^)「えっ」

18名無しさん:2018/12/30(日) 01:59:26 ID:NbNBiuIA0
よく見ると荷台には何人もの男が座っている。座らされている。
ぼろぼろの衣服だけで手足を拘束されていてぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
奴隷の輸送トラックは荒れた路面を走る。凹凸を越えるたびに衝撃が伝わる。
荷台が傾く。ろくに整備されていない路面から伝わる振動がなくなる。
幌が開かれる。遠く離れた地面が見える。輸送機は空高くを飛んでいる。
戦闘員が一人ずつ降りていく。訓練され尽くした無駄のない動きで地上へ降下していく。
眼下でパラシュートが一つ、また一つと開いていく。
戦闘員は全員降りてもう誰も残っていなかった。

('A`)「…飛ぶか?」

( ^ω^)「…飛ぶお」

思い切って飛び立つ。
身体が空に浮かぶ。
すさまじい速度で地面へ落ちていく。
なんとかパラシュートを開く。
草原が広がる。障害物はない。
地面が近づく。どんどん近づく。転倒しながらなんとか着地する。
見ればドクオとクーも無事に着地を成功させていた。

「お〜い」

向こうから誰かが手を振る。

( ´∀`)「お〜〜〜い」

( ^ω^)「モナー」

五本爪のホークを持ったモナーが近づいてくる。

19名無しさん:2018/12/30(日) 02:00:51 ID:NbNBiuIA0
( ´∀`)「どうしたんだモナ」

( ^ω^)「モナーこそ」

( ´∀`)「え、ぼくは見ての通り牧場だモナ」

確かに草原には馬が何十頭といる。ここは牧場らしい。
放牧されている馬は思い思いに時間を過ごしていた。

( ^ω^)「ツンを探しているんだお。 見てないかお?」

( ´∀`)「ツン? 見てないモナ」

('A`)「どこいったんだろうなぁあいつ」

( ´∀`)「まぁせっかくだし乗馬でもしていくといいモナ」

('A`)「乗馬とかした事ないぞ」

川 ゚ -゚)「カッコいいじゃあないか」

( ´∀`)「ほら、これ鞍だモナ」

ウエスタン鞍を馬の背に乗せる。
モナーに手伝ってもらってなんとか馬の上に跨る。アイポイントが高い。
ぐるぐると近くを歩いて慣らしてから、今度は馬を走らせる。

20名無しさん:2018/12/30(日) 02:02:38 ID:NbNBiuIA0
('A`)「お、思ったより速い」

( ´∀`)「へっぴり腰になっちゃダメだモナ」

川 ゚ -゚)「しゃきっとしろドクオ」

( ^ω^)「すげーこの人なんでもすぐこなしちゃうんだお」

川 ゚ ー゚)「ふふん」

ぼくたちを乗せて馬は走る。草原を駆ける。アスファルトを走る。
高い遮音壁に囲われたアップダウンの激しい片側二車線の高速道路を走る。
すぐ横をチューン・アップされたスポーツタイプの車がものすごいスピードで走り抜ける。
首都高C1内回りだ。汐留ジャンクションからかつて川底だった区間へ一気に下り急カーブの銀座カーブへ突っ込んでいく。

('A`)「ゲーセンで湾岸よくやったなぁ」

( ^ω^)「ぼく頭D派」

('A`)「んだとぉ」

川 ゚ -゚)「私はマリオカート派」

( ^ω^)('A`)「「かわいい〜」」

21名無しさん:2018/12/30(日) 02:03:55 ID:NbNBiuIA0
オービスの手前、京橋出口で首都高を出る。
出口すぐのビルの立体駐車場で馬を降りる。
ターンテーブルに馬を誘導すると大人しく格納庫へ入っていく。
ビルを出るとそこはQFRONTのスターバックス・コーヒーを出たところだった。
渋谷駅前交差点のスクランブル交差点が青になる。
一斉に四方向から人々が歩き出す。
欧米系の外国人観光客が一眼レフを構える。
と、そこで全ての動きが止まった。
歩行者信号機の残数表示、ガード上の山手線、再開発中の東急プラザのクレーン、全ての動きが止まった。

世界の全てが静止している。ぼくたちはまるで取り残されたようだった。
音一つすらしない。完全な静寂。

す、と視界の奥から黒い何かが現れる。
何か、と表現するほかない。それは生物でも現象でもない。黒い霧のようなもの。
その集合体がゆらりとスクランブル交差点の上空に浮かぶ。

「出たな」

どこからか声がする。
東京メトロ・東急電鉄渋谷駅7-1出口の屋根の上に誰かが立っている。
女の子だ。

「変身っ!」

変身バンクが始まる。女の子の服が見えない何かの力によってひん剥かれる。しかし何かの力によって裸は見えない。
入れ替わるように新しい服装が着せられていく。

22名無しさん:2018/12/30(日) 02:06:23 ID:NbNBiuIA0
「いくよーっ!」

無造作に跳ねた髪、ふりふりのかわいらしい服、露出の少ない服の上からでもはっきりと分かる発育の良い身体つき。

「マジカル☆ハニーミルク!登場!」

ステッキを向け決めポーズ。完璧だ。完璧な魔法少女だ。

( ^ω^)「…ハイン?」

从 ゚∀从「えっ」

やっぱりハインリッヒだった。ゴスロリ風のかわいらしいふりふりの服。格好は完全に魔法少女だ。しかもノリノリである。
ただしハインリッヒである。男勝り、マッド・サイエンティスト、煙草をふかしハーレーにまたがるカッコいい女性。それこそ普段のハインリッヒだ。

从;゚∀从「お、お前らいつから…!?」

慌てて身体を隠そうとするもふりふりの魔法少女然とした服装は隠せない。あとナイスバディな身体も全然隠せていない。

( ^ω^)「今しがただお」

('A`)「しかし魔法少女って…」

从 ゚∀从「や、やめろ! 言うな!」

('A`)「そういう趣味が…」

从 ゚∀从「言うなって!」

23名無しさん:2018/12/30(日) 02:08:10 ID:NbNBiuIA0
ハインリッヒがステッキを振るう。何かの光線が発せられドクオの足元を抉る。

(;'A`)「あっぶね!」

从# ∀从「お前たちは見てはいけないものを見てしまった…」

('A`)「すいませんでした! 他言いたしません! ハインさんだってそういう趣味があってもいいと思います! ギャップ萌え!」

从#゚∀从「うるせえな! そういうところだよ!」

('A`)「ていうかハニーミルクってドトール…」

川 ゚ -゚)「あースタバみたく気取らないしちょうどいい感じが好きだぞドトール」

( ^ω^)「あーミラノサンドA ビーフパストラミ&生ハム好きー」

从 ゚∀从「関係ない話すんなよ…つーかクーもその格好ヤバすぎだろ」

川 ゚ -゚)「対魔忍だからな」

从 ゚∀从「あ、対魔忍じゃあ仕方ないわ」

この間恐らく敵だと思われる黒い霧の集合体はじっとしている。空気の読める敵である。

川 ゚ -゚)「ハインは魔法少女ものか」

从 ゚∀从「みんな違うのか? まぁ格好ばらばらだしそうなのか」

( ^ω^)「そうなんだお。 それでぼくたちツンを探しているんだけど」

24名無しさん:2018/12/30(日) 02:09:38 ID:NbNBiuIA0
从 ゚∀从「ツン? 見てないぞ」

('A`)「あいつ誰も見てないな…」

( ^ω^)「ともかく、邪魔して悪かったお。 続けてもらって構わないお」

从 ゚∀从「分かったよ…ったく」

しっしっとハインリッヒが手を払う。ぼくたちは7-1出口から地下に降りた。
地下に降りた途端に時間が動き出す。エスカレーターが動き出し人々が歩き出す。
田園都市線・半蔵門線のホームに降りると独特な接近音が聞こえてくる。御堂筋線の接近音だ。
御堂筋線に乗り込むとほどなくして地上に上がり道路と並走する。駅に着くと自動車が列車を追い越していく。
新大阪駅から新快速に乗る。新快速はやはり座れない。座るために京阪に乗り換える。二階席は快適であるもののとにかく遅い。
梅田駅のよく磨かれた床を見ながらやっぱり阪急だなと思う。しかしついうっかり地上へ降りてしまう。
反対側のヨドバシカメラが遠い。ああでもないこうでもないとヨドバシカメラへの道を探しているうちに大阪駅に入ってしまう。
通路を進むとナゴヤドームが見えてくる。ナゴヤドーム前矢田駅から続くデッキ通路だ。右に折れてイオンモールナゴヤドーム前に入る。
店内は人気がない。それどころか荒れている。二階のフードコートの机や椅子はひっくり返され店員はおろか客の姿も見えない。

('A`)「お、おいあれ」

吹き抜けから一階を見てみると一階部分に人影が見える。不規則で緩慢な動き。ぼろぼろの衣服に青い顔。
まさしくベタなゾンビだ。

(,,゚Д゚)「おい、お前たち無事か!?」

テナントから金属バットを持ったギコが招き入れる。

25名無しさん:2018/12/30(日) 02:11:09 ID:NbNBiuIA0
('A`)「おいおいなんだよあいつら」

(,,゚Д゚)「見ての通りゾンビだ」

(*゚ー゚)「どこにいたの? このモールで生存してるの私たちだけだと思ってた」

アパレルショップの服の影にしぃも隠れていた。

( ^ω^)「そのバットは?」

(,,゚Д゚)「三階のムラサキスポーツでくすねてきた。 お前たちはどこにいたんだ?」

( ^ω^)「え、ナゴヤドーム前矢田駅から」

(,,゚Д゚)「は?」

( ^ω^)「色んな世界観を渡り歩いていて、あ、ツンは見なかったお?」

(*゚ー゚)「ツン、見てないけど」

(,,゚Д゚)「つーか今回ゾンビものじゃあないのか? BOON NOVEL OF THE DEADかと思ってたんだが」

( ^ω^)「いや特には」

(,,-Д-)「マジかぁ…」

どうやらここまで相当苦労してきたらしい。満身創痍のギコががっくりと肩を落とす。

26名無しさん:2018/12/30(日) 02:12:58 ID:NbNBiuIA0
('A`)「そうだなぁ、俺とブーンは普通の役だけどクーさん対魔忍なら意外となんとかなるんじゃね?」

川 ゚ -゚)「ふむ、ゾンビどもに蹂躙されるのも悪くない」

( ^ω^)「ダメだこの人」

川 ゚ -゚)「というのは冗談だ。 まぁ貸してみろ」

半信半疑のギコから金属バットを受け取り吹き抜けから一階へ飛び降りる。ふんわりと着地するとゾンビたちが反応する。

('A`)「ナチュラルに飛び降りてナチュラルに着地したぞあの人」

( ^ω^)「畑が違うお」

肌が見える露出度の高いピチピチボディスーツで金属バットを構える姿は様になっているのかなっていないのか判断に困る。

川 ゚ -゚)「来い!」

近寄ってきたゾンビを一閃。
頭を吹き飛ばす。
右から一体。
的確に首を狙い叩き切る。
背後から更に一体。
振り向きざまに一撃。
腐った肉や皮膚が飛び散る。

川 ゚ ー゚)「濡れるッ!」

( ^ω^)「あっダメだあの人スイッチ入っちゃってるわ」

27名無しさん:2018/12/30(日) 02:14:37 ID:NbNBiuIA0
('A`)「クーさん! もういいから戻ってきて!」

川 ゚ -゚)「よし」

確認出来る限りのゾンビを抹殺してから軽い足取りで二階までジャンプして戻ってくる。

( ^ω^)「じゃあぼくたちは行くお」

(,,゚Д゚)「行くって、どこに」

( ^ω^)「ツンを探しているんだお」

再び外へ出る。そこはナゴヤドーム前矢田駅から続く連絡デッキではなく名港トリトンこと伊勢湾岸道だった。
セントレアこと中部国際空港から脱出したのかセグウェイが三台停まっていたのでそれぞれ乗る。
真っ赤な名港西大橋を渡ると真っ赤な若戸大橋に出る。その先には更に真っ赤な神戸大橋へ続く。
その後は長い舞子トンネルが延々と続きようやく抜けると高い主塔が視界に飛び込んでくる。
三九一一メートル、世界最長の吊り橋である明石海峡大橋をセグウェイでゆっくり渡る。
風に煽られながらなんとか渡ると観覧車のある淡路サービスエリアではなく国道一五三号線だった。
鶴舞線塩釜口駅を過ぎて右折すると名城大学への上り坂が伸びる。唸るセグウェイでなんとか坂を登り天白キャンパスに入る。
セグウェイを降りて建物へ入る。学生で溢れかえっている。扉の空いていた教室へ入った。そこは教会だった。

(゚、゚トソン「ようこそ」

修道服を着たトソンに出迎えられる。ぼくたちは木の椅子に座った。
先程までのキャンパスの喧騒とは正反対で静寂が保たれている。
埋め込まれたステンド・グラスが神秘的で美しい。その下でトソンは背筋を伸ばして立っている。

('A`)「トソンすげぇハマり役だな」

ドクオの不躾な発言にも今は頷くほかない。少し前に見た魔法少女☆ハインリッヒが脳裏に浮かぶ。申し訳ない。

28名無しさん:2018/12/30(日) 02:16:13 ID:NbNBiuIA0
(゚、゚トソン「そうでしょうか」

川 ゚ -゚)「うむ」

露出度の高いボディスーツを着込んだクーがうんうんと頷く。確かに。

(゚、゚トソン「さて、それでは皆様はどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか」

( ^ω^)「えっと…ツンを探しているんですけど、見てないですかお?」

(゚、゚トソン「ツンさんですか、今回はお見かけしておりません」

('A`)「またダメか…」

( ^ω^)「ツンが見つからないんですお。 今回色んな世界観がごちゃ混ぜになって、それでもブーン系のみんなはいるのに、ツンだけが見つからない」

(゚、゚トソン「はい」

( ^ω^)「一体ツンは、どこにいるんでしょう…」

(゚、゚トソン「そうですね。 私の個人的な意見になりますが」

( ^ω^)「はい」

(゚、゚トソン「それはブーンさんでなければ見つけられないと思います」

( ^ω^)「え…」

(゚、゚トソン「ブーンさんとツンさんは常に一緒にいらっしゃいます。 どんな世界でも。 どんな物語でも。 ツンさんの事が一番分かるのはブーンさんです」

むしろ、とトソンは続ける。

(゚、゚トソン「ブーンさんにしか分からないと思います」

29名無しさん:2018/12/30(日) 02:17:40 ID:NbNBiuIA0
( ^ω^)「ぼ、ぼくにしか…」

(゚、゚トソン「はい。 主人公であるブーンさんでなければ。 ツンさんと常に結ばれているブーンさんでなければいけないのです」

( ^ω^)「じゃあ…どうしたら…」

(゚、゚トソン「前に進むしかありません。 これまでそうしてきたように、これからも」

もしもまた迷ったらまた来て下さい、とトソンが締めくくる。ぼくたちはお礼を言って教会を出た。
外はもう名城大学天白キャンパスではなくどこかの高校だった。隣の教室に入り窓際の席につく。
放課後の教室には他に誰もいない。夕陽が差し込み、カーテンが風に吹かれてふんわり揺れる。
外からは運動部のランニングの掛け声が聞こえてくる。

( ^ω^)「どうするかお…」

('A`)「進むしかねーだろ。 トソンの言っていた通りだ」

川 ゚ -゚)「あぁ、そうだな」

( ^ω^)「うん」

これほどツンと離れた事があっただろうか。
どんな世界でも、どんな物語でも、ぼくとツンは一緒だった。
クラスメートで、幼馴染みで、腐れ縁で、近所で、恋人で、夫婦で。何度も出会って何度も結ばれた。
それなのに今回はツンに会う事すら出来ない。ツンは今頃、どの世界観でどうしているのだろうか。
勝ち気な性格のようで寂しがりやでもある。一人で寂しい思いをしていないだろうか。そう考えると胸を締め付けられる。

( ^ω^)「行くお。 ツンを探しに」

('A`)「おうよ」

川 ゚ -゚)「そうでなくてはな」

頼もしい仲間だと、つくづく思う。いくつもの世界を共に旅をしてきただけはある。

30名無しさん:2018/12/30(日) 02:19:04 ID:NbNBiuIA0
教室の扉を開ける。そこは海だった。少し先に陸が見える。

( ^ω^)「虹だ」

クーの言う通り、虹があった。しかし随分と近い。そして鮮明だ。こんなにはっきりとした虹を見たのは初めてだった。
虹のある方へ、海沿いの道を歩いていく。途中に海水浴場があったもののシーズンを終えていた。
小高い山から虹が出ている。石畳の道を登っていくと灯台があった。そしてその横から、虹が生えていた。
本当に生えていた、と表現するのが適切だろう。地面からにょきっと生えて空に続いているのである。
見れば向こう岸まで虹は続いている。虹はくっきりと姿を現していて、なんと触れる事が出来た。

( ^ω^)「これ、渡れるかも」

川 ゚ -゚)「虹を渡るなんて夢みたいだ」

恐る恐る一歩を踏み出す。また一歩。きちんと渡れる。
ぼくたちは虹を渡り始めた。虹は海に架かっていてその下をタンカーが通っていく。
どれだけ歩いただろうか、やがて向こう岸が見えてくる。いくつものパネルで構成された不思議な建物が見える。
虹はそのパネル群の最上層に続いているようだった。更にその頂上のパネルに誰かが立っている。

( ・∀・)「やぁ」

それはモララーだった。ぼくたちは虹を渡り終える。

( ^ω^)「モララー、ここは?」

( ・∀・)「明治百年記念展望塔、ざっくり言えば富津岬だ。 君たちは観音崎灯台から来たんだよ」

どうやら虹で浦賀水道を渡ったらしい。

31名無しさん:2018/12/30(日) 02:20:55 ID:NbNBiuIA0
( ^ω^)「モララー、ぼくは」

( ・∀・)「あぁ、大丈夫だ。 分かっている。 ツンだろう?」

( ^ω^)「どうしてそれを」

( -∀・)「ぼくはそういう役回りだからね」

ふふ、とモララーが不敵に笑う。

('A`)「相変わらず物語のキーマンみたいな役だな」

( ・∀・)「スター・システムだからね、ブーン系は」

モララーが小さくコマンドを唱える。空中にウインドウが現れる。
またモララーが何か囁くとするとウインドウにマップが表示される。

( ・∀・)「ブーン系AAの現在地マップだ。 今回みたいな世界観が渋滞している時は重宝される」

('A`)「お、俺らだ」

千葉県富津市明治百年記念展望塔に赤い点が集中している。ぼくたち四人の名前もある。

( ^ω^)「これはどうすれば」

ウインドウは拡張現実であるらしい。触れようとするもすり抜けてしまう。

( ・∀・)「音声で入力すればいい。 拡大縮小や左右上下の移動は眼球の動きに追随する」

試しに視線をウインドウの左に飛ばすとマップが東方向に動く。

( ^ω^)「なるほど」

32名無しさん:2018/12/30(日) 02:22:48 ID:NbNBiuIA0
すう、と息を吸う。

( ^ω^)「ツンの居場所は」

千葉県富津市、木更津市、君津市、神奈川県横浜市、横須賀市を表示していたマップが急に縮小される。
関東地方、日本列島、アジア圏、太平洋と縮小を繰り返し遂にマップは地球のみが表示された。

('A`)「なんだこれは、バグか?」

( ・∀・)「いや、違う」

モララーがマップの端を指差す。地球から離れた余白に、赤い点が一つ輝いていた。

( ^ω^)「これは、どういう」

( ・∀・)「参ったね、上だ」

('A`)「上?」

( ・∀・)「あぁ」

モララーが上空を指差す。

('A`)「空か?」

( ・∀・)「いいや、その先。 宇宙だ」

('A`)「宇宙だって?」

( ・∀・)「厳密には月だね」

33名無しさん:2018/12/30(日) 02:24:08 ID:NbNBiuIA0
川 ゚ -゚)「月…」

( ^ω^)「そんなの、どうすれば」

( ・∀・)「大丈夫さ。 軌道エレベーターがある世界観があるはずだ」

( ^ω^)「軌道エレベーター」

( ・∀・)「あぁ、それで月に行くんだ」

( ^ω^)「そんな、可能なのかお?」

( ・∀・)「出来るさ、お前なら」

モララーがぼくの肩を叩く。

( ・∀・)「悔しいけれど、ブーン系の主人公はお前なんだよ」

( ^ω^)「モララー」

( ・∀・)「俺だって何度も主人公を任されてきた。 でもお前にその数は到底及ばない。 結局ブーン系の主人公はやっぱりブーン、お前なんだよ」

('A`)「急にクサいぞ」

( ・∀・)「うるさいな。 さぁ、主人公たちはとっとと行くんだ。 主人公らしくな」

( ^ω^)「モララー…」

34名無しさん:2018/12/30(日) 02:25:54 ID:NbNBiuIA0
( ・∀・)「クーさんは置いていっていいぞ」

('A`)「おいふざけんな」

川*゚ -゚)「NTRか、ゾクゾクするな」

(;'A`)「乗り気にならないで!」

( ^ω^)「ダメだこの変態」

明治百年記念展望塔を降りる。
その車を使いな、とモララーがキーを投げてよこす。

('A`)「ちょっとお前この役カッコよすぎない?」

( ・∀・)「ぼくはいつだってカッコいいさ」

('A`)「うぜー」

地上に降りる。待っていたのはオレンジ色のスズキ・ハスラーだった。

(#'A`)「前言撤回! 軽自動車じゃねーか!」

(# ・∀・)「なんだと、ワガママ言うな!」

(#'A`)「ふつー高級車とかスポーツカーの流れだろ! 軽自動車って!」

(# ・∀・)「現代社会の世相を反映しているんだよ! 黙って乗れ!」

35名無しさん:2018/12/30(日) 02:27:24 ID:NbNBiuIA0
乗り込むと意外と車内は広く快適だった。ぼくが運転席に座りエンジンをかける。
岬の先端まで続いていた道路をたどり国道一六号線から館山自動車道に入る。
学ランで車を運転するのは随分と不思議な感覚だった。

('A`)「モララーのハスラー」

( ^ω^)「お?」

('A`)「モスラーのハララー」

( ^ω^)「モスラーヤ」

('A`)「モスラ」

( ^ω^)「モスラーヤ」

('A`)「モスラ」

川#゚ -゚)「つまらないからやめろ」

( ^ω^)('A`)「ウィッス…」

木更津ジャンクションからアクア連絡道へ、明らかに怪しい法定速度遵守の袖ヶ浦ナンバーのトヨタ・クラウンに気をつけながら走る。
観覧車のある三井アウトレットパークを横目にアクアラインへ。白亜の旗艦、海ほたるを通り過ぎるとトンネル区間に入る。
管轄を抜けたために千葉県警の明らかに怪しいトヨタ・クラウンや日産・スカイラインを見かけなくなる。
それをいい事に飛ばす車が増えて走行車線で大人しく走り続ける。

36名無しさん:2018/12/30(日) 02:28:59 ID:NbNBiuIA0
('A`)「ていうか軌道エレベーターなんてどこにあるんだ?」

( ^ω^)「んー、SFチックではあるものの…想像がつかないお…」

長い坂を上がり海底トンネルから地上へ出る。浮島ジャンクションを首都高川崎線へ直進すると左手に工場群が、右手には羽田空港が見える。

川 ゚ -゚)「…あれじゃあないか?」

( ^ω^)「え?」

後部座席のクーが指差す。羽田空港の向こう、東京都心方面だ。着陸する飛行機の向こうに細長い何かが空まで続いている。

('A`)「あるやん」

( ^ω^)「あるお」

川 ゚ -゚)「あったな」

とりあえず東京都心方面へ向かう。大師ジャンクションから都心方面へは合流出来ず一般道から入り直す。
羽田線を北上すると次第にその姿がはっきりと見えてくる。

('A`)「スカイツリーじゃん」

東京スカイツリーから軌道エレベーターが空へと伸びていた。本来の展望台はそのままで、二秒で展望台を一周する時計灯もきちんとある。
浜崎橋、江戸橋、両国で順調に渋滞に引っかかってから駒形インターで首都高を降りる。
間近で見るとスカイツリー軌道エレベーターの迫力は凄まじい。当たり前であるものの上が見えない。
車を停めてチケット売り場へ向かう。

37名無しさん:2018/12/30(日) 02:30:39 ID:NbNBiuIA0
( ^ω^)「あ、アイシス」

リハ*゚ー゚リ「あれ、みんなどうしたの? 観光?」

( ^ω^)「いいや、軌道エレベーターに乗りたいんだお」

リハ*゚ー゚リ「えっ、軌道エレベーターに?」

( ^ω^)「うん。 きっと月にツンがいるんだお」

リハ*゚ー゚リ「そうなの。 分かった」

アイシスがチケット売り場からぼくたちを案内する。待ち列を飛ばしてエレベーターの前まで案内される。
四季を感じられる本来の天望シャトルではないエレベーターのドアの前は厳重にロックされていて、アイシスはそれらを外していく。

リハ*゚ー゚リ「ツンは月で一人?」

( ^ω^)「恐らく」

リハ*゚ー゚リ「そっか、一人は寂しいよね。 ブーンたちは迎えに行くんだ」

( ^ω^)「うん。 ぼくが行かなきゃ」

リハ*゚ー゚リ「そうだね」

ドアが開かれる。

リハ*゚ー゚リ「帰りはこれをスロットに挿入して」

アイシスからカードキーを手渡される。
透明な素材で出来た不思議なものだ。

38名無しさん:2018/12/30(日) 02:32:20 ID:NbNBiuIA0
リハ*゚ー゚リ「気をつけてね」

( ^ω^)「うん、ありがとう」

ドアが閉まる。エレベーター内には音楽などは流れていない。静寂。無駄な音がない。
浮き上がる感覚。それは加速する。加速。どんどん加速して持ち上げられる。
随分と時間が経ったところで急に視界が開けた。眼下には青い惑星が見える。地球だ。

川 ゚ -゚)「…綺麗だ」

( ^ω^)「だお」

それはあまりにも美しい。感嘆してしまうほどに美しい。
あそこにはぼくたちの生活が、社会が、物語がある。それらが詰まっている。
ぼくたちの存在など、いかにちっぽけなものであろうか。

('A`)「俺たちってさ、何百とかの物語をやってきたよな」

( ^ω^)「うん」

('A`)「色んな世界で、色んな舞台で、色んな役柄を演じてきた訳だけどさ、こうして見ると全部あの地球での話なんだよな」

( ^ω^)「うん」

('A`)「一応主人公級キャラだしそういう自負もあったんだけど、こう見ると自分ってちっちゃいもんだよなって」

( ^ω^)「奇遇だお、ぼくも同じような事を考えてたんだお」

川 ゚ -゚)「奇遇なんかじゃあないさ、これを見たらそう思ってしまうよ」

39名無しさん:2018/12/30(日) 02:33:35 ID:NbNBiuIA0
三人で遠ざかる地球に見入っていた。軌道エレベーターは静かに上昇していく。
青春ラブコメも、能力バトルも、ミステリも、ホラーも、サスペンスも、あらゆる世界が、あらゆる物語が、あの地球にある。
ツンと共に過ごした学校、教室、街並み、ルミネ、マクドナルド、戸建て、全てがあの地球にある。

( ^ω^)「ツン…」

どの世界でもいつも一緒にいるせいで、あの存在が当たり前だった。
どの物語でもいつも一緒にいるせいで、それが当然のように思っていた。
これほどツンの存在が遠くなって、その大切さに気付かされる。
距離が開いてから初めて、その事実を痛感する。

ツンが愛おしい。はっきりとそれを認識する。
早く会いたいと思う。今更また恋愛するかのように恋しくなる。
どの世界でも一緒だったのに。どの物語でも一緒だったのに。
今はただ、ただ、ツンに会いたい。

気が遠くなるような長い時間が終わる。
軌道エレベーターは静粛性を保ったまま終点の月に到着した。
ドアが開かれる。月面だった。漆黒の宇宙を背景にどこまでも殺風景な月面が広がっている。
寂しい場所だ。誰もいない、どの世界にも、どの物語にも属さない場所。
その月面に、ツンはいた。

( ^ω^)「ツン!」

40名無しさん:2018/12/30(日) 02:35:16 ID:NbNBiuIA0
十二単を纏ったツンが振り向く。
普段ならまずしないのにぼくは彼女を抱きしめた。

ξ;゚⊿゚)ξ「え、ちょっとブーン?」

咄嗟の出来事にツンは怒る訳でもなくただ狼狽える。

ξ;゚⊿゚)ξ「なに、急に」

( ^ω^)「ツン、探したお」

ξ*゚⊿゚)ξ「べ、別に探してほしいなんて言ってないけれど」

('A`)「嘘つけ、こんな寂しい場所で」

川 ゚ -゚)「随分と探したぞ」

事態が読み込めないツンにここまでの経緯を簡単に話す。
道理で、とツンは頷いた。

ξ゚⊿゚)ξ「なんか月だし、誰もいないし、途方に暮れてたところではあったわ」

( ^ω^)「ようやく見つけたんだお。 まさか月とは」

ξ-⊿゚)ξ「まぁここまで迎えに来てくれた事は感謝するわ」

('A`)「素直じゃないなぁ」

41名無しさん:2018/12/30(日) 02:36:55 ID:NbNBiuIA0
ξ゚⊿゚)ξ「まぁ私が言うのもあれだけど、みんなその格好はなんなの?」

( ^ω^)「ぼくは学生」

('A`)「俺は社畜」

川 ゚ -゚)「私は対魔忍」

( ^ω^)「ツンはかぐや姫だお」

('A`)「あー、なるほどなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「クーの方が似合うわよ。 私がこういうの着てもね」

( ^ω^)「いいや、似合ってるお」

ξ*゚⊿゚)ξ「…そう?」

('A`)「月まで来てイチャイチャすんな」

ξ゚⊿゚)ξ「ただ…クーの対魔忍はちょっとハマり役すぎるわ」

川 ゚ -゚)「自分でもそう思う」

軌道エレベーターに戻る。スロットにカードキーを差し込んで起動させる。
月を離れて軌道エレベーターは地球へと降下を始める。

42名無しさん:2018/12/30(日) 02:39:05 ID:NbNBiuIA0
('A`)「しっかし今回の物語って一体何だったんだろうな? 何のジャンルだったんだろ」

( ^ω^)「よく分からないお…統一性もないし、支離滅裂だし。 でもぼくはおかげでツンの大切さが分かったお。 もう離さないお」

ξ*-⊿-)ξ「ちょ、ちょっと…」

('A`)「お熱いねぇ」

青い地球に、母なる地球へ戻っていく。
いくつもの国家、いくつもの民族、いくつもの言語、いくつもの文化、いくつもの宗教、いくつもの物語がある地球へ。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、あれ」

('A`)「お、流れ星だ」

宇宙の海を落ちていく火球が目に入る。

( ^ω^)「いや、違う」

それは火球と呼べるほどのものではない。大きい。隕石だ。
地球に向かって落ちていく。大気圏に突入してもなお大きさを維持したまま降下を続ける。

( ^ω^)「あれ…大丈夫なのかお?」

43名無しさん:2018/12/30(日) 03:00:24 ID:NbNBiuIA0
('A`)「おい、何か見えるぞ」

次の瞬間、隕石が爆発する。
アメリカ合衆国が撃った核ミサイルに違いない。
巨大隕石が砕かれる。世界のリーダーであるアメリカ合衆国の核ミサイルによって巨大隕石は無事爆破。ハリウッド映画さながらの展開だ。
きっと今頃NASAのミッションコントロールセンターでは皆が抱き合いホワイトハウスではアメリカ合衆国大統領ががっちりと握手を交わしているだろう。

('A`)「お、おい…」

次第に視界がはっきりしていく。それはぼくたちの目の前に否応なしに飛び込んでくる。
巨大隕石は確かに爆破された。しかしそれはある程度の大きさに割られただけに過ぎなかった。
何十何百という数に分解された隕石が地球上に降り注いでいく。
青い地球に、母なる地球に、隕石が降り注ぐ。都市を焼き、大地を割り、海を溢れさせる。

軌道エレベーターは地上へ戻った。スカイツリーのエレベーターホールには既に人がいなかった。皆が逃げた後のようだった。
流星雨が絶えず降り注いでいる。東京の街は燃えていた。ビルがいくつも倒れていたる場所で火事が起こっていた。

('A`)「なんだよこれ…」

誰もいない。街には誰もいなかった。

川 ゚ー ゝ`) ゚;;- ω‘ ( Ф´‐ l从 o川(- д゚ )( ゚( lw _ *( ( ゚( (# ∵<)彡゜
)ノ (‘_ / ゚ (’ ' 3 ( )∬  >) ー'  ^∀^)  々゚) ・` ( (*‘ !リ
|゚ノ 爪' ゚∀ (・ ー゚)o ζ -) ‘‘ e’) ) L’) ( 从'  ●∋゚) ( "
<●´_ _‐ノv ∀ ・∀ー`)ω゚  ゚*ζ ωФ)_  ( >  ・) ゚)o )*     д
 ゚) 从 ・ω ゞ) 川 ゚ *゚ー、。 /`)y‐ ・ノ  *) 川 / , (´(=゚ ><   

そのかわり記号が散らばっていた。何の脈絡も統一性も共通性もない記号ばかりだ。
そこかしこに記号が転がっている。おもちゃ箱をひっくり返したように記号が乱雑に放られている。

('A`)「どうなってるんだ…?」

( ^ω^)「分からない…分からないお」

44名無しさん:2018/12/30(日) 03:01:14 ID:NbNBiuIA0
残りは後で投下します。

45名無しさん:2018/12/30(日) 04:59:29 ID:yDSs6jBI0

続きがすごく気になる

46名無しさん:2018/12/30(日) 10:40:39 ID:CS8yqeP20
こういうの大好き
乙です

47名無しさん:2018/12/30(日) 10:59:02 ID:J2LWra2c0
しえん

48名無しさん:2018/12/30(日) 11:25:17 ID:6jRmrhhU0
乙!!

49名無しさん:2018/12/30(日) 11:25:31 ID:fCGyjYr60
好きそう、帰ったら読む

50名無しさん:2018/12/30(日) 11:32:47 ID:6mkQrqyE0
ここから退魔忍クーが感度3000倍になる展開になるんだよな?そうだよな?

51名無しさん:2018/12/30(日) 11:48:15 ID:8y.gNCK20


52名無しさん:2018/12/30(日) 17:57:10 ID:.YodFX2Y0
アクアラインいいよね、事故多いけど
続き期待

53名無しさん:2018/12/30(日) 23:16:35 ID:UDaegtho0
再開します。

54名無しさん:2018/12/30(日) 23:19:34 ID:UDaegtho0
状況が読み込めなかった。何が起きているのか理解が追いつかなかった。
ともかく、隕石が地球に落下している。流星雨が降り注いでいる。
物語としては、まさしく危機だ。ぼくたちの、世界の、危機に違いない。
それにしてもこの不気味さはなんだろう。この意味を見いだせない記号たちは何を意味するのだろう。

「デミタス…デミタス…!」

声がした。
それはぼくたちがいるスカイツリーの根元から北十間川を挟んだ対岸だった。
ペニサスだ。跪き、何かを揺すっている。

( ^ω^)「ペニサス…」

それは記号だった。記号が転がっている。記号が横たわっている。ペニサスはそれを抱きしめている。
半狂乱になりながら彼女の恋人であるはずの名前を叫んでいる。

('、`*川「デミタス…ねぇ、デミタス…!」

その悲壮感は対岸から声をかけられるものではなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「あの子…一体何を…」

('A`)「あ、危ない!」

一瞬の出来事だった。
隕石の欠片が落ちてきたかと思うとペニサスの身体を貫いた。

('、`*川「あっ」

( ' 、 ` * 川 「あああ!」

、 ' ( 川 * ` 「あああ あ   あ」

それはほんの数秒だった。
そこにはもうペニサスの姿はなかった。
地面には記号が転がっているだけだった。
ペニサスが抱いていた記号に新たな記号が折り重なっていた。

55名無しさん:2018/12/30(日) 23:21:33 ID:UDaegtho0
('A`)「お、おい…今の…」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな…」

頭上でものすごい音が響く。
スカイツリーから伸びた軌道エレベーターに隕石が激突していた。押上の駅前に軌道エレベーターの強化ガラスが降ってくる。

('A`)「おい、とにかくここはダメだ、逃げよう」

川 ゚ -゚)「ああ」

( ^ω^)「でも逃げるってどこに」

ξ゚⊿゚)ξ「走るしかないでしょう」

ぼくたちは崩落を始めたスカイツリーと軌道エレベーターを背に走った。
ビル群を抜けていくつものパネルが視界に飛び込んでくる。
明治百年記念展望塔、富津岬だ。

( ・∀・)「おい、お前ら!」

その最上層にモララーはいた。

('A`)「モララー、無事だったか!」

( ・∀・)「お前たちも無事だったみたいだな」

明治百年記念展望塔のパネルも何層か流星雨で破壊されている。
富津岬から観音崎まで渡る事が出来た虹も途中で折れてしまっていた。
浦賀水道を進むタンカーに虹の破片がばらばらと落ちていく。

( ^ω^)「一体何が起きているんだお」

( ・∀・)「分からない。 ただ、あの隕石に当たると死ぬぞ」

56名無しさん:2018/12/30(日) 23:23:19 ID:UDaegtho0
( ^ω^)「死ぬって、そんな」

ξ゚⊿゚)ξ「…さっきのペニサスだってそうじゃない」

('A`)「でも死ぬって、この物語でゲームオーバーって事だろ?」

( -∀-)「いいや、違うんだ」

モララーは頭を振る。

( -∀・)「隕石に当たって死ぬとキャラクターとしての死を迎えるんだ」

( ^ω^)「キャラクターとしての死?」

ついそのまま訊き返してしまった。

( ・∀・)「ブーン系AAとして死ぬって事だ」

('A`)「な、なんだそれ」

( ・∀・)「ペニサスが死んだのを見たんだろう? 分解されたんじゃあないか?」

クーが頷く。

川 ゚ -゚)「あぁ、分解されていた。 元の記号に」

元の記号。そう、あの記号はペニサスを構成するものだった。
そして彼女が抱いていた記号も、恋人であろうデミタスを構成するものだ。

('A`)「た…ただの記号に戻るって事か? キャラクター、AAが、ただの意思のない記号に?」

57名無しさん:2018/12/30(日) 23:25:20 ID:UDaegtho0
( ・∀・)「そうだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな…」

( ^ω^)「じゃあ、物語の中だけじゃあなくて、あの隕石で死んだらブーン系のキャラクターとして死ぬと? 消えてしまうと? そういう事なのかお?」

( ・∀・)「そのとおりだ」

暫く静寂に包まれた。理解が追いつかなかいからだ。
物語での死は、その物語での役目の終わりを意味する。物語で死ねば、その物語ではそれまでだ。
次の物語への転生を待つ事になる。それがスター・システムを採用するブーン系小説での大前提だ。

それなのに。それなのにあの隕石で死ねば、ブーン系キャラクターとして死ぬのだという。
もう転生はない。次の物語へはたどり着く事は出来ない。この物語が終着地だ。

( ^ω^)「なんで…そんな…」

( ・∀・)「それは分からない」

( ^ω^)「さっきたくさんの記号を見たお…本当に記号ばっかりで意味が分からなかった。 でもあれは…死んだ皆…なのかお」

( ・∀・)「あぁ」

ぼくは深く、深くため息をついた。ぼくだけじゃあない、ドクオも、クーも、ツンも。
突拍子もないこの状況を、すぐ受け入れるのは難しい。

( ^ω^)「存在ごと消してしまう、あの隕石…流星雨は一体なんなんだお?」

( ・∀・)「それは、分からない」

('A`)「物語のキーマンを任されるようなお前でもか?」

( -∀-)「あぁ、分からないんだ。 本当に分からない」

58名無しさん:2018/12/30(日) 23:27:23 ID:UDaegtho0
あの流星雨、隕石で死ぬと記号に分解されて存在そのものが消滅する。
分かっているのはそれだけだ。どうすれば回避出来るとか、どうすれば止められるとか、そういう物語的な事は何も分からない。

( ^ω^)「どうすればいいんだお」

( ・∀・)「今俺たちに出来るのは、逃げる事ぐらいさ」

('A`)「逃げる、か」

( ・∀・)「いくらテンプレートの上位にいたって、キャラクターとしての存在が消滅してしまえば終わりだ。 だから逃げるしかない」

('A`)「でも」

( ^ω^)「いや、逃げるしかなさそうだお」

燃える空から流星雨が降ってくる。いくつもの軌跡を描いて降下してくる。
その量が明らかに増えていた。しかもこちらに向かっている。明確に、はっきりと分かるほどに。

('A`)「なんだ、なんでこっちに」

川 ゚ -゚)「ここに集中しているからかな」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな、まるで意思があって隕石が落ちてきているみたいじゃない」

('A`)「…意思を持って殺しているんじゃねーだろうな」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

('A`)「あの隕石は、俺たちを殺すためなんじゃあないか」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな…」

59名無しさん:2018/12/30(日) 23:30:30 ID:UDaegtho0
ぼくたちは明治百年記念展望塔を背にして走り出した。
間もなく富津岬に流星雨が集中的に降り注ぐ。
パネルが一枚ずつ確実に破壊されていく。

( ^ω^)「どこに逃げれば?」

( ・∀・)「色々な世界を渡り歩いてきたんだろう? そこを逃げ続けるしかない」

果たしてゴールはあるのだろうか。逃げ切れられるのだろうか。消滅以外に終焉があるのだろうか?

川 ゚ -゚)「モララー、左!」

( ・∀・)「え」

左。一瞬だった。
防砂林を突き抜けて小さな隕石が飛び込んできた。
それはモララーの身体を貫く。走っている体勢のままモララーが倒れ込む。

( ^ω^)「モララー!」

( ・∀・)「あぁっ、クソ! マジか、消えたくねぇ、消えたくねぇ! クソッ!」

(  ・ ∀ ・ )「消えたく」

  ∀  )・   (  ・  「ねぇ

あっという間だった。
モララーは記号へ分解された。そこに落ちているのはただの記号だった。
再構築される事もない、ただの記号の羅列だった。

(;'A`)「なんなんだよ…なんなんだよこれは…!」

60名無しさん:2018/12/30(日) 23:34:56 ID:UDaegtho0
( ^ω^)「…逃げるお」

なおも背後に流星雨が降る。立ち止まるのは危険だ。
また走り出す。富津公園の手前で片側二車線の国道一五三号線に変わる。
セグウェイで登った坂を駆け上がり名城大学天白キャンパスへ入る。
キャンパスは至るところで火の手が上がりガラスはことごとく割れてしまっている。
教室のドアを開ける。

ン ゚ソ 、 ト ゚ (

ステンド・グラスが嵌め込まれていたはずの教会。
美しかったステンド・グラスは粉々に割られて、トソンとおぼしき記号が散らばっていた。

教室を出る。ナゴヤドーム前矢田駅から続く連絡デッキ。イオンモールナゴヤドーム前に入る。
先程より荒れている。もうゾンビはいない。天井が崩落しているところがある。モール自体が完全に崩れ落ちる手前にあるらしい。

゚ )( ゚ ( , *  ゚ ) Д   ,  ゚ー

寄り添うように二人ぶんの記号があった。金属バットだけが傍らに転がっている。

モールを出る。東京メトロ・東急電鉄渋谷駅7-1出口から地上に上がる。
おびただしい数の記号がスクランブル式の渋谷駅前交差点に転がっている。
東急百貨店が燃えている。隕石が直撃したらしい移設工事中の銀座線の高架橋が崩落する。
新たにTOKYU OOHの屋外ビジョンに隕石が落ちて大量のガラス片が交差点に降る。

゚ 从    从 ∀ 

渋谷駅からセンター街に向けて斜めにかけられたスクランブル交差点の横断歩道の中央に、かつてハインリッヒだった記号はあった。

61名無しさん:2018/12/30(日) 23:38:13 ID:UDaegtho0
燃える都心は平原に変わる。平原も燃えている。動いているものはいない。生きているものもいない。
馬は焼け死に厩舎からも火の手が上がっている。山の向こうにまた一つ、また一つと隕石が落ちる。空が明るくなり、また暗くなる。

∀ (  ` ) ´

五本爪のホークとともにモナーを構成していた記号があった。

闘技場にあれほどいた観客は一人もおらず極めて静かだった。しんとしている。
ところどころ崩れた競技場は人気がない。記号ばかりが散乱している。

「…ヒート」

ハ )⊿ ゚゚ ノ

以前ヒートを構成していた記号がそこにあった。
一体何連勝したのだろうか。彼女は満足しただろうか。
ただの記号に人格も意思もなくただ静寂を守っているだけだ。
あれほどうるさかったヒートなのに今ではただただ静かだった。

ニュータウンの平均的な一軒家が見える。父親が三十年ローンで購入したらしい一軒家。ホンダ・フリードが一台ぶんの車庫に停まっている。
家に入る。ソニー製の三十二インチの液晶テレビはそのままテレビ番組を映している。

' ー) しJ ( `

その前のソファーにカーチャンだった記号が寝ていた。
いくつもの世界で過ごした母親との記憶が蘇る。それはドクオも同様らしい。彼女はいつでもぼくたちの母親だった。
しかしもうその物語を語る事もない。新たに始まる事もない。カーチャンはただ、記号だった。

二階に上がる。ぼくの部屋。物語のスタート地点。

( ^ω^)「どうすれば…いいんだお…」

ぼくたちは途方に暮れた。

62名無しさん:2018/12/30(日) 23:40:20 ID:UDaegtho0
燃える都心は平原に変わる。平原も燃えている。動いているものはいない。生きているものもいない。
馬は焼け死に厩舎からも火の手が上がっている。山の向こうにまた一つ、また一つと隕石が落ちる。空が明るくなり、また暗くなる。

∀ (  ` ) ´

五本爪のホークとともにモナーを構成していた記号があった。

闘技場にあれほどいた観客は一人もおらず極めて静かだった。しんとしている。
ところどころ崩れた競技場は人気がない。記号ばかりが散乱している。

川 ゚ -゚)「…ヒート」

ハ )⊿ ゚゚ ノ

以前ヒートを構成していた記号がそこにあった。
一体何連勝したのだろうか。彼女は満足しただろうか。
ただの記号に人格も意思もなくただ静寂を守っているだけだ。
あれほどうるさかったヒートなのに今ではただただ静かだった。

ニュータウンの平均的な一軒家が見える。父親が三十年ローンで購入したらしい一軒家。ホンダ・フリードが一台ぶんの車庫に停まっている。
家に入る。ソニー製の三十二インチの液晶テレビはそのままテレビ番組を映している。

' ー) しJ ( `

その前のソファーにカーチャンだった記号が寝ていた。
いくつもの世界で過ごした母親との記憶が蘇る。それはドクオも同様らしい。彼女はいつでもぼくたちの母親だった。
しかしもうその物語を語る事もない。新たに始まる事もない。カーチャンはただ、記号だった。

二階に上がる。ぼくの部屋。物語のスタート地点。

( ^ω^)「どうすれば…いいんだお…」

ぼくたちは途方に暮れた。

63名無しさん:2018/12/30(日) 23:41:11 ID:UDaegtho0
窓を開けるとまだ流星雨は降っている。狂ったように都市を、街を、大地を焼いている。
皆が死んだ。皆が分解された。皆が消滅した。
それでも流星雨は降る。隕石は落ちる。
この地上から全てを消し去るように。
この地上から全てを焼き尽くしてしまうように。
この地上から全てをリセットしてしまうかのように。

川 ゚ -゚)「まずい、ここも長くは持たない」

慌てて家を出る。いつの間にか火が燃え移っている。
暫くして燃える家が崩れ落ちた。

燃える。何もかもが燃える。
日本橋が燃える。銀座線渋谷駅が燃える。山手線E231系500番台が燃える。スキーリフトが燃える。箱根ロープウェイが燃える。
輸送トラックが燃える。首都高C1のオービスが燃える。渋谷駅前QFRONTが燃える。中部国際空港が燃える。スズキ・ハスラーが燃える。

足元には35.801711, 140.170230と数字だけが表示されている。座標だ。任意で入力された数字。
そうだ、ここは物語で語られる世界だ。設定された舞台だ。ステージ上のオブジェクトなのだ。
世界が、舞台が、ステージが、オブジェクトが、全て燃える。燃えて、燃え尽きて、無になる。

我が家が燃え落ちて遂に背景がなくなった。足元は黒、あるいは白。無を意味している。両対のようで同一だった。
そうなのだ、この世界は物語として語られている舞台に過ぎない。インターネット上の仮想世界でしかない。
たとえここを千葉ニュータウン印西牧の原駅前の新興住宅地の一軒家だと言い張ってもそれは任意で入力された架空のものでしかない。

( ^ω^)「本当に…ぼくたちを殺すんだお、あれは」

背景のなくなった世界に容赦なく流星雨が降る。全てを滅ぼすために。無に帰すために。
ぼくたちに出来る事は本当に、本当にどこまでも逃げ続ける事だけだ。

('A`)「おい、ヤバいのが来るぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、全部こっちに向かってくるじゃない」

川 ゚ -゚)「そうみたいだな」

('A`)「走れ! 走れ!」

64名無しさん:2018/12/30(日) 23:42:47 ID:UDaegtho0
流星雨は矢のように降る。見上げても全ての軌道がぼくたちに向かってきている。
もはや街も都市も構造物もない。背景のない世界を走る。誰にも会わない。
あの流星雨はもうぼくたち以外の全てのキャラクターを殺したのだろう。
全ての世界を、全ての舞台を、全てのステージを、全てのオブジェクトを破壊し尽くしたのだろう。
あとはぼくたちだけだ。ぼくたちを殺せば全てが終わる。ぼくはそれに気づいてしまった。
ただの物語だと思っていた。だけどこれは違う。

根本的な破壊だ。

(;'A`)「ダメだ、囲まれた!」

見れば全方向からの襲撃。全てがぼくたちに降ってくる。絶望的だ。本気で殺しに来ている。
逃げ場がない。逃げ場などない。あぁ、とぼくは呻いた。

( ^ω^)「もう、終わりだ」

(#'A`)「諦めんなよ!」

ドクオがぼくの胸ぐらを掴む。そのまま勢いに任せて何も指定されていない地面に叩きつけた。

('A`)「俺が囮になる。 俺が受け止める。 その後にお前たちは逃げろ」

(; ^ω^)「な、なんだおそれ…ドクちん急にカッコつけんなお」

('A`)「うるせーよ、カッコつけさせろよ。 こういうのやってみたかったんだよ」

(; ^ω^)「でも」

川 ゚ -゚)「水臭いぞ、ドクオ。 私も一緒だ」

クーがツンを座らせる。

川 ゚ -゚)「お前がそうするなら私もそうするさ」

65名無しさん:2018/12/30(日) 23:44:40 ID:UDaegtho0
('A`)「…へへ、嬉しいっす」

川 ゚ -゚)「お前と私はなんだかんだでいつも一緒だっただろう。 いいパートナーだと思っていたよ」

('∀`)「やっべ、嬉しーなぁ…」

ξ゚⊿゚)ξ「クー、ちょっと」

川 ゚ -゚)「お前は生き残れ、ツン。 ブーンとお前はブーン系におけるアダムとイヴみたいなものさ」

( ^ω^)「でも、ぼくたちだけが生き残ったって」

('A`)「あのなブーン、ブーン系ってのはお前の名前だろ? やっぱりお前が主人公なんだよ。 お前には敵わない」

( ^ω^)「そんな事」

('A`)「お前たちさえ生き残っていれば、また再興だって出来るはずだろ。 なんせブーン系はブーン、お前の名前なんだから。 だからさ」

( ^ω^)「…うん」

('A`)「俺たちが皆みたいにバラバラになっちまったら、また俺たちを再構築してくれよな」

ドクオとクーが背中合わせに手を繋ぐ。
ぼくとツンは二人に守られる。
間もなく衝撃が襲う。
何十何百もの隕石が襲う。
クー。
クールビューティーな誰もが羨むヒロイン。
ポンコツだったり残念美人でもあるけれどいつだって皆のヒロインだった。
ドクオ。
いつだって親友でいつだって同じ主人公級だった。
一緒に戦って一緒に青春を過ごして一緒に謎を解いた。
二人が、二人がいない世界なんて想像出来ない。
いつだって一緒だったのに、いつだって、

( ^ω^)「あぁ…」

66名無しさん:2018/12/30(日) 23:47:24 ID:UDaegtho0
視界が開ける。流星雨は止んだ。見渡す限り背景は白くて黒い。無表示。

') ` A (

゚ )  ゚川  -

足元には記号が散らばっていた。そうか、こんな簡単な組み合わせだったのだ。
拾い上げても、組み立ててみても、ばらばらと崩れ落ちていく。
ただの記号。何の意味をなさない記号の羅列。

( ;ω;)「あぁ…あぁ…」

ぼくはツンと二人で泣いた。ドクオとクーだった記号をせめて一緒にして無表示の地面に置いた。

( ^ω^)「…行こう」

流星雨は止んでいる。でもこの逃避行に終わりはない。ぼくにははっきりと分かっていた。
けれどそれを言い出す事が出来なかった。それは最悪の結末だ。終末のみがゴールなのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「うん…」

ぼくとツンは歩き始めた。始点も終点もない無表示の地面を歩いた。
どちらからでもなく手を繋いで歩いた。そうだ、月からの帰りにもう離さないと決めたのに。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ブーン」

( ^ω^)「なんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「ゴールなんてないんでしょう?」

( ^ω^)「…え?」

67名無しさん:2018/12/30(日) 23:49:47 ID:UDaegtho0
ξ゚⊿゚)ξ「あの流星雨はまた降ってくる。 私たちを完全に滅ぼすために」

( ^ω^)「…」

ξ゚⊿゚)ξ「私たちだけが生き残るなんてそんなの都合が良すぎるもんね」

( ^ω^)「ツン…」

ξ゚⊿゚)ξ「どうしてかは分からないけれどブーン系は終わる。 終わらされる。 という事なのかな」

( ^ω^)「気づいていたのかお…」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、知っていたの?」

( -ω-)「いいや、でもきっと、そうなんだろうって…こうして全てを焼き尽くしてデリートして、」

デリート。これはデリートだ。Deleteキーで、指一本でごっそり削除してしまうかのように、ぼくたちとぼくたちの世界がなくなっていく。

ξ゚⊿゚)ξ「でも、それでも私たちは逃げなければならないわ。 逃げ続けなければならない」

( ^ω^)「…終わりのない逃避行だと分かっていても?」

ξ゚⊿゚)ξ「そう。 分かっていても。 私たちは託された。 だから逃げ続けなければならない」

( ^ω^)「どこまでも?」

ξ゚⊿゚)ξ「どこまでも。 でも私、ブーンと二人なら、逃げ続けられる。 クーのアダムとイヴっていうのは大げさすぎるけれど」

( ^ω^)「そうだおね」

ξ-⊿-)ξ「…月まで迎えに来てくれて、ありがとうね。 すごく寂しかったし、こうして二人になっちゃったけど、ブーンと一緒で良かった」

68名無しさん:2018/12/30(日) 23:52:38 ID:UDaegtho0
( ^ω^)「ぼくも、ツンを見つけられて良かったお」

ツンが甘えるように腕を伸ばした。立ち止まり、ツンの華奢な身体を抱きしめる。

ξ-⊿-)ξ「好きよ、ブーン」

( ^ω^)「ぼくも好きだお、ドクオ」

ξ-⊿-)ξ「だから、二人で、どこまでも…っ」

ツンの声が不意に途切れる。

( ^ω^)「ツン?」

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ブーン…お願い」

( ^ω^)「なんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「また私を見つけてね」

( ^ω^)「うん、見つけるお」

ξ゚⊿ ゚)ξ「絶対だから ね」

( ^ω^)「うん?」

ξ ゚ ⊿ ゚ ) ξ「絶対また、私を見つけ て ね …

腕が空を切る。ツンの髪のにおいが宙に消える。
急に体勢を崩して足を一歩、二歩と踏み出した。
小さな隕石が転がっていた。
足元にあるのは記号だった。

゚ ) ゚ ξ ξ⊿

69名無しさん:2018/12/30(日) 23:54:34 ID:UDaegtho0
( ;ω;)「あ、あぁ…」

( ;ω;)「ああああああ!」

( ;ω;)「あああ、あぁっ、ツン、ツン! ツン! ツン! あああ、ツン…ツン!」

指ですくっても記号はこぼれ落ちる。砂のように。

( ;ω;)「ツン…ツン…ツン…!」

すくってもすくっても、こぼれ落ちる。
生まれた病院も、育った実家も、通った小学校中学校高校も、友達も、趣味も、特技も、取得資格も、戸籍も、ツンの全てはこうしてただの記号となった。
一緒に過ごした学校の屋上、一緒に乗った通学列車、一緒に行った遊園地、一緒に歩いた公園、全ての記憶や記録がただの記号になった。

もうそこにはただの記号しかなかった。

(  ω )「あぁ…あああぁ…」

もう手を離さないと決めたのに、その手はぼくの手からすり抜けていった。

(  ω )「あぁ…」

無表示の背景が暗くなる。天を仰いだ。空を覆い尽くすほどの巨大隕石がゆっくりと近づいていた。

(  ω )「こんなの…どこにも逃げられる訳ないお…」

世界はゆっくりと終末を迎える。抗いようのない終末を迎える。
そこには何のドラマ性もなく救世主も現れない。超能力者が解決する事もない。ただ静かに終末が迫っていた。

70名無しさん:2018/12/30(日) 23:55:59 ID:UDaegtho0
( ^ω^)「あ…」

そしてぼくは気づく。気づいてしまった。一つの事実に。このあまりにも暴力的な終末の原因を。

( ^ω^)「…飽きられちゃったのかお」

ぼくたちブーン系の世界は書く者がいて、読む者がいて、成り立つものだ。
しかしブーン系が飽きられて、忘れられてしまえば、ぼくたちの世界はもう維持出来ない。
水を得られなければ植物が枯れてしまうように。食べ物を得られなければ動物が死んでしまうように。

忘却とは、破壊だ。

忘れ去られてしまったぼくたちの世界はその形を維持出来なくなった。
その成れの果てがこれだ。流星雨はブーン系の物語における世界を、舞台を、ステージを、オブジェクトを、全て焼き尽くした。
そしてぼくたちブーン系キャラクターを殺し尽くした。最後の一人を残して。

世界にたった一人、ぼくは取り残された。主人公として。
世界でたった一人、終末を迎える。主人公として。

( ^ω^)「だけど」

だけど、こんなのはあまりにも不条理だ。ぼくたちが何をしたというのか。
これまでいくつもの世界で旅をして、戦って、謎を解いて、青春を謳歌して、物語を演じてきただけなのに。

71名無しさん:2018/12/30(日) 23:57:11 ID:UDaegtho0
( ^ω^)「演じてきた…」

演じてきた。どんな役も。示された世界で、示された役を演じてきた。

( ^ω^)「いや…」

ぼくは演じてきた。ブーン系小説の登場人物として。書かれてきた。書かれてきたのだ。
記述された世界だ。設定された舞台だ。設けられたステージだ。指示されたオブジェクトだ。
ぼくは任意の存在だ。任意の存在なのだ。しかしそれは書き手という絶対の神にそこに置かれたからだ。

ぼくはブーン系主人公であると自負していた。そうであるように努めてきた。
だけどそれは、そう指示されたからだ。そう入力されたからだ。ぼくは記述された存在だ。
ぼくの世界も物語も存在も記憶も記録も全て記述されたものだ。
ぼく自身のものであってぼく自身のものではない。
内藤ホライゾン通称ブーンの全てはぼくにとっての全てではない。

いつから勘違いをしていたのだろう。当たり前の事じゃあないか。ぼくは作られた存在だ。
ぼくの行動、思い出、記憶、記録、形跡、感情、全て記述されたものではないか。

初めて温泉旅館に二人で泊まった時に布団がくっつけて敷かれていて感じた気恥ずかしさ。
寒さにかじかむ手を繋ぎ背伸びして見た東京駅丸の内駅舎のプロジェクションマッピング。
セルフ式ガソリン・スタンドで給油した後にノズルから靴にガソリンが垂れた時の舌打ち。
金沢市街まで遠いと感じた小松空港からのリムジンバスから眺めた雪の降る日本海。
旅行先のホテルの部屋で大音量で流して踊ったゴールデン・ボンバーの女々しくて。

72名無しさん:2018/12/30(日) 23:57:39 ID:UDaegtho0
雪が舞っているのにわざわざ山形新幹線つばさ号との解結と見に行った福島駅。
トレーを燃えないゴミとして出していけないとツンに怒られて自然と出たため息。
帰宅ラッシュの横浜駅で優雅にハイネケンを飲んだサンライズ瀬戸のツイン。
車の点検中にさほど興味もないのに他の車を眺めるディーラーの待ち時間。
区役所で婚姻届を受理してもらってからせっかくだからと撮った記念写真。
車止めの先はビルで新幹線もここまでなのだと実感した鹿児島中央駅。
ららぽーとのエレベーターで他の客が降りた時に不意にしてきたキス。
名古屋駅から何度も乗り継いであまりにも遠かった豊田スタジアム。
人身事故でロマンスカーが運休になって渋々乗った急行新宿行き。
船橋法典駅から中山競馬場まで続く地下通路を急ぎ走る日曜日。
ホームセンターコーナンのペットコーナーから動けなくなったツン。
鈴村健一にはシン役をやってほしくなかったと文句をツンが言う。
西町大喜富山駅前店のためにわざわざ降りた新富町停留場。
ガチャガチャ派とガシャポン派で意見が完全に二つに割れる。
なんば駅から歩いて探してようやく見つけた自由軒のカレー。
一般道に間違えて降りた伊豆縦貫道長泉インターチェンジ。
同棲一年目ビールを飲みながら爆笑した大晦日のガキ使。
値上げ前にダンボールで買い込んでおいたセブンスター。
学校をサボって二人で行った映画館で初めて繋いだ手。
寸前で強風のため見合わせになったスチールドラゴン。
寒い冬に自販機の脇で二人で飲んだホット・コーヒー。
目的地到着寸前で五千円を越えたタクシーメーター。
小学校から帰ってきたら既に死んでいたたまごっち。

73名無しさん:2018/12/30(日) 23:58:09 ID:UDaegtho0
筑紫通りから少し裏に入った博多とんこつラーメン。
あまりの渋滞に無口になった中央道小仏トンネル。
衆議院選挙で久しぶりに入った中学校の体育館。
高校の学園祭で二人して頬張ったフランクフルト。
暫定的無料措置が続いていた房総スカイライン。
豪雪で新千歳行き便の欠航を知った羽田空港。
ツンがドミノ・ピザにはバドワイザーと言い張る。
アウトレットでいつもFrancfrancにツンが寄る。
通話専用として買ったウィルコムの携帯電話。
駅から赤いペイントをたどったズムスタ広島。
到着後まず土佐三志士像を見た高知駅前。
覆面パトカーに注意した小田原厚木道路。
トラックが怖かった名阪国道のΩカーブ。
お互いすぐに認識出来なかった成人式。
貧乏人ばかりが飛ばす国道新四号線。
東海道新幹線でいつも見逃す富士山。
京葉線が遠く感じた東京駅乗り換え。
やはり敗因となったテキーラショット。
一時間待ちだった熱田神宮の初詣。
大阪市中央公会堂のライトアップ。
賀茂大橋から眺めた鴨川デルタ。
今や黒歴史の前略プロフィール。
黒人のキャッチが怖い竹下通り。

74名無しさん:2018/12/30(日) 23:58:36 ID:UDaegtho0
交代制にした風呂とトイレ掃除。
二人で作った車用プレイリスト。
初めて飲んで苦かったビール。
塾帰りに買って食べた肉まん。
残高不足で閉まった改札機。
風に揺れる教室のカーテン。
泡にまみれて踊ったクラブ。
二人して落ちた効果測定。
嘘をついて行った合コン。
締め切って暑い夏の夜。
横浜ビブレのスイパラ。
深夜のドン・キホーテ。
二つ並んだ歯ブラシ。
半額のお惣菜漁り。
夕暮れの河川敷。
乾いた洗濯物。
大学のカフェ。
駅の待合室。
夜の屋上。
相合傘。
ツン。

全てぼくの記憶だと思っていた。ぼくの感情だと思っていた。
だけど本当は違う。全て、記述されたものだ。入力されたものだ。
ぼくは生かされていた。これまでずっと、生かされてきた。
たったそれだけなのだ。たった、それだけ。

75名無しさん:2018/12/31(月) 00:01:39 ID:AG3Hj32s0
巨大隕石がいよいよ落ちてくる。世界の終末、ブーン系の終焉。
ぼくは皆と同じように記号に還る。これまで内藤ホライゾン通称ブーンだったものはただの意味をなさない記号の羅列になる。
存在の消滅。
存在の忘却。

( ^ω^)「ぼくは…何も出来なかったお…」

主人公だったぼくは、あまりにも無力だった。
ゆっくりと、巨大隕石が無表示の世界ごとぼくを押し潰す。

始まった物語は、終わりを迎えなければならない。
開かれた幕は、いつか閉じられなければならない。
始点があれば必ず終点がある。始発駅があれば必ず終着駅がある。
それは確実に対称であり、例外はない。
この世界もそうだ。このシステムもそうだ。この物語もそうだ。

そして、物語は終わりを迎える。

( ^ω^)「ぼくは…内藤ホライゾン…通称ブーンだお…」

( ^ω^)「ぼくは…」

(  ^ ω ^ ) 「ぼ く   は       …

76名無しさん:2018/12/31(月) 00:02:54 ID:AG3Hj32s0



こんにちは。 ぼくは内藤ホライゾン。 通称ブーンだお。

ぼくたちはいくつもの物語で、いくつもの世界で、いくつもの旅をしてきたお。

ぼくたちの長い長い旅はいったんここで終わりだお。 皆とも、ここでお別れだお。

ぼくたちと出会った頃には学生だった皆は社会人になったりしていると思うお。

恋人が出来たり、家庭を持ったり、もしかしたら子供がいる人だっているかもしれないお。

そうじゃなくてもソシャゲだったりYouTubeで見たい動画がたまっていて忙しいと思うお。

毎日夜遅くまで仕事をして帰ってきたら、もうお風呂に入って寝るだけでいっぱいいっぱいかもしれないお。

スマートフォンを皆が持っているからわざわざパソコンの電源をつけてブラウザを開いたりしないかもしれないお。

でも皆が忘れちゃってもぼくたちはインターネット上で生きていたんだお。 いつかまた新しい物語が始まる事を信じて。

だけどもう時間切れらしいんだお。 忘れられちゃったぼくたちはもう、存在する事が出来ないんだお。

77名無しさん:2018/12/31(月) 00:04:19 ID:AG3Hj32s0
それでも、忙しい毎日のある夜にふと時間が出来れば。 休憩中にソシャゲがメンテナンスに入ったら。

仕事から帰る夜遅い列車で運良く席に座って一息つける日があれば。

そうしたら、ぼくたちの事を思い出してほしいんだお。

そういえば最近どうなのかな、ぐらいに気にして見に来てほしいんだお。

もうぼくたちはそこにはいないのだけれど、思い出してアクセスしてくれる事できっとまたぼくたちは生き返るんだお。

だからいつか、思い出してほしいんだお。 何ヶ月後だって、何年後だって、いつだって構わないんだお。

もし、もしそれが叶うのならば。 ぼくたちにとってそれほど幸せな事はないお。

もしそれが叶うのなら、再構築してほしいお。 ぼくたちの存在を。

もしそれが叶うのなら、また描いてほしいお。 ぼくたちの世界を。

もしそれが叶うのなら、また紡いでほしいお。 ぼくたちの  物   語     を        …



( ^ω^)ぼくたちの物語が終わるようです

78名無しさん:2018/12/31(月) 00:05:08 ID:AG3Hj32s0
投下終了です。
読んでいただいた方ありがとうございました。

79名無しさん:2018/12/31(月) 00:36:24 ID:pWQX6.9.0
お疲れ様でした。

80名無しさん:2018/12/31(月) 00:39:27 ID:0MDl7FJ.0
乙…! 乙!!
良い作品を読ませてもらいました

81名無しさん:2018/12/31(月) 01:04:21 ID:.JMBj5WA0
乙でした
俺がずっとブーン系を好きでいる限り感度3000倍のクーは消えないんだよな?
つまり感度3000倍のクーのブーン系が読めるんだよな?な?

82名無しさん:2018/12/31(月) 01:07:59 ID:MPdL11zQ0
お前が書くんだよ!

83名無しさん:2018/12/31(月) 07:49:47 ID:F2Kfd7wU0
ツンとの思い出を抜いたらブーンがただのくたびれたおっさんになっててワロタ




ワロタ…

84名無しさん:2018/12/31(月) 09:05:24 ID:6382Lbk60

泣けてくるね…

感動を壊すようで悪いんだけど、>>68

ξ-⊿-)ξ「好きよ、ブーン」

( ^ω^)「ぼくも好きだお、ドクオ」

何故ここでドクオになってるし

85名無しさん:2018/12/31(月) 10:15:58 ID:pWQX6.9.0
ワロタ

86名無しさん:2018/12/31(月) 13:29:09 ID:qwdpmwmM0
ふいんきで気付かんかったぜドクオのログイン

87名無しさん:2018/12/31(月) 15:56:17 ID:c1yFYDrY0


88名無しさん:2019/01/01(火) 20:03:11 ID:GWutzbmI0

ブーン系題材で少し考えさせられたわ

89名無しさん:2019/01/06(日) 10:32:06 ID:CcOtvCp.0
現実の街が沢山出てくるということは……アンタの作品マジで好きです

90名無しさん:2019/01/18(金) 22:13:26 ID:eRjVPWso0
乙、面白かった

91名無しさん:2019/01/22(火) 23:23:56 ID:WTxTKwCg0
>>84
ホモはどこにでもいる……!

92名無しさん:2019/01/24(木) 23:54:14 ID:n/0Za8iw0
1です。乙ありがとうございました。

>>81
次のドエロ祭りを待ちますか…。

>>84
大事なところで…わりと大事なところで…
いつも誤字ばっかりで申し訳ないです。

>>89
いつもありがとうございます。

93名無しさん:2019/02/15(金) 04:36:06 ID:tbx2cskc0

崩れていくAA達を見る度に胸が痛くなった
俺はブーン系が大好きだと改めて思ったよ
ありがとう

94名無しさん:2019/03/19(火) 20:13:22 ID:jR0szFcM0

今だから書ける、読める話だよなって
それだけにダイレクトに訴えてくるものがあったなぁ


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