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(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです <解決編>

1 ◆wPvTfIHSQ6:2018/10/30(火) 21:14:46 ID:MoF6Jpjw0
▼前スレ
(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1534955891/904

▼まとめのイケメンブーン芸神
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIV.htm

▼シリーズ過去作
(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです+α
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwari.htm
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです+α
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariII.htm
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIII.htm


あと九幕、十幕、終幕で完結です
ハードディスクが壊れさえしなければ

こっから解決ラッシュが始まるから未読は開いちゃダメゼッタイ

302名無しさん:2018/11/13(火) 18:27:21 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「弟ォ!?」
 
(;´・_ゝ・`) 「そんな話、聞いたことないぞ!」
 
(´・ω・`) 「そりゃあそうだ!」
 
 
(´・ω・`) 「奴は、十年前、」
 
(´・ω・`) 「何も事件すらなかった頃から、あんたらを、」
 
(´・ω・`) 「友だちを、自分すらをも、偽ってきたんだ!」
 
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
 すぐに電話が震えた。
 鈴木ダイオード。
 壁から、添付ファイル付きのメールが送られてきた。
 
.

303名無しさん:2018/11/13(火) 18:27:50 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  「 (-_-) 」
  「 小森マサオ (32) 」
 
 顔写真と名前しか載っていない。
 そいつをすぐに、デミタスに見せた。
 
 
(´・ω・`) 「こいつに、見覚えは!」
 
(´・_ゝ・`) 「ッ!!」
 
(´・_ゝ・`) 「間違いない!」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「こいつです!」
 
(;´・_ゝ・`) 「十年前……僕らと一緒にいた……」
 
(;´・_ゝ・`) 「ずっと……一緒に遊んできた……ヒッキー小森は!」
 
 
.

304名無しさん:2018/11/13(火) 18:28:15 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 デミタスの背中を、ばんばんと叩いた。
 よくやった。
 亡霊の正体を、ついに、暴いた。
 
 
(´・ω・`) 「あんたも一緒に探せ!!」
 
(´・ω・`) 「見つけたら、大声で叫べ!」
 
(´・ω・`) 「殺されそうになったら、全力で、ぶん殴れ!」
 
(;´・_ゝ・`) 「もちろんッ!」
 
 
(´・ω・`) 「相手は、あんたがよく知る男だ、できるだろ!」
 
(;´・_ゝ・`) 「当たり前だッ!!」
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 
 タイムリミット。
 要請しておいた、所轄署や交番の警官たちが、サイレンを鳴らして集まってきた。
 
 本来なら、すべての、終わり。
 しかし、亡霊を暴いた今となっては、すべての、はじまりだ。
 
.

305名無しさん:2018/11/13(火) 18:28:37 ID:0on9OJjc0
 
 
 
刑事 「イツワリさん!」
 
(´・ω・`) 「話は後だ!」
 
 所轄署の刑事が、パトカーから降りて、走ってきた。
 添付された顔写真を見せる。
 
 
(´・ω・`) 「この男を見つけ次第、全力で捕まえろ!!」
 
刑事 「わかりました!」
 
 
 刑事は、携帯電話に表示された画像の、写真を撮った。
 到着した全員に、まわしてくれるだろう。
 
 
 警察のネットワークを、舐めるな。
 警察の組織力を、舐めるな。
 
 今まで、何度も、その網をくぐり抜けてきた?
 どんな刑事でも、亡霊は捕まえられない?
 
.

306名無しさん:2018/11/13(火) 18:29:02 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 相手を間違えたな。
 この僕に勝てると思うな。
 相手は、この、ショボーンだ。
 
 
(´・ω・`) 「もしもしッ!」
 
 まわりは固めた。
 もう、逃げられる心配もない。
 今日逃げられたとしても、全国に指名手配として流す。
 
 追い打ちだ。
 デミタスが一の矢、応援が二の矢なら、トドメの三の矢だ。
 
 
  『え、あ、はい! トソンです!』
 
(´・ω・`) 「今から犯人の顔写真を送る!」
 
(´・ω・`) 「その男について、」
 
 
 
  『いま経済学部棟ですよね!?』
  『二階にいるんでそっち行きます!』
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
.

307名無しさん:2018/11/13(火) 18:29:33 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 トソンちゃんは、まだ帰ってなかったのか。
 というよりも。  、 、 、 、 、
 そうか、僕は、経済学部棟に彼女を残してきたのか。
 
 
(゚、゚;トソン 「警部ッ!」
 
(´・ω・`) 「ッ! どうして!」
 
(゚、゚;トソン 「お説教はあとでいいですよ!」
 
 
(゚、゚;トソン 「犯人の、顔が、わかったんですよね!?」
 
(´・ω・`) 「あとで覚えてろ……いや、いい!」
 
 
(´・ω・`) 「こいつだ!」
 
 ヒッキー小森、ではない。
 ただしくは、亡霊。
 小森マサオの、顔写真を見せた。
 
.

308名無しさん:2018/11/13(火) 18:29:57 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「……」
 
(゚、゚;トソン 「あっ!」
 
(´・ω・`) 「見たか!?」
 
 
 言うと、トソンちゃんは僕の手を引っ張った。
 全力で、走り出している。
 
        、 、 、
(゚、゚;トソン 「駐車場ですッ!」
 
(゚、゚;トソン 「学部棟の裏の駐車場を、ついさっき、走ってッてました!」
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
 
  >
  >(゚、゚;トソン 「あっ!」
  >
  >(´・ω・`) 「えっ」
  >
  > 急になんだ。
  > 思わずトソンちゃんの視線の先を追ってしまった。
  > 誰か、それこそ亡霊が後ろにでもいたんじゃないか、みたいな。
  >                     、 、 、
  > そこには、人も車も少ない、駐車場しか広がっていなかった。
  > 経済学部棟の裏には、駐車場があるようだ。
  >
 
.

309名無しさん:2018/11/13(火) 18:30:19 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「間違いないです!」
 
(゚、゚トソン 「変な人だなッて思って、凝視しましたもん!」
 
(´・ω・`) 「上出来ッ!」
 
 すぐさま情報をまわす。
 亡霊は、成仏を嫌い、駐車場方面から逃げ出した。
 
 
 
(´・ω・`) 「犯人は経済学部棟裏手の駐車場より逃亡ッ!」
 
(´・ω・`) 「全員をそっちにまわせ! 検問も怠るな!」
 
 
.

310名無しさん:2018/11/13(火) 18:30:49 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 そのままデミタスにも電話する。
 
(´・ω・`) 「デミタス、駐車場に行け!」
 
  『!』
 
 
(´・ω・`) 「ずっと会いたかった、亡霊が……」
 
(´・ω・`) 「あんたらの友だちだった!」
 
 
       、、 、 、、 、
(´・ω・`) 「ヒッキー小森が!!」
 
(´・ω・`) 「いるはずだッ!!」
 
 
 駐車場に出て、周囲を見やりながら、奥へ、奥へと走る。
 車も人も少ない。
 
 この開けた場所に、ぞくぞくと、警官が集まってきた。
 近くにいたのだろう、デミタスも、駆け寄ってきた。
 
 
.

311名無しさん:2018/11/13(火) 18:31:19 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 さあ、どうする、亡霊。
 
 お望みの盛岡デミタスも、丸腰だぞ。
 
 お望みの警官も、刑事も、僕も、集まっているぞ。
 
 
 
 サークルを抹殺するとか言ったな。
 
 亡霊は捕まらないとか言ったな。
 
 
 
 
(ill゚_゚) 「ッ!!!」
 
 
 すべて、お望み通り。
 
 願いを、叶えてやったぞ。
 
 さあ、どうする、亡霊。
 
 
(´・ω・`) 「………捕まえたぜ。」
 
 
.

312名無しさん:2018/11/13(火) 18:31:42 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(ill゚_゚) 「あああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
 
 
(´・ω・`) 「ッ!!」
 
 即座に拳銃を抜き出した。
 職員に扮したそいつの、腰から下、太ももの辺りを狙う。
 
 
(ill゚_゚) 「!!!」
 
(´・ω・`) 「あるじゃねえかよ!!」
 
 駆け出そうとした亡霊は、
 足から血を流して、大袈裟に倒れ込んだ。
 
 
                       、
(´・ω・`) 「あんたにも、立派な足がなァ!!」
 
(ill゚_゚) 「     ァァァああああああああああああああああ!!!!」
 
 
.

313名無しさん:2018/11/13(火) 18:32:05 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「取り押さえろッ!!」
 
 
 一人、二人、三人。
 また一人、二人、三人。
 
 次々と、獲物に食らいつくピラニアのように、警官が飛びかかる。
 先ほど兄者がされたように、亡霊が、羽交い絞めにされていく。
 
 
 
(ill-_-) 「離せッ!!」
 
(ill-_-) 「全員ぶっ殺すぞ!!」
 
(ill゚_゚) 「  聞いてんのか!? おい!! おいッ!!!」
 
 
 
.

314名無しさん:2018/11/13(火) 18:32:27 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 十一時二一分。
 容疑者、確保。
 
 羽交い絞めの中心から、場を貫く大声が放たれた。
 続けて確保、確保、と、野郎どもが叫ぶ。
 
 
(ill゚_゚) 「俺は無実だ!!」
 
(ill゚_゚) 「確保!? なんの話だ!!」
 
 
(´・ω・`) 「どけッ!」
 
 警官を数人押しやり、後ろ手錠のかかった亡霊と対面する。
 それでもなお、暴れている。
 
(ill゚_゚) 「ッ!」
 
 服を漁る。
 今更ロジックを展開させるつもりはない。
 
 この事件で、はじめて。
 犯人を特定する物的証拠を、突き付けてやるのだ。
 
.

315名無しさん:2018/11/13(火) 18:32:50 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「……持ってるねえ」
 
(´・ω・`) 「持ってるじゃねえか、亡霊。」
 
(ill゚_゚) 「違うッ!! これは          ッ!!」
 
 
 血を吸ったハンカチで覆われた、包丁。
 スマートフォンが、三台。
 ボイスチェンジャーと呼ばれる、声を機械的に変える装置。
 
 まだ出てくるぞ。
 財布のなかには、ご丁寧に身分を証明する普通免許。
 そして、こいつもあった。
 
 
(´・ω・`) 「持っててくれたんだねェ!」
 
(´・ω・`) 「僕の名刺を、後生大事になあ!!」
 
 
.

316名無しさん:2018/11/13(火) 18:33:13 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 包丁を隣の警官に押し付け、僕はスマホを開く。
 ひとつは、亡霊自身のスマホと思しきものだ。
 
 続けて、格安スマホ。
 型番などわからないが、通話アプリがトップ画面にあった。
 
 そして。
 通話履歴が表示されたままの、スマホ。
 持ち去られた、兄者のスマホだ。
 
 通話履歴には、ヒッキー、の文字があった。
 
 
(´・ω・`) 「………そうか」
 
(´・ω・`) 「兄者は、これを見て……」
 
 
 ヒッキーからの、着信。
 当時の兄者視点で言えば、
 他の何者を差し置いてでも優先すべき、電話の相手だ。
 
 十年以上前からの、兄者の、親友。
 にして、自分を貶めた、十年前の事件の、真犯人。
 なにより、死んだ男からの、文字通り亡霊からの、着信。
 
.

317名無しさん:2018/11/13(火) 18:33:35 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(ill゚_゚) 「違うんだ!!」
 
(ill゚_゚) 「これには深いワケがある!!」
 
 
(ill゚_゚) 「第一……ヒッキー小森は殺されたんだろ!?」
 
(ill゚_゚) 「俺は犯人じゃない!」
 
(ill゚_゚) 「犯人じゃない!」
 
 
(´・ω・`) 「ああ、犯人じゃないさ」
 
(ill゚_゚) 「ッ!」
 
(´・ω・`) 「あんたは、犯人なんてもんじゃない」
 
.

318名無しさん:2018/11/13(火) 18:33:56 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「友だちから呼ばれる名前も」
 
(´・ω・`) 「十年前の真実も」
 
(´・ω・`) 「山村貞子の名前も」
 
 
(´‐ω‐`) 「その全てを偽ってきた……亡霊。」
 
 
 
(´・ω・`) 「偽りの、亡霊だッ!!」
 
(´・ω・`) 「話はすべて、署でッ!!」
 
(´・ω・`) 「この僕が、じきじきにすべて、聞いてやる!!」
 
 
.

319名無しさん:2018/11/13(火) 18:34:42 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「亡霊ッ!!」
 
(´・ω・`) 「成仏の時間だッ!!」
 
 
(ill゚_゚) 「!」
 
(ill゚_゚)
 
(ill-_-)
 
 
 
( -_-)
 
(;゚'_゚)
 
 
 
.

320名無しさん:2018/11/13(火) 18:35:02 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(ill゚'_゚) 「ああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
 
(ill゚'_゚) 「ああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 
 
(ill゚'_゚) 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
 
 
 
 
 
 
 
 亡霊は、力尽きるその時まで、ずっと、叫び続けた。
 
 力尽きたその時に、口をパクパクさせたかと思うと、
 
 そのまま白目を剥いて、抵抗していた力と一緒に、
 
 魂が抜け落ちたように、倒れこんだ。
 
 
 
.

321名無しさん:2018/11/13(火) 18:35:45 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

322名無しさん:2018/11/13(火) 18:37:33 ID:0on9OJjc0
第九幕  >>9-143
第十幕  >>164-321

次回最終回です
トリック解説とか後日談とかエンドロールとか全部まとめて次で片付けます

323名無しさん:2018/11/13(火) 18:38:48 ID:M8bbK4W.0
おつおつ
ネットで知り合いってのは違和感あった

324名無しさん:2018/11/13(火) 18:43:33 ID:H3jyKtig0
おつ
予想してなかった展開だわ

325名無しさん:2018/11/13(火) 18:43:39 ID:Si/MFqts0
やったぜ

326名無しさん:2018/11/13(火) 18:47:33 ID:E4ccVPbI0
おつ!
とうとう次回で最終回か、動機とか気になりすぎるな!

327名無しさん:2018/11/13(火) 18:52:45 ID:fr.Q/pnI0
おつ!こりゃ最後楽しみだ

328名無しさん:2018/11/13(火) 18:53:49 ID:DwbvsOT60
おつ

329名無しさん:2018/11/13(火) 19:45:33 ID:J9U2QHiU0
おーまいが…

330名無しさん:2018/11/13(火) 19:45:43 ID:39p7MKCE0
おつ!!

うおおおお……
今回はトソンなんともなくてよかった……

331名無しさん:2018/11/13(火) 19:56:18 ID:7y5HnOeI0
乙!

332名無しさん:2018/11/13(火) 20:29:10 ID:TOMCJIr60
やべぇ・・・文章にメタクソ引き込まれた

小学生や中学生の頃に推理小説にはまってた以来だ

最終回も期待乙

333名無しさん:2018/11/13(火) 21:20:34 ID:PJR9FjrY0
やっぱりトソンちゃん有能!

334名無しさん:2018/11/13(火) 21:33:22 ID:/nJ7FpcA0
クッソ面白かった!乙!!!!
そういやAA出してなかったもんな
勝手に脳内で想像してたからすっかり考えの外だったわ

335名無しさん:2018/11/13(火) 21:46:44 ID:PJR9FjrY0
叙述トリックって言うの?

336名無しさん:2018/11/14(水) 10:15:25 ID:TElHsDMQ0
前スレ>>713とかも伏線というかヒントかな、面白かった。
動機は気になるわ〜

337名無しさん:2018/11/16(金) 07:22:51 ID:UFa7aw6k0
やっぱり読みごたえあるなぁ。しかし次で最終回か、また1つ更新を楽しみにしていた現行が終わってしまうのか…

338名無しさん:2018/11/16(金) 11:04:55 ID:TJYIIfy20
ブーン系だからこそのネタだから面白い

339名無しさん:2018/11/16(金) 14:22:55 ID:eistRLR.0
復活してたの今更気付いて一気読みしたわ

340名無しさん:2018/11/16(金) 19:21:26 ID:JZCM/o2U0
電話での反応的にヒッキーが貞子殺そうとしたっていうの違うっぽいしまだなんかありそうだな

341名無しさん:2018/11/18(日) 23:31:05 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 ┏━─
    五月八日  午前十一時四八分  国道二十七号線
                                      ─━┛
 
 
 
 続々やってきた、更なる応援や救急車、野次馬の数々。
 ヴィップ大学は本日、あくまで緊急メンテナンスという名目で休講させていた。
 
 噂を聞きつけた野次馬の大多数は、学生だ。
 何があったのか、噂は本当なのか、といったそれぞれの思惑で、
 帰宅させたはずの彼らが、絶えず大学に集まってきた。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
(lli _ )
 
 
 僕は一通りの指示を出して、そそくさとパトカーに乗り込んだ。
 ひとまずは、小森マサオの取調を進めるべきなのだ。
 一刻も早く、世間に、公表しなければならないのだから。
 
 連続予告殺人事件が終わったことを。
 
.

342名無しさん:2018/11/18(日) 23:31:43 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 救急車の到着と同時に、流石兄者を搬送させた。
 死亡は、していない。
 しかし一刻を争う事態であることは間違いなかった。
 
 兄者は学長が責任をもって介抱してくれていた。
 おかげで、あの数十分の間に、事尽きることはなかった。
 今頃は、輸血パックが大量に使われていることだろう。
 
 
 流石兄者以外の犠牲を出すことは、なかった。
 それは、小森マサオが 「亡霊」 に縛られていたからであった。
 
 彼は、意識を取り戻し、いま自分がパトカーのなかにいて、
 隣に自分を捕まえた男がいる状況を察し、
 とうとう、亡霊としての成仏を迎える時がきたことを知った。
 
 揺れるパトカーの車内で、ゆっくり、重い口を開いた。
 
 
(lli _ ) 「……」
 
(lli _ ) 「どうして……わかったんだ……」
 
.

343名無しさん:2018/11/18(日) 23:32:33 ID:mzQyUXV60
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 僕と話をする体力が、残っていたか。
 あるいは、成仏する前の、最後の余力なのか。
 
 煙草に火をつけ、少し開けた窓に向けて紫煙を吹き散らした。
 
 
(´・ω・`) 「亡霊の、正体を、か?」
 
(lli _ ) 「すべて……」
 
(lli _ ) 「そう……すべてだ」
 
 
(lli _ ) 「十年前の事件もそう……」
 
(lli _ ) 「亡霊が俺であること……」
       、 、、 、
(lli _ ) 「ヒッキーという名前のことも……すべて。」
 
 
.

344名無しさん:2018/11/18(日) 23:32:55 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´‐ω‐`)
 
 二口目、一気に煙草の燃焼が進んだ。
 思えば、長いロジックの道のりだった。
 
(´‐ω‐`)
 
 
(´・ω・`) 「すべての発端は、あんたの自供だ」
 
(lli _ ) 「自供…?」
 
 
(´・ω・`) 「亡霊を、山村貞子を名乗るあんたからの、電話」
 
(´・ω・`) 「あの一本の電話で、今回の事件は、姿を変えたんだ」
 
(´・ω・`) 「今回の事件は、十年前のあの日が、すべての発端だったんだぞ、と」
 
 
(´・ω・`) 「あんたが、そいつを、教えてくれた」
 
(´・ω・`) 「兄者も、デミタスも、ミセリも、みんな、隠してたんだぜ」
 
(lli _ ) 「…!」
 
.

345名無しさん:2018/11/18(日) 23:34:44 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「なぜなら、ほんとうに」
 
(´・ω・`) 「誰一人として、十年前の事故を疑う人は、いなかったから」
 
 
(´・ω・`) 「疑っていたのは、たった一人」
 
(´・ω・`) 「貞子を突き落とした真犯人たる、小森マサオ」
 
(´・ω・`) 「あんただけだ」
 
 小森マサオは、下唇を強く噛んだ。
 少し血が滲んできていた。
 
 
(lli _ ) 「でも……それもだ」
 
(lli _ ) 「当時の警察ですら、俺が犯人だったこと……」
 
(lli _ ) 「わからなかったんだぞ?」
 
(lli _ ) 「兄者も……わかるはずが、なかったんだ」
 
.

346名無しさん:2018/11/18(日) 23:35:06 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「当然だ」
 
(´・ω・`) 「誰も、墓荒らしに挑もうと思わなかったからな」
 
(lli _ ) 「あんたが……その墓荒らし、ッてわけか…」
 
 犯人が特定できない事件だった。
 
 犯人、と思い込んでいた兄者は、事件から目を背ける。
 サークルメンバーは、事件と思わないため、隠そうとする。
 警察は、証拠がなさすぎた本件を、事件と処理できなかった。
 
 巧妙に偽られた事件だった。
 全員が、隠し通そうとしてきた事件なのだ。
 墓荒らしに成功したのが、ひとつの大きな機転だった。
 
 
(lli _ ) 「嘘……なんだろ?」
 
(lli _ ) 「兄者が、自供した、ッて話……」
 
 
.

347名無しさん:2018/11/18(日) 23:36:27 ID:mzQyUXV60
 
 
 
  >
  >(´・ω・`) 「兄者が自供したさ」
  >
  >  『それはあり得ない』
  >
  >(´・ω・`) 「…!」
  >
 
 
 思えば。
 さっきは、亡霊が山村貞子だと思って話をしていたが。
 本当は、僕は、小森マサオ相手に、あの話をしていたことになるのか。
 
 奴視点だと、果たしてどんな話に聞こえたのだろうか。
 もう、あの時、なにをどう話したのかすら、おぼろげになっている。
 
 
(´・ω・`) 「ああ。 嘘だな」
 
(lli _ ) 「!」
 
(´・ω・`) 「奴がした正確な自供は、たったひとつ」
 
.

348名無しさん:2018/11/18(日) 23:37:07 ID:mzQyUXV60
 
 
 
  >
  >(´・ω・`) 「じゃあ、確実なことだけを、話せ!」
  >
  >( ::;゚_ゝ::) 「確実なのは、ヒッキーはいいやつッてことだけだ!」
  >
 
       、 、 、 、 、、 、
(´・ω・`) 「いいやつだった」
 
 
(lli _ ) 「…?」
 
 兄者は、偽りの濁流に飲み込まれていた。
 右を見ても左を見ても、なにが現実でなにが本当かわからない。
 
 窒息しかけ、溺れかけたなか、
 兄者がたったひとつだけできた、本当の証言がそれだった。
 
 
(´・ω・`) 「たったそれだけの証言があれば、十分だった」
 
(´・ω・`) 「流れるように、十年前の真実に、気が付けたよ」
 
.

349名無しさん:2018/11/18(日) 23:37:43 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「………もう、許してくれ」
 
(lli _ ) 「たちの悪い冗談だ」
 
(´・ω・`) 「いや、本当だぞ?」
 
 兄者との対決を、思い出す。
 なにかを、真実を、自分でさえも偽るのが、巧妙な男だった。
 
 
(´・ω・`) 「兄者は、あんたに完全に、騙されていた」
 
(´・ω・`) 「ずっと、自分が犯人だと思い込んでいたし」
 
(´・ω・`) 「事件を、犯人たる自分を偽ろうと、兄者自身を、偽りで支配していた」
 
(lli _ ) 「……ッ」
 
 僕自身が、衝撃だった。
 数多もの偽りを見抜いてきた僕にとっても。
 十年以上、さまざまなことを偽ってきた小森マサオにとっても。
 
 流石兄者という存在は、衝撃的な人物だった。
 おそらく、今後、僕は奴を忘れることはないだろう。
 
.

350名無しさん:2018/11/18(日) 23:38:47 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「さて」
 
(´・ω・`) 「それでも僕は、今回の真犯人が、誰なのか」
 
(´・ω・`) 「最後の最後まで、山村貞子なんだと、信じていたよ」
 
(lli _ ) 「……ほんとうか?」
 
(lli _ ) 「すべてが、嘘、偽りなんじゃないのか?」
 
 
 小森マサオも、疑心暗鬼になっている。
 猜疑心を持つことができない流石兄者と、
 疑心暗鬼になってしまった小森マサオ。
 
 本件のキーパーソンにして、対照的なふたりだ。
 
 
(´・ω・`) 「それだけ、あんたが自然に偽りを纏っていたのさ」
                、、 、 、
(´・ω・`) 「……どうして、ヒッキーの名を、あんたが使っていたんだ?」
 
.

351名無しさん:2018/11/18(日) 23:39:21 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「………」
 
(´・ω・`) 「どうせ、署につけば、何時間とかけてする質問のひとつなんだ」
 
(´・ω・`) 「先に言っといたほうが、後が楽だぜ」
 
 
(lli _ ) 「……隠すつもりは、ねえよ」
 
(lli _ ) 「大した理由でもないんだ」
 
(´・ω・`) 「ん?」
 
 大層な理由があって、名前を偽ってきたのかと思った。
 しかし、実際は、なんてことのない話だった。
 
 
(lli _ ) 「知ってるだろ?」
 
(lli _ ) 「俺は、兄者とは、ネットで知り合った」
 
(lli _ ) 「いじめられて、不登校になっててな、人間が信じられなかった」
 
.

352名無しさん:2018/11/18(日) 23:39:43 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「兄者と仲良くなって、本名を知りあう仲にまでなったのは、嬉しかったさ」
 
(lli _ ) 「兄者自身が、すげえいい奴だったし」
 
(lli _ ) 「こんな俺が、ネット上とはいえ友だちを作れたのが、嬉しかった」
 
 
(lli _ ) 「でも、それでも」
 
(lli _ ) 「当時俺は、兄者を信じることが、できなかった」
 
(´・ω・`) 「それは、いじめられたことで、か」
 
 それもある。
 小森マサオが、ちいさく言った。
 
(lli _ ) 「親も、アニキもそうだ」
 
(lli _ ) 「親は、俺が人間不信になったのを、受け入れなかった」
 
(lli _ ) 「甘ったれている、逃げるな、の一点張りよ」
 
.

353名無しさん:2018/11/18(日) 23:40:18 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「ひどい親だったのか?」
 
 聞くと、小森マサオは首を傾げた。
 そうだ、と即答しかけて、しかしその口を閉じた。
 
(lli _ ) 「アニキが、出来る男だった」
 
(lli _ ) 「運動もできる、頭もいい、ギターも弾ける」
 
(lli _ ) 「二年遅れて俺が生まれる時、おふくろの腹ンなかには、何もなかったんだよ」
 
(lli _ ) 「才能とか、恵まれたものとか、すべてな」
 
 捜査中に、わずかに引っかかっていた点。
 僕が写真で見た 「ヒッキー小森」 と、サークルメンバーが語る 「ヒッキー小森」 の差異。
 当時、まさか別人である、だなんて疑いもしなかった。
 
 
(lli _ ) 「アニキと比較される人生で」
 
(lli _ ) 「だんだん俺がインドアに、卑屈に、根暗になった」
 
(lli _ ) 「デキが悪いんだ、そりゃあいじめの標的にもなるさ」
 
 
 人は、十年もあれば変われるものだと思っていた。
 しかし、もっとそこを、疑うべきだった。
 
 確かに多くのものが変わるが、
 それ以上にもっと多くのものは、変わらないのだ。
 
.

354名無しさん:2018/11/18(日) 23:41:07 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「だから、アニキにも復讐を?」
 
(lli _ ) 「殺したのは復讐だがな」
 
(lli _ ) 「名前は、違う」
 
(lli _ ) 「あれは、本当にただの、偶然だ」
 
 小森マサオは、十何年も昔から、ヒッキー小森の名を騙った。
 それも、アウトドアサークルが創設されるよりも、ずっと昔から。
 
 
(lli _ ) 「本名の話になって、俺は」
 
(lli _ ) 「兄者に対して心を許しつつあった俺だがな」
 
(lli _ ) 「それでも、やっぱり、性分の人間不信が再発した」
 
(´・ω・`) 「…?」
 
.

355名無しさん:2018/11/18(日) 23:41:48 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「あんたにはわからんだろうがな」
 
(lli _ ) 「ネットの相手に本名を知られることほど」
 
(lli _ ) 「ネット依存の引きこもりにとって、怖ろしいことはない」
 
 ネット依存。
 はじめて出るワードだな。
 
(´・ω・`) 「でも、兄者は隠そうとしていなかったんだろう」
 
(lli _ ) 「兄者は、俺のことを信じていたからな」
 
(lli _ ) 「でも、俺は。」
 
(lli _ ) 「本名を晒す、有り体の自分を晒すことが、怖かった」
 
 
 ピンときた。
 ネット依存、とは言うが。
 要は、インターネットの世界に生きる人間だ。
 
 インターネットの世界では、現実の自分を偽ることができる。
 それこそ、ナントカネームというものが当てはまる。
 親から与えられた名前とは別の、自分の名前を、自分で名乗ることができる。
 
.

356名無しさん:2018/11/18(日) 23:42:38 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「かといって、兄者がさらけ出してくれているのに」
 
(lli _ ) 「自分だけ頑なに隠そうとするのも、奴を、拒むことになると思った」
 
(lli _ ) 「俺は、咄嗟に、アニキの名前を言ったよ」
 
(´・ω・`) 「それが、ヒッキーだった」
 
 
(lli _ ) 「まさか、あの時の、あの些細な一言が、」
 
(lli _ ) 「こうも、自分の人生を、狂わせることになるなんてな」
 
(´・ω・`) 「今回の連続殺人の、トリックのことを、言ってるのか?」
 
 連続殺人が、ここまで難航したのは、
 ひとえに、真犯人が既に殺されていたと思われたところにあった。
 
 警察が調べて、答えを出していたのだ。
  「ヒッキー小森」 は、殺されている、と。
 
.

357名無しさん:2018/11/18(日) 23:43:04 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「違う」
 
(lli _ ) 「……考えても見ろ」
 
(lli _ ) 「サークルで、いろんな人と仲良くなれたッてのに」
 
 
(lli _ ) 「誰一人として、俺の」
 
(lli _ ) 「小森マサオという本名を、誰一人、呼んでくれなかったんだ」
 
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 孤独な人生を送ってきた、境遇。
 大学の年頃になって、ようやく掴めた、友人達との楽しい日々。
 
 しかし、その日々を過ごしたのは、ほんとうの自分ではない。
 偽りを纏った、ヒッキー小森という男だったのだ。
 
 
(lli _ ) 「俺は毎日、毎日、ずっと、後悔してたよ」
 
(lli _ ) 「まさか、今更になって、ヒッキーってのは偽名だ、なんて言えない」
 
(lli _ ) 「………どうして、こうもいい奴らばっかなのに、俺は、警戒したんだ」
 
(lli _ ) 「……毎日、後悔し続けていたさ」
 
.

358名無しさん:2018/11/18(日) 23:43:24 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「でも、どこかでバレても、おかしくはなかったろ」
 
(lli _ ) 「俺も、思っていた」
 
(lli _ ) 「バレそうになったら、いっそ開き直って」
 
(lli _ ) 「多少変な奴と思われてでも、ほんとうの自分を、知ってもらおうッてな」
 
 
(lli _ ) 「たぶん、同じ大学だったら、自然に明かせただろう」
 
(lli _ ) 「でも、俺は、俺だけは、仲間外れだったんだ」
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 事件の捜査をはじめたあの日から、ずっと浮いていた、謎。
 ヒッキー小森だけ、アルプスの、人間である。
 
 ここにきて、内臓に重く圧し掛かってきた。
 あの時点で既に、ある種の疑念を、持つべきだったというのか。
 
.

359名無しさん:2018/11/18(日) 23:44:01 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「アルプス学院大学、だったかな」
 
(lli _ ) 「それは、アニキだ」
 
(lli _ ) 「俺は……大学どころか、高校すら、出てねえよ」
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 言われてみれば。
 ヒッキー小森という男の略歴はとにかく洗ったものの。
 小森マサオという、弟については、ほとんど調べられていなかった。
 
 
(lli _ ) 「当時は、免許もなかった」
 
(lli _ ) 「自分を、自分だと証明するものなんて、保険証くらいだ」
 
(lli _ ) 「……ヒッキーっつー偽名が、バレることなんてなかったんだ」
 
(´・ω・`) 「………そういうことだったんだな」
 
.

360名無しさん:2018/11/18(日) 23:44:29 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 名前を偽り続けるのは、到底無理な話だろう。
 しかし、小森マサオについては、例外と言えた。
 
 もとが、ただ遊ぶだけの集まり。
 誰も小森マサオの名前を疑うことはないし、
 学生証すらなかったのだから、メンバーは彼をヒッキー小森と信じるしかなかった。
 
(lli _ ) 「……刑事サンも、聞いたろ」
 
(lli _ ) 「俺がパトカーに乗る時の、デミやんの……」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 デミタスが、連行される小森マサオを見送る時。
 別れの言葉なんてなかったが、一言だけ、奴は言葉を発した。
 
  「ヒッキー」 と。
 切なげに、複雑そうに、言ったのだ。
 
 
(lli _ ) 「………俺の失態は、ひとつだけだ」
 
(lli _ ) 「亡霊を名乗ったことでも、貞子の名前を使ったことでも」
 
(lli _ ) 「殺人犯になっちまったことでも、あんたに喧嘩を売ったことでもない」
 
.

361名無しさん:2018/11/18(日) 23:44:56 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「名前を、隠してきたこと」
 
(lli _ ) 「刑事サンの言葉を借りて言うなら……」
 
(lli _ ) 「気の置けない相手にすら、偽りの自分を演じてきたこと」
 
 
(lli _ ) 「その、ひとつだけ、だ」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 今回の事件で、ふたり。
 僕は、自身で作り上げた偽りに支配されてしまった人間を、知った。
 
 世を生きる大多数の人間は、
 自身の人生を大きく狂わせる偽りとは無縁の生活を送っているというのに。
 
 
(´・ω・`) 「……懺悔は、牢獄のなかだ」
 
(´・ω・`) 「もっとも、四人も殺して、どうなるかはわからないけどな」
 
(lli _ ) 「…………。」
 
.

362名無しさん:2018/11/18(日) 23:46:13 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「そんなことはいいんだ」
 
 二本目に火をつけた。
 無性に喉が渇いた。
 
 署についたら、まずはとびっきり苦い、ブラックを飲もう。
 ミルクの入ってない、喉に絡みついてこない、澄んだブラックを。
 
 
(´・ω・`) 「疲れたろ」
 
(´・ω・`) 「僕も疲れたんだ、少しでも取調の時間、減らそうぜ」
 
(lli _ ) 「………」
 
 単なる誘導だ。
 事件の骨格が語られないことには、事件は完全には終わらない。
 半ば同情を挟むように、真相を語らせるように仕向ける。
 
 しかし。
 小森マサオは、もう抵抗しようとはしていなかった。
 偽りが剥がれた人間は、それまでとは一転、脆くなるものなのだ。
 
.

363名無しさん:2018/11/18(日) 23:46:59 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「そもそも」
 
(´・ω・`) 「どうして……連続殺人をしようだなんて思ったんだ」
 
(lli _ ) 「……」
 
 解決したように見えて、根本的に謎のままだったポイント。
 亡霊が山村貞子だったなら、それは 「目覚めたからこその復讐」 と捉えられた。
 
 しかし、亡霊が小森マサオだった場合。
 謎は、再び謎に帰してしまうことになる。
 
 
(lli _ ) 「……」
 
(lli _ ) 「貞子が」
 
(´・ω・`) 「?」
 
 
 
(lli _ ) 「貞子が、目覚める、ッて話を聞いたんだ」
 
 
.

364名無しさん:2018/11/18(日) 23:47:26 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 どういうことだ。
 小森マサオは、貞子の 「その後」 を、知り得たのか。
 
 
(lli _ ) 「ほんとうに、きっかけは偶然だった」
 
(lli _ ) 「そもそも、貞子のことは、十年前以降」
 
(lli _ ) 「一切、知ろうとすら、しなかった」
 
 
(lli _ ) 「ギコ、いたろ」
 
(lli _ ) 「びっぷ整骨院」
 
(lli _ ) 「あそこで再会してさ」
 
.

365名無しさん:2018/11/18(日) 23:48:09 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「それは、いつのことだい?」
 
(´・ω・`) 「そもそも……あんたは、アルプスの人間じゃないのか?」
 
(lli _ ) 「俺は、ヴィップ大学で、働いてたんだ」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 初耳だな。
 そういえば、そうか。
 亡霊は、どうして最後に、ヴィップ大学を舞台にしたのか。
 
 疑うまでもなく、その殺人に、ドラマを。
 十年間の清算を、という意味が込められていたのだと思った。
 
 しかし、それを聞けば、見方はたちまち変わる。
 いつぞやに僕が担当した事件と、一緒だ。
  、 、
 根城だったんだ。
 
 
(lli _ ) 「ほんとうに、たまたまだった」
 
(lli _ ) 「ギコは、俺を見て、一瞬、固まった」
 
(lli _ ) 「で、すげえ笑顔になって……」
 
.

366名無しさん:2018/11/18(日) 23:48:31 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「そもそも、整体に行こうと思わなかったら、事件すらなかったわけだ」
 
(lli _ ) 「……思えば」
 
(lli _ ) 「これも、兄者の影響だよ」
 
(´・ω・`) 「兄者?」
 
 
(lli _ ) 「兄者は、俺に、いろんなことを教えてくれた」
 
(lli _ ) 「鑑賞の楽しさ、とか」
 
(lli _ ) 「そんな、今までの俺が決して味わうことのなかった、楽しさ」
 
(lli _ ) 「自分の知らない楽しさを見つける趣味を、やつは、教えてくれた」
 
 十年前、小森マサオは、紅葉狩りを 「見るだけ」 と一笑に付していた。
 しかし、兄者の思いが、十年の歳月を経て、彼に届いたのだ。
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、整体も、単に」
 
(lli _ ) 「疲れたし、そういや、整体とかあるんだな、ッて」
 
(lli _ ) 「掛かったことないし、せっかくだから、受けてみようかな、てさ」
 
(lli _ ) 「………兄者の影響が、見えないところで、ほんとうに地味に、あった」
 
.

367名無しさん:2018/11/18(日) 23:49:00 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「そしたら、ギコがいて……驚いたよ」
 
(lli _ ) 「そりゃあ、昔話に花が咲くさ」
 
(lli _ ) 「で、飲もう、飲もう、ッてな」
 
(´・ω・`) 「でも、あんたらの間に、連絡手段はほぼなかったんじゃ?」
 
 事件に眠る、大きな謎。
 すなわち、サークルメンバー間における、連絡手段のなさ。
 
 
(lli _ ) 「なんでもな」
 
(lli _ ) 「クックルもちょっと前に、ギコの店に来たらしくて」
 
(lli _ ) 「飲みの約束をしてたらしいんだ」
 
(´・ω・`) 「連絡手段を交換していなかったのに?」
 
(lli _ ) 「それは知らんよ」
 
(lli _ ) 「単純に、日付と待ち合わせだけ決めといて、忘れてたんだろうよ」
 
.

368名無しさん:2018/11/18(日) 23:49:44 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「なるほど」
 
(´・ω・`) 「で、それに誘われたわけなんだな」
 
(lli _ ) 「悪い気分ではなかった」
 
(lli _ ) 「人生で、友だちと過ごした、一番濃い日々だったからな」
 
 整体師になったフッサール擬古。
 警備員になったクックル三階堂。
 大学スタッフになった小森マサオ。
 
 十年間という、昔話に満開の花を咲かせられるだけの時間はあった。
 小森マサオにとっても、嬉しい誘いだったと言えるだろう。
 
 
(lli _ ) 「明日の七時に駅前な、ッてよ」
 
(lli _ ) 「俺もうっかり、連絡先なんて交換し忘れたよ」
 
(lli _ ) 「ああ、忘れるもんなんだなッて」
 
.

369名無しさん:2018/11/18(日) 23:50:26 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「で、飲みは、あったんだ」
 
(lli _ ) 「昔話で、むっちゃくちゃ、盛り上がった」
 
(lli _ ) 「……ここ最近で、一番、楽しかった瞬間だ」
 
 昔の知り合いと酌み交わす酒は、この上なく美味い。
 僕も、後始末がひと段落したら、酒を飲みたい相手が何人もいるのだ。
 
 
(lli _ ) 「………その時に、貞子の話を聞いたんだ」
 
(´・ω・`) 「…ッ」
 
 
 山村貞子は、鷺宮とかいう老夫婦に引き取られたらしい。
 その仲介人となったのが、フッサール擬古だった。
 
.

370名無しさん:2018/11/18(日) 23:51:13 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「大切な話を忘れてた、と」
 
(lli _ ) 「聞いて驚け、貞子が、目を覚ますかもしれねえぞ、と」
 
 これは、あくまでクックルのような、
 後ろ暗いことを抱えていないメンバーなら、喜ばしいニュースだ。
 その話だけで日本酒を一合、飲めることだろう。
 
 しかし。
 視点を変えて、小森マサオに移してみると、どうだろう。
 山村貞子は、自分が殺そうとした相手なのだ。
 
 そして、貞子が眠り続けていたから、十年前の事故が、再浮上することはなかった。
 小森マサオにとっては、貞子の目覚めは、
 十年前の清算を突き付けられることに同義だった。
 
 
(lli _ ) 「俺は、一気に酔いが覚めたよ」
 
(lli _ ) 「崖下に落とした時の景色が、フラッシュバックした」
 
(lli _ ) 「そんなこと知らないふたりは、一瞬で盛り上がってな」
 
.

371名無しさん:2018/11/18(日) 23:52:04 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「目を覚ます、ッてのは」
 
(lli _ ) 「よくわかんねえけど、前兆が見られたんだと」
 
(lli _ ) 「で、俺は……」
 
(´・ω・`) 「貞子に目覚められるわけには、いかなかった」
 
(´・ω・`) 「貞子が目覚める前に、サークルを抹殺しよう、と思った」
 
(lli _ ) 「……」
 
 だとすると、妙なのが、貞子は落とされる時、気絶していた点だ。
 本来ならば、兄者に突き落とされた、と錯覚するのではないのか。
 
 
(´・ω・`) 「でも」
 
(´・ω・`) 「僕の推理が正しければ、貞子は、気絶していたはずだ」
 
(lli _ ) 「………」
 
.

372名無しさん:2018/11/18(日) 23:52:31 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「貞子は……」
 
(lli _ ) 「………」
 
 
(lli _ ) 「俺が突き落とした、瞬間」
 
(lli _ ) 「目を、覚ましたんだ」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 
 
(lli _ ) 「何があったのか、わからないという顔」
 
(lli _ ) 「とにかく、怯えきった、目」
 
(lli _ ) 「………その時には、もう、遅かった」
 
 
(lli _ ) 「貞子は、だんだんと、落ちていったんだ」
 
.

373名無しさん:2018/11/18(日) 23:53:03 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「頭から、離れないんだ」
 
(lli _ ) 「あの時の、貞子の、目が」
 
(lli _ ) 「俺を、俺の人生を、縛りつけている」
 
 
(lli _ ) 「今でも……今でもッ!」
 
(lli _ ) 「飲みで、貞子のことを聞かされた時も、金縛りにあったさ!」
 
(lli _ ) 「貞子は、貞子だけは、俺のことを知っていたんだ!」
 
 
 連続予告殺人の、本当の動機。
 唯一、己の偽りを見抜く存在の、目覚め。
 
 それは、小森マサオにとっては、
 それだけはあってはならないことだった。
 
.

374名無しさん:2018/11/18(日) 23:53:55 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、兄者やデミタスを差し置いて」
 
(´・ω・`) 「ギコやクックルから、殺したのは」
 
(lli _ ) 「先に、事実を知る連中を殺す必要が、あったんだ」
 
 合点がいった。
 特に、最初にフッサール擬古が殺されたのは、もはや必然だったのだ。
 
 十年前と現在をつなぐ、唯一の存在。
 そして、それを十年前の真犯人の前で、話してしまった。
 
 
(´・ω・`) 「………」
 
(´・ω・`) 「ギコを、どうやって殺したんだ?」
 
(lli _ ) 「……」
 
.

375名無しさん:2018/11/18(日) 23:54:33 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 地下鉄殺人の、謎。
 犯人が乗っていなかったという、大きな一点。
 
 捜査当時、小森マサオという人物の顔、名前は、一切なかった。
 また、亡霊の登場で、犯人は山村貞子、
 すなわち女性だ、と錯覚させられていた。
 
 そのため、現場には犯人がいなかった、という謎が残されていた。
 小森マサオが犯人とわかった今、
 その情報をもとに監視カメラを洗えば、
 存外容易く、奴を炙り出すことができるだろう。
 
 
(lli _ ) 「………最初は」
 
(lli _ ) 「行き当たりばったり、だった」
 
(lli _ ) 「ただ、飲みの時に、ギコの予定は聞いていたからな」
 
(´・ω・`) 「……ふむ」
 
.

376名無しさん:2018/11/18(日) 23:55:19 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 ギコ、もっというとクックルもだ。
 この二人と、どう連絡をとっていたか、は解決した。
 
 ただひとつ問題があるのは、
 地下鉄殺人は、予告のもと行われたところにある。
 
(´・ω・`) 「それで、予定に合わせて、予告を?」
 
(lli _ ) 「………」
 
(´・ω・`) 「どうして、予告ッつー手段を取ったんだ」
 
(lli _ ) 「………」
 
 
 
 
(lli _ ) 「あれは」
 
(lli _ ) 「ほんとうは、貞子を殺すつもりだったんだ」
 
 
.

377名無しさん:2018/11/18(日) 23:56:01 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 まったく、予想していなかった。
 といったところで、ひとつ思い出した。
 
 ヒッキー小森以外全員、名指しの予告は、なかったのだ。
 
(lli _ ) 「ギコの予定ッて聞いてさ」
 
(lli _ ) 「そんで、貞子が目覚めるかも……」
 
(lli _ ) 「ッて話まで、聞いてたんだ」
 
 
(lli _ ) 「………貞子の迎えだと思ったんだよ」
 
 連続予告殺人は、小森マサオの想定の範疇においては、
 あくまで一件目、地下鉄殺人で終わっていたのだ。
 
 
(lli _ ) 「ただ、貞子は、いなかった」
 
(´・ω・`) 「……ああ」
 
 納得した。
 ヒッキー小森が名指しで殺害された理由。
 そもそも、ヒッキー小森、すなわち兄が殺害された理由。
 
 予告殺人を、続行する必要が生まれたからだ。
 
.

378名無しさん:2018/11/18(日) 23:56:22 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「ギコを、殺した」
 
(lli _ ) 「しかも、うまく逃げ出せた」
 
(lli _ ) 「ただ……それだけだったら、一瞬で俺が、捕まる気がした」
 
 
(lli _ ) 「予告状も……肉筆だったからな」
 
(´・ω・`) 「……筆跡か」
 
 
  >
  >(;´・ω・`) 「なら……筆跡だ!」
  >
  >(;´・ω・`) 「事件は、はがきで予告が出されていた」
  >
  >(;´・ω・`) 「それも、肉筆で……」
  >
  > 言いかけたところで、亡霊が笑った。
  >
  >  『無駄ですよ』
  >
  >(;´・ω・`) 「なんだと!?」
  >
 
 
.

379名無しさん:2018/11/18(日) 23:56:42 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「結果論で言えば、確かに」
 
(´・ω・`) 「小森マサオという人物は、完全に、ノーマークだった」
 
 そこが、急所だった。
 当時の集合写真なんかがあれば、話は別だっただろう。
 しかし、当事者たる小森マサオは、そんなものがなかったのを知っていた。
 
 そのため、こちらから顔写真を見せる以外で、
 ヒッキー小森と小森マサオのつながりを炙り出すことができなかった。
 
 そうなれば、どこを洗っても、殺人予告の筆跡は追えなくなるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「だから、かえって肉筆のほうが都合がよかったとは思う」
 
(´・ω・`) 「ただ……」
 
 しかし、一件目の時点では、そもそも連続殺人は予定されていなかった。
 大層なトリックをも持って臨んだ犯行ではなかったのだ、
 となると当時小森マサオは、どうして肉筆だったのだろうか。
 
.

380名無しさん:2018/11/18(日) 23:57:25 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「どうしてあんたは、」
 
(´・ω・`) 「予告状を……肉筆で送ったんだ?」
 
(lli _ ) 「………ああ」
 
         、 、、、
(lli _ ) 「イタズラと思われたかったんだよ」
 
(´・ω・`) 「なに?」
 
 
(lli _ ) 「もっというと、だ」
 
(lli _ ) 「貞子を足止めして……」
 
(lli _ ) 「かつ、それが公表されないように、したかった」
 
.

381名無しさん:2018/11/18(日) 23:57:51 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「このご時世に、ご丁寧に肉筆で予告出すバカはいねぜ」
 
(lli _ ) 「ただ、それでも内密に、警戒してくれるとは思った」
 
(´・ω・`) 「………ふむ」
 
 貞子を確実に殺すために、電車の機能を一時止めたかった。
 一方で、出来すぎた予告状だと、完全に警戒されてしまう。
 
 その手段が、肉筆だった、というのか。
 
(lli _ ) 「爆弾、とか言ったら、調べられてしまい、だからな」
 
(lli _ ) 「ほら……昔、あったろ。 オオカミ鉄道の」
 
(´・ω・`) 「シベリアの橋に、爆弾が仕掛けられたやつか」
 
 
 何年前だったか。
 シベリアの某所、とある大橋に、爆弾が仕掛けられる事件があった。
 管轄こそシベリア県警であるものの、マスメディアの目は我々、ヴィップ県警に向いていた。
 
 僕が担当していた事件だったのだ。
 
.

382名無しさん:2018/11/18(日) 23:58:26 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「あれで……爆弾に対する、警戒が、強まった」
 
(lli _ ) 「イタズラと思われたかったが、本当に狂言だとバレちゃあだめだったんだ」
 
(´・ω・`) 「………なるほどなァ」
 
 あの一件は、さまざまなメディアに、広く取り上げられた。
 ヴィップ、シベリアを超え、それこそアルプスにも広まっている。
 
 オオカミ鉄道はもちろん、国内最大手の鉄道会社からはじまり、
 各地方の市営地下鉄も、爆弾をより、警戒するようになったものだ。
 
 
(lli _ ) 「だから、一番ストレートな、殺人予告にしたんだ」
 
(lli _ ) 「実際に殺すまで、イタズラかどうかわかんねえからな」
 
(´・ω・`) 「そしてそれが、成功しちまった」
 
.

383名無しさん:2018/11/18(日) 23:59:13 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「筆跡鑑定……だっけ?」
 
(lli _ ) 「それをされる時点で、疑われてる、ッてことだ」
 
(lli _ ) 「俺ンとこまで警察が来る時点で、もう、終わりだからな」
 
 
(lli _ ) 「だから正直なところ、筆跡に関して不安はなかった」
 
(lli _ ) 「結果として、どさぐさに紛れて逃げられたんだから、なおさらな」
 
 となると、いよいよ問題は、警察の動きだ。
 一件目、二件目において、警察は大々的な動きを見せなかった。
 
 さっさと上まで、回すべきだったんだ。
 事件をすべて公表した時、僕はしばらく、マスメディアの飯の種にされるだろう。
 
 だが、甘んじて受け入れるしかなさそうだ。
 シベリア爆弾騒動がきっかけで、昨今鉄道会社の爆弾対策は強化されたのだ。
 きっと、殺人予告に対する警戒も、いっそう強まることだろう。
 そう信じて。
 
.

384名無しさん:2018/11/19(月) 00:00:11 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「練り込まなかった一件目が、成功した」
 
(´・ω・`) 「そして、サークル抹殺の連続殺人を閃いた」
 
(´・ω・`) 「だから、次にヒッキー小森を……」
 
          、 、
(´・ω・`) 「自分を、殺したんだ」
 
(´・ω・`) 「完全なアリバイを、つくるために」
 
 
 小森マサオは、ちいさく、自嘲するように笑った。
 
(lli _ ) 「皮肉な話だ」
 
(lli _ ) 「自分を苦しめてきた、偽名を使ってきたことが、まさか」
 
(lli _ ) 「アリバイに使える、なんて、さ」
 
(lli _ ) 「閃いたんだよ。 アニキを殺せばいい、ッて」
 
.

385名無しさん:2018/11/19(月) 00:01:03 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「もとより、アニキとは、仲が悪かった」
 
(lli _ ) 「もっと言うと、恨みが、多かった」
 
 確かに、弟たる、小森マサオなら。
 ビジネスホテル殺人事件のあらゆる謎を、解決できる。
 
 アレルギーは、家族なら、知っていて当然。
 仕事のことも知っているし、出張を知るのも難しくない。
 
 連絡先もむろん知っているだろうし、
 なんならヒッキー小森の通話履歴から、家族の線は省かれていた。
 
 
(´・ω・`) 「閃いたんだな」
 
(´・ω・`) 「亡霊を騙った、連続殺人を」
 
(lli _ ) 「………」
 
.

386名無しさん:2018/11/19(月) 00:01:49 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「ただ、そうなった場合」
 
(lli _ ) 「どうやって、亡霊……が」
 
(lli _ ) 「ヒッキー小森を殺すか、が難しくなってな」
 
 
(lli _ ) 「もともと、俺を特定されないように用意してたんだ」
 
(lli _ ) 「IP電話をかけるための、予備の、格安スマホをな」
 
 050番号は、たびたび話題になった。
 ギコ、クックルに050番号がなかったのは、彼らの会合が事の発端だったから。
 そしてそのIP電話は、想像以上に使えることがわかったのだろう。
 
 身分を特定されない、というのは、この上ない武器なのだ。
 それは、名前すら特定されてこなかった小森マサオだからこそ、よりわかる話だ。
 
 
(lli _ ) 「あくまで、俺は弟だ」
 
(lli _ ) 「アニキが薬を飲んでることも、ピーナッツのことも知ってるし」
 
(lli _ ) 「当日にちゃっかり会って、しれっとそいつを盛るのも、簡単だったんだ」
 
.

387名無しさん:2018/11/19(月) 00:02:39 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「アニキを殺すことで、」
 
(lli _ ) 「サークルを抹殺する、ということ」
 
(lli _ ) 「自分を容疑者から外すこと」
 
(lli _ ) 「そして……知名度を上げることが、できた」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 
(lli _ ) 「知名度があったから、サークルメンバーは、抹殺に気づくことができる」
 
(lli _ ) 「だからこそ、クックルも、楽だったよ」
 
 
(lli _ ) 「クックルは、飲みの時、言ってたんだ」
 
(lli _ ) 「渋沢栄吉のライブも、警備に行くぜ、ッてことをな」
 
(´・ω・`) 「……そうか」
 
.

388名無しさん:2018/11/19(月) 00:03:36 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 さまざまな謎が、一貫してくる。
 答えがわかりさえすれば簡単だった話なのだ。
 
 フッサール擬古が渋沢栄吉のサイトに残したIPアドレスにも、説明がつく。
 もっというと、亡霊がクックル三階堂を殺害できたのも、合理的となる。
 
(lli _ ) 「それで、いざ予告をして、さ」
 
(lli _ ) 「現地に行ったら、クックルはすぐに、見つかった」
 
 
(lli _ ) 「そもそも」
 
(lli _ ) 「俺は、殺されたはずなんだ」
 
(lli _ ) 「だというのに、目の前に、俺がいる」
 
 
(lli _ ) 「……クックルは自分から、こっちに来てくれたぜ」
 
 兄者は、ヒッキー小森からの電話に、仰天した。
 そして、警察を振り切ってでも、
 自分が殺されるかもしれないというのに、ヒッキー小森を、優先した。
 
 まったく同じ作用が、クックルにも、働いたのだ。
 
.

389名無しさん:2018/11/19(月) 00:04:15 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「……じゃあ」
 
(´・ω・`) 「もとから、クックルの警戒は、薄かったわけだ」
 
(lli _ ) 「そうだ」
 
 となると気になってくるのは、例の予告の、違和感。
 あれは、小森マサオの作戦では、なかったのか?
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、あれはなんだったんだ」
 
(´・ω・`) 「……観客を、殺す。 ッてやつ」
 
(lli _ ) 「………」
 
(´・ω・`) 「あれは、クックルに、自分が標的じゃない」
 
(´・ω・`) 「そう思わせるため、じゃなかったのか?」
 
 
(lli _ ) 「……」
 
(lli _ ) 「あれも……保険だよ」
 
.

390名無しさん:2018/11/19(月) 00:04:36 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「保険?」
 
(lli _ ) 「言ったろ」
 
(lli _ ) 「奴は、飲みで、警備の、ライブのことを言ってたんだ」
 
 
(lli _ ) 「ひょっとすると、俺とギコ以外にも、言ってるかもしれない」
 
(lli _ ) 「そう思って、観客、ッて書いたんだ」
 
 一件目のフッサール擬古の時と、似たような話だったのか。
 僕たちはずっと、ミスディレクションだと踏んでいた。
 
 だが、それすら、事件に自らかけてしまった霧だった、というのだ。
 
 
(´・ω・`) 「実際のところ、どうだったんだ」
 
(lli _ ) 「奴が言ってたぜ」
 
(lli _ ) 「俺とギコしか知らなかった、ッてな」
 
(lli _ ) 「だから……結果、殺されたのはクックルだけだった」
 
(lli _ ) 「それだけの話よ」
 
(´・ω・`) 「………。」
 
.

391名無しさん:2018/11/19(月) 00:05:23 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「抵抗は、なかったのか」
 
(lli _ ) 「あったさ。 あったよ!」
 
(´・ω・`) 「なら!」
 
(lli _ ) 「でも……どうしようもなかった!」
 
 それまで穏やかだった車内に、
 一瞬の感情の荒波が一斉に押し寄せてきた。
 
 
(lli _ ) 「後には、引けなかった!」
 
(lli _ ) 「殺しても、殺さなくても、だめだった!」
 
(lli _ ) 「どのみち、俺は十年前に、貞子を突き落としたんだから!」
 
(´・ω・`) 「ッ…」
 
 
(lli _ ) 「………」
 
(lli _ ) 「言い訳は……しないさ」
 
(lli _ ) 「…………。」
 
.

392名無しさん:2018/11/19(月) 00:06:25 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「クックルを殺したら、次だ」
 
(lli _ ) 「ミセリと結婚してることがわかってたからな」
 
(lli _ ) 「連絡先も、クックルのスマホを調べりゃ、一発だった」
 
 
(lli _ ) 「そこで、例の格安スマホが役立った」
 
(´・ω・`) 「だろうな」
 
(lli _ ) 「でも、まさか、あんなすぐに警察に嗅ぎつかれるなんて……」
 
(lli _ ) 「通報されるわけがない、ッて踏んでたのに」
 
 そうか。
 小森マサオは、知らないのか。
 
 そこに重なった、偶然というか、必然というか。
 ある種、亡霊にとっての、弱点。
 
 
(´・ω・`) 「そりゃあそうさ」
 
(´・ω・`) 「彼女は、一切、警察に通報なんて、しなかった」
 
.

393名無しさん:2018/11/19(月) 00:06:45 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「……?」
 
(´・ω・`) 「その時はな」
 
(´・ω・`) 「僕が、隣に、いたんだ」
 
(lli _ ) 「………?」
 
 
(lli _ ) 「なんだって……?」
 
(´・ω・`) 「だから、すぐに対応できたんだ」
 
 芋づる式に、さまざまな情報が、噛み合っていく。
 そもそも、どうして、亡霊はボイスチェンジャーを使ったのか。
 
 最初の見解は、声から特定されないため。
 続けて、サークル抹殺という説が出てからは、外部犯の可能性の示唆。
 兄者、デミタスしか残ってないのに、という意味もこめて。
 
 亡霊、という存在が浮上してからは、ふたつの説が浮かんだ。
 ひとつは、先ほどの 「外部犯」 の範疇に、収まるため。
 もうひとつは、転落で喉に支障をきたしたという、亡霊の演出。
 
 
 最終的には、すべてが違った。
 偽りの亡霊を、演じるためだったから。
 
.

394名無しさん:2018/11/19(月) 00:07:14 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「でも、出し抜かれた」
 
(lli _ ) 「嫌な予感がしたんだ」
 
(lli _ ) 「あくまで保険として打った策だったけどな……」
 
 
(lli _ ) 「嫌な予感は、的中した」
 
(lli _ ) 「逃げ出すのすら、苦労したよ」
 
 現場には、ぎょろ目が早くからついていた。
 ぎょろ目に現場を捜査されることほど、犯人にとって厳しいことはないだろう。
 小森マサオにとっての幸運は、ぎょろ目に勘付かれる前に犯行を終えたことだった。
 
 
(lli _ ) 「ここまで四人殺して、問題があった」
 
(lli _ ) 「デミやんの行方が、追えなかった」
 
.

395名無しさん:2018/11/19(月) 00:09:04 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「兄者の連絡先は知っていたが……」
 
(lli _ ) 「兄者は、最後に殺さないといけなかった」
 
 
(lli _ ) 「だから、あんたを利用したんだ」
 
(´・ω・`) 「僕の名刺がなかったら、どうするつもりだったんだ」
        、 、
(lli _ ) 「予告を利用したさ」
 
(lli _ ) 「方法は……考えてなかったけどな」
 
 
 小森マサオは、僕がミセリに渡した名刺を見て、次なる殺人を思いついた。
 まず、亡霊を名乗り、十年前の事故を示唆する。
 
 そうすることで、ヒッキー小森が殺されたことと、
 山村貞子が十年前に眠ったこと、
 ふたつの事実が、小森マサオという人物に完全たるアリバイを与える。
 
 
(lli _ ) 「……まさか」
 
(lli _ ) 「それが原因で、捕まる……なんて……」
 
.

396名無しさん:2018/11/19(月) 00:09:25 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
( ´・ω・)y-
 
 小森マサオは、当時の虚勢はいずこへ。
 僕を前に、完全敗北を喫していた。
 
 事件の解決、という点ではいいが。
 ほんとうにこれで、全ての謎は、解決したのだろうか。
 
 
( ´・ω・)y-
 
( ´・ω・) 「そういえば」
 
(lli _ ) 「…なんだよ」
 
 
(´・ω・`) 「十年前」
 
(lli _ ) 「!」
 
.

397名無しさん:2018/11/19(月) 00:10:23 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「貞子は突き落とされ、兄者が犯人に仕立て上げられたわけだが」
 
(´・ω・`) 「どうして、あんたは、そんなことをしたんだ」
 
(lli _ ) 「……」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 
(´・ω・`) 「これは」
 
(´・ω・`) 「僕の、完全な推測なんだけど、聞いてくれるか?」
 
(lli _ )
 
(lli _ ) 「聞くだけなら、な」
 
 
 そうか。
 一言ちいさく呟いて、煙草の火を消した。
 
.

398名無しさん:2018/11/19(月) 00:12:32 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「三角関係だ」
 
(´・ω・`) 「あんたは、山村貞子に、恋心か、それに近しい感情を持っていた」
 
(´・ω・`) 「そしてそれは、貞子も気づいていた可能性がある」
 
 
(´・ω・`) 「しかし、貞子からのそんな感情は、兄者に向けられていた」
 
(´・ω・`) 「貞子とあんたは、コテージで、二人きりだった時間があったろ」
 
(´・ω・`) 「その時に、なにか決定打となる会話か何かが、あったと思う」
 
 
(´・ω・`) 「それを彼女は、兄者に、相談した」
 
(´・ω・`) 「そして、自分の気持ちを、兄者に言おうとしたんじゃないのか?」
 
(´・ω・`) 「不運にも、体勢を崩して、ふたりは転落を危惧したわけだ」
 
.

399名無しさん:2018/11/19(月) 00:12:52 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「………。」
 
 小森マサオは、黙って耳を傾けている。
 連続予告殺人に関しては、完結しているのだ。
 動機から、手口に、至るまで。
 
 だから、特定する必要はない。
 ただ、個人的に、気になる部分ではあった。
 
 
(´・ω・`) 「でなければ」
 
(´・ω・`) 「あんたが、兄者を犯人に仕立てる必要がない」
 
(´・ω・`) 「大切な友だちだった兄者を、だ」
 
 
(lli _ ) 「……。」
 
 
.

400名無しさん:2018/11/19(月) 00:14:01 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
( ´‐ω‐) 「なんでもいいけど、さ」
  っ ’・
 
( ´・ω・) 「兄者は、生きている」
 
( ´・ω・) 「兄者からも、あんたに言いたいことが、たくさんあるはずなんだ」
 
 
( ´・ω・)y- 「成仏する前に、ありったけの昔話、しろよな」
 
(lli _ ) 「………。」
 
(lli _ )
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

401名無しさん:2018/11/19(月) 00:15:11 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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