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(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです <解決編>
1
:
◆wPvTfIHSQ6
:2018/10/30(火) 21:14:46 ID:MoF6Jpjw0
▼前スレ
(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1534955891/904
▼まとめのイケメンブーン芸神
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIV.htm
▼シリーズ過去作
(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです+α
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwari.htm
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです+α
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariII.htm
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIII.htm
あと九幕、十幕、終幕で完結です
ハードディスクが壊れさえしなければ
こっから解決ラッシュが始まるから未読は開いちゃダメゼッタイ
202
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:14:27 ID:0on9OJjc0
僕の暫定的なプランは、
犯人の指示を受けたうえで、犯人がどこから何を企んでいるのかを、見抜く。
亡霊のことだ、無理心中すら厭わない可能性も捨てきれない。
指示された場所に、ふたりを連れていく最中に、
後ろから特攻されるわけにはいかない。
となると、猶予は、数分。
もっと言うと、電話を切るまでの間。
特定しようとしているのを察知されないよう、自然に。
足音を殺して、数分で即座に、答えを出すのだ。
今まで扱ってきた事件のなかでも、難度の高い条件だが。
やるしかない。
(´・ω・`) 「見た目は、詳しくはわからない」
(´・ω・`) 「ただ、細い、不健康そうな女性ッてイメージだ」
(゚、゚トソン 「細い……もなにも」
(゚、゚トソン 「……おばちゃん、ではないんですよね?」
(´・ω・`) 「歳は、三十ほど」
(´・ω・`) 「老け顔、かはさて置いて、見るからに三十代でなかったら除外だ」
.
203
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:15:05 ID:0on9OJjc0
十年ぶりの起床を遂げた亡霊が、
現在どんな容姿になっているかは想像すらできない。
事が事だ、異常に老けているかもしれない。
ただ、痩せていることには違いないだろう。
筋肉は衰弱しているはずなのだ。
(゚、゚トソン 「それは……見てないですね」
(゚、゚トソン 「スーツ着た、五十代くらいの恰幅のいい女性はひとり、見ましたが」
(゚、゚トソン 「見たことがあります、たぶん人事の人です」
(´・ω・`) 「その人は違うね」
実際誰かはわからないけど、あらゆる条件が噛み合っていない。
なるほど、しれっと騒動に紛れている線は薄いか。
(´・ω・`) 「…!」
ついに来た。
050電話。 亡霊からのいざない。
思わず僕は音を立てて立ち上がった。
.
204
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:15:25 ID:0on9OJjc0
(゚、゚トソン 「…!」
声のトーンを落とし、ゆっくり扉のほうへ向かう。
時刻は十時二八分。
結構な遅刻だ、事情があったのだろうか。
(´・ω・`) 「……僕だ」
『おはようござます。 ショボーン警部』
(´・ω・`) 「生憎だけど、犯罪者に朝の挨拶はしないことにしてるんだ」
『犯罪者?』
亡霊がクスクス笑う。
機械を通したかのような声だ。
しかし今思えば、転落の兼ね合いで、声帯を潰した可能性もあるのか。
それとも、当人的には、亡霊たる演出に過ぎないのか。
『言ったでしょう?』
『亡霊は、罪を犯すことはできても、犯罪者にはなれません』
.
205
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:15:56 ID:0on9OJjc0
ゆっくり、廊下へと出る。
そのまま、ゆっくり、建物の、外へ。
(´・ω・`) 「違うね」
(´・ω・`) 「犯罪は、足がある人間にしかできないんだ」
(´・ω・`) 「足のない亡霊は、そもそも犯罪なんてしようがない」
『あら』
『かばってくださるのかしら』
(´・ω・`) 「まったくの逆さ」
(´・ω・`) 「きみは、しっかり足の生えた、生身の人間だッて言ってるんだ」
『足なんてとっくに燃やされたわ』
『墓場を漁ったら、もしかしたらその時の骨が残っているかもね』
まったくをもってくだらない。
荼毘に付されたなら、その電話はどう握っているのだ。
ほんとうに亡霊なら、テレパシーで予告してくるがいい。
.
206
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:16:32 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「もういいだろう」
(´・ω・`) 「くだらない雑談で貰う給料なんて、ないんだ」
周囲を見渡す。
人気は、ほとんどない。
初老の教授や、働き盛りのスーツ姿が見える。
亡霊はどこだ。
いま、僕を見張っているのか。
(´・ω・`) 「いま、兄者とデミタスは、安全な位置で保護している」
(´・ω・`) 「話がないなら、一生、逆恨みのチャンスはないぜ」
『逆恨みですって』
『この国では、逆恨みじゃなくて、復讐と言うのですよ』
(´・ω・`) 「復讐だと?」
(´・ω・`) 「復讐なら、とっくに済んでいるのだぞ?」
.
207
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:16:55 ID:0on9OJjc0
『と、言いますと』
そうか。
僕の推理が正しければ、
貞子は、十年前、兄者に殺されたつもりでいるのだ。
これは、いい武器だ。
うまく使えば、あわよくば事件を未然に防げるかもしれない。
十中八九叶わないと知っていても、
亡霊を揺さぶるにはこの上ない武器に違いない。
(´・ω・`) 「大袈裟な復讐劇、ごくろうさん」
(´・ω・`) 「きみの狙いは、流石兄者。 違うか?」
『も、ですね』
『盛岡デミタスも、狙いです』
(´・ω・`) 「と見せかけて、だ」
(´・ω・`) 「きみは、サークルのみんなを抹殺することで、」
(´・ω・`) 「創設者であり、中心人物であり、」
(´・ω・`) 「自分を殺した男を、劇的に殺害する」
(´・ω・`) 「違うか?」
.
208
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:17:15 ID:0on9OJjc0
『……』
亡霊が黙る。
そこまで調べているのか、という意味で、いいのか。
『半分、当たりです』
(´・ω・`) 「半分だけかい?」
『確かに、兄者を殺すのが、第一目標でした』
『ただ、やっぱり、サークルそのものを、ぶっ潰したかった』
『私がいた痕跡を、消したいのです』
(´・ω・`) 「痕跡なんて、残ってないぜ」
(´・ω・`) 「十年前の一件は、事故として、処理されていた」
(´・ω・`) 「それ以降、警察は誰も、貞子という亡霊を、疑ってこなかった」
『……』
『事故、ですか』
そうか。
事故として処理されていることすら、ふつうはわからないのか。
.
209
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:17:41 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「知らなかった、かな」
『……』
肝心なところで、沈黙が多い。
ここらは、兄者と似通っている。
やりづらい相手でこそあるが、こちらには、武器があるのだ。
(´・ω・`) 「ならもう一個、教えてやろう」
(´・ω・`) 「これはおそらく、きみも知らないことだ」
『なんでしょう』
こちらのペースに、持っていけている。
亡霊は、指示をそっちのけで、僕の話に集中しているのがわかる。
(´・ω・`) 「十年前にきみを殺したのは兄者」
(´・ω・`) 「……実は、昨日付で、その真実は更新された」
.
210
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:18:10 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「きみを殺したのは、ヒッキー小森」
(´・ω・`) 「既にきみが殺した、あの男だったんだ」
『!』
亡霊が、露骨に反応した。
息を詰まらせたかのような音だ。
さて、どう、出る。
もう 「復讐」 は済んでしまっていたのだぞ。
『………』
『なにを、根拠に』
(´・ω・`) 「兄者が自供したさ」
『それはあり得ない』
(´・ω・`) 「…!」
.
211
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:18:36 ID:0on9OJjc0
いま、僕は、かまをかけた。
兄者は、確かに自供はしたが、
始終、それも十年以上もの間、自分が犯人だと信じていた。
ロジックの積み重ねが、それを否定したのだ。
犯人はヒッキー小森だ、と示すことで。
『犯人は、兄者なのです』
(´・ω・`) 「疑いたい気持ちは、わかる」
(´・ω・`) 「だが、真実は、違った」
(´・ω・`) 「兄者は、きみを突き飛ばした」
(´・ω・`) 「その弾みで、きみも兄者も、気絶した」
(´・ω・`) 「そこに現れたのが、ヒッキーだ」
(´・ω・`) 「気絶したきみを、崖の向こうに………落としたんだ」
.
212
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:19:12 ID:0on9OJjc0
『違う』
『絶対にあり得ない』
(´・ω・`) 「どうして、そう言い切れる?」
『それは』
『…………』
亡霊が押し黙る。
亡霊本人にも、否定のしようがないのだ。
なぜなら、本人視点で言えば、兄者に突き飛ばされて、記憶を失ったのだから。
そこで転落したのか。
第三者が割って入ったのか。
亡霊には、証明のしようがない。
『……』
『なんでもいいです』
(´・ω・`) 「!」
.
213
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:19:48 ID:0on9OJjc0
『ここまできたら、後には引けません』
『では約束通り、兄者とデミタスを渡していただきます』
(´・ω・`) 「どうしてだ」
(´・ω・`) 「きみの目的は、復讐じゃなかったのか」
(´・ω・`) 「もう、復讐は、終わったんだぞ」
『理屈ではありません』
『後には引けないのです』
(´・ω・`) 「いいのか?」
(´・ω・`) 「今までは出し抜かれてきたが、」
(´・ω・`) 「逆に言えば、いまここで逃げれば、きみは僕に勝てるんだぞ」
亡霊は笑わなかった。
真犯人の件で、頭がいっぱいなのだろうか。
『なんですか、それ』
『まるで、今日、私が捕まるかのような』
.
214
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:20:20 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「捕まえてみせるさ」
(´・ω・`) 「亡霊を捕まえる………今日、この、僕が」
『ッ』
大見得でも、リップサービスでもない。
もっと言うと、もしここで手を引こうが、逃すつもりはない。
ただ、兄者とデミタスの安全が確定するなら、それに越した話はなかっただけだ。
『……笑わせないでください』
『何度も言ったでしょう?』
『私は、亡霊』
『どんな刑事でも、捕まえられない罪人』
(´・ω・`) 「……あと、数時間、すれば」
『なんでしょう』
.
215
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:20:41 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「きみの正体を、特定できる」
『!』
(´・ω・`) 「約束通り、僕は、今日、ひとりで来た」
(´・ω・`) 「だがね」
(´・ω・`) 「裏では、何百人もの人間が、きみの正体を特定しにかかっている」
(´・ω・`) 「ヴィップだけではない。 アルプス県警も動いている」
『なッ!!』
亡霊が今までの非にならない声をあげた。
それまでのか細い声が一転、太く、腹の黒さが窺える低い声だった。
『いますぐ、やめさせなさい』
『でなければ、』
(´・ω・`) 「ほんとうに、きみが亡霊なら、その必要もないだろう?」
『ッ!』
.
216
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:21:02 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「どんな刑事でも、捕まえられない罪人」
(´・ω・`) 「自分で言った言葉だぜ?」
『関係ありません』
(´・ω・`) 「あるんだ、これが」
『いますぐやめさせないと、一般人も、』
(´・ω・`) 「できるのか?」
『なに?』
(´・ω・`) 「兄者とデミタスを殺して、お縄に掛かるならわかる」
(´・ω・`) 「長年の恨みを晴らせたんだ、きみ的には上々だろう」
(´・ω・`) 「でもなァ」
(´・ω・`) 「残りふたりは殺せないわ、それで足がつくわッてなったら」
(´・ω・`) 「十年の歳月は、すべてパァ」
(´・ω・`) 「なんともみっともない復讐劇の幕引きなんだぜ」
.
217
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:21:31 ID:0on9OJjc0
『……ッ』
(´・ω・`) 「加え、僕は」
(´・ω・`) 「事件が終わった暁には、すべてのストーリーを公表するつもりだ」
『!』
(´・ω・`) 「どうして、きみが亡霊になったのか」
(´・ω・`) 「 ッてより、亡霊に、成り切っていたのか」
(´・ω・`) 「そんなとこから、ケツの、亡霊を逮捕するまで……すべて」
『なッ…』
(´・ω・`) 「見せしめさ」
(´・ω・`) 「最近、呪いとか祟りを持ち出して人を殺すバカが、多いんだ」
(´・ω・`) 「実際は、こうも情けないんだぜッていう前例に、するんだ」
(´・ω・`) 「きっと、悪徳商法なんかも、少しは減るだろうね」
.
218
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:22:03 ID:0on9OJjc0
電話越しに、亡霊の息遣いが荒くなってきているのが伝わる。
気づかなかったか。
きみは、自ら窮地に足を突っ込みつつあるのだぞ。
亡霊のくせにある足を、だ。
(´・ω・`) 「さて、それでもきみは、兄者とデミタスを殺すんだろう?」
(´・ω・`) 「僕が、責任をもって連れていこう」
(´・ω・`) 「なに、ふたりを殺して、僕に捕まる前に成仏すりゃあいいだけだ」
(´・ω・`) 「違うかい?」
とことん、亡霊を煽る。
おそらく頭の切れる女なのだろうが、
思っていた通り、プライドが高く、ペースを崩されることを嫌う人間だ。
無論。
兄者も、デミタスも、殺させるつもりはない。
.
219
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:22:50 ID:0on9OJjc0
『……まあ、いい』
『最初の指示です』
'_
(´・ω・`) 、
最初の、だと。
ふざけるな。
この上なく、嫌な予感がしやがる。
『流石兄者を、文学部学生課へ』
『盛岡デミタスを、法学部学生課へ』
『それぞれ、連れていくこと』
(´・ω・`) 「……なんだって?」
(´・ω・`) 「それでいいのか?」
学生課、というと、要は職員室だ。
かえって不利にならないのか。
.
220
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:23:13 ID:0on9OJjc0
『軽く見回ってみましたが』
『結構、職員は多くいらっしゃる』
『人が多いほうが殺しやすい。 当然の判断です』
『先に言っておきますが』
『これはあくまで、第一の指示です』
『第二の指示があるまで、職員にも、ふたりにも、迂闊な行動はさせないように』
『あなたもですよ、ショボーン警部』
(´・ω・`) 「………」
まず真っ先に考えたのは、
亡霊は当初、どうやってふたりを殺すつもりだったのか。
予告は確かに受けたし、大学もそれに合わせて動いたが、
僕が大学にどう指示を出すのか、それで大学がどう対応するのか。
予告を出した時点での亡霊には、読みづらいはずだ。
もし、僕ら以外が完全に無人だったら、どうだったか。
確実に殺す方法を考え、トリックを用意しておかなければ、逃げようがない。
どこで何が起ころうが、すべて亡霊の仕業になるのだから。
.
221
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:23:37 ID:0on9OJjc0
というより、本来ならば、まずそちらを考えるはずなのだ。
もし仮にある程度人がいたとして、したがって職員室を選ぶのは不自然だ。
亡霊は奇妙なことを言った。
第一の指示である、と。
職員室を選んで、そこからターゲット以外を無人にするのだろうか。
確かに、ふたりを分けるのは、理解ができる指示である。
ふたりを固めるよか、よっぽど殺しやすい。
そして、口走っていた、人が多いほうが殺しやすい。
これはどういうことだ。
地下鉄殺人よろしく、人混みに紛れて殺すつもりなのか。
職員室である必然性。
第二の指示の不透明感。
人が多いことの優位。
どう、捉えるべきか。
(´・ω・`) 「……わかった」
(´・ω・`) 「十分もあれば対応できる。 十分後に、もう一度電話をよこせ」
.
222
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:24:00 ID:0on9OJjc0
亡霊は言った。
『その時がくれば』
そして、電話は切れた。
不吉な予感こそ抱きつつも、ひとまず指示に従うしかない。
歩いて、ふたりを預けてあるキャリアセンターに向かう。
できれば何人か職員を同行させたいが、無駄なひんしゅくは買いたくない。
あくまで指示は、迂闊な行動はさせるな、だ。
(´・ω・`) 「……」
キャリアセンターには、学長をはじめ初老の男性が多く詰めていた。
兄者とデミタスは、無言のまま、椅子に座っていた。
(´・_ゝ・`) 「……どうでしたか」
(´・ω・`) 「奴からの指示だ」
(´・ω・`) 「あんたは、法学部。 兄者は、文学部」
(´・ω・`) 「それぞれの学生課に、ひとまず向かってもらう」
.
223
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:24:30 ID:awrZmDFg0
支援
224
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:24:33 ID:0on9OJjc0
(´・_ゝ・`) 「学生課……?」
(´・ω・`) 「意図は、正直言ってわからん」
(´・ω・`) 「ただ、察するに、一旦ふたりを分けようとしてるんだ」
(´・_ゝ・`) 「………」
(´^_ゝ^`) 「いっぺんに殺せば楽なのにね、あの子も」
(´・ω・`) 「言ってる場合か」
デミタスなりのブラックジョークなのだろう。
小心者のデミタスが落ち着いているのが、不幸中の幸いだった。
いつ、自分が殺されるかわからない。
そんな状況下で笑えるのは、大した肝っ玉と言わざるを得ない。
先に、落ち着いているデミタスから連れていくことにした。
(´・ω・`) 「……」
( :::´_ゝ) 「……」
.
225
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:25:30 ID:0on9OJjc0
寝れなかったのだろうか。
トラウマに触れるだけでなく、偽ってきた過去を暴かれ、
挙句己の親友が真犯人だったこと、自分がハメられたこと、
その全てを知ってしまったがゆえに、兄者はやつれているようだった。
(´‐ω‐`)
(´・ω・`) 「これが終わったら、墓参りに行こう」
(´・ω・`) 「墓の前で、とことん怒鳴ってやれ」
( :::´_ゝ) 「……。」
( :::´_ゝ) 「………そうだな」
学長に目礼を交わしつつ、デミタスを連れてその場を後にした。
デミタスは、おじける様子を見せず、足取りも平常通りだった。
その後ろ姿を見て、複雑な気持ちになる。
昔も、自分はこの男の姿を間近で見た。
忘れるに忘れられない、密室鉄道。
この男と僕をつなぐ、一本の因縁の線路。
一歩間違えてしまえば、数分後には、もう二度と見れなくなるかもしれない姿。
是が非でも、亡霊を、捕まえなければならない。
.
226
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:27:06 ID:0on9OJjc0
┏━─
午前十時三九分 ヴィップ大学
─━┛
先日の、アルプス山脈の寒さが一切感じられない天気だ。
デミタスは無事、法学部の学生課まで連れていけた。
キャリアセンターほどの人数はいなかったが、相互監視はまあ機能するだろう。
油断などではない。
ただ、当然と言えば当然だが、あまりにも僕側に課せられるハンデが大きい。
せめて、ふたりを一緒の位置に固められていたならば、と思う。
(´・ω・`) 「…あ」
そういえば、トソンちゃんを放置してしまった。
また人質なんかに取られるようなことがなければ、いいけど。
強く釘は刺してある、あまり懸念しないでおこう。
もとより、最悪の事態に備えて、少なくはない職員、教授が協力してくれている。
いざとなれば、近くの署や交番に片っ端から応援を要請してやる。
.
227
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:27:44 ID:0on9OJjc0
┏━─
午前十時三九分 ヴィップ大学
─━┛
先日の、アルプス山脈の寒さが一切感じられない天気だ。
デミタスは無事、法学部の学生課まで連れていけた。
キャリアセンターほどの人数はいなかったが、相互監視はまあ機能するだろう。
油断などではない。
ただ、当然と言えば当然だが、あまりにも僕側に課せられるハンデが大きい。
せめて、ふたりを一緒の位置に固められていたならば、と思う。
(´・ω・`) 「…あ」
そういえば、トソンちゃんを放置してしまった。
また人質なんかに取られるようなことがなければ、いいけど。
強く釘は刺してある、あまり懸念しないでおこう。
もとより、最悪の事態に備えて、少なくはない職員、教授が協力してくれている。
いざとなれば、近くの署や交番に片っ端から応援を要請してやる。
.
228
:
>>227ミス
:2018/11/13(火) 17:28:30 ID:0on9OJjc0
'_
(´・ω・`) 、
(´・ω・`) 「……なんだなんだ」
見覚えのない電話番号から着信が鳴った。
思わず、どきりとした。
亡霊からの電話に備えて、ワンコール以内に出られるようにはしてあった。
亡霊でなくとも、ヴィップ県警やアルプス県警からの情報は、死活問題だ。
ただ、手に取った電話のディスプレイには、見慣れない番号が映っていた。
(´・ω・`) 「もしもし、ショボーンです」
電話を取って、息遣いというか、第一声を聞いて相手がわかった。
学長だ。
今朝、緊急事態に備えて、電話番号を教えておいたのだ。
兄者の具合が悪くなっただろうか。
程度の軽い気持ちでいたのが、仇になった。
.
229
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:29:53 ID:0on9OJjc0
『至急戻ってきてください!』
『流石さんの様子が、急におかしくなりました!』
(´・ω・`) 「なッ……」
具合どころではなかった。
様子がおかしくなっただと。
何があったんだ。
(´・ω・`) 「わかりました、すぐに向かいます」
(´・ω・`) 「とにかく、彼を落ち着かせてあげてください」
ひとりになった緊張感で、いよいよ自我が保てなくなったのだろうか。
兄者視点で言えば、亡霊の標的は、兄者自身だ。
そして兄者は、十年以上自分を守ってきた偽りを、失っている。
コートを翻して、駆け足で戻る。
敷地内に人影はほとんど見られない。
.
230
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:30:15 ID:0on9OJjc0
キャリアセンターは、中央棟の一階、建物内の中央ほどにある。
広々とした空間で、日頃は就職活動に勤しむ学生たちであふれていると聞く。
自動ドアを抜けた辺りで、もう一度電話が鳴った。
学長からだ。
電話に出るより、落ち合うほうが早い。
コールを切って、全速力でキャリアセンターにたどり着いた。
そこには、人だかりができていた。
あからさまに、空気がおかしい。
学長 「刑事さんッ!」
(´・ω・`) 「いったい、何が…ッ」
.
231
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:30:45 ID:0on9OJjc0
真っ先にしたのは、血の臭いだ。
( ::;゚_ゝ::)
(´・ω・`) 「 」
兄者が、腹から大量の血を流している。
学長は、先ほどまで着ていたジャケットを、兄者の腹部に押し当てていた。
そのジャケットも、真っ赤に染まっている。
(;´゚ω゚`) 「 なああああああああああああッ!!?」
学長 「まだ意識はありますッ!」
(;´・ω・`) 「病院だ!!」
(;´・ω・`) 「今すぐ病院を呼べ!!」
.
232
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:32:01 ID:0on9OJjc0
キャリアセンターは騒然としていた。
想像以上に早く、亡霊は動き出した。
第一の指示、ではなかったのか。
そもそも、その指示すらまだこなしていないのだぞ。
(;´・ω・`) 「何人かで、とにかく名前を呼び続けてください!」
(;´・ω・`) 「残りは、法学部棟、学生課に向かって!」
混乱する職員たちに、すぐさま指示を出す。
指示を出しながら、僕は署や交番に応援を要請した。
暇なやつ全員、ヴィップ大学に連れてこい、と。
( ::;゚_ゝ::)
学長 「流石さん!」
職員 「しっかりしろ! おい!」
(;´・ω・`)
.
233
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:33:13 ID:0on9OJjc0
亡霊はひとまず後、だ。
とにかく兄者の意識を長らえさせて、命を取り留めなければならない。
(;´・ω・`) 「兄者!! 起きろ!!」
(;´・ω・`) 「学長、なにがあったんです!」
兄者を揺らしながら、隣のベスト姿の学長に聞く。
周囲の職員はパニック状態だったが、学長はまだ、冷静を保っていた。
学長 「急に、様子がおかしくなったんです!」
学長 「刑事さんが出て少ししたら、彼に電話がきて!」
(;´・ω・`) 「電話……?」
はッとして周囲を見渡す。
スマホの類は、ざっと見たところでは見当たらなかった。
.
234
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:33:47 ID:0on9OJjc0
(;´・ω・`) 「 それで!?」
学長 「顔を真っ青にして立ち上がるもんで、そのまま出ていこうとしたんです!」
(;´・ω・`) 「出て ッて、ここを?」
学長 「はい、電話に出ながら!」
それが、先ほど言っていた、様子の急変か。
亡霊から電話が来たというのか。
学長 「制止しようにも、一切聞く耳を持たなかったので、拘束しました!」
(;´・ω・`) 「拘束?」
学長 「私含む五人ほどで、とにかく彼を止めたのです!」
学長 「そうしたら、………ッ!!」
( ;´・ω・) 「!」
そこで、腹を刺したのだ。
どさくさに紛れて、刃物を握った、亡霊が。
.
235
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:34:26 ID:0on9OJjc0
(;´・ω・`) 「女性がいましたか!?」
学長 「いえ、いません!」
学長 「全員男ですッ!」
(;´゚ω゚`) 「 なッ なにィ!!?」
どういうことだ。
おかしいぞ。
たとえ人混みに紛れようと、この人数、この広さだ。
亡霊がひっそり現れようものなら、すぐさま見つかるはずだ。
( ::;゚_ゝ::)
( ::;゚_ゝ::) 「………………」
(;´・ω・`) 「!」
.
236
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:35:32 ID:0on9OJjc0
兄者の息遣いが変わった。
急に激しくなり、若干の喘ぎ声を伴っている。
(;´・ω・`) 「兄者!! 僕だ!!」
(;´・ω・`) 「兄者!! 起きろ!!」
( ::;゚_ゝ::) 「 ………」
(;´・ω・`) 「おいッ! 兄者ッ!」
( ::;゚_ゝ::) 「 お ………。」
(;´・ω・`) 「? なんだ!?」
兄者は、意識を若干ではあるが取り戻した。
震える唇をゆっくり開閉して、なにかを言おうとしている。
( ::;゚_ゝ::) 「…… う ……」
(;´・ω・`) 「ゆっくりでいい! なんだ!?」
.
237
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:35:55 ID:0on9OJjc0
( ::;゚_ゝ::) 「 」
( ::;゚_ゝ::) 「 ………。」
( :::;::_ゝ) 「 」
(;´゚ω゚`) 「……ッ!!」
.
238
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:36:42 ID:0on9OJjc0
、 、
亡霊。
兄者は、そうちいさく言って、目を閉じた。
.
239
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:37:31 ID:0on9OJjc0
(;´・ω・`) 「彼の電話はッ」
学長 「ッ」
学長 「誰か、彼の電話を見てないか!」
大声で、残った全員に問う。
しかし、皆周囲を見渡すばかりであった。
(;´・ω・`) 「確かに、彼自身の電話だったんですね!?」
学長 「間違いない!」
(;´・ω・`) 「詳しく聞かせてください!」
学長 「ええ、」
学長 「申しました通り、彼は何者かから電話を受け、即座に、立ち上がりました」
呼吸を整えながら、学長が言葉を紡ぐ。
今は、学長の証言が、頼りだ。
.
240
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:38:34 ID:0on9OJjc0
学長 「露骨に顔を歪めて、真っ青に、しておりまして」
学長 「そのままゆっくり、電話に、出ました」
学長 「どこかに行こうとしたので、近くにいた者が制止を」
(;´・ω・`) 「しかし、止まらなかった」
学長 「無理やり走り出そうとしたので、無理やり止めました」
学長 「しかし暴れるので、私や近くの者たちで、こう……」
学長が、両手でぎゅうッと丸めるような仕草をした。
まずは止めて、落ち着かせてから話を聞こうと思ったのだろう。
学長 「それでも、彼は、ずっと暴れておりました」
学長 「……刑事さんが来るまで押さえていようと思うと」
学長 「急に、腿あたりが濡れたのを感じました」
.
241
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:39:30 ID:0on9OJjc0
といって、学長はスラックスを見せた。
赤黒く染まっている。
疑いようなく、兄者の血だろう。
(;´・ω・`) 「………」
学長 「騒ぎに乗じて、犯人が、腹を刺したのでしょう」
学長 「ぱッと振り返っても、犯人らしき人はいませんでした」
これも、亡霊の仕業、とでも言うのか。
(;´・ω・`) 「その時の、対応は」
学長 「まず真っ先に、ジャケットで、出来る限りの止血を」
といって、兄者の上にかぶせられているジャケットを見る。
ほぼ血の色で染まっている。
真っ先に止血が浮かぶあたり、冷静な人物であると言える。
学長 「私は、そのまま刑事さんに電話しました」
.
242
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:40:34 ID:0on9OJjc0
それが、先ほどの、二度目のコールだ。
学長は、兄者をずっと介抱していたと見ていい。
学長 「そこからですが、」
学長 「ひっそり抜け出した者がいるかは、はっきり言って、わかりません」
(;´・ω・`) 「……無理も、ありません」
(;´・ω・`) 「わかっている、範囲では?」
学長 「まず、一緒に彼を押さえていた一人が、行ってきます、と言って」
学長 「追いかけて、いったようです」
(;´・ω・`) 「追いかける………犯人を、ですね?」
学長 「犯人はおそらくですが、刃物を刺して、すぐさま逃げ出しました」
(;´・ω・`) 「その後ろ姿なんかは?」
学長 「見た方角が悪かったのか、隠れられたのか、遅かったのか……」
学長が、申し訳ありません、と何度も言う。
その瞬間に居合わせなかったため、
どれが正解なのかがわからないのが、歯痒かった。
.
243
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:41:32 ID:0on9OJjc0
(;´・ω・`) 「ただ、追いかけた人物がいた」
学長 「あれは……誰だった?」
職員 「斉藤さん……じゃない?」
職員 「僕は知らない、ですね。 先生なんじゃ?」
職員 「いや、斉藤さんは、いまもう一人のほうに行ってる」
(;´・ω・`) 「………」
もしかすると。
その人自身が、犯人なのか。
しかし、だとすると、内部に犯人がいたということか。
いや、はっきり言って、スーツ姿、ベスト姿なら、
身分は一時的にではあるが眩ませられる。
ただ、だったら学長に直接、行ってくるなんて言うだろうか。
考え出すと、きりがない。
そもそも、女性ではないのだろう。
どういうことだ。
.
244
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:42:29 ID:0on9OJjc0
(;´・ω・`) 「……その人が戻ってきたら、すぐさま私に連絡を」
学長 「お約束します」
(;´・ω・`) 「ここに、凶器の刃物や、彼の電話は……」
兄者は、年かさの増した男性が様子を見ている。
揺らしながら、声をかけてはいるが、反応がいっさいない。
事尽きたわけではないことを、祈るしかないのだ。
幸い、意識は、残っていた。
刺されたことによるショック死でないのは、確かなのだ。
それ以外の職員は、僕と学長が話している間、
周囲を見渡して、探してくれていた。
凶器に使われた、おそらくはかつてミセリが持っていた、包丁だ。
傷口の荒さや広さ、出血の度合いからして、
包丁を思い切り突き刺して、乱暴に抉って、すぐ抜いたのだろう。
電話は、その時に落としたと見られる。
近くに落ちてなければ、誰かが回収しているはずなのだが、
誰も声をあげないとすると、亡霊が持ち去ったと見るべきなのか。
.
245
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:43:00 ID:0on9OJjc0
学長 「……どちらも、ないようです」
学長 「ちゃんと、机の下の隙間も見たのか!?」
職員 「少なくとも、この近くには!」
騒ぎの弾みで、誰かが蹴飛ばしただけかもしれない。
包丁がないことによる不安はただひとつ、
亡霊が離さなかったということは、その包丁で最後に、デミタスを殺すつもりなのだ。
そうだ、デミタス。
(´・ω・`) 「誰か、至急法学部学生課に電話を!」
(´・ω・`) 「盛岡デミタスの安否を、至急確認してください!」
室内全域に通るような声で、言う。
近くに電話のあった職員が、すぐさま対応してくれた。
電話自体はワンコールでつながったようだ。
駆け寄って、受話器を借りる。
.
246
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:43:49 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「私です、警察のショボーンです」
(´・ω・`) 「いま、そちらに異変はありますかッ」
受話器が汗で濡れる。
いま、自分は焦っているのだ、と、その時にわかった。
『人が、いっぱい来たくらいで……』
(´・ω・`) 「人……」
僕が送った、キャリアセンターにいた人らだろう。
と言ったところで、脳に電流が走った。
(;´゚ω゚`) 「 ッ!!!」
(;´゚ω゚`) 「誰一人彼に近寄らせるなッ!!」
そう言って受話器を叩きつけ、駆け出した。
亡霊はこれが狙いだったのか!
.
247
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:44:23 ID:0on9OJjc0
転びそうになりながらも、次は法学部棟へと舞い戻った。
全速力で向かったが、息が急き切れることはなかった。
扉を蹴破ってなかに入ると、椅子に座るデミタスの周囲数メートルは空間があった。
離れた位置で、少なくない数の職員が、緊張した面持ちをしていた。
扉の大きな音と僕の姿に、皆一様に驚いていた。
(;´・_ゝ・`) 「………なッ……」
(´・ω・`) 「……だ、大丈夫だったか……」
(;´・ω・`) 「よかった……」
安否を確認できて、思わず前かがみになった。
忘れかけていた疲労が、どッと押し寄せてくる。
落ち着け、と自分に言い聞かせて、深呼吸を繰り返した。
見かねた一人の職員、おそらくは電話に対応した人だろう、その人がやってきた。
職員 「だ……大丈夫ですか?」
.
248
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:44:48 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「な…なんとか」
職員 「言われた通り、誰一人近づけてはいません」
(´・ω・`) 「ありがとう……ございます……」
電話が切れたと同時に、大声のひとつ発してくれたのだろう。
責任感の強そうな声だった。
(;´・_ゝ・`) 「なにが……あったんですか?」
(;´・_ゝ・`) 「…………まさか」
(´・ω・`) 「話は、あとだ」
なるべく隠しておきたかったが、
ここまで来てしまった以上、言うしかない。
(´・ω・`) 「いいか、あと少しで警察が押し寄せる」
(´・ω・`) 「それまで、誰一人、デミタスに近寄るな」
.
249
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:45:32 ID:0on9OJjc0
(;´・_ゝ・`) 「ッ!!」
(;´・_ゝ・`) 「え、つまりッ!!」
ないとは思うが、拳銃を警戒して、一応デミタスの前に立つ。
デミタスに、壁を背負えるように移動してもらった。
職員たちが呆然としている隙に、電話を取り出す。
亡霊にかける。
(´・ω・`) 「僕だ、さっさと出やがれ」
『…』
亡霊は、黙っている。
(´・ω・`) 「……やりやがったな」
(´・ω・`) 「約束違反だ」
(´・ω・`) 「こっちも、百人以上の応援を呼んでいる」
(´・ω・`) 「職員たちにも、怪しい人物を見かけたら片っ端から捕まえろと言ってある」
.
250
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:46:18 ID:0on9OJjc0
第一の指示、という話も。
兄者を文学部学生課に移す話も。
すべてが、出し抜くための、騙り。
僕一人というハンデも、あくまで約束あってのものだ。
穏便に済むなら、それが何よりもベストだったが、
亡霊が手段を択ばないというのであれば、僕も手段を択ばない。
百人も、捕まえる指示もハッタリだ。
ただ、亡霊には、効いたようだった。
『………よろしいので?』
『ここまで来たからには、私も、後先考えずに動くだけですよ?』
(´・ω・`) 「いい加減、目を覚ませ」
(´・ω・`) 「あんたは、亡霊なんかじゃ、ない」
(´・ω・`) 「生身の人間が、警察の包囲網を抜けられると思うな」
『既に何度も私を逃しているくせに、何を言うかと思えば』
(´・ω・`) 「……まだ、気づかないのか?」
『なにを』
.
251
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:47:05 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「さっきの、一件で」
(´・ω・`) 「あんたは、致命的なミスを、いくつも犯してんだぜ」
『…』
『一応、聞きましょうか』
かかったな。
(´・ω・`) 「その必要はない」
(´・ω・`) 「警察が到着次第、そいつを調べ上げる」
(´・ω・`) 「もう、あんたに逃げ場は、ないのさ」
これも、ハッタリだ。
しかし、これが、よく効くのだ。
兄者を刺したのは、コンマ一秒が問われる、非常に猶予の短い犯行だった。
当然、犯人としても、入念に計画を練って、賢く立ち回れたものではない。
実際、ミスは、犯している。
やつは今、おそらくだが、兄者のスマホを持っているのだ。
.
252
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:47:47 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「ポイントは、包丁だ」
『ッ!』
真のポイントは、スマホにある。
しかし、あえて論点をずらす。
これもハッタリだ。
亡霊がまだこちらにいないことを察し、周囲の職員に目配せした。
誰も、デミタスに近づくな。
そんな、相互監視体制を、敷いた。
ゆっくり、表へと出る。
その間も、とにかく時間を稼ぎ、動揺を誘い、居場所を突き止める。
十分、五分と猶予があるか怪しい、最後の詰めだ。
(´・ω・`) 「第一の失態は、あんたは、兄者を殺せていない」
(´・ω・`) 「まだ、意識が、あった」
.
253
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:48:33 ID:0on9OJjc0
ハッタリをかますにも、コツがいる。
今回の場合、亡霊に、ナイフや凶器ではなく、包丁、と言い当てる点にある。
僕視点で言えば、ミセリが包丁を持ち出したことを知っていて、
更に亡霊がそれを持ち去った線が濃厚であることを知っている。
そこから考えれば、亡霊が、足の残らない凶器としてそいつを使うことも推測できる。
(´・ω・`) 「傷口をなるたけ開いて、出血死を狙ったんだろうがな」
(´・ω・`) 「すぐさま止血が施されて、意識を取り戻したよ」
『なッ!!』
亡霊視点で言えば、僕がどうして包丁を推理できているか、考えるのは難しいだろう。
そもそも、ミセリがどこからどうやって包丁を持ち出したのか、
判断に難しいはずなのだ。
(´・ω・`) 「次の失態」
(´・ω・`) 「あんたはうまいこと逃げたつもりだったろうがな、」
(´・ω・`) 「残念、追いかけられてんだぜ、更にな」
.
254
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:49:33 ID:0on9OJjc0
これも、ハッタリだ。
これは、例の犯人を追いかけた職員がどっちであろうと通用する言い方だ。
もし、例の職員が職員に扮した亡霊だった場合。
「うまく逃げた」 「更に追いかけられた」 の口ぶりがクリーンヒットする。
もし、例の職員に追いかけられた場合。
それにしたって 「うまく逃げた」 は矛盾せず、
「更に追いかけられた」 が、追跡した職員が複数人いたことを示す。
実際は一人しか追いかけていないのだから、亡霊視点で言えば、得体の知れない脅威となる。
『…ッ ……ッ!』
(´・ω・`) 「まだあるんだが……」
(´・ω・`) 「続きは、直接会って、」
(´・ω・`) 「するかッ!」
『!』
大きな声で言いきって、電話を切った。
最後の、ハッタリ。
こう言って電話を切れば、亡霊は、ふたつの誤解をする。
いま、自分の場所が、ばれている。
そして、すぐ近くに、僕がいる。
そんなふたつの、幻影。
.
255
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:50:38 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「……こっからが、勝負だ」
ハッタリが続くのは、せいぜい数分、長くて五分だ。
その間に、次の一手を、打たなければ。
ポイントはみっつ。
ひとつ、キャリアセンターから逃走している。
ふたつ、亡霊は血まみれの包丁を握っている。
みっつ、亡霊はいま、姿を隠している。
すべての条件を満たす場所を、当たるしかない。
しかし、どうやって。
当てずっぽうで総当たりしていると、先にハッタリの魔法が解けてしまうのに。
(´・ω・`) 「……亡霊を」
(´・ω・`) 「捕まえるしか、ないんだな」
どんな刑事でも、捕まえられない罪人。
もし、捕まえられた刑事が過去にひとりもいないというのなら。
僕が、その先駆者になればいいんだ。
僕なら、それができるはずだ。
亡霊なんて、所詮、偽り。
偽りの亡霊を捕まえる。
僕になら、それができるはずなんだ。
.
256
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:51:20 ID:0on9OJjc0
亡霊にはあえて言わなかった、本当の失態。
兄者のスマホを、持っているということ。
この僕を前に、亡霊はスマホを持ち去った、という謎を与えてしまったということ。
流れるように起こった一連の事件において、
一番大きな謎は、ずばり兄者のスマホにある。
学長の話では、こうだ。
兄者は何者かから電話を受けた。
その瞬間顔色を変えて、制止を振り切ろうとすらした。
いま、自分がどんな立場にいるかも考えず。
あるいは、それ以上に重要な相手からかかってきたのだ。
この状況下において。
自らの安否、また僕の指示や周囲の制止を投げ捨ててまで、
兄者を突き動かし得る電話の相手。
そこをまずは考える必要がある。
なぜなら、犯人はそれを利用して殺したのだから。
.
257
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:52:04 ID:0on9OJjc0
亡霊の 「第一の指示」 を受けた時、僕は亡霊の意図がわからなかった。
まずふたりを分けたいのはいいが、
多くの監視の目が光る学生課にどうして移すのか。
答えは、結果を見れば明らかだった。
とあるギミックを用いて、兄者を羽交い絞めする状況に持ち込む。
その騒ぎに乗じて、無理やり、包丁で出血死を狙う、といった具合だ。
羽交い絞め、という状況を狙ったのはしてやられたと思った。
確かに、さりげなく殺害するにおいて好都合だし、
包丁を刺すために、無理やり腕を押し付けても、羽交い絞めでカモフラージュできるのだから。
そうしてはじめて、ふたつのロジックが線になる。
亡霊は、兄者を羽交い絞めにさせるギミックを持っていた。
兄者は、羽交い絞めにされてでも優先すべき相手から電話を受けた。
つなげれば、こうだ。
亡霊のギミックと兄者の異変は共通している。
つまり、兄者は亡霊から電話を受けたことになる。
(´・ω・`) 「……?」
.
258
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:53:09 ID:0on9OJjc0
亡霊から?
そういえば、どうして、亡霊はギミックに用いたスマホを持ち出した?
状況を鑑みるに、指紋は必ず残ってしまう。
指紋というものは、すべてを完全に拭い去るのは非常に難しい。
また、持っているところを見られるだけで命運は尽き、
どこかで処分したとしても、それがまた足跡となる。
だからこそ、亡霊にとっての失態になりうるのだが、どこか、香ばしい。
そんなリスクなど、承知に違いない。
とすると、どうして亡霊はスマホを持ち出した。
動機は、十中八九、
兄者のスマホが亡霊にとって致命的な弱点だからだろう。
しかし、亡霊の050番号から電話をかけたとなれば、それはさしたる弱点にはならない。
どうやって兄者の電話番号を得たのか、という疑問こそ残るが、持ち出すほどではなかろう。
亡霊にとっての致命的な弱点。
持ち出した、というのが失態にはなりそうであるが、
それと兄者の異変が、リンクしない。
兄者は、亡霊以外の何者かから、電話を受けた。
それも、何事にも優先されるほどの、重要な相手から。
.
259
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:54:02 ID:0on9OJjc0
┏━─
午前十一時〇〇分 ヴィップ県警 捜査本部
─━┛
( ゚д゚) 「なにッ!?」
東風さんの怒号で捜査一課に緊張が走った。
ペニーから流される、擬古と貞子をつなぐ第三者の可能性。
人手を総動員させたなかでの作業に、進捗が見られた。
( ゚д゚) 「わかった!」
内線を、受話器を叩きつけて切った。
何事だ、と思った自分と鈴木は、手を止めて東風さんの後ろに集まった。
.
260
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:55:03 ID:0on9OJjc0
/ ゚、。 / 「どうしましたか!」
( ゚д゚) 「……やりやがった……」
東風さんが、拳を握りしめる。
しかし、それは怒りで震えていない。
噛みしめるように、手を、固く握っていた。
( ゚д゚) 「ビンゴだ、大当たりだ」
( ゚д゚) 「フッサール擬古が便宜を図った第三者を、特定した!」
( <●><●>) 「…!」
可能性の濃かった話とはいえ、
いざ本当にそれを聞くと、かえって疑いたくなった。
ほんとうに、そんなことがあり得たのか。
今までの捜査がことごとく空回りだったこともあり、言葉にできない達成感が込み上げてきた。
.
261
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:56:04 ID:0on9OJjc0
( ゚д゚) 「子に恵まれなかった老夫婦、名前は鷺宮」
( ゚д゚) 「七年前、擬古を仲介して貞子が引き取られている!」
鷺宮、老夫婦。
名前からして、裕福な家庭なのだろう。
( <●><●>) 「対応は」
( ゚д゚) 「いま下から引き継いだところだ」
息遣いが荒い。
警部とは対照的に、東風さんは喜びを一切隠そうとしない人なのだ。
捜査も佳境に入ったことを、改めて肌で感じた。
( ゚д゚) 「姪っ子さんが電話に対応していたらしい」
( ゚д゚) 「肝心の老夫婦は寝ているようでな、いま起こしてもらってるんだ」
/ ゚、。 / 「じゃあ……!」
( ゚д゚) 「はじめるぞ、亡霊の墓荒らし!」
.
262
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:56:43 ID:0on9OJjc0
┏━─
午前十一時〇八分 ヴィップ大学
─━┛
(´・ω・`) 「!」
電話がかかってきた。
間髪入れず手に取った。
(´・ω・`) 「…ッ」
どくん、と心臓が鳴った。
亡霊からだ。
(´・ω・`) 「今度はなんだ」
『第二の指示』
(´・ω・`) 「なに?」
.
263
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:57:16 ID:0on9OJjc0
この期に及んで、第二の指示だと。
逃げるつもりは、さらさらないというのか。
それとも、そう見せかけて、逃げるつもりなのか。
(´・ω・`) 「よく呑気なことを言ってられるな」
(´・ω・`) 「なんだ、逃亡用の車でも欲しいのか」
『盛岡デミタスを、経済学部学生課まで連れていきなさい』
『それも、なるべく多くの職員と一緒に』
(´・ω・`) 「……なんだと?」
法学部の次は経済学部か。
結構な距離がある、十分ほどかかるだろうか。
しかし、多くの職員と一緒に、とは。
『約束破り、だなんて言われたくないから、先に予告します』
『道中、隙あらばデミタスを、殺します』
『むろん、殺さない可能性もありますがね』
(´・ω・`) 「…? いったい…」
(´・ω・`) 「!」
.
264
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:57:37 ID:0on9OJjc0
そうか。
そういうことか。
亡霊は、逃げるつもりだ。
人が多いことの優位、それはわかった。
まわりにいる人間の全員が、容疑者に見えてしまうのだ。
亡霊は女だと思っている。
三十代で、痩身で、筋肉が衰えていそうな、女性。
しかし、そんな人間、未だに見つけられていない。
文字通り、亡霊のように姿をうまく消して立ち回られている。
僕としては、もうそんな虚像を頼りにはしていられなくなる。
男だろうが女だろうが、職員だろうが教授だろうが一般人だろうが、
あらゆる人物が亡霊に見えて仕方なくなっているのだ。
(´・ω・`) 「………そういうことか」
『お気づきいただけましたか』
『なら、わかるでしょう』
『時間的猶予は与えません』
『応援が到着するまでに、デミタスたちを連れていきなさい』
.
265
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:58:06 ID:0on9OJjc0
そうなってしまうと、僕は、デミタス含む大勢を連れていく過程で、
常に神経を研ぎ澄まさなければならなくなる。
むろん、この場に人手は僕一人しかいない。
一人で、大勢を相手に、隙を見せてはならなくなる。
それも、遠い距離を、だ。
亡霊が、そのなかに潜むなり、騒ぎを起こさせるなりで、殺してくるのか。
あるいは、時間がかかって僕の目から逃れられるのをいいことに、逃げるのか。
どちらも、十二分にあり得る。
そしてその場合、僕は、より最悪な事態を防ごうと動かなければならない。
亡霊を捕まえるよりも、デミタスを殺させないよう立ち回らざるを得なくなる。
亡霊は、逃げるつもりだ。
(´・ω・`) 「………」
『あなたは、優秀な刑事です』
『ただ……だからこそ、肝に銘じるべきなのです』
『亡霊は、どんな刑事でも、決して捕まえられない』
.
266
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 17:58:54 ID:0on9OJjc0
僕は怒りのあまり、無言で電話を切った。
こんなに怒りがこみ上がってくるのは、久しぶりだ。
電話を、握りしめて壊したくなるのを押さえて、ポケットに戻す。
_,
( ・ω・`) 「…!」
戻した、瞬間。
再びコール音が鳴った。
(´・ω・`) 「なんなんだッ!」
(´・ω・`) 「ちゃんと、指示には従う!」
(´・ω・`) 「てめえの時間稼ぎには、乗らん!」
『警部ッ!!』
(´・ω・`) 「!」
.
267
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:01:15 ID:0on9OJjc0
ワカッテマスの声が、どこかからした。
どこだ、と思ったが、いま握っている電話からだった。
(´・ω・`) 「ワカッテマスか!」
(´・ω・`) 「いま時間はない、手短に言え!」
どんな希少な情報だとしても、とにかく今は、時間がない。
走りながら、走って法学部のほうに戻りながら、声に集中する。
『亡霊の正体ですッ!』
(´・ω・`) 「なに?」
正体だと?
山村貞子の正体か?
『亡霊はッ!』
『山村貞子ではあり得ませんッ!』
→ttps://www.youtube.com/watch?v=cW0vEuaetjY
.
268
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:01:39 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「なッ……」
思わず、速度が落ちた。
(;´゚ω゚`) 「 どういうことだッ!!」
(;´゚ω゚`) 「貞子は、貞子が、亡霊じゃないのか!?」
『貞子を引き取った第三者を、特定しましたが……ッ』
『確認したところ、今もそこで、静かに眠っています!』
『亡霊は、山村貞子では、なかったんですッ!!』
『奴には完全なアリバイがあった!!』
.
269
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:02:28 ID:0on9OJjc0
(;´・ω・`) 「じゃあ、誰なんだ!!」
(;´・ω・`) 「いま、僕と話していた、亡霊は!!」
『目下再検討しております!』
『山村貞子以外に……亡霊になれた人物を!』
(;´・ω・`) 「いるかよ、そんな奴ッ!!」
(;´・ω・`) 「十年前の面々は全員死んで、残るは兄者と、デミタスッ!!」
(;´・ω・`) 「 貞子こそが、亡霊のはずなんだッ!!」
、 、 、 、 、 、 、、 、 、
『実は死んでいない人物がいた可能性ッ!』
.
270
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:03:34 ID:0on9OJjc0
(;´・ω・`) 「はァ!?」
(;´・ω・`) 「すべての事件を、警察が担当して、死亡を確認してンだ!!」
(;´・ω・`) 「あるワケねえだろ、そんな可能性が!!」
『もはやそれしかないんですよ!』
『本部でも至急ッ!』
『すべての事件の再検討にまいります!』
『以上です!』
『切りますよ!』
(;´・ω・`) 「………」
電話の切れる音がした。
(;´・ω・`) 「………」
(;´・ω・`) 「ど……どういうことだ……?」
.
271
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:03:56 ID:0on9OJjc0
ワカッテマスの焦燥。
これは、勘違いでも、ミスでもない。
ほんとうに、山村貞子の存在が、特定されたのだ。
いまも、まだ、眠っている。
完全なアリバイがあった。
(;´・ω・`) 「……クソッ!!」
再検討するには、時間が足りなさすぎる。
こうしている間も、亡霊は逃げ出そうとしている。
僕は、法学部棟、学生課の扉を再び蹴破った。
(´・_ゝ・`) 「…!」
(´・_ゝ・`) 「刑事さんッ!」
(;´・ω・`) 「話は後だッ!!」
(;´・ω・`) 「おい、ここにいる全員で、経済学部棟まで走れ!!」
周囲にいる職員全員に、大声でアナウンスした。
突然の指示に皆一様に動揺したが、
僕がデミタスの手を引っ張って走り出すと、皆、ついてきてくれた。
.
272
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:04:47 ID:0on9OJjc0
(;´・_ゝ・`) 「何があったんですか!」
(;´・ω・`) 「話はあと ……ッ」
いた。
いま、このタイミングで、唯一、亡霊の正体を暴き得る男が。
(´・ω・`) 「デミタスッ!」
(;´・_ゝ・`) 「なんですか!?」
(´・ω・`) 「あんたの力を貸してほしい!」
(´・ω・`) 「たった今、亡霊に関する新事実が入った!」
(;´・_ゝ・`) 「!」
(´・ω・`) 「亡霊は、山村貞子では、あり得ない!」
(´・ω・`) 「別の誰かが、貞子の名を騙り、亡霊になっているんだ!!」
.
273
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:05:29 ID:0on9OJjc0
(;´゚_ゝ゚`) 「 ンなァ!?」
(´・ω・`) 「貞子以外で、亡霊になれそうなやつを……教えてくれ!」
(´・ω・`) 「八人目のメンバーとかだ!」
(;´・_ゝ・`) 「いませんよ、そんなの!」
(;´・_ゝ・`) 「マジな話だ! サークルは、マジで七人しかいなかった!」
ここまで来て八人目を隠す道理はない。
七人しか、いないんだ。
(;´・ω・`) 「だったら、その七人から、貞子を除いた六人ッ」
、 、 、 、、 、 、 、 、 、
(;´・ω・`) 「 亡霊になれるのは誰だ!?」
.
274
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:05:53 ID:0on9OJjc0
今までの事件すべてが、蘇ってくる。
フッサール擬古。
ヒッキー小森。
クックル三階堂。
芹澤ミセリ。
盛岡デミタス。
流石兄者。
全員の完全なアリバイは、警察が立証している。
しかし。
この六人のうち、誰か、ひとりだけ。
アリバイが成立していない人物が、いる。
多くは死亡が認められ、
兄者とデミタスは僕自身がアリバイを立証している。
つまり。
(;´・ω・`) 「擬古ッ! ヒッキーッ! クックルッ! ミセリッ!」
(;´・ω・`) 「誰かは、まだ生きてるんだ!!」
.
275
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:06:23 ID:0on9OJjc0
死んだはずなのに、なお生きている存在。
山村貞子は、偽りの亡霊だった。
殺された四人のなかに、真の亡霊が、隠れている。
亡霊とは、そういうことだったんだ。
(;´゚_ゝ゚`) 「はあ!?」
(;´・_ゝ・`) 「え、だって、え、みんな殺されたんでしょ!?」
(;´・ω・`) 「誰か一人だけは、事件を、偽ったんだ!!」
(;´・_ゝ・`) 「だいたい、僕、全然事件のこと知らないんだから!」
(;´・_ゝ・`) 「考えようがないッ!」
(;´・ω・`) 「くッ………!」
.
276
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:06:44 ID:0on9OJjc0
事件を徹底的に捜査した僕たち警察が、わからないんだ。
途中から事件に参加したデミタスに、わかりようは、ないのか。
(;´・_ゝ・`) 「名前をごまかしていた可能性は!?」
(;´・ω・`) 「名前ッて……被害者のか!?」
(;´・ω・`) 「できない、害者の特定は間違えようがない!」
殺された連中の名前に、偽りはない。
フッサール擬古。
ヒッキー小森。
クックル三階堂。
芹澤ミセリ。
この四つの名前は、国にも認められている、ほんとうの名前だ。
.
277
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:07:05 ID:0on9OJjc0
事件を徹底的に捜査した僕たち警察が、わからないんだ。
途中から事件に参加したデミタスに、わかりようは、ないのか。
(;´・_ゝ・`) 「名前をごまかしていた可能性は!?」
(;´・ω・`) 「名前ッて……被害者のか!?」
(;´・ω・`) 「できない、害者の特定は間違えようがない!」
殺された連中の名前に、偽りはない。
フッサール擬古。
ヒッキー小森。
クックル三階堂。
芹澤ミセリ。
この四つの名前は、国にも認められている、ほんとうの名前だ。
.
278
:
>>277ミス
:2018/11/13(火) 18:07:53 ID:0on9OJjc0
(;´・_ゝ・`) 「死んでなかったわけでも、他人のふりをしたわけでもないんじゃあ」
(;´・_ゝ・`) 「わかるわけがない!」
思い出せ。
この、長かった、連続予告殺人事件。
地下鉄殺人事件。
ビジネスホテル殺人事件。
ライブ殺人事件。
ヴィップの滝公園殺人事件。
四つの事件のすべてに、謎が残っている。
そのうちどこかに、今回の事件の、すべてのトリックが隠されていたんだ。
そして思い出せ。
ミセリ、兄者、デミタスが話してくれた、サークルに関する情報をすべて。
サークル結成。
少しずつ集まるメンバー。
バカバカしくも憎めなかった活動内容。
すべての発端となった、十年前の紅葉狩り。
.
279
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:08:30 ID:0on9OJjc0
まずは事件だ。
事件のどこかに、偽りがあった。
亡霊は、貞子じゃなかった。
だからこの際、犯人像に関する謎は、すべて無視だ。
現場で、捜査本部で。
幾度となく、四つの事件の謎について、話されてきた。
.
280
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:08:54 ID:0on9OJjc0
地下鉄殺人。
殺されたのはフッサール擬古。
監視カメラや調書から亡霊が炙り出せなかったのは、もはや謎じゃない。
となると、他の謎には、なにがあったか。
ビジネスホテル殺人事件。
殺されたのはヒッキー小森。
亡霊がどうやって害者の常備薬に干渉したかは、もはや謎じゃない。
となると、他の謎には、なにがあったか。
.
281
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:09:17 ID:0on9OJjc0
ライブ殺人事件。
殺されたのはクックル三階堂。
どこでクックルと連絡を取ったかは、もはや謎じゃない。
となると、他の謎には、なにがあったか。
ヴィップの滝殺人事件。
殺されたのは芹澤ミセリ。
害者のなかで唯一僕が話をした相手だ。
まして事件そのものには謎という謎はなかった。
芹澤ミセリは、亡霊ではない。
.
282
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:09:40 ID:0on9OJjc0
(;´・ω・`) 「わかった、こうしよう!」
(;´・ω・`) 「ミセリは、亡霊じゃない!」
(;´・ω・`) 「ギコ、ヒッキー、クックル」
(;´・ω・`) 「真の亡霊は、この三人のうち、誰かだッ!」
(;´・_ゝ・`) 「で、でも、だからといって……」
(;´・ω・`) 「クソッ!!」
一瞬で時間が経っているのだろう、
遠いと思われていた経済学部棟は、すぐ目の前まできていた。
後ろも、職員たちがついてきてくれている。
亡霊の第二の指示は間もなく完遂だ。
いまが、反撃の時だ。
.
283
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:10:00 ID:0on9OJjc0
(;´・ω・`) 「!」
そもそも。
どうして、殺された人物が、亡霊になれるんだ。
何度も、何度も言ってきた。
死んだ人間に、犯行はできない。
つまり、生きている。
残された三人のうち、誰かは、生きている。
しかし、死んでいる。
重体、重傷、そんな曖昧な結果は出ていない。
全員、国が認めた、死亡しているんだ。
矛盾している。
あり得ないんだ。
でも、どこかに偽りが、潜んでいる。
.
284
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:10:43 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「 ッ 」
ばちばちッと。
脳を、皮膚を、骨を、全身を。
凄まじい電流が走る。
.
285
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:12:48 ID:0on9OJjc0
>
>(´・ω・`) 「亡霊は、山村貞子では、あり得ない!」
>
>(´・ω・`) 「別の誰かが、貞子の名を騙り、亡霊になっているんだ!!」
>
誰かが山村貞子の名を騙っている。
手口から、語り口から、部外者の線は完全にない。
亡霊は、名を騙っていた。 、 、 、 、 、 、 、 、、
奴が騙ったのは、ほんとうに、山村貞子の名前だけだったのか?
.
286
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:13:26 ID:0on9OJjc0
>
>(;´・_ゝ・`) 「名前をごまかしていた可能性は!?」
>
>(;´・ω・`) 「名前ッて……被害者のか!?」
>
>(;´・ω・`) 「できない、害者の特定は間違えようがない!」
>
名前をごまかしていた可能性。
殺された人物の名は、すべて、偽りようのない、真実。
しかし。
、 、 、 、、 、 、 、 、 、
我々が知っている名前は、ほんとうに偽りようのない、真実だったのか?
.
287
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:14:25 ID:0on9OJjc0
亡霊は、たった今、何かを偽っているわけではない。
十年前から、亡霊は、サークル内で、何かを偽ってきた。
十年前から、常人では考えもつかない方法で、
亡霊は、それを、偽ってきた。
だったら、十年前と、たった今。
そのふたつの視点を持つことで浮かび上がる、矛盾。
それも。
現状、デミタスにしか見抜くことができない、偽り。
(;´・ω・`) 「 デミタスッ!!」
.
288
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:15:19 ID:0on9OJjc0
(;´・_ゝ・`) 「!」
(;´・ω・`) 「一度あんたは、捜査本部に来たよな?」
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、、 、 、、 、 、
(;´・ω・`) 「その時、害者一覧の顔写真は、貼ってあったか?」
>
>(´・ω・`) 「となると、だ」
>
> びっしり書き込まれたホワイトボードを、目で辿る。 、 、、 、 、、
> 貼ってあった写真の類は、スペースを広げるためにひっぺがした。
> そんななか、一番情報が少ないのは、右端、流石兄者の項目。
>
>(´・ω・`) 「流石兄者、サークル部長」
>
>(´・ω・`) 「奴こそが、事件の鍵となる」
>
>( <●><●>) 「そして、現状容疑者筆頭、と」
>
>(;´・_ゝ・`) 「…」
>
(;´・_ゝ・`) 「?」
(;´・_ゝ・`) 「写真なんてあったら、見てるけど……」
.
289
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:16:10 ID:0on9OJjc0
(;´゚ω゚`) 「………ッ!!!」
見つけた。
デミタスという銃口を向けるべき場所が。
(´・ω・`) 「だったら、見せてやる!」
僕の携帯電話を、デミタスに押し付けた。
有無山を登っている時に、ワカッテマスが送ってくれた、資料だ。
そこには、各事件の被害者の情報や、
プロフィール、顔写真が、参考資料として添付されている。
.
290
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:16:40 ID:0on9OJjc0
(;´・_ゝ・`) 「……?」
(;´・_ゝ・`) 「いったい、何を見れば……」
(´・_ゝ・`) 「え?」
(;´・ω・`) 「ッ!!」
.
291
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:18:06 ID:0on9OJjc0
(;´・_ゝ・`) 「けッ ……刑事さん!!」
→BGMここまで
、、 、 、、 、 、
(;´・_ゝ・`) 「こいつ誰ですか!?」
(;´゚ω゚`) 「!!!」
起こり得て、しまうのか。
そんな、人間として、常人として、考えられない、
大胆で、規格外な、事件の根底の根底に眠る、トリックが。
「人物」 にまつわる謎をすべて線でつなげば、浮かび上がってくる虚像。
その輪郭に実体を与える、デミタスの、急所を貫く一撃。
.
292
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:19:16 ID:0on9OJjc0
>
>( <●><●>) 「じゃあ、小森の」
>
>( <●><●>) 「ギター趣味というのも、そこから?」
>
>ミセ*゚-゚)リ 「ギター?」
>
>( <●><●>) 「どうやらギター趣味があったようですが
> 、 、、、 、、 、
>ミセ*゚-゚)リ 「ふうん……そうだったんだ」
>
.
293
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:20:17 ID:0on9OJjc0
> 、 、、 、、 、
>(´・ω・`) 「あんたらは、ヒッキーのアレルギーについては知らなかった、と」
>
>( ´_ゝ`) 「ピーナッツ……ピーナッツ、か……」
>
>( ´_ゝ`) 「食ってた、と言われたらそんな気もするし……」
>
.
294
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:21:03 ID:0on9OJjc0
>
>( ´_ゝ`) 「中学の頃、いじめが原因で不登校になったそうで」
>
>( ´_ゝ`) 「その頃にネット始めて、いろいろ変わったみたいだ」
>
>(´・ω・`) 「ん?」
>
> ちょっと引っかかるな。
>
>(´・ω・`) 「確か、おたくとヒッキーって、昔からの仲だよね」
> 、 、、
>(´・ω・`) 「不登校になった……そうで、ッてのは?」
>
.
295
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:21:41 ID:0on9OJjc0
> 、、 、
>( ´_ゝ`) 「俺とやつは、ネットで知り合ったんだ」
>
>(´・_ゝ・`) 「え、そうなの!」
>
>( ´_ゝ`) 「あれ? もしや誰も知らんかった?」
>
>(´・_ゝ・`) 「てっきり、腐れ縁とかそんなもんかと」
>
.
296
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:22:49 ID:0on9OJjc0
>
>( ´_ゝ`) 「ネットで知り合って、意気投合してな」
>
>( ´_ゝ`) 「ちょいちょい実際に会ったりもしたぜ」
> 、 、
>(´・_ゝ・`) 「って、じゃあヒッキーって半値だったの?」
>
.
297
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:24:11 ID:0on9OJjc0
「 ( ゚"_ゞ゚) 」
「ヒッキー小森 (34)」
デミタスは、そこを指さして、叫んだ。
(;´・_ゝ・`) 「こいつ、誰なんだよ!!」
(;´・_ゝ・`) 「こいつはヒッキーじゃないッ!!」
→ttps://www.youtube.com/watch?v=Rr9AVYDEeMQ
.
298
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:26:07 ID:0on9OJjc0
(;´゚ω゚`)
、 、、
ヒッキー小森だけが、ヴィップ大学ではない理由。
、 、、
ヒッキー小森だけが、完全たる名指しで殺害予告された理由。
(;´・ω・`)
、 、、 、 、、
誰も、ヒッキーのアレルギーは知らなかった。
、 、、 、 、、
誰も、ヒッキーの音楽趣味は知らなかった。
(;´‐ω‐`)
、 、
ヒッキーのアレルギーを知り得たのは、家族くらいなものだった。
、 、
ヒッキーの通話履歴に残っていたのは、九割の職場と、一割の家族だった。
.
299
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:26:37 ID:0on9OJjc0
(´・ω・`) 「捕まえたぞ!!!」
すぐさま電話を取り返す。
発信する先は、履歴の一番上にあった、ワカッテマスだ。
(´・ω・`) 「僕だ!」
(´・ω・`) 「いますぐ、事件にかかわる全員にまわせッ!」
(´・ω・`) 「連続予告殺人ッ!!」
(´・ω・`) 「その真の犯人は、ヒッキー小森!!」
(´・ω・`) 「もっと言うと……」
> 、
>/ ゚、。 / 「ヒッキー小森は、両親と弟の四人家族」
>
>/ ゚、。 / 「住まいは当時も今もアルプス」
>
.
300
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:26:42 ID:Si/MFqts0
佳境支援
301
:
名無しさん
:2018/11/13(火) 18:26:57 ID:0on9OJjc0
、、 、 、 、 、 、 、
(´・ω・`) 「ヒッキー小森の弟ッ!!」
『!!』
、 、 、 、 、、 、
(´・ω・`) 「奴は十年以上前から、兄の名を騙って生きてきたんだ!」
(´・ω・`) 「至急、正体を特定してこっちにまわせ!!」
ワカッテマスが、即座に応答した。
電話が切れる直前に、大声を出すのが聞き取れた。
十年以上前から、ずっと隠されてきた、偽り。
もう、すべて、ひっぺがしてやった。
残るは、偽りの亡霊を、捕まえるだけだ。
.
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