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(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです <解決編>

158名無しさん:2018/11/08(木) 20:37:22 ID:XcQGTYOU0
>>156

盛り上がりもなく話が終わっちゃうなw

159名無しさん:2018/11/12(月) 13:03:43 ID:xK6i68yc0
今日か明日に続き投下したい
スレがageられてたら投下と思ってくれ
投下できてなかったら俺を縄で縛って棒で叩け

160名無しさん:2018/11/12(月) 13:04:23 ID:IPR0K2ig0
亀甲縛りはお任せあれ

161名無しさん:2018/11/12(月) 13:08:48 ID:gV/BLBQA0
丸太を用意して待つぜ

162名無しさん:2018/11/12(月) 14:20:42 ID:KPn2RCKk0
某で叩け?
よしまかせろ

163名無しさん:2018/11/12(月) 14:22:29 ID:KPn2RCKk0
ごめん間違えてageた……叩かれてきます……

164名無しさん:2018/11/13(火) 16:48:44 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    五月八日  午前九時三一分  ヴィップ大学
                             ─━┛
 
 
 
 先に触れておくと、私は人付き合いが苦手だ。
 多くの友人を持つ器用さなんて持ち合わせていない。
 
 だから、たとえばあの授業はこうだ、とか。
 試験にはどんな問題が出てくる、とか。
 そんな情報を得る手段に乏しい。
 
 
(゚、゚'トソン
 
 ヴィップ大学、五月八日のカリキュラム、全行程を休講とする。
 先週はおろか、昨日ですら発表されていなかった。
 今朝になって突然の発表だった。
 
 そんなの、わかりっこないだろう。
 よく考えてみると、私は友だちが少ないから、以前の話なのだ。
 
.

165名無しさん:2018/11/13(火) 16:49:25 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 もうひとつ。
 事件は起こっていた。
 
 いや、最初から整理するほうがいい。
 一限目があり、早くから私は学校に来ていた。
 教授も、学生も、平生の半分にすら満たなかったのはすぐに気が付いた。
 
 ただ、その時はまだ、疑っていなかった。
 いま、ヴィップ大学に何が起こっているのか。
 どうして急に全講義が中止となってしまったのか。
 
 なにも疑わずに、いつも通り、教室に向かった。
 すると黒板に、一枚の紙が貼られてあった。
 
 
 本日は全授業が休講です。
 大学の緊急メンテナンスを行うため、速やかに帰宅するように。
 
 これは、なんの冗談だ。
 大学の緊急メンテナンスなんて聞いたことがないぞ。
 
 私はその張り紙を見て、すぐに窓から敷地内を見下ろした。
 人通りが、確かに、少なかった。
 それも、スーツ姿の、他学部の教授だろうか、警備員かもしれないが、
 そんな多くの男性が、忙しなく敷地の上を歩き回っていた。
 
.

166名無しさん:2018/11/13(火) 16:50:01 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 こんな時、友人のネットワークを多く持つ人なら、情報共有からはじまるだろう。
 いったい何があったのかの、確認。
 あるいは、自分からの、緊急メンテナンスという情報の発信。
 
 私には、何もなかった。
 友だちがいないなんて関係ないのだからこの際どうでもいい。
 ただ、それ以上に、何が起こったのかがこの上なく気になった。
 
 
(゚、゚'トソン
 
 最初は、変なこともあるんだな、と思った。
 ある種の諦め、とでも言える。
 
 せっかくの変な日なのだ。
 誰もいない教室内でごろっとして、突然暇になったことを噛みしめていた。
 大学生というのは、多忙なのである。
 
(゚、゚'トソン
 
 ごろごろするのに飽きた頃、私はまた、窓から下を見下ろしていた。
 見たことない男性が多く見受けられるが、
 なかには何かの講義で見かけたことのある初老の教授もいた。
 
 顔色がおかしい。
 やっぱり、何かあった。
 その時になってはじめて、私は重い腰をあげたのだ。
 
.

167名無しさん:2018/11/13(火) 16:51:17 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 情報を知りたいが、緊急メンテナンスなんて言い出しているのはあくまで大学側だ。
 学生部に聞きに行っても、メンテナンスはメンテナンスだよ、などとあしらわれる。
 
 私と同じ境遇の人を見つけて、事情を聞くのがいいだろう。
 私は人付き合いが苦手だが、いざ声をかけてみればなんとかなると信じる。
 
 となると、誰に声をかけようか。
 なるべく気が弱そうで、状況をある程度は飲みこめていなさそうな、女性がいい。
 教室から出て一階に降りながら、ひっそりとターゲットを探した。
 
 
(゚、゚'トソン
 
 ある方角を見て、ぴたりと足が止まった。
 湧き上がってくる懐かしい記憶。
 忘れかけていた戦慄、焦燥、混乱。
 
 どうしてこの人がこの場にいるんだ。
 たった一人を見ただけで、それまでの違和感の全てが、別の意味に変わってしまった。
 
 
 唐突な全行程休講。
 その名目は大学の緊急メンテナンス。
 もちろん前日までにそれらしき兆候なんてものは見られなかった。
 
 また朝も早いというのに敷地内を忙しなく徘徊する男性陣。
 一切の事情が説明されておらず、戸惑っている学生も多い。
 
.

168名無しさん:2018/11/13(火) 16:51:29 ID:M8bbK4W.0
こんな時間だとおぅ

169名無しさん:2018/11/13(火) 16:52:23 ID:0on9OJjc0
 
 
 
( ´・ω・)
 
 絶対に。
 絶対に忘れるはずのない顔。
 
 見た目こそ、スーツの上にトレンチコートを羽織っているだけ。
 知らない人が見れば。
 というか、私以外の誰が見ても、教授かそれに類する人だと思うだろう。
 
 違うぞ。
 この人は、刑事だ。
 
 ヴィップ県警捜査一課に勤める警部。
 誰が呼んだかイツワリ警部。
 昨今お茶の間を騒がせている連続予告殺人事件を担当している人なのだ。
 
 
(゚、゚'トソン
 
(゚、゚'トソン 「………」
 
 すべてに合点がいった。
 警部はいま、連続予告殺人を担当している。
 そんなお方が、いまヴィップ大学を歩いている。
 
 ヴィップ大学は本日五月八日、突然の休講に見舞われている。
 誰もが決して納得しないであろう理由を引っ提げて。
 
.

170名無しさん:2018/11/13(火) 16:53:06 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「…ッ」
 
 経済学部棟のほうに向かっていく。
 見失わないように、それまで小走りだったのが、全力疾走に変わった。
 
 向こうに気づかれてもいい。
 別に後ろから忍び寄って驚かしてやろうなんてサプライズ精神も持ち合わせていない。
 
 いつぞやぶりの再会。
 それに感動したい気持ちもあれば、
 たった今ヴィップ大学を覆っている暗雲、
 それについて聞きたい気持ちもある。
 
 
(゚、゚;トソン 「警部ッ!」
 
       '_
( ´・ω・) 、
 
 自動ドアを抜け、馴染みのないエントランス、
 警部はエスカレーターに乗ろうとしていたところだった。
 
 ぱッと見たところ、エントランスには私と警部以外誰もいない。
 当然だ、多くの男性陣が、学生や職員に帰宅を命じているのだから。
 
.

171名無しさん:2018/11/13(火) 16:53:42 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 私は、わかりましたァ、でも忘れ物だけ、と返してやり過ごしている。
 思えば、このある種の野次馬精神こそが、私を事件体質たらしめているのだと思う。
 
 
 事件体質、というのは。
 私、都村トソンは、いつからだろうか。
 事件、それも殺人や誘拐といった刑事事件に巻き込まれることが多いのだ。
 
 そんな小説みたいな体質、あるわけがなかろう。
 昔からそう一笑に付してきた節こそあるが、
 この歳になってあらためて振り返ってみると、
 藪をつついて蛇を出すことが多い人生だったとも思う。
 
 それと事件体質は、直接的には関係ないのだろうけど。
 どうしても、日頃の行いというオカルトめいた何かを信じたくなる。
 
 
(´・ω・`) 「え、」
 
(゚ー゚;トソン 「やっぱり!!」
 
(゚ー゚;トソン 「久しぶりじゃないですか! 覚えてますか!」
 
(´゚ω゚`) 「んなアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
 
 私と警部しかいないエントランスに、
 もう中年も中年である警部の、情けない絶叫がこだました。
 
.

172名無しさん:2018/11/13(火) 16:54:24 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
 
                                   |`ヽ       /|
                                   |.  \    /. i
                                   |   ヽ /   ノ
                                  !     `ー‐- '、
                                  |           .、
                                 l            !
                               r---ゝ           !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                                l  :::::::::::::::゙ 、     _| n
    イツワリ警部の事件簿   File.4      `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
                              く  l  lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
       第十幕   「 亡霊を捕まえろ 」     '  '、-_l  ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
                                ` ..‐,,..、 丶、  冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
                             ,'  /´      ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
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                            | l   ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
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.

173名無しさん:2018/11/13(火) 16:55:07 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    午前十時〇四分  ヴィップ大学
                         ─━┛
 
 
 
(;´・ω・`) 「なんでえ!? なんでえ!?」
 
(゚ー゚;トソン 「うっわ懐かしい声……」
 
(゚ー゚;トソン 「警部! どうしてここにいるんですか!」
 
(;´゚ω゚`) 「シャラーーーーーーップ!!」
 
(;´゚ω゚`) 「………大声で、警部、ッて言うんじゃない……!」
 
(゚、゚;トソン ?
 
 
 因縁だ。
 因縁なのだ。
 
 因縁以外の何物でもないのだ。
 
.

174名無しさん:2018/11/13(火) 16:55:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 確かに僕は、長年刑事を勤めている。
 そのなかで、多くの人間を見てきた。
 
 一期一会の人間が多ければ、なにかの縁で再会する人間もいる。
 僕が逮捕した人間に恨まれることもあれば、
 僕が救った被害者家族から感謝される付き合いもある。
 
 ただ。
 そんな刑事人生のなかで、一際異彩を放つ存在がいた。
 
 どうしてか、どおしてか、
 まるで後でもつけているかのような頻度で、
 僕が扱う事件に巻き込まれる、あるいは首を突っ込む女の子だ。
 
 
(゚、゚;トソン 「警部は……警部ですよね」
 
(゚、゚;トソン 「あれ、もしかして……リストラ?」
 
(´゚ω゚`) 「ンなわけあるかい!」
 
(´゚ω゚`) 「バリバリ現役の敏腕刑事じゃい!」
 
(゚、゚トソン 「大声…」
 
(´・ω・`) 「あっ…」
 
.

175名無しさん:2018/11/13(火) 16:56:17 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 都村トソン。
 通称事件体質。
 
 いつ出会ったのかすら覚えていない。
 彼女が高校生だった頃に、特に何度も出会った記憶がある。
 
 いま、何歳なのだろうか。
 少なくとも、大学生と呼べる歳で、実際大学生なのだろう。
 大学生じゃないのにこの場で出会ってしまったとしたら、それは災いだ。
 
 
( ´・ω・) 「……」
 
(´・ω・`) 「ちょっと、ついてきて」
 
(゚、゚トソン 「えっ」
 
 周囲には、誰もいなさそうだ。
 だが、念のため、適当な教室に隠れよう。
 
 トソンちゃんを連れて、ちいさな教室に入った。
 事態を飲みこめていないであろうトソンちゃんは、黙ってきょろきょろしていた。
 
(´・ω・`) 「ちょっと座っとくか」
 
(゚、゚トソン 「…」
 
.

176名無しさん:2018/11/13(火) 16:56:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 トソンちゃんとは、ここ最近、会っていなかった。
 連絡先は知っていたが、そもそもが刑事と女学生。
 よほどのことがない限り、連絡を送り合うようなことはなかった。
 
 連絡をやるまでもなく、この子の場合、
 勝手に僕の行動範囲内に突っ込んでくるのだけど。
 
 
(゚、゚トソン 「えっと」
 
(゚、゚トソン 「なんだろう……」
 
(´・ω・`) 「どしたの?」
 
 大学の机というものはこんなに奥行きが狭いのか。
 トソンちゃんが妙に近くて、目のやり場に困る。
 
 歳を取り、大学生になっていただけあって、さすがに美人にはなっていた。
 一番は、化粧を覚えていたところにあるのだと思うけども。
 
 
(゚、゚トソン 「次、警部に会ったら、どんな話を聞こう」
 
(゚、゚トソン 「とか。 いろいろ考えてたハズなんですけど…」
 
(゚、゚トソン 「いざ会ってみると、話のタネなんて、全然浮かんでこないですね」
 
.

177名無しさん:2018/11/13(火) 16:57:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「なんかね、毎回事件の話聞いてくるけど」
 
(´・ω・`) 「きみと会う時ッて、だいたい余裕がない時なんだよ」
 
 特に今、この瞬間、
 僕は言ってしまえば、今年最大の事件と戦っているのだから。
 
 
(´・ω・`) 「わかるゥ?」
 
(゚、゚トソン 「余裕のない大人にはなりたくないな…」
 
(´゚ω゚`) 「わかれこの野郎!」
 
 親子ほど離れている、と言っていい年齢差だ。
 本来、一般人は、刑事というものにある程度は畏縮するはずなのに。
 
 トソンちゃん本来の性格もあるのだろうけど、
 互いがいじりいじられの微妙な関係が、何年間もかけて築かれていた。
 
 
(゚、゚トソン 「あ、あ。」
 
(゚、゚トソン 「刑事はいないんですか。 刑事」
 
(´・ω・`) 「ワカッテマス?」
 
.

178名無しさん:2018/11/13(火) 16:58:53 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 トソンちゃんは、ショボーン班の古株とは面識がある。
 具体的に言えば、ワカッテマス、ぎょろ目、ペニーだ。
 壁とは面識はなかったとは思うんだがな。
 
(´・ω・`) 「いま、事情があって、僕ひとりだ」
 
(゚、゚トソン 「事情、って」
 
 
(゚、゚トソン 「……例の、連続殺人ですか」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 恐ろしく察しがいいのか、女の勘ッてやつなのか。
 この場での即答は想定していなかったので、思わず答えに詰まった。
 
 
(´・ω・`) 「し、知っているのかい?」
 
(゚、゚トソン 「何かで見ましたよ」
 
(゚、゚トソン 「警部が担当する……って話」
 
.

179名無しさん:2018/11/13(火) 16:59:43 ID:H3jyKtig0
支援
ここで巻き込まれ体質の人キター

180名無しさん:2018/11/13(火) 17:00:06 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「そ、そうか」
 
 一般市民は、誰が担当するかなんて、一切興味がないと思うのに。
 つくづく、異彩を放つ子だ。
 
(゚、゚トソン 「……あの、警部」
 
(´・ω・`) 「ん」
 
(゚、゚トソン 「今日、実は、大学、休みなんですよ」
 
(゚、゚トソン 「いきなり。 それも、緊急メンテナンス」
 
(´・ω・`) 「ふんふん」
 
 
(゚、゚トソン 「……次の予告が、ここにきたのですよね?」
 
(´・ω・`) 「実は、ッて、なんで断定してんのさ!」
 
 きたのですか、だろう、ふつう。
 別にこの子には隠すつもりはないけども。
 僕がこの場にいて、この子が僕の担当を知っている時点で、隠し通せはしない。
 
.

181名無しさん:2018/11/13(火) 17:01:00 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「逆に、どォーして、トソンちゃんはここにいるのよ」
 
(´・ω・`) 「休講の告知はもう出されてるし、職員も避難勧告出してんのに」
 
(゚、゚トソン 「気になったから」
 
(´・ω・`) 「気に……」
 
 理由になってないぞ。
 
 
(´・ω・`) 「まあ、いいよ」
 
(´・ω・`) 「知られちまったのなら、仕方ないさ」
 
 毎度毎度、この子を事件に巻き込ませないために、僕は頑張っているんだ。
 実際どうなってきたかはさて置いて、
 僕は個人的な面識があるからといって、一般市民扱いしないことはない。
 
 亡霊の凶刃に、もちろんトソンちゃんも晒すわけにはいかない。
 いかない、ものの、下手に隠したら余計に厄介なのも経験済みだ。
 
.

182名無しさん:2018/11/13(火) 17:01:44 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「いいか」
 
(´・ω・`) 「あくまでこれは、捜査機密だ」
 
(゚、゚トソン 「もうそんな関係じゃないでしょ」
 
(;´・ω・`) 「あのねえ! こっちは真面目に言ってんの!」
 
 なに事件体質を開き直って良いことであるかのようにしているんだ。
 しかも以前より、いくらか饒舌になっている。
 
 
(´・ω・`) 「げぇほん!」
 
(´・ω・`) 「お察しの通りだよ」
 
(´・ω・`) 「例の事件の犯人が、次はこの大学宛てに予告を出した」
 
(゚、゚トソン 「……」
 
 やっぱり、と言いたげな顔色だ。
 どこまで言うかが悩ましいものの、当たり障りのないことだけ話そう。
 亡霊の話なんかをしたって、トソンちゃんには関係ないのだ。
 
.

183名無しさん:2018/11/13(火) 17:02:20 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「僕は大学に、箝口令を命じた」
 
(´・ω・`) 「また、大学を今日一日、止めるよう指示した」
 
(´・ω・`) 「いま避難勧告を出して回っているのも、事件に巻き込ませないためだ」
 
(゚、゚トソン 「そういうのって、実際効き目あるんですか?」
 
(´・ω・`) 「トソンちゃんみたいな子が多いから効き目薄いんだよ!」
 
 まあまあ、と僕を制してくる。
 いったい誰のつもりなんだ。
 
 
(´・ω・`) 「で、犯人の要求はふたつ」
 
(´・ω・`) 「ターゲットを大学に連れてくること」
 
(´・ω・`) 「僕ひとりだけが来ること」
 
(゚、゚トソン 「…!」
 
(´・ω・`) 「だから、ワカッテマスもペニーも、ここにはいないぜ」
 
.

184名無しさん:2018/11/13(火) 17:02:45 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ここで、単なる野次馬精神で、
 ターゲットはどんな人だ、とか聞かれたら面倒だな。
 なんて構えてはいたが、さすがにトソンちゃんもそこまで無神経ではなかった。
 
(゚、゚トソン 「……」
 
 鼻を鳴らし、何度か頷く。
 
(´・ω・`) 「そんな具合だな」
 
(´・ω・`) 「今はまだ時間があるからこうして構ってあげられるけど」
 
(´・ω・`) 「今回ばかりは、たとえトソンちゃんだろうとだめだ」
 
(´・ω・`) 「無理にでも帰ってもらうよ」
 
 
(゚、゚トソン 「でも、犯人って、関係ない人を殺すつもりはないんでしょ」
 
(´・ω・`) 「いや、その可能性が低くはないから、みんな自宅に帰してるんだ」
 
(゚、゚トソン 「…!」
 
.

185名無しさん:2018/11/13(火) 17:03:46 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 おっ。
 今のは効いたかな。
 
 トソンちゃんは、事件体質でこそあるものの、
 自分にまで被害が及びかねないことをよしとするわけでは決してない。
 
(゚、゚トソン 「……そうですか」
 
(´・ω・`) 「ごめんねえ。 終わったら今度、飲み行こうよ」
 
(´・ω・`) 「もう、お酒飲める歳なんだろう?」
 
(゚、゚トソン 「お酒は、いや……」
 
 
(゚、゚;トソン 「あっ!」
 
(´・ω・`) 「えっ」
 
 急になんだ。
 思わずトソンちゃんの視線の先を追ってしまった。
 誰か、それこそ亡霊が後ろにでもいたんじゃないか、みたいな。
 
 そこには、人も車も少ない、駐車場しか広がっていなかった。
 経済学部棟の裏には、駐車場があるようだ。
 
.

186名無しさん:2018/11/13(火) 17:04:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚;トソン 「警部、警部……」
 
(´・ω・`) 「な、なんだなんだ」
 
 トソンちゃんが急に縮こまり、僕に耳打ちしてきた。
 顔色からして、ふざけるつもりはなさそうだけど。
 
 
(゚、゚トソン 「………地下鉄で殺人って、ありましたよね」
 
(´・ω・`) 「え」
 
(´・ω・`) 「あったけど……何。」
 
(゚、゚トソン 「………その車両に、私、乗ってたんですけど……」
 
(´・ω・`) 「へえ……え?」
 
 
(;´・ω・`) 「えっ?」
 
.

187名無しさん:2018/11/13(火) 17:04:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 前言撤回だ。
 決して、彼女の秘めたる野次馬根性が原因ではない。
 
 得体の知れない力によって備わっているのだ。
 都村トソンという女の子の持つ事件体質というものは。
 一緒に旅行に行きたくない友だちナンバーワンだろう。
 
(;´・ω・`) 「乗ってたッて……」
 
(;´・ω・`) 「その駅にいたとか、じゃなくて?」
 
(゚、゚トソン 「車両です」
 
(゚、゚トソン 「……目の前、とかじゃなかったけど、同じ車両でした」
 
(;´・ω・`) 「………」
 
 きみが殺ったんじゃないだろうな。
 冗談半分で言いかけたそれを、ひっこめる。
 
 
(´・ω・`) 「取調は、受けたのかい?」
 
(゚、゚トソン 「受けましたよ、一応」
 
.

188名無しさん:2018/11/13(火) 17:05:15 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ただ。
 気まずそうな声で、続ける。
 
(゚、゚トソン 「ちょっと、悪酔いしてたのもあって」
 
(゚、゚トソン 「大した証言も、できなかったんですけど……」
 
(´・ω・`) 「ふむ」
 
 さすがに、地下鉄殺人の乗客全員分のデータなんて確認していない。
 スポットが当たっていない以上、価値ある証言は取られなかったんだろう。
 
(´・ω・`) 「一応聞かせてくれるかな」
 
(´・ω・`) 「当時の状況ッていうか、さ」
 
(´・ω・`) 「いま思うと、変だったなァ、ってこと」
 
(゚、゚トソン 「………」
 
 うーん、と唸る。
 これは期待できないか。
 
.

189名無しさん:2018/11/13(火) 17:05:47 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「なんか、こう……」
 
(゚、゚トソン 「何の前触れもなかったんですよ」
 
(゚、゚トソン 「気がついたら、前の方で、人が倒れる音がして」
 
(´・ω・`) 「音、か」
 
(゚、゚トソン 「それで私もチラッと見たんですがね」
 
 前の方、という言い方からするに、
 ある程度以上の距離はあったと見ていい。
 
(゚、゚トソン 「乗客が、円を作るように被害者から離れていきましたね」
 
(´・ω・`) 「その時ッてさ」
 
(´・ω・`) 「なんか、こう……露骨に離れてく人とか、いた?」
 
.

190名無しさん:2018/11/13(火) 17:06:37 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「いましたよ、そりゃあ」
 
(´・ω・`) 「ひとり?」
 
(゚、゚トソン 「いや、何人か」
 
(´・ω・`) 「そう、か」
 
 考えてみれば、当然のことではある。
 目の前で、いきなり人が刺されて、血だまりを作っているのだ。
 無関係だろうが、逃げたくなるのは仕方のない話だ。
 
 
(´・ω・`) 「………」
 
(´・ω・`) 「そっか」
 
 思わぬところで、思わぬ人物と間接的につながる。
 今回の事件で、改めて痛感した世界の狭さ。
 
 オオカミ鉄道、アスキーミュージアム、盛岡デミタス、
 三月ウサギと三月イナリに、都村トソン。
 今後、刑事を辞めても絶対忘れられない事件となるだろう、本件は。
 
.

191名無しさん:2018/11/13(火) 17:08:17 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 連続予告殺人にしてもそうだ。
 いくつかの因縁が、そのまま十年後に反映されている。
 
 流石兄者からはじまった因縁だ。
 アウトドアサークルを結成した。
 そこで集まったうち、芹澤ミセリとクックル三階堂は籍を入れた。
 
 ヒッキー小森と山村貞子は何かしらの関係を持ち、
 十年前、崖の上から貞子を落としたヒッキーは、兄者に罪をかぶせた。
 
 他方、就職したフッサール擬古は
 何かしらの人脈でもって貞子をかぶったと思われる。
 
 盛岡デミタスという、僕個人を知る男の存在が、
 本件の調査をスムーズにした部分もある。
 
 
(゚、゚トソン 「警部は、なにしてるんですか?」
 
(´・ω・`) 「へっ」
 
 そして亡霊から告げられた文言。
 これが、最後の予告。
 
 十年前から複雑に絡み合ったいくつもの因縁は、
 本日をもって終わろうとしている。
 
.

192名無しさん:2018/11/13(火) 17:08:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「犯人……捕まえるんですよね?」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 どこまで言おうか。
 下手なことを言って、よかった試しがない。
 相手が都村トソンなら、なおのこと。
 
 犯人に人質としてとられたことがある。
 犯人の手で記憶を飛ばされかけた過去がある。
 オオカミ鉄道で爆弾騒動に巻き込まれたことがある。
 
 毒物事件では図らずも彼女の祖父と会ったし。
 その祖父のつながりで極寒の地の密室殺人を共にした。
 そこでは、爆発からのホテルの倒壊なんて目にも遭った。
 
 
(´・ω・`) 「いまは、立地の確認だ」
 
(´・ω・`) 「犯人の逃走経路、隠れられる場所、エトセトラ」
 
(´・ω・`) 「いざ犯人を確保する時に必要な情報を、集めてるんだ」
 
.

193名無しさん:2018/11/13(火) 17:09:19 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊だって、事態を知らない学生が間違えて登校しているこのタイミングで、
 大々的な殺人だったり、動きを見せることはないだろう。
 
 しかし、兄者とデミタスを呼ぶ以上、亡霊は間違いなく、来るはずだ。
 遠隔的にふたりを殺すことは、相当難しいはずなのだ。
 
(゚、゚トソン 「そこから、どうやって逮捕するんですか?」
 
(´・ω・`) 「どうしてそれを聞くんだい?」
 
 ちょっと強めに、聞き返した。
 わかっているとは思うけど、これは遊びじゃないんだぞ。
 最悪の場合、またきみに被害が及ぶんだぞ。
 
 そんな気持ちを含ませて言ったが、
 トソンちゃんは一切怯える様子もなく、答えた。
 
 
(゚、゚トソン 「だって、これでもここの学生なんですよ」
 
(゚、゚トソン 「警部がわからないことだって、ある程度ならわかるんです」
 
(゚ー゚トソン 「………。」
 
 可愛らしく首を傾げた。
 なにか、聞きたいことがあったら答えてやるぞ、ッてな雰囲気だ。
 
.

194名無しさん:2018/11/13(火) 17:09:56 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「あんねェ」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 彼女が、ちゃんとした訓練を積んだ捜査官だったら、
 仲間として秘密裏に行動を共にするよう頼むだろう。
 
 まっぴら御免だ。
 一個人としてもそうだが、それは警察が許さない。
 
 
(´・ω・`) 「たとえば、なにさ」
 
(゚、゚トソン 「へ」
 
 許さない、が。
 有益そうな情報があるのなら、それだけは頂戴しておこう。
 
(゚、゚トソン 「たとえばッて……たとえば?」
 
(;´・ω・`) 「聞くなよ!」
 
.

195名無しさん:2018/11/13(火) 17:10:30 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚;トソン 「あれですよ!」
 
(゚、゚トソン 「人目につかない場所といえば、とか」
 
(゚、゚;トソン 「大学内を一望できそうな場所はどこか、とか!」
 
 
(´・ω・`) 「あ、ああ……。」
 
(´・ω・`) 「……そうだねえ」
 
 トソンちゃんにしてはいい着眼点だ。
 と褒めたいが、さすがに成人したら、頭もよくなっているものか。
 トソンちゃんがこの場にいる時点で、僕より学はあるわけだし。
 
 
(´・ω・`) 「今日、一日暇だよね?」
 
(゚、゚トソン 「え。 まあ」
 
(´・ω・`) 「ちょっと、そのうち電話するかもしんないから」
 
(´・ω・`) 「何かあった時に、電話させてもらっていい?」
 
.

196名無しさん:2018/11/13(火) 17:11:10 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「いいですよ」
 
(゚ー゚トソン 「……なんか、懐かしい感じがしますね」
 
(´・ω・`) 「なんで嬉しそうなのさ」
 
 今回ばかりは、軽い気持ちで事件に首を突っ込もうとしたら、怒るつもりだった。
 事の重大さを知っているのだろう、そんな発言は見られなかったが、
 わくわくというか、何かこう、楽しんでいる節は、少しだけ見受けられた。
 
 
(゚、゚トソン 「いまだから言いますけど」
 
(゚、゚トソン 「私、警部のこと、尊敬してますから」
 
(´・ω・`) 「へ」
 
(゚、゚トソン 「そんな人に頼りにされて、嬉しくない人は」
 
(゚、゚トソン 「あんまし、いないと思いますよ」
 
(´・ω・`) 「……」
 
.

197名無しさん:2018/11/13(火) 17:11:56 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ちょっと照れくさくて、つい目を逸らしてしまった。
 まるで、子に今までのお礼を言われた親のような気分だ。
 まさか、この子の口から、そんな言葉が飛んでくるとは。
 
 これは、事件が解決したら、度重なる飲みで財布が軽くなりそうだ。
 
 
(´・ω・`) 「どんだけおだてても、捜査には付きあわせないからね」
 
(゚、゚トソン 「はーい」
 
 やる気のない返事をよそに、もう一度時計を見た。
 確か、亡霊からの予告では、十時には連絡をよこすと言っていた。
 
 十時、二十分ほどだ。
 まだ電話はきていない。
 
 公的な予告でもないのだから、別段おかしいわけではない。
 ただ、それまでのことを考えると、引っかかる部分はあった。
 かといって、トソンちゃんと話している最中にかけられるよかマシだけど。
 
.

198名無しさん:2018/11/13(火) 17:12:27 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「……さっきから」
 
(゚、゚トソン 「ずっと時間気にしてますけど、何か?」
 
(´・ω・`) 「ん。 ああ、まあ」
 
 デート中の彼女みたいなことを言いやがって。
 何か、もなにも、目下事件担当中だ。
 
 
(゚、゚トソン 「……」
 
(゚、゚トソン 「警部」
 
(´・ω・`) 「なにさ」
 
(゚、゚トソン 「ほんとうに、ひとりで相手、するんですか?」
 
(´・ω・`) 「もちろん」
 
 犯人から、ひとりで来い、と言われたり。
 警察は来るな、と言われたりすることは多い。
 
 その時、どう動くかは事件次第だけど、
 今回は、僕の単騎は部下の全員が賛成した。
 
.

199名無しさん:2018/11/13(火) 17:13:01 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 なにも、面倒な上司はいないほうがいい、
 なんてナンセンスな考えではない。
 
 決着をつけるには、僕ひとりがベストだと判断してくれたのだ。
 いつもなら、やれ潜伏、やれ変装、など様々な案が出るのだが。
 ぎょろ目が、静かにみんなの待機の有無を確認してくれたくらいだ。
 
 ぎょろ目たちの応援は、断っておいた。
 ただ、近隣の所轄署に、待機を命じてある。
 有事にはすぐさま対応させるつもりだ。
 裏を返せば、その程度しか備えてはいない。
 
 
(゚、゚トソン 「……勝てるんですか?」
 
 兄者もデミタスも、今はキャリアセンターに預けてある。
 絶対的に安全なわけではないが、複数人が見ているなかでの殺害は不可能だ。
 指示がくるまでは、凶刃に晒すつもりなどさらさらない。
 
(´・ω・`) 「僕を、誰だと思ってるんだい?」
 
(´^ω^`) 「あの、偽りを見抜く敏腕刑事だぜ?」
 
.

200名無しさん:2018/11/13(火) 17:13:22 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「……」
 
 トソンちゃんは、笑わない。
 別に、僕のことを疑っているわけでないのはわかっている。
 
 ただただ、不安なのだ。
 トソンちゃんは、多くの事件を経験して、
 如何に事が深刻なのかは、容易に察しがつくのだ。
 
 
(゚、゚トソン 「あ、あの」
 
(´・ω・`) 「だめだぜ」
 
(゚、゚トソン 「怪しい人がいるかどうかを、教室から見下ろすくらい……」
 
(´・ω・`) 「僕と亡霊の、一騎打ちなんだ」
 
(゚、゚トソン 「亡霊…?」
 
(´・ω・`) 「おっと」
 
 思わず口が滑ってしまった。
 が、まあいいだろう。
 
.

201名無しさん:2018/11/13(火) 17:14:01 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「言葉のあや、さ」
 
(´・ω・`) 「犯人は、一度も姿を見せていない」
 
(´・ω・`) 「亡霊みてーだな、ッて、うちで話題になってたんだ」
 
(゚、゚トソン 「す」
 
 兄者と話してきたせいか、咄嗟の作り話がうまくなっていた。
 いま、兄者は、デミタスとどんな話をしているのだろうか。
 
 十年前の真実を、打ち明けているのだろうか。
 
 
(゚、゚トソン 「姿がわからないのに」
 
(゚、゚トソン 「どうやって、捕まえるつもりなんですか」
 
(´・ω・`) 「ある程度の情報は、入ってる」
 
(´・ω・`) 「そうだ。 怪しい女性、見なかった?」
 
(゚、゚トソン 「女性?」
 
.

202名無しさん:2018/11/13(火) 17:14:27 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 僕の暫定的なプランは、
 犯人の指示を受けたうえで、犯人がどこから何を企んでいるのかを、見抜く。
 
 亡霊のことだ、無理心中すら厭わない可能性も捨てきれない。
 指示された場所に、ふたりを連れていく最中に、
 後ろから特攻されるわけにはいかない。
 
 となると、猶予は、数分。
 もっと言うと、電話を切るまでの間。
 
 特定しようとしているのを察知されないよう、自然に。
 足音を殺して、数分で即座に、答えを出すのだ。
 今まで扱ってきた事件のなかでも、難度の高い条件だが。
 やるしかない。
 
(´・ω・`) 「見た目は、詳しくはわからない」
 
(´・ω・`) 「ただ、細い、不健康そうな女性ッてイメージだ」
 
(゚、゚トソン 「細い……もなにも」
 
(゚、゚トソン 「……おばちゃん、ではないんですよね?」
 
(´・ω・`) 「歳は、三十ほど」
 
(´・ω・`) 「老け顔、かはさて置いて、見るからに三十代でなかったら除外だ」
 
.

203名無しさん:2018/11/13(火) 17:15:05 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 十年ぶりの起床を遂げた亡霊が、
 現在どんな容姿になっているかは想像すらできない。
 
 事が事だ、異常に老けているかもしれない。
 ただ、痩せていることには違いないだろう。
 筋肉は衰弱しているはずなのだ。
 
 
(゚、゚トソン 「それは……見てないですね」
 
(゚、゚トソン 「スーツ着た、五十代くらいの恰幅のいい女性はひとり、見ましたが」
 
(゚、゚トソン 「見たことがあります、たぶん人事の人です」
 
(´・ω・`) 「その人は違うね」
 
 実際誰かはわからないけど、あらゆる条件が噛み合っていない。
 なるほど、しれっと騒動に紛れている線は薄いか。
 
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 ついに来た。
 050電話。 亡霊からのいざない。
 思わず僕は音を立てて立ち上がった。
 
.

204名無しさん:2018/11/13(火) 17:15:25 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「…!」
 
 声のトーンを落とし、ゆっくり扉のほうへ向かう。
 時刻は十時二八分。
 結構な遅刻だ、事情があったのだろうか。
 
 
(´・ω・`) 「……僕だ」
 
  『おはようござます。 ショボーン警部』
 
(´・ω・`) 「生憎だけど、犯罪者に朝の挨拶はしないことにしてるんだ」
 
  『犯罪者?』
 
 亡霊がクスクス笑う。
 機械を通したかのような声だ。
 
 しかし今思えば、転落の兼ね合いで、声帯を潰した可能性もあるのか。
 それとも、当人的には、亡霊たる演出に過ぎないのか。
 
 
  『言ったでしょう?』
  『亡霊は、罪を犯すことはできても、犯罪者にはなれません』
 
.

205名無しさん:2018/11/13(火) 17:15:56 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ゆっくり、廊下へと出る。
 そのまま、ゆっくり、建物の、外へ。
 
 
(´・ω・`) 「違うね」
 
(´・ω・`) 「犯罪は、足がある人間にしかできないんだ」
 
(´・ω・`) 「足のない亡霊は、そもそも犯罪なんてしようがない」
 
  『あら』
  『かばってくださるのかしら』
 
 
(´・ω・`) 「まったくの逆さ」
 
(´・ω・`) 「きみは、しっかり足の生えた、生身の人間だッて言ってるんだ」
 
  『足なんてとっくに燃やされたわ』
  『墓場を漁ったら、もしかしたらその時の骨が残っているかもね』
 
 まったくをもってくだらない。
 荼毘に付されたなら、その電話はどう握っているのだ。
 ほんとうに亡霊なら、テレパシーで予告してくるがいい。
 
.

206名無しさん:2018/11/13(火) 17:16:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「もういいだろう」
 
(´・ω・`) 「くだらない雑談で貰う給料なんて、ないんだ」
 
 周囲を見渡す。
 人気は、ほとんどない。
 初老の教授や、働き盛りのスーツ姿が見える。
 
 亡霊はどこだ。
 いま、僕を見張っているのか。
 
 
(´・ω・`) 「いま、兄者とデミタスは、安全な位置で保護している」
 
(´・ω・`) 「話がないなら、一生、逆恨みのチャンスはないぜ」
 
  『逆恨みですって』
  『この国では、逆恨みじゃなくて、復讐と言うのですよ』
 
 
(´・ω・`) 「復讐だと?」
 
(´・ω・`) 「復讐なら、とっくに済んでいるのだぞ?」
 
.

207名無しさん:2018/11/13(火) 17:16:55 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『と、言いますと』
 
 そうか。
 僕の推理が正しければ、
 貞子は、十年前、兄者に殺されたつもりでいるのだ。
 
 これは、いい武器だ。
 うまく使えば、あわよくば事件を未然に防げるかもしれない。
 
 十中八九叶わないと知っていても、
 亡霊を揺さぶるにはこの上ない武器に違いない。
 
 
(´・ω・`) 「大袈裟な復讐劇、ごくろうさん」
 
(´・ω・`) 「きみの狙いは、流石兄者。 違うか?」
 
  『も、ですね』
  『盛岡デミタスも、狙いです』
 
(´・ω・`) 「と見せかけて、だ」
 
(´・ω・`) 「きみは、サークルのみんなを抹殺することで、」
 
(´・ω・`) 「創設者であり、中心人物であり、」
 
(´・ω・`) 「自分を殺した男を、劇的に殺害する」
 
(´・ω・`) 「違うか?」
 
.

208名無しさん:2018/11/13(火) 17:17:15 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『……』
 
 亡霊が黙る。
 そこまで調べているのか、という意味で、いいのか。
 
  『半分、当たりです』
 
 
(´・ω・`) 「半分だけかい?」
 
  『確かに、兄者を殺すのが、第一目標でした』
  『ただ、やっぱり、サークルそのものを、ぶっ潰したかった』
  『私がいた痕跡を、消したいのです』
 
(´・ω・`) 「痕跡なんて、残ってないぜ」
 
(´・ω・`) 「十年前の一件は、事故として、処理されていた」
 
(´・ω・`) 「それ以降、警察は誰も、貞子という亡霊を、疑ってこなかった」
 
  『……』
  『事故、ですか』
 
 そうか。
 事故として処理されていることすら、ふつうはわからないのか。
 
.

209名無しさん:2018/11/13(火) 17:17:41 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「知らなかった、かな」
 
  『……』
 
 肝心なところで、沈黙が多い。
 ここらは、兄者と似通っている。
 やりづらい相手でこそあるが、こちらには、武器があるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「ならもう一個、教えてやろう」
 
(´・ω・`) 「これはおそらく、きみも知らないことだ」
 
  『なんでしょう』
 
 こちらのペースに、持っていけている。
 亡霊は、指示をそっちのけで、僕の話に集中しているのがわかる。
 
 
(´・ω・`) 「十年前にきみを殺したのは兄者」
 
(´・ω・`) 「……実は、昨日付で、その真実は更新された」
 
.

210名無しさん:2018/11/13(火) 17:18:10 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「きみを殺したのは、ヒッキー小森」
 
(´・ω・`) 「既にきみが殺した、あの男だったんだ」
 
  『!』
 
 亡霊が、露骨に反応した。
 息を詰まらせたかのような音だ。
 
 さて、どう、出る。
 もう 「復讐」 は済んでしまっていたのだぞ。
 
 
  『………』
  『なにを、根拠に』
 
(´・ω・`) 「兄者が自供したさ」
 
  『それはあり得ない』
 
(´・ω・`) 「…!」
 
.

211名無しさん:2018/11/13(火) 17:18:36 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 いま、僕は、かまをかけた。
 兄者は、確かに自供はしたが、
 始終、それも十年以上もの間、自分が犯人だと信じていた。
 
 ロジックの積み重ねが、それを否定したのだ。
 犯人はヒッキー小森だ、と示すことで。
 
 
  『犯人は、兄者なのです』
 
(´・ω・`) 「疑いたい気持ちは、わかる」
 
(´・ω・`) 「だが、真実は、違った」
 
 
(´・ω・`) 「兄者は、きみを突き飛ばした」
 
(´・ω・`) 「その弾みで、きみも兄者も、気絶した」
 
(´・ω・`) 「そこに現れたのが、ヒッキーだ」
 
(´・ω・`) 「気絶したきみを、崖の向こうに………落としたんだ」
 
.

212名無しさん:2018/11/13(火) 17:19:12 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『違う』
  『絶対にあり得ない』
 
(´・ω・`) 「どうして、そう言い切れる?」
 
  『それは』
  『…………』
 
 亡霊が押し黙る。
 亡霊本人にも、否定のしようがないのだ。
 なぜなら、本人視点で言えば、兄者に突き飛ばされて、記憶を失ったのだから。
 
 そこで転落したのか。
 第三者が割って入ったのか。
 亡霊には、証明のしようがない。
 
 
  『……』
  『なんでもいいです』
 
(´・ω・`) 「!」
 
.

213名無しさん:2018/11/13(火) 17:19:48 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『ここまできたら、後には引けません』
  『では約束通り、兄者とデミタスを渡していただきます』
 
(´・ω・`) 「どうしてだ」
 
(´・ω・`) 「きみの目的は、復讐じゃなかったのか」
 
(´・ω・`) 「もう、復讐は、終わったんだぞ」
 
  『理屈ではありません』
  『後には引けないのです』
 
(´・ω・`) 「いいのか?」
 
(´・ω・`) 「今までは出し抜かれてきたが、」
 
(´・ω・`) 「逆に言えば、いまここで逃げれば、きみは僕に勝てるんだぞ」
 
 亡霊は笑わなかった。
 真犯人の件で、頭がいっぱいなのだろうか。
 
 
  『なんですか、それ』
  『まるで、今日、私が捕まるかのような』
 
.

214名無しさん:2018/11/13(火) 17:20:20 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「捕まえてみせるさ」
 
(´・ω・`) 「亡霊を捕まえる………今日、この、僕が」
 
  『ッ』
 
 
 大見得でも、リップサービスでもない。
 もっと言うと、もしここで手を引こうが、逃すつもりはない。
 ただ、兄者とデミタスの安全が確定するなら、それに越した話はなかっただけだ。
 
 
  『……笑わせないでください』
  『何度も言ったでしょう?』
 
  『私は、亡霊』
  『どんな刑事でも、捕まえられない罪人』
 
 
(´・ω・`) 「……あと、数時間、すれば」
 
  『なんでしょう』
 
.

215名無しさん:2018/11/13(火) 17:20:41 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「きみの正体を、特定できる」
 
  『!』
 
(´・ω・`) 「約束通り、僕は、今日、ひとりで来た」
 
(´・ω・`) 「だがね」
 
(´・ω・`) 「裏では、何百人もの人間が、きみの正体を特定しにかかっている」
 
 
(´・ω・`) 「ヴィップだけではない。 アルプス県警も動いている」
 
  『なッ!!』
 
 亡霊が今までの非にならない声をあげた。
 それまでのか細い声が一転、太く、腹の黒さが窺える低い声だった。
 
 
  『いますぐ、やめさせなさい』
  『でなければ、』
 
(´・ω・`) 「ほんとうに、きみが亡霊なら、その必要もないだろう?」
 
  『ッ!』
 
.

216名無しさん:2018/11/13(火) 17:21:02 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「どんな刑事でも、捕まえられない罪人」
 
(´・ω・`) 「自分で言った言葉だぜ?」
 
  『関係ありません』
 
(´・ω・`) 「あるんだ、これが」
 
  『いますぐやめさせないと、一般人も、』
 
(´・ω・`) 「できるのか?」
 
  『なに?』
 
(´・ω・`) 「兄者とデミタスを殺して、お縄に掛かるならわかる」
 
(´・ω・`) 「長年の恨みを晴らせたんだ、きみ的には上々だろう」
 
 
(´・ω・`) 「でもなァ」
 
(´・ω・`) 「残りふたりは殺せないわ、それで足がつくわッてなったら」
 
 
(´・ω・`) 「十年の歳月は、すべてパァ」
 
(´・ω・`) 「なんともみっともない復讐劇の幕引きなんだぜ」
 
.

217名無しさん:2018/11/13(火) 17:21:31 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『……ッ』
 
(´・ω・`) 「加え、僕は」
 
(´・ω・`) 「事件が終わった暁には、すべてのストーリーを公表するつもりだ」
 
  『!』
 
(´・ω・`) 「どうして、きみが亡霊になったのか」
 
(´・ω・`) 「  ッてより、亡霊に、成り切っていたのか」
 
(´・ω・`) 「そんなとこから、ケツの、亡霊を逮捕するまで……すべて」
 
  『なッ…』
 
 
(´・ω・`) 「見せしめさ」
 
(´・ω・`) 「最近、呪いとか祟りを持ち出して人を殺すバカが、多いんだ」
 
 
(´・ω・`) 「実際は、こうも情けないんだぜッていう前例に、するんだ」
 
(´・ω・`) 「きっと、悪徳商法なんかも、少しは減るだろうね」
 
.

218名無しさん:2018/11/13(火) 17:22:03 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 電話越しに、亡霊の息遣いが荒くなってきているのが伝わる。
 気づかなかったか。
 きみは、自ら窮地に足を突っ込みつつあるのだぞ。
 
 亡霊のくせにある足を、だ。
 
(´・ω・`) 「さて、それでもきみは、兄者とデミタスを殺すんだろう?」
 
(´・ω・`) 「僕が、責任をもって連れていこう」
 
 
(´・ω・`) 「なに、ふたりを殺して、僕に捕まる前に成仏すりゃあいいだけだ」
 
(´・ω・`) 「違うかい?」
 
 とことん、亡霊を煽る。
 おそらく頭の切れる女なのだろうが、
 思っていた通り、プライドが高く、ペースを崩されることを嫌う人間だ。
 
 
 無論。
 兄者も、デミタスも、殺させるつもりはない。
 
.

219名無しさん:2018/11/13(火) 17:22:50 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『……まあ、いい』
  『最初の指示です』
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 最初の、だと。
 ふざけるな。
 この上なく、嫌な予感がしやがる。
 
 
  『流石兄者を、文学部学生課へ』
  『盛岡デミタスを、法学部学生課へ』
 
  『それぞれ、連れていくこと』
 
 
(´・ω・`) 「……なんだって?」
 
(´・ω・`) 「それでいいのか?」
 
 学生課、というと、要は職員室だ。
 かえって不利にならないのか。
 
.

220名無しさん:2018/11/13(火) 17:23:13 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『軽く見回ってみましたが』
  『結構、職員は多くいらっしゃる』
  『人が多いほうが殺しやすい。 当然の判断です』
 
  『先に言っておきますが』
  『これはあくまで、第一の指示です』
  『第二の指示があるまで、職員にも、ふたりにも、迂闊な行動はさせないように』
 
  『あなたもですよ、ショボーン警部』
 
(´・ω・`) 「………」
 
 
 まず真っ先に考えたのは、
 亡霊は当初、どうやってふたりを殺すつもりだったのか。
 
 予告は確かに受けたし、大学もそれに合わせて動いたが、
 僕が大学にどう指示を出すのか、それで大学がどう対応するのか。
 予告を出した時点での亡霊には、読みづらいはずだ。
 
 もし、僕ら以外が完全に無人だったら、どうだったか。
 確実に殺す方法を考え、トリックを用意しておかなければ、逃げようがない。
 どこで何が起ころうが、すべて亡霊の仕業になるのだから。
 
.

221名無しさん:2018/11/13(火) 17:23:37 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 というより、本来ならば、まずそちらを考えるはずなのだ。
 もし仮にある程度人がいたとして、したがって職員室を選ぶのは不自然だ。
 
 亡霊は奇妙なことを言った。
 第一の指示である、と。
 
 職員室を選んで、そこからターゲット以外を無人にするのだろうか。
 確かに、ふたりを分けるのは、理解ができる指示である。
 ふたりを固めるよか、よっぽど殺しやすい。
 
 そして、口走っていた、人が多いほうが殺しやすい。
 これはどういうことだ。
 地下鉄殺人よろしく、人混みに紛れて殺すつもりなのか。
 
 職員室である必然性。
 第二の指示の不透明感。
 人が多いことの優位。
 
 どう、捉えるべきか。
 
 
(´・ω・`) 「……わかった」
 
(´・ω・`) 「十分もあれば対応できる。 十分後に、もう一度電話をよこせ」
 
.

222名無しさん:2018/11/13(火) 17:24:00 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊は言った。
 
  『その時がくれば』
 
 そして、電話は切れた。
 不吉な予感こそ抱きつつも、ひとまず指示に従うしかない。
 
 歩いて、ふたりを預けてあるキャリアセンターに向かう。
 できれば何人か職員を同行させたいが、無駄なひんしゅくは買いたくない。
 あくまで指示は、迂闊な行動はさせるな、だ。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
 キャリアセンターには、学長をはじめ初老の男性が多く詰めていた。
 兄者とデミタスは、無言のまま、椅子に座っていた。
 
 
(´・_ゝ・`) 「……どうでしたか」
 
(´・ω・`) 「奴からの指示だ」
 
(´・ω・`) 「あんたは、法学部。 兄者は、文学部」
 
(´・ω・`) 「それぞれの学生課に、ひとまず向かってもらう」
 
.

223名無しさん:2018/11/13(火) 17:24:30 ID:awrZmDFg0
支援

224名無しさん:2018/11/13(火) 17:24:33 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「学生課……?」
 
(´・ω・`) 「意図は、正直言ってわからん」
 
(´・ω・`) 「ただ、察するに、一旦ふたりを分けようとしてるんだ」
 
(´・_ゝ・`) 「………」
 
(´^_ゝ^`) 「いっぺんに殺せば楽なのにね、あの子も」
 
(´・ω・`) 「言ってる場合か」
 
 デミタスなりのブラックジョークなのだろう。
 小心者のデミタスが落ち着いているのが、不幸中の幸いだった。
 
 いつ、自分が殺されるかわからない。
 そんな状況下で笑えるのは、大した肝っ玉と言わざるを得ない。
 先に、落ち着いているデミタスから連れていくことにした。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
( :::´_ゝ) 「……」
 
.

225名無しさん:2018/11/13(火) 17:25:30 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 寝れなかったのだろうか。
 トラウマに触れるだけでなく、偽ってきた過去を暴かれ、
 挙句己の親友が真犯人だったこと、自分がハメられたこと、
 その全てを知ってしまったがゆえに、兄者はやつれているようだった。
 
(´‐ω‐`)
 
(´・ω・`) 「これが終わったら、墓参りに行こう」
 
(´・ω・`) 「墓の前で、とことん怒鳴ってやれ」
 
( :::´_ゝ) 「……。」
 
( :::´_ゝ) 「………そうだな」
 
 
 学長に目礼を交わしつつ、デミタスを連れてその場を後にした。
 デミタスは、おじける様子を見せず、足取りも平常通りだった。
 
 その後ろ姿を見て、複雑な気持ちになる。
 昔も、自分はこの男の姿を間近で見た。
 
 忘れるに忘れられない、密室鉄道。
 この男と僕をつなぐ、一本の因縁の線路。
 一歩間違えてしまえば、数分後には、もう二度と見れなくなるかもしれない姿。
 
 是が非でも、亡霊を、捕まえなければならない。
 
.

226名無しさん:2018/11/13(火) 17:27:06 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    午前十時三九分  ヴィップ大学
                         ─━┛
 
 
 
 先日の、アルプス山脈の寒さが一切感じられない天気だ。
 デミタスは無事、法学部の学生課まで連れていけた。
 キャリアセンターほどの人数はいなかったが、相互監視はまあ機能するだろう。
 
 油断などではない。
 ただ、当然と言えば当然だが、あまりにも僕側に課せられるハンデが大きい。
 せめて、ふたりを一緒の位置に固められていたならば、と思う。
 
 
(´・ω・`) 「…あ」
 
 そういえば、トソンちゃんを放置してしまった。
 また人質なんかに取られるようなことがなければ、いいけど。
 
 強く釘は刺してある、あまり懸念しないでおこう。
 もとより、最悪の事態に備えて、少なくはない職員、教授が協力してくれている。
 いざとなれば、近くの署や交番に片っ端から応援を要請してやる。
 
.

227名無しさん:2018/11/13(火) 17:27:44 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    午前十時三九分  ヴィップ大学
                         ─━┛
 
 
 
 先日の、アルプス山脈の寒さが一切感じられない天気だ。
 デミタスは無事、法学部の学生課まで連れていけた。
 キャリアセンターほどの人数はいなかったが、相互監視はまあ機能するだろう。
 
 油断などではない。
 ただ、当然と言えば当然だが、あまりにも僕側に課せられるハンデが大きい。
 せめて、ふたりを一緒の位置に固められていたならば、と思う。
 
 
(´・ω・`) 「…あ」
 
 そういえば、トソンちゃんを放置してしまった。
 また人質なんかに取られるようなことがなければ、いいけど。
 
 強く釘は刺してある、あまり懸念しないでおこう。
 もとより、最悪の事態に備えて、少なくはない職員、教授が協力してくれている。
 いざとなれば、近くの署や交番に片っ端から応援を要請してやる。
 
.

228>>227ミス:2018/11/13(火) 17:28:30 ID:0on9OJjc0
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
(´・ω・`) 「……なんだなんだ」
 
 見覚えのない電話番号から着信が鳴った。
 思わず、どきりとした。
 
 亡霊からの電話に備えて、ワンコール以内に出られるようにはしてあった。
 亡霊でなくとも、ヴィップ県警やアルプス県警からの情報は、死活問題だ。
 ただ、手に取った電話のディスプレイには、見慣れない番号が映っていた。
 
 
(´・ω・`) 「もしもし、ショボーンです」
 
 電話を取って、息遣いというか、第一声を聞いて相手がわかった。
 学長だ。
 今朝、緊急事態に備えて、電話番号を教えておいたのだ。
 
 兄者の具合が悪くなっただろうか。
 程度の軽い気持ちでいたのが、仇になった。
 
.

229名無しさん:2018/11/13(火) 17:29:53 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『至急戻ってきてください!』
  『流石さんの様子が、急におかしくなりました!』
 
(´・ω・`) 「なッ……」
 
 
 具合どころではなかった。
 様子がおかしくなっただと。
 何があったんだ。
 
(´・ω・`) 「わかりました、すぐに向かいます」
 
(´・ω・`) 「とにかく、彼を落ち着かせてあげてください」
 
 ひとりになった緊張感で、いよいよ自我が保てなくなったのだろうか。
 兄者視点で言えば、亡霊の標的は、兄者自身だ。
 そして兄者は、十年以上自分を守ってきた偽りを、失っている。
 
 コートを翻して、駆け足で戻る。
 敷地内に人影はほとんど見られない。
 
.

230名無しさん:2018/11/13(火) 17:30:15 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 キャリアセンターは、中央棟の一階、建物内の中央ほどにある。
 広々とした空間で、日頃は就職活動に勤しむ学生たちであふれていると聞く。
 
 自動ドアを抜けた辺りで、もう一度電話が鳴った。
 学長からだ。
 
 電話に出るより、落ち合うほうが早い。
 コールを切って、全速力でキャリアセンターにたどり着いた。
 
 
 そこには、人だかりができていた。
 あからさまに、空気がおかしい。
 
 
学長 「刑事さんッ!」
 
(´・ω・`) 「いったい、何が…ッ」
 
 
.

231名無しさん:2018/11/13(火) 17:30:45 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 真っ先にしたのは、血の臭いだ。
 
 
 
( ::;゚_ゝ::)
 
 
 
(´・ω・`) 「     」
 
 兄者が、腹から大量の血を流している。
 学長は、先ほどまで着ていたジャケットを、兄者の腹部に押し当てていた。
 そのジャケットも、真っ赤に染まっている。
 
 
(;´゚ω゚`) 「   なああああああああああああッ!!?」
 
学長 「まだ意識はありますッ!」
 
(;´・ω・`) 「病院だ!!」
 
(;´・ω・`) 「今すぐ病院を呼べ!!」
 
 
.

232名無しさん:2018/11/13(火) 17:32:01 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 キャリアセンターは騒然としていた。
 想像以上に早く、亡霊は動き出した。
 
 第一の指示、ではなかったのか。
 そもそも、その指示すらまだこなしていないのだぞ。
 
 
(;´・ω・`) 「何人かで、とにかく名前を呼び続けてください!」
 
(;´・ω・`) 「残りは、法学部棟、学生課に向かって!」
 
 
 混乱する職員たちに、すぐさま指示を出す。
 指示を出しながら、僕は署や交番に応援を要請した。
 暇なやつ全員、ヴィップ大学に連れてこい、と。
 
 
( ::;゚_ゝ::)
 
学長 「流石さん!」
 
職員 「しっかりしろ! おい!」
 
 
(;´・ω・`)
 
.

233名無しさん:2018/11/13(火) 17:33:13 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊はひとまず後、だ。
 とにかく兄者の意識を長らえさせて、命を取り留めなければならない。
 
 
(;´・ω・`) 「兄者!! 起きろ!!」
 
(;´・ω・`) 「学長、なにがあったんです!」
 
 兄者を揺らしながら、隣のベスト姿の学長に聞く。
 周囲の職員はパニック状態だったが、学長はまだ、冷静を保っていた。
 
 
学長 「急に、様子がおかしくなったんです!」
 
学長 「刑事さんが出て少ししたら、彼に電話がきて!」
 
(;´・ω・`) 「電話……?」
 
 はッとして周囲を見渡す。
 スマホの類は、ざっと見たところでは見当たらなかった。
 
.

234名無しさん:2018/11/13(火) 17:33:47 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「    それで!?」
 
学長 「顔を真っ青にして立ち上がるもんで、そのまま出ていこうとしたんです!」
 
(;´・ω・`) 「出て  ッて、ここを?」
 
学長 「はい、電話に出ながら!」
 
 それが、先ほど言っていた、様子の急変か。
 亡霊から電話が来たというのか。
 
 
学長 「制止しようにも、一切聞く耳を持たなかったので、拘束しました!」
 
(;´・ω・`) 「拘束?」
 
学長 「私含む五人ほどで、とにかく彼を止めたのです!」
 
学長 「そうしたら、………ッ!!」
 
( ;´・ω・) 「!」
 
 
 そこで、腹を刺したのだ。
 どさくさに紛れて、刃物を握った、亡霊が。
 
.

235名無しさん:2018/11/13(火) 17:34:26 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「女性がいましたか!?」
 
学長 「いえ、いません!」
 
 
学長 「全員男ですッ!」
 
(;´゚ω゚`) 「  なッ   なにィ!!?」
 
 
 どういうことだ。
 おかしいぞ。
 たとえ人混みに紛れようと、この人数、この広さだ。
 亡霊がひっそり現れようものなら、すぐさま見つかるはずだ。
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「………………」
 
 
(;´・ω・`) 「!」
 
.

236名無しさん:2018/11/13(火) 17:35:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 兄者の息遣いが変わった。
 急に激しくなり、若干の喘ぎ声を伴っている。
 
(;´・ω・`) 「兄者!! 僕だ!!」
 
(;´・ω・`) 「兄者!! 起きろ!!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「   ………」
 
(;´・ω・`) 「おいッ! 兄者ッ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「     お   ………。」
 
(;´・ω・`) 「? なんだ!?」
 
 
 兄者は、意識を若干ではあるが取り戻した。
 震える唇をゆっくり開閉して、なにかを言おうとしている。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「……  う ……」
 
(;´・ω・`) 「ゆっくりでいい! なんだ!?」
 
.

237名無しさん:2018/11/13(火) 17:35:55 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「       」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「    ………。」
 
 
( :::;::_ゝ) 「      」
 
 
 
(;´゚ω゚`) 「……ッ!!」
 
 
 
 
 
 
.

238名無しさん:2018/11/13(火) 17:36:42 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
  、 、
 亡霊。
 
 兄者は、そうちいさく言って、目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

239名無しさん:2018/11/13(火) 17:37:31 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「彼の電話はッ」
 
学長 「ッ」
 
学長 「誰か、彼の電話を見てないか!」
 
 大声で、残った全員に問う。
 しかし、皆周囲を見渡すばかりであった。
 
 
(;´・ω・`) 「確かに、彼自身の電話だったんですね!?」
 
学長 「間違いない!」
 
(;´・ω・`) 「詳しく聞かせてください!」
 
 
学長 「ええ、」
 
学長 「申しました通り、彼は何者かから電話を受け、即座に、立ち上がりました」
 
 呼吸を整えながら、学長が言葉を紡ぐ。
 今は、学長の証言が、頼りだ。
 
.

240名無しさん:2018/11/13(火) 17:38:34 ID:0on9OJjc0
 
 
 
学長 「露骨に顔を歪めて、真っ青に、しておりまして」
 
学長 「そのままゆっくり、電話に、出ました」
 
学長 「どこかに行こうとしたので、近くにいた者が制止を」
 
(;´・ω・`) 「しかし、止まらなかった」
 
学長 「無理やり走り出そうとしたので、無理やり止めました」
 
学長 「しかし暴れるので、私や近くの者たちで、こう……」
 
 
 学長が、両手でぎゅうッと丸めるような仕草をした。
 まずは止めて、落ち着かせてから話を聞こうと思ったのだろう。
 
 
学長 「それでも、彼は、ずっと暴れておりました」
 
学長 「……刑事さんが来るまで押さえていようと思うと」
 
学長 「急に、腿あたりが濡れたのを感じました」
 
.

241名無しさん:2018/11/13(火) 17:39:30 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 といって、学長はスラックスを見せた。
 赤黒く染まっている。
 疑いようなく、兄者の血だろう。
 
 
(;´・ω・`) 「………」
 
学長 「騒ぎに乗じて、犯人が、腹を刺したのでしょう」
 
学長 「ぱッと振り返っても、犯人らしき人はいませんでした」
 
 これも、亡霊の仕業、とでも言うのか。
 
 
(;´・ω・`) 「その時の、対応は」
 
学長 「まず真っ先に、ジャケットで、出来る限りの止血を」
 
 といって、兄者の上にかぶせられているジャケットを見る。
 ほぼ血の色で染まっている。
 真っ先に止血が浮かぶあたり、冷静な人物であると言える。
 
 
学長 「私は、そのまま刑事さんに電話しました」
 
.

242名無しさん:2018/11/13(火) 17:40:34 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 それが、先ほどの、二度目のコールだ。
 学長は、兄者をずっと介抱していたと見ていい。
 
学長 「そこからですが、」
 
学長 「ひっそり抜け出した者がいるかは、はっきり言って、わかりません」
 
(;´・ω・`) 「……無理も、ありません」
 
(;´・ω・`) 「わかっている、範囲では?」
 
 
学長 「まず、一緒に彼を押さえていた一人が、行ってきます、と言って」
 
学長 「追いかけて、いったようです」
 
(;´・ω・`) 「追いかける………犯人を、ですね?」
 
学長 「犯人はおそらくですが、刃物を刺して、すぐさま逃げ出しました」
 
(;´・ω・`) 「その後ろ姿なんかは?」
 
学長 「見た方角が悪かったのか、隠れられたのか、遅かったのか……」
 
 学長が、申し訳ありません、と何度も言う。
 その瞬間に居合わせなかったため、
 どれが正解なのかがわからないのが、歯痒かった。
 
.

243名無しさん:2018/11/13(火) 17:41:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「ただ、追いかけた人物がいた」
 
学長 「あれは……誰だった?」
 
職員 「斉藤さん……じゃない?」
 
職員 「僕は知らない、ですね。 先生なんじゃ?」
 
職員 「いや、斉藤さんは、いまもう一人のほうに行ってる」
 
 
(;´・ω・`) 「………」
 
 もしかすると。
 その人自身が、犯人なのか。
 
 しかし、だとすると、内部に犯人がいたということか。
 いや、はっきり言って、スーツ姿、ベスト姿なら、
 身分は一時的にではあるが眩ませられる。
 ただ、だったら学長に直接、行ってくるなんて言うだろうか。
 
 考え出すと、きりがない。
 そもそも、女性ではないのだろう。
 どういうことだ。
 
.

244名無しさん:2018/11/13(火) 17:42:29 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「……その人が戻ってきたら、すぐさま私に連絡を」
 
学長 「お約束します」
 
(;´・ω・`) 「ここに、凶器の刃物や、彼の電話は……」
 
 兄者は、年かさの増した男性が様子を見ている。
 揺らしながら、声をかけてはいるが、反応がいっさいない。
 
 事尽きたわけではないことを、祈るしかないのだ。
 幸い、意識は、残っていた。
 刺されたことによるショック死でないのは、確かなのだ。
 
 
 それ以外の職員は、僕と学長が話している間、
 周囲を見渡して、探してくれていた。
 
 凶器に使われた、おそらくはかつてミセリが持っていた、包丁だ。
 傷口の荒さや広さ、出血の度合いからして、
 包丁を思い切り突き刺して、乱暴に抉って、すぐ抜いたのだろう。
 
 電話は、その時に落としたと見られる。
 近くに落ちてなければ、誰かが回収しているはずなのだが、
 誰も声をあげないとすると、亡霊が持ち去ったと見るべきなのか。
 
.

245名無しさん:2018/11/13(火) 17:43:00 ID:0on9OJjc0
 
 
 
学長 「……どちらも、ないようです」
 
学長 「ちゃんと、机の下の隙間も見たのか!?」
 
職員 「少なくとも、この近くには!」
 
 騒ぎの弾みで、誰かが蹴飛ばしただけかもしれない。
 包丁がないことによる不安はただひとつ、
 亡霊が離さなかったということは、その包丁で最後に、デミタスを殺すつもりなのだ。
 
 そうだ、デミタス。
 
 
(´・ω・`) 「誰か、至急法学部学生課に電話を!」
 
(´・ω・`) 「盛岡デミタスの安否を、至急確認してください!」
 
 室内全域に通るような声で、言う。
 近くに電話のあった職員が、すぐさま対応してくれた。
 
 電話自体はワンコールでつながったようだ。
 駆け寄って、受話器を借りる。
 
.

246名無しさん:2018/11/13(火) 17:43:49 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「私です、警察のショボーンです」
 
(´・ω・`) 「いま、そちらに異変はありますかッ」
 
 受話器が汗で濡れる。
 いま、自分は焦っているのだ、と、その時にわかった。
 
 
  『人が、いっぱい来たくらいで……』
 
(´・ω・`) 「人……」
 
 僕が送った、キャリアセンターにいた人らだろう。
 と言ったところで、脳に電流が走った。
 
 
 
(;´゚ω゚`) 「    ッ!!!」
 
(;´゚ω゚`) 「誰一人彼に近寄らせるなッ!!」
 
 
 そう言って受話器を叩きつけ、駆け出した。
 亡霊はこれが狙いだったのか!
 
.

247名無しさん:2018/11/13(火) 17:44:23 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 転びそうになりながらも、次は法学部棟へと舞い戻った。
 全速力で向かったが、息が急き切れることはなかった。
 扉を蹴破ってなかに入ると、椅子に座るデミタスの周囲数メートルは空間があった。
 
 離れた位置で、少なくない数の職員が、緊張した面持ちをしていた。
 扉の大きな音と僕の姿に、皆一様に驚いていた。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「………なッ……」
 
(´・ω・`) 「……だ、大丈夫だったか……」
 
(;´・ω・`) 「よかった……」
 
 安否を確認できて、思わず前かがみになった。
 忘れかけていた疲労が、どッと押し寄せてくる。
 
 落ち着け、と自分に言い聞かせて、深呼吸を繰り返した。
 見かねた一人の職員、おそらくは電話に対応した人だろう、その人がやってきた。
 
 
職員 「だ……大丈夫ですか?」
 
.

248名無しさん:2018/11/13(火) 17:44:48 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「な…なんとか」
 
職員 「言われた通り、誰一人近づけてはいません」
 
(´・ω・`) 「ありがとう……ございます……」
 
 電話が切れたと同時に、大声のひとつ発してくれたのだろう。
 責任感の強そうな声だった。
 
(;´・_ゝ・`) 「なにが……あったんですか?」
 
(;´・_ゝ・`) 「…………まさか」
 
(´・ω・`) 「話は、あとだ」
 
 なるべく隠しておきたかったが、
 ここまで来てしまった以上、言うしかない。
 
 
(´・ω・`) 「いいか、あと少しで警察が押し寄せる」
 
(´・ω・`) 「それまで、誰一人、デミタスに近寄るな」
 
.

249名無しさん:2018/11/13(火) 17:45:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「ッ!!」
 
(;´・_ゝ・`) 「え、つまりッ!!」
 
 
 ないとは思うが、拳銃を警戒して、一応デミタスの前に立つ。
 デミタスに、壁を背負えるように移動してもらった。
 
 職員たちが呆然としている隙に、電話を取り出す。
 亡霊にかける。
 
 
(´・ω・`) 「僕だ、さっさと出やがれ」
 
  『…』
 
 亡霊は、黙っている。
 
(´・ω・`) 「……やりやがったな」
 
(´・ω・`) 「約束違反だ」
 
(´・ω・`) 「こっちも、百人以上の応援を呼んでいる」
 
(´・ω・`) 「職員たちにも、怪しい人物を見かけたら片っ端から捕まえろと言ってある」
 
.

250名無しさん:2018/11/13(火) 17:46:18 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 第一の指示、という話も。
 兄者を文学部学生課に移す話も。
 すべてが、出し抜くための、騙り。
 
 僕一人というハンデも、あくまで約束あってのものだ。
 穏便に済むなら、それが何よりもベストだったが、
 亡霊が手段を択ばないというのであれば、僕も手段を択ばない。
 
 百人も、捕まえる指示もハッタリだ。
 ただ、亡霊には、効いたようだった。
 
 
  『………よろしいので?』
  『ここまで来たからには、私も、後先考えずに動くだけですよ?』
 
(´・ω・`) 「いい加減、目を覚ませ」
 
(´・ω・`) 「あんたは、亡霊なんかじゃ、ない」
 
(´・ω・`) 「生身の人間が、警察の包囲網を抜けられると思うな」
 
  『既に何度も私を逃しているくせに、何を言うかと思えば』
 
(´・ω・`) 「……まだ、気づかないのか?」
 
  『なにを』
 
.

251名無しさん:2018/11/13(火) 17:47:05 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「さっきの、一件で」
 
(´・ω・`) 「あんたは、致命的なミスを、いくつも犯してんだぜ」
 
  『…』
  『一応、聞きましょうか』
 
 かかったな。
 
(´・ω・`) 「その必要はない」
 
(´・ω・`) 「警察が到着次第、そいつを調べ上げる」
 
(´・ω・`) 「もう、あんたに逃げ場は、ないのさ」
 
 これも、ハッタリだ。
 しかし、これが、よく効くのだ。
 
 兄者を刺したのは、コンマ一秒が問われる、非常に猶予の短い犯行だった。
 当然、犯人としても、入念に計画を練って、賢く立ち回れたものではない。
 
 実際、ミスは、犯している。
 やつは今、おそらくだが、兄者のスマホを持っているのだ。
 
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252名無しさん:2018/11/13(火) 17:47:47 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「ポイントは、包丁だ」
 
  『ッ!』
 
 真のポイントは、スマホにある。
 しかし、あえて論点をずらす。
 これもハッタリだ。
 
 亡霊がまだこちらにいないことを察し、周囲の職員に目配せした。
 誰も、デミタスに近づくな。
 そんな、相互監視体制を、敷いた。
 
 
 ゆっくり、表へと出る。
 その間も、とにかく時間を稼ぎ、動揺を誘い、居場所を突き止める。
 十分、五分と猶予があるか怪しい、最後の詰めだ。
 
 
(´・ω・`) 「第一の失態は、あんたは、兄者を殺せていない」
 
(´・ω・`) 「まだ、意識が、あった」
 
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253名無しさん:2018/11/13(火) 17:48:33 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ハッタリをかますにも、コツがいる。
 今回の場合、亡霊に、ナイフや凶器ではなく、包丁、と言い当てる点にある。
 
 僕視点で言えば、ミセリが包丁を持ち出したことを知っていて、
 更に亡霊がそれを持ち去った線が濃厚であることを知っている。
 そこから考えれば、亡霊が、足の残らない凶器としてそいつを使うことも推測できる。
 
(´・ω・`) 「傷口をなるたけ開いて、出血死を狙ったんだろうがな」
 
(´・ω・`) 「すぐさま止血が施されて、意識を取り戻したよ」
 
  『なッ!!』
 
 亡霊視点で言えば、僕がどうして包丁を推理できているか、考えるのは難しいだろう。
 そもそも、ミセリがどこからどうやって包丁を持ち出したのか、
 判断に難しいはずなのだ。
 
 
(´・ω・`) 「次の失態」
 
(´・ω・`) 「あんたはうまいこと逃げたつもりだったろうがな、」
 
(´・ω・`) 「残念、追いかけられてんだぜ、更にな」
 
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254名無しさん:2018/11/13(火) 17:49:33 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 これも、ハッタリだ。
 これは、例の犯人を追いかけた職員がどっちであろうと通用する言い方だ。
 
 もし、例の職員が職員に扮した亡霊だった場合。
  「うまく逃げた」 「更に追いかけられた」 の口ぶりがクリーンヒットする。
 
 もし、例の職員に追いかけられた場合。
 それにしたって 「うまく逃げた」 は矛盾せず、
  「更に追いかけられた」 が、追跡した職員が複数人いたことを示す。
 実際は一人しか追いかけていないのだから、亡霊視点で言えば、得体の知れない脅威となる。
 
 
  『…ッ  ……ッ!』
 
(´・ω・`) 「まだあるんだが……」
 
(´・ω・`) 「続きは、直接会って、」
 
(´・ω・`) 「するかッ!」
 
  『!』
 
 大きな声で言いきって、電話を切った。
 最後の、ハッタリ。
 こう言って電話を切れば、亡霊は、ふたつの誤解をする。
 
 いま、自分の場所が、ばれている。
 そして、すぐ近くに、僕がいる。
 そんなふたつの、幻影。
 
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255名無しさん:2018/11/13(火) 17:50:38 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「……こっからが、勝負だ」
 
 ハッタリが続くのは、せいぜい数分、長くて五分だ。
 その間に、次の一手を、打たなければ。
 
 ポイントはみっつ。
 ひとつ、キャリアセンターから逃走している。
 ふたつ、亡霊は血まみれの包丁を握っている。
 みっつ、亡霊はいま、姿を隠している。
 
 すべての条件を満たす場所を、当たるしかない。
 しかし、どうやって。
 当てずっぽうで総当たりしていると、先にハッタリの魔法が解けてしまうのに。
 
 
(´・ω・`) 「……亡霊を」
 
(´・ω・`) 「捕まえるしか、ないんだな」
 
 どんな刑事でも、捕まえられない罪人。
 もし、捕まえられた刑事が過去にひとりもいないというのなら。
 
 僕が、その先駆者になればいいんだ。
 僕なら、それができるはずだ。
 
 亡霊なんて、所詮、偽り。
 偽りの亡霊を捕まえる。
 僕になら、それができるはずなんだ。
 
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256名無しさん:2018/11/13(火) 17:51:20 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊にはあえて言わなかった、本当の失態。
 兄者のスマホを、持っているということ。
 この僕を前に、亡霊はスマホを持ち去った、という謎を与えてしまったということ。
 
 流れるように起こった一連の事件において、
 一番大きな謎は、ずばり兄者のスマホにある。
 
 学長の話では、こうだ。
 兄者は何者かから電話を受けた。
 その瞬間顔色を変えて、制止を振り切ろうとすらした。
 
 いま、自分がどんな立場にいるかも考えず。
 あるいは、それ以上に重要な相手からかかってきたのだ。
 
 
 この状況下において。
 自らの安否、また僕の指示や周囲の制止を投げ捨ててまで、
 兄者を突き動かし得る電話の相手。
 
 そこをまずは考える必要がある。
 なぜなら、犯人はそれを利用して殺したのだから。
 
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257名無しさん:2018/11/13(火) 17:52:04 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊の 「第一の指示」 を受けた時、僕は亡霊の意図がわからなかった。
 まずふたりを分けたいのはいいが、
 多くの監視の目が光る学生課にどうして移すのか。
 
 答えは、結果を見れば明らかだった。
 とあるギミックを用いて、兄者を羽交い絞めする状況に持ち込む。
 その騒ぎに乗じて、無理やり、包丁で出血死を狙う、といった具合だ。
 
 羽交い絞め、という状況を狙ったのはしてやられたと思った。
 確かに、さりげなく殺害するにおいて好都合だし、
 包丁を刺すために、無理やり腕を押し付けても、羽交い絞めでカモフラージュできるのだから。
 
 
 そうしてはじめて、ふたつのロジックが線になる。
 亡霊は、兄者を羽交い絞めにさせるギミックを持っていた。
 兄者は、羽交い絞めにされてでも優先すべき相手から電話を受けた。
 
 つなげれば、こうだ。
 亡霊のギミックと兄者の異変は共通している。
 つまり、兄者は亡霊から電話を受けたことになる。
 
 
(´・ω・`) 「……?」
 
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