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レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。
(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです
727
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:02:18 ID:V8JiJ4eE0
まず、データがこちら側に送られてきた。
加え、現場となるコテージ、崖の位置情報。
現場までの案内役も、必要ならば用意してくれるらしい。
ただ、担当した捜査官は既に退職しているそうだ。
僕としては、そちらからの情報も期待したのだが、仕方ない。
(´・ω・`) 「ちなみに、調べようと思えば現場は調べられますか?」
コネというコネは利用してやる。
オオカミ鉄道も然り。
現場へのアプローチは、アルプス県警に任せることにした。
地主を特定し、ガサ入れの取っ掛かりまで作ってくれればそれでいい。
言うと物臭そうに溜息を吐かれたが、協力を約束してくれた。
(´・ω・`) 「頼みますよ、三月殿」
『……ああ』
.
728
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:02:38 ID:V8JiJ4eE0
┏━─
午後二〇時一六分 アルプス県警
─━┛
受話器を置いて、大きく伸びをした。
久々に新鮮な気持ちになった。
伸びをした衝動で、デスクの上のファイルスタンドが床に落ちた。
部屋に誰もいない時、つい足をデスクにかけてしまう。
これが一番楽な姿勢なのだ。
(メ._⊿,) 「……」
拾うのも億劫だ。
ただぼんやり眺めていると、誰かが音を聞きつけたのか、部屋に入ってきた。
イ(゚、ナリ从 「……?」
イ(゚、ナリ从 「…!」
.
729
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:03:25 ID:V8JiJ4eE0
会議に出ていたはずのイナリが、扉口から俺を睨む。
一番見つかりたくない奴に見つかってしまった。
イナリはそのまま、つかつかと音を立てて、俺の隣に立った。
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
腕を組んで、俺を見下ろす。
気まずくなり、俺から先に話の口を切った。
(メ._⊿,) 「……ちょうどよかった」
(メ._⊿,) 「……それ……戻してく」
言葉を遮るように咳払いをされた。
まったく許してくれそうにない。
.
730
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:07:38 ID:V8JiJ4eE0
重い体を起こして、しぶしぶファイルをデスクに戻した。
腰が鈍い音を立てる。
(メ._⊿,) 「……随分と早かったじゃねえか」
(メ._⊿,) 「会議は……終わったのか……?」
イ(゚、ナリ从 「無事に」
ご立派なことに、イナリは警部になって以来、休みがない。
日々会議に駆り立てられるばかりだ。
優秀な人材に悩まされる警察において、
頭脳明晰なキャリア組というものはそれだけ価値があるものなのだろう。
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「?」
ふう、と胸に溜まっていた憤りの溜息を吐くと、
見慣れない水色のファイルを見て首を傾げた。
.
731
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:11:40 ID:V8JiJ4eE0
黙って手に取り、ぺらぺらとページを繰る。
ついさっき、ヴィップ県警に送った事故案件のデータファイルだ。
文面を軽く目で追って、不思議そうな顔をした。
鉄仮面と揶揄される彼女は、俺の前では多少感情の紐を緩める。
イ(゚、ナリ从 「なんですか、これ」
(メ._⊿,) 「さあ……な」
イ(゚、ナリ从 「……」
ふーん、と鼻を鳴らす。
まったく腑に落ちていない様子だ。
イ(゚、ナリ从 「まあ、いいです」
イ(゚、ナリ从 「それより、手伝ってほしい案件があるのですが」
(メ._⊿,) 「惜しいな……」
(メ._⊿,) 「一時間前に言っていたなら……手を貸してやったが……」
.
732
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:12:05 ID:V8JiJ4eE0
イ(゚、ナリ从 「何か担当、ありましたっけ」
(メ._⊿,) 「たった今……できた……」
イ(゚、ナリ从 「ふーん」
もはや、俺の言葉に耳を傾けない。
身を乗り出して、勝手に俺の旧式のパソコンを触りだした。
ヴィップ県警にデータを送り、そのままにしていた。
しまった。
イ(゚、ナリ从 「……?」
イ(゚、ナリ从 「 えっ……?」
宛先は、ヴィップ県警。
ではない。
あくまで、個人に送った、個人的なメールだ。
その宛先と文面を見て、イナリは素っ頓狂な声を挙げた。
.
733
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:12:43 ID:V8JiJ4eE0
刑事部長には黙っていてもらいたかったのだが。
見られてしまったなら仕方がない。
(メ._⊿,) 「ちっくら……面倒事を請け負っちまった」
(メ._⊿,) 「何……兎の恩返しッてやつだ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イナリも、懐かしい名前を見たのだ、感傷的になるだろう。
俺にしても、イナリにしても、ある種の因縁を持つ男なのだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「合同捜査、ではないので?」
少し気を遣わせてしまったようだ。
柄にもなく、優しい声になっている。
.
734
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:15:43 ID:V8JiJ4eE0
(メ._⊿,) 「合同捜査なら……お上サマが勝手に決めるもんだ……」
(メ._⊿,) 「……こいつァ個人的なやつよ」
(メ._⊿,) 「さしずめ……兎の恩がえ」
イ(゚、ナリ从 「だったらちょうどいいですね」
(メ._⊿,) 「……」
イナリが、ふふんと鼻を鳴らす。
何歳になっても可愛いものだ。
イ(゚、ナリ从 「くだんの連続予告殺人ですが」
イ(゚、ナリ从 「ご存じの通り、私も一枚、噛まされることになりまして」
(メ._⊿,) 「……?」
イ(゚、ナリ从 「……?」
.
735
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:19:13 ID:V8JiJ4eE0
イ(゚、ナリ从 「あの……昼渡した、会議資料は……」
(メ._⊿,) 「朝……?」
今日は、十三時頃にデスクについた。
そういえばその時、イナリに出会いがしらになにか渡された。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「……ああ、あの鼻かみ……」
,_
イ(゚、ナリ从 「鼻ッ ………」
イナリが眉間にひびを刻み込む。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「………ごめん……」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
.
736
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:24:46 ID:V8JiJ4eE0
概要は、こうだ。
国民の信頼、安心が問われる局面に、警察組織は悩まされているらしい。
テレビでは報道されていなかったが、くだんの犯人は四人目を始末したそうだ。
その顛末に、ついに管轄外の県警も動きを見せた。
アルプスにまで、ヴィップの大事件の余波が飛んできたということだ。
イナリが頭となり、適宜応援を遣わせたりすることが決まった。
イ(゚、ナリ从 「もっとも、大々的なことはできないのですが」
イ(゚、ナリ从 「とにかく人手が問われる局面、というわけです」
(メ._⊿,) 「……」
天井を仰いだ。
一度、大きく深呼吸する。
(メ._⊿,) 「だったら……精々頑張ってくれ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「は?」
.
737
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:25:46 ID:V8JiJ4eE0
ゆっくり、デスクから、イナリから離れ、廊下に向かう。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
トコトコ、と音を立てて俺の後ろについてくる。
(メ._⊿,) 「どうせ……俺ァはぐれ刑事よ」
イ(゚、ナリ从 「……また拗ねた」
拗ねてなんかいねえ。
ちいさく言ったが、イナリには聞こえなかったようだ。
(メ._⊿,) 「俺は……兎の恩返しに忙しい」
(メ._⊿,) 「こっちはこっちで……やるべきことをやるだけ……」
イ(゚、ナリ从 「私にも、共有を」
(メ._⊿,) 「……」
肩を掴まれる。
情けないことに、スタイルのいいイナリのほうが俺より背が高い。
子に背を抜かれるというのは、なかなかどうして複雑な心境になるものだ。
.
738
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:26:55 ID:eKkjmBvA0
支援
今から読む
739
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:27:35 ID:V8JiJ4eE0
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「なあ、イナリ……」
イ(゚、ナリ从 「はい」
(メ._⊿,) 「登山……好きか?」
.
740
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:33:31 ID:V8JiJ4eE0
序幕
>>2-69
第一幕
>>82-211
第二幕
>>218-296
第三幕
>>304-388
第四幕
>>398-468
第五幕
>>477-528
第六幕
>>539-624
第七幕
>>640-739
741
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:36:55 ID:/tcg0WQ.0
乙!三日月きたな!!
742
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:44:02 ID:SVfpo2GY0
乙!!
743
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:56:44 ID:eKkjmBvA0
読み終わった
少しずつ解決の糸口がこれから見えてくるのだろうか
乙
744
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 12:41:32 ID:VNarJfqM0
乙
745
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 13:30:36 ID:nhipiLd60
年寄りの登山か乙
746
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 20:22:06 ID:UDm/n8nY0
乙
747
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 00:59:24 ID:lXcORFmQ0
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIV.htm
イケメンのブーン芸神が再臨なさった 皆崇めろ
7年越しのおつきあい本当に本当にありがとうございます、、、
748
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 01:58:06 ID:BuY.j94Y0
orz
749
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 05:20:40 ID:SpZbt18g0
ありがたや…ありがたや…
750
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 15:16:38 ID:yo3KqSdU0
10年前のことよく覚えてんな
俺なんて今日の朝飯なに食ったかすら忘れちゃうのに
751
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 15:18:56 ID:BuY.j94Y0
よしこさんや、飯はまだかい?
752
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 17:52:16 ID:/ElhCeLk0
偽り最高愛してる
続きが楽しみ
753
:
名無しさん
:2018/10/16(火) 00:40:29 ID:kWcmSbYs0
お爺さんや、ご飯は三日前食べたでしょう
754
:
名無しさん
:2018/10/16(火) 00:59:45 ID:giOua07M0
毎日食わせてやれよ…
755
:
名無しさん
:2018/10/16(火) 07:39:39 ID:DI18ffgQ0
乙ー
756
:
名無しさん
:2018/10/23(火) 07:22:17 ID:ZMU2VkO20
はぐれ刑事純情派!!!
757
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:11:52 ID:9y4TR9Iw0
┏━─
五月七日 午前七時三七分 アルプス警察署
─━┛
因縁だ。
貧乏くじを引かされたと思えば、立て続けに懐かしい顔ぶれと会わされる。
オオカミ鉄道は僕からコンタクトを取ったからいい。
昔の密室鉄道と対面した。
アスキーミュージアムとの繋がりがあった。
今度は、アルプスだ。
アルプスといえば、その序列体系に若干の歪みが生じている。
アルプス県警捜査一課、三月の名を持つ親子警部と言えば有名な話であった。
(´^ω^`) 「久しぶりだね!イナリちゃん!」
イ(゚、ナリ从 「去年会議で会ったばかりですが」
(;´・ω・`) 「一年も空いてたら久しぶりじゃん!」
.
758
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:12:36 ID:9y4TR9Iw0
昨日の晩、刑事部長に内密に呼び出された。
最初、個人的にアルプス県警を利用しようとしていたのがばれ、
それを咎められるのかと思っていたのだけど。
実際は真逆で、秘密裏にアルプス県警との協力が結ばれていたようだ。
別に敵対しているわけではないが、大々的に動けばマスコミの餌食となる。
パパラッチに嗅ぎつかれないよう、うまく協力してくれ、と言われた。
個人的にこっそり協力してもらおうと思っていたのは、とんだ心労だった。
(メ._⊿,) 「……部下はどうした」
(´・ω・`) 「走らせてますね」
久しぶりに会ったのだけど、三月殿の風貌は一切変わっていなかった。
人間、六十を超えると、容姿は大して変化しないらしい。
逆に、若いイナリちゃんはまた美人になっていた。
(メ._⊿,) 「若手のやつもか……?」
(´・ω・`) 「同じ場所に、そう何人もエースは要りませんよ」
.
759
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:13:21 ID:9y4TR9Iw0
三月殿は、ワカッテマスやぎょろ目のような突出した能力はない。
ただ、あるとすれば、その圧倒的な経験だ。
現役刑事で見れば、警察で一番キャリアを積んでいる男である。
エースというのは、イナリちゃんのことだ。
ワカッテマスに比肩する、あるいは頭脳面のみで見れば凌駕している、エース。
昔、研修の一環で、僕の部下としてヴィップ県警に配属されていた。
その時は、若い女のキャリア組ということで気まずそうにしていたが、
今では一警部として顔を利かせているらしい。
その証拠に、口数も多くなっていた。
イ(゚、ナリ从 「でしたら、警部も要らなかったのでは」
(;´・ω・`) 「だったら誰が現場を見るんだい!」
(メ._⊿,) 「で……」
( ;´_ゝ`)
(;´・_ゝ・`)
(メ._⊿,) 「代わりが……この二人かい……」
.
760
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:13:45 ID:9y4TR9Iw0
三月殿の威圧感、イナリちゃんの冷たいオーラに、
兄者もデミタスもすっかり気圧されていた。
(´・ω・`) 「まあまあ、話は走らせながら」
アルプス県警から、所轄署の刑事をふたり、鑑識をひとり借りた。
一人は僕と三月殿、イナリちゃんを。
一人は兄者とデミタス、鑑識をパトカーに乗せた。
先に兄者とデミタスを乗せたパトカーを走らせた。
その後ろを僕たち警部組が追う。
やはり、親子警部に僕が同席していたら、運転手は気苦労が絶えないだろう。
見るからに、完全に気配を消し、運転手としての役割を果たすのに勤めていた。
助手席にイナリちゃんが、僕と三月殿が後ろに座っている。
単におじさんの隣に座りたくなかったのか、上下関係を意識してくれたのか。
(´・ω・`) 「とりあえず、捜査の一部始終から伝えます」
.
761
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:14:38 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「結構です」
(´・ω・`) 「え、え?」
イ(゚、ナリ从 「必要なことは会議ですべて共有されています」
(メ._⊿,) 「……」
(´・ω・`) 「そ、そうなんです?」
おかしい。
僕はまだ情報をまとめたりしていないし、
部下のみんなも、上層部や他の部署には頼りたがらない気質なのに。
イ(゚、ナリ从 「そちらの刑事部長を招いての、会議です」
イ(゚、ナリ从 「別に今更、共有など」
(´・ω・`) 「そ、そう?」
言いあぐねていると、三月殿がちいさく俯いた。
.
762
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:15:13 ID:9y4TR9Iw0
(メ._⊿,) 「……久々にショボに会ったんだ……」
(メ._⊿,) 「虚勢張って……アピールしてえだけさ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イナリちゃんは、小さく 「ふん」 と鼻を鳴らした。
それに、三月殿の性格を考えると、大してこちらの情報など調べていない。
これだから困るんだ。
親子警部は、かなり我が強いというか、色が濃いというか。
初っ端からペースが崩されてしまう。
(;´・ω・`) 「……」
(´・ω・`) 「うぉっほん!」
(´・ω・`) 「だったら、大まかな時系列は、いいでしょう」
(´・ω・`) 「どうして、アルプスと共同戦線が組まれることになったか」
(´・ω・`) 「そこから話しますね」
.
763
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:16:16 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「ヴィップで起こってる、連続予告殺人ですが」
(´・ω・`) 「捜査の結果、大きく、三点」
(´・ω・`) 「アルプスが噛んでいることがわかりました」
(メ._⊿,) 「三点……?」
全員が、ヴィップで殺されている。
地下鉄もホテルもライブも滝公園も、ヴィップだ。
全土を揺るがす大事件ではあるが、見た目はヴィップで完結しているのだ。
(´・ω・`) 「まず、二件目の被害者、ヒッキー小森」
(´・ω・`) 「この連続予告殺人は、ヴィップ大学に昔あった、」
(´・ω・`) 「某サークル内で、うちうちに起こっているものです」
三月殿が興味深そうな顔で頷く。
まるで知らなかったと言わんばかりに。
.
764
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:16:59 ID:9y4TR9Iw0
、 、
(´・ω・`) 「そのサークルの構成員は、六人」
(´・ω・`) 「うち一名、ヒッキー小森以外の全員がヴィップの人で」
(´・ω・`) 「ヒッキー小森のみが、アルプス出身アルプス育ちです」
(メ._⊿,) 「……?」
(´・ω・`) 「ポイントは、殺される日もアルプスにいたことです」
(´・ω・`) 「オオカミ鉄道の在来線で、ヴィップ、現場のホテルに到着」
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「こちらでも伺っております」
イナリちゃんが、前を向いたまま言った。
バッグから資料を取り出して、目を落としている。
イ(゚、ナリ从 「害者は監視カメラに捉えられていましたが、」
イ(゚、ナリ从 「アルプス時点では、付き添いの類はいなかったようで」
(´・ω・`) 「……え?」
.
765
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:17:21 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「えっ」
こちらを振り返る。
(´・ω・`) 「……それ、どこの情報?」
(´・ω・`) 「僕、知らないんだけど」
イ(゚、ナリ从 「どこ……ッて」
イ(゚、ナリ从 「オオカミ鉄道に問い合わせました」
そんな情報がでたなら、総裁はすぐに僕に回すはずだけど。
結構重要なところだ。
僕は一旦話を中断し、総裁に個人的に電話をかけた。
( ´・ω・) 「もしもし、県警のショボーンですゥ」
総裁は、別段焦っている様子ではなかった。
しかし、一発 「すぐに情報は回してもらわないと」 と入れると、態度が一変した。
掘り下げていくと、結論、総裁は知らなかったようだ。
部下が調査し、害者を見つけ出したまではいいが、総裁には回さなかった。
至急ご自身で確認していただき、県警までデータを送るよう頼んだ。
電話を切る頃、総裁は焦っていた。
.
766
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:17:50 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「……」
むすッとしていると、イナリが申し訳なさそうに少し頭を下げた。
林ちゃんもそうだが、情報はすぐにこちらまで回してもらいたいものだ。
(´・ω・`) 「失礼……ええと、イナリちゃん」
イ(゚、ナリ从 「はい」
貸してくれ、と手を伸ばすと、A4を二枚くれた。
ヒッキー小森がアルプスで乗車時点、同行者はいなかった。
服装や持ち物に変化はない。
その時の車両はロングシート、ボックスシートしか備わっていないものだ。
誰かが落ち合って、害者の目を盗みオイルを盛ることは容易かったかもしれない。
ただ、案の定車両内に監視カメラはなかったようで、
乗車時に同行者がいなかったことを考えると、そちらの線は薄いだろう。
.
767
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:18:13 ID:9y4TR9Iw0
となると、ヴィップに到着後認められた、空白の時間。
犯人はそこで害者と合流し、オイルを盛った可能性が高い。
如何せんそちらは、大した情報が上がっていない。
店に入った可能性は低いため、公園か路地か、どこかでたむろしていたのか。
(´・ω・`) 「ありがとう」
イ(゚、ナリ从 「何か」
(´・ω・`) 「いや、なんでもないよ」
(´・ω・`) 「とにかく」
(´・ω・`) 「二点目」
(´・ω・`) 「三月殿、アルプス神経病院はご存じですか」
(メ._⊿,) 「神経……病院……」
言われて少し、三月殿は押し黙った。
.
768
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:18:37 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「はい」
(メ._⊿,) 「……え」
イ(゚、ナリ从 「ふたりともよく存じています」
(メ._⊿,) 「……え」
ペニー曰く、普通に大きな病院らしい。
ヴィップ県警よりも大きい建物だったそうだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「私も、掛かっていましたから」
(メ._⊿,) 「……あ」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
(´・ω・`) 「!」
.
769
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:19:07 ID:9y4TR9Iw0
イナリちゃんが、露骨にふてくされる。
三月殿が、しゅんと肩を落とした。
三月イナリ。
三月ウサギの娘と知られる彼女だが、過去に凶悪な事件に巻き込まれている。
彼女はそこで、記憶をなくしている。
,_
イ(゚、ナリ从 「………最ッ低」
(メ._⊿,) 「ち……違う……これはその……」
かなり威圧的に、ぼそっと放たれた一言に、三月殿は恐縮した。
また 「親子警部」 のペースに持っていかれる。
(´・ω・`) 「イナリちゃん、許したげてよ」
(´・ω・`) 「その人、もう六十超えた、じいちゃんだぜ?」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
若くして記憶をなくしたイナリちゃんと、
歳を取りすぎて物忘れが激しい三月殿。
なんとも皮肉な話だ。
誰にだって、忘れたい記憶は、あるのさ。
.
770
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:19:27 ID:9y4TR9Iw0
,_
イ(゚、ナリ从 「続けてください」
(メ._⊿,) 「その病院が……どうした……」
(´・ω・`) 「さて、どこから話そうか」
結構ややこしい話になる。
この話には、くだんの 「亡霊」 が一枚噛んでくるのだ。
(´・ω・`) 「イナリちゃん」
(´・ω・`) 「亡霊……ッて、わかるかい?」
イ(゚、ナリ从 「亡霊」
きょとんとした。
記憶になかったようで、バッグを太ももの上に置き、
それを下敷きに資料をずらっと広げだした。
(´・ω・`) 「いや、いい」
イ(゚、ナリ从 「え」
.
771
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:19:48 ID:9y4TR9Iw0
もし亡霊を知っているなら、絶対に、忘れるなんてことはない。
この事件の犯人で、アウトドアサークルの隠された七人目なのだ。
(´・ω・`) 「さて、ヴィップ大学の某サークル、と言いましたが」
、 、
(´・ω・`) 「最初の捜査では、構成員は六人と認識していました」
(´・ω・`) 「フッサール擬古からはじまった四人の被害者」
( ´・ω・) 「残り二人が……」
前を走るパトカーを指さす。
兄者とデミタスを加え、六人だ。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「……六人?」
(´・ω・`) 「しかし、正確には違った」
(´・ω・`) 「七人目が、いたのです」
.
772
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:20:26 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「……」
知らなかった、と言わんばかりに資料にメモを書き足していく。
思った通りだ。
僕の知らないところで勝手に組まれた共同戦線だが、
どうせ刑事部長や一課長が勝手に決めたことだ。
昨晩判明した新事実など、大して共有できていないだろう。
(´・ω・`) 「どうして、初動捜査で七人目が割れなかったか、ですが」
(´・ω・`) 「生存していた構成員が、みんなして隠していたのです」
(メ._⊿,) 「……」
一応ヴィップ大学にも問い合わせたが、
非公認サークルの名簿なんて、一切管理していないらしかった。
そのため、構成員が口を揃えれば、内部事情は隠ぺいできるのだ。
(´・ω・`) 「それはなぜか」
、 、 、、 、
(´・ω・`) 「その七人目は、実質的に死んでいたからです」
.
773
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:20:53 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「!」
(メ._⊿,) 「……そういうことか」
三月殿には、昨日、メールや口頭でさわりだけ伝えている。
対するイナリちゃんは、目を少し見開いていた。
昨日の時点では、まだ一課長に進捗は共有していない。
イナリちゃんですら知らなかった以上、世間的にはまだ知られていない情報と言える。
知り得るのは、ショボーン班と兄者、デミタス、そして亡霊だけだ。
(´・ω・`) 「昨日三月殿にお願いした、十年前の事故」
(´・ω・`) 「それで、七人目は植物状態に陥った」
(´・ω・`) 「マ、昨日三月殿にお話しした通りですな」
イ(゚、ナリ从 「…。」
,_
イ(゚、ナリ从 「………共有して、ッて、言ったじゃない……」
(メ._⊿,) 「……」
三月殿がイナリちゃんに弱いのは、彼を知る人は皆知っていることである。
表情では平生を保とうと努めているが、額に脂汗がびっしょり浮かび上がっている。
.
774
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:21:17 ID:9y4TR9Iw0
,_
イ(゚、ナリ从 「その七人目が、アルプス神経病院に掛かっていた、と」
じろりと三月殿を睨みつける。
蛇に睨まれた蛙ならぬ、狐に睨まれた兎だ。
三月殿はだらだらと汗を垂らしながら、硬直している。
(´・ω・`) 「ああ」
(´・ω・`) 「その名は、山村貞子」
(´・ω・`) 「またの名を、亡霊」
イ(゚、ナリ从 「…!」
高級そうな万年筆を、次々滑らせる。
イナリちゃんからすれば、どれも垂涎の的だろう。
(´・ω・`) 「となると、こんな話も知らないだろう」
(´・ω・`) 「昨日の夜のことだ」
(´・ω・`) 「これは、僕に個人的にかけられた電話なんだけどね」
.
775
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:22:13 ID:9y4TR9Iw0
昨日の、亡霊との通話内容は、録音してある。
口頭で説明するのも面倒だ、黙ってその音声を再生した。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
自らを亡霊と称し、それまでの連続殺人、四件を自供。
加え、残り二人も殺害する旨を告げる。
イ(゚、ナリ从 「………!」
(メ._⊿,) 「亡霊……か……」
(´・ω・`) 「その亡霊だけど」
、 、
(´・ω・`) 「十年前の事故でね、その病院に送られた」
(´・ω・`) 「ハズ、なんだ」
.
776
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:22:42 ID:9y4TR9Iw0
(メ._⊿,) 「向こうさんに……手は回っているのか……?」
(´・ω・`) 「それが、対応が面倒なのか、面白い情報はくれなかった」
イ(゚、ナリ从 「わかりました」
イ(゚、ナリ从 「アルプスのほうからも、アプローチしてみましょう」
さすがイナリちゃん、
話の裏を汲み取って、すぐにノートパソコンを開いた。
アルプス県警から正式に干渉してくれるのだろう。
ワカッテマスとイナリちゃんは、共通点が多い。
歳も近く、非常に頭が切れる。
仕事の速さ、無駄口の少なさ、冗談の通じなさ。
そして何より、期間は違えど僕が面倒を見てきたふたりだ。
ふたりがヴィップ県警で共存した期間は短いが、
その時は、間違いなく全土で見てもトップクラスの実力を誇っていた。
ヴィップ県警黄金期、というものだ。
.
777
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:23:06 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「わかっていることをお伝えすると」
(´・ω・`) 「少なくとも、今は在籍していないこと」
(´・ω・`) 「それも、おそらくは移転……たらい回しにされたのだろう、ということ」
イ(゚、ナリ从 「……」
自身も掛かっていたイナリちゃんだ、思い当たる節があるのだろう。
言うと、イナリちゃんは少し、深めの息を吐いた。
(´・ω・`) 「さて、三点目ですが」
(´・ω・`) 「これも昨日、お伝えした通り」
(´・ω・`) 「十年前の事故は……アルプスで起こったんだ」
.
778
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:23:30 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「把握しております」
イ(゚、ナリ从 「アルプス山脈、有無山の某所」
(´・ω・`) 「そうそう」
アルプスは、その名を持つ大きな山脈が連なっている。
そのうちのひとつ、アルム山で事故は起こった。
昨日、三月殿に調べてくれ、と頼んだ案件だ。
イナリちゃんにも、その情報は回っているようだ。
ちょっと安心した。
(メ._⊿,) 「……」
昨日の今日で、場所を特定し、干渉まで漕ぎ着けられている。
三月殿個人に任せていた場合、あと一日はかかっただろうか。
と考えると、イナリちゃん含むアルプス県警の力を借りられたのは大きいぞ。
パトカーはいま、真っ直ぐ現場に向かって山道を走っている。
確かに辺境と呼べる場所だったようで、一番近い署からでも一時間はかかるらしい。
.
779
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:25:16 ID:9y4TR9Iw0
警部三人に、当事者二人。
万が一に備えた警官二人と、念のために鑑識。
八人を乗せて、パトカーは十年前に向かって走っている。
(´・ω・`) 「以上が、アルプス県警と協力することになった主な理由ですね」
イ(゚、ナリ从 「警部」
(´・ω・`) 「ん」
四人いるパトカーの、うち三人が警部なんだ。
唐突に警部なんて言われたら、ちょっと混乱するな。
イ(゚、ナリ从 「しかし、事故は事故」
イ(゚、ナリ从 「察するに、その事故に事件性がなかったか、を検証したいのでしょうが」
イ(゚、ナリ从 「果たして、可能なのでしょうか」
(´・ω・`) 「わからない」
イ(゚、ナリ从 「……」
.
780
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:25:46 ID:9y4TR9Iw0
当然、事故のあと、コテージは掃除されるだろう。
仮に十年前の指紋が検出できたとして、残っているものはなかろう。
加え、いまはコテージの貸出も終了している。
現場となる崖は、いわば自然そのままだ。
十年前と様相を変えていないほうがおかしい話である。
ここで何かが掴めるかは、はっきり言って博打ですらあった。
(´・ω・`) 「わからない、けど」
(´・ω・`) 「前に乗せた二人」
(´・ω・`) 「彼らに現場をもっかい見せて、そのうえで検討したいんだ」
人間の記憶というものは面白いもので、
何かキッカケさえあれば、芋づる式に記憶が蘇ることがある。
それも、藁を掴むような話ではない。
じゅうぶん起こり得る、期待の持てる確率で、だ。
イ(゚、ナリ从 「まあ、わかりました」
イ(゚、ナリ从 「ところで」
(´・ω・`) 「はいよ」
.
781
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:26:13 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「現場……山奥ですが、」
イ(゚、ナリ从 「ネットの電波は、届くのですか?」
(´・ω・`) 「……」
三月殿を見やる。
(メ._⊿,) 「……」
まったくわからない、といった顔をされた。
水を打ったようになった。
イ(゚、ナリ从 「…。」
(´・ω・`) 「………」
(´^ω^`) 「ま、まあ……届くんじゃない?」
イ(゚、ナリ从 「…。」
科学の進歩は素晴らしいものだ。
昔の携帯電話には、アンテナがついていて、
それを伸ばさないと電話なんてできなかったものだ。
.
782
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:26:39 ID:9y4TR9Iw0
イナリちゃんが訝しげな顔をするなか、
五月のアルプスは、随所で葉桜が山々を彩っていた。
三月殿とともに臨んだ事件を思い出す。
因縁だ。
密室鉄道だったり、イナリちゃんだったり、連続殺人だったり。
今度は葉桜という因縁が僕の前に現れた。
どうする。
嫌な予感を信じるならば、次にはいよいよ、あの女の子が出てくるぞ。
イ(゚、ナリ从 「……警部は、葉桜はお好きで?」
(´・ω・`) 「ん。 え。」
イ(゚、ナリ从 「ずっと、葉桜を見ていたので」
おや、と思った。
以前のイナリちゃんなら、そんな雑談、決して交わそうとしなかった。
精神的に大人になって、心の余裕ができたのか。
あるいは、単なる気まぐれだろうか。
.
783
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:27:15 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「いやあ」
(´・ω・`) 「三月殿との思い出を、ちょっと」
(メ._⊿,) 「……ふん」
何年前だろうか。
少なくとも、三月殿がまだ六十の山を登りきる前だった。
イ(゚、ナリ从 「……」
( ´・ω・) 「確か、こんな季節でしたよね」
(メ._⊿,) 「……忘れたな」
腕を組んで、適当にあしらわれる。
三月という男は、なかなか人が掴めない。
はたから見れば、黒いボロ衣を着た無口な隻眼の爺さんなのだが、
そのわりに背が低かったり、目がくりっと大きかったりと、可愛らしい一面もある。
.
784
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:27:43 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「そうですよね、忘れますものね」
(メ._⊿,) 「いや……忘れては……」
隻眼といえば、イナリちゃんもだ。
別に、単なる偶然には違いない。
イナリちゃんは、記憶を失った事件で。
三月殿は、それとはまったく別の、大昔の事件で、目に傷を負っている。
もっとも、犯人の凶刃による傷、という点では共通するが。
(´・ω・`) 「どうしたんだい、イナリちゃん」
(´・ω・`) 「結構ノリ気じゃない」
イ(゚、ナリ从 「……」
(´^ω^`) 「久々の現場に、胸が躍るッてやつかな?」
イ(゚、ナリ从 「……」
.
785
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:28:13 ID:9y4TR9Iw0
なかなか可哀想な女の子だとも思った。
キャリア組は、結構まわりから妬まれたりするのだ。
現場一辺倒のぎょろ目なんかとは、特に相容れない部分があるだろう。
しかし一方で、警察でも随一の美貌を持っている。
詳しい話は知らないが、少なくとも僕の下にいた頃は、
キャリア組の女であることを面白く思わない層と、
その美貌を、眼福と言わんばかりに支持する層とで分かれていたものだ。
イ(゚、ナリ从 「いろいろと、新鮮ですから」
(´・ω・`) 「新鮮」
イナリちゃんが好んで着ているのかはわからないけど、
体のラインがよく表れる、異常に細いスーツを着込んでいる。
男性の支持層を勝ち得たともいえる線の細さは、未だ健在であった。
イ(゚、ナリ从 「私が現場に出るのも、そう」
イ(゚、ナリ从 「おふたりが一緒にいるのもそうですし」
(´^ω^`) 「あ。 僕に会えたのがそもそも新鮮? 嬉しい?」
.
786
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:28:34 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「………まあ」
(´・ω・`) 「うへっ」
ちょっとドキッとした。
なるほど確かに、以前より遥かに心の余裕を持っているようだ。
からかってやろうと思ったのが、カウンターされてしまった。
(´・ω・`) 「えっと、ああ」
(´^ω^`) 「キャンディー、なめる?」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
(´・ω・`) 「……」
ポケットからふたつ、キャンディーを取り出した。
ミセリにもあげた花飴は、しかし受け取ってもらえなかった。
.
787
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:28:57 ID:9y4TR9Iw0
┏━─
午前九時二九分 アルプス山脈 有無山
─━┛
パトカーはやがて、十年前の現場に到着した。
兄者が言っていたように、確かに辺境で、
しかし雄大に広がるアルプス山脈の景色は、見事であった。
ただ、季節は五月。
紅葉は当然だがうかがえないし、
それ以上に、想像を超える寒さに見舞われた。
イ(゚、ナリ从 「……」
パトカーを降りて、イナリちゃんは思わず体をさすった。
僕は、トレンチコートを着込んでいるから大丈夫だけど。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
三月殿も肌寒さを感じたようだ。
そんな、穴だらけのボロ衣なんか着ているからだ。
.
788
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:29:17 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「あーー」
(´・_ゝ・`) 「……間違いないね」
'_
(´・ω・`) 、
一方の兄者、デミタスは肌寒さなど感じなかったようだ。
一足先に着いて、周囲を見て回っていたらしい。
歩み寄ると、ふたりが振り返った。
( ´_ゝ`) 「ここですよ、ここ」
(´・ω・`) 「この、崖」
( ´_ゝ`) 「間違えるわけがありません」
( ´_ゝ`) 「貞子は……この崖から、落ちました」
.
789
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:29:59 ID:9y4TR9Iw0
崖は、確かに切り立った、危険なものだった。
柵など当然なく、雨が降ってしまえば思わず滑り落ちてしまいそうだ。
なにより、風が強い。
体幹がしっかりしていなければそれだけでバランスを崩しかねない。
絶壁から、随所で突出した岩や木が窺える。
当時がどうだったかはわからないが、貞子は確かに、半ば転がり落ちていったのだろう。
(´・ω・`) 「………ふむ」
(´・_ゝ・`) 「僕らがごはん食べてたのは、あっちらへん」
(´・ω・`) 「どれ」
デミタスが指を差したのは、崖際から十メートルほど向こうの開けた場所だった。
草が生えておらず、平坦な岩肌が露出している。
もう少し向こうにいくと、深緑のトンネルとなる。
危険なわけではなく、太陽光を浴びながら景色を一望できるため、
食事をするとなれば適した場所であることには違いなかった。
.
790
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:30:25 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「当時も、こんな感じだったのかな」
( ´_ゝ`) 「だな」
( ´_ゝ`) 「変わってなくて、ちいと驚いちまった程だ」
自然からすれば、十年ぽっちという時間では大した変化ができないのか。
ふたりが迷いなく当時の証言をする辺り、自然の規模の規格外さに驚かされる。
(´・ω・`) 「で、コテージが……」
( ´_ゝ`) 「さっきの道を、左に道なりに進めばあったさ」
( ´_ゝ`) 「今あるかはわからんがね」
分岐点はあったが、そこに看板などは見当たらなかった。
朽ちて自然になくなったのか、コテージを貸さなくなったため処分したのか。
道にしたって、車が通る程度の幅はあったが、
整備などはもちろんされておらず、スリップしてしまえばそのまま即死すらあり得る。
証言でたびたび挙がった 「辺境」 には違いない場所だった。
.
791
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:30:53 ID:9y4TR9Iw0
(メ._⊿,) 「……ここか」
(´・ω・`) 「いやあ」
(´・ω・`) 「さすがアルプス、恵まれた大自然の地」
若干の皮肉も添えて言うと、三月殿は目を細めた。
視線の先には、十年前兄者たちが見ていたのであろう山脈があった。
どうやら僕の言葉は感傷を前に打ち消されたのだろう。
風にマントを揺らしながら、じっくりと景色を見やる。
アルプスの人間からすれば、この景色は特別な美しさが感じられるのだろうか。
(メ._⊿,) 「……」
当時と違うと思われるのは、濃霧だ。
かなり標高が高く、山の頂のほうには濃霧がかかっているのが肉眼でもわかる。
(´・ω・`) 「結構、濃いですな」
(メ._⊿,) 「……こんなもんじゃねえよ」
.
792
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:35:32 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「というと」
(メ._⊿,) 「有無山だろう……」
(メ._⊿,) 「……もう一ヶ月早ければ……車すら出せなかっただろうよ」
(´・ω・`) 「そんなにですか」
自然が豊か、ということはつまり水が豊かであることに繋がる。
山を登る時も、滝や川が随所で見受けられた。
気候には詳しくないが、条件さえ合えば霧自体は頻繁に発生するのだろう。
(´・ω・`) 「十年前って、霧、出てた?」
(´・_ゝ・`) 「霧……ですか」
(´・_ゝ・`) 「あったような、なかったような」
( ´_ゝ`) 「いや、特に」
( ´_ゝ`) 「むしろ、あの時はカラッカラに晴れてたぜ」
.
793
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:36:04 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「当時は……紅葉シーズンか」
(´・ω・`) 「三月殿」
ヴィップに住んでいると、霧などほとんどお目に掛かれない。
霧は重要な情報だ、ある程度概要は押さえておきたい。
(´・ω・`) 「霧って、出やすい季節とか、あるんです?」
(メ._⊿,) 「……季節……か」
(メ._⊿,) 「……秋なら……それもここらなら……」
(メ._⊿,) 「最悪……向こう五メートルが見えなくなるかもしれねえな……」
(;´・ω・`) 「本当に言ってますか?」
(メ._⊿,) 「言ってしまえば……雲の中だ……」
.
794
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:36:30 ID:9y4TR9Iw0
地上にいる限り、そのようなことはないらしい。
しかし、舞台が特殊だ。
山、それも高いところにいるため、文字通り雲に呑まれるようになるのか。
イ(゚、ナリ从 「厳密に言えば、雲と霧に分類上の違いはありません」
唖然としていると、後ろからイナリちゃんが言った。
イ(゚、ナリ从 「霧って要は、雲と同じく、飽和した水分が空気中を漂っている現象です」
(´・ω・`) 「そうなの?」
イ(゚、ナリ从 「ただ、言葉として、雲は空を浮いているものです」
イ(゚、ナリ从 「同じ現象が目の前で働いたからといって、」
イ(゚、ナリ从 「雲と言いづらいのは、まあわかる話ですね」
アルプスの人間からすれば常識なのか、
イナリちゃんが単に博識なだけなのか。
.
795
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:36:53 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「今朝、事故当時の気象データを洗いましたが」
イ(゚、ナリ从 「実際に、朝方は強い霧が発生していたようですから」
( ´_ゝ`) 「なんだって?」
兄者が間髪入れずに割り込んできた。
( ´_ゝ`) 「俺は確かに見たぜ」
( ´_ゝ`) 「………この下に落ちてた貞子を、ハッキリと」
( ´_ゝ`) 「いまでも、脳に焼き付いてやがる」
イ(゚、ナリ从 「……ふむ」
(´・ω・`) 「どうなの、イナリちゃん」
当事者が言うと、説得力がある。
崖下は、ウン十メートルもの高低差がある。
平生でもはっきり見えるか怪しいくらいの距離だ、
霧なんてかかっていれば 「見る」 ことはできないだろう。
.
796
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:37:15 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「見たのは、何時ごろですか」
( ´_ゝ`) 「……すまねえ、詳しくは覚えてないけどよ」
( ´_ゝ`) 「少なくとも霧はなかった。 これは確かだ」
イ(゚、ナリ从 「と、なると……」
空を仰いで、イナリちゃんが顎に手を当てる。
イナリちゃんは、データを重視する子だ。
データと証言、現場状況に食い違いがあった場合、
そこから推理を出発させて真実を追究するスタンスを取っている。
(メ._⊿,) 「イナリ……そいつァどこのデータだ」
イ(゚、ナリ从 「どこ、というと」
(メ._⊿,) 「有無山全域……か」
イ(゚、ナリ从 「はい」
.
797
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:37:56 ID:9y4TR9Iw0
三月殿が首の関節を鳴らす。
日頃の、イナリちゃんに頭が上がらない彼じゃない。
本腰が入っている、シリアスな警部だった。
(メ._⊿,) 「山は……ご機嫌だ……」
(メ._⊿,) 「あまりデータを過信すると……痛い目を見るぞ」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「曖昧なんだよ……山の機嫌ッてのは……」
イ(゚、ナリ从 「……」
,_
イ(゚、ナリ从 「結論を、スパッと言って」
(メ._⊿,) 「その時は霧が薄かった……なかったッてだけだろうよ……」
視線をイナリちゃんから遠ざけるように動かした。
シリアスだろうがなんだろうが、イナリちゃんには敵わないのか。
.
798
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:39:14 ID:9y4TR9Iw0
むろん、兄者の思い込みもあり得る。
転落した貞子、というのは彼からすれば強烈なインパクトがある。
そのインパクトが、視野や記憶を侵食した可能性は高い。
しかし、何にせよ目視できた以上、
僕らが言うような濃霧、はなかったことが断言できる。
イ(゚、ナリ从 「まあ、いいですが」
イ(゚、ナリ从 「ここらは、起伏が激しいですよね」
(´・ω・`) 「うん。 車からも、確認できた」
イ(゚、ナリ从 「その、谷底」
イ(゚、ナリ从 「冷たい空気が昇ってくることで、疑似的な雲が出現するのです」
イ(゚、ナリ从 「上昇霧……と、専門的には言うみたいです」
.
799
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:39:43 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「それが、事件当時にはあった、と」
イ(゚、ナリ从 「まあ、上昇霧に限った話ではないですが」
イ(゚、ナリ从 「少なくともアルプス山脈北部、ここらでは霧が発生していました」
僕がぎょろ目の捜査を信じているように、
イナリちゃんのデータやそれに基づく推理は、基本的に信じている。
しかし、当の兄者が否定している以上、特に関係はないのだろうか。
霧、となると、それは転落の原因にもつながる。
(´・ω・`) 「じゃあ、霧も抑えたうえで時系列を確認したいけど」
( ´_ゝ`) 「あの、コテージじゃだめですかね」
(´・ω・`) 「へ」
( ´_ゝ`) 「その……なんと言いますやら」
兄者が、眉をひそめて、ゆっくり話す。
その声には、多少の怯えが感じ取られた。
.
800
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:40:45 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「怖い……んスよ。」
( ´_ゝ`) 「トラウマ、というか、なんつーか」
( ´_ゝ`) 「とにかく、せめて車にでも戻って、それで話がしたい」
(´・ω・`) 「これは失礼」
と言って、イナリちゃんに目配せすると、頷いてくれた。
当事者の心境的にも、単純な安全で言っても、ここは不適切だ。
車に戻る時、三月殿は相も変わらず
ポケットに手を突っ込んだまま、向こうの方の山を見つめていた。
(´・ω・`) 「三月殿」
(メ._⊿,) 「…………ん。」
(´・ω・`) 「一旦、車のほうに戻りましょう」
.
801
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:41:22 ID:9y4TR9Iw0
(メ._⊿,) 「……ああ。 すぐ戻る」
(´・ω・`) 「なにか?」
いや。
ちいさく呟いた。
(メ._⊿,) 「久々の……登山だ」
(メ._⊿,) 「少し……きれいな空気を……味わっておきたい」
(´・ω・`) 「わかりました」
イナリちゃん、兄者、デミタスを連れて戻ってきた。
深緑のトンネルの、少し先。
パトカーを二台停めてある。
イナリちゃんが運転席につく。
エンジンをかけたかと思うと、すぐさま暖房を入れた。
顔色は変わっていないが、やはり寒さが堪えたのだろう。
.
802
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:43:20 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「……」
助手席には、僕が座った。
さて、出発するか、ここで検討をはじめるか。
( ´_ゝ`) 「刑事さん」
イ(゚、ナリ从 「はい」
( ´_ゝ`) 「例の、コテージって」
( ´_ゝ`) 「いま入れたり、するんです?」
イ(゚、ナリ从 「入ろうと思えば」
'_
(´・ω・`) 、
聞いてないな。
イナリちゃんの顔を見やると、イナリちゃんが僕にも視線をくれた。
イ(゚、ナリ从 「なんでも、貸主は相当なご高齢で」
イ(゚、ナリ从 「当初同伴してもらうつもりでしたが、厳しそうでした」
イ(゚、ナリ从 「なので、鍵だけ預かっています」
.
803
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:44:07 ID:9y4TR9Iw0
いつの間に。
聞くと、イナリちゃんは顔を澄ますだけ澄まして、返事は控えられた。
(´・_ゝ・`) 「でも……なんか嫌だな」
( ´_ゝ`) 「思い出すからか?」
(´・_ゝ・`) 「その、虫とか多そう」
( ´_ゝ`) 「どうでもいいわw」
手入れされたのは、何年前だろうか。
かびの臭いや、蜘蛛の巣が目立つには違いない。
こんな山奥、大自然の空き家だ、動物や昆虫の棲家になるのもおかしくないだろう。
(´・ω・`) 「コテージか……」
(´・ω・`) 「どうする、イナリちゃん」
聞くと、答えが用意されていたかのようにすぐ拒否された。
女の子だろうと、イナリちゃんとて立派な警部だ、
いまの虫の話を聞いて、ではないことを切に願うところである。
.
804
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:46:41 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「事故現場はあくまで先ほどの崖」
イ(゚、ナリ从 「コテージは拠点に過ぎず、当時の物証も一切ないでしょう」
イ(゚、ナリ从 「だったら、検討を進めるのが時間効率的にもベターかと」
うわあ、すっごいいじりたい。
でも一般人の前でいじるのは少し可哀想だ。
何より言っていることそのものは的を射ている、いいだろう。
この場にぎょろ目がいなかったのが彼女にとっての救いだ。
(´・ω・`) 「鑑識連れてきたんだけど……どうしよう?」
イ(゚、ナリ从 「でしたら、警部にご同行願います」
イ(゚、ナリ从 「昨日今日駆り出された私が行っても、仕方ありません」
言っていることは、確かに的を射ている。
射ているが、何年経ってもイナリちゃんはイナリちゃんだった。
.
805
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:47:07 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「だったら俺も連れてってくれ」
(´・ω・`) 「ん」
( ´_ゝ`) 「俺がいた方が適任。 そうだろう?」
(´・ω・`) 「ああ、そうだね」
イ(゚、ナリ从 「……」
鑑識、僕、兄者。
あと警官ふたりも付きあわせよう。
証拠は、イナリちゃんの言う通り何も残ってないと思う。
ただ、検討をより掘り進めるには都合がいい。
イ(゚、ナリ从 「それはそうと」
イ(゚、ナリ从 「あなたには、いくつかお伺いしたいことが」
( ´_ゝ`) 「なんでもござれ」
.
806
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:48:14 ID:9y4TR9Iw0
兄者は先ほどから一転、冷静を保っていた。
車に戻ることで、落ち着きを取り戻したのだろう。
イ(゚、ナリ从 「事件発覚は、いつですか?」
イ(゚、ナリ从 「また、その、第一発見者」
( ´_ゝ`) 「朝方……としか言えないな」
( ´_ゝ`) 「具体的に何時か、はわからないですね」
イ(゚、ナリ从 「では、発見者は」
( ´_ゝ`) 「わたしです」
イ(゚、ナリ从 「……ふむ」
ファイルデータと照会しながら、頷く。
ここらは、十年前既に調べられたところだろう。
間違いがないか、新事実がないかを随時、チェックしている。
.
807
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:49:33 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「崖の下、だったんだよね」
(´・ω・`) 「きみは、どうして見つけられたの?」
( ´_ゝ`) 「ああ……」
( ´_ゝ`) 「俺は、早起きしたんだ」
( ´_ゝ`) 「朝一の紅葉が見たくて、な」
きっかけも、ただの偶然。
僕は彼のクチから、どこかに事件性を見出さなければならない。
「亡霊」 という存在が、不幸中の幸いだった。
奴がいることで、彼の話を、最初から疑ってかかることができるのだ。
( ´_ゝ`) 「で、つい癖で、写真を撮ろうと思った」
( ´_ゝ`) 「ただ、相棒の一眼レフを落とした話はしたよな」
(´・ω・`) 「してたね」
.
808
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:49:57 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「で、ふと崖の下を見たんだよ」
( ´_ゝ`) 「……それがキッカケさ」
(´・ω・`) 「……」
事件性は、ない。
カメラを落としたことを思い出して、崖下を見る。
至って自然な道理、道筋だ。
(´・ω・`) 「その、カメラって」
(´・ω・`) 「警察も調べてるのかな」
イ(゚、ナリ从 「一応、一文だけ、ちょこっと」
イ(゚、ナリ从 「ただ場所は多少ずれるみたいですが」
( ´_ゝ`) 「まあ、崖下を見たキッカケなだけよ」
( ´_ゝ`) 「ここにカメラを落としたんだよなァ、とか思って見たわけじゃない」
( ´_ゝ`) 「そういや、カメラ、崖の下に落としたなァ……程度の、軽いノリさ」
.
809
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:52:07 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「……」
ロジックは、いっそ付け入る隙がないほどに、自然。
ただ、自然すぎるからこそ、多少の猜疑心も芽生える。
「実は事故ではなく事件だった」 という前提があるから、
とはわかっているものの、つい眉がピクリと動いてしまう。
イ(゚、ナリ从 「見てからの、あなたの行動、心境は」
( ´_ゝ`) 「心境……ッたって……」
( ´_ゝ`) 「………なんだろう。 言葉にできねえな」
( ´_ゝ`) 「言葉にできないからこそ、トラウマになったんだ」
過去に何度か、トラウマ関連の事件を扱ったことがある。
その時に調べたが、トラウマという症状は、
言語化できないほどの強烈な印象が原因でなる、という。
たとえばイナリちゃんだが、以前の記憶をなくしていなければ、
当時の事件が原因で、刃物や何かしらにトラウマを持っていてもおかしくない。
思えば、その時に初めて、僕はトラウマという症状を調べた記憶がある。
彼女の事件を担当したのは、僕なのだ。
.
810
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:52:35 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「とにかく、訳が分からなくて硬直した」
( ´_ゝ`) 「どんくらい固まってたかなんて、いま振り返ってもわからねえ」
( ´_ゝ`) 「五分かもしれないし、五秒かもしれないし、五時間かもしれない」
( ´_ゝ`) 「生きてきて、あんなに時間ッつーもんが感じられなかったのは、なかったぜ」
一般市民の大多数は、身内の悲惨な事故現場を見ることがない。
どの家庭にも必ず訪れる、大往生による訃報ですら、
彼らは言葉にできない恐怖、寂寥感を覚えるのだ。
まして想定外の事故、事件、死亡など、想像すらできないほどの感情に支配される。
その点、兄者の言い分はやはり、正確だ。
平生では決して陥るはずのない感覚を、しっかりと理解している。
貞子の悲惨な姿を見たのは、間違いないのだ。
イ(゚、ナリ从 「それは、一目見て、すぐ被害者だ、とわかったのですか?」
( ´_ゝ`) 「わかったね」
( ´_ゝ`) 「……と言いたいけど、なんなんだろうな」
イ(゚、ナリ从 「?」
.
811
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:53:54 ID:9y4TR9Iw0
兄者が、一瞬言葉を詰まらせる。
( ´_ゝ`) 「いま思うと……こう、理屈とかじゃねえんスよ」
( ´_ゝ`) 「実際には、はっきりと貞子と見えたワケじゃなかったかもしれない」
( ´_ゝ`) 「でも、見た時、目を疑って、すぐ貞子と、頭が感じた」
( ´_ゝ`) 「服装がそれっぽいからとか、髪が、とかあるかもしれないけど」
( ´_ゝ`) 「こう……理屈じゃなく、貞子が死んでいた、ッて感じたんだ」
( ´_ゝ`) 「血だまりとかもなかったし、なおのこと……理屈じゃなかったと思う」
イ(゚、ナリ从 「……」
口達者の兄者が、当時の心境を説明しあぐねている。
それは、記憶が薄れている、といったものではない。
心境をずばり言い当てる言葉が、存在しないのだ。
本人が、なんとか言葉にしようとしている通りである。
服装、髪、体型、あらゆる要素が自然のうちに脳内で貞子と結びつけただけなのだろう。
しかし一方で、そんな非現実的な、という心理も、無意識のうちに働くはずでもある。
だから、理屈ではない。
なぜかはわからないが、崖下で倒れている何かを、貞子と感じた。
兄者の脳は、論理的にそれを説明できないでいた。
.
812
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:54:20 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「そうですか」
イナリちゃんは、データ重視の刑事だ。
人間の持つ感情は、もろく曖昧なものだと考えている節がある。
いまの兄者の説明を、どう受け取ったのだろう。
イ(゚、ナリ从 「では、その後の行動は」
( ´_ゝ`) 「なんか、こう、なんなんだろうな」
( ´_ゝ`) 「とにかく、ヒッキーを呼んだ」
イ(゚、ナリ从 「ヒッキー……ヒッキー小森ですね」
人物ファイルを繰りながら、頷く。
兄者の古い友人で、連続予告殺人第二の被害者。
( ´_ゝ`) 「で、見せた」
イ(゚、ナリ从 「見せた」
.
813
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:56:46 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「何が起こったかが、よくわかってなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「なんかよくわからなかったから、とりあえず見せればいい」
( ´_ゝ`) 「そう思った」
イ(゚、ナリ从 「崖まで連れてきて、崖下を覗かせたんですね?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
イ(゚、ナリ从 「彼は、どんな様子でしたか」
( ´_ゝ`) 「なんかよくわからん、ッて感じだったな」
( ´_ゝ`) 「ただ、少しして、は? ッて言ってたわ」
ヒッキー小森も、直接話したことはないが、
まあ彼も兄者よろしく、身内の事故死など経験したことがないだろう。
当時の彼の心境は、ある程度察することはできる。
.
814
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:57:06 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「でもアイツ、俺の雰囲気から、何かは察してたんだろうな」
イ(゚、ナリ从 「山村貞子が転落していた、ということを?」
( ´_ゝ`) 「いや。 ンな具体的なことじゃなくて」
( ´_ゝ`) 「ただならぬ……トンでもないことがあったんだな、とか」
旧友だからこそ感じ取れるものは、確かにある。
兄者に呼び出され、連れられている時、よからぬものを察したのだろう。
( ´_ゝ`) 「混乱してた俺なんかより、よっぽど冷静だった」
( ´_ゝ`) 「とにかく、警察を呼ぼう、と」
イ(゚、ナリ从 「冷静ですね」
( ´_ゝ`) 「でも、それに助けられた」
( ´_ゝ`) 「そうか、とにかく人を呼べばいいのか」
( ´_ゝ`) 「俺は、ハッと気づかされたわけよ」
.
815
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:59:23 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「単なる疑問なんだけど、当時電波は通じたのかい?」
( ´_ゝ`) 「ん」
イナリちゃんが当初懸念していた、電波状況。
少なくとも今は、インターネットも電話もつながるが、十年前はどうか。
( ´_ゝ`) 「会社次第ッて感じだ」
( ´_ゝ`) 「ほら、山に強い、海に強い、都市に強い、とか」
メガキャリアの特徴だ。
どうしてそうなっているかはわからないし、今となってはそれほど違いはないらしいが、
当時は確かに、携帯会社によって電波の届く場所、届かない場所というのがあった。
船乗りなんかは、A社の電話を。
登山家なんかは、D社の電話を。
そんな棲み分けは、確かにあったものだ。
( ´_ゝ`) 「残った六人のうち、一人だけちゃんと電波が通ってるやつがいてな」
( ´_ゝ`) 「ええと……誰だったか」
.
816
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:59:56 ID:9y4TR9Iw0
(´・_ゝ・`) 「僕だよ、僕」
(´・_ゝ・`) 「僕だけバリサンだったから、僕の電話貸したんだ」
バリサン、か。
懐かしい響きだが、当時確かにそんなやり取りはあったのだろう。
すぐに、通報は、されたのだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
( ´_ゝ`) 「で……人が来るまで、貞子のことは、言わなかった」
(´・_ゝ・`) 「知らなかったんだよ、僕たち」
( ´_ゝ`) 「悪いとは思った」
( ´_ゝ`) 「でも、場所が悪かった」
冷静な判断だ、と思った。
集団でパニックになってしまうのは、この場合もっとも最悪な展開なのだ。
誰かが、わけもわからず助けようと、自らも飛び降りてしまうかもしれない。
どんな人間も、理性を失うと、何をしでかすかが本当にわからないものなのだ。
.
817
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:02:08 ID:CWcmTz4o0
( ´_ゝ`) 「完全に町から切り離された、山奥」
( ´_ゝ`) 「自分たち以外、誰も助けてくれる人がいない」
( ´_ゝ`) 「貞子を残して帰るわけにもいかない」
( ´_ゝ`) 「まして霧が濃かった、車を出して遭難なんてしてられんしな」
(´・ω・`) 「……ん?」
いま、妙なことを言ったな。
そう思ったのと同時に、イナリちゃんが既に口を切っていた。
イ(゚、ナリ从 「霧は、出ていたのですね?」
( ´_ゝ`) 「え?」
イ(゚、ナリ从 「山村貞子を見た時、あなたは霧がなかったと言った」
イ(゚、ナリ从 「でも、通報した後、霧が濃かったとおっしゃる」
.
818
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:02:41 ID:CWcmTz4o0
( ´_ゝ`) 「あれ?」
(´・ω・`) 「……」
これは、どう見るべきか。
ただの言葉のあやか。
記憶が混同しているのか。
それとも、貞子を目撃した時既に霧があったのか。
霧で見えづらいなか、先ほど自分で言っていた 「感覚」 が働いたのか。
そんな第六感、物理的にあり得ない。
と思いたくはなるが、不思議なことに、
人間は、科学に囚われないスピリチュアルな感覚が働く時が本当にあるのだ。
もっとも、当時ほんとうにそうだったかまでは保証できないけど。
( ´_ゝ`) 「……どうだったっけ」
(´・_ゝ・`) 「霧……どうだろう」
(´・_ゝ・`) 「あったと言えばあったし、なかったと言えばなかった」
イ(゚、ナリ从 「……そうですか」
.
819
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:05:03 ID:CWcmTz4o0
(´・ω・`) 「霧のデータって、事故ファイルにあったのかい?」
イ(゚、ナリ从 「いえ」
イ(゚、ナリ从 「事故当時の日時、場所を気象データに照会したものです」
(´・ω・`) 「……ふむ」
イ(゚、ナリ从 「少なくとも、事故ファイルに、気象の記述はありませんでした」
なんとも言えないところだった。
デミタスも曖昧にしか思い出せないのを見る辺り、
当時はそれどころじゃない空気が漂っていたのだろうと察しはつく。
やはり、当時のその事故を担当した警官にアプローチすべきだろうか。
しかしそれをイナリちゃんに問うと、少し声のトーンを落とした。
イ(゚、ナリ从 「既に、確認はしております」
(´・ω・`) 「おっ」
イ(゚、ナリ从 「覚えてない、とのことでした」
イ(゚、ナリ从 「霧のことじゃありません。 事故のことを、です」
.
820
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:08:09 ID:CWcmTz4o0
チッ。
まあ、当人のことを考えると、仕方がないか。
今の僕らは、当時の事故を疑ってかかっている。
しかし、当時の彼にとっては、それは事故として終わったものなのだ。
何かしらの悪意渦巻く事件ならともかく、偶発的な事故はそう記憶に留まらない。
霧、か。
イ(゚、ナリ从 「平行線ですか」
(´・ω・`) 「そう簡単に糸口なんて見つからないよ」
(´・ω・`) 「ッてことだし、一旦僕らはコテージまで行きたいところなんだけど」
イ(゚、ナリ从 「……」
十年も前の、それも現場ですらないコテージに証拠などあるわけがない、
時間の無駄で非効率的だからやめておけ、と思っているのか。
虫がいやなのか。
.
821
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:08:35 ID:CWcmTz4o0
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「あんたはどうするよ」
(´・_ゝ・`) 「へ」
僕と兄者、一応の鑑識も連れていく。
当事者が多ければこちらとしては検討は進めやすいところだ。
イ(゚、ナリ从 「差し支えなければ、こちらでお話を引き続きお伺いしたいのですが」
(´・_ゝ・`) 「え、え。」
(´・ω・`) 「ん」
同時進行で事故を掘り下げ、落ちるはずの捜査効率を高めたいのか、
ひとりが嫌なのか。
(´・_ゝ・`) 「……」
(´^_ゝ^`) 「どうしたらいいですかね……」
.
822
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:11:45 ID:CWcmTz4o0
(´・ω・`) 「そうだね」
(´・ω・`) 「こっちはこっちで、検討を進めておくし」
(´^ω^`) 「そっちの警部さんにも、いろいろ当時のこと、話してあげて」
(´・_ゝ・`) 「は、はい」
.
823
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:12:34 ID:CWcmTz4o0
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第八幕 「 アルプス山脈にて 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
824
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:13:58 ID:CWcmTz4o0
┏━─
午前十時一六分 捜査本部
─━┛
鈴木ももう戻るという一報を聞き、念のためにコーヒーを余分に淹れておいた。
ペニー、鈴木、東風さんに自分と、警部以外の全員が揃うことになる。
イレギュラーな会議になるが、事情を聞けば警部が抜けてよかったと思えた。
( ゚д゚) 「アルプスも動いたか」
( <●><●>) 「しかも、親子警部が、ですよ」
( ゚д゚) 「勘弁してくれ」
.
825
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:14:27 ID:CWcmTz4o0
東風さんは軽く笑って、淹れたての熱いそれを口に含んだ。
彼に限らず、アルプスの三月親子を敬遠する者は多い。
片や警察で一番長い現役経験を重ねる三月ウサギ。
片や幹部候補筆頭のキャリア組である三月イナリ。
まして、ふたりが並ぶと、周囲にいる人間のペースを著しく乱す。
東風さんにとって、三月ウサギは目の上のたんこぶだ。
現場一辺倒としてヴィップでは名を馳せる身分にいるが、
その自分の更に上をいく男が三月ウサギというのだから。
また、相対的に現場を重視しない三月イナリにも、苦手意識を持っている。
考えが合わない部分が多く、しかし相手は若い女性の、しかも上司だ。
その二人が揃っているのだから、居づらくなるのは言うまでもないことだ。
('、`*川 「イナリさんって、まだ警部なんだっけ」
( <●><●>) 「一応は」
('、`*川 「あの人、女としてはカッコイイんだけどさ」
('、`*川 「頭カタいよね」
.
826
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:14:53 ID:CWcmTz4o0
イナリは一時期、短い期間ではあるがヴィップ県警にも配属されていた。
私とペニーは、当時のイナリとの面識がある。
いま、遅れて本部に戻ってくる鈴木だけが直接的な面識はない。
有名人には違いないので、むろん知らないわけではないそうだが。
('、`*川 「モデルとか似合うと思うんだけどな」
( <●><●>) 「……」
ヴィップ県警にいた頃の彼女を、思い出す。
彼女は、ずば抜けて頭がいい。
しかし、周囲の人間はそうでもないのだ。
冷静に考えてみれば正しい方針、意見を彼女が言ったところで、
他の人間はそれを理解できないのだから、そこで溝が生じることが多々あった。
( ゚д゚) 「いま、いくつだったっけ」
( <●><●>) 「私の二個下なので、今年で二十八ですね」
( ゚д゚) 「かーー。 時間が経つのは早いもんだ」
.
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