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(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです
367
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:24:46 ID:vj1roGtw0
(´・ω・`) 「続けて」
ミセ*゚-゚)リ 「ア…はい」
ミセ*゚-゚)リ 「部長でしょ、小森さんでしょ、ギコくんでしょ…」
ミセ*゚-゚)リ 「旦那に、私に……あと、盛岡さん」
(´・ω・`) 「盛岡さんも、同い年で」
ミセ*゚-゚)リ 「はい」
(´・ω・`) 「どんな人だったの?」
ミセ*゚-゚)リ 「……オタク?」
(´・ω・`) 「オタク」
もっとマシな第一印象はないのか。
.
368
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:25:11 ID:vj1roGtw0
ミセ*゚-゚)リ 「その……なんていうか」
ミセ*゚-゚)リ 「サークル自体が、インドアなみんなでアウトドアしようぜ…」
ミセ*゚-゚)リ 「そんなコンセプトのサークルだった…んで」
(´・ω・`) 「インドア、っていうと、読書とか」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ、そうですね」
隣で、せき込む音が聞こえた。
ワカッテマスがぎょろッと目を開いて、コーヒーを流し込んでいる。
実に愉快だ。
次は、ベーカリーのバイキングにでも連れていってやろう。
ミセ*゚-゚)リ 「アニメキャラがどう、とか」
ミセ*゚-゚)リ 「そんな話を、部長や小森さんと盛り上がってました」
(´・ω・`) 「そ、そうなの」
.
369
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:25:33 ID:vj1roGtw0
確かに、インドアが集うアウトドアサークル、というのはありそうだ。
ただ、偏見かもしれないけど、ミセリがそのインドアに属する人間とは思えなかった。
休日には、友人とのランチを楽しみそうな、
比較的活発な趣味を持つイメージを持たせられる。
(´・ω・`) 「奥さんも、そういったものが好きで?」
ミセ*゚-゚)リ 「いや、全ッ然」
(´・ω・`) 「そ、そうなんですか」
ミセ*゚-゚)リ 「しょーじき、無理でした」
(´・ω・`) 「え、じゃあなんでサークルにいたの?」
( <●><●>) 「…」
ワカッテマスが、ハンカチで涙を拭く。
想像以上に咽たらしい。
.
370
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:25:53 ID:vj1roGtw0
ミセ*゚-゚)リ 「部長に勧誘されて」
(´・ω・`) 「知り合いだったの?」
ミセ*゚-゚)リ 「いや…」
ミセ*゚-゚)リ 「……そういえば、どうしてだろう」
(´・ω・`) 「思い出すのは、ゆっくりでいいよ」
そうすれば、煙草も自然に吸える。
思えば最近、喫茶店で羽を伸ばすことも少なかった。
サボリと言えば聞こえは悪いが、深刻な事件の傍らで寛ぐのも、大切なのだ。
( <●><●>) 「…サークル、ですか」
(´・ω・`) 「何か、閃いた?」
( <●><●>) 「いや」
( <●><●>) 「自分には縁がなかったな、と思い」
.
371
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:26:17 ID:vj1roGtw0
(´・ω・`) 「まあ、あんたがサークルってのも、想像できんわ」
(´・ω・`) 「ちなみに、大学でサークルに入るのって、普通なの?」
( <●><●>) 「大学にもよりますが、全然珍しくはないです」
ミセ*゚-゚)リ 「あ、そうだ」
ミセ*゚-゚)リ 「ビラ撒きで何回か会って、」
ミセ*゚-゚)リ 「顔を覚えられたのか、あの時の人かい? って声かけられて」
(´・ω・`) 「サスガ、さんが」
ミセ*゚-゚)リ 「で、少し話して、」
ミセ*゚-゚)リ 「気がついたら加入させられてた…ッて感じです」
(´・ω・`) 「結構なヤリ手だね。 クチがうまかったんだ」
ミセ*゚-゚)リ 「実際、あの人、かなり話がうまいですから」
.
372
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:26:40 ID:vj1roGtw0
(´・ω・`) 「インドアが集まる、とかは知らなかったんだ」
ミセ*゚-゚)リ 「いや、予想はできましたね」
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、無理に酒を飲まされるとか、メンドウなことはないから楽だよ、って」
(´・ω・`) 「無理に?」
( <●><●>) 「サークルのなかには、無理やり酒を飲ませたりするところもあります」
( <●><●>) 「浮かれた大学生のノリ、というのですかね」
ミセ*゚-゚)リ 「そうそう」
ミセ*゚-゚)リ 「確かに、アウトドアには興味あったけど、」
ミセ*゚-゚)リ 「どこも、面倒臭そうな感じだったから…」
(´・ω・`) 「奥さんは、それがイヤだったんだ」
ミセ*゚-゚)リ 「ナンパされたり、ホテル誘われたりが、本当に、だるかった」
.
373
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:27:04 ID:vj1roGtw0
大学生、話には聞くけど、想像以上に浮かれているらしい。
僕のなかの、博士号をとる場所というイメージからは随分離れていた。
ミセ*゚-゚)リ 「で、部長は、クチが達者だから」
ミセ*゚-゚)リ 「私としても、気楽に遊べるならいいかな、ッて乗せられて」
(´・ω・`) 「でも、すぐ抜けなかったんだ?」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ…」
というと、少しミセリは口ごもった。
ミセ*゚-゚)リ 「なんだかんだ言って、居心地は、よかったので」
ミセ*゚-゚)リ 「旦那とも、そこで出会って」
(´・ω・`) 「そうだ、旦那さん」
(´・ω・`) 「旦那さんは、どんな人だった?」
.
374
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:27:33 ID:vj1roGtw0
ミセ*゚-゚)リ 「当時はお調子者、でしたね」
ミセ*゚-゚)リ 「部長と一緒にイジられる感じ」
クックルは、免許証の写真で見た感じ、好青年そうだった。
インドアのイメージがつかない、整った顔立ちだったと記憶している。
(´・ω・`) 「旦那さんも、アニメとか好きだったの?」
ミセ*゚-゚)リ 「いやあ…サッパリでしたね」
(´・ω・`) 「ほう」
ミセ*゚-゚)リ 「旦那も、部長に乗せられて入ってきたクチです」
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、ノリがいい人だから。」
ミセ*゚-゚)リ 「趣味は合わなくても、溶け込んでましたよ」
.
375
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:27:56 ID:vj1roGtw0
( <●><●>) 「趣味は合わなくても、ですか」
( <●><●>) 「アウトドアの趣味はなかったのですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「お祭りごとは好き、ッて感じでしたね」
ミセ*゚-゚)リ 「バーベキューとか、スポーツはどれも好きだし」
ミセ*゚-゚)リ 「野外ライブとかも、彼が率先して人を集めてました」
(´・ω・`) 「野外ライブ?」
ミセ*゚-゚)リ 「アウトドアサークル、なんて言ってるけど」
ミセ*゚-゚)リ 「要は、部屋に引きこもってないで、遊ぼうぜ、ってトコなので」
ミセ*゚-゚)リ 「場所が野外なら、なんでもありでしたよ」
(´・ω・`) 「へえ…」
.
376
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:28:22 ID:vj1roGtw0
( <●><●>) 「じゃあ、小森の」
( <●><●>) 「ギター趣味というのも、そこから?」
ミセ*゚-゚)リ 「ギター?」
( <●><●>) 「どうやらギター趣味があったようですが
ミセ*゚-゚)リ 「ふうん……そうだったんだ」
(´・ω・`) 「家でしか弾いてなかったのかな」
(´・ω・`) 「キャンプなんかの傍らで弾いてても、おかしくないものの」
ミセ*゚-゚)リ 「あいつ、名前のとおり、引きこもりだから」
ミセ*゚-゚)リ 「で…どこまで言ったっけ」
( <●><●>) 「メンバーについてですが、」
( <●><●>) 「あなた、擬古、小森、三階堂、、流石、盛岡」
( <●><●>) 「以上の六人、だったのですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
.
377
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:28:51 ID:vj1roGtw0
( <●><●>) 「サークル、となると」
( <●><●>) 「OBだったり、新入生だったりが考えられますが」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセリは、煙草を根本まで吸いきった。
ミセ*゚-゚)リ 「六人だけ、ですよ」
ミセ*゚-゚)リ 「部長が創ったサークルで、」
ミセ*゚-゚)リ 「その六人の代で、終わったので」
( <●><●>) 「終わったのは、部長が卒業して、」
( <●><●>) 「取りまとめ役がいなくなったから、でしょうか」
ミセ*゚-゚)リ 「そんなとこです」
.
378
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:29:15 ID:vj1roGtw0
( <●><●>) 「わかりました」
( <●><●>) 「メンバーについて、もっと詳しく聞きたいのですが…」
ミセ*゚-゚)リ 「後日じゃあ、ダメでしょうか」
( <●><●>) 「どうしてでしょう」
(´・ω・`) 「…?」
ここにきて、ミセリの態度が変わったな、と思った。
いや、表情は変わっていない。
声色というか、声に含まれる感情が、険しいものになった。
もとより、そのアウトドアサークルというコミュニティで、
このたびの連続予告殺人が起こっている。
何もない、はずはないのだ。
逆に捉えると、ここで言い渋るのは、確実に何か裏があった、ということ。
.
379
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:29:47 ID:vj1roGtw0
ミセ*゚-゚)リ 「思い出したくないこと、思い出しちゃって」
( <●><●>) 「思い出したくないこと、とは」
ミセ*゚-゚)リ 「旦那殺されたんですよ、私。」
( <●><●>) 「……失礼」
食い気味だったワカッテマスが引いた。
しくじったか、と言わんばかりに、コーヒーカップを手に取る。
( <●><●>) 「連絡先が残っていたら、教えていただきたいのですが」
ミセ*゚-゚)リ 「何もないですよ」
( <●><●>) 「……はい?」
ミセ*゚-゚)リ 「卒業して、連絡とらなく、なって」
ミセ*゚-゚)リ 「いま、どこで何してるかも、知らないんですよ」
.
380
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:30:11 ID:vj1roGtw0
( <●><●>) 「そう、ですか」
(´・ω・`) 「マ、そんなもんよなァ」
(´・ω・`) 「僕だって、高校時代の友だちと、一切連絡ないもん」
( <●><●>) 「…まあ」
腑に落ちないのは、わかる。
だが、今は突っ張る場面じゃないぞ、と目配せした。
ワカッテマスも汲み取ってくれたようで、これ以上食い下がりはしなかった。
ミセ*゚-゚)リ 「…あの」
ミセ*゚-゚)リ 「話は、終わりでしょうか」
( <●><●>) 「今日のところは、とりあえず」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
.
381
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:30:40 ID:vj1roGtw0
( <●><●>) 「ただ」
( <●><●>) 「本件の、犯人」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
( <●><●>) 「間違いなく、そのサークルの誰かだとは思うのですが」
( <●><●>) 「心当たりは、ありますか」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセリの言葉を信じるなら、残るは、盛岡と流石の二人だけだ。
ただ、言い渋っているのを察するに、まだいる可能性も高い。
ミセ*゚-゚)リ 「あったら、とっくに言ってます」
( <●><●>) 「では、不明、と」
わざとらしく、手帳に書き込む仕草を見せる。
ワカッテマスの、何か心理的な作戦だろう。
.
382
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:31:20 ID:vj1roGtw0
( <●><●>) 「本件は、当該サークル内の犯行だと思われますが」
( <●><●>) 「動機になり得る何かに、心当たりは」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「ありません」
( <●><●>) 「ふむ…不明、と」
ワカッテマスをよく知る僕から見れば、不自然な演技だ。
ただ、初対面のミセリには気づかれないか。
少し緊張しているのか、
これ以上追究しない、という姿勢を見せているつもりか。
( <●><●>) 「最後」
( <●><●>) 「犯人の呼び出しに、応じるつもりは」
.
383
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:31:40 ID:vj1roGtw0
ミセ*゚-゚)リ 「 …。」
( <●><●>) 「………、」
さて、どう出るか。
ワカッテマスとしては、首を横に振ってもらいたいところだろう。
ただ、僕の経験と勘で言えば。
ミセリは、縦にも横にも、振らない。
ミセ*゚-゚)リ 「わかりません」
( <●><●>) 「ッ」
ミセ*゚-゚)リ 「そもそも、今回の電話すら、信じられないので。 私。」
(´・ω・`) 「イタズラなのかどうか、ッてこと?」
ミセ*゚-゚)リ 「犯人なのか、自首するのか、話したいだけなのか」
ミセ*゚-゚)リ 「なにもわからない」
.
384
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:32:07 ID:vj1roGtw0
ミセ*゚-゚)リ 「だから、また折り返し、電話しようと思います」
( <●><●>) 「…!」
そう来たか。
確かに、ミセリの視点からすれば、そう動くのが自然になるか。
( <●><●>) 「犯人が、素直に電話に応じるかわかりません」
( <●><●>) 「むしろ、折り返し電話こそが狙いの可能性もある」
ミセ*゚-゚)リ 「そもそも、本当に犯人なのか、が怪しいんですよ」
( <●><●>) 「それは、そうですが 」
ミセ*゚-゚)リ 「……詳しいことは」
ミセ*゚-゚)リ 「それから、また、警察に相談しようかと」
(´・ω・`) 「そだね。 じゃあ、コレ」
ミセ*゚-゚)リ 「…?」
僕は、そっと名刺とキャンディーを渡した。
.
385
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:32:29 ID:vj1roGtw0
(´・ω・`) 「110に電話するのって、実は結構メンドウなんだ」
(´・ω・`) 「僕に直接かける方が、信用もできるでしょ?」
ミセ*゚-゚)リ 「それはいいんですが、コッチ…」
紫色の包みを指さした。
(´・ω・`) 「僕、キャンディーが好きでね」
ミセ*゚-゚)リ 「あ…飴?」
(´・ω・`) 「これは、アネモネって花の味がするんだ」
(´・ω・`) 「……アネモネ、食ったことねーけど」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセリは少し、難しい顔をしたが、
少しすると顔を歪めて、噴き出して笑った。
.
386
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:32:52 ID:vj1roGtw0
ミセ*゚-゚)リ 「アネモネ、ですか」
(´・ω・`) 「僕も、妻を、事件で亡くしたんだ」
( <●><●>) 「…!」
ミセ*゚-゚)リ 「え…」
(´・ω・`) 「その妻は、花が、好きだった」
(´・ω・`) 「いろんな花を知っていて、いろんな花言葉を知っていて」
( <●><●>) 「……警部」
部下の前でしたい話ではなかったな。
だけど、ミセリには、先に言っておきたかった。
(´・ω・`) 「塩見製菓ッて知ってる?」
ミセ*゚-゚)リ 「大福とか売ってるとこですよね」
.
387
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:33:22 ID:vj1roGtw0
(´・ω・`) 「これ、あそこの花飴ってやつなんだ」
(´・ω・`) 「お徳用のが、通販でしか売られてないんだけど」
(´・ω・`) 「いろんな花の味があるから、オススメしとくよ」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセリは、顔を俯けた。
ミセ* ー)リ 「……いい花言葉のがあったら、旦那の墓に備えとく」
(´・ω・`) 「マ、そこまで美味しくないけどね」
ミセ* ー)リ 「お、美味しくないんですか、コレ…!」
(´;ω;`) 「ぶひゃ、ひゃひゃ!」
.
388
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:33:45 ID:vj1roGtw0
そして、ミセリとはそこで別れた。
明言はされてないけど、おそらく彼女は、犯人に会うだろう。
すぐに、対策を進めておかないといけない。
暮れに、みんなを招集した。
眠気がすっかり取れたぎょろ目、
進展を前に俄然やる気になっているペニー、
冷静に大局をうかがっている壁、と。
それぞれが持ち寄った情報や推理で会議は長引いたが、
唯一、ワカッテマスだけは、口数が少なかった。
.
389
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:34:10 ID:vj1roGtw0
序幕
>>2-69
第一幕
>>82-211
第二幕
>>218-296
第三幕
>>304-388
390
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 22:55:38 ID:2bIoUUME0
乙
情報が集まってきたな
391
:
名無しさん
:2018/09/04(火) 23:01:22 ID:D2EwEJdw0
一気に進んできた
392
:
名無しさん
:2018/09/05(水) 00:05:03 ID:Pp0uLn8c0
乙です
393
:
名無しさん
:2018/09/05(水) 19:49:09 ID:dvb8WGGA0
乙
進んできたな
394
:
名無しさん
:2018/09/09(日) 23:51:16 ID:0jcXCX0o0
乙
395
:
名無しさん
:2018/09/13(木) 04:15:56 ID:32UxlRa20
デミタス生きてたのか
396
:
名無しさん
:2018/09/15(土) 05:28:43 ID:FkYkPNxg0
ひさびさに覗いたらイツワリ来てた…!
超乙!
一気に読み返してたら朝になっちまったよ
今後も期待してるぜ!
397
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:01:47 ID:T8wS26JU0
┏━─
五月六日 午後十二時三七分 ファミレス
─━┛
十年ほど前に、ヴィップ大学に存在したサークル。
インドア趣味を持つ内向的な人達で、アウトドアを楽しむために結成された。
芹澤ミセリに情報を聞き、翌日より詳細な捜査がはじまった。
もとよりペニーと壁は、各被害者の情報を集めるために奔走していた。
それらと並行してサークルに探りを入れることになるため、
時間と手数が要求される局面だったと言える。
犯人がミセリに要求した日時は、五月六日、十六時、ヴィップの滝公園。
会議の結果、現場に警備は配置しないことにした。
代わりに、私服に扮した警官を多数、呼び寄せることとなった。
これはぎょろ目の発案だった。
ワカッテマスは、人命がかかっているから強硬手段を取ろうと最後まで否定していた。
ペニーは逆に、数を集めた時のデメリットを嫌い、犯人とのタイマンを望んでいた。
.
398
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:02:21 ID:T8wS26JU0
争点となったのは、犯人の殺意の有無だ。
現状、全員が全員、あると睨んでいた。
しかし、あるにしては疑問点が浮かんだのも事実だった。
ずばり、予告ではない点にあった。
また、人目のつく公園が舞台、という点も怪しかった。
それまでの犯行手口と、まるで違うこと。
予告しないのであれば、ひっそりと殺せばいいだけのこと。
ワカッテマスはこれに、公園から人目のつかない場所、
それこそミセリ宅に上がりこむなどを懸念事項として挙げた。
抗ったのは、ぎょろ目だった。
そこまで人命を警戒するなら、そもそも接触を許すべきではない。
犯人を刺激せず、監視の目を行き渡らせるには、
警官に私服を着せ、一般市民に見せるのが一番効率的だ。
ワカッテマスもその点は認めていた、というのが最終的な決め手だった。
.
399
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:02:55 ID:T8wS26JU0
会議がひとまずの結論を導き出し、
明くる日より求められたのが、サークル人員の徹底的な洗い上げ。
流石、盛岡、というふたりの人物を調べなければならない。
場合によっては、片方が犯人、片方が次なる被害者、となり得る。
事態は急を要したが、盛岡という人物についてはすぐさまアプローチを仕掛けることが叶った。
(;´・_ゝ・`) 「……まさか」
(;´・_ゝ・`) 「こんな形で、再会することになるなんて」
(;´・ω・`) 「まったくだ…」
かつて、オオカミ鉄道がリリースした特急列車にて事件が起こった。
そこは特殊な密室となっていて、偶然、僕も乗り合わせていた。
盛岡、と名前を聞いた時は、まだピンと来ていなかった。
別段珍しくない名前だったためだ。
.
400
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:04:09 ID:T8wS26JU0
(;´・_ゝ・`) 「さ、最近……どうですか!」
(;´・ω・`) 「ぼちぼちだね……ウン、そうそう……」
あの時の密室にも。
盛岡という名前を持つ男が、乗り合わせていた。
盛岡。 オタク。
デミタスという名前を聞いた時、もしや、とは思ったのだ。
ヴィップ大学、在籍年代、名前。
個人を特定するには十分すぎるほどのデータが、あった。
そのため、当時の 「盛岡」 という人物を割り出すまでは容易かったのだが、
そのデータを警察で照会した時、想定外すぎるハプニングが起こった。
ヒットしたのだ。
この男は、過去に事件に関わったことが、あった。
ひょっとすると、そこから事件解決の糸口が。
と思ったところで、担当の事務員が、目を丸くして言ったのだ。
「イツワリさんが……扱った事件ですね……」
.
401
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:05:02 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「…」
(´・_ゝ・`) 「…」
不思議な心地に見舞われた。
このたびの、連続する事件。
かつて担当した、誘拐事件を彷彿とさせる。
続けて、かつて担当した、密室鉄道の関係者が現れた。
他方、本件の関係者であるミセリが、自分と似たような境遇にあるのだ。
デミタスに捜査協力を頼むと、快諾してくれた。
彼が連続予告殺人を知っていたのももちろんだが、
何より、彼が僕、ショボーンのことを知っていたのが大きかった。
(´・_ゝ・`) 「いまでも、たまに思い出すんですよ」
(´・ω・`) 「あの時の?」
(´・_ゝ・`) 「そそ」
(´・_ゝ・`) 「刑事さんは、そうでもないんですか」
(´・ω・`) 「……どうだろうね」
.
402
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:05:27 ID:T8wS26JU0
最初、デミタスは警戒していた。
犯人が、警察を装っておびき寄せようとしているかもしれない、と。
事件を知り、デミタスは、田舎に逃げていた。
ヴィップにいると殺されかねない、と思ったらしい。
しかし、話していると、互いに妙な違和感に包まれた。
デミタスが、もう一度お名前、よろしいですかと聞いたところで発覚したわけだ。
(´^_ゝ^`) 「ふーん……そんなもん、なんですかね」
(´・ω・`) 「妙に落ち着いてますね」
(´・_ゝ・`) 「そりゃあ」
デミタスの希望で、人の少ない落ち着ける場所で会うことになった。
結果が、ファミレスだった。
確かに、落ち着ける場所でこそあるが。
喫煙ルームの、一番端のテーブルである。
周りをついたてや壁が囲っている、個室のような印象のテーブルだった。
.
403
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:05:57 ID:T8wS26JU0
(´・_ゝ・`) 「目の前に、いますから」
(´^_ゝ^`) 「あの事件を、鮮やかに解決した…あの刑事さんが」
(;´・ω・`) 「そりゃあどうも」
すんなり話が聞けそうなのはありがたいことだが、
妙にくすぐったくて、嫌だ。
(´・ω・`) 「そうだな…」
(´・ω・`) 「最近、お仕事などは何を?」
(´^_ゝ^`) 「しがないフリーターですよ。 トホホ…」
(´・ω・`) 「というと」
(´・_ゝ・`) 「普段はコンビニで……たまに、日雇いで」
.
404
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:06:20 ID:T8wS26JU0
話しているうちに、当時の景色が脳裏をかすめていく。
確か、当時もこの男は、フリーターだった。
(´・ω・`) 「結構、厳しそうですね」
(´・_ゝ・`) 「まあ、将来なんてありませんが…」
(´^_ゝ^`) 「でも、自由に生きてる感じがして、楽しいですよ」
盛岡も、ミセリの話にあった通り、三十二だ。
独身で、定職にも就いていない。
しかし、とてもそうは思わせない楽観的な姿勢が窺える。
(´・ω・`) 「大学時代、例のサークルに参加してたんだって?」
(´・_ゝ・`) 「ですね。 ハイ。」
(´・_ゝ・`) 「ギコも、クックルも、セリっちも、ヒッキー氏も」
(´・_ゝ・`) 「全員、知ってますよ」
.
405
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:06:40 ID:T8wS26JU0
デミタスがサークルの一員であることは、疑う余地もなさそうだ。
実に流暢で、砕けた様子で話している。
(´・ω・`) 「確か、アウトドアサークル、だっけ」
、 、、 、、 、、
(´^_ゝ^`) 「リア充しようぜ!」
(´・_ゝ・`) 「が、合言葉のサークルですね」
(´・ω・`) 「リアジュウ?」
(´・_ゝ・`) 「リアル……現実を、充実させようッてこと」
(´・ω・`) 「なるほど」
インドアによるアウトドアサークル。
なるほど確かに、この男が言うと説得力がある。
(´・ω・`) 「じゃあ、あんたの趣味も、釣りとか旅行とか?」
(´^_ゝ^`) 「みんなでワイワイするのは、好きですよ」
(´・_ゝ・`) 「そこに、インかアウトかは関係ないです」
.
406
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:07:03 ID:T8wS26JU0
趣味、趣味か。
おぼろげだった記憶が、蘇ってくる。
盛岡デミタス、この男は確か、特殊な趣味をしていた。
なるべく触れたくはないが、事件のためだ。
(´・ω・`) 「確か、漫画…とか好きじゃなかったっけ?」
(´・_ゝ・`) 「そりゃあもう!」
(´・_ゝ・`) 「あの時も、刑事さんに見られたっけ」
(;´・ω・`) 「僕みたいな中年には、理解しかね……エット。」
(´^_ゝ^`) 「いいですよ、いいですよ」
(´^_ゝ^`) 「他人に理解されないッてのは、昔ッから、わかってます」
(´・_ゝ・`) 「だからこそ、わかる人らで、アウトドアしてたんですよ」
(´・ω・`) 「ほう」
.
407
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:07:44 ID:T8wS26JU0
内容がどんなものであれ。
趣味が合う人同士のアウトドアは、さぞかし楽しいことだろう。
そう考えると、インだろうがアウトだろうが、というのは説得力がある話だ。
(´・ω・`) 「となると、フッサール擬古やヒッキー小森も」
(´・ω・`) 「その……まあ、そんな趣味が共通していたんだね」
(´・_ゝ・`) 「ううん……ギコは違うかなァ」
(´・ω・`) 「あら」
デミタスは少し、言葉を濁した。
ギコは、か。
(´^_ゝ^`) 「ヒッキー氏、兄者氏とは盛り上がりましたよ」
(´・_ゝ・`) 「ただ、クックルとかギコは、そうでもなかった」
(´・ω・`) 「ギコって、どんな人だったの?」
.
408
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:08:28 ID:T8wS26JU0
(´・_ゝ・`) 「どんな……か。」
名は体を表す、とでも言うのだろうか。
デミタスは、コーヒーを好んで飲んでいた。
それも、これで三杯目、すべてブラックである。
平日の昼間に、若くはない男ふたりがコーヒーを飲んでいるんだ。
はたから見ても、別段違和感はないだろう。
マスコミの視線などは、一切なかった。
(´・_ゝ・`) 「クックルもだけど、兄者氏が誘った人だよ」
(´・_ゝ・`) 「学生ホールで、ひとりで本読んでたところに声をかけたらしい」
(´・ω・`) 「本、か」
(´^_ゝ^`) 「あ。 いかがわしい本じゃないよ」
(;´・ω・`) 「なんでもいいよ!」
.
409
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:08:54 ID:T8wS26JU0
(´・_ゝ・`) 「兄者氏はなァ」
(´・_ゝ・`) 「むちゃくちゃ、むちゃくちゃコミュ力高いんですよ」
(´・ω・`) 「コミュ力はわかるぞ。 コミュニケーション能力だ」
(´・_ゝ・`) 「はあ」
(´・_ゝ・`) 「セリっちとは、もう会ったんですか?」
(´・ω・`) 「むしろ、彼女からあんたのことを聞いたよ」
(´・_ゝ・`) 「え!なんて言ってましたか?」
(´・ω・`) 「や、名前しか聞いてないね…」
(´・_ゝ・`) 「そっか…」
デミタスも、部員とは仲良くしていたのだろう。
懐かしそうに、寂しそうに目を細めた。
.
410
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:09:25 ID:T8wS26JU0
(´・_ゝ・`) 「マ、いいや」
(´・_ゝ・`) 「あの子、パッと見、ばりばりなパリピ、陽キャじゃん」
(´・ω・`) ???
(´・_ゝ・`) 「オタクの集まりに、全然似つかわしくない」
(´・_ゝ・`) 「でも、兄者氏の勧誘で、入った」
(´・ω・`) 「その話は、聞いたな」
(´・ω・`) 「なんだかんだ、楽しかった、ッて」
(´^_ゝ^`) 「なんだかんだ……か」
(´・_ゝ・`) 「マ、それだけ、一緒にいて楽しい人なんだ」
オタク、というものに対しての嫌悪感は、強かった。
しかし察するに、彼女もデミタス同様馴染んでいたのだろう。
そして、それは部長の功績でもある。
.
411
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:09:58 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「当時の彼女は、どんな人だったんだい?」
(´・_ゝ・`) 「女王様、だね」
(´・ω・`) 「はァ?」
(´・_ゝ・`) 「最初は、むっちゃ距離置かれてたけど」
(´・_ゝ・`) 「気がついたら、野郎どもの背中を踏んで、ケラケラ笑ってたかな」
(;´・ω・`) 「それはそれは……」
(*´・_ゝ・`) 「あの子、すんごいドエスなの!」
(;´・ω・`) 「わかった、それはいいよ」
(;´^_ゝ^`) 「おっと……今の話は、ナイショでお願いしますね」
(´・ω・`) 「ハハハ」
誰がするか、こんな話。
.
412
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:10:49 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「で、同じサークルだったクックルと結婚したんだよね」
(´・_ゝ・`) 「それ、実は知らなかったんだよね」
(´・ω・`) 「え、まじ?」
(´・_ゝ・`) 「エット………」
(´^_ゝ^`) 「ああ、確かに付き合ってはいたな」
(´・ω・`) 「ゴールイン自体は、知らされてなかったんだ」
(´・_ゝ・`) 「マ、サークル終わってからは連絡もなかったしね」
(´・ω・`) 「うん……、……」
サークルが、終わってからか。
部長の卒業で自然消滅したのか、はたまた、違う理由か。
.
413
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:11:14 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「まあ、それはいいや」
(´・ω・`) 「サークルそのもの……について、聞かせてほしい」
(´・_ゝ・`) 「いいですよ。 どこから?」
どこから、か。
この調子だと、隠し事なしで教えてくれるだろうか。
ミセリは、どこか何かを言いあぐねている様子だった。
デミタスに、それはあるのだろうか。
(´・ω・`) 「そうだな」
(´・ω・`) 「まず、部員だ」
(´・ω・`) 「フッサール擬古、ヒッキー小森、クックル三階堂、芹澤ミセリ」
(´・ω・`) 「あんたと、部長の流石兄者……で全員なんだね?」
(´・_ゝ・`) 「…」
.
414
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:11:55 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「…?」
即答、しないのか。
ちょっと、嫌な予感がした。
(´・_ゝ・`) 「……」
(´・_ゝ・`) 「そうだ、ね。 ウン」
(´・_ゝ・`) 「その六人しかいないよ」
(´・ω・`) 「…」
何か、隠しているのか。
それとも、幽霊部員やすぐに辞めた人をカウントするか悩んだのか。
(´・ω・`) 「幽霊部員とかも、勘定してほしい」
(´・_ゝ・`) 「ヤ、そんなのはいなかったよ」
(´・ω・`) 「じゃあ、六人でウソじゃないんだな?」
(´^_ゝ^`) 「……………ウソじゃ、ないな」
.
415
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:12:42 ID:T8wS26JU0
嘘じゃない。
妙に引っかかる言い回しだ。
(´・ω・`) 「解散前に辞めた人とかは?」
(´・_ゝ・`) 「いや、それもないよ」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏がほんとうにコミュ強でね」
(´・_ゝ・`) 「在籍した人はみんな、楽しそうに活動に参加してたよ」
(´^_ゝ^`) 「なんだかんだ、ね」
(´・ω・`) 「……そう、か」
嘘を吐いている様子は、ない。
兄者がクチ達者だ、という話は何度も聞いた。
なんだかんだ、という言い回しも、ミセリを脳裏に浮かべての発言だろう。
だったら、今のわだかまりはなんだ。
幽霊部員も、辞めた人もいない。
ほんとうに六人なのか、語られざる七人目がいるのか。
.
416
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:13:24 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「……」
煙草をクチに加えた。
部長はどうやら愛煙家だったようで、
デミタスの前でもよく吸っていたらしい。
煙草に気遣わなくていいのは、ありがたい事だ。
(´・ω・`) 「何も、隠してはいないな?」
(´・_ゝ・`) 「どうしたんですか。 何か、あったの?」
(´‐ω‐`) 「ヤ……思いすぎだったらいいんだけどね」
っ “
( ´・ω・)y- 「ミセリもあんたも、何か含みのある言い方をするんだ」
(´・_ゝ・`) 「…」
( ´・ω・)y- 「人数……そう。」
( ´・ω・)y- 「人数だ」
( ´・ω・)y- 「その話をする時だけ、あんたらは、言葉を濁す」
.
417
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:14:06 ID:T8wS26JU0
(´・_ゝ・`) 「…」
(´・_ゝ・`) 「あんたら…セリっちも、だね」
( ´・ω・)y- 「忘れちゃダメだぜ、デミタスくん」
一発、オドシ、入れるか。
( ´・ω・)y- 「現状、容疑者は、部長かあんただ」
それは、オーバーに効いた。
デミタスは、飲んでいたコーヒーを、漫画みたいにぶちまけた。
( ;´゚_ゝ゚) ,;・’:
( ´・ω・)y-
(´・ω・`)y-
.
418
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:15:57 ID:T8wS26JU0
(;´・_ゝ・`) 「お、驚かさないでよ!」
(´・ω・`) 「こ、コーヒーを飲みながら聞くほうが悪い」
おしぼりで、テーブルを拭く。
スーツにまでかからなかったのは、せめてもの救いだ。
(´・_ゝ・`) 「そうか、容疑者、か」
(´・_ゝ・`) 「僕、こう見えて、アリバイはばっちりだと思うよ」
(´・ω・`) 「………ああ、そういえば」
事件を聞きつけて、田舎に逃げたんだっけか。
聞きつけて、なんだから、地下鉄殺人やホテル殺人ができたとしても、
デミタスが犯人なら、今日のミセリとの密会がネックとなる。
デミタスがヴィップに戻ってきたのは、
他でもない僕が呼び寄せたからだ。
.
419
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:16:50 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「となると、部長が?」
聞くと、デミタスは長考した。
引っかかったのは、もし何か隠し事をしているなら、
ここでその深層心理が現れるというのに、
(;´・_ゝ・`) 「あの人が……?」
(;´・_ゝ・`) 「………いや、でも……」
この長考に、含みはなさそうだったのだ。
もちろん、隠し事も込みで、僕の推量でしかないのだけど。
(´・ω・`) 「でも、消去法だと、部長になるぞ」
(´・ω・`) 「三人は既に殺されて、嫁にもアリバイはある」
(;´・_ゝ・`) 「です、よね…」
(;´・_ゝ・`) 「え、兄者氏が…?」
消去法、という言葉にも引っかからない。
もし七人目を隠しているなら、そこでまたリアクションがあるはずなのに。
.
420
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:18:03 ID:T8wS26JU0
(;´・_ゝ・`) 「いや、考えられない」
デミタスは、断言した。
(;´・_ゝ・`) 「え、でも、だったら誰が…?」
(´・ω・`) 「他に、候補、心当たりはいないの?」
(;´・_ゝ・`) 「いませんよ。 他に誰もいないんだから」
(´・ω・`) 「な……」
隠された七人目というのは、いなかったのか?
デミタスに、嘘を吐いている様子は一切見受けられない。
また、サークル外の犯行、というわけでもなさそうだ。
もとよりコミュニティ内の犯行だし、
当事者のデミタスも、まるで思いつかないでいる。
.
421
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:19:20 ID:T8wS26JU0
(;´・_ゝ・`) 「待って……怖くなってきた……」
(´・ω・`) 「落ち着いてほしい」
図太いように見えるデミタスが、動揺している。
知り合い、というのもあって油断していたが、奴も当事者の一人で、
それはすなわち、ターゲット候補の一人でもあるのだ。
(´・ω・`) 「あんたが求めるなら、警察はあんたを保護するし」
(´・ω・`) 「何より僕は、あの密室鉄道を、解決した男だぜ」
(´・_ゝ・`) 「…!」
.
422
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:19:41 ID:T8wS26JU0
自分で言っててなかなかに歯がゆかったが、デミタスには効いたようだ。
現場を共にしたんだ、説得力は折り紙つきだろう。
(´・_ゝ・`) 「……そうですね」
(´^_ゝ^`) 「それに、まだ、僕んとこには、予告とか来てないし」
(´・ω・`) 「万が一来たとしても、ゼッタイに、殺させない」
(´・_ゝ・`) 「ありがとう。 信じられるよ」
(´・ω・`) 「………」
確信した。
デミタスは、嘘は吐いていない。
この一連の流れで、犯人になり得る七人目を隠し通せているはずがない。
デミタスはどちらかと言えば不器用な男だ。
まして僕は、人がなにか偽ろうとするのを見抜くのが、得意だ。
その僕が確信するんだ、七人目はいないのだろう。
しかし、だとすると、犯人は部長、流石兄者となる。
.
423
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:20:58 ID:T8wS26JU0
いやに引っかかるのが、デミタスの反応だ。
部長の犯行は考えられない、と断言している。
ミセリの話と重ねてみても、なかなか人望のあった男だと聞く。
部長が犯人だったとして、どうして十年後になって犯行に及んだのかが説明つかない。
(´・_ゝ・`) 「……で」
(´・_ゝ・`) 「何を話せば、いいんでしたっけ」
(´・ω・`) 「ん。 そうだな…」
.
424
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:22:24 ID:T8wS26JU0
'_
(´・ω・`) 、
聞きたい話は、山ほどある。
デミタスは貴重な、まだ犯人が接触していない関係者だ。
先回りできているのは、大きなアドバンテージとなる。
加え、知り合いということもあり、
初対面だと話してもらえなさそなことも、聞き出せる。
(´・ω・`) 「失礼」
(´・_ゝ・`) 「どうぞ」
時間も限られている局面だ、
手短に、簡潔に、重要そうなことだけを聞かなければならない。
というのに、着信音が横やりを入れてきた。
誰だ、と思うと、少し嫌な予感がした。
ワカッテマスからかかってきたのだ。
.
425
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:23:45 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「僕だ」
ヤマを追っている時のワカッテマスからの着信は、
得てして不吉の前兆となっている。
その嫌な予感は、的中しそうだ。
ワカッテマスは少し、声が弾んでいた。
「芹澤ミセリの動向について、なにか聞かされていますか」
(´・ω・`) 「…どうした?」
(´・ω・`) 「僕は、なにも聞いてないけど」
「いま、彼女のアパートにいるのですが」
「インターホンの呼びかけに、一切応答しません」
(´・ω・`) 「………」
(´・ω・`) 「電話にも、か」
「それが…」
「コールすら、かかりません」
.
426
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:25:23 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「コールすら?」
「電波の届かないところにいるか、電源が切られているか…」
「とにかく、一切つながらないのです」
(´・ω・`) 「なに?」
'_
(´・_ゝ・`) 、
思わず、眉がつりあがった。
事前に、ミセリには電源は切らないよう忠告してある。
ミセリは、いつ、なんどき襲われるかわからない身だ。
そのため、電源が切れていたら緊急事態と判断する、と伝えた。
それは無論犯人の知らないやり取りである。
最近のスマホは、GPS機能で簡単に居場所を割り出せる。
近年の殺人犯は、それを警戒してスマホを破壊することが多いのだ。
.
427
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:26:53 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「大家に一報入れて、無理にでも部屋に入れ」
(´・ω・`) 「ぎょろ目には、僕から連絡入れておく」
「わかりました」
深刻な声色を最後に、電話は切られた。
不吉だ。
事前に約束してあるんだ、ミセリが電源を切るとは考えにくい。
もうひとつ不吉だったのは、
いま、現場にはぎょろ目しか控えていない。
ペニーと壁はいまは情報収集に回しているし、私服警官もまだ到着していないのだ。
(´・ω・`) 「もしもし、僕だ」
(´・ω・`) 「いま、公園か?」
ぎょろ目は、ワンコールで応答した。
事件中の奴は、電話にはワンコールで出るよう徹底している。
もし応じなかった場合は、なにかがあった、ということだ。
.
428
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:27:50 ID:T8wS26JU0
ぎょろ目は、散歩するふりをして、現場の地理を把握しているところだった。
不吉なものはまだ感じ取っていないのだろう、いつも通りの声だ。
(´・ω・`) 「ワカッテマスから、共有だ」
(´・ω・`) 「ミセリが、こちらの呼びかけに応答しない」
僕がワカッテマスから聞いた時と同様に、
奴も嫌なものを感じ取ったのか、一瞬声を詰まらせた。
(´・ω・`) 「インターホンには対応せず、電話もつながらない」
(´・ω・`) 「いま、ワカッテマスに部屋に乗り込むよう言ってある」
「つながらない、というのは、コールが続くということですか」
(´・ω・`) 「いや、コールすら鳴らない」
(´・ω・`) 「電源が切れただけか……破壊されたか。」
.
429
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:28:48 ID:T8wS26JU0
ぎょろ目が押し黙る。
さまざまなケースが考えられるのだ。
あれから犯人が、公園とは別の時間と場所を指定して、
ミセリが警察に共有せずに応じたケース。
あるいは、もう既に、殺されてしまったという可能性もある。
考えたくはないが。
(´・ω・`) 「そっちは、どうだ」
(´・ω・`) 「何か、変わった出来事は」
「現状、騒ぎなどは、特に」
と言いながら、断続的に息の弾む音が聞こえた。
公園内を、走って巡回しだしたのだろう。
(´・ω・`) 「なにかあったら、すぐ連絡しろ」
(´・ω・`) 「ワカッテマスからの連絡も、すぐに回す」
.
430
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:30:12 ID:T8wS26JU0
「わかりました」 とだけ残して、電話は切れた。
時刻は、まだ十三時だ。
アクションを起こすには、いささか早い気もする局面。
アパートには、ワカッテマスが。
公園には、ぎょろ目が先回りしたはずだったが。
既に、犯人に先手を打たれたのか?
しかし、犯人からのアクションがあったとして、
ミセリから連絡が入っていないのが妙だ。
連絡する間もなく、なにか事態に発展したのか。
だとすると、犯人はアパートに向かった可能性もある。
この上なく不吉で、不愉快だ。
(´・ω・`) 「……」
(´・_ゝ・`) 「何か、あったんですか」
(´・ω・`) 「ん。 ああ…」
.
431
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:31:29 ID:T8wS26JU0
ここは、公園からもアパートからも、やや離れた位置にある。
急行したところで、数十分のラグが発生する。
すぐに向かうべき、なのだろうか。
しかし、公園で何かあったとは考えにくいところでもある。
(´・_ゝ・`) 「セリっちが……いないんですか?」
(´・ω・`) 「うん」
(´・ω・`) 「電話も、つながらないらしい」
と言いながら、僕も電話をかける。
しかし、ワカッテマスの言っていたように、コールすらかからない。
急行準備だ。
コーヒーを飲み干して、目下優先すべきことを考える。
(;´・_ゝ・`) 「……まさか、もう…?」
(´・ω・`) 「ん」
(;´・_ゝ・`) 「殺され……たんですか?」
(´・ω・`) 「それは、わからない」
.
432
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:32:01 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「わからないけど…」
(´・ω・`) 「ひとまず、僕は戻ろうかと思う」
(;´・_ゝ・`) 「…」
さて。
悩むのは、デミタスをどうするか、だ。
デミタスを同行させるのは、容易い。
デミタスがそれを拒んでも、警察のほうで保護させればいいだけだ。
問題は、現場まで同行させるか、どうか。
デメリットは、言うまでもなく、犯人の目に晒すことになる点。
しかし裏を返せば、犯人もデミタスにその姿を晒すことになる、とも取れる。
サークルの内外問わず、当時の関係者がそこにいれば、
デミタスは、すぐに見つけることができるだろう。
この諸刃の剣は、警察側の数少ない武器だ。
取り扱いを誤れば、最悪の展開すら考えられる。
.
433
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:33:19 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「そこで、だ」
(´・ω・`) 「あんたも、連れていこうかと思う」
(;´・_ゝ・`) 「!」
(;´・_ゝ・`) 「………。」
押し黙るのは、自分も殺され得るから、に他ならない。
しかしすぐに拒まないのを見るに、奴もわかっているのだろう。
自分なら、犯人を見つけ出すことができる、と。
そうでなくても、デミタスを、近くに置いておきたいという気持ちが強い。
いつでも自ら保護に回れるし、
話をするのにこの近辺にいられちゃあ不都合だ。
(;´・_ゝ・`) 「………。」
(´・ω・`) 「拒むなら、強制はできないけどね」
.
434
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:34:27 ID:T8wS26JU0
(;´・_ゝ・`) 「………。」
(;´・_ゝ・`) 「……拒み……は、しないよ」
(´・ω・`) 「!」
違うのか。
来るかどうか、を悩んでいたのではないのか。
だとしたら、この沈黙はなんだ。
保護されるか、現場まで来るかを考えているのか、あるいは。
(;´・_ゝ・`)
(;´・_ゝ・`) 「……」
(´・ω・`) 「時間がもったいない、行くぞ」
(;´・_ゝ・`) 「……」
デミタスは、ちいさく頷いた。
.
435
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:35:13 ID:T8wS26JU0
覆面パトカーに乗り込んで、すぐに着信はきた。
ワカッテマスからだ。
ミセリの部屋に押し掛けたはいいが、
案の定、とでも言うべきなのか。
無人だったらしい。
また、部屋の様子からして、連れ去られたなどといったことでもないそうだ。
洗濯機がまわっていたり、照明がつきっぱなしでも、なく。
ミセリの意思で外出したであろうことは明白だった、と。
立会人の大家は、彼女がいつ頃出掛けたのか、はわからないらしい。
もとより、大家は彼女を監視していたわけでもない。
仕方ないこととはいえ、その情報がわかるだけでも助かったのだが。
アパートはワカッテマスに任せて、僕は公園に向かうことにした。
奴も、すぐに公園に向かうべきか聞いてきたが、
僕の指示で、先に軽く室内を漁らせることにした。
しかし、時間もない。
ワカッテマスの捜査能力は、高いとはいえ。
空回りする時間が惜しいのは言うまでもない。
奴が、どこを漁るべきか、指示を仰いでくる。
調べるべき、ものか。
.
436
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:35:42 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「書置きの類は、ないんだね?」
「真っ先に確認しました」
(´・ω・`) 「そうか……だったら。」
(´・ω・`) 「家から紛失している、」
(´・ω・`) 「凶器になり得る、なにか」
ワカッテマスが息を呑むのが窺えた。
「凶器になり得る…?」
(´・ω・`) 「考えても見ろ」
(´・ω・`) 「犯人に会いにいくッつーのは、つまり」
(´・ω・`) 「自分の夫を殺した野郎に会いにいく…ッてことだぞ」
.
437
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:36:55 ID:T8wS26JU0
ワカッテマスは黙った。
早足で室内を歩く音が聞こえる。
凶器になり得るもの。
若い女性なのだから、スタンガンの類を買っていてもおかしくない。
近頃では、一般向けの警棒もさまざまなものがあると聞く。
しかし、僕もワカッテマスも、真っ先に浮かんだものは違った。
一般人が、殺意を抱くときに携えるもの。
「ありました」
「いや なかった、と言えばいいのか……とにかく。」
(´・ω・`) 「……ひょっとして」
「包丁が、ひとつもありません」
.
438
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:38:07 ID:T8wS26JU0
(;´・ω・`) 「………」
確定した。
ミセリは、犯人に、会いに行った。
ここで、何も情報が上がらなければ、
買い物にでも行った矢先、うっかり充電が切れたか、落としたか、があり得た。
ただ、包丁のない家庭というのは、あり得ない。
包丁を持って出かけることも、あり得ない。
一般人が 「凶器」 と考えて、真っ先に思い浮かぶもの。
間違いなく、包丁だ。
(;´・ω・`) 「……部屋の捜査は、所轄に任せろ」
(;´・ω・`) 「令状はいらん、大家に立ち会わせておけ」
「なら、私は」
(;´・ω・`) 「公園だ」
(;´・ω・`) 「ヴィップの滝公園」
(;´・ω・`) 「応援要請は僕がしておく」
.
439
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:39:06 ID:T8wS26JU0
自然と、アクセルを踏む力も強くなる。
ハンドルを握る手に、汗が滲んできた。
彼女が、いつ、部屋を出たのかがわかれば。
それも、つい少し前、というのであれば、まだ事態を防ぐことはできる。
この上なく嫌な予感がしやがるのは、
電話がつながらない、ということだ。
犯人と会って、電話がつながらない事態に発展した。
その時点で、半分望み薄ではあった。
あり得るとするならば、
電話をかけようとして犯人に叩き落され、電話だけが壊れたケース。
あるいは、滝壺にでも水没したのか。
そのどちらも、状況を考えれば十分に考えられることだ。
そして、それを考えるのではなく、祈らなければならない。
.
440
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:39:26 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「…僕だ」
「はい」
すぐに、ぎょろ目にも共有だ。
僕の声色を察して、奴も声のトーンをひどく落とした。
(´・ω・`) 「要点は、ふたつ」
(´・ω・`) 「まず、ミセリは自宅にはいなかった」
(´・ω・`) 「もう一つ」
(´・ω・`) 「彼女は、包丁を持って出掛けている」
ぎょろ目は、何か言いかけたのを堪えて、舌打ちだけした。
おそらく、眉間にシワを寄せているだろう。
考えたくない事態が、発生したからだ。
警察への相談なしに、彼女は独断で、犯人と会いにいった。
しかし、だったらどうして、何時間も早い今に。
あるいは、もっと早くに。
.
441
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:40:30 ID:T8wS26JU0
考えるまでもなかった。
あれから、犯人との更なるやり取りがあったのだ。
それも、指定していた十六時よりも、早くの合流。
早くする理由は、警察を撒く以外に考えづらい。
しかしそれは、ミセリが提案したことかもしれない。
警察の介入なく、真剣な話をしたく思ったかもしれないのだ。
(´・ω・`) 「所轄もすぐさま配置させる」
当初、警官を配置するのは控えておくつもりだった。
ただ、事態が事態だ。
リスクなど考えていられる余裕はない。
ここまできたら、ぎょろ目もワカッテマスも、反対しようとしなかった。
むしろ、一刻も早く、一人でも多くの応援を求める。
(´・ω・`) 「あんたは、とにかく写真を持って聞き込みに回れ」
(´・ω・`) 「身分も明かして構わん」
.
442
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:40:56 ID:T8wS26JU0
こうなると、兎にも角にも時間が惜しい。
言うだけ言って電話を切り、僕もパトランプを装着した。
サイレンを鳴らしながら、無線機を握る。
(´・ω・`) 「こちら、捜査一課ショボーン」
(´・ω・`) 「至急、ヴィップの滝公園に応援を要請する」
頬を、汗が伝う。
思わず、僕まで眉をしかめてしまう。
これでも、捜査一課の警部だ。
ヴィップの警官にはだいたい名が知られている。
そんな僕が、急遽応援を要請するのだ、
公園に近い署から順に、現場に到着するだろう。
懸念事項があるとすれば、ヴィップの滝公園が現場である可能性だ。
最初の指示は、滝公園だった。
しかし、後日再度やり取りがあった時に、指定場所が変わっているかもしれない。
.
443
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:42:05 ID:T8wS26JU0
となると、いよいよ犯人に出し抜かれることになる。
重要なのは、そもそもどうして、犯人はヴィップの滝公園に呼び出したのか。
犯人が言っていたことは、要は以下の二点。
自首しようと思う。
その前に、ふたりで話がしたい。
殺すつもりであることも、公園側への殺人予告もない。
犯人の意図が、ここにきて汲み取れなくなっている。
再三話し合ったが、やはりミセリを殺すつもりだろうという見解は変わらない。
ここで、犯人が隠し持つ殺意と、ミセリへの電話内容が食い違う。
この食い違いも加味するとなると、
犯人は、その殺意が気づかれないようにミセリを殺す必要があるわけだ。
そして、その要素が滝公園に
含まれている点から先回りして、推理を進めなければならない。
.
444
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:43:09 ID:T8wS26JU0
滝公園は、地元民には知られている名所であり
一ヴィップ民である僕も、当然よく知っている。
しかし、あそこに、その要素はあるのか。
滝公園にあるものは、広場、自然、出店、そして滝。
滝がある以上、滝壺はあり、そこから園内を巡る川もある。
真っ先に思い浮かぶのは、溺死だが。
溺死か。
溺死の線は、薄くはない。
場所を滝公園に指定した時点で犯人側に殺意があった場合、
犯人側は、どうにかして足のつかないような殺人方法を用意する。
その点、溺死は、指紋を残さず、凶器も必要としない点で優秀だ。
逆に、即死という概念がない以上、時間と手間がかかる。
ミセリは細腕の女性だ、難しくはなかろうが、抵抗が懸念される。
その過程で水を浴びてしまうと、そこから足がつく可能性もある。
.
445
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:44:21 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「…」
(;´・ω・`) 「クソッ!」
考えが、いまいちまとまらない。
犯人は目の前まで迫っているのに、未だに、霞がかっている。
近年、時代の流れか、覆面パトカーも全車禁煙にすべきだ、と言われている。
だが、この際そんなものはどうでもいい。
煙草のフィルターを噛み、乱暴に火をつけた。
思いっきり吸い込む。
一気に一センチほど燃焼した。
(;´・ω・`) 「考えろ…」
(;´・ω・`) 「考えろ…」
現時点での武器は、ずばりぎょろ目が現場に既にいる、ということ。
奴を使えば、あるいは犯人を確保できるかもしれないし、
そもそも殺人そのものを未然に防げるかもしれない。
.
446
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:44:58 ID:T8wS26JU0
東風ミルナという刑事の容姿が、脳裏に浮かぶ。
白髪が目立ってきた、渋い古風な刑事だ。
僕以上のキャリアを持ち、あらゆる能力はワカッテマスに負けるとも劣らない。
老いてもなお頭は冴えているし、現場から証拠を取りこぼすことはないのだ。
ただひとつ弱点が、鋭い推理力が備わっていない。
僕が、奴を差し置いて警部に成り上がっているのも、
僕自身の功績以外に、奴自身が上に立つのを嫌った背景がある。
捜査スキルが高い。
上に立ち、下を巧みに操る技術にも長けている。
情報を一から七、八にするのは得手だし、
七、八ある情報から事件を解決するのも得手だ。
ただ、一しかない情報、
あるいはまったくのゼロから、ロジックを構築できない。
そして現況、情報は一、二程度しかない。
ミセリが共有してくれた、犯人とのやり取り。
加え、犯人の思惑の矛盾と現場状況の照らし合わせくらいか。
だとすると。 、 、
聞き込みと並行して奴に見てもらうべきものは?
.
447
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:45:20 ID:T8wS26JU0
、
(;´・ω・`) 「 水かッ! 」
すぐさま電話を手に取る。
既に、答えは出していた。
犯人は、水を利用した犯行を企んでいた可能性が否定できない。
それが溺死なのか、あるいは滝の上からの転落死か。
どちらにせよ、関わってくるのは水である。
滝の上か、その先の滝壺か、滝壺から続く川か。
ぎょろ目は走りながら電話にすぐさま応じた。
(;´・ω・`) 「現況ッ」
「今のところヒットなしッ」
(;´・ω・`) 「オーケー」
(;´・ω・`) 「聞き込みは、滝から末端の川までを沿うようにしてくれ!」
.
448
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:45:46 ID:T8wS26JU0
ぎょろ目は、意図を汲み取り損ねたのか、一瞬黙った。
だが、すぐさま頷いて電話を切った。
滝公園の、園内を渡る川は、一本だけだ。
幅数メートルある大きなもので、丁寧な装飾が施されている。
川近辺に人は集まりやすい。
文明の発展においても、観光名所においてもだ。
(;´・ω・`) 「間に合ってくれよ……」
万が一を考え、覆面パトカーで来ていてよかった。
パトカーなら、多少は法定速度を無視しても咎められない。
もっとも、法を破るものを追うのに法に縛られるのは本末転倒と思わなくもないが。
アクセルを深く踏んで、信号も無視して、とにかく前へ。
あと十分ほどで、公園が見えてくる。
.
449
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:46:10 ID:T8wS26JU0
(;´・ω・`) 「!」
こちらからかけてばかりだった電話が、震えた。
ワカッテマスではない。
ぎょろ目からだ。
(;´・ω・`) 「僕だ」
「目撃証言ッ」
(´・ω・`) 「ッ!」
「少し前に、滝壺になにか大きなものが落ちた音がしたッ」
「鯉が跳ねたにしては大袈裟すぎたと、市民が証言ッ」
(;´・ω・`)
全身に、悪寒が走った。
滝壺に、大きなものが落ちた音がした。
鯉が跳ねた程度ではない音。
.
450
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:46:39 ID:T8wS26JU0
(;´・ω・`) 「 いつ頃だッ!」
「五分か、十分か前、とのこと」
(;´・ω・`) 「沈んだのか? 流されたのか?」
「これより検証、しばらく応答できませんッ」
(;´・ω・`) 「…!」
これより検証?
何を言っている?
(;´・ω・`) 「わかった、川下のほうに向かっていけ!」
(;´・ω・`) 「僕もすぐにそっちに着く!」
がちゃがちゃ、と何かを外すような音が聞こえてきた。
茂みにいるであろう音も併せて聞こえてくる。
検証、か。
鉄砲などを外して茂みに隠し、滝壺に潜るつもりか。
.
451
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:47:10 ID:T8wS26JU0
(;´・ω・`) 「 ………。」
これが、ぎょろ目の強さだった。
夏に向かっているとはいえ、まだ暑くはない気候。
歳も増すばかりで、冷水に飛び込むのは危険も伴う。
それでも、躊躇などなしに、その程度のことをやってのける男なのだ。
(;´・ω・`) 「………」
(;´‐ω‐`) 「……」
拳を、強く握りしめた。
僕のまわりには、優秀な刑事が集まっている。
日頃は、どこか気の抜けた連中ばかりだが
それが今この瞬間、この上なく心強く思えた。
(´・ω・`) 「飛ばすぞ」
(;´・_ゝ・`) 「…え?」
(´・ω・`) 「ケーサツには、黙っててくれよ」
.
452
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:48:02 ID:T8wS26JU0
┏━─
午後十三時二二分 ヴィップの滝公園
─━┛
現場には既に、第一群が到着していた。
ここから一番近い所轄だ。
とても、まだ事件が発覚したとは思えない情景だった。
連続予告殺人を扱うこの僕が、要請をかけたんだ。
これで僕の推理が外れていた場合、始末書程度では済まないだろう。
だが、ある種の確信はあった。
死亡したかどうかは、定かではない。
しかし、確実に、既にここでミセリは犯人と接触している。
ミセリは、滝壺に突き落とされたのだ。
それが五分、十分程度だったなら、存命の確率はまだ十分にある。
ぎょろ目が、すぐさまミセリを救い出せるかどうか、が鍵だ。
.
453
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:48:43 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「半分は滝の上、半分は川沿いを南に」
(´・ω・`) 「聞き込み、調査に分かれて迅速にかかれ」
所轄の陣頭指揮を執る。
サイレンの音を聞きつけたのだろう、パトカーを降りた瞬間所轄に出迎えられた。
僕の指示に一切疑問を持つことなく、言われるがまま警官たちは分かれた。
(´・ω・`) 「そこのキミ」
警官 「はッ はい!」
'_
(;´・_ゝ・`) 、
(´・ω・`) 「彼は、重要参考人だ」
(´・ω・`) 「一緒にパトカーに乗って、保護しておけ」
警官 「わかりました!」
(;´・_ゝ・`) 「…刑事さん」
.
454
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:49:26 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「さて…」
僕はすぐに、滝壺に向かう。
周囲を見渡すと、ぎょろ目が置いていったのであろう拳銃などが茂みに隠されてあった。
となると、ここから池に飛び込んでいる。
少し、滝壺の様子を見る。
しかし、ここに潜っている気配はない。
川下に向かって、警官に遅れる形で走り出す。
滝壺に潜っていない、ということは、ミセリは沈まず、流されている、ということ。
そこまで人は多くないが、
それでも公園に訪れていた人たちの好奇の視線が突き刺さる。
聞き込み担当の警官が、そんな彼らに声をかけていく。
目立っているのは、かえって好都合だろう。
既にミセリは犯人から離れている。
今更我々の存在が犯人に知られようが、関係ない。
騒ぎを聞きつけた野次馬たちが、少しずつ顔を出す。
彼らを逃さず、所轄が捕まえていく。
近隣の所轄に片っ端から応援をかけたのは正解だったようで、
捜査の取りこぼしの心配はなさそうだった。
.
455
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:49:50 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「!」
'_
(;゚д゚) 、
(´・ω・`) 「おいッ!」
ある程度走っていると、川べりにぎょろ目が上がっていた。
全身ずぶ濡れで、僕の声に応じて奴も振り返った。
(;゚д゚) 「イツワリさん!」
(´・ω・`) 「ミセリは!」
(;゚д゚) 「それが……妙なのです」
(´・ω・`) 「妙…?」
少しずつ溜まりつつある不吉な予感が、形を成していくのがわかる。
ぎょろ目は、からだを拭おうともせず、続けた。
(;゚д゚) 「滝壺から、ここまで泳いで見渡してきましたが」
(;゚д゚) 「ミセリは、どこにも見受けられません」
.
456
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:50:41 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「……ッ」
(;゚д゚) 「ひょっとして、滝壺の音、というのは勘違いでは……」
(´・ω・`) 「いや、そんなはずは……」
犯人の思惑と、現場の状況。
照らし合わせる限り、溺死、転落死が濃厚だ。
そして、鯉が跳ねたとは思えないような、音。
音、しか証言されていないのがポイントなのだ。
つまり、証人はそのシーンを 「見て」 はいない。
現場を見ていない証人が、思わず証言するような音。
それだけ大きな音を鳴らすものなど、
現状、ミセリが突き落とされた以外には考えづらい。
(;゚д゚) 「しかし」
(;゚д゚) 「自然に流されているならば、既に追いついています」
(´・ω・`) 「どこかに引っかかった、とかは…」
(;゚д゚) 「そんなもの、見落としません」
.
457
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:51:21 ID:T8wS26JU0
見落とさない。
ぎょろ目が言うと、信じるしかない言葉だった。
となると、どういうことだ。
その時の音、はなんだったのか。
(;゚д゚) 「むろん、滝壺には粗大ゴミの類もありませんでした」
(;゚д゚) 「と、言うより……」
、 、、 、 、、、 、 、 、 、 、 、、 、 、
(;゚д゚) 「なにも落とされた形跡がありません」
(;´・ω・`) 「なんだって…?」
刑事に驚き、ただ鯉が跳ねただけの音を、過剰に勘違いしてしまったのか。
大きなものが落ちた時の音と鯉が跳ねる音は、比較にならないぞ。
人間は、そんなに大きな勘違いをしかねないとでも言うのか。
滝公園の水は、底のほうは泥でよどんでいるものの、
上の方は澄んでいる、奴が見落としたりする要素はない。
(;゚д゚) 「……あった、とすれば」
(;>д゚) 「 え、ぶえっくしょん!」
.
458
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:52:02 ID:T8wS26JU0
ぎょろ目は、盛大なくしゃみをした。
思わずシャツを脱ぎ、はたいて水を切りだす。
(´・ω・`) 「……風邪は、引くなよ」
(´・ω・`) 「今はあんたが頼りだ」
(;゚д゚) 「失礼」
(´・ω・`) 「で」
(´・ω・`) 「あったとすれば?」
(;゚д゚) 「ゴミ……が浮かんでいた、程度」
(´・ω・`) 「ゴミ? ゴミくらい普通に……」
(´・ω・`) 「……いや。 確かに、妙だな」
(;゚д゚) 「はい」
(;゚д゚) 「この公園は、ゴミのポイ捨てにはやたら厳しいです」
.
459
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:52:27 ID:T8wS26JU0
ヴィップの名所ともされている、ヴィップの滝公園。
環境美化にとことん拘っている公園で、
川にペットボトルなどが浮かんでいることは、ほぼない。
市民も、この公園には誇りを持っているのだ。
ゴミを捨てようと考える人も、少ない。
(´・ω・`) 「なにがあったの?」
(;゚д゚) 「何かの包み……でしょうか?」
(;゚д゚) 「一応、拾っておいた程度ですが……」
ぎょろ目は、ポケットからそれを取り出した。
紫色の包みで、花がプリントされている。
(´・ω・`) 「…………アネモネ」
.
460
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:53:37 ID:T8wS26JU0
(;゚д゚) 「?」
(;゚д゚) 「アネモネ……って、この花、ですか?」
(;´・ω・`) 「おい!」
(;´・ω・`) 「これ……どこにあった!」
思わず、声を張ってしまう。
ぎょろ目はキョトンとしたまま、落ち着いて答えた。
(;゚д゚) 「滝壺の、ど真ん中にあったんです」
(;゚д゚) 「ただのポイ捨てにしては、いささか不自然な……」
.
461
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:54:19 ID:T8wS26JU0
(;´・ω・`) 「滝壺に戻るぞ!!」
(;´・ω・`) 「それはミセリの遺留品だ!!」
(;゚д゚) 「な……」
言い放って、一直線で駆け出す。
ぎょろ目も、シャツを羽織りながらついてくる。
(;゚д゚) 「何を根拠に!」
(;゚д゚) 「ミセリ宅に、似たようなものが?」
、 、 、 、 、、 、 、 、、 、
(;´・ω・`) 「それは僕があげたものだ!」
と言いながら、僕もポケットに忍ばせていたキャンディーをひとつ取り出す。
花がプリントされた、シンプルな包装。
間違いなく、僕が喫茶店で彼女に渡した、アネモネの飴だ。
.
462
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:55:39 ID:T8wS26JU0
(;゚д゚) 「 本当ですか!?」
(;゚д゚) 「たまたま同じもの、では…」
(;´・ω・`) 「それは、通販でしか売られてないキャンディーなんだ!」
(;´・ω・`) 「そこらにありふれてる物じゃない!」
塩見製菓にて、お徳用のみが、通販限定で売られている 「花飴」 。
この期に及んで、偶然捨てられていた、などあり得ない。
(;´・ω・`) 「ミセリは、確かに!」
(;´・ω・`) 「滝壺に、落とされたんだ!」
.
463
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:56:01 ID:T8wS26JU0
(;゚д゚) 「じゃあ、ミセリはどこに!」
(;´・ω・`) 「犯人が掬い上げたわけはない!」
(;´・ω・`) 「沈んでも、流されてもないなら、滝の下だ!」
(;゚д゚) 「 なッ …。」
物理学には、疎い。
しかし、消去法で考えるなら、可能性があるのは、ひとつ。
滝の下だ。
滝が作り出す水流が渦を巻いて、
落とされたミセリを、その水流が落水地点まで運んだなら。
落水地点なら、ぎょろ目の眼をもってしてもミセリを見つけ出すのは難しい。
だからといって近くまで泳いで確認することもできない。
考えられない話ではあるが、滝の下以外にミセリが姿を消す場所など、ないのだ。
.
464
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:56:43 ID:T8wS26JU0
滝壺まで戻る。
滝の下など、どう潜ればいいのだ。
(;´・ω・`) 「さて、」
( ゚д゚) 「は?」
とにかく、潜るしかない。
そう思ったが、その前に。
(´・ω・`) 「どうした?」
( ゚д゚) 「…」
(;゚д゚) 「………え? え?」
(´・ω・`) 「おい! どうしたんだ!」
ぎょろ目が、明らかに異変を見せた。
滝壺、ではない、上の方を見て、目を何度も擦っていた。
.
465
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:57:03 ID:T8wS26JU0
(;´・ω・`) 「滝…?」
(;゚д゚)
(;゚д゚) 「………い、イツワリさん」
(;゚д゚) 「上のほう」
(;゚д゚) 「なんか、いませんか?」
(´・ω・`) 「う…上?」
僕が目をやったよりも、もっと上。
ぎょろ目は、滝口のほうを指さした。
(;゚д゚) 「なんか、何か、が…」
(;゚д゚) 「上へ、上へ…」
(;゚д゚) 「滝を、登って、いるような…」
.
466
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:58:00 ID:T8wS26JU0
(´・ω・`) 「え」
水飛沫で、よく見えない。
しかし、確かに、なんか、何かが。
上へ、上へ、滝を登っているようなものは見える。
なるほど確かに、これは目を擦る。
目を細めて、その何かを、見る。
(´・ω・`)
(´・ω・`) 「……あ」
見えた。
服装は違うし、髪形も崩れてはいるが。
ミセ:::-:)リ
.
467
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:58:47 ID:T8wS26JU0
( ;´゚ω゚) 「 なああああああアアアアアアアアアアアッッ!?!?」
芹澤ミセリが、こちらを見ながら。
まるで、昇天するように、滝を、登っていた。
.
468
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:59:19 ID:T8wS26JU0
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第四幕 「 滝登り 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
469
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 03:59:45 ID:T8wS26JU0
序幕
>>2-69
第一幕
>>82-211
第二幕
>>218-296
第三幕
>>304-388
第四幕
>>398-468
470
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 06:58:10 ID:yBpu.qtE0
ミセリは鯉か?
人数とか諸々気になるな……乙
471
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 08:41:49 ID:1p5ES8NU0
一向に解決に向かわないこの状況…支援!
472
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 10:42:23 ID:wLEeQYaw0
どういうことぜよ…
473
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 15:47:22 ID:ZR.gt21w0
乙
なんかすげえことになってんぜ、続き期待してます
474
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 16:25:01 ID:bEAFNA7g0
首でも釣られているんかね
475
:
名無しさん
:2018/09/20(木) 18:59:37 ID:eCv6Pbms0
どういうこった…
乙
476
:
名無しさん
:2018/09/21(金) 01:18:12 ID:UVCLjSoo0
よーっやく読み返し終えて追いついたぜ乙
にしても全く解決の糸口が見えてこないな・・・どうなるんだ・・・
477
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:36:11 ID:BblhGUlY0
┏━─
五月六日 午後十三時五二分 ヴィップの滝公園
─━┛
(;´・ω・`) 「こちらショボーン!」
(;´・ω・`) 「女がひとり、滝を登っている!」
( ;´゚ω゚) 「 ジョークじゃねえんだ!!すぐ保護しろ!!」
(;゚д゚) 「言っても無駄だ!はやく向かいましょう!」
言って、ぎょろ目は走り出した。
滝の上は、多少の石畳こそあるものの、
一般人の立ち入りが想定されたものではない。
公園の管理団体が、暫定で取り付けたものなのだ。
入り組んだ茂みを抜け、その石畳を駆け上っていく。
滝の上へと続く道、いわゆる 「裏」 に市民は、誰一人としていない。
警官が捜査している程度である。
.
478
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:36:31 ID:BblhGUlY0
いちいち連中に説明するのも、手間がかかる。
警戒を強化しろ、とだけ伝え、僕とぎょろ目は、上へ、上へと進む。
滝口、つまりはダムの頂点だ。
出来損ないのダムは、明らかに整備がされていなかった。
警官が数人、捜査している。
連中には、まだ詳細なことを伝えていない。
とにかく、めぼしいものはかき集めろ、と言ってある。
それがゴミであっても、足跡でも、なんでも。
ひょんなものが、決定的な証拠になることも、多々ある。
(;´・ω・`) 「……」
ぎょろ目が、たまたま見つけた、不自然な包装。
これこそまさに、ひょんな、決定的な証拠だった。
(;´・ω・`) 「……」
アネモネ。
紫のそれは、あなたを信じて待つ、という花言葉がある。
.
479
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:37:05 ID:BblhGUlY0
ほんとうは、ミセリを信じて待つ、というつもりで渡したものだった。
皮肉にも、ミセリが僕を信じて待つ、という意味になるとは思いもしなかった。
(;゚д゚) 「イツワリさん!」
(´・ω・`) 「どうした!」
ぎょろ目は、滝上の茂みのほうにいた。
大急ぎで手をこまねいている。
(;゚д゚) 「これ………見てください」
(´・ω・`) 「なんだ…コレ」
ぎょろ目は、何やら大きい機械を指さして言った。
漁獲船にありそうな、網を引くローラーだ。
それが、カリカリと音を立てて稼働している。
(´・ω・`) 「……」
(;´・ω・`) 「ッ! そういうことか!」
.
480
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:37:34 ID:BblhGUlY0
互いに合点がいったようで、無言で示し合わせて、
そのローラーが巻いているロープを引く。
ロープは滝口、その下まで伸びている。
となれば、簡単な話だった。
ミセリは、これに縛られて、滝を逆流しているのだ。
(;´・ω・`) 「クソッ!!」
かなりの重量がある。
ミセリやロープ自体は、重くないだろう。
ただ、ミセリは、滝をまともに受けているのだ。
その分の重量が、ロープに重く圧し掛かっている。
男ふたりで引いても、まるで手ごたえがなく感じられる。
(;゚д゚) 「おい! お前らも来い!」
.
481
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:37:57 ID:BblhGUlY0
ぎょろ目が、大声で周囲の警官を呼び寄せる。
もとより厳つい刑事だ、恫喝されて半ば怯えながら駆けつけてきた。
全員で力をあわせて、ロープを引っ張る。
少しすると、まるで大物でも釣り上げたかのように、ロープが緩んだ。
全員が反動で後ろに倒れる。
滝口から、ミセリがこちらに向かって飛び込んできた。
(;゚д゚) 「おい!!意識はあるか!!」
すぐに対応したのは、ぎょろ目だった。
ミセリをすぐに抱きかかえて、首にかかっていたロープを外す。
奴は間髪入れず、全身を揺らしながら、大きな声をかけた。
時折、呼吸や心拍音を確認する。
しかし、一向にぎょろ目の顔色は変わらない。
むしろ、悪くなっていく一方だ。
(´・ω・`) 「代われ」
.
482
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:38:18 ID:BblhGUlY0
ぎょろ目が、困ったような顔を浮かべながら、僕に場所を譲る。
その場にしゃがみ込み、検視に入った。
検視、といっても器具などは一切持ち合わせていない。
ただ、どう死亡したかは、判断できる。
(´・ω・`) 「…」
体温は、恐ろしく低い。
水に浸かり、滝に打たれたためだろう。
脈、心拍音、呼吸、そのすべてがない。
死後硬直は見られない。
あらかじめ殺し、滝壺に落としたわけではなさそうだ。
また、水をほとんど飲みこんでいない。
溺死でも、ない。
もしや、と思い眼をうかがうと、溢血点が確認された。
首元にも索条痕が残っている以上、絞殺が疑わしい。
滝を登った時にできたものの可能性もあるため、断言はできないものの。
とにかく、芹澤ミセリは、殺害された。
疑いようのない事実だった。
.
483
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:38:40 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「……五月六日、十四時十二分」
(´・ω・`) 「芹澤ミセリの死亡を確認」
(;゚д゚) 「ッ!」
がばッとぎょろ目が屈み込んだ。
僕が眼を見たのと同様に、ぎょろ目もそれを確認した。
(;゚д゚) 「…」
(;゚д゚) 「これ、は…」
(´・ω・`) 「溢血点。 おそらく、絞殺だ」
ぎょろ目は、僕ほど検視の知識はない。
溢血点は、絞殺された時に、眼球に現れるちいさな点だ。
この時点で、首を絞められ殺されたのは明らかとなる。
駆け寄った警官が、なりふり構わず写真を撮ったり、現場状況を確認し始めた。
手際がいいのはよろしいことだが、今はそっとしておいてほしい気もした。
(´・ω・`) 「ただ、殺されてまだ浅いぞ」
(´・ω・`) 「近辺に犯人がいる可能性は、高い」
.
484
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:40:51 ID:BblhGUlY0
(#゚д゚) 「まだ来てない所轄も呼べ!」
(#゚д゚) 「周囲を、徹底的に囲うんだ!」
ぎょろ目の恫喝に、警官たちが畏縮する。
全身が濡れたままの老体とは思えない、怒声だった。
(´・ω・`) 「…」
ミセ:::-::)リ
(´・ω・`) 「…」
その間、僕はそっと、ミセリの顔を見つめた。
死んだとは思えない、静かな寝顔だ。
花飴の包装を、見る。
あなたを信じて待つ。
もう少し早く、この包装の存在を知れたら、あるいは生還させられたのだろうか。
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「くそ」
.
485
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:41:26 ID:BblhGUlY0
地面を、強く殴る。
防ぐことは、できなかったのだろうか。
ワカッテマスの言う通り、無理にでも保護すればよかったのだろうか。
人命を軽んじたつもりは、ない。
ないが、今回は、自分の判断ミスが生んだ結果にしか思えなかった。
( ゚д゚) 「……イツワリさん」
ミセリの顔にハンカチを載せて、言った。
感情的になりそうな自分を、なだめるような声だった。
( ゚д゚) 「陣頭指揮は、自分に任せてください」
( ゚д゚) 「まだ、事件は終わってないんです」
(´・ω・`) 「…」
奴ほど、捜査を任せて安心できる男はいない。
短くない警部人生で、幾度となく痛感させられてきたことだ。
.
486
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:42:03 ID:BblhGUlY0
( ゚д゚) 「盛岡デミタス、流石兄者」
( ゚д゚) 「残るは、ふたり」
( ゚д゚) 「つまり、少なくともあと一度、事件が起こる可能性が、あるんです」
僕に、はやく次のステップに進め、と言っているのだろう。
ただ、ひとつ、いやに引っかかることがあった。
(´・ω・`) 「……流石兄者」
( ゚д゚) 「?」
(´・ω・`) 「至急、奴にコンタクトを取る必要がある」
(´・ω・`) 「まだ、ペニー達は洗い出せてないのか?」
( ゚д゚) 「自分は、聞いてないですが」
.
487
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:42:29 ID:BblhGUlY0
( ゚д゚) 「盛岡のほうは、どうだったんです」
( ゚д゚) 「確か、先ほどまで、警部が対応していましたよね」
(´・ω・`) 「ああ」
(´・ω・`) 「パトカーで保護させてるよ」
( ゚д゚) 「…パトカー」
(;゚д゚) 「パトカー!? そこのですか!?」
急な出来事だったので、デミタスをここまで連れてくる運びとなった。
危険だから、と警官をひとり、配置させている。
それも、僕が適当な奴を捕まえて指示したことだ。
(´・ω・`) 「この瞬間、盛岡デミタスには、完全なアリバイができた」
(´・ω・`) 「警察が、じきじきに奴のアリバイを立証している」
.
488
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:42:49 ID:BblhGUlY0
(;゚д゚) 「と、なると…」
(´・ω・`) 「流石兄者だ」
(´・ω・`) 「現状、犯人たりうるのは、奴しかいない」
流石兄者。
現在、三十四歳だろうか。
ヴィップ大学在籍時の情報は得られたが、
盛岡デミタスと違い、未だに奴は捕捉できていない。
立ち上がって、ミセリに合掌一礼。
呆然とするぎょろ目の背中に、一発平手を叩き込む。
(´・ω・`) 「頼んだぜ、先輩」
(´・ω・`) 「こっちは、任せろ」
(;゚д゚) 「……」
.
489
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:43:19 ID:BblhGUlY0
(;>д゚) 「 ぶえッくし!」
(´・ω・`) 「ぶっ」
強く背中を叩いたからか、えらく情けないくしゃみをした。
先ほどまでの沈着な態度はどこに行ったのか、気まずそうに鼻をすする。
(´・ω・`) 「なりふり構わず泳ぐからだ」
( ゚д゚) 「……歳は、いやですね」
(´・ω・`) 「まったくだ」
( ゚д゚) 「……すみません、鼻かみ、ありますか」
(´・ω・`) 「鼻かみ?」
( ゚д゚) 「ポケットに入れっぱなしで、濡れてしまって……」
(´;ω;`) 「……ぶひゃ、ひゃひゃ!」
ポケットから、鼻かみと一緒にキャンディーも取り出す。
ごつごつした手のひらに、叩きつけた。
.
490
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:45:22 ID:BblhGUlY0
( ゚д゚) 「ン……これは」
(´・ω・`) 「鼻は大切にしろよ。 じゃあな」
( ゚д゚) 「どう、も。」
( ゚д) ・’
っ
.
491
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:48:49 ID:BblhGUlY0
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第五幕 「 アネモネ 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
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492
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:49:44 ID:BblhGUlY0
┏━─
午後十四時五七分 捜査本部
─━┛
(;´・_ゝ・`)
( <●><●>) 「アリバイは、確かのようですね」
覆面パトカーで、一度捜査本部まで戻ってきた。
いま一度、核心に迫る必要があった。
車に乗せたままだったデミタスに、ミセリが殺された旨を告げた。
デミタスは顔を真っ青にして、言葉を失っていた。
捜査本部までの同行を伺うと、ふたつ返事で快諾してくれた。
すぐそこで、連続殺人の続きが起こってしまったのだ、当然だろう。
また、消去法でいけば、犯人は流石兄者で、
次、つまり最後のターゲットは、自分ということになる。
デミタスが拒む理由は、どこにもなかった。
(;´・_ゝ・`)
(;´・_ゝ・`) 「……じゃあ、やっぱり」
.
493
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:50:11 ID:BblhGUlY0
壁とペニーには、ひと段落つき次第、捜査本部に戻るよう指示した。
できる限り早急な帰還が望まれたが、幸い、ふたりとも長引きはしなさそうだった。
戻る際、ワカッテマスにも連絡を入れた。
公園手前まで迫っていたようで、捜査本部に戻ったのは同刻だった。
デミタスと出会った事件、密室鉄道にはワカッテマスもいた。
もっとも、雑談などしていられる空気ではなかったが。
(´・ω・`) 「害者宅は、どうだった」
( <●><●>) 「鑑識を手配しています」
( <●><●>) 「情報は逐一私に送るよう言ってありますので」
(´・ω・`) 「……なにか、上がりそうか?」
( <●><●>) 「直観で言えば、望み薄かと」
ミセリは、犯人と会うつもりで家を出た。
それも、包丁と、決死の覚悟で。
そんな女性が、部屋にあからさまな痕跡を残すとは思えなかった。
書置きの類があったなら、ワカッテマスが押し掛けた時点で押収している。
.
494
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:52:22 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「となると、だ」
びっしり書き込まれたホワイトボードを、目で辿る。
貼ってあった写真の類は、スペースを広げるためにひっぺがした。
そんななか、一番情報が少ないのは、右端、流石兄者の項目。
(´・ω・`) 「流石兄者、サークル部長」
(´・ω・`) 「奴こそが、事件の鍵となる」
( <●><●>) 「そして、現状容疑者筆頭、と」
(;´・_ゝ・`) 「…」
現在わかっている情報は、少なかった。
ヴィップ大学文学部。
家族構成は両親と弟のみ。
留年することもなく四年で卒業し、就職先は不明。
大学では、就職についてアンケートをとっているようだが、
回答に強制力はなく、流石兄者も回答を控えていた学生のひとりだった。
警察のデータバンクに照会しても、ヒットしなかった。
デミタスが異例だっただけで、だいたいの人間はヒットすることがない。
.
495
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:54:09 ID:BblhGUlY0
ペニーが、実家にアプローチしている手筈だが、
家族も、いま兄者がどこに住んでいるかはわからないらしい。
隠そうとしているわけではなく、ただ単に話す機会がなかっただけとのこと。
電話番号は把握しており、それは既に僕のもとまで上がってきている。
取り込み中なのか、電話は今のところ、繋がっていない。
(´・ω・`) 「是が非でも、奴は確保する」
(´・ω・`) 「犯人ならもとより、犯人でなかったとしても、だ」
( <●><●>) 「保護を拒否した場合は」
(´・ω・`) 「サークルメンバーのうち、四人が殺されてるんだ」
(´・ω・`) 「拒むッてことは、もう確実に犯人だ」
(´・ω・`) 「その場で、犯行を立証してやるだけさ」
.
496
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:54:39 ID:BblhGUlY0
(;´・_ゝ・`) 「でも、あの人が犯人なら、どうして……」
(´・ω・`) 「そこを検討したくて、あんたをここまで呼んだ」
(´・ω・`) 「あのな、一般人は入れない場所なんだぜ、ここ」
(;´・_ゝ・`) 「……ども。」
犯行を立証するにあたって、どうしてもネックとなるのが、動機だった。
どうして、十年経った今になっての犯行なのか。
そこを立証できなければ、逮捕は不可能だ。
現状、犯人をぴたりと立証する決定的な証拠がない。
状況証拠すべてが兄者を指し示したところで、焼け石に水なのだ。
( <●><●>) 「心当たりは、ないのでしょうか」
(;´・_ゝ・`) 「……心当たり、ッて」
( <●><●>) 「たとえば、そうですね……」
.
497
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:55:00 ID:BblhGUlY0
具体例を示そうとしたところで、ワカッテマスが口ごもった。
十年前に所属していたサークルでの、連続殺人。
動機がまるで予想できないことに、ワカッテマスは気づかされた。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「警部は、どうお考えですか」
(´・ω・`) 「僕に振るなよ」
(´・_ゝ・`) 「少なくとも、僕は同窓会とか聞いてないよ」
'_
(´・ω・`) 、
同窓会、か。
興味深い着眼点だ。
(´・_ゝ・`) 「ッてより、十年前から、連絡なんてなかったんだ」
(´・_ゝ・`) 「当時はスマホもなかったしね。 連絡手段は、メールか電話だよ」
(´・_ゝ・`) 「どっちも、変わったり忘れたりするもんさ」
.
498
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:55:32 ID:BblhGUlY0
近年は、スマホアプリの進化で、手軽に連絡が取れるようになっている。
それも、通信費以外料金がかからないシステムで、だ。
アプリの利点は、携帯会社を変えても残るところだ。
メールアドレスは会社を変えるとドメインが変わるし、
電話番号も、手軽とはいえ手続きを踏まなければならない。
電話番号のない格安スマホやSIMの普及で、
電話番号そのものを手放すユーザーも少なくはない。
となるといよいよ、連絡が取りづらい点がキーとなる。
(´・ω・`) 「でも、犯人は、把握していた」
( <●><●>) 「ヒッキー小森、ならびに芹澤ミセリへの電話がいい例です」
(´・_ゝ・`) 「え…?」
デミタスがきょとんとする。
まだ奴は知らない情報なのだ。
情報の整理がてら、デミタスにも教えることにする。
電話番号から発信着信の関係に至るまで、
すべて、ホワイトボードに書かせておいた。
.
499
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:55:58 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「あんたは、050番号ッて知ってるかい?」
(´・_ゝ・`) 「ああ。 IP電話ですね」
(´・ω・`) 「知ってるのか」
(´^_ゝ^`) 「まあ……使ったことはないですが」
焦点となるのは、050の、身元不明の番号だ。
サービス提供会社、ならびに端末の会社に問い合わせたが、
やはり名義貸しが噛んでいたらしく、特定は不可能らしい。
名義主は多額の借金を持っていて、名義を売ったとのこと。
売り先から暴こうかと思ったが、暴力団が関わってくるらしく、
捜査四課にも協力を要請しているが、ガサ入れの取っ掛かりが掴めないようだ。
( <●><●>) 「四月三十日、この番号をヒッキー小森が受けています」
( <●><●>) 「また一昨日、五月四日、同じ番号を芹澤ミセリが応対」
(´・ω・`) 「僕も隣にいたね」
.
500
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:56:25 ID:BblhGUlY0
(´・_ゝ・`) 「その電話で、殺人予告を…?」
(´・ω・`) 「ああ、そうさ」
自首しようと思う、その前に話をしたい。
犯人の要求は、この一点だ。
実際に自首するつもりで、なにか大切な話をしたかったのだろうか。
その過程で、事態が急変して殺さざるを得なくなったのだろうか。
最初から殺人を計画していたものを睨んでいるものの、
ミセリが包丁を持っていってしまったのが面倒だった。
そこから、正当防衛という名の反撃材料を与えてしまうことになる。
(´・_ゝ・`) 「だったら、声でわかるはず、ですよ」
(´・_ゝ・`) 「いくら十年経ったとはいえ、同じサークルの人なんだから」
( <●><●>) 「そこなんですよ」
(´・_ゝ・`) 「はい?」
.
501
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:56:45 ID:BblhGUlY0
ワカッテマスが、デミタスにもわかりやすく教えるように、ホワイトボードを指さす。
奴は我々が持つ最後の武器だ、ありったけの情報は共有しておきたい。
( <●><●>) 「ボイスチェンジャー、とでも言いましょうか」
( <●><●>) 「犯人は、機械で、声を変えていたんです」
(´・_ゝ・`) 「声を…?」
( <●><●>) 「なので、男か女か、すらわからないと」
(´・_ゝ・`) 「え?」
( <●><●>) 「何か」
(;´・_ゝ・`) 「えっと……ちょっと、整理していいですか」
( <●><●>) 「はい、ゆっくりと」
デミタスは、ホワイトボードの人物名を舐めるように見渡す。
殺された順に、擬古、小森、三階堂、芹澤。
残るは、盛岡、流石。
(;´・_ゝ・`) 「……ごまかすまでもなく、男しかいないよね」
(;´・_ゝ・`) 「なんで、男女をごまかすような声が?」
.
502
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:57:09 ID:BblhGUlY0
( <●><●>) 「……ム」
(´・ω・`) 「男女がわからない、ッてのはあくまで表現だ」
(´・ω・`) 「ポイントは、声の主がわからない、ッてところでね」
(;´・_ゝ・`) 「でも、兄者氏の話し方、すごいわかりやすいよ」
(;´・_ゝ・`) 「残ってるのも、僕と兄者だけ……なんだろう?」
( <●><●>) 「……」
言われてみると、確かに気になるところではあった。
このご時世、わざわざ変声機を使う必要があったのだろうか。
隣に僕がいたなんてことは、犯人は知りようがない。
自首する、話がしたい、という言い分を信じるなら、
ミセリには声がばれても不利益は被らないはずである。
(;´・_ゝ・`) 「声をごまかしたところで、兄者氏かどうかはわかるし」
(;´・_ゝ・`) 「自首する、とか言ってる人が声を変えたりするかなあ?」
.
503
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:57:35 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「……」
急所を突く指摘だとは、思わなかった。
ただ、デミタスだからこその気づきであるには違いない。
どうして、声を変えたのか。
考えられるとするなら、兄者が口調を変えて、
デミタスと兄者の区別がつかないようにした、などだろうか。
(;´・_ゝ・`) 「しかも、これから会おうとしてるんだよ?」
(;´・_ゝ・`) 「なのに、名乗らない、声もわからない、ッてのは」
( <●><●>) 「外部犯の可能性、というものを示すことができます」
(´・_ゝ・`) 「外部犯?」
ワカッテマスが、横やりを入れる。
なるほど、情報を検討するのにデミタスを呼んだのは正解だったようだ。
.
504
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:58:41 ID:BblhGUlY0
( <●><●>) 「現状では、サークル内部の犯行である線が濃厚ですが」
( <●><●>) 「外部犯の介入の可能性が認められた時、」
( <●><●>) 「はじめて変声機の存在に意味が出てきます」
(´・_ゝ・`) 「外部犯の可能性って?」
(´・ω・`) 「それも検討したいから、あんたを招いたんだ」
(´・_ゝ・`) 「検討……たとえば?」
(´・ω・`) 「サークル外の誰かに恨みを買ったりさ」
(´・_ゝ・`) 「恨み……さすがに、ないかなァ」
ただの、アウトドアサークルだ。
そう簡単に、十年の歳月を経て蘇る怨恨などあるとは思えない。
しかし、凶悪犯罪者の動機は、
得てして被害者側にはその罪意識がないものだったりする。
人は、思わぬところで恨みを買うものなのだ。
.
505
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:59:13 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「それも、併せて検討したい」
(´・ω・`) 「まず、成り立ちから聞かせてもらおうかな」
(´・_ゝ・`) 「成り立ち、か」
デミタスとの話は、中途半端にしかできていなかった。
今、犯人はアクションを起こしていない。
落ち着いて話を聞ける、最後のチャンスかもしれない。
(´・_ゝ・`) 「まあ……」
(´・_ゝ・`) 「発端は、兄者氏だ」
( <●><●>) 「それは、何年生の時で」
(´・_ゝ・`) 「僕らが入学する前くらいだね」
( <●><●>) 「となると、部長が三年になるくらいのタイミングか」
ワカッテマスが、ホワイトボードに書き加えていく。
.
506
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:59:37 ID:BblhGUlY0
( <●><●>) 「キッカケは、聞いていますか?」
(´・_ゝ・`) 「ほら、三年にもなったら、暇になるからね」
(´^_ゝ^`) 「暇つぶしが欲しい、どうせなら青春がしたい…ッて」
(´・_ゝ・`) 「それで、ヒッキー氏も誘ってサークルを創ったんだ」
( <●><●>) 「ヒッキー小森……アルプス学院大学」
( <●><●>) 「どうして、よその大学の人を誘ったんでしょうか」
(´・_ゝ・`) 「さあ?」
(´・_ゝ・`) 「ただ、兄者氏とは昔からの仲らしくてね」
(´・ω・`) 「距離的には、まあまあ離れてるぜ」
(´・ω・`) 「ヒッキーは、そんなに活動には参加しなかったの?」
(´・_ゝ・`) 「まさか。 むしろ皆勤賞だよ」
.
507
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 12:59:58 ID:BblhGUlY0
少々、疑問の余地はある。
しかし、だからどうした、といった疑問でもある。
(´・_ゝ・`) 「あくまで、活動内容はアウトドアだ」
(´・_ゝ・`) 「アルプスとかシベリアにも行ったし」
(´・_ゝ・`) 「距離は大した問題じゃなかったんだと思うよ」
( <●><●>) 「そう言われては、そうですが…」
(´・_ゝ・`) 「逆に、アウトドアじゃなかったら、ヒッキー氏も参加してなかったと思う」
(´・ω・`) 「なるほどね」
(´・ω・`) 「そのふたりが中心となって、結成されたワケだ」
まず、サークルのキッカケは、兄者とヒッキー。
兄者が三年になるにあたって、暇つぶしにサークルを創設する。
どうせなら、ということで青春を楽しむためにアウトドアを考案。
アウトドアのため、唯一離れた位置に住まうヒッキーもこれを承諾。
.
508
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:01:40 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「メンバーは、どんな感じで集まったんだい?」
(´・_ゝ・`) 「勧誘、だね。 順番までは知らないけど」
(´・_ゝ・`) 「セリっちも、クックルも、ギコも言った通り」
(´・ω・`) 「口達者な兄者に惹かれたンだね」
( <●><●>) 「あなたは?」
(´・_ゝ・`) 「僕かい?」
(´^_ゝ^`) 「……その、いろいろ共通の趣味があって、盛り上がって……」
( <●><●>) 「そうでしたね。 シツレイしました」
デミタスの趣味、ということで、ワカッテマスも合点がいった。
思い出したくないことを思い出した、といった具合だった。
.
509
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:02:03 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「それ以上メンバーが増えることはなかったの?」
(´・_ゝ・`) 「次の年は、ビラ撒きとかしなかったね」
(´・ω・`) 「どうして?」
(´・_ゝ・`) 「居心地が、よくなったんだ」
(´・_ゝ・`) 「どうせ、兄者氏の思い付きでできた、ちいさなサークルだ」
(´^_ゝ^`) 「現時点で十分楽しいし、別にいっか、ッて」
( <●><●>) 「勧誘は、初年度のみ、と」
( <●><●>) 「みんなは、仲良かったので?」
(´・_ゝ・`) 「勿論」
.
510
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:02:29 ID:BblhGUlY0
( <●><●>) 「なにか、個人間の諍いは」
(´・_ゝ・`) 「………」
( <●><●>) 「ありますか?」
デミタスは、即答しない。
諍いは事件解決の糸口となり得る可能性がある。
なるたけ、慎重に伺いたいところだ。
(´・_ゝ・`) 「………」
(´^_ゝ^`) 「細かないざこざは、そりゃあ、しょっちゅうだよ」
( <●><●>) 「たとえば」
(´・_ゝ・`) 「うちのサークルさ、オタクとそうでない人が分かれてたんだ」
( <●><●>) 「芹澤ミセリなんかがそうですね」
.
511
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:03:01 ID:BblhGUlY0
(´・_ゝ・`) 「ギコ、クックルもオタク趣味はなかった」
(´・_ゝ・`) 「で、僕やヒッキー氏、兄者氏とは、文化が違うんだ」
文化ときたか。
(´・_ゝ・`) 「酒にしてもそう、バーベキューにしても、そう」
(´・_ゝ・`) 「細かいところで噛み合わないことは、多かった」
( <●><●>) 「殺意に繋がるほどの大きな怨恨は?」
(´・_ゝ・`) 「……ないと思うよ?」
'_
(´・ω・`) 、
( <●><●>) 「なにも、殺意に繋がる必要はない」
( <●><●>) 「男女のもつれ、借金、就職絡み」
( <●><●>) 「そういったところで残った種が、花開いた可能性もあります」
.
512
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:04:16 ID:BblhGUlY0
(´・_ゝ・`) 「少なくとも、就職はないな」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏が、就職に無頓着だったんだ」
(´・_ゝ・`) 「だいたい、僕らが就活する前にサークルは終わったんだ」
( <●><●>) 「終わった、ですか」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏が卒業したから、だよ」
詮索されたくないのか、デミタスが先手を取った。
( <●><●>) 「卒業するのは、兄者とヒッキーだけ」
( <●><●>) 「他の四人で集まって遊んだりしなかったので?」
(´・_ゝ・`) 「なかったと思うよ」
( <●><●>) 「それはどうして?」
(´^_ゝ^`) 「………僕が、誘われてないからね」
( <●><●>) 「それは……失礼」
(´・ω・`) 「………。」
.
513
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:04:40 ID:BblhGUlY0
やはり、おかしい。
デミタスは、何かを偽っている。
すごくわかりやすい態度だ。
しかし、わかりやすいだけに、妙だ。
昼頃の会話でも、奴は犯人の心当たりに関して、一切偽りは見せなかった。
先ほどからも、節々で妙な態度を見せている。
何かを隠しているのは、疑いようがない。
ない、が。
隠すとしたら、なんだ。
自分も容疑者になり得る局面で、
わざわざ犯人の心当たりをごまかしたりしないだろう。
デミタスほどの小心者なら、尚更だ。
自分が疑われてでも隠し通したいものでは、ない。
ロジックを整理すると、こうなる。
「隠し通したいことではあるが、それは犯人候補とは関わらない」 。
.
514
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:06:17 ID:BblhGUlY0
( <●><●>) 「なら、男女のもつれは」
( <●><●>) 「男性ばかりのサークルに、女性がひとり」
( <●><●>) 「三角関係など、考えられないことではありません」
(´・_ゝ・`) 「あー、オタサーの姫だしね」
( <●><●>) 「姫、ですか」
(´^_ゝ^`) 「どちらかと言えば、女王かな?」
( <●><●>) 「はあ」
ワカッテマスが呆れ返っている。
奴は、まだデミタスの偽りに気づいていないのだろうか。
(´・_ゝ・`) 「……マ。」
(´・_ゝ・`) 「じつは、僕はそこまで詳しくないんだ」
.
515
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:06:37 ID:BblhGUlY0
( <●><●>) 「詳しくない、ですか」
(´^_ゝ^`) 「クックルとセリっちの結婚も、知らなかったし」
(´・_ゝ・`) 「ただ、泥沼はあったかもしれないね」
( <●><●>) 「クックル、ミセリに加わる、三角関係ということで」
(´・_ゝ・`) 「……あったかも、だ」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏は、たぶんなんでも知ってると思うけど」
( <●><●>) 「……なるほど」
なんでも知っている。
裏を返せば、我々の知らない動機を持っている可能性もある。
いよいよ、兄者を確保する必要が生まれてきた。
目下ペニーが兄者の後ろを追いかけているところだ。
執念はショボーン班でも随一だ、必死に食らいついているとは思う。
.
516
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:06:58 ID:BblhGUlY0
( <●><●>) 「ずばり、犯人に心当たりは」
(´・_ゝ・`) 「ないよ」
既に、僕もかけた質問。
デミタスは、迷いなく即答した。
( <●><●>) 「警察では、流石兄者の犯行だと睨んでいますが」
(´・_ゝ・`) 「僕も、ずっと、考えてたんだ」
(´・_ゝ・`) 「何か、あの人に僕らを皆殺しにする動機があったか、ッて」
( <●><●>) 「…結果は」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏では、ないと思う」
( <●><●>) 「根拠は」
(´・_ゝ・`) 「人望、人柄、なにより今更になって僕らを殺そうとする理由がないこと」
( <●><●>) 「かつては、あったのですか?」
(´・_ゝ・`) 「元々なかったんだ、十年経った今殺す理由なんてましてない」
.
517
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:08:12 ID:BblhGUlY0
ワカッテマスが押し黙った。
デミタスの眼は、嘘を吐いているように見えない。
現状わかっていることで消去法的に犯人を割り出すと、必然的に兄者となる。
しかし、それがあまりにも不自然だ、と当事者が証言する。
やはり、どこかに偽りが眠っている。
'_
(´・ω・`) 、
(´・ω・`) 「僕だ」
待ち望んでいた着信が、ついに来た。
ペニサス伊藤から。
一瞬、心臓がドクンと跳ねた。
「やりましたよ」
(´・ω・`) 「!」
思わず顔がほころぶ。
ペニーの声には、明らかに闘志が宿っていた。
.
518
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:09:45 ID:BblhGUlY0
「流石兄者」
「ただいま、一緒に捜査本部まで向かってます」
(´・ω・`) 「よくやった」
(´・ω・`) 「いまは……パトカーかい?」
「一緒にいますよ」
「任意同行です」
(´・ω・`) 「よし」
(´・ω・`) 「どこにいたんだ」
「病院ですね」
「アルプス神経病院です」
(´・ω・`) 「病院?」
.
519
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:10:22 ID:BblhGUlY0
思わぬ施設が告げられた。
兄者は、別に医療関係の人間ではないはずだ。
見舞いにでも行っていたのだろうか。
それにしても、ヴィップではなくアルプス、それも神経病院か。
「その点に関しては、聞き出せなかったですね」
「プライベートだから、と」
(´・ω・`) 「まあ、吐かせるのは後でいい」
(´・ω・`) 「どれくらいかかりそうだい?」
「一時間は見積もっていただきたいですね」
(´・ω・`) 「……一時間か」
時計を見やる。
十五時二二分。
アルプスからだと、車でもそれくらいはかかるか。
短いようで、長い時間だ。
.
520
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:11:58 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「奴の様子は」
「複雑そうな面持ちではありましたが……」
「別段、反抗には出ていません」
(´・ω・`) 「なんて言って同行を求めた?」
「連続予告殺人の重要参考人、と言えば、しぶしぶ」
「いまは、窓の外を眺めて、ぼーっとしてます」
(´・ω・`) 「ふむ…」
「今、そちらには誰が?」
(´・ω・`) 「僕とワカッテマスに、盛岡デミタスだ」
(´・ω・`) 「ぎょろ目は、公園殺人の初動捜査を担当している」
「初動捜査に進展は」
(´・ω・`) 「ないね、今ンところは」
.
521
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:14:31 ID:BblhGUlY0
奴が指揮を執って現状進展なし。
言い換えれば、めぼしい証拠がない、ということで、
それはすなわち、ミセリが持参した包丁も見つかっていない、ということだ。
犯人が、持ち去ったのだろうか。
あるいは、滝壺の底に沈み、泥に隠れたかもしれない。
包丁の出所から、新しい情報が生まれるかもしれないが。
少なくとも、犯行現場である滝口でミセリが落としたわけではなさそうだ。
(´・ω・`) 「詳しいことは、あんたが戻ってからにするよ」
「頭が痛くなるくらいの冷たいコーヒー、お願いします」
(;´・ω・`) 「買ってこい!以上!」
ペニーは、けらけら笑っているだろう。
ショボーン班のなかでも、ひときわ感情に左右されやすい刑事だ。
犯人を確保したり、容疑者を吐かせた時は、上機嫌に高笑いする。
それが、心強くもあった。
.
522
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:15:29 ID:BblhGUlY0
( <●><●>) 「確保、ですか」
(´・_ゝ・`) 「!」
(´・ω・`) 「任意同行だ」
( <●><●>) 「応じたんですね」
(´・ω・`) 「……そこが、ちょっと引っかかった」
任意同行は、文字通り任意だ。
仮に兄者が犯人だとして、こちらに証拠が一切ない以上、
兄者には同行を拒否することができる。
証拠がないことは伝えてないだろうが、
それでも、兄者は、応じた。
犯人では、ないのだろうか。
(´・_ゝ・`) 「……」
( <●><●>) 「だいたい、到着はいつ頃に」
.
523
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:16:05 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「一時間前後、かなァ」
( <●><●>) 「まあまあですね」
(´・ω・`) 「アルプスの病院にいたところを、捕まえたみたいだ」
病院?
ワカッテマスも食いついた。
(´・ω・`) 「別に、彼がかかっていたワケじゃない」
(´・ω・`) 「見舞いか、はたまた仕事関連か」
( <●><●>) 「……ふム。」
兄者と病院を繋げるファクターは、見つかっていない。
もっとも、それもまとめてペニーに聞けばいい話だ。
兄者から、あるいはペニーから。
どんな証言が飛び出すかわからない以上、
現時点での検討に、あまり意味はないような気がしてきた。
.
524
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:17:05 ID:BblhGUlY0
(´・ω・`) 「……そうだな」
(´・ω・`) 「メシ、食うか」
( <●><●>) 「メシ、ですか」
'_
(´・_ゝ・`) 、
(´・ω・`) 「そういや食ってなくてね」
(´・ω・`) 「あんたは?」
( <●><●>) 「いえ」
高い身長に見合った肉体のワカッテマスだが、
捜査中は滅多なことでは食事を取ろうとしない。
時間を見つけて食うのもスキルのひとつだ、と説いたことはあるけど、
若いうちは多少無茶をしてでもその他のスキルを磨きます、と返された。
食事に限らず、あらゆる指摘が、若さを盾に反論されるのが常だ。
.
525
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:19:36 ID:BblhGUlY0
(´・_ゝ・`) 「あれですか、カツ丼ですか」
(´・ω・`) 「バカ言え、そんな胃がもたれるモン食えるか」
( <●><●>) 「今日はなにがご所望ですか」
(´・ω・`) 「適当にうどんとおにぎり買ってきてくれ」
(´・_ゝ・`) 「え、うどん?」
(´・ω・`) 「表出てすぐにコンビニあったろ」
(;´・_ゝ・`) 「………ああ。」
長財布から、札をワカッテマスに握らせる。
生意気で、僕に反抗することも多い部下だけど、
こと使いッ走りに関してはすんなりと応じてくれる男だった。
(´・ω・`)y 「あとコイツも」
( <●><●>) 「わかりました」
煙草を吸う仕草を見せながら言った。
ワカッテマスは煙草を吸わない。
銘柄について詳しくはないと思うものの、僕のそれについては把握していた。
.
526
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:23:07 ID:BblhGUlY0
( <●><●>) 「せっかくなので、あなたの分も」
(´・_ゝ・`) 「いや、いいですよ。 一緒に行きます」
( <●><●>) 「わかりました」
デミタスも、ワカッテマスと一緒に部屋を出ていった。
足音も聞こえなくなると、いよいよ空調以外なにも聞こえてこなくなった。
(´・ω・`) 「……」
となるといよいよクチが寂しくなってくる。
のっそりと、通い慣れた喫煙室に向かう。
おそらく、野菜の多いうどんと、おかか握り辺りを買ってくるだろう。
僕の愛飲する甘い缶コーヒーと、奴のことだから新聞も買ってくる。
報道というものは、半日経つだけで内容がガラリと変わる。
いま、世間が連続予告殺人というものをどう取り扱っているのかが気がかりだ。
.
527
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:24:53 ID:BblhGUlY0
このたびの芹澤ミセリ殺人事件に関してもそうだ。
もとより公に予告された殺人ではない。
更に言えば、ミセリが連続予告殺人とリンクしていることも公表していない。
ショボーン班に詳しい記者なんかが担当してしまえば、
ぎょろ目が陣頭指揮を執っているのを見て、憶測を広げるかもしれないけど。
たとえば、そう、朝曰新聞のあの男だ。
ここ数年関係はないが、なるたけ関わりを持ちたくない男だ。
( ´・ω・)y-~~ 「……」
紫煙を浮かべながら、不思議なものだと思った。
既に忘れてしまっていたはずの事件の関係者と、
まったく別の事件で出会うことになってしまった。
盛岡デミタスがその最たる例だし、
捜査協力ということで、既にオオカミ鉄道の総裁とも協力体制にある。
燻ぶっている火種を見つめ、そういやあの男も愛煙家だったなァ、と思い起こされた。
全国を揺るがす大きな事件だ。
朝曰新聞社のエース、メガネのあの男も把握はしているだろう。
なんだったら、我こそが、と名乗りを上げ担当になっているかもしれない。
.
528
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:25:16 ID:BblhGUlY0
オオカミ鉄道総裁とくだんのエース記者、
そして僕は数年前に、極寒の地キタコレでプライベートを共にした過去がある。
思えば、クックルの勤務地のひとつ、アスキーミュージアム。
あの美術館の館長とも、面識があった。
職柄、顔が広くなるのはおかしくないことだけど、
時たま、因縁というものを痛感する出来事があるのも事実だった。
( ´・ω・)y-~~
( ´‐ω‐)y-~~
機会があれば、酒でもひっかけに誘おうか。
凶悪な事件に呑まれている時ほど、人のぬくもりに触れたく思う時はない。
.
529
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 13:26:15 ID:BblhGUlY0
序幕
>>2-69
第一幕
>>82-211
第二幕
>>218-296
第三幕
>>304-388
第四幕
>>398-468
第五幕
>>477-528
530
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 14:05:24 ID:AWmaVxJk0
ミセリ、だめだったか…乙
531
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 14:20:11 ID:nOfcqH0Q0
乙
外部犯となってくるともう風呂敷畳めそうに無いんですが…
532
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 14:53:44 ID:ZDF1.ONg0
( <_ )……
533
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 14:54:51 ID:KC0i1iMg0
>>532
だよなぁ
534
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 15:21:04 ID:.viglT.g0
まてまて予想はあかん
535
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 16:08:59 ID:xS5Lkceg0
乙、ほんと乙
536
:
名無しさん
:2018/09/25(火) 03:24:27 ID:/hTg0xqI0
流石兄弟が犯人だとは思えんぞ
謎の呪いの力によるオカルトパワーで被害者は勝手に死んだんじゃないか?
537
:
名無しさん
:2018/09/25(火) 08:43:56 ID:YAxBONrg0
パンドラの箱からインチキ叔父さん登場
538
:
名無しさん
:2018/09/25(火) 12:39:23 ID:HwZFKvo.0
フォックスは偉い人
そんなの常識
539
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 16:53:58 ID:RuNqH/eU0
┏━─
五月六日 午後十六時二三分 捜査本部
─━┛
'_
(´・ω・`) 、
('、`*川 「警部!」
じきに着く、という連絡をもらって、十分後。
白衣をなびかせながら、颯爽とペニーが部屋に入ってきた。
('ー`*川 「キンッキンのコーヒー、ありますか?」
(´・ω・`) 「ワカッテマスが買っといてくれてるぞ」
('、`*川 「おおッやるう!」
(´・_ゝ・`) 「…!」
( ;´_ゝ`) 「…!」
.
540
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 16:55:11 ID:RuNqH/eU0
参考人を放置し、いの一番にコーヒーに飛びついた。
喉がからからだったのだろう、喉を鳴らして飲み干すが、
空き缶を机のうえに叩きつけてから大声で 「ぬるい!」 と叫んだ。
(´・ω・`) 「一時間前は冷たかったんだがなァ」
('、`#川 「一時間前ェ!?」
(´・ω・`) 「それはそうと……」
( ;´_ゝ`)
(´・ω・`) 「彼が、その?」
落ち着きがない長身の男に歩みかけて、言った。
ペニーは、言葉を詰まらせながら頷いた。
('、`*川 「流石兄者」
('、`*川 「くだんのアウトドアサークルの創設者にしてリーダー」
('、`*川 「アルプス神経病院に来館していたところ、任意同行に応じてもらいました」
.
541
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 16:55:51 ID:RuNqH/eU0
そうか。
短く言って、咳払いをする。
彼は、重要な参考人なのだ。
(´・ω・`) 「はじめまして。 捜査一課のショボーンです」
( ;´_ゝ`) 「……流石兄者です」
(´・ω・`) 「そうカタくなさらんでも」
(´・ω・`) 「別に、逮捕でも取り調べでもないんだから」
( ´_ゝ`) 「………まあ。」
せわしなく、視線をデミタスに向ける。
およそ十年ぶりの再会なのだ、気になるのも仕方ないだろう。
デミタスも、様子を伺ったのち、歩み寄ってきた。
(´・_ゝ・`) 「……久しぶりです」
( ´_ゝ`) 「マジでな」
.
542
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 16:56:22 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「まあまあ」
(´・ω・`) 「立ち話もなんだし、適当なとこに座って」
言うと、しぶしぶ二人は腰を下ろした。
舞台が県警でなければ、
二人は当時の仲を想起させるようなやり取りを見せていたのだろうか。
デミタスは既にこの空気に慣れているけど、
連れてこられたばかりの兄者はまだそわそわしていた。
適当な部屋を押さえたりしてもよかったのだけど、
一番情報が集約されているのが捜査本部だ。
動くのが億劫で、時間が惜しまれる局面、わがままは言わせない。
(´・ω・`) 「エット」
(´・ω・`) 「確認だけど、十年前のアウトドアサークル……」
(´・ω・`) 「そのふたり、で間違いないんだよね」
.
543
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 16:56:50 ID:RuNqH/eU0
(´・_ゝ・`) 「そうですね」
(´・_ゝ・`) 「この人は、間違いなく、流石兄者です」
( ´_ゝ`) 「別に言わんでも。 身分証明くらいできるわ」
(´・_ゝ・`) 「あ。 やっと免許取ったんですか!?」
( ´_ゝ`) 「バカにしやがって」
( ´_ゝ`) 「マイナンバーよ」
(;´・_ゝ・`) 「取ってねえのかよ!」
( ´_ゝ`) 「ガッハッハッハッハッ!」
(´・_ゝ・`) 「何わろとんねん」
(´・ω・`) 「……」
( <●><●>) 「どうやら、仲が良かったのは違いないみたいですね」
('、`*川 「疲れたし、ちょっと休憩いただきまーす」
('、`*川 「今日は豚骨の気分だな」
( <●><●>) 「きみの分の弁当も買ってるぞ」
('、`*川 「なッ……くそッ……」
.
544
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 16:57:19 ID:RuNqH/eU0
放っておくと、デミタスと兄者は延々と雑談のひとつ始めるだろう。
それはそれで悪いわけではないが、事が事だ。
これは常に手綱を握っておかないと、メンドウなことになりかねない。
(´・ω・`) 「兄者さん」
(´・ω・`) 「今回、どうしてここに呼ばれたか、ご存じ……ですよね」
( ´_ゝ`) 「ッ……」
笑っていたのも束の間、
一言そうかけるだけで、兄者は真剣な面持ちになった。
(´・ω・`) 「ただ、どこまで事を把握できているか、わからない」
(´・ω・`) 「おさらいも兼ねて、いま警察がわかっていることを共有します」
(´・ω・`) 「かいつまんで、だけどね」
( ´_ゝ`) 「……どうぞ」
.
545
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 16:59:45 ID:RuNqH/eU0
レーザーも、指示棒もいらない。
視線をホワイトボードにやれば、二人は勝手に目で追ってくれるだろう。
(´・ω・`) 「すべての発端は、四月二十五日の深夜」
(´・ω・`) 「地下鉄にて、ひとりの男が刺殺された」
(´・ω・`) 「フッサール擬古」
(´・ω・`) 「心当たりは?」
言うと、兄者もデミタスも、頷いた。
( ´_ゝ`) 「大学時代のサークルの、一員でした」
( ´_ゝ`) 「言って、大学以来しゃべることはなかったけど」
(´・_ゝ・`) 「同じく」
(´・ω・`) 「この件に関して、犯人は未だ逃亡中」
(´・ω・`) 「目下捜査中、といったところだ」
.
546
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:00:51 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「続けて、二件目」
(´・ω・`) 「四月三十日、あるビジホでひとりの男が殺された」
(´・ω・`) 「毒殺……に近しい形でね」
(´・ω・`) 「ヒッキー小森。 心当たりは」
( ´_ゝ`) 「あるに決まっている」
兄者は迷いなく答えた。
二人でサークルを立ち上げた、という話は嘘じゃないと見ていいだろう。
( ´_ゝ`) 「俺の、昔からのダチだ」
(´・ω・`) 「ちなみに、直近の交流は?」
( ´_ゝ`) 「ええと………」
'_
(´・ω・`) 、
.
547
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:01:40 ID:RuNqH/eU0
ずっと交流があった、とでも言うかと思ったが。
想像に反して、兄者は思考に耽りながら、ぽつぽつ、と言葉を紡いだ。
( ´_ゝ`) 「……そうだな」
( ´_ゝ`) 「少なくともここ数年は話してなかったけど……」
( ´_ゝ`) 「………ああ。 七年くらい前かな」
七年くらい前か。
大学を出た後も、別に絶縁したわけではない。
しかし、疎遠には違いなかった、といったところ。
(´・_ゝ・`) 「なんで七年前?」
( ´_ゝ`) 「コミケがあったんよ」
( ´_ゝ`) 「ほんとグーゼン再会してさ。 ほら、中の人事件の年の」
( ´_ゝ`) 「ピンクレンジャーのやつ」
(´・_ゝ・`) 「あれかwwwwあれかwwww」
( ´_ゝ`) 「紅一点ならぬウン紅一点wwww脱糞事件www」
(´・_ゝ・`) 「くさそう(確信)」
.
548
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:02:16 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「七年前。 それはわかった」
(´・ω・`) 「つまり、ここ最近はさっぱりだった、と」
( ´_ゝ`) 「そ、そうですね」
(;´・_ゝ・`) 「失礼」
ここはお前らのだべる場所じゃねえぞ。
ポケットに手を突っ込み、ぎろりと睨むと我に返った。
これは手間がかかりそうだ。
(´・ω・`) 「次。 これは有名だね」
(´・ω・`) 「ライブ殺人事件。 被害者は、三階堂クックルだ」
( ´_ゝ`) 「それで、俺も事件を知った」
( ´_ゝ`) 「……身震いしたね。 正直」
(´・ω・`) 「ちなみに、その頃あんたはどこで何を?」
.
549
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:02:36 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「どうもしませんよ」
( ´_ゝ`) 「ネットライターしてんだけど、ツイッター見ながら仕事してただけさ」
(´・_ゝ・`) 「え、ライターしてんの?」
( ´_ゝ`) 「そうそう。 どこかは言わないけど、普通にでかい攻略サイトのね」
兄者の職業に関しては、そこまで問題はないだろう。
ミセリの一件で、本件が大学サークルのこじれであることはわかっている。
それ以上に、ツイッターという点に引っかかった。
三十代と言えど最近の若者、トレンドはニュースじゃなくSNSで収集しているらしい。
(´・ω・`) 「なるほどね」
(´・ω・`) 「……で、今日」
(´・ω・`) 「クックルの嫁の芹澤ミセリが、殺された」
( ´_ゝ`) 「え」
.
550
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:03:04 ID:RuNqH/eU0
兄者が、とたん無表情になった。
刹那、全身をさぶイボが走ったようで、肩を一瞬震わせた。
(´・ω・`) 「知らなかった、ッてことでいいかい?」
( ;´_ゝ`) 「………マジ、で」
(´・_ゝ・`) 「間違いないッスよ」
(´・_ゝ・`) 「………滝公園、あるじゃん。 あそこだよ」
( ;´_ゝ`) 「え、マジ…?」
殺されてまだ日が経っていないということもあるだろうが、
何にせよ、まだ大々的には報じられていない、ということだろう。
それ以上に、ペニーはそのことを伏せて連れてきてくれたのか。
有難い話だ。
.
551
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:04:13 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「まず、クックルとミセリが籍を入れていた、ということ」
(´・ω・`) 「ご存じで?」
( ´_ゝ`) 「……そっか」
( ´_ゝ`) 「ケッコン、してたんだなァ……そっか……」
反応を見るに、予感こそあったものの、
入籍そのものは知らなかった、といったところか。
籍を入れた、としか言っていないのに、
短絡的に結婚と考えているのを見れば明らかだ。
(´・ω・`) 「事件は、起こったばかりだ」
(´・ω・`) 「目下捜査中だけど……同一犯の可能性は、非常に高い」
( ´_ゝ`) 「……連続殺人、ッてこと、ですよね」
(´・ω・`) 「ああ」
.
552
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:04:47 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「細かい情報はさて置くとして」
(´・ω・`) 「聞きたいことはたくさんある、今日お時間は大丈夫ですか」
( ´_ゝ`) 「入稿は済んでるし、大丈夫ですよ」
言質は取った。
デミタスと兄者、この二人は、事件解決まで僕の監視下に置く。
容疑者でもあり、次の被害者候補でもある。
どんな理由だろうと、もう二度と、ミセリのような犠牲を出すわけにはいかないのだ。
(´・ω・`) 「オッケー」
(´・ω・`) 「僕、堅苦しいのは嫌いだし、なんかつまみながらしゃべろうぜ」
( ´_ゝ`) 「はい……え、え?」
(´・ω・`) 「おい、なんかあったッけ」
.
553
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:05:10 ID:RuNqH/eU0
ワカッテマスに聞くと、首を傾げながら、コンビニ袋を漁った。
奴も僕の性格はよく理解している、
どうせこうなるだろうと予測がついていたようで、ある程度の菓子類も買ってくれていた。
(´・ω・`) 「なんか食おうぜ。 何から食う?」
( ´_ゝ`) 「は?」
(´・_ゝ・`) 「あーー、のり塩がいいです」
(´・ω・`) 「本当はビールが飲みたいけど、コーラでいいや」
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「は??」
.
554
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:05:57 ID:RuNqH/eU0
ぐびぐびと喉を鳴らして、兄者はウーロン茶を飲んだ。
緊張のためか、よほど喉が渇いていたようだ。
半ばヤケクソのようにも窺える。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「で、何から話せばいいッスか」
(´・ω・`) 「事件で、いま一番気がかりな点がある」
( ´_ゝ`) 「ほう」
(´・ω・`) 「ずばり、ヒッキー小森の案件だ」
( ´_ゝ`) 「…!」
ワカッテマスは、少し離れた位置から
僕らの様子を窺ってくれている。
情報の共有と併せて、僕が気づけなかった何かに気づいてもらいたいところだ。
.
555
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:06:39 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「ヒッキーは、毒殺に近しい形で殺された、と言った」
(´・ω・`) 「でも、厳密に言えば、アレルギーを利用したトリックなんだ」
( ´_ゝ`) 「アレルギー?」
ピーナッツオイルが致死量盛られていた、常備薬。
どのタイミングで盛ったかは、まだ見当がついていない。
あれから、近辺の店や駅のカメラのデータを確認させたが、
特段めぼしい情報は見つかっていなかった。
(´・ω・`) 「本件を内部犯の仕業と考えたのは、」
(´・ω・`) 「担当医や一部の人しか知り得ない情報で犯行に及ばれたからだ」
(´・ω・`) 「……ヒッキーのアレルギー。 知ってる?」
.
556
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:07:01 ID:RuNqH/eU0
アウトドア、ということは、当然バーベキューなんかも嗜む。
バーベキューに限った話ではない。
花見、月見、ビアガーデン、挙げればきりがないだろう。
となると、どこかしらでその情報を知り得る可能性がある。
ピーナッツ、というピンポイントなアレルギーだから知らない可能性もあり得るが。
少なくとも、酒の味を知ったばかりの学生なら、
肴にナッツ類を用意するのは至って自然で、そこから判明することもある。
( ´_ゝ`) 「……アレルギー?」
( ´_ゝ`) 「そんなの、あったっけ?」
(´・_ゝ・`) 「いや?」
(´・ω・`) 「食物アレルギーなんだ、」
(´・ω・`) 「ヒッキーが露骨に避けてた食べ物とか……思い出せない?」
十年ほど昔の話だ。
当時の光景を思い出すだけで結構な労力だろう。
急かして吐かせるつもりなど、毛頭なかった。
.
557
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:08:09 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「……」
(´・_ゝ・`) 「あーー。 トマト、無理でしたよね、あの人」
( ´_ゝ`) 「そういや」
( ´_ゝ`) 「イヤ。 でも、アレルギーじゃねえぞ」
( ´_ゝ`) 「ゴロッとした固形がだめで、パスタとか普通に食ってたし」
(´・_ゝ・`) 「ああ、アレルギー……だった」
(´・ω・`) 「アレルギー、となると、基本はエキスもだめだからね」
例外もあるが、話す必要はない。
要は、彼ら、内部の人間がアレルギーを知り得たかどうか、がキーなのだ。
( ´_ゝ`) 「好き嫌い……の話、じゃないんスよね?」
(´・ω・`) 「もちろん」
(´・ω・`) 「好き嫌いなら、過剰摂取して死ぬことはない」
.
558
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:08:39 ID:RuNqH/eU0
(´・_ゝ・`) 「あれですよ、甲殻類」
(´・_ゝ・`) 「ほら昔、サビキで釣る時、オキアミ無理とか言ってた」
( ´_ゝ`) 「いやあれは、単純に臭いがキライってだけだったろ」
(´・_ゝ・`) 「でも、甲殻類食ってるとこ、見たことあります?」
( ´_ゝ`) 「潮干狩りの時、アホほどアサリ食ってたぞ」
(´・ω・`) 「……」
しっかし、よく出るよく出る。
釣り、サビキ、潮干狩り。
動機やメンバーはどうであれ、なるほど確かに、アウトドアを満喫していたようだ。
( ´_ゝ`) 「てか」
( ´_ゝ`) 「そーゆーのッて、司法解剖…?」
( ´_ゝ`) 「とかで、特定できるもんじゃないんスか?」
.
559
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:09:26 ID:RuNqH/eU0
チッ。
ここでピーナッツの話が出てきたらよかったのだけど。
これはいよいよ、面倒なネックになりそうだ。
(´・ω・`) 「あれ」
(´・ω・`) 「ああ、ごめんごめん、言ってなかったっけ」
(´・ω・`) 「ピーナッツだ」
(´・ω・`) 「彼は、重度のピーナッツアレルギーだったらしい」
知らないのか、あるいは、とぼけているのか。
どちらにせよ、ホテル殺人を解き明かすうえで、ひとつの障壁となる。
サークルとホテル殺人を結ぶのに、この穴は埋めなければならないのだ。
でなければ、犯人がどうやってヒッキーを殺したのか、が争点となってしまう。
( ´_ゝ`) 「ピーナッツ?」
(´・_ゝ・`) 「知ってました?」
( ´_ゝ`) 「いや?」
.
560
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:09:53 ID:RuNqH/eU0
アレルギー、というものは、特に話題がなければ自ら話すことはない。
たとえば、ワカッテマスは軽度のそばアレルギーだ。
花粉症などと違い、食物アレルギーというのはそこまで知られるものではない。
(´・ω・`) 「え、なに」
(´・ω・`) 「あんたら、酒飲む時、ミックスナッツとかつままなかった?」
( ´_ゝ`) 「いやあ……どうだっけ」
(´・_ゝ・`) 「そんな、オッサンじゃないし」
こ、こいつ。
( ´_ゝ`) 「ツマミとなりゃあ、焼き鳥とか卵焼きだったし」
( ´_ゝ`) 「自分らで飲む時も、するめとかポテチだったなァ」
(´・ω・`) 「それは、ヒッキーが選んで?」
( ´_ゝ`) 「いや?」
( ´_ゝ`) 「その時買う人が、適当に買ってたもんですよ」
(´・ω・`) 「……ム。」
.
561
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:10:15 ID:RuNqH/eU0
(´・_ゝ・`) 「セリっちは、よくチョコ買ってたけど」
( ´_ゝ`) 「あーー。 クックルはチキン食わなかったな」
(´・_ゝ・`) 「思い出した! キタコレ行った時も、あいつだけニゲット食わなかった!」
( ´_ゝ`) 「あれだ、お前、するめだけ食わなかっただろ」
(´・_ゝ・`) 「するめが好きな野郎とは相容れない」
こ、こいつ。
(´・ω・`) 「なるほど、わかった」
(´・ω・`) 「あんたらは、ヒッキーのアレルギーについては知らなかった、と」
( ´_ゝ`) 「ピーナッツ……ピーナッツ、か……」
( ´_ゝ`) 「食ってた、と言われたらそんな気もするし……」
これ以上詮索すると、勘違いが起こり得る。
早いうちに切り上げることにしよう。
.
562
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:11:03 ID:RuNqH/eU0
仮に、ここでピーナッツを食べていた、と言われても、
アレルギーというのは、ある日を境に突然発症することもある。
先天的なアレルギーばかりが話にあがるが、後天的なものも十分あり得る話なのだ。
それよりも問題は、ここで周知の事実だった、という情報が得られなかったことだ。
逆に、ここで知らない、と言っておけば容疑の目から逃れかねない。
もっとも、デミタスも知っていればその回避も防ぐことができたのだけど。
(´・ω・`) 「次」
(´・ω・`) 「この番号、見たことある?」
(´・ω・`) 「こう、着信がきたり、さ」
視線を遣って、例の050番号を見せる。
この番号が犯人だ、ということは書いていない。
犯人の番号だ、と明示しないのも、ちょっとした話術だ。
( ´_ゝ`) 「…?」
( ´_ゝ`) 「いや、ないね」
.
563
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:11:32 ID:RuNqH/eU0
一瞬、ピンときた。
取っ掛かり、と言えるほどでもないが、突起はあった。
(´・ω・`) 「ん? 確認しなくていいの? 履歴」
(´・ω・`) 「番号なんて、いちいち記憶してられないっしょ」
( ´_ゝ`) 「いや……これ、IP電話でしょ」
( ´_ゝ`) 「俺、IP電話はチャッキョしてるから」
チッ。
いまいち空回りで、思わず舌打ちが出る。
デミタスもだが、さすがに機械に強そうな若者なだけあって、
050という並びを見ただけで、即座にIP電話とつなげることができている。
(´・ω・`) 「詳しいね」
( ´_ゝ`) 「前に、格安スマホの営業に引っかかってさ」
( ´_ゝ`) 「電話線じゃなくて、050番号にすれば月千円もかかりませんよ!とか聞いて」
(´・_ゝ・`) 「あーーあるある」
.
564
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:12:17 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「軽く調べたら、実は結構アブナい番号らしいじゃん」
( ´_ゝ`) 「もし、どこかで見てたとしても、覚えてないね」
ポイントは、兄者も050番号には通じている、という点だ。
裏を返せば、その特性を利用して犯行に利用することもできた、ということ。
兄者が犯人と決まってこそいないが、
こういったところからでも、疑うべきかどうか、ということが掴める。
( ´_ゝ`) 「その番号が、どうかしたんスか」
(´・ω・`) 「ああ。 犯人の番号なんだ」
( ;´_ゝ`) 「なッ……」
一瞬、兄者がよろめく。
意図を隠して番号を見せたため、犯人のものだ、と予測つかなかったのか。
あるいは、ただの演技、偽りか。
.
565
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:12:45 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「そっか、珍しい番号だから見覚えあるかな、ッて思ったんだけど」
( ´_ゝ`) 「いや……すんません」
(´・ω・`) 「いいよ、もう特定はしてるからね」
( ´_ゝ`) 「え?」
今のも、話術のひとつ。
かけた本人が誰か、なんてのは当然、わかってない。
ただ、名義を貸した人と、それで商売していた暴力団については特定している。
嘘はついていないぜ。
(´・ω・`) 「どしたの?」
( ´_ゝ`) 「いや……え、だったら犯人わかってるんじゃあ……」
クソ。
引っかからないか。
.
566
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:14:06 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「まあまあ。 そこらは捜査機密ッてやつさ」
(´・ω・`) 「そうだなあ。 次」
謎、という謎は多岐にわたる。
特に、触れてないところで言えば、ライブ殺人。
クックルを呼び出した方法や、カメラの死角を知っていたこと。
しかし、それらでうまく鎌をかける方法が思いつかない。
(´・ω・`) 「……そうだな」
(´・ω・`) 「根本的なところだ」
(´・ω・`) 「兄者さん」
( ´_ゝ`) 「はい」
.
567
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:15:19 ID:uwtrYaCY0
支援支援
568
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:30:43 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「知っての通り、本件は、」
(´・ω・`) 「十年前、ヴィップ大学にあったアウトドアサークルの面々が織り成す事件だ」
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「当時揉める、ならともかく」
(´・ω・`) 「十年経った今になって、大々的な連続殺人が起こっている」
、 、
(´・ω・`) 「その、動機……心当たりはありますか?」
核心だ。
兄者が犯人かどうかなんかより、重要。
というより、消去法以外、彼を指し示す根拠が一切ない。
犯人だったら、その時に追い詰めれば、いい。
目下優先して得るべき情報は、動機、因縁、過去の話だ。
.
569
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:31:09 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「………」
( ´_ゝ`) 「………」
(´・ω・`) 「……」
(´・_ゝ・`) 「……」
兄者が、黙る。
静かになり、デミタスも、菓子をつまむ手を、一旦止めた。
考え込んでいるのかもしれないが、
その割には、その仕草を見せようとしていない。
( ´_ゝ`) 「………」
(´・ω・`) 「……肯定も否定もない、ッてことは」
(´・ω・`) 「あるんですね?」
.
570
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:32:09 ID:RuNqH/eU0
「いや」 。
兄者は、その言葉にはすぐに反応を示した。
( ´_ゝ`) 「そりゃあ、いろんな揉め事は、ありましたよ」
( ´_ゝ`) 「でも……それと、十年後ッてのが、いまいちリンクしない」
(´・ω・`) 「まあ、それは」
それは、僕も気になっていた点だ。
十年、とは言うが、厳密には十年きっかりではない。
過去の清算、と言ってきっかり十年後に起こった犯行ではない。
犯人が、形に拘っているわけでないというのはわかっていることだ。
となると必要なのが、どうして今、
十年 「ほど」 昔の関係を、清算する必要があったのか。
その理由づけ、裏づけ、動機づけ。
.
571
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:42:14 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「この際、どうして今になって、ッてのは置いとこう」
(´・ω・`) 「サークルであった、でかい事件……何がある?」
( ´_ゝ`) 「……」
またも、沈黙。
含みがあるのかどうかが掴めないのが、もどかしいところだった。
( ´_ゝ`) 「……いや」
( ´_ゝ`) 「あんまし、人に言いたいことじゃ、ないんだけど……」
脅すか。
(´・ω・`) 「はい問題!」
( ´_ゝ`) 「は?」
(´・ω・`) 「ここ、どーこだ!」
( ´_ゝ`) 「え、どこッて…」
.
572
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:43:49 ID:RuNqH/eU0
無機質な捜査一課分室。
白い壁の一面、ホワイトボードには、事件の概要が書いてあって、
その手前、セミナーには、生々しい証拠物件の多数が並んでいる。
ふと窓の外を見やれば、パトカーが多く停まっている。
警官服姿の人も多数いるし、なんなら、目の前にはスーツを着込んだ刑事がいる。
( ´_ゝ`) 「………警察」
( ´_ゝ`) 「警察、ですね」
(´・ω・`) 「厳密に言えば、警察本部」
(´・ω・`) 「ポリがうじゃうじゃいる、本丸ど真ん中」
( ´_ゝ`) 「……あのーー」
( ´_ゝ`) 「どんなくッだらねえ話でも、しゃべらないと逮捕されるんです?」
察したか。
しかし、肝が据わっているように見える。
(´・ω・`) 「いや、しないよ?」
.
573
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:45:16 ID:RuNqH/eU0
嘘は吐けないんだ。
近年、警察による強引な取り調べが問題になっている。
自白の強要、証言のねつ造、と。
さすがに、そんな悪行に走るつもりはないけど。
何かを察して、あるいは何かに怯えて、
隠し事をしよう、という気さえなくしてくれれば、僕はそれでいいんだ。
( ´_ゝ`) 「まあ、別にいいですけどね?」
(´・ω・`) 「オッいいね〜〜!」
( ´_ゝ`) 「ただ、まァーーじで、くッだらねえもんスよ」
(´・ω・`) 「ほうほう、たとえば」
.
574
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:47:06 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「一番ヤバかったの、なんだろう?」
(´・_ゝ・`) 「………あーー」
(´・_ゝ・`) 「あれだ、オナラ事件」
( ´_ゝ`) 「あーーー確かに」
(´・ω・`)
これは本当に、くッだらねえ話しか出てこない可能性もあるな。
もしかすると、本当に、彼らは何も知らないのだろうか。
まさか、現職刑事、それも警部が目の前にいる状況で、
オナラ、え、いまオナラとか言ったか。
そんな品のない話をするつもりというのか。
あるいは、そんなレベルの話しかない、というのか。
勘弁してくれ。
.
575
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:47:47 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「………概要だけ、言ってくれ」
(´・_ゝ・`) 「あれですよ」
(´・_ゝ・`) 「キャンプしてた時、みんなコテージで寝たんだけどね」
(´・_ゝ・`) 「この人が屁ェ扱いて……」
( ´_ゝ`) 「うんうん」
うんうんじゃねえ。
( ´_ゝ`) 「ちょっとしたオチャメ心で、俺じゃない、ッて言ったんだ」
( ´_ゝ`) 「でも場所が悪かった。 近くにはセリっ……芹澤さんしかいなくて」
(´・_ゝ・`) 「で、その時セリっちは、おなか壊してたもんで」
タイミングが悪すぎる。
( ´_ゝ`) 「ンもうあの子、バチギレよ」
( ´_ゝ`) 「でも、俺も言ったからには後に引けなくて……つい……」
いや引けよ。
.
576
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:48:31 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「臭いの実況とかしてたら、あの子、半分泣きながら暴れて……」
(´・_ゝ・`) 「あの時、まじであの子、泥酔だったからなァ……」
なんてことをしてくれるんだ、こいつら。
僕だっていやだぞ、そんなの。
( ´_ゝ`) 「ほら、見てよ、これ」
( ´_ゝ`) 「あの子に突き飛ばされて、ベッドの角に脛ぶつけたんだけど」
( ´_ゝ`) 「まあ、凹んじゃってね。 痕がまだ残ってる」
確かに一大事すぎるが。
もしそれが原因で連続予告殺人になったとしたら、犯人はあんただぞ。
(´・_ゝ・`) 「あれよ、あの子、言ったら姫だったわけじゃん」
(´・_ゝ・`) 「みんな、あの子の家に謝りにいったりしてさァ」
小学生かよ。
.
577
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:49:29 ID:RuNqH/eU0
(;´・ω・`) 「……わかった、わかった」
(´・ω・`) 「で、紅一点の彼女にサークルを抜けられたら困る、と」
( ´_ゝ`) 「え、紅一点?」
(´・ω・`) 「ん?」
( ´_ゝ`) 「……いや、なんでもない」
( ´_ゝ`) 「そう。 姫だからね。 オタサーの姫さ」
( ´_ゝ`) 「それもオタクっ娘じゃなくて、マジな陽キャ美人だからね」
(´・_ゝ・`) 「セリっち、まじで可愛かったよね」
( ´_ゝ`) 「そうそう、今だから言うけど、最初女王に目覚めた時、実は勃ってたよ俺」
(´・_ゝ・`) 「ちょwwwww不謹慎だけどwwwwおいwwww」
( ´_ゝ`) 「だってwwwwww」
(´・_ゝ・`) 「自分は毎回勃ってた」
( ´_ゝ`) 「おwwwwまwwwwえwwwwwコラwwwww」
( ´_ゝ`) 「俺もだよ言わせんな恥ずかしい」
(´・_ゝ・`) 「wwwwwwwwwwwwww」
.
578
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:50:39 ID:RuNqH/eU0
二人が談笑に入った隙に、思わずワカッテマスに一瞥を与える。
同感だったようで、ワカッテマスもすぐ、隣まで寄ってきた。
( <●><●>) 「……いまのは、間違いないですね」
(´・ω・`) 「ああ。」
ついに見つけた、取っ掛かり。
現代の船から、過去の記憶をサルベージするための、きっかけ。
、 、、 、 、、 、 、
(´・ω・`) 「いたんだ。 もう一人。」
( <●><●>) 「それも……察するに、女性」
今までの、デミタス、ならびにミセリとの会話が、フラッシュバックする。
僕が常々引っかかっていた、
しかし取っ掛かりが見つけられないでいた、ひとつのテーマ。
、 、
人数だ。
.
579
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:51:09 ID:RuNqH/eU0
>
>( <●><●>) 「擬古、小森、三階堂、奥さん、流石、盛岡」
>
>( <●><●>) 「以上の六人、だったのですか?」
>
>ミセ*゚-゚)リ 「…」
>
>
>( <●><●>) 「サークル、となると」
>
>( <●><●>) 「OBだったり、新入生だったりが考えられますが」
>
>ミセ*゚-゚)リ 「…」
>
>ミセリは、煙草を根本まで吸いきった。
>
>ミセ*゚-゚)リ 「六人だけ、ですよ」
>
.
580
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:51:56 ID:RuNqH/eU0
>
>(´・ω・`) 「フッサール擬古、ヒッキー小森、クックル三階堂、芹澤ミセリ」
>
>(´・ω・`) 「あんたと、部長の流石兄者……で全員なんだね?」
>
>(´・_ゝ・`) 「…」
>
>
>(´・ω・`) 「…?」
>
>即答、しないのか。
>ちょっと、嫌な予感がした。
>
>
>(´・_ゝ・`) 「……」
>
>(´・_ゝ・`) 「そうだ、ね。 ウン」
>
>(´・_ゝ・`) 「その六人しかいないよ」
>
.
581
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:52:23 ID:RuNqH/eU0
( <●><●>) 「ミセリが人数に言及する時、わずかに、沈黙を見せた」
(´・ω・`) 「デミタスもだ」
(´・ω・`) 「どこか腑に落ちないような、遠回しな言い方だったね」
歯車のひとつが、噛み合いはじめる。
ギシギシと、醜い音を立てて、過去と現代が繋がろうとしている。
しかし、それだけでは、その歯車が成す全体像が窺えない。
ここからは、更に慎重に言葉を選ばなければならない。
(´・ω・`) 「そして、兄者も、それを隠そうとしてるんだ」
今の、紅一点、に対するレスポンス。
明らかに、否定の色を見せていた。
ここまで来ると、ミセリが、デミタスが、といった次元ではない。
サークルの関係者全員が、隠そうとしている事実がある、ということだ。
.
582
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:52:44 ID:RuNqH/eU0
それは、言葉を間違えて、閉口させてしまえば、聞き出すチャンスを失うことになる。
現状兄者に法的な容疑がかかっていない以上、
そして容疑があろうが黙秘権は行使できる以上、
至って自然な、しかし強引な形で、情報を引き出す必要があった。
咳払いすると、ワカッテマスは元いた位置に戻った。
下手に刑事が二人並んでいると、いらぬプレッシャーを与えてしまう。
(´・ω・`) 「兄者さん」
( ´_ゝ`) 「ハイなんでしょう、兄者です」
これが、素なのだろう。
飄々とした、掴みどころのない様子を見せた。
(´・ω・`) 「ここでクーイズ!」
( ´_ゝ`) 「いえーい!」
( ´_ゝ`) 「ッてなんですかいったい」
少し笑いながら、返す。
さっきとは全然違うリアクションだ。
.
583
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:53:08 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「ここ、どーこだ!」
( ´_ゝ`) 「Police Office」
(´・_ゝ・`) 「いい発音だ…」
(´・ω・`) 「じゃあ、次!」
(´・ω・`) 「僕、だーれだ!」
( ´_ゝ`) 「えっと……」
( ´_ゝ`) 「……ケイージ!」
(´・_ゝ・`) 「だめな発音だ…」
教えてやるよ。
正解はショボーン、またの名をイツワリ警部だ。
(´・ω・`) 「あんた、嘘を吐いてるな?」
.
584
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:53:58 ID:RuNqH/eU0
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第六幕 「 七人目 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
585
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:54:19 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「嘘って?」
緊張は払拭できたのだろう。
そして、僕の声色を受けて、これがまじめな話であることも察しただろう。
しかし、怯みはしない。
やはり、相当肝っ玉のある男に違いない。
(´・ω・`) 「おさらいも兼ねて、聞こう」
(´・ω・`) 「くだんの、サークル……」
、、 、、 、 、、
(´・ω・`) 「在籍したことのある人は、」
(´・ω・`) 「あんた二人、フッサール擬古、ヒッキー小森、クックル三階堂、芹澤ミセリ」
(´・ω・`) 「以上、六人で、間違いないね?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
捕まえたぞ。
.
586
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:54:45 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「そっちの彼は、知ってるだろうけど」
(´・ω・`) 「僕、これでも、関係者にはちょっとしたことで知られてるんだ」
( ´_ゝ`) 「なんの話?」
(´・ω・`) 「偽りを見抜くプロ……ッてことを、さ」
(´・_ゝ・`) 「…!」
デミタスが、はッとする。
この男は、かつての密室鉄道で、その姿を見ている。
(´・ω・`) 「これまでの話と照らし合わせると、ひとつ」
(´・ω・`) 「不思議な点がある」
( ´_ゝ`) 「不思議って?」
(´・ω・`) 「どうして、きみは紅一点という言葉に引っかかった?」
.
587
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:55:30 ID:RuNqH/eU0
兄者に限らず、事件にかかわる人間は、
何かを隠したり、偽ったりすることがある。
そしてそれらは得てして、事件を解く鍵となり得る。
重要なことほど、関係者諸兄にも深く根ざすファクターだからだ。
それを聞きだすのに、刑事によって、やり方はあるだろう。
巧みな話術で、鎌をかける。
あるいは泣き落とし、同情を誘って、吐かせる。
ペニーのように、相手を圧倒して吐かせる刑事もいる。
ワカッテマスのように、賢いやり口でポロッと言わせる刑事もいる。
だが、僕のやり方は、違う。
ロジックの綱渡り、正面切っての真っ向勝負だ。
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「この六人なら、百人中百人が、紅一点と認識する」
(´・ω・`) 「でも、たった一人だけ」
(´・ω・`) 「紅一点じゃない、と認識してしまった人がいるんだ」
.
588
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:55:53 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「話が、見えませんが」
(´・ω・`) 「あんただよ、流石兄者」
( ´_ゝ`) 「…、」
少しばつの悪そうな顔をする。
なかなか精神的にタフそうな男だ。
( ´_ゝ`) 「聞きなれない言葉だったんですよ」
( ´_ゝ`) 「コウイッテン……コウイッテン……」
( ´_ゝ`) 「ああ、そゆことね、ッて思って」
言うなれば、詰将棋。
コマの進め方を間違えなければ、最終的に相手は白状せざるを得なくなるのだ。
.
589
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:56:16 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「日常的に使わない言葉だったとしても、ねぇ」
(´・ω・`) 「数分前……僕は既に、コウイッテンという言葉を聞いたんだ」
( ´_ゝ`) 「え? セリっちの話?」
(´・ω・`) 「違うよ」
>
>( ´_ゝ`) 「コミケがあったんよ」
>
>( ´_ゝ`) 「ほんとグーゼン再会してさ。 ほら、中の人事件の年の」
>
>( ´_ゝ`) 「ピンクレンジャーのやつ」
>
>(´・_ゝ・`) 「あれかwwwwあれかwwww」
>
>( ´_ゝ`) 「紅一点ならぬウン紅一点wwww脱糞事件www」
>
(´・ω・`) 「ピンクレンジャー云々の時さ」
(´・ω・`) 「あんたは、自分のクチで、紅一点、と言ってんのさ」
.
590
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:57:22 ID:RuNqH/eU0
( ;´_ゝ`) 「!」
(´・ω・`) 「だというのに、一瞬認識に詰まった?」
(´・ω・`) 「それは、言葉が認識できなかったんじゃなくて、」
(´・ω・`) 「サークル六人の状況と合致していなかっ」
( ´_ゝ`) 「一瞬、聞き取れなかった」
( ´_ゝ`) 「それだけですよ」
当然、そう来るだろう。
王手をかけられた相手玉、前に進めば桂馬が噛んでいる。
囲いの裏を、縫うように逃げるしかない。
しかし、わかっているなら続けて王手を。
王手は追う手、壁に習った言葉だ。
( ´_ゝ`) 「だいたい、六人じゃなかったなんて話、あったんですか?」
(´・ω・`) 「それが、あったんだよ」
( ´_ゝ`) 「…ッ!」
.
591
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 17:58:55 ID:RuNqH/eU0
>
>(´・_ゝ・`) 「そうだ、ね。 ウン」
>
>(´・_ゝ・`) 「その六人しかいないよ」
>
>(´・ω・`) 「…」
>
>何か、隠しているのか。
>それとも、幽霊部員やすぐに辞めた人をカウントするか悩んだのか。
>
>
>(´・ω・`) 「幽霊部員とかも、勘定してほしい」
>
>(´・_ゝ・`) 「ヤ、そんなのはいなかったよ」
>
>(´・ω・`) 「じゃあ、六人でウソじゃないんだな?」
>
>(´^_ゝ^`) 「……………ウソじゃ、ないな」
>
.
592
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:01:49 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「彼が、既に証言してくれている」
、 、、、 、 、
(´・ω・`) 「六人で、ウソじゃない」
( ´_ゝ`) 「言ってるじゃないスか」
( ´_ゝ`) 「しっかり、六人だ…ッて」
(´・ω・`) 「六人でウソじゃない、ッて言い方はだね」
(´・ω・`) 「ある捉えようによっては、六人である」
、 、 、 、 、、
(´・ω・`) 「しかし、正確に言えば六人ではない」
(´・ω・`) 「つまり、いたんだよ」
(´・ω・`) 「七人目が、さ」
.
593
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:03:50 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「これでも、一応サークルですよ」
( ´_ゝ`) 「入ろうとした人、入ったもののすぐ抜けた人…」
( ´_ゝ`) 「そーゆー人は、確かにいましたよ」
無論、そう逃げる。
しかしそれに対する解答も、既に用意してくれていた。
幽霊部員やその類は、いないのだ。
(´・ω・`) 「違うね」
、 、、、 、、
(´・ω・`) 「そのウソじゃない部分に、非正規部員は勘定されてないんだ」
(;´・_ゝ・`) 「…」
( ´_ゝ`) 「…」
.
594
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:04:17 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「盛岡デミタスと、芹澤ミセリが証言した内容は、こうだ」
(´・ω・`) 「サークルの正規部員は、確かに六人だ」
(´・ω・`) 「しかし、正規の範疇に入らない、七人目は、いた」
、 、 、 、 、 、 、 、 、、 、 、
(´・ω・`) 「そしてそこに、非正規部員は勘定されない」
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
(´・ω・`) 「…?」
( ´_ゝ`) 「ッ」
静かな部屋に、ワカッテマスの声が響いた。
思わぬ方角からの横やりに、僕はもちろん、ふたりも反応を見せた。
僕の隣に寄り、鋭い視線を僕に向ける。
.
595
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:05:59 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「…なんだ?」
( <●><●>) 「矛盾していませんか」
(´・ω・`) 「何がだ」
( <●><●>) 「六人でウソじゃない、とは確かに証言されましたが」
( <●><●>) 「その言葉の意味するところは、非正規部員の存在」
( <●><●>) 「ただし一方で、非正規部員は勘定されてない」
( <●><●>) 「求められる七人目とは、正式に加入し、活動を共にした第三者です」
( <●><●>) 「そんな人物がいたら、最初から七人目として、カウントされています」
( <●><●>) 「しかし、デミタスもミセリも、六人のみを挙げている」
( <●><●>) 「無論、口裏合わせの線はありません」
(´・_ゝ・`) 「……ああ」
.
596
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:06:32 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「しかし、ふたりが」
(´・ω・`) 「そして部長サマまで隠そうとしているのも、立証できている」
(´・ω・`) 「それも、口裏合わせなしで、違う形で、だ」
六人でウソじゃない。
それはつまり、七人目のメンバーがいた可能性。
幽霊部員や退部の類ではない。
それはつまり、彼ら六人と行動を共にしてきたということ。
紅一点に示す態度。
それはつまり、芹澤ミセリ以外に女性メンバーがいた。
そして提示されている六人の既存メンバーに、
芹澤ミセリ以外の女性メンバーは認められていない。
(´・ω・`) 「当事者である部員たちが、言外で認めてるんだ」
(´・ω・`) 「七人目、それも、女性!」
.
597
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:07:15 ID:RuNqH/eU0
( <●><●>) 「だったら、それを隠す根拠がいる」
( <●><●>) 「デミタス、ミセリ、そして兄者の全員が、」
( <●><●>) 「口を揃えて隠す根拠です」
( ´_ゝ`) 「…」
(´・ω・`) 「ひとつ、面白い屋根を一枚、追加しよう」
( <●><●>) 「屋根…?」
(´・ω・`) 「本件において、外すに外せない、大きな謎がある」
( <●><●>) 「たくさんありますが」
(´・ω・`) 「根底は、動機だ」
( <●><●>) 「…」
.
598
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:08:43 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「ただの大学サークルに眠っている、十年越しの殺意」
(´・ω・`) 「それは、彼ら三人皆一様に、予想できないでいる」
(´・ω・`) 「……一方で、サークルには、七人目の女性がいた」
(´・ω・`) 「口裏合わせなしで、隠されてるんだ」
(´・ω・`) 「サークル全体で、ある種の箝口令というものが、あったんだろう」
(´・ω・`) 「それも、十年前に」
(;´・_ゝ・`) 「……兄者氏」
( ´_ゝ`) 「……」
(;´・_ゝ・`) 「……」
少しずつ見えてきた、迷宮に差し掛かる一筋の光。
希望の現れか、青天の霹靂か。
.
599
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:09:30 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「言っとくがな」
(´・ω・`) 「なんだい?」
( ´_ゝ`) 「俺らは、嘘なんてついていない」
( ´_ゝ`) 「その七人目とやらは、本当はいた?」
( ´_ゝ`) 「いたら、開口一番に言ってやるよ」
( ´_ゝ`) 「じゃねーと、俺が疑われちまうんだ」
(´・ω・`) 「…」
(;´・ω・`) 「…ッ!」
もう一つあった。
根底に眠る 「謎」 。
.
600
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:11:08 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「確かに、正確に六人だったのか、と問われると」
( ´_ゝ`) 「本当は、違うんだ」
( <●><●>) 「…! なら、」
( ´_ゝ`) 「言いたくないんだ」
( <●><●>) 「しかし!」
( ´_ゝ`) 「言いたくないし、なんなら、これだけは断言できる」
( ´_ゝ`) 「そいつは、この事件とは、一切、関係がない」
( ´_ゝ`) 「絶対に、関係はないんだ」
( <●><●>) 「それは我々が判断することです」
( ´_ゝ`) 「あり得ねえよ」
( ´_ゝ`) 「物理的に、関係することができない」
( <●><●>) 「それって…」
.
601
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:12:23 ID:RuNqH/eU0
七人目は確かにいて、部員は皆、彼女を隠していた。
たった今、兄者も、認めた。
しかし、解せない謎がまだ、あったではないか。
デミタスも、兄者も。
自分が疑われかねない状況下に置かれてもなお、
真犯人の存在を、推測できないでいる。
彼女がどんな人物であっても、
殺人という事件を前に、隠し通す、あるいは守り抜くなんてことが、できるのか。
( ´_ゝ`) 「おたくらが七人目とやらを見つけ出したとして、だ」
( ´_ゝ`) 「完ッ全に、空回りだぜ」
意図して、七人目をかばっているのではない。
ほんとうに、その七人目は、この事件に関わることができないんだ。
.
602
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:13:34 ID:RuNqH/eU0
たとえば、海外在住なんてどうだろうか。
物理的に、距離的に、という視点。
しかしそんなもの、無断で帰国して、殺害することができる。
たとえば、懲役十年以上の大罪を犯し、投獄中の線。
脱獄の話なんて僕は聞いてない以上、アリバイは成立するかもしれない。
しかし、刑期は縮まることもあるし、それらを彼らが知る由もない。
兄者の言葉を言い換えれば、七人目は完全なアリバイに守られていて。
更に、サークルが一丸となって避けたがる禁忌でもある。
となると、この線から辿ればいい。
刑事だから断言できる。
完全なアリバイなどというものは、滅多に存在しない。
しかし、それでもごく稀にあり得る、完全なアリバイ、となると。
(´・ω・`) 「ッ!」
.
603
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:14:23 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「…」
(´・_ゝ・`) 「…」
閃きかけた時。
けたたましい着信音が、室内に鳴り響いた。
(´・ω・`) 「……誰だ、こんな時に!」
半ば乱暴に、応答する。
大した情報があがってきたわけでないのなら、僕は即座に切る。
(´・ω・`) 「もしもし、ショボーンだ」
『はじめまして、ショボーン警部』
(´・ω・`) 「いま忙しいから、手短に言え」
誰だ。
そういえば番号は見ていなかったが。
.
604
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:15:12 ID:RuNqH/eU0
『捜査は順調ですか?』
苛立っている時に、神経を逆撫でしてくるような言葉づかい。
といったところで、僕はいよいよ、違和感に苛まれた。
この声は、なんだ?
(´・ω・`) 「…ッ」
待て。
こいつは、誰だ。
壁でもぎょろ目でも、所轄の誰かでもない。
そもそも、はじめまして、とか言ったか。
はじめましてだと。 誰だ。
『失礼しました』
『名刺を失敬しましたので、つい』
名刺だと。
僕の名刺は滅多なことでは出していないぞ。
.
605
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:15:59 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「待て」
(´・ω・`) 「あんたは、誰なんだ」
(´・ω・`) 「どうして僕の名刺を持っている」
すると、声の主は、くすくす笑った。
『持っていたのですよ』
『芹澤ミセリさんが』
(´・ω・`) 「 ッ! 」
(;´・ω・`) 「 な… 」
(;´・ω・`) 「おいッ!どういうことだ!」
(;´・ω・`) 「彼女のことを……何か知っているのか!」
.
606
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:16:29 ID:RuNqH/eU0
手に汗が滲んできた。
ここまで来たら、答えはひとつしかない。
しかし、それはここまでの積み重ねすべてをぶっ潰す答えとなる。
兄者、デミタスは、きょとんとした面持ちで僕を見つめている。
当然、電話なんてかけていない。
一言も言葉を発していない。
『当然ですよ』
『同じサークルのよしみですから』
大きく喉を詰まらせた。
考えに整理がつかず、混乱してしまっている。
(;´・ω・`) 「………」
(;´・ω・`) 「ひとつ、疑問なんだが」
『なんですか』
ちぎれそうな、細い声だ。
機械で声を変えているのはわかるが、女性的な言葉づかいだ。
.
607
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:18:25 ID:RuNqH/eU0
(;´・ω・`) 「僕は、確かに彼女に、名刺を渡した」
(;´・ω・`) 「でも、それは……一昨日の話」
(;´・ω・`) 「そして彼女は、今日、殺されたんだ」
『はい』
確定した。
ここに、いま、事件の犯人がいる。
(;´・ω・`) 「………そうか、わかった」
『それが、どうかしましたか』
(;´・ω・`) 「ひとつ、聞きたいことがある」
『なんですか』
(;´・ω・`) 「きみはいったい、誰だ?」
(;´・ω・`) 「そして、僕に電話をかけた理由は、なんだ?」
.
608
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:19:50 ID:RuNqH/eU0
『予告です』
(;´・ω・`) 「予告だと?」
ふざけているのか?
(;´・ω・`) 「僕は、警部だぞ?」
(;´・ω・`) 「傍受される可能性があるんだ、それをどうして、わざわざ…」
『大丈夫ですよ』
一切、動じない。
傍受や逆探知といったリスクは、捜査技術に疎くてもなんとなくで察せるはずだ。
しかし、一切の動揺が感じられない。
特定される、なにかしらの情報が抜かれるリスクを考慮していない。
(;´・ω・`) 「大丈夫? なにがだ?」
『誰にも、私を捕まえることは、できませんから』
(;´・ω・`) 「………なに?」
(;´・ω・`) 「どういうことだ」
.
609
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:21:01 ID:RuNqH/eU0
『どんな刑事でも、捕まえられない罪人』
『いると、思いますか?』
(;´・ω・`) 「………何の話だ」
『物のたとえですよ』
どんな刑事でも、捕まえられない罪人。
このなぞなぞの意味するところが、わからない。
(;´・ω・`) 「……いない、とは、言いきれない」
『へえ、たとえば』
考えを、整理しなければいけない。
そのためにも、話を長引かせる必要がある。
ワカッテマスは知らずのうちに僕の隣に待機し、
通話口から聞こえてくる微かな機械音に耳を澄ませている。
(;´・ω・`) 「たとえば、治外法権」
(;´・ω・`) 「罪人を罪人足らしめるのは、法だ」
(;´・ω・`) 「その法を潜り抜けられてしまえば、逮捕はできない」
.
610
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:21:23 ID:RuNqH/eU0
すると、女は笑った。
アハハ、と力ない笑い声だ。
『誰も、逮捕なんて言ってませんよ』
(;´・ω・`) 「なに?」
『捕まえられない、罪人です』
『物理的に、捕まえられない罪人、なんです』
(;´・ω・`) 「………そんな罪人が、いるのか?」
『そうですね……』
『……安心しました』
(;´・ω・`) 「何がだ?」
『すぐにわかるようなら、あるいは、と思いましたが』
『その様子なら、私を捕まえることは、できそうにないので』
(;´・ω・`) 「言いたいことは、はっきり、言ってくれ」
『簡単ですよ』
.
611
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:22:16 ID:RuNqH/eU0
『亡霊』
(;´・ω・`) 「!」
亡霊。
亡霊だと。
『亡霊を捕まえることは、できません』
『おわかりいただけましたか?』
(;´・ω・`) 「……亡霊」
(;´・ω・`) 「きみが、その、亡霊と言うのかい?」
『ええ』
切り裂きジャックだ。
.
612
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:23:05 ID:RuNqH/eU0
この僕に、堂々と宣戦布告を下す。
犯行を認め、更なる犯行を予告するときた。
切り裂きジャックだ。
亡霊と聞いて、真っ先に浮かんだのがそれだった。
百年以上も昔の、御伽噺だ。
某所で立て続けに猟奇的な殺人事件が発生した。
犯人は声明を送り、更に自らをジャックザリッパーと名乗った。
そして未だに、その連続殺人事件の犯人は、明らかになっていない。
地下鉄殺人、ホテル殺人、ライブ殺人、滝殺人を経て。
自らを亡霊と名乗る、本件の真犯人。
まさしく、切り裂きジャックが先駆けとなった劇場型殺人の、お手本とすら言える。
この上ない、屈辱だ。
(;´・ω・`) 「そうだな。 合点がいったよ」
(;´・ω・`) 「確かに、罪人が既に死んでいたら、捕まえることはできない」
『あなたがどんなに頑張っても、私を捕まえることは、できません』
.
613
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:23:26 ID:RuNqH/eU0
(;´・ω・`) 「だったら、犯行手口なんか聞いても、答えられるわけだ」
(;´・ω・`) 「捕まるわけがないから、ッてね」
『……まあ、そうですね』
(;´・ω・`) 「……フッサール擬古は、地下鉄で殺されたんだ」
(;´・ω・`) 「どうやって、殺した、というんだい?」
『どうやって、も何も』
『後ろから刺しただけですよ』
(;´・ω・`) 「乗客に見つからないように?」
『だから亡霊なんですよ』
『私は、見つかりませんからね』
(;´・ω・`) 「なッ………!」
.
614
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:23:48 ID:RuNqH/eU0
『いいでしょう。 全部白状しますよ』
『続いてのヒッキー小森は、ピーナッツオイルを使いました』
(;´・ω・`) 「どうして、そんな遠回りを?」
(;´・ω・`) 「素直に、刺し殺せばいいだけじゃないか」
『場所がホテルでしたからね』
『密室が成立してしまうと、後々めんどうになる』
(;´・ω・`) 「だったら、どうしてホテルで殺す必要がある?」
(;´・ω・`) 「そんなもの、自宅にいる時に…」
『私は、あくまでヴィップに移ろう亡霊』
『ヴィップにやってくるその時でなければ、殺せなかったの』
地縛霊、とでも名乗るつもりだろうか。
単なる設定としか思えないが、そもそもの根本が 「亡霊」 だ。
そこを突っ込もうとすら思えない。
.
615
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:24:23 ID:RuNqH/eU0
(;´・ω・`) 「……さしずめ、地縛霊だな」
『似たようなものかもしれませんね』
亡霊も、そこまで言及はしなかった。
(;´・ω・`) 「でも、ホテルに入る前に薬を飲まれたら…」
『ホテルに入ってから、薬を飲むのを待ったのですよ』
『幸い、部屋に入ってすぐに飲んだので、待つ手間が省けましたが』
(;´・ω・`) 「なんだと?」
(;´・ω・`) 「ホテルのカメラに、待ち伏せるような人なんて…」
『知っている?』
『亡霊は、人の眼にうつらないのよ』
.
616
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:24:53 ID:RuNqH/eU0
(;´・ω・`) 「 」
(;´・ω・`) 「なら……筆跡だ!」
(;´・ω・`) 「事件は、はがきで予告が出されていた」
(;´・ω・`) 「それも、肉筆で……」
言いかけたところで、亡霊が笑った。
『無駄ですよ』
(;´・ω・`) 「なんだと!?」
『一致する筆跡は、ありません』
『だからこそ、わざわざ肉筆で予告したのですよ』
(;´・ω・`) 「そんなバカな…」
『ほんとうなのだから、仕方ありません』
『私は、亡霊ですから』
『亡霊は、たとえ筆跡からだろうが、捕まえることはできません』
.
617
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:25:15 ID:RuNqH/eU0
亡霊。
亡霊だと。
既に死んでいるとでも言うのか。
バカバカしい。
ただの比喩だろう。
しかし、比喩となると、なんの比喩なのか。
絶対に捕まらないという自信からそう言っているのか。
バカバカしい。
もとはただの一アウトドアサークルだ。
一般人が為せる行動ではない。
(;´・ω・`)
(;´・ω・`) 「……なら、名前は」
『私のですか?』
.
618
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:25:55 ID:RuNqH/eU0
(;´・ω・`) 「亡霊と言えど、名前は永久につきまとう」
(;´・ω・`) 「きみの名前は、なんなんだい?」
『聞いて、どうするんですか?』
(;´・ω・`) 「ただの興味……」
(;´・ω・`) 「………なんて嘘は、いいや」
『?』
ちいさく、咳払いをする。
(´・ω・`) 「きみを、捕まえるためさ」
.
619
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:26:33 ID:RuNqH/eU0
すると亡霊は、今までで一番大きく笑った。
それでも、大声というほどでは、ない。
アハハハ、アハハハと、繰り返し笑う。
『私を、ですか?』
『先ほども言いましたが、絶対に、捕まえられませんよ』
(´・ω・`) 「事件が終わるまで、わからないさ」
『そうですか』
『いいでしょう』
(´・ω・`) 「…!」
『はじめまして、ショボーン警部』
『山村貞子と申します』
.
620
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:26:54 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「山村…」
( ´_ゝ`) 「!」
(;´・_ゝ・`) 「!」
(´・ω・`) 「それが、きみの名前なんだね?」
(´・ω・`) 「……あれ?」
電子音がするな、と思いよく見ると、電話は既に切られていた。
番号を確認すると、例の050番号だった。
間違いない。
殺されたミセリが持っていた名刺。
僕に対する挑戦状。
そしてその電話番号。
間違いない。
彼女が、犯人だ。
.
621
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:28:37 ID:RuNqH/eU0
( ;´_ゝ`) 「……切れた?」
(´・ω・`) 「ん。 ……おっと、失礼」
( ;´_ゝ`) 「なあ、ひとつ、聞きたいことがあるんだが……」
(´・ω・`) 「その前に……僕からも、聞きたいことがある」
( ;´_ゝ`) 「………なんだ?」
(´・ω・`) 「山村貞子」
(´・ω・`) 「……あんたら、知ってる?」
聞くと、兄者とデミタスは、目を見開いて、
この上ないオーバーなリアクションを取った。
兄者は大きく仰け反り、苦痛をかみ殺したような顔をしている。
デミタスは胸辺りを両手で強く握っている。
.
622
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:29:23 ID:RuNqH/eU0
(´・ω・`) 「……知ってる、よな?」
(´・ω・`) 「誰なんだ?」
( ;´_ゝ) 「………」
(´・ω・`) 「……付け加えると」
(´・ω・`) 「七人目の女、というのは、山村貞子か?」
( ;´_ゝ) 「………」
(;´・_ゝ・`) 「………」
.
623
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:30:00 ID:RuNqH/eU0
( ;´_ゝ`) 「……そうだ」
( ;´_ゝ`) 「当てられたのなら、仕方ない」
( ;´_ゝ`) 「山村貞子……」
( ;´_ゝ`) 「確かに、うちのサークルの、一員だった」
(´・ω・`) 「ほう」
、 、 、
(´・ω・`) 「………だった?」
兄者が、大きく息を吸い込んだ。
何度も繰り返し、深呼吸した。
.
624
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:30:26 ID:RuNqH/eU0
( ´_ゝ`) 「山村貞子はな」
( ´_ゝ`) 「十年前に、死んでいるんだ」
.
625
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:30:59 ID:RuNqH/eU0
序幕
>>2-69
第一幕
>>82-211
第二幕
>>218-296
第三幕
>>304-388
第四幕
>>398-468
第五幕
>>477-528
第六幕
>>539-624
626
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:31:38 ID:uwtrYaCY0
乙
627
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 18:38:21 ID:X58KtxAk0
乙乙
面白くなってきた
628
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 19:47:06 ID:l6XkF/VE0
どうなるんだこれ…
乙
629
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 20:20:30 ID:KUChG51c0
回ごとに風呂敷が広がってる…
630
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 22:07:53 ID:..E4uZS.0
おつ
謎大杉ぃ!わからんことだらけで次の投下楽しみ過ぎる
631
:
名無しさん
:2018/10/04(木) 00:47:48 ID:N/ioqlqE0
おつー
632
:
名無しさん
:2018/10/05(金) 10:43:19 ID:gejPRl9w0
おつ
兄者が思ってたより相当おとぼけな感じで好き
633
:
名無しさん
:2018/10/06(土) 10:36:59 ID:AUEkhNwA0
乙
これどう畳むんだ
これからの展開にwktkしかない
634
:
名無しさん
:2018/10/07(日) 17:13:35 ID:y5fTg7fo0
謎が解けたわ
被害者は全員タイムマシンで10年前に戻ってその時に殺されたんだよ
10年前なら山村貞子もまだ生きてる
そして貞子がタイムマシンで現代に被害者を現代に送り直せばトリック成立だ
635
:
名無しさん
:2018/10/07(日) 17:29:00 ID:bBs6M1WM0
ネタバレするな
636
:
名無しさん
:2018/10/07(日) 18:54:16 ID:Y2eieB020
な、な、なんだってー!
637
:
名無しさん
:2018/10/07(日) 19:02:12 ID:OHTcBT5w0
でも作者前科があるからな
最終的な犯人は推理しようがない人物って
638
:
名無しさん
:2018/10/07(日) 22:17:36 ID:zzseH6ec0
今回トソンがあんまり絡んでないからな
そろそろなんかありそう
639
:
名無しさん
:2018/10/08(月) 14:19:45 ID:kKEjFb/I0
偽りの雰囲気大好きだあ
640
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:31:23 ID:l91x2tpA0
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第七幕 「 亡霊 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
641
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:31:51 ID:l91x2tpA0
┏━─
五月六日 午後十八時五一分 捜査本部
─━┛
(;´・ω・`) 「 ッ 」
(;´・ω・`) 「……んだと?」
( <●><●>) 「ここまで来て、ごまかしは許せない」
( <●><●>) 「もう一度聞きますが、山村貞子という女性、は……」
(;´・_ゝ・`) 「……言うのか?」
( ´_ゝ`) 「バレちゃあ、仕方ない」
( ´_ゝ`) 「どうせ、調べられたら、すぐわかるんだ」
.
642
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:32:54 ID:l91x2tpA0
亡霊とは、何かの比喩だと思った。
思った、というより、あり得ないからだ。
ほんとうに死んだ人間が、罪を犯す、など。
言うまでもない。
ナイフを使うのも、オイルを使うのも、
名刺を奪うのも、電話を使うのも。
その全て、絶命した人間ができる行為ではない。
(´・ω・`) 「死んだ、というのは、比喩じゃない」
(´・ω・`) 「文字通り、生命として、死んだ、ということか?」
( ´_ゝ`) 「……ちょっと、違うんだな」
(´・ω・`) 「何?」
.
643
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:33:35 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「いや、どうなんだろ」
( ´_ゝ`) 「死ぬ、という定義の……怪しいところにあることは、間違いない」
(´・ω・`) 「どういうことだ」
( ´_ゝ`) 「植物状態なんだよ」
(´・ω・`) 「ッ」
( ´_ゝ`) 「厳密に死んだ、かどうかは、俺にはわからん。 医者じゃねえからな」
( ´_ゝ`) 「ただ……なんにせよ、死んだ、と言われても間違いではない」
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
( <●><●>) 「……そういえばあなた」
( ´_ゝ`) 「自分、ですか」
( <●><●>) 「ここに来る前、あなたは……」
.
644
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:34:26 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「!」
( ´_ゝ`) 「アルプス神経病院にいたよ」
(;´・ω・`) 「それって……」
( ´_ゝ`) 「貞子がな」
( ´_ゝ`) 「眠っていた場所なんだ」
兄者が、ヴィップからわざわざアルプスに出向いていた理由。
アルプス神経病院に訪れていた理由。
部員が六人でウソじゃない理由。
犯人候補にはならないが、七人目には違いなかった理由。
ミセリが、デミタスが、兄者が隠したがっていた理由。
絶対に本件と関係がないと言いきれた理由。
その七人目が、死んでいるからだ。
.
645
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:34:59 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「至急、その病院に手配を 」
( ´_ゝ`) 「無駄だよ」
( <●><●>) 「なッ」
兄者が力なく制した。
( ´_ゝ`) 「貞子は、そこには、いなかったんだ」
(´・_ゝ・`) 「えっ…?」
めくるめく急展開。
いよいよ頭が回らなくなってきた。
ああ、煙草が吸いたい。
だが、こんな話、喫煙室や喫茶店なんかではしたくない。
.
646
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:35:44 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「……順を追って、話してくれ」
(´・ω・`) 「まず、彼女が、実質的に死んだ……キッカケだ」
( ´_ゝ`) 「そこを話すと、また時間がかかる」
チッ。
わかっては、いた。
、
兄者はじめ、ミセリもデミタスも意図して隠してきた、貞子の死。
もし、何も後ろめたいことがなければ、
言いづらいことではあるにしろ、話すことは難しくなかろう。
それを、口裏合わせなしに全員が隠してきたとなると、
彼女の死には、したがってサークル活動が関わってくるに違いなかった。
全員、特に兄者が、意地でも話そうとしなかった理由。
サークル全体で、後ろめたいことがあったからだ。
間違いなく事件の鍵にこそなりうるが、如何せん、先に聞くべき話ではない。
.
647
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:36:28 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「わかった」
(´・ω・`) 「何かしらあって、貞子は、植物状態になった」
(´・ω・`) 「それは、いつのことだ?」
もはや、兄者に隠すつもりはないのだろう。
先ほどまでの姿勢とは一転、逡巡せず言葉を紡いでくれている。
( ´_ゝ`) 「十年ほど前」
( ´_ゝ`) 「もっというと、俺が四年の時の……九月だな」
( ´_ゝ`) 「紅葉が見ごろな、季節だった」
(´・ω・`) 「紅葉、か」
兄者が、感傷的になっている。
言葉はどれも優しく、やわらかだった。
(´・ω・`) 「それは、事件……だったんだな?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
.
648
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:36:58 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「警察は、どう処理したんだ」
デミタス、兄者を探る過程で、彼らの情報はデータバンクに照会している。
しかし、そのような事件は、ヒットしなかった。
秘密裏に処理された事件ではないはずなのだ。
( ´_ゝ`) 「言い方が悪かったな」
( ´_ゝ`) 「事件……じゃない。 事故だ」
( ´_ゝ`) 「犯人がいる、とか。 そんな話じゃ、ない」
(´・ω・`) 「サークル活動中に、ッてことだよな?」
( ´_ゝ`) 「ああ。 紅葉を見に行っていたんだ」
紅葉、か。
いやにセンチメンタルなワードチョイスだな、と思ったが
当時の事故が原因で、紅葉には強い思い入れが残ってしまっていたようだ。
.
649
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:38:09 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「植物状態になって、どうしたんだ」
(´・ω・`) 「安楽死、か?」
( ´_ゝ`) 「いやいや」
( ´_ゝ`) 「神経病院のくだりを思い出してくれよ」
(´・ω・`) 「ん」
すまん。
一言ちいさく、謝った。
亡霊、亡霊と話していたため、
てっきり貞子は、完全に死亡していたものだと勘違いしていた。
( ´_ゝ`) 「貞子はそのまま、病院に搬送された」
( ´_ゝ`) 「病院。 アルプス神経病院だ」
.
650
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:39:19 ID:l91x2tpA0
そこで、リンクしてくる。
アルプスといえば、のどかな風土と広がる自然が特長だ。
精神病を患った人なんかは、もっぱら療養にアルプスに向かう、ともされている。
山が多く、その傾斜には多くの心の病院が点在している。
それこそ、紅葉なんかをはじめ、この国の美しい四季の移り変わりが心を癒やすそうだ。
(´・ω・`) 「しかし、様態は」
( ´_ゝ`) 「戻らなかった」
(´・ω・`) 「……ん?」
過去形、なのか。
( <●><●>) 「途中で果てたか、安楽死の運びとなったか」
( ´_ゝ`) 「それが、わからねえんだ」
(´・ω・`) 「わからない?」
.
651
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:39:47 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「どうやら、あっちの業界じゃよくあることらしいがな」
( ´_ゝ`) 「植物人間ッつーのは、如何せん、たらい回しにされやすいらしい」
(´・ω・`) 「そういうことか」
( ´_ゝ`) 「確かに、最初はアルプスに搬送された」
( ´_ゝ`) 「だが、俺らは、頻繁に見舞いにくるようなことはしなかった」
( ´_ゝ`) 「……俺だって、あの時以来、はじめて病院に行ったくらいだからな」
( <●><●>) 「知らぬ間に、移転されていた、と」
(´・ω・`) 「でもそんなもの、照会すれば特定は簡単だろ」
( ´_ゝ`) 「ただの一般人が、そんなこと」
(´・ω・`) 「ワカッテマス」
( <●><●>) 「はい」
.
652
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:40:23 ID:l91x2tpA0
示し合わせたかのように、ワカッテマスは即座に携帯を取り出した。
確かに、病院によっては、その手の照会を拒否することもあるかもしれない。
しかし、相手が警察となれば、話は別だ。
とことん追究し、いまの貞子がどうなっているか、を知る必要がある。
もし果ててしまっていたならば、簡単なことだ。
亡霊を名乗っていた彼女は、騙り。
医学的に死亡が認められているかどうかを、まず探る必要がある。
しかし。
そうでない場合、面倒なことになるぞ。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「調べて、くれるのかい?」
(´・ω・`) 「当たり前だ」
(´・ω・`) 「いま電話してたのが、山村貞子その人で…」
(´・ω・`) 「このたびの連続予告殺人の犯人を名乗り」
(´・ω・`) 「あんたら二人を、殺す」
(´・ω・`) 「そう断言してきやがったんだ」
.
653
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:41:10 ID:l91x2tpA0
(;´・_ゝ・`) 「なッ…!」
( <●><●>) 「…」
(;´・_ゝ・`) 「 ………マジで言ってんすか?」
さすがに驚きは大きかろう。
しかしそれ以上に、だからこそ予想できたとも言える。
デミタスは一瞬硬直したものの、すぐに正気に戻った。
声色がどこか震えているようにうかがえる。
(´・ω・`) 「彼女は、自らを亡霊と呼んだ」
(´・ω・`) 「亡霊は、ミセリを殺害し、」
(´・ω・`) 「僕が彼女に渡していた名刺を頼りに、電話してきたんだ」
( <●><●>) 「…!」
.
654
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:41:43 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「相手が、自分の事件を担当してる警部だとわかっての、電話」
(´・ω・`) 「それも、自供し、更なる殺人予告だ」
ふつふつと怒りが込み上がってくる。
まだ冷静でいられるのは、目の前にターゲットがいるから、だろう。
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「いやに落ち着いてるな」
( ´_ゝ`) 「……そう見えるなら、構わないさ」
( ´_ゝ`) 「それより」
( ´_ゝ`) 「具体的な時間なんかは?」
(´・ω・`) 「ないな」
(´・ω・`) 「彼女なりの、亡霊なりの名刺交換だったんだろう」
(´・ω・`) 「宣戦布告ッてやつだ」
.
655
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:43:01 ID:l91x2tpA0
(;´・_ゝ・`) 「………」
( <●><●>) 「亡霊、ですか」
(´・ω・`) 「だが、生きているのは間違いないと見ていいだろう」
(´・ω・`) 「ほんとうに死んで亡霊になって……なんて、認められない」
( <●><●>) 「当然です」
被害者側の人間は、心霊的なものを信じる傾向にある。
災いや呪いが恐れられた事件なんて、いくつも担当してきた。
非科学的だ、と一蹴するのではない。
単純に、心霊的なものの犯行など、万が一にもあり得ない。
ただそれだけだ。
(;´・_ゝ・`) 「ほ……ほんとうに、亡霊なんじゃあ……」
(;´・_ゝ・`) 「それで、逆恨みとか、して……」
面倒だから、落ち着け、なんて言わない。
隣に座っている兄者は、すっかり落ち着いている。
デミタスひとりに構っていられる猶予は、ないのだ。
.
656
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:43:55 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「あのな」
(´・ω・`) 「亡霊があり得るとしたら、電話とかできないぞ」
(;´゚_ゝ゚`) 「誰かに憑依したりさあ!」
(´・ω・`) 「だったら今頃、真っ先に僕に憑依してるぜ」
(´・ω・`) 「目の前に、ターゲットがふたり、無防備に座ってンだ」
(;´゚_ゝ゚`) 「……!」
(;´・_ゝ・`) 「 ………、……確かに。」
どうして、あり得ないことを証明するためにロジックを練らなくちゃだめなんだ。
亡霊は、生きている。
そして、生身の人間が相手である以上、いくらでも対策の施しようはある。
.
657
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:44:46 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「さて」
(´・ω・`) 「亡霊がミセリを殺したのは、間違いない」
(´・ω・`) 「僕の名刺を持ってたんだ」
( <●><●>) 「加え、例のIP電話を使用している」
( <●><●>) 「連鎖的に、ヒッキー小森やクックル三階堂を殺害したのもリンクします」
(´・ω・`) 「そこら辺から、筆跡のつながりでフッサール擬古殺害も確定する」
亡霊には協力者がいて、なんて可能性はこの際捨てる。
筆跡がリンクしない、クックルからミセリの途中で犯人が入れ替わっている可能性もないだろう。
となると、最初の三人を殺害したのは、ミセリとなるのだ。
論理的に考えても、クックル殺害は亡霊の仕業。
最初から、亡霊がサークル抹殺を目論んでいたことが証明された。
( ´_ゝ`) 「………亡霊、か」
(´・ω・`) 「亡霊の親御さんにも、警察が出向く」
(´・ω・`) 「として、だ」
.
658
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:46:05 ID:l91x2tpA0
一気にするべきことが増えた。
アルプス神経病院に搬送されてからの、貞子の動向、経過。
また、彼女に関する情報も、実家を中心に軒並み洗い出す。
亡霊が犯人だったことは、わかった。
その視点をもって改めて、一連の事件を洗いなおす必要がある。
(´・ω・`) 「ここで重要となってくるものがある」
(´・ω・`) 「動機だ」
(;´・_ゝ・`) 「ど、動機だなんて…」
(;´・_ゝ・`) 「そんなもの、逆恨み、というか、なんていうか…」
(´・ω・`) 「ねーよ」
(´・ω・`) 「事故、だったんだろ?」
(´・ω・`) 「だったら、無事生還できたことをむしろ喜ぶはずだ」
、 、
( <●><●>) 「もし、それがほんとうに事故だったら……ですが」
.
659
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:46:43 ID:l91x2tpA0
(;´・_ゝ・`) 「!」
デミタスも、顔色を変えた。
わかったようだ。
(;´・_ゝ・`) 「……」
(;´・_ゝ・`) 「誰かに殺された……!?」
( <●><●>) 「事実がどうであれ、どこかでそう思っていたなら?」
(´・ω・`) 「目が覚めたら、十年近く経過している」
(´・ω・`) 「しかし、逆に言えば、当時のことは覚えている」
(´・ω・`) 「サークルの誰かのせいで、自分は……」
(´・ω・`) 「そう考えれば、わざわざ多くの徒労を費やしてでも、」
(´・ω・`) 「大袈裟な、大胆な手口で次々部員を殺すのに説明はつく」
.
660
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:47:10 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「もっとも、憶測でしかないけどね」
( <●><●>) 「検討するためにも、当時の、その、事故」
( <●><●>) 「わかる範囲で構いませんので、詳細に、話してください」
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「といっても、ほんとうに事故としか……」
(´・ω・`) 「まず、原因はなんなんだ?」
( ´_ゝ`) 「原因?」
過去のデータを漁ればわかることだが、面倒だ。
まして、大した情報も書かれてないだろう。
当事者から聞くのが、一番だ。
(´・ω・`) 「植物状態になっちまった、原因よ」
( ´_ゝ`) 「……」
、 、
( ´_ゝ`) 「転落だ」
.
661
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:48:45 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「転落……」
( ´_ゝ`) 「俺らはな、アルプスに紅葉を見に行ってたんだ」
(´・ω・`) 「紅葉か」
( ´_ゝ`) 「といっても、旅館に泊まったり、ではない」
( ´_ゝ`) 「山奥のコテージを借りててよ」
( <●><●>) 「具体的な場所は」
( ´_ゝ`) 「ちょっと待ってくれ」
と言って、兄者はスマホをいじりだした。
その場所を、インターネットで探し始める。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「ん」
( ´_ゝ`) 「あん時のサイト、ないな」
.
662
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:49:34 ID:l91x2tpA0
(´・_ゝ・`) 「……そういえば」
(´・_ゝ・`) 「いつかはわからないけど、閉鎖しちゃったよ、あそこ」
( ´_ゝ`) 「へえ」
(´・_ゝ・`) 「昔、気になって調べたことがあるんだ」
( ´_ゝ`) 「どこだったっけ」
つられて、デミタスもスマホを取り出す。
記憶を頼りに、インターネットの海を泳ぎながら、話す。
(´・ω・`) 「まあ、探しながらでいいよ」
(´・ω・`) 「で、山奥、コテージまではわかった」
( ´_ゝ`) 「そもそも、そこを選んだ理由だがな」
( ´_ゝ`) 「俺らは、ちょっと変わったアウトドアを楽しんでた」
( <●><●>) 「変わった?」
.
663
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:49:57 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「あまり、注目されてないところで遊ぶんだよ」
( ´_ゝ`) 「たとえば、渓流釣りにしても、ほとんど人の手が入ってないとこに行ったり」
( ´_ゝ`) 「メジャーなところは、ほとんど行かなかったな」
( <●><●>) 「ほう」
どうせ遊ぶなら、あまり人が選ばないようなところで、ということか。
わからなくはない気持ちだった。
( ´_ゝ`) 「ほとんど利用客がいないような、山奥だ」
( ´_ゝ`) 「そりゃあ料金も格安でよ」
( ´_ゝ`) 「ゴエモン風呂とぼっとんの、いま思えばすげえとこだったわ」
(´・ω・`) 「でも、そういうとこが好きだったんだ」
( ´_ゝ`) 「ああ」
( ´_ゝ`) 「人が経験しなさそうな経験がしたかったからな」
.
664
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:50:19 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「そこを選んだのは」
( ´_ゝ`) 「俺だよ」
( ´_ゝ`) 「理由も、いま話した感じだ」
( ´_ゝ`) 「……と。 あったぞ」
(´・_ゝ・`) 「ん……ああ、それそれ」
(´・_ゝ・`) 「懐かしいな」
(´・ω・`) 「どれ」
その、コテージ貸出のサイトではなかった。
当時の写真なんかでもない。
ブログ記事だった。
(´・_ゝ・`) 「え、これ昔のブログだよね」
(´・_ゝ・`) 「よく残してたな」
.
665
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:52:17 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「サークルの活動日誌、みたいなもんだ」
( ´_ゝ`) 「一日目が終わる頃に、一旦下書きしておいたもんだ」
( <●><●>) 「アルプスの……」
紹介こそされていないが、特段目につく固有名詞はない。
それもそうで、アルプスの山はほとんどが私有地だ。
コテージ主のそれだろう、サイトのリンクが張られている。
( ´_ゝ`) 「もっとも」
( ´_ゝ`) 「続きは帰ってから書こう、と思ってた矢先、事故が起こった」
( ´_ゝ`) 「当然、書く気にはなれんかったし、なんならあの日でサークルは終わった」
(´・ω・`) 「なるほどね」
記事には、下書きというだけあって写真はない。
ただ、値段のわりに絶景だ、とか。
疲れて不便なことを除けば穴場だ、とか。
著者である兄者の感想が、旅情小説のように描かれている。
.
666
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:53:24 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「なんにせよ、そんな場所だ」
( ´_ゝ`) 「ほぼ利用客がいないッつーだけあって、」
( ´_ゝ`) 「整備とかが全然されてないわけでな」
( <●><●>) 「……」
、 、
( <●><●>) 「そうか。 転落か」
勘付いたようで、ワカッテマスは言った。
山奥、整備されていない、紅葉、とまでくれば、だいたいは察しがついた。
( ´_ゝ`) 「一面紅葉の絶景が、高所から拝める山だった」
( ´_ゝ`) 「………崖に柵なんか、なくてよ」
(´・ω・`) 「貞子は、紅葉を見に行って、足を踏み外したわけだ」
( ´_ゝ`) 「概要は、そうなる」
.
667
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:53:51 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「標高が高いだけあってな、風も強かった」
( ´_ゝ`) 「まして、落ちたのは、夜」
( ´_ゝ`) 「むろん街灯なんてない。 完全な真っ暗だ」
( <●><●>) 「何も見えないのに、紅葉を見に行ったのですか」
( ´_ゝ`) 「いや……紅葉目当てじゃないだろうな」
( ´_ゝ`) 「単なる散歩のつもりだったかもしれん」
( <●><●>) 「まあ、そうですよね」
柵のない崖。
完全に真っ暗。
踏み外す。
少しずつ、ピースが浮かび上がってくる。
これらのどこか、あるいはピースが成す全体図に、
亡霊が抱く怨念というものが描かれているはずだ。
.
668
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:54:31 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「どんな崖だった?」
( ´_ゝ`) 「山奥なだけあって、コテージ周辺はもちろん、道も木に囲まれてる」
( ´_ゝ`) 「でも、その崖だけ、ひらけててな」
木々が生い茂る山奥、ひらけた崖。
アウトドアとなれば、おあつらえ向きなシチュエーションだろう。
(´・ω・`) 「コテージも、その辺で?」
( ´_ゝ`) 「まあ、そうだな」
( ´_ゝ`) 「ただ、コテージからはその崖は見えない」
( ´_ゝ`) 「昼間は、その近くで野外炊飯してたぜ」
(´・ω・`) 「危なくない程度に近寄ってはいた、と」
.
669
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:55:57 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「なんにしても、その崖は怖かったな」
( ´_ゝ`) 「来てすぐに、危ねえな、ッて話題で盛り上がってたぞ」
(´・ω・`) 「崖下の様子は?」
( ´_ゝ`) 「落ちたら、地上までまっさかさま」
( ´_ゝ`) 「もっとも、木とか結構生えてたけどな」
( ´_ゝ`) 「……ふつうに落ちたら、間違いなく即死だわ、アレは」
( <●><●>) 「でも、貞子は、生きていた」
( ´_ゝ`) 「崖を転がるように落ちてッたらしい」
( ´_ゝ`) 「担当した警官曰く、不幸中の幸いだとな」
植物状態になって、どこに幸いを見出せたのだろうか。
死なないだけまだマシ、とでも言うのだろうか。
冗談じゃない。
.
670
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:56:17 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「全身が凄まじい打撲で、骨も折れていた」
( ´_ゝ`) 「ただ、言い換えれば、転落の衝撃が随所で分散されてな」
( <●><●>) 「結果として、即死には至らなかった、と」
( ´_ゝ`) 「あれは、気候も味方してくれたらしい」
( ´_ゝ`) 「大量出血してて、これがもし冬なら、疑いようなく死んでたそうだ」
季節は秋。
それもアルプスとなれば、心地よい暖かさに包まれている。
刺殺にしても、実際のところ死因はショック死か大量出血のどちらかによるものだ。
というより、流血沙汰になった時、それが交通事故だろうが転落だろうが、
血を確保できているかどうか、で生存率は大きく異なってくる。
そういった意味において、貞子はある種の幸運が積み重なっていたのかもしれない。
頭さえ打っていなければ、それは幸運たりえたのだろう。
打っていたのだから、結局不運には違いなかった。
.
671
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:58:03 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「結果、事故として処理された、ッてことは」
(´・ω・`) 「あくまで、事件性はなかったんだ」
( <●><●>) 「…背中に押された跡、とか」
( ´_ゝ`) 「…ああ」
あるいは、冬だったら。
革製の上着でも羽織っていれば、
背中に指紋が残っていてもおかしくはなかった。
しかし、他のアプローチが残されているかもしれない。
当時の貞子の持ち物や、現場状況など。
(´・ω・`) 「ちょっと、その事件のファイルを用意させとくか」
( <●><●>) 「管轄はアルプスの……」
( <●><●>) 「この場合、どこの署になるんですかね」
(´・ω・`) 「県警に要請を出すよ」
(´・ω・`) 「あっちには心強い先輩がいるからね」
黒い、ボロ衣のようなコートを羽織っている男の顔を思い出す。
オオカミ鉄道への要請も含め、どうも人脈というものに助けられている実感がした。
.
672
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:58:55 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「先に、当時の警察の対応を聞かせてくれ」
( ´_ゝ`) 「ん……どう言えば?」
( <●><●>) 「規模にもよりますが、現場検証や取り調べが行われたはずです」
言うと、兄者は少し黙った。
さすがに、そんなところまで詳細に覚えてはいないのだろう。
第一、それどころではなかったはずだ。
(´・_ゝ・`) 「……あれですね」
(´・_ゝ・`) 「警察署に呼ばれて、個別に話を聞かれましたよ」
( <●><●>) 「具体的には?」
(´・_ゝ・`) 「具体的に……ッていうか」
(´・_ゝ・`) 「むっちゃくちゃ細かく、最初から最後まで……ぜんぶ。」
.
673
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 22:59:17 ID:l91x2tpA0
となると、一応警察は、きちんとした対応に出たと見ていいのか。
ファイルを見ないとわからないものの。
おそらく、それまでの部員と貞子の関係や貞子のポジションからはじまり、
どうしてアルプスに行こうと思ったのか、日取りが決まったのはいつか、
くだんのコテージを選んだ理由は、などといったところまで調べられているはずだ。
そしてポイントとなるのは、それらを経たうえで
本件が 「事故」 として処理されている点にある。
(´・ω・`) 「…そうか」
もし、証言が食い違ったりした場合、事件の可能性も考慮されるはずなのだ。
それが事件として登録されていない以上、証言に整合性は、あった。
全員で何かを隠そうとした場合、想像以上にあっさり看破されてしまうものなのだから。
(´・ω・`) 「……とりあえず、向こうには連絡しといた」
( <●><●>) 「もうですか」
(´・ω・`) 「堅苦しい協力要請なんて、してらんねーしな」
(´・ω・`) 「こういう時に、人脈がヒカるんだよ」
.
674
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:00:24 ID:l91x2tpA0
雑なメールを、送っておいた。
相手は六十過ぎの、それも機械に非常に弱い爺さんだ。
仕事中だろうというのもあわせ、返信はまあ期待できないだろう。
(´・ω・`) 「十年前の事件、だ」
(´・ω・`) 「僕らがじきじきに現場検証できないのが、痛いところだな」
( <●><●>) 「担当した人に聞いたところで、望み薄ですしね」
(´・ω・`) 「となると焦点になるのは、現場状況じゃない」
(´・ω・`) 「当時の、きみたちの動きだ」
( ´_ゝ`) 「……」
兄者が構える。
ここまできたからには、もう隠すわけにはいかないぞ。
関係者のうち、話が聞けるのは、もうふたりだけ。
望みがあったミセリも、昨日まで生きていたミセリもいなくなってしまったのだ。
.
675
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:00:47 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「当時と、いろいろ状況は変わっている」
(´・ω・`) 「まず、十年前だ、という点」
(´・ω・`) 「次に、当時の関係がきっかけで、連続殺人が起こっている点」
(´・ω・`) 「そして……」
、 、
(´・ω・`) 「僕たちは今、当時の事故を怪訝に思っている点、だ」
( ´_ゝ`) 「…ッ」
連続殺人の中心にいる犯人は、亡霊だ。
亡霊が亡霊たりうる理由は、十年前の事故に遭ったからだ。
事故から連続殺人につなげた理由は、それが事故ではなかったから。
何者かによる殺人事件だったから。
単純な推理にして、当然の論理。
この期に及んで、ほんとうに事故だった、は通用しない。
事実として、既に四人も殺されてしまっている。
なんなら、事件、まではいかないにしても。
怨恨を遺させてしまった何かは、必ずあったはずなのだ。
.
676
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:01:31 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「脅すつもりではありませんが」
( <●><●>) 「確か亡霊は、明確にあなた方ふたりを、殺すと言っている」
ワカッテマスが険しい顔をする。
眉間に刻み込まれたヒビが、迫力を増している。
( <●><●>) 「法的な強制力こそありませんが」
( <●><●>) 「半ば強制的に、話させるつもりですので」
( ´_ゝ`) 「………」
( ´_ゝ`) 「わかっているよ」
(´・ω・`) 「……」
法的な強制力こそない、か。
僕も、そう強気に出られていたならば、あるいは。
.
677
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:02:18 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「そうだな」
( ´_ゝ`) 「まず、紅葉を見に行ったこと、あのコテージを選んだ理由とかは」
( ´_ゝ`) 「まじで、一切の事件性がない」
( ´_ゝ`) 「単なる俺の気分で、なんだったら俺以外反対だったからな」
( <●><●>) 「…ム」
ワカッテマスが、少し反応を見せる。
おそらくは、今の言葉から兄者をほんの少しだけ怪訝に思ったのだろう。
あまりにも突飛すぎる。
ワカッテマスはワカッテマスで、神経質になっている。
( ´_ゝ`) 「俺としては、だな」
( ´_ゝ`) 「アクションのない、ただ観賞するだけの良さッてのもあると思ったんだ」
(´・_ゝ・`) 「なんだかんだ言って、紅葉見たらみんな絶賛だったしね」
.
678
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:05:02 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「ちなみに、具体的な反対意見としては」
( ´_ゝ`) 「ただ見るだけやん、と」
( <●><●>) 「……なるほど」
ワカッテマスが続きを促した。
そこまで掘り下げられる情報もないだろう、と判断したようだ。
( ´_ゝ`) 「コテージを選んだ理由も、さっき話した通り」
( ´_ゝ`) 「人気じゃない、安い、辺鄙な場所にあるとこなら、どこでもよかった」
( <●><●>) 「高いところにした理由は」
( ´_ゝ`) 「そりゃあ、高いほうが景色はいいだろう、ッてな」
( <●><●>) 「……ふむ」
別段おかしい点はない。
ここに作為性がないとすると、あくまで動機は突発的なものだったことになる。
.
679
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:07:22 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「皆さんの持ち物は」
( ´_ゝ`) 「まあ、食材とか、焚火セットとか」
( ´_ゝ`) 「ただ、山登りがメインじゃなかったし、そもそも車だったし」
( ´_ゝ`) 「みんな軽装で、そこら辺の用意はなかったよ」
(´・_ゝ・`) 「セリっちなんか、露出多すぎて、騒いでたよね」
(´・_ゝ・`) 「虫が気色悪い、って」
( <●><●>) 「……ふむ」
メインは、あくまで紅葉狩りだった。
その点も疑いはない。
若者、それもインドアの彼らがわざわざ山を登りたがるとも思えない。
( ´_ゝ`) 「イベントとかも用意してない」
( ´_ゝ`) 「ただ、紅葉を見ながら、メシ食って」
( ´_ゝ`) 「あとは全部自由時間だ。 コテージでゲームしたりもしたぜ」
.
680
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:08:50 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「その食事が、先ほど言っていた…」
( ´_ゝ`) 「崖の、手前」
( ´_ゝ`) 「ッつっても、結構離れてたけどな」
( <●><●>) 「……」
( ´_ゝ`) 「そうだな……時系列で言うと、だ」
( ´_ゝ`) 「到着したのが、だいたい昼すぎ」
( ´_ゝ`) 「朝早くに出発して、やっと着いたッて感じで」
(´・ω・`) 「あくまで、一泊の予定だったんだね?」
( ´_ゝ`) 「もちろん。 あそこに二日三日泊まるのはムリすわ」
事件は突発的なもので、その機会は一度しかなかった。
これは、思っているよりも重要な観点になるな。
.
681
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:10:05 ID:VC6hiN3M0
しえ
全く先が読めんわくわく
682
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:16:34 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「そのまま、野外炊飯」
( ´_ゝ`) 「ぶーたれてたセリっちも、チューハイ飲みながら騒いでたな」
( <●><●>) 「チューハイですか」
酒に、思わず反応する。
事件だろうが事故だろうが、酒はキーとなる。
( ´_ゝ`) 「先に言っておくぜ。 誰もほとんど酔ってない」
( ´_ゝ`) 「貞子に至っては、そもそもが一切飲めない子なんだ」
( <●><●>) 「ふむ」
やはり、当時の取り調べでも話されていたか。
貞子の飲酒にしても、調べれば一発でわかる。
酒から掘り下げるのは、まあ不可能か。
( ´_ゝ`) 「だいたい……何時だっけ」
( ´_ゝ`) 「すまん、正確な時間は見てねえわ」
( <●><●>) 「お構いなく」
.
683
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:18:18 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「メシ食って、あとは自由行動」
( ´_ゝ`) 「全員が一緒に動いてたわけじゃないから、ここからは俺視点の話になる」
( <●><●>) 「どうぞ」
( ´_ゝ`) 「俺は、写真が好きでな」
( ´_ゝ`) 「それも、ケータイのんじゃない。 一眼レフだ」
(´・ω・`) 「…!」
( ´_ゝ`) 「おっと。 これも先に言っておくぜ」
( ´_ゝ`) 「貞子の件とは関係ないんだが、一眼レフは谷底に落としちまったよ」
( <●><●>) 「というと」
( ´_ゝ`) 「その……なんだ」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏はお調子者でね」
(´・_ゝ・`) 「少しでもいい写真を撮るんだ、とか言って」
(´・_ゝ・`) 「崖から身を乗り出してたら、バランス崩して、カメラは真っ逆さまさ」
( <●><●>) 「……」
.
684
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:19:18 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「その谷底ッてのは……例の?」
( ´_ゝ`) 「いや、多少位置はずれる」
( ´_ゝ`) 「鳶……なのかな? 野鳥がすんげえ近くまできてよ」
( ´_ゝ`) 「びっくりして、体勢崩した瞬間、ついスルリ……と」
情景は、確かにイメージできる。
危険を冒して写真を撮っていたのも、単なる彼のキャラによるものだ。
( <●><●>) 「……」
( ´_ゝ`) 「もちろん粉々だし、データは残ってないし、なんなら重要なものは撮ってない」
( ´_ゝ`) 「つっても、景色しか撮ってなかったがな」
( <●><●>) 「皆さんで集合写真、とか」
( ´_ゝ`) 「ガラじゃないんだ、俺ら」
( <●><●>) 「そうですか」
.
685
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:35:48 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「だったら、ブログに載ってた写真は」
(´・_ゝ・`) 「あれはガラケーのですね」
(´・_ゝ・`) 「画質見たら、一発でわかりますよ」
ここにも、特段事件性はない、と。
たとえば、全員の服装や持込品を見れば、何かわかったかもしれないものの。
( ´_ゝ`) 「まあいい。 話を戻そう」
( ´_ゝ`) 「その……相棒を落として、すげえ落ち込んでよ」
(´・_ゝ・`) 「セリっちも、酔った勢いで、すごい慰め方してたよね」
( ´_ゝ`) 「そうそう。 猫みたいにじゃれてきて」
( <●><●>) 「……酔ってたんですか?」
( ´_ゝ`) 「ああ、すまん。 言葉のあやだ」
( ´_ゝ`) 「あの子、酔うのに三段階あってさ」
( ´_ゝ`) 「ただ、俗にいう酔っ払い、とかではない」
( <●><●>) 「まあ、いいですが」
.
686
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:37:13 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「カメラを落として、みんなに絶対崖には近寄るな、ッて言って回ったね」
( ´_ゝ`) 「メシが終わって少ししたくらいだったか」
( <●><●>) 「その時点での、皆さんの配置は」
( ´_ゝ`) 「そうだな」
( ´_ゝ`) 「貞子とヒッキーが、先にコテージに戻ってた」
( ´_ゝ`) 「残り四人は、結構長いこと外にいたぜ」
( <●><●>) 「……」
( ´_ゝ`) 「ヒッキーは、もともと紅葉狩りに反対でな」
( ´_ゝ`) 「コテージのベッドに寝っ転がって、ゲームしてたわ」
(´・ω・`) 「貞子は?」
( ´_ゝ`) 「あの子も、そこまで観賞ッてもんに興味がなかったらしい」
.
687
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:38:13 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
ワカッテマスがついに動きを見せた。
まあ、僕も引っかかりはしたが。
( <●><●>) 「確か彼女が転落した原因は、」
( <●><●>) 「夜の、散歩だったのでは」
( ´_ゝ`) 「聞かれたがな、」
そうなるだろう。
既に十年前の担当が確認しているはずだ。
( ´_ゝ`) 「詳しくは知らないさ。 本人次第なんだから」
( ´_ゝ`) 「ただ、体調が悪かったり、メシ食って眠くなっただけかもしれない」
( ´_ゝ`) 「ほら、朝早かったもんでよ。 外で寝るにはさすがに危ねえし」
.
688
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:39:45 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「その時のふたりは、どんな感じだったんだい?」
( ´_ゝ`) 「どんな、も何も」
( ´_ゝ`) 「ヒッキーはぴこぴこして、貞子も寝転びながら本を読んでて」
( ´_ゝ`) 「俺はカメラ落としたことよりも空しくなったぜ」
(´・ω・`) 「それは……まあ……」
観賞にきたのに、コテージに籠られてはそうなるだろう。
( ´_ゝ`) 「で、俺は一旦外に戻って」
( <●><●>) 「その時は、あなた方二人と、クックルと、ギコと、ミセリ」
( ´_ゝ`) 「そうだな」
( <●><●>) 「彼らはどんな様子だったのですか?」
.
689
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:40:14 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「セリっちが、一生うざ絡みしてて」
(´・_ゝ・`) 「あの子ね。 僕みたいなウブで純真な男をいじるのが好きなんだよ」
( ´_ゝ`) 「童貞と言え童貞と」
(´・_ゝ・`) 「ハン!」
だいたいの情景は、浮かぶ。
ほろ酔いのミセリと、彼女に付き合わされる野郎諸君。
( ´_ゝ`) 「……うーん」
( ´_ゝ`) 「そうだな。 クックルが率先して、後片付けをしてたな」
( ´_ゝ`) 「ぶつくさ言いながら、セリっちの投げる空き缶も回収してたわ」
(´・ω・`) 「そこなんだけどさ」
( ´_ゝ`) 「うん?」
.
690
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:45:43 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「ミセリから聞いたら、クックル、無口らしいじゃん」
(´・ω・`) 「当時は、そうでもなかったんだ?」
( ´_ゝ`) 「普段は無口よ」
( ´_ゝ`) 「ただ、感情を前に出したがらない、ッつーのか」
( ´_ゝ`) 「楽しくなったり、気が置けない連中と一緒にいたら、饒舌になるんだ」
(´・_ゝ・`) 「見た目あんなンだったのに、可愛い奴だったよね」
(´・ω・`) 「ほーん」
聞けば聞くほど、七人の仲の良さが伝わってくる。
集まりに抵抗を示していたミセリも、普段無口だったクックルも。
なるほど確かに、なんだかんだ楽しくアウトドアしていたのだろう。
時系列を聞く前に、人物像から固めていったほうがいいのか。
いや、時系列を追うだけでも、ある程度は人がわかるか。
.
691
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:47:07 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「ギコは?」
( ´_ゝ`) 「あいつな。 いろんなものを見てたぜ」
( ´_ゝ`) 「紅葉狩りッつーか、観賞か」
( ´_ゝ`) 「無縁な人生を送ってたみたいでよ、新鮮な目で、楽しんでた」
(´・ω・`) 「というと」
( ´_ゝ`) 「野鳥を眺めたり、名前も知らない花を見つめたり」
( ´_ゝ`) 「俺もカメラはじめようかな、とか言ってたな」
畢竟、自然を楽しんでいたわけか。
野鳥にしても、山奥を飛ぶそれらは確かに新鮮なものだろう。
猛禽類は、近くで見るとなかなか感慨深くなるものだ。
(´・_ゝ・`) 「カメラ落とした兄者氏見て、撤回してたけどね」
( ´_ゝ`) 「うるせえよバカヤロウ」
.
692
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:48:57 ID:l91x2tpA0
(´・ω・`) 「きみは?」
(´・_ゝ・`) 「僕かい?」
(´・_ゝ・`) 「そんなみんながごちゃごちゃしてるのが、楽しかったですよ」
(´^_ゝ^`) 「みんなと一緒に、普段見ない景色を眺めるのは……もっと楽しかった」
(´・ω・`) 「いいねえ」
ひとりで見るのと、みんなで見るのとでは、全然違うものだ。
観賞の良さを知っていた兄者、
大勢の楽しさを知っていたデミタスは、一歩大人びていたと言えるだろう。
(´・_ゝ・`) 「少しごちゃごちゃしてから、クックルが先にコテージに戻ったね」
(´・_ゝ・`) 「といっても、片付けがてら、コテージと往復してたんだけど」
(´・ω・`) 「じゃあ、その時のコテージは、貞子とヒッキー、」
(´・ω・`) 「ンでたまにクックル……か」
( ´_ゝ`) 「つっても一時間もしてないけどな」
.
693
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:49:27 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「クックルに、変わった様子は」
( ´_ゝ`) 「特にーーなかったな。 うん」
( ´_ゝ`) 「で、クックルが戻って……だ」
( ´_ゝ`) 「まあ、みんなぼちぼち戻るかッてなって」
( ´_ゝ`) 「特に予定もないんだ」
( ´_ゝ`) 「トランプとか麻雀あったし、それらで遊ぶもよし」
( ´_ゝ`) 「ちょっと山を探検するもよし、だった」
トランプはともかく、麻雀はなかなか渋いな。
と言うと、最近の大学生はだいたい麻雀が好きだ、と言われた。
(´・ω・`) 「完全に、予定とかは一切なかった、と」
( ´_ゝ`) 「一応、ギコは予定、考えてたみたいだけど」
(´・ω・`) 「予定?」
( ´_ゝ`) 「ああ……釣り具持ってきてたんだ、アイツ」
( ´_ゝ`) 「渓流釣りとかできたらいいな、ッて」
.
694
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:57:40 ID:l91x2tpA0
( ´_ゝ`) 「ただ、めぼしい川はなかったし」
( ´_ゝ`) 「そもそも、迷うのが怖くて、結局行かなかったらしいけど」
( <●><●>) 「ちなみに、釣り具は」
( ´_ゝ`) 「ずっと車のトランクで留守番さ」
(´・ω・`) 「他に、留守番してたのはなんかある?」
( ´_ゝ`) 「ん? そうだなあ……」
(´・_ゝ・`) 「誰か知らんが虫取り網とか持ってきてたよな。 百均の」
( ´_ゝ`) 「ああ、あれ俺だわ」
(´・_ゝ・`) 「え?まじ?」
( ´_ゝ`) 「その……ちょっとウケ狙って……」
(´・_ゝ・`) 「あのクソほど邪魔だった文字通りのお荷物が??」
( ´_ゝ`) 「その……うん、十年前だから時効だ」
(´・_ゝ・`) 「反省して」
.
695
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:58:04 ID:l91x2tpA0
持込品にも、めぼしいものはないか。
もとが突発的な企画だ、殺害を計画して何かを持ってきた線は薄そうだ。
あるいは、自然なものを利用して犯行に転じた可能性もある。
しかし、当人らの記憶や先入観が邪魔して、手がかりとして得られないかもしれない。
(´・ω・`) 「ごはん終わって、一旦みんなコテージに戻ったんだね?」
( ´_ゝ`) 「んー……まあ、そうだな」
(´・ω・`) 「ん?」
( ´_ゝ`) 「別に、集団行動とかしてたワケじゃなかったもんで」
( ´_ゝ`) 「ギコは結構常に外にいたし」
( ´_ゝ`) 「逆にヒッキーはほとんど外に出てなかった」
(´・_ゝ・`) 「一回か二回くらい、紅葉見に行った程度だったよね」
(´・_ゝ・`) 「セリっちがけしかけたからだけど」
.
696
:
名無しさん
:2018/10/12(金) 23:59:05 ID:l91x2tpA0
( <●><●>) 「けしかけた?」
(´・_ゝ・`) 「そうだなあ……」
(´・_ゝ・`) 「ウォッホン!」
(#´・_ゝ・`) 「そんなンだから童貞なんだよテメーはよォ!」
(#´・_ゝ・`) 「ほらせーの!リアジューしようぜ!リアジューしようぜ!ハイッ!」
(´^_ゝ^`) 「……的な?」
今の唐突な茶番はなんだ。
まさかミセリの真似とでも言うのか。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「ミセリは、当時は結構やんちゃだったので?」
( ´_ゝ`) 「やんちゃ……なのかなァ」
( ´_ゝ`) 「まあ、テンション次第で暴走するフシはあったよ」
.
697
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:07:37 ID:V8JiJ4eE0
(´・ω・`) 「じゃあ、旦那さんは?」
( ´_ゝ`) 「ああ、それ」
( ´_ゝ`) 「暴走したセリっちは、クックルしか止められなかったもんでよ」
( ´_ゝ`) 「思えばあの子、最初のほうからクックルが結構お気に入りだったみたいだし」
(´・_ゝ・`) 「あれさ、明らかセリっちから告白したよね」
ん。
そういえば、ミセリとクックルの関係は、あまり知られてなかったな。
(´・ω・`) 「二人が付き合ってたのは、みんな知ってたの?」
( ´_ゝ`) 「まあ、知ってたッつーか…」
( ´_ゝ`) 「なんとなく察しがつくじゃん、そういうの」
.
698
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:10:44 ID:V8JiJ4eE0
(´・ω・`) 「証言によると、だ」
(´・ω・`) 「そんな人間関係の話……きみはだいたい知ってるッて聞いたけど」
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「当人らから話はされなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「あーー」
( ´_ゝ`) 「ごめん。 知ってたわ、俺」
( ´_ゝ`) 「クックルから、普通に聞いてたよ」
(´・ω・`) 「ん」
(´・_ゝ・`) 「え。 そうなんだ」
( ´_ゝ`) 「ただ、あんまし言及したら、サークルにいいことないだろ」
( ´_ゝ`) 「他人の恋路は邪魔しちゃいけないもんだ」
.
699
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:13:34 ID:V8JiJ4eE0
当時からの、あまり触れようとしない性格が残っていたのか。
無意識のうちに、二人の関係を知らない芝居を打っていた。
これは少し、面倒だなと思った。
兄者は、他意なく重要な情報を隠してしまうかもしれない、ということ。
また、兄者は、隠し事が非常にうまい、ということ。
貞子の件は、最初から見当がついていたからいい。
まだ僕らが一切知らないでいる情報を得るのは、やや骨が折れそうだ。
( ´_ゝ`) 「クックル、根が真面目だからさ」
( ´_ゝ`) 「俺に、相談してきたんだ。 サークル内で付き合っていいのか」
(´・_ゝ・`) 「なんて返したの?」
( ´_ゝ`) 「そりゃあおめ、悪いことはない」
( ´_ゝ`) 「うまくやれよ、とだけ言ったさ」
.
700
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:15:29 ID:V8JiJ4eE0
(´・ω・`) 「ドロドロになるッてのは、警戒しなかったんだ?」
( ´_ゝ`) 「いやーー、そりゃあするよ」
( ´_ゝ`) 「根暗なサークルの、恋愛沙汰だぜ。 最悪、崩壊するかもしれん」
ただ。
兄者は続けた。
( ´_ゝ`) 「クックルは、波風を立てるようなキャラじゃないし」
( ´_ゝ`) 「セリっちも、性格を考えたら、人前でそんな露骨にはイチャつかんだろ」
( ´_ゝ`) 「だったら、こっちからは余計なことは言わんでいい」
( ´_ゝ`) 「実際、多少察されるにせよ、問題なく付き合ってたしな」
( <●><●>) 「念のためですが、」
( <●><●>) 「クックル以外に、ミセリのことを好いていた人はいないのですか?」
.
701
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:16:47 ID:V8JiJ4eE0
それは、僕も気になる点だ。
サークル内恋愛となると、そういったところからいざこざが発生し、
その延長で亡霊の怨恨に繋がってしまったということもある。
( ´_ゝ`) 「いやあ、どうだろうね」
( ´_ゝ`) 「そりゃ見た目は可愛いし、体形もいいんだ、華はあったね」
( ´_ゝ`) 「ただ、それとこれとは違う。 わかるだろう」
目の保養、というのか。
アイドルを応援するファンに近い感じかもしれない。
よく思う気持ちは、なにも恋愛感情にしか結びつかないわけではない。
多少下心があっても、恋愛感情なしで当人を気に入るのは自然な話だ。
それこそ、兄者が言う華、のような感情だろう。
(´・ω・`) 「もう一人の、女性」
(´・ω・`) 「貞子は、どんな感じだったんだい?」
.
702
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:17:10 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「もともと、うちはインドアなサークルだ」
( ´_ゝ`) 「セリっちが例外すぎるだけで、貞子はイメージそのままだぜ」
( ´_ゝ`) 「おとなしいインドア女子よ」
( <●><●>) 「ちなみに、彼女の写真などは」
( ´_ゝ`) 「ううん……ないかなァ」
( ´_ゝ`) 「さっきも言ったけど、部員の写真は撮らないからブログには残ってないし」
さすがに、十年前だと考えると、
ケータイにも残っていることはないだろう。
ただ、だいたいのイメージはついた。
( ´_ゝ`) 「典型的なインドア派で、散髪すら億劫に思う始末だね」
( ´_ゝ`) 「おっと。 なにも悪口じゃないぜ」
( ´_ゝ`) 「俺もこいつも、ヒッキーもそんな感じなんだ。 むしろ同志と言えよう」
(´・ω・`) 「ほほん」
.
703
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:17:40 ID:V8JiJ4eE0
(´・_ゝ・`) 「刑事さんはわかりづらいかな」
(´・_ゝ・`) 「髪を切るその数千円で、好きなものが買える」
(´^_ゝ^`) 「……ッてな具合でね。 まあ、そんなもんなんだよ」
(´・ω・`) 「まあ、理解はできる」
朝食をとる時間があったら少しでも寝ていたい、というような心地だろう。
僕に当てはめれば、お見合いをするくらいなら酒を呷りたくなるようなものだ。
( ´_ゝ`) 「俗にいう、ボーイズラブとかが好き……えっと。」
( ´_ゝ`) 「なんにせよ、化粧を意識したり、ファッションに拘るような性格ではなかった」
、、 、 、
( ´_ゝ`) 「……ま、典型的な、こっち側の人間なワケですよ」
(´・_ゝ・`) 「でも、ふつうにスタイルよかったし、顔立ちも整ってたのになァ」
( ´_ゝ`) 「俺、しょっちゅう言ってたじゃん。 もったいないッて」
.
704
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:19:42 ID:V8JiJ4eE0
よく聞く話ではあった。
容姿、素材はいいのに、自分に自信を持てず、
そういった自分磨きに意欲を持てないタイプの女性だ。
女性の美しさは、化粧の巧さだ。
揶揄でもなんでもなく、化粧が巧い女性は、
すなわち自分を魅せるのが巧い女性である。
そしてそれは、自分の持つ美しさを引き立てることに長けているわけだ。
自身の美しさを知らなければそれはできないし、
自身ですら知らない美しさを、他人が知れるはずもない話でしかない。
(´・ω・`) 「性格は、どんな感じだった?」
( ´_ゝ`) 「まあ、おとなしくはある」
( ´_ゝ`) 「ただ、毛色は違うにせよ、クックルと一緒よ」
(´・ω・`) 「ほう」
( ´_ゝ`) 「普段は無口だけど、スイッチが入ると暴走するタイプね」
(´・ω・`) 「……それは、むしろミセリじゃあ?」
( ´_ゝ`) 「それはそれ、これはこれ」
.
705
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:20:24 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「自分の好きな話になると、途端に饒舌になるんだ」
( ´_ゝ`) 「まあ、それはこっち側の人間共通だがな」
( ´_ゝ`) 「あの子の場合、人と話すのに慣れてないもんで」
ぎょろ目の話を思い出した。
昔はよく息子の話を聞かされたものだが、
息子は引っ込み思案なくせに、電車の話となると食事も忘れ夢中になるらしい。
咀嚼していた米粒なんかを飛ばしながら、語ったそうだ。
( ´_ゝ`) 「ほら。」
( ´_ゝ`) 「人って、話し方で、ああ、慣れてるな慣れてないな、ッてわかるじゃん」
(´・ω・`) 「そうだね」
(´・ω・`) 「僕も、おたくが話し慣れてることはすぐにわかった」
(´・ω・`) 「すごく落ち着いた、でも抑揚の利いた巧い話し方だ」
( ´_ゝ`) 「そいつはありがとうございます」
.
706
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:20:59 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「早口だったり、会話が成り立ってなかったり」
( ´_ゝ`) 「ま、俗にいうコミュ障、ってのかい」
兄者の巧いところは、ワンクッション置くときの言い回しだったりもそうだ。
相槌を入れたり、質問を挟んでも、流れを崩さず話し続けていられるところにある。
そしてそれは、それだけ精神体がしっかりしている、ということ。
なるほど確かに、信頼に足る人物だろう。
ミセリたちが彼に惹かれて入部したというのも、わかる話だ。
( ´_ゝ`) 「あの子の場合、昔から人付き合いが浅かったそうで」
( ´_ゝ`) 「人と接する青春を、趣味に費やしてきたんだ、」
( ´_ゝ`) 「会話にせよ仕草にせよ、マ、そんな感じの女の子よ」
( ´_ゝ`) 「ただ、万が一にも悪いやつではなかった」
.
707
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:21:27 ID:V8JiJ4eE0
(´・ω・`) 「ほう」
( ´_ゝ`) 「自分に自信がない分、随分と繊細でよ」
( ´_ゝ`) 「ほら……あれ。」
( ´_ゝ`) 「自分が傷つくようなことは、他人にするな、ッてあれ」
( ´_ゝ`) 「あれを素でゆく人物さ。 むしろ、かなり心配性だったとも言えるね」
だいたいの人物像は掴めた。
引っ込み思案、おとなしい、繊細。
付け加えるならば、きっとかなりメンタルが弱かった女性だろう。
その実根性があったかもしれないが、この際どちらでもいい。
大まかの人がわかっただけで十分だ。
( <●><●>) 「貞子は、ミセリのような色恋沙汰はなかったので?」
( ´_ゝ`) 「好きですねえ、刑事さんも」
訂正しよう。
兄者は確かにクチが巧いが、喧嘩を売る相手を見極める能力はない。
こいつは上司のいじりにすら舌打ちを欠かさない、クソ真面目の野郎なんだぞ。
.
708
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:22:30 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「なんてのはいいとして」
( ´_ゝ`) 「まあ……なかったと思うよ」
(´・ω・`) 「思う、ッてのは」
さっきの今だ。
ミセリとクックルの件よろしく、自然に隠されてはならない。
( ´_ゝ`) 「ヒッキーと、繋がりはあったんじゃないかな、とは」
( ´_ゝ`) 「思ってたよ」
(´・_ゝ・`) 「え。 まじ?」
( ´_ゝ`) 「いやあ……怪しいんだけどさ」
( <●><●>) 「何か、根拠が?」
( ´_ゝ`) 「根拠がないから、怪しい……ッて感じですね」
.
709
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:26:14 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「ヒッキーと貞子、って見ると、確かにお似合いだな、とは思うんだ」
( ´_ゝ`) 「どっちも、太陽の下よりは、木陰で生きてきた二人だ」
( <●><●>) 「ヒッキーは、どんな人だったのでしょうか」
( ´_ゝ`) 「文字通り、こっち側、ッてね」
( ´_ゝ`) 「中学の頃、いじめが原因で不登校になったそうで」
( ´_ゝ`) 「その頃にネット始めて、いろいろ変わったみたいだ」
(´・ω・`) 「ん?」
ちょっと引っかかるな。
(´・ω・`) 「確か、おたくとヒッキーって、昔からの仲だよね」
、 、、
(´・ω・`) 「不登校になった……そうで、ッてのは?」
.
710
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:42:55 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「あれ。 言ってなかったか」
( ´_ゝ`) 「俺とやつは、ネットで知り合ったんだ」
(´・_ゝ・`) 「え、そうなの!」
( ´_ゝ`) 「あれ? もしや誰も知らんかった?」
(´・_ゝ・`) 「てっきり、腐れ縁とかそんなもんかと」
同い年で昔からの知り合い、というだけで勘違いしていた。
まあ、彼らのコミュニティを考えれば、納得はできる話だ。
( ´_ゝ`) 「まあいいや」
( ´_ゝ`) 「ネットで知り合って、意気投合してな」
( ´_ゝ`) 「ちょいちょい実際に会ったりもしたぜ」
(´・_ゝ・`) 「って、じゃあヒッキーって半値だったの?」
( ´_ゝ`) 「いや?」
.
711
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:43:16 ID:V8JiJ4eE0
(´・ω・`) 「ハンネ、ってのは?」
( ´_ゝ`) 「ああ。 ネットで使う名前、だよ」
( ´_ゝ`) 「ラジオネームみたいなもん」
おじさんにも伝わりやすい、実にわかりやすい例えだ。
インターネットでは本名は晒さないものだ、と聞いていたが、そういうことか。
(´・_ゝ・`) 「あの人本名勢だったん?w」
( ´_ゝ`) 「いやいや、さすがに」
( ´_ゝ`) 「スカイプでやり取りしてる時にな、聞いたんだよ」
(´・_ゝ・`) 「出会い厨かよ〜」
( ´_ゝ`) 「ちがくて」
( ´_ゝ`) 「むっちゃ長い厨二ネームで、略しようもなかったんよ」
(´・_ゝ・`) 「ちなみに、なんて名前?」
( ´_ゝ`) 「退き際知らぬ若人よ汝は誰ぞ愛すか」
(´・_ゝ・`) 「文章wwwwwまさかの文章wwwwwwww」
.
712
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:43:55 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「そらで言えた自分につい笑ってしまうわ」
(´・_ゝ・`) 「まあまあ、若気の至りすな(笑)」
( ´_ゝ`) 「で、名前聞いたら、ヒッキーって聞いて」
(´・_ゝ・`) 「ああ、それで退き際云々……」
(´・_ゝ・`) 「だめだくそ笑うwwww」
( ´_ゝ`) 「wwwww」
( ´_ゝ`) 「……ま、そんな感じで」
( ´_ゝ`) 「大学もアルプスのとこに行ったらしいけど、」
( ´_ゝ`) 「サークル作るぞッて言ったら来てくれたわ」
(´・ω・`) 「まあまあめんどくさそうなのにね」
( ´_ゝ`) 「むしろ、俺ら以外に友だちもいなかったらしいし」
( ´_ゝ`) 「授業とかあろうが、全力で無視してくれてたわ」
.
713
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:46:49 ID:V8JiJ4eE0
(´・ω・`) 「でも、紅葉狩りには乗り気じゃなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「見るだけやん、ッてうるさかったよ」
( ´_ゝ`) 「あいつ、見た目のわりに体を動かすのが好きだったんだ」
見た目のわりにか。
なかなかしっかりとした体幹の男だった印象だが。
建設業に勤める過程で、体つきが変わったのか。
と思ったが、男は二十八を超えれば体型はすっかり変わるものだ。
兄者も、骨格からして昔は痩身だったとうかがえるが、腹が出ている。
( <●><●>) 「しかし、そんな小森ですが」
( <●><●>) 「クックルとミセリのような関係ではなかった、と」
( ´_ゝ`) 「まあ……あいつはニヒルなとこがあるからな」
( ´_ゝ`) 「もしそうだったとしても、表に出すようなことはなかったわ」
.
714
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:47:13 ID:V8JiJ4eE0
(´・_ゝ・`) 「でも、それが何か関係あるのですか?」
( <●><●>) 「事件のキッカケの多くは、愛憎劇かカネが多いですから」
(´・_ゝ・`) 「そもそも、事件じゃなかったんだけど……」
( <●><●>) 「もしそれが本当に事件だったら、亡霊は成仏していますが」
( ´_ゝ`) 「………成仏、ねえ」
兄者がつまらさなそうな声を出した。
登場人物の相関図と位置関係は把握できた。
そろそろ、その 「事故」 の背景を洗う必要がある。
(´・ω・`) 「まあ、日中の行動はわかった」
、 、
(´・ω・`) 「事故が起こったのは、あくまで深夜だったんだね?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
(´・ω・`) 「それは、みんなが寝た後、かい?」
.
715
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:47:53 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「断言こそできねえが、少なくともだいたいは寝てたと思うぜ」
( ´_ゝ`) 「俺が寝たのは日付が変わった後だから、それ以降だ」
(´・ω・`) 「変わる前くらい……二十三時頃からのみんなの動向は?」
( ´_ゝ`) 「コテージでみんな適当にだべってたな」
(´・ω・`) 「みんな、というと、誰も外には出ていなかった?」
( ´_ゝ`) 「まあ」
特に証言できるようなことはない、ということか。
夜も更けている、全員がコテージにいたのはあまり疑う余地もない。
( ´_ゝ`) 「俺とセリっち、クックル、デミやんは騒いでよ」
( ´_ゝ`) 「貞子、ギコ、ヒッキーは軽く雑談しながら、のんべんだらり」
( ´_ゝ`) 「……そうだな。 騒いでた組が、先に寝たぜ」
.
716
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:48:21 ID:V8JiJ4eE0
( <●><●>) 「具体的には、どう騒いでいたのでしょうか」
( ´_ゝ`) 「ん……どう、ッて言われてもな」
(´・_ゝ・`) 「大したことでもないよ」
(´・_ゝ・`) 「死生観と下ネタと将来が飛び交う、大学生らしい感じ」
( <●><●>) 「なにか、気になった点、変わった点は」
(´・_ゝ・`) 「さすがにない、ですね」
(´・_ゝ・`) 「……あー」
(´・_ゝ・`) 「強いて言えば、ヒッキー氏がたまにキレてたな」
(´・ω・`) 「キレてた?」
(´・_ゝ・`) 「あの人は、寛いでる隣で騒がれるのが嫌いなんすよ」
.
717
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:52:40 ID:V8JiJ4eE0
( <●><●>) 「コテージ、と言ってますが」
( <●><●>) 「大部屋に人数分の寝床があった、ということでよろしいですか?」
( ´_ゝ`) 「ああ。 つっても寝床で寝たやつは少ないけど」
(´・ω・`) 「こう……上面図的なものがあれば、嬉しいんだけど」
( ´_ゝ`) 「さすがに無いな」
( <●><●>) 「では、覚えている限りで証言してください」
と、ワカッテマスがペンを立てながら言った。
ここらの準備は早い。
兄者は一瞬言葉を詰まらせつつも、応じた。
( ´_ゝ`) 「ええと……寝床だけでいいのかい?」
( <●><●>) 「現状は。 室内での事故でもありませんし」
( ´_ゝ`) 「そうだな。 まず、でっかい長方形を描いてくれ」
.
718
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:53:18 ID:V8JiJ4eE0
言われるがまま、ワカッテマスは図を作成していった。
寝床、とは言ったが、要はリビングだったらしい。
横長の長方形のうち、左半分がバルコニーで、テレビが北西に位置する。
テレビの右隣に暖炉、手前に広いローテーブルが。
ローテーブルとは言うが、要はコタツだ。
そのコタツを覆うようにロングソファーがある。
長方形右半分は、キッチンダイニングだった。
彼らは、夕食は野外ではなく、このキッチンを利用して済ませたらしい。
描き終えて、ワカッテマスは首を傾げた。
( <●><●>) 「……ベッドの類はなかったのですか?」
( ´_ゝ`) 「ここは一階でよ、個室は二階だ」
( ´_ゝ`) 「それぞれに二段ベッドがあって、本当はそこで寝るはずだったんだ」
(´・ω・`) 「察するに、リビングで全員寝たんだ?」
( <●><●>) 「それはどうして、ですか」
.
719
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:54:39 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「……いやあ」
(´・_ゝ・`) 「大丈夫さ。 刑事さん、くだらない話の耐性はできてるから」
( ´_ゝ`) 「だったらいいんだけどさ」
勘弁してくれ。
密室鉄道でもそうだったが、こいつの言う 「くだらない」 は本当にくだらない。
( ´_ゝ`) 「ほら。 下ネタ混じりで騒いでたッつったじゃん」
( ´_ゝ`) 「で、二階の個室は、全部ふたり用でさ」
(´・_ゝ・`) 「クックルとセリっちの仲はおわかりですよね?」
(´・ω・`) 「んーー……」
だいたいの察しは、ついた。
ミセリとクックルの関係は、暗黙の了解だった。
そして、兄者を筆頭に、ミセリは茶化し茶化されのポジションだったと聞く。
( ´_ゝ`) 「わたくしが、深夜テンションでふたりを茶化してたんですよ」
( ´_ゝ`) 「そしたら、デミやんも巻き込んで、壮大な大乱闘……」
死生観、将来の話はなんだったんだ。
.
720
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:55:21 ID:V8JiJ4eE0
(´・_ゝ・`) 「セリっちが、兄者氏と対峙しながらクックルに寄るんだよ」
(´・_ゝ・`) 「個室じゃなくてもいいよねー、とか言い出してさ」
(´・ω・`) 「ほっとけばいいものを……」
( ´_ゝ`) 「面白いはすべてに優先する。 ……座右の銘さ」
何もかっこよくはない。
ただ、情景は容易に想像ついた。
(´^_ゝ^`) 「で、その流れもあって、僕ら四人はくたばるように雑魚寝だよ」
(´・_ゝ・`) 「四人がそこで横たわるもんだから、残りも一階で、と」
( ´_ゝ`) 「俺の知る限り、みんなソファーやら絨毯、コタツで寝たね」
( ´_ゝ`) 「貸切コテージなだけあって、リビングもすげえ広いから」
(´・ω・`) 「暖炉もあるくらいだしね」
( <●><●>) 「……暖炉、ですか」
.
721
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:56:03 ID:V8JiJ4eE0
ワカッテマスが、意味深に呟く。
( <●><●>) 「時期は秋ですが」
( <●><●>) 「夜は寒かったのでしょうか」
( ´_ゝ`) 「あんたらの想像する以上に、寒かった」
( ´_ゝ`) 「なにぶん、山奥、それもかなり標高の高いところだ」
アルプスは、温暖な気候で知られている。
しかし、夏も去った季節の山奥ともなれば、話は別だ。
( ´_ゝ`) 「最初、暖炉やコタツを見て笑ってたんだがな」
( ´_ゝ`) 「結果的に、夜は使ってたぜ、コタツ」
(´・ω・`) 「暖炉は使わなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「まあ、オプションだったし」
.
722
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:57:10 ID:V8JiJ4eE0
( ´_ゝ`) 「まず、セリっちが、クックルに寄り掛かるようにしてそのまま寝た」
( ´_ゝ`) 「クックルもそのまま横たわって」
(´・_ゝ・`) 「僕と兄者氏も、一気に疲れて、絨毯の上に倒れたね」
( ´_ゝ`) 「ああ……思えば、ふたりで一緒の毛布をかぶったな」
(´^_ゝ^`) 「うふふ……」
( ´_ゝ`) 「よせやい」
(´・ω・`) 「あんたらが寝たッてことは、」
(´・ω・`) 「残りの三人がその後どうしたか、まではわからないか」
(´・_ゝ・`) 「ア、目は瞑ったけど、そんなすぐには寝なかったよ」
まあ、言われたらそうか。
(´・_ゝ・`) 「僕らは絨毯だし、セリっちやクックルはソファーにもたれかかってた」
(´・_ゝ・`) 「えっと……残りも、ソファーやらコタツに寝たはず」
.
723
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 00:59:41 ID:V8JiJ4eE0
(´・ω・`) 「みんなが、一緒の空間で寝た。 それはわかった」
(´・ω・`) 「……重要なのは、ここからだ」
時系列や状況を整理していたワカッテマスも、ここで一旦線を引いた。
「事故」 はあくまで深夜、それも貞子が散歩に出かけたところから始まる。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「先に言っておくが、厳密な時間はわからねえ」
(´・ω・`) 「もっともだ」
(´・ω・`) 「わかってる、覚えてる範囲でいい」
(´・ω・`) 「……次にみんなに動きがあったのは、」
(´・ω・`) 「貞子がひとりで散歩に行ったところから、なんだね?」
.
724
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:00:28 ID:V8JiJ4eE0
兄者もデミタスも、即答はしなかった。
無理もない。
当時は寝ていた上に、それは十年も前の話だ。
少しすると兄者が話の口を切った。
( ´_ゝ`) 「……物音はした」
( ´_ゝ`) 「ほら、わかるだろうが、不慣れな場所で寝る時って、眠り、浅いだろ」
( <●><●>) 「まあ」
( ´_ゝ`) 「ただ、気には留めなかった」
( ´_ゝ`) 「まさか、それがそのまま事故に繋がるなんて思うまい」
( ´_ゝ`) 「単にトイレに行った程度にしか思わんだろ」
特に気にはしなかった。
そしてそれはつまり、前兆のようなものもなかった、ということだ。
事故は、本当に突発的なものだったのだろうか。
.
725
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:01:06 ID:V8JiJ4eE0
(´・ω・`) 「いいか」
(´・ω・`) 「ここは、重要なところだ」
(´・ω・`) 「その、物音……布ずれの音?」
(´・ω・`) 「それ以外に、変わったことはあったか?」
そんなものがあったら、それは既に十年前に言われているかもしれない。
しかし、当時と明確に違う点がある。
当時は、あくまで事故として捜査され、処理された。
それを十年越しに、事件の可能性があったとして見ている。
十年前の初動捜査や取調では、必要以上の追究などなかっただろう。
事件性が認められなかったため、最低限の状況を聞き出した程度に違いない。
'_
(´・ω・`) 、
.
726
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:01:33 ID:V8JiJ4eE0
すると、着信音が鳴った。
僕だ。
先ほど、アルプス県警の知り合いに雑なメールを送っておいた。
個人的な繋がりの強い警部だ。
今となっては、正式な警部でこそないらしいけど。
名前は三月ウサギという。
本名なのかは定かでない。
(´・ω・`) 「はい、ショボーン」
懐かしい声が聞こえてくる。
定年を超えてなお、刑事の道を選んだ生粋の刑事だ。
県警同士のやり取りともなると、面倒な手順を踏まされる。
こういう時、個人的な繋がりというものは非常に便利だ。
わざわざ刑事部長を通して協力を要請するのは、かなりの労力を要する。
連続予告殺人事件は、国中に知られる大事件だ。
当然アルプス県警にも広まっていたようで、手短に要件を伝えてくれた。
.
727
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:02:18 ID:V8JiJ4eE0
まず、データがこちら側に送られてきた。
加え、現場となるコテージ、崖の位置情報。
現場までの案内役も、必要ならば用意してくれるらしい。
ただ、担当した捜査官は既に退職しているそうだ。
僕としては、そちらからの情報も期待したのだが、仕方ない。
(´・ω・`) 「ちなみに、調べようと思えば現場は調べられますか?」
コネというコネは利用してやる。
オオカミ鉄道も然り。
現場へのアプローチは、アルプス県警に任せることにした。
地主を特定し、ガサ入れの取っ掛かりまで作ってくれればそれでいい。
言うと物臭そうに溜息を吐かれたが、協力を約束してくれた。
(´・ω・`) 「頼みますよ、三月殿」
『……ああ』
.
728
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:02:38 ID:V8JiJ4eE0
┏━─
午後二〇時一六分 アルプス県警
─━┛
受話器を置いて、大きく伸びをした。
久々に新鮮な気持ちになった。
伸びをした衝動で、デスクの上のファイルスタンドが床に落ちた。
部屋に誰もいない時、つい足をデスクにかけてしまう。
これが一番楽な姿勢なのだ。
(メ._⊿,) 「……」
拾うのも億劫だ。
ただぼんやり眺めていると、誰かが音を聞きつけたのか、部屋に入ってきた。
イ(゚、ナリ从 「……?」
イ(゚、ナリ从 「…!」
.
729
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:03:25 ID:V8JiJ4eE0
会議に出ていたはずのイナリが、扉口から俺を睨む。
一番見つかりたくない奴に見つかってしまった。
イナリはそのまま、つかつかと音を立てて、俺の隣に立った。
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
腕を組んで、俺を見下ろす。
気まずくなり、俺から先に話の口を切った。
(メ._⊿,) 「……ちょうどよかった」
(メ._⊿,) 「……それ……戻してく」
言葉を遮るように咳払いをされた。
まったく許してくれそうにない。
.
730
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:07:38 ID:V8JiJ4eE0
重い体を起こして、しぶしぶファイルをデスクに戻した。
腰が鈍い音を立てる。
(メ._⊿,) 「……随分と早かったじゃねえか」
(メ._⊿,) 「会議は……終わったのか……?」
イ(゚、ナリ从 「無事に」
ご立派なことに、イナリは警部になって以来、休みがない。
日々会議に駆り立てられるばかりだ。
優秀な人材に悩まされる警察において、
頭脳明晰なキャリア組というものはそれだけ価値があるものなのだろう。
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「?」
ふう、と胸に溜まっていた憤りの溜息を吐くと、
見慣れない水色のファイルを見て首を傾げた。
.
731
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:11:40 ID:V8JiJ4eE0
黙って手に取り、ぺらぺらとページを繰る。
ついさっき、ヴィップ県警に送った事故案件のデータファイルだ。
文面を軽く目で追って、不思議そうな顔をした。
鉄仮面と揶揄される彼女は、俺の前では多少感情の紐を緩める。
イ(゚、ナリ从 「なんですか、これ」
(メ._⊿,) 「さあ……な」
イ(゚、ナリ从 「……」
ふーん、と鼻を鳴らす。
まったく腑に落ちていない様子だ。
イ(゚、ナリ从 「まあ、いいです」
イ(゚、ナリ从 「それより、手伝ってほしい案件があるのですが」
(メ._⊿,) 「惜しいな……」
(メ._⊿,) 「一時間前に言っていたなら……手を貸してやったが……」
.
732
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:12:05 ID:V8JiJ4eE0
イ(゚、ナリ从 「何か担当、ありましたっけ」
(メ._⊿,) 「たった今……できた……」
イ(゚、ナリ从 「ふーん」
もはや、俺の言葉に耳を傾けない。
身を乗り出して、勝手に俺の旧式のパソコンを触りだした。
ヴィップ県警にデータを送り、そのままにしていた。
しまった。
イ(゚、ナリ从 「……?」
イ(゚、ナリ从 「 えっ……?」
宛先は、ヴィップ県警。
ではない。
あくまで、個人に送った、個人的なメールだ。
その宛先と文面を見て、イナリは素っ頓狂な声を挙げた。
.
733
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:12:43 ID:V8JiJ4eE0
刑事部長には黙っていてもらいたかったのだが。
見られてしまったなら仕方がない。
(メ._⊿,) 「ちっくら……面倒事を請け負っちまった」
(メ._⊿,) 「何……兎の恩返しッてやつだ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イナリも、懐かしい名前を見たのだ、感傷的になるだろう。
俺にしても、イナリにしても、ある種の因縁を持つ男なのだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「合同捜査、ではないので?」
少し気を遣わせてしまったようだ。
柄にもなく、優しい声になっている。
.
734
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:15:43 ID:V8JiJ4eE0
(メ._⊿,) 「合同捜査なら……お上サマが勝手に決めるもんだ……」
(メ._⊿,) 「……こいつァ個人的なやつよ」
(メ._⊿,) 「さしずめ……兎の恩がえ」
イ(゚、ナリ从 「だったらちょうどいいですね」
(メ._⊿,) 「……」
イナリが、ふふんと鼻を鳴らす。
何歳になっても可愛いものだ。
イ(゚、ナリ从 「くだんの連続予告殺人ですが」
イ(゚、ナリ从 「ご存じの通り、私も一枚、噛まされることになりまして」
(メ._⊿,) 「……?」
イ(゚、ナリ从 「……?」
.
735
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:19:13 ID:V8JiJ4eE0
イ(゚、ナリ从 「あの……昼渡した、会議資料は……」
(メ._⊿,) 「朝……?」
今日は、十三時頃にデスクについた。
そういえばその時、イナリに出会いがしらになにか渡された。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「……ああ、あの鼻かみ……」
,_
イ(゚、ナリ从 「鼻ッ ………」
イナリが眉間にひびを刻み込む。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「………ごめん……」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
.
736
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:24:46 ID:V8JiJ4eE0
概要は、こうだ。
国民の信頼、安心が問われる局面に、警察組織は悩まされているらしい。
テレビでは報道されていなかったが、くだんの犯人は四人目を始末したそうだ。
その顛末に、ついに管轄外の県警も動きを見せた。
アルプスにまで、ヴィップの大事件の余波が飛んできたということだ。
イナリが頭となり、適宜応援を遣わせたりすることが決まった。
イ(゚、ナリ从 「もっとも、大々的なことはできないのですが」
イ(゚、ナリ从 「とにかく人手が問われる局面、というわけです」
(メ._⊿,) 「……」
天井を仰いだ。
一度、大きく深呼吸する。
(メ._⊿,) 「だったら……精々頑張ってくれ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「は?」
.
737
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:25:46 ID:V8JiJ4eE0
ゆっくり、デスクから、イナリから離れ、廊下に向かう。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
トコトコ、と音を立てて俺の後ろについてくる。
(メ._⊿,) 「どうせ……俺ァはぐれ刑事よ」
イ(゚、ナリ从 「……また拗ねた」
拗ねてなんかいねえ。
ちいさく言ったが、イナリには聞こえなかったようだ。
(メ._⊿,) 「俺は……兎の恩返しに忙しい」
(メ._⊿,) 「こっちはこっちで……やるべきことをやるだけ……」
イ(゚、ナリ从 「私にも、共有を」
(メ._⊿,) 「……」
肩を掴まれる。
情けないことに、スタイルのいいイナリのほうが俺より背が高い。
子に背を抜かれるというのは、なかなかどうして複雑な心境になるものだ。
.
738
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:26:55 ID:eKkjmBvA0
支援
今から読む
739
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:27:35 ID:V8JiJ4eE0
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「なあ、イナリ……」
イ(゚、ナリ从 「はい」
(メ._⊿,) 「登山……好きか?」
.
740
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:33:31 ID:V8JiJ4eE0
序幕
>>2-69
第一幕
>>82-211
第二幕
>>218-296
第三幕
>>304-388
第四幕
>>398-468
第五幕
>>477-528
第六幕
>>539-624
第七幕
>>640-739
741
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:36:55 ID:/tcg0WQ.0
乙!三日月きたな!!
742
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:44:02 ID:SVfpo2GY0
乙!!
743
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 01:56:44 ID:eKkjmBvA0
読み終わった
少しずつ解決の糸口がこれから見えてくるのだろうか
乙
744
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 12:41:32 ID:VNarJfqM0
乙
745
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 13:30:36 ID:nhipiLd60
年寄りの登山か乙
746
:
名無しさん
:2018/10/13(土) 20:22:06 ID:UDm/n8nY0
乙
747
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 00:59:24 ID:lXcORFmQ0
ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIV.htm
イケメンのブーン芸神が再臨なさった 皆崇めろ
7年越しのおつきあい本当に本当にありがとうございます、、、
748
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 01:58:06 ID:BuY.j94Y0
orz
749
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 05:20:40 ID:SpZbt18g0
ありがたや…ありがたや…
750
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 15:16:38 ID:yo3KqSdU0
10年前のことよく覚えてんな
俺なんて今日の朝飯なに食ったかすら忘れちゃうのに
751
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 15:18:56 ID:BuY.j94Y0
よしこさんや、飯はまだかい?
752
:
名無しさん
:2018/10/15(月) 17:52:16 ID:/ElhCeLk0
偽り最高愛してる
続きが楽しみ
753
:
名無しさん
:2018/10/16(火) 00:40:29 ID:kWcmSbYs0
お爺さんや、ご飯は三日前食べたでしょう
754
:
名無しさん
:2018/10/16(火) 00:59:45 ID:giOua07M0
毎日食わせてやれよ…
755
:
名無しさん
:2018/10/16(火) 07:39:39 ID:DI18ffgQ0
乙ー
756
:
名無しさん
:2018/10/23(火) 07:22:17 ID:ZMU2VkO20
はぐれ刑事純情派!!!
757
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:11:52 ID:9y4TR9Iw0
┏━─
五月七日 午前七時三七分 アルプス警察署
─━┛
因縁だ。
貧乏くじを引かされたと思えば、立て続けに懐かしい顔ぶれと会わされる。
オオカミ鉄道は僕からコンタクトを取ったからいい。
昔の密室鉄道と対面した。
アスキーミュージアムとの繋がりがあった。
今度は、アルプスだ。
アルプスといえば、その序列体系に若干の歪みが生じている。
アルプス県警捜査一課、三月の名を持つ親子警部と言えば有名な話であった。
(´^ω^`) 「久しぶりだね!イナリちゃん!」
イ(゚、ナリ从 「去年会議で会ったばかりですが」
(;´・ω・`) 「一年も空いてたら久しぶりじゃん!」
.
758
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:12:36 ID:9y4TR9Iw0
昨日の晩、刑事部長に内密に呼び出された。
最初、個人的にアルプス県警を利用しようとしていたのがばれ、
それを咎められるのかと思っていたのだけど。
実際は真逆で、秘密裏にアルプス県警との協力が結ばれていたようだ。
別に敵対しているわけではないが、大々的に動けばマスコミの餌食となる。
パパラッチに嗅ぎつかれないよう、うまく協力してくれ、と言われた。
個人的にこっそり協力してもらおうと思っていたのは、とんだ心労だった。
(メ._⊿,) 「……部下はどうした」
(´・ω・`) 「走らせてますね」
久しぶりに会ったのだけど、三月殿の風貌は一切変わっていなかった。
人間、六十を超えると、容姿は大して変化しないらしい。
逆に、若いイナリちゃんはまた美人になっていた。
(メ._⊿,) 「若手のやつもか……?」
(´・ω・`) 「同じ場所に、そう何人もエースは要りませんよ」
.
759
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:13:21 ID:9y4TR9Iw0
三月殿は、ワカッテマスやぎょろ目のような突出した能力はない。
ただ、あるとすれば、その圧倒的な経験だ。
現役刑事で見れば、警察で一番キャリアを積んでいる男である。
エースというのは、イナリちゃんのことだ。
ワカッテマスに比肩する、あるいは頭脳面のみで見れば凌駕している、エース。
昔、研修の一環で、僕の部下としてヴィップ県警に配属されていた。
その時は、若い女のキャリア組ということで気まずそうにしていたが、
今では一警部として顔を利かせているらしい。
その証拠に、口数も多くなっていた。
イ(゚、ナリ从 「でしたら、警部も要らなかったのでは」
(;´・ω・`) 「だったら誰が現場を見るんだい!」
(メ._⊿,) 「で……」
( ;´_ゝ`)
(;´・_ゝ・`)
(メ._⊿,) 「代わりが……この二人かい……」
.
760
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:13:45 ID:9y4TR9Iw0
三月殿の威圧感、イナリちゃんの冷たいオーラに、
兄者もデミタスもすっかり気圧されていた。
(´・ω・`) 「まあまあ、話は走らせながら」
アルプス県警から、所轄署の刑事をふたり、鑑識をひとり借りた。
一人は僕と三月殿、イナリちゃんを。
一人は兄者とデミタス、鑑識をパトカーに乗せた。
先に兄者とデミタスを乗せたパトカーを走らせた。
その後ろを僕たち警部組が追う。
やはり、親子警部に僕が同席していたら、運転手は気苦労が絶えないだろう。
見るからに、完全に気配を消し、運転手としての役割を果たすのに勤めていた。
助手席にイナリちゃんが、僕と三月殿が後ろに座っている。
単におじさんの隣に座りたくなかったのか、上下関係を意識してくれたのか。
(´・ω・`) 「とりあえず、捜査の一部始終から伝えます」
.
761
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:14:38 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「結構です」
(´・ω・`) 「え、え?」
イ(゚、ナリ从 「必要なことは会議ですべて共有されています」
(メ._⊿,) 「……」
(´・ω・`) 「そ、そうなんです?」
おかしい。
僕はまだ情報をまとめたりしていないし、
部下のみんなも、上層部や他の部署には頼りたがらない気質なのに。
イ(゚、ナリ从 「そちらの刑事部長を招いての、会議です」
イ(゚、ナリ从 「別に今更、共有など」
(´・ω・`) 「そ、そう?」
言いあぐねていると、三月殿がちいさく俯いた。
.
762
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:15:13 ID:9y4TR9Iw0
(メ._⊿,) 「……久々にショボに会ったんだ……」
(メ._⊿,) 「虚勢張って……アピールしてえだけさ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イナリちゃんは、小さく 「ふん」 と鼻を鳴らした。
それに、三月殿の性格を考えると、大してこちらの情報など調べていない。
これだから困るんだ。
親子警部は、かなり我が強いというか、色が濃いというか。
初っ端からペースが崩されてしまう。
(;´・ω・`) 「……」
(´・ω・`) 「うぉっほん!」
(´・ω・`) 「だったら、大まかな時系列は、いいでしょう」
(´・ω・`) 「どうして、アルプスと共同戦線が組まれることになったか」
(´・ω・`) 「そこから話しますね」
.
763
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:16:16 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「ヴィップで起こってる、連続予告殺人ですが」
(´・ω・`) 「捜査の結果、大きく、三点」
(´・ω・`) 「アルプスが噛んでいることがわかりました」
(メ._⊿,) 「三点……?」
全員が、ヴィップで殺されている。
地下鉄もホテルもライブも滝公園も、ヴィップだ。
全土を揺るがす大事件ではあるが、見た目はヴィップで完結しているのだ。
(´・ω・`) 「まず、二件目の被害者、ヒッキー小森」
(´・ω・`) 「この連続予告殺人は、ヴィップ大学に昔あった、」
(´・ω・`) 「某サークル内で、うちうちに起こっているものです」
三月殿が興味深そうな顔で頷く。
まるで知らなかったと言わんばかりに。
.
764
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:16:59 ID:9y4TR9Iw0
、 、
(´・ω・`) 「そのサークルの構成員は、六人」
(´・ω・`) 「うち一名、ヒッキー小森以外の全員がヴィップの人で」
(´・ω・`) 「ヒッキー小森のみが、アルプス出身アルプス育ちです」
(メ._⊿,) 「……?」
(´・ω・`) 「ポイントは、殺される日もアルプスにいたことです」
(´・ω・`) 「オオカミ鉄道の在来線で、ヴィップ、現場のホテルに到着」
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「こちらでも伺っております」
イナリちゃんが、前を向いたまま言った。
バッグから資料を取り出して、目を落としている。
イ(゚、ナリ从 「害者は監視カメラに捉えられていましたが、」
イ(゚、ナリ从 「アルプス時点では、付き添いの類はいなかったようで」
(´・ω・`) 「……え?」
.
765
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:17:21 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「えっ」
こちらを振り返る。
(´・ω・`) 「……それ、どこの情報?」
(´・ω・`) 「僕、知らないんだけど」
イ(゚、ナリ从 「どこ……ッて」
イ(゚、ナリ从 「オオカミ鉄道に問い合わせました」
そんな情報がでたなら、総裁はすぐに僕に回すはずだけど。
結構重要なところだ。
僕は一旦話を中断し、総裁に個人的に電話をかけた。
( ´・ω・) 「もしもし、県警のショボーンですゥ」
総裁は、別段焦っている様子ではなかった。
しかし、一発 「すぐに情報は回してもらわないと」 と入れると、態度が一変した。
掘り下げていくと、結論、総裁は知らなかったようだ。
部下が調査し、害者を見つけ出したまではいいが、総裁には回さなかった。
至急ご自身で確認していただき、県警までデータを送るよう頼んだ。
電話を切る頃、総裁は焦っていた。
.
766
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:17:50 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「……」
むすッとしていると、イナリが申し訳なさそうに少し頭を下げた。
林ちゃんもそうだが、情報はすぐにこちらまで回してもらいたいものだ。
(´・ω・`) 「失礼……ええと、イナリちゃん」
イ(゚、ナリ从 「はい」
貸してくれ、と手を伸ばすと、A4を二枚くれた。
ヒッキー小森がアルプスで乗車時点、同行者はいなかった。
服装や持ち物に変化はない。
その時の車両はロングシート、ボックスシートしか備わっていないものだ。
誰かが落ち合って、害者の目を盗みオイルを盛ることは容易かったかもしれない。
ただ、案の定車両内に監視カメラはなかったようで、
乗車時に同行者がいなかったことを考えると、そちらの線は薄いだろう。
.
767
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:18:13 ID:9y4TR9Iw0
となると、ヴィップに到着後認められた、空白の時間。
犯人はそこで害者と合流し、オイルを盛った可能性が高い。
如何せんそちらは、大した情報が上がっていない。
店に入った可能性は低いため、公園か路地か、どこかでたむろしていたのか。
(´・ω・`) 「ありがとう」
イ(゚、ナリ从 「何か」
(´・ω・`) 「いや、なんでもないよ」
(´・ω・`) 「とにかく」
(´・ω・`) 「二点目」
(´・ω・`) 「三月殿、アルプス神経病院はご存じですか」
(メ._⊿,) 「神経……病院……」
言われて少し、三月殿は押し黙った。
.
768
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:18:37 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「はい」
(メ._⊿,) 「……え」
イ(゚、ナリ从 「ふたりともよく存じています」
(メ._⊿,) 「……え」
ペニー曰く、普通に大きな病院らしい。
ヴィップ県警よりも大きい建物だったそうだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「私も、掛かっていましたから」
(メ._⊿,) 「……あ」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
(´・ω・`) 「!」
.
769
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:19:07 ID:9y4TR9Iw0
イナリちゃんが、露骨にふてくされる。
三月殿が、しゅんと肩を落とした。
三月イナリ。
三月ウサギの娘と知られる彼女だが、過去に凶悪な事件に巻き込まれている。
彼女はそこで、記憶をなくしている。
,_
イ(゚、ナリ从 「………最ッ低」
(メ._⊿,) 「ち……違う……これはその……」
かなり威圧的に、ぼそっと放たれた一言に、三月殿は恐縮した。
また 「親子警部」 のペースに持っていかれる。
(´・ω・`) 「イナリちゃん、許したげてよ」
(´・ω・`) 「その人、もう六十超えた、じいちゃんだぜ?」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
若くして記憶をなくしたイナリちゃんと、
歳を取りすぎて物忘れが激しい三月殿。
なんとも皮肉な話だ。
誰にだって、忘れたい記憶は、あるのさ。
.
770
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:19:27 ID:9y4TR9Iw0
,_
イ(゚、ナリ从 「続けてください」
(メ._⊿,) 「その病院が……どうした……」
(´・ω・`) 「さて、どこから話そうか」
結構ややこしい話になる。
この話には、くだんの 「亡霊」 が一枚噛んでくるのだ。
(´・ω・`) 「イナリちゃん」
(´・ω・`) 「亡霊……ッて、わかるかい?」
イ(゚、ナリ从 「亡霊」
きょとんとした。
記憶になかったようで、バッグを太ももの上に置き、
それを下敷きに資料をずらっと広げだした。
(´・ω・`) 「いや、いい」
イ(゚、ナリ从 「え」
.
771
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:19:48 ID:9y4TR9Iw0
もし亡霊を知っているなら、絶対に、忘れるなんてことはない。
この事件の犯人で、アウトドアサークルの隠された七人目なのだ。
(´・ω・`) 「さて、ヴィップ大学の某サークル、と言いましたが」
、 、
(´・ω・`) 「最初の捜査では、構成員は六人と認識していました」
(´・ω・`) 「フッサール擬古からはじまった四人の被害者」
( ´・ω・) 「残り二人が……」
前を走るパトカーを指さす。
兄者とデミタスを加え、六人だ。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「……六人?」
(´・ω・`) 「しかし、正確には違った」
(´・ω・`) 「七人目が、いたのです」
.
772
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:20:26 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「……」
知らなかった、と言わんばかりに資料にメモを書き足していく。
思った通りだ。
僕の知らないところで勝手に組まれた共同戦線だが、
どうせ刑事部長や一課長が勝手に決めたことだ。
昨晩判明した新事実など、大して共有できていないだろう。
(´・ω・`) 「どうして、初動捜査で七人目が割れなかったか、ですが」
(´・ω・`) 「生存していた構成員が、みんなして隠していたのです」
(メ._⊿,) 「……」
一応ヴィップ大学にも問い合わせたが、
非公認サークルの名簿なんて、一切管理していないらしかった。
そのため、構成員が口を揃えれば、内部事情は隠ぺいできるのだ。
(´・ω・`) 「それはなぜか」
、 、 、、 、
(´・ω・`) 「その七人目は、実質的に死んでいたからです」
.
773
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:20:53 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「!」
(メ._⊿,) 「……そういうことか」
三月殿には、昨日、メールや口頭でさわりだけ伝えている。
対するイナリちゃんは、目を少し見開いていた。
昨日の時点では、まだ一課長に進捗は共有していない。
イナリちゃんですら知らなかった以上、世間的にはまだ知られていない情報と言える。
知り得るのは、ショボーン班と兄者、デミタス、そして亡霊だけだ。
(´・ω・`) 「昨日三月殿にお願いした、十年前の事故」
(´・ω・`) 「それで、七人目は植物状態に陥った」
(´・ω・`) 「マ、昨日三月殿にお話しした通りですな」
イ(゚、ナリ从 「…。」
,_
イ(゚、ナリ从 「………共有して、ッて、言ったじゃない……」
(メ._⊿,) 「……」
三月殿がイナリちゃんに弱いのは、彼を知る人は皆知っていることである。
表情では平生を保とうと努めているが、額に脂汗がびっしょり浮かび上がっている。
.
774
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:21:17 ID:9y4TR9Iw0
,_
イ(゚、ナリ从 「その七人目が、アルプス神経病院に掛かっていた、と」
じろりと三月殿を睨みつける。
蛇に睨まれた蛙ならぬ、狐に睨まれた兎だ。
三月殿はだらだらと汗を垂らしながら、硬直している。
(´・ω・`) 「ああ」
(´・ω・`) 「その名は、山村貞子」
(´・ω・`) 「またの名を、亡霊」
イ(゚、ナリ从 「…!」
高級そうな万年筆を、次々滑らせる。
イナリちゃんからすれば、どれも垂涎の的だろう。
(´・ω・`) 「となると、こんな話も知らないだろう」
(´・ω・`) 「昨日の夜のことだ」
(´・ω・`) 「これは、僕に個人的にかけられた電話なんだけどね」
.
775
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:22:13 ID:9y4TR9Iw0
昨日の、亡霊との通話内容は、録音してある。
口頭で説明するのも面倒だ、黙ってその音声を再生した。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
自らを亡霊と称し、それまでの連続殺人、四件を自供。
加え、残り二人も殺害する旨を告げる。
イ(゚、ナリ从 「………!」
(メ._⊿,) 「亡霊……か……」
(´・ω・`) 「その亡霊だけど」
、 、
(´・ω・`) 「十年前の事故でね、その病院に送られた」
(´・ω・`) 「ハズ、なんだ」
.
776
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:22:42 ID:9y4TR9Iw0
(メ._⊿,) 「向こうさんに……手は回っているのか……?」
(´・ω・`) 「それが、対応が面倒なのか、面白い情報はくれなかった」
イ(゚、ナリ从 「わかりました」
イ(゚、ナリ从 「アルプスのほうからも、アプローチしてみましょう」
さすがイナリちゃん、
話の裏を汲み取って、すぐにノートパソコンを開いた。
アルプス県警から正式に干渉してくれるのだろう。
ワカッテマスとイナリちゃんは、共通点が多い。
歳も近く、非常に頭が切れる。
仕事の速さ、無駄口の少なさ、冗談の通じなさ。
そして何より、期間は違えど僕が面倒を見てきたふたりだ。
ふたりがヴィップ県警で共存した期間は短いが、
その時は、間違いなく全土で見てもトップクラスの実力を誇っていた。
ヴィップ県警黄金期、というものだ。
.
777
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:23:06 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「わかっていることをお伝えすると」
(´・ω・`) 「少なくとも、今は在籍していないこと」
(´・ω・`) 「それも、おそらくは移転……たらい回しにされたのだろう、ということ」
イ(゚、ナリ从 「……」
自身も掛かっていたイナリちゃんだ、思い当たる節があるのだろう。
言うと、イナリちゃんは少し、深めの息を吐いた。
(´・ω・`) 「さて、三点目ですが」
(´・ω・`) 「これも昨日、お伝えした通り」
(´・ω・`) 「十年前の事故は……アルプスで起こったんだ」
.
778
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:23:30 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「把握しております」
イ(゚、ナリ从 「アルプス山脈、有無山の某所」
(´・ω・`) 「そうそう」
アルプスは、その名を持つ大きな山脈が連なっている。
そのうちのひとつ、アルム山で事故は起こった。
昨日、三月殿に調べてくれ、と頼んだ案件だ。
イナリちゃんにも、その情報は回っているようだ。
ちょっと安心した。
(メ._⊿,) 「……」
昨日の今日で、場所を特定し、干渉まで漕ぎ着けられている。
三月殿個人に任せていた場合、あと一日はかかっただろうか。
と考えると、イナリちゃん含むアルプス県警の力を借りられたのは大きいぞ。
パトカーはいま、真っ直ぐ現場に向かって山道を走っている。
確かに辺境と呼べる場所だったようで、一番近い署からでも一時間はかかるらしい。
.
779
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:25:16 ID:9y4TR9Iw0
警部三人に、当事者二人。
万が一に備えた警官二人と、念のために鑑識。
八人を乗せて、パトカーは十年前に向かって走っている。
(´・ω・`) 「以上が、アルプス県警と協力することになった主な理由ですね」
イ(゚、ナリ从 「警部」
(´・ω・`) 「ん」
四人いるパトカーの、うち三人が警部なんだ。
唐突に警部なんて言われたら、ちょっと混乱するな。
イ(゚、ナリ从 「しかし、事故は事故」
イ(゚、ナリ从 「察するに、その事故に事件性がなかったか、を検証したいのでしょうが」
イ(゚、ナリ从 「果たして、可能なのでしょうか」
(´・ω・`) 「わからない」
イ(゚、ナリ从 「……」
.
780
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:25:46 ID:9y4TR9Iw0
当然、事故のあと、コテージは掃除されるだろう。
仮に十年前の指紋が検出できたとして、残っているものはなかろう。
加え、いまはコテージの貸出も終了している。
現場となる崖は、いわば自然そのままだ。
十年前と様相を変えていないほうがおかしい話である。
ここで何かが掴めるかは、はっきり言って博打ですらあった。
(´・ω・`) 「わからない、けど」
(´・ω・`) 「前に乗せた二人」
(´・ω・`) 「彼らに現場をもっかい見せて、そのうえで検討したいんだ」
人間の記憶というものは面白いもので、
何かキッカケさえあれば、芋づる式に記憶が蘇ることがある。
それも、藁を掴むような話ではない。
じゅうぶん起こり得る、期待の持てる確率で、だ。
イ(゚、ナリ从 「まあ、わかりました」
イ(゚、ナリ从 「ところで」
(´・ω・`) 「はいよ」
.
781
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:26:13 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「現場……山奥ですが、」
イ(゚、ナリ从 「ネットの電波は、届くのですか?」
(´・ω・`) 「……」
三月殿を見やる。
(メ._⊿,) 「……」
まったくわからない、といった顔をされた。
水を打ったようになった。
イ(゚、ナリ从 「…。」
(´・ω・`) 「………」
(´^ω^`) 「ま、まあ……届くんじゃない?」
イ(゚、ナリ从 「…。」
科学の進歩は素晴らしいものだ。
昔の携帯電話には、アンテナがついていて、
それを伸ばさないと電話なんてできなかったものだ。
.
782
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:26:39 ID:9y4TR9Iw0
イナリちゃんが訝しげな顔をするなか、
五月のアルプスは、随所で葉桜が山々を彩っていた。
三月殿とともに臨んだ事件を思い出す。
因縁だ。
密室鉄道だったり、イナリちゃんだったり、連続殺人だったり。
今度は葉桜という因縁が僕の前に現れた。
どうする。
嫌な予感を信じるならば、次にはいよいよ、あの女の子が出てくるぞ。
イ(゚、ナリ从 「……警部は、葉桜はお好きで?」
(´・ω・`) 「ん。 え。」
イ(゚、ナリ从 「ずっと、葉桜を見ていたので」
おや、と思った。
以前のイナリちゃんなら、そんな雑談、決して交わそうとしなかった。
精神的に大人になって、心の余裕ができたのか。
あるいは、単なる気まぐれだろうか。
.
783
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:27:15 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「いやあ」
(´・ω・`) 「三月殿との思い出を、ちょっと」
(メ._⊿,) 「……ふん」
何年前だろうか。
少なくとも、三月殿がまだ六十の山を登りきる前だった。
イ(゚、ナリ从 「……」
( ´・ω・) 「確か、こんな季節でしたよね」
(メ._⊿,) 「……忘れたな」
腕を組んで、適当にあしらわれる。
三月という男は、なかなか人が掴めない。
はたから見れば、黒いボロ衣を着た無口な隻眼の爺さんなのだが、
そのわりに背が低かったり、目がくりっと大きかったりと、可愛らしい一面もある。
.
784
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:27:43 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「そうですよね、忘れますものね」
(メ._⊿,) 「いや……忘れては……」
隻眼といえば、イナリちゃんもだ。
別に、単なる偶然には違いない。
イナリちゃんは、記憶を失った事件で。
三月殿は、それとはまったく別の、大昔の事件で、目に傷を負っている。
もっとも、犯人の凶刃による傷、という点では共通するが。
(´・ω・`) 「どうしたんだい、イナリちゃん」
(´・ω・`) 「結構ノリ気じゃない」
イ(゚、ナリ从 「……」
(´^ω^`) 「久々の現場に、胸が躍るッてやつかな?」
イ(゚、ナリ从 「……」
.
785
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:28:13 ID:9y4TR9Iw0
なかなか可哀想な女の子だとも思った。
キャリア組は、結構まわりから妬まれたりするのだ。
現場一辺倒のぎょろ目なんかとは、特に相容れない部分があるだろう。
しかし一方で、警察でも随一の美貌を持っている。
詳しい話は知らないが、少なくとも僕の下にいた頃は、
キャリア組の女であることを面白く思わない層と、
その美貌を、眼福と言わんばかりに支持する層とで分かれていたものだ。
イ(゚、ナリ从 「いろいろと、新鮮ですから」
(´・ω・`) 「新鮮」
イナリちゃんが好んで着ているのかはわからないけど、
体のラインがよく表れる、異常に細いスーツを着込んでいる。
男性の支持層を勝ち得たともいえる線の細さは、未だ健在であった。
イ(゚、ナリ从 「私が現場に出るのも、そう」
イ(゚、ナリ从 「おふたりが一緒にいるのもそうですし」
(´^ω^`) 「あ。 僕に会えたのがそもそも新鮮? 嬉しい?」
.
786
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:28:34 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「………まあ」
(´・ω・`) 「うへっ」
ちょっとドキッとした。
なるほど確かに、以前より遥かに心の余裕を持っているようだ。
からかってやろうと思ったのが、カウンターされてしまった。
(´・ω・`) 「えっと、ああ」
(´^ω^`) 「キャンディー、なめる?」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
(´・ω・`) 「……」
ポケットからふたつ、キャンディーを取り出した。
ミセリにもあげた花飴は、しかし受け取ってもらえなかった。
.
787
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:28:57 ID:9y4TR9Iw0
┏━─
午前九時二九分 アルプス山脈 有無山
─━┛
パトカーはやがて、十年前の現場に到着した。
兄者が言っていたように、確かに辺境で、
しかし雄大に広がるアルプス山脈の景色は、見事であった。
ただ、季節は五月。
紅葉は当然だがうかがえないし、
それ以上に、想像を超える寒さに見舞われた。
イ(゚、ナリ从 「……」
パトカーを降りて、イナリちゃんは思わず体をさすった。
僕は、トレンチコートを着込んでいるから大丈夫だけど。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
三月殿も肌寒さを感じたようだ。
そんな、穴だらけのボロ衣なんか着ているからだ。
.
788
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:29:17 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「あーー」
(´・_ゝ・`) 「……間違いないね」
'_
(´・ω・`) 、
一方の兄者、デミタスは肌寒さなど感じなかったようだ。
一足先に着いて、周囲を見て回っていたらしい。
歩み寄ると、ふたりが振り返った。
( ´_ゝ`) 「ここですよ、ここ」
(´・ω・`) 「この、崖」
( ´_ゝ`) 「間違えるわけがありません」
( ´_ゝ`) 「貞子は……この崖から、落ちました」
.
789
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:29:59 ID:9y4TR9Iw0
崖は、確かに切り立った、危険なものだった。
柵など当然なく、雨が降ってしまえば思わず滑り落ちてしまいそうだ。
なにより、風が強い。
体幹がしっかりしていなければそれだけでバランスを崩しかねない。
絶壁から、随所で突出した岩や木が窺える。
当時がどうだったかはわからないが、貞子は確かに、半ば転がり落ちていったのだろう。
(´・ω・`) 「………ふむ」
(´・_ゝ・`) 「僕らがごはん食べてたのは、あっちらへん」
(´・ω・`) 「どれ」
デミタスが指を差したのは、崖際から十メートルほど向こうの開けた場所だった。
草が生えておらず、平坦な岩肌が露出している。
もう少し向こうにいくと、深緑のトンネルとなる。
危険なわけではなく、太陽光を浴びながら景色を一望できるため、
食事をするとなれば適した場所であることには違いなかった。
.
790
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:30:25 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「当時も、こんな感じだったのかな」
( ´_ゝ`) 「だな」
( ´_ゝ`) 「変わってなくて、ちいと驚いちまった程だ」
自然からすれば、十年ぽっちという時間では大した変化ができないのか。
ふたりが迷いなく当時の証言をする辺り、自然の規模の規格外さに驚かされる。
(´・ω・`) 「で、コテージが……」
( ´_ゝ`) 「さっきの道を、左に道なりに進めばあったさ」
( ´_ゝ`) 「今あるかはわからんがね」
分岐点はあったが、そこに看板などは見当たらなかった。
朽ちて自然になくなったのか、コテージを貸さなくなったため処分したのか。
道にしたって、車が通る程度の幅はあったが、
整備などはもちろんされておらず、スリップしてしまえばそのまま即死すらあり得る。
証言でたびたび挙がった 「辺境」 には違いない場所だった。
.
791
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:30:53 ID:9y4TR9Iw0
(メ._⊿,) 「……ここか」
(´・ω・`) 「いやあ」
(´・ω・`) 「さすがアルプス、恵まれた大自然の地」
若干の皮肉も添えて言うと、三月殿は目を細めた。
視線の先には、十年前兄者たちが見ていたのであろう山脈があった。
どうやら僕の言葉は感傷を前に打ち消されたのだろう。
風にマントを揺らしながら、じっくりと景色を見やる。
アルプスの人間からすれば、この景色は特別な美しさが感じられるのだろうか。
(メ._⊿,) 「……」
当時と違うと思われるのは、濃霧だ。
かなり標高が高く、山の頂のほうには濃霧がかかっているのが肉眼でもわかる。
(´・ω・`) 「結構、濃いですな」
(メ._⊿,) 「……こんなもんじゃねえよ」
.
792
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:35:32 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「というと」
(メ._⊿,) 「有無山だろう……」
(メ._⊿,) 「……もう一ヶ月早ければ……車すら出せなかっただろうよ」
(´・ω・`) 「そんなにですか」
自然が豊か、ということはつまり水が豊かであることに繋がる。
山を登る時も、滝や川が随所で見受けられた。
気候には詳しくないが、条件さえ合えば霧自体は頻繁に発生するのだろう。
(´・ω・`) 「十年前って、霧、出てた?」
(´・_ゝ・`) 「霧……ですか」
(´・_ゝ・`) 「あったような、なかったような」
( ´_ゝ`) 「いや、特に」
( ´_ゝ`) 「むしろ、あの時はカラッカラに晴れてたぜ」
.
793
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:36:04 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「当時は……紅葉シーズンか」
(´・ω・`) 「三月殿」
ヴィップに住んでいると、霧などほとんどお目に掛かれない。
霧は重要な情報だ、ある程度概要は押さえておきたい。
(´・ω・`) 「霧って、出やすい季節とか、あるんです?」
(メ._⊿,) 「……季節……か」
(メ._⊿,) 「……秋なら……それもここらなら……」
(メ._⊿,) 「最悪……向こう五メートルが見えなくなるかもしれねえな……」
(;´・ω・`) 「本当に言ってますか?」
(メ._⊿,) 「言ってしまえば……雲の中だ……」
.
794
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:36:30 ID:9y4TR9Iw0
地上にいる限り、そのようなことはないらしい。
しかし、舞台が特殊だ。
山、それも高いところにいるため、文字通り雲に呑まれるようになるのか。
イ(゚、ナリ从 「厳密に言えば、雲と霧に分類上の違いはありません」
唖然としていると、後ろからイナリちゃんが言った。
イ(゚、ナリ从 「霧って要は、雲と同じく、飽和した水分が空気中を漂っている現象です」
(´・ω・`) 「そうなの?」
イ(゚、ナリ从 「ただ、言葉として、雲は空を浮いているものです」
イ(゚、ナリ从 「同じ現象が目の前で働いたからといって、」
イ(゚、ナリ从 「雲と言いづらいのは、まあわかる話ですね」
アルプスの人間からすれば常識なのか、
イナリちゃんが単に博識なだけなのか。
.
795
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:36:53 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「今朝、事故当時の気象データを洗いましたが」
イ(゚、ナリ从 「実際に、朝方は強い霧が発生していたようですから」
( ´_ゝ`) 「なんだって?」
兄者が間髪入れずに割り込んできた。
( ´_ゝ`) 「俺は確かに見たぜ」
( ´_ゝ`) 「………この下に落ちてた貞子を、ハッキリと」
( ´_ゝ`) 「いまでも、脳に焼き付いてやがる」
イ(゚、ナリ从 「……ふむ」
(´・ω・`) 「どうなの、イナリちゃん」
当事者が言うと、説得力がある。
崖下は、ウン十メートルもの高低差がある。
平生でもはっきり見えるか怪しいくらいの距離だ、
霧なんてかかっていれば 「見る」 ことはできないだろう。
.
796
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:37:15 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「見たのは、何時ごろですか」
( ´_ゝ`) 「……すまねえ、詳しくは覚えてないけどよ」
( ´_ゝ`) 「少なくとも霧はなかった。 これは確かだ」
イ(゚、ナリ从 「と、なると……」
空を仰いで、イナリちゃんが顎に手を当てる。
イナリちゃんは、データを重視する子だ。
データと証言、現場状況に食い違いがあった場合、
そこから推理を出発させて真実を追究するスタンスを取っている。
(メ._⊿,) 「イナリ……そいつァどこのデータだ」
イ(゚、ナリ从 「どこ、というと」
(メ._⊿,) 「有無山全域……か」
イ(゚、ナリ从 「はい」
.
797
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:37:56 ID:9y4TR9Iw0
三月殿が首の関節を鳴らす。
日頃の、イナリちゃんに頭が上がらない彼じゃない。
本腰が入っている、シリアスな警部だった。
(メ._⊿,) 「山は……ご機嫌だ……」
(メ._⊿,) 「あまりデータを過信すると……痛い目を見るぞ」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「曖昧なんだよ……山の機嫌ッてのは……」
イ(゚、ナリ从 「……」
,_
イ(゚、ナリ从 「結論を、スパッと言って」
(メ._⊿,) 「その時は霧が薄かった……なかったッてだけだろうよ……」
視線をイナリちゃんから遠ざけるように動かした。
シリアスだろうがなんだろうが、イナリちゃんには敵わないのか。
.
798
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:39:14 ID:9y4TR9Iw0
むろん、兄者の思い込みもあり得る。
転落した貞子、というのは彼からすれば強烈なインパクトがある。
そのインパクトが、視野や記憶を侵食した可能性は高い。
しかし、何にせよ目視できた以上、
僕らが言うような濃霧、はなかったことが断言できる。
イ(゚、ナリ从 「まあ、いいですが」
イ(゚、ナリ从 「ここらは、起伏が激しいですよね」
(´・ω・`) 「うん。 車からも、確認できた」
イ(゚、ナリ从 「その、谷底」
イ(゚、ナリ从 「冷たい空気が昇ってくることで、疑似的な雲が出現するのです」
イ(゚、ナリ从 「上昇霧……と、専門的には言うみたいです」
.
799
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:39:43 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「それが、事件当時にはあった、と」
イ(゚、ナリ从 「まあ、上昇霧に限った話ではないですが」
イ(゚、ナリ从 「少なくともアルプス山脈北部、ここらでは霧が発生していました」
僕がぎょろ目の捜査を信じているように、
イナリちゃんのデータやそれに基づく推理は、基本的に信じている。
しかし、当の兄者が否定している以上、特に関係はないのだろうか。
霧、となると、それは転落の原因にもつながる。
(´・ω・`) 「じゃあ、霧も抑えたうえで時系列を確認したいけど」
( ´_ゝ`) 「あの、コテージじゃだめですかね」
(´・ω・`) 「へ」
( ´_ゝ`) 「その……なんと言いますやら」
兄者が、眉をひそめて、ゆっくり話す。
その声には、多少の怯えが感じ取られた。
.
800
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:40:45 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「怖い……んスよ。」
( ´_ゝ`) 「トラウマ、というか、なんつーか」
( ´_ゝ`) 「とにかく、せめて車にでも戻って、それで話がしたい」
(´・ω・`) 「これは失礼」
と言って、イナリちゃんに目配せすると、頷いてくれた。
当事者の心境的にも、単純な安全で言っても、ここは不適切だ。
車に戻る時、三月殿は相も変わらず
ポケットに手を突っ込んだまま、向こうの方の山を見つめていた。
(´・ω・`) 「三月殿」
(メ._⊿,) 「…………ん。」
(´・ω・`) 「一旦、車のほうに戻りましょう」
.
801
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:41:22 ID:9y4TR9Iw0
(メ._⊿,) 「……ああ。 すぐ戻る」
(´・ω・`) 「なにか?」
いや。
ちいさく呟いた。
(メ._⊿,) 「久々の……登山だ」
(メ._⊿,) 「少し……きれいな空気を……味わっておきたい」
(´・ω・`) 「わかりました」
イナリちゃん、兄者、デミタスを連れて戻ってきた。
深緑のトンネルの、少し先。
パトカーを二台停めてある。
イナリちゃんが運転席につく。
エンジンをかけたかと思うと、すぐさま暖房を入れた。
顔色は変わっていないが、やはり寒さが堪えたのだろう。
.
802
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:43:20 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「……」
助手席には、僕が座った。
さて、出発するか、ここで検討をはじめるか。
( ´_ゝ`) 「刑事さん」
イ(゚、ナリ从 「はい」
( ´_ゝ`) 「例の、コテージって」
( ´_ゝ`) 「いま入れたり、するんです?」
イ(゚、ナリ从 「入ろうと思えば」
'_
(´・ω・`) 、
聞いてないな。
イナリちゃんの顔を見やると、イナリちゃんが僕にも視線をくれた。
イ(゚、ナリ从 「なんでも、貸主は相当なご高齢で」
イ(゚、ナリ从 「当初同伴してもらうつもりでしたが、厳しそうでした」
イ(゚、ナリ从 「なので、鍵だけ預かっています」
.
803
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:44:07 ID:9y4TR9Iw0
いつの間に。
聞くと、イナリちゃんは顔を澄ますだけ澄まして、返事は控えられた。
(´・_ゝ・`) 「でも……なんか嫌だな」
( ´_ゝ`) 「思い出すからか?」
(´・_ゝ・`) 「その、虫とか多そう」
( ´_ゝ`) 「どうでもいいわw」
手入れされたのは、何年前だろうか。
かびの臭いや、蜘蛛の巣が目立つには違いない。
こんな山奥、大自然の空き家だ、動物や昆虫の棲家になるのもおかしくないだろう。
(´・ω・`) 「コテージか……」
(´・ω・`) 「どうする、イナリちゃん」
聞くと、答えが用意されていたかのようにすぐ拒否された。
女の子だろうと、イナリちゃんとて立派な警部だ、
いまの虫の話を聞いて、ではないことを切に願うところである。
.
804
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:46:41 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「事故現場はあくまで先ほどの崖」
イ(゚、ナリ从 「コテージは拠点に過ぎず、当時の物証も一切ないでしょう」
イ(゚、ナリ从 「だったら、検討を進めるのが時間効率的にもベターかと」
うわあ、すっごいいじりたい。
でも一般人の前でいじるのは少し可哀想だ。
何より言っていることそのものは的を射ている、いいだろう。
この場にぎょろ目がいなかったのが彼女にとっての救いだ。
(´・ω・`) 「鑑識連れてきたんだけど……どうしよう?」
イ(゚、ナリ从 「でしたら、警部にご同行願います」
イ(゚、ナリ从 「昨日今日駆り出された私が行っても、仕方ありません」
言っていることは、確かに的を射ている。
射ているが、何年経ってもイナリちゃんはイナリちゃんだった。
.
805
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:47:07 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「だったら俺も連れてってくれ」
(´・ω・`) 「ん」
( ´_ゝ`) 「俺がいた方が適任。 そうだろう?」
(´・ω・`) 「ああ、そうだね」
イ(゚、ナリ从 「……」
鑑識、僕、兄者。
あと警官ふたりも付きあわせよう。
証拠は、イナリちゃんの言う通り何も残ってないと思う。
ただ、検討をより掘り進めるには都合がいい。
イ(゚、ナリ从 「それはそうと」
イ(゚、ナリ从 「あなたには、いくつかお伺いしたいことが」
( ´_ゝ`) 「なんでもござれ」
.
806
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:48:14 ID:9y4TR9Iw0
兄者は先ほどから一転、冷静を保っていた。
車に戻ることで、落ち着きを取り戻したのだろう。
イ(゚、ナリ从 「事件発覚は、いつですか?」
イ(゚、ナリ从 「また、その、第一発見者」
( ´_ゝ`) 「朝方……としか言えないな」
( ´_ゝ`) 「具体的に何時か、はわからないですね」
イ(゚、ナリ从 「では、発見者は」
( ´_ゝ`) 「わたしです」
イ(゚、ナリ从 「……ふむ」
ファイルデータと照会しながら、頷く。
ここらは、十年前既に調べられたところだろう。
間違いがないか、新事実がないかを随時、チェックしている。
.
807
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:49:33 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「崖の下、だったんだよね」
(´・ω・`) 「きみは、どうして見つけられたの?」
( ´_ゝ`) 「ああ……」
( ´_ゝ`) 「俺は、早起きしたんだ」
( ´_ゝ`) 「朝一の紅葉が見たくて、な」
きっかけも、ただの偶然。
僕は彼のクチから、どこかに事件性を見出さなければならない。
「亡霊」 という存在が、不幸中の幸いだった。
奴がいることで、彼の話を、最初から疑ってかかることができるのだ。
( ´_ゝ`) 「で、つい癖で、写真を撮ろうと思った」
( ´_ゝ`) 「ただ、相棒の一眼レフを落とした話はしたよな」
(´・ω・`) 「してたね」
.
808
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:49:57 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「で、ふと崖の下を見たんだよ」
( ´_ゝ`) 「……それがキッカケさ」
(´・ω・`) 「……」
事件性は、ない。
カメラを落としたことを思い出して、崖下を見る。
至って自然な道理、道筋だ。
(´・ω・`) 「その、カメラって」
(´・ω・`) 「警察も調べてるのかな」
イ(゚、ナリ从 「一応、一文だけ、ちょこっと」
イ(゚、ナリ从 「ただ場所は多少ずれるみたいですが」
( ´_ゝ`) 「まあ、崖下を見たキッカケなだけよ」
( ´_ゝ`) 「ここにカメラを落としたんだよなァ、とか思って見たわけじゃない」
( ´_ゝ`) 「そういや、カメラ、崖の下に落としたなァ……程度の、軽いノリさ」
.
809
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:52:07 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「……」
ロジックは、いっそ付け入る隙がないほどに、自然。
ただ、自然すぎるからこそ、多少の猜疑心も芽生える。
「実は事故ではなく事件だった」 という前提があるから、
とはわかっているものの、つい眉がピクリと動いてしまう。
イ(゚、ナリ从 「見てからの、あなたの行動、心境は」
( ´_ゝ`) 「心境……ッたって……」
( ´_ゝ`) 「………なんだろう。 言葉にできねえな」
( ´_ゝ`) 「言葉にできないからこそ、トラウマになったんだ」
過去に何度か、トラウマ関連の事件を扱ったことがある。
その時に調べたが、トラウマという症状は、
言語化できないほどの強烈な印象が原因でなる、という。
たとえばイナリちゃんだが、以前の記憶をなくしていなければ、
当時の事件が原因で、刃物や何かしらにトラウマを持っていてもおかしくない。
思えば、その時に初めて、僕はトラウマという症状を調べた記憶がある。
彼女の事件を担当したのは、僕なのだ。
.
810
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:52:35 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「とにかく、訳が分からなくて硬直した」
( ´_ゝ`) 「どんくらい固まってたかなんて、いま振り返ってもわからねえ」
( ´_ゝ`) 「五分かもしれないし、五秒かもしれないし、五時間かもしれない」
( ´_ゝ`) 「生きてきて、あんなに時間ッつーもんが感じられなかったのは、なかったぜ」
一般市民の大多数は、身内の悲惨な事故現場を見ることがない。
どの家庭にも必ず訪れる、大往生による訃報ですら、
彼らは言葉にできない恐怖、寂寥感を覚えるのだ。
まして想定外の事故、事件、死亡など、想像すらできないほどの感情に支配される。
その点、兄者の言い分はやはり、正確だ。
平生では決して陥るはずのない感覚を、しっかりと理解している。
貞子の悲惨な姿を見たのは、間違いないのだ。
イ(゚、ナリ从 「それは、一目見て、すぐ被害者だ、とわかったのですか?」
( ´_ゝ`) 「わかったね」
( ´_ゝ`) 「……と言いたいけど、なんなんだろうな」
イ(゚、ナリ从 「?」
.
811
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:53:54 ID:9y4TR9Iw0
兄者が、一瞬言葉を詰まらせる。
( ´_ゝ`) 「いま思うと……こう、理屈とかじゃねえんスよ」
( ´_ゝ`) 「実際には、はっきりと貞子と見えたワケじゃなかったかもしれない」
( ´_ゝ`) 「でも、見た時、目を疑って、すぐ貞子と、頭が感じた」
( ´_ゝ`) 「服装がそれっぽいからとか、髪が、とかあるかもしれないけど」
( ´_ゝ`) 「こう……理屈じゃなく、貞子が死んでいた、ッて感じたんだ」
( ´_ゝ`) 「血だまりとかもなかったし、なおのこと……理屈じゃなかったと思う」
イ(゚、ナリ从 「……」
口達者の兄者が、当時の心境を説明しあぐねている。
それは、記憶が薄れている、といったものではない。
心境をずばり言い当てる言葉が、存在しないのだ。
本人が、なんとか言葉にしようとしている通りである。
服装、髪、体型、あらゆる要素が自然のうちに脳内で貞子と結びつけただけなのだろう。
しかし一方で、そんな非現実的な、という心理も、無意識のうちに働くはずでもある。
だから、理屈ではない。
なぜかはわからないが、崖下で倒れている何かを、貞子と感じた。
兄者の脳は、論理的にそれを説明できないでいた。
.
812
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:54:20 ID:9y4TR9Iw0
イ(゚、ナリ从 「そうですか」
イナリちゃんは、データ重視の刑事だ。
人間の持つ感情は、もろく曖昧なものだと考えている節がある。
いまの兄者の説明を、どう受け取ったのだろう。
イ(゚、ナリ从 「では、その後の行動は」
( ´_ゝ`) 「なんか、こう、なんなんだろうな」
( ´_ゝ`) 「とにかく、ヒッキーを呼んだ」
イ(゚、ナリ从 「ヒッキー……ヒッキー小森ですね」
人物ファイルを繰りながら、頷く。
兄者の古い友人で、連続予告殺人第二の被害者。
( ´_ゝ`) 「で、見せた」
イ(゚、ナリ从 「見せた」
.
813
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:56:46 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「何が起こったかが、よくわかってなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「なんかよくわからなかったから、とりあえず見せればいい」
( ´_ゝ`) 「そう思った」
イ(゚、ナリ从 「崖まで連れてきて、崖下を覗かせたんですね?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
イ(゚、ナリ从 「彼は、どんな様子でしたか」
( ´_ゝ`) 「なんかよくわからん、ッて感じだったな」
( ´_ゝ`) 「ただ、少しして、は? ッて言ってたわ」
ヒッキー小森も、直接話したことはないが、
まあ彼も兄者よろしく、身内の事故死など経験したことがないだろう。
当時の彼の心境は、ある程度察することはできる。
.
814
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:57:06 ID:9y4TR9Iw0
( ´_ゝ`) 「でもアイツ、俺の雰囲気から、何かは察してたんだろうな」
イ(゚、ナリ从 「山村貞子が転落していた、ということを?」
( ´_ゝ`) 「いや。 ンな具体的なことじゃなくて」
( ´_ゝ`) 「ただならぬ……トンでもないことがあったんだな、とか」
旧友だからこそ感じ取れるものは、確かにある。
兄者に呼び出され、連れられている時、よからぬものを察したのだろう。
( ´_ゝ`) 「混乱してた俺なんかより、よっぽど冷静だった」
( ´_ゝ`) 「とにかく、警察を呼ぼう、と」
イ(゚、ナリ从 「冷静ですね」
( ´_ゝ`) 「でも、それに助けられた」
( ´_ゝ`) 「そうか、とにかく人を呼べばいいのか」
( ´_ゝ`) 「俺は、ハッと気づかされたわけよ」
.
815
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:59:23 ID:9y4TR9Iw0
(´・ω・`) 「単なる疑問なんだけど、当時電波は通じたのかい?」
( ´_ゝ`) 「ん」
イナリちゃんが当初懸念していた、電波状況。
少なくとも今は、インターネットも電話もつながるが、十年前はどうか。
( ´_ゝ`) 「会社次第ッて感じだ」
( ´_ゝ`) 「ほら、山に強い、海に強い、都市に強い、とか」
メガキャリアの特徴だ。
どうしてそうなっているかはわからないし、今となってはそれほど違いはないらしいが、
当時は確かに、携帯会社によって電波の届く場所、届かない場所というのがあった。
船乗りなんかは、A社の電話を。
登山家なんかは、D社の電話を。
そんな棲み分けは、確かにあったものだ。
( ´_ゝ`) 「残った六人のうち、一人だけちゃんと電波が通ってるやつがいてな」
( ´_ゝ`) 「ええと……誰だったか」
.
816
:
名無しさん
:2018/10/27(土) 23:59:56 ID:9y4TR9Iw0
(´・_ゝ・`) 「僕だよ、僕」
(´・_ゝ・`) 「僕だけバリサンだったから、僕の電話貸したんだ」
バリサン、か。
懐かしい響きだが、当時確かにそんなやり取りはあったのだろう。
すぐに、通報は、されたのだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
( ´_ゝ`) 「で……人が来るまで、貞子のことは、言わなかった」
(´・_ゝ・`) 「知らなかったんだよ、僕たち」
( ´_ゝ`) 「悪いとは思った」
( ´_ゝ`) 「でも、場所が悪かった」
冷静な判断だ、と思った。
集団でパニックになってしまうのは、この場合もっとも最悪な展開なのだ。
誰かが、わけもわからず助けようと、自らも飛び降りてしまうかもしれない。
どんな人間も、理性を失うと、何をしでかすかが本当にわからないものなのだ。
.
817
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:02:08 ID:CWcmTz4o0
( ´_ゝ`) 「完全に町から切り離された、山奥」
( ´_ゝ`) 「自分たち以外、誰も助けてくれる人がいない」
( ´_ゝ`) 「貞子を残して帰るわけにもいかない」
( ´_ゝ`) 「まして霧が濃かった、車を出して遭難なんてしてられんしな」
(´・ω・`) 「……ん?」
いま、妙なことを言ったな。
そう思ったのと同時に、イナリちゃんが既に口を切っていた。
イ(゚、ナリ从 「霧は、出ていたのですね?」
( ´_ゝ`) 「え?」
イ(゚、ナリ从 「山村貞子を見た時、あなたは霧がなかったと言った」
イ(゚、ナリ从 「でも、通報した後、霧が濃かったとおっしゃる」
.
818
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:02:41 ID:CWcmTz4o0
( ´_ゝ`) 「あれ?」
(´・ω・`) 「……」
これは、どう見るべきか。
ただの言葉のあやか。
記憶が混同しているのか。
それとも、貞子を目撃した時既に霧があったのか。
霧で見えづらいなか、先ほど自分で言っていた 「感覚」 が働いたのか。
そんな第六感、物理的にあり得ない。
と思いたくはなるが、不思議なことに、
人間は、科学に囚われないスピリチュアルな感覚が働く時が本当にあるのだ。
もっとも、当時ほんとうにそうだったかまでは保証できないけど。
( ´_ゝ`) 「……どうだったっけ」
(´・_ゝ・`) 「霧……どうだろう」
(´・_ゝ・`) 「あったと言えばあったし、なかったと言えばなかった」
イ(゚、ナリ从 「……そうですか」
.
819
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:05:03 ID:CWcmTz4o0
(´・ω・`) 「霧のデータって、事故ファイルにあったのかい?」
イ(゚、ナリ从 「いえ」
イ(゚、ナリ从 「事故当時の日時、場所を気象データに照会したものです」
(´・ω・`) 「……ふむ」
イ(゚、ナリ从 「少なくとも、事故ファイルに、気象の記述はありませんでした」
なんとも言えないところだった。
デミタスも曖昧にしか思い出せないのを見る辺り、
当時はそれどころじゃない空気が漂っていたのだろうと察しはつく。
やはり、当時のその事故を担当した警官にアプローチすべきだろうか。
しかしそれをイナリちゃんに問うと、少し声のトーンを落とした。
イ(゚、ナリ从 「既に、確認はしております」
(´・ω・`) 「おっ」
イ(゚、ナリ从 「覚えてない、とのことでした」
イ(゚、ナリ从 「霧のことじゃありません。 事故のことを、です」
.
820
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:08:09 ID:CWcmTz4o0
チッ。
まあ、当人のことを考えると、仕方がないか。
今の僕らは、当時の事故を疑ってかかっている。
しかし、当時の彼にとっては、それは事故として終わったものなのだ。
何かしらの悪意渦巻く事件ならともかく、偶発的な事故はそう記憶に留まらない。
霧、か。
イ(゚、ナリ从 「平行線ですか」
(´・ω・`) 「そう簡単に糸口なんて見つからないよ」
(´・ω・`) 「ッてことだし、一旦僕らはコテージまで行きたいところなんだけど」
イ(゚、ナリ从 「……」
十年も前の、それも現場ですらないコテージに証拠などあるわけがない、
時間の無駄で非効率的だからやめておけ、と思っているのか。
虫がいやなのか。
.
821
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:08:35 ID:CWcmTz4o0
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「あんたはどうするよ」
(´・_ゝ・`) 「へ」
僕と兄者、一応の鑑識も連れていく。
当事者が多ければこちらとしては検討は進めやすいところだ。
イ(゚、ナリ从 「差し支えなければ、こちらでお話を引き続きお伺いしたいのですが」
(´・_ゝ・`) 「え、え。」
(´・ω・`) 「ん」
同時進行で事故を掘り下げ、落ちるはずの捜査効率を高めたいのか、
ひとりが嫌なのか。
(´・_ゝ・`) 「……」
(´^_ゝ^`) 「どうしたらいいですかね……」
.
822
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:11:45 ID:CWcmTz4o0
(´・ω・`) 「そうだね」
(´・ω・`) 「こっちはこっちで、検討を進めておくし」
(´^ω^`) 「そっちの警部さんにも、いろいろ当時のこと、話してあげて」
(´・_ゝ・`) 「は、はい」
.
823
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:12:34 ID:CWcmTz4o0
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第八幕 「 アルプス山脈にて 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
824
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:13:58 ID:CWcmTz4o0
┏━─
午前十時一六分 捜査本部
─━┛
鈴木ももう戻るという一報を聞き、念のためにコーヒーを余分に淹れておいた。
ペニー、鈴木、東風さんに自分と、警部以外の全員が揃うことになる。
イレギュラーな会議になるが、事情を聞けば警部が抜けてよかったと思えた。
( ゚д゚) 「アルプスも動いたか」
( <●><●>) 「しかも、親子警部が、ですよ」
( ゚д゚) 「勘弁してくれ」
.
825
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:14:27 ID:CWcmTz4o0
東風さんは軽く笑って、淹れたての熱いそれを口に含んだ。
彼に限らず、アルプスの三月親子を敬遠する者は多い。
片や警察で一番長い現役経験を重ねる三月ウサギ。
片や幹部候補筆頭のキャリア組である三月イナリ。
まして、ふたりが並ぶと、周囲にいる人間のペースを著しく乱す。
東風さんにとって、三月ウサギは目の上のたんこぶだ。
現場一辺倒としてヴィップでは名を馳せる身分にいるが、
その自分の更に上をいく男が三月ウサギというのだから。
また、相対的に現場を重視しない三月イナリにも、苦手意識を持っている。
考えが合わない部分が多く、しかし相手は若い女性の、しかも上司だ。
その二人が揃っているのだから、居づらくなるのは言うまでもないことだ。
('、`*川 「イナリさんって、まだ警部なんだっけ」
( <●><●>) 「一応は」
('、`*川 「あの人、女としてはカッコイイんだけどさ」
('、`*川 「頭カタいよね」
.
826
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:14:53 ID:CWcmTz4o0
イナリは一時期、短い期間ではあるがヴィップ県警にも配属されていた。
私とペニーは、当時のイナリとの面識がある。
いま、遅れて本部に戻ってくる鈴木だけが直接的な面識はない。
有名人には違いないので、むろん知らないわけではないそうだが。
('、`*川 「モデルとか似合うと思うんだけどな」
( <●><●>) 「……」
ヴィップ県警にいた頃の彼女を、思い出す。
彼女は、ずば抜けて頭がいい。
しかし、周囲の人間はそうでもないのだ。
冷静に考えてみれば正しい方針、意見を彼女が言ったところで、
他の人間はそれを理解できないのだから、そこで溝が生じることが多々あった。
( ゚д゚) 「いま、いくつだったっけ」
( <●><●>) 「私の二個下なので、今年で二十八ですね」
( ゚д゚) 「かーー。 時間が経つのは早いもんだ」
.
827
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:15:22 ID:CWcmTz4o0
('、`*川 「まだ独身なの?」
( <●><●>) 「そこまでは知らん」
( ゚д゚) 「結婚……してられる暇がないだろうなァ」
('、`*川 「絶対オンナとしての生き方間違えてるわ」
( ゚д゚) 「お前が言うな、お前が」
そんな三月親子をいなせる希少な人間のひとりが、警部だった。
三月ウサギとは古くからの師弟関係、のようなもので。
ヴィップ在籍時の三月イナリを指導したのも、警部だ。
話に聞くに、じゅうぶん強い個性を放っている警部が霞んで見えるらしい。
しかし、まあ。
うまく立ち回ってくれるだろう。
( ゚д゚) 「で……なんだっけか」
('、`*川 「亡霊、ですよ」
('、`*川 「亡霊」
.
828
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:15:43 ID:CWcmTz4o0
亡霊。
昨夜、突如判明した 「亡霊」 の存在。
それに付随し浮上した、本件のほんとうの側面。
十年前に、サークル内で発生した事故。
それは実は作為のもと成り立った事件で、
被害者となった山村貞子による復讐劇が連続予告殺人ではないのか、という説。
これには、複数のネックが存在する。
一番は、山村貞子という女が、生存しているのかどうか。
また、十年前の一件は、警察では事故として処理されている。
ここに事件性が見出されないようであれば、動機は非常に薄くなる。
以上、大きな二点をクリアしてもなお、不審な点は募る。
連続殺人のひとつひとつが、依然不鮮明なままなのだ。
/ `、、;/ 「お待たせしましたーー!」
('、`*川 「オッ!」
.
829
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:16:09 ID:CWcmTz4o0
ペニーが、自分のコーヒーにおかわりを淹れている時だった。
思いのほか早く、鈴木が帰還した。
心なしかくたびれて見えるスーツを着て、
違和感しかないストールをなびかせていた。
( ゚д゚) 「走るな、走るな」
/ `、、 / 「疲れたんですよ……もう……」
('、`*川 「ほい」
/ ゚、。 / 「ん」
鞄をデスクに置きながら、渡されたコーヒーを受け取った。
疲れたのは本当のようで、髪が多少乱れていた。
/ ゚、。 / 「……」
/ `、、 / 「カフェインが五臓六腑に染み渡るーー」
('、`*川 「ねーー」
.
830
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:16:37 ID:CWcmTz4o0
/ ゚、。 / 「で、えっと」
/ ゚、。 / 「話、どこまで進んでますか」
( ゚д゚) 「いや。 これから先にしとこうか悩んでたところだ」
('、`*川 「亡霊の話をチョロっとしただけよ」
/ ゚、。 / 「あーー亡霊」
全員が、ホワイトボード前のデスクに集まる。
東風さんとペニーが椅子に座っている。
/ ゚、。 / 「警部がいないのって、珍しいよね」
('、`*川 「普段メンドーなのに、いざという時いないと心許ないよね」
( ゚д゚) 「上司ッてのはそんなもんだ」
警部は、十年前の現場となったアルプス山脈に出向いている。
向こうで得られる情報なんてあるのだろうか。
当時の証拠など、一切がなくなっているに違いないのに。
.
831
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:17:08 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「とりあえず、始めるぞ」
東風さんが自分に視線を遣る。
( <●><●>) 「そうですね」
( <●><●>) 「亡霊、とかいうのが昨夜、警部に宣戦布告をしてきました」
亡霊の存在、亡霊の予告。
「亡霊」 と十年前の事故の被害者が、山村貞子という名前を通じて繋がった。
犯人は、彼女と断定して差し支えはないだろう。
十年前のそれが本当は事件だったのか、に関しても、警部とアルプス県警が洗っている。
我々が進めるべき検討は、亡霊にはない。
亡霊に関する情報が少なすぎるし、洗える部分がほとんど残っていない。
それ以上に、それまでの四件の事件を追究しなければならなかった。
( <●><●>) 「たとえ犯人が亡霊だったとして」
( <●><●>) 「畢竟、いままでの四件は、未だ手口が不明なのです」
.
832
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:17:45 ID:CWcmTz4o0
横長のホワイトボードには、文字がびっしりと詰められていた。
現場写真やサークル構成員の顔写真ですら、すべてがひっぺがされている。
最初の、スカスカだった頃と比べると、雲泥の差だ。
いま、捜査は佳境に入っている。
( <●><●>) 「一件目、地下鉄事件」
( <●><●>) 「概要は今更いいとして、だ」
ヴィップの地下鉄で起こった事件。
走行中の車両内で、フッサール擬古が、後ろから刺殺された。
乗客は多く、亡霊はそのなかに紛れてさり気なく殺し、そのまま脱走に成功した。
( <●><●>) 「監視カメラのデータが、ここにあります」
( ゚д゚) 「洗ったのか」
( <●><●>) 「はい」
( <●><●>) 「しかし、三点問題がありました」
.
833
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:18:05 ID:CWcmTz4o0
一点目。
大勢が逃げるように、改札、出口へと押し寄せたのだ。
ただでさえ顔まで鮮明に描写されない映像だ、
ましてそのなかから個人を特定するのは、厳しいと言わざるを得ない。
二点目。
それでも、多くの人員を割いて、一人ひとりの乗客をチェックした。
サークル構成員の顔写真はあるのだ。
それらをもってチェックしたが、しかし擬古以外の誰一人として、その地下鉄には乗車していなかった。
三点目。
亡霊、とは言うが、山村貞子という女性なのは特定している。
容姿の証言は聞いて、モンタージュまで作らせてはいるものの、
女性で、しかも大事故を経ている、こちらはあてにならないだろう。
そのため、ざっくり 「女性」 に焦点を絞って、映像を洗いなおした。
当時の駅員の証言も含めて、取調ができていない女性全員も大まかな特定に成功している。
( ゚д゚) 「女性……か」
('、`*川 「そもそも、女性が少ないですネ」
( ゚д゚) 「真夜中の電車ともなりゃあ、な」
.
834
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:18:35 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「容姿はあてにしない、としても」
( <●><●>) 「三十二歳、職業、など、最低限ホシか否かを見分けることはできます」
( ゚д゚) 「まあ、ばあちゃんや学生は該当しねえからな」
( <●><●>) 「で、洗った結果ですが」
、 、、、、 、 、 、 、、 、 、 、 、 、 、、 、 、 、 、 、 、、 、、 、
( <●><●>) 「少なくとも、山村貞子と条件が合致する女性は存在しなかった」
_,
( ゚д゚) 「……はあ?」
その報告を受け、私も徹夜で一緒にダブルチェックしたのだ。
信じたくはないが、確かに断言できることではあった。
、 、、 、 、、 、 、
( <●><●>) 「乗っていなかったのですよ」
( <●><●>) 「山村貞子になり得る女性は……誰一人」
.
835
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:18:59 ID:CWcmTz4o0
('、`*川 「待って、待って」
('、`*川 「それって、アレでしょ」
('、`*川 「取調から逃げた人だけ……の話でしょ?」
( <●><●>) 「取調を受けた乗客のデータなど、全部洗った」
膨大な量だった。
もはや捜査員が信じられなくなったので、私も一緒に洗った。
途方もない作業だったものの、さほど苦は感じられなかった。
真相に近づけている気がしたからだ。
しかし、作業が終わった瞬間、この上ない徒労を感じたものだ。
( ゚д゚) 「いなかったのか?」
( <●><●>) 「いえ。 年齢や職業から、可能性のある人は、数人」
( <●><●>) 「しかし、全員がアリバイ持ちです」
.
836
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:19:27 ID:CWcmTz4o0
,_
('、`*川 「アリバイ?」
/ ゚、。 / 「逆に怪しいね」
( <●><●>) 「アリバイ、というのは、だ」
( <●><●>) 「山村貞子にはなり得ないアリバイ、という意味だ」
('、`*川 「………ああ、そゆこと」
家族がいたり、過去に大きな事故がなかったり。
少なくとも、データをアルプス神経病院に照会すれば、一発なのだ。
今朝がたになって、先方は協力的にこちらの捜査に応じてくれた。
多くの捜査員と一緒に私も担当したが、結果はゼロだった。
/ ゚、。 / 「なんか、こう、戸籍だったり来歴をごまかしたりは?」
( <●><●>) 「すべて洗ってある。 シロだ」
公的な書類だったり、年齢などの個人情報は、
たとえ詐称されていたとして、警察の手に掛かれば特定そのものはすぐにできる。
何から何に、どうやって変えたか、までは骨が折れるものの、
少なくとも詐称しているかどうか、に関しての捜査は一時間も費やさなかった。
.
837
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:20:02 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「……まとめると、だ」
( ゚д゚) 「あの日、あの車両に、亡霊はいなかった」
( <●><●>) 「車両から逃げ出した人、取調を受けた人」
( <●><●>) 「そのどちらにも、亡霊たりうる人物はいなかったのです」
膨大な徒労を思い出し、頭が痛くなった。
こんな時、警部や東風さんが煙草を吸っているのを真似てみたくなりはする。
( ゚д゚) 「それ以外は、洗ったのか?」
( <●><●>) 「と言うと」
( ゚д゚) 「実は、本件は二人がかりだった」
( ゚д゚) 「亡霊の真相を知るサークル構成員のうち、誰かが手を貸したんだ」
.
838
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:20:24 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「想定は、正直なところ、していませんでした」
( ゚д゚) 「なら」
( <●><●>) 「しかし、構成員に関しては、とっくに完了しています」
( <●><●>) 「誰一人、映像にも取調にも引っかかっていません」
もとより、構成員がわかった時点でその調査は済ませてあるのだ。
しかし、となるとわかる答えが、異常に重く圧し掛かる。
( ゚д゚) 「ッてなると」
( ゚д゚) 「……亡霊は、外部犯と強力した可能性が濃厚になるぞ」
それが、何よりも厄介だった。
この期に及んで、サークル外に仲間がいたとなると、収拾がつかない。
.
839
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:21:07 ID:CWcmTz4o0
亡霊本人は、こう言った。
亡霊に、実体はない。
人から見られることなく、普通に刺して、そのまま逃げた、と。
心霊的なものを信じるわけではないが、
この時に限り、ぜひともそうあってほしい、と思えてならなかった。
('、`*川 「だったら、男」
('、`*川 「カメラの映像って、女しか見てないんでしょ」
( <●><●>) 「言うがな、なんのデータもなしにそのチェックはできない」
ただでさえ、取調から逃げた乗客の大多数が男性だ。
それも、スーツを着た人が多かった。
やましいことがあったから、ではない。
面倒事に巻き込まれて、明日の出勤に支障をきたしたくなかった、といった具合だろう。
その人間的な心情を責めることは、私にはできなかった。
( <●><●>) 「何か、データがあれば」
( <●><●>) 「事件関係者になり得る、男の……」
.
840
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:21:33 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「害者まわりはどうだったんだ」
( ゚д゚) 「ペニー、地下鉄担当はペニーだろ」
('、`*川 「少なくとも、そんな都合のいい男、のデータはなかったですよ」
一件目にして、もはや最大の障壁と言っていいだろう。
ここを解かないことには、これから始まる連続殺人鉄道の切符が買えないのだ。
('、`*川 「でも、ですね」
('、`*川 「ちょっとこれを見てください」
( ゚д゚) 「ん」
ペニーが意味深に、一枚の紙を取り出した。
声色からして、ジョークではない。
手がかりだ。
('、`*川 「これは、初動捜査でわかっていたことだったんですが」
('、`*川 「今の今まで、事件性がないと思われていたデータです」
.
841
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:22:05 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「……」
( <●><●>) 「!」
( <●><●>) 「アルプス神経病院……!」
思わず声がこぼれた。
書類には、彼の電話に登録されていたカレンダーが載っていた。
そのなかに、赤ペンで丸を付けられている日付があった。
五月四日、日曜日。
アルプス神経病院、とだけ書かれてある。
('、`*川 「アルプス神経病院」
('、`*川 「当然ではありますが、これは擬古が殺されるより、前」
('、`*川 「四月二十五日……より以前に書かれた予定です」
流石兄者が任意同行前に訪れていた場所であり、
山村貞子が十年前に搬送された場所である。
本事件のキーの、ひとつだ。
.
842
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:22:26 ID:CWcmTz4o0
('、`*川 「フッサール擬古は、流石兄者よりも先に」
('、`*川 「……ッていうと、伝わんないか」
、 、 、 、 、 、 、、 、、 、 、
('、`*川 「連続殺人が起こるより前に」
('、`*川 「山村貞子との接触を試みようとしていたのが、わかります」
( ゚д゚) 「でかしたぞ!」
東風さんが、腹の底にたまっていた声を出した。
しかし、これだけではデータとしては、弱い。
( <●><●>) 「それはいいとして、だ」
843
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:22:54 ID:CWcmTz4o0
兄者は、事件を通して裏に貞子の存在を懸念したから、
アルプス神経病院に出向いていたわけだが。
それはあくまで、連続殺人が巻き起こっているからこそ成し得た行動だ。
フッサール擬古はその事件が起こるより前に、既にアプローチをとっていた。
( <●><●>) 「裏では、事件よりも前に貞子との接触が計画されていた」
( <●><●>) 「いったい、その目的はなんだったんだ?」
('、`*川 「わかることがふたつ、あるわ」
ペニーにしては論理的な展開だった。
しっかり裏までとっているらしかった。
('、`*川 「まず、どうしてこの日付か、ということ」
( ゚д゚) 「気になるのはやっぱり……」
東風さんにつられて、皆がホワイトボードを見る。
五月四日といえば、芹澤ミセリに殺害予告が届いた日だ。
.
844
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:23:44 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「しかし、ミセリと病院はリンクしませんし」
( <●><●>) 「ミセリの殺害も、単にクックルを殺した続き、と見るべきです」
('、`*川 「ううん、そっちじゃないの」
('、`*川 「ポイントは、休日だった、というところ」
続けてペニーが小ぶりの紙を出す。
自前のメモのようで、日付と思しき数字が羅列されている。
('、`*川 「これは、害者が勤めていた整骨院から聞いたわ」
('、`*川 「三日、続けて四日が休日だったの」
( ゚д゚) 「休日……」
、、 、 、、 、、 、、、 、
('、`*川 「害者にとってはひとつのイベントとして、組み込まれていたわけです」
('、`*川 「で、こっちも重要だわ」
('、`*川 「ようやく、データが上がってきたんだ」
次はちゃんとしたA4の紙だ。
エクセルで作られたもののようで、細かい字がリスト上にびっしりと並んでいる。
.
845
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:24:04 ID:CWcmTz4o0
('、`*川 「サイバー犯罪対策課が、やってくれた」
('、`*川 「フッサール擬古が、渋沢栄吉のサイトにアクセスしてた痕跡が割り出されたわ」
( ゚д゚) 「!」
('、`*川 「といっても、ほんとうについさっき、だけどね」
こんなにも大量の、有益な情報の数々。
平生のペニーならば、判明した時点で嬉々として話しそうなものだ。
呑気にコーヒーを飲んでいた時とは比べられないほど、ペニーの眼は据わっていた。
('、`*川 「チケットや予約データからは、割り出せなかった」
('、`*川 「害者は別に、ライブを聴きたかったわけじゃなかったみたいでね」
リストには、多くのIPアドレスが記載されている。
害者のPCから、彼の生前にアクセスがあったことが証明された。
.
846
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:24:37 ID:CWcmTz4o0
('、`*川 「むしろ、逆」
('、`*川 「害者は、ライブよりも目当てがあったと見るべきさ」
( ゚д゚) 「クックルに会うつもりだった、と」
( <●><●>) 「しかし、ふたりの間にそんなやり取りがあったなんて」
('、`*川 「あのさ、さっきわかったばっかなんだぜ」
('、`*川 「そこら辺の裏取りは、これから進めるんだい」
( <●><●>) 「……」
('、`*川 「ただ、その線は濃いね」
( ゚д゚) 「いまいち、解せないな」
フッサール擬古は生前、山村貞子に接触しようとしていたのがわかった。
また、渋沢栄吉のサイトを閲覧していた痕跡が認められた。
ライブがあった五月三日、ならびに翌日の四日は休日で、
その四日に、アルプス神経病院に行く旨が予定されていた。
.
847
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:25:02 ID:CWcmTz4o0
畢竟、それらは何を紡ぎだすというのか。
問う前に、ペニーは続けた。
('、`*川 「重要なのが、神経病院に何の用だったか、よ」
('、`*川 「あのね、貞子が病院に送られたの、十年前なんでしょ?」
( <●><●>) 「ああ」
('、`*川 「仮に貞子に用があったとして、だ」
('、`*川 「さすがに、事前に電話で確認くらい、とるでしょ」
('、`*川 「先週先月の話じゃないんだし」
( <●><●>) 「むろん」
( <●><●>) 「……待て」
( <●><●>) 「害者から病院への電話は」
('、`*川 「なかったわ」
.
848
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:25:28 ID:CWcmTz4o0
兄者たちの証言によると、サークルの構成員は、この十年間。
例外はあるにせよ、ほぼ疎遠な関係だった。
擬古も例に漏れないならば、擬古は四日の日、
およそ十年ぶりに貞子に会いにいくことになる。
それも、それはあくまで、貞子が一切目覚めず、
また一切転院などしなかった場合の話だ。
兄者の言にもあったが、植物状態の患者というのはよく転院するそうだ。
その風習を知らなかったにしても、
まだ貞子がそこに眠っているかの確認は、しなければおかしい。
( ゚д゚) 「完全に、か」
('、`*川 「少なくとも、害者の端末や、職場の固定電話からは」
('、`*川 「これって言い換えたら、こうなるのよ」
、 、 、
('、`*川 「擬古は、貞子のその後を知っていた」
.
849
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:25:56 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「貞子が転院していたことを、か」
( ゚д゚) 「ただの惰性か無知で、いきなり見舞いに行こうとした線は」
('、`*川 「ないですね」
('、`*川 「突発的ならともかく、一週間以上先に、」
('、`*川 「それもわざわざカレンダーに打ち込んでた程には、計画性があったんです」
('、`*川 「害者にとってこの見舞いは、軽くはない計画だった」
しかし、だとするとわからないことが出てくる。
目下アルプス県警が当たっているだろうが、
何にせよ、貞子のその後は、現状わかっていないのだ。
/ ゚、。 / 「いま、貞子はどこにいるの」
('、`*川 「それも、これから暇な奴らかき集めて当たるわ」
.
850
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:26:19 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「どう当たるつもりなんだ」
('、`*川 「それですけどね、いやあ、いいアテがあるんですよ」
( ゚д゚) 「アテ」
('、`*川 「整骨院の院長さんに、さっき電話したんだ」
、 、 、 、 、
('、`*川 「害者の担当、について」
( ゚д゚) 「担当?」
('、`*川 「害者は、その若さやキャラが買われてた」
('、`*川 「ジジババに結構な人気があったみたいで、そっちに人脈が広かった」
('、`*川 「……孤児院とか、お寺とか」
('、`*川 「そっち方面に、顔が広かったッて証言がとれたんよ」
.
851
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:26:52 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「!」
なるほど、悪くない着眼点だと思った。
前提として、擬古もサークル構成員のひとりで、
ということはつまり、ミセリやデミタス同様に、貞子という禁忌を背負っていた。
また、植物人間の療養と言われて、孤児院なんかが浮かぶのもおかしくはない。
病院に預けたままというのは、コスト面で非常に負担が大きい。
/ ゚、。 / 「それなら、私からも一点」
/ ゚、。 / 「さっきまで、山村貞子の家族構成について洗ってたんですがね」
仕事が速いな。
いや、だからこそ合流が遅れた、とも捉えられるが。
/ ゚、。 / 「貞子は現在、天涯孤独です」
( ゚д゚) 「なッ…」
/ ゚、。 / 「もとより、シングルマザーの手で育てられた貞子」
/ ゚、。 / 「彼女が眠って三年ほどで、母は心的疲労で死去しています」
.
852
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:27:30 ID:CWcmTz4o0
考えてみるまでもない話だった。
人間にとって、植物状態というのは死亡以上に重い、
考えられる限り最悪な様態と言えるだろう。
シングルマザーと聞いて合点がいった。
一般家庭においても負担が大きいのに、
まして経済的に苦しい片親の家庭となると、病院には長居できまい。
('、`*川 「それを聞いてさ」
('、`*川 「ビンゴだ、ッて思ったの」
( ゚д゚) 「確かに、金銭が負担されない植物人間なんて、」
( ゚д゚) 「どんな良心的な病院でも担当できねえもんだ」
('、`*川 「ただ、例外がある」
('、`*川 「それこそ、孤児院的なところや、宗教施設です」
.
853
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:28:15 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「いま、アルプスが総力で行方を追っているらしいが」
('、`*川 「逆、なんだよ」
('、`*川 「正式な手続きが踏まれた転院なら、すぐに特定できるわ」
( ゚д゚) 「……あくまで個人的な引取り、だったわけだ」
('、`*川 「こっからは単なる推測ですがネ」
ペニーがワンテンポ置いて、話し出した。
('、`*川 「擬古は、当時もう整体師」
、、、
('、`*川 「まして、二十半ばの若さ、既にファンはついてたと見ていい」
('、`*川 「寺とかそっち方面のお客さんと仲良くなっていた、として」
('、`*川 「貞子が病院にいられなくなったことを知って、」
('、`*川 「ダメ元で、事情をお客さんに言う」
('、`*川 「当時、母ちゃんが合意したのか、もう亡くなってたかはわからないけど」
.
854
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:29:04 ID:CWcmTz4o0
('、`*川 「擬古が、貞子を守るために、あくまで個人的に」
('、`*川 「親権者でもないのに、貞子をその施設に連れて行った」
( <●><●>) 「病院が回答に躊躇っている理由も、つまり」
('、`*川 「回答するとグレー、あるいはブラックが露呈するから……だったら?」
考えられない話では、なかった。
植物人間を預かる病院の本音を考えてみればいい。
患者の様態維持に、多大なコストがかかる。
まして、非常にデリケートな問題で、病院としても非常に頭を抱える案件だろう。
それを、法が守っていない範囲であろうが、引き取ると申し出てくれる人がいたら。
その人が、宗教関係者で、慈悲のためともあらば、病院側はどう思うだろうか。
たとえ正式な手続きを踏んでいなかったとしても、だ。
('、`*川 「……マ。 あくまで仮説だけどね」
('、`*川 「ただ、望みは十分にある」
.
855
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:29:55 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「擬古が、貞子を救い得る手段を持っていた可能性」
( ゚д゚) 「それはわかった」
東風さんが、最初の紙を表に出した。
五月四日、アルプス神経病院と書かれた紙だ。
( ゚д゚) 「じゃあ、これはなんなんだ?」
( ゚д゚) 「仮説が正しいとすると、今更病院になにがある」
('、`*川 「それなんだけどね、こう考えたら辻褄があうんですヨ」
('、`*川 「貞子が、目覚めた」
( ゚д゚) 「!」
('、`*川 「それを報告しようと思ったか、あるいは別件か」
('、`*川 「とにかく、擬古は貞子の目覚めを誰よりも早く知ることができた」
.
856
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:30:17 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「裏こそ取れてないものの」
( <●><●>) 「それは、私も賛成できるな」
/ ゚、。 / 「え、根拠は」
( <●><●>) 「考えてもみろ」
( <●><●>) 「今までの四人を殺してきたのは、誰だ」
/ ゚、。 / 「それは……」
/ ゚、。 / 「!」
( ゚д゚) 「そうか!」
( ゚д゚) 「そもそも貞子が目覚めたのが全ての発端じゃねえか!」
.
857
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:30:42 ID:CWcmTz4o0
もし、貞子が目覚めていなかったとするなら、
いったい、今までの四人を殺したのは。
警部に宣戦布告を突き付けてきた亡霊は、いったい誰だったというのか。
貞子の目覚めをなしに、今回の連続予告殺人はなかったのだ。
貞子が目覚めたから、事件が起こった。
それを前提に考えると、確かに筋が通った仮設と言える。
('、`*川 「順序は、こう」
('、`*川 「擬古は、なにかしらのコネで貞子を引き取った」
('、`*川 「そして最近になって、貞子が目覚めた」
('、`*川 「それがキッカケで、アルプス病院に行く予定も組んだ」
('、`*川 「一方で、貞子は目覚めたことで亡霊となった」
('、`*川 「全員を殺してやるッて怨念が、まず真っ先に、」
('、`*川 「一番近くにいた擬古を殺した」
('、`*川 「……どう?」
.
858
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:31:34 ID:CWcmTz4o0
何もなかったところから、うまく組み立てられたストーリーだとは言えるだろう。
しかし空しいが、それで解決できるほど簡単な事件ではない。
穴が、それも無視できない欠陥が多かった。
( <●><●>) 「すまんが、それだけじゃあ弱い」
( <●><●>) 「各事件のトリックはさて置いて、だ」
('、`*川 「うっわヤな言い方……」
軽く咳払いする。
申し訳ないとは思っているのだ、これでも。
( <●><●>) 「目覚めたばかりの貞子に、」
( <●><●>) 「十年前の面々に会う手段は残されていない」
( <●><●>) 「擬古とミセリはいいとして、ヒッキー、クックルとどうつながったんだ」
('、`*川 「……」
.
859
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:31:57 ID:CWcmTz4o0
/ ゚、。 / 「ミセリも?」
( <●><●>) 「ミセリは、旦那のクックルから容易に辿ることができる」
( <●><●>) 「しかし、ヒッキーとそのクックルへ、どうコンタクトを取るか、だな」
( ゚д゚) 「……そうだな」
東風さんも、渋い声を出した。
( ゚д゚) 「なんでも、部長の流石兄者ですら、連絡手段はほとんどなかった」
( <●><●>) 「十年前に自然消滅したサークルですから」
( <●><●>) 「それに人間、十年も経てば環境はがらりと変わる」
( <●><●>) 「当時の連絡先が十年後も通じているなど、まず考えられない」
('、`*川 「擬古がヒッキー、クックルと繋がってなかったのは、認めるさ」
('、`*川 「こないだまで、ずっとこの私が追ってたんだから」
.
860
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:32:20 ID:CWcmTz4o0
('、`*川 「だから、こっちも博打だけどね」
('、`*川 「あくまで、擬古はローカルな整骨院に勤めてただろ?」
( <●><●>) 「……!」
まさか、そんな偶然があるのか。
いや、考えられない話ではない、のか。
('、`*川 「ヒッキーを除いて全員が、ヴィップの人間でよ」
('、`*川 「地元には顔が広い整骨院さ」
('、`*川 「なにも、ここ最近じゃなくッたっていい」
('、`*川 「十年も勤めてたら、一度くらい来院してたッて……」
( <●><●>) 「……まさに博打、だな」
('、`*川 「こっちは期待してないさ」
.
861
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:32:51 ID:CWcmTz4o0
スマホに連絡先が載っていなかろうが、
実際に会って話すことはもちろん可能だ。
店に訪れると、旧知の友人がいた。
当然、昔話のひとつ、するだろう。
そういったところでコンタクトを握っていたなら、あるいは、があり得るか。
当然、非常に望みの薄い話ではある。
('、`*川 「……以上が、このペニー様の結果よ」
('、`*川 「ひとつ、擬古は貞子と接触していた可能性があった」
('、`*川 「ひとつ、貞子は擬古のツテに引き取られた可能性があった」
('、`*川 「……質問は」
( <●><●>) 「ちょっと待ってくれ」
('、`*川 「ゲッ」
勝ち誇っているところに横やり、本当に申し訳ないとは思う。
しかし、気になるところは徹底的に潰していかなければ不安が残る。
.
862
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:33:13 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「五月四日、の件はいい」
( <●><●>) 「渋沢栄吉のサイトに残っていたIPは、なんだったんだ」
('、`*川 「ああ、それ」
('、`*川 「一応の裏づけ、保険よ」
( <●><●>) 「保険?」
('、`*川 「そうね……たぶんクックルだわ」
('、`*川 「クックルと擬古は生前コンタクトを取っていて、」
('、`*川 「渋沢のライブの警備をする、なんて話を聞いたとしたら?」
( ゚д゚) 「……そうか。 そうだな」
( ゚д゚) 「ライブそのものに興味はなくとも、確かにサイトにアクセスくらいはしてもいい」
('、`*川 「そゆこと」
.
863
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:33:35 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「……」
一気にわかった情報が多く、処理が追いつかない。
擬古は、クックルがライブ会場に行くことを知っていた。
それが意味するところの真実は、なんだというのか。
/ ゚、。 / 「……職場って、ご高齢が多いんでしょ?」
/ ゚、。 / 「職場の雑談の流れで、なんとなく見ただけだったら?」
('、`*川 「そっちの線はないわ。 院長さんに裏、取ってあるもの」
('、`*川 「擬古に、渋沢に向ける興味はなかった、ッてね」
/ ゚、。 / 「そっか」
絶対にないとは言えないが、
クックルと接触し、ライブのことを聞かされない限りは、
当該サイトにIPアドレスが残ることはまあないだろう。
というより、薄そうな線を切っていかなければ、
無限に伸びる樹形図を、限られた時間内で当たっていくことはできなくなる。
.
864
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:33:57 ID:CWcmTz4o0
/ ゚、。 / 「じゃあ、次」
/ ゚、。 / 「ヒッキー小森が殺害された、ビジホ殺人ね」
警部が、本件のキーだと言っていた事件だ。
もとより謎が多く、ここも解かなければならない、ひとつの山場。
/ ゚、。 / 「まず、それまでにわかっていた謎から……おさらい」
/ ゚、。 / 「……」
( <●><●>) 「……」
どうして皆、おさらいや概要説明に私を使うのか。
法廷で冒頭弁論に使われるような気分だ。
( <●><●>) 「まあ、いい」
( <●><●>) 「一番はなんといっても、どこでアレルゲンを盛ったか、だ」
.
865
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:35:39 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「亡霊は二件目で、ビジホの個室内で害者を殺害した」
( <●><●>) 「遠隔殺人に用いられたのは、ピーナッツオイル」
( <●><●>) 「つまりこの時点で、いつ盛ったのか、いつ知ったのか、が謎となる」
いつ盛ったのか、はデータさえあれば証明はできるが、
奇妙なのは、サークル構成員の誰もがアレルギーを知らなかった可能性がある点だ。
一番付き合いの長い兄者でさえ、ピーナッツの件は知らなかった。
警部がかまをかけた上での証言なのだから、信憑性は高い。
むろん、我々の知らないところで知られていた可能性はある。
構成員が、貞子含む七人いたうち、話が聞けたのは半数にも至らないのだから。
( <●><●>) 「まして、害者はアルプスの人間」
( <●><●>) 「亡霊がヴィップに固執していた理由はさて置いて、」
( <●><●>) 「害者が現場に赴いたのは、単なる偶然だ。 作為はなかった」
.
866
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:36:19 ID:CWcmTz4o0
鹿島建設、と言ったか。
所轄署を使って調べさせたが、やはりこちらに作為は認められなかった。
あらかじめ決まっていた案件とはいえ、
それを社外の人間が知るのはいささか不自然といえる。
亡霊が害者のスケジュール帳なんかを覗いた可能性も考えにくい。
となると、害者が亡霊に、雑談がてらヴィップに行くことを話した以外ないだろう。
なら、それはいつ、話したのか。
また、害者は害者で、構成員との繋がりはなかったのではないか。
あったとするならそれは兄者だが、兄者が最後に話したのは少なくとも去年今年ではない。
犯行タイミング、ピーナッツアレルギー、ヴィップへの出張。
大きく分けただけでも、難解な謎が三つもある。
/ ゚、。 / 「ヒッキー小森は、両親と弟の四人家族」
/ ゚、。 / 「住まいは当時も今もアルプス」
/ ゚、。 / 「サークルに勧誘されたのは、旧知の兄者に呼ばれたから、だけど」
/ ゚、。 / 「やっぱり、アルプスとヴィップの繋がりが薄いのが、ひとつの謎だね」
.
867
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:36:54 ID:CWcmTz4o0
/ ゚、。 / 「とりあえず、アレルギーの謎を解かないと前には進めないんだけどね」
/ ゚、。 / 「アレルギーを知り得たのは家族くらいで、」
/ ゚、。 / 「職場の人間ですら、アレルギーのことは知らなかったみたい」
/ ゚、。 / 「ご実家に話を伺いにいったものの、」
/ ゚、。 / 「害者が過去にアレルギーでやらかしたこともなかったみたいで」
/ ゚、。 / 「アレルギーに過敏になりはするものの、別にぺらぺら喋ることでもなかったッて」
( ゚д゚) 「主治医の線はどうだ」
( ゚д゚) 「確か、ナントカって薬にもアレルギーがあったみたいじゃねえか」
/ ゚、。 / 「そっちもですね」
/ ゚、。 / 「……ッてより、親御さんにも変な顔をされたんだけど」
/ ゚、。 / 「やっぱり、アレルギーなんて、そう簡単に知れるものじゃないですよ」
.
868
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:38:02 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「……」
それはごもっともだ。
知っていてもおかしくはない。
しかし、知っていないのはもっとおかしくない。
家族と主治医だけが、知っている。
職場の人間も、サークル構成員も、知らない。
当たり前すぎて、かえって掴みどころがない。
重要なのは、アレルギーという手段を使った必然性である。
亡霊は、アナフィラキシーショックに拘っていた裏などない。
考えられるのは、亡霊は何かしらで害者のアレルギーを知っていた。
厳重に管理されている毒物なんかを用いるよりは、
市販で手に入るピーナッツオイルを用いるほうがよっぽど楽だ。
したがって亡霊は、楽だからそちらを使おう、と考えるべきなのだ。
/ ゚、。 / 「害者は一人暮らしでした」
/ ゚、。 / 「したがって彼の食生活を知り得たわけでもないし、」
/ ゚、。 / 「何かをよく食べる、ならともかく、何かを拒んでいる、なんて」
/ ゚、。 / 「到底知り得ようがないですよ、亡霊からしちゃ」
.
869
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:38:24 ID:CWcmTz4o0
('、`*川 「やっぱり、掛かりつけの病院から情報を盗んだくらいかね」
/ ゚、。 / 「でも、だいぶ薄い、細い、考えにくい線だよ」
/ ゚、。 / 「そもそも、目覚めて間もない亡霊が、そんな用意周到に動くかしら」
( <●><●>) 「じゃあ……」
( <●><●>) 「亡霊は十年前の時点で、既に害者のアレルギーを知っていたわけだ」
となると考えられる可能性。
貞子はヒッキー小森と友人以上の関係があった。
それこそ、兄者が言っていたように、恋人だった可能性もある。
他人よりも深い関係だったならば、アレルギーを例外的に知っていてもいい。
しかし、亡霊が犯人というのは既にわかっていて、
亡霊が貞子というのも既にわかっているのだ。
/ ゚、。 / 「まあ、そこはいいじゃない」
/ ゚、。 / 「……いつオイルが盛られたか」
/ ゚、。 / 「どーーやってもね、調べがつかないんだ」
.
870
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:38:53 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「確か、害者は」
( <●><●>) 「オオカミ鉄道の在来線に乗って、十八時前に到着」
( <●><●>) 「チェックインまでに、二時間ほど空白の時間があったはずだ」
/ ゚、。 / 「それだけどね」
/ ゚、。 / 「何をしてたかわかったよ」
( <●><●>) 「!」
二時間の空白は、この上なく重要なキーだ。
しかし、鈴木はどうしてこんなに浮かない顔をしている。
もっとペニーのように嬉々たる笑顔をしてもらいたい。
この上なく空しい予感がするのだ。
/ ゚、。 / 「銭湯に行ってたんだ、害者」
( ゚д゚) 「銭湯?」
.
871
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:39:21 ID:CWcmTz4o0
嫌な予感は、さっそく的中した。
というより、顔色を窺った時点で、的中はしていたと言っていい。
/ ゚、。 / 「何十人も人員突っ込んで、聞き込みに走って」
/ ゚、。 / 「結果、連絡がきたよ」
/ ゚、。 / 「駅からちょっと歩いた、昔ながらな銭湯で目撃証言が出た……ッて」
( ゚д゚) 「ちなみに、どこだ」
/ ゚、。 / 「べっぷの湯ッてとこです」
/ ゚、。 / 「むっちゃ普通の銭湯で、監視カメラとかもない」
資料すら出さない。
語るに及ばないとでもいうのか。
/ ゚、。 / 「番台に聞いたけど、害者は十八時過ぎに、ひとりで入浴」
/ ゚、。 / 「フルーツ牛乳を相棒に、マッサージチェアで極楽気分だったとさ」
ちゃんちゃん、と〆て、口を紡ぐ。
となると、空白の二時間に、亡霊の干渉はなかったのか。
.
872
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:41:38 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「なら、着信履歴は」
( ゚д゚) 「時間はあったんだ、一週間分くらいのデータは出てるだろう」
/ ゚、。 / 「聞きます?」
成果なんてなかったような顔をしている。
嫌な予感がしている、というより、もう的中した。
/ ゚、。 / 「職場が九割以上、残りが家族」
/ ゚、。 / 「050番号だけが手がかり……といったところですね」
( ゚д゚) 「……むう」
警部がキーと言っただけあり、地下鉄殺人以上に謎が深い。
しかし、ポイントさえ解明できれば単純な部分もあるとは思うのだ。
( <●><●>) 「オイルがいつ盛られたか、については」
/ ゚、。 / 「瓶に本人以外の指紋はなかったよ」
/ ゚、。 / 「ただ、ハンカチを使った跡はあった」
.
873
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:42:07 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「…!」
刑事に従事してわかったことは、指紋という情報は想像以上に強いことだ。
布や手袋を用いて指紋を残さない手法は昔から多く存在するが、
指紋のかすれ具合や繊維の付着などで、
指紋以外の情報をも得られることは、あまり知られていない。
わかったのは、確かに亡霊は、害者に接触していたこと。
そしてそれは、空白の二時間以外で行われたこと。
/ ゚、。 / 「害者宅にも、第三者が訪れた形跡はなかった」
/ ゚、。 / 「となると、オオカミ鉄道だ」
/ ゚、。 / 「当時、害者が乗っていたと思われる車両を、まるごと押さえてるよ」
鈴木にしては、ずいぶんと大規模な介入だ。
と思ったが、そうか、相手はオオカミ鉄道か。
('、`*川 「結果は、まだ上がってないんだ」
/ `、、 / 「さすがに、難しいかな……」
.
874
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:43:00 ID:CWcmTz4o0
/ ゚、。 / 「でも、警部が話を回してくれたみたいだよ」
( ゚д゚) 「あの総裁なら、それくらいのことはしてくれるだろう」
('、`*川 「列車をまるごと、ですか」
( ゚д゚) 「警部のコネ、だな」
オオカミ鉄道の総裁が権力に弱いのは有名な話だ。
そんななか、彼は幾度となく警部と面識をもっている。
警部の本音はともかく、総裁からすれば、
警察というあらゆる権力に対抗しうるコネを持っていることになる。
あの警部まで敵に回すとろくなことがないだろう、
先方にしても今回の事件解決は心から応援してくれているに違いない。
( ゚д゚) 「しかし、車両の捜査、か」
( ゚д゚) 「俺も出向いてみてえな」
/ ゚、。 / 「だめですー」
.
875
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:43:42 ID:CWcmTz4o0
/ ゚、。 / 「一応、当時害者が座っていた席は特定できた」
( ゚д゚) 「ん。 できていたのか」
/ ゚、。 / 「優先座席……ボックスシートですね」
/ ゚、。 / 「で、そのシートに限定して、参考の指紋も用意されてるけど」
( <●><●>) 「……照合できる指紋がないわけか」
当たり前の話ではあった。
公共機関の、それも座席の指紋ともなればデータは膨大になる。
/ ゚、。 / 「少なくとも、事件関係者と合致するのはなかった」
/ ゚、。 / 「でも、全部リスト化したから、いざとなったら武器にはなるよ」
('、`*川 「でも亡霊って、一応はハンカチ、使ってたんでしょ」
('、`*川 「足を残したりするかなあ」
.
876
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:44:05 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「いや、むしろ残しているに違いない」
( ゚д゚) 「瓶に残っていたのが手袋だったら、まだわからねえがな」
( ゚д゚) 「ハンカチってことは、オイルを盛る時だけ、指紋を警戒したんだ」
('、`*川 「……ああ!」
( ゚д゚) 「普通に座る分には、素手のままだ」
( ゚д゚) 「まして、別に寒いわけでもないのに、繊維の手袋をはめるのも不自然極まりない」
( ゚д゚) 「……亡霊の正体を割って、指紋をとった時が楽しみだな」
/ ゚、。 / 「じゃあ、とりあえず、はいどうぞ」
( ゚д゚) 「ん? ああ」
東風さんが、リストを受け取る。
イツワリさんが持っているほうがいいんだがな、と小さく呟いて。
.
877
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:44:31 ID:CWcmTz4o0
/ ゚、。 / 「わかることは、正直言って少ない」
/ ゚、。 / 「監視カメラもない、空白の二時間はなかった」
/ ゚、。 / 「電話も、050番号以外の手がかりは今のところなし」
/ ゚、。 / 「ヴィップ出張は偶然で、それが知られたきっかけも不明」
/ ゚、。 / 「アレルギーに関しても同様」
/ ゚、。 / 「……唯一の武器は、ボックスシートに残った指紋のリストです」
/ ゚、。 / 「大切に持っててねー」
( ゚д゚) 「まあ、イツワリさんにも送っておくさ」
東風さんは、鈴木を娘か、姪っ子のように可愛がる節がある。
空いた時間なんかには、よく将棋を指しているシーンも見受けられる。
ショボーン班の新参と古参だ、思い入れも弱くはないのだろう。
.
878
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:44:54 ID:CWcmTz4o0
リストの写真を撮って、おそらく警部だ、
警部宛てにメールを送信している。
リストは後程渡すとして、こんな武器があった旨を伝えているのだろう。
今回の検討内容は、細かい情報も漏らさずデータ化し、
警部に最終的な共有として回すつもりだ。
存外、無視できないデータが多く発掘されている。
私が見たところ、まだピンとくるものはないが、
警部が見たなら、果たしてどうなるだろうか。
( ゚д゚) 「で、だ」
( ゚д゚) 「三件目、ライブ殺人だな」
ライブ殺人にも、解せない謎が多い。
東風さんも、あご髭をさすりながら、渋い顔をしている。
.
879
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:45:28 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「解決できていないことは、多く存在します」
( <●><●>) 「根本的に、どこで害者の出動を知れたのか」
( <●><●>) 「嫁のミセリは知り得ましたが、犯人ではあり得ない」
根本的にどこで知れたのか。
それは全ての事件に共通することだ。
もっと、本質に近い部分から解決していきたい気持ちが強い。
ボード前のセミナーに、書類や証拠物件は置いてある。
以前警部に説明してから、未だ解決できていないブツの数々だ。
( <●><●>) 「害者は、持ち場から亡霊に呼ばれて、現場に向かっている」
( <●><●>) 「口裏を合わせていた可能性が高かったのは言うまでもないでしょう」
おそらく、亡霊が事前に害者の出動を知り得た際、
そのまま彼に接触して、事件当日になにか約束を取り付けたのだろう。
しかしそれにしても、問題があった。
.
880
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:45:52 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「ただ、亡霊の050番号ですが」
( <●><●>) 「ヒッキー、ミセリにはあったのに、クックルにはなかった」
( ゚д゚) 「そこが一番解せねえところだ」
( ゚д゚) 「つまり、亡霊は害者に電話以外の方法でコンタクトを取ったわけだが」
( <●><●>) 「考えにくい話ではありますね」
兄者の証言を思い出す。
クックルに関しても、謎はほんとうに多い。
( <●><●>) 「クックルとミセリが籍を入れたのは、サークルの消滅後」
( <●><●>) 「まして、部長も断定的には知らなかったんです」
( <●><●>) 「それを、どうして十年間眠っていた貞子が知り得るのか」
( ゚д゚) 「だからこその謎には違いない」
/ ゚、。 / 「………予告」
.
881
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:46:14 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「…ん」
鈴木が、ぼそっと呟いた。
予告。 本件の、最初のキーワードだ。
/ ゚、。 / 「確か、ライブの観客を殺す、だったよね」
( <●><●>) 「ああ」
私と東風さんは、それに惑わされたわけだ。
観客、という文言から、スタジアムに足を踏み入れる者に焦点を絞った。
しかし厳密にはスタジアム外の立ち聞き、
もっと言うと警備員に向けられたものだったことが後にわかった。
思えば、この観客、警備員の食い違いも謎のひとつに加わる。
/ ゚、。 / 「さっきのペニーの話聞いてて思ったんだけどさ」
/ ゚、。 / 「擬古は、ライブのこと、知ってたんだよね」
( <●><●>) 「そうだな」
( <●><●>) 「……!」
.
882
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:46:45 ID:CWcmTz4o0
ぴんときた。
今になってわかった事実。
フッサール擬古は、渋沢栄吉のウェブページにアクセスしている。
それはつまり、クックルのことを知っていたのではないのか。
( <●><●>) 「擬古以外にも、ライブのことを知り得た人物がいて……」
、 、 、 、 、 、 、 、、 、 、 、 、、、 、
( <●><●>) 「本当は、その人物を殺すつもりだった?」
となると、予告状の文言に 「観客」 とあった理由にも説明がつく。
しかし、その場合誰を殺すつもりだったのか。
そもそも擬古が知り得た理由も定かにはなっていない。
/ ゚、。 / 「何一つ、確証はないけど……」
/ ゚、。 / 「観客ッて書かれてたのも、名指しじゃなかったのも、」
/ ゚、。 / 「擬古がサイトにアクセスしてたのも、一応一貫はするよ」
( <●><●>) 「……ふむ」
.
883
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:47:16 ID:CWcmTz4o0
検討するには情報が少なすぎるが、
実はクックルを殺害するつもりでなかった、というのは面白い仮説だ。
( <●><●>) 「では、そのような何かしらがあったとして」
( <●><●>) 「更に複数、疑問は残る」
( <●><●>) 「まず、亡霊はどうして監視カメラの死角を知り得たのか」
( ゚д゚) 「これに関してはひとつ、わかったことがあった」
( <●><●>) 「なんでしょう」
( ゚д゚) 「気張りすぎてて当時は気づけなかったんだがな」
( ゚д゚) 「単純な話だ、あの茂みしか、なかったんだ」
( <●><●>) 「何が」
( ゚д゚) 「単純に、人目につかない場所が、だよ」
.
884
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:49:46 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「……」
( ゚д゚) 「あの現場を、死角、と捉えるからわからなくなる」
( ゚д゚) 「人目につかない場所、と捉えると、謎は謎じゃなくなるんだ」
( <●><●>) 「……」
現場の位置関係を思い出す。
警備員の配置からしても、確かにクックルを呼び出すにはちょうどいい茂みだ。
亡霊が死角を知り得た理由、ではなく。
亡霊が人目を避けていた理由、ならば。
最初から害者を殺すつもりだったから、あの茂みを選んだだけ。
確かに、納得できないわけではなくなる。
しかしどうしても、引っかかってしまう。
裏を返せば、亡霊は死角など恐れずに茂みを選んだことになるのだ。
もしそこがカメラの有効範囲内だったら、どうするつもりだったのだろうか。
監視カメラというのは、一般人からは見つかりづらい場所に設置されるものなのだ。
( ゚д゚) 「それに」
( ゚д゚) 「害者が亡霊に、ここは死角だ、と言った可能性もある」
.
885
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:50:06 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「害者が」
( ゚д゚) 「そもそも、害者は亡霊の呼び出しに応じている」
( ゚д゚) 「つまり、害者側も、ある種協力的だったと言えるんだ」
('、`*川 「予告されてるッてのに?」
、 、
( ゚д゚) 「予告されてたのは、観客だ」
('、`*川 「…!」
/ ゚、。 / 「考えられなくは、ないですね」
/ ゚、。 / 「第一、害者からしたら、相手は十年前に死んだ友だちなんですよ」
('、`*川 「あ!」
( <●><●>) 「……」
捜査する側に立ってしまうからこそ陥る、錯覚。
犯人は亡霊だった、という方程式を代入すると、
確かに事件の見方が、がらりと変わるではないか。
.
886
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:50:37 ID:CWcmTz4o0
地下鉄殺人は、後ろから、だからいいとしよう。
ホテル殺人も、眠ったところをひっそり狙った可能性もある。
しかし、ライブ殺人だけ異なる点があった。
害者が自ら、亡霊に出向いているのだ。
亡霊、とは言うが、十年前の事故で眠っていた、山村貞子。
クックル三階堂にとっても、この上なく強い意味を持つ女だ。
また、後ろめたさもある。
十年前の事故が事件だったかはさて置いて、
なんにせよクックル側にも、負い目に近い感情はあったはずだ。
貞子側も、十年前に死んでいた身分だ。
目立たないところで話したくなる気持ちも考えられる。
たとえ、自分に向けられた殺意に気づいていたとしても。
( ゚д゚) 「ストーリーとしてはこうだ」
( ゚д゚) 「何かしらがあって、亡霊は現場まで来た」
( ゚д゚) 「害者を見つけ茂みから合図を出し、呼び出す」
.
887
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:53:23 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「それに害者は応じる」
( <●><●>) 「なぜなら、十年前に眠ったはずの貞子が、立っていたから」
( ゚д゚) 「そもそも見た目は違っていた可能性もあるがな」
( ゚д゚) 「まあ、それで害者は、ある種の予感も押し殺しつつ、茂みに向かう」
( ゚д゚) 「人目につかない、カメラにも映らない場所なんだ」
( ゚д゚) 「仕事の、同僚の目を盗んで密談できるから、好都合だったんだろう」
( <●><●>) 「……」
( ゚д゚) 「……」
( ゚д゚) 「そうか!」
( <●><●>) 「何か」
おぼろげ、とは思いつつも、仮説を語った東風さんは突如叫んだ。
.
888
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:53:44 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「思い出せ、ワカッテマス」
( ゚д゚) 「インカムだ」
( <●><●>) 「…!」
なぜか操作されていたインカム。
当時は、殺害後に犯人が盗聴していた可能性を考えた。
しかし、クックルにも後ろめたい気持ちがあったなら。
クックルが自ら、状況を把握するために動向を探った可能性もある。
となると、次はクックルが我々のチャンネルをどう知ったか。
我々が同じ型番のインカムを使うことは、知らされていなかった。
しかし、警察も現場にいたことは知っていたではないか。
無論知らされているだろうし、
そうでなくとも、警察がいることは想像に難くない。
( ゚д゚) 「わかったぞ」
( ゚д゚) 「害者は、俺らがインカムを付けている可能性を探ったんだ」
( <●><●>) 「……」
.
889
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:55:09 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「俺らの耳を見られたか、単なる用心かはわからない」
( ゚д゚) 「ただ、絶対に不可能じゃあなかった」
( ゚д゚) 「インカムを操作したのが持ち主だったなら、あり得たんだ」
( <●><●>) 「そうか」
少しずつ鮮明になってきた。
クックルは亡霊と話をしたかった。
その仮説を前提にしていいならば、濃厚な線だった。
むろん、その裏に殺意があったことは察していたかもしれない。
また、それが全国を揺るがす大事件だったことを知っていてもだ。
しかし。
それらを踏みにじってでも、彼には亡霊と話したい動機があった。
十年前の事件、あるいは事故によって喪った友人が相手なんだ、
動機としては十分すぎるくらいだろう。
.
890
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:55:35 ID:CWcmTz4o0
その亡霊は、警察が目を光らせている相手だ。
クックルとしては、何としても、
せめて亡霊と話している間は、警察には見つかりたくなかった。
だから、警察の動向が知れるなら、知っておきたかった。
そこで目をつけたのがインカムで、それがビンゴだった、ということになる。
普通の犯人ならば、無根拠にインカムを睨むのは考えにくいが、
今回の背景を踏まえると、あり得ないとは言い切れない話である。
( <●><●>) 「ここまでうまく辻褄が合ってしまうとなるならば」
( <●><●>) 「多少は信じてもいいでしょうね」
どうして、犯人は死角を把握していた?
犯人が把握していたのは、死角ではなく人目のつかない場所だった。
あるいは、犯人が自ら死角を伝えた可能性もある。
どうして、害者は我々の無線を盗聴していた?
ずばり、犯人と話したかったから。
それも、その動機は非常に強い。
どうして、害者は犯人の呼び出しに無警戒に応じた?
同上で、むしろ呼び出しに応じたかったわけだ。
一気に複数の謎が、解けてしまうことになる。
.
891
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:56:12 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「しかし」
( <●><●>) 「それにしたって、謎が残らないわけでは、ない」
( <●><●>) 「ここまで来ると、クックル側も亡霊のことを知っていたんだ」
( ゚д゚) 「当時と容姿が一緒なわけはねえからな」
( ゚д゚) 「いよいよ、二人はどうやってコンタクトを取ったか、が問題となる」
( <●><●>) 「そこが明かせないと、いま言った仮説は水泡ですから」
ここに、予告の対象は誰だったのか、といった問題が加わる。
二重に、三重に霞がかっているようで、気分がよくない。
( ゚д゚) 「そして、亡霊はクックルを殺害し、続けて嫁を狙いに定めた」
( <●><●>) 「ここに疑念はないですね」
( <●><●>) 「会話の流れから、あるいは害者のスマホから」
( <●><●>) 「連絡先にせよ、ふたりの繋がりにせよ、知り得る」
.
892
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:56:38 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「……確か、東風さんがずっと陣頭指揮を執ったみたいですが」
( ゚д゚) 「わかったことは、亡霊はクックルで味を占めたことだ」
( <●><●>) 「ほう」
( ゚д゚) 「害者は、イツワリさんにしっかり、釘を刺されていたそうじゃねえか」
( ゚д゚) 「警察への連絡だったり、エトセトラ」
( <●><●>) 「そうですね」
( ゚д゚) 「約束の時間より早くに、害者を呼び出した」
( ゚д゚) 「その時、害者は無断で、単身で呼び出しに応じた」
( ゚д゚) 「そこには、クックルの時と同じ心理が働いたわけだ」
( <●><●>) 「……」
クックルの心理に、ひとつプラスされる。
ミセリからすれば、亡霊はすなわち、旦那を殺した犯人だ。
亡霊に向ける思いは、クックルのそれより数段強いものとなるだろう。
.
893
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:57:00 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「亡霊は、害者を滝の上に呼び出した」
( ゚д゚) 「そこには、今は使われてない工具の数々があってだな」
( ゚д゚) 「亡霊はうちひとつ、ローラーに目をつけた」
( <●><●>) 「確認しました」
( <●><●>) 「……ミセリが、滝を登るようにして首を吊られた、と」
警部と東風さんは、実際に見たそうだ。
滝壺から川の末端に至るまで、どこにもミセリはいなかった。
ふと滝口を見ると、そこをミセリが登っていた、と聞く。
( ゚д゚) 「古びたローラーだが、きちんと機能したみたいだな」
('、`*川 「あの、それ、ずっと思ってたんですけど」
('、`*川 「錆びてたりそもそも動力源が動いてなかったら、」
('、`*川 「亡霊はどうしたつもりだったんでしょう」
.
894
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:57:29 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「俺も最初は思ったがな、そいつァ錯覚だ」
('、`*川 「錯覚?」
( ゚д゚) 「ロープでの絞殺に、動力は必要ない」
('、`*川 「…!」
ミセリが滝を登るシーンを見てしまうと、
そのシーンが強烈に印象に残ってしまい、
当時の状況を、絞殺ではなく、滝登りのトリックと捉えてしまう。
しかし、滝を登ろうが登らなかろうが、首を絞められたミセリは、絶命する。
そこにかつてのダム建設の設備は、関係なかった。
/ ゚、。 / 「逆に、どうして亡霊は、滝登りを演出したんですか」
( ゚д゚) 「ん」
/ ゚、。 / 「そんな目立つことしたら、かえって不利になってしまいますが」
.
895
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:57:50 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「……」
( ゚д゚) 「ひとつ」
( ゚д゚) 「遺体を川に流さないで済むなら、流さないに越したことはなかった」
( ゚д゚) 「現に、俺やイツワリさん、応援部隊が一斉に川を捜し出したんだ」
( ゚д゚) 「むろん警察がいなかったとしても、同様」
/ ゚、。 / 「……」
( <●><●>) 「あるいは」
( ゚д゚) 「?」
ふと、思ったことがあった。
事件解決に関与するアイディアではないが。
( <●><●>) 「亡霊、もとい貞子は十年前、崖下に落とされた」
( <●><●>) 「ミセリも言うなれば、崖下に落とされたわけじゃないですか」
.
896
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:58:10 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「!」
( <●><●>) 「比喩的でこそありますが」
( <●><●>) 「亡霊はいわば、十年越しにその崖を登ってきた存在」
( <●><●>) 「……続けて警部に宣戦布告したことも考えると、」
( <●><●>) 「滝登りは、亡霊の表現だったとも思えます」
/ ゚、。 / 「…」
('、`*川 「…」
( <●><●>) 「だからなんだ、という話でこそありますが…」
( ゚д゚) 「……なるほど、なァ」
.
897
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:58:55 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「それより」
柄でもないことを言うと、少しこそばゆい。
閑話休題だ。
気になる点があるのだ。
( <●><●>) 「確か害者は、現場に自前の包丁を持参していた」
( <●><●>) 「現場に、包丁はあったのですか?」
( ゚д゚) 「包丁……包丁か」
( ゚д゚) 「現場や近辺からは、見つかっていない」
( <●><●>) 「……そうですか」
考えられることは、ふたつ。
ひとつは、足を残したくなかったから秘密裏に処分した。
そしてもうひとつが、残酷で、考えたくはないことだった。
( ゚д゚) 「……次のコロシで、使うかもな」
( <●><●>) 「……」
.
898
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:59:15 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「犯人からすれば、足のつかない凶器だ」
( ゚д゚) 「どこぞから買う、拾う、盗む、だと、どうしても最低限の足はつく」
( ゚д゚) 「でも、それが害者が持ってきたものだったら、話は別なんだ」
( <●><●>) 「それが、一番厄介ですね」
もとより、凶器から亡霊を捕まえられるとは思っていないが。
それ以上に、ミセリの持ち込んだ凶器で五人目、を出すのが、
気持ち的にも、決して許してはならない事態であると言える。
( ゚д゚) 「滝殺人に関しては、追究の余地が少ない」
( ゚д゚) 「監視カメラとかはねえし、なにより出し抜かれた事件だったんだ」
( <●><●>) 「気になるのは亡霊の逃走経路ですが」
( <●><●>) 「足跡は、洗えなかったのですか?」
.
899
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 00:59:41 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「そこなんだがな」
( ゚д゚) 「亡霊は相当用心だ。 土を歩いていない」
( <●><●>) 「……」
思わずため息が出る。
自分は亡霊である、という演出を強調したいのか。
( ゚д゚) 「草木を器用に歩いて、滝の上で待っていたんだ」
( ゚д゚) 「一応ルートは特定できたが、指紋も足跡も、検出できていない」
('、`*川 「足跡、と呼べない程度の跡はあったんですね」
( ゚д゚) 「もちろんだ」
( ゚д゚) 「足のない人間が人を殺せる世界じゃねえ」
.
900
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 01:00:09 ID:CWcmTz4o0
亡霊。
心霊的な意味で言えば、現世に留まっている、死んだ人間の魂。
しかし、本件における亡霊は確かに生きている。
足ももちろんある。
何より、ホテル殺人においてハンカチを使用している時点で、
犯人は指紋から特定されるのを恐れた証明になるのだ。
自らを亡霊と名乗って我々を陽動したのはいいが、
所詮は亡霊に成り切っているだけの、情けない、哀れな死にぞこないに違いない。
( <●><●>) 「方針は、決まりましたね」
( ゚д゚) 「よっつの殺人の種明かしは、後でいい」
( ゚д゚) 「早急に、フッサール擬古と亡霊をつないだ宗教関係者を追うんだ」
('、`*川 「オッ」
.
901
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 01:00:57 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「とっかかりは、どこまで掴めているんだ」
('、`*川 「みんなも手伝ってくれるんだね?」
( <●><●>) 「亡霊の実態さえ捕まえれば、後ろの事件も芋づる式に解決するんだ」
( <●><●>) 「貞子は、いつ目覚めたのか」
( <●><●>) 「目覚めた後の動向は」
( <●><●>) 「……五人目が殺される前に、特定するぞ」
('、`*川 「オッケ!」
('ヮ`*川 「結構望みのある線だからねーー、時間はかかんないと思うよ!」
( ゚д゚) 「空いてる人員を、片っ端から導入しよう」
/ ゚、。 / 「だったら、オオカミに割いてる人員全員、まわせます」
( ゚д゚) 「滝殺人の連中も回せるな」
('、`*川 「ちょ、さすがにそんなにいらない…」
.
902
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 01:01:17 ID:CWcmTz4o0
( <●><●>) 「…」
謎は確かに多いが、望みは見えてきた。
きっかけは、向こうの自惚れだ。
自らを亡霊と称し、十年前と連続予告殺人を自ら結びつけてしまった。
その犯人の過失を、徹底的に突くだけだ。
( ゚д゚) 「ワカッテマスは、どうするんだ」
( <●><●>) 「とりあえず、警部に共有を」
( <●><●>) 「ここ三人は、第三者の特定ですか」
( ゚д゚) 「そうなるな」
('、`*川 「私が整骨院に行くよ」
('、`*川 「向こうでリアタイでお客さんら見ながら、顧客データ流す」
( ゚д゚) 「ん……電送してくれるのか」
('、`*川 「向こうさん、むっちゃいい人だから」
.
903
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 01:01:52 ID:CWcmTz4o0
( ゚д゚) 「じゃあ、俺と鈴木はここに残るか」
( ゚д゚) 「腹、減ったろ。 待ってる間、食おう」
/ ゚、。 / 「え! いいんですか!」
( ゚д゚) 「ワカッテマスはどうする」
( <●><●>) 「ちょっと、胃に残るものは」
東風さんがメシ、と言うと、馴染みのラーメンの出前だ。
自分は、極力任務中は胃を空っぽにして、カフェインの効きをよくしておきたいのだ。
( ゚д゚) 「相変わらずだな」
/ `、、*/ 「なんにしよっかなー。 チャーハンセットかなー。」
('、`*川 「気が変わったわ。 私も食べてから行く」
( ゚д゚) 「善は急げ。 違うか?」
('д`*川 「ケチ!」
.
904
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 01:02:48 ID:CWcmTz4o0
序幕
>>2-69
第一幕
>>82-211
第二幕
>>218-296
第三幕
>>304-388
第四幕
>>398-468
第五幕
>>477-528
第六幕
>>539-624
第七幕
>>640-739
第八幕
>>757-903
905
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 01:07:17 ID:CWcmTz4o0
残りは9話、10話、エピローグだけです つって合計300レス以上あるけど、、、
エピローグもほぼ書き終わってるから逃亡しません
次回「偽りを捕まえろ」は一週間以内には投下したい、、、
906
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 02:34:25 ID:PPraLVOA0
乙、今回も最高におもしろかった
おぼろげだった亡霊の輪郭が徐々に見えてきてわくわくする
次も楽しみにしてるよ
907
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 05:23:40 ID:WsjMEpJo0
乙おつ
じわじわと見えて来たなあ
こういうパートが何気に一番好きだったり
908
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 06:43:01 ID:hzOQ4eXE0
乙 偽りシリーズ再開に喜んでる
この真相がどんどん明らかになっていく感覚がたまらない
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2544.jpg
909
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 07:16:22 ID:kzzEzlVo0
>>890
あるいは、犯人が自ら死角を伝えた可能性もある。
これ、害者が、のミスか?
あと二人が殺されないよう祈ってる
次も楽しみだ、乙
910
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 08:27:39 ID:zVLEiN3.0
一週間以内だなんて楽しみが増えたよ
911
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 09:55:58 ID:BlHgxsXE0
>>908
これすげえ 上のもやもやから手が伸びてて亡霊を表現してんだな
ごちそうさまです
>>909
おめでとうございます
うわあついに校正漏れが、、、
>イケメンのブーン芸神さん
>>890
の「あるいは、犯人が自ら死角を伝えた可能性もある。」の
「犯人」を「害者」に直してほしいです、、、
912
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 16:58:07 ID:Hc2/CzHk0
乙
913
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 17:25:57 ID:8qzshEEc0
>>777
(´・ω・`) 「それも、おそらくは移転……たらい回しにされたのだろう、ということ」
転院?
>>838
( ゚д゚) 「……亡霊は、外部犯と強力した可能性が濃厚になるぞ」
協力?
914
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 17:43:56 ID:VK9h.Ttg0
乙乙
続き楽しみに待ってます
915
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 23:33:12 ID:5qnQt3Yc0
10年以上の植物状態から目が覚めたばかりの人間は長期のリハビリなしに足は動かせないし、ましてや警察の捜査をかわすために器用に土を歩かなかっただなんてことがあるんですかね…
916
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 23:39:45 ID:Mp51cSjM0
そもそも10年前に050のIP電話とか一般的に知られてたっけ?
起きてすぐ情報集めたにしては手際が良過ぎるんだよなぁ
917
:
名無しさん
:2018/10/28(日) 23:42:41 ID:keVAWD8Y0
所詮素人の書いた小説モドキの粗を探して楽しいか?
918
:
名無しさん
:2018/10/29(月) 00:13:54 ID:LmvIvk9g0
お前ら素直に良く読んでると言いなさい
919
:
名無しさん
:2018/10/29(月) 02:52:12 ID:1oLduGEY0
話は最後まで分からんぞ
920
:
名無しさん
:2018/10/29(月) 03:33:44 ID:G4uzlJYM0
10年前だったら050出始め話題になってきた頃じゃない?
家電を050に変えたのそれくらいだったきがする
921
:
名無しさん
:2018/10/29(月) 07:01:30 ID:ER30sgP20
(;'A`)「更新速すぎ&多すぎっ。更に1週間以内にまた更新とか…。そんなの読める訳ないだろ、常識的に考えて・・・」
(´・ω・`)「できらぁ!」
922
:
名無しさん
:2018/10/29(月) 11:09:25 ID:1xsL5uFI0
いつ目覚めたかは書いてないよな
目覚めてからしばらくたっててその間にリハビリやら知識を学んだとか
そうなると共犯者いそうだけど
923
:
名無しさん
:2018/10/29(月) 11:36:06 ID:r2AUxV/I0
そもそも現在が何年かって正確に語られてないだろ
924
:
名無しさん
:2018/10/29(月) 19:52:56 ID:3M5Xx98I0
>>913
おめでとうございます
全然校正できてなくて申し訳ない
芸さんすみませんがこちらもお願いします、、、
925
:
名無しさん
:2018/10/30(火) 21:16:32 ID:upCfCZ8Y0
(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです <解決編>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1540901686/-50
投下中にスレ埋めちゃったら
後から開いた人にネタバレパンチぶち込みそうだったから先に分離
埋めネタとかは特にない
というか埋めネタなんて文化あったな どこに行ったんだ埋めネタ文化
926
:
名無しさん
:2019/05/28(火) 05:15:00 ID:BcBaO0fc0
おつ!
また見れるとは思わなんだ
ついめにあげる
927
:
名無しさん
:2019/06/13(木) 02:25:12 ID:FKE4PA9M0
え、もうすぐ1年やん…
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