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レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。
(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです
24
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:00:17 ID:qgB33Ij20
.
25
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:00:37 ID:qgB33Ij20
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
丨 !
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
序幕 「 予告 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
26
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:01:40 ID:qgB33Ij20
┏━─
五月二日 午前九時四二分 捜査一課
─━┛
( <●><●>) 「捜査一課」
電話が鳴った瞬間に、ワカッテマスが応じた。
雑務を片手に、淡々と相槌を入れていく。
( <●><●>) 「…いや、扱ってはいないですね」
( <●><●>) 「…それは、いつ?」
(´・ω・`) 「なァー」
(´・ω・`) 「それ先週の案件だよな?」
('、`*川 「わかってますゥー」
ヴィップに籍を持つ容疑者の情報提供。
目下三ヶ月の事件との照合。
警視庁から寄せられる数々の要求は、
事件が少ないはずの捜査一課を翻弄するのに十分すぎる量だった。
.
27
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:02:01 ID:qgB33Ij20
( ゚д゚) 「…」
(´・ω・`) 「先輩を見習えよ」
('、`*川 「だったらパソコンの使い方教えてくださいよ」
('、`*川 「先輩でしょ」
(´・ω・`) 「こッ…僕は上司だぞ…!」
ちょうど雑務を終えて、ふとテレビに目をやったぎょろ目は、
そのままニュースが淡々と報じる内容に釘づけになっていた。
('、`*川 「だいたい、こういうのは下っ端の仕事じゃない?」
('、`*川 「あいつにさせりゃあいいじゃない。 ワカは何やってんのよ」
(´・ω・`) 「本来あんたがするはずだった仕事の三つ目」
('、`*川 「…」
(´・ω・`) 「と、電話対応」
('、`*川 「…」
.
28
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:02:25 ID:qgB33Ij20
,_
('へ`*川 「やりゃーーいいんでしょ!ハイ!」
( ゚д゚) 「ちょっといいですか」
(´・ω・`) 「ん。 なに。 パソコンはだめだぞ」
( ゚д゚) 「見てください」
(´・ω・`) 「ん?」
ペニーの相手は面倒だ。
捜査一課には、機械に強いのがワカッテマスと壁しかいない。
ただでさえ人手が足りないショボーン班、壁は絶賛有給中だ。
( ゚д゚) 「ご存じですか」
( ゚д゚) 「地下鉄の、アレ」
(´・ω・`) 「…?」
ニュースの映像には、やれ予告だの、やれ連続だの、
といったよくわからない文字が躍っていた。
しかしそのどちらにも、続けて殺人、と出ている。
.
29
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:02:57 ID:qgB33Ij20
( ゚д゚) 「続いてるんですよ」
(´・ω・`) 「何が」
( ゚д゚) 「同一犯による、コロシですよ」
(´・ω・`) 「…」
( <●><●>) 「警部」
(´・ω・`) 「なんだ」
( <●><●>) 「ご存じですか」
( <●><●>) 「先週あった、地下鉄の、アレ」
(´・ω・`) 「なんだよ!」
( ゚д゚) 「車両内で…ッてやつか?」
( <●><●>) 「ええ。 …ちょうど、報道もされていますね」
30
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:03:33 ID:qgB33Ij20
手際よく資料を手に取って、僕とぎょろ目の間に割って入った。
なんだよ。 やめてくれよ。
嫌な予感しかしない。
( ゚д゚) 「予告殺人…だな?」
( <●><●>) 「いま、所轄からその件で」
(´・ω・`) 「…」
改めてニュースに目をやる。
ヴィップの某所で、続けて同一犯による殺人予告が寄せられてきたらしい。
一件目は、市営地下鉄。
二件目は、どうやら駅前のビジネスホテル。
( <●><●>) 「明日、十九時から開演するあるライブで」
( <●><●>) 「観客のうち一名を、殺すとの予告が会場に届いたようです」
(´・ω・`) 「なに?」
.
31
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:04:20 ID:qgB33Ij20
('、`*川 「なになに」
('、`*川 「ヤマ?コロシ?」
機械作業を投げたペニーまで首を突っ込んできた。
嫌な予感しかしない。
というか、もう的中しているようだ。
( ゚д゚) 「詳しく聞かせろ」
( <●><●>) 「とりあえず、こちらを」
ワカッテマスは、裏紙に走らせた直筆のそれを見せた。
日時、場所、概要などが、几帳面な字で書かれている。
( ゚д゚) 「…」
(´・ω・`) 「出動申請は」
( <●><●>) 「現在状況確認中とのことで」
(´・ω・`) 「手短に、簡潔に教えろ」
( <●><●>) 「はい」
.
32
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:04:52 ID:qgB33Ij20
嫌な予感、嫌な予感、と言っていられる余裕は、なくなった。
どうやら、もう僕たちはひとつの事件に巻き込まれているようだった。
( <●><●>) 「明日、五月三日」
( <●><●>) 「ヴィップスタジアムで、あるアーティストのライブが開催されます」
( <●><●>) 「十九時開演、そしてライブ中に観客を殺す、と」
( ゚д゚) 「会場宛てに」
( <●><●>) 「ええ」
赤ペンで、ワカッテマスが線や丸を書き足していく。
( <●><●>) 「媒体ははがき」
( <●><●>) 「消印から出所は特定していますが、その他は調査中」
( <●><●>) 「ここまでは、殺人予告の案件です」
.
33
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:05:48 ID:qgB33Ij20
( ゚д゚) 「肉筆か?」
( <●><●>) 「はい」
( <●><●>) 「そこで、この…」
ワカッテマスが、一瞬視線をニュースに向ける。
先週起こった地下鉄殺人事件、続けて起こったビジネスホテル殺人事件。
これらはどちらも、同一犯による殺人予告が届いていた。
筆跡を照合したところ、同一人物によるものであることが認められている。
( <●><●>) 「一連の事件が噛んできます」
(´・ω・`) 「…」
( <●><●>) 「照合中でこそありますが、」
( <●><●>) 「肉眼でもわかるほどには筆跡が酷似しているため、」
( <●><●>) 「同一犯のものと見て間違いはないかと」
(´・ω・`) 「続けろ」
.
34
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:06:43 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「一件目は、陽動と思いつつも所轄が対応」
( <●><●>) 「しかし、駅や時刻まで明示されてなかったためか、防げず」
( <●><●>) 「二件目も、所轄やホテルの制止を振り切った害者が宿泊したのですが、」
( <●><●>) 「常備薬に細工が施されていたようで、即死」
赤ペンによるバツ印が増えていく。
( <●><●>) 「本件、これを受けたヴィップスタジアムは所轄まで通報」
( <●><●>) 「現在、ライブ中止などをアーティスト側に要請しているようです」
( ゚д゚) 「で、今回のはがきが?」
( <●><●>) 「PDFで送られています」
二枚目の紙を指さす。
多少癖のある字体で、殺人予告が書かれている。
「五月三日、十九時より開演される渋沢栄吉のライブ中に、観客一名を殺す」
しかし、何という名前の人物を殺すか。
何分頃に、どうやって殺すか。
そういった具体的なところは伏せられていた。
.
35
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:07:06 ID:qgB33Ij20
(´・ω・`) 「対応は」
( <●><●>) 「まず、ライブ中止要請」
( <●><●>) 「捜査本部も本日正午に立てられます」
( <●><●>) 「報道規制も一応要請はしていますが、こちらは望み薄」
正午。
あと二時間もない。
('、`*川 「正午ね。 オッケー」
というと、ペニーは席を立った。
もう何も言うまい。 勝手にコーヒーを淹れだすのだ。
(´・ω・`) 「午後の檀家まわりは中止だ。 まわしとけ」
( <●><●>) 「もう回してます」
(´・ω・`) 「そ、そう…ありがとよ」
('ワ`*川 「え、檀家まわり中止? やった!」
.
36
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:07:41 ID:qgB33Ij20
ペニーが、二つ、三つとコーヒーを淹れていく。
見かねたのか、ぎょろ目はポケットに手を突っ込みながら席を立った。
煙草の合図だ。
( ゚д゚) 「失礼」
(´・ω・`) 「僕もいく」
('、`*川 「え、ちょ、ちょっと」
('Д`*川 「警部のぶんも淹れて……ちょーーい!」
( <●><●>) 「地下鉄、ビジホの資料、刷っといてくれ」
,_
('へ`*川 「あんたの仕事じゃないの!?」
( <●><●>) 「私は一課長と話が」
,_
('、`*川 「……わかったよ!」
ペニーが、壁にかけてあった白衣を乱雑にとる。
彼女がスイッチを入れる時、いつも着るコートだ。
.
37
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:08:11 ID:qgB33Ij20
┏━─
午前十時二七分 喫煙室
─━┛
( -д-)y-~~
( ´・ω・) 「ずいぶんとノッてないじゃないの」
っ‘・
( ´-ω-)y-~~
( ゚д゚) 「…嫌な予感がね、してたんですよ」
(´・ω・`) 「なんのさ」
会議前にこいつと煙草を吸うのは、もう何年前からだろう。
ショボーン班で、唯一僕より年上。
白髪も、ここ数年でかなり増えている。
警部という肩書がなくても、別に敬語を使おうなんて思わないけど。
風格から、実績から、人柄から、一番頼りになるオトコには違いなかった。
千里眼を持つと言われる男、東風ミルナとは、もう長い付き合いなのだ。
.
38
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:09:12 ID:qgB33Ij20
( ゚д゚) 「ホテル殺人です」
( ゚д゚) 「所轄も、さっさとこっちに振ればよかったのに」
( ゚д゚) 「調査不十分とか言って、投げてこなかった」
(´・ω・`) 「ビジホのって、林ちゃんの管轄でしょ」
(´・ω・`) 「アイツ、僕のこと嫌いだから。 それじゃない?」
( ゚д゚) 「何をおっしゃいますか」
苦い笑いを浮かべる。
備え付けの自販機を眺めながら。
( ゚д゚) 「…何か、思うところはないんですか」
( ゚д゚) 「イツワリさん」
(´・ω・`) 「データが足りない」
(´・ω・`) 「所轄に、丸投げしてたし」
.
39
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:09:56 ID:qgB33Ij20
イツワリさんなんて呼ばれたの、久しぶりかもしれない。
ここ最近、班で大きな事件に臨むことがなかったからだろう。
警察きってのスーパールーキー、若手ワカッテマスが入ってから、
あまり 「イツワリさん」 っぽいことをしてきた記憶がない。
しかしそれでも、思い出すことは多少ある。
地下鉄、と聞いて思い出すのは、オオカミ鉄道の爆破予告。
あれも思えば、同一犯による連続犯行だったと言える。
ただ、一般の命が奪われることは、なかった。
( ゚д゚) 「そうだ」
( ゚д゚) 「鈴木にも出てきてもらいますか」
(´・ω・`) 「いいよ。 どうせ家でゲームしてんだ」
先見の明に長けた、鈴木ダイオードもあの事件を共にした。
壁、と言いすぎて一課長からセクハラを警告されたのも懐かしい。
.
40
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:10:39 ID:qgB33Ij20
(´・ω・`) 「最近、あいつずっとサボってるからな」
(´・ω・`) 「あいつに、無理にでも働かせよう」
( ゚д゚) 「ペニーは…」
苦笑を浮かべる。
いわゆる、刑事っぽいこと、とやらがしたくてこの職に就いたそうだが、
蓋を開ければ、九割の雑務と、一割の本命。
週に一回は退職したいと言いたくなるのも無理はないかもしれない。
ヴィップがまだ荒れていた頃は、白衣の女刑事としてちょっとは名を馳せたものだった。
おじさん二人に若い女二人、頭脳派刑事がひとり。
あまり格闘に向いていない僕の班で、ペニサス伊藤だけが腕に自信を持っていた。
( ゚д゚) 「これ以上、始末書、書かせたかないでしょ」
(´・ω・`) 「僕はどォーでもいいけど?」
( ゚д゚) 「…」
格闘もだいじだ、と思い、いろいろなことを教えた。
手錠をメリケンサックよろしく拳にあてがう方法も教えたりはしたが、
ペニーにとっては逆効果だったようで、おととし辺りからだろうか、
「刑事」 による過剰な応戦が、上層部の機嫌を損ねる事態に進展した。
.
41
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:11:09 ID:qgB33Ij20
もっとも、いる若手の三人目、ワカッテマスも格闘は垢抜けたセンスを持っている。
ドラマのような、過剰で派手で大げさな格闘は不要だ、という気持ちもわかる。
'_
(´・ω・`) 、
(´・ω・`) 「もしもし」
( ゚д゚)y-~~
「そろそろ戻られますか」
ワカッテマスからの、味気ない一言だった。
絵に描いたような天才。
歳不相応に沈着で、頭が切れる。
拳銃の精度も、格闘の心得も持ち、ジョーク以外のセンスは持ち合わせている。
奴から電話がかかってくる時は、得てしてよろしくないことが待ち構えているのだ。
(´・ω・`) 「もーちょいで戻るよ」
煙草を吸いながら、答える。
ワカッテマスは露骨に嫌そうな溜息をこぼした。
(´・ω・`) 「…」
.
42
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:11:32 ID:qgB33Ij20
もう少し、軽口のひとつ叩ければ人生は楽しくなるのに。
煙草を灰皿にこすり付けて、僕は立ち上がった。
(´・ω・`) 「気が変わったから、いま戻るよ」
'_
( ゚д゚) 、
( ゚д゚)φ
ぎょろ目も立ち上がる。
スーツに付着した灰を、しわの増えた手で払いながら。
(´・ω・`) 「おしるこ」
( ゚д゚) 「え?」
(´・ω・`) 「差し入れ、なに買ってやろうかな、って」
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「イツワリさんらしいっすね」
.
43
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:11:55 ID:qgB33Ij20
┏━─
午前十時四〇分 第四会議室
─━┛
(´・ω・`) 「ほれ」
( <●><●>) 「…?」
部屋に入ると、ワカッテマスが十枚ほどある資料に目を通していた。
扉の雑に開かれた音を聞いて奴は振り返ったわけだが、
そこにすかさずおしるこ缶を投げつけた。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) ・,
(´・ω・`) 「こッ…こいつ…」
無言で、それも一口で飲み干されたが。
軽口を挟む間もなく、ワカッテマスが目配せした。
( <●><●>) 「連続予告殺人事件捜査本部」
.
44
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:12:16 ID:qgB33Ij20
( ゚д゚) 「?」
( <●><●>) 「捜査本部の名前…だそうですけど」
(´・ω・`) 「このしょーーもねえネーミングは一課長だ絶対」
( ゚д゚) 「最近一課長、筆がマイブームだそうで」
(´・ω・`) 「くッだらねえ」
ワカッテマスの向かいまで歩いて、資料を一部、拾う。
まだ更新が追い付いていないのか、こちらにはそのナマエはなかった。
しかし、僕の名前は、あった。
( <●><●>) 「なりゆきで、ショボーン班が担当することになったそうです」
(´・ω・`) 「ぶっ」
責任者のところに。
.
45
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:12:41 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「とりあえず、復習も兼ねて」
( <●><●>) 「まだ確固たる証拠こそないんですが、便宜上」
( <●><●>) 「地下鉄殺人事件、ビジネスホテル殺人事件につながった連続殺人と見なしています」
( ゚д゚) 「どうせ会議中にでも一報あがるだろう」
( <●><●>) 「マスコミでも、ニューストピックの常連ですね」
( <●><●>) 「警部の思っている以上に、重大な事件です」
(´・ω・`) 「…」
マスコミや上層部とは、ちょっとした因縁がある。
そのせいか、話題性のある、
というかいわゆる貧乏くじは、だいたい僕が引くことになっていた。
.
46
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:13:13 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「地下鉄殺人事件」
( <●><●>) 「四月二十五日〇時頃、ヴィップの市営地下鉄○○-××駅間」
( <●><●>) 「フッサール擬古という男が、何者かによって刺殺されました」
( <●><●>) 「死因は失血死、犯人は目下捜索中」
( ゚д゚) 「…」
うなずきながら、ぎょろ目も資料に目を通す。
ここまでは、確かニュースでも報道されていたはずだ。
たとえ見たくないニュースも、捜査一課では常に垂れ流されている。
昨日の朝、コーヒーを飲んでいる時にふと目に入ってしまったのを覚えている。
(´・ω・`) 「走行中、だったな?」
( <●><●>) 「ええ」
( <●><●>) 「ただ、厳密には××駅到着寸前です」
( ゚д゚) 「どう足掻いても、地下鉄だ」
( ゚д゚) 「カメラの目を盗むことはできねえんじゃないのか」
.
47
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:14:20 ID:qgB33Ij20
ニュースでは、犯人は現場から逃走、としか報じていない。
詳しくは知らないけど、現にこうして 「連続」 殺人と捉えられている以上、
いまもどこかで息を潜めていることがうかがえる。
( <●><●>) 「犯行は、駅に着く直前でした」
( <●><●>) 「駅員が構える前に扉は開かれ、」
( <●><●>) 「カメラが不審な影を捕えることなく、事件は現在まで引き延ばされています」
(´・ω・`) 「マ、乗客に紛れて一緒に出たんだろうな」
( ゚д゚) 「一応、取り調べには引っかかっている、と」
「いえ」
ワカッテマスが、嫌な声で言った。
( <●><●>) 「仕方のないこととはいえ、全体の三割ほどは取り逃がしています」
( <●><●>) 「というのも、現場は終電、翌日も平日です」
( <●><●>) 「駅員の制止むなしく…といった現状ですね」
(´・ω・`) 「だァと思ったよ」
( ゚д゚) 「まあ、最悪カメラには映っているんだな」
( <●><●>) 「最悪、ですが」
.
48
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:14:42 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「所轄の報告ですが、」
( <●><●>) 「害者は刺されるような恨みを買う男ではなかったそうです」
( <●><●>) 「金品等はもちろんですが一切盗まれておらず、」
( <●><●>) 「行きずりの犯行とも思えない、といったところ」
(´・ω・`) 「人脈を洗うのは所轄に任せよう」
( ゚д゚) 「この時点で、まあまあ面倒な事件だったわけだ」
話していると、捜査本部の扉が開かれた。
ふと時計を見たが、まだ会議より一時間早い。
('、`*川 「うぃーっす」
(´・ω・`) 「ウッス」
( <●><●>) 「…」
白衣をまとったペニーが、遅ればせながらやってきた。
少し語調を強めつつ、ワカッテマスは続ける。
.
49
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:17:55 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「凶器ですが、一般的なペティナイフ」
( <●><●>) 「指紋など有効な手がかりはありません」
( <●><●>) 「出所も、一応調査してはいますが、望み薄ですね」
(´・ω・`) 「凶器で洗い出せる事件なら、所轄がとっくに解決してらあ」
ペニーが、話に加わろうと必死に資料を読み進める。
ナイフの話題が出た辺りで、ああ、と言って得意げな顔をした。
( <●><●>) 「まあ、共有は概要だけでいいでしょう」
( <●><●>) 「続けて、ビジネスホテル殺人事件」
( <●><●>) 「こちらも同じく、ヴィップの事件ですね」
(´・ω・`) 「知ってるよ。 僕も泊まったことあるもん」
( ゚д゚) 「初耳ですな」
(´・ω・`) 「どーーっかで見た名前だな、って思ったんだ」
.
50
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:21:09 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「四月三十日、ヴィップの××ホテル」
( <●><●>) 「被害者は、ヒッキー小森という男」
( <●><●>) 「地下鉄同様、ホテル殺人にも予告は出されました」
( <●><●>) 「地下鉄の場合、初、それも公共の場に向けた予告だったので」
( <●><●>) 「対応は難しかったものの、次はホテル宛てです」
( ゚д゚) 「当然、ホテルとしては対応をしたわけだ」
殺人予告の厳しいところは、陽動か否かが掴めないところだ。
だいたいの予告は、犯人を未然に特定して逮捕し、
これ見よがしに報道することで見せしめとするものだが。
ごくまれに、特定されないよう予告を出し、
多少は強化されているはずの警備の網をくぐって本当に殺す人がいる。
続発する殺人予告の一つひとつをクソまじめに対応する警察だが、
ごくまれにあるこういった犯行を許してしまうことで、
国家叩きに飢えているマスコミを活性化させることとなる。
日頃から莫大な費用が、殺人予告に突っ込まれているんだけど。
( <●><●>) 「まず、ホテル側は別のホテルを押さえました」
( <●><●>) 「ホテルが実費負担する、と言ったそうですが、害者はこれを拒否」
( ゚д゚) 「なんだっけ。 確か、予告を鼻で笑ったそうじゃねえか」
.
51
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:21:44 ID:qgB33Ij20
('、`*川 「でも確かに、鼻で笑いたくなりますよ」
('、`*川 「フツー、ガキの悪戯って思いますって。 このご時世」
インターネットが流行ったことで、未成年の早すぎる社会進出が問題となっている。
殺人予告が横行する背景には、もちろんインターネットの普及は避けて通れない。
(´・ω・`) 「ということは、当然ホテルの害者も、特段殺される理由がなかったわけだ」
( <●><●>) 「現時点では。 そうですね」
( ゚д゚) 「少しでも、殺される心当たりがあるなら、」
( ゚д゚) 「結構素直にケーサツの声を聞くもんだしな」
('、`*川 「でも、犯人は逃げてンでしょ」
('、`*川 「地下鉄と違って、現場はホテル」
('、`*川 「いっっくらでも取り押さえようはあるんじゃないの?」
.
52
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:22:20 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「…そうですね」
( <●><●>) 「殺害、という言い方は語弊があります」
( ゚д゚) 「ん?」
ワカッテマスは、資料を直視した。
、 、 、、、、 、 、 、、、、
( <●><●>) 「正確に言えば、害者の死因は、アナフィラキシーショック」
(´・ω・`) 「…!」
( <●><●>) 「害者は喘息を患っていました」
( <●><●>) 「咳止めを飲む習慣があったのですが、これにアレルゲン…」
( <●><●>) 「ピーナッツ、ですね。 この成分が盛られていたようです」
資料に自分で赤マルをつけながら言った。
.
53
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:22:55 ID:qgB33Ij20
(´・ω・`) 「アレルギー…?」
(´・ω・`) 「臭うな」
('、`*川 「そうですよ」
('、`*川 「ピーナッツの匂いとかでわかりそうじゃない?」
(´・ω・`) 「ちげえよバーカ」
('、`*川 「…ッ」
ペニーが、ぎょろっと僕を睨む。
ぎょろ目、ワカッテマスは、意にも介さない。
(´・ω・`) 「つまり、あれだ」
(´・ω・`) 「犯人は、害者のアレルギーを把握してたんだろ?」
(´・ω・`) 「この時点で、いろいろ話は変わってくる」
( ゚д゚) 「他人のアレルギーなんて、そうそう把握できるもんじゃないからな」
( ゚д゚) 「この、小森といったか、害者と浅くはない関係にあった人物が犯人なのは間違いない」
.
54
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:23:24 ID:qgB33Ij20
('ε`*川 「知ってますゥー」
('ー`*川 「てか、そンくらい、テレビでもしょっちゅうやってますよ」
(´・ω・`) 「むしろ気になるのは、どうアレルゲンを盛ったか、だ」
( <●><●>) 「そちらについては、もう結果が出ています」
ホテル殺人のそれに添付されていた資料を表にする。
咳止めの写真と一緒に、鑑定結果が載せられている。
( <●><●>) 「ピーナッツオイル、はご存じですか」
('、`*川 「知ってる。 美容にいいんだよ」
( ゚д゚) 「知ってます?」
(´・ω・`) 「知らない…」
.
55
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:24:03 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「こいつが瓶内にかけられていたようですね」
( <●><●>) 「害者の担当医曰く、こんなものを経口接種するのはとんでもない、と」
( ゚д゚) 「犯人は、どうにかして害者のクスリに干渉したわけだな」
(´・ω・`) 「…」
殺人予告、ビジネスホテル、アレルギー、常備薬、瓶。
パズルのピースが、次々と形を成していく。
ひとつ目の地下鉄殺人と違い、明確なピースが多数ある。
まして、どれも重要なピースばかりだ。
次から次へと、ピースが成す全体像の候補が浮かび上がってくる。
( <●><●>) 「ホテル、並びに所轄の過失は、」
( <●><●>) 「一件目が刺殺だっただけに、人影ばかりを警戒してしまったことです」
( ゚д゚) 「かといって、未然に防げる案件だったとも思えんな」
( <●><●>) 「まあ、だからマスコミはあまりそこには触れてないんですよね」
.
56
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:24:28 ID:qgB33Ij20
(´・ω・`) 「解くとしたら、そこからだな」
( ゚д゚) 「何かお気づきで」
(´・ω・`) 「いや…ヒントが多すぎるからな。 かえって難しい」
(´・ω・`) 「たぶん、三日もあれば、それなりな答えは出せると思うんだけど…」
もとの、事件の資料に戻す。
ここまでわかりやすいヒントがいくつもあるのに、
依然犯人が捕まっていないのは気がかりだ。
( <●><●>) 「でしたら、こちらの共有もこれくらいでいいでしょう」
( <●><●>) 「そして、三件目です」
( ゚д゚) 「ライブ宛ての殺人予告、だったな」
( ゚д゚) 「規模は、どれくらいなんだ?」
( <●><●>) 「右肩八ページを」
( ゚д゚) 「ん…」
.
57
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:25:18 ID:qgB33Ij20
開くと、ライブ主催のアーティストと思しき男の写真がまず目に入った。
どこかで見た記憶のある風貌だ。
( <●><●>) 「渋沢永吉、ご存じかと」
(´・ω・`) 「うっわ世代だ」
('、`*川 「抱かれてバラッド…の人でしたっけ」
(´・ω・`) 「うっわーー…まじか」
ハードボイルドな風体に、ハスキーボイス。
僕が二十代の頃に成り上がった歌手だ。
( ゚д゚) 「結構、どころじゃない規模じゃないか」
(´・ω・`) 「え、次のターゲット、つまり同世代??」
( <●><●>) 「地下鉄、ならびにホテルは三十少しと世代も共通していたのですが」
( <●><●>) 「こうなると、いよいよ面倒な気がしてなりません」
.
58
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:26:22 ID:qgB33Ij20
数万人規模の、全国ツアー。
いくら厳重な警備を敷こうが、限界がある。
現に、地下鉄からの脱出を許した相手だ。
さすがに、ライブも中止になるはずだ。
( <●><●>) 「しかし、相手が悪かった」
( <●><●>) 「これをマスコミが嗅ぎ付けないわけがありません」
(´・ω・`) 「今はまだ報道されていないけど……」
('、`*川 「マ、帰る頃にはトピックスが増えてるでしょ」
( ゚д゚) 「初回の地下鉄やアレルギー殺人が防げなかったのはともかく」
( ゚д゚) 「ライブ側がこれに応じないわけがない」
(´・ω・`) 「そして、過去二回の過失が浮き彫りになる、と」
.
59
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:26:52 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「気になるのは、ホテル殺人」
( <●><●>) 「この時だけ、明確にだれだれを殺す、と名指しだったんですよ」
( ゚д゚) 「計算の上じゃないのか?」
( <●><●>) 「一笑に付すのが目に見えていた、と」
( ゚д゚) 「現に、それで殺されてるからな」
('、`*川 「警部的にはどーなんですか」
(´・ω・`) 「データが足りないな」
(´・ω・`) 「計算の上かもしれないし、あるいは犯行の特異性を裏手に取ったのかもしれない」
( <●><●>) 「出入り口を押さえ、カメラに目を見張ればいい……と思わせて、ですか」
まだ、捜査はまったくしていない。
断言できないいくつもの可能性が顔を出す。
(´・ω・`) 「あるいは、三度目の正直がある」
(´・ω・`) 「三度目こそが、狂言ッてね」
.
60
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:27:20 ID:qgB33Ij20
( ゚д゚) 「あーー」
ぎょろ目が大きな声でうなずいた。
( ゚д゚) 「ここで話題性を高めて、と」
(´・ω・`) 「わかんないけどね」
( ゚д゚) 「しかし、あり得る」
( ゚д゚) 「犯人と害者たちを結ぶコミュニティがあって」
( ゚д゚) 「そのなかの、渋沢ファンである特定個人に向けたアナウンスとも取れます」
(´・ω・`) 「次はお前を殺すぞ、と」
我ながら、すごく嫌味ったらしい笑顔ができた。
わからないことが多くて、少し嫌な気分になったのだ。
(´・ω・`) 「ニュースはもちろん報道するし、今やSNSでもこの手のニュースは流れる」
('、`*川 「ほぼほぼ、宣戦布告ですよね」
.
61
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:27:58 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「さて、その肝心のコミュニティですが」
( ゚д゚) 「害者ふたりの共通点は、まだ?」
( <●><●>) 「一切ないそうです。 もっとも、所轄調べですが」
所轄と県警、互いの持つネットワークの差は雲泥に及ぶ。
手数から、規模から何まで、所轄は最低限のチカラしか持っていない。
所轄が対応しきれない事件に出くわした時、
僕たち県警、それも捜査一課の出動が余儀なくされるわけだ。
もっとも、地下鉄殺人の時点で要請しておけ、という話だけど。
ふと、腕時計を見た。
まだ会議まで時間はあるが、それ以上に解散が気になったのだ。
(´・ω・`) 「…」
('、`*川 「あと一時間ですね」
(´・ω・`) 「なあ、ワカッテマス」
(´・ω・`) 「会議って、結構伸びそう?」
.
62
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:28:24 ID:qgB33Ij20
( <●><●>) 「過去二回の事件、今回の予告」
( <●><●>) 「そのすべての詳細な共有が挟まれますからね」
ワカッテマスも腕時計を見る。
若いくせに渋いブランドの時計だ。
( <●><●>) 「何時間かかるか怪しいところです」
(´・ω・`) 「ちっ…」
( <●><●>) 「先に一課長に言って、警部は絶対参加を約束しています」
(´・ω・`) 「ちっ…」
先月、仮病を装って勝手に捜査に出たことがあった。
捜査が好き、というよりは、会議が大嫌いなこと、
なにより、蟠りを残したまま数時間拘束されるのがいやだから、なんだけど。
そのせいで、一課長の目が最近厳しい。
あとワカッテマスの目も厳しさを増している。
('、`*川 「あなた、ホントに警部ですか」
( ゚д゚) 「始末書のペニー、悪徳警部のイツワリさん…」
(´・ω・`) 「待て。 悪徳警部ッつったの誰だ」
.
63
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:29:26 ID:qgB33Ij20
┏━─
五月三日 午前七時十八分 捜査一課
─━┛
/ ゚、。 / 「連続殺人? あの?」
(´・ω・`) 「昨日付で僕らが担当することになった」
(´・ω・`) 「メールを送らなかったのはあくまで単なる嫌がらせであることを理解してほしい」
/ ゚、。 / 「…」
/#゚、。 / 「誰が理解できますか!」
.
64
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:29:52 ID:qgB33Ij20
昨日は結局、情報共有やら整理、
残っていた雑務を先に片付けるだけで終わってしまった。
ショボーン班は現場主義の熱血漢が多いせいで、
突如として捜査がはじまる時、一課長の命令で後始末が優先されるのだ。
しかし、いい歳しても平たい乳をしている
この鈴木だけは、デスクワークがメインの刑事だった。
(´・ω・`) 「そう怒るなよ」
(´^ω^`) 「あんたの雑務は、ぜんぶペニーにさせたんだぜ?」
/#゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「それはありがとう」
('、`*川 「え、あ…ウン…」
.
65
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:30:13 ID:qgB33Ij20
壁には捜査一課に残ってもらいたい気持ちもあるが、
僕の経験で言えば、いまは間違いなく手数がいるステップだ。
壁だろうがまな板だろうが、まずは害者洗いに付きあわせる。
ショボーン班は、メンドウな仕事は、とにかく部下にも付きあわせるスタンスなのだ。
/ ゚、。 / 「えっと、ワカッテマスは?」
('、`*川 「その、予告の出されたヴィップスタジアム」
/ ゚、。 / 「テレビであったあれだ」
懸念された、マスコミによる大々的な報道だが、ものの見事に的中した。
帰る頃にはすっかり今週のトレンドになっていたのだ。
連続する予告殺人、それも今度は人気ミュージシャンのライブ会場。
話題性、という意味ではこの上ないトピックと言えるものだ。
.
66
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:30:54 ID:qgB33Ij20
(´・ω・`) 「ぎょろ目と一緒に、向こうサンと話し合いッてとこ」
(´・ω・`) 「で、そのまま予告殺人にも対応してもらう」
五月三日。
もし、三件目の今回が狂言でないのなら、犯人は動くはずだ。
まだ、連続予告殺人を相手取っている実感はない。
事件の舞台背景を頭に叩き込んでおかないと、いまいち乗り気になれない。
/ ゚、。 / 「最強タッグじゃないですか」
('、`*川 「そ。 ウチらはあまりものー…」
(´・ω・`) 「おい!ここにあのイツワリ刑事がいるぞ!」
/ `、、 /
(´・ω・`) 「相手は上司だ!そのシツレイな目はやめろ!」
('、`*川 「しっかし、珍しいメンツですね」
/ ゚、。 / 「警部だって、普段ワカかミルさんと一緒じゃん」
('、`*川 「私たちが頼りにされたこと、ある?」
/ `、、 / 「ないねー…」
(´・ω・`) 「ち…違うって…仲良くしようよ…」
.
67
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:31:18 ID:qgB33Ij20
捜査一課でも、異彩を放つ班であることは自覚している。
なかでも異色なのは、ヒラの、警部に対する扱いだ。
普段から罵倒しまくっていたらそうなるか、といった程度であって
特段気にしているわけでもない。
ワカッテマスにも、面と向かってプライベートでは一緒にいたくない、と言われたこともある。
(´・ω・`) 「あ…あ!」
(´^ω^`) 「キャンディー、なめる?」
('、`*川 「気ィつけな、ピーナッツオイルが塗ってある」
/ ゚、。 / 「ピーナッツオイル?」
(´・ω・`) 「ぶっは」
軽口を叩きあいながら、僕は、薄茶色のトレンチコートとハンチング。
ペニーは白衣、壁はストールを手に取る。
仕事に対する勝負着、とでも言うのか、お馴染みの恰好となった。
ペニーが白衣を着だしたのは数年前で、
この時は一課長からさすがに咎められたりもしたが、今はもはや無法地帯となっている。
壁のこれも、去年あたりに勝手に壁が巻いてきたシロモノだ。
.
68
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:31:43 ID:qgB33Ij20
変わってきたものだ。
捜査一課の扉を抜ける時、ふと思った。
捜査一課のなかでも、ひときわ異動の多い僕の班だけど、
今のこの五人体制は、結構長いこと続いている。
人を馬鹿にしたような若い男がいた。
野心に溢れる頭の悪そうな男がいた。
その昔、キャリア組の女もいた。
その更に昔、ずうたいだけがでかい男もいた。
/ ゚、。 / 「とりあえず、私はどこで何をすれば」
(´・ω・`) 「事件の概要知らんだろうから、最初は僕とペアだ」
(´・ω・`) 「一切共有してないのは僕の嫌がらせであることを理解してほしい」
('、`*川 「じゃあ私は」
/#゚、。 / 「流さないでよ! …流さないでよ!」
.
69
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:32:13 ID:qgB33Ij20
(´・ω・`) 「僕は、現状キーとなるホテル殺人のほうを見たい」
('、`*川 「じゃあ、ナントカ擬古さんのほう洗っときますね」
(´・ω・`) 「所轄には連絡をつけてある」
千里眼を持つぎょろ目、東風ミルナ。
白衣をまとった女刑事、ペニサス伊藤。
先見の明に長けた壁、鈴木ダイオード。
警察きっての天才、ワカッテマス。
皆が、戦闘モードだ。
あとは、僕がしっかりしていればいい。
.
70
:
>>25訂正
:2018/08/23(木) 02:33:27 ID:qgB33Ij20
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
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l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
序幕 「 予告 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
71
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:35:19 ID:qgB33Ij20
5年ぶりだけどよろしくお願いします
書きためはだいぶあるからたぶん完走できる
72
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 02:36:25 ID:iUJqyFhA0
おいおい、お前も復活かよ!
どうした急にブーン系!最高かよ!!
73
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 03:30:45 ID:vRMtKdqI0
うひわよえああああああああ!!!
今年は祭りだあ!
74
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 06:32:42 ID:7GuFEcv20
示し合わせてるのかと思うほどの再臨率
とりあえずやったぜ!続きも楽しみにしてる!
75
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 08:27:01 ID:lN9dQ5F20
かたじけねェ…!かたじけねェ…!
76
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 11:57:05 ID:zQk18TMU0
丁度過去作見終わったとこに復活しなさった!!!
楽しみ!!!
77
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 12:58:40 ID:k3TmNRAU0
最近徹夜で過去作読んだばっかりだったからこれすげえ嬉しい!
頑張って下さい乙!
78
:
名無しさん
:2018/08/23(木) 19:17:18 ID:JJgEgTR20
とりあえず偽り1作目の読んできた
懐かしいなぁ
79
:
名無しさん
:2018/08/25(土) 09:17:18 ID:tH/ZGqgg0
うおおおおおおお
おかえりいいいい!!!!
80
:
名無しさん
:2018/08/25(土) 10:17:46 ID:fnutvgU20
偽り全部読み直してきたわ
俺の睡眠時間を返せ!
81
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 02:40:38 ID:N3IKxT8s0
久々じゃないの
全裸で待つにはちょうどいい季節
82
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:00:48 ID:OAVw79X60
┏━─
五月三日 午前八時五一分 ヴィップ大学
─━┛
(゚、゚トソン 「…」
先に触れておくと、私は人付き合いが苦手だ。
多くの友人を持つ器用さなんて持ち合わせていない。
だから、たとえばあの授業はこうだ、とか。
試験にはどんな問題が出てくる、とか。
そんな情報を得る手段に乏しい。
(゚、゚トソン 「…」
しかし、それが教室内でまことしやかに囁かれていることなら。
こんな私でも、トレンドを掴むことはできるというものだ。
なんでも、今日。
渋沢栄吉のライブがヴィップスタジアムで開催されるのだが、
そこにきた観客に殺人予告が寄せられた、というのだ。
渋沢向けのものではない。
あくまで、一般人に向けた殺人予告が送り付けられた、という話らしい。
.
83
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:01:47 ID:OAVw79X60
連続予告殺人、とは聞き覚えがある。
ニュースサイトを見てみると、すぐに事態が呑み込めた。
あの、先週ほど、地下鉄で起こった事件。
乗客が刃物で殺された事件から、連続しているというのだ。
同一犯が、同じ筆跡で、まったくつながりのない人々を殺す。
まるで、警察に挑戦状を叩きつけるかのごとく。
(゚、゚トソン 「…!」
一限目が始まる、数分前。
見慣れないニュース記事をスクロールしていくと、
下の方に、かつて見慣れた文字列を見つけてしまった。
それまでの、二件。
私が、頭痛と吐き気のするなか取り調べに応じた、地下鉄殺人。
続いて、ヴィップのあるビジネスホテルで起こった殺人事件。
これらは地元の警察署が対応していたらしいが、
本件より、県警を交えた本格的な捜査がはじまるという。
殺人事件が起こって、犯人は逃亡しているというのに、今更本格か。
なんて毒づく間もなかった。
(゚、゚トソン 「…」
(゚、゚トソン 「しょぼーん…?」
.
84
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:02:24 ID:OAVw79X60
教授 「おはようございます」
(゚、゚トソン 「…」
慌ててスマホをしまう。
今、確かに。
懐かしい名前を、見た気がする。
ヴィップで起こっている事件だ。
県警が応対するのは自然の道理だろう。
捜査一課が請け負うのも、その通りだ。
ヴィップ県警の、捜査一課。
となれば、なるほど確かに、辻褄は合う。
ショボーン警部。
飄々とした態度と、そこからはうかがえない底知れぬ推理力。
事件にひそむ偽りを、華麗に見抜く敏腕。
感傷に耽る間もなく、本日一発目の授業がはじまった。
しかし私は、どうしてもそれをきちんと受けていられるだけの平常心を保てないでいた。
.
85
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:03:31 ID:OAVw79X60
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
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l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第一幕 「 三度目の狂言 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
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¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
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86
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:04:13 ID:OAVw79X60
┏━─
五月三日 午前九時一六分 駅
─━┛
改札を出ればすぐ目の前に、××ホテルの看板が見える。
特に話すこともないような、ごく一般的なホテル。
しかし今日、改札を抜けたその先には、
幾人かの人たちが、スマホを構えてそのホテルを撮っていた。
連続予告殺人事件は、いまや直近のトピックスのなかで一番のトレンドを誇っていた。
そんなもの誇るな、とテレビ局にクレームを言いたくなる。
/ ゚、。 / 「あれ、で間違いないんですよね」
(´・ω・`) 「そうだね。 いやあ懐かしい」
事件が発生して、一週間も経っていない。
さすがにパトカーはもう停まっていないが、
トレンドが去るには短すぎる日時しか過ぎていないというのだから驚きだ。
壁は、行きしなに買ったサンドイッチを口に含みながらうなずく。
若い女性の、スーツ姿にストールを巻いた姿は、どこか異様だ。
良くも悪くも、刑事らしさを失わせている。
.
87
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:04:35 ID:OAVw79X60
壁はイマドキの女性よろしく、クチが小さい。
コンビニのサンドイッチを食べるのだって十分はかかるだろう。
僕も、景気づけの一本を吸う。
今日は全国的に湿度が低い、煙草を燃やす火の勢いが強かった。
/ ゚、。 / 「所轄は?」
(´・ω・`) 「なかにいるはず」
(´・ω・`) 「ア、林ちゃんッていう、結構古い知り合いのデカだからね」
/ ゚、。 / 「ふーん…」
( ´・ω・)y-~~
まず、ロケーションチェック。
地取りはもう所轄が済ませているはずだ。
ぎょろ目やワカッテマスは地取りも難なくこなすが、
僕やペニーは短気なほうで、聞き込みなんてしているとじんましんが出る。
.
88
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:05:36 ID:OAVw79X60
交通量はそこそこといったところで、
田舎といえど旧都、信号を守らないと向こう側に渡れない程度には栄えている。
近くにはコンビニやガソリンスタンドが多く見受けられる。
道路を歩くだけでも、どこかしらの監視カメラには引っかかりそうなものだ。
所轄の地取りでは、想定される逃走ルートにかかる映像しかチェックしないことが多いが、
昨日の夜に、周囲百メートルほどの店に、
捜査一課宛てで映像ファイルを送るよう協力を申請している。
それがいつ届くかは彼らの良心次第、といったところだ。
僕だってはなから期待はしていない。
どこかに不審な映像があれば、既に所轄が掬い上げているだろう。
/ ゚、。 / 「泊まったことあるんですか?」
(´・ω・`) 「あるよ。 結構昔に、一度だけ」
/ ゚、。 / 「ビジホって、どんな感じなんですか?」
壁が雑談を振ってきた、かと思えば。
そっちかい。
.
89
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:06:31 ID:OAVw79X60
(´・ω・`) 「ラブホの質を極限まで落とした感じ」
/ ゚、。 / 「…」
/#゚、。 / 「セクハラ!」
ペニーも壁も、独身だ。
もっとも、事件が起これば休みなんてなくなるのだ、
候補がいたとして、満足に遊べないから気持ちもわかるが。
僕だって独身だい。
(´・ω・`) 「食ったか?」
/#゚、。 / 「いま食べてますー」
林ちゃんは、時間にうるさい、古風な刑事だ。
時間にルーズで有名な僕は、彼と根本的に相性が悪い。
昔は、一応まじめに時間を守っていたけど、
警部という地位に立てて以来、あまり時間を意識したことはない。
今頃、ワカッテマスと同じような面持ちで
事件の資料を見ながら、貧乏ゆすりでもしているに違いないだろう。
.
90
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:07:02 ID:OAVw79X60
(´・ω・`) 「はよ食え」
(´・ω・`) 「あのな、クチがちっさいと、いろいろ不便だぞー?」
/ ゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「あの、それってセクハラですか?」
(´・ω・`) 「オッいまのが理解できるのか。 えらいえらい」
/#゚、。 / 「セクハラァ!」
(´;ω;`) 「ぶひゃひゃひゃ!」
/ ゚、。 / 「はい。 食べましたよ」
(´・ω・`) 「遅えな。 行くぞ」
(´;ω;`) 「ぶひゃ…ぶひゃひゃ!」
/#゚、。 / 「…」
.
91
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:07:26 ID:OAVw79X60
┏━─
午前九時三一分 ××ホテル
─━┛
事件が起きたとはいえ、ホテルは平常通り営業している。
客入りはどっと減っているだろう、
と思いきや、野次馬根性のある人たちが、
「どうせ泊まるならあそこにしよう」 などと思って宿泊してくれるらしい。
正面玄関から入る。
ロビーには社員がひとりいるだけだったが、
警察手帳を見せると、示し合わせたかのように裏に入っていった。
/ ゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「外装のわりに、結構こぎれいですね」
(´・ω・`) 「ビジホってのはそんなもんだ」
ほどなくして、林ちゃんとホテルのマネージャーらしき人物が顔を出した。
林ちゃんが、僕の顔を見て、わざとらしい笑みと会釈をする。
.
92
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:08:26 ID:OAVw79X60
林ちゃん 「おはようございます」
(´・ω・`) 「ウッス」
林ちゃん 「お久しぶりですね」
ぺこぺこする彼を見て、僕が何者かを察したマネージャーも寄ってくる。
警察手帳をしまって、差し出された名刺を受け取った。
マネージャー 「はじめまして、ここのマネージャーです」
(´・ω・`) 「ン…はじめまして。 捜査一課のショボーンです」
/ ゚、。 / 「捜査一課の鈴木です」
マネージャー 「とりあえず、こちらへ」
ロビーから入って、裏に進む。
事務所はなかなか整頓されていて、あまり窮屈さは感じない。
テレビも備え付けられているが、電源が落とされていた。
自分たちのホテルが映されるのが嫌なのだろう。
.
93
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:08:52 ID:OAVw79X60
駅前に店を建てる時、死活問題となるのがスペースの活用だ。
応接室なんてピンポイントなものは用意されていないのだろう、
事務所の奥の方に、ついたてとガラステーブルがある。
灰皿がないのが非常に残念だが、一応はこちらが応接スペースのようだ。
うながされるがまま奥の席に座る。
マネージャー 「本日はお忙しいなか、ありがとうございます」
(´・ω・`) 「いえいえ。 災難があったようで…」
クソみてえな社交辞令もほどほどに、
僕が壁に目配せすると、壁はバッグから資料を取り出した。
ホテル殺人事件の資料だ。
四月三十日、宿泊予定だったヒッキー小森に殺人予告が叩きつけられた。
しかし、これを笑った害者はホテルの移転を拒否。
監視カメラ、ならびに出入口を厳重に張っていたホテルだが、
害者は常備薬を飲んだところ、ここにピーナッツオイルが塗りこまれており、即死。
二十二時頃、様子をうかがいに行ったマネージャーが遺体を発見。
内線に応じないため、不審に思ったらしい。
.
94
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:09:13 ID:OAVw79X60
林ちゃん 「事件直後の現場写真が、見たままの光景となりますね」
(´・ω・`) 「何も動かしたりはしていないんですよね?」
マネージャー 「はい。 そちらの方からも言われておりましたので…」
どうして、刑事である林ちゃんではなくマネージャーが現場に行ったのか。
どやしてやろうとも思ったが、ホテル側の事情も察せたため、言及は抑えた。
警察としては、殺人予告なんてあった場合、
即座にターゲットの入場拒否をさせる必要があるのだが、
曰く、街中をうろつかせたりするほうが危険だ、と言われたらしい。
林ちゃんの入れ知恵だろう。
今更、非難する気もない。
僕は、あらためて現場写真と当時の害者の動向を目で追う。
今回の会議資料を作成した人は優秀だったようで、
だいたいのことは、昨日の捜査会議で耳にしたことそのままだった。
(´・ω・`) 「おおむね、把握しました」
(´・ω・`) 「いま、現場は」
.
95
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:09:59 ID:OAVw79X60
マネージャー 「使用不可にしております」
マネージャー 「こちらは、一切手を触れていませんね」
林ちゃん 「我々が捜査した跡が残っているくらいかと」
(´・ω・`) 「そう」
ショボーン班では、現場捜査といえばぎょろ目の出番だった。
現場百篇を体言する男で、絶対的な信頼が寄せられている。
ただ、今回は僕と壁でもう一度、捜査する。
ぎょろ目の血を引くとも言われる先見の明を、伸ばしたい気持ちもあった。
(´・ω・`) 「いま、上がらせていただいても構いませんか」
マネージャー 「構いませんが、チェックアウトのお客さんがいらっしゃいますので」
マネージャー 「非常階段で六階までお願いします」
(´・ω・`) 「ご同行していただいても?」
問うと、マネージャーは苦い顔をした。
あくまで仕事がある、と言いたいのだろう。
顔色を察した林ちゃんが、代わりにうなずいた。
こいつ、捜査ではあまり頼りにならないけど、ガイド役にはいいかもしれない。
.
96
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:10:34 ID:OAVw79X60
/ ゚、。 / 「非常階段?」
/ ゚、。 / 「そんなもの、表からは見えませんでしたけど」
マネージャー 「裏のビルとの間、狭いところにね」
マネージャー 「非常階段がございますので。 鍵は刑事さんが」
(´・ω・`) 「わかりました。 では一旦、失礼します」
話がわかるマネージャーでよかった。
人によっては、警察のメス入れを嫌がられることもある。
察するに、さっさと事件を解決して、
今まで通りの営業に戻りたい、とでも思っているのだろう。
こちらとしては、そっちのほうが好都合だ。
林ちゃん 「案内します」
(´・ω・`) 「頼むよー」
林ちゃん 「…」
露骨に嫌そうな顔をされた。
どうして僕はこんなにも嫌われているのだろう。
気分がいい。
.
97
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:11:27 ID:OAVw79X60
┏━─
午前十時一三分 ヴィップスタジアム
─━┛
ヴィップに住まない人でも、ヴィップスタジアムの名を知っていることは珍しくなかった。
往年の名球団、ヴィッパーズの本拠地として、
野球好きはもちろん、興味がない人でも名前くらいは知っているものだ。
芝生に立ち入らせてもらえたが、
入口から見通すスタジアムの光景は、圧巻の一言だ。
野球以外でも、さまざまな使われ方がしている。
近年の球界が抱える、若者の野球離れにあわせるように
たとえば著名人の交流イベントやテレビ企画の場所として提供されていると聞く。
( <●><●>) 「…」
( ゚д゚) 「こんないい場所のライブが中止、か」
( ゚д゚) 「今回の犯人も、ひどいことをしてくれたもんだ」
本日行われるはずだったように、
音楽のライブ場所として使われることも多くなったらしい。
渋沢栄吉と言えば、若者である自分でも知っているほど、
数十年前の音楽業界を牽引してきた大御所ミュージシャンのひとりだ。
.
98
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:11:48 ID:OAVw79X60
関係者 「ほんとうですよ」
力なく笑ったのは、ライブ側の関係者だった。
周囲は既に、厳重な警備が敷かれている。
いまスタジアム内にいるのは、ライブ側とスタジアム側の関係者諸兄、
加え自分と東風さんだけだ。
関係者 「警部さんも、けっこう世代じゃないんですか」
( ゚д゚) 「ヤ、自分は警部じゃないですね」
( ゚д゚) 「警部補、といったところです」
東風さんが白髪を掻きながら言う。
警部を超えるキャリアを持ちながら、警部補の立場に甘んじる人だった。
関係者 「失礼。 警部補さんも世代でしょ?」
( ゚д゚) 「自分が三十手前か、そこいらですね」
( ゚д゚) 「でも、当時見てたドラマじゃ、しょっちゅう渋沢ソングが流れてたもんですよ」
.
99
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:12:13 ID:OAVw79X60
まだ邦楽ロックというものが浸透していなかった当時、
マイクスタンドを振り回しながら放たれるシャウトは、多くの若者を魅了した。
かと思えば、時たま穏やかなバラードソングを奏でるのだから、隙がない。
関係者 「そちらの刑事さんは、知ってます? 渋沢時代」
( <●><●>) 「邦楽はあまり、聴かないので」
( ゚д゚) 「すごかったぞ。 当時はCDが百万枚も売れた時代だったんだ」
動画サイトの普及や、CDレンタルが当たり前となった昨今、
日本の音楽は十万枚売れたら御の字と言われるほどに衰退した。
親の影響で、レコードで流す洋楽ばかりを聴いてきた自分としては、
邦楽の隆盛、というのはあまり実感がわかない話だった。
( <●><●>) 「しかし、今回の騒動を見ていると、なんとなく、わかります」
( ゚д゚) 「警備員、もっと発注してもよかったレベルだな」
スタジアム周囲は、多くのマスコミと野次馬、
そしてファンの多くが押し寄せていた。
それは、芝生を踏んでいる我々のところにまでガヤが聞こえてくるほどだ。
.
100
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:12:55 ID:OAVw79X60
関係者 「もはや、返金どうこうの話じゃないんですよ」
大御所アーティストのライブ中止、
やはり大手が手掛けるだけあって返金や謝罪などはスムーズに行き渡ったが、
何より、せっかくのライブが中止になったことそのものが多くの人々を落胆させた。
( ゚д゚) 「ライブは、CDやラジオじゃ味わえない興奮が楽しめんだ」
( ゚д゚) 「おれも、昔嫁とライブにいったが、なかなかよかったぞ」
( <●><●>) 「ウン万人、という人々からその楽しみを奪ったわけだ」
関係者 「いやはや、ひどい犯人だ、ホント」
芝生を踏みしめながら、ぐるりと歩く。
空気が違う。
澄み渡っているのに、どこか重い空気だ。
センター方面を見やると、やり場をなくした機材のもろもろが立ちすくんでいる。
東風さんは、真正面にあるロープで区切られた空間を指さす。
( ゚д゚) 「本来、観客はここに収まる予定だったんですか?」
.
101
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:14:18 ID:OAVw79X60
関係者 「いや、スタンドにも収容される予定でした」
( ゚д゚) 「入場はどのように行われるので?」
何気ない雑談から、さりげなく本題に入る。
東風さんは、メモを取る仕草は見せないし、
なんなら明後日の方を見やりながら、雑に聞いた。
関係者 「まず、ライブチケットにブロックが振り分けられています」
関係者 「アリーナなら、AからFですね」
関係者 「ブロック順にアナウンスし、先頭から順に入場してもらう手筈でした」
ロープをつなぐ支柱のそれぞれに、大きな看板が取り付けられている。
この位置からでも見えるような大きさで、AからFと印字されていた。
( ゚д゚) 「いざ開演したら、じゃまな看板ですな」
関係者 「ア、もちろん、撤去しますよ」
年寄りの世間話とでも言うのか、
ふたりとも軽く笑いながら続ける。
.
102
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:15:15 ID:OAVw79X60
関係者 「Fまで済んだら、そのままスタンドにも収容されます」
関係者 「バックネット、ライトスタンド、レフトスタンドの三か所で、同時進行です」
( <●><●>) 「スタンドというのは、ほんとうにすべての席を指すのですか」
関係者 「すごいでしょ。 ほぼ満員ですよ、満員」
( <●><●>) 「…」
言われて、芝生を取り囲むスタンドを目で追った。
ところどころ、一般客が立ち入れない空間こそあるが、
この席すべてを埋め尽くすほどの魅力が、今回のライブにはあったわけだ。
( ゚д゚) 「ライブが開演して、スタジアム内にいることができる人は、たとえば」
関係者 「んー、まずライブスタッフは全員ですね」
関係者 「観客ももちろん該当します」
( ゚д゚) 「たとえば、こう、屋内に売店とかあるでしょう」
( ゚д゚) 「そういったところの人員は?」
.
103
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:15:40 ID:OAVw79X60
関係者 「なかの、焼きそば屋とかですか?」
( ゚д゚) 「そうそう」
( ゚д゚) 「もとは野球の球場なんだ、たくさんあると思いますが」
自分は野球観戦をしたことがないためピンとこなかったが、
東風さんは野球が好きな人で、この歳になってもたまに行くと聞く。
関係者は 「ああ」 と言って、考えるそぶりも見せずに返す。
関係者 「ライブ関連の売店は、すべて屋外、」
関係者 「というかスタジアム外にしかありません」
関係者 「スタジアム屋内の店はすべて閉まっています」
( ゚д゚) 「スタジアム外、というと、入る時もいろいろ見えたあれらで?」
スタジアムの周囲にも、たくさんの売店が見受けられた。
渋沢の歴代CDはもちろん、タオルからTシャツといったグッズもあった。
しかし、あったのは看板やテーブルほどで、
肝心の商品や売り子はどこにも見られなかった。
.
104
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:17:32 ID:OAVw79X60
関係者 「食事のたぐいも、用意されていませんね」
関係者 「ファンならわかりますが、ライブ中に抜け出して買い食い、なんて普通しませんし」
( ゚д゚) 「なるほど…」
関係者 「屋内を歩くのは、警備員とスタッフくらいです」
関係者 「トイレの案内だったりも、彼らが請け負います」
( ゚д゚) 「つまり、ライブ関係者と観客以外は誰もいない、と」
すると、関係者はかぶりを振った。
関係者 「もちろん、スタジアム関係者もいます」
関係者 「といっても、詰所や裏手にしかいませんが」
( ゚д゚) 「ライブ関係者も含め、非正規雇用は何割くらいですか?」
関係者 「九割は派遣ですね」
( <●><●>) 「九割、ですか」
.
105
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:18:02 ID:OAVw79X60
結構大きな数字が出され、思わず反応した。
関係者 「渋沢ほどの大御所となると、」
関係者 「一度ライブするだけで、とんでもない人手がいります」
関係者 「たった数日ライブするためだけに、それだけの社員を動員したりしませんよ」
半ば笑いながら、関係者は得意げに言った。
確かに、それなら単日でアルバイトでも雇うほうが合理的だ。
関係者 「スタッフは、お金を貰ってライブを聴けますからね」
関係者 「いくら重労働でも、募集はゼッタイ必要数揃うもんですよ」
( ゚д゚) 「そりゃあな」
( ゚д゚) 「となると、ホシを洗うのは大変だな…」
( <●><●>) 「この時点で、候補が数万人もいますからね」
.
106
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:19:25 ID:OAVw79X60
関係者 「ホシ、というと」
( ゚д゚) 「失敬、ハンニンです」
今回の殺人予告では、誰を、どこで、いつ殺すかが、明記されていなかった。
そのため、来場する観客はもちろん、
ステージに立つサポートバンドから音響スタッフ、
案内係からダフ屋に至るまで、そのすべてが、犯人及び被害者となりうる。
関係者 「ひょっとして、ワタシも入っていますか?」
( ゚д゚) 「そりゃあもう!」
関係者が噴き出す。
東風さんの嫌味で元気な即答に、自分も思わず顔を歪めた。
関係者 「警部補さんには敵いませんよ、ホント」
( ゚д゚) 「一件目、二件目と比較して、決定的に違う点があるんですよ、今回」
関係者 「というと」
( ゚д゚) 「その、規模です」
.
107
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:19:51 ID:OAVw79X60
関係者 「一回目は地下鉄で、二回目がホテルでしたっけ」
( ゚д゚) 「どちらも、今回の規模と比べたら、現場は矮小です」
( ゚д゚) 「地下鉄はともかく、ホテルなんかピンポイントだ」
関係者 「確かに」
( ゚д゚) 「だからこそ、今回は狂言の可能性も考えられるのです」
狂言。
一度目、二度目は本当に殺人が決行された。
だからこその、三回目。
予告を出すだけ出して、暗に牽制をする。
フッサール擬古、ヒッキー小森を知る人物がいたとして、
当然、連続殺人の件は、ニュースなどですぐに知るだろう、
そのうえで犯人から渋沢ライブを舞台にしたことを人づてに聞く。
すると、たとえ予告が狂言だったとしても、
予告に心当たりがあるかもしれないその人物のもとへは
この上なく強いメッセージとして届くのだ。
.
108
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:21:03 ID:OAVw79X60
関係者 「もしこれが狂言だったら、」
関係者 「ヤ、狂言じゃなくてもですが…とにかく、最低な犯人だ」
( ゚д゚) 「人を二人も殺して、今度は社会を掻き乱す」
( ゚д゚) 「多くの、ほんとうに多くの無実な市民を落胆させた…」
( ゚д゚) 「近年稀にみる極悪犯、といったところですな」
関係者 「まったくだ」
示し合わせたかのように、東風さんと関係者が踵を返した。
そのまま、通路に入って、次なる場所へと向かう。
関係者 「ちょっと話し込んでしまいましたね」
関係者 「とにかく、施設を案内しましょう」
( ゚д゚) 「非常口なども一つひとつ、お願いします」
関係者 「関係者しか入れない場所も込みで?」
( ゚д゚) 「もちろん」
.
109
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:21:23 ID:OAVw79X60
スケジュールとしては、ここから一時間ほどかけて、施設内を把握する。
そこからどこか場所を借りて、東風さんと自分で会議。
犯人は、何を考えて予告を叩きつけたか、
あるいは、本来どのようにして観客を殺すつもりだったのか。
そういった、あらゆるイフを、時間の許す限り検討する。
関係者 「結構長くなりますし、水でも」
( ゚д゚) 「ありがたく」
筆跡も、本件が過去二回と同一の人物によるものだと証明した。
その過去二回で予告を成立させている以上、
「どう考えてもライブは中止されるだろう」 という考えを捨てなければならない。
万が一、あり得ない話ではあるが、ライブが決行された場合。
犯人はどうやって、この人混みから特定個人を殺すつもりだったのか。
その逆、ライブが中止された場合。
犯人は殺害を先延ばしするのか、それでも本当に殺すのか。
殺すなら、どうやって。
そもそも、何を考えて。
.
110
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:22:03 ID:OAVw79X60
検討することがあまりにも多すぎる。
本来なら収集した情報をもとに検討する案件、
しかし時間がないのも事実だ。
こういった検討は、警部がもっとも得意とするところだ。
今頃、鈴木と一緒にホテル殺人を検討しているだろうが、
どうして自分と東風さんをこちらに回したのか。
そこが、少々引っかかったところではある。
関係者 「刑事さんも」
( <●><●>) 「ン……ありがとうございます。」
本部が設置され、ショボーン班が動き出して、まだ一日と経っていない。
そんななか、ライブ前日に殺人予告が出されては、
警察も世間も、混乱を極めるばかりだ。
自分の直観でいえば、九割がた、狂言だ。
現にこうして、皆が混乱に陥っている。
犯人はこれを見据えたうえで、予告を出したと思われるところではあるが。
それにしたって、情報が少ない。
携帯のバッテリーが十分であることを確認して、自分も水を口にした。
.
111
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:22:40 ID:OAVw79X60
┏━─
午前十一時〇四分 びっぷ整骨院
─━┛
おばちゃん 「予定?」
('、`*川 「そうー」
('、`*川 「なんかこう、いついつに旅行にいく!」
('、`*川 「とかー。 言ってなかった?」
地下鉄殺人の被害者、フッサール擬古は整体師だった。
いわゆる町の整体師で、訪れるのは地元の三十代からご老人。
比べればまだ若い害者は、可愛げのある男として親しまれていたらしい。
おばちゃん 「旅行はなかったかなー」
('、`*川 「ヤ、旅行じゃなくてもいいの」
('、`*川 「次の休みはこれをする、とか…ない?」
私はあまりカンドリは得意じゃないけど、
相手が話してて楽しい人ならこの限りにあらず。
びっぷ整骨院の院長センセーは、私のお母さんほどの年齢だった。
開始五分で、このような砕けた話し合いとなっていた。
.
112
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:23:16 ID:OAVw79X60
おばちゃん 「エ、あったとして、それがどうしたの?」
('、`*川 「そーゆーところから捜査のとっかかりができたりするのー」
おばちゃん 「うーん…そうねえ」
本件が地下鉄殺人で完結していたなら、話は別だけど。
ホテル殺人もやってのけた上に、次はライブで殺人予告を果たした。
どう考えても、害者は犯人との間に何かしらの因縁があったはずなのだ。
逆に言えば、犯人は複数の人を相手に、殺害を実行させるほどの因縁を持っていた。
地元で愛される整体師をしていただけじゃあ、
こんな連続殺人の、それも一人目に選ばれたりはしない。
とするとその因縁はなにか、という話だ。
フッサール擬古、続くヒッキー小森が、
実は同じ日に同じ場所へ旅行する予定があった場合、
そういったところから害者のつながりというものが見えてくる。
害者のつながりは、すなわち犯人とのつながり。
普通に経歴だけを調べてつながりが浮かばないなら、こういったところから見つけるのが鉄則。
東風さんから教わった、カンドリの手筋である。
にしても、どうして聞き込みのことをカンドリなんて言うんだろう。
.
113
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:24:02 ID:OAVw79X60
おばちゃん 「予定、は特に聞いてないよ」
おばちゃん 「でも、そういや釣りが趣味だったよ、カレ」
('、`*川 「釣り…」
出てきたワードは、逃さずメモに残す。
それが勘違いでもいい、なにかキッカケになりうるなら。
おばちゃん 「あと先月、シベリアのほうに旅行に行ってたよ」
('、`*川 「シベリアの、どこらへん?」
おばちゃん 「ごめんなさいねえ」
シベリア、と書き残す。
先月、旅行か。
('、`*川 「具体的に何日、とかは?」
おばちゃん 「えっと…」
.
114
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:24:50 ID:OAVw79X60
おばちゃん 「そうだ、シフト見たらわかるわ」
おばちゃん 「確か、三連休があった時だから…」
言いながら、院長は席を立った。
近くの事務机を漁って、先月のシフト表をとってきた。
事務机には、キーホルダーや小物が置かれている。
見たことのある造形から、どこで売っているかわからないものまで。
スタッフの皆のおみやげでも飾っているのだろう。
おばちゃん 「そうだそうだ、十八日から二十日!」
('、`*川 「十八日から、二十日……」
('、`*川 「二泊三日ってことね?」
おばちゃん 「ヤ、それはわかんないケド…」
おばちゃん 「とにかく、この日ね。 覚えてるわ」
('、`*川 「オッケー、ありがとう!」
.
115
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:25:35 ID:OAVw79X60
結構、重要そうな情報が出てきた。
この調子で、このおばちゃんからできる限りキーワードを引き出したい。
('、`*川 「釣りが趣味で、先月シベリアにも旅行に行った…」
('、`*川 「その時、誰か友人と行く、とか言ってた?」
おばちゃん 「誰って?」
('、`*川 「たとえば、彼女とか」
おばちゃん 「あの子に彼女なんていたっけかなあ…」
('、`*川 「独身だったの?」
おばちゃん 「独身には違いないわ」
('、`*川 「へー…」
何気ない世間話をするかのような口ぶりで、
こっそりとメモを書き進める。
釣り、シベリア、続いて独身。
結構興味深い情報こそ出てきつつはあるが、
これはカンドリを進める上ではあまりにも少なすぎる量だ。
.
116
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:26:05 ID:OAVw79X60
('、`*川 「仕事っぷりはどんな感じだった?」
おばちゃん 「仕事?」
自分で用意したアツい茶をすする。
答えがすぐに出てこなさそうな様子だ。
おばちゃん 「仕事…」
おばちゃん 「別にダメなとこはないわ」
おばちゃん 「口下手なとこが、可愛がられたものよ」
おばちゃん 「特に、じいちゃん連中に気に入られたりしてね」
視線を宙に泳がせ、以前のことを振り返るかのように言った。
院長がこの調子だから失念していたが、
そうだ、いま話しているのは、院長の仲間だった人のことだ。
病死でも、退職でもない。
何者かによってその命を絶たれた男の、仲間だったのだ。
気まずさを感じて、私は露骨に、咳払いをした。
ハッとした院長は、私に茶を勧めてきた。
出されるだけ出されて、私は一口も飲んでいない。
ばつが悪そうな顔をして、一口だけ、茶をすする。
結構熱い。 冬に飲みたくなる味だ。
.
117
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:26:41 ID:OAVw79X60
('、`*川 「…」
おばちゃん 「…」
ほっと一息ついていると、
それまでの陽気な雰囲気は消え、
院長は少々シリアスな面持ちを構えてきた。
おばちゃん 「姉ちゃんね」
('、`*川 「ん?」
おばちゃん 「事件の捜査…どうなってる?」
('、`*川 「見ての通り、はじめたばかりだよ」
虚を突かれたような心地になって、茶を一口。
少し火傷して麻痺した舌は、その一口をあっさり受け入れた。
おばちゃん 「ちがくて」
おばちゃん 「シブちゃんのほう」
.
118
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:27:10 ID:OAVw79X60
('、`*川 「シブちゃん」
渋沢栄吉、全国ツアーに殺人予告。
今朝、テレビのどのチャンネルを回しても報道されていたビッグニュースだ。
まして、院長は世代でないとはいえ、渋沢時代を知るであろう市民。
半ば険しい顔をして、続ける。
おばちゃん 「誰が殺されるか、とか」
('、`*川 「…」
おばちゃん 「何も、わかってないの?」
少し、胸がチクリとした。
別に院長は、私を、警察を責めているわけではない。
ただ焦燥に駆られた言い回しをしているだけだ。
しかしそれでも、痛いところを突かれた心地がする。
.
119
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:27:56 ID:OAVw79X60
('、`*川 「インチョーさん」
('、`*川 「まじめな話をするとね、捜査機密ってものがあるの」
おばちゃん 「なんだっていいわ」
おばちゃん 「次の人は…殺されないんだよね?」
院長は、ライブより、そのターゲットとなる人を捉えて言った。
ライブ中止を、あるいはまだ犯人が捕まっていないことを
非難されるかと思っていただけに、私は呆気ない顔をした。
('、`*川 「殺させない」
スパッと、言い放つ。
('、`*川 「今も、県警で頼りになる連中が担当してるわ」
おばちゃん 「最近の犯罪者って、なにするかわかんないでしょ」
おばちゃん 「頼むから、これ以上被害者、出さないでおくれよ」
おばちゃん 「その殺される一人ッたって、家族や仲間がいるんだから」
.
120
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:28:51 ID:OAVw79X60
院長が私を注視する。
たるんでいた目じりが、引き締められている。
('、`*川 「なんとかする」
('ー`*川 「こー見えて、私も刑事なんだから!」
おばちゃん 「ほんと、手帳だけはなくすんじゃないよ」
('、`*川 「それどーゆー意味?」
胸をボン、と叩くと、院長が皮肉そうに言った。
さっきまでのシリアスは瞬時に消え、院長は背もたれに体重をかけた。
おばちゃん 「で?」
おばちゃん 「あとは、どんなことを話せばいい?」
('、`*川 「ちょっと、刑事だからね? 捜査一課のォ」
気が抜けた。
気持ちぬるくなった茶をすすって、私も脚を組んだ。
あと、聞くことか。
知りたいことは山ほどあるけど、院長から聞き出すべきこと。
.
121
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:29:30 ID:OAVw79X60
就職時期をはじめ、ここ数日の動き、
交友関係から趣味などといった話まで、すべて済ませてある。
('、`*川 「…」
('、`*川 「インチョーさんの連絡先」
おばちゃん 「え?」
ポン、と手を叩いて言う。
私は、不器用だ
こういった聞き込みでは、毎度なにかを聞き忘れる。
そのたびに、タクシーを拾ったり、連絡先を探すだけで時間を取られる。
去年仕事用に契約したガラケーには、
ここ一年間私が関わった事件の関係者の連絡先が、ずらりと載っている。
そのなかから折り返し連絡をすることは一割にも満たないけど、院長も追加しなければ。
おばちゃん 「悪用しないよね?」
('、`*川 「しないよ」
('、`*川 「てか、事件が終わったら、私もマッサージしてもらいたいし」
おばちゃん 「じゃあ、店の番号でいい?」
('、`*川 「い、いいけどさ」
結構、疑われているらしい。
マスコミの警察叩きは苛烈になっているからなあ。
.
122
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:29:59 ID:OAVw79X60
('、`*川 「ふう…」
店を出て、一度深呼吸した。
一件は聞き込みを済ませたが、ここからたくさん当たるべき場所はある。
各学校の担任だったり、スマホから割り出した友人全員、
自宅の近隣住民に加え、過去の職場もろもろ。
頭が痛くなる。
というのも、所轄が軽く当たったところで、
フッサール擬古とヒッキー小森のつながりは今のところ何もないのだ。
無差別殺人にしては、手がかかりすぎている。
警察への挑戦状の可能性も捨て切れはしないが、
それだったら予告は、警察に直接送りつけるほうが自然だ。
現に、過去二回の事件は所轄が穏便に済ませようとしていた。
結果、マスコミの干渉も最小限にとどめられている。
愉快犯にせよなんにせよ、多大な労力に見合っているとは思えない。
今朝の時点で、警部の見解ではその線は見限られていた。
東風さんも同意見だったようだし、そこを疑うつもりはないけど。
.
123
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:30:38 ID:OAVw79X60
時間を確認して、ふと空を見上げた。
空はまだ、五月病を患っていないらしい。
ほぼ晴天といえる、晴れやかな気候だ。
この間も、警部たちはホテル殺人を追っている。
仕事用のガラケーで、ひとまずの情報をメールする。
一刻も早くとっかかりを見つけなければ、
このカンドリはいつまでも続くはめになってしまうのだ。
('、`*川 「…」
('、`*川 「よし」
私は、いてもたってもいられなくなり、
タクシーが通りかかったのが見えた瞬間、すぐそれに乗り込んだ。
せっかく、旅行に行ったという情報を日付と一緒に入手したのだ。
次は、その旅行を当たり、誰かと一緒だったのか、といったところを調べよう。
調べるとしたら、まずは自宅から。
先に自宅を調べなかったのは、単純にこちらのほうが近かっただけだ。
行きがけの駄賃を握りしめ、運ちゃんに住所を告げる。
結構気さくな中年で、乗っている間、結構雑談を交わしてくれた。
しかし、その話題が軒並み連続予告殺人ともなれば、心労は溜まる一方だ。
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