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(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです
1
:
◆wPvTfIHSQ6
:2018/08/23(木) 01:38:11 ID:qgB33Ij20
▼シリーズ過去作
(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです+α
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwari.htm
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです+α
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariII.htm
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIII.htm
逃亡しないことを祈ってる
あと作中に過去作に登場した人物の名前が出たりしますけど
特に描写がなければまったくの別人物だと思ってください(スターシステム)
シリーズに複数回登場したAAがかぶることはないです
154
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:50:52 ID:OAVw79X60
あいにく音感とは縁遠い。
ただ、一部の人から忌み嫌われる薬であることはわかった。
/ ゚、。 / 「害者は、絶対音感の持ち主だったのですか?」
林ちゃん 「担当医は言ってませんでしたが、」
林ちゃん 「小森は音楽の趣味があったようです」
(´・ω・`) 「音楽…?」
少し目を細める。
はじめての情報だ。
/ ゚、。 / 「音楽、というとバンドですか?」
林ちゃん 「なのですか、ね」
林ちゃん 「害者宅をうかがうと、アコースティックギターがありました」
ギターか。
.
155
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:51:22 ID:OAVw79X60
(´・ω・`) 「僕は聞いてないぞ」
林ちゃん 「申し訳ありません」
とってつけたような謝罪だ。
目が一切変わっていない。
/ ゚、。 / 「ギターですか」
/ ゚、。 / 「しかし、この音感の件、なにか事件と関係あるんですかね」
メモを懐にしまって、壁が聞いた。
関係ある、と断言はできないが、無関係だと断言するわけにはいかなかった。
(´・ω・`) 「音感はさておいて」
(´・ω・`) 「害者は、ギターが好きだったそうじゃないか」
/ ゚、。 / 「たまたま預かっていただけ、とかじゃなく?」
(´・ω・`) 「その可能性もあるから断言はしないけどさ」
(´・ω・`) 「……なあ、今日付けで殺人が予告されている場所はどこだ?」
.
156
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:52:15 ID:OAVw79X60
/ ゚、。 / 「…!」
林ちゃん 「渋沢栄吉…ですか」
林ちゃんも気づいたようだ。
昨日、予告の情報が回った時点で、誰かにこの可能性に気づいてもらいたかったものだ。
(´・ω・`) 「害者が渋沢のファンだったかまではわからないけど、」
(´・ω・`) 「ここに、ギターと渋沢、という取っ掛かりができるわけだ」
(´・ω・`) 「害者のコミュニティというものがあったとして、」
(´・ω・`) 「音楽関連のそれだったとしたら…?」
/ ゚、。 / 「あり得ますね…」
しまったばかりの手帳を慌てて取り出す。
常備薬、の話からここまで推測を展開させてしまったが、
あながち悪くない着眼点だとは思う。
害者は、ナントカ錠の副作用で音感を狂わされたことを忌み嫌った。
それも、担当医の言葉を振り切って市販の薬を服用しだすほどには。
.
157
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:52:36 ID:OAVw79X60
それだけ音に対しての拘りは強かった人なのかもしれない。
音を拘る人が、自宅にギターを持っていた。
となると、自宅にあったギターは、ただの預かりものではなく、
趣味のひとつとして所有していたことがうかがえる。
二件目の被害者は音楽趣味を持っていて、
三件目、ただいま予告されている殺人の舞台は、ライブ会場だ。
まだ、ただの偶然とも言い切れる範疇にあるが、あり得なくはない。
ペニー、ワカッテマスにメールを送る。
ヒッキー小森はある程度以上の音感を持つ男で、
ギター趣味があった可能性が認められた。
ライブ殺人予告となんらかの関係があるかもしれない。
林ちゃん 「…」
(´・ω・`) 「マ、いいでしょ」
(´・ω・`) 「なんにせよ、薬を飲んだわけだ」
/ ゚、。 / 「警部の推理では、電話を切ってすぐに薬を飲んだわけですね?」
.
158
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:53:37 ID:OAVw79X60
(´・ω・`) 「すぐ、かはわからない」
(´・ω・`) 「電話後、軽くスマホをいじった、そのラグタイムは発生したかもしれないけど」
(´・ω・`) 「まあ、ベッドに横になろうという気が起こる前に飲んだのは違いないね」
/ ゚、。 / 「…」
(´・ω・`) 「そして、アレルゲンの盛られた薬を飲んで、死亡」
(´・ω・`) 「二十二時〇八分に、ホテルのマネージャーが様子をうかがいに来て、」
(´・ω・`) 「あらためて事件発覚、といった具合だ」
/ ゚、。 / 「アレルゲンの媒体はオイルだったようですが、」
/ ゚、。 / 「実際、オイルなんて塗られていたら、飲む前にわかりません?」
(´・ω・`) 「多少は乾いていただろうけど、そこも気になる点だ」
.
159
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:53:58 ID:OAVw79X60
林ちゃん 「申し訳ありませんが、薬はいま手元にありません」
(´・ω・`) 「さすがに押収してるか」
林ちゃん 「ただ、そこまで油分は感じられませんでした」
(´・ω・`) 「ピーナッツの香りは?」
(´・ω・`) 「致死量なら、そこそこはすると思うんだけど」
林ちゃん 「慎重に嗅ぐと気づける程度ではあるのですが、」
林ちゃん 「常備薬に知らぬ間に盛られたそれに、そんな注意を払うとも思えません」
(´・ω・`) 「それもそうだけど」
そう言われては、反証のしようがない。
手触りや匂いが多少不自然になろうが、
日常的に服用しているそれを疑うか、と言われると、難しいところではある。
ただ、それには条件がある。
害者が、薬に一切の疑念を抱かなかったという前提だ。
.
160
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:55:18 ID:OAVw79X60
たとえば、誰かが瓶のなかに何かを入れていたところを見た場合、
どう考えても、害者は瓶の中身を多少は気遣うもの。
それすらなく、無意識に薬を飲んでいるならば、
前提として、犯人は一切気づかれることなく瓶に干渉した、ということになる。
果たして、そんなことは可能なのだろうか。
犯人が害者と同席し、トイレなどで席を立った時くらいだ。
(´・ω・`) 「…」
しかし、もしそうなら、既に情報が上がっていそうなもの。
服用していたものと同じ薬を購入し、すり替えたとして、
犯人はどこで害者と同じ薬を知ったのか、などといった疑問が浮かぶ。
推理の手引き、か。
まず前提は、犯人は一切気づかれることなく瓶に干渉した。
瓶は害者の鞄のなかにあった。
それは、常備薬だった。
ゴールは、どうやってアレルゲンを盛ったか。
(´・ω・`) 「害者の、当日の行動は?」
林ちゃん 「目下捜査中」
林ちゃん 「ICカードの履歴から、十七時三九分にすぐそこの駅に降りたことはわかっています」
.
161
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:56:12 ID:OAVw79X60
(´・ω・`) 「十七時?」
七時、の間違いじゃなくて、か。
また面倒な情報が出てきやがった。
/ ゚、。 / 「チェックインまでに、ざっと二時間は空いていますね」
(´・ω・`) 「ああ、空いているのはいいんだ」
(´・ω・`) 「ただ、駅はすぐそこだぜ?」
(´・ω・`) 「二時間も、何をしてたッていうんだ」
誰かと合流し、軽く食事でもとっていたのか。
いや、食事の場でアレルゲンは盛りづらい。
結果として害者はチェックイン後にそれを飲んだわけだが、
薬とは得てして、食後に飲むものだ、その場で死亡してしまうリスクが高すぎる。
林ちゃん 「近隣の飲食店はチェックしましたが、」
林ちゃん 「いずれも害者は利用していないようです」
(´・ω・`) 「妙だな」
.
162
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:56:37 ID:OAVw79X60
次々と情報が出てくる。
害者が音楽好きで、三人目のターゲットとのつながりが窺えたこと。
害者はチェックインする二時間前から最寄駅で下車していたこと。
そこからの行動はまだ洗えていないこと。
これは地取りに時間を取られそうだ。
逆に、チェックインからの行動はそこまで多くない。
ホテル内を調べることで得られる情報は、あまりないかもしれない。
/ ゚、。 / 「その、二時間の間にアレルゲンを盛られた可能性が?」
(´・ω・`) 「…」
現状、僕もそう思う。
ただ、断言できないのも事実だ。
(´・ω・`) 「害者は、どこから乗車していた?」
林ちゃん 「鹿島建設の最寄駅ですね」
林ちゃん 「害者は当日、一度出社してから乗車したようです」
林ちゃん 「会社にも裏をとりましたので間違いはないかと」
.
163
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:57:28 ID:OAVw79X60
寄り道はほぼしなかったわけだ。
車両内でアレルゲンを盛られた可能性もあるが、
飲食店などと違い、電車は一度乗るとめったに席を外さない。
/ ゚、。 / 「だったら、こちらに来てから犯人と接触したと見て…」
(´・ω・`) 「いや…わからない」
/ ゚、。 / 「え?」
待てよ。
アルプスからきたとなると、それは在来線か否か。
(´・ω・`) 「害者って、新幹線できたの?」
林ちゃん 「いや、アルプスからの在来線です」
林ちゃん 「オオカミ鉄道を利用していたようです」
オオカミ鉄道は、多くの新幹線鉄道を擁する。
もとは在来線が強かった鉄道会社だが、近年、新幹線に力を入れつつある。
しかし、オオカミ鉄道か。
最近、在来線の車両に防犯カメラを設置する動きが見えているが、
落ち目のオオカミ鉄道は、当然そんな施策、しているわけがない。
.
164
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:57:57 ID:OAVw79X60
/ ゚、。 / 「新幹線かどうか、なんて関係あるんですか?」
(´・ω・`) 「こんなストーリーが浮かんだんだ」
腕を組んで、首を傾ける。
(´・ω・`) 「犯人が、害者がヴィップに行くことを知る」
(´・ω・`) 「自分もヴィップに行く、と言って同行する」
(´・ω・`) 「アルプスからの長距離乗車なんだ、クロスシートに一緒に座れるだろう」
壁が、クロスシートと言った辺りではてなを浮かべた。
ローカル線に見られる、横長のシートがロングシート。
快速や特急で見られる二人座席が、クロスシートだ。
電話の件といい、最近の若い子はあまりそういった知識に富んでいないらしい。
逆に、僕みたいなおじさんはメカに疎いため、似たようなものなのかもしれないが。
(´・ω・`) 「で、クロスシートに座る以上、眠りについてもおかしくないわけだ」
(´・ω・`) 「なにも、旅行でヴィップにいくわけじゃないからな」
.
165
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:59:02 ID:OAVw79X60
加え、アルプスは山に囲まれている。
どこに行くにしても、多くのトンネルを抜ける必要がある。
僕だったら、まあ乗車してすぐに目を瞑るだろう。
(´・ω・`) 「話を戻そう」
(´・ω・`) 「クロスシートに相席した犯人は、」
(´・ω・`) 「寝ている害者のバッグを漁り、瓶にアレルゲンを盛る」
/ ゚、。 / 「!」
(´・ω・`) 「知らない人と相席しているわけじゃないんだ、」
(´・ω・`) 「多少物音がしても、害者はさして気にもしないだろう」
/ ゚、。 / 「害者が寝なかったらどうしてたんですか?」
(´・ω・`) 「そうなっても、下車したあと、メシなり何なりでどこか店に行くなりできる」
(´・ω・`) 「……なんて可能性も、否定はできない」
.
166
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 16:59:59 ID:OAVw79X60
現状はね、と付け加える。
もちろん、ヴィップで待っていた犯人と合流して、店に向かった可能性も高い。
こちらは、下車後二時間ほど空白があったというデータもある。
林ちゃん 「…」
(´・ω・`) 「害者が乗車した駅の、監視カメラとかは見た?」
林ちゃん 「まだですね」
まあ、期待はしていなかったさ。
僕だってたった今思いついた推理だし。
まして、乗車中に犯行があったとしても、
カメラに一緒に映った可能性は高くはない、むしろ低いだろう。
ただ、万が一映っていたら、これほど簡単な話はなかった。
(´・ω・`) 「そうだなあ…」
/ ゚、。 / 「アルプスですよね。 県警に申請したほうがいいですか?」
(´・ω・`) 「や、いいよ。 オオカミでしょ?」
/ ゚、。 / 「?」
.
167
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:00:41 ID:OAVw79X60
(´・ω・`) 「オオカミの総裁とは浅くない付き合いでね」
(´・ω・`) 「僕から言っておくよ、三十分もあったらすぐにデータくれると思う」
/ ゚、。 / 「…」
壁が、少し視線を輝かせた。
いまのセリフ、ちょっとかっこよかったのかもしれない。
確かに、一鉄道会社の、それも総裁と知り合いというのはステータスが高いのだろうか。
/ ゚、。 / 「やっぱり、警部ともなると、コネとか、その…」
/ ゚、。 / 「いろいろデキるんですね!」
(´・ω・`) 「待て」
(´・ω・`) 「別に黒い関係でもねえよ」
僕は刑事を続けて、いやに関係の深まった三人がいる。
うち一人はマスコミだから、そこまでおかしくもないが、
うち一人が、そのオオカミ鉄道の総裁、ましてもう一人はただの女子高生だ。
後者ふたりは、勝手に僕たちの事件に巻き込まれてくるだけである。
今回こそは穏便に事を運びたいところだが、嫌な予感しかしない。
.
168
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:01:16 ID:OAVw79X60
(´・ω・`) 「とにかく…」
悪い予感を振り払うように、さっさと携帯を開いた。
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「ア、お久しぶりです、県警のショボーンですゥ」
着信元を見ていなかったのか、
僕の声と名前を聞いて、一気に声色を和らげた。
オオカミ鉄道総裁、大神フォックスという男は、権力やら何やらに非常に弱い。
僕もそのうちの一人なのだろう、急に物腰が柔らかくなった。
(´・ω・`) 「ああ、いえいえ……その節はほんとうに……」
(´・ω・`) 「ヤ、いま、ちょっと事件を追ってるわけなんですけど、」
(´・ω・`) 「あれです、テレビでもやってるでしょ、連続予告殺じ……」
(´・ω・`) 「え、なに、忙しい?」
(´・ω・`) 「待ってください、」
(´・ω・`) 「…」
.
169
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:01:44 ID:OAVw79X60
連続予告殺人、と言った瞬間に電話を切られた。
すかさずリダイヤルした。
隣で、壁が怪訝そうな顔を浮かべている。
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「もしもし、違いますって」
(´・ω・`) 「安心してください、違いますから」
(´・ω・`) 「わかった、予告がきたら真っ先に教える!」
/ ゚、。 / 「…」
少しして、要件を手短に伝える。
三十分以内にデータをよこさないと、と軽く脅しを入れると一発だった。
(´・ω・`) 「はあ…」
/ ゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「だ、大丈夫でした?」
(´・ω・`) 「なんとか…」
.
170
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:02:19 ID:OAVw79X60
(´・ω・`) 「うぉっほん!」
もとより、望みの薄い賭けだ。
どうしてその程度のためだけに、心労を蓄えないといけないのだろう。
(´・ω・`) 「カメラのデータと、アルプスの駅員の証言もまとめることを約束してくれたよ」
林ちゃん 「ありがとうございます」
/ ゚、。 / 「アルプスのほうは、どう調査しましょうか」
(´・ω・`) 「ヤ、どうせこれ以上の調べようはないんだ、」
(´・ω・`) 「害者を洗うほうを優先させよう」
所轄が、カンタンな地取りは済ませてくれている。
先に害者の動向を押さえ、怪しいところから探っていきたい。
すると、懐にしまった携帯が鳴った。
メールだ。
ペニーからだった。
一件目の害者は釣りが趣味だったこと、先日シベリアに旅行に行っていたこと。
フッサール擬古についての情報が、軽くではあるがまとめられていた。
.
171
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:02:59 ID:OAVw79X60
/ ゚、。 / 「もう先方から?」
(´・ω・`) 「ペニーだ」
(´・ω・`) 「向こうの害者は、釣りが趣味だったらしい」
/ ゚、。 / 「向こう?」
/ ゚、。 / 「ああ、地下鉄殺人」
(´・ω・`) 「釣りか…」
ここで趣味が音楽だったら、どれほど楽だったか。
メールによると、これから害者宅を捜査するとあった。
早く進展が欲しい、とはやる気持ちを抑え、ペニーにもヒッキー小森の情報を共有する。
三件目、ライブ殺人予告の段階で犯人が捕まってくれたら何より早いのだが。
まだ予告の時間まで長い。
/ ゚、。 / 「警部」
少し思慮に入り、三人が棒立ちになったのを見て、壁が切り出した。
.
172
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:04:16 ID:OAVw79X60
/ ゚、。 / 「ここでの捜査は、どうしましょう」
(´・ω・`) 「ん」
/ ゚、。 / 「他に、何を調べれば」
他、か。
現場は荒らされておらず、捜査できるほど証拠がないことが捜査でわかった。
(´・ω・`) 「ここらは、ひとまずはいいだろう」
(´・ω・`) 「それよりも、いっそう害者を洗う必要が出てきた」
/ ゚、。 / 「当日の動向、ですね」
(´・ω・`) 「加え、音楽趣味とやらだ」
(´・ω・`) 「ひょっとすると、三人目とのつながりが出てくるかもしれない」
林ちゃん 「所轄ではどうしましょうか」
(´・ω・`) 「まず、わかっていることを本部まで送ってくれ」
(´・ω・`) 「どんな細かいことでも、残らずすべてだ」
林ちゃん 「わかりました」
(´・ω・`) 「で、下には地取りを続けさせろ」
.
173
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:05:05 ID:OAVw79X60
林ちゃん 「はい」
僕が歩き出したのを見て、二人もついてきた。
ホテルでは、ハウスキープに多くの人員が割かれている。
なるべく邪魔にならないように、ひっそりと現場を後にした。
オオカミ鉄道からの、カメラの映像。
ペニーからの、フッサール擬古の情報。
ワカッテマスからの、ライブ殺人予告の進展。
害者の携帯に残された、発信者不明の番号。
まだまだ知りたいことは多いが、共有を待つばかりでは面白くない。
外堀は他の人員が埋めてくれるだろう、
一刻も早く、ホテル殺人の中核を明かしてやりたい。
(´・ω・`) 「…」
/ ゚、。 / 「…」
そのためには、アレルゲンをどこで盛ったかをはっきりさせたい。
電車で盛った可能性がある、
下車後に盛った可能性もある。
.
174
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:05:43 ID:OAVw79X60
帰ることを伝えようと事務所に寄ったが、マネージャーはいなかった。
林ちゃんがもう少し残るというため、そちらは奴に任せることにした。
外に出ると、日差しがいささか強くなっていることに気づいた。
さっさと駅に向かおうとする壁を制する。
/ ゚、。 / 「?」
/ ゚、。 / 「害者宅にいくのでは?」
(*´・ω・) 「ちょっと、ウンコ…」
/ ゚、。 /
(*´・ω・)y 「あと、これ…」
/ ゚、。 /
/ ゚、。 / 「…」
.
175
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:06:38 ID:OAVw79X60
┏━─
午後十七時五四分 ヴィップスタジアム
─━┛
業務用出入口近辺に、野次馬の姿は見られなかった。
もとより、最寄駅と正反対に位置する出入口で、警備員も過剰な数がいる。
塀の横から顔を出して、向こう側のほうを見る。
どうやら、ファンやマスコミなどは、正面玄関のほうに集まっているようだった。
警備員が、危険だからと彼らを制するものの、
彼らはふてくされたような顔をして、キッと警備員を睨み返すばかりだ。
少し遅めの昼食をとった後、東風さんは外の様子をしばらく見ていた。
( <●><●>) 「気づかれないものなんですね」
( ゚д)y-~~
( <●><●>) 「もう、あと一時間で予告の時間を迎えるわけですが」
( ゚д) 「……」
.
176
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:07:35 ID:OAVw79X60
意識しているわけではないのだろうが、
覗き方が完全に張り込みの時のそれだった。
張り込み時のクセなのか、煙草の吸殻を足元に捨てている。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「失礼。 何をうかがっているのでしょうか」
( ゚д) 「…」
踏まれた後の吸殻を拾い、近くの灰皿に捨てた。
東風さんはこんな調子で三分ほど向こうのほうを観察し、
一瞬肩の力が抜けたかと思うと、あらためて煙草を取り出しくわえた。
( ゚д゚) 「えっと、どうした」
( <●><●>) 「こちらのセリフです」
( <●><●>) 「何をうかがっていたのですか?」
( ゚д゚) 「なにって、いろいろだよ」
.
177
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:08:28 ID:OAVw79X60
ふう、と紫煙を空に吹き上げた。
夕陽がさんさんと差し込むなか、スタジアムの高いところまで煙は伸びていった。
いま我々がいるのが、西日に直面する場所なこともあり、
どうにもスーツの上にコートを羽織っていると、汗が止まらなくなる。
昼前に頂戴した水は、ここにきて飲み干すことになった。
( ゚д゚) 「年齢層から、何人ほどのグループでいるのか」
( ゚д゚) 「男女比もそうだ、何をしているかも気になる」
( ゚д゚) 「電話していたり、写真を撮っていたり、抗議…?の看板を掲げたり」
( <●><●>) 「…」
言われて、自分も一瞬だけ、ちらりと見やる。
とてもライブ会場前とは思えない不穏な空気が立ち込めている。
( ゚д゚)y-~~
( ゚д゚) 「…あれから、一度も犯人から連絡はきていないんだな」
( <●><●>) 「はい」
.
178
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:09:55 ID:OAVw79X60
渋沢のライブが中止になったことは、既に全国に広まっている。
連続予告殺人の存在と一緒に。
開場されなくなったのを見て、予告を撤回するか、
あるいは新たな予告を打ち出すか、といったある種の期待もしている。
もし、電話やメールなどが届いた場合、
すぐさまこちらまで回すよう伝えてはいるが、現状その一報はまだ来ない。
( <●><●>) 「やはり、狂言だとは思うのですが」
( ゚д゚) 「俺が気になるのは、群衆だ」
( <●><●>) 「と言いますと」
( ゚д゚) 「見ろ」
( ゚д゚) 「殺人予告が出ているというのに、呑気に集まる群衆を」
( <●><●>) 「…」
.
179
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:11:01 ID:OAVw79X60
( ゚д゚) 「ホテル殺人の件で、わかったことがある」
( <●><●>) 「なんでしょう」
( ゚д゚) 「人は、想像以上に、自分が殺される理由というものに疎い」
ヒッキー小森は、あらかじめ名指しで殺されることを知らされていた。
にも関わらず、心当たりのない彼は、まんまと殺されてしまう運びとなった。
( <●><●>) 「そりゃあ、大多数の人間はそうでしょう」
( <●><●>) 「著名人ならともかく、相手は今のところ、一般人ばかりだ」
( ゚д゚) 「だが、小森は殺された」
( <●><●>) 「しかし、今回は名指しではありません」
( <●><●>) 「多少人に恨みを買う程度では、誰も自分を疑ったりしないでしょう」
そこが、ホテル殺人との決定的な違いだった。
ホテル殺人は、ビジネスホテルという非常に閉鎖的な場所を舞台に、
ヒッキー小森というたった一人をピンポイントで殺害したというのに。
今回は、ライブ会場という非常に開放的な舞台で、
そのなかの誰かを、どこかしらのタイミングで殺害する、としか知らされていないのだ。
.
180
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:11:24 ID:OAVw79X60
( ゚д゚) 「だからこそ、俺は群衆が気になる」
( ゚д゚) 「いくら警備員が多いからといって、連中が気を張るのは、会場前だけだ」
( <●><●>) 「ターゲットの帰宅際が狙われる可能性……でしたか」
会場内を調べた後、
昼食をとりながら一時間ほど、東風さんと事件を検討した。
まず浮かんだのは、その可能性だった。
ライブ会場、との予告はあったものの、肝心の会場には大多数の人間が入れない。
だからこそ、会場で、というのはフェイクで、
事件を聞きつけそこに集まった群衆からターゲットを見つけ出して、
ライブ会場から離れたところで殺す、といった可能性だ。
( ゚д゚) 「犯人が必ずしも一人とは限らないんだ」
その可能性も、中頃に出てきた。
根拠は、法則性がないからだ。
地下鉄、ライブのような不特定多数から殺害に及ぶかと思いきや、
ホテルのような、ピンポイントな殺人をやってのけている。
.
181
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:12:13 ID:OAVw79X60
つまり、犯人は複数人のグループから構成されていて、
その構成員のうち、各々が恨みを抱く人間を殺していく、という集団の犯行。
警部は、個人が複数人に殺意を向けた可能性、というものを懸念していたが、
東風さんは、複数人がそれぞれに殺意を向けた可能性、というものを恐れていた。
もしそうなってくると、被害者それぞれを洗っても、
犯人グループの全貌を明らかにするのは途端に難しくなる。
それぞれの殺害の犯人を特定し、彼らのコミュニティすら突き止めなければいけないのだ。
( <●><●>) 「しかし」
( <●><●>) 「まだ、という言い方は不適切ですが、三回目」
( <●><●>) 「ライブが舞台なことも含め、やはり狂言の線は絶対に捨てられません」
( <●><●>) 「狂言、といいますか、フェイク」
( <●><●>) 「予告を聞いて害者に何かしら行動を起こさせ、そこを狙うことも」
( ゚д゚) 「もちろん、否定はしないがな」
( ゚д゚) 「…イツワリさんからの連絡は、まだか」
( <●><●>) 「…」
.
182
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:12:51 ID:OAVw79X60
検討をはじめ、現在に至るまで、
我々はずっと、警部からの情報共有を待っていた。
やはり、何を検討するにしても、キーとなるのがホテル殺人だ。
警部自身が、ホテル殺人が鍵となる、と言っていただけあり、
こちらから生まれた情報が、そのままライブ殺人予告に活かせるはずなのだ。
( ゚д゚) 「…」
( <●><●>) 「かけてみましょう」
残り、一時間弱。
予告に拘る犯人の心理を考えれば、いま殺害に及ぶとは考えにくい。
もちろん、それこそがフェイク、と疑うこともできるが、
そうなってくるといよいよ、人手が足りなくなる。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「私です」
( <●><●>) 「いま、よろしいですか」
( <●><●>) 「こちらは、スタジアムの裏口付近にいます」
.
183
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:13:20 ID:OAVw79X60
警部の口ぶりは、平生となんら変わっていなかった。
歳に似合わず感情的な人で、進展がうかがえたりした場合、
その声や鼻息を聞くだけで、察しがつくものだ。
警部はヒッキー小森を鈴木と洗っているところだった。
いまは害者宅にいるようで、害者は音楽趣味こそ持つが、
このたびの渋沢とは、なんら関係がないことなどがわかったそうだ。
また、ペニーの捜査で、地下鉄殺人のフッサール擬古が
先月にシベリアまで旅行に行ったこともわかっているが、
そちらのつながりも、現時点では確認されていないらしい。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「やはり、害者間のコミュニティは存在しない、」
( <●><●>) 「犯人がその半生で抱いてきた殺意を晴らす犯行では」
言うと、警部は 「その可能性が高くなってきた」 と言った。
捜査するうえで厄介なのは、情報があまりにも出てこない場合、
更に深いところまで疑ってかかるべきか、あるいはもとより関連性などないのか、
その判断が、非常に難しくなるところだ。
警部もまいっていたようで、
電話の向こうから、ジッポの金属音が聞こえてきた。
.
184
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:14:22 ID:OAVw79X60
警部は一転、ライブ殺人予告に言及してきた。
現状、まだ動きがないこと、
群衆が想像以上に集まっていること、
そして東風さんとの検討の結果を手短に報告した。
ライブ会場にターゲットを引き寄せて、離れたところで殺害。
犯人が複数いる可能性。
狂言の線、あるいはターゲットを呼び出す疑似餌。
また、自分と東風さんの間で、
「四度目」 の予告があるかないかの意見が分かれたことも伝えた。
それまでと今回とで変わった点のひとつに、
連続予告殺人の知名度が挙げられる。
四度目、五度目、と続けるには、あまりにもリスクが高すぎる。
まだ続けるつもりだったならば、もうしばらくは人目に晒されづらい犯行を望むはずだ。
だからこそ自分は、予告は今回で最終、
そしてその最後の犯行ではじめて、狂言をはかった、そう睨んでいる。
.
185
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:15:22 ID:OAVw79X60
対する東風さんは、まだ続く可能性を捨てきれないでいた。
長年の勘、というものではない。
それまでは、犯人の予告通りに、なんなら美しいまでに殺害を成功させている。
だというのに、三度目にして、ライブ中に、という条件を無視して、
反則的な手口で犯行に及ぶだろうか、そんな心理的なわだかまりを懸念していた。
( <●><●>) 「ペニーのほうは、どうなんですか」
( <●><●>) 「現状、擬古も小森も、三十少しの男だ、」
( <●><●>) 「学校やら以前の職場におけるつながり、というものがあってもおかしくはない」
つながりがないように見える現状、
かろうじて繋がっている糸があるとすれば、そこだった。
しかし、警部は低い声で言った。
「その可能性が高いと思っていたけど、つまんねーことに小中高大いずれも違う」
「小森はずっとアルプスの育ちで、擬古はずっとヴィップの育ちだ」
( <●><●>) 「…」
ホテル殺人の被害者は、ヴィップとつながりがなかった。
既知のようで、初耳の情報だった。
.
186
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:16:25 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「だったら、偶然ヴィップに訪れたところを殺されたわけで」
「そこが、ひっかかるところだ」
「犯人からすれば、ヴィップに固執する理由はないからな」
「だからこそ、僕はまだ、犯人と害者のコミュニティがあった線が捨てきれない」
( <●><●>) 「…」
腑に落ちる根拠ではあった。
もし本当に小森がヴィップと関係ない人間だったのであれば、
小森は後回しにして、先にヴィップにいるターゲットたちを殺害していけばいいのだ。
職場の鹿島建設に問い合わせたところ、
今回のヴィップ出張に、作為性はないとのことだったらしい。
そして、そんな作為性のなかったヴィップ出張を犯人は知り得て、
そのまま犯行にまでこぎつけられた、という。
偶然にしては、出来すぎな犯行だ。
( <●><●>) 「出張が決まったのは……ああ、結構前ですね」
作為性こそないが、計画自体は数か月前から決まっていたらしい。
となると、犯人が計画のうちに小森を組み込むのは、できなくはなかったのか。
「だから、少なくとも犯人は、ヴィップの人間だ」
.
187
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:17:19 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「まあ、間違いはないでしょう」
( <●><●>) 「一件目が、ヴィップの人間で」
( <●><●>) 「ヴィップ出張が決まっていた人間が、二件目に殺され」
( <●><●>) 「三件目は、全国ツアーが決まっている渋沢栄吉のライブが舞台だ」
そうだ。
三件目、ライブ殺人予告に関しても言える。
あくまで、全国ツアーなのだ。
犯人がヴィップと関係のない人間だったり、コミュニティがヴィップに存在しない場合、
わざわざ、ヴィップにきたタイミングをはかって殺害に及ぶ必要性は、皆無。
「そこで思ったんだけど、シブちゃんて、ヴィップの前後はどこが舞台なんだ?」
( <●><●>) 「それは…」
( <●><●>) 「少しお待ちください」
.
188
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:17:44 ID:OAVw79X60
電話を切らないよう注意しながら、インターネットに接続する。
その程度の情報なら、関係者に聞くまでもなく、ホームページを見ればいい。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「先週、二十七日にはラウンジ」
( <●><●>) 「来週、十日にはアルプス」
( <●><●>) 「それぞれ、単日でライブが設定されています」
「来週、アルプスだったのか」
警部、自分ともに、少し声が抑え気味になった。
ここにきて、意外なところから情報があがってきたな、と思った。
直接的な共通点、とは言えないが、
先日殺害されたヒッキー小森の地元、アルプスでの公演が来週に控えていた。
警部が、少し唸り声をあげる。
「ヴィップに固執しないなら、小森を殺すのは来週でもよかったんだ」
「むしろ、そっちのほうが下手なリスクも背負わなくていい」
( <●><●>) 「…」
.
189
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:19:15 ID:OAVw79X60
( ゚д゚) 「…どうした?」
( <●><●>) 「あ、いえ…」
と言って、スマホの画面を見せる。
東風さんは 「ほう」 と唸っただけだったので、
ホテル殺人の被害者がアルプスの人間であることを伝えた。
( ゚д゚) 「…」
( <●><●>) 「失礼」
( <●><●>) 「ともあれ、ヴィップに固執していたのは疑ってよさそうですね」
「検討するには、時間が足りない」
「ひとまずは、ライブ殺人だけを考えて動いてくれ」
( <●><●>) 「…わかりました」
言うと、警部のほうから電話を切ってきた。
東風さんは、吸いかけだった煙草を灰皿に押し付けている。
.
190
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:20:04 ID:OAVw79X60
( ゚д゚) 「ヴィップに固執…か」
検討している最中にも、そのことは言及された。
ただ、検討できるだけの材料が足りていなかった。
しかし、今わかったことによると、来週、渋沢はアルプスでも公演する。
となると、ホテルで殺人などというリスクを冒す必要はあったのだろうか。
( ゚д゚) 「犯人は、ヴィップの人間か、あるいは」
( ゚д゚) 「…」
( <●><●>) 「とにかく、警部が検討してくださるそうです」
( <●><●>) 「こちらは、先に現場を優先させてくれ、とのこと」
( ゚д゚) 「ごもっともだ」
東風さんが時計を見た。
十分ほど経過している。
まだ十分か、あるいはもう十分か。
犯行予告は、少なくとも十九時以降ということになっている。
.
191
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:20:24 ID:CZ4aqXp.0
この二人は壁より安定してて見てて安心するな
支援
192
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:20:35 ID:OAVw79X60
しかし、それはあくまで、犯行の話である。
犯人が何時頃から現場に潜むか、はまた別だ。
わかっているからこそ、警備員が昼前から張っている。
もちろん、現場だけではない。
只今、ヴィップ県警のサイバー犯罪対策課も動いている。
渋沢栄吉、ならびにヴィップスタジアムの公式ホームページは、
常時彼らが目を光らせていると聞く。
もちろん、IPアドレスもすべて記録されている。
そこから犯人を捜し出すことは不可能だが、
別の場面でIPアドレスを取得した時、照合すればそれもまた情報となるらしい。
あまりあちらの仕事内容は詳しくないが、とにかく一課長の意向だった。
ホテル殺人で、人影ばかりを気にしてしまった反省を生かそうとしている。
( <●><●>) 「…」
筆跡はもちろん、使用した筆記具の鑑定、
はがきの出所、消印から割り出した近辺の捜査、
挙げればきりがないほどに、ヴィップ県警は総力を挙げてこのたびの捜査に乗り出している。
.
193
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:21:06 ID:OAVw79X60
しかし、それはあくまで、犯行の話である。
犯人が何時頃から現場に潜むか、はまた別だ。
わかっているからこそ、警備員が昼前から張っている。
もちろん、現場だけではない。
只今、ヴィップ県警のサイバー犯罪対策課も動いている。
渋沢栄吉、ならびにヴィップスタジアムの公式ホームページは、
常時彼らが目を光らせていると聞く。
もちろん、IPアドレスもすべて記録されている。
そこから犯人を捜し出すことは不可能だが、
別の場面でIPアドレスを取得した時、照合すればそれもまた情報となるらしい。
あまりあちらの仕事内容は詳しくないが、とにかく一課長の意向だった。
ホテル殺人で、人影ばかりを気にしてしまった反省を生かそうとしている。
( <●><●>) 「…」
筆跡はもちろん、使用した筆記具の鑑定、
はがきの出所、消印から割り出した近辺の捜査、
挙げればきりがないほどに、ヴィップ県警は総力を挙げてこのたびの捜査に乗り出している。
.
194
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:21:28 ID:OAVw79X60
( ゚д゚) 「…いやに静かだな」
( <●><●>) 「失礼。 群衆が、でしょうか」
( ゚д゚) 「いや、連中はいっそやかましいくらいだ」
言われて、東風さんが自分を指して言ったことを察した。
目の前のことを優先しろ、と言われた矢先で、違うことを考えてしまっていたようだ。
( <●><●>) 「久々に…」
( <●><●>) 「そして、想像以上に大きな事件なんだな、と思いまして」
( ゚д゚) 「国内で見ても、これほど大規模な事件はなかった」
( ゚д゚) 「一課長も、イツワリさんも、かなり神経を削っていると思うぞ」
( <●><●>) 「警部はわかりませんが、まあ…」
.
195
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:21:52 ID:OAVw79X60
何年ほどか前の、誘拐事件を思い出した。
警部の知り合いの孫が、誘拐された事件だ。
数億に及ぶ身代金を要求され、全国を巻き込む事件に発展した。
苦い思い出がある。
若さゆえの過ちがあった。
( <●><●>) 「私も、いよいよ胃が痛くなってきましたね」
( ゚д゚) 「俺もだよ」
猛毒が使われ、爆弾が使われ、次々と人が死んで。
このたびの連続予告殺人とも、通ずるものが感じられた。
( <●><●>) 「移動しましょうか」
( ゚д゚) 「インカムだけは忘れるな」
( <●><●>) 「はい」
いたたまれなくなり、予定より数段早いが所定の位置につくことにした。
会場からは、イベントで用いられる高性能なインカムを拝借している。
リアルタイムでの応答が求められる現在、数秒の遅れが命取りとなる。
警備員も会場から拝借したインカムをつけている。
しかし、自分と東風さんだけ、彼らとは違うチャンネルを使うことにした。
.
196
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:22:48 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「…」
私は、出入口に張った。
一番人が集まっている。
扉の内側に身を隠し、可能な範囲で群衆をうかがう。
自分と東風さんの共通の見解として、
なんにせよ一番人が集まるところで犯行が行われる可能性が高い。
根拠があるとすれば、人が一番多いことに尽きる。
それだけ、犯人が紛れ込んでいる確率は単純に高いのだから。
東風さんは、事務所についている。
スタッフ側をうかがうわけだ。
自分も昼ごろにうかがったが、スタジアムの各所に設置された監視カメラが
分割されたモニターすべてにリアルタイムで映されている。
一目見た瞬間、東風さんは 「俺はここで張る」 と言った。
( <●><●>) 「はい」
インカムが届いた。
東風さんも、事務所に着いたようだ。
.
197
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:23:37 ID:OAVw79X60
カメラの監視網は、それほど完全ではなかった。
一施設としては十分なのだが、死角は探してみればわりとあった。
しかし、それをうかがい知れるのは、スタジアムの内情に精通している者に限られる。
内情を知りうるスタッフの情報は、すべて控えてある。
仮に犯人がスタッフ側にいた場合、東風さんは三分で身柄を拘束する、と豪語していた。
合理的に、犯罪心理を考えてみた場合、やはりスタッフが犯人とすると、予告実行は考えづらい。
その点も含めて、どうにも狂言だと思ってしまうのだが。
( <●><●>) 「…」
汗が頬骨に溜まった辺りで、たまらず時計を見た。
五十二分だった。
少しどきりとした。
( <●><●>) 「…」
もうそんな時間なのか。
群衆をうかがっていたつもりが、やはり本件を検討してしまっていた。
狂言なのか、作戦のうえなのか。
フェイクなのか、全てを読んだうえなのか。
犯人の心理が、いまいち読み解けない。
.
198
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:24:24 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「状況」
「異常なし」
東風さんの、短い言葉が返ってきた。
時刻は、十九時を示していた。
ここからが、長い戦いとなる。
公演自体は、二時間が予定されていた。
アンコールだの、入退場に費やされる時間などは考慮していない。
ただ、ライブが中止された今、もし犯人が几帳面にも計画を優先させようとした場合、
十九時から二十一時までの二時間が勝負だろう、という見解が一致している。
( <●><●>) 「…」
近くには、警備員が五人。
自動ドアの向こうには、まず両脇に二人ずつ、
そこから会場を囲うように大勢の警備員が張っている。
果たして、犯人はどう動くのか。
そもそも、舞台はどこにしようとしているのか。
会場内での殺害は不可能に近いぞ。
.
199
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:24:47 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「…」
会場内か。
犯人が、今回起こした声明はどうだったか。
十九時よりはじまる渋沢栄吉のライブにて、
観客一名を殺す、といった内容だった。
犯人がどこに属する人間なのかはさておいて
ターゲットは、観客一名、ということだった。
( <●><●>) 「…」
観客、ということで、チケット会社にも協力を要請している。
通販や予約などで、身元が特定できる媒体に限り、
チケットを購入したすべての情報をまとめてもらっている。
これまた、IPアドレスの記録と同様、どうしようもなく膨大な情報量となるが
これからの捜査、検討にて、逐一照合していく予定だ。
もっとも、役に立たないだろうという懸念は、既に東風さんと共有している。
.
200
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:25:14 ID:OAVw79X60
犯人が、そんな几帳面にチケットを取るとは思えないのだ。
である以上、疑わしくなるのは、派遣スタッフ。
もっというと、当日限りのスタッフだ。
しかしこちらも、既に派遣会社や警備会社に片っ端から協力を要請している。
すべての情報をまとめ、捜査本部まで送ってもらっている。
こちらも、あまり考えにくい話ではある。
犯人は、身元が特定されることを嫌うはずなのだ。
東風さんも昼前に訪ねていたが、当日ライブ会場に足を踏み入れるということは、
すなわちどこかしらに足跡を残してしまうことに繋がる。
観客にせよ、ライブスタッフにせよ、警備員にせよ。
( <●><●>) 「…」
他に、会場に入りうる人物は、いないという結論に至った。
どこかに抜け穴がある、と思いはするが、
そこまで検討するには時間があまりにもなさすぎた。
渋沢ほどのスターともなれば、不法に会場内に侵入する輩も出てくるかもしれない。
しかしそれは、前もって予測することは難しかった。
なにより、ライブは中止されているのだ。
.
201
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:26:06 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「…」
群衆は、依然スマホをいじるか、周囲の人と話している。
呑気なことに、警備員や自分たちのような刑事がいるのにも関わらず
ダフ屋、いわゆるチケットの売買を目的とした中年も姿を見せている。
( <●><●>) 「…」
ダフ屋。
会場内に入るわけではないが、ライブ的な話をすれば抜け穴に該当する人種だ。
関係者に聞くと、やはりスターのライブともなれば、彼らのような人は必ず現れるらしい。
チケットを押さえられなかった人たちが、割高のそれを購入したり。
あらかじめ大量に押さえたチケットを、そういった人たちに売りさばいたり。
( <●><●>) 「…」
自分は、ライブというものに疎い。
今回こそライブは中止となったが、
もしライブが決行されていた場合、彼らのような、
チケットが得られなかった人たちは、どうしていただろうか。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「…東風さん」
.
202
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:27:11 ID:OAVw79X60
ふと気になったことがあり、インカムを飛ばす。
( <●><●>) 「確認ですが、」
( <●><●>) 「犯人の声明によると、殺すのは観客一名」
「ああ」
落ち着いた声だ。
( <●><●>) 「時刻は、ライブの開演から終演まで、二時間」
東風さんは黙っている。
( <●><●>) 「ふと思ったのですが」
( <●><●>) 「この観客、というのは、必ずしも会場内に入る必要があるのでしょうか」
「どういうことだ」
多少先を急くような声が返ってきた。
.
203
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:27:44 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「いえ、私はライブには詳しくないのですが」
( <●><●>) 「確か、いわゆるチケット難民や、ダフ屋がいるじゃないですか」
「ああ」
先ほどより、少し力が感じられる。
( <●><●>) 「チケットがなくても、あくまで立ち見……」
( <●><●>) 「そういった形でライブに参加することは、可能なのでしょうか」
「できる会場もあるかもしれないが、ここは完全にチケットが必要だ」
確か、関係者もそのようなことを言っていた気がする。
( <●><●>) 「でしたら、会場の外から……は?」
東風さんは、黙る。
息を殺しているようだ。
.
204
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:28:17 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「あくまで、ここは、スタジアム」
( <●><●>) 「轟音を鳴らそうものなら、それは会場内だけでなくとも、」
といったところで、大きな音が聞こえた。
椅子が倒れたような音だった。
東風さんの荒い息遣いがする。
( <●><●>) 「…なにか」
「ワカッテマス」
「犯人からの殺人予告、一字一句読み返してくれ」
( <●><●>) 「…」
急に、明らかに声色が変わった。
犯人の声明、か。
( <●><●>) 「五月三日、」
( <●><●>) 「十九時より開演される渋沢栄吉のライブ中に、」
( <●><●>) 「観客一名を殺す」
.
205
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:28:37 ID:OAVw79X60
、 、 、 、 、
「会場外でも、ライブを聴いていれば、観客だよな?」
( <●><●>) 「ッ」
東風さんの息遣いが変わった。
断続的に反響する足音が聞こえる。
走り出したようだ。
( <●><●>) 「どちらへ」
「裏口から右手に周回する」
「お前も今すぐ、正面ゲートから出て右に走れ」
言われ、警備員に目礼して自分も走り出した。
警備員は特段、気にしたようすではなかった。
ゲートを飛び出すと、群衆の視線が突き刺さる。
しかし、アクションを起こそうとする人はいない。
( <●><●>) 「どういうことですかッ」
「いいか」
「可能性があるとすれば、人目につかない、しゃがみこめそうな場所だ」
.
206
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:29:17 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「そうじゃありませんッ」
言われるがまま、時計回りでスタジアムの外周を走る。
( <●><●>) 「どうしたのですかッ急に」
「自分で言ったことを思い出せ」
「観客を殺す以上、犯人は絶対、なにかしら足跡を残さなければならねえ」
「観客、スタッフ、警備員、どの場合でも」
( <●><●>) 「それが、」
「ただッ」
「一切足跡を残さずに殺せる観客が若干名いるってことだ!」
、 、 、 、、 、 、 、 、
( <●><●>) 「それが場外からの立ち聞き ってことですか!」
.
207
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:30:22 ID:OAVw79X60
返事はない。
( <●><●>) 「で、可能なのですかッ」
( <●><●>) 「ライブを、勝手に場外から立ち聞きすることは!」
「可能もなにも」
「昔から、その手の観客は一定数いた!」
「そしてそいつらは、チケットの購入履歴に名を残すこ」
( <●><●>) 「 ッ」
東風さんからのインカムが途絶えた。
目前、正面ゲートから時計回りで走っていると、その先にはレフトゲートが見えてくる。
こちらも、一定数群衆はいた。
しかし、何事もない。
ただ、好奇心に駆られ、一瞥を与えたり、歩み寄ってくる人はいた。
.
208
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:31:00 ID:OAVw79X60
一切構っている暇はない。
というより、人が集っているところで殺しが行われるわけがない。
どうしましたか!
一刻も早く東風さんにインカムを飛ばしたいが、
入れ違いで向こうからインカムが入ることを考えると、どうにももどかしかった。
後ろから、マスコミと思しき若い女が駆け寄ってくる。
だが、あいにく、そんな輩に追いつかれる程度の脚は持っていない。
どうしましたか!
たびたび、インカムを飛ばしたくなる衝動に駆られる。
数年前の、誘拐事件を思い出した。
自分の、何気ない言動がきっかけで、騒動になったり進展を見せるなどした。
なにか、悪いことになっていないか、そんな不安で胸がいっぱいになる。
( <●><●>) 「ッ」
息がはずむ。
全力で走っているためか、もうレフトゲートを通り過ぎた。
もう少し走れば、東風さんが出てきたであろう裏口が見えてくるが、
「 られたッ!」
.
209
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:31:29 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「!」
インカムから、怒号が飛んできた。
頭の部分は聞こえなかった。
( <●><●>) 「どうしましたか!」
「やられた! 警備員だ!」
( <●><●>) 「場所ッ!」
「ライトゲート少し先ッ!」
やられた。
警備員だ。
殺された?
警備員が?
殺した?
警備員が?
.
210
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:32:16 ID:OAVw79X60
( <●><●>) 「 ッ 」
「警備員がやられた!」
「走ってるやつがいたら片っ端から捕らえろ!」
「こちら、ライトゲートやや南ッ!」
(;<●><●>) 「らッ… 」
ちょうど、反対側だ。
いま、自分はレフトゲートを通過した当たりだ。
犯人が、すぐそこにいる?
走っている?
「絶対に逃すな!」
「周囲の警備員も動かせ!」
(;<●><●>) 「!」
.
211
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:32:50 ID:OAVw79X60
はッとして、前後を見た。
警備員は、まだ連絡が行き渡っていないのか、ただ立っているだけだ。
前方、近くにいた警備員に肉薄した。
警備員 「…?」
( <●><●>) 「いッ」
( <●><●>) 「今すぐ、警備員全員で周囲を捜索しろ!」
警備員 「なッ 」
( <●><●>) 「ライトゲート付近で、警備員が殺された!」
( <●><●>) 「犯人はまだ、この近辺にいる!」
三度目の予告は、どうやら遂行されたようだった。
.
212
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:36:12 ID:OAVw79X60
序幕
>>2-69
第一幕
>>82-211
213
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 17:42:37 ID:CZ4aqXp.0
いいところで……
乙!!
214
:
名無しさん
:2018/08/27(月) 19:12:25 ID:04C1g/ns0
乙
予告殺人といえばABC殺人事件だけど
215
:
名無しさん
:2018/08/28(火) 03:23:35 ID:Blvne0Sg0
乙
ドキドキするな
216
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 08:24:37 ID:iG753x8o0
vip総合でかいたイツワリさん
https://i.imgur.com/7xkO63j.png
217
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:39:56 ID:XxFQ.4eo0
>>216
ありがとう なに、お礼に続き投下しろだと 卑怯なやつめ わかったよ
218
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:40:48 ID:XxFQ.4eo0
┏━─
五月四日 午前六時一三分 牛丼屋
─━┛
昨晩、恐れていたニュースが報道された。
五月三日付、十九時過ぎ、ヴィップスタジアム場外にて警備員が殺害された。
( ´・ω・)
っ= ’
喉元を一突き、即死だったそうだ。
被害者は、クックル三階堂。
当時、現場のヴィップスタジアムには、ある殺人予告が届けられていた。
「五月三日、十九時より開演される渋沢栄吉のライブ中に、観客一名を殺す」
渋沢栄吉といえば、一時代を築いたトップスターだ。
当然ライブは中止され、厳重な警備体制が敷かれた。
殺されたクックル三階堂も、派遣されたうちの一人だった。
.
219
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:41:33 ID:XxFQ.4eo0
( ´・ω・)
っ=,・
現場は、警備員や所轄の刑事、
そして県警からふたりの刑事が出動していた。
警部補、東風ミルナと天才、ワカッテマス。
ヴィップ県警が誇る優秀なふたりだ。
その二人が迅速に対応し、事件の発覚後即座に検問が敷かれた。
待機していた警官の多くが対応し、ヴィップスタジアム近辺を捜索した。
ただし捜査の甲斐なく、犯人には逃走を許す運びとなった。
( ´・ω・) ,
っ= ・
( ´・ω・) 「ゲーフ…」
っ=
話の根本、殺人予告についてだが、
これはいわゆる連続予告殺人と呼ばれるもので、
ライブ殺人は三件目に実行されたものだ。
僕は二件目、ビジネスホテルのヒッキー小森殺人事件を追っていた。
事件が発生した時、害者宅を捜索していた。
.
220
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:43:11 ID:XxFQ.4eo0
突如、ぎょろ目の野郎から電話がかかってきた。
いやな予感がしたんだ。
電話越しに、焦燥がうかがえた。
警備員がやられた、としきりに連呼していた。
この男にしては珍しく、感情的になっていた。
捜査は同行していた壁にまかせて、
現場に急行せざるを得なかった。
そこから、夜通し現場の捜査、状況の把握、現場の指揮。
ひと段落ついて、ようやくメシにありつくことができた。
スタジアム近くというだけあり、飲食店には困らなかった。
'_
( ´・ω・)y- 、
( ´・ω・) 「はい、ショボーンです」
しかし、食事中も、食後の一服も。
立て続けに電話が鳴るのだから、たまったもんじゃない。
.
221
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:43:42 ID:XxFQ.4eo0
矢継ぎ早に飛んでくる、情報情報また情報。
重要そうなもの以外は、聞き流していく。
夕食を抜き、夜通し起きていた中年が、
細かな情報を逐一覚えていられるはずもなかろう。
ほどなくして、現場に戻った。
鑑識があちらこちらに立っており、マスコミや野次馬はまだ数が減っていない。
朝の日課だろう、ランニングや犬の散歩をしていた老人たちも集まっている。
群衆をかき分け、黄色いテープをくぐった。
途中で何度かマスコミがマイクを向けてきたが、すべて無視した。
(´・ω・`) 「戻ったぞ」
( ゚д゚) 「はい」
初動捜査は、ぎょろ目が先導していた。
遺体は既に運ばれているが、まだ現場には生々しい事件の跡が残っている。
.
222
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:44:28 ID:XxFQ.4eo0
(´・ω・`) 「メシはいいのか」
( ゚д゚) 「大丈夫ですね」
(´・ω・`) 「いいから、ほれ」
戻ってくる時にコンビニで買った、豆乳とあんぱんを押し付けた。
ぎょろ目は見た目通り、古風な刑事だ、捜査中の食事にはあんぱんを好む。
ただ、近頃は健康に気遣って、豆乳も併せて飲んでいるらしいけど。
( ゚д゚) 「どうも」
(´・ω・`) 「無理はするなよ。 じいちゃん言われても仕方ねえ歳だ」
( ゚д゚) 「やっぱり歳ですかね、朝日が厳しい」
(´・ω・`) 「弱音吐かないでくれ。 あんたが頼りだ」
ぎょろ目は袋を握って、スタジアムに向かった。
僕もついていく。
.
223
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:44:57 ID:XxFQ.4eo0
害者は、スタジアム外壁から数メートル、植え込みのなかで殺された。
道路は十メートルほど向こうにあり、あまり人目につかなさそうな位置取りである。
ぎょろ目は、ライトゲートをくぐった。
眠そうな顔をしている警官が、ぎょろ目を見て初々しい敬礼をした。
気だるげに 「ウッス」 と返すだけである。
( ゚д゚) 「ふう…」
(´・ω・`) 「僕だけ先に食ってすまんよ」
ぎょろ目は 「構いませんよ」 と言った。
僕は、現場近くで立ちながら食うメシが嫌いだった。
今更、あらためて言う必要もない、ぎょろ目はわかってくれている。
豆乳を一口で飲み干し、パックを握りつぶす。
よっぽど疲労がたまっていたと見受けられる。
(´・ω・`) 「ヤニ、足りてるか?」
( ゚д゚) 「足りてる、わけがないですね」
あんぱんを三口ほどで胃に押し込んで、笑った。
だろうと思ったよ。
.
224
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:45:32 ID:XxFQ.4eo0
近頃、マスコミや市民の目は厳しい。
ライトゲート外にも喫煙所はあるが、僕たちは中ほどにある喫煙所に向かった。
( -д)y-~~
一口目で、一センチが一気に燃え尽きた。
かなり深い吸い込みだ。
(´・ω・`) 「ひとまず、わかったことから整理していこうか」
(´・ω・`) 「…の前に、ワカッテマスは?」
( ゚д゚) 「取り調べですね」
(´・ω・`) 「あいつにも、なんかメシ食わせとけ」
いまどきの若者にしては珍しく、ワカッテマスは限界以上に働きたがる。
好奇心に駆られやすい性格とでも言えば聞こえはいいのだろうが、
夜通し、食事もなしに捜査に明け暮れるのはただのオーバーワークだ。
( ゚д゚) 「必要に応じて、勝手に食うと思いますよ」
(´・ω・`) 「そこまで面倒は見てられんがなあ」
(´・ω・`) 「まあ、後で呼び出しておこう」
.
225
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:46:13 ID:XxFQ.4eo0
( ゚д゚) 「とにかく、事件について」
( ゚д゚) 「繰り返すことが多くなりますが、確認も兼ねて」
(´・ω・`) 「頼むよ」
ぎょろ目は、ようやく落ち着いてきたようだ。
さっそく一本目を吸いきって、ゆっくり二本目に手を伸ばす。
( ゚д゚) 「まず、害者はクックル三階堂」
( ゚д゚) 「ケイビー警備会社に勤めていたアルバイターです」
ケイビー警備会社は、ヴィップ県警近くに本社を構える、大きな企業だ。
何度か上層部と顔を合わせたこともある。
( ゚д゚) 「ヴィップ在住で、三十二歳の既婚者、子はなし」
( ゚д゚) 「免許証も照合しましたが、虚偽ではありませんね」
(´・ω・`) 「…」
.
226
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:46:52 ID:XxFQ.4eo0
( ゚д゚) 「現場は、ライトゲートをやや南に向かった植え込み」
( ゚д゚) 「目下聞き込み中ですが、とりあえず目撃者はゼロ」
( ゚д゚) 「人が見ていないのをいいことに、犯行に及んだものと見られます」
(´・ω・`) 「ふむ…」
( ゚д゚) 「十九時十分頃、でしょうか」
( ゚д゚) 「犯人と害者は植え込みに移動後、」
( ゚д゚) 「喉元をナイフで突かれ即死しました」
(´・ω・`) 「ナイフの鑑定結果は」
現場には、即座に鑑識が駆けつけた。
遺留品、といってもナイフしかなかったが、検査結果は既に出ている。
( ゚д゚) 「指紋は確認されませんでした」
( ゚д゚) 「比較的新しいもののようで、出所はこれから洗います」
( ゚д゚) 「ただ、ありふれたものなので、こちらも大した手がかりにはならないかと」
.
227
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:47:18 ID:XxFQ.4eo0
( ゚д゚) 「以上までで、なにか」
(´・ω・`) 「彼の配属状況とかは」
(´・ω・`) 「どういった経緯で、ここに配属されたか、とか」
( ゚д゚) 「問い合わせ中です」
(´・ω・`) 「オーケー」
(´・ω・`) 「……年齢が三十二、というのは間違いないんだね」
( ゚д゚) 「こちらに嘘はなかったです」
(´・ω・`) 「ペニーや壁には回したか?」
( ゚д゚) 「ワカッテマスが回していましたね」
、 、 、 、、 、 、
( ゚д゚) 「……三件すべて、三十代少しの男が殺されている」
( ゚д゚) 「ここまでくれば、偶然ではないでしょう」
、 、 、
(´・ω・`) 「浮かんできたな、共通点」
.
228
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:47:47 ID:XxFQ.4eo0
皮肉でこそあるが、ここにきて、漠然と被害者三人に共通点が見えてきた。
フッサール擬古は三十二歳、ヒッキー小森は三十四歳。
続けて殺されたクックル三階堂は、三十二。
もはや偶然ではない。
年齢が近しいことがひとつ、この事件のキーとなるのは間違いない。
( ゚д゚) 「害者の経歴はまだ詳細にはわかっていません」
(´・ω・`) 「履歴書はまだ照合してないんだ?」
( ゚д゚) 「アルバイトの履歴書なんて、いくらでも偽装ができますからね」
( ゚д゚) 「こちらは所轄に任せています」
ひとまずわかったのは、年齢と住所。
免許証に記載されてあることは真実と断定済みだった。
(´・ω・`) 「そこまではオッケーだ」
( ゚д゚) 「初動捜査で、ひとまず浮かんだ疑問点ですが、」
(´・ω・`) 「あれから何か出た?」
.
229
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:48:30 ID:XxFQ.4eo0
事件を聞きつけ、なるべく現場に急行したものの、
まだ、ぎょろ目から詳細な情報共有は済ませていない。
( ゚д゚) 「現状、一番不審な点は、インカムですね」
(´・ω・`) 「インカム?」
( ゚д゚) 「当時、警備員は全員、インカムをつけていました」
( ゚д゚) 「ヴィップスタジアムで、イベントに使用されていたものですね」
(´・ω・`) 「ほう」
インカムの情報は、聞いていなかったな。
( ゚д゚) 「で、インカムって、チャンネルを合わせて音声を共有するのですが、」
( ゚д゚) 「当時、警備員は一番に合わせていました」
(´・ω・`) 「うん」
( ゚д゚) 「一方、自分とワカッテマスも、同じ型番のインカムを使用していました」
.
230
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:49:03 ID:XxFQ.4eo0
(´・ω・`) 「うん…?」
( ゚д゚) 「ただ、チャンネルは五番で合わせていました」
(´・ω・`) 「警備員とは、共有していなかったと」
( ゚д゚) 「問題はそこですね」
(´・ω・`) 「そこ?」
( ゚д゚) 「害者のインカムも、五番に合わされていたんですよ」
(´・ω・`) 「なに…?」
(´・ω・`) 「その、五番が警察用ッてのは、周知だったか?」
( ゚д゚) 「まさか」
( ゚д゚) 「聞いたところ、我々も同じインカムを使うことすら知らされていなかったようです」
(´・ω・`) 「……」
.
231
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:49:38 ID:XxFQ.4eo0
腹の底のほうで、異物感を覚えた。
ぎょろ目は続ける。
(´・ω・`) 「他の警備員は、どうだった」
( ゚д゚) 「皆、一番で合わせていました」
(´・ω・`) 「その、インカムの仕様がよくわからないんだけど、」
( ゚д゚) 「ごく普通のものですね」
( ゚д゚) 「電波だけは高性能、といった程度」
( ゚д゚) 「違うチャンネルでやり取りがあっても、一切気づけません」
(´・ω・`) 「……ふーん」
懐から、最後の一本取り出した。
空き箱を捨てて、ふた箱目を懐に忍ばせておく。
.
232
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:50:10 ID:XxFQ.4eo0
( ゚д゚) 「こちらは、また戻り次第、検討しましょう」
( ゚д゚) 「イツワリさんは、何か気づいたことは」
(´・ω・`) 「…」
いま、言うべきか。
ひと段落したとは言え、まだ初動捜査の段階だ。
いたずらに余計なことを言いたくないとは思う。
ただ、どうしてもひとつ、確認しておきたいことがあった。
(´・ω・`) 「あるッちゃ、ある」
( ゚д゚) 「はい」
(´・ω・`) 「ライブ殺人の、予告状……」
(´・ω・`) 「一字一句、違わず確認させてくれ」
( ゚д゚) 「一字一句、ですか」
.
233
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:50:42 ID:XxFQ.4eo0
言われて、ぎょろ目は手帳を取り出した。
最後のページに挟んであった資料を広げる。
五月三日、十九時より開演される
渋沢栄吉のライブ中に、観客一名を殺す。
勘違いであってほしい、とは思ったが、いよいよ疑問が明らかになった。
ぎょろ目やワカッテマスが気づいているかはわからないけど。
(´・ω・`) 「…」
( ゚д゚) 「なにか」
(´・ω・`) 「いや…何か、じゃないよ」
ぎょろ目とワカッテマスは、ずっと現場にいた。
僕のような、客観的でいられる第三者のほうが気づけるのかもしれない。
、 、
(´・ω・`) 「予告は、観客に向けられてたんだろ?」
(´・ω・`) 「害者は、観客じゃねえぞ」
、 、 、
(´・ω・`) 「警備員だ」
.
234
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:51:17 ID:XxFQ.4eo0
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「……な…」
言われて、ぎょろ目は再び資料に視線を落とした。
渋沢栄吉のライブ中に 「観客」 一名を殺す。
(;゚д゚) 「…」
ぎょろ目は、口をぽかんと開けた。
眉間にしわが寄っていく。
すると、乱雑に携帯を取り出し、耳元に当てた。
大方、ワカッテマスにも共有するのだろう。
ワンコールほどで繋がったようで、ぎょろ目はすぐに、そのことを告げた。
何度か応答を繰り返し、切る。
(;゚д゚) 「…」
(;゚д゚) 「まーーた…面倒なところに気が付きましたね」
.
235
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:51:59 ID:XxFQ.4eo0
(´・ω・`) 「いや、フッツーに気づけるよ」
(´・ω・`) 「あんたらが、気張りすぎなんだ」
( ゚д゚) 「…でしょうな」
ペニーでも、壁でも気づけそうなもんだ。
僕も、連絡がきた瞬間に、引っかかるものはあった。
観客が、殺されるんじゃあなかったのか。
どうして、警備員が殺されたんだ。
( ゚д゚) 「……」
( ゚д゚) 「そうか、観客…」
(´・ω・`) 「殺されたのが、一般人ならまだわかった」
(´・ω・`) 「ただ、殺されたのが警備員となると…」
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「あの予告は、観客に注意を寄せて、こっそり警備員を殺すための罠だった」
.
236
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:52:26 ID:XxFQ.4eo0
(´・ω・`) 「断言はできないけど……まあ、そう捉えたくなるね」
( ゚д゚) 「ここにきて、狂言が挟まれたわけですな」
(´・ω・`) 「イマドキの殺人予告って、結構律儀なやつが多いんだよ」
(´・ω・`) 「それだけに、こんな小手先をしてくるとわかると……面倒だ」
殺人予告を出す犯人の特徴は、決まって自信家ばかりである点が挙げられる。
予告を出す以上、相手にも最大限の準備をさせてしまう。
それを潜り抜けられるだけの自信がなければ、
たとえ嘘を交え虚を衝く作戦を練ろうが、予告などしないだろう。
虚を衝いて予告を成功させられるなら、それこそ最初から予告する必要性もない。
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「ひとまず、目先の現場を優先させましょう」
( ゚д゚) 「ここは自分が担当しますが……イツワリさんはどうします?」
(´・ω・`) 「ん……そうだなあ」
.
237
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:52:49 ID:XxFQ.4eo0
やるべきことは山ほどあるが、取っ掛かりというものが少ないのが現状だ。
まだ、具体的な犯人像が一切浮かんできていない。
(´・ω・`) 「害者にはヨメさんがいるんだな?」
( ゚д゚) 「ええ。 まだ事件のことは知らないはずですね」
(´・ω・`) 「別居もしてないんだよね」
( ゚д゚) 「の、はず」
腕時計を、チラッと見る。
まだ七時にはなっていないが、車を飛ばしている間に
七時のニュース番組が始まることだろう。
害者のデータを控えた。
(´・ω・`) 「だったら、僕がじきじきにヨメさんとこに行こう」
( ゚д゚) 「わかりました」
(´・ω・`) 「…もう起きてるかなあ?」
「さあ」 と言って笑った。
僕とぎょろ目は、歳のせいもあってか早起きに抵抗がなくなっているが、
七時といえば、若者からすれば十分な早朝だ。
起きてくれていると助かるのだけど。
.
238
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:53:48 ID:XxFQ.4eo0
┏━─
午前七時一六分 アパート
─━┛
車を走らせて二十分ほど、見えてきたのは質素なアパートだった。
僕が二十代頃に住んでいたワンルームのそれに似ている。
このご時世に、洗濯機が廊下に野ざらしになっているアパートはいっそ珍しい。
( ´-ω-)y-~~
車の中で、一本を十分ほどかけてじっくり味わった。
朝早いから、というのもあるが、事件を聞きつけてから、
ほとんど心を休ませる暇がなかった。
( ´・ω・)y-~~
伸びてきた顎ひげをさすりながら、アパートを眺めた。
三十過ぎの夫婦が住むには、いささか可哀想な外装だ。
しかし、こんな古びたアパートは、なかなかどうして住みたくなる衝動にも駆られる。
近頃の格安賃貸は、月五万ほど払えば、きれいな内装に家具家電が完備されているものだ。
となると、このアパートは月いくらほどなんだろうか。
.
239
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:54:11 ID:XxFQ.4eo0
(´・ω・`) 「…さて」
事件が発生したばかりで、犯人はもちろん、
害者の容態や現場状況がまったく掴めてていない場合、
親族への連絡が遅れてしまうことがある。
何もわかっていないのに、それこそ犯人も捕まっていないのに
いきなり連絡だけ入れても、いたずらに悲しませるだけだ。
実のところ、ただ人手が足りていないだけなのだろうけど。
軋む階段を上って二階、三つ目の扉に向かう。
インターホンは備わっているようで、二度鳴らすと、なかから足音が聞こえた。
ミセ*゚-゚)リ 「…はーい?」
寝起きなのが見てとれる、小柄な女性が顔を出した。
むろん、化粧も髪のセットもしていないため、三十代にしてはくたびれた容貌に見える。
ためらう必要はなかった。
僕はさっと、構えていた警察手帳を見せた。
ミセ;゚-゚)リ 「…ッ」
.
240
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:54:33 ID:XxFQ.4eo0
女性は、それを見た瞬間眠気が払われたようだった。
目がくわっと開く。
化粧したら美人なのだろう、大きな目をしていた。
(´・ω・`) 「ヴィップ県警の者です」
ミセ;゚-゚)リ 「…………ハイ」
急に声がちぢこまった。
警戒されているのか、ドアのチェーンは外してもらえていない。
さっさと、本題を切り出したほうがいいだろう。
夫が、殺されましたッてな。
(´・ω・`) 「クックル三階堂さんは、おたくの旦那さんですか?」
ミセ;゚-゚)リ 「そう……ですが」
ミセ;゚-゚)リ 「主人が、なにか、しましたか?」
(´・ω・`) 「何者かによって、殺されました」
ミセ;゚-゚)リ
.
241
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:54:56 ID:XxFQ.4eo0
ミセ;゚-゚)リ
こわばった顔が、引きつった。
引きつったというより、固まったといったほうがいいだろう。
彼女は、息を深く吸い込んでいる。
目はぱちくりと開いたままだ。
そりゃあそうだ。
朝早くに刑事がきたと思えば、旦那が殺されたと告げられたのだ。
ミセ;゚-゚)リ
ミセ;゚-゚)リ 「は?」
(´・ω・`) 「旦那さんは先日、ヴィップスタジアムの警備に行ってい」
ミセ;゚-゚)リ 「あの」
(´・ω・`) 「はい」
ミセ;゚-゚)リ 「手帳」
ミセ;゚-゚)リ 「それ、ホンモノですか?」
.
242
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:55:39 ID:XxFQ.4eo0
いっそう、警戒を強めさせてしまったようだ。
あまりにも信じられなさすぎて、新手の勧誘か詐欺か、を疑われたのだろう。
(´・ω・`) 「ホンモノですよ」
(´・ω・`) 「といっても、ニセモノだとしても、見分けつかないかもですが…」
ミセ;゚-゚)リ 「…」
確かに、と言いたげな顔をしつつも、手帳をじっと見つめる。
ヴィップ県警捜査一課、警部、ショボーン、僕の顔写真。
警察手帳は説得力があるように思われるが、
次々となりすましの詐欺が横行している昨今、
手帳なんて見慣れない一般人からすれば、それに一切の説得力はない。
そういう時は、拳銃だ。
(´・ω・`) 「こっちのほうが、信用、されますかね」
ミセ;゚-゚)リ 「ッ」
.
243
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:56:16 ID:XxFQ.4eo0
腰のホルダーから、拳銃を抜いた。
スミス&ウェッソン製の、五連リボルバー。
弾がフルに装填された弾倉まで見せると、女性は小刻みにうなずいた。
ミセ;゚-゚)リ 「………」
(´・ω・`) 「いま……お時間、だいじょうぶですか?」
ミセ;゚-゚)リ 「え」
ミセ;゚-゚)リ 「主人が、殺されたんですか?」
ミセ;゚-゚)リ 「主人が?」
(´・ω・`) 「現場写真を見せられなくはないのですが、」
ミセ;゚-゚)リ 「見せて」
(´・ω・`) 「…」
絞殺などではない、刺殺だ。
それも、大量出血を伴っている。
決して、家族、それも女性に見せるべきシロモノではないのだが、
世の遺族は、それでも被害者の最後の姿を見たがるものだ。
わからなくは、ないけど。 僕なら見たくない。
.
244
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:56:56 ID:XxFQ.4eo0
ミセ*゚-゚)リ 「 ……ッ」
(´・ω・`) 「ご主人で、間違いありませんね?」
ミセ*゚-゚)リ
::ミセ*゚-゚)リ:: 「……」
女性は、ようやく事の重大さを理解したのだろう。
全身の力が抜けたようで、小刻みに震えながら、少しずつ、くずおれていった。
そのまま、ドアを押さえる力すらなくなり、
チェーンのかけられたままだったドアは、力なく閉じられた。
女性はドアにもたれかかったようで、扉越しでも嗚咽を漏らすのが聞こえてきた。
(´・ω・`) 「…」
(´-ω-`)
っ ‘・
いつになっても、慣れないものだ。
僕は廊下の柵に上体を預け、煙草に火をつけた。
こうなると、少なくとも五分、十分は、遺族のかたは動けない。
.
245
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:57:43 ID:XxFQ.4eo0
( ´・ω・)y-~~
'_
( ´・ω・) 、
紫煙を遊ばせていると、物音がした。
チェーンが外される音だ。
続けて、扉がゆっくり開かれた。
ミセ*゚-゚)リ
目が赤くなっている。
ずいぶんと擦ったようだ、荒れていると言ってもいい。
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「汚いとこですけど…あがっていただけませんか」
(´・ω・`) 「わかりました」
煙草を携帯灰皿に押し込んで、おじゃますることにした。
若い二人暮らし、ということで、室内に余計なものはなかった。
.
246
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:58:25 ID:XxFQ.4eo0
促されるがまま、客用であろう座布団に腰を下ろす。
女性はマグカップに、たくさんの氷と麦茶を注いでくれた。
ミセ*゚-゚)リ 「どうぞ」
(´・ω・`) 「ありがとうございます」
ミセ*゚-゚)リ 「で……」
ミセ*゚-゚)リ 「その」
女性が言いよどんだ。
落ち着いたとはいえ、あまりにも急すぎる話に、まだ混乱しているのだろう。
室内を、失礼にならない程度に見渡す。
いつかは、ここも捜査しなければいけないのだ。
少年誌や生活雑誌などが、ちらかっている。
まだ中身が残っているポテトチップスや、チューハイの空き缶もだ。
.
247
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 18:58:51 ID:XxFQ.4eo0
(´・ω・`) 「では、あらためて……捜査一課の、ショボーンです」
ミセ*゚-゚)リ 「芹澤ミセリ……と言います」
(´・ω・`) 「…?」
おや、と思った。
セリサワ? どこからその名前が?
(´・ω・`) 「あの、失礼ですが」
(´・ω・`) 「クックル三階堂さんとは、籍を入れては…?」
ミセ*゚-゚)リ 「ああ」
ミセ*゚-゚)リ 「入籍は、しています」
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、苗字はそのままにしてます」
ミセ*゚-゚)リ 「最近、そういう家庭も少なくないみたいですよ」
(´・ω・`) 「なるほど……いや失礼」
.
248
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 19:01:00 ID:XxFQ.4eo0
自分も、結婚していた時の頃を思い出す。
ミセリ、クックルの年代を考えると、およそ十年は違うわけだ。
すっかり、時代というものは変わっているらしい。
ミセ*゚-゚)リ 「別にいいですケド…」
(´・ω・`) 「挙式しない夫婦も、年々増えているそうですしね」
ミセ*゚-゚)リ 「そう、ですね…」
ミセ*゚-゚)リ 「お金が、かかりますから」
結婚式を挙げない夫婦も、確実に増えている。
不景気はもちろん、若者の意識に変化が現れているらしく、
一日限りのセレモニーにウン百万と払うのに、抵抗があるそうだ。
僕も、挙式はしていない。
もっとも、当時からすれば珍しいほうだったのかもしれないが。
もし再婚する機会があったら、式くらいは挙げようか。
(´・ω・`) 「ご主人は、ケイビー警備会社にお勤めで?」
ミセ*゚-゚)リ 「ケイビー…だか知らないですが、そうですね」
.
249
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 19:03:11 ID:XxFQ.4eo0
あまり亭主の職業に興味を抱いていないようだった。
ということは、少なくとも職場結婚ではないだろう。
(´・ω・`) 「社員としてではなく、あくまで非正規雇用、で」
ミセ*゚-゚)リ 「そうですね」
ミセ*゚-゚)リ 「とりあえず生活するために……ということです」
(´・ω・`) 「以前、お仕事はなにを?」
ミセ*゚-゚)リ 「いや…いろいろですよ」
結構デリカシーのないことを聞いているつもりなのだけど、
ミセリは存外ふつうのことのように答えてくれた。
ミセ*゚-゚)リ 「配送業だの、土木だの…」
ミセ*゚-゚)リ 「大学を出てとび職に就いてたんですが、一年で辞めてましたね」
(´・ω・`) 「いやあ…男らしい仕事ばかりで」
ミセ*゚-゚)リ 「ガクがないですよ。 主人は」
.
250
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 19:03:32 ID:XxFQ.4eo0
(´・ω・`) 「しかし、大学は出ていたのでしょ?」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ」
話を察するに、大学で知り合った夫婦のようだ。
でなければ、大学を出てとび職に就いていた、といった言い方はしない。
ミセ*゚-゚)リ 「でも、遊んでばかりでしたので」
ミセ*゚-゚)リ 「その………そうですね」
(´・ω・`) 「…?」
ミセリは一呼吸置くように、麦茶を飲んだ。
僕もあわせて一緒に飲んだ。
結構しぶみが出ている。 昨日作ったものではなさそうだ。
ミセ*゚-゚)リ 「で、最近、警備員になる、って言って」
(´・ω・`) 「はやく定職に就いて! とかはなかったんですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「別に……最低限、生活さえできれば、いいので」
(´・ω・`) 「ふむ…」
.
251
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 19:03:53 ID:XxFQ.4eo0
雑談も、この程度でいいだろう。
警備員、というワードが出たのだから、ここから本題に入ろう。
(´・ω・`) 「マ。 その警備員ですが…」
(´・ω・`) 「昨夜、ご主人はヴィップスタジアムにお勤めなさっていました」
(´・ω・`) 「ヴィップスタジアムは、ご存じですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ…」
ミセ*゚-゚)リ 「○○市ですよね」
(´・ω・`) 「そうですそうです」
ミセリもヴィップの人間のようで、
軽く近辺の話などをして探りを入れると、そのどれもに食いついてきた。
同じヴィップの人間として、親近感がわく。
(´・ω・`) 「ヴィップスタジアムなんですが、」
(´・ω・`) 「どうして警備員が発注されたか、ご存じですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ……主人が言っていたので」
.
252
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 19:04:16 ID:XxFQ.4eo0
(´・ω・`) 「そうですね」
ミセ*゚-゚)リ 「渋沢が、ライブするんでしたよね」
(´・ω・`) 「ええ……、え?」
ミセ*゚-゚)リ 「え?」
間違っては、いないが。
もしかして、連続予告殺人を知らないのだろうか。
ミセ*゚-゚)リ 「渋沢……じゃなかった?」
ミセ*゚-゚)リ 「なんにせよ、誰かのライブがあるから、って聞いてましたが」
(´・ω・`) 「ま、間違っちゃあいませんが」
ミセ*゚-゚)リ 「なんですか」
ああ、煙草が吸いたい。
害者も愛煙家だったようで、ローテーブルに透明の灰皿がある。
しれっと吸っても、怒られないかな。
(´・ω・`) 「ヴィップスタジアムといえば、あれですよ」
(´・ω・`) 「話題の、予告殺人……ご存じじゃ、ないので?」
.
253
:
名無しさん
:2018/08/30(木) 19:04:46 ID:XxFQ.4eo0
ミセ*゚-゚)リ 「連続…?」
ああ、だめだ。
しれっと吸っちゃえ。
(´・ω・`) 「失礼」
っ ”
ミセ*゚-゚)リ 「ン……どうぞ」
( ´-ω-)y-~~
どういうことだ。
害者は、奥さんに連続予告殺人のことを言っていなかったのか。
それとも、そもそも詳しいことまで話す関係じゃなかったのか。
確かに、奥さんの口ぶりから察するに、
そこまで害者の仕事に関しては、興味を抱いていなさそうだが。
(´・ω・`) 「最近、ニュースで話題になってませんかね」
(´・ω・`) 「ここ数週間で、立て続けに、同一犯による殺人予告が送られ…」
(´・ω・`) 「次々と、人が、殺されている」
.
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