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( ^ω^)は街で狩りをするようです

440名無しさん:2018/12/14(金) 22:24:06 ID:7jaFBzYo0
ひゅー! スネークが来たぜぇ!!

441 ◆jVEgVW6U6s:2018/12/14(金) 22:24:45 ID:LgVhRRY60



         ィ'ト―-イ、
         以`゚益゚以       次は1月の予定です。    
        ,ノ      ヽ、_,,,  お祭りも街狩りもがんばる
     /´`''" '"´``Y'""``'j   ヽ
    { ,ノ' i| ,. ,、 ,,|,,. 、_/´ ,-,,.;;l  お気に入りのキャラが死んで
    '、 ヾ ,`''-‐‐'''" ̄_{ ,ノi,、;;;ノ    お気に入りのキャラが復活して
     ヽ、,  ,.- ,.,'/`''`,,_ ,,/    なんかもう書いててアホほど感情揺さぶられたんで
      `''ゞ-‐'" `'ヽ、,,、,、,,r      ほのぼのとしたの書きたいです'  
        ,ノ  ヾ  ,, ''";l

442名無しさん:2018/12/14(金) 22:25:09 ID:QNlnZDEM0
展開がよお……展開がよお!!!重てえんだ!!!!
投下乙、おっさんのバンダナのくだりでもしや来るか…?と思ってたが
最後でマジに泣いちまったよ

443名無しさん:2018/12/14(金) 22:28:35 ID:ZiuCsvi20
>>441
それはほのぼののお題を募集してるということかな(ゲス顔

444名無しさん:2018/12/14(金) 22:33:39 ID:3v0PC4Mg0
乙です!相変わらず面白い!
>>381
うめえしかっけえええええ!!!

445 ◆jVEgVW6U6s:2018/12/14(金) 22:40:29 ID:LgVhRRY60
>>381
改めてイラストありがとうございました!
これを見て一気に書き進められてます

>>443
気が向いたらで構いませんので、ここにお題置いといてもらえるとうれしいです(切実)

446名無しさん:2018/12/15(土) 00:51:05 ID:U5T04FT60
そこでそのセリフを使うのは卑怯というものでは
泣いちまったわ馬鹿たれい
ブーンを頼むぜおっさん 乙!!!!

447名無しさん:2018/12/15(土) 04:35:58 ID:viIT0ihw0
この展開は熱すぎる
次も期待せざるを得ない

448名無しさん:2018/12/15(土) 18:01:24 ID:G1vj6atQ0
フィレンクトなにしてくれてんねん...頼むぞスネーク!

449名無しさん:2018/12/15(土) 20:02:44 ID:4ftpPDXM0
スネーク!スネーク!スネーク!スネーク!スネーク!スネーク!スネーク!スネーク!
まじかよ!!!

450名無しさん:2018/12/16(日) 07:29:50 ID:y466K7Zg0


>>1から溢れるスネーク愛に敬礼!

451名無しさん:2019/01/10(木) 00:15:23 ID:lBdWL0Fw0
続きをまってますぅ

452名無しさん:2019/01/17(木) 16:14:28 ID:ZJB2e6as0
まだかなまだかな(*・ω・*)wkwk

453 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/18(金) 22:17:01 ID:JKQjoYJA0
>>451->>452
          ィ'ト―-イ、    遅くてごめんなさいお。イトーイ、お祭りではりきりすぎちゃって、
           以`゚益゚以    街狩り以上に近未来世界こじらせちゃってたお・・・
        ,ノ      ヽ、_,,, 
      /´`''" '"´``Y'""``'j   ヽ 今月末には投下できるよう頑張ります。
    { ,ノ' i| ,. ,、 ,,|,,. 、_/´ ,-,,.;;l もし遅れるようだったらお知らせします。
     '、 ヾ ,`''-‐‐'''" ̄_{ ,ノi,、;;;ノ

454名無しさん:2019/01/19(土) 09:23:28 ID:FBv2j7ew0
>>453
ええんやで!待ってる!

455名無しさん:2019/01/19(土) 14:29:13 ID:iiZyrxdc0
>>453
わーい!待ってる!!

無理すんなよー!!

456名無しさん:2019/01/19(土) 15:08:16 ID:hysPfrBE0
祭作品面白かったぞ!こっちもあっちも続きたのしみだけどあんま無理しないでな

457 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 02:56:43 ID:1H.o0ycY0

スネーク「性欲をもてあます」

('_L')「エッチなのはよくないと思います」

スネーク「性欲をもてあます」

('_L')「やめろと言っているだろ」

スネーク「せいよ」

(#'_L')「黙って従え! スネーク!」


    〜前回までのあらすじ〜  
  立て続けにオッサン達が復活した


(*'_L')「アルファ番外編んんんんんんあああああああああああああああああああ!!!!」ブリュウウウウウビチビチビチ!!!

まとめ ハイルイトーイ
https://hail1101.web.fc2.com/

458 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 02:57:25 ID:1H.o0ycY0


――― チーム・ディレイク ―――

( ゚ω゚) B00N-D1:通称ブーン。本名:ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。
       強力な抗ウィルス細胞を持つ『セントラル』の感染体殺し。
  ↑↓   『フィレンクト』からSystem-HollowとZERO-BODYを与えられ、冷酷な殺戮衝動を得る。
      ナノマシンで構成されたZERO BODYの自己修復機能により永久的な行動が可能となる。
      デミタス、ディの二人のサードを害し、数多の感染体が集うニューアークを感知して急行する。

ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ アーマーシステム:BLACK DOG零が変形しブーンの強化外骨格と化す機能。
      ナノマシンを含有し、ブーン同様の自己修復機能を持つ。

ノパ⊿゚)ヒート・バックダレル:年齢26歳。女。
    ブーン奪還作戦へ投入される。損害甚大となったが戦闘続行はまだ可能なようだ。
    ジョルジュと共にブーンの再起動を待つ。


――― チーム・アルドリッチ ―――

从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
     ブーン奪還作戦には後方支援で参加し、バトルスーツを遠隔操作する。

ミ,, ゚∀゚シジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。感染者。
     セカンドウィルス感染後、自我を持つ異形サードと化す。
     アノンとの膠着が続く中でブーンの再起動に状況を託す。

ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
    万一の作戦失敗に備えOSM SUITE部隊と防御網を張る。

459 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 02:57:50 ID:1H.o0ycY0
――― Hanged, Drawn And Quartered ハングドランク ―――

爪 ゚Ⅳ〉アノン:年齢不明。男。
    自我を持つ感染者Awakerのコミュニティ「ハングドランク」のリーダー。
    セントラルを接収したいと考える。
    ブーンの実父ロマネスクの顔と声を持つが、形成された人格は凶悪かつ狡猾。
    ルールを遵守させる為、ダイオードにセントジョーンズの殺害を命じる。

/ ゚、。/ダイオード・チャンドラー:年齢不明。女。
     元々はコミュニティForsakenに属していた。
     アノンに誓い、裏切者のセントジョーンズを殺すべくルシールを握る。


――― Forsaken フォーセイクン ―――

(´・_ゝ・`) デミタス・リーダス:年齢不明。男。
        ジョルジュと共にブーンを奪還し、フィレンクトの元にブーンを届ける。
        その後、冷酷な殺人機械と化したブーンにディを殺害され、
        激情のままに戦闘行動を起こすが敗北する。

(#゚;;-゚)ディ:年齢不明。女。
        ジョルジュと共にブーンを奪還し、フィレンクトの元にブーンを届ける。
        その後、ブーンに殺害される。    

('e')セントジョーンズ・リンカーン:年齢不明。男
   Forsakenのリーダーだった男。
   アノンに従属していたが、デミタスとジョルジュに感化され、アノンを裏切る。
   ダイオードとの戦闘を余儀なくされ、抗戦する。

460 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 02:59:21 ID:1H.o0ycY0

――― アバター、インターフェース ――――


('_L')フィレンクト・ディレイク:バックアップ起動後から数え約6年が経過。
   ワシントン・ブリッジ爆破作戦にてセカンドとの戦いの末死亡したが、
   クローン脳をバックアップとして残し、とある研究を進めていた。
   その研究とは、高度なナノマシンによる自己修復機能とSystem-Hollowを組み合わせた、
   永久的なウィルスバスターシステムの構築である。
   生前、フィレンクトが自身に積んだ「オート」が原型にある。


スネーク:ボストンでギコ・アモットとの戦闘の末に死亡したサイボーグ。
     しかしそのパーソナルが黒いバンダナを構成するナノマシン内に継承されており、
     現在、ブーンにジャックした状態となっている。
     バンダナはハッキングから防御するプログラムでもあり装備でもあったが、
     具体的なスネークの起動条件は不明で、ブーンの心理が救助を求めた結果と考察される。
     スネークはスタンドアローンで行動している。

461 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:00:46 ID:1H.o0ycY0
 現実世界で数多に浮かぶホロにはB00N-D1のバイタルとシステムを管理するワークステーションが開かれたまま、
 しかしグラフ等の視覚化されたデータは揺らぐ事を止めている。
 僅かな波も立てず、ホロ内の全ての映像はフリーズしていた。
 シェアしていたブーンの視覚情報も、殺害したデミタスとディの無残な死体が
 映し出されたままのシーンで停止されている。ただし、ノイズに塗れている。

 凍り付いたホロはそれだけに留まらず、フィレンクトのインターフェースの表情も同様だった。
 薄暗いブルーカラーの拡張現実が取り巻く空間の中心、
 感情抑制されたフィレンクトの脳操作により操作される立体ホログラムは、
 空間内で何よりも温度の感じられない目を持って異物を見ている。
 だが、興味は抱かない。それでも問題対処すべく思考して、フィレンクトは問う。

('_L')『パーソナルを残した、と言ったな。
    ホライゾンの電脳に癒着したバンダナの正体がお前か』

 対し、蛇の名を持つ男が、獲物を睨み殺すような目で返す。

スネーク『少し講義しよう、博士』

スネーク『バンダナを構成するナノマシンにはハッキング防護ともう一つの機能が備えられていた。
     俺のパーソナル……人格、記録、知識を無限に蓄積し再現するというシステムだ』

('_L')『馬鹿な。そんな技術を、一体どこの誰が?』

スネーク『ほう、俺の友人は本当に天才だったらしいな』

 素直さと皮肉を混同した捉えようのない表情。
 フィレンクトはただ次の言葉を待つ。

スネーク『オタコン。俺と行動を共にしたコンピューター・オタクだ』

462 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:01:43 ID:1H.o0ycY0

 そうしてスネークが髭に覆われた口を釣り上げてみせると、
 合わせて動く肌には歴戦を物語る傷跡すら再現されているとフィレンクトは気づき、同時に、
 この無知な男の肢体の時代遅れな人工操作手からパラドックスめいた物を感じ取り、
 System-Hollowの管理下で一気にコンプレッサーの働きを掛けられる。

スネーク『また、馬鹿な、とでも言いたげだな、博士』

 それを洞察していたスネークは、笑みの皮肉な部分だけを強めて、

スネーク『最尖端のテクは40年代の闇クリニック群にあるのを知らなかったか?
     なるほど。やはりデスクで顔を蒼くするばかりの科学者と、
     俺と共に戦場を飛び回ったオタコンとじゃ、訳が違う』

 フィレンクトを一瞬揺らがせた古臭い人工操作手――剥き出しの機械の手が拳を握る。

スネーク『言う間でもないがハックしてお前を妨害しているのは俺だ。
     これ以上お前の、いや、プログラムの通りにはさせん』

('_L')『ハッキングに関しては大した物だと言えよう。私にはこれ以上手が出せん。
    流石は当時の情報戦を生き抜いたサイボーグだと評価する』

スネーク『光栄だな』

('_L')『だが、私と我が娘の頭脳によって構築されたシステムは、
    骨とう品、それも闇技師共のソフトウェア如きがどうにか出来る物ではない』

 スネークは不敵な笑みを続けて、

スネーク『俺のバンダナは無限バンダナだ』

 額に再現された黒いバンダナに親指を重ねる。

463 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:02:40 ID:1H.o0ycY0

スネーク『無限に知識を蓄積すると言っただろう?
     それを体系化し、無限に成長する。それが今の俺だ。
     ディレイク系の生体工学と同義語となった俺であれば、
     B00N-D1というシステムを構築する壁を穿つ事も可能なはずだ』

 フィレンクトは一瞬停止し、思考した。
 そのように思える程顔を歪めたのを、スネークが見逃すはずがなかった。

('_L')『その後はどうする』

スネーク『その後?』

 その言葉から、プログラムが観念したようにスネークには思えた。
 事実フィレンクトは容易くハッキングされた事を認めている。
 ただ機械的な回答を求めて解決を望んでいるのだと、
 スネークは己を構成する無限バンダナと同質の物をフィレンクトに感じた。
 同時に、やはり危険なプログラムであるとも。

('_L')『貴様がホライゾンの電脳に指を掛けているとしてもだ。
    楔のように打たれたSystem-Hollowは動作し続ける。
    彼の暴力的で性欲的で、快楽的に波打つ殺戮衝動は止めようが無い。
    思考は全て感染体を殺す事に集中している』

スネーク『何が言いたい』

 停止したホログラム群には当然System-Hollowのワークステーションがある。
 内容は快楽とウィルス除去を強烈に関連付けた調整である事は、ハックしているスネークにも理解が及んでいる。
 スネークを見やるフィレンクトの双眸の奥は、激流の滝か、
 積み上げ続ける数値と記号のコンビネーションの積み木で、冷めている。

('_L')『“私の”System-Hollowは破れん。ホライゾンは黙って従うだけだ」

464 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:03:30 ID:1H.o0ycY0

 それと同様に科学の恩恵を受けるスネークだが、目の色は人のそれを示している。

スネーク『過去に自力でHollowを破った男を知っているぞ』

('_L')『LOGで確認している。私の教え子が造った物などと比較するのは無意味だ』

 同様にプログラムの中に没頭するスネークは、それでいて醒めていた。
 息のある人と変わらぬ仕草で、冷静な傭兵はナイフのように尖らせた目を作る。
 しかし声は憂いを帯びて人臭さがあった。

スネーク『皮肉なものだ……サスガ兄弟やシーケルトがお前の学生だったとは。
     お前の講義を受けていなければ死なずに済んだ男がいたかもしれないなんてな……』

スネーク『俺がどうするか、だったな博士』

スネーク『俺はあくまでもブーンに手を貸すだけだ。
     だが、後はブーン次第だ』

('_L')『何をするというのだ』

スネーク『言ったところで完全な機械のお前には解らんだろうな』

 スネークはそう言い、白い空間に拳を突き立てた。
 空間の一部が割れ、そこから黒く無機色な虚空が覗いている。

465 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:04:52 ID:1H.o0ycY0

('_L')『基底核に接続するつもりか』

スネーク『ああ。若く未熟な心の中とも言える』

スネーク『それにお前自身が言ったな。何を抗っている、と。
     あいつにもまだ抵抗の余地があるんだろ?
     システムの外側の、深い所に、あいつがいる』

('_L')『……それも恐らく時間の問題だ』

スネーク『恐らく? 機械が随分と曖昧な発言をするんだな』

('_L')『いいや。高い可能性を論じたまでだ。それに――』

('_L')『ホライゾンは自身が抱える恐怖を抑えられるのだ。
    その依存度は高い。ハッカーよ、解っているのか?
    Hollowを失う事こそホライゾンにとって破滅となる事を』

スネーク『だから意思-sense-を呼び起こすのさ。あいつは良いセンスを持っている』

('_L')『センス?』

スネーク『お前には解らん理屈だろう?』

スネーク『さて、そろそろお別れだ、博士』

 スネークはホルスターからハンドガンを引き出し、
 画面を隔てて視線を交わす拡張現実の存在に銃口を向けた。

466 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:05:36 ID:1H.o0ycY0


('_L')『待て』


スネーク『死を予感したか? いや、そもそも死という概念がお前にあるのか?
     その上、命乞いをさせるプログラムが? よく出来ているもんだ』


('_L')『そうではない。私にはまだ――――――』

スネーク『講義は終わりだ』


 画面の向こう側のフィレンクトに向けてトリガーを絞った。
 虚実で放たれた弾丸が現実に現れるはずもなく、しかし、
 フィレンクトのパーソナルを現すホログラムが大の字に倒れ、
 銃殺はもはや弾丸の如き速度のハッキングによって具現化された。


スネーク「こちらスネーク。若いの、聞こえるか? ……やはり通じないか」

スネーク「今行くぞ、ブーン」


('_L+:*;.,.『やる、こと、が―――――』

 虚空に飛び込んだスネークを視覚に入れながら、
 ホログラムはノイズに塗れて記号にまで還元された後、消え去った。

467 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:06:12 ID:1H.o0ycY0

 物音の無い空虚な街並みが広がっていた。
 頭上に広がる空は立ち込める雲と同じ色で、黒く、無色彩だ。
 人為的な破壊と獣の爪痕、蟲の巣食った跡で覆われた構造物の数々。
 スプロール。それも見覚えのある都市だった。


スネーク「これは……ボストンか」


 血で染まったような赤い海辺を望んでいるが、
 記録との照合でも明らかで、そこはスネークの知るボストン市だった。

 それに、この接続先はブーンの心と言える箇所だ。
 スネークはそう認識せざるを得なかった。

 このスペースは記憶と記録が混じ合って形成されており、
 即ち視床と結合する機械部分との両方で映し出された「投影」だ。
 感情形成に深く関与する場所、深層心理と言い換える事も可能だ。
 覆い尽くす暗雲を深く見れば、数列と記号の集合体で、信号でしかない。
 空を走る雷はどこか殺意めいていて、今のブーンの攻撃性を表しているように感じる。


『誰?』

 ノイズが酷い女の声が空間に流れた。

468 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:06:34 ID:1H.o0ycY0

 暗雲に幾つもの雷が迸り、威嚇するような様を見せつけると、
 スネークは咄嗟にバイオニックアームの端末を操作し、姿を消した。
 かつての装備であったステルス迷彩。今は偽装プログラムかハックの類だ。

 サイバースペース内に侵入した異物を、防壁が検知したのだろう。
 暗雲は立て続けに雷状のノイズを降らすが、あてずっぽうのようだった。
 見失ったらしい。物陰から覗くスネークは空から目線を下ろす。

スネーク「急ごう」

 スネークは戦場跡のような街の影に文字通り同化する。
 自分自身を構成するのは完全に電子だ。
 記録のように肩を揺らし、置換した肺で空気を吸う必要も無い。

 だがアバターとして自身を形成しなければならない制限があるのは、
 せめて人らしく存在させたかった古い友のエゴ故であったようだ。
 人らしさを保つという使命とも言える植え付けられた欲求が、バイオニックアームにタバコを持たせて口元に運ぶ。

スネーク「ふう……」

 妨害を排除しながらの侵入となるだろうとスネークは思うと、
 ふと、戦場となった市街を走り抜ける記録が思考を過った。

 ドイツ製の軍用自動式拳銃の形をした対抗プログラムをホルスターから引き出し、
 スネークはボストンの雑多なダウンタウンを走り続ける。

469 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:07:37 ID:1H.o0ycY0

スネーク(それにしても、さっきの声は……)
 
 聞き覚えのある声だった。
 ノイズが酷かった為に記録との照合は叶わなかったが、恐らくは……
 そしてブーンが囚われているのも、きっとあそこだろう。

 感ずる予感のまま、スネークは足音一つすら立てず、橋を抜けた先の街を往く。


 第45話「ゴースト・インサイド」


(  ゚ω)

 ブーンは蒼と黒の両眼でフィールドを見下ろしていた。
 その景色は10年前と変わらぬスプロールだが、そんな郷愁に耽る思考力は失せている。
 ウィルスが放つ熱量にしか、興味を抱けずにいた。

 人気を完全に失い、荒廃し、今や本物の蟲が巣食う文字通りのスプロールは、
 視覚プロフェッサが起動するARに覆われようとも、血と同じ色を隠せずに染まり切っていた。
 深い傷から散った血飛沫を思わせる拡張現実を、ブーンは得ていた。

 多用多彩なセンサー群が拾う数値のリードアウトを見るブーンに思考は皆無。
 今、ブーンを支配するのは、どす黒い殺意ただ一つだ。

 視野以上に拡大された視覚の一角にはサーモのUIがある。
 感染体の熱量を測定し、心臓の一つ一つに合わせて波を作っている。
 そうして示される感染体の存在が、酷く不快なものだとブーンに訴えかけている。
 血だまりを獣の足に着ける音すらも、殺意を煽り立てるものでしかなかった。

 鼓動も、息遣いも、ブーンという猟犬を招く音と化していた。
 血と同じ色をした部分の全てが、焼き尽くすべき対象であった。

 『クリアにしなきゃ。ブーン』

 女の声が、ブーンの頭の中で囁く。

470 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:08:42 ID:1H.o0ycY0


(  ゚ω)「クリア」

(  ゚ω)「ウィルス、全部、消す。狩り尽くす。クリア」


 巨大なBLACK DOG零のコクピット部分に脚を下ろし、武器庫を展開。
 サイドボディを大きく展開し、秘めていた巨大な銃器を取り出した。
 長い円筒状の砲は、幅広いトリガー部と太い銃口があるだけで、至ってシンプルな外見だ。
 銃身に掛かれた大きな青文字と、汚れ無き白い肌が、鬱蒼とした空の暗闇を跳ねのける。

 開発者のドクオ・アーランドソンが、最高のセカンド殺しの銃だと賞賛する“Sniper”だ。
 ブーンもこの長身の銃に大きな信頼を寄せている。
 無意識に手に取ったのは、己が培った戦闘経験がそうさせたのだ。

 トリガーを握りしめると、新たなUIが展開された。
 エイムシステムに加え、高速戦闘に備えナノマシンが脳保護の為に配置されてゆく様が、視界に広がる。

 心臓が、疑似体液を静かに送り込む音が聞こえていた。
 書くのであれば、それは穏やかな海の潮騒のようだった、と記述するだろうが、
 今はそんな感情をブーンが抱く事も無い。

 自分の中で揺れるフューエルやリキッドも、飛び交うシグナルも、全てが意のままに操れるようだった。
 骨の髄まで数値と記号の羅列でしかなく、それが意味として鮮明に感じ取れた。
 雑念も記憶も記録も走る事は一切無く、己自身も数値と記号の羅列の一部とまでブーンは認識する。
 それは交合のようでもあった。
 血の色に覆われた視界に対し、恍惚めいた殺意がウェーブとなって押し寄せるのだ。
 心臓の音も、段々と荒立っていった。

『あれを全部、クリアにしなきゃ、ブーン』

 それでいて何の汚れも雑念も纏わないクリアな感覚だった。
 囁く声も数値に変換され、言葉として意味は為さなかった。

471 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:09:09 ID:1H.o0ycY0

(  ゚ω)「クリアだ」

 繰り返し頭の中で浮かんでは消える囁きを、ブーンは再び声に出した。
 そうするにはクリアするのだと、囁く女の声がブーンの脳髄を刺激している。
 この光景を、まるで自分のように、クリアにしなければいけない。
 そう思考する事は無い。信号を受けて生まれた衝動に過ぎなかった。

 伝達されて機械仕掛けの指先がトリガーに掛かる。

(  ゚ω)「ああ」

 気づいたように声を発した。
 視界を埋め尽くす赤いイメージの中に一つだけ存在する、小さな蒼い光点を改める。
 ジョルジュ・ジグラードと、ARには記述がある。

 意味は分からない。
 それが登録していたフレンド・ロケーションだとは今のブーンには判断が付かない。
 あくまでもシステム的にそう認識し、

(  ゚ω)「あれは」

 マークする一つの位置情報をターゲッティングから除外して、ブーンはトリガーを絞ろうとした。
 しかし、指先はぶるぶると震え、砲身にまで伝えている。

472 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:12:32 ID:1H.o0ycY0

『何してるの?』

(  ゚ω)「う、う、ああ」

『早く殺さなきゃ、全部。悲しむ人をこれ以上出したいの?
 ねえ早く。早く。ほら、早く。あの時みたいに、頭を消し飛ばそうよ』


(  ゚ω)「ジョル、ジュ」


『ジョルジュ? ジョルジュ・ジグラード?
 あ、そういえば彼も頼んでいたでしょ? 貴方に。殺してくれって』

(  ゚ω)「殺して、くれ」

『そうよ。そうやって頼んでたじゃない。自分が化物になったら、殺してくれって』

(  ゚ω)「化物」

『そう、化物』

 頭の中の言葉を繰り返し、ブーンは視界を一点に絞る。
 先端を赤黒く汚した棒状の凶器を振るう者に。
 すると、脳裏と視野の両方に、一瞬か細い思考のフィードバックが生まれた。
 それは虎の目を持つ、恐ろしい奇形の姿だった。
 同時にブーンに恐怖心が生まれるが、すかさずコンプレッサーが働き抑制され、

『化物は全部、狩るのよ。そうすれば晴れやかな気持ちになるから』

 拡大表示された感染者達の顔が、全てフィードバックされた男の顔に挿げ変わる。
 心臓の音がウェーブとなり、艶やかな殺意をブーンに押し寄せた。

473 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:13:39 ID:1H.o0ycY0

(  ゚ω)「狩りに、行く」

 ホルスターからBBBladeを取り出し、黒い猟犬を伴ってビルから飛び降りた。
 ただし、ジョルジュ・ジグラードと指定されている者は除かなければならない。
 その機械的な認識だけを保持して。


  ※

 柄を滴らせる程の汗が両掌から浮かび、白い髭の一本一本がピリピリするのを意識しながら、
 その昔、公認テクニックの技師に置換させた安物の視覚プロフェッサ内の、
 凶器が暴れ狂う軌道を予測した虚実のラインを辿り、セントジョーンズは足を繰る。

/ ゚、 #/《死ね! 死ねぇえええええ!!》

 吸血バットのルシールを振るう女、ダイオード・チャンドラーは大都市の影に巣食う単なる売女であり、
 自分のようにサイバネティクスを何ら持たず生身一つで生き延びた、戦い方など知らぬ女だった。

 そのはずだったが、最迅速で凶器を操るダイオードに重なって更新し続けるデータが、セントジョーンズに認識を改めさせる。
 臆病で、自分から前に出る事も、自分の考えも意見もせず、周囲の動向に合わせ、
 故にアノンという強烈な存在とルールを受け入れたからこそ、
 身売りをしていた頃から心底に抱えていた暴欲を今解き放っているのだろう、と。

(;'e')「くッ!」

 ルシールをいなし、堪らず手斧を振るう。
 寄生的に構造するサイバネティクスが示す虚像で埋め尽くされる視界に対して
 至極原始的な骨製の刃が、ダイオードの顎先に触れようとした。

 ダイオードも堪らず離れた。
 そこでようやく酷い息切れに気づき、空気を深く吸った。

474 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:14:18 ID:1H.o0ycY0

 呼吸を整え、ダイオードは、カウボーイハットの隙間に視線を突き刺して言う。

/ ゚、 #/「それでいいのよセントジョーンズ。
      この世界で自分を認めさせるには殺すしかない」

(;'e')「いいや、対話すれば済む事のはずだ。どうしてだ? 何故そこまでアノンを?」

/ ゚、 #/《“アノン”こそ地上を生きる術だからよ》

(;'e')「何故その生き方を受け入れてしまったと聞いているんだ。
     思い出せ。俺達はそんな風に生きていたんじゃない。まだあの頃に戻れる」

/ ゚、 #/《私は以前からそうだった。弱いから強者に諂う下卑た女だった。
      そう認めるわ、私は弱い。だから聞く。“アノン”を選択する事が最優先される世界で、
      今更綺麗事に屈した貴方こそ、何なの?》

(;'e')「人らしく生きたいと思わないのか、ダイオード。デトロイトの頃のように」

/ ゚、 #/《……セントラルを手に入れれば、それも叶う! この世界で欲しいものは奪うしかないのよ!》

 それまで我武者羅に振り回していたダイオードの動きが洗練された。
 まるで神経接合された操作手の如く正確無比にルシールの血塗られた先端を急所に向ける。
 セントジョーンズの処理スピードを超え、やがて骨斧に破砕音を立てさせた。

(;'e')「しまっ――――」

/ 、 #/《いつだってそうだった、いつだって……! でもこれからは!》


/ 、 #/《私が! 奪う者になる!》

 ダイオードがルシールを振りかぶる。
 しかし、振り下ろす事は無かった。

475 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:14:44 ID:1H.o0ycY0

 両者の間に蒼い光の残像と血飛沫が走った。
 遅れて、その場にいる全員の耳を鋭く抜ける銃撃音が鳴った。
 線状の蒼い光弾が、ルシールを握るダイオードの右腕、肘から先を奪ったのだ。
 ダイオードは茫然と自分の肘の先を見る。
 そこにはForsakenという文字すら無く、焼き切れた断面しか無かった。
 
 更にダイオードの腹を、蒼い光が貫いた。
 ダイオードは倒れ、残る手で溶けて崩れる腹を押さえながら叫喚した。


/ 、 ;/《あぁあぁああぁあああああああああああああああああああ!?》

/ 、 ;/《痛い、痛い……痛い、いた、あ、ああ、ああ!?
      ぐ、が、な、にかが、私の、中に、あ、あぁぁああ゙あ゙あ!!》

「あ゙!? あ、ぐあ゙、いい゙あ゙あぁぁぁぁあぁぁあああぁぁぁあっぁあ」


 抗ウィルスエネルギーに侵されたダイオードは狂ったように叫び続けた。
 そして、何かから逃げるように、自ら淵の中へと堕ちていった。

 セントジョーンズはダイオードの残す叫び声に唖然としていた。
 我に返ったのは、ルシールが鳴らすカランと乾いた音だった。
 ハッとして、何が起きたのか弾丸の射線上をARに追跡させると、
 暗がりの中で不気味に光る蒼い煌めきに辿り着いた。

476 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:15:51 ID:1H.o0ycY0

 その場の全員の視線が同位置に集まっている。
 アノンですら、持ち主を失ったルシールから目を離して、虎のような瞳をそこに向けていた。


爪 ゚Ⅳ〉「テメェら! 避け――――――」


 アノンの叫び声を掻き消し、弾丸が感染者達に襲い掛かった。
 立て続けて悲鳴、甲高い恐怖、呪う英語を血と共に上げさせる。
 セントジョーンズは古い処理システムに従って寸での所で飛び、
 ガラスを割って有名ブティックの店内へと転がり込んだ。


ミ,,;゚∀゚シ「ブーン! そのカウボーイは味方だ! 撃つな!」


 ジョルジュが叫んで伝える。
 警告を理解したのか、Sniperの銃口がセントジョーンズの方から離れる。


(  ゚ω)「ジョルジュ―――――」

 ジョルジュは、自分の名を聞き、口元を緩ませるが、


(  ゚ω)「―――――以外を、殺す、狩る」


ノハ;゚⊿ )「ジョルジュ!! 避けろぉォォォォオオオオオ!!」

477 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:18:53 ID:1H.o0ycY0
 ヒートの大声が鼓膜を突くよりも先に、ジョルジュは両脚で地を唸らせていた。
 高鳴る心臓の音を一時忘れる程の、美しい蒼光の残滓が、辺りに漂っていた。
 髪の毛先が焦げる異臭に気づき、寸での所だったとジョルジュは悟る。

 着弾先には機械で正確に空けたような穴が空いていて、そこから立ち上る煙を唖然と見た後、
 ジョルジュはブーンに視線を戻した。獣の目で十分顔は見える。
 精度の高いスコープを持つのなら尚鮮明に見えるはずだと、声を出さずに問うた。

ミ,,;゚∀゚シ「俺の端末は今……だが、視認しているはずだ、何故俺を――」

 再びジョルジュへと弾丸が撃ち込まれる。
 ジョルジュは頭の中で騒ぐ疑念を忘れ、追い続ける弾丸から逃れようと跳ねる。
 堪らず、ヒートがSniperを突き出して叫んだが、

ノハ;゚⊿ )「馬鹿野郎! 誰を撃って――」

 その罵声は連続する濁音によって掻き消された。
 紅い髪を靡かせ、半身からは紫電を放ちながら、
 火を失ったネオンを持つピザショップの中へヒートは飛び込む。

ノハ;゚⊿ )「な、何で、私まで……って」

ノハ;゚⊿ )「グレネード!? ふざけん―――――がっはぁ!?」

ミ,,;゚∀゚シ「ヒート!!」

 聴覚プロフェッサが拾ったカートリッジの射出音で、ヒートはアクセラレーターを最大値で稼働させた。
 狩人にとって、そこは恰好の窯だった。そこに球型の火種を入れて、燃やし尽くしたかった。
 爆炎と共に窓を突き破って飛び出した感染体の姿が、蟲のように地面で蠢いた。
 対象が煙を上げて燃える様を映す拡大表示と、ウィルスの減衰表示に、ブーンは笑みを浮かべた。

478 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:19:14 ID:1H.o0ycY0

ノハ; ⊿ )「ひゅっ……ひゅっ……あ、の、やろ……ごほっ……冗談じゃ、ねえ、ぞ……」

 全身を焼かれたヒートは深刻だった。
 だが、それでも長い銃身を杖代わりに使って立ち上がろうとしている。
 細い呼吸は生命維持装置で辛うじて呼吸している証拠だ。器官に異常があるのだ。
 心肺の殆どを同じく置換しているセントジョーンズには解っていた。

(;'e')「な、何故だ……?」

 煌めく金髪にはセントジョーンズも見覚えがあった。
 彼こそが、ジョルジュが待ち望んでいた切り札である事は間違いない。
 事情を知らず、敵であった自分を撃ったのは致し方ない行為だった。

 だが、何故、仲間を殺そうとしているのか。
 避難するジョルジュの顔を眺めていても、セントジョーンズを得れない。
 ハングドランクの仲間達が流す血に映った自分の顔と、まるで同じ顔をしていた。


爪 ゚Ⅳ〉「……何をしてやがる、ブーン」


 仮面の下に顔を隠すアノンは、目だけはセントジョーンズと遜色のない色を浮かべていた。
 場の叫び声を遮って止まない弾丸は、何故かアノンには一条とて走らない。
 周囲は恐怖に満ちていた。ジョルジュですら未だ弾丸に追われている。

479 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:21:22 ID:1H.o0ycY0

『な、なんなんだよ!? ブーン! ふざけん――――うわっ!?』

 上空を旋回するバトルスールも例外なく撃たれた。
 金属を削り出した鋭利なフォルムに、べっとりと蟲の血が付着していたからだ。
 Sniperでエンジン部を貫かれると、蒼い炎を上げる火種と化して街に堕ちた。

 街中で火の手があがっていた。
 轟々と唸りを上げるのが獣のなのか、炎なのか、誰にも解らなかった。
 虫食いと傷だらけの構造物は一様に崩れ、蒼い炎を上げる篝となっている。

『クソが! 訳が分からねえ……! ガイル! いつでも行けるように待機だ!
 ジョルジュ!? ヒート!? 無事か!? 聞こえるか!?』

 ハインリッヒの叫び声がアノンの持つ端末から流れている。
 遠く離れたハインリッヒは、破壊されたバトルスーツのカメラを閉じ、
 切り替えて衛星の映像を拡大し、俯瞰で映るスクリーンを見ている。

爪 ゚Ⅳ〉「安心しな。無事だ。今は物陰に上手く隠れてるよ。息を潜めてな」

『アノン、お前……』

爪 ゚Ⅳ〉「俺はな、お前達が家族を犠牲にするような冷血じゃなくってほっとしたんだぜ?
     やはり人間はいい。“人間は”、な。融通が利かねェのも何とかなるからよ」

爪 ゚Ⅳ〉「なあハイン。確かお前、衛星とかいう物で上から覗いてんだったな。
     ありゃブーンで間違いねェんだよな?」

480 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:23:30 ID:1H.o0ycY0

『あ、ああ……ブーンだ、間違いない。
 でも、どうして、ジョルジュとヒートまで撃つんだ!? 視認しているはずだ!
 誤射のしようが無いはずだ……何で、どうしてだよ……!?
 ツンに何て説明するつもりだ!?』

爪 ゚Ⅳ〉「……トチ狂ったか?」

 アノンは溜息を吐き、ハインとも交わす訳でもなく、声を発した。
 視線の集中する先には、夜空より、ストリートを隔てる淵より、
 大型建造物の傷より、街のいずれよりも暗い漆黒に身を包んだ男の姿があった。
 色を失って得たような瞳の黒さは、まるで暗い穴の底の色だ。


爪 ゚Ⅳ〉「……あれは、そういうモンじゃねェな」

 身を凍らす程の冷たい風が吹き抜け、その金色の髪を煽いだ。
 およそ今のブーンには似つかわしくない煌めきだと、アノンには思えた。


ミ,,;゚∀゚シ「……正気とか、そういうンじゃねえ……
       ブーンとは思えない程、なにか……別人のようだ……」

 ジョルジュを含む感染者達が路地裏や建造物に逃げ込み果せると、
 街に響き渡る無慈悲な銃撃は鳴りを潜めた。
 髪の隙間から虚ろな目を覗かせ、獲物を探すブーンに対し、ジョルジュはそう抱感する。

481 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:25:54 ID:1H.o0ycY0

(;'e')「な、何だよ……!? それにデミタスとディは……ここに、いないのか?」

 セントジョーンズもカウボーイハットを失ったに済んでいる。
 ジョルジュ達と同様、ブーンとは距離を置いて隠れている。
 このまま逃げるべきか、と考えが過るが、対面にいるジョルジュを放ってはおけなかった。
 今にも場に飛び出して、兄弟と呼んだ男の前に飛び出しそうにしていた。


( ゚ω )「クリア、クリアだ、もっと」


ミ,,;゚∀゚シ「ブーン、なのか……本当に……」

 ジョルジュは今にも崩れ落ちそうなビルの隙間から顔を覗かせた。
 焼き尽くされた街に降り立ったブーンを改めて見て、思わずそう呟いてしまった。
 馬鹿な事を口に出しているとジョルジュは思う。

ミ,,;゚∀゚シ「ブーン、お前には、選択する意思があるはずだ。
       こンな真似する事が、お前の選択なはずが無ぇンだ……」

 そう思えど、凶悪に歪んだ弟分の顔が否定しているのだ。

(ω゚ )《狩り殺す……クリアだ……クリア、クリア、クリア!》

ミ,,;゚∀゚シ「……やめろ……」

 その場のどの感染体よりも、ブーンは獣じみた声を発し、四肢を唸らせた。

 両腕両脚に内臓されたBoosterモジュールを起動。
 蒼い残光を引きながら、ブーンは隠れ潜む感染者達に斬りかかった。
 或いは腕を包む煌めきが失われる程、頭部や心臓を素手で裂き、抉り、潰し、
 通りを凄惨な肉塊で埋め尽くさんとした。終始、笑みを浮かべて。

482 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:27:04 ID:1H.o0ycY0

ミ,,;゚∀゚シ「やめろ……! おい、ブーン……ブーン、何してンだよ、お前……
       デ、デミタスと、ディは、どうした……? 何処かに逃げたのか……?」

 ふらりと物陰から出て、ジョルジュは感染者の首が舞う光景に呟いた。

ノハ; ⊿ )「ひゅっ、ジョル、ジュ! ごほっ! 出るんじゃ、ねえ……!」

 ヒートはジョルジュの腕を掴んで、物陰へ引き留める。

ミ,,;゚∀゚シ「ヒート、あれは、本当にブーンなのか?
       頼む、やめさせてくれ、違うンだ。あンな事する奴じゃねえンだよ」

ノハ; ⊿ )「分かってる。私にも、訳が……ごほっ! でも、好都合だ。
      このまま、ごほ、あの調子で、ひゅっ、連中を、ぶち殺してくれりゃあ――――」

ミ,,;゚∀゚シ「違ぇンだ……あいつはあんな風に人間を殺すような奴じゃねえ……。
       あの中には迷ってる奴だっていたンだ。デミタスとディとも話したはずだ。
       殺すべき相手は分かっているはずなんだ……」

ミ,,;゚∀゚シ「……もし、デミタスやディ、セントジョーンズみたいな奴なら……俺と、俺と……」

ミ,,; Д シ「……きっと、あいつなら、解ってくれるはずなンだ……」

ノハ;゚⊿ )「ジョルジュ、お前……」

 俺と、生きてくれたかもしれない。
 そう言い切りはしなかったが、ヒートはジョルジュが抱える孤独を察し、
 それ以上何も言わなかった。だが、何かしてやれる事も無いと思えた。

ノハ;゚⊿ )(クソ……ブーンの野郎、マジで頭イカれちまったのか?
      てめえ……それでツンやドクオの元に帰ろうってのかよ?)

483 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:28:00 ID:1H.o0ycY0
 背を向けて逃げ出す数多の感染者に、ブーンは容赦なく散弾を放った。

 沸騰する自身の血肉に溺れて絶望する者の首を引っ張り、ぶつぶつと鳴る筋繊維の音に狂っていた。
 側頭部を殴りつければ拳が貫通し、目が飛び出て鼻から黒々とした血が出る事に狂った。
 泡立つ血肉から生じる煙の臭いを嗅ぎ取ると、恍惚さを顔に浮かべた。
 人工神経を通じて足裏から伝わる頭蓋の砕ける感覚に、酔いしれた。

 そうして押し寄せる快楽を貪った。何度も、何度も。

 ブーンの視界の拡張現実に点在する反応はまだ多くあった。
 その内の一つにブーンが駆ける。


(;'e')「う、うわ、来るな! 来ないでくれえ!」

 その凶刃がセントジョーンズにまで及び始める。

ミ,,;#゚∀゚シ「セントジョーンズ!」

 ジョルジュが叫ぶ。

 セントジョーンズは叫び声を上げ、血に狂るう男から逃げようと駆けた。
 獲物を逃がさんとばかりにブーンが可動し、細長の蒼光を獲物の足に掠めた。
 態勢を崩し転がったセントジョーンズに向かい、ブーンが飛び掛かった。

( ゚ω )《殺す、頭、弾く》

ミ,,;#゚∀゚シ「やめろォ――――――――ッ!!」

 まさに銃口が唸り蒼光を漏らした時だった。
 ブーンの無防備な背を、アノンが蹴り飛ばし、ブーンを燃える構造物の中へ叩き込んだ。

484 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:28:49 ID:1H.o0ycY0

爪 ゚Ⅳ〉「計算違いだったな、お前ら。いや、それは俺にも言える事か……」

ミ,,;゚∀゚シ「アノン」

(;'e')「アノン……? な、なんで、俺を……?」

 尻もちを着いたままセントジョーンズが尋ねると、
 アノンは無言で顎に蹴りを入れて、セントジョーンズを谷底へと落とした。


(;'e')「うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


ミ,,;゚∀゚シ「セントジョーンズ!!」

 セントジョーンズの叫び声が谷の底へと消えてゆく。


爪 ゚Ⅳ〉「テメェをぶち殺すのはダイオードだ、ブーンじゃねェ。
     そのダイオードにまだ息があるからよ……まあなんだ、お前が助けてやってくれ。
     後でまた喧嘩の続きをやらせるぜ、絶対にだ」

 暗い谷の底に呟いた後、アノンは視線をへと戻す。
 窯のように炎に満たされた超高層のビルのロビーに、シルエットがある。
 耐火性の髪が火流に煽られ、躍っている。

爪 ゚Ⅳ〉「……デミタスの野郎が何をしやがったのか気になるが、なんにせよだ、
     こりゃ俺の不始末だ。悪いな皆……きっちり責任は取る。あいつの首でよ」

 ブーンが炎から出て来る。
 視線は不安定で、瞳は獲物を探してぎょろぎょろと小刻みに動いている。
 狩るべき獲物は炎の熱に邪魔され検知されずにいる。
 やがてブーンの視線は、正面のジョルジュ・ジグラードというリードアウトに集中している。

485 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:30:13 ID:1H.o0ycY0

爪 ゚Ⅳ〉「全員避難してるな!? 死にたくなかったら出て来るんじゃねェぞ!
     負傷してる奴は適当に虫でも喰って、リンカーンパークへ戻ってろ!」

 アノンはルシールを拾い上げながら、ブーンと視線を結ぶ。
 するとブーンはBBBladeとSniperを落とし、手を突き出してアノンに近づいた。


ミ,,;゚∀゚シ「ブーン? どうした……?」


( ゚ω )「う、あ、ジョル、ジュ」

ミ,,;゚∀゚シ「ブーン! 俺はここだ! おい! 聞こえてねえのか!?」


 まるで何かを求めているように、境界線の向こうのアノンの方へ向かっている。
 ジョルジュの叫び声は聞こえていないようだ。


爪 ゚Ⅳ〉「……人間やめちまってDもAも選ばせねェような
     クソ機械になっちまったと思ったら、今度は何だ?」


 アノンが呟いて問う。

 ブーンの集音機能は漏れなく声を拾ったが、意味を思考する自律がやはり無い。
 無意識的だと誰もが思ったし、事実、ブーンに意識は無い。

486 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:31:25 ID:1H.o0ycY0


( ゚ω )「ジョル、ジュ、隊長」


爪 ゚Ⅳ〉「ああ? 俺はジョルジュじゃねェぞ」


( ゚ω )「ば、化物になった時の、頼み」


ミ,,;゚∀゚シ


( ゚ω )「殺して、くれ」


( ゚ω )「―――――僕を、殺して、くれ」


爪 ゚Ⅳ〉「…………」


ミ,,; ∀ シ「何、言ってやがるンだ……それはお前の頼みじゃねえだろ」

ミ,,; ∀ シ「まさか、何かに、操られているのか……?」

 獣の耳には、はっきりとブーンの声が聞こえた。
 それは燃え盛る炎の熱すら忘れる程、怯えた声色だった。

487 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:32:14 ID:1H.o0ycY0

爪 ゚Ⅳ〉「ジョルジュ。この、お前の腕に巻かれた機械からは、識別する何かが?」

 アノンが、ジョルジュの片腕を振りながら聞いた。
 力無く開かれた掌を見せて、ブラブラと手首が揺れている。
 ジョルジュは一瞬言葉を詰まられるが、

ミ,,;゚∀゚シ「……そうだ。俺を識別する信号を発している。
       だからお前を、俺だとブーンは認識するンだろう」

爪 ゚Ⅳ〉「やっぱりそういう事かよ」

 アノンが鼻で笑ってブーンを見る。
 ブーンの意識はどうやらアノンに集中しており、声を発するジョルジュには目もくれなかった。

爪 ゚Ⅳ〉「機械ってのはつくづく便利で融通が利かねェ、良くねェ」

ミ,,;゚∀゚シ「待て!」

 憮然とした物腰でアノンが谷を越えて、ブーンと対峙する。
 ブーンは震える指先を仮面へと近づけながら、


( ゚ω )「ジョルジュ、隊長」

爪 ゚Ⅳ〉「テメェ……マジで解らねェのか? この仮面とルシールを?」

ミ,,;゚∀゚シ「……何のつもりだ、アノン……」

 ジョルジュはアノンとブーンの不可解さを見つめるしかなかった。

488 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:34:24 ID:1H.o0ycY0

 だが、行く末を委ねる訳にはいかない。
 そう考えた矢先に、

ノハ;゚⊿ )「アノン……!」

 ヒートが威嚇するようにSniperを空に撃ち込んでから叫び、物陰から姿を現す。
 煙の消えた体の表層や衣服に血の色は無い。
 弾丸の音すらもブーンの興味を引く事は無かったが、ヒートは続ける。

ノハ;゚⊿ )「お前に、ごふっ、ブーンを、殺させは、しねえぞ……!」

 再び弾丸を放つが、その出力に今のヒートが耐えられるはずもなく、弾丸は炎の中へと消える。
 それでも再度トリガーを引くが、肩が外れるような手応えが発生しない。弾切れだ。

ノハ;゚⊿ )「だったら、ごほっ、コイツで、刺し違えてでも……!」

 ヒートはSniperを投げ、ホルスターからBBBladeを取る。
 諦めの悪い女だとアノンはヒートに対し、深く溜息を吐いてから、

爪 ゚Ⅳ〉「セントラルに伝えろ。今日はリンカーンパークを見逃せ、と」

ノハ;゚⊿ )「ああ?」

ミ,,;゚∀゚シ「何故だ?」

爪 ゚Ⅳ〉「取引だよ。俺も一旦セントラルを見送る。仲間が随分やられちまったしな。
     手当してやらねェといけねェ……だから今度、ゆっくり話し合おうぜ。
     セントラルのコーヒーでも飲みながら。悪くねェだろ?」

爪 ゚Ⅳ〉「代わりによ、またブーンのツラを借りるぜ……クソムカついてんだよ……」

ミ,,;゚∀゚シ「ふざけるなアノン! 待て―――――」

 アノンが、血の気の無いジョルジュの片腕を、元の持ち主に投げ渡した

489 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:35:22 ID:1H.o0ycY0

爪 ゚Ⅳ〉「お前らの事はけっこう気に入ったぜ。家族を大事にする奴等だ。
     俺の配下に加えりゃ素晴らしい仕事ぶりを見せてくれるだろう。
     お仕置きは必須だが……それも皆大好きだったコイツの死体で勘弁してやる、コイツで……」

爪 ゚Ⅳ〉「俺はテメェの事を言ってんだぜ、ブーン」

 ブーンの視界のアノンからジョルジュ・ジグラードのリードアウトが消え、
 代わって虚像の文字列で埋め尽くされ、ブーンは獣じみた声を喉から絞った。

(゚ω )「く、ぐ、あ、ああああ、ああぁ、あ、ああ、あああぁああああああ!!」

 情報処理システムがLOGを参照/対象アノンと断定/戦闘記録リーディング/
 回避プログラム更新/全Boosterモジュール動作/
 外骨格機構アーマーシステム着装を推奨――認証/アーマーシステムスタンバイ/
 起動プロセス進行/ナノマシン環境を変更/

 何の合図も無くブーンが動作し、BBBladeとSniperを拾い上げ、アノンへ飛び込んで刃を振るう。
 アノンはルシールで抗ウィルスエネルギーの放出を受け止めた。
 交じる凶刃の隙間から、それぞれの瞳が張り詰めた糸で結ばれているようだ。

爪 ゚Ⅳ〉「よお。日付も変わらねェ内に随分と変わっちまったなぁ、えェ?」

(゚ω )《狩る》

爪 ゚Ⅳ〉「……なんだよ、マジで人間やめちまったのか?
     だったらそりゃお前、マジでつまらねェぞ……」

(゚ω )《狩り殺す、クリアだ》

爪# ゚Ⅳ〉「そうかい……なら、望み通り殺してやる。ジョルジュに代わってな。
      今度は半端じゃ済まさねェぞ。ルシールもそうしたがってる」

490 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:36:13 ID:1H.o0ycY0


爪# ゚Ⅳ〉《俺の恐ろしさまで分からなくなるなんて事は許されねェんだよ……!》


 数合、斬り結んで両者は谷を境に離れる。
 分裂したBLACK DOG零が誘導線を照射し、ブーンに引き寄せられる。

 人狼を模した機械の獣が蒼い光りを双眸から放ち、告げる。

 骨の歪な仮面を被る者が金の眼光を放ち、告げる。


ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《狩る、お前を》


爪# ゚Ⅳ〉《今度は容赦しねェ。ツンが見るのはお前の目玉だけだ》


 ブーンはスラスターを噴出し、アノンは羽搏く。
 蒼色の抗ウィルスエネルギーの放出と、セカンドウィルスで変異したバットが、首筋を狙って振るわれた。

491 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:37:02 ID:1H.o0ycY0

 強烈な推進力で振るわれる両者の凶器がぶつかり合い、
 二人の距離が空いたが、すかさずブーンが詰める。

 黒髪に隠れた人の形をした耳が空を裂く音を追う。
 仮面の隙間の虎の目が忙しなく眼窩で動き回る。速い。いきなりトップスピードか?
 アノンは戦闘の只中、漂うダークブルーの残滓から予感する。

爪 ゚Ⅳ〉(だが追いきれない程じゃねェ)

 アノンが力強く、細かく羽搏き、時には構造物を蹴って、回り込む。
 そして光の出処である背を的確にルシールで捉え、硬い音を打ち鳴らした。


ミ,,;゚∀゚シ ノハ;゚⊿ )「ブーン!?」


爪 ゚Ⅳ〉「はりきりやがって……またすぐバテちまうぞ?
     今ので終わりかもしれねェけどな」

 アノンは強烈な手応えが残る掌をルシールで鳴らす。
 破砕したガラス片と共に黒い装甲が混ざって降り注いでいた。
 感染体であれど背――神経をやられれば修復に時間を要する。
 全身を機械で構成する人間も、その複雑さは変わらぬだろう。そうアノンは考えた。

 だが、オフィス内の暗闇の溜まりに動きがあると、アノンは目の形を変え、
 ルシールを掌で鳴らすのをぴたりと止める。
 暗闇が動いている。それから金属音がぶつかり合うような、異音を立てて。
 まるで蟲が群れを成して巣でも作っているようだ。
 そんな光景を、平然と姿を現したブーンの背後に見た。

爪 ゚Ⅳ〉「テメェ、そんなタフガイじゃなかったよな?
     デミタスとディは、テメェに何をしやがったんだ」

492 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:37:35 ID:1H.o0ycY0

 オフィス内の精密機器、構造物の骨組みを構成する合成金属をナノマシンが収集し、
 ブーンの破損個所は罅一つなく修復された。
 アノンの目線は兜の先に結ばれている。そこにブーンを苦しめていた吐血も無い。

 両腕部にSniperを環状に並べてガトリングに変形させ、断続的に弾丸を撃ち込む。
 両肩部、BlueLazerCannonという文字装飾のあるランチャーから光が放たれる。
 アノンは空を大きく舞って抗ウィルスエネルギーを避ける。
 細長い残滓が漂う中、アノンの軌道を読んだブーンが突っ込む。
 手に握るBBBladeの切先が僅かにアノンの腕を触れたが、裂いたのはジャケットの革のみ。
 厚手の服に隠れる生気の無い浅黒い皮膚を僅かに露出させた。

 状況は全て、System-Hollowとの相互的な動作を経た後に、ブーンに帰る。
 惜しくも斬り損ねたという事実となって、大きな殺意のウェーブがブーンを揺らした。


ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《クリアじゃ、ない……!》

爪#゚Ⅳ〉《……ジャケットなんてどうでもいいんだ、本当は。
     大事なのは俺に屈服するかどうかだ!》

 もはやこいつが人間だとか、機械だとか、そんな事はどうでもよかった。
 影一つすら残してやりゃしねェ。命乞いをさせた後にバラしてやる。

爪#゚Ⅳ〉《脳漿の色を見せてもらうぜ、ブーン》

 強烈な殺戮衝動が波の如く押し寄せるままに、二人は凶器を振り合った。

493 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:43:14 ID:1H.o0ycY0
  ※

 空に掛かっていたチューブ――スカイウェイの残骸がそこら中に落ちている。
 周りの建造物も、どれもこれも虫食いだらけだ。
 ここら一帯が、爆風にでも包まれたようである。
 それには心当たりがある。そんな事を考えながら、スネークは投影のボストンを進む。

 今のブーンを表すような光景は、奥へと進むに連れて深刻化していた。
 住宅、オフィス、サロン。
 いずれもセカンドの被害に遭い、人という名の血袋を裂いて汚されていた。
 あるいは、感染体同士による食物連鎖の末の光景だろうか。

 道行く道は人とも蟲とも、獣とも言えぬ生物が、血肉と体液を広げている。
 巣もろとも破壊された光景もあった。
 人の目と口を持った羽蟲、人の頭を持った芋虫、その逆の構成。
 ビルに出来た巣、巨大な生物の死骸に作った巣、割れた気味の悪い色の卵。

 そのいずれにも弾痕があった。狂った生態系を破壊する弾痕だ。
 バイクのホイールが残したブレーキ跡まである。

スネーク「こいつは、ブーンの狩りの」

 恐らくは、およそ6年もの歳月を狩りに費やしたブーンの記憶と思われた。
 饐えた臭いと硝煙が充満しており、堪らずスネークは目を凝らすが、
 全てが単なる数値と記号の羅列ではなく、蛆が湧いた腐肉などは、
 完璧なAIで構築された人格の表情が難色を浮かべるに十分な程生々しかった。

494 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:43:43 ID:1H.o0ycY0

スネーク「深層に近づいているのは確かなようだ」

 ここが、ブーンの記憶と記録、有機と無機の二つが構成する投影であると予測する。
 一方で疑念をスネークは抱く。
 であれば、何故、惨殺死体で埋め尽くされているのだろうかと。

 不意に、遠くの暗雲が瞬き、風が唸り、スネークはその方を見る。
 ビルの隙間から見える海から迫りくる津波があった。
 System-Hollowの作用の投影だろうか。
 思いながらも、巨人の姿に目を奪われる。

スネーク「あれは」

 沖の方に、裂けた鮫の頭を鎧の如く両肩に乗せた巨人が立ち尽くした姿があった。
 首は無く、溶けかかった断面から血を流し続けている。


スネーク「クォッチ。ミルナ・アルドリッチの感染体がそう名乗った。
     そして若いの、お前が殺した最初の人格ある感染体だったか」


 ウォールの薄いLOGにアクセスして記録を参照し、巨人の正体は知れた。
 妙なのはここがボストンで、あれを狩ったのがマンハッタンという事だ。

 不穏さを増す光景を横目に、ステルスを保ったままスネークは更に街の奥へと進む。

495 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:44:08 ID:1H.o0ycY0

 破壊状況は、やはり深刻に、そして複雑な物となっていった。

 岩盤は崩れ、地下も地上も無い程に入り組み、次第に歩いては通れなくなった。
 歪んだエスカレーターを這って降り、灯りの無いサブウェイの暗闇に溶け込む。
 目でじっと暗がりを見つめれば、僅かに数値と記号が標となってスネークを導いた。
 線路を歩き、目的地へと向かう。

 トンネルにも戦いの痕跡があった。
 鼠に似た肌を持つ人の死骸が続いている。
 裂かれた腹から溶けかかった内臓が、黄色い体液と一緒くたに広がっている。
 ステーションへ辿り着き、スネークはそこで線路から脱出する。
 反対路線には異形の群れが作る血塗れの車内風景があった。

スネーク「ニューヨークの地下はこんな感じか、若いの」

 参照するブーンのLOGと光景が酷似している。
 街の至るところで狩りを行ったようだ。

 階段を上り、倒壊した高級ホテル群が同化した中を進む。
 汚れたベッドには異種の重なりがあった。どちらも頭と心臓を貫かれて絶命している。
 そんな幾つもの死骸を横目にしながら、スネークは再び地上へ出る。

 ようやくハーバードヤードに渡るロングフェロー橋の前に辿り着いた。

496 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:45:06 ID:1H.o0ycY0

 橋の中腹まで歩くと、やはり橋が真っ二つに折れているのが見えた。
 ブーンとスネークの持つ記録の通りだった。
 見下ろせばチャールズ川の穏やかな流れが臨めるはずだが、
 川は変わり果てた激流となっていて、今にも氾濫しそうだった。
 スネークの保有する記録の通りとは随分異なっていた。

 しかし橋の車道、歩道、線路、そこに横たわる死骸、
 いずれにも大きな爪痕が残されているのは同じだった。


《―――――ていう……! でっていう!!》

 
 その爪の持ち主の鳴き声が何処からか木霊す。

スネーク「チッ、“でっていう”か!」

 スネークは思わず身構え、異物の検知に集中する。
 濁った甲高い鳴き声が近づいてくる。銃を向ける。が、襲い掛かってくる気配は無い。
 スネークの目の前を首を失った蜥蜴のシルエットが過り、川へ墜落していった。
 連中が単なる投影だと悟り、銃を下ろした。

497 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:46:40 ID:1H.o0ycY0
スネーク(思えば、“でっていう”との交戦が俺達が出会う切っ掛けだったか。
     そして負傷したお前は、ギコに運ばれてやって来た)

スネーク(それにしても、あんなのもお前の恐怖の正体の一つという事か?
     確かに厄介な連中ではあるがな)

 スネークは着地点を見据えて走り、地面を蹴った。

スネーク「ふん!」

 4m、6m、10mと宙を往き、軽々と折れた橋を跳躍して超え、音も無く着地した。
 電子と意識の世界で、ましてやスネークはその両方で造られていると認識している。
 この世界で不可能な事は無かった。

 それでも大胆過ぎる行動、例えば空を自由に飛ぶような行為は、
 防壁に気づかれる心配があり、控えねばならなかった。

スネーク(ステルス迷彩とはいえな……油断は出来ん)

 注意すべきは自分を異物と見なし、排除行動を取った、あの声だ。
 System-Hollowに操られたブーンの防壁によるものだ。

498 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:47:04 ID:1H.o0ycY0

 目的地に近づくにつれ、暗雲が降りて来たような暗さに包まれる。
 頭上は雷の瞬きが激しく、足元は赤い海水に濡れている。
 血と何ら変わりない色だと、近くで見てスネークは感じた。
 投影だ。
  
 目的地――ブーンの意識が存在する場所、
 そこに向かって迫る波が何を意味するのかは不明だ。

スネーク「それに、何が波を引き寄せているのか」

 スネークはやがて何の遮蔽物も無い荒れ果てた空間に出た。
 唐突さに戸惑うが、この光景――投影を作り出したのが自分自身だと気づく。
 己が引きこした核爆発の跡だ。
 しかし空間の中央には、赤レンガ積みの建造物が一つだけあった。

 ハーバード。その記念教会がある。
 モットーであるveritas――真実――を意味する旗が綺麗なまま靡いている。
 ブーンがプロテスタントであったかどうかは解らない。
 だが、信じるべき神はまだ心の中に存在し、そして、
 真実を秘められていると、訴えているようだった。

 ふと見上げた空は広く、押しつぶされるような感覚をスネークに与えた。
 かつては都市型のキャンパスは数多の企業参入、
 もしくは学内で立ち上がった新規企業の活躍により、年月の経過と共に空を狭めていった。

 事、医学においては大昔より優れていたカレッジ・ヒストリーだった。
 サイバネティクスに注目し、専門的な研究機関を据えたのも自然な流れで、
 あのフィレンクト・ディレイクがしばしば教鞭を取っていたのは有名な話だ。

 System-Hollowは、ここで生まれたのだ。

499 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:47:29 ID:1H.o0ycY0

 周囲には洗練された大型建造物の背を比べ合いと、地下深い場所でも同様の競い合いがあった。
 スネーク――デイビッド・スネークも、始まりの日以来、地下に潜んでいた。
 その記録から位置を割り出し、スネークは荒れ果てた地を歩く。

 向かう先は、生体工学、バイオ応用学、生命科学部を抱える、
 最も地中に深く根を張った構造物の、地下区画への入り口。

スネーク「ここだ」

 エレベーターの発着場だ。それだけが残されている。
 肝心のエレベーターは上がっておらず、四角い空間が何処までも地下に続いている。

 発着場にはScorpionと呼ばれていた真っ赤なバイクが停まっていた。
 傷だらけで、赤いカラーリングが塗装によるものなのか、解らない。

スネーク「お前の投影もいるんだろうか」

スネーク「それから、君も」

 スネークは瞬く暗雲を見上げて呟いた。
 そして銃とバイオニックアームを確かめてから、暗い穴の底へと飛び込んだ。
 重力に従って落ちてゆく。機械が演算した物理法則ではない事は、見れば解った。
 ここはブーンの心理が色濃いスペースのようだ。

スネーク「――――――ッ!」

 不意に空間が、スペース全体が揺らいだ。
 外側で何かあったのだろう。
 状況から、ブーンと感染体、サードとの激しい戦闘行為が予想される。
 既に無差別的に“人”を殺してしまっている可能性も否めない。
 やはり、今のブーンに選択の余地は無いという事なのだろうか。

 走り抜けるAIの思考と共に、空間を降下する。

500 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:48:37 ID:1H.o0ycY0
 先に降りていたエレベーターが見えると、スネークはふわりと体を浮かして着地した。
 研究区画に続く入口は開かれている。
 ステルスを保ったまま入口の影に立ち、覗き見る。
 電力を抑えたLEDの弱弱しい灯りが並ぶ、慣れ親しんだ生活区画が続いている。
 気配は無い。スネークは銃を胸の位置に構えたまま内部へ侵入した。

スネーク「フッ、懐かしいな」

 向かうべき場所は解っている。
 香しいコーヒーが置かれた食堂でもなく、
 鼻を突く煙草の匂いが染みついた喫煙所と呼ばれた自分の部屋でもく、
 ゲームの音と一喜一憂する少年の声が聞こえる部屋でもない。

 スネークは通路を迷いなく歩き、“下”へと続く階段に向かう。

 階段には、コツコツと踵を鳴らす、頭の無いシルエットがいた。
 血に汚れた白衣を着ている。自分の血によるものだろう。


『来るんだ』

 聞き覚えのある声が空間に響いた。

501 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:49:03 ID:1H.o0ycY0


『俺の弟は5年前に感染した』


スネーク(あの影、やはりオットーか)


『――ビロードの存在は、俺と弟者にとってチャンスのような存在だと思ったんだ。
 弟者を治療する為の、チャンスだ』

『――俺だって驚いた。まさかこんな事になるなんて、
 想像もつかない事態だったさ……フフ』

 スネークはオットーの後に続き、下に秘匿された研究施設へ向かう。
 オットーの投影は爆破された入口まで近づくと消え去った。

 ここにブーンの深層心理が存在するはずだ。


スネーク「若いの」


 スネークは意を決して内部へと入る。

502 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:50:01 ID:1H.o0ycY0


(  ω )


スネーク「これは……」

 割れた巨大の培養管の中央に、柱に括られたブーンの姿があった。
 柱の根本には夥しい血痕が広がっている。
 床には色の異なる血痕が一つ。

 スネークの思考に、瓜二つの兄弟の顔が過る。
 アニー・サスガ。そして、オットー・サスガの顔だ。

スネーク(……やはり、巣食う影とは……いや、その事より今はブーンを)

 スネークはステルスを解いてブーンに近づき、額を触る。
 投影の半分が電子で構成されていると解り、スネークはハックした。
 これで機械的な面でHollowの制御を受ける事は無いはずだ。

 あとは、ブーンの次第だ。


スネーク「若いの! おい!」

 スネークが呼び掛けながらブーンの頬を叩く。


(; ω )「うっ……」

スネーク「若いの! 俺が解るか? しっかりしろ!」


(;゚ω )「お、」

(;゚ω゚)「オッサン……?」


スネーク「ああ、俺だ」

(;゚ω゚)「どうして。一体、僕は、何を見ているんだ」

スネーク「言っておくが夢なんかじゃない。まあ、お前は半分寝ているようなモンだが。
     俺は今、お前の基底核にジャックしている。お前に託したバンダナを通じてな」

503 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:50:30 ID:1H.o0ycY0

(;゚ω゚)「……バンダナ……ずっと僕の額にしがみ付いていた、ような……」

スネーク「長い話になるが、そのバンダナに俺のパーソナルが移されていた。
     デジタルの人格だがな。ともかくだ、俺はこうしてまだ存在している」

スネーク「お前が俺を呼んだんだ、若いの」

(;゚ω゚)「スネーク……本当に、アンタなのか……?」

スネーク「そうだ」

(;゚ω゚)「……それなら、オッサン、頼みがある。もう、アンタにしか頼めない」

スネーク「何だ?」


(;゚ω゚)「僕を、殺してくれ。その銃で頭を撃って、止めてくれ」

スネーク「馬鹿な事を言うな。お前は、」

(;゚ω゚)「あああああぁぁぁああああああああ!!」

スネーク「若いの!?」


(;゚ω゚)「あ、あ、あああ、た、頼む、来ないで、もう、来ないでくれ!!」


「酷い事言うわね、ブーン。私をあんな風に殺しておいてさ……」


 背後から遮った言葉に反応し、スネークが銃を向けた。

504 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 03:52:25 ID:1H.o0ycY0


(*゚ー゚)「ブーンの言う通り、頭を撃ったら彼は死ぬわ。
     そして今の貴方ならそれが出来るはずよ、スネーク」


スネーク「シーケルト」


(*゚ー゚)「ふふ、私の淹れたコーヒーを飲みに来たって感じじゃないわね、スネーク」


 シーケルト・ゴソウ。
 表層はブーンの投影そのものだが、中身は数値と記号の羅列だ。

 首は繋がっていない。
 血塗れの自分の首を両手で抱えている。
 血走った目を穏やかに曲げて、血を零す口元に柔らかい笑みを作っている。
 それを彼女の投影と呼ぶには、余りにも残酷な姿だった。
 数値から察して、System-Hollowがブーンの罪悪感と関連付けた、防壁の投影だ。

(*゚ー゚)「何か異物が侵入したと思ったら……貴方だったのね。
     流石は伝説の傭兵ね。私なんかじゃ影も見る事が出来なかった。
     見事なステルスとスニーキングだったわ」

スネーク「やはり、お前が憑いていたか」

(*゚ー゚)「勿論♪ 私はブーンの心の奥にずっといるのよ? トラウマとしてね」

 問いに対し、シーケルトは生前の頃と変わらぬ屈託のない表情で返す。
 しかし、瞼を閉じる毎に血の涙が溢れ出していた。

505 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 04:02:13 ID:1H.o0ycY0

スネーク「随分居心地が良さそうだな、シーケルト。
     だが、俺がお前をここから追い出してやる、亡霊め」

(*゚ー゚)「あ、そう。でも簡単に私は消せないわよ?
     ハックすればSystem-Hollowの動作は無くなっても、
     深層心理に巣食ったトラウマの私は消え去りはしない」

スネーク「……そうだったな」

 スネークは銃口をシーケルトの首に定めたまま、ブーンを横目に見る。
 今にも撃ちそうなスネークの目と合い、ブーンは弱弱しく発した。

(;゚ω゚)「オッサン……無駄なんだお」

(;゚ω゚)「しぃさんは、僕の罪意識の投影だお。
      絶対に消す事は出来ない……薄れた事は、あったお。
      でも、ダメなんだお。しぃさんを、忘れる事なんて、僕には出来ないんだお。
      絶対に、忘れちゃいけない事なんだお……」

(;゚ω゚)「それに、もう、ダメなんだ。僕はもうSystem-Hollowに依存し始めた。
      解除されれば、僕はきっと……全員を殺すお。
      だから自分で自分を殺さなくては……きっと、頭さえ、破壊すれば、止まる」

(;゚ω゚)「僕にはもう耐えきれないんだ。“外”が怖い、僕には、耐えられなかった。
      選択する事すら出来ない程、地上が、恐ろしい物と化してしまったんだお……」

スネーク「……だから、ここに柱があるのか」

(*゚ー゚)「まあそんなところ。恐怖の象徴ね。この場所に囚われてるって意味もあるわ」

506 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 04:02:34 ID:1H.o0ycY0

(*゚ー゚)「それ以外にも、こんなのも用意出来るわよ?」

 そう言ってシーケルトが瞬くと、何処からともなく仮面が現れて床に落ちた。
 Ⅳと書かれた仮面だ。

(;゚ω゚)「や、やめ、ろ」

 シーケルトが踵を視点にくるりと身を回転させた。
 抱える自分の頭を、小さな子をあやすように撫でながら。
 次々に空間にはホログラムが出現した。
 その全てに、バットを握りしめるアノンの、仮面を外した素顔を映し出した。

(; ω )「やめろ! やめてくれ! それだけは、その男だけは!」

(*゚ー゚)「安心してって。外側に問題は無いから」

(*゚ー゚)「なんたって、この恐怖を快楽で忘れさせてあげてるのよ、私がね」

 シーケルトが再び躍るように身を回し、仮面とホログラムは消え去った。

(*゚ー゚)「貴方も言ってたけど、すっかり依存してハマっちゃってるわねぇ。
     今にもここに“ウェーブ”が届きそうなくらい……とても気持ちいい事だものね―――」

(*゚ー゚)「……でしょ? 私の時みたいに、頭を弾くのってさ」

(;゚ω゚)「違う! それは、違う! 僕はそんな事望んじゃいない!」

(*゚ー゚)「そう? 段々抗う事も止めて欲望のままに暴れてるけど?
     勿論、死ぬ事なんて許さないわ。貴方は永遠に私の思う通りに――――」

スネーク「もう黙れ、シーケルト」

 狭い空間に銃声が響き渡った。
 抱えていた頭を撃ち抜かれたシーケルトは倒れ込んだ後、姿をフェードアウトさせた。

507 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 04:03:41 ID:1H.o0ycY0

スネーク「相変わらずお喋りだったな。そこが可愛らしくもあったが。
     今は鬱陶しいだけだ。それに、あんな姿じゃ美人も台無しだ」

(;゚ω゚)「オッサン」

スネーク「若いの。解っていると思うがまだHollowは解いていない。
     それにあのシーケルトのゴーストは、お前が心に作り出す投影だ。
     お前次第で再び彼女は姿を現し、お前は彼女の影に囚われるだろう」

 スネークはブーンに手を翳し、柱を消した。
 縄から解かれたブーンは血塗れの床に手足を着き、荒く呼吸する。
 投影のブーンは、手足も肺も、全てサイバネティクスに置換する前の物を持っていた。

スネーク「ここにいつまでも縛られるな」

(;゚ω゚)「あ、ああ……でも、僕は」

スネーク「お前を殺すという頼みなら聞いてやらんぞ。
     俺がそんな願いを叶えるような冷酷な男だと、お前は本気で思っているのか?」

(;゚ω゚)「でも、もう、それしかない。ぼ、僕は、既に何人殺している?
      それに、デミタスとディは、どうなった? な、何も覚えていない……
      このままでは、ジョルジュ隊長やヒートさんまで――」

スネーク「落ち着け。いいから座れ」

 スネークはブーンを起こし、腕を引いて3段の低い階段に腰を下ろさせる。
 困惑するブーンの横で、スネークも腰を掛けた。

508 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 04:06:14 ID:1H.o0ycY0

 スネークは胸元から煙草とライターを取り出し、くしゃくしゃの一本に火をつけた。
 お前もどうだ? と紙巻のフィルターを見せて促すが、ブーンは取らなかった。
 一本の細い煙が天井に向かって上がっていく。
 ニューロに鎮静作用を働きかけるプログラムが煙に組み込まれているが、
 B00N-D1の大規模なシステムに対しては余りにもか細い物である。

 スネークは空いた手でポケットを弄り、
 LOGを参照して再現した物を手中に秘める。

スネーク「ブーン、話をしよう」

(;゚ω゚)「話?」

スネーク「そうだ」

 鼻を鳴らしてスネークは笑う。 


.

509 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 04:08:16 ID:1H.o0ycY0


スネーク「少し説教臭くなるかもしれんがな」

 スネークの手の中には、傷の一つすら無いオレンジ色のダイアモンドリングがあった。


『まだよ。まだ私は消えていない。消える事はない、永遠に』

 シーケルトの声が、何処かともなく響いた。
 スネークは指に掛かった煙草を弾き、

スネーク「チッ……おい、若いの。何とかあいつを抑えろ」

(; ω )「む、無理だ……僕には、しぃさんを追い出せない……!」



「……まったく、見ちゃいられん。
 あんな姿のしぃもだが、特にブーン、今のお前は」


スネーク「同感だ、友よ」

(; ω )「その、声は」

510 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 04:11:50 ID:1H.o0ycY0


(,,゚Д゚)「ブーン。我武者羅に命懸けで生きろと俺に言ったのは、お前だ。
     どんなに過酷な事があるとしても負ける事は許さん」


(;゚ω゚)「ギコさん」

 オットーの血痕からフェードした投影は、ギコ・アモットだった。
 変異する前の、しかし、System-Hollowの影響の無い溌剌とした自我を持つ。

(,,゚Д゚)「スネーク。俺がしぃを抑える。その間にブーンをどうにかしてやれ」

スネーク「ああ。食堂でコーヒーを飲むのはその後だな」


  ※


爪;゚Ⅳ〉「……テメェ、どうなってんだその体……一体何しやがった?」

ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《クリアに、して、やる》


 アウトサイドでは尚も激戦が続いていた。
 二つの仮面の内の一つだけが、己の体液で汚れていた。

 両者の拮抗は、崩れ始めている。



                   第45話「ゴースト・インサイド」終


.

511 ◆jVEgVW6U6s:2019/01/29(火) 04:19:47 ID:1H.o0ycY0
         ィ'ト―-イ、
         以`゚益゚以        またせたお。いつも読んでくれてありがとーいだお。
        ,ノ      ヽ、_,,,    次の投下は2月半ばの予定だお。
     /´`''" '"´10周年. ;'j   ヽ  
    { ,ノ' i| ,. ,、 ,,|,,. 、_/´ ,-,,.;;l  街狩りは60話に至らない程度で完結すると思います。
    '、 ヾ ,`''-‐‐'''" ̄_{ ,ノi,、;;;ノ    もうちょっと続きます。

512名無しさん:2019/01/29(火) 04:25:17 ID:77Zq352c0
乙!

513名無しさん:2019/01/29(火) 06:28:32 ID:1H.o0ycY0
>>505
一部ミスってました、すみません。

(;゚ω゚)「それに、もう、ダメなんだ。僕はもうSystem-Hollowに依存し始めた。
      僕はきっと……全員を殺すお。
      だから自分で自分を殺さなくては……きっと、頭さえ、破壊すれば、止まる」

514名無しさん:2019/01/29(火) 08:58:31 ID:jsOn2KTU0
>>479
上空を旋回するバトルスールも例外なく撃たれた。

バトルスーツ

515名無しさん:2019/01/29(火) 09:03:39 ID:jsOn2KTU0
おつ!

516名無しさん:2019/01/29(火) 09:51:16 ID:2WBsp6FQ0
おつおつ
お題置いとくか…花

517名無しさん:2019/01/29(火) 13:53:31 ID:EkkHebGE0
乙!今回も面白かった
アノン死なないで欲しい

518名無しさん:2019/01/29(火) 19:14:59 ID:yb1o613Q0
おつ!

519名無しさん:2019/01/30(水) 07:20:22 ID:XNDeyQvs0
乙カレー
今から読んでくる

520 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:36:07 ID:vZ751BWI0
 〜前回のあらすじ〜

|'、                  /、
..jし〉                  ノ⊥
! \                ノ  !
 ヘ、 \、   ___    /  丿
  ゝ  ゙ヽ、./    \ _/   ノ
   ヽ、    .| ^   ^  |´    丿
    ヽ、  | .>ノ(、_, )ヽ、.|   _/′<クリア、クリアだ……
     ヽ !  ! -=ニ=- ノ  _/
     l ヽ \`ニニ´/  ..r{
     !  `ー..__,,..-'''´ 1
     |!    丿`ヽ    ||
     }   /   ヽ   〕
    │   ,'    ヽ   ヽ
    〕   ノ     丨   1
    丿  l′     '、   '、
   丿  ./       ヘ、  '、
   ,'  丿       ヘ、  1
   │ 丿         ヽ  ||
   ノーv「          ヽ-''、
  ノ   〕           │ ヽ、
、ム..../´           `' 、....7

ミ,,;゚∀゚シ「……正気とか、そういうンじゃねえ……
       ブーンとは思えない程、なにか……別人のようだ……」

まとめ ハイルイトーイ
https://hail1101.web.fc2.com/

521 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:36:54 ID:vZ751BWI0

 島を埋め尽くしていた数億ドルの輝きは消え失せ、暗闇が何処までも広がっている。
 輝きを取り戻さんと瞬く空へと未だ伸びる尖塔状の構造物群は、今や棺と同然か、
 或いは傷口から寄生する蟲や獣や人外の者共の巣でしかない。
 価値感は180度変わり、大都市からは死以外の事を連想出来ずになった。
 ブロードウェイで夢を見る事なんて、叶わなくなったのだ。

 ホライゾン・ナイトウが15になった年、望み通り、彼を感染体殺しのサイボーグへ転化させた。
 それは私自身の望みでもあった。
 父と母の頭脳をコピーしたように、私の頭の中には生体工学の全てが詰まっていて、
 同時に、父が生前に第3階層に残したラボの存在が、彼を転化させる事を容易にしたのだ。
 復讐を始めるには、全てが誂えたかのように整っていたのだ。

 それに、あの時は何も見えちゃいなかった。
 私達には親殺しのセカンド共を殺す事以外、見えていなかった。
 日々をセカンド殺しの研究に費やした。

 華やかな地下都市が齎してくれる安寧を気づくには、長い年月を要した。
 いや、どうだっただろうか。
 本当は心の奥底で気づいていたのかもしれない。
 仇討ちなんて、本当は無意味の無い、自分を慰める為の行為である事を。
 地下都市にかつての夢を重ねる事こそ、今は本当に尊く、意味のあるものだったのだと。

 それでも痛みを伴って開拓したかったのは、人間の可能性を否定したくなかったからだろう。
 機械で身体を置換し、破壊力を増した銃を造り、ある者は機械の巨人を生みだして。

 しかし、触れてはならない神秘があった。
 我々が生命をそうして科学で延命し、作り出し、業とも呼べる神秘の対比とも言えるものが。
 汚染された地上では、私達の想像を超えて加速度的に進化する生命体が存在した。

 “私達の可能性”であるブーンが、それに捕らえられてしまった。

522 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:38:48 ID:vZ751BWI0

 悪い予感がしていた。
 ニュージャージーの一帯に、その存在を知らしめるような知的生命体の痕跡を知り、
 私は本心ではナイトウにミッションや帰郷を止めたくてならなかった。

 もう、私はセカンドを狩る事にも、親殺しに対しても、執着は無かった。
 地上を取り戻そうという夢も、今は重要ではないように思えてしまう。
 ただ、火種を絶やさない必要性は感じる。次の世代の為にも。
 だからサードへの備えの為に、ナイトウは人類の遺物であるナノマシンを探しに行った。
 迷いはあれど、私に止められるはずもなかった。

 かつて詩人が言った言葉を思い出す。
 人間が最初に学ぶ教訓は「飢え」であると。
 しかし空腹を満たすだけなら簡単で難しくなく、人の根幹にある他の欲求に飢え出すのだと。

 私は、それに飢え始めているのかもしれない。いや、もしかすると最初からそうだったとも思える。
 ここに空腹という飢えは無い。足りない物は、本当に必要なモノはなんだったのか。今なら分かる。
 それは武器でもなく、権利でもなく、自由でもなく、もっと根幹にあるモノだ。

 機械の指を伸ばす先に、両親はいない。
 でも、パンプキンダイアモンドのオレンジ色の輝きがあり、愛しい者の顔がそこに浮かぶ。
 これが私に本当に大切な事を教えてくれたような気がした。
 そして、もうこの輝きや記憶だけでは満たされないという事を知ったのだ。

 ナイトウに、その事を伝えたい。
 ナイトウと、ゆっくり話したい。
 ナイトウも、きっとそうだから。

 約束を交わした。

 ナイトウは、必ず帰って来ると。

 私も、いつまでもずっと待っていると。

 ナイトウ――――――

523 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:40:08 ID:vZ751BWI0


<;プД゚)フ「あーもー! また負けたあ!!」

( ><)「僕の騎兵I隊は最強なんです」

<;プー゚)フ「つーか何かさっきから携帯の調子悪いんだって! ラグいんだよ!」

( ><)「言い訳無用なんです」

<#プー゚)フ「くっそービロードのくせに……おい、もう一回勝負だ。
       マリミテ城で俺が攻めな」

( ><)「そこは僕の得意ステージです。穴掘ってぶちのめしてやります」

<;プー゚)フ「穴掘り!? ま、まさか、お前まで阿部さんみたいな感じに……?」

( ><)「よくわかりませんけど何の話なんです?」

<;プー゚)フ「いや、なんでもねえ! そんなはずがねえよな! いいから遊ぼうぜ!」

 居住区第4階層、北東部の高級住宅街に存在する高層アパート群、
 元はリゾートホテルで、その一室を買い取った者の部屋のドアから、
 ツン・ディレイクという名が浮かんでリードアウトされている。

 開かれたカーテンの向こうには、かつての地上にも迫る夜景が広がっていてる。
 各人の端末がPM23時の表示を宙や体表にリードアウトさせて、この部屋の様子と同じく、
 未だ遊びに耽る者達の喧騒が幾らかの慎みを持って続けられている。

 テーブルには空になった皿が並べられている。
 一つは保存機に包まれており、春巻や麻婆豆腐、それからココア仕立ての杏仁豆腐がある。
 少年二人、特に液体化食料しか記憶に殆どないビロードが、
 それらに物珍しい目を浮かべつつも、瞬く間に平らげてしまった美味を秘めている。
 春麗自ら鍋を振るった、中華料理だ。

524 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:41:34 ID:vZ751BWI0

 春麗がビロードとエクストの皿を片付けるのに苦労は無かった。
 二人ともソースの滲みすら更に残さず、舐め回してしまったからだ。
 ダイニングキッチンが隔つ空間の中心には、料理に驚いた時のままの調子で尚も騒ぐ二人がいる。

 シンクに水を張り、皿を沈め、浄剤タブを一粒落とす。
 膨れ上がる泡はまるで生命体のように動き、汚れを吸収していった。
 春麗は独り言を落とされて泡が弾けていく。

春麗「いつかガイル隊長にも食べさせてあげ……ハッ! わ、私とした事が。
   最近つい、そんな事ばかり考えてしまうように……!」

春麗「今は警備警戒、それから看病っと」 

 春麗は硬く絞ったタオルを畳み、寝室へと向かう。
 小さく細いツンが寝るには大きすぎるキングサイズのベッドで、ツンは瞳を閉じて浅く呼吸している。

 ぬるいタオルを額から取りあげる。
 手首に巻かれた携帯端末の体温リードアウトは、微熱を示している。
 最近は睡眠時間も削ってセントラルの整備に当たっていたと、春麗はハインリッヒから聞かされていた。
 加えて今回のB00N-D1がサードに捕縛されたという報せだ。

春麗「今は、ゆっくり休んでくださいね」

春麗「必ずジョルジュさんが、ブーンを助けます」

 春麗の呟いた先にあるのは薬指に飾られたオレンジダイアモンドだった。
 春麗が冷えたタオルを額に乗せると、

ξ; ⊿ )ξ「ナイ、トウ……」

 タオルの冷たさにか、その者のコードネームに反応してか定かではないが、
 ツンが瞼を薄く開いて蒼色の瞳を見せる。

春麗「ツンさん!? 気が付きましたか?」

( ><)「ツンさん!!」

<;プー゚)フ「お姉ちゃん!」

 ベッドに横たわるツン・ディレイクを3人が覗き込む。

525 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:42:27 ID:vZ751BWI0

ξ;゚⊿゚)ξ「……春麗さん? ビロード、エクスト」

ξ;゚⊿゚)ξ「……確か議会堂の司令室にいたのに」

春麗「気を、失ってしまったんです……報せを聞いて」

ξ;゚⊿゚)ξ「そう、だった」

ξ;゚⊿゚)ξ「それで、状況は?」

春麗「無事なようです。ジョルジュさん、ヒートさんが接触したと、
   先程ハイン博士から連絡が。今はサードとの交戦に入っているかと……」

ξ;゚⊿゚)ξ「こうしちゃ、いられない……うっ」

(;><)「ツンさん!」

 ツンは体を起こそうとしたが、鈍い頭痛を感じて眩む。
 春麗がツンの細く軽い体に触れて、枕へと促した。
 動悸して顔を紅潮させるツンから崩れるタオルを正し、毛布を掛ける。

春麗「頭を打ってますし、熱も少しあります。今は少し休んで。
   貴方に倒れられたらセントラルの機能の10%は低下してしまいます」

<;プー゚)フ「そうだぜお姉ちゃん。
       ちょっと働きすぎなんだよチーム・ディレイクって」

ξ; ⊿ )ξ「で、でも、ナイトウが、ナイトウが」

春麗「必ず、ジョルジュさんがブーンを救出します。
   我々チーム・アルドリッチが保証します。
   きっとハイン博士は、貴方に明日の夕食くらいは強請るかもしれませんけどね」

526 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:43:22 ID:vZ751BWI0
(;><)「無理したらだめなんです」

春麗「ビロードの言う通りですよ。それに約束したんでしょ?
   その指輪にブーンも。必ず戻ってくるって」

(;><)「ブーンならスネークも一緒だから、ぜったい大丈夫なんです!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「……春麗さん、ビロード」

ξ;-⊿-)ξ「……分かりました。少しだけ休ませてもらいます」

春麗「そうして下さい」

ξ;゚⊿゚)ξ「エクスト、確かどっかに解熱剤あるから、取ってきて」

<;プー゚)フ「見渡す限りのココア缶しかないけど探してくるぜ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ついでにココアよく練って持ってきて。むしろそれが最優先よ。
       もしかしたらココアが切れて熱出ちゃったのかも」

<_プー゚)フ(何言ってんだこの人……)

春麗「あ、そっか! 熱さまし買ってくればよかった……私も探してきます!」

 そう言い残して春麗も寝室を飛び出す。
 ビロードはごたごたと鳴らすリビングの方を見て微笑んでいる。

( ><)「春麗さんはどこか抜けてるんです。ガイルそっくりです」

ξ゚ー゚)ξ「そうかもね。さて、どっちが先にお祝いされるかな……なんてね」

( ><)「お祝い?」

ξ;///)ξ「あ、その、何でもないわよ! 薬とココア飲んだらまた寝るわ!」

527 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:44:51 ID:vZ751BWI0
<;プー゚)フ「マジでココアしかねえぞこの部屋! 何だこのココアの量は!?
       それに何なんだよココア味のトゥースペーストとか入浴剤って!」

 一方でエクストは解熱剤を探していたが、一向に見つかる様子が無く、つい苛立った。
 戸棚から続々と出現するツンの嗜好物を丁寧に積み上げていくエクストに、
 更に面倒さを煽るかのように着信が入る。

<_プー゚)フ「んだよこんな時間に! ……はーいもっしもーし」

<;プー゚)フ「え? は? 今から?」

<;プー゚)フ「わ、わかった! わかりましたって!
       頼むからそれだけはやめてくれ! いや! ください!!」

春麗「見つかったー? って、どうしたの?」

<;プー゚)フ「ちっと出かけてくらあ!」

春麗「は? こんな時間に? どこへ?」

<;プー゚)フ「おつかいだよ、おつかい」

 エクストがドアロックに手を掛けて解除しようとするが、春麗が制する。

春麗「ちょ、ちょっと待って! 危ないってばこんな時間に一人じゃ」

<;プー゚)フ「つってもクソ急ぎなんだと。
       断っちまったら俺の貞操がピンチなんだってば!!」

春麗「ツンさんのココア淹れたら行きましょ。解熱剤なんて見当たらないもの。
   解熱剤買いに行くついでに私も付き添うから」

<_プー゚)フ「わーいラッキー! 春麗さんも一緒ならいいや!!
       へへへへ! 面倒なおつかいも綺麗なねーちゃん一緒なら大歓迎だぜ!!」

春麗「君って本当に調子がいいっていうか……」

<_プー゚)フ「俺はいっつも絶好調だぜ!?」

528 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:47:33 ID:vZ751BWI0


<_プー゚)フ「……にしても、こんな時間に呼び付けるなんて、
       人使いが荒すぎるんだよなぁ、いっつもよー」


 第46話「HOME」

 生身の人間には目も空けていられない戦闘が繰り広げられていた。
 獣の目、機械に置換した眼が見る光景は、両者の高速移動が巻き起こす突風で
 次々に崩れては払われ、舞い上がり、そして重力に引かれて降り注ぐ瓦礫の雨であった。

 崩れかけの高層構造物も空間の揺るぎに否応無く倒壊していき、
 スプロールのニューアークからもはや蟲の寝床すら無くなるのではないかと、
 二人の戦闘をただ目で追うしかないジョルジュはそう抱く。

 不可思議な光景に思えたのは、パイロットの経験故だった。
 引力から解放された戦闘機が速度を保ったままアクロバットしているようで、
 蒼い残滓を振りまきながら縦横無尽に動くブーンの速度は、異常だった。
 目の追うのがやっとだ。自分が対敵する機影であれば、もう落とされているだろう。

 そのブーンに対し互角以上の攻防を見せるのがアノンだ。
 仮面の下で獣の雄たけびを上げながら飛空する様も、戦闘機さながらだ。
 浮遊するビルの中を乱暴に抜け、デスクやコピー機の残骸を中空にバラ撒いてブーンに迫る。
 回避行動を取るブーンを追い、頭部目掛けてルシールの先端を疾走させる。

 ブーンは分厚い両腕を交差させて防ぐ。
 装甲に亀裂が生じ、音を立てて関節と骨格が折れ曲がった。
 ミサイルの射出音のような鋭さを伴い、ブーンは地上都市の残骸へと消えてゆく。
 アノンが一緒に吹き飛ばしたサイズ多様の機械の残骸を率いて。

529 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:48:44 ID:vZ751BWI0

爪 ゚Ⅳ〉「ブーン、いい加減悲鳴の一つでも聞かせてくれねェか?」

 高速戦闘の中でもアノンが確実にブーンを上回っていると誰の目にも明らかだったが、
 獣とサイバネが目を細めるのには、蒼い残滓を伴って押し寄せる風とは別に理由があった。

爪 ゚Ⅳ〉「またかよ」

ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《クリア、クリア……!》

 上空から、盛り上がる瓦礫群を見下ろして、アノンが呟く。
 ブーンが瓦礫群を押しのけて姿を現した。
 ルシールに破砕されたはずの右腕を使って――――

爪 ゚Ⅳ〉「いい加減ウザってェぜ……どうなってやがる」

 周囲の者と同じくアノンは目を細める。
 ブーンの周囲の残骸から、黒い何かが無数に湧いた。
 白い疑似体液を垂れ流す左肘の断裂部分に次々と集合し、腕を形成した。
 巣作りに勤しむ羽虫どころではない。時間が高速で巻き戻っているようだ。

ノハ;゚⊿ )「なんだよありゃ!?」

ミ,,;゚∀゚シ「恐らくはナノマシンだ。ナノマシンで身体を構成している」

ノハ;゚⊿ )「あれがナノマシンの仕業だと? 冗談キツイぜ……」

ミ,,;゚∀゚シ「ああ。あそこまで高度な物を、一体誰が……?」

 異常、異様な光景に場はざわつき、皆が戦慄する。
 何かを喰っている訳でもないというのに、何故再生出来るのだと。

爪 ゚Ⅳ〉「……その辺に転がってる機械を喰ってんのか」

 高度な科学技術とも思えない、ただならぬ不気味さだけを全員に感じさせた。
 一人、アノンを除いて。

530 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:49:53 ID:vZ751BWI0

爪 ゚Ⅳ〉「血も流れねェ化物が」

 他にも背、武装した四肢とルシールが喰らい付き、破砕させたはずだった。
 いずれも同様に復元されている。

爪 ゚Ⅳ〉「しかし、その頭ん中はどうだよ?」

 狼の頭に向くルシールの先端に語り掛ける。分かり切っている事ではあった。
 生物、事、人間なら当たり前の防衛本能による反射行動とも言えるが、
 頭部以外なら被撃しても良いと思える防御行動が気がかりだった。

爪 ゚Ⅳ〉「何が詰まってるのか見せてみろ」

 そんなブーンを勇敢、果敢であるとは、アノンは評さない。
 気が触れているとしか、思えなかった。

 やはり予告無くブーンがスラスターを噴射させて急加速、アノンに襲い掛かった。

ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《クリアッ!》

爪#゚Ⅳ〉「クリアクリアうるせェ! マジで腹が立つぜ!」

 放たれた弾丸の如く突っ込んでくるブーンに吐き捨て、アノンが迎える。
 豪快に振るわれたルシールを急旋回して回避、BBBladeですれ違い様に脚を削ぎに往く。
 対し、アノンはルシールで受け流し、ジャケットの革を犠牲にするが刃の直接接触を免れる。
 皮膚に異質な残熱を感じるが、今はブーンを罵倒する暇すら無いと、アノンは思う。

531 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:50:46 ID:vZ751BWI0

 バーティカルに中空を塗り返すアップ&ダウン。
 ブーン自身と、ブーンが放つ弾丸やレーザー群が造るウェーブだ。
 通りの両脇に積みあがった瓦礫、置き去りの車が気流に奪われてゆく。
 それは蒼いペイントが無尽に塗られるようでもあった。

 アノンは奔流に翻弄されじとバットを握り締める。
 奥歯を噛み締め、延々と続くブーンの重い攻撃の全てを受けている。
 だが、虎視眈々とウェーブの中の影を追って、

爪#゚Ⅳ〉《キャッチしたぜ》

 荒れ狂うウェーブにルシールを突き入れ、ハードな手応えが伝わる。
 引きずり出された獲物から、反撃して逃げ出す力は感じ取れない。
 駆動する度に損傷個所――腰部から配線が紫電に煽られている。
 アノンはここぞとばかりにルシールと共に暴れた。

爪#゚Ⅳ〉《バラッバラになりやがれッ!」

 視覚中で高速で記述される文字群に対して、ブーンは本能的かつ反射的に必要な認証を進める。
 腰部駆動に異常発生/損傷率20%/自己修復SYSTEM動作中/search/not found/
 左ガントレットから供給開始/修復完了まで残8second/回避プログラム動作中/
 補助ARクローズ/回避行動をB00N-D1本体に全て委譲/Boosterモジュール起動/

ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《オ゙ォォォォォォオオオオオ――――ッ!!》

 狼が咆哮し、刃を振るい、ランチャーを作動させる。
 視界では無数の羅列がランしてはフェードアウトし続けている。
 ブーンは視覚プロフェッサの中央で鮮明に動くアノンだけを意識したく、提示されている回避運動ARをクローズ、
 己の意のままに攻撃を激化させてアノンに対抗した。システム外の、闘争本能が繰り出した反撃だった。

爪#゚Ⅳ〉《なんッ! だよ!? はりきりやがって!》

 凶器のぶつかり合いが互いの長い髪を躍らせる。
 金の髪先が揺れては消える視界では、リードアウトされた秒数が減数している。
 アーマー左腕部が崩れ、黒い羽虫が細分化されたパーツと共に腰部に徐々に吸着していく。

 リードアウトが零になった瞬間、ブーンは掌のグレネードカートリッジを爆破させた。

532 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:53:36 ID:vZ751BWI0

爪# Ⅳ〉《―――――ッ!》

 突如視界に鮮烈な光が爆発し、アノンは隙間に入らぬよう、たまらず腕で防ぐ。
 それは一瞬だけ見せた生物的な反射行動だった。
 その一瞬でアノンはブーンの姿を見失ってしまった。
 アノンは音でブーンの動きを追う――昼間の時と同じでまた背後かよ? いや、違う――何処だ!? 

ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《狩、れ、る》

 戦闘中、ナノマシンは耐Gシステムをシャトルの成層圏内での緊急ランディング時の制御を応用し演算。
 これで如何なる速度と圧力にも耐えうる脳保護をナノマシンは獲得した。
 脳内中を巡る血は制御され、視神経と視覚プロフェッサと結合は至って良好だ。
 頭痛、吐き気、ブラックアウト、レッドアウト、いずれの痛みも恐怖も、今のブーンには無い。

 ただ、視界で認識するセカンドウィルスを殺戮すれば良いだけだった。
 BLACK DOGのメインエンジンが再イグニッション、殺意を表すかのように轟く。

 全スラスターとバーニアンを最大出力で可動させる。
 Boosterを併用し、BLACK DOGの飛行システムが限界速度を突破する。
 非生物的、非機械的な速度でブーンが動作し続ける。
 爆炎を割る旋風、迸る雷、アノンの視界に焼き付く残像とブーンは化していた。

爪;゚Ⅳ〉《何故そこまで動ける!? 頭ん中までイジりやがったのか!?》

 アノンは、この蒼色を塗りたくるストームの中をじっと耐える。
 ルシールを振るって。止まるのを待つしかなかった。

爪;゚Ⅳ〉《――――ぐォッ!?》

 しかし、徐々にアノンは切り刻まれる。
 エネルギーブレードの切先がジャケットを、皮を剥ぐ。
 ボロボロにすり切れたジャケットは、刻まれた無数の傷を隠せずにいた。

533 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:55:50 ID:vZ751BWI0

爪;゚Ⅳ〉《うぉォォオオオオオオオオオオオオオオ!?》

 切り傷はいずれも浅くも深くも無く、しかし血を泡立たせている。
 アノンも激しくルシールを振るって抵抗し、致命の一撃だけは防いだ。

爪#゚Ⅳ〉《―――――調子に乗るんじゃねェ!》

 それどころか、狙い澄まさせたスイングが、ブーンの頭部に喰らい付く。
 仮面の隙間から覗く虎の目は、まだぎらついていた。

 惜しくも顎を破壊するのみだったが、ブーンは空中で蹈鞴を踏んで後退した。
 絶好の機が訪れた。
 アノンは仮面の下で口元を歪ませ、翼を羽搏き、ブーンに襲い掛かる。

爪#゚Ⅳ〉《ハハハハ! そろそろ俺を思い出してよォ、ブーン》

 翼で得た推進力のままに、ブーンの頭目掛けてルシールを振り下ろそうとした。


爪#゚Ⅳ〉《また命乞いでも聞かせて―――――》


 ルシールが、アノンの手から滑り落ちた。
 己の血で滑ったのではなかった。
 そんな事で半身たるアノンを見捨てる事など、あり得はしない。


爪;゚Ⅳ〉《ルシール!? ルシ――――あ、ぐっ!?》


.

534 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:57:45 ID:vZ751BWI0


爪;゚Ⅳ〉《な、んだ、こりゃ》


 末端が酷く震えていた。
 抗体は侵入しているのだ。切り傷という数多の入り口から十分に。
 警報と呼ぶには異様に高鳴る心臓にアノンは気づく。
 だが手遅れだ。泡立った傷口を見て気づくべきだったのだ。
 僅かであれど、抗体に浸食されてゆく身体の拒絶反応を。

爪; Ⅳ〉《痛ェ……体中が……目が、クソがぁ……!》

 アノンの視界が揺らぎ、暗く狭まってゆく。
 星々の明かりさえ、滲んで暗闇に消えそうでいた。
 アノンは奥歯を咬んで意識を手繰る――目の前の獣が、既に銃口と呼ぶには太すぎる穴を向けていた。

 肩から伸びる砲身。
 BlueLazerCannonという装飾文字が放つ光が、最高点に達し、


ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《クリアだ》


爪; Ⅳ〉「――――――――――――ッ」


 光と呼ぶには冷たすぎる色が、アノンの目の前に押し寄せる。
 アノンが必死に体を捩る。遅れて音圧がアノンの鼓膜を押しつぶした。
 蒼い光条が高層ビルを輪切りにしている。

 アノンの、黒羽の片方を奪って。

535 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 21:58:59 ID:vZ751BWI0


爪; Ⅳ〉《があぁあああああああああああああああ!?》


 血の噴出すら許さぬ熱量がアノンの翼に浸食する。
 分厚い皮膚の下で青く太い血管がぼこぼこと波打ち、傷口を開いて溶けかかった血肉を流し出す。
 翼は骨すら溶けかかり、肉と筋を辛うじてぶら下げて貧相な様を広げていた。

 溶ける。
 溶けて、堕ちる。

 そんな認識を得ながら、アノンは重力に従い地に落下する。

 重力にすら縛られなかった自分が、今や抗う術を失い欠けている。
 微睡に似た覚束なさを感じ始める思考力。
 冷たいコンクリに叩きつけられた瞬間、視界が赤く眩み、猛烈な痛みが全身に駆け抜けた。


爪; Ⅳ〉「セリ、オット……?」


 一瞬、膨らんだ腹をさするセリオットの姿がアノンの脳裏に浮かんだ。

 ――強引に結婚させ、無理やり孕ませた妻だった。
 だが、一度だけ笑ってくれた事があったと、アノンはふと思い返す。
 あれは、何故だったか。朦朧とする。思い出せない。

536 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:00:52 ID:vZ751BWI0

爪; Ⅳ〉「ル、ルシール……戻って、きて、くれたか……」

 ハングドランクの象徴でもあり、アノンの半身である凶器の名。
 共に反逆者をミンチにし、共にコミュニティを守って来た血塗れの女王が、
 這いつくばる王の手元へと転がって戻ろうとしていた。

 アノンが傷だらけで、滲む光景の中に血肉が湧いた手を伸ばす。

爪; Ⅳ〉「な、」

 すると、震える指先に更に強い違和を覚える。
 混濁した意識の中でも、はっきりと指先が緑がかって、透けて見えていた。
 元のヘドロ状の物体へと、アノンは抗体に戻されようとしている。

爪; Ⅳ〉「い、嫌だ……それだけは、それだけは、」

爪; Ⅳ〉「それだけは許されねェ……この姿を、失ってたまるか! 俺は、俺は……」

 ルシールの近くに咲く、コンクリの割れ目から姿を見せる小さな花の存在に、アノンは気づく。

爪; Ⅳ〉「……花……花が、こんなところで……まだ、生きてやがる……」

 ――ああ、そうだ、花だった。
 手に余るほどの、何という花だったか忘れたが束を渡すと、一瞬だけあいつは顔を緩ませてくれた。

 名の知らぬ花。まだ顔も名も知らない俺の本当の子供、家族。
 それから、花のように美しい顔と名を持つ妻、セリオット。
 恐怖で建てた権力を行使し、強引に孕ませたのは自覚がある。
 日々膨らむ腹、それを見てすすり泣く顔ばかり見せていた。

爪; Ⅳ〉「俺は……俺は……」

 だが、花を見て、一度だけ見せてくれたあの柔らかな表情があった。
 確かにあいつは笑ってくれた。

 俺に新しい感情を芽生えさせたのだ。

537 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:01:25 ID:vZ751BWI0


爪;゚Ⅳ〉「人間を、やめる訳にはいかねェんだ……!」


 それが、人間だった連中が言う、愛って感情なのだろう。

 セリオット、お前に会いたい。生きて再び、お前に花でも渡してやりたい。
 また拒絶されたとしても、憎まれているとしても、
 もっと、この感情を、伝えてやりたい。伝えてみたい―――――


爪;゚Ⅳ〉「こんな、ところで、死んでたまるか……たまるかよ……!」

 ズタボロのグローブを仮面の下に忍ばせて、歯で引っ張って取った。
 セカンドウィルスを帯びるバットに指先を掛ける。
 柄に塗れた汚染された血に反応して手に吸いつき、透けていた指に肉と力が戻る。

 アノンは立ち上がり、迫り来るブーンに対し、ルシールと共に構えた。


ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《クリアじゃ、ない……?》

 不整に脈打つも測定される熱量は感染体のそれだと、システムが告げる。

 ブーンもエネルギー残量が尽きかけている。
 以降の使用量に左右されるが、アーマー強制パージまでリードアウトは残り3mを切っている。

 だが、十分だ。
 システムも、ブーンの本能も、そのように示されている。
 最後のBoosterカートリッジを四肢に送り込んだ鈍い音が、体内に響く。

 双眸の蒼さを鋭く尖らせ、最大出力でBBBladeを振るう。

 血走る虎の目が見開き、ありったけの力でルシールを振るう。

538 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:02:38 ID:vZ751BWI0



爪#゚Ⅳ〉《オォォオォォォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!》

ィ'ト―-イ、
以ヌ/[疲フ《オ゙オ゙ォォォオオオォォオオォォオオオオオオオオオオオオ!!》



 蒼と赤黒の凶器、同色の主達が躍る。

 過ぎ、離れ、飛び、僅かな間に甲高く音がすり抜ける。
 交わえば互いに呪う声を震わせ、また離れ、タップする。
 金の髪と黒の髪が舞い、回転し、振り下ろされ、振りあがる。

 瞳の奥は、互いに暗い穴の底のように、暗く、
 また、その場も、積みあがる構造物の瓦礫で出来た穴の中のようだった。

 ルシール、脳漿をぶち撒く為のバットが喰らい付く。

 BlueBlazeBlade、ウィルスを滅殺させる為の刃が迎え撃つ。

 しかし、その最中。


爪;゚Ⅳ〉「―――――ルシール」


 ルシールが、パキと、乾いた異音を僅かに鳴らして、主の手から再び離れようとする。
 もはやブーンを受けていられる程の力を発揮出来ずにいたのは、アノンだけでなかった。

539 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:03:47 ID:vZ751BWI0


爪;゚Ⅳ〉「ルシール!!」


 全てはルシールと共に造り上げて来た。
 コミュニティを、鉄則を、そしてアノンという人物を。

 そのルシールに、アノンは目を奪われた。

 繰り出された斬撃が、伸び切ったアノンの右腕をまず切り離した。
 しかし、アノンの虎のような眼光は失われていないと本能的に感じ、
 ブーンは詰めず、差し出すように置かれた軸足に刃を突き刺し、膝から先を奪った。


爪  Ⅳ〉「う、お、」

 崩れるアノン。

 そこでアーマーシステムは強制パージされ、内包するブーンを出現させた。


( ゚ω )《ヒ、ヒャハハッ……!》


 口も、目も、人とは思えぬ程に歪んでいた。
 空中のBLACK DOGに武器庫から吐き出させた柄型のカートリッジを掴み取り、
 刃状の抗ウィルスエネルギーを揺らめかせた――ブーンがアノンに迫る。


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