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( ^ω^)は街で狩りをするようです

540 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:05:57 ID:vZ751BWI0


( ゚ω )《――――狩る》


爪; Ⅳ〉《ま―――――》

爪; Ⅳ〉《まだ、だ……!》

 ブーンに背面を向けながら崩れゆくも、アノンは、
 腰部に生えるその長い尾を伸ばし、離れ往くルシールを引き留めていた。
 尾がしなり、ブーンの喉元に罅割れた骨製の血塗れバットを走らせる。


( ゚ω )《潰す》


 鋭い音が両者の耳に届く。
 続き、水気を多量に含んだ尾がびしゃりと血を散らし、カランとバットが落ちた。


爪; Ⅳ〉《が、あ―――――――――――》


 そして火に炙られた蟲のような声が、暗澹する都市に響いた。
 洗剤を垂らされたコックローチのように、アノンは全身を震わせ、穴という穴から泡を吹き出している。
 残る左手で何とか地に堕ちたルシールを掴み、歯を鳴らしながら、アノンは抱いた。

 体中が、緑がかって透けていた。ルシールとの接触も、もうあまり意味を成していなかった。
 翼からは羽が抜け落ち、溶けだした肉と筋が広がっていく。
 虎のような鋭い眼光も、金の光を失い、白んでいた。

( ゚ω )《殺す》

 見下ろすブーンの瞳に、憐憫や同情の色など無い。
 アノンに向ける銃口と同じ、暗い黒色をしていた。

541 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:06:58 ID:vZ751BWI0

 ブーンの手は、アノンの血肉や筋がべっとりとまとわりついていた。
 汚れたバイオニックアームが握るのは、BlueBulletGun。
 45口径の銃口から10倍サイズの抗ウィルスエネルギーが放たれる、高出力の銃。
 砲とも呼べる殺傷力を誇る代物、それを握る為に造られた肉体に、傷一つすら残っていない。
 何度損傷しようが、ナノマシンがマテリアルをサーチし、ユニットを復元させてしまうからだ。


( ゚ω )《弾き、殺す》


 突きつけられた銃口を覗き見て、アノンは、暗い穴の底に吸い込まれそうだった。
 ジョルジュの言葉が、頭を過ぎた。
 暗い穴の底のようなこの世では何が正しく、何がクソか。


爪; Ⅳ〉「こんな、はずじゃ、なかった……」


爪; Ⅳ〉「これが、そう、なの、か……こりゃ、キツイぜ……」


爪; Ⅳ〉「生まれて、初めて、解った。ごほっ! ま、学んだ……」


爪; Ⅳ〉「こんな、感情だったんだな、ごほ、」


爪; Ⅳ〉「死の、恐怖、ってのは、よ……」


 B00N-D1とリンクする銃の、レッドカラーのパワーインジケーターが発光する。
 トリガーに指が掛かった。

542 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:08:31 ID:vZ751BWI0

 場は密やかに騒がれていた。
 それまでルールとアノンに抑えつけられていた反抗勢力が、
 瓦礫の隙間から呪う言葉を囁いている。
 アノンが死ねば次は自分達が狩られる番だという事は解っていた。
 それでも、暴君の死を看取らない訳にはいかなかった。

「長かった……これで、ようやく、解放されるんだ……」

 一方でアノンに心底から忠誠を誓っていた者達の、悲愴な声も街を駆け巡っていた。
 暴君であったのは揺るぎない事実であったが、故に強烈なカリスマで率いていた。
 だからこそ彼等はアノンに忠誠であり、今まで従ってきた。
 アノンの生き方を選択したダイオードに己を重ねた者達でもあった。

「お、おい……アンタが死んだら俺達どうやって生きりゃいいんだ……?」

「ふざけんんじゃねえアノン! 他に誰があの機械の化物を殺すっつーんだ!?」

「本当は“アノン”はアンタにしか出来ねえ……出来ねえ事なんだよ……」

 二分する境界線を隔て、二種類の声に分かれていた。
 自由と戸惑いの、二種類だった。

ノハ;゚⊿ )「連中も、これで終わりだな……」

 System-Hollowで制御されたブーンには、何ら意味の無いただのサウンドだった。
 まだクリアじゃない。すぐに全て狩らなければ。そんな、使命を帯びた欲求だけが潜在していた。


ミ,,;゚∀゚シ「だが、ブーンは止まらない……このままでは、
       生きるべき感染者すら、殺されてしまう」


( ゚ω )《クリアだ》

543 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:09:21 ID:vZ751BWI0


( ゚ω )「う、あ、」

ミ,,;゚∀゚シ「何だ……? 何が、起きているンだ、あいつの中で」

 だが、トリガーは絞られなかった。
 ブーンは、小さく喉を鳴らした後、停止した。


 ※

 街を覆い尽くす暗雲は数値と記号の羅列が正体だった。

 しかし世界は機械と、ブーンの精神の両方の投影で造られたものだ。
 全てがSystem-Hollowの制御下である事を否定する様相が一つある。

 荒れ果てた地を、一機の紅いバイクが走っていた。

 乗り手はトレードマークのドレッドを揺らしながら、一点に集束する暗雲の動きを見つめている。
 暗雲は立体的に膨らみ、その世界の何よりも巨大な存在となって地に根を下ろした。
 長い髪を掴み、自分の生首を持ち歩く巨人は、この世界を埋め尽くす罪悪感と恐怖の象徴だ。

(*゚ー゚)《何で貴方が出て来るのかなぁ、ギコ君?》

 赤い唇を動かしてシーケルトが声を発した。
 シーケルトの唇の色づきは、彼女自身が吐く血で染められたものだ。

 指に髪を絡ませ、ランタンのように運ばれるシーケルトの首は不気味な笑みを浮かべたままだ。
 笑い声を上げる度に、口元から血が零れる。
 手を支点に振り子運動し、口から飛んだ血が隕石のように降り注ぎ、投影の街が音を立てて崩れてゆく。
 形を綺麗なままに残していた尖塔が折れ、代わりに数値と記号の硝煙が歪に立ち上っている。

(*゚ー゚)《私を完璧に排除する為? それとも私と寄りを戻してほしいなんて?
     ふふふ、どちらにせよ望みはもう叶わないけど?》

(,,゚Д゚)「黙れ、シーケルトの形をしたゴーストめ。とっとと去れ」

544 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:11:07 ID:vZ751BWI0

(*゚ー゚)《シーケルトのゴーストかぁ。
     そうはいっても私は、システムがブーンの深層心理を読んで造った投影なのよ?
     去れって言っても無理よ、仕方ないじゃない。私をあんな風に殺したんだもの》

(*゚ー゚)《永遠に私はここから消え去りはしないわ。
     たとえシステムをハックしたとしても、絶対にブーンは“この私”を消せないわよ?》

(,,゚Д゚)「では俺が何故ここにいると?」

(*゚ー゚)《さあ?》

(,,゚Д゚)「理解しているはずだ、しらばっくれるなよ機械が」

 ギコの投影がバイクの操作部をタッチし、コクピット内の武器庫を展開する。
 現れた銃底を引き上げ、太い銃口をシーケルトの首に狙わせる。

(,,゚Д゚)「お前を変えてやる、シーケルト。
     ビロードの面倒をよく見て、皆に優しかった、あの頃のお前に」

(*゚ー゚)《あら、なんだか口説かれてるみたいでドキドキするわ……でもね、
     Hollowに繋がれてた時の貴方の方が、私は好みかな》

(*゚ー゚)《もしくは、私が殺された時の貴方は、もっと―――――》

(,,#゚Д゚)「いつまでも機械ごときがしぃの姿でベラベラと喋るんじゃねえぞゴルァ……!」

 シーケルトの声は、甲高く抜けて響き渡る銃声が掻き消した。
 目の覚めるような蒼い光がシーケルトの瞳に突き刺さる。
 しかし泉に投じた石の如く波紋を瞳に広げるだけで、シーケルトは笑みを崩さなかった。
 地響きを鳴らし、シーケルトは歩を速め、振り子の運動速度を上げてギコに迫る。

545 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:11:27 ID:vZ751BWI0


(,,゚Д゚)「……スネーク、急げよ」


 降りかかる血が周囲を数値と記号の無色彩の暗闇に変貌させる中、ギコはバイクを走らせる。
 このままではあの投影を打ち消す事は叶わないと、自覚を帯びて。


スネーク「若いの」

 剥き出しの古びたバイオニックアームが、口元から煙草を離し、

スネーク「あのギコの投影は、お前の何だと思う?」

 煙草をくゆらせてスネークが傍らのブーンに問う。
 ブーンは顔を伏せたまま、床に言葉を落とす。

(  ω )「ギコさんが、僕の何かって……?」

(  ω )「あのギコさんの投影も、僕の一部だと言うのか、オッサン」

スネーク「そうだ。ここはお前の心の深い場所で、お前自身なんだ」

 スネークは深く煙を吸い込み、広く吐いた。
 煙はLEDの光を浴びて、ダークブルーに色づいていた。
 不鮮明で薄暗く、煙に覆われた空間は、確かに自分の心の様相を呈しているようだ。
 手足も生身で、狭まった視界に拡張現実の表記やフィルターの類も一切ない。

546 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:12:43 ID:vZ751BWI0

 ブーンは己のまた心像なのだと認識するが、睡眠中の幻覚とは思えぬ程意識はクリアだった。
 明晰夢とも白昼夢とは似て異なるとも、感じ取れていた。
 スネークが半分寝ているようなもの、と言った通り、
 ここは生身と機械のメカニズムで造られた、夢に似た認識の中であった。

 ブーンは顔を僅かに上げ、髪のカーテンからスネークをまじまじと覗いた。
 記憶よりも鮮明に映し出されたスネークそのものだった。
 だが、自分の持つ記録とは異なっているようにブーンは感じた。
 その見覚えのない剥き出しのバイオニックアームは、外部からの働きかけである事を誇張しているようである。

(  ω )「アンタも投影なのか?」

スネーク「投影と言っても差し支えは無い。俺はバイナリ・データだ。
     今の俺はスタンドアローンで動作するシステムであり、お前の心とは隔離されたパーソナルだ」

 スネークは煙草数ミリの間隔を空けて続ける。

スネーク「いや、どうだろうな……この俺がこうして現れるまでは、お前の投影だったのかもしれない。
     お前は俺をバンダナに見立てた。
     そして俺もまた、そうだった……特に、ビロードに対してはな」

 物には意思が宿る。
 いつの日かビロードに説いたという言葉を、ブーンとスネークは反芻する。

 先に切り返したのはスネークだった。

スネーク「仮に、純粋なお前の投影としてここに居たとしても、シーケルトに押しつぶされていただろう。
     ギコと共にな。そのギコも、このままではシーケルトに消されてしまう」

(  ω )「……どういう意味だ?」

547 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:13:41 ID:vZ751BWI0


スネーク「ギコは、お前の持つ希望と可能性の投影だ」


(  ω )「……希望と、可能性? そんなものが僕の中にあると?」

(  ω )「何故、アンタがそんな事を言える?」

スネーク「ずっと見ていたからな」

 スネークは親指で自分の額を指し示す。
 煙草の吸い殻を胸元の携帯灰皿に入れてから、続けた。

スネーク「お前のプロフェッサを介して生成されるバリナリ・データではあったが、
     しかし、今や人の感情は観測可能だ。だからSystem-Hollowなんて物も生みだされた」

(  ω )「だから僕を庇護出来ると言いたいのか」

スネーク「そうではない……若いの、この俺は元々、ハッキングから防護するバンダナに過ぎなかった。
     その点ではお前を護れると言える。Hollowも何とか解除してやれる」

スネーク「庇護されていたのは俺も同じだ。古い友が俺をどうにか生かしたかったらしくてな」

スネーク「そうして生かされた俺も、所詮は0と1で構成されるゴーストでしかない。
     肉体は滅んだ。高度なAIがスネークというパーソナルを模しているに過ぎない」

スネーク「しかしそれでも、やれる事があるのは、悪くない気分だ」

(  ω )「やれる事って?」

スネーク「お前の意思を確かめる事だ」

(  ω )「意思?」

スネーク「そうだ。いいか、俺は手を貸すだけだ。あとはお前次第だ」

548 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:14:39 ID:vZ751BWI0

スネーク「若いの。この投影の世界にいるのは、死者だけだ。
     シーケルトもギコも、きっと俺もそうだったはずだ。
     そしてこの心の深い場所がボストンである理由も、それと同じはずだ」

(; ω )「え?」

スネーク「柱に縛られていたのもそうだ。
     お前はまだ帰還していなかった。全てが狂いだしたボストンから」

(; ω )「……そうだ、その通りだ。僕がここにいるのは、きっと」

(; ω )「僕には、アノンを、父の皮を被ったあの悪魔を乗り越えられないからだ。
      そして永遠にしぃさんを殺した事を引きずるからだ。
      たとえアンタがハックしてSystem-Hollowを切ったとしても、
      依存を断ち切る事は決して出来ない。また求めてしまうはずだ」

スネーク「このままではな」

スネーク「だが、それでもお前の中のギコだけは生まれ変わっていた。
     お前との戦いの果てでギコは悟った。あの時のお前の言葉で気づいた。
     生きていくには我武者羅に、強い意思を保つ必要があると、お前はそう言ったんだ」
 
(; ω )「……そうだ。だからサードを何人も殺した。セントラルを守ろうと。
      アノンだって殺そうとした。仮面を外すまでは」

(; ω )「僕は、僕は、殺人鬼なんだ」

(; ω )「教えてくれスネーク。あの二人は、デミタスとディは、どうなった?」

(; ω )「二人は、愛し合っていた」

549 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:15:28 ID:vZ751BWI0

スネーク「……二人は、お前の手とシステムによって撃たれてしまった」

(; ω )「だったら! やっぱり僕は死ぬべきだ! 僕は、僕は、」

(; ω )「僕は、やはり殺人鬼なんだ。殺人マシーンなんだよ!
      自分で止められるはずがない。だから、頼む、スネーク」

(; ω )「僕を、殺してく―――」


スネーク「いい加減にしろ!」


スネーク「その弱さが二人の死を招いたんだ!」

スネーク「人殺しが正当化される理由なんてない。正当化される時代もない。
     それでもだ。お前には守るべき者がいる。目覚めて銃を握る理由がある」


(;゚ω゚)「違う、それが間違いだったんだ、オッサン」

(;゚ω゚)「ああ、そうだ。僕は弱い」


(;゚ω゚)「僕は、僕たちは外に出るべきではなかったんだ。
      地下深い穴の底で、地上の事なんて忘れて生きるべきだった。
      そうしていれば、誰もきっと死なずに、誰も狂わずに生きていられた」

(;゚ω゚)「アンタだって、ギコさんだって、しぃさんだって、きっと」

スネーク「しかし脅威は忍び寄る。
     セントラルの市民にそう告げたのも、お前だ。
     ハングドランクは、いずれセントラルに到達していただろう」

(;゚ω゚)「それは…………」

550 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:16:25 ID:vZ751BWI0

スネーク「だから誰かが戦わなければならない。誰かが悪意に立ち向かわなければならない。
     それが出来るのは、若いの、お前しかいない」

(;゚ω゚)「――――じゃあ、何で僕なんだ!?」

 ブーンの怒声が空間を震わせる。

(;゚ω゚)「どうしてなんだ。僕はただ仇討ちがしたかっただけのガキだった。
      セントラルで生きる子供達と何ら変わらない、普通のガキだ。
      免疫があるから地上へ出れただけなんだ!」

(;゚ω゚)「今はビロードの抗体だってある。
      もはやウィルスに立ち向かうべきは僕でなくていいはずだ!」

スネーク「ビロードにも同じ事を言うのか? お前の大切な友人達に対しても、同じ事を?」

(;゚ω゚)「そ、それは……だけど、だけど!」

スネーク「まあ分からないがな、未来の事なんて。
     それでもだ、お前が戦って生きる限り、誰かが犠牲になる事は無いはずだ」

スネーク「お前を冷酷な戦士に仕立てたフィレンクトもまた、一つの悪意だった」

(; ω )「僕には選ぶ未来は無いというのか、オッサン」

スネーク「……セカンドアースの話を聞いた事が?」

(; ω )「セカンドウィルスを送り込んだクソの惑星が何だってんだ」

スネーク「まあ聞けよ。ボストンで発見した資料なんだがな」

551 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:17:43 ID:vZ751BWI0

スネーク「12人の宇宙飛行士は中継基地の火星から、土星近くに出現したワームホールへ侵入した。
     時間をぶっ飛ばして別の銀河系へ直通する入り口さ。これがワープ航行の正体だった。
     ワープはナノマシンを注入して行われたが、生還の保証は無いものと飛行士は聞かされていた」

スネーク「死を覚悟した12人は、可能性を求めて別々の惑星を探索し、うち9人が死んだ。
     3名の宇宙飛行士が到達した一つの惑星、水と有機物を持つそこが、セカンドアースだった」

スネーク「9人がセカンドアースを見つける為だけに死んだ。
     有人惑星間航行に臨んだ12人は、誰かに選ばれた訳ではなく、
     人類を救おうとして自ら立ち上がった勇気ある開拓者だった……その結末は、もう言うまい」

(; ω )「勇気ある、開拓者……」

スネーク「選べる未来が彼等にも無かったのかもしれない。
     それでも、彼等は個を捨てて人類の未来を考えたんだ」

(; ω )「……宇宙飛行士のように、自分を捨てろっていうのか」

 問われたが、スネークは間を空けただけで、そのまま続けた。

スネーク「いいか。皆がお前に重ねるのは、いつだって希望と可能性の二つだ。
     お前が街で狩りをしているからこそ、未来を信じて生きていける者達がいるんだ」

スネーク「そして、お前だからこそ、悪意と脅威に立ち向かえるんだ。
     繰り返させるな。お前が身を持って知った悪意と恐怖を」

スネーク「個を捨てろ。だが、あの宇宙飛行士達と違って、お前は帰還出来る。
     個を捨てて戦い、守るべき家があり、そこで帰りを待たせている者がいる。そうだろう?」

 スネークはバイオニックアームの中で煌めく、オレンジ色のパンプキンダイヤリングをブーンに差し出す。

(; ω )「これは……僕が、ツンに渡した……」

スネーク「そうだ。お前の深いここでも光を失っていない。大切な者のはずだ」

552 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:18:28 ID:vZ751BWI0

スネーク「道に迷った時はこいつを思い出せ。戻るべきホームを失うな。
     お前にはまだ帰還しようとする意思が残されている。それを失うんじゃない」

(; ω )「……でも、僕の弱さを、赦してくれるはずがない」

スネーク「こんな所に縛り付けられているようじゃ無理だろう。
     死んだギコも、シーケルトも、生きているツンやビロードにもな」

スネーク「若いの、お前はもう、弱かった自分を受け入れて赦せ」

(; ω )「僕、自身が?」


スネーク「気づけ。お前自身も尊く素晴らしい命の一つという事を」

(; ω )「スネーク…………」


スネーク「簡単に投げ出すんじゃない。諦めるんじゃない。弱かった己を赦せ。
     しかし、己の弱さを赦すんじゃない。そうして生きるんだ。
     愛する命を守る為に、失った命を償う為に、その命を燃やすともう一度誓うんだ。
     そうすればきっと、お前は自分の弱さと過ちを赦せるはずだ」

スネーク「見極めろ。本当の悪は何であるのか。殺すべき者は何であるのか。
     お前の中で生き続ける、ギコのように」

スネーク「お前は、殺人鬼なんかじゃない」

(; ω )「……ぼ、僕は、」

553 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:19:36 ID:vZ751BWI0

(; ω )「スネーク、本当に、僕は生きていいのか?」

スネーク「まだ間に合う。まだ約束は破られていない。幾らでもやり直せるさ」

スネーク「さあ、手を。これを取れ。そして思い出せ」

 ブーンがスネークの掌から指輪を取ると、周囲の空間に幾つものホロが浮かび上がった。
 それらには記憶と記録のツンが映し出されていた。


(  ω )「……ああ」


 越して、隣の家に挨拶に伺った時、フィンレクトさんとデレさんの影に隠れていたツン。
 巻きグソを垂らしたような髪型だなと言うと、泣いてしまったツン。
 すぐに報復行動に移り、自分も泣かすまで殴り続けてきたツン。
 一緒に両親に怒られて、また泣いてしまったツン。

 自分には全く理解の及ばない生物工学の論理を延々と語るツン。
 かと思えば新作の映画が気になるような素振りを見せたツン。
 ココアの香りを常に部屋の中に残すツン。

 映画の待ち合わせに遅れたツン。
 大人びようと慣れない格好や化粧を施してきたらしいツン。
 気の利かない僕が何も感想を言わないものだから、不機嫌だったツン。
 大人の嗜みだとか言い、ブラックコーヒーを含んだ瞬間、噴きかけてきたツン。
 最後は顔を伏せて今日は楽しかったと言ってくれたツン。

554 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:20:38 ID:vZ751BWI0

(  ω )「ツン」

 大学に迎えに行ってやると、いつまで経っても友達が出来ずにいつも一人きりだったツン。
 ココアじゃなくてコーラを渡すと頬を膨らませたツン。
 こちらの家で食卓を囲む事が多かったツン。
 でも、帰って来た両親にはべったりだったツン。

 自分の造ったサイバネティクスの事を自慢げに語るツン。
 遠く離れた惑星の事を興奮した様子で語るツン。
 空の下の事を落ち込んだ様子で語るツン。
 僕の腕を掴みながら、空を不安げに見上げるツン。

(  ω )「ツン……」

 地上に出ると言って聞かない自分を追いかけて来たツン。
 僕のせいで悲しい顔を浮かべていたツン。
 復讐に燃えたツン。
 休む暇もなく、ただ、ココアの香りだけはラボに残すツン。

(  ω )「ツン、ここににいるツンは……」

 ドクオと共にモニターを真面目な表情でじっと見つめるツン。
 モニター越しに少し疲れた表情を見せるツン。
 セントラルパークのエントランスで僕を見送るツン。

 ハインさんと聞くに堪えない口喧嘩をするツン。
 ドクオと僕を追い掛け回して殴り飛ばすツン。
 ショボンのバーボンハウスで飲みすぎて酔いつぶれるツン。
 背負って、肩越しに両親の事を呟くツン。
 僕の名前の後、帰ってきて、と呟いてくれるツン。

555 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:21:06 ID:vZ751BWI0
 ドレスを纏い、前髪をアップにして大人っぽくするツン。
 カードとルーレットの行く末に一喜一憂するツン。
 二人では不慣れだった高級レストラン、批評するも美味しかったと言ってくれるツン。

 指輪を見せた時、驚いた顔を浮かべるツン。
 プロポーズに顔を紅潮させるツン。
 いつかのように、俯きながらイエスと言ってくれるツン。 
 いつまでも待っていると言ってくれるツン。

 機械の体では折れてしまうのではないかと思う、小さなツン。
 渡したダイヤモンドを、眠るまでいつまでも愛おしく見ているツン。
 腕の中で穏やかに寝息をたてるツン。

 必ず帰ると約束した自分に、不安そうに頷く、ツン。
 いつまでも待っていると言ってくれるツン。


( ;ω;)「ツンは、ここに、いない」

( ;ω;)「お前に、会いたい。会って、お前を抱きしめたい」


スネーク「ここには思い出しかない。思い出があるから人は戦えるし、
     大切な者をただの思い出にしたくないから人は戦えるんだ」

スネーク「ツンの為にも再び銃を手に取れ。帰ろう。生きて、必ず、セントラルに」

 スネークが手を差し伸べている。掌には輝く小さなオレンジの光があった。
 機械仕掛けの古びた手を仕向けるその男の、鋭くも優し気な瞳を見て、ブーンは、

556 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:23:01 ID:vZ751BWI0


( ^ω^)「……帰ろう、我が家へ。ツンのもとへ、帰らないと」


スネーク「よく言った、若いの」


スネーク「ところでオレンジダイヤモンドにはこんな石言葉があるそうだ」

スネーク「心の調和、安らぎ。人間関係の修復。大切な人との心の繋がり」

( ^ω^)「大切な人との、心の繋がり……そんな意味があったのか」

スネーク「忘れるな。お前の心は大勢の人の心で連結されている事を」

 ブーンは首を縦に動かし、スネークの手の中のダイヤモンドを取った。

 周囲のホロがブーンへと吸い込まれ、ブーンの肉体は生身のそれから、
 ツン・ディレイクと共に造り上げて来た機械の肉体へと戻った。
 セカンド殺しの、システム・ディレイクへと。

( ^ω^)「戻った……戻ったお」

 腕を曲げ、拳を握って確かめる。
 ここはまだ内側の世界だ。厳密な物理法則は無い。戦える体なのかどうか、実感は湧かなかった。
 だが、外側へ戻る覚悟だけは確かだった。額をきつく巻きつける黒い帯と同様に。


スネーク「パートナー再開だ、若いの」

 スネークの突き出した拳に、ブーンは拳をガツンと合わせて応えた。


スネーク「準備はいいな?」

( ^ω^)「ああ」

スネーク「まずはあのゴーストと別れを告げに行くぞ」

 ブーンが頷く。
 スネークがバイオニックアームで空間を切り裂いて造った無色彩の出口を伝い、
 未だ暗雲に覆われたボストンの荒涼とした都市跡へと、二人は出た。

557 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:24:38 ID:vZ751BWI0
 二人はハーバードの記念教会の前にいた。
 veritas――真実――を意味する旗や十字架に損傷は無いものの、
 周囲は巨大なクレーターが幾つも存在していた。
 空を見上げれば質量を感じさせる流星のような血の飛沫が、街中に飛来している。

 スネークは視覚プロフェッサでクレーターを分析する。
 バンダナの経由でデータ共有され、ブーンにもあれらがバイナリだと判断出来た。
 1と0が構成するプログラムが、この心を浸食している様だとも、理解は及んだ。
 この教会が最終ラインのようだ。

 地響きが続く。
 遠くには、暗雲を纏って歩行するシーケルトの巨大なゴーストの姿がある。
 二人に気づき、シーケルトとは掛け離れた下卑た笑い声を轟かせた。

 崩れ落ちる都市のスパイクから、一機の朱色のバイクが飛び出す。
 急速接近し、二人の前で急停止して現れたギコは、全身に傷を覆っていた。
 傷口はクレーターと同様のバイナリで置換されつつある。

スネーク「待たせたな」

(,,゚Д゚)「アンタはいつもそれだな……でも、必ず連れて来ると信じていたよ」

 ギコがブーンの方に視線を変え、

(,,゚Д゚)「俺と一緒に戦ってくれるかい?」

( ^ω^)「それはこっちのセリフです、ギコさん」

(,,゚Д゚)「……そうだったな。これはお前の戦いだ」

558 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:26:00 ID:vZ751BWI0

(,,゚Д゚)「全力で行くぞ!」

( ^ω^)「はい!」

 シーケルトに付き従うように動く暗雲が、形状を変えていた。
 平面に描かれた絵の如く立体感を無くして、壁の如くシーケルトと共に迫る。
 教会を中心とした立方体の世界だ。ここを圧し潰そうと近づいてくる。 
 バイナリだ。平面の背景の中で都市群は崩れていく。
 地と空の境界を成す地平線も無く、全てがマーブル状に溶け、暗雲と同じ意味を持つ数値へと変換されている。

 それを従えるシーケルトも、平面の中で笑っていた。

(*゚ー゚)《あらあら、ブーン、出て来たんだ♪
     でも安心して。また地下に閉じ込めてずーっと一緒に居てあげるからさ》

( ^ω^)「……しぃさん、僕はいつまでもあそこに囚われてる訳にはいかなくなった」

(*゚ -゚)《――――そんな使命感すら忘れさせてあげるわ!
     Systemに従う単純な機械になってしまえばいいのよ!》

 足元に亀裂が走って崩れてゆく。3人は教会の門の前へと戻る。
 教会を中心に立方体の内側の世界が流転しながら狭まっていく。
 空の中を落ちているのか、飛んでいるのか、不可解な光景の中、
 シーケルトが吐き出した血だけが平面を破って教会に飛来する。

(,,;゚Д゚)「スネーク!」

スネーク「任せろ!」

 スネークが対抗プログラムの拳銃を、血の塊に向けて発射する。
 小さな弾丸の数百倍あろう塊を次々に消滅させていくが、
 シーケルトはプロセスを進行させようと攻撃を激化させて、更に血を吐いてゆく。
 壁も狭まり、遂にはシーケルトが平面の向こうから指先を立体させる。

スネーク「対処し切れん! おい! 若いの!」

 ブーンは頷き、オレンジ色の輝きを指に嵌める。
 瞬時に、視界はARで溢れていく。
 その中で、愛機の名のリードアウトが強調されている。

559 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:26:32 ID:vZ751BWI0

( ゚ω゚)「BLACK DOG!!」

 主人の叫び声を聞きつけた機械仕掛けの猟犬が、開かれた門から飛び出した。
 4つのノズル・イジェクトの蒼い吐息は激しいが、エンジンの唸りは静かだ。
 犬型のフロントボディに穿たれたインレイからは鋭い光が放たれている。
 コクピット内、ティアドロップ状のタッチパネルが煌めいてホストとのリンクを遂げた。

 変形し、空中に離散したパーツがB00N-D1にマークを照射、
 ブーンに引き寄せられるように着装フェイズが進行し、強化外骨格システムへの移行を完了する。

 2メートルを優に超えた黒尽くめの長身。
 元の鋭利さを残す漆黒の金属が全身を覆い尽くしている。
 頭部は「バイクのフロントボディ」を想起せざるを得ない、
 ソリッドなフォルムのヘルムで覆われている。
 こめかみの辺りから後頭部に伸びた突起は、獲物を追う獰猛な獣の耳のようである。
 腰を飾る四つのノズルはまるで異形の尾を思わせる。

スネーク「若いの、Hollowとトラウマの沃野の壁を穿つぞ」

 スネークが拳銃を向けて告げる。

 背負っていた2つの巨大な砲身が肩部へシフトする。
 尾のように揺れるノズルも対象方向へ向けて伸びている。
 砲身の装飾文字が放つ光が最高点に達する。
 視界に展開されたSixBarrelBlueLazerCannonのUIは、スタンバイフェイズを終えている。

(,,゚Д゚)「ぶちかますぞ、ブーン」

 ギコが両腕からマンティスブレードを出現させて告げる。

560 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:27:35 ID:vZ751BWI0


ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「僕は……俺は、まだ戦える!」


 発射承認と共に、ブーンが自分自身に告げる。

 ブーンとスネークが巨大な7つの蒼い光条を放った。
 シーケルトの指先からシステムに対抗プログラムが浸食してゆくと、
 平面だった壁が立体感と秩序を取り戻し、地平線と街並みを蘇らせてゆく。

 バイナリの暗雲は新たな数値の羅列のランと共に色を蒼く変えていった。
 シーケルトの形をしたシステムの投影も、徐々に姿を消滅し、
 ノイズに塗れた甲高い叫び声を上げた。

(,,#゚Д゚)「オオォォオォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 最後にギコが飛び出し、シーケルトの顔面を縦に切り裂いた。
 断面から蒼色の数値に変換され、暗雲の払われた蒼穹の空へ吸い込まれようとしている。

 顔面の半分が消え去ろうとする時、シーケルトは血走った片目でブーンを睨み、


(*゚ -+'::..《後悔、する、わよ――――》

 そう言い残し、スネークがオーバーライトした数値に還元され、消えていった。
 世界は、平穏な青空と海と、それを望むボストンの都市が広がってゆく。


(  ω )「あの暗い穴の底にいる方が、きっと後悔してしまう。
      貴方の為にも、俺はあそこからホームに帰還する」

 アーマーを解いたブーンが、数値を漂わせる空を見つめ、姿の無いゴーストに返した。

561名無しさん:2019/02/13(水) 22:28:16 ID:R5KrVS/20
駄目だイトーイで笑ってしまう
感動的なシーンなのに

562 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:28:42 ID:vZ751BWI0


「よく言ったわ、ブーン」

 教会から出て来た者がブーンに声を掛ける。 

(*゚ー゚)「よく、立ち直ったね」

(  ω )「しぃさん……」

スネーク「シーケルト」

 シーケルトだった。ブーンの知る生前の姿を取り戻している。
 それは深層心理に抱えていた闇からの脱却を物語るものだが、
 スネークは口に出すのはヤボだと思い、見守っている。

(*゚ー゚)「もう私にした事を赦して。自分を赦してあげて。
     あの時、私もきっと、大切な人を守りたくてした事だったはず」

(  ω )「それでも貴方にした事は絶対に忘れません」


「ホライゾン」

J( 'ー`)し「確かにお前は赦されざる事をしてしまった。
     でもね、お前が痛みを伴って救った命がある事を忘れちゃだめだよ」

J( 'ー`)し「ツンちゃんを守れるのはお前だけよ、しっかりおし」

(  ω )「カーチャン」

「息子よ」

( ФωФ)「私達もお前とツンを守る為に死んだ。地上の私の亡霊に囚われるな。
       お前の映す投影になったとしても、それはお前の知る私達だ」

( ФωФ)「撃つべき者を見極めろ。正義とは何か。
       トーチャンとカーチャンの息子のお前なら、解るはずだ」

(  ω )「トーチャン」

563 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:29:56 ID:vZ751BWI0

(,,゚Д゚)「ブーン。生きろよ。希望と可能性を忘れるな。
     そしてもう、選択を誤るな」

(  ω )「はい、ギコさん」

スネーク「若いの」

スネーク「忘れなければいつでもまた皆には会える。
     心の中だけは唯一死も時間も超越し、連結する事が出来る固有のスペースなんだからな」

スネーク「ここにいる全員が望んでいた未来をお前に託している。忘れるな。
     全員の意思を。思い描く遠い未来の形がどんな物なのか。そしてその輝きを」

 ブーンは自分の薬指に嵌めた指輪を見ながら、スネークの言葉に頷いた。

スネーク「System-Hollowを解く。だがその前にもう一つだけ言っておくぞ」

スネーク「フィレンクトのシステムは強力だ。今の俺じゃ抑えるだけが精いっぱいのようだ……。
     いいか。お前が望めば、またシステムはお前の何かと連結し、取り込むだろう」

(  ω )「ああ、解ってる」

スネーク「よし……戻るぞ、外へ」

 スネークがブーンの肩に手を置く。
 ブーンは視界が白く広がっていくのを感じ、上層へ登っていく感覚を認識した。

スネーク「…………」

 スネークは消え去る間際まで、ギコの瞳に視線を注いでいた。
 その表情を読み解いたギコが僅かに頷いた。

564 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:31:19 ID:vZ751BWI0


(,,゚Д゚)「……二度と選択を誤ったりしないさ。大丈夫さ、きっと」


 ※


( ゚ω )「う、あ…………?」

 深い眠りから目覚めた時の気の怠さを頭の芯に覚えながら、認識したのは拡張現実と自分の唸り声だった。
 熱源は、瓦礫の塔に巻きつく炎からだった。
 音源は、それが隠しきれていない数多の心臓の速い鳴りからだった。
 視覚の中央では、ターゲッティングする十字の赤いフィルターが、標的を失って揺れている。

 ブーンはクリアな感覚で、360度に広がる視覚が造る非現実的な光景に茫然とする。
 無残に内容物を曝け出した死体の数々、焼き尽くされて炭化したスプロールの一角。
 これが自分の所業だとは信じたくはなかった。
 だが、紛れもない事実である事は、LOGにアクセスせずとも、血塗れの手を見れば瞭然であった。

(; ω )(僕の、せいだ……僕が、弱かったから……)

 認めなければならない。自分の弱さが招いた、逃げようのない現実であると。
 物陰にはジョルジュ・ジグラードというフレンド・ロケーションと、
 ヒート・ダイムバックダレルと思わしき反応がある。
 そこに意識を深く向けると、ヒートが酷く損傷している事が解った。

 ブーンはLOGにアクセスする。頭の中に、友人の二人まで襲ったという記録が生々しく残っている。
 その恐怖がブーンの脳内を支配する。
 帰るという事は、この現実を直視するという事でもあったと、覚悟はしていた。

スネーク『幾らでも償える。まだやり直せる。そう言っただろ、若いの』

(;゚ω゚)(スネーク)

 ブーンの生体反応を監視するスネークが、脳内に放出される物質を鑑みて、そう声を掛けた。
 スネークの声を聞き、脳裏にフィードバックされる夢は現実の物だったとブーンは感じる。
 自分は、赦してもらえるのだろうか。
 再びそう問うのは無粋だと思って、ブーンは小さく首を縦に動かした

 周囲を、改める。

565 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:33:06 ID:vZ751BWI0

 街は助けを求める声と、暴君に死を望む声の二つが囁かれていた。
 大きな境界線で二分された街に、それぞれの立場を形成しているようだった。
 ブーンは、指を掛けるBlueBulletGunと、獲物を失ったエイム・システムの意味を理解した。


(;゚ω゚)(……アノン……そうか、お前と……)


爪; Ⅳ〉「今、帰る……帰るぞ……」


 アノンは、ブーンに背を向けて這っていた。もう、ルシールすら置き去りにして。
 這って進んでいると言うにも怪しく、蠢いているだけにも見えるだろう。
 ボロボロのジャケットからはグリーンに艶めく肉が露出している。
 透けて見える血管や骨組み、髪が抜け落ちた頭皮などが、アノンの死を連想させた。



爪; Ⅳ〉「死んで、たまるか……絶対に、生きて、ごほっ!」

(;゚ω゚)(……お前……)


 アノンは、死にかけた蟲さながらの無様さを露呈しても、
 帰るべき場所に向かわなければならなかった。
 目は見えていない。眩いくらいに白んだ視界の中で、愛する者の顔だけが見えていた。


爪; Ⅳ〉「セリオット……まだ、顔も知らない、俺の子供……今、帰る、帰るぞ……」


 愛する者の名を何度も繰り返し、アノンは向かれている銃口の恐怖を払おうとしていた。
 撃たれずとも訪れる死を予感していた。
 だがそれでも、アノンは帰らなければならなかった。愛を知ったのだから。

566 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:34:07 ID:vZ751BWI0

「もう少しだ」

 ブーンの覚醒と同時、谷底から這い上がろうとする者がいた。
 このまま谷底で震えているのは耐えられなかった。
 あのブーンがいる限り、Awakerにとって地上が危険地帯になるとしても、行く末が気掛かりだった。

 谷底にも、アノンの死に関し二分して願う声が流れ込んでいた。
 セントジョーンズは見届けなければならなかった。
 あの暴君アノンが死に、Awaker達の行く末が変わる瞬間を、彼等がどう選択するかを。

/ ゚、 ;/「私を、離して。私は、貴方を殺そうと、ごほ、したんだから」

 ダイオードの声がか細く響く。
 セントジョーンズはダイオードを抱え、力の入らない翼を何とか羽搏かせている。
 左膝から先を失って、谷底に繋がる下水へ血を落としていた。

/ ゚、 ;/「どうして、私を、助けるの?」

 抱き抱えられたダイオードは、息絶え絶えに尋ねた。
 腕や腹に得た重傷は融解を留め、既に再生を始めている。
 傷口では肉の盛り返す動きが生じている。

 セントジョーンズに切断した傷口から血を飲み込まされ、その後、脚を喰わされたのだ。
 バトルスーツに焼き尽くされた地下では有機物を発見できず、
 抗体に汚染されて絶命寸前だったダイオードを救うには、そうするしかなかった。

 だが、セントジョーンズに躊躇いは無かった。

(;'e')「お前を見捨てる訳にいかない。俺達はForsakenだ。
     俺達が刻んだタトゥーってのはそんな軽いモンじゃないって事だ。
     もっと、早く思い出していれば、よかったな……」

(;'e')「……確かにもう、解り合うのは難しいかもしれないけどな。
     それでもお前に生きて欲しいと思ったんだ」

/ ゚、 ;/「……私は、最期は、アノンに従った。
      今も、そう。貴方から見れば、ごほ、生きる価値なんてない、女なのよ」

567 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:34:57 ID:vZ751BWI0

/ ゚、 ;/「私は、どうすれば、いい?」

/ 、 ;/「アノンまで、いなくなったら、どう生きればいいか、分からない。分からないのよ」

/ 、 ;/「アノンを、失いたくない……」

(;'e')「ダイオード……」

(;'e')「……どう生きればいいか、生きながらまた考えればいい。
     いつだってそうだった。世界がぶっ壊れる前から、いつだって」

/ 、 ;/「セント、ジョーンズ」

(;'e')「出るぞ、地上に。決着を見届けよう」

/ 、 ;/(……アノン……)

 セントジョーンズとダイオードは街を境界する谷から出て、地上に降り立った。
 二人の目に飛び込んだのは、銃口を向けるブーンと、這いずるアノンだった。
 ダイオードが手をアノンに伸ばして叫ぶ。

/ ゚、。;/「アノン! アノンがまだ生きている! アノン!」

(;'e')「ダイオード! 止すんだ! 諦めろ! ダイオード! ――――うっ!?」

 ダイオードはセントジョーンズの腕に牙を咬ませて解き、アノンへと走り寄った。
 力の入らない脚では思うように走れず、最後は脚を縺れて銃口の前へと転がり込んだ。
 ダイオードを追おうと羽を動かしたセントジョーンズを見て、
 咄嗟に飛び出したジョルジュが羽交い絞めにして物陰に引きずり込む。

568 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:35:54 ID:vZ751BWI0

(;'e')「離してくれジョルジュ! ダイオードが! ダイオードまで死なす訳には!」

ミ,,;゚∀゚シ「お前まで死なす訳にいかねえンだ! 無茶はさせねえ!
       お前は必要な人間だ! サードにとって、必要な人間になる!」

ノハ;゚⊿ )「ハングドランクは終わる。これからサードをまとめる人間が必要って訳か」

(;'e')「離せ! これ以上仲間が死ぬところを見過ごせるか!」

ミ,,;゚∀゚シ「聞け! セントジョーンズ! ブーンの様子がおかしい!
       アノンを撃とうとしねえ……自我が戻っているのかもしれない」

(;'e')「……何だと? そ、それなら、何故彼は撃たない?」

ミ,,;゚∀゚シ「それが解らねえ。だが、きっとブーンは――――」


 目の前に飛び込んだ女の顔を、ブーンはじっと見つめた。
 アノンとの戦闘の最中に飛び込んできた女で、ダイオードという名も知っていた。
 そのダイオードがまたアノンを庇おうと割り込み、銃の射線にいる。
 ターゲッティングのフィルターの中心には、悲愴さを浮かべた顔がある。

 ダイオードが片腕を広げてブーンに乞う。

/ ゚、。;/「お願いよ……この人を、殺さないで……」

(;'e')「ブーン! 頼む! ダイオードを殺さないでくれ!」

ノハ;゚⊿ )「ブーン……」

ミ,,;゚∀゚シ「ブーン……しっかり自分で選択しろ。そして戻って来い。
       感情の無い機械になンて、なるンじゃない」

569 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:37:17 ID:vZ751BWI0


 ブーンは銃口を向けたまま、ダイオードに、そして場のアノン派に聞こえるように告げた。


(; ω )「…………消えろ」


(;゚ω゚)「消えろ! もう二度とセントラルに近づくな!」


ミ,, ゚∀゚シ「ブーン……!」


/ ゚、。;/「わ……分かった、分かったわ……アノン、肩を」

(;'e')(ダイオード……)

 ダイオードがアノンに肩を貸して立ち上がらせる。
 力の無い体は折れ曲がって、今にも崩れてしまいそうになっている。
 ダイオードが導くまま、アノンは暗闇の中に消えてゆこうとしている。
 ルシールすら置き去りにして。

爪 Ⅳ〉「セリオ、ット……セリオット……」

 アノンは、目と耳の機能を失っていた。

 その姿を見た周囲のアノン派も、セントジョーンズ派も、言葉を失っていた。
 ルシールを振り回すあの暴君が見る影も無く、小間使いの女に支えられて憐れでしかなく、
 同時に、愛する女の名だけを呟く男の姿に、自分自身を否応なく重ねてしまい、
 アノンを殺そうとなどと誰も考えを持てずにいた。

爪 Ⅳ〉「今、帰るぞ、セリオット……」

/ ゚、。;/「アノン……」

570 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:37:45 ID:vZ751BWI0


(  ω )「……アノン」


(  ω )「お前の存在を、俺は許す訳にはいかない。
      俺の大切な人達を喰らい、その人の顔を得たお前を、決して許す訳にはいかない」


(  ω )「だけど、お前をゆるす……もう、十分傷付け合った」


(  ω )「もう、二度とこの線のこちらに、入って来るな。
      お前も、我が父のように家族を守れ。
      方法と選択を再び誤った時は、亡き父の誇りに賭けて、お前を殺す」


(  ω )「俺も、そうするから……だから……お前も……」


 見上げたブーンの視界に、暗闇の中で星が瞬いて流れていった。
 アノンの帰る家から、ブーンの帰る家の方向へと。


.

571 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:38:13 ID:vZ751BWI0


 ※


爪; Ⅳ〉「セ、リオッ、ト」

/ ゚、。;/「今、家に連れて行くわ、アノン。ほら、飲んで」

 ダイオードが自分の手首を咬み、アノンの仮面をずらして口元に運ぶ。
 アノンは血の匂いを嗅ぎ、たまらずダイオードの血を吸った。
 徐々に緑がかった箇所がDNAの螺旋に似た動きを生じながら、赤身のある肉を創っていった。

/ ゚、。;/「アノン、聞こえる? 見える? 私が解る? アノン!」

爪; Ⅳ〉「……お前、ダイオード、か?」

/ ゚、。;/「そうよ、私よ。私は、私だけは貴方の傍から離れないから」

爪; Ⅳ〉「……ダイオード……」

爪; Ⅳ〉「……すまねェ、こんなはずじゃ、こんなはずじゃ、なかったんだ……」

/ ゚、。;/「アノン……」

爪; Ⅳ〉「ごほっ! ごほっ! み、皆は、無事か?」

/ ゚、。;/「……多くがブーンと戦って死んだ。一方的に殺された者も、きっと」

/ ゚、。;/「……回復したら、やはり報復を?」

 ダイオードは恐る恐るだが、確かめなければならなかった。
 それが今すぐであれ、後となろうと、アノンが報復を行うと言うのであれば、

/ ゚、。;/(もう、その時は、セントジョーンズ、貴方に借りを返して、償うわ)

572 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:38:44 ID:vZ751BWI0


爪; Ⅳ〉「報復、か」


爪;゚Ⅳ〉「……そんな気分じゃ、ねェ、かな……」


/ ゚、。 /「アノン……」

爪;゚Ⅳ〉「学んだよ、今日も、たくさん。ごほっ! ごほっ!
      あぁ、しんどいぜ、抗体って奴ぁ……もう、二度と、撃ち込まれたく、ねェな」

/ ゚、。 /「……そうね……」

 期待していた言葉とは少し違った。
 しかし、もうアノンがセントジョーンズやセントラルを追う事は無いはずだ。
 一人で歩く事すら叶わない、弱弱しくなったアノンの姿から、ダイオードはそう確信を得て、

/ ゚、。 /「帰りましょう、子供達が待ってる。セリオットも――」


「動くな」


 瓦礫の物陰から、ダイオードを遮る警告が冷淡に流れた。
 ダイオードは歩みを止め、アノンは虎の目を暗がりに向ける。
 ゆっくりと姿を現した声の主と、従える者に、アノンは目を大きく見開いて、

爪;゚Ⅳ〉「……今度は、幻じゃ、ねェ……」

爪;゚Ⅳ〉「どうしてだ、どうして、ここに」

573 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:39:46 ID:vZ751BWI0


ミセ;゚ -゚)リ「殺すわよ? アンタの大切なこの子を。腹の子供も一緒に」

リ|;'ヮ')|「…………」


爪;゚Ⅳ〉「セリオット」

 現れたのは、ミセリとセリオットだった。
 ミセリは荒削りな骨製の剣の先を、セリオットの首に掛けていた。

/ ゚、。;/「ミセリ!? ど、どういう事よこれは!?」

ミセ;゚ -゚)リ「リンカーンパークのアジトを狙っている光が見えてね。
      あそこから逃げたのよ、セリオットに人質のフリをしてもらって」

ミセ;゚ -゚)リ「どうしてもセントジョーンズの安否を確かめたくって追って来たら……でも、これは……」

 ミセリが剣先を更にセリオットの喉元に触れさせて、

ミセ*゚ -゚)リ「予想外の展開ね。ダイオード、アノンから離れて」

/ ゚、。;/「ミセリ!?」

ミセ#゚ -゚)リ「離れろ!」

ミセ;゚ -゚)リ「セントジョーンズはどこ!? 生きているの!?」

爪;゚Ⅳ〉「……安心、しな。ごほっ、セントラル側に、行ったぜ、多分な」

 アノンが今にも飛び出しそうなダイオードを手で制して、ミセリの問いに返した。

574 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:40:46 ID:vZ751BWI0

ミセ#゚ -゚)リ「負けたのね、アノン。いい気味よ」

爪;゚Ⅳ〉「セリオットを、どうする、つもりだ」

ミセ#゚ -゚)リ「……私達をハングドランクから解放してと、そう脅す材料にするつもりだった。
      ずっとその計画だけが頭の中にあったわ。
      いくらシミュレートしても逃げ切る打算は生まれなかったけどね」

リ|;' -')|「そんな、ミセリ……」

ミセ;゚ -゚)リ「聞いてセリオット。貴方の為でもあった。私は貴方を解放してあげたかった」

ミセ;゚ -゚)リ「今までは叶わなかった……でも、今のお前なら私でも殺せそうね、アノン」

/ ゚、。;/「やめて、ミセリ、もう、アノンは」

ミセ#゚ -゚)リ「アノンが、何よ? いつもアンタは諂い媚びていたわね」

/ ゚、。;/「アノンはもう……私達を縛るような事はしないわ」

ミセ#゚ -゚)リ「そうかもね。ルシールを持っていない事を見れば納得出来るわ。
      でも、それが何? こいつにされてきた事を忘れちゃったの?
      それともアンタはこの期に及んでもアノンに従うって訳?」

/ ゚、。;/「違う、従うとか、そうじゃなくて私は――――」

爪;゚Ⅳ〉「ミセリ」

 アノンがダイオードを遮り、ダイオードの腕を解いて、崩れるように跪いた。

爪; Ⅳ〉「頼む、み、見逃してくれ……お前は、どこへでも、行けばいい。
      俺はもう、俺から離れる者を、追ったりは、しない。だから、」

575 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:41:43 ID:vZ751BWI0

爪; Ⅳ〉「頼む、セリオットを、離してやって、くれ。
      怖がってる……頼む、やめてやってくれ……」

リ|;' -')|「ア、アノン……」

ミセ#゚ -゚)リ「……私達が恐れる事を、身を持って理解したって訳?
      自分が弱くなってようやくか……でも、遅すぎるんだよ!」

ミセ*゚ -゚)リ「今のお前達相手に人質なんて取っても意味ないか。
      セリオット……離れていて、アノンを殺すから」

リ|;' -')|「ミセリ」

 ミセリがセリオットを解放し、自分の背後に下がるよう剣で触れずに押す。
 セリオットは膨らんだ腹を押さえながら、ロングスカートの中で足を後ろへと運んだ。
 こんな瓦礫の中であれ、可憐に見えるセリオットにミセリは微笑んだ。

ミセ*゚ー゚)リ「やっとこの時が来たわね」

 ミセリがアノンに向き直り、剣を構え直して一歩踏み出した。

ミセ#゚ -゚)リ「柱に吊るしてあげる、アノン。死体になった後でね。
      モニュメントになれたら本望でしょ?」

爪;゚Ⅳ〉「……た、頼む。頼める立場じゃないのも、解っている。
      だが、俺は、俺は、セリオットと、一緒に、生きてみたいんだ」

リ|;' -')|「アノン……」

爪; Ⅳ〉「学んだ事が、ある。し、死に、直面して……解ったんだ、選択するという事を。
      俺は……俺は、人間になる……なるんだ、絶対に。だから、頼む。
      お願いだ。お願いだよ、死にたく、ねェ、帰らせて、くれ」

ミセ#゚ -゚)リ「そうよ。選択すらする事をお前は私達から取り上げたのよ。
      それにセリオットはお前と生きる事を選択しちゃいない」

576 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:42:38 ID:vZ751BWI0


爪; Ⅳ〉「ああ、解ってる……俺が、悪かった……許してくれ……つ、償う……
      ……償ってみせる……だ、だから、赦してくれ、頼む、お願い、だ……!」


 アノンが地に頭を擦り付けてミセリに乞うた。
 その姿を見て、ミセリは更に血が頭に登っていく鈍い感覚に襲われる。
 腕も、発した声も、怒りがわなわなと振るわせていた。

ミセ#゚ -゚)リ「ふざけるな! お前にどれだけ虐げられてきたか……!
      赦すだって!? 冗談じゃないわ! 殺してやる!
      今度はお前が柱に吊るされて死ぬ番なのよ!!」

 ミセリが剣を振りかぶった時、セリオットがミセリの腕を掴んで、

リ|; - )|「ミセリ」

リ|; - )|「やめて、ミセリ」

ミセ#゚ -゚)リ「え……?」

ミセ;゚ -゚)リ「……セリオット? 何、言ってるの?」

リ|;' -')|「お願い。今、アノンを殺してしまったら、
      きっとあなた自身が、憎んでいた者と同じようになってしまうわ」

ミセ;゚ -゚)リ「あ、貴方は、憎んでいないの? この、悪魔を」

リ|;' -')|「……それは、わからない。でも」

577 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:43:27 ID:vZ751BWI0


リ|;' -')|「でも、今は、見逃してあげてほしい。
      この子が生まれたら、きっと、アノンも、もっと人らしくなる……。
      もっと大切な事を、学んでくれるに違いないと思うの」

 セリオットが手で押さえる腹に言葉を落とした。
 何度も刺して殺してやろうと思った、腹の子に。
 生まれてくるべきではないと思った、腹の子だった。

 指には指輪があった。髪には髪飾りがあった。
 衣服も全て、アノンに身に付けろと言われた物だった。

 セリオットは、これらは全てアノンが自ら調達してきた物だと知っていた。
 子供が出来てから、アノンが街で探して来た物だという事を。
 手渡された花束では、世界の美しさや優しさを一瞬だけ思い出させてくれた。

ミセ;゚ -゚)リ「本気で言っているの?」

リ|;'ヮ')|「本気よ。もう、腹をくくった。この子の、親になってみる。
      アノンと生きてみる。狂ったと思ってもらって構いません」

リ|;'ヮ')|「これが私の選択よ、ミセリ」

 セリオットがアノンを庇うようにミセリの前に出て告げた。

ミセ;゚ -゚)リ「セリオット……」

ミセ;゚ -゚)リ

ミセ; - )リ「……本気なのね」

578 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:45:43 ID:vZ751BWI0

ミセ*゚ -゚)リ「アノン」

ミセ*゚ -゚)リ「私はお前を赦した訳じゃない。だけど、生きる事を許すわ。
      でも肝に銘じて。またお前の影が忍ぶようになったら、
      必ずお前の首と大切な者を奪いに来るんだ、と」

爪; Ⅳ〉「生きて、いいのか、俺は」

ミセ*゚ -゚)リ「お前を憎んでいる者は大勢いる。
      セリオットをその身に代えてでも守ると誓え」

爪; Ⅳ〉「……お前と、セリオットに、誓うよ」

 ミセリはじっと見定めてから、剣をゆっくりと下ろした。

リ|;'ヮ')|「ミセリ……」

爪; Ⅳ〉「……セリオット、お前、いいのか? さっきの言葉、本当に」

リ|*'ヮ')|「……貴方が人らしく生きてくれるのであれば」

爪; Ⅳ〉「そうか」

爪; Ⅳ〉「そうか……」

爪; Ⅳ〉「……ダイオード、決めた事がある」

/ ゚、。 /「何? アノン」

579 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:46:24 ID:vZ751BWI0

爪; Ⅳ〉「ハングドランクから、俺は、降りる……解散するなら、して構わねェ」

爪; Ⅳ〉「この仮面の王冠も、もう要らねェ……外して、くれねェか?」

 ハングドランクの解散は予感していた。セントラルへの執着が無い事からも。
 アノンの頼みにはダイオードは戸惑いながらも従い、仮面のベルトを解いてやった。
 からんと乾いた音を立てて、血塗れの醜い仮面は地に堕ちた。

 穏やかな表情を浮かべ、アノンは細めた虎の目をまずセリオットに向けた。
 セリオットは口元を少しだけ緩くさせて返す。いつの日かアノンが見た笑みの通りだった。
 それから、振り返ってダイオードに言う。

(;ФωФ)「ごほっ……ダイオード……もう自由だ。
       お前も、好きに生きてくれ」

/ ゚、。;/「……私は」

/ 、 ;/「私、は……」

 どう生きるか。生きながら決めればいい。
 セントジョーンズの言葉がダイオードの胸に去来する。

/ 、 /「…………ミセリ」

/ ゚、。 /「セントジョーンズに伝えて。ハングドランクを解散する。
      アノンは終わり。セントジョーンズに着いていく者は誰も止めないし、追わない。
      これがアノンの、最後の言葉だと」

ミセ*゚ -゚)リ「……貴方、本当にこっちに来ないつもりなの?」

580 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:47:08 ID:vZ751BWI0

/ ゚、。 /「ええ。私はアノンとセリオットに着いていく」

(;ФωФ)「ダイオード。もう、自由なんだぞ?」

/ ゚、。 /「自由だからよ。今のアノンじゃセリオットは任せられない」

/ ゚、。 /「まだ私の方が何とか戦えるし……それに、こう見えても助産の経験があるの。
      外で産み落とした妊婦の助産よ。当時の夜の女には、珍しくなかった」

(;ФωФ)「ダイオード……」

リ|*'ヮ')|「ダイオード……ありがとう」

ミセ*゚ -゚)リ「……そう、分かったわ」

ミセ*゚ー゚)リ「何かあったら、いつでも頼ってきて」

/ ゚、。 /「ありがとう、ミセリ。ああそれと、もう一つ、セントジョーンズに」

/ ゚、。 /「見捨てないでくれてありがとうと、礼を。
      私はこれからしっかりと自分で生き方を考えると」

ミセ*゚ー゚)リ「伝えるわ」

(;ФωФ)「ミセリ……悪いが、あとは任せた。
       お前達に着いていく者は、多いはずだ……リンカーンパークの女子供達には、伝えておく」

ミセ*゚ -゚)リ「……せいぜい女達にぶっ殺されないように、と言っておくわ、アノン」

/ ゚、。 /「安心してアノン。私とセリオットで必ず皆を説得するから」

リ|*'ヮ')|「話せば皆わかってくれるよ。ミセリ、いつか子供の顔を見に来て欲しいな」

581 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:50:19 ID:vZ751BWI0


ミセ*゚ー゚)リ「……約束する。セリオット、元気でね」


 ※


ノハ;゚⊿ )「そうですか……あのフィレンクト博士のクローンが、
      ブーンに例のSystem-Hollowを施したんですね……でも、スネークが今は守っていると」

 ブーン、ジョルジュ、ヒート、セントジョーンズの4人が一堂に集っている。
 とうに限界を超えていたヒートは緊張の糸が切れたようで、敬語に戻っている。
 ビロードの抗体を打ち込んだ後は、ジョルジュの肩を借りていた。

 ブーンが首肯してからヒートに続いた。

(  ω )「はい。スネークのオッサンがHollowから守ってくれています。
      オッサンがいなかったら、きっと今頃、3人とも……」

 殺していたかもしれない。
 その言葉を吐き出すのをブーンは恐れ、飲み込んだ。
 ジョルジュがブーンの肩に手を置き、ブーンの黒い目を覗き込む。

ミ,, ゚∀゚シ「気にするな。とは言えねえか。クソヒーローが。
      相変わらず世話焼かせやがって……だが、何とか連中を追い払えたか」

('e')「アノン派もしばらくは鳴りを潜めるだろう」

 周囲にはセントジョーンズ派のAwakerしかいない。
 最初は皆ブーンに怯えていたが、それもセントジョーンズが安心させた。
 ここからは距離を置いて様子を伺っている者も多数いる。
 襲ってくる気配が無い事は獣の感覚でも、機械の察知でも明らかだった。

 ブーンの警告を聞いての事もあるだろうが、恐らくこれからの生き方に迷っているのだろう。
 アノン派の者も、そうでない者も、まだ多くいるようだ。
 そのようにセントジョーンズは考えを述べている。

582 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:50:43 ID:vZ751BWI0

ミ,, ゚∀゚シ「ブーン。アノンを、殺さなくて良かったのか?」

(  ω )「……解りません。この選択がどう転ぶか。
       それでも、赦す事も大事だと思って」

('e')「君がアノンを赦す、か……しかし本当にいいのか? だって奴は、君の父親を――」

(  ω )「いいんです。でも、もしあいつがまた悪に染まるようなら、
      その時は容赦しません」

ミ,, ゚∀゚シ「そうか……まあ、それでいいだろう」

ノパ⊿ )「セントジョーンズさんはこれからどうするんですか?」

('e')「ああ、それなんだがな……デトロイトへ戻ろうと思う」

ノパ⊿ )「デトロイトへ?」

('e')「ああ……俺達Awakerが非感染者と住む訳にはいくまい。
    なあ、ジョルジュ。落ち着いたらでいい、お前もデトロイトへ来ないか?」

ミ,, ゚∀゚シ「俺も?」

('e')「俺達Awakerが生きていける場所だ。セカンドも少ない。
    自給自足できる環境もある……文明の芽があるんだ。やり直せる場所だ」

ミ,, ゚∀゚シ「……考えておくよ」

583 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:51:17 ID:vZ751BWI0

ミ,, ゚∀゚シ「そうだ。デミタスとディも、そこへ行っているかもしれないな」

 その名を聞き、ブーンは目を伏せた。跳ね上がる心臓はもう胸の中に無い。
 先程、LOGにアクセスして確認を済ませていた。
 容赦なく銃殺し、斬り殺した二人の死体が視界に生々しく再生されたのだった。

('e')「恐らくな。デミタスに会う為にも、デトロイト方面へ向かってみる」

ミ,, ゚∀゚シ「話せば解ってくれる。あいつなら許してくれるだろうさ」

(; ω )「……ジョルジュ隊長、セントジョーンズさん」

ミ,, ゚∀゚シ「何だ?」


(; ω )「デミタスと、ディは――――――」


 ブーンが言いかけた時、ジョルジュの端末にコールが入る。
 ハインリッヒのネームがリードアウトされたホロにタッチし、ジョルジュは応答する。

ミ,, ゚∀゚シ「ハイン。俺もコールしようと思っていた。心配かけたな。だが、もう―――」


『すぐ、帰ってきてくれ』


ミ,, ゚∀゚シ「……何だ? どうしたんだ?」

584 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:51:59 ID:vZ751BWI0


『大変な事に―――クソ! もう、ラボまで来やがったのか!?』

 端末から銃声と、叫び声が聞こえた。
 ハインリッヒの荒い息遣いの背後に、喧騒がある。走り惑う人々の足音と叫び声が。

『はあ、はあ……ブーン、無事なんだな? 頼む、早く帰ってきてくれ!』

ミ,,;゚∀゚シ「ハイン!? おい!? まさか……」

(;'e')「どうしたんだ!?」

ノハ;゚⊿ )「……信じねえぞ、そんな事……」


(;゚ω゚)「ハインさん! ハインさん!?」



『セントラルが―――――』

ミ,,;゚∀゚シ「おい! ハイン! ハイン!?」


 通信が、切れた。


.

585 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:52:49 ID:vZ751BWI0

 同時に、セントラルの方角で巨大な爆発音が響いた。
 その場の多くが高層アパートの屋上へと飛んで移る。


ミ,,;゚∀゚シ「なんだ……ありゃ……」

(;'e')「一体、マンハッタンで、何が、起こっているんだ」

ノハ;゚⊿ )「セ、セントラルが……私達の家が……」


(;゚ω゚)「……あれは、感染体、なのか?」


 マンハッタン島の夜を赤く染める炎があった。

 巨大な炎柱が空に向かって伸びている。
 立ち上る炎の中で動く、巨大な生物の影がある。
 それが膨らんで息吹くと纏う炎が霧散し、根本から立ち上る黒い煙だけを充満させた。

 煙の中から徐々に伸びる数多の手があった。
 それは産声と呼ぶには太く重い振動を空間に広げ、ニューアークまで伝えた。
 声に押され黒煙が環状に広がっては闇夜と同化して消えてゆく。
 まるで星々を実に見立てる大樹のようなシルエットが、闇夜で蠢いていた。

 また爆発音が鳴り響いた。今度は空からだ。
 煙を上げる火種の正体は、ガイルのバトルスーツが放つミサイル群だった。
 OSM-SUITE隊と共に出現した謎の巨大生物と応戦しているようだ。

ミ,,;゚∀゚シ「ガイル……! クソ! 繋がらねえ!」

ノハ;゚⊿ )「私のもだ。誰にもコール出来ねえ……どうなってやがんだ!?」

ミ,,;゚∀゚シ「……ブーン! 先に行け! すぐに追いつく!」

(;゚ω゚)「了解!」

586 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:53:14 ID:vZ751BWI0


(;゚ω゚)「皆……ツン……! 今、帰る……! 今、家に帰るぞ!
      待っててくれ! 必ず、生きて待っていてくれ!」



 ブーンはBLACK DOGと共に街を駆け、セントラルへの帰還を急いだ。




                    第46話「HOME」終




.

587 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:53:59 ID:vZ751BWI0
ちょっと休憩したらおまけ投下します。

588お題『花』 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:59:12 ID:vZ751BWI0


LOG「オペレーション・ココア 2055年4月17日 - 18日」


( ゚ω゚)「唸れ! BlueBulletGun!」 バシュンバシュン

セカンド《ぎゃぁああああああああああああああああああ!!!》


 2055年4月。
 サイボーグ、システム・ディレイクに転化してから2年目を迎えようとしていたブーンは、
 マンハッタン島からブルックリン橋の残骸を見下ろして空を渡り、
 ハーレム川沿いに伸びる278号線付近で展開するミッションにアサインされていた。

 作戦領域内に存在するセカンドの掃討と生態系の観察、リサイクル可能な物資の発見などが任務だ。
 木曜日と定期メンテナンスの日を除き、代わり映えの無い毎日が続いている。
 と言えるようになった程、ブーンにとって街で狩りをする事は日常的で慣れたものと化していた。

( ゚ω゚)「ぺっ……! この虫けらどもが……!」

( ゚ω゚)「このB00N-D1がいる限り、お前達に生きる場所は無いと知れ……!」

( ゚ω゚)「セントラルはこのブーンが、必ず、必ず守るんだお……!!」

 なので調子に乗っていた。
 この時ブーンはまだ16だ。そんな年頃でもあったし、人々に持て囃される事も手伝って、
 完全に心は何かのアメコミヒーローのように染まりかけていた。

( ゚ω゚)「僕は、守らなければならない! 人々を! そして、皆を!!!」

589 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 22:59:57 ID:vZ751BWI0

ξ゚⊿゚)ξ『なに調子乗ってんのよ、丸聞こえなんですけど』

( ゚ω゚)「あ、え、ツン?」

ξ゚⊿゚)ξ『すっかりお年頃の男の子こじらせちゃって、恥ずかしいったらありゃしない』

ξ゚⊿゚)ξ『それに人々と皆って、同じじゃん。システムに語彙力でも追加してあげよっか?』

( ゚ω゚)

( ゚ω゚)

ξ゚⊿゚)ξ『中二病の擬人化みたいな顔してないで何か言って?』

590 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:01:02 ID:vZ751BWI0

( ゚ω゚)「……あのね、言うなれば外ってのは、僕にとって一人っきりになれるプライベートの空間な訳よ?
      こうやってストレス発散する時だってあるんだお。
      それをお前、こっそり覗くなんて、プライバシーの侵害甚だしいお」

( ゚ω゚)「わかるだろ!? 部屋に入る時のノックと同じなんだお!!
      こっそりプライベートな事してる時に入って来られたら嫌でしょ!?」

ξ゚⊿゚)ξ『そうは言ってもアンタの場合LOGで後で全部見られるじゃん』

( ゚ω゚)「それとこれとは別だお!」

ξ゚⊿゚)ξ『……まあ、そこまで頑なに言われると、確かにそうかもって思う部分もあるけどさ、』

ξ;///)ξ『……だって、今どうしてるか、気になるんだもん』ボソ

( ゚ω゚)「なんで?」

ξ;///)ξ『そ、それは、ほ、ほら、チームリーダーとして責任とかあるし』

( ゚ω゚)「うるさいお!! そんなんでお前が僕の行動を付きっ切りで見る必要ないお!」

( ゚ω゚)「中二病の擬人化だと!? 言ってくれたなツルペタ子め!
      巻きグソ! チビ! ジャリ! ツンはまな板の擬人化だお!!」

ξ#゚∀゚)ξ『……はい、今の発言で向こう3ヶ月給料30%カットね』

(;゚ω゚)「はあああああ!? しょ、職権乱用だお! パワハラ! パワハラだお!! 」

ξ#゚⊿゚)ξ『そっちこそセクハラ発言だったでしょうが!!』

(;゚ω゚)「……わ、わかった! さすがにまな板の擬人化は言い過ぎたお……!
      謝るお! だから減俸は撤回してくれお! やべえんだお最近財布が!!
      色々ほら、車とかマンションとか買っちゃったし? ローンがさあ!?」

ξ#゚∀゚)ξ『へえ、そんなもの買ってたんだ。ふーん。アタシ初耳』

591 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:02:09 ID:vZ751BWI0

(;゚ω゚)「い、いいじゃん別に。それもプライベートな事だし?
      車やマンションの一つや二つくらい買ってもツンに何か関係あるのかお?」

ξ#゚∀゚)ξ『プライベートねぇ……先週、第4階層のカジノレストランで女口説いてたって週刊誌に書かれてるけど?』ペラペラ

(;゚ω゚)「は? え? しゅ、週刊誌ぃ!?」

ξ#゚∀゚)ξ『お相手の名前はワタナベ=サンって人らしいんだけど……ふーん、アイドルなんだ?』ペラペラ

(;゚ω゚)「……いや、それは違うお! そういうのじゃないお!
      あれはただサインを求められたから応じてあげて、そのあとよく分からないけど流れで食事を一緒に――」

ξ#゚⊿゚)ξ『……この記事本当だったんだ!」

(;゚ω゚)「え? あ、あれ? え?」

ξ#゚⊿゚)ξ『それでその新車乗り回して行ったって訳ね、夜中の街に!!』

(;゚ω゚)「あ、いや、それは、だってアクセサーが故障して激混みだったから――」

ξ# ⊿ )ξ『そういう事じゃなくってぇええええええええええええ!』

(;゚ω゚)「ひっ!?」

ξ# ⊿ )ξ『どうしてその女なんかを先に新車に乗せたりしてんのよバカ!!
      せっかくの休日合わせて予定空けてるのに何で誘ってくれないのよ!?』

(;゚ω゚)「……えっと、どういう事だお……?」

ξ#゚⊿゚)ξ『……バカ! ナイトウの分からず屋! なんでいつも言わなきゃわかんないの!?
      もう知らない!! 帰ってくんな! ファック!!』プツン

(;゚ω゚)「あ、ちょ、ツン! ツン!?」

(;゚ω゚)「……何なんだツンのやつ……盗聴まがいの事したと思ったら突然ぶち切れやがって……
      訳わからないお。これだから女って面倒くさいんだお!」

592 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:03:08 ID:vZ751BWI0

(;゚ω゚)「あ、そうだ。こんな時はドクオに聞いてみるのが一番だお」

( ゚ω゚)「親友! 応答してくれ! 親友!! 」

('A`)『どうした親友』

(;^ω^)「実はツンの奴とこんな事が……通話記録を送信するお」

(;'A`)『…………はあ、ブーン、お前すげーよ』

(;^ω^)「は? なにが?」

(;'A`)『鈍さが』

(;^ω^)「へ? 鈍いって?」

(;'A`)(だめだコイツ、まるで女心を分ってねえ……。
     なんでこんなのがモテちゃうの? ねえ? やっぱりお顔なの?)

('A`)『なんで俺は貧相な爬虫類みたいな顔してワカメ乗せたような頭してんの? ねえ?』

(;^ω^)「ん? 何言ってんだおドクオ」

('A`)『あ、つい髪の毛の悩み吐き出しちゃった。てへ☆』

('A`)『まあともかくですよ。お前はツンを傷つけちまった。それはわかるな?』

(;^ω^)「機知に富んだジョークのつもりだったんだけど」

('A`)『まな板の擬人化は素晴らしいと思……じゃなくて、そういう事じゃねえんだって。
    ツンは昔っからの幼馴染で、アウトブレイクを一緒に生き延びた大切な子なんだろ?』

(;^ω^)「……ちょっと恥ずかしいけど、そうだお」

('A`)『なのにお前と来たら、買った車も見せずにマンションにも招かずに、
    挙句の果てに他の女とデートしちゃった』

('A`)『そりゃツンは怒るよ。ツンだからこそブッチ切れる。
    あいつは天才級の頭脳はあるけど、心は普通に複雑な女のそれなんだって』

593 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:05:15 ID:vZ751BWI0

(;^ω^)「ええと、つまり、どういう事だお?」

(;'A`)『あーもう! お前もしょうがねえ奴だな!」

(;'A`)『つまりだ。あいつはお前と常に一緒がいいし、お前にとっての一番でありたいんだよ。
     幼馴染で一緒に今まで生き延びて付きっ切りだった。それを手放したくねーんだよ』

(;^ω^)「そ、そういうもんなのかお……?」

('A`)『そうだ。うまくやりたいんならその辺ちゃんとしとけ。
    俺達チーム構成員もその方が楽だしな。
    貧乳でチビで砂利みたいだろうが、お前にとって大っっ切な存在なんだろ?』

(;^ω^)「おい! 僕の幼馴染をそんなボロクソ言うなお!」

(;'A`)『お前が言った悪口だろ……』

(;^ω^)「あ、そうだった。で、解決策は?」

('A`)『うーん、そうだなあ……あ、花でも贈ってやったらどうだ?
    そのあと買ったばかりの車走らせて家に招いて、食事でもする。どうだ?』

( ^ω^)「おお! それならツンの機嫌も直るかもしれないお!」

('A`)『外に出られるお前ならではだし、いいんじゃねえかな……よし、花だ、花を探せ、ブーン」

( ^ω^)「つっても何処を探すかお?」

('A`)『ちょうど近くにブルックリンには植物園があるな。作戦区域からは外れるが、
    クローンの品目も増やせるかもしれないし、名目は俺が立たせてやっから』

( ^ω^)「さすがドクオ! 伊達に若くして大学入ってねーお!」

(;'A`)『パイセンのコネで研究室使わせてくれてただけだし、
     散々デジタルの女を口説きまくってただけだよ。じゃあな、頑張れよ』プツン


( ^ω^)「花か……よし、ツンが見たことも無いくらい綺麗な花を探してみせるお」

594 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:05:57 ID:vZ751BWI0

 通信を切ったドクオの背後では、涙をすするツンの落ちぶれた姿があった。
 まさに砂利の如く小さくなっていて、踏みつぶされても文句の言いようがない有様だった。

(;'A`)「何を泣きじゃくってると思ったらこういう事だったのか……
     よう、あいつに約束取り付けてやったよ。これでうまくいくと思うぜ」

ξ;⊿;)ξ「ぐすん、ぐすん、ありがとうドクオォぉおおぉおお……」

(;'A`)「今回ばかりはマジで同情する。あいつ、あんなに鈍いなんてな」

ξ;⊿;)ξ「本当よ! わあああーん! ブーンの馬鹿あ! 死ね! 一回死ねあの馬鹿あ!」

(;'A`)「そーだねー1回死んで馬鹿直せって感じだねー」

ξ;⊿;)ξ「さすがドックン……! わかってる、アンタわかってる!
       アンタをこのラボに採用して本当に良かったあ! アンタは心の支えよ〜!!」

(;'A`)「まあ、これであいつも考え方とか、お前に対する見方も変わって来るかもよ?
     今はあいつの生還を無事祈ろうぜ……つっても近くだし、そんなに心配する事もねえか」

ξ;⊿と)ξ ゴシゴシ

ξ゚⊿゚)ξ「はあ、落ち着いてきた……ドクオ、ありがt」

('A`)「それにしても、まな板の擬人化かぁ、たまにうまいこと言うんだよなあいつ」ボソ

ξ゚⊿゚)ξ「……ドクオ、ちょっと一歩右に動いて? そそ、壁際に立ってみて」

('A`)「なに? こう? こんな感じ?」

         ξ゚⊿゚)三●)'A`)|壁


         ξ゚⊿゚)ξ   )'A壁

ξ゚⊿゚)ξ「そのまま今日一日壁にめりこんどけよ?」

)'A壁「ん゙んーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

ξ゚∀゚)ξ「あ〜すっきりした。ココア飲もっと。ココアちゃ〜ん!」

595 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:07:58 ID:vZ751BWI0
  ※

 ブルックリン・ボタニック・ガーデン。

 かつてから世界中の植物が集うここは、植物コレクションと専門庭園で美しさとロマンスを堪能出来る
 ニューヨーク随一の観光スポットだ。

 10数年前より始まった戦争と共に拡大した環境破壊は大地を枯らせ、地上の緑は年々減っていた。
 しかしながらここは、観光スポットである事も加え、貴重な植物サンプルの宝庫でもあった為、
 かの大手クローン会社ラウンジの庇護を受けるに至る。
 世論に対するコンプライアンスが目的だったのは誰の目にも明らかであったが、世論はその行為を受け入れた。

 ウィルスが訪れるまで、世界を蔓延していたのは、まるで中東から流れて来たような砂埃だった。
 枯れ果てた大地が割れて砂と化し、風に運ばれて大規模な砂嵐を大陸中に見舞う。
 マンハッタンは例外なく、時としてロックフェラーやタイムズ・スクウェアの広告群は砂で汚されていた。

 ラウンジ社はシェルター構造をここに追加建設し、植物を砂から守り、
 それから恒常的な季節感を巡らせて培養を続けた。
 化粧品や薬品などの製薬研究や、クローニング技術の研究が主たる目的ではあったが、
 ほんの一例だが、日本産の桜に覆われた庭園を保った事などは、世論に大きな評価を得ていた。
 ここに存在する400本の桜の開花は、ニューヨークにとって重要な春の儀式であったのだ。

( ^ω^)「ここかぁ……小さい時にトーチャンとカーチャンと来た覚えがあるお」

 庭園は、人々に愛されていた頃の姿をすっかり失っていた。
 侵入したセカンドの仕業ではないようだ。
 人の手を離れ、自然の流れに身を委ねた結果、夏の狂乱さだけが残ったような光景があった。

 ジャングルさながらの空間を、ブーンは歩いてゆく。
 セカンドの反応がちらつき、ノスタルジーに浸る余裕は今は無かった。

596 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:08:37 ID:vZ751BWI0

 人食い花よろしく、巨大な口を得た花が道端に咲いている。
 花弁の耐熱センサーが捉える反応のままに長い触手をブーンに伸ばす。
 中には足腰だけを根に代えて地中に沈めた妙な者もいる。

( ゚ω゚)「散るがいい! 怒りの5.7mmBlueMachingunでなあ!?」 パパパパパパッ

セカンド《ぎゃぁああああああああああああああああああ!!!》

 バラバラに散った死骸から肉片を摘まんで瞳に近づける。
 視覚プロフェッサの顕微機能を最大限活用すれば、より明らかとなった。
 細胞組織を簡易的に調べた程度だが、体の随所を細胞壁で構成している。
 どうやらここにいるセカンドは、殆どが植物のDNAを取り込んで変異した者のようだ。

(;^ω^)「化物共め……植物すら自分を変異する材料にして、光合成まですんのかお」

( ^ω^)「ここはセカンドの反応が少ない。草食動物は淘汰されつつあるって事かお」

 思えば、そうだ。
 都市内に緑が復活し、セントラルパークの木々にも目もくれないのは、
 連中が血眼に追っている食料とは獣や人型、蟲の類だったからだ。
 故に、ここに訪れるのは生存競争のワーストに位置する弱小セカンドばかりだろう。
 あるいは飢えた人間が感染したままここへ来て草木でも食べたか。
 それが人食い花の餌食となってしまうか、人食い花と化して地中に根を張るかへ至ったらしい。

 稀な例外として巨大な人食い花を確認できたが、
 植物が結ぶのは人の好奇心と喜びであるという基本構造は、未だ変わっていないように思える。

( ^ω^)「BLACK DOG」

 議会に提出するレポートの為に考察を端末に自動記述させつつ、ブーンは愛機を呼び出した。
 手には汚染されていない桜の枝が持たれている。
 BLACK DOGのシート下に格納する収納を展開して、そこから取り出したカプセルに桜の枝を収める。

( ^ω^)「うまくいきゃ、来年は地下で春の儀式だお」

 ブーンはBLACK DOGを率いて静かに進み、日本風の庭園を抜ける。
 見つけたいのは、絵に描いたような立派な花だった。

597 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:09:51 ID:vZ751BWI0

( ^ω^)「あった! アレだお!!」

 望遠機能を駆使し、荒れた花壇の中で美しく生き延びる花達を見つけた。
 濃密な色で花弁を染め上げ、見事に渦巻く蕾に見る人に神秘的な情熱を与える花、薔薇だ。
 ここの電源とシステムがまだ生きているようで、庭園は部分的だが庇護を受けていたらしい。
 確かに妙だった。外とは気温も湿度も違う。区画によっても差を設けているようだった。

 思わぬ発見だった。
 探索を進めれば、セントラルで利用できる物が多く眠っているかもしれない。

 ブーンが薔薇を嗅ぎに行こうとBLACK DOGと鼻先を前に進めてゆく。
 しかし、巨大な咆哮と共に現れたウィルス反応を上空で検知し、停止する。
 地を響かせて、それは降り立った。


( ゚∋゚)《ドゥドゥ……クックルドゥドゥ!!》

 
(;^ω^)「なんでニワトリが……しかもガッチムッチじゃねえか」


 目の前のセカンドをニワトリとは言ったが、侮れない相手だとブーンは経験から悟った。
 3メートルを超える巨躯は分厚い羽毛に覆われ、スキャンすればはち切れんばかりの筋肉が詰まっている。
 異様に肥大化した心臓が鼓動する度に全身が波打っている。
 顔面の大半を占める嘴は槍のようにギラリと輝きを放ち、血走った目の視線と共に、獲物を狙っている。

598 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:10:16 ID:vZ751BWI0

 3又の鉤爪を持つ長い両脚を地に蹴りつけて動作した。
 対応して視神経に直結する視覚プロフェッサが、ARを次々に生み出してブーンに回避行動を導く。
 反射的にブーンはARの軌跡を追って“ニワトリ”の攻撃範囲外へ脱出、BlueBulletGunの銃口を向ける。

 だが、熱と対物感知で追ったエイムシステムのターゲティングフィルターが捉えたのは薔薇だった。
 瞬間、背後で捉えた反応を追って、ブーンは視界の十字型フィルターを伴って振り向く。
 いない、速すぎる、どこだ――――そう思った瞬間、腹部の装甲に拳が突き刺さった。
 ブーンはシェルターの強化ガラスを割って別テーマの庭園が擁する森へと吹っ飛んでゆく。

(;゚ω゚)「うっ!? おえっ!」

( ゚∋゚)《ドゥドゥ!!》

(;゚ω゚)「くっ―――――」

 臓器が悲鳴を上げて血を吐かせる内に、“ニワトリ”が躍動してブーンの目前に迫る。
 再度、振るわれた拳をいなして躱す。顔面の表層が剥ぎ取られ、銀色の装甲を露出させる。
 続く拳の連打、出だしを右腕で受けるが破砕、耐久度を完璧に上回る敵に対し、
 ブーンはBLACK DOGを呼び出しつつ回避行動を続ける。BLACK DOGは木々を斬りながら急速接近している。

(;゚ω゚)「クソッ! 死ねるか、こんなところで!」

 跳躍し、木々の間をジャンプして上り、空中でスライドするBLACK DOGに飛び込む。
 急旋回が起こす強烈なGを体感しながら、対象へ向けてBlueBulletGunが唸りを響かせた。
 45cm大に増幅した抗ウィルスエネルギー弾が、接近するセカンドの胸板に着弾、光が爆ぜる。
 望遠とスキャニングを同時起動した視界には、体内外に毛筋程の傷も無い筋肉が映し出されている。
 体温変化も無い。ダメージは一切無いようだ。

599 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:10:55 ID:vZ751BWI0


( ゚∋゚)《クックル!! ドゥドゥドゥ!!!》


 奇妙な鳴き声を森の中に鳴り響かせて、手首にも及ぶ巨大な翼を広げ、飛んだ。
 翼で木々を切り裂きながらブーンに接近する様は、ライフルの弾丸のようだとブーンに思わせた。

(;゚ω゚)「こちらも次はライフルだ―――喰らえお!」

 ブーンの手には長身のライフルが握られていた。
 完璧な白さに包まれた銃身にはSniperという蒼い装飾文字が描かれている。
 手を覆うトリガー機構にリンクしたブーンの視界に専用のUIが展開されると同時、
 Sniperは銃声音とは程遠い甲高く抜ける音色を光と共に放った。

,;:@∋゚)《ドゥ……ドゥ……》

 突貫力に富んだ超高速の弾丸がターゲットの頭部を破壊し、抗体を神経に流した。
 融解して混ざる脳漿と肉と骨のジュースが、どろどろと足元を汚す様を、
 “ニワトリ”は半分に減った視野で茫然と見つめた後、その巨躯を溶けた血肉の中に沈めた。

(;゚ω゚)「終わりだ」

 痙攣し、ガラスを引っ掻いたような断末魔を絞り出すセカンドを睨み、
 ブーンは容赦なくSniperのカートリッジを使い切った。

(;゚ω゚)「はあ、はあ、危なかった、こんな奴がいるなんて……舐めてたお。
      地上はやはり危険だ……どこも、危険なんだ」

 対象から微弱な心音が消えると、自分の心臓が装甲の中を叩きつけている事に気づき、
 ブーンは無意識に胸元から煙草を一本、取り出した。

600 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:11:38 ID:vZ751BWI0

(;^ω^)「クッソ……脳が揺れてフラフラするお……。
       ツンのご機嫌取りが、まさか命がけになるなんて」

 ブーンは軸のぶれた足取りで赤く染まる花壇へと近づき、花の前で腰を下ろした。

 棘を持つ赤い蕾。
 使い古された表現ではあるが、確かに、棘があるのかもしれない。
 ツンの女心というのは、容易に触れてしまえば手痛い失敗を負わせる物なのだと、
 そして簡単に崩れてしまう蕾である事なのだと、ブーンは思う。

( ^ω^)「……ん? なんか案内に書いてあるお」

 薔薇の花ことばを知ってますか?
 実は色だけでなく、渡す時の本数で意味が変わるんです!!

 1本 「一目ぼれ」「あなたしかいない」
 2本 「この世界は二人だけ」
 3本 「愛しています」「告白」
 4本 「死ぬまで気持ちは変わりません」
 5本 「あなたに出会えた事の心からの喜び」
 6本 「あなたに夢中」「お互いに敬い、愛し、分かち合いましょう」
 7本 「ひそかな愛」
 8本 「あなたの思いやり、励ましに感謝します」
 9本 「いつもあなたを想っています」「いつも一緒にいてください」
 10本「あなたは全てが完璧」
 11本「最愛」
 12本「私と付き合ってください」
 13本「永遠の友情」

 大切な恋人に渡す時13本は注意です! 友情となってしまいますので。

( ^ω^)「へーこんなのがあるのかお」

601 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:12:11 ID:vZ751BWI0

 21本「あなただけに尽くします」

 24本「一日中思っています」

 50本「恒久」

 99本「永遠の愛、ずっと好きだった」

 100本「100%の愛」

 101本「これ以上ないほど愛しています」

 108本「結婚して下さい」

 365本「あなたが毎日恋しい」

 999本「何度※※==+わ::****※#る」

 ※ 品質によって異なりますが、100本の相場は150ドル〜500ドルが相場となっております。

( ^ω^)「999本はかすれていて読めないお」

(;^ω^)「ってかなんか、全部重いって思われないかお……13本にするかお」

(;^ω^)「いや、ドクオの言ってた事を思い出すお。慎重に考えるお」

( ^ω^)「あ、そもそも、あいつがこんな意味知ってると思えないお。
       アホだからたくさん持ってけば死ぬほど喜ぶはずだお」

 ブーンはシステムの洗練された動作で薔薇をごっそりと採り、
 BLACK DOGのコクピット内を真っ赤に染めていった。

( ^ω^)「家に帰るお、BLACK DOG」

 ドゥルルン

602 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:13:18 ID:vZ751BWI0


 ―― ラボ ――


( ^ω^)「ただいまー」

('A(「おかえりー……ってなんじゃその損傷は!? 腹ぐしゃぐしゃに割れてんぞ!?」

( ^ω^)「クソ強いニワトリに襲われたんだお。ぶっ殺してやったけどな」

('A(「何があったか全く想像できねえけど、生還してくれて良かったよ……損傷個所はそこだけか?」

(;^ω^)「ってか僕はドクオが心配だお。その顔どうなってんだお?」

('A(「昨日ツンをからかったら壁にめり込んだんだ、一日中な。元に戻らねえ」

( ^ω^)(何で生きてんだこいつ……)

( ^ω^)「僕の損傷は見た目より大したことないお。
       それよりドクオ、ツン知らないかお? 連絡つかねーんだお」

('A(「ああ。なんか一回家に帰って着替えてくるとかって」

('A(「帰って来たお前から素敵なプレゼントとデートがあるって教えてあっからさ、
   きっとおめかししてるんじゃねーのかな」

( ^ω^)「そうかお。別に普段のままでいいのに。じゃ、ラボで待つとするかお」

('A(「ところで、俺へのお土産は?」

( ^ω^)「マルボロ一箱拾ったからやるお」ポイッ

('∀(「ブーンちゃん!! 愛してりゅうううううううう!!」

( ^ω^)「僕もドクオの事はめちゃくちゃ好きだお」

('A(「俺達の聖域― 喫煙所 ―に行こうぜ親友」

( ^ω^)「おうよ親友」

603 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:13:40 ID:vZ751BWI0


ξ*゚⊿゚)ξ「ココアココアココア〜♪ ココアを飲んでると〜♪
      ココアココアココア〜♪ 胸が膨らむの〜♪」

 支度を終え、上機嫌な調子で第3階層の内壁に沿う研究区画の街を往くツン。
 ちょうどチーム・アルドリッチのロゴ輝くエントランスを通り過ぎる。
 いつもなら避けて通る道だったが、ブーンの事で頭がいっぱいで、その意識が向かなかった。

 エントランスのシャッターが自動で開かれ、一台の赤色のオープンカーがマフラーを派手に吹かす。

( ゚∀゚)「ハイン、次の出撃はまだかよ?」

从 ゚∀从「まあ慌てんなって。とびっきりのミッションを持ってきてやっからよ」

( ゚∀゚)「早く空を飛びたいモンぜ。お前のバトルスーツは最高の――――」

从 ゚∀从「ジョルジュ! ちょっと! あれ見て! あれ!!」

( ゚∀゚)「あーン?」


ξ*゚⊿゚)ξ「ふふふ、皆アタシを見ちゃってる! ちょっと今日の服可愛すぎたかな!?
      まあいっか! たまにはナイトウに女の子っぽい一面も見せておかないとね!?」

 全身、靴から小物までをココア色で統一したツンがニヤけた顔で飛び跳ねて、
 道行く人々の視線を独り占めしていた。


( ゚∀゚)「……クソに塗れたバービー人形が歩いてやがる」

从 ゚∀从「ぶっひゃっひゃっひゃwwwwクソに塗れたバービー人形wwwwww
     ジョルジュ、ちょっと車近づけてくれよ! からかってやろうぜ!」

( ゚∀゚)「いいだろう。ディレイク共を笑い物にする良いネタになりそうだ」

604 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:14:45 ID:vZ751BWI0


ξ*゚⊿゚)ξ「ココアココアココア〜♪ ココアを飲んでると〜♪
      ココアココアココア〜♪ 背が伸び伸び伸び〜るよ〜♪」」

「ヘイ! どこ行くんだそこのまな板ぶらさげた砂利ッコ!」

ξ*゚⊿゚)ξ「コ」ピタッ

ξ´゚⊿゚)ξ「ああん!? いまなんて言った!? ツンちゃんよく聞こえな――――」

从 ゚∀从 ニヤニヤ
  _
( ゚∀゚) ニヤニヤ

ξ;゚⊿゚)ξ「げえ!? エセエモ牛女とクソ眉毛ェ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ(……しまった! 浮かれてて気が付かなかった!!
       ここ、連中のラボの真ん前じゃないのよ!!)

从 ゚∀从「おーおーえらくご機嫌だなぁツンちゃん? どこ行くんだーい?」

( ゚∀゚)「ヤボな事聞いてやるなよハイン。
     あの恰好を見りゃ分かるだろ?なんたって全身クソまみれなんだ」

ξ;゚⊿゚)ξ「はあ?」

从 ゚∀从「いやいや意味わかんねーよ。何で自らクソ塗れの恰好でトイレなんて向かうのさ?」

( ゚∀゚)「便所が好きなンだろ?」

605 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:16:04 ID:vZ751BWI0

从 ゚∀从「それかもう便所か下水に突っ込んできた後のコスプレとか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「コスプレって……まさか、私のココアファッションをディスってんの!?」

( ゚∀゚)「あーあり得るな。何たってあのチーム・ディレイクだ。
     哀れだぜ。何処にでも迷走しちまうような頭の持ち主なンだろうよ」

从 ゚∀从「あーそうかも。なんだかチア部を思い出しちゃったぁ……。
     あんなんがハイスクールにいたら仲良くしてやっただろうなぁ」

( ゚∀゚)「俺もフットボール部の頃が懐かしいぜ。タックルで便器に突っ込んでやった野郎がいたな。
     しかし自らクソ塗れになった奴は流石に知らねえ。世も末って感じだ」

从 ゚∀从「おうおうそう言ってやるなよー? かわいそうな子なんだぜぇ?
     毎日毎日クソの役にも立たないクソサイボーグの開発にご熱心なんだ。
     頭がどうにかしちゃうのも無理は無いって話だよ」

( ゚∀゚)「それもそうだな……お、そうだ、涙かクソを拭くティッシュくらいはくれてやるよ。
     鬱の相談サービスに繋がる電話番号入りのポケットティッシュさ」ポイッ

从 ゚∀从「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃwwwwあー面白いwwwはらいってえwwww」

( ゚∀゚)「笑ったら腹が減って来た。ホットドッグでも食いに行こうぜ」

从 ゚∀从「じゃあな〜クソに塗れたバービー人形www
     ジョルジュの優しさにうるっちまったらそのティッシュでも使ってくれやwwww」

 ドゥルンドゥルーン プップー

ξ゚⊿゚)ξ

ξ ⊿ )ξ

ξ;⊿;)ξ「うわーん! ナイトウ! ドクオ! ナイトウオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 ツンはその場でへたりこんで、速攻でブーン達に電話した。

606 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:16:44 ID:vZ751BWI0


(゚A゚)「なあ親友」

( ゚ω゚)「なんだい親友」

(゚A゚)「あんなんでもツンは僕達のチームリーダーだ。俺達のヘッドなんだよ。
    クソを乗せたまな板だと? コケにしやがって……連中を許しちゃいけねえ……」

( ゚ω゚)「そんな事言われてたんだっけ? 確か、まな板を抱えたバービー人形とか……」

(゚A゚)「クソをまな板に乗せるバービー人形だったっけ?」

( ゚ω゚)「ともかく、今回ばかりは流石の僕も腹が立った。勝手に目の敵にしてくれるのは構わん。
      だが僕の大切なまな板……じゃなくて幼馴染を泣かせやがって! ゆるさんぞ!」

( ゚ω゚)「それで、準備の方は?」

(゚A゚)「完璧だ。モナーさんに頼んだら快く買い取らせてくれたよ。
    何に使うの? なんて聞かれたから答えてやったよ――――正義の為です、とね」

( ゚ω゚)「ああ、親友、その通り。我々が遂行するのは正義だ」

(゚A゚)「BLACK DOGに牽引車を繋いで積載もバッチリ済ませた。往こう、親友」


(゚A゚)「――――オペレーション・ココア発動! 目的地は第4階層 5号線だ! 」


( ゚ω゚)「行くぞBLACK DOG!!」


( ゚ω゚)「覚悟しろよアルドリッチのクソ共!!」(゚A゚)


.

607 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:18:00 ID:vZ751BWI0

 ―― 第4階層 一般車道 ――

从 ゚∀从「あ〜ひっさびさに笑えたぜwwwww
     ポケットティッシュを茫然と見たあの顔wwww何回思い出しても腹が痛いwwww」

( ゚∀゚)「しばらく連中もデカい顔で歩けないだろうぜ。
     俺達のラボを無断で横切るなンて真似もそうだが、明日から連中には道を譲ってもらわねえとなあ?」

从 ゚∀从「そりゃいいや。そうなったら予算会でも声を大きく出来ねえだろうからな。
     地上の任務は私達に任せて、第5階層で貧相な暮らしでもしてりゃいいんだよ」

( ゚∀゚)「ガキ共の出る幕じゃねえってこった。ま、しばらく大人しくしてるだろうよ」

 ドゥルルルーン!!

从 ゚∀从「んだようるっせえなクソバイクが!」


「――――そういう事かよ、話には聞いてたが汚ねえ連中だ」

「――――アンタ達がアルドリッチの頭か……お初にお目にかかる」


从;゚∀从「なっ、何だお前ら!」

( ゚∀゚)「……チーム・ディレイクか。何の用だ?」


(゚A゚)「ウチのチビッ子はまだ一人じゃケツを拭けない子でね……代わりに来てやったよ」

( ゚ω゚)「報復にね」

 ブーンとドクオはBLACK DOGに乗って、上空からハインリッヒとジョルジュを見下ろしている。

608 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:18:53 ID:vZ751BWI0

从;゚∀从「報復だと?」

( ゚∀゚)「金髪のサイボーグのガキ、お前がB00N-D1か」

( ゚ω゚)「そういう貴方はジョルジュ・ジグラード隊長ですか。僕がブーンだが、それが何か?」

( ゚∀゚)「俺を知ってるなんて光栄だな……いずれお前から地上調査のミッションを全て奪ってやるよ」

( ゚ω゚)「それは無理な話になりますな」

( ゚∀゚)「何?」

(゚A゚)「ガキだガキだとナメんじゃねえぞ。
    お前らがデカい面して歩くのは今日でおしまいだ」

从;゚∀从「どういう意味だ?」

( ゚ω゚)「ドックン、確かあいつら、ツンに巻きグソ垂らしたバービー人形がどうとか言ったらしいな」

(゚A゚)「らしいぜ。ウチの子が頑張ってお洒落したのを、
   巻きグソを乗せたまな板持ってるクソ色のバービー人形だとコケにしてくれたそうだ」

( ゚ω゚)「あいつらちょっとうまいこと言いやがって……これは許せんなあ?」

(゚A゚)「俺達にも思いつかないような悪口言いやがって……許しちゃおけんなあ?」

从;゚∀从「そこまで言ってねえけど……ああそうさ! クソみたいだからクソみたいだと笑ってやったんだよ!」

( ゚∀゚)「クソと涙をふくためのティッシュを渡してやってな。それがどうしたってンだ?」

(゚A゚)「そのティッシュ、アンタ達に返すぜ。すぐ必要になるからよ」ポイッ

609 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:19:26 ID:vZ751BWI0


( ゚ω゚)「尤も、そんなチャチなティッシュじゃ拭き切れない量を用意してきたがね」

(゚A゚)「もし頭がイカれちまったら、その電話番号にでもコールしな」


从;゚∀从「なんだ、何をする気だ……?」

(;゚∀゚)「何だ? あのバイクがけん引するコンテナから、なにか異様な――――」

(;゚∀゚)「――――まさか……ハイン! 逃げるぞ!!」


(゚A゚)「遅い!!」

( ゚ω゚)「BLACK DOG!!」

 ブーンの合図を受け、BLACK DOGに繋がれた巨大な2tコンテナが開かれる。


 ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!


(;゚∀゚) 从;゚∀从「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


(゚A゚)「そいつは肥やしさ。第4階層のプラントにバラまく予定の物を買い取った、ね」

( ゚ω゚)「中身は発酵させた生ゴミなどだが、隣の親友の“したて”も混ざってる。香ばしいぜ」


 ハインリッヒ、ジョルジュはクソの中に沈んだ。
 食べかけのホットドッグも、自慢げな赤いオープンカーも、ポケットティッシュも、全てクソに覆われた。

 ジョルジュとハインリッヒの助けを求める手が、クソの中から伸びて、びくびくと痙攣している。
 凄惨たる光景を見ながら、ブーンとドクオは煙草の煙を静かに胸に入れるのだった。

610名無しさん:2019/02/13(水) 23:19:35 ID:jF/x8w7c0
お、お題拾ってくれたのかありがたや

611 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:20:12 ID:vZ751BWI0


(゚A゚)「終わったな。スッキリしたぜ」

( ゚ω゚)「長い便秘から解放されたみたいにな」


「ちょ、ちょっとなんだあれ……通報しなきゃ!」

(;゚A゚)「――まずい、パンピーが通報しやがった! 逃げるぞブーン!」

(;゚ω゚)「BLACK DOG! 全速力でここから脱出するぞ!」

 ドゥルルーン


从 ;∀从「うわーん! く、口ん中までえええおええ! おえええええええ!」


(;#゚∀゚)「く、クソォ――――――――――ッ! 覚えてろよあいつら……!」


 オペレーション・ココア。
 またの名を、バービー人形事件と呼ばれるこの一件を切っ掛けに、両チームの関係は更に悪化した。

612 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:20:33 ID:vZ751BWI0

(゚A゚)「俺はここでいい。ショボンの所で一杯やってくるとするよ」

( ゚ω゚)「そうか……ドクオ、また今度この勝利を共に祝おう」

(゚A゚)「それより、お前にはまだやる事が残ってるだろ?
    ほら、急げ。あんまり待たせてやるなって」

( ゚ω゚)「ああ。そろそろこのシリアスモードも解いてな。お前は目がしぱしぱだろ?」

('A`)「いざって時はドライアイ上等さ。じゃ、うまくやるんだぞ!」


( ^ω^)「おっおっ。任せとけお」



 ―― 待ち合わせ場所の第4階層の雑多なアクセサーターミナル前 ――


ξ;⊿;)ξ「うわーん! アタシはうんちじゃないもん! ココアなんだもん!!」

(;^ω^)(何を分からん事を泣き叫んで注目集めてんだあいつ……近寄りたくねえ……)

ξ;⊿;)ξ 「あっ」ピタッ

(;^ω^)「あっ、やべ、見つかった」

ξ;⊿;)ξ「ナイトウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」がっし!!

(;^ω^)「ちょ、鼻水付けんなあ!」

ξ;⊿;)ξ「すっごく嬉しかった!! あいつらをクソ塗れにしてくれて!」

( ^ω^)「マジモンのクソを被ったあいつらこそクソだお。だから泣き止むお」

ξ;⊿と)ξ「うん」

613 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:21:41 ID:vZ751BWI0

ξ゚⊿゚)ξ「……泣いたらお腹空いちゃった。あとココア欲しさで辛い」

( ^ω^)「じゃ、メシ食べに行くお」

ξ゚⊿゚)ξ「何処に?」

( ^ω^)「そりゃ僕ん家だお。アクセサーじゃなくて新車に乗って行くお」

ξ゚⊿゚)ξ「え」

ξ*゚⊿゚)ξ「い、いいの? 部屋にあがって」

( ^ω^)「部屋に女の子を招くのは、ツンが初めてだお」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「は、はじ、めて……」ボソッ

ξ*///)ξ「し、仕方ないわね! ど、どうしてもって感じだし?
      今日はアンタの家でご飯一緒に食べてあげるわよ!!」

( ^ω^)「はいはい」

( ^ω^)(……昔は自分の部屋のように僕の家に上がり込んでたくせになぁ)

614 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:22:52 ID:vZ751BWI0

 ― ブーン宅 ―

 宅配注文した濃厚なシカゴ・ピッツァを平らげ、アイスココア片手に談笑中。

ξ;゚⊿゚)ξ「にしてもビックリしたっていうか呆れたっていいうか……アンタが買った部屋が、
       元は高級リゾートホテルの最上階のスイートルームだったなんて」

( ^ω^)「フフフ! 第4階層の夜景は僕のものだお……。
       ジャグジー付きのバス、もっふもふのソファとベッド、屋上のプールも僕のもんだお」

ξ;゚⊿゚)ξ「月々の返済いくらなのよ?」

( ^ω^)「月40万セントラ。なお、この最上階の住民は僕だけだお」

ξ;゚⊿゚)ξ「たっか! アタシの部屋の10倍よ、10倍!」

( ^ω^)「お前から受け取る給料とは別に、地上に出ると色々手当とかたっぷり出るんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「そりゃ知ってるけど……払えるの?」

( ^ω^)「車のローンと所有やら運転の権利費も合わせるとギリギリだお」

ξ゚⊿゚)ξ「でしょうね……つって給料上げられるか分からないわ。
      っつーか車なんか外で乗ればいいのに。乗るにしてもBLACK DOGでいいじゃん」

( ^ω^)「この地下都市を贅沢にマイカーで走るのがたまんねえんだお。ツンには分からないおきっと」

ξ゚⊿゚)ξ「全く理解出来ないわね、男の趣味って……」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、そうだ。いいこと思いついた。アンタ本でも書いてみたら?」

( ^ω^)「本?」

ξ゚⊿゚)ξ「そ。地上を歩くアンタにしか出来ない事だわ。足りない語彙力さえ補えば売れるかも」

( ^ω^)「それいいかも……語彙力をシステムに追加してくれお」

ξ゚⊿゚)ξ「分け前の一部はラボに落としてよね」

615 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:23:36 ID:vZ751BWI0

ξ゚⊿゚)ξ「それより、なんだけど」

( ^ω^)「なんだお?」

ξ*///)ξ「その、今日は、お家に招待してくれて、その、う、う、嬉しかったわ……」ボソボソ

( ^ω^)「……あ、そうだ。ツン、ちょっと屋上のプール行くお」

ξ゚⊿゚)ξ「ふぇ?」

( ^ω^)「ツンの為にプレゼント用意してんだお」

 ― 屋上のプール ―


ξ*゚⊿゚)ξ「わあ…………」

 水が張られたプールサイドに、大量の薔薇が飾られていた。
 ライトを受けて、そのハート型のシルエットは水面で一層大きく映し出されている。
 製作に使った数はブーンの視覚プロフェッサでもないと数え切れないだろう。 
 ツンは、その光景にただ息を呑んでいた。

( ^ω^)「今日の任務で、採ってきたんだお。
       その内、どこかのバイオテクにでも献上して街づくりに貢献しようと思うお」

(:^ω^)「その前に見せておきたくって……その、ツンだけに。
       もう絶対に見る事も貰う事も叶わない、この999本のバラの光景を、ツンに」

ξ*゚⊿゚)ξ「ナイトウ……」

ξ*゚⊿゚)ξ「すっごくキザくてエモくてキモいわ、アンタ」

( ^ω^)「おう言うんじゃねえ」

ξ*゚⊿゚)ξ「でも」

616 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:24:05 ID:vZ751BWI0


ξ*///)ξ「す、すごく嬉しいわ」ボソ

( ^ω^)「喜んでくれて僕も嬉しいお。
       良かったら何本か持っていって、部屋に飾ってくれお」

ξ*゚⊿゚)ξ「うん」

ξ*゚⊿゚)ξ「それにしても、999本の薔薇かぁ……意味知ってて用意したの?」

(;^ω^)「え!? まさか本数の意味知ってるのかお? 凄そうだから999本揃えたけど……
       教えて欲しいお。実は案内がかすれてて読めなかったんだお」

ξ*-⊿-)ξ「なーんだ……さーねー。知らなーい」

(;^ω^)「ちょ、おい! 教えてくれお!」

ξ*゚⊿゚)ξ「じゃあ捕まえたら教えてあげるわ!」ドボン

( ^ω^)「……お前、このブーンに挑もうというのか」ドボーン

ξ;゚⊿゚)ξ「あ! そうだった! あんたアタシが改造したサイボーグだった!!」バシャバシャ

ξ*゚⊿゚)ξ「ふへへ」

 ツンはバラの前まで泳ぎ、バラを見つめる。
 思いも寄らないプレゼントに気分は最高潮だった。

( ^ω^)「何にやけてんだお。はい、捕獲」

ξ*゚⊿゚)ξ「うわ、捕まえに来るの早すぎ。あ、分かった。そんなにあ、アタシの事が、す、す、すすすす、」

( ^ω^)「ニヤケ面が気持ち悪いからリリースするお」ポイッ

ξ;⊿;)ξ「―――――ちょお! 上空に放り投げんなああああああああああああああ!」ヒューン

 ドボボボーン

ξ゚⊿゚)ξ「もっかい今のやって。楽しすぎるわ」

( ^ω^)「はいよ」

617 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:24:41 ID:vZ751BWI0

 ― 翌日 ラボ ―

('A`)「おうブーン。昨日はどうだった?」

( ^ω^)「ツン、すごく嬉しそうにしてたお。あいつガキで単純だし」

(;'A`)(お前も相当だけどな)

('A`)「そっか。良かったな」

( ^ω^)「ドクオのおかげだお」

 ピンポーン

('A`)「ん? お客さんかあ珍しい。はいはー……」

( ´∀`)「やあ、ドクオ君。ブーン君」

('A`)「モナーさん!」

( ^ω^)「モナーさん! こんにちはですお」

('A`)「昨日、おかげさまで無事正義を執行する事が叶いましたよ」

( ´∀`)「そうか。それは良かった。実はね、私がここに寄ったのも正義の為でね」

( ^ω^)「と言いますと?」

618 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:25:04 ID:vZ751BWI0

(#´∀`)「一般車道を肥やし塗れにしたよね? コンテナも置き去りにして」

('A`)「ええ、私の本物入りの肥やしを……それが何か?」

(#´∀`)「払ってもらうよ、罰金と清掃費用」

(;^ω^)「え?」

(#´∀`)「え? じゃなくて。皆のセントラル汚しちゃったんだから」

(;'A`)「えええええええ!? あ、ああいうのってアンドロイドか何かが掃除してくれるんじゃないんですかぁ?」

 がっし!!

(;'A`)「あっ、初老とは思えないすごい握力が両肩に」

(#´∀`)「君達はよく働いてくれていると思って甘く見ていたが……よく聞けクソガキ」

(;'A`)「は、はひ!?」

(;゚ω゚)(こえええええええええええ!!)

(#´Д`)「君のような勝手な奴がいたから地球が汚れたんだ……ぶっ壊れたんだよ。肝に銘じておけ。
       考えが変わった……清掃費用は免除してやる。代わりにお前達二人が掃除するんだ、いいな……?」

(;゚ω゚)「そ、そうだ、地上行かなきゃ。今日も地上の掃除がんばらなきゃ!!」ダダダダダダダッ

(;'A`)「し、親友!? おい! 俺を置いていくのかよ!? ブーン!?」

(#´∀`)「さあ、行こうか……自分のも混ざってるんだろ? じゃあ自分で掃除しなきゃな。
       私にも責任はある……終わるまで見届けてやるからな……」

(;A;)「ち、ちくしょー! なんで俺だけなんだー!! ブーンのやつ覚えてろよー!!」

619 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:26:22 ID:vZ751BWI0

 ― 地上 ―


(;^ω^)「すまぬ、すまぬ、我が親友よ……僕は地上の街でセカンドを狩らねばならん。
       だから、ほとぼりが冷める頃に帰ってくる。必ず土産は持って。だから許してくれ」

 プルルルッ

( ^ω^)「あ、ツンからメールだお」


『昨日は楽しめたわ。まあだからって訳じゃないけど、給料30%カットは無しにしてあげる。
 あと、バラを瓶に入れて窓辺に飾ってやったわ。ありがたく思いなさいよね』


( ^ω^)

( ^ω^)

( ^ω^)「本数の意味は知ってるのにどうしてこうなる」

( ^ω^)「こいつ、人が命がけで採って来たバラをココアん中に挿してやがるお……」


『PS.999本の薔薇の意味はね、
 “何度生まれ変わっても貴方を愛します”って意味よ。素敵な意味ね

 ……でも、人生なんて一回きりって事を、アタシ達はとうに学んでるわ。
 死んだら絶対に赦さないからね』


( ^ω^)「今日も頑張るお、BLACK DOG」


                   LOG「オペレーション・ココア 2055年4月17日 - 18日」終


.

620 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:28:25 ID:vZ751BWI0
以上で投下終了です。ありがとうございました。

お題ありがとうございました!
またお題投げてくれると嬉しいです。
拾いきれるか分かりませんが、過去のブーン達の日常なんかを書くのが捗ります

621名無しさん:2019/02/13(水) 23:29:51 ID:jF/x8w7c0
おつおつ

622名無しさん:2019/02/13(水) 23:33:26 ID:UaLwCMbY0
乙!
ガニシュカ大帝を思い浮かべたわ

623 ◆jVEgVW6U6s:2019/02/13(水) 23:52:41 ID:vZ751BWI0
次の予定を書き忘れていました。

次は3月中になります。
ちょっとだけ間が空いて3月末になるかもしれません。

624名無しさん:2019/02/14(木) 08:19:09 ID:6SKGTWGc0
>>531
爪#゚Ⅳ〉《バラッバラになりやがれッ!」
爪#゚Ⅳ〉《バラッバラになりやがれッ!》

625名無しさん:2019/02/14(木) 08:19:59 ID:6SKGTWGc0
>>560
久しぶりのイトーイに安心するわ

626名無しさん:2019/02/14(木) 12:13:40 ID:/ABOrq2E0
ここまで怒涛の展開でやっと一件落着と思ったらセントラルが……次も楽しみだけど怖い
親友のしたてワロタ
お題ゲーム

627名無しさん:2019/02/14(木) 17:40:53 ID:CbRsRaA20
おつでしたー

628名無しさん:2019/02/16(土) 16:40:37 ID:fxyBf/Pk0
一段落かと思いきやまた急展開……
ところであんたの影響でウォーキングデッド見たけどシーズン7の1話が辛すぎて泣いてしまった

629名無しさん:2019/04/10(水) 23:53:07 ID:bav8VI5.0
桜も散り始めたぞコノヤロー

630名無しさん:2019/05/19(日) 17:58:06 ID:KzZ5po0E0
戻ってくるよな?

631名無しさん:2019/05/20(月) 17:51:58 ID:ybFoK4aw0
納得のいく出来にしたいから時間をかけるとツイッターで呟いてたから大丈夫だろ

632名無しさん:2019/07/09(火) 10:40:30 ID:sveEtEDg0
続き来ないのかなぁ

633名無しさん:2019/07/09(火) 18:26:41 ID:mwYUboVI0
梅雨にござる

634名無しさん:2019/08/22(木) 11:57:48 ID:tWd9PFu20
また数年コースか…好きだっただけに残念

635名無しさん:2019/08/22(木) 14:00:22 ID:T5FuOOJQ0
夏休みも終わっちゃうぞイトーイ

636名無しさん:2019/08/22(木) 17:46:35 ID:61dK7IKg0
これはアレか大晦日元旦に大量投下あるで

637名無しさん:2019/09/19(木) 21:27:21 ID:ISCTXPe20
イトーイの日までには投下する宣言きたぞ

638名無しさん:2019/11/13(水) 04:48:07 ID:4l2KmZlk0
嘘つき記念age

639名無しさん:2019/12/12(木) 10:33:55 ID:jFs8EbgQ0
また書きたいシーンが終わってしまったからなのか?


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