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('A`)と( ^ω^)は異世界で絆と出会うようです

1名無しさん:2018/07/10(火) 19:35:07 ID:X.bQi/M20
http://boonsoldier.web.fc2.com/kizuna.htm

2名無しさん:2018/07/10(火) 19:35:34 ID:X.bQi/M20
6ヶ「激動する戦場」


その場所は、雄たけび、あるいは悲鳴が絶え間なく聞こえてきて、
更には地を踏みしめる大量の足音がつらなって、大きな地響きとなる。


だが派手なのは音だけではなく視覚的。

風が石を巻き込み吹きすさべば、大きな砂煙も同時に。
所々に炎が立ち上り、焼けるような熱気と眩しさを放ち。
人々の合間を青白いような線が走れば、叩きつけるような爆音が鳴る。


そしてその度、それらの後には凄惨な爪あとが残された。


並列された戦場はつづく、その争いの激しさに、
草木は薙ぎ倒され、地には消えぬ傷跡が刻まれ、
荒野はまさに文字通りの存在となっていく。

乱戦、誰が誰なのか、それを気にする余裕もなく、相手取りもめまぐるしく変わる、
だがそんな最中、いくつかの戦場では、固り、あるいは隔離された場所があった。

管理者、と呼ばれるものたちの戦いだ。

魔法的な力すら凌駕する彼らの姿は目を引くものではあるものの、
誰もそこへ割り込もうとはしない、近づくものすら存在しない。

3名無しさん:2018/07/10(火) 19:36:07 ID:X.bQi/M20

それは真っ向からの衝突という、原始的な戦を主とする世界性か、
一騎打ちという形の様式美を守るものか、あるいは、畏怖そのものであるが故。

内の一つ、戦場のほぼ中央に位置する場所でもまた、対峙する姿があった。
しかし動きは無い、片方はうずくまり、もう片方はそれを呆然と眺めるのみ、

(;><)「………」

( 、 ;川「う……ぁ――――っっ」

自身を抱えるようにしながら、ペニサスが膝と頭を地に伏せる。
それをもう一人の男が見下ろす体制だった。

傍目に勝敗は決したように見える。

だが男はそれ以上何もしようとしない、どこか落ち着かない様子で佇むのみ。

周りの者たちもその異様さに近づくことをしない、
特に、そこに至るまでを見ていたら尚のことだった。

ただの一度。

駆けてくる姿に反応したペニサスが、その男に斬りかかった、その一度で、
何が起きたのか、一瞬輝いた光と共に、ペニサスは苦悶の声をあげて崩れ落ちた。

そして今も、男の持つ剣は、陽を受けたダイヤを思わせるような眩い輝きを刀身から放っている。


あれが管理者である事は、一目瞭然だった。

4名無しさん:2018/07/10(火) 19:36:39 ID:X.bQi/M20

( ><)「……来ましたか」

ふと、男が正面に現れた人物に反応を示す。
宙に漂う剣をつれ、無手で戦場を歩く姿だった。

(´・ω・`)「ペニサス……神具も無いのに、まったく無茶して」

(;><)「あ…ぁ、いや、ちょっと…っ」

何ともなしに歩み寄る姿に、何故か対する男は後ずさる。
まるで脅えているように見える姿に、返ってショボンは困惑した。

(;><)「ま、待って…! まってほしいんです…! 話を、話を聞いて欲しいんです!」

(;´・ω・`)「何なんだあんたは……とりあえず、よくもと言っておくよ」

(;><)「ちが、彼女は無事なんです、今はその…苦しんでるけど、命に別状は……」

(´・ω・`)「……へぇ、そうは見えないけどねぇ」

ショボンは言って、手を正面の男へと突き出す。
追従するように、浮かんだ剣が切っ先を変え男を向いた。

言うとおり、ペニサスの様子は尋常じゃない。
涙と嗚咽にまみれ、うめき声だったものも悲鳴に近いものになっていく。

(;><)「それは……いやだって、こんなはずは………」

(;><)「……まさか、それほど…? そこまでの記憶が…?」

(´・ω・`)「時間が惜しいんだ、話は終わりでいいかい?」

5名無しさん:2018/07/10(火) 19:37:12 ID:X.bQi/M20

言うなり、ショボンの元から剣が飛び立ち。

(;><)「ひっ……って、なん…っ!?」

男の持つ輝く剣へぶつかった。

しかしそれ以上に、男は驚いた様子で自らの剣を見た。

ゴッという鈍い金属音が響き、光を放つかのように見えていた刀身の輝きが、
みるみるうちに色あせて消えていき、純白のものへと変わったからだ。

同時に、苦しみに喘いでいたペニサスが、荒い呼吸そのままに顔を上げた。

(;><)「えっ……?」

(゚、゚;川「はっ…!? はあっ……はあっ……あ、あ…っ」

(´・ω・`)「大丈夫? 僕がわかる?」

(゚、゚;川「ショ…ショボン君………あ、ああ……わたし…」

(゚、゚;川「わたしが……この手で……巫女さま…っ!!」

(´・ω・`)「………そういうことか」

(;><)「神具の……まさかクラウソラスの幻影を、斬った…!?」

(;><)「これが誓賢……やはりフレイの…! これならば…!」

(´・ω・`)「……人の、忌まわしい記憶を見せる、といったところかい?」

(´・ω・`)「ああ、悪夢とはよく言ったものだね……彼女には、さぞ辛いだろうさ」

(;><)「それは……だって、知らなかったんです、まさかそんな……!」

(´・ω・`)「…いいから、話があるんだろう? 早く言ってみなよ」

6名無しさん:2018/07/10(火) 19:37:38 ID:X.bQi/M20

(´・ω・`)「くだらない話だったら……覚悟してもらうよ」

( ><)「…………」

怒気を含んだ声色に、しかし先ほどまで脅えた様子だった男は、
ちらりと周辺の様子を伺うように見やると、剣を構えなおし、雰囲気を変え。

( ><)「僕はワカン、ルファウス国の……今は管理者として、このクラウソラスを預かっている」

( ><)「だけど僕は……彼の王、ロマネスクを―――認めていない」

言って。

( ><)「そして……その王が自分の半身だと言った男の事で、話がある」

(´・ω・`)「……つまり何だ、反逆を…スパイでもしてくれるって言うのかい?」

(´・ω・`)「信じるとでも?」

( ><)「信じる必要は無い、ただの事実で、そしてすぐに起こる現実だ」

( ><)「そして……」


( ><)「今のままでは、君たちは負ける―――――」





……………。

7名無しさん:2018/07/10(火) 19:38:00 ID:X.bQi/M20

ノハ;-⊿゚)「ぐっ…」

自らに返ってきた火球を、ヒートは巨大化させた剣で受け止める。
いくつもの衝撃と熱気が襲ってくるが、それ以上に困惑が大きい。

何かしらの力であることは理解できるが、その正体があまりにも掴めない。

ノパ⊿゚)「……なら!!」

ジジ、とも。
パリパリ、とも言える音と、雷光のようなエフェクトを纏わせながら、
ヒートは大剣を幾度か振り回しながら背に構えると、ふたたび眼前の敵へと駆ける。


ノパ⊿゚)「これなら――――」

(#゚;;-゚)「――――」

振り回した分の重量まで加算された剣の一撃は、
細腕のヒートが繰り出したとは思えない、威力を見せ、地面に大きな亀裂を作る。

どこか鈍重な挙動にはなってしまうため、相手の女には避けられてしまう。
ふと、おかしな動きにも見えたが、しかしこれはまだ予想の範疇。

(#゚;;-゚)「――剣よ」

ノパ⊿゚)「―――」

本命は、大降りの攻撃による大きな隙。


ノパ⊿゚)「――――どうだっ!!!」


を、狙って、迂闊に踏み込んできた相手を狙った、
重量反動による硬直を無視した、返しの剣。

8名無しさん:2018/07/10(火) 19:38:21 ID:X.bQi/M20

でぃ、と呼ばれた女は、突きの姿勢ですでに踏み込んできている。

今度は避けられない、そう考えるヒートだったが、
すでに彼女の耳には、囁くような声が聞こえていた。


(#゚;;-゚)「すり抜けよ」


それが、違う確信を感じさせ、寸でのところでヒートは、
剣の重量操作を解き、発生した自身を引っ張る力に身を任せ、
柄と共に弾き飛ばされるように横へ飛んだ。

そして、今しがたヒートの立っていた場所を、でぃが通り抜ける。

ノハ;゚⊿゚)(……やはり)

離れた場所に着地しながら、ヒートは相手を見る。

剣線はずれたとは言え、薙ぎ払った一撃、まっすぐに来たなら触れているはずだ、
しかしでぃの姿にそんな様子は無い、理解できないが、当たっていないのだ。

それどころか、自分の胸元、着ている衣服が切り裂かれ、
柔肌と下着が覗いていることに気付き、ヒートは戦慄を覚えた。


もう少し、僅かにでも判断が遅れていたなら、あの剣がこの胸を貫いていたのだから。

9名無しさん:2018/07/10(火) 19:38:56 ID:X.bQi/M20

(#゚;;-゚)「……」

(#゚;;-゚)「……届いたと、思ったのに……」

ノパー゚)「あら、無感情な方かと思ったのだけれど……意外と情熱的?」

(#゚;;-゚)「賞賛、今のは素晴らしい判断、逃げなきゃ死んでた」

ノパー゚)「そのようね……やはり、急所には防具が必要かしら」

(#゚;;-゚)「やはり、貴女があのヒルトの管理者、紅牙……」

(#゚;;-゚)「あの御方の、仰る通り」

ノパー゚)「……何を?」

言って、と返すより先にでぃが仕掛けた。

(#゚;;-゚)「あなたを、捕らえる」

ノパ⊿゚)「…っ」

向かい来るでぃに、ヒートはいくつかの思考をめぐらせながら迎え撃つ。

身体強化の剣を発動させつつ、その剣戟を受けながら見る。

身のこなしと、剣技は優れたものではあるが、異常ではない。
だが時折、先にも見せた飛翔とも呼べる跳躍や、必中の状況での攻撃を避けた事。

更には先ほどの、炎の石つぶてを返した手段、そのどれもが不可思議。

風は起きていなかった、火を操った様子もなかった、
そもそも火を操っただけならば、石つぶては返せない。

そうなると、遠距離からの攻撃は通用しないばかりか、すべて返される恐れがある。
ならば近づく、しかしあの重力を感じさせないような動き、どういった手段ならば捕らえられるのか。

10名無しさん:2018/07/10(火) 19:39:26 ID:X.bQi/M20

しかし答えは、今している行為の中にあった。


(#゚;;-゚)「動きを―――」

ノパ⊿゚)「させない……っ!! 風よ!!」

でぃがまた、何かを口にしようとする。
だが、それをさせじとヒートが剣を魔法剣へと変え、突風を叩きつけて言葉を封じた。

そう、どういった原理か知らないが、でぃは先ほどから何かを囁いている。
そして、その内容こそがおよそ、ヒートの狙いを防ぐものであった、

つまり。

ノパ⊿゚)(ならば……!)

ヒートは再び、炎を纏った剣を地面につき立てながら振りぬく。
爆発めいた音、そして火の石つぶてが飛翔する。

(#゚;;-゚)「撥ね返れ飛礫」

剣を突き出しでぃが言う、するとその通り、火球は急カーブを描いて返っていく。
しかし今度は確信を得た、ヒートはお構い無しに突貫する。

ノパ⊿゚)「白刃轟剣…!」

火球が降りかかるが、しかし身に纏った風が、まるで障壁のように逸らしていく。
でぃは掲げた剣をすぐに握りなおし、駆けてくる姿を迎撃する。

ノパ⊿゚)「バサルト…!!」

(#゚;;-゚)「…っ、と…止ま…っ」

しかし風を連れた姿は用意には止まらず、押し出されるように交代、しばし突風に目を細め、
すぐに眼前を見るがすでにそこにヒートの姿はなく、代わりに地に落ちた影を見る。

11名無しさん:2018/07/10(火) 19:40:18 ID:X.bQi/M20

(;#゚;;-゚)(上…っ)

ノパ⊿゚)「バスタァアアアアアアアア!!!!!!!!!」

未だ風を纏ったまま、巨大化させた剣で棒高跳びのように跳躍、更に回転しながら、
そのまま直下、でぃに向かって暴風纏う大剣を打ち下ろした。

大量の砂煙が地響きとともに巻き上がるが、それをも突風が吹き飛ばしてしまう。


ノパ⊿゚)「あなたの…きっとその、神具、その力は…」

ノパ⊿゚)「口にした言葉、その内容を現実に反映させるもの……!」

ノパ⊿゚)「なら、簡単だ、喋らせなければいいだけの事…!」

ヒートは、衝撃に吹き飛ばされ、地を転がるでぃの姿を見ながら、
しかし大したダメージは与えていないと確信を得つつ、その後を追う。

そして、それが事実である事を、近づくなり身に纏った風がかき消された事で知る。


(#゚;;-゚)「吹き止め………同じ手は、きかない」

ノパー゚)「ええ、そのつもりよ」

12名無しさん:2018/07/10(火) 19:40:56 ID:X.bQi/M20

(#゚;;-゚)「しかし…紅牙……聞きしに勝るバーサーカーぶり」

ノハ;゚ー゚)「それは褒められてるのかしら…」

(#゚;;-゚)「やはり、あなたは捕らえるべき価値がある」

ノパー゚)「できるのかしら? あなたに?」

(#゚;;-゚)「可能」

言うなり、ヒートは背後に気配、というにはあまりにも明確な足音、
そして大きく倒れこむような音を聞いた。

ノハ;゚⊿゚)「……っ!?」


(#゚;;-゚)「手段を、選ばなければ」







…………。

13名無しさん:2018/07/10(火) 19:41:27 ID:X.bQi/M20

虹がたつ戦場があった。


(メ._⊿,)「咎人よ、我が極光の前に、己が罪を省みよ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「まったくよく喋る…!」

剣戟が繰り出されるたびに、その後をなぞるように、虹の輝きが浮かび上がる。
そして虹はゆっくりと消えるまで、質量を持ってその場に残り続けた。

それが何を意味するかは、ツンがマント男に向けて放った飛刃が虹に阻まれ、
パリンと小気味良い音を立てて砕ける事で教えていた。

激しい攻撃を繰り出せばそのたび、マント男を守る虹の壁が強固なものとなり、
しかし手をこまねいて距離を取れば、瞬きの間に伸縮する剣が狙ってくる。

攻防一体、まさに文字通りの力だった。

ξ゚⊿゚)ξ(……厄介な)

分かっていた事で、仕方のない事で、自分も認めていた事とは言え、
管理者の相手をするというのは、やはり骨が折れる。

ξ゚⊿゚)ξ(さてはて、どうしたものか……)

(メ._⊿,)「……愉快よな」

ξ゚⊿゚)ξ「ん?」

と、マント男がふと手を止め、若干落ち着いたトーンでそう言った。
構えは解かぬまま、しかし両者共に動きを止める。

14名無しさん:2018/07/10(火) 19:42:09 ID:X.bQi/M20

(メ._⊿,)「生命を奪い合う中で、我らは今のみ、互いを高めあう同志」

(メ._⊿,)「貴様もそうだろう月鏡? この瞬間に、喜びを得ている筈だ」

虹の向こうで、マント男はそう言った。
ツンは苦笑し、肩をすくめる。

同意を示したようにも見える行為だったが、やがて笑みは嘲笑に変わり。


ξ゚⊿゚)ξ「そうやって引きこもっているだけの臆病者が何を言っている?」

ξ゚⊿゚)ξ「口じゃなく手を動かせ手を」

(メ._⊿,)「……ふっ」

(メ._⊿,)「安い挑発だな、そうやって今も私を殺す算段でも立てているのだろう」

(メ._⊿,)「だが無駄だ、どう足掻こうとも……何の理由も無く、私が貴様の相手を受けたとでも?」


ここに来て、マント男は非常に冷静な声色で、
自分が最初からツンを標的にしていたと語る。

確かに、互いの神具の能力を見れば、ツンは事実上、その能力を封じられたと言っても過言ではない。

それが、互いの全てであるならば。


ξ゚⊿゚)ξ「……」

(メ._⊿,)「無駄と言っている」


マント男の背後、いつの間にか刃が現れ、その背中めがけて刃を向けるが、
剣線と共に現れた虹の輝きに、またしても防がれてしまう。

15名無しさん:2018/07/10(火) 19:42:26 ID:1RBXWRRo0
えっまじ????支援!!!!待ってた!!!!

16名無しさん:2018/07/10(火) 19:42:41 ID:X.bQi/M20

(メ._⊿,)「うまく隠しているつもりだろうが……その刃、切っ先で操っているだろう?」

ξ゚⊿゚)ξ「……………………」

(メ._⊿,)「所作含め、分かりやすい挙動だ、他の者がどうかは知らんが、私には通じぬよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

(メ._⊿,)「理解したならいい加減……手の内を見せたらどうだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「……何だと?」

(メ._⊿,)「その神具、その真価はよもや愚直に刃を飛ばすだけではあるまい?」

ξ゚⊿゚)ξ「いや、その通りだが」


(メ._⊿,)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「………」


(メ._⊿,)「謀るか、貴様ほどの人間が、よもや神具の能力を磨くことなく戦いに赴いたと?」

ξ゚⊿゚)ξ「だったら何だ、バカにするなとでも言いたいのか?」

(メ._⊿,)「馬鹿げていると言うのだ、なら、貴様のその余裕はなんだ」

(メ._⊿,)「この圧倒的不利を前にして、何を平然としている!!」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ、何だお前―――」


先ほどからの攻防、起きている事象が現実離れこそしているものの、どこか静けさがあった。
それは近接戦が行われない事以上に、攻防そのものがはっきりし過ぎている事が原因だ。

17名無しさん:2018/07/10(火) 19:43:28 ID:X.bQi/M20

まるでターン制のバトルのように、どちらかが受け、どちらかが攻めるの繰り返し。

様子見である事は明白だったが、しかしどちらが不利かは見てとれる、
にも関わらず静けさが保たれたままである理由は。


ξ゚ー゚)ξ「怖いのか?」


瞬間、ツンの眼前に剣先が現れた。

寸でのところで身をかわすが、長めの髪が宙を舞う。

更に、伸びた剣をなぞる様に虹の輝きが螺旋をえがきながら追従し、
とっさに発生させた板状の刃がそれを受け止め、いくつかの割れ音を生んだ。


ξ゚⊿゚)ξ「何だ図星か、弱い犬ほど何とやらは本当だな」

(メ._⊿,)「軽口を……いや」


煽り言葉に、しかし熱くなった様子もなく、マント男はしばし考えるような素振りを見せた。


(メ._⊿,)「………どうにも、解せん、貴様本当にあの月鏡か?」

ξ゚⊿゚)ξ「何だ今度は人格批判か、いい加減にしろ」

(メ._⊿,)「彼の王の御前で見かけた貴様は、もっと高潔だった、底知れぬ覇気を持っていた」

(メ._⊿,)「そして武勇智謀にて湖鏡という国を纏め上げた稀代の天才と謳われ、
      ついには王より直接神具を賜るという栄誉を得るに値する者と誰もが認めていた…」

ξ;゚⊿゚)ξ「お…おう…」

(メ._⊿,)「それが何だ、その軽く薄っぺらい態度は…! 何が貴様をそうまで堕落させた!!」

18名無しさん:2018/07/10(火) 19:44:17 ID:X.bQi/M20

ξ゚⊿゚)ξ「堕落ね……まあ、気負い無い、という面がある事は否定しないさ」

(メ._⊿,)「…………」



<_プー゚)フ「オイオイオイ、メンヘラストーカーの次は何だよ!? 何ていうんだアレ!!」

( 凸)「属性過多でもうわかんねぇなこれ」
 _、_
( ,_ノ` )「モテるねぇ大将は」


と、そんなツンの背後を守るかのように、しかし遠巻きに陣取る連中が、
さも面白いネタを見つけたと言わんばかりに、ワラワラと寄ってきた。


ξ゚⊿゚)ξ「やかましいぞガヤ共、ていうかこっち来るな」
 _,
ξ゚⊿゚)ξ「あとカービィまだ生きてんのか」

<_フ;゚ー゚)フ「言い方ァ!!」


と、そんな様子を眺めていたマント男が、ふと言葉を漏らした。

笑みを微かに浮かべ、そうか、と一人納得するかのよう。


そしてツンは、自分の横を通り過ぎた刀身と、後を追う虹の光を見た。
反応できなかった訳ではない、見えていた、ただ自分に向かっていないから反応しなかった。

19名無しさん:2018/07/10(火) 19:44:50 ID:X.bQi/M20

ξ;゚⊿゚)ξ「っ!!!」

それがどういう行為か、察するのは早かった。
故に焦燥と、後悔の入り混じった思いのままツンは振り返り見た。


<_プー゚)フ「痛っ――――」

(;凸)「―――ぁ」


見えたのは、倒れこむエクストの姿と。


 _、_
( ,_ノ` )「…………」

そのエクストを突き飛ばし、迫る剣をその身に受け、串刺しとなった渋沢の姿だった。
遅れて虹の光が到達し、胸に大穴を空け、腕が千切れ、大量の血が宙を舞う。


<_プー゚)フ「は? だ……旦那…? なに、やって………」

引き抜かれた反動で、渋沢の身体が引きづられ、前のめりに倒れこむ。
すぐさま赤が広がっていく、血溜まりに沈むその姿は、ピクリともしない。

声すら、あげる間もなかった。

<_フ;゚ー゚)フ「何やってんだよ!? おま、何、俺を庇ったりして、頼んでねぇぞオイ!!」

声をかけても、既に反応は無い。

<_フ;゚ー゚)フ「ば、ばっかやろ……っ……死ぬのは、死ぬのは俺だって…言ってたろ!!」

(;凸)「エクスト、早く立て!! なんかやべぇぞ!!」

( 凸)「他の連中も来るぞ!」

20名無しさん:2018/07/10(火) 19:45:23 ID:X.bQi/M20

(メ._⊿,)「次」

そして再び、もう一度エクストへ向けて剣先が伸びていく。
やけにゆっくりと感じられた剣は、今度は別の剣戟によって叩き落され地に突き刺さる。

ξ゚⊿゚)ξ「………貴様、何をしている」

打ち落とした剣に足をかけつつ、ツンは瞳に影を落としながら言った。
背後では、一人倒された事もあってか再び争う音が響く、しかし今度は振り返らない。

その表情に、マント男はにぃと笑いかける。

(メ._⊿,)「そこな雑多な者共だろう、お前をそうさせたのは」

ξ゚⊿゚)ξ「………自分が有利なんじゃなかったのか、人を怒らせて何がしたい?」

(メ._⊿,)「怒りを示すのであれば、証明されたようで何よりだ」

(メ._⊿,)「そして、そこな愚物共の影響で狂ったというのなら、私が正そう」

ξ゚⊿゚)ξ「狂っているのは貴様の方だ、唐突に対する意識も無い人間を手にかける等、ただの快楽殺人者だ」

ξ゚⊿゚)ξ「管理者を名乗っておきながら、恥を知れ」

(メ._⊿,)「くく、ふはははっ、だが良い眼だ、その身に纏う威圧感、それこそあの日の貴様よ」

(メ._⊿,)「だが、まだ不足だな、手下を一人殺された程度で憤りを隠せないとは、将にあるまじき姿」

(メ._⊿,)「戦場の道理すら失くしたと見える」

ξ゚⊿゚)ξ「……」


剣先をマント男へ向け、今にも斬りかからんばかりの殺気を放つツンだったが、
そんな言葉に呼吸を一つ、姿勢を崩し、剣先を下げた。

21名無しさん:2018/07/10(火) 19:46:38 ID:X.bQi/M20

訝しげにその様子を見るマント男だったが、ツンはむしろ笑みを浮かべ。


ξ゚ー゚)ξ「いや、いいや……アレは、手下なんかじゃないさ」

思う。


改めて考えれば不可思議な縁だった。

元より連中の存在は知っていた。

対戦国の中にある、尖兵とも取れる特殊な兵達。
戦場で見かけたこともあったかもしれない。

どちらにせよ、敵だ。

向こうからしても、敵だった。

気を許す関係になどなる筈も無い間柄。


しかしいつの間にか、気付けばツンの周りに当然のように居た。
協力関係を申し出たのは自分だったが、信用されるとまで考えていた訳では無い。


ただ、祖国、湖鏡にて貧民として生まれ、泥をすすり実力だけで成り上がった自分は、
あの国の将でいる間は、常に気を張り続け、相応しい自分でいなければならなかった。

22名無しさん:2018/07/10(火) 19:47:22 ID:X.bQi/M20

しかしそれを失くし、上からでも下からでも無く自分に接する、その連中と過ごす時間は、
何を背負うでもなく自分の意思で生きられる日々は、どうやらとても。


ツン本人が自覚する以上に、とても、楽しかったのだ。


だからどんな状況でも、その態度は余裕にも見えた。

実際、心には常に余裕があった、生き死には当然として、
あとはどうするのか、それだけを考えるのは、当たり前の事だったから。


だからそう、そんな感情を抱く相手に対する関係は。

それを言葉にするならば。


ξ゚ー゚)ξ「あれは……"友"だ」


(メ._⊿,)「―――――これ以上」


ξ゚⊿゚)ξ「そしてそんな友が死んだ、殺された、最低の気分だ」


(メ._⊿,)「失望させてくれるな」


マント男は引き戻した剣を幾度か振るい、切っ先をツンへと向ける。
虹の光が男の周囲に浮かび上がり、またしても要塞のように守りを固める。

何らかの攻撃をしてくると、その対応だったのだが、しかしツンは動かない。

23名無しさん:2018/07/10(火) 19:48:32 ID:X.bQi/M20

代わりに言葉が続いた。

これまでと違い、饒舌な姿にマント男は戸惑った。
威圧するでもなく、怒りを見せるでもなく、ただの語り掛けに。


ξ゚⊿゚)ξ「私はな、こう見えて、とても優しいんだ」

(メ._⊿,)「……何を言っている?」

ξ゚⊿゚)ξ「戦う意思の無い人間を傷つける気もない」

ξ゚⊿゚)ξ「余程の事でも無ければ、命乞いも聞こう」

ξ゚⊿゚)ξ「お遊びで命を弄ぶ奴は許せないし、弱い者に手を差し出す事もある」

ξ゚⊿゚)ξ「そして……敵だからと、相手をいたぶる趣味も無い」


一陣の風が吹いた。

そよ風と呼べる。

まだ柔らかなものだった。


(メ._⊿,)「だから何――」

ξ゚⊿゚)ξ「だから――――先に謝っておく」



ぴし、と小さな割れ音がどこかでした。

24名無しさん:2018/07/10(火) 19:49:49 ID:X.bQi/M20

ξ゚⊿゚)ξ「悪いが楽には殺してやれん、苦しめて――――」

(メ._⊿,)「……貴様!」

ξ゚⊿゚)ξ「―――悪かったな」

ツンの態度の違和感の正体を、マント男はようやく気がついた。
戦意も、怒りも感じないのは当然だ、既にこの戦いは、彼の中で終わっているのだと。


(メ._⊿,)「何を勝った気でいる…!!」

切っ先をツンに向けたまま、円を描くように振るう、
虹がいくつも浮かび上がっては、剣に螺旋状の模様を描く。

一筋の虹の輝きでも、たやすく人を殺傷する威力だ。
これを開放すれば、広範囲にわたって光が暴れることになる、
少し避けただけでは、逃げられない。


ξ゚⊿゚)ξ「でも仕方ないだろ?」

ξ゚⊿゚)ξ「それが戦場の道理、お前もそう言ったじゃないか」

(メ._⊿,)「おのれ…!!」

次いで、解放された虹光を纏う刃が伸びゆきツンの身体を貫いた。
同時に、その姿に亀裂が走り、音を立てて砕け散る。

映していた刃の破片が風に舞い、マント男は何事かと目を見開く。
自らのマントが、風になびいていたのを自覚したのはその後だった。

25名無しさん:2018/07/10(火) 19:51:15 ID:X.bQi/M20

やがて男は視界いっぱいに広がる透明な煌きを見る。

その正体は、神具がその形を保てなくなるほどに生成された、細く、薄い無数の刃。


それが、空気に煽られ、回りだす。



ξ゚⊿゚)ξ「風刃―――」

(メ._⊿,)「貴様…風使いだったのか……!?」



言うより先に、風が吹く。

それも強風、暴風とも呼べるほどの勢いをもった空気の圧力が、
虹の隙間を通り抜け、打ち付けるように男の身体を叩いた、薄い刃を乗せたまま。


結果、まず剣を握る指が数本、切り刻まれた。


次いで手の甲に、下手な盛り付けをしたお刺身のような不恰好な跡が生まれ、
血風を巻き上げながら腕を、それも皮膚だけを刻みながら上昇、
瞼に焼かれたような痛み、すぐに男の視界は暗闇に包まれ、
そのまま全身が同じように、うすく、しかし何度も、何度も、何度も、何度も、
暴れる風に乗った刃が切り斬り切り、いつしか血を纏った赤い刃が竜巻となって男を包み。



その間、ずっと絶叫が響いていた。

26名無しさん:2018/07/10(火) 19:52:04 ID:X.bQi/M20

戦場に酔う周囲の人間をも一時止めるほどの、あまりにも悲痛な声だった。

やがて虹の輝きもとうに消え、赤い竜巻だけが残ると、
ツンは広げた手を男にむけ、強く、握りこんだ。


ξ゚⊿゚)ξ「――風縛刹…!」


そして血風と刃が、中心へと収束。

びしゃとぶちまけられた音がして。
残されたのは、最早原型もわからなくなった真っ赤な人型。

しかし何より恐ろしいのは、ずたずたの姿になって尚、震えと痙攣があり、
男はまだ息を、かろうじてではあるが、していた。


ツンはその惨状の元へと歩み寄ると、男の持っていた神具を拾い上げ。


ξ゚⊿゚)ξ「……すぐ楽にしてやる」

謝罪を口にしながら、振るい、男の首らしき箇所を切り落とした。
そして強めの接続を使用した反動に、眩暈を感じながら、凄惨な姿を見る。


ξ゚⊿゚)ξ「ああ―――」


「だから、これは使いたくなかったんだ」


眩暈と吐き気も未だ消えない、接続疲労は予想以上だった。

27名無しさん:2018/07/10(火) 19:53:14 ID:X.bQi/M20

しかし、と。

そういえば今のよりも強い風を、広範囲で起こせる人間が居たな、と思う。

しかも直後にまだ動けるほどの容量だ、やはりあれも化物かと、思い浮かべるが、
未だ現れず、しかし彼の剣が別の誰かに渡った様子もない、生死不明の存在。


ξ゚⊿゚)ξ(……あれを信じるなら)

ペニサスが合流した際、彼女はある二人の生存を皆に伝えた。

一人はドクオ、深手を負ったためにある筋の人物に預けられているという。

だが迎えを出そうにも、どこに隠れ潜んだのかはわかっておらず、破壊の剣共に所在不明なまま。
しかし、破砕の管理者が共に居るという事で、ならひとまずは大丈夫という結論に達した。


もう一人は太陽の管理者、こちらに至っては無事なのかも定かではなく、
ただ、おそらくはロマネスクに敗れ、そのまま捕らえられている、と。

生かしておく理由も無い筈だが、ロマネスクは読めない人間だ。

現に一度、ツン自身も彼の王に逆らった事がある、しかし咎められる事なく、
神具すら与えたままで、ツンには自由にしていいと令を出した。

ならばそれも、ありえるのだろう。

問題はどうするのか、これについてはショボンが放っておく事を宣言している。
人質にでもされれば厄介だが、この情報の無さからその気はなく、
そしてルファウスという国が潔白の、正義を語っている事からも無いだろうと判断から。

ξ゚⊿゚)ξ(しかし随分と……覚悟の決まった事だ)

<_プー゚)フ「……大将、大丈夫かい?」

28名無しさん:2018/07/10(火) 19:53:46 ID:X.bQi/M20

ξ゚⊿゚)ξ「む……」

(;凸)「おえ、こりゃ酷い……」

<_プー゚)フ「旦那の仇とはいえ…やりすぎじゃ」

ξ゚⊿゚)ξ「戦況は? どうなっている?」

( 凸)「それがどうも変でして」

ξ゚⊿゚)ξ「なんだ、はやく言え」

<_プー゚)フ「連中、なんか妙に綺麗なんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「は?」

( 凸)「ヒルトの連中、やはり各々の戦闘力と言いますか、そういった部分は圧倒してます」

ξ゚⊿゚)ξ「…向こうは、徴兵された人間も多かろうからな」

( 凸)「ええ、ただ、それに対抗するためなのか、複数人で構成した部隊が出来始めてます」

( 凸)「最初は国で分かれてるだけとも思ったんですがね、どうも違うようで…」

<_プー゚)フ「まあそのせいで攻めあぐねてるみたいな」

ξ゚⊿゚)ξ「陣形……もしやショボンの奴が言っていたような物か」

隊列を組み、人の行動を一貫させる事で士気を保ち、
個人でなく戦局に対して優位に立てるよう行動させる。

剣などの戦いでの定石だと、戦争等とは一見無縁そうにも見える人間が語った。

しかしこの世界では、接続という魔法の力により長距離および広範囲攻撃が可能であること、
防具等で防ぐことができる威力では無いことから、密集体系での戦いは元より選択肢に存在しなかった。

ツンは周囲を見渡しながら思考する。

29名無しさん:2018/07/10(火) 19:54:28 ID:X.bQi/M20

管理者の相手を管理者が行う、これは想定どおりの行動だ、
しかし考えてみれば、相手側こそが、それを行ってきたようにも思える。

そも数で勝る状況で、なぜそうする必要があったのか、
数で劣るからこそ、こちらがそうする必要があったというのに、
ならばその狙いとは何なのか。

ξ゚⊿゚)ξ(………足止め、時間稼ぎ?…いや)

そして今の状況、ツンの方へと向かってくる者こそ居ないが、
辺りを埋めていくように散開している、これは。

ξ゚⊿゚)ξ「……分断されている」

<_プー゚)フ「んん?」

ξ゚⊿゚)ξ「おい、他の…ヒルトの女王と取り巻きはどこだ?」

(;凸)「え、ああ、確かあっちの方に」

ξ゚⊿゚)ξ「すぐに捜せ…!」

<_フ;゚ー゚)フ「そういや見ねぇな……おいおい、まさか…」

( 凸)「いや、そんな心配しなくても大丈夫じゃね?」

( 凸)「ああ、あれは謙遜してるけど相当な力の管理者でしょう」

( 凸)「んだんだ、簡単に遅れを取るようには」

ξ゚⊿゚)ξ「今の状況がわからんのか! 連中は、こちらを皆殺しにするつもりは無いんだぞ!」

30名無しさん:2018/07/10(火) 19:55:29 ID:X.bQi/M20

未だ攻め込まれること無く、密集している自分達の姿を指してツンは言った。
今や世界の反逆者となった自分達は、戦争となれば当然、どちらかが滅びるまで。

そう思われた、しかしそれが盲点だった。

連中の狙いは、管理者そのものではなく、以前の戦いでツン達も行おうとした最短の手段。

要するに、組織の中枢となる存在を討つこと、そしてこの場合、頭となるのは、
失えば替えが効かない、一気に全てが崩れかねないほどの重要な存在となるのは、
これまで管理者を数人仕留めてきた英雄か、賢者と評されロマネスクすら特別視する誓賢か。

当然この場合、一人しか居ない。


<_フ;゚ー゚)フ「狙いは……女王ヒートだけか!」


例え敵であっても虐殺は望まない王の下、正義の戦い。
それがこの、連携と、それを支えるだけの士気を作る要因だった。








………………。

31名無しさん:2018/07/10(火) 19:56:09 ID:X.bQi/M20

仮面をつけたグループが、互いに背を任せあうようにして、
しかし苦戦する様子もなく次々に襲い来る相手を斬り伏せていく。

だが、数が多い、休む間もなくそれは続き。

( - -)「次から次だなぁ…!」

(;<::V::>)「シュ……国王、ヒート様が…!」

( - -)「わかってるよ、しかしこれは…」

人の数が、この周辺だけ妙に多い。
明らかに集まってきている。

それにどこか違和感がある、正面からの戦いを主としていた筈の戦場が、
入り乱れているようで、どこか纏まっているように感じた。

具体的には、円。

広がる戦場の中に、いくつものグループができつつあった。
管理者を避ける為とも思えたが、しかしはっきりとした意思を感じる。

今もそう、まるでヒートの方へ合流することを阻むかのように。

( - -)(……あれ、やばくね)

そして状況は最悪な物となった事を知る。

いつの間にか、ヒートの近くへもう一人、大男が立っていた。

片腕には先端が勾玉のような形状をした大槌。
そして反対には何か、毛むくじゃらの大きな塊。

彼女の背後をとった大男は、担いでいた毛むくじゃらの何かを放り投げる。

32名無しさん:2018/07/10(火) 19:56:35 ID:X.bQi/M20

( ゚∋゚)「……」

(;・(エ)・)「ぐっ……!」

ノハ;゚⊿゚)「…っ!」

人影に振り返った先には、大男に投げ捨てられ、横たわる熊の姿。
それはまるで、狩の獲物であるかのような絵面だった。

毛皮に包まれているため分かり辛いが、あちらこちらに血が滲んでいる。

ヒートは戦慄を覚えた。

そこらの剣では傷もつけられない分厚い皮膚と毛皮を持ち、
崖から落ちても平然と登り、多少の傷はむしろ野生の怒りを買う。

そんな彼をああまで痛めつけ、行動不能に追い込むなど可能なのか。
少なくともあの魔獣が圧倒されたのは、ただの一度しか見たことがなかった、
ともすれば、あの大男はそれほどの強さを持つということ。


あの鬼―――オーガに並ぶ。


しかし今はそれよりも、その行動こそが問題だった。
何故、その敗北を喫した存在を、今こうして突き出されたのか、と。


ノパ⊿゚)「なんの真似だ、よもや…人質などと言うまいな?」

33名無しさん:2018/07/10(火) 19:57:20 ID:X.bQi/M20

(#゚;;-゚)「見捨てるの?」

ノハ#゚⊿゚)「ふざけるな…! 彼も獣である前に一人の戦士、生き恥など晒すものか!」

未熟な身なれど、そんな者たちを束ねる立場にある。
ヒートにとっても誇りにすべき事、ゆえにそれは彼にも、彼女にも侮辱に他ならない。

(;・(エ)・)「……っ、ま…て………」

(#゚;;-゚)「………」

ノハ#゚⊿゚)「私を捕らえるとか言ったな、なら無駄な事はやめてさっさと来るがいい!」

ノハ#゚⊿゚)「二人がかりだろうと、私は負けん…!」

ヒートは激情そのままに、自分を囲う二人を交互に見やり剣を構える。
しかし二人は未だ立ち尽くしたまま、しかし大男の方は手にした身の丈ほどの柄を握り、
巨槌をゴルフスイングの要領で振るう、狙いは正面の熊だった。

鈍い音と、同時に地震めいた振動が起こり、熊の身体が飛ぶ。
そして苦悶の声をあげながら、数度跳ねるようにヒートの近くへ転がった。

ヒートはそれを見据えると、音がするほど歯を噛み締め。
剣を肥大化させつつ地を蹴った、行く先は未だ振りぬいた姿勢のままの大男。

ノハ#゚⊿゚)「貴様……ッ!!!!」

( ゚∋゚)「………ふ」

対する大男は、向かい来る姿を見るなり小さく笑みを浮かべた。
そしてヒートは自分を覆い隠さんばかりの影が背に迫っている事を知る。

影の正体は、先ほど地に伏せたと思われた熊だった。

34名無しさん:2018/07/10(火) 19:57:43 ID:X.bQi/M20

毛並みは乱れ、爪は折れ、口からは涎を垂らしながらも、
まるで子を守る獣の如き姿で、立ち上がるなりヒートの背を護るように後を追った。


(;・(エ)・)「ぬ、おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

ノハ;゚⊿゚)「クマちゃん…!? 何を!?」

(;・(エ)・)「止まれ、罠だ!!」

そんな姿に、迎え撃つ姿勢だった大男が前に出る。
背後の存在を気にしながらも、ヒートはすぐに前方へ意識を戻す。

巨漢に、大きなハンマー、見た目だけでもかなりの圧だ。
対するは細身の、華奢な女性の姿、しかし手にした剣は巨大。

互いがほぼ同時にふりかぶり、放つのもまた、同時。


裂帛の気迫と。

ノハ#゚⊿゚)「ハァアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


物言わぬ威圧感。

( ゚∋゚)「――――!」


しかしその衝突は、意外にも。

否、異常なまでに、一瞬の静寂を生み出した。

35名無しさん:2018/07/10(火) 19:58:18 ID:1RBXWRRo0
ヒートかっこいい

36名無しさん:2018/07/10(火) 19:58:37 ID:X.bQi/M20

え?という疑問符は誰のものだったか。


放たれた巨大剣と巨槌は、両者の間で触れることなく、停止していた。
それも無音、風切る音を最後に、衝撃も何もなく。

続けて大男が口にしたものこそ、その結果を作る神具の名。


( ゚∋゚)「弾き返せ――――アイヤムル」

ノハ;゚⊿゚)「………!」

停止していた大剣が、そんな言葉と共に弾かれ、ヒートは身体ごと引きづられ体勢を崩す。
そんな彼女を熊が受け止めるなり、押し倒すように地面へと突き飛ばした。

衝撃に息を詰まらせるヒートの頭上で、熊が仁王立つ。
続けざまに声と、もう一つ小柄な影が動いた。

(;・(エ)・)「まだだ、もう一人…居る!!」

ノハ;-⊿゚)「く、熊ちゃん…もう、一人!?」


|/゚U゚|丿+激しく登場+

熊の背後には、いつからそこに居たのか、顔までを布で覆い隠した、
いわゆる忍者装束の人間が、手にした棒状の物体を振りかぶり、
ゴルフスイングのような軌道で、熊の脇腹を打つ。


|/゚U゚|丿+追放せよ、ヤグルシュ+

ノハ;゚ -゚)「…っっ!!!?」

37名無しさん:2018/07/10(火) 19:58:54 ID:aGQ2j7Kg0
マジでマジで
支援せざるを得ない

38名無しさん:2018/07/10(火) 19:59:32 ID:X.bQi/M20

音は、そう響くものではなかった。むしろ軽いとも言えた。
棒も先端にこそ勾玉の装飾がされているが、殺傷力があるようには見えない。

熊の大きさと比べてどちらも小さい存在だ、ダメージがあるとは思えない光景。
しかしそんな考えが浮かぶよりも先に、発生した事象にヒートは驚愕に固まった。


それはとても軽く、吊るした衣服が風に吹かれるようにして、熊の身体が浮き上がり、
数百キロはあろうかと言う巨漢が、打たれた慣性そのままに正面へと飛んでいく。


その先には、あの大男。


向かってくる熊に向け、もう一度ハンマーを振りかぶると、今度はまっすぐに、熊へと打ち下ろす。


衝撃に熊の身体がのけぞるが、しかしその先端にはやはり触れることないまま、
まるで見えない何かに押されるようにして、地面へと叩きつけられた。


が、と苦悶の声が上がるが、更に一瞬遅れて衝撃が、音と共に地面を砕いた。


(; (エ) )「が、あ、、ああああああああああああああああああああああああああ」


硬い地面に半身がめり込み、その周囲には圧の威力を示すようにクレーターが広がった。
血が、幾度かいたるところから噴出し、身体を埋める溝へと溜まっていく。

39名無しさん:2018/07/10(火) 19:59:44 ID:GDkUF/Ds0
おかえり…!!!

40名無しさん:2018/07/10(火) 20:01:04 ID:X.bQi/M20

それでも槌を押し付けたままの大男だったが、自身の横に赤い影が走るのを見た。

ノハ#゚⊿゚)「図に乗るな!!!」

( ゚∋゚)「…!」


しかし、そこへ更に追撃する姿があった。

(#゚;;-゚)「させない」

ノハ#゚⊿゚)「こちらの台詞…!」

だがヒートはこの行動を読み、紫電の光を放つ剣を振るっていた。


帯電状態の剣は、触れた瞬間に相手の腕を焦がすだろう、
とっさの事ならば口にする暇も与えない、そのため神具は魔法剣状態にしていた。

(;#゚;;-゚)「ッッ!!!!」


衝突は一瞬、互いの剣が弾かれるや否や、
ヂヂッ、と弾けるような音がして、でぃの動きがピタリと止まる。

ヒートは剣を弾かれながらも、勢いそのままに女を蹴り飛ばす。

女の身体が大男にぶつかって、男はその身体を支えるように片手で受け止める、
でぃは口をパクパクさせているが、軽い痺れで声が出ていない。

この瞬間を勝機と見る、ヒートは剣を再び巨大化させようと思い、
しかしハッと周囲へと意識を向け、神具を大剣、魔法剣に次ぐもう一つの姿へと変えた。

41名無しさん:2018/07/10(火) 20:02:41 ID:X.bQi/M20

|/゚U゚|丿+激しく隙在り+


ノパ⊿゚)「―――そんなものは無い、バルムンク…強化全開放!!」

ヒートの更に背後へ回り込んでいた忍者が、手にした棍棒を振るう、
しかし一度体勢を沈み込ませたように見えたヒートの姿が、その場から消えた。


忍者の攻撃は、と音を立てて空を切るだけに終わる。


|/;゚U゚|丿(……速い!?)

ノパ⊿゚)(あれに触れるのは駄目そうね)


横目に思いながら、眼前の二人を追い越し、更に回り込む。

この、一瞬の跳躍めいた疾走だけで、体中から軋むような音が響く、
やはり全体強化の負担は大きい、二度はないと考え、覚悟を決める。


ノハ#-⊿゚)(ここで……決めるっ!!)

三人共に反応できていない、行けると判断して地を蹴る。
だが、視界の隅に何かが見えた、大男が持つハンマーだった。

しかし自分を狙っていない、焦って振り回しているだけの行為に過ぎない。


真実、その通りだった。


大男はヒートを見失い、咄嗟にぶん回しただけである。
つまりは運、賭けの様なもの、攻撃ですらない。

42名無しさん:2018/07/10(火) 20:03:58 ID:X.bQi/M20

それゆえの、誰も読めない挙動。

今回ばかりは運悪く、それはただの偶然の結果として、
ヒートの向かう先、およそ斬り付けた直後のあたりで打ち付けられる先を示していた。

その結果。

ノハ;-⊿゚)「ぐ……っっ!!」

ヒートは無理矢理に方向を変え、距離を取ってその場を離れる事を選んだ。

そしてすぐに強化を解く、気だるさのような物が全身を襲い、
足には痙攣と共に、はっきりとした痛みが走る。


正面を見れば、倒れ伏せた熊の前で、三人がゆっくりと体勢を整え、
ヒートの姿を見つけるなり、やけにゆっくりとした動作で並び歩いた。


( ゚∋゚)「先の僅かな一瞬の、その全ての判断力、見事、と言わせて貰おう」

|/゚U゚|丿+にんにん、これは確かに一人で相手をするのは難しいようでござる+

( ゚∋゚)「さぞ民にも慕われる存在だろう……ゆえに、その存在の大きさも噂通りという事」

|/゚U゚|丿+つまり失えば、激しく崩壊+

ノハ;゚ -゚)「………そう…あなた方、最初から……」

(#゚;;-゚)「あなたを捕らえる―――三人がかりで」

43名無しさん:2018/07/10(火) 20:05:00 ID:X.bQi/M20

ノハ;゚ -゚)(落ち着け……落ち着いて、考えろ……どうする)


理性や、大局的なことを考えるなら、今すぐに逃げるべき。


連中の言うとおり、今のヒルトは団結しているようで危うい面もある、
何故なら、新たな王となった人間が、現在行方知らずとなっているからだ。


しかしそれが問題となっていないのは、代役を立てていることもあるが、
それ以上に、代役である事によってあまり現王との接点、会話等が少ない事に起因していた。


というにも、彼女自身としてはあまり理解したくない理由ではあるが、
どうやら民の多くがヒートの容姿に心を動かされているため、


要するに、イチャイチャしてないから許すよ、という若干気持ち悪い信仰心によるもの。


ゆえに、ヒルトの人間たちは、彼女を失うことがあれば、
少なくともその士気を無くし、全ては瓦解してしまう。


ノハ; ⊿ )(……けれど)


だからといって、彼女を崇拝する全てがその容姿にある訳ではない。

当然ながら、ヒルトという武力国家における前提として、強き者である事は絶対条件。

44名無しさん:2018/07/10(火) 20:06:30 ID:X.bQi/M20

いくら多対一、それも管理者とは言え、自ら戦いに背を向けるなど、
王として先頭にたつことで皆を率いた存在が、尻尾を巻いて逃げ出すなど、
そんな姿を、衆目にさらす訳にはいかない、民にも、敵にも。


そうなれば、それもすぐに信仰の崩壊を招いてしまう。

故に、やはりただ逃げるわけにはいかない。

王として、立ち向かう事をやめてはならない。


ならば、あと自分ができることは。


ノハ-⊿-)「………」


ヒートは、剣を構えなおし、迎撃の姿勢を取った。


( ゚∋゚)「……この状況下で、まだ戦意を失わぬか」

ノパー゚)「そちら様方こそ、随分と余裕ですのね?」


ノパー゚)「人数が増えたからと言って……あなた達自身が、私より強くなった訳じゃないでしょうに」


|/゚U゚|丿+そう言って一対一の状況でも狙ってるでござるか? 無駄にござるよ+

( ゚∋゚)「こちらは元より、強さへの誇りなど持ち合わせてはいない」

45名無しさん:2018/07/10(火) 20:07:12 ID:X.bQi/M20

ノパ⊿゚)「いいえ、そうではなく――――」


(#゚;;-゚)「ただ、令に従うのみ」

ノハ#゚⊿゚)「余裕ぶって歩いてないで、とっととかかってこいと言っている…!!」

ヒートはそう叫び、魔法剣に炎を宿らせ、そのまま高く燃え上がらせる。

決死の覚悟、ではなく、もう一つの選択肢を信じたから。

この組織めいた動きは脅威ではあるが、しかしそれは自分も同じ、
かつて国内で、ただ一人現実に立ち向かっていた頃とは違う、
色々な考えや、色々な強さを持った人間達と、今ここに立っている。


誰かは気付く、誰かが動くはず、と。


仲間を信じ、今はせめて時間を稼ぐこと。

それが今のヒートが選んだ、最善の選択肢だった。

( ゚∋゚)「……!」

最初に動いたのは大男、次いで傷女、最後に忍者が男の背に隠れるように駆け出す。

ヒートの最大の攻撃を、不可視の力で難なく受け止めた大男に対して、
言葉を紡ぐ間を与えれば、何が起きるかも読めない傷女に対して、
そしておそらく、触れたものを吹き飛ばす力をもつ忍者に対して、




打開策が無い。


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