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(=゚д゚)夢鳥花虎のようです
299
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:01:08 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「サナエのババア、何考えてんだ。
それはそうと、お前の方の仕事はどうラギ」
( ><)「僕の方は小さな事件ばかりで、未成年よりも年寄りの万引きの方が増えています。
正直、誰にでも出来る事件ばかりですよ。
どうにもサナエ所長は僕らを引き離しておきたいみたいですね」
(,,゚Д゚)「らしいな。まぁいい。
ビロード、お前はお前で仕事に専念しろラギ。
俺は俺でやっておくラギ」
( ><)「分かりました。
そうだ、僕も携帯電話を買ったので何かあったら連絡をください」
手帖に番号を走り書きし、そのページを千切ってトラギコに手渡す。
(,,゚Д゚)「悪いが、何かあった時には手を貸してもらうラギ」
( ><)「喜んで」
トラギコは意識せずに右手を差し出していた。
( ><)「え?」
(,,゚Д゚)「頼りにしてるぞ、ビロード」
( ><)「は、はい!」
二人は握手を交わしてその場で分かれ、トラギコは病院内へと戻ることにした。
まだ集中治療室から幼児たちは出てきていないようで、警官達は無言で首を横に振った。
併設されているカフェテリアに向かおうとしたところで、男が一人近づいてくるのが見えた。
長い灰色の髭を生やし、髪を頭頂部で結んだアサピー・ホステイジだ。
見るかに上質そうな灰色のスーツで身を固め、足元にはコードバンの靴が輝きを放っている。
人を嘲るような上目遣いで、アサピーはねっとりとした声を発した。
(-@∀@)「へへっ、久しぶりですね、トラギコの旦那」
(,,゚Д゚)「手前にそう呼ばれるほど仲が良かった記憶がねぇんだけどな」
(-@∀@)「そういいなさんな。
立ち話もなんですから、コーヒーでも飲みながらどうですか?」
(,,゚Д゚)「いいや、遠慮するラギ。
ここで話せラギ」
この場を離れている時に襲撃されれば、生き残った子供たちを失いかねない。
(-@∀@)「ご婦人方に聞かれちゃ困ることだってあるでしょう?」
300
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:01:29 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「ねぇよ。
それとも俺をここから離すよう、誰かに言われてるのか?」
(-@∀@)「相変わらずの強情さだ。
まぁいい、単刀直入に言いますわ。
掃除屋の件はただの大義名分で、この事件、あたしにも一枚噛ませてもらいたいってのが本音でさぁ」
(,,゚Д゚)「理由は?」
(-@∀@)「あたしはスクープが欲しい。
あんたさんは犯人に関する情報が欲しい。
協力すれば、あっという間に真実に近づけまさぁ」
アサピーの発言を最後まで聞いてから少しの間を置いて、トラギコは鼻で笑った。
この男、自分の使い方をよく分かっているようだ。
(,,゚Д゚)「俺に旨みがねぇラギな」
そしてアサピーはニヤリと笑みを浮かべ、トラギコにだけ聞こえる声量で話を続けた。
(-@∀@)「犯人に心当たりがある、と言ったらどうでしょう」
(,,゚Д゚)「言うだけなら誰にでも出来るラギ。
根拠と証拠がなきゃな」
(-@∀@)「相手は未成年で、似たような前科がある、と言ったら?」
(,,゚Д゚)「そこまでは俺も考えたラギ。
問題は、そいつの名前も顔も分からない事ラギ」
(-@∀@)「あたしは別でさぁ。
何せ、そいつの裁判を傍聴してたんだ。
そしてそいつは、すでに釈放されているんでさ」
(,,゚Д゚)「そいつの判決が出たのは七月二十日で、まだ刑務所の中のはずラギ。
どういうことラギ」
(-@∀@)「えぇ、半年間の判決が出ましたが、実際にもう娑婆に出てるんでさぁ。
これまでに何度か取材をしようと刑務所に行きましたが、そいつはいなかった。
看守はシラを切っていましたが、他の受刑者から聞きました。
刑事さん、間違いありません」
子供を相手にした強姦殺人事件は、この街に来る前から知っていた。
そしてその犯人が捕まり、半年間刑務所に送られていることも聞かされていた。
二つの事件には共通点が多々あり、真っ先に疑ってかかっていたが、資料を確認したら今も刑務所の中にいる事になっており、事件を起こすのは不可能であると判断して除外していた存在だ。
この事件こそが、トラギコの中にある心当たりだった。
しかし、アサピーもトラギコもその犯人に注目をしていた。
外に出ているはずのない犯罪者に。
301
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:02:01 ID:/d4jdjY20
(-@∀@)「あたしが追えるのは途中までなんでさ。
だから、あんたさんと手を組めばこいつを追いかけられる。
どうです?悪い話じゃないでしょう」
(,,゚Д゚)「何でこの事件に関わろうと思ったラギ?」
(-@∀@)「あたしはジャーナリストですよ?真実を大衆に伝える義務ってのがあるんでさぁ」
(,,゚Д゚)「初めて聞いたな、そんな話」
(-@∀@)「まぁそこはいいじゃありませんか。
で、どうしやす?」
(,,゚Д゚)「いいだろう。
ただし条件があるラギ」
(-@∀@)「なんですかい」
(,,゚Д゚)「俺の邪魔をするなよ」
(-@∀@)「へへっ、分かってますよ。
殴られるのも撃たれるのも御免なんで」
アサピーが左手を差し出してきた。
それを一瞥して、トラギコも左手で握手に応じた。
(-@∀@)「じゃあ、また」
左手を素早く上着のポケットに入れ、アサピーから密かに渡された紙をそこにしまった。
他の警官達に聞かれなくない情報がそこにあると考え、少し離れた場所で見ることにした。
紙には電話番号と共に、一枚のスケッチが描かれていた。
それは法廷に立つ一人の男を描いたものだった。
(,,゚Д゚)「……こいつか」
この街では未成年が加害者の場合、法廷にカメラを持ち込むことが禁止されている。
そこで記者たちは犯人の姿をスケッチで残すのだが、犯人が素顔の状態で法廷に立つことは極めて珍しい。
これはおそらく、一瞬だけ見えた犯人の姿を描いたものなのだろう。
使えるかどうかは別として、これを手がかりに進めていくしかない。
気になるのは、犯人がすでに出所しているという事だった。
模範囚であっても、あれだけの事件を起こしたのだから刑期が短縮されることはあり得ない。
治療室から三つの担架が運び出される音が聞こえ、トラギコは婦警たちと共に病室に付いていくことにした。
三人の女児は特別病室へと運ばれ、大きなベッドの上に寝かされた。
顔に痛々しい傷を負った女児もいれば、両腕をギブスで固められた女児もいた。
彼女達がこのような仕打ちを受けていい理由など、この世のどこにもない。
改めて犯人を捕まえ、然るべき罰を受けさせることを誓ったトラギコは婦警たちに伝言を残して外に出ることにした。
302
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:02:31 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「誰が何を持って来ても、絶対に食わせるな。
いいな、面会も全て拒否ラギ。
犯人が見つかって捕まるまでは、この子たちを他の連中に会わせるなよ」
「分かりました、出来る限りの手を尽くします」
(,,゚Д゚)「俺を殺そうとした奴らは銃を持って、しかもホテルに放火をしたラギ。
そしてこの子たちを襲った屑は毒を盛ってきたラギ。
相手を気が狂った変態だと思うな。
相手は正真正銘、行動力のある屑ラギ」
病院から出てトラギコが向かったのは、いつも朝食を食べていたコーヒーショップだった。
イ´^っ^`カ「おや、今日は遅いですね」
(,,゚Д゚)「まぁな。
いつものセットと、昼飯用にでかいサンドイッチを頼むラギ」
何はともあれ、まずは食事を済ませるところからトラギコは始めることにした。
空腹の状態では万全ではない。
急いで朝食を済ませ、昼食を手に入れると、街の散策を始めた。
昼を過ぎると青空は消え、分厚い雲が空を覆っていた。
雪の粒も大きさを増し、溶けて汚れていた雪の上に新たに降り積もり、白い絨毯を作り出しつつあった。
午後三時を過ぎると、街は雪に覆われ、交通の麻痺が始まった。
道を歩く人影も減り、次第に車の数も減った。
だがトラギコは歩き続け、すれ違う人の顔を観察していた。
――そして陽が完全に落ち、世界が白と黒に包まれた頃、トラギコの姿は街の中でもゴロツキが集まることで有名な酒場にあった。
酒場は連日狂気じみた若者たちの叫び声や怒鳴り声で賑やかになるのだが、その日は、誰一人として大きな声を発することはなかった。
店に入るまでは笑顔を浮かべていた人間も、店内の異様な空気を感じるとすぐに真顔になり、席についても無言のまま時間を過ごしていた。
店の外に出たり席を立ったりすることなど、まるで出来なかった。
ジャーゲンの若者たちが最も恐れている男がそこにいるのだから、無理もない。
(,,゚Д゚)「お前らに話があるラギ」
誰も返事をしなかった。
ラジオから流れてくる音が不気味に店内に響く。
それ以上に、トラギコの声は人々の耳に届き、支配していた。
(,,゚Д゚)「今朝、ブルーハーツ児童養護施設が襲われ、子供たちが強姦され、殺されたラギ」
店内の客は一人として、身じろぎひとつしない。
(,,゚Д゚)「俺はその犯人を捜しているラギ」
「……おい、今、何て言ったんだ?」
303
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:03:15 ID:/d4jdjY20
それは、店の隅に座っていた男の口から発せられた一言だった。
客達が一斉に男に目を向ける。
無精ひげを生やした長髪の偉丈夫は、信じられない物を見るかのような目で、トラギコを見ていた。
(,,゚Д゚)「ブルーハーツ児童養護施設で起きた強姦殺人事件の犯人を捜している、と言ったんだ」
「嘘だろ……おい!!」
どうやらトラギコの行動よりも、施設の名前に驚いているようだった。
「俺の……俺の腹違いの弟がそこにいるんだ、ああ……じ、ジョシュアって名前の……!!
ジョシュアは無事なのか?!」
(,,゚Д゚)「……残念だが、男児は全員殺されたラギ。
女児も全員凌辱され、生き残ったのは三人だけラギ」
男は口を押えながら、声を上げて泣き出した。
その姿を見て、数人の客の間にも動揺が走った。
恐らく、児童養護施設の出身者か関係者なのであろう。
(,,゚Д゚)「俺はお前らに喧嘩を売りに来たんじゃないラギ。
この事件を起こした異常者についての情報を聞きに来たんだ」
「あんた、やっぱり警官だったのか」
非難するような口調で投げかけられたのは、派手な化粧をした女の言葉だった。
女の態度から察するに、前にトラギコが逮捕した人間なのだろう。
(,,゚Д゚)「だったらどうした。
警察に協力するのはお前らの流儀に反するってか?」
「ならここじゃなくて、どこかの興信所にでも行きなよ。
ここはね、あんたみたいな人間が来るところじゃないんだよ」
(,,゚Д゚)「あぁ、出来れば俺だってこんなところに来たくはねぇラギ。
だけどな、この糞野郎を捕まえる為なら俺はどんなところにでも喜んで行くラギ」
「はっ!あたし達を捕まえておいて、あんたが困った時に手を貸せってのかよ!」
(,,゚Д゚)「威勢がいいな、女。
その通りだよ。だからどうした。
俺が警官でお前らがならず者だろうが、何の罪もない子供を凌辱して殺した奴を見逃していい理由になるのかよ。
冗談じゃねぇラギ!!」
トラギコの怒鳴り声に、誰もが再び沈黙した。
先ほどまでトラギコに食って掛かろうとしていた女も口を噤み、恐怖に目を見開いていた。
304
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:03:42 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「別に正義の味方になろう、って言ってるわけじゃねぇラギ。
お前らの中に俺が捕まえた奴がいるんなら、それはそいつが罪を犯したから俺がそうしただけラギ。
だから今度も同じラギ。
罪を犯した奴がいるから、俺が捕まえるラギ。
お前らは平気なのかよ、年端もいかない子供がこんな目に遭って、またそれが繰り返されるかもしれないって言うのを黙っていられるのかよ。
お前らの嫌いだった大人ってやつは、そういう連中だったんじゃねぇのかよ」
誰も何も言えなかった。
トラギコの言葉に感動したからでもなく、何を言えばいいのか分からないのだ。
そして、何をすればいいのかも。
(,,゚Д゚)「お前らの知っている限りで良いラギ。
七月に同じことをして捕まった男の行方を知りたいラギ」
少しの間があった。
誰かが唾を呑む音さえ聞こえてくる、痛いほどの沈黙。
「し、知ってる」
沈黙を破ったのは、先ほどトラギコに食って掛かってきた女だった。
「名前は知らないけど、よくいる場所なら知ってる」
(,,゚Д゚)「どこだ、そいつはどこにいるラギ」
「埠頭のコンテナ林だよ、俺も昨日見た」
コンテナ林とは、ジャーゲンの東にある港の一角の事だ。
高く積まれたコンテナが林のようにいくつも聳え立ち、毎日その形を変えることからそのように呼ばれている場所。
だがそこは輸出入に関係する人間だけが出入りをする場所で、街との境目は高さ五メートルのフェンスで区切られている。
船舶と貨物列車だけが利用するその場所には当然ながら、大勢の人間と貴重な品々が出入りをする。
万が一に備えて、無関係な人間が出入りをしないように設置されたフェンスには高圧電流が流れており、毎年数人の死者が出るという。
運輸に関わらない人間はまず立ち入ることのないジャーゲン経済の心臓部に、どうしてこの若者たちがいたのだろうか。
「あそこにゃ、結構ヤバい薬とか売ってる人間が来るからね。
言っとくけど、あたしは薬のために行ったんじゃないからね。
彼氏があそこで働いてるんだ」
「お、俺もクスリにゃ手を出しちゃいねぇよ」
密輸手段はさておいて、確かに、人の入れ替わりが激しい場所であればそういった取引がされていることは不自然ではない。
交易の拠点となる場所では後腐れなく仕事が出来る為、売春や売買が横行する。
トラギコ達はその場所に近づかないよう市長から命令が出されており、基本的には運送関係の人間達で自治をするように特別な扱いがされていた。
つまるところ、市長はその犯罪行為を認知しているのだ。
(,,゚Д゚)「分かったラギ。
コンテナ林だな」
305
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:04:14 ID:/d4jdjY20
「あそこはサツを歓迎していないことぐらい知ってるだろ、本気で行くのかよ」
(,,゚Д゚)「歓迎されていようがいまいが、俺のやることは変わらねぇラギ。
他に何か情報を持ってる奴はいるか?」
「役に立つかは知らねぇが」
そう言ったのは、先ほどトラギコの言葉に動揺して泣いていた男だった。
目を赤く腫らし、鼻水をすすりながら言葉を続ける。
「そいつはトリックスター運輸って会社の制服を着てた」
(,,゚Д゚)「今も働いてるのか、そいつは」
「一か月ぐらい前の話だから、今はどうか知らねぇ。
後、多分だけどそいつ、ブルーハーツにいたことがある奴だと思う。
俺もそこにいたから、なんとなくだが……」
(,,゚Д゚)「そうか……何にしても助かるラギ。
さて、俺はもうこの店を出るラギ。
戻ってくることはねぇだろうから、後は好きに楽しんでてくれラギ」
カウンターの上に百ドル金貨を二十枚ほど無造作に置いて、先ほどから固まっていた店主に声をかける。
(,,゚Д゚)「これで店の連中に奢れるだけ奢ってくれラギ」
コートを肩にかけて店の外に出ると、すっかり景色は白一色に染まっていた。
真っ白い息を吐き、気分を落ち着かせる。
後一歩のところまで迫ってきている。
そう考えると、否応なしにトラギコの全身の筋肉が緊張した。
容疑者を逮捕する時、多少手荒な真似をしても問題はない。
肋骨を数本と腕、後は足を折った状態で取調室に送り込むことを考えた。
ダウンコートを着て、ファスナーを一番上まで上げる。
携帯電話を使って、まずはビロードに連絡を入れた。
(,,゚Д゚)「俺だ。容疑者の位置が分かったラギ。
コンテナ林で合流するぞ」
( ><)『分かりました。
丁度この天候のおかげか、特に事件もないので向かいます』
腕時計に目をやる。
蓄光塗料が指し示すのは、夜の八時十五分。
(,,゚Д゚)「九時半に合流できるラギか」
( ><)『行けます。
では、その時間にコンテナ林の入り口で』
306
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:04:34 ID:/d4jdjY20
一度電話を切り、歩きながら次の人間に電話をかけた。
(,,゚Д゚)「アサピーか?」
(-@∀@)『おや、お早いことで。
ってことは、何か情報が手に入ったんですね?』
(,,゚Д゚)「お前の言う通り、奴の目撃情報があったラギ。
俺はこれから奴を捕まえに行くが、どうするラギ」
(-@∀@)『そりゃあ勿論、あたしも同行させてもらいまさぁ。
スクープの瞬間は逃さないのが鉄則なんでね。
それで、時間と場所は?』
(,,゚Д゚)「手前が邪魔をしないって約束するんなら教えてやるラギ。
いいか、間違ってもインタビューをしようなんて考えるなよ」
(-@∀@)『……分かってますよ』
(,,゚Д゚)「九時半にコンテナ林ラギ。
お前も一緒に探して、見つけ次第連絡をよこしてくれラギ」
(-@∀@)『へへっ、捕まえるところだけ撮れればそれでいいんで』
通話を終え、トラギコは両手を上着のポケットに入れて歩き出す。
雪はすでに踝の上まで積もっているが、空からは何も降ってきていなかった。
明日になればまたこの雪は溶け、何事もなかったかのように一日が過ぎるだろう。
轍を辿るようにして歩くことで、余計に濡れる面倒を省く。
まだ九時前なのに車の往来はまるでなく、街全体が静まり返っていた。
極めて静かな夜に聞こえるのは風の音と、雪を踏み潰す音。
凍るように冷たく澄んだ空気が肺を満たす。
一刻も早く容疑者を捕まえ、事件を終わらせたいという気持ちだけが大きな音を立て、熱を帯びてトラギコの体を血と共に駆け巡る。
寒さは大して感じなかった。
感じるのは、焦りに似た感情だった。
コンテナ林を囲むフェンスの前には、小さなプレハブ小屋が建っていた。
それが出入りを管理するための建物だと分かるのには、時間はあまり必要なかった。
プレハブの窓からは明かりが漏れ、ラジオの音に混じって時折笑い声が聞こえてくる。
等間隔に設置された街灯のオレンジ色の明かりが周囲一帯を染め上げ、不気味な雰囲気を漂わせている。
潮騒と潮の香り。
仄かに鉄の匂いもする。
ここに硝煙の匂いが混じらないことを願うばかりだ。
九時二十三分。
トラギコはフェンスにもたれ掛かり、後の二人が到着するのを待った。
五分後、ビロードが現れた。
流石に警察の制服ではなく、ダウンコートを着て厚手のジーンズをはいていた。
307
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:04:56 ID:/d4jdjY20
( ><)「お待たせしました」
(,,゚Д゚)「あと一人来るラギ。
ちょっと待ってろ」
( ><)「あと一人?誰なんですか?」
(,,゚Д゚)「アサピー・ホステイジってジャーナリストだ」
(;><)「アサピー?!
僕でも彼の悪評は知っていますよ」
(-@∀@)「ははっ、酷い言いぐさですな。
若きエース、ビロード・フラナガン」
暗闇から溶け出すようにして現れたのは、全身黒い服に身を包んだアサピーだった。
その手にはしっかりとカメラが握られており、背中には三脚を背負っていた。
(,,゚Д゚)「ここにいるって話だが、今いるかは分からねぇラギ。
ビロード、アサピーと一緒に探してくれ。
そいつが容疑者の顔を知ってるラギ」
( ><)「……分かりました」
(-@∀@)「よござんす」
(,,゚Д゚)「ビロード、見つけ次第テーザーを撃っていいラギ。
話は奴を捕まえてからだ」
それを聞いたアサピーが少し驚いた表情を浮かべる。
(-@∀@)「いいんですかい?あたしの前でそんな事言っちまって」
(,,゚Д゚)「俺がどういう男か知ってるだろ」
(-@∀@)「へへっ、分かってますよ。
それに今回は警察のスキャンダルなんかよりも、事件の犯人を捕まえる方がよっぽどネタとしていいんでね」
この男の報道に対する執着心は信用ならない部分があるものの、逆に、その執着心を理解して使えば優秀な駒となる。
民間人の情報提供者よりもゴシップに貪欲で、一枚の写真を撮るためだけに何日も平気で張り込み、道徳観を無視した行動を行える。
警察としては厄介な存在だが、使い方次第では警官以上の情報収集・追跡能力を有した逸材になり得るのだ。
ビロードと組ませたのは確かに、彼が犯人の顔を知っているからというのもあるが、アサピーが犯人に余計なことをしないようにビロードに監視させる意味もあった。
それに、二人でいれば多少は命を狙われるリスクが減る。
出来るのであれば、犯人はトラギコが確保したいところであった。
(,,゚Д゚)「じゃあ、行くぞ。
何かあれば電話をするラギ」
308
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:05:24 ID:/d4jdjY20
そしてトラギコはプレハブ小屋に入り、警察の身分証明を見せ、フェンスの内側に入れるように命令をした。
警察が普段は近寄らない場所ではあるが、契約ではこの場所も警察が治安維持をすることになっている。
プレハブ小屋の中で酒盛りをしていた男達は一瞬だけ面食らった様子だったが、トラギコの眼に気圧されて、大人しく扉を開いた。
三人は堂々と正面から入り、コンテナが高く積み上げられた埠頭へと足を踏み入れた。
鋼鉄の塊がまるで大樹のように聳え立ち、ひっきりなしに金属同士がぶつかる重々しい音が響いてくる。
大型の輸送船が接岸し、大型クレーンが巨大なコンテナを持ち上げて新たなコンテナの木を作っていた。
まず、トラギコは二人に話していない事があった。
犯人が目撃された時、トリックスター運輸の制服を着ていたという点だ。
これは先入観を持たずに捜査をさせる為であり、余計な情報で犯人を見逃してもらいたくないという考えからだった。
しかし、トラギコは先にトリックスター運輸に向かう事にしていた。
このコンテナ林を使う会社は無数にあり、作業員のために作られた簡易的な支所がいくつもある。
情報を集めるのであれば、まずは所属をしていた会社に足を運ぶのが定石だ。
足元から、まだ新しい雪を踏む音が小さく鳴る。
その音に金属の重低音と波の音が重なる。
「兄さん、どうだい?」
横から声をかけられ、足を止めずに目を向ける。
街灯の下に白い息を吐く男が立っていた。
薬物の売人か売春斡旋人である可能性しか考えられず、無視をしようかと思ったが、トリックスター運輸の場所を聞き出すのに都合がいいことに気付いた。
(,,゚Д゚)「あぁ、ちょっと頼みたいことがあるラギ」
「へへっ、そうこなくっちゃ」
(,,゚Д゚)「こっちに来てくれラギ」
懐に手を入れ、密かに財布を出すような仕草をする。
「大丈夫だって、ここにサツはこねぇからよ」
男は堂々と白い粉の入った袋を上着から取り出し、トラギコにそれを見せた。
無知は人を恐ろしいほどの馬鹿に仕立て上げる時があるが、この男のタイミングの悪さは抜群だった。
(,,゚Д゚)「あんたの後ろに誰か人がいたら怖いからな。
こっちに来てくれよ」
実際、薬物の取引を装った路上強盗事件はよく起こる。
路地裏や人目に付かない場所に誘導し、そこで金品を奪い取るという手法だ。
売春でも同じような手口を使い、下心を出した男から金を巻き上げるという事件は後を絶たない。
「ちぇっ、分かったよ。
用心深い兄さんだ」
男はニヤニヤ笑いを浮かべながらも周囲を見回し、それからトラギコのように歩み寄ってきた。
309
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:05:56 ID:/d4jdjY20
「百五十ドルだ。
まじりっけなしの極上の品だぜ」
(,,゚Д゚)「確かに、純度が高そうラギ。
輸入したばっかりのやつか?」
「よく知ってるね。
そうさ、だからどこかのケチな奴らと違って、変な粉を入れて量を誤魔化すこともしちゃいねぇ。
百パーセントピュアな粉だ」
(,,゚Д゚)「なるほどな。なら――」
懐から拳銃を取り出し、銃腔を男に向ける。
(,,゚Д゚)「――この場で現行犯逮捕すれば、色々と面白くなりそうラギ」
「なっ、ちょっ!?」
(,,゚Д゚)「黙れ。 まず、お前が持っている粉を全てこの場に捨てろラギ」
「ど、どういう……」
(,,゚Д゚)「袋を開けて、中の粉を全部雪の上に捨てろってことラギ。
これ以上の説明はしないラギ。
お前が質問を一つするごとに、俺はお前の指を折るラギ。
俺に同じことを言わせたら、鉛弾を一発くれてやるラギ」
男は怯えながら、トラギコの指示通りに袋を破いて粉を捨てた。
二十袋以上破いて捨てても、トラギコは銃腔を男から逸らさなかった。
男は靴の中から更に六袋取り出して、中身を捨てた。
(,,゚Д゚)「次だ。
トリックスター運輸の建物まで案内しろラギ」
「なっ、なな、何で」
トラギコの手の中で、撃鉄を起こす音が不気味に鳴った。
「もも、勿論!」
男を先に歩かせ、その後ろを付いていく。
何度かコンテナの間を通りながら進み、三階建ての建物の前で男が止まった。
コンクリートで作られた飾り気のない四角い建物にはカーテンも付いていない四角い窓があり、人が動いている様子がよく見えた。
「こ、ここです」
(,,゚Д゚)「ご苦労。
二度と薬を売るな、いいな。
次に見つけた時は生きたまま海に沈めるラギ」
310
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:06:22 ID:/d4jdjY20
「はひぃっ!」
小さく悲鳴を上げ、逃げるようにして男はコンテナ林の中に消えて行った。
残されたトラギコは建物を見上げ、まだ中に人がいることを確認してから中に入った。
一階には受付すらなく、まるで倉庫のように多くの荷物が雑然と積み重ねられ、散らばっていた。
その中で、緑色の制服を着た男達が荷物を右から左へ動かしている。
天井にぶら下がっているスピーカーからはラジオが流れていた。
(,,゚Д゚)「責任者はいるか?」
トラギコの突然の問いかけに、制服を着た男の一人が動きを止める。
運送業をしているだけあり、その体躯はしっかりとしている。
腕はまるで丸太のように太かった。
「何の用だい?」
(,,゚Д゚)「人を探してるラギ」
身分証を見せ、警官であることを伝える。
すると、最初に対応した男が少しだけ眉を潜めた。
「俺が責任者のアンドレだ。
ウチのもんが警察の厄介にでも?」
(,,゚Д゚)「そんなところだ。
あんたのところに、こんな男はいるか? 未成年の男だ」
アサピーから受け取ったスケッチを見せると、アンドレは首を傾げ、口を開いた。
「さぁ、これだけじゃ分からねぇな。
他に何か特徴はあるか?」
(,,゚Д゚)「子供好きだ、悪い意味でな。
昨夜仕事に来ていない奴ラギ」
「俺は確かに従業員の顔は把握してるが、性癖までは。
それに、昨日仕事に来てない奴はわんさといる」
「それ、ビンズじゃないですか?」
それは、アンドレの後ろから聞こえてきた声だった。
男は木箱を移動させながら、世間話をするかのように話を続けた。
「歓迎会の後、俺達が風俗に連れて行ってやるって言ったのに、あいつ、成熟した女に興味ないって言ってましたからね。
ありゃあマジもんですよ」
「あぁ、ビンズか。
刑事さん、ビンズ・アノールってやつです」
311
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:06:44 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「そいつに関する書類はあるラギか?」
「ちょっと待ってくださいよ」
アンドレは一度奥に向かい、すぐに紙を持って戻ってきた。
「これしかありませんが」
(,,゚Д゚)「早いな」
「何せ四か月前に来たばっかりですからね」
書類に目を通しながら、もしもこのビンズという男が七月に逮捕された男と同一人物であれば、一カ月ほどで刑務所から出てきたことになる。
つまり、ほとんど刑罰を受けずに出たという事だ。
履歴書を見る限りでは、年齢は十八歳。
未成年であり、添付されている顔写真とスケッチは特徴が似ている。
(,,゚Д゚)「こいつは今どこにいる?」
書類を折り畳んで懐にしまいながら、トラギコは最も重要な話を切り出した。
「あー、実は……」
アンドレが言いよどむ。
「さっき、解雇しまして」
(,,゚Д゚)「何?」
「あいつ、クスリをキメて仕事をしようとしてたんですよ。
だから俺が、クスリをキメるなら辞めろ、って言ったんです。
そしたらあいつ、俺の目の前でキメてからここを出て行ったんですよ。
そのくせ、髪は丸坊主にしてきて、順序が逆だってんですよ」
(,,゚Д゚)「どれぐらい前の話だ」
「つい十分前です。
今頃宿舎に荷物を取りに行ってると思いますが」
この瞬間、トラギコはビンズが犯人であると確信した。
万が一警察に捕まった場合でも、薬物を日常的に摂取していた事が証言されれば、刑罰はかなり軽くなる。
それがこの街の法律だ。
あえて従業員の前で薬物を使用することで、その証言の強さを確かなものにするという、極めて悪質な方法。
未成年でなおかつ判断能力が欠如した状態での犯行となれば、間違いなく、この男は死刑にはならない。
(,,゚Д゚)「宿舎はどこだ」
焦りを抑え込みながら、トラギコは質問をした。
312
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:07:10 ID:/d4jdjY20
「この先を線路沿いにまっすぐ北に行ったところに、各社共同の宿舎があります。
そこの703です」
(,,゚Д゚)「もし奴を見かけたら捕まえておくよう、従業員に指示を出しておけ。
いいな、絶対に逃がすな!!なんなら他の会社にも伝えておけ!!」
建物を出て、トラギコは全力で走り出した。
携帯電話を取り出して、ビロードに急いで電話をかける。
( ><)『どうしました?』
(,,゚Д゚)「容疑者はビンズ・アノールって男ラギ!!十分前にヤクをキメてる!!
俺は宿舎に向かうから、お前は応援を呼んで出入り口を塞げ!!」
( ><)『わ、分かりました!!』
顔に吹き付ける風が刺すように冷たい。
冷え切った空気を取り込んだ肺が痛む。
まるで氷柱を喉と肺に突き刺されているようだ。
線路の上にはエライジャクレイグの貨物列車が停車しており、男達が荷物の積み込みを行っていた。
男達はトラギコを怪訝な目で見つめたが、すぐに仕事に戻った。
雪のせいで思ったよりも早く走れず、宿舎に到着するのに五分の時間がかかってしまった。
宿舎は背の高い建物が連なる古いもので、セキュリティとは無縁の構造をしていた。
この埠頭を仕事場にする人間の数にしては、部屋数が多すぎるようにも思える。
一部を貸し部屋として機能させ、遠方から来た人間を一時的に泊めるようにしているのかもしれない。
部屋番号から察するに七階にあると予想し、階段を駆け上った。
七階に到着した時、ある部屋から男が一人出てきた。
マスクをつけ、白いロングコートで全身を覆い、更にはフードを目深に被っているため顔を確認することはできない。
だが、男が出てきた部屋の番号は703。
トラギコと目が合った瞬間、男は走り出した。
トラギコは冷静に、かつ素早くM8000を懐から抜き、男の足を撃った。
正確に膝関節を後ろから撃ち抜かれた男は、顔からその場に転倒する。
(,,'゚ω'゚)「あひっ?!」
もう一発、男のアキレス腱に撃ち込んだ。
これで歩いて逃げ出すことは出来ない。
扉が開け放たれたままの部屋の前を通ると、冷たい風が部屋から吹き抜けてきた。
その瞬間、トラギコは悟った。
一杯喰わされた、と。
部屋の中に土足のまま上がると、ベランダに通じる窓が開いていた。
カーテンが風に揺れ、ビンズがベランダを使って逃げ出したことを物語っている。
どのタイミングでトラギコの動きに気付いたのかは分からないが、少なくとも、十分前、つまりトリックスター運輸で解雇になるまでは知らなかったはずだ。
何者かがトラギコの動きを伝えていたとしか思えない。
313
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:07:52 ID:/d4jdjY20
先ほど逃げ出した男は囮。
時間稼ぎをするためのただの捨て駒だったのだ。
ベランダに出て、足跡を確認する。
手すりを越えて動いた痕跡があった。
周囲を見渡し、人影を探す。
街灯が照らすモノクロの不気味な世界の中、動く物を見つけた。
それは、建物の壁沿いに設けられた僅か突起物を足場に動く人間だった。
(,,゚Д゚)「ビンズ!!動くな!!」
名前を呼ばれた男――ビンズ――はニヤリと笑い、そのまま壁沿いに逃亡を続けた。
(::゚∀゚::)
仕方なく撃とうとしたが、ビンズは突如壁から飛び立ち、街灯にしがみついて一気に下に消えて行った。
(,,゚Д゚)「野郎!!」
七階から一階まで降りるにはあの方法しかない。
トラギコも壁沿いに移動し、街灯にしがみついて降りた。
足跡はコンテナ林の方に向かっていた。
足跡と跫音を頼りに駆け、その背中を追いかける。
流石に若いだけあり、足が速い。
だが負けてはいられない。
ここで捕まえなければ、再び忌まわしい事件が起きかねないのだ。
ビンズは方向を変え、線路の方へと向かった。
トラギコはビンズの狡猾さに舌を巻いた。
世界に多々ある線路は、そのほぼ全てが鉄道都市エライジャクレイグの所有するものであり、同時に、エライジャクレイグの土地でもあるのだ。
その土地で起きたことはその土地の法律を用いて裁くことになる。
当然、警官が逮捕する権利を有しているか土地に委ねられる。
エライジャクレイグは警察との契約を線路ではなく、列車内でのみ交わしており、線路上は警察の管轄外だった。
つまり、手出しが出来ない領域になる。
パトカーのサイレンが静かだった埠頭に鳴り響き、状況が更に変化したことを告げる。
応援が来たのである。
後は、ビンズが線路に入る前に捕まえられるかが問題だった。
銃を構え、銃爪を引く。
銃弾はコンテナに当たって跳弾し、明後日の方向に飛んで行った。
ここで発砲すれば、民間人を巻き添えにしかねなかった。
二人の距離は徐々に縮まっていくが、まだ百メートル近くの差があった。
このままでは追いつけないと判断し、コンテナ林を抜け、線路の手前に来たところで撃つことにした。
この際、撃ち殺してしまっても仕方がない。
トラギコの思惑通り、二人はコンテナ林を抜けて線路に入るための簡易プラットホームを正面に捉える場所に出た。
314
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:08:23 ID:/d4jdjY20
ビンズはプラットホームに向かってラストスパートをかける。
トラギコは走りながらも、両手でM8000を構える。
銃爪に指をかけ、弾倉の中身を撃ち尽くしてでも止める覚悟を決めた。
――太陽が落ちて来たかのような眩い閃光が、二人の男を正面から容赦なく照らし出した。
(,,>Д<)「なっ?!」
思わず手で目を庇うほどの眩さ。
闇に慣れた目にはあまりにも強すぎる光と共に、大勢の警官が現れ、ビンズを羽交い絞めにして押し倒した。
そして、トラギコも数人の警官に囲まれ、疾走を妨害された。
(#゚Д゚)「どけよ、お前ら!!」
「容疑者は確保しました、落ち着いてください!!」
ビンズはそのまま隠れていたパトカーに乗せられ、連行されていった。
残されたトラギコを囲む警官達が離れ、トラギコの怒りの矛先が自分に向けられないよう、両手を小さく挙げてこれ以上は何もしない事をアピールする。
(#゚Д゚)「正直に教えてくれラギ。
これは所長の差し金ラギか?」
妙なのはビロードたちよりも先に警官がこの場所に到着できた理由だ。
何者かの手引きが無い限り、不可能なはずだった。
「……はい、サナエ所長からの指示です」
(,,゚Д゚)「ビロードはどこラギ?」
警官は気まずそうに息を飲んで、そして、答えた。
「先に、署に戻っていただいています。
も、勿論これも所長の指示です」
と言う事は、アサピーは逃げおおせたのだろう。
今もどこかの物陰で写真を撮っているかもしれない。
(,,゚Д゚)「宿舎の七階に容疑者の共犯者がいるラギ。
はやく病院に連れて行くなり、どうにかしておいてくれ。
どうせ俺も連れ戻るように命令されてるんだろ」
トラギコの腹の虫が収まらなくとも、容疑者が確保された。
ならば、それでいい。
事件を防げるのであればそれに越したことはない。
事件解決を前に、個人の矜持は無視して然るべきだ。
今の状況が到底受け入れられないような物であっても、ここで怒り狂うのは無意味なのである。
「済みません、トラギコさん。
我々もやりたくはないのですが、分かってください」
315
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:09:02 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「……さっさとしてくれ、少し疲れたラギ」
警官達に誘導され、パトカーに乗せられる。
窓の外に目をやると、コンテナの上に人影が見えた。
恐らくアサピーだろうが、もう、どうでもよかった。
後は容疑者であるビンズが犯人となれば、トラギコが走った意味もある。
車内は暖房がよく効いていて、すぐに眠気に襲われた。
長らく張りつめていた緊張の糸が一気に緩み、これまで蓄積されてきた疲労もあっての事だろう。
パトカーがゆっくりと走り出す。
('A`)「ご苦労だったな、トラギコ」
運転席からの声で、トラギコは眠りに落ちそうな瞼をどうにか開いた。
(,,゚Д゚)「ドクオか」
('A`)「あぁ、お前らを連れ戻せってあのババアに言われてな。
随分と無茶をしたな」
(,,゚Д゚)「こんなの無茶に入らねぇラギよ。
これであいつの遺伝子情報と、こっちが手に入れたのが合ってれば――」
('A`)「――それなんだがな、お前がこっちで動いている間に署で火事が起きた。
小規模な火事だったが、火元が悪かった。
保管庫の一角が燃えた」
一気に眠気が醒めた。
それどころか、吐き気さえ覚えた。
(,,゚Д゚)「ちょっと待てよ、その一角って」
('A`)「今回の事件で集めた証拠品の棚だ。
真下の棚に保管されていた可燃性の液体が発火して、上の棚を燃やしたらしい。
指紋や体液は灰になって、何も残ってない」
(,,゚Д゚)「なぁ、俺は手違いであのサナエを殺すかもしれないが、止めてくれるなよ」
('A`)「落ち着けよ。
俺達だって馬鹿じゃない。
所長がこの事件を葬りたいのは誰だって分かる。
だから、一部だけ証拠品を動かしておいたんだ。
犯人の体液、それだけだがな」
体液があれば、確かに犯人と同一人物であるかを判断することが出来る。
しかし、失われた物はあまりにも多すぎる。
可燃性の液体云々の話も、明らかに警察内部の人間が手引きして用意したとしか考えられない。
警察内部にいる裏切り者は、最低でも二人はいるだろう。
316
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:09:23 ID:/d4jdjY20
トラギコの動向を伝えた人間と、署内で工作をした人間だ。
どうしてこの事件の犯人を庇い立てするのか、全く理解できない。
生かしておく必要もない。
(,,゚Д゚)「まだゆっくり出来そうにねぇラギ」
犯人と共にトラギコが探さなければならないのは、署内にいる裏切り者だった。
サナエが関与している証拠も合わせて探し出し、まとめて引き摺り下ろさなければこの街が腐ったままになる。
それでは再び同じ事件が起きた時、何一つ反省が活かせないことになる。
そうはさせない。
そんな事、させていいはずがない。
('A`)「それで、どうするんだ?」
(,,゚Д゚)「どうする?決まってんだろ、あの糞野郎の裁判が始まる前に、署内の裏切り者を見つけて黒幕を聞き出すラギ」
('A`)「分かった。
何か手伝えることはあるか?」
(,,゚Д゚)「何もねぇよ。
クビになるんなら、俺一人でいい」
('A`)「ははっ、相変わらずで安心した。
そうだ、前に言ってたバーバラ・ホプキンスって男だが」
ノウマンズホテルでトラギコを襲った人間が口にした、仲介役の男の名前だ。
(,,゚Д゚)「居場所が分かったのか?」
('A`)「あぁ、遺体安置所だ。
昨日、ビルから飛び降りたらしい」
こうしてまた一つ、真実に到達するための要素が消されていく。
そして、署内にいる裏切り者についての情報が一つ増えるのであった。
‥…━━ 十二月十五日 午前十時十五分 裁判所 ━━…‥
十二月十五日。
警察は現場で採取した体液とビンズの体液を照合し、それが同一人物の物であることを確定させた。
裁判はその日の内に行われることとなり、警察側は最優秀と言われる検事をジュスティアから呼び寄せることになった。
ライダル・メイ検事はこれまでに関わってきた事件で常に優秀な成果を挙げ、被害者側の意見をほぼ確実に叶えてきた実績を持つ。
四十代のベテラン検事である彼女は、ジュスティア内外で起きた凶悪事件を担当させられることが多く、ほぼ全ての事件で被害者側の要望を叶えてきた。
対する弁護側は、フェニックス・ライトという伝説的な経歴を持つ弁護士を雇い、この日に備えた。
ライトは若くして難事件を担当し、被告人の無罪を勝ち取ってきた。
当然、依頼料は極めて高く、ジャーゲンに呼び寄せるだけでも相当な金が必要になる。
317
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:09:43 ID:/d4jdjY20
だが弁護士を雇うのに必要な経費は全て彼が支払い、ビンズは取り調べに対して全て沈黙を貫いてきた。
警察にとっても、今日が初めて犯人の意見を聞く場になる。
アサピーの証言によれば、このビンズと言う男は間違いなく半年前に有罪判決を受けた犯人と同一人物だという。
その時の名前は有罪判決と同時に変更され、今のものになったという。
ジュスティアとの契約関係にある街で行われる裁判は、基本的に被害者側の要求が受け入れられ、裁判長としての判断というのはあまりない。
弁護側と検察側に分かれ、互いの言い分を述べはするが、結局のところ被害者がどのような刑を望んでいるのかを法律と照らし合わせ、その落としどころを裁判長が判断し、判決を下す。
重要になるのは被害者側の意志と、犯人側の主張だ。
単純な殺人事件が起きたとしても、その背景にある物によっては被害者側の意見を棄却することも有り得る。
性的な虐待を受け続けてきた娘が父親を殺害した事件では、加害者側は罪に問われなかった実例がある。
その為、双方ともに証拠と意見を用意することが最も重要になる。
被害者側の代表として、ブルーハーツ児童養護施設の施設長が法廷に立ち、犯人に死刑を求刑することになっている。
トラギコを始めとする事件に携わった警官達は傍聴席に案内され、後は、メイに託すことになる。
傍聴席にはビロードやドクオ、サナエの姿があった。
この事件はジャーゲンの抱える問題を凝縮したようなもので、世間からの注目度も高い。
その一端を担っているのはアサピーの力だった。
彼が撮影した写真と記事は瞬く間に世界中に広まり、今や、裁判所の前に大勢の人だかりが出来ているほどだ。
世界中から集ったやじ馬たちの声が法廷にまで届いている。
裁判は二日に分けて行われ、初日である今日は事件全体の概要の確認となる。
裁判官は厳めしい顔つきをした禿頭の男で、白い髭を胸まで垂らしているのが特徴的だった。
五十代以上であることは見た目からも分かるが、その真っ直ぐな眼はこの仕事に誇りをもっていることを語っている。
午前十時十五分。
開廷。
検事と弁護士がそれぞれの位置に着き、続いて、オレンジ色の囚人服を着た犯人が登場した。
一見すれば普通の青年にも見えるが、これだけの状況にありながら笑顔を浮かべている姿は不気味と言わざるを得ない。
一ミリほどしかない黒髪はまるで似合っていない。
筋肉ではなく贅肉がついた体は、運動とはあまり縁のない事を示唆している。
食べ物に困っている様子はない。
苦労して育ったわけでもなさそうだ。
これが連続女児強姦殺人事件の犯人。
裁判長が軽く咳払いをして、会場に静寂を求めた。
沈黙したのを確認し、裁判長がゆっくりと話を始める。
「それではこれより、検察側より被告人ビンズ・アノールが起こした事件についての説明を始めます。
被告人は事実と違う事があれば、その場で述べるように」
黒いスーツに身を固めたメイが滑らかな口調で説明を始めた。
「こちらで確認している限り、被告人は十二月六日にナミ・ブラヴァーノ、同月七日にエミリー・ライアンを。
同月十一日、人身売買組織から買った身元不明の少女を。
同月十二日深夜から翌未明にかけて、ブルーハーツ児童養護施設にいる少女十八名に対して性的な暴行及び殺害・未遂を起こしました。
また、同養護施設にいた男児十九名は毒殺、一名は殴る・蹴るなどの暴行により殺害しました」
318
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:10:12 ID:/d4jdjY20
「弁護側、何かありますか」
ビンズが弁護士に耳打ちし、ライトは深く頷いて挙手をした。
(`・_ゝ・´)「男児一名の殺害については意図的ではなく、偶発的な事故であったと」
「事故?」
メイが訝しげに聞き返す。
再びビンズがライトに耳打ちし、彼が口を開く。
(`・_ゝ・´)「毒による人道的な殺害を予定していたが、彼が毒を口にせず、彼が邪魔をしてきたので殺したと」
「検察側は事件の詳細について、被告人の自白を得られていません。
この場で事件についての説明を求めます」
「検察側の意見を受理します。
被告人、詳細を」
(`・_ゝ・´)「異議あり。
被告人からの供述書を受け取っています。
弁護側がそれを代読します」
「異議あり。
弁護側が代読する必要性がありません。
そして、供述書について我々は知らされていません」
「弁護側の異議を却下します。
弁護側は供述書を検察側に提出しなさい」
ライトは肩を竦め、茶封筒に入った供述書を持ち上げてみせた。
そしてそれをメイに手渡し、己の席に戻った。
ビンズはゆっくりと立ちあがり、気だるそうに体を傾けながら証言台の前に歩いて行った。
「ビンズ・アノール、説明を」
(::゚∀゚::)「はい。
どこから説明をすればいいですか?」
「最初からです」
(::゚∀゚::)「あー、最初っからですか。
えーっと、確か……小さくていい締め具合でした。
殴るたびに締めてくるので、ナニがもがれるかと」
裁判長が木槌を思い切り叩き付け、ビンズの言葉を遮った。
「事件の概要を話しなさい!!」
319
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:10:45 ID:/d4jdjY20
(::゚∀゚::)「あぁ、はい。
六日のはよく覚えていないですけど、七日は業者の服を着て行ったらコロッと信じて家の中に入れたので、そのまま。
馬鹿みたいですよね、知らない人間を家に入れるって。
だからそれは覚えてます。
次の穴は普通に買ったんです。
だから僕の所有物を壊しただけで、それは特に問題はないんじゃないですか?」
傍聴席からどよめきが起きる。
この男は正常ではない。
異常な人間だ。
(::゚∀゚::)「でー、あぁ、あの施設にケーキを送ったんですよ。
施設の人間も阿呆ですよね、送られたケーキを食べさせるなんて。
まぁおかげで僕も美味しい思いが出来たからいいんですけどね。
男はどうでもいいから死んでもらって、女の子と一緒に遊んだんです。
楽しかったなぁ、皆動けないけど涙を流したり、抵抗したりするんです。
で、楽しんでたら雄ガキが起きて殴って来たから、やり返した。
そっか、これは正当防衛ってやつですよ」
ライトは目頭を押さえ、ビンズの証言に頭を悩ませていた。
打ち合わせにない展開、そして弁護士が危惧していた事態が起きたと考えるべきだろう。
(::゚∀゚::)「以上です」
「……弁護側、何かありますか」
(`・_ゝ・´)「今は何もありません」
「検察側、何か」
「こちらも、今は何もありません」
尋問については明日行われることになる。
今日は双方ともに情報を確認する場であり、本格的な弁護等は行われない。
ここで裁判長を始めとする多くの人間に伝えられたのは、犯人の異常性だった。
予想に反して一日目の裁判が終わり、傍聴人たちがぞろぞろと裁判所を出て行く。
( ><)「トラギコさん、大丈夫ですか?」
(,,゚Д゚)「ん?ああ、俺は大丈夫ラギ」
隣に座っていたビロードが心配そうに覗き込んでいるのに気付き、トラギコも席を立った。
あの男、自分が逮捕されたというのに極めて冷静だった。
嘲るでもなく、慌てるでもなく、ただ逮捕されたという現実をそのまま以下の意味で受け取っているようにしか見えない。
精神的な余裕があるようにしか見えない。
320
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:11:08 ID:/d4jdjY20
何か、切り札でも持っているのだろうか。
裁判所の廊下を並んで歩きながら、トラギコはこれから先のことについて話を始めた。
(,,゚Д゚)「ビロード、明日の公判までまだ時間がある。
出来る限り証拠を集めるぞ」
( ><)「今から、ですか?」
(,,゚Д゚)「今だから出来る事があるラギ。
署で起きた火災、どう考えても人為的な放火だ。
そして俺を殺すよう依頼してきた仲介人が自殺したラギ。
その犯人を突き止める。
今日、俺は午後からブルーハーツに行く」
裁判が始まったところで、諦めていい理由にはならない。
犯人が捕まっただけで、事件の真相を解き明かしてはいない。
再びこの事件が起きないようにするためにも、警察内にいる細胞を潰す必要がある。
( ><)「分かりました。
僕に出来ることがあれば言ってください」
幸いにも、トラギコはこの事件の担当者として一任されており、裁判中は他の事件に駆り出されることもなく時間がある。
そして、トラギコは裏切り者の一人に心当たりがあった。
(,,゚Д゚)「そう言ってくれると思ってた。
実は頼みが一つだけあるんだ」
署に戻り、トラギコは証拠品が保管されていた場所に向かった。
保管庫の扉は開かれ、まだ何かが焦げた匂いが漂っている。
電気をつけ、被害状況を確認することにした。
火災が起きてから早い段階で消火作業を行ったようで、被害は一部だけに留まっている。
発火場所は例の事件に関する証拠品が収められた棚の下。
不自然な焦げ目が可燃性の液体の使用を物語っている。
鉄製の棚にも関わらず上の棚にある物が燃えたのは、そこに可燃性の液体をかけたからだろう。
棚には確かに黒い煤が付着しているが、上の棚に燃え広がるには燃え方が甘い。
('A`)「どうしたんだ、こんなところに呼んで?」
ドクオの声を聞いても、トラギコは顔を上げなかった。
ビロードに頼んだのは、ドクオにこの場所に一人で来るように伝えてもらう事だった。
(,,゚Д゚)「なぁ、ドクオ。
どうしてここが燃えることになったんだ」
('A`)「言いたくはねぇが、誰かが燃やしたからだろ」
321
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:11:28 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「だろうな。
自然発火なんてのはあり得ないラギ。
それこそ、鑑識の人間が自然発火するようなヤバい物をここに持ってくるはずがない。
意図的に燃やすしか方法はない。
だけど、どうしてここだけ燃やす必要があったラギ」
('A`)「証拠が残ってると困る連中がいるんだろ」
(,,゚Д゚)「それならいっそ、この場所全て燃やせばよかった話ラギ。
どう見ても不自然な燃え方で、証拠を消すために燃やしたとしか思えない。
そんな事をする意味は何だ」
わざと注目させるために燃やしたのだとしたら、本命は別にある。
例えば、発火地点にあった事件の証拠品を燃やし、それを悟られないためにより注目度の高い事件の証拠品を燃やしたのではないだろうか。
(,,゚Д゚)「下の棚にあった証拠品。
何の事件の物だ?」
('A`)「……さぁ」
(,,゚Д゚)「そう、分からねぇんだよ。
何せ全部燃えちまったからな。
鑑識が機転を利かせて上の物は守れたが、問題はその下にあった物が何だったのかってことラギ。
燃やした張本人なら分かるだろ、ドクオ」
深い溜息がドクオの口から洩れた。
('A`)「どうして俺だと?」
(,,゚Д゚)「俺がバーバラ・ホプキンスの名前を教えたのは、お前だけなんだよ。
あのホテルに来た連中は全員死んだから、俺がバーバラの名前を知った事を知る人間はそういないラギ。
なのに、そいつは翌日には自殺したことになってるラギ。
なら、署内にいる裏切り者はお前しか考えられないんだよ。
そいつが火を放ったなら、この上なく理屈に適ってるからな」
('A`)「俺とお前のよしみだからその推理は聞き流してやるよ。
お前、少し疲れてるんだよ」
本当であればそうしたかった。
勘違いであると信じたかったが、状況が全てを物語っている。
(,,゚Д゚)「あぁ、疲れてるさ。
だから教えてくれないか?どうして、バーバラが男だって分かったんだ?」
('A`)「それはお前が」
322
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:12:00 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「俺はバーバラ、としか言ってない。
それなのにお前はバーバラ・ホプキンスのフルネームを知っていて、尚かつ男だってことまで断定してたラギ。
これはつまり、確信があったんだろ。
普通、バーバラって言えば女の名前だ」
('A`)「表現の違いだよ、悪かった」
(,,゚Д゚)「それに、俺はバーバラが何者かも言っていなかったラギ。
ならまず、バーバラという女全般を調べるべきなのに、ピンポイントで、おまけに性別まで言い当ててきたラギ。
理由を言えよ、ドクオ」
('A`)「タイミング的にそいつだと思ったんだ、それ以外には何もないよ。
現に、死体として運ばれたのはその一人だけだ」
(,,゚Д゚)「何で俺の言ったバーバラがもう死んだと言いきれるんだ?他の人間の可能性もあり得るだろ」
('A`)「……ははっ」
彼の口から乾いた笑い声が聞こえた。
彼の性格はよく分かっているつもりだ。
あと一押しで、彼の口を割れるとトラギコは確信した。
(,,゚Д゚)「やっぱり何度考えてもお前しかいないんだ。
本当に燃やしたかった証拠品は別にある。
そして、お前が燃やしたのは、あの日の火災現場で焼け残った何かだ。
思いがけない何かが見つかって、それを処分するためにお前は動いた。
違うか」
ドクオの顔から目から笑みが消えた。
開いていた扉を閉め、後ろ手で鍵をかけた。
('A`)「……お前の言う通りだよ、トラギコ。
バーバラについてはすでに知っていたし、俺が火を点けた。
燃やしたのは、お前が殺した連中の装備だ」
(,,゚Д゚)「理由を教えてくれないか」
深い溜息を吐いて、ドクオはトラギコの眼を見た。
その目には暗い影が落ちていたが、死んではいなかった。
腐ってもドクオは警察官であることを、トラギコは良く知っている。
彼が扉を閉めたのは余計な人間が入ってこないようにするためで、他の人間には聞かれたくない話をするからだ。
('A`)「所長からの命令だよ、それ以外に何がある? 俺には家族がいて、金が必要だった。
この歳で転職をするのはきついからな、仕方なかったんだよ。
安心しろ、命令は全部録音してあるし、十分な証拠になる装備の一部も保管してある」
(,,゚Д゚)「だと思ったよ。
本当だったら体液も全部燃やすはずだったんだろ?」
323
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:12:26 ID:/d4jdjY20
決定的な証拠品が別の場所に移動させられている可能性を考えれば、全て燃やすのが正解だ。
しかし放火犯はそうしなかった。
その可能性を考えながらも、燃やさなかったのだ。
全てにおいて、ドクオはわざと足跡を残し、誰かに気付かせようとしていた。
特に、トラギコに気付かせようとしていたのは間違いないだろう。
('A`)「まぁな。
だから所長はカンカンだったよ。
悪いがお前の仕業にさせてもらった」
(,,゚Д゚)「それでいいラギ。
だけど、どうしてそれを言おうとしなかったんだ」
わざわざ出し惜しまずに、トラギコに直接言えばもっと話は簡単に済んだはずだ。
その理由だけが分からなかった。
('A`)「……この街について、お前はどこまで知ってる?」
(,,゚Д゚)「どういう意味だ?」
('A`)「この街は貿易の中継地点。
そう思っているんなら、それはまだ正解じゃない。
俺もここで長く働いていて、ようやくその断片を掴むことが出来た。
この街には特産品がある。
……子供だよ」
(,,゚Д゚)「……人身売買ってことか」
('A`)「そうだ。
どうして警察がコンテナ林に行かないのか、理由がそこにある。
お前もあそこに行って分かったと思うが、あそこは法律の外にある。
薬物ならいいが、児童養護施設から引き取られた子供たちを海外に売ってるんだよ。
見て分かったと思うが、この街にはそんなに仕事は多くない。
だから売春が横行するし、子供は犯罪に手を出し、無責任に子供を作る。
この街はそんな子供たちを食い物にしてるのさ」
街の財政が明るくないのは、様々なことからも分かりきっていた。
街で働いている人間に若者が少ないのに、児童養護施設には子供たちが大勢いる。
出て行く人数と入ってくる人数の計算が合わない。
別の街に行くのであれば、そのために必要な金が必要になるはずだ。
だがどうやってその金を工面するのだろうか。
体を売り、心を売り、薬を買って街の外に出る夢を諦めた娼婦がどれだけいるだろうか。
それなのに、街は児童養護施設に補助金を出している。
どこかでより大きな利益を出さなければ、それは赤字にしかならない。
街の財政の帳尻を合わせるには、やはり、大きな収入が必要不可欠なのだ。
324
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:13:13 ID:/d4jdjY20
('A`)「だけど、この街はそれで完結してるんだ。
誰かが壊す必要なんてないぐらいにな。
だが、お前は違う。
例え同僚だろうが上司だろうが、街相手だろうが容赦をしない。
お前に言わなかったのは、俺に勇気がなかったからだ。
自分で言いだす勇気が、俺にはなかったんだよ」
自嘲するように笑い、ドクオはそう言った。
その顔にはまだ暗い影が落ちている。
まだ話し終っていない事があるようだ。
(,,゚Д゚)「何であいつらの装備を燃やしたんだ?」
('A`)「警察の関与がばれるからだ。
よくよく調べてみれば、型落ちした警察の装備だってことが分かる。
だからそれを燃やしてなかったことにしようとしたんだ、馬鹿な話だろ」
(,,゚Д゚)「それも所長の指示ラギか」
('A`)「あぁ、警察は一切関わっていないことにしたがってたからな」
(,,゚Д゚)「それで、どうしてお前は所長と俺の両方に手を貸すんだ?その理由を聞いてねぇラギ」
('A`)「俺が手を貸してきたのは、さっきも言ったが家族の為だ。
だけど、いつ俺を切り捨てるとも分からないから用意だけはしておいた。
後は、それをちゃんと使ってくれる奴が現れるのを待ってただけさ。
俺は家族を守るために所長の不正に手を貸し、その証拠を保持していただけだよ」
(,,゚Д゚)「それでも立派な犯罪だけどな」
('A`)「知ってるさ。
だからお前が俺を捕まえてくれ。
そして、この街を変えてくれ、お前の力で」
(,,゚Д゚)「捕まえはするが、それは後ラギ。
それと、俺は政治家じゃねぇよ、ドクオ」
時々いるのだ。
トラギコを正義の化身か何かだと勘違いし、信仰に近い感情を抱く人間が。
彼はあくまでも仕事に徹しているだけであり、別の人間から見れば和を乱す存在でしかない。
事実、ヴェガでは契約打ち切りにまで発展した。
ジュスティアにとって安定した契約金を獲得できる街が失われ、警察内の給与にも影響が遠からず出るだろう。
すでにトラギコの給与には深刻なまでの影響が出ている。
('A`)「この街の癌は二つある。
一つは所長、そして、市長だ」
(,,゚Д゚)「俺にどうしろって言うんだ」
325
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:13:57 ID:/d4jdjY20
('A`)「あの屑野郎は当然最高刑を食らわせてやってもらいたい。
そのついでに、この二人も裁いてもらいたいんだ。
いや、分かってる。
お前がそういうのに興味が無いってことは重々分かっている。
……あんなキチガイ野郎を野放しになんてしたくもないし、それを後押しする奴らも気に入らない。
親として、俺はあいつらを裁いてほしいんだ」
(,,゚Д゚)「所長は分かるが、市長の関与が分からねぇラギ。
何かネタでもあるのかよ」
実際、市長は法の整備をしただけで今回の事件には関与していない。
('A`)「未成年者が犯罪を起こした際、その犯罪歴諸々が消される法律が本格始動したのはいつか分かるか?」
(,,゚Д゚)「……十年前だったな」
('A`)「お前は知らないだろうが、十年前、ある事件が起きた。
一人の少年が公園で女児を強姦したんだ。
犯人が捕まるまでの間は、約三か月。
その間に例の法律が動き出し、犯人の少年は刑務所に行き、最終的には自由を手にした」
(,,゚Д゚)「その少年ってのは、市長の子供か。
自分の子供可愛さに法律を、って言いたいのか」
('A`)「噂の域は出ないけどな。
そして、俺の見立てだとその時の子供ってのが」
(,,゚Д゚)「今回の犯人、ってことラギか」
('A`)「全ては俺の推測だ。
後は裏付けの証拠が必要になる。
今、犯人のDNAと市長のDNAを使って親子関係を調べてもらってる。
これで関係が分かれば、明日の裁判で面白いことになるぞ」
(,,゚Д゚)「……なぁドクオ。
お前、家族が、って言ってたけどそこまでしていいのかよ。
殺し屋まで差し向けてくる奴が後ろにいるんだぞ?」
どうにも彼の動きが切羽詰っているように見えて仕方がない。
まるで、やり残したことが無いように清算をしているようだ。
唐突な罪の告白から、トラギコへの依頼。
一体何が彼をここまで動かしたのだろうか。
('A`)「家族は今朝、ジュスティアに逃がした。
俺のやったことが見つかる前に、奴を捕まえてもらいたいんだ」
(,,゚Д゚)「……お前がDNA鑑定を依頼しているのはどこラギ?」
326
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:14:18 ID:/d4jdjY20
今の時代が作り出したものではないが、気が遠くなるほど昔の人類が開発したDAT――高性能な情報処理端末――を使えば誰でも遺伝子情報を調べる事が出来る。
唯一の問題は、DATは極めて希少であり、操作できる人間は限られているという点だ。
小さな企業は操作することはおろか、購入することすら出来ない。
この街でDATを用いてそのような検査を請け負う場所は、一か所しかない。
('A`)「ここだ。
今、ビロードを貼りつかせてる」
背中に冷たいものが走った。
ドクオは最後の詰めで失敗を犯した。
警察署内は相手の本拠地であり、何一つ用心していないまま伝達した情報は相手に筒抜けになっていると考えなければならない。
(,,゚Д゚)「何時からその検査をさせてるんだ?」
('A`)「裁判が終わってからだから、十一時ぐらいからだ。
正午までには結果が出る」
トラギコはドクオを押しのけ、扉に手をかけた。
(;'A`)「どうしたんだ?」
(,,゚Д゚)「お前のやってきたことについては、ある程度は目を瞑ってやるラギ。
だけどな、ビロードを巻き込んだことについては褒められねぇな。
あいつはお前が何をしてきたのか知らないんだろ」
(;'A`)「……あぁ」
(,,゚Д゚)「二度とこんなことをさせるな。
あいつは真っ当な道を歩かせろ。
俺達とは違う、後ろ指さされない道を」
ドクオを残し、トラギコは保管庫を出て急いで鑑識課の元へと向かった。
‥…━━ 十二月十五日 午前 ジャーゲン警察 鑑識課 ━━…‥
ハシュマル・ディートリッヒはジャーゲンで勤務する鑑識官の中で、最も勤続年数が多く、そして経験の多いベテランだった。
夏に三十歳の誕生日を一人で迎えるまでは、何事もなく警察の仕事を全うし、次の転属の知らせを待つ日々を過ごしていた。
全てを変えたのはトラギコ・マウンテンライトの転属だった。
彼が来てから警察が変わり、街が変わった。
彼によって街中に蔓延っていた小悪党たちは悉く逮捕され、未成年による犯罪件数は劇的に減少した。
誕生日を迎えた日、ハシュマルの気持ちは清々しいものになっていた。
事件が起きてからしか動く事の出来ないハシュマルにとって、トラギコの登場も嬉しい知らせだったが、ビロード・フラナガンの転属も喜ばしいものだった。
最近連続で難事件を担当し、解決している若い警官というのは、この世界にまだ正義があることを再認識させてくれる存在であり、ベテラン勢が引退してからも安心出来る材料だった。
鑑識課に割り当てられている部屋には検査用の道具も然ることながら、極めて高価なDATが置かれており、遺伝子検査や細かな毒素の検査などに用いられている。
一時期はトラギコが逮捕した犯罪者たちの検査で連日フル稼働だったが、今では大分落ち着き、二件の検査結果を待つだけになっている。
その内の一つはすでに結果が出ており、別件で結果を取りに来たビロードに手渡した。
折りたたまれた紙を制服の懐に入れて、ビロードは確かめるようにして懐を叩いた。
327
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:15:06 ID:/d4jdjY20
( ''づ)「じゃあ、そいつを頼むぞ」
( ><)「分かりました。
ドクオさんのはどれくらいで出来ますか?」
( ''づ)「もうすぐ出来る。
コーヒーでも飲んで待ってな」
DATに取り込まれた遺伝子情報の分析結果が出るまで、彼にできることは何もない。
椅子に背中を預け、大きく蹴伸びをした。
事件の数が減った事で、彼が着ている白衣は二ヵ月ぶりにクリーニングに出すことができ、先日戻って来たばかりだった。
白衣から漂う洗剤の淡い香りが眠気を誘った。
( ><)「分かりました。
ハシュマルさん、聞いてもいいですか?」
( ''づ)「俺に答えられる範囲でならな」
( ><)「どうして警官になろうと?」
( ''づ)「真面目に答えたほうがいいのか、それとも少しふざけてもいいのかによるな」
( ><)「真面目にお答えいただけると嬉しいです」
ビロードの眼はまっすぐにハシュマルを見ていた。
( ''づ)「昔、鑑識官が主役のラジオドラマがあってな。
それの影響だよ」
( ><)「後悔とか、していないんですか?」
( ''づ)「後悔していることがあるとしたら、もっと早くに気持ちの切り替えをしておけばよかった、ってことだよ」
誰かが状況を変えるのを待つのではなく、自ら変えていく事をしていれば街は変わっていたのかもしれない。
少なくともトラギコにはそれができた。
歳は一歳しか違わないのに、彼はまるで十年以上も先に生きているような働きぶりをしている。
嫌でも憧れてしまう。
同じ警察官として、あそこまでまっすぐに走り続けられるのは。
( ''づ)「ま、それでもこの仕事を続けていてよかったと思う事はあるさ」
DATによる遺伝子解析状況が残り二割となった。
( ''づ)「犯人が捕まった時もそうだが、誰かの無実が明らかになった時も嬉しいものさ。
ビロード、お前はまだ若いんだ、色々試してみればいいさ」
( ><)「はい……それで僕、考えていることがあって」
( ''づ)「ほぅ、何だよ?」
328
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:15:41 ID:/d4jdjY20
( ><)「トラギコさんって、いつも一人ですよね」
( ''づ)「俺が聞いている限り、相棒はいないらしい。
と言うより、長持ちしないから結果的に一人でいるって聞いたな。
何だ、あの人の相棒でも目指すのか?」
( ><)「はい、調べたらそういう制度があるみたいなので……」
ジュスティアの派遣警官には数種類の形態があり、ジャーゲンやヴェガで適応されているのは常駐型の警官。
他には、解決困難な事件が発生した際に単独、もしくはチームで派遣される形態がある。
一か所に停滞することが難しいトラギコであれば、後者の形態で派遣された方が確かに力を発揮できそうだ。
( ''づ)「あいつがそれをするかどうかは別物だし、何より上が許可するかが問題だな」
着眼点は極めていい。
しかし、彼を取り巻く環境が問題なのだ。
本部には、トラギコのような人間は確かに必要であるという考えを持つ人間もいるが、それを快く思わない人間の方が多い。
( ''づ)「そう言えば、各地方に本部を設置するって話が本格化するらしい」
昨今の地方犯罪への対処が遅れるとの事から、以前から実験的に進めていた地方本部という概念があった。
特に、金の羊事件によって警官隊の到着時間短縮が再度見直されることとなり、
契約関係にある全ての場所に三十分以内の到着が重要であると強く印象付け、世界中に拠点を配置することが決定された。
その拠点への配属を希望する人間は能力検査を経て、上司の推薦状と共に転属が決定する。
( ''づ)「今回の事件が落ち着けば、二人ともどこかの地方本部に行けるかもな。
勿論、お前の言ってる形態もありだけどよ」
( ><)「そうですね、トラギコさんに今度話してみます」
心なしか、ビロードの表情に余裕が生まれたように見えた。
これで彼が少しでも仕事をしやすくなれば、将来が明るくなるだろう。
少なくとも、彼のようにいつまでも燻ぶった心のまま同じ場所で腐ることはない。
( ><)「ハシュマルさんもどこかに転属願を出すんですか?」
( ''づ)「俺はいいよ。
ここでやり残したことがあるからな」
この街で彼がやるべきなのは、これまで目を瞑ってきたことに対して向き合うことだ。
治安を回復するという、本来の仕事に力を注ぎ、街の人間たちが少しでもまともな思考を取り戻す手助けをする。
それが完了して初めて、ハシュマルは己の仕事を果たしたと言えるのだ。
DATが分析を終了したことを告げる音を短く鳴らし、分析結果が紙で出力される。
( ''づ)「ほれ、さっさと持っていきな」
その時、扉がノックされ、思いがけない人物が姿を現した。
‥…━━ 十二月十五日 午前 ジャーゲン警察 鑑識課 ━━…‥
329
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:16:07 ID:/d4jdjY20
警察署内で放火をさせられるのであれば、人一人を殺すことなどそう難しい話ではない。
そして、トラギコが激怒しているのは何もビロードをその場に配置したからではない。
彼が明日に備えて秘密裏に検査を依頼していた検査結果まで危険にさらす行為が、許せなかったのだ。
裁判では証拠品が全てとなる。
証拠が無ければ犯人の罪を重くすることもできず、余罪を追及することも出来ない。
仮定として、ドクオの話が真実なのであれば、今回のビンズの裁判は二日で終わらず、三日目まで伸びることが考えられた。
市長と局長がビンズに何故肩入れするのか、トラギコはある推測をしていた。
その推測はドクオの推測よりも一歩踏み入ったもので、この街の暗部を解き明かす物だった。
その点で言えば、ドクオの行動は遅すぎた。
トラギコはビンズを逮捕し、DNA情報を入手した時に二つ鑑定の依頼をしていた。
結果は今日出ることになっており、恐らく、もう準備は出来ているはずだった。
後は、ビンズを庇い立てする人間の魔手がまだそこに到達していない事を願うばかりだった。
鑑識官の検査室前に到着した時、彼の鼻が嗅ぎ慣れた匂いを感知した。
血の匂いだった。
(,,゚Д゚)「ビロード!!」
扉を押し開けると、より一層濃厚な血の匂いが漂ってきた。
それに混じって、硝煙の匂いも感じ取れた。
床に広がる赤黒い液体の上には、白衣を着た鑑識官の男がうつ伏せで倒れていた。
背中から撃たれたのだろう。
その顔に血の気はなく、胸と喉に穴が開いていた。
その男の顔には見覚えがあった。
イトーイが掴んでいた毛髪をトラギコに渡した男だ。
すでに事切れており、虚ろな目は床に広がった血溜まりを見ていた。
胸についた名札には、ハシュマル・ディートリッヒとあった。
この時初めて、トラギコは男の名前を知った。
離れた場所にはビロードが血溜まりの上に力なく座っていた。
(;,,゚Д゚)「おい、ビロード!!」
ビロードは胸に数発の銃弾を受けており、呼吸はほとんどなかった。
僅かに上下する肩が辛うじて彼の呼吸を伝える。
そして、その命が尽きかけていることも。
壁に備え付けられている非常ボタンを押し、署内に異常事態を知らせる警報音が鳴り響いた。
(;,,゚Д゚)「こんなところで死ぬんじゃねぇぞ!!」
その場に屈んで上着を脱ぎ、傷口に押し当てる。
すでに失われた血液の量が、彼の命がそう長くない事を物語っている。
それでも最後まで彼の命を諦める事はしたくない。
ビロードはここで死んで良い人間ではない。
このような些事に巻き込まれ、殺されて生涯を終えるなど、あってはならない。
330
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:16:39 ID:/d4jdjY20
(;><)「……トラ……ギ……コ……さん」
薄らと開かれた眼は、トラギコの姿を捉えていた。
(;,,゚Д゚)「喋るな馬鹿!!」
血で真っ赤に染まったビロードの手が弱々しく持ち上げられ、トラギコはすかさずその手を握った。
握り返された力は、まるで彼の残された命そのもののようだった。
死に瀕するビロードの声を聞き逃すまいと、トラギコは彼を抱きしめた。
どうせ止血しても意味がないのならば、それならばせめて、ビロードの命が尽きる時に一人にさせてはならない。
(;><)「僕……あなたと一緒に……仕事が出来て……幸せで……した……」
声が小さくなる。
握った手に込められる力が弱くなる。
口から溢れた血が、トラギコの首筋を濡らした。
(;,,゚Д゚)「今にも死にそうなこと言うんじゃねぇよ。
いいか、この事件が終わったら有給取って、二人で高い酒を朝まで飲むぞ。
それまでは死ぬんじゃねぇよ」
返事の代わりに、ビロードが頷く。
(;,,゚Д゚)「それからお前の夢について考えればいい。
時間はまだたっぷりあるんだ、焦る必要はねぇよ」
小さな頷き。
呼吸が浅くなっている。
(;><)「トラギコさんの依頼……していた……結果は……僕の懐にあります……」
(,,゚Д゚)「そうか。
よく守ったじゃねぇか。
これであの野郎どもを地獄に落としてやれるラギ」
背中を優しく叩いてやる。
まるで子供のような扱いだったが、彼には今、安らぎが必要だ。
ごぼごぼとした音が、彼の笑い声だと気付くのに少しだけ時間がかかった。
(;><)「僕……貴方の相棒に……なれますか……?」
(,,゚Д゚)「……あぁ、勿論なれるさ」
だが、ビロードがその返事を最後まで聞くことはなかった。
最後に彼は安心したように小さく息を吐き出して、そのまま力なく項垂れ、トラギコの手を握っていた指からは力が失われた。
僅かに胸に感じていた彼の鼓動はもうない。
ビロード・フラナガンはその短い生涯を、トラギコ・マウンテンライトの腕の中で終えた。
そして、彼が命を賭して守り抜いたものこそが、事件の真相を暴くための鍵となるのであった。
331
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:17:04 ID:/d4jdjY20
‥…━━ 十二月十六日 午前九時 裁判所 ━━…‥
十二月十六日。
午前九時。
ジャーゲン唯一の裁判所前には大勢の人だかりが出来ていた。
カメラを構えた人間や、プラカードを掲げた者。
共通しているのは、裁判所内に彼らを入れるよう要求していることだけ。
それを抑えているのはジュスティアから派遣された警官隊だった。
重装備の警官隊は全員鉄の仮面を被り、M4カービンライフルを構えている。
彼らは命令があればそのライフルの銃爪を躊躇なく引き、暴徒を鎮圧することも厭わない。
事件は世界的に注目を浴びていた。
すでに昨日起きた警察署内での襲撃事件は世界中に知れ渡り、ビロード・フラナガンの死も報じられた。
彼の両親は同日未明にジャーゲンに到着し、息子の遺体を前に泣き崩れた。
彼の最期を看取ったトラギコは記者や警察関係者に対して沈黙を貫き通し、ビロードの両親には一言挨拶をしただけだった。
トラギコの姿は法廷にあった。
ライダル・メイの隣に立つトラギコは上下を黒のスーツにし、開廷の時を待っていた。
彼は昨日手に入れた証拠品と証言をする人間であり、尚且つ、警官の中で誰よりも深くこの事件に関わっている。
そのことから、警察長官から指示を受け、メイと共に裁判に参加することになったのである。
「任せていいんでしょうね」
(,,゚Д゚)「あぁ、材料は揃えたラギ。
後は、叩き潰すだけだ」
傍聴席にはアサピー・ホステイジ、サナエ・ストロガノフ、警察局長ラブラドール・セントジョーンズ、そしてジャーゲン市長ジョセフ・アルジェント・リンクスらの姿があった。
法廷の二階席にはマジックミラーで仕切られた特別席が設けられ、その奥には被害者の女児たちが施設長と共に裁判の開始を待っている。
ビンズ・アノールは相変わらずの囚人服で、ふてぶてしい態度で椅子に座り、傍聴席の人間を見つめていた。
黒衣に身を包んだ裁判長が入廷する。
緊張の糸が張り詰める。
「双方準備のほどは?」
(`・_ゝ・´)「弁護側、準備完了しております」
「検察側、もとより」
「それでは双方着席を。
これより事件についての尋問・検察側の証拠提示を行います。
弁護側、昨日の情報に補足があればどうぞ」
検察側の人間が着席する。
気のせいかやつれた様子のフェニックス・ライトは首を縦に振り、追加証言をするよう、ビンズに促した。
ビンズは気だるげに立ち上がると、ゆっくりと話を始めた。
(::゚∀゚::)「自分、クスリをやってて、事件当日の事よく覚えていませーん」
332
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:17:28 ID:/d4jdjY20
やはり、この手を使ってきた。
薬か酒か、判断が難しい所ではあったが、ビンズを逮捕した夜に彼が薬物を摂取していたという証言が、トラギコにこの展開を確信させた。
未成年で尚且つ事件の際に判断能力が欠如した状態であれば、罪が軽くなるからだ。
(`・_ゝ・´)「弁護側、以上です」
ライトの言葉で弁護側の証言が終わり、ビンズが腰を下ろした。
「検察側、尋問を」
「裁判長、尋問する人間を交代します」
「許可します。
代理人は氏名と所属を」
トラギコは立ち上がり、淡々と名乗った。
(,,゚Д゚)「トラギコ・マウンテンライト。
刑事だ」
「では、尋問を」
(,,゚Д゚)「クスリを使用し始めた時期はいつからだ」
(::゚∀゚::)「今年からでーす」
座ったままのビンズがあくび交じりにそう答えた。
(,,゚Д゚)「最近使ったのは?」
(::゚∀゚::)「あんたが俺を捕まえた日だよ」
(,,゚Д゚)「正確な時間を言えラギ」
(::゚∀゚::)「あの会社の連中に聞けば分かるだろ、馬鹿かお前は」
(,,゚Д゚)「こちらが得ている情報では、夜九時半前後だ。
間違いないな?」
(::゚∀゚::)「はーい、そうでーす」
その言葉を待っていた。
この男は自分で事態を考え、判断する力が無い。
だがそれは薬の影響ではなく、個人の持ち合わせている資質的な問題で、自分で何かを解決することが出来ない。
その原因は、周囲の人間が彼の尻拭いをしてきたためである。
(`・_ゝ・´)「裁判長、これ以上の尋問は無意味です。
被告はこのように、事件当時、判断能力が欠如した状態でした。
弁護側は懲役六か月を提案し――」
333
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:17:55 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「――異議あり、だ。
そいつは事件当時、薬をキメてなかったラギ。
むしろ、今回が初めてラギ」
トラギコの発言に、傍聴席がざわめきだす。
すかさずライトが席を立ち、異議を申し立てる。
それもトラギコの計算の内だとは知らずに。
(`・_ゝ・´)「異議あり。
根拠のない言いがかりです。
逮捕時の検査結果で薬物反応が出ています」
「検察側、証拠はあるのですか?」
(,,゚Д゚)「あぁ、あるさ」
法廷が静まり返る。
(,,゚Д゚)「逮捕時、薬物反応が出ているのは当然ラギ。
さっきも言ったように、こいつは九時半前後に薬を摂取している。
目撃情報もあるラギ。
だけどな、犯行時に薬の影響はなかったんだよ」
トラギコはクリップで止められた書類と、密閉袋を取り出した。
この二つの証拠品が、ビンズたちを重罪人として処理するための、ビロードとイトーイが残した切り札。
(,,゚Д゚)「ブルーハーツ児童養護施設で犯行が行われた際、抵抗した少年がいたんだ。
その時、少年は犯人の毛髪を掴んでいたラギ。
毛髪には薬物反応はなかったラギ。
体液については全部燃やされた上に盗まれちまったから何とも言えねぇが、髪の毛は正直に語ってくれたぞ」
イトーイが手に入れた毛髪。
トラギコはそこに薬物の痕跡がないかを確認する為、鑑識課に依頼をしていた。
犯人に入れ知恵をする者が背後にいると分かった段階で、これほど大量の証拠が残され、逮捕される事を考えたら責任能力の有無を狙ってくると考えた。
トラギコが密かに依頼していた検査結果をビロードは守り抜き、こうしてこの場に繋いだのである。
ビロードが殺された時、彼を殺した人間は検査結果を奪い、処分することを依頼されていたのだろう。
だが、トラギコも検査を依頼していたとは知らなかったのだろう。
検査結果は二つ存在し、ビロードが先に受け取っていた結果が最も重要なものだと知っていたのは殺されたハシュマルとトラギコだけだ。
何も知らない犯人はドクオが依頼した体液に関する情報を盗み、処分した。
もしもドクオとトラギコがほぼ同時に遺伝子検査の依頼をしていなければ、この結果は得られなかった。
(,,゚Д゚)「最低でも三年は薬物の反応がない。
ってことは、こいつには責任能力があったわけラギ」
(;`・_ゝ・´)「そ、そんな……!!」
334
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:18:27 ID:/d4jdjY20
ライトが大きく動揺する。
彼にとっての切り札は、トラギコが用意した切り札に負けたのだ。
トラギコが欲しかったのは、相手がここぞとばかりに薬物による責任能力の低さを口にする瞬間だった。
その瞬間を正面から退ければ、相手の悪質さがより印象付けられる。
ビンズの顔から笑みが消え、明らかに動揺していた。
これまでの人生、彼は常に誰かに守られ、保護され続けてきた。
その保護が遂に無効となる日が来たのだ。
親の権力、そして異常者という保護。
守りを失った愚者は、何もすることはできない。
抗う事も知らずに生きてきた男は、ここで、己の罪の重さを知ることになるのだ。
(;`・_ゝ・´)「い、異議あり!」
「弁護側の異議を却下します。
検察側、続けてください」
トラギコは裁判長の方を見て、核心部分について一気に話を進めることにした。
この場で話に決着をつける。
明日まで裁判を伸ばせば、また新たな人間と証拠が消されてしまう。
(,,゚Д゚)「この証拠品は事件当日、勇敢な少年が果敢に抵抗して手に入れたものラギ。
そして昨日、ある警官が証拠隠滅を図る暴漢から検査結果を死守したラギ。
だが代わりに、別の検査結果が失われたラギ。
ドクオ・マーシィが依頼をしていた、DNAによる親子関係の検査結果ラギ」
自分の言葉が十分に相手の耳に届き、浸透した頃合いを見計らって、トラギコは続けた。
(,,゚Д゚)「しかし、俺が依頼していた検査は二種類あったラギ。
一種類は薬物の残留。
そしてもう一つは、親子関係の検査ラギ。
その結果、面白いことがここに書いてあるラギ」
手にした紙の束をライトに見せつけ、そして、自らの目線は傍聴席に向けられた。
虎の一睨。
誰もがトラギコの次の一言に耳を傾け、固唾を飲んだ。
(,,゚Д゚)「DNA検査の結果、ビンズ・アノールはサナエ・ストロガノフとジョセフ・アルジェント・リンクスの実子である、ってな」
悲鳴にも似たどよめきが起きた。
傍聴席にいた二人の顔は蒼白となり、震え、歯を食いしばっている。
その様子をすかさずアサピーが絵に収めた。
最早、二人に逃げ場はない。
決して逃げようのない場所に二人が現れ、大勢の人間に真実を聞かせることによって、逃げ道を失くしたのだ。
(,,゚Д゚)「ビンズ・アノールは前回、同様の事件を起こした際にその名前を変えたラギ。
だが、その時の名前もすでに変わった後の名前だった。
こいつは最低でも二回は同じように女児を凌辱して殺している」
335
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:18:55 ID:/d4jdjY20
(`・_ゝ・´)「どうして最低でも二回と言いきれるのですか?」
ライトの言葉はまるで、トラギコにさらなる情報を開示するように促しているように聞こえた。
(,,゚Д゚)「この街の法律が変わり、未成年が起こした事件に関してのデータを処分されるようになったのは十年前。
そこに座っている男が最初に起こした事件が、ちょうどその時期に被るんだよ」
遂にビンズは耳を塞ぎ、目を瞑って俯いた。
(;`・_ゝ・´)「異議あり!全て憶測で、出鱈目だ!」
「弁護側の異議を認めます。
検察側、その証拠を提示してください」
(,,゚Д゚)「話を戻すが、そこの屑は言うまでもなく市長と所長の子供ラギ。
だが、二人にとってそいつは余計な存在だった。
だから捨てた。
児童養護施設に引き取られ、ある時そいつはそこで問題を起こしたラギ。
同じ施設の女児に手を出した。
そのことは当時の日誌に書かれているラギ」
掲げて見せたそれは、昨日訪れたブルーハーツ児童養護施設でトラギコが見つけた日誌のコピーだった。
色褪せた日誌には、クリントという名の男児が女児の下半身を舐め、触り、暴力を振るったことが克明に書かれていた。
(;`・_ゝ・´)「異議あり!その男児と被告人が同一人物であるという証拠は――」
(,,゚Д゚)「黙れよ弁護士、まだ俺が話してるんだ。
ここに、ブルーハーツで保管されていた男児の歯があるラギ。
その男児のDNA情報とビンズの物を比較し、同一人物だって検査結果が出たラギ。
今朝の事だ。
つまり、この時点で恐れたのさ、市長たちは。
自分達が捨て、自分達の遺伝子情報を持つ子供が罪を犯すことを。
もし何かの拍子でDNA鑑定でもされたら、自分達のスキャンダルが公になるだけじゃなく、手前等の餓鬼が正真正銘の屑だって知れ渡るからな。
だから法律を変え、強姦現場にDNA情報が残らないように手を尽くしてきたんだ。
ちなみに、クリントって名前は赤ん坊にそう書かれた紙が貼り付けられていたからだそうだ。
後で筆跡鑑定をしてみれば何か面白いことが分かるんじゃないか?
クリント・アルジェント・リンクスって名前の、糞市長の糞息子だって事がなぁ」
事件の背後に見えてきたのは、スキャンダルと腐ったプライドだった。
傍聴席の二人を見て、トラギコは最後の言葉を締めくくった。
(,,゚Д゚)「そうだろ、二人とも?」
「弁護側の異議を却下します。
ですが、検察側は本件に関係のない事件について話を広げないように」
336
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:19:19 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「そいつは初犯じゃない。
それに更生もしない。
そして、自分の立場を利用して子供たちに対して下種な行為をしたラギ。
精神異常でも薬物中毒でもない。
ただの屑野郎なんだよ、こいつの正体は」
(;`・_ゝ・´)「異議あり!精神鑑定の結果、彼は精神に異常をきたしており、判断能力と倫理観に関して問題があります」
(,,゚Д゚)「その精神鑑定をした医者のスーツ、最近高級なやつに変わったんじゃないのか?」
(;`・_ゝ・´)「異議あり!検察側はいい加減な憶測で物を言わないでいただきたい」
(,,゚Д゚)「異議あり、でいいんだよな?現にこっちは、所長が証拠隠滅を指示する旨の発言と、それを裏付ける証拠を持ってるラギ。
昨日、署内で起きた火災で焼け残った証拠品の一つがあるラギ。
こいつは、警察で使われていた装備で、シリアルナンバーも残ってるラギ。
照合すればどこに本来あるはずの物なのか、一発で分かるラギ。
例えばこれが、本来であればジャーゲン警察で採用されているはずの装備一式で、まだそれが署内の誰にも伝達されていないものであることが分かるはずだ。
これだけ好き放題する奴が、まさか精神科の医者一人を買収できないはずがない!!」
「静粛に!双方、静粛に!」
だが静粛にならなければならないのは、その場にいる全員だった。
傍聴席にいる人間達はジョセフとサナエから距離を置き、セントジョーンズはサナエの後ろに立った。
▼ ,' 3 :「セントジョーンズ、私を疑うのか?」
(’e’)「いいえ、私はトラギコを信じているだけです」
法廷中が十分に加熱し切っている事を確信し、トラギコはその炎が沈静化するのを笑顔で待った。
そして静けさが戻り、裁判長が口を開きかけたところで、満を持してドクオから受け取ったボイスレコーダーを起動した。
▼ ,' 3 :『いいか、証拠品を全て消すんだ』
('A`)『流石にそんなことをしたら疑われますよ』
▼ ,' 3 :『事件を担当しているのはあの馬鹿一人だ。
あいつに何が出来る』
('A`)『あいつは、トラギコはちょっとやそっとじゃ諦めない』
▼ ,' 3 :『別に諦めさせる必要はない。
あいつがこの世から消えれば全て解決だ』
ドクオとサナエの会話が流れ終った時、一瞬の静寂が生まれた。
メイが目を大きく見開き、トラギコを見る。
その目が語る事は明らかだった。
だからトラギコは笑顔一つ浮かべずに言いきった。
337
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:19:54 ID:/d4jdjY20
(,,゚Д゚)「言っただろ、叩き潰すって」
爆発音と聞き間違うほどの怒号。
それは、法廷とその外から聞こえてきた。
窓ガラスが振動で震え、裁判長の木槌の音さえも掻き消した。
裁判長が流石に冷静さを欠いて取り乱す。
法廷内だけならばまだしも、このタイミングで外からの怒号が聞こえるとは思いもしなかっただろう。
アサピーがトラギコと目を合わせ、頷いた。
彼は携帯電話を使い、法廷内の全ての会話を外に向けて流していたのである。
そして、その会話を流した先はラジオ局。
ジャーゲンでニュースを取り扱う局にアサピーが独占放送と言う形で裁判内容を垂れ流しにし、そのラジオの音声は外で待機している人間の耳に届いた。
これで事件をもみ消すことは一切不可能となり、後は裁判の行方次第となる。
だが、そのことに気付いている人間はほんのわずかしかいない。
この法廷で気付いているのはトラギコ、アサピー、そしてセントジョーンズだけだった。
「これより三十分の休憩とし、その後、判決を言い渡します!!」
裁判長の大声によって、喧々囂々した法廷が一時的に落ち着きを取り戻す。
「トラギコ、話をしますよ」
鬼の形相を浮かべたメイがトラギコの肩を強く掴み、有無を言わさぬまま控室へと連れて行った。
法廷のすぐそばに作られた狭い控室に入ると、メイは鬼気迫る表情で問いただした。
「貴方は何がしたいんですか」
(,,゚Д゚)「この街の癌を一掃するんだよ。
証拠は揃ったラギ。
あの屑とその両親に然るべき罰を与えて、ムショにぶち込む」
「街の政治には干渉しない、これは警察官の基本のはずです」
(,,゚Д゚)「政治じゃねぇよ。
あいつらが作った法律に反している罪人がいるんなら、それを捕まえるのが俺の仕事ラギ」
「……これ以上、事態をややこしくしないでください」
(,,゚Д゚)「俺がややこしくしてるんじゃねぇ。
元が糞みたいな事件なんだ」
「他に何か公開しようとしていることは?」
(,,゚Д゚)「何もねぇよ。
俺はやることをやっただけだ」
「後でどのような処罰が下るかは分かりませんが、私は起きたことをそのまま市長と長官に報告します」
(,,゚Д゚)「あぁ、好きにしな」
338
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:20:23 ID:/d4jdjY20
そして、判決の時が訪れた。
関係者が全員再び法廷へと戻り、裁判長がゆっくりと席に着く。
彼の顔にはすでに疲労感が浮かんでいたが、一瞬だけトラギコに向けた視線に物ありげな色が宿っていた。
まるで、同情するような視線だった。
「それではこれより、被告人、ビンズ・アノールに判決を言い渡します」
誰もが口を噤んだ。
裁判で最も優先されるのは訴えた側の人間、つまり、ブルーハーツ児童養護施設の施設長及び職員の意志だ。
裁判で明らかにされた事件の全貌、犯人の認識などを踏まえ、彼らの要求する刑罰を法律の範囲内で尊重することになる。
未成年で強姦殺人をこれだけ行っていれば、法律の保護の範囲を越え、死刑もしくは執行猶予なしの終身刑となるはずだ。
前例はないが、ここまで事件が大きくなった以上、容易に甘い判決は下せないだろう。
それらの事も考えた上で、トラギコは裁判の一部始終を外部に向けて発信させていたのである。
「……被告人の行った犯罪行為は許されざるものがあり、また、同情の余地は一切ありません。
従って、原告の要望を全面的に受け入れ、言い渡します」
その時。
トラギコの背中に電流が走るような感覚が訪れた。
何かを見落としている。
何かを失念している。
死角にある何か、極めて重要な要素を。
有り得るはずがないと断じ、切り捨て、思考から無意識の内に弾いていた何か。
その感覚の答えは、裁判長の口から語られた言葉によって明らかにされた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「――被告人に、懲役三年の刑を言い渡します」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
判決を告げた裁判長の眼は静かだった。
判決を受けたビンズの眼は狂気の色に満ちていた。
判決を聞いたライトの眼は驚きに見開かれ、メイは呆然とした。
トラギコの眼は傍聴席に向けられ、そこに座る二人の権力者の表情を読み取った。
勝ち誇り、見下し、安堵していた。
あまりの衝撃に、傍聴席に座る人間も、裁判所の外にいる人間からも声は出なかった。
まるで時間が停止した様に、世界が静寂に包まれた。
最初に声を発したのは、トラギコだった。
(#゚Д゚)「ふざけんじゃねぇ!!」
その声は誰に向けたものなのか、トラギコ自身にも分からなかった。
立ち上がり、誰に向かって殴りかかるべきなのか、殴りかかろうとしたのかも分からない。
彼の思考は一瞬の内に激情で染め上げられ、理性的な言動は勿論だが感情を抑えることも出来なかった。
横にいたメイがトラギコの両肩を押さえなければ、裁判長に掴みかかって殴り倒していたかもしれない。
339
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:20:48 ID:/d4jdjY20
まるで自分の体が自分の物ではないかのように、トラギコの思考と体、そして感情が分離していた。
獣のような慟哭が響く。
いつの間にか、トラギコを押さえる人間は五人にまで膨れ上がっていた。
「原告からの要望なのです、刑事。
未来ある若者のために、更生をする機会を与えたい、と」
(#゚Д゚)「その糞野郎がどうして更生できるって信じられるんだよ!!
何度も同じことを繰り返す屑で、あんたの育ててきた子供たちをあんな目に遭わせたんだぞ!!」
「刑事、どうか静粛に願います。
判決はもう下り、覆ることはありません」
(;`・_ゝ・´)「裁判長、後学のためにもう少し詳しくお話を聞かせていただきたいのですが」
助け舟を出したのは、意外にもライトだった。
トラギコに向けた目は、優越感に浸るそれではなく、思いがけない事態に発展したことに対しての動揺の色が浮かんでいた。
「刑事が指摘した通り、被告はブルーハーツ児童養護の出身でした。
そして、職員一同と施設長の意向が一致し、懲役三年となったのです」
視線が自然と市長に向けられる。
すでに青ざめていた表情は消え、憐れみを感じさせる目でトラギコを見ていた。
あの男が動いたのだ。
トラギコにとって唯一の誤算は、原告の買収だった。
恐らく、その買収方法は金額ではないはずだ。
例えば、街にある施設全ての補助金を打ち切る、などの条件を出したに違いない。
そうでなければ、人格者の買収は成功しない。
現に施設長は裁判が始まる直前まで、犯人に対して重い罰を望んでいた。
それを覆すためには、天秤の前提を破壊し得るだけの権力が必要になる。
トラギコが力で形勢を逆転させたのと同じように、市長もまた、力によって状況を変えたのである。
(#゚Д゚)「こんな茶番があるかよ、おい!!そいつのせいで何人死んだと思ってる!!」
「静粛にしなさい、刑事!!」
木槌が何度も振り下ろされるが、止まらない。
(#゚Д゚)「どれだけの未来が奪われたと思ってんだよ、この糞野郎一人のために!!」
「これ以上続けるのなら、退場していただきます!!」
(#゚Д゚)「俺が退場しようが免職になろうがいいけどな、その糞野郎は生きている限り子供に手を出す!!
奪った未来に見合った働きなんて出来るような人間じゃねぇんだよ!!
施設長たちが買収されてるのは明らかなんだ、こいつを三年で野に放つなんて判決、誰が納得できるんだよ!!
死んでいった子供たちはどうなる!?犯されて殺されかけた子供は!!一生の傷を抱えたまま生きることになるのに、どうしてそいつは!!」
「退場です!!刑事、貴方はいくらなんでも暴言が過ぎます!!退場しなさい、今すぐに!!」
340
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:21:23 ID:/d4jdjY20
(#゚Д゚)「……そうかよ、喜んでこんなところ出て行ってやるラギ」
そう言って、トラギコは力を抜き、一歩下がった。
彼を取り押させていた五人が諦めたのかと思い、手を緩める。
その一瞬の隙を突いてトラギコは彼らを振りほどき、柵を飛び越え、ビンズに襲い掛かった。
だが、振りかざした拳が彼の怯えきった顔を捉える前に、背中に撃ち込まれたテーザー銃によってトラギコはその場に倒れた。
朦朧とする意識と霞んだ視界の中で分かったのは、トラギコを撃ったのはセントジョーンズだということだった。
(;,,゚Д゚)「糞っ……!糞……がっ……!」
木槌が降ろされ、裁判長の言葉が遠く聞こえる。
「これにて閉廷!!」
ビンズの狂ったような嘲笑が響き渡る。
(::゚∀゚::)「あはははは!!残念だったなぁ、刑事さんよぉ!!
俺、真人間になるからさぁ、応援してくれよなぁ!!」
一度出された判決は覆らない。
この男は再び名を変え、世間に戻ってくる。
戻り、そしてまた子供を凌辱して殺すのだ。
何人もの子供の命を侮辱した手で、いつか我が子を抱くのかもしれない。
何食わぬ顔で愛をささやくのかもしれない。
殺された子供たちにはそんな未来は得られないというのに、この男はその未来を手にし、再び未来を汚すのだ。
憤りがトラギコの体を動かした。
突き刺さった電極を掴み、無理やり取り去った。
痛みはなく、全身の血の気が引くほどの怒りだけがトラギコの体にあった。
ゆっくりと立ちあがり、笑い声をあげるビンズを睨みつける。
(;,,゚Д゚)「手前らは……絶対に……許さねぇラギ……!!」
「被告人を早く連行しなさい!!その刑事も早く!!」
そして二度目の電流がトラギコの意識を奪い去り、裁判に幕を下ろした。
‥…━━ 十二月十六日 午後十時 某マンション ━━…‥
その日の夜、サナエ・ストロガノフとジョセフ・アルジェント・リンクスは裁判所からすぐに彼女のマンションに帰宅し、家中の鍵とカーテンを閉め、耳栓をして翌朝を待つことを選んだ。
電気は決してつけず、物音も極力立てないように務めた。
全てが最悪の展開だった。
トラギコによって彼女のささやかな抵抗の何もかもが無に帰し、これから先の人生が暗雲に満ち溢れた。
たった一度の過ちが、全てを狂わせた。
市長の甘言に乗り、体を預け、そして身籠った命。
その命を育てることが出来ないと判断したサナエは、ためらうことなく施設に捨てることにした。
せめてもの情けとして、クリント、という名前を残してやった。
341
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:22:05 ID:/d4jdjY20
そして身の回りが固まり、将来が盤石なものになって来た時、問題が起きた。
女児に手を出したことが分かったのだ。
このままではいつか大事になる。
そう判断した市長とサナエは、法改正によってリスクを回避することにした。
捨てたとはいえ、自分達の子供を殺すことは出来なかったのだ。
そして危惧した通り、彼は何度も事件を起こした。
先日の養護施設襲撃を含めて、二十一回の犯行だった。
その全てにサナエたちは対処することとなり、いつしか彼は、自分は何かに守られているのだと理解するようになってしまった。
事件が起きれば警察よりも先に清掃業者を向かわせ、証拠を隠滅し、保護者は大金で買収した。
この街の人間は金が無い。
街がどうにか維持できているのも、人身売買と薬物売買の拠点と言う非合法的な商売が成り立っているからであり、一般家庭には無縁の話なのだ。
金で動かない人間はまずいない。
この街で子供の命は極めて安く、極めて容易に取引される材料となっている。
実際、親が子供に売春を強要する例は連日報告されている。
売春で出来た子供を売春によって育て、その子供も売春によって生きていく。
皮肉な連鎖の続く街に生きる人間達は、金で簡単に動いてくれる。
それが、サナエがこの街で学んだことの一つだった。
やがて、トラギコの介入によって事件の真相が解き明かされる日が遅かれ早かれ来ると判断し、これまでの余罪が明らかになる前に彼を消すことにした。
だが、その全ては失敗した。
警察の装備を横流しした殺し屋たちもトラギコに返り討ちに合い、あまつさえ、現場に証拠を残して死ぬ無能ぶりを晒してくれた。
ドクオはまるめ込んで証拠隠滅の手助けをしてくれたのだと思っていたが、この土壇場で裏切り、証拠を全て処分せず、遺伝子情報の分析までも依頼していた。
幸いなことにその情報を偶然手に入れたサナエは、遺伝子情報もろとも屠ろうと決め、鑑識課の元を訪れた。
部屋にはビロードとハシュマルがおり、二人は突然の来訪に驚いた様子だった。
だが労いの言葉とコーヒーを持参したのが功を奏し、二人は怪訝な顔をしていたが、警戒はしなかった。
無防備な状態の二人に愚痴を幾つかこぼし、その場を立ち去る振りをしてPSS自動拳銃を取り出し、まず初めにビロードを撃った。
PSSは静音性を高めるために小口径であり、装弾数も少ない。
銃弾はビロードの胸に着弾し、彼は何が起きたのか分からない表情のままその場に座り込んだ。
異音に振り返りそうになったハシュマルは喉を撃ち抜き、更に、その背中にも銃弾を浴びせた。
ハシュマルは自ら作り出した血溜まりの上に倒れ、動かなくなった。
ビロードは胸に手を当て、付着した赤黒い血を見て呆然としている。
その間に、彼の下には血が広がっている。
(;><)『所長……な、なんで……』
ビロードが手に持っていた検査結果を奪い、そして、ハシュマルが机の上に置いていた遺伝子のサンプルも回収した。
そして、ビロードの胸に更に銃弾を撃ち込んだ。
最後の一発を頭に撃ち込もうとしたが、すでに弾倉の中は空になっていた。
警察は未だに犯人を特定できていない事から、彼がサナエの事を話すことなく死んだのだと分かった。
目的を達し、今日の裁判で全てが終わるかに思われたが、トラギコがそれを崩した。
彼女が二十年近くも秘密にしてきた全てが公になり、マスコミの人間がそれを街中にラジオで流したことで、今やサナエとジョセフは姿を表に出せなくなっていた。
こうなると分かっていれば、わざわざ施設の人間を買収せずにおけばよかったと後悔ばかりが生まれてくる。
あれがなければ、もう少し世間の風当たりが弱くなったかもしれない。
342
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:22:45 ID:/d4jdjY20
全てはもう手遅れ。
彼女達が思い描いたシナリオは全て白紙となり、待っているのは失脚だ。
ジョセフは一気に老け込み、言葉を発するだけの力も残されていなさそうだった。
すでに家の周りにはパパラッチやデモ隊の人間が押し寄せてきており、気が休まることはない。
だがこのマンションは極めて堅牢に出来ており、彼女の部屋は最上階である十三階にあった。
所長の椅子は勿論だが、明日には正式な処分がジュスティアから通達される。
懲戒免職にでもなれば、彼女は何の保護も受けられない。
今夜中にどこかに逃げ出さなければ、暴徒に殺されるかもしれない。
市長の交代がいつどのように、誰の裁量で行われるのかについては彼女の関与すべきところではない。
逃げる際に役に立つかと思ったが、ジョセフにはそんな余力はなさそうだった。
風がサナエの髪を揺らした時、どこかで窓か扉が開かれたのだと察知した。
耳栓をしているために音に気付かなかったことが原因だった。
▼ ,' 3 :「誰だ?!」
耳栓を外し、サナエは大声で侵入者に声をかけた。
だが返答はない。
武器になりそうな物は何もなく、相手の目的によっては全て従うしかない。
金銭目的であればいいのだが、命が狙いとなると、対抗できる手段がない。
彼女の前に現れたのは複数の少年達だった。
彼らの手にはナイフやバットが握られており、サインをねだりに来たわけではなさそうだった。
むしろどのようにしてこの家に入って来たのか、それが疑問だった。
▼ ,' 3 :「な、何だね、君達は」
「おばさん、お金ちょうだいよ」
ガムを噛みながら少年の一人がそう告げる。
暗闇の中で表情は見えないが、従った方がよさそうだった。
▼ ,' 3 :「そこの棚にある。 全部持って行け」
「……で、聞きたいんだけどさ。
あんた、警察の人間なんだろ?なら分かるよな、正義ってやつ」
少年達が銀色に輝くダクトテープを取り出し、その目的を暗に示唆した。
逃げようにも、ここは十三階。
飛び降りれば間違いなく死が待っている。
こんな形で死を迎えるのは受け入れがたい。
こんな、あまりにも間抜けな死に方など受け入れられるはずがない。
▼ ,' 3 :「こ、殺すつもりなの!?」
「ははっ、何言ってんのさ」
343
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:23:08 ID:/d4jdjY20
ジョセフは抵抗する間もなくダクトテープで口を塞がれ、手足を縛られた。
「害虫駆除だよ」
手近にあった物を投げようとしたが、その前にバットがサナエの横面を襲った。
殴打され、転倒したサナエに少年達は容赦なく襲い掛かり、ダクトテープで自由を奪った。
翌朝、彼女の部屋の扉が開いていることに気付いた複数人のパパラッチによって、サナエの変わり果てた遺体が発見された。
市長は全身に酷い暴行を受けていたが、命に別条はなかった。
片目を失い、両足と右腕の健が切断され、歯が全て折られているだけで、一命はとりとめた。
犯人である少年達はすぐに自首し、市長が作った法律に従って裁判を受け、自首による量刑の軽減恩赦を受け、懲役一年を言い渡された。
少年達がジャーゲン警察所長を殺す姿は、偶然開かれたカーテンの向こうにある建物の屋上に偶然居合わせたジャーナリスト、アサピー・ホステイジによって撮影された。
彼の写真は高額で取引され、世界中に広まった。
彼がサナエの部屋鍵のスペアを持っていた事は、誰にも知られず、闇に葬られることになった。
そして、彼がジャーゲンの児童養護施設の出身者であることに行き着いたのは“虎”と呼ばれた刑事だけだった。
――トラギコ・マウンテンライトはその日から半年の有給を申請した。
これは、彼が仕事をしてきた中で最も長い休暇であった。
第三章 了
344
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:23:52 ID:/d4jdjY20
これにて三章は終了となります
次回の終章で物語は終わりでございます
指摘、感想などあれば幸いです
345
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 19:48:44 ID:wcCYLjoA0
おつ
ここから冒頭にどうつながるか楽しみ
346
:
名無しさん
:2018/12/03(月) 20:27:02 ID:5lHg.wjA0
乙です
引き込まれる面白さ最終章楽しみです
347
:
名無しさん
:2018/12/04(火) 15:20:15 ID:vG31WmTs0
乙乙
ビロードが亡くなったときはこうなんだろう…………辛い……
348
:
名無しさん
:2018/12/04(火) 18:29:33 ID:jKWkYY6M0
ビンズはこっからどうなるんだろうなぁ……
どうにもされないのかなぁ……
年内完結は予定しておりますのでしょうか
349
:
名無しさん
:2018/12/04(火) 19:04:46 ID:x8nDZFN20
>>348
間違いなく年内に完結させますので、もう少しだけお待ちください
350
:
名無しさん
:2018/12/04(火) 20:30:10 ID:WhPiRl9E0
最初に殺されてたやつって股間やられてたよな
351
:
名無しさん
:2018/12/04(火) 21:51:17 ID:mxVZhWhs0
こっからトラギコが変わるのかな?
どうなるのかほんと楽しみ
352
:
名無しさん
:2018/12/05(水) 14:39:08 ID:kJZMXnSg0
こういう前日譚っていいよな
353
:
名無しさん
:2018/12/12(水) 20:57:53 ID:pUtW86Zs0
上手いけば今週の土日のどちらかで投下するつもりですたい
354
:
名無しさん
:2018/12/13(木) 20:24:40 ID:WMBYiJ/M0
土曜日にVIPでお会いしましょう
355
:
名無しさん
:2018/12/13(木) 21:55:35 ID:B01ks5oo0
待ってる
356
:
名無しさん
:2018/12/14(金) 00:13:15 ID:MY1aWWPk0
楽しみ
357
:
名無しさん
:2018/12/14(金) 15:44:44 ID:vyHcGwxQ0
やったぜ。
358
:
名無しさん
:2018/12/14(金) 19:15:40 ID:ajXRm4gs0
これは期隊
359
:
名無しさん
:2018/12/15(土) 08:31:43 ID:/wCLljAk0
楽しみ!
360
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:20:25 ID:1oQZzTTo0
終章『鳥には夢を、虎には白い花束を』
二月二十日、朝のジュスティアは大粒の雨に見舞われていた。
氷のように冷たい雨が街に降り注ぎ、人々の足を重くし、黒い空が陰鬱な雰囲気を街にもたらしている。
傘をさして歩く人々を見下ろしながら、ラブラドール・セントジョーンズは想いを別の場所に馳せていた。
局長として彼が抱えている業務のほとんどはすでに手配を終え、彼が主導で行う事はあまり残されていない。
机の上に置かれたカップには冷めきった紅茶が手つかずのままで、すでに一時間が経過していた。
(’e’)「……ふむぅ」
彼が考えているのは、半年の有給を申請したトラギコ・マウンテンライトの動向だった。
トラギコは確かに感情的になりやすく、行動でそれを表す人間だ。
十二月に起きたジャーゲンの事件をきっかけに、彼とは連絡が取れなくなっている。
所属は今でもジャーゲン警察ということになっているが、彼が職場に戻ったという報告も、その後の動向についての報告もない。
最後に見たのは裁判所で激昂した姿だった。
あの後セントジョーンズは翌日に控えていたサナエ・ストロガノフの処分についての報告書をまとめる為、宿泊先のホテルに戻っていた。
ホテルで報告書を書き進め、サナエの行いは警察官として、そして仮にもジュスティアの代表としてジャーゲンの治安を維持する人間のするそれではない、と締めくくった。
そして翌朝、サナエは死体で発見され、その写真が新聞の一面を飾った。
それだけでなく、かなり挑発的な一文が新聞に記載されていた為、一部の新聞はジュスティアで回収されることになった。
流石に警察官の汚職と事件の隠ぺい工作、更には脅迫などが一度の裁判で公表されたことで、一気にジュスティア警察への信用が揺るぐことが危惧されたからである。
焼け石に水と言うものであったが、ジュスティア市長と警察の高官たちは皆その新聞を街から全て一掃した。
だが翌日には新たな展開があり、再びジュスティアは火消に注力することになる。
ビンズの判決が懲役三年から事実上、無罪に減刑されたのである。
懲役三年が言い渡されたビンズではあるが、彼が未成年であること、そして仮に彼が己の罪を償いたいという態度を示した場合、ほぼ無罪として処理できるのだ。
事実、判決が下された翌日、ビンズは生きて子供たちへの償いをしたいと宣言し、尚且つ精神判定の結果を突きつけることでその権利を勝ち取った。
こうしてビンズは“更生の余地あり”と見なされ、懲役三年は要観察、というものへと変わった。
検察側はこれ以上この事件に触れる必要がなくなったため、その結果は受け入れられた。
従来の法律通り、ビンズは書類や登録情報の変更などの諸手続きの関係で約二ヵ月の時間を経て、真新しい人間として世に出ることが決まった。
この問題点を非難する人間も多く、記事にそれを書く者もいた。
しかし、ジュスティア警察の意見はその真逆であり、法律にのっとって裁かれたのであれば、それは契約の中に納まっている話でしかない。
法律的に何も問題が無ければジュスティア警察は介入することなく、それに目を瞑るしかないのだ。
どれだけ悲惨な事件が起きたとしても、犯人の人間性が異常だとしても、判決を覆すよう提言したり、それに不満をぶつけたりすることはない。
双方の関係は治安維持の面における契約関係であり、それ以上ではないのだ。
企業としての考え方はそれが正しいが、確かに人道的ではない事が世論には受け入れられなかったが、一週間も経つとすぐに忘れられた。
この一連の流れは全て、サナエが生前に仕組んでいたレールに沿って動いていた。
精神科医の診断や買収、仮に有罪判決が下ったとしてもすぐに覆せるよう、関係者を動かすところまで全て彼女の手筈通りだった。
トラギコの奮闘で多くの真実が明るみになっても、彼女が生前に敷いたレールは完璧にその役割を果たした。
彼女が殺されるという点を除けば、ビンズへの対応は全て思い描いていた通りだったのだろう。
判決が下った当日の夜、サナエの死体と共に瀕死の市長も発見されたが、彼は政務を行えるような状態ではなく、五日後に別の人間が代行することとなった。
絶望的な状況下の街の再建を名乗り出たのは、内藤財団だった。
彼等の業務内容は手広く、街の政策が上手くいかなくなったりした際に代行することもあり、事態の収束にも手馴れている。
市長がその椅子から降りる前に彼らは街に現れ、契約を取り交わした後、間を開けることなく街の政策代行を引き受けることになった。
361
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:21:07 ID:1oQZzTTo0
代行者がすぐに行ったのは、法律の見直しと改善だった。
未成年を保護する法律の大幅な改善を最初に宣言し、それと同時に街の治安回復に力を注いだ。
これまで暗部としていた埠頭に警察の介入を許可し、人身売買組織や違法薬物の売買組織の摘発を行った。
指揮を執ったのはドクオ・マーシィ率いる現職の警官と、ジュスティアから派遣されていた警官隊だった。
失った信頼を取り戻すため、街は大きく変わり始めたのだ。
その変化に流され、ビンズの起こした事件は〝街が変わるきっかけになった教訓〟のようなものに変わり、終わった物として認識が切り替わった。
警察とジャーゲンとの契約は継続することとなったが、これまで以上の待遇の改善が約束され、警官達のモチベーションが向上して自らジャーゲンに行きたいと名乗り出る警官も出た。
それらが導いた何よりも大きな変化は、子供たちに対する街の変化だった。
街から出される補助金だけでなく、多くの寄付金と共に、就職先の斡旋などが充実することになった。
それらを取り仕切る非営利団体が内藤財団を中心に組織され、その名前は街の変化に大きな貢献をした人間名にちなみ、“イトーイ・ビロード支援会”とされた。
ヴェガの時とは違い、ジャーゲンは警察との関係を良好なままにし、治安の回復にも力を入れ始めている。
だがそれでも、トラギコの姿は消えたままだった。
何かが不満なのか、燃え尽きてしまったのか、それとも警官に対して嫌気がさしたのか。
彼は確かに多くの事件を解決してきたが、まだ年齢的にも若い。
多くの挫折と不条理を経験し、成長していく段階だ。
少し話をして彼を落ち着かせるべきだったのだろうかと思うが、後悔してももう遅い。
街の様子から目を上げ、セントジョーンズは空を見た。
今頃、ジャーゲンは雪が降っている事だろう――
‥…━━ 二月二十日 午前 ジャーゲン 刑務所 ━━…‥
ビンズ・アノール=クリント・アルジェント・リンクスは、独房の中で一人鼻歌を歌っていた。
未成年を保護する法律が改定される前に刑務所に入った彼は、幸いなことに、法改正前の待遇を受けられる数少ない存在だった。
食事は健康にいいものを、運動は好きな時に、そして外部との接触も割と自由なままだ。
刑務所内でのリンチが必至とされていたが、裏で彼のために動いている人間の働きによって独房が割り当てられていた。
幼少の頃から彼は何かに守られている事を知っていたが、あの裁判で、その正体が分かった。
まさか、街の最高権力者たちに守られていたとは思いもしなかったが、彼にとってはどうでもいいことだった。
大切なのは彼が自由気ままに子供たちを犯し、殺せたことだった。
やはり、犯すなら子供が一番だった。
無力で、健気で、そして脆い。
それを自らの手で滅茶苦茶にすることが、何よりも気持ちがよかった。
人形遊びの延長線上であることを言ったとしても、誰も理解を示さないだろう。
一つ彼が気にしていることがあるとすれば、再び彼が子供たちを犯せば、重い罪に問われてしまうという事だ。
これは非常に都合が悪く、大人たちの身勝手な判断によって彼の自由が侵害されるという事だった。
人の気持ちが分からない大人は、いつだって彼の周囲に溢れていた。
児童養護施設の大人たちもそうだが、警察もそうだった。
理解を示してくれる人間と数人知り合う事が出来たが、彼等とはあまり親密な関係にあるわけではない。
あの裁判の後、彼に面会を希望する人間が大勢いたが、不思議なことに誰も金を積もうとはしなかった。
金でなくても、彼が要求した物――児童ポルノ雑誌――を持ってくる人間もいなかった。
人に話を聞くならばそれなりの誠意というものを見せてもらわなければならない。
その点、大人たちは人に誠意というものを要求しておきながら、自分達では一切誠意を見せない。
362
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:21:29 ID:1oQZzTTo0
金が無いと、出所後に女児を買う事が出来ない。
買えないのであれば、どうにかして手に入れる他ない。
全ての原因は大人たちにあると言ってもいい。
大人たちが制限をしなければ、彼は自由に女児を犯して殺すことが出来るというのに。
(::゚∀゚::)「はー、犯してぇなぁ」
いくら無罪を獲得し、安全な刑務所で護られているとは言っても、好きな時に犯せないのは人権侵害も甚だしい。
出所までに二ヵ月の時間を要しているのは、彼自身の身の安全を確保するため手続等が大半の理由で、我慢するしかなかった。
心からの欲求を口にした彼の元に、跫音が近付いてきた。
「ビンズ、お前に面会者が来てる」
(::゚∀゚::)「えー? 金は?」
「……お前の要求した額を持って来てる。
さっさと出てこい」
(::゚∀゚::)「へぇ、話の分かる人が来たってことか。
どれ、いっちょ話しますかねぇ」
しばらくは取材などを受けて金を稼ぎ、適当な子供を孕ませ、その子供を犯す資金を蓄えておくべきだ。
何をするにも金は必要だ。
これまで得ていた資金援助は打ち切られた為、これからは自分で稼がなければならない。
自伝を執筆すると知れ渡れば、話聞きたさに金を積んで権利を手に入れようとする出版社が必ずある。
何にしても、この場所ではやる気が起きない。
(::゚∀゚::)「そっか、養子にすりゃいいのか」
歩きながら、ビンズは名案を思い付いた。
養護施設から子供を引き取れば、ただで犯せる。
しばらくしたらまた新たな子供を引き取り、犯して殺せばいい。
金を要求されても払えばいい。
自分の所有物に何をしても問題はないだろうと、ビンズは己の考えの正しさを強く認識した。
‥…━━ 二月二十日 午前九時 ジャーゲン 某コーヒーショップ ━━…‥
強い風と共に大量の雪が降り続く、極めて寒い日だった。
これまでにない寒波に襲われたジャーゲンでは、大勢の人間が屋内へと逃げ、暖を求めた。
屋外席を売りにしているカフェなどは軒並み閑古鳥が鳴いていたが、中には好んで窓際の席に座り、硝子の向こうで白く染まる街を眺める客もいた。
あるコーヒーショップでは、開店から客が一人だけしか来ていなかったが、その唯一の客は窓際の冷え込む席に座り、コーヒーを飲んで静かに外を眺めていた。
トラギコ・マウンテンライトは裁判が終わったあの日から有給を申請し、ジャーゲンで静かに時を過ごしていた。
だがそれは、無意味な時間ではなかった。
彼には時間が必要だった。
考え続け、そして、実行するためのあらゆることに時間が必要だったのだ。
イ´^っ^`カ「旦那、これサービスです」
363
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:21:50 ID:1oQZzTTo0
店主がコーヒーを保温ポットで運び、ビスケットの箱がいくつもテーブルに置かれた。
イ´^っ^`カ「たぶん、今日はもうお客さん来ないと思うんでね」
そう言って、店主はカウンターの奥へと行き、椅子に座ってペーパーバックの本を読み始めた。
ラジオが小さな音量で流され、トラギコは店主の心遣いに感謝しながらも、一言告げることにした。
(,,゚Д゚)「そろそろ一人来るが、構わなくていいラギよ」
イ´^っ^`カ「あいよ。……奥に行ってますので、何かあれば遠慮なく。
看板は後で戻しておいてもらえればいいんで」
店主はカウンターからカップを一つ取り出して、それをトラギコの向かい側の席に置いた。
(,,゚Д゚)「すまねぇな」
トラギコの素性を知る者はこの街でも限られた人間だが、あの裁判の様子を聴いていた店主は彼の正体を知る人間になった。
当然、裁判の結末も知る店主はトラギコがどのような人間かも知っていた。
が、対応は前とあまり変わらず、仕事の話もしない。
ただの客と、理解ある店主という理想的な環境は続いていた。
少しして、店の扉が開き、冷気と共に男が一人現れた。
ニット帽とマスク、そして分厚いコートで身を包むだけでなく、サングラスまでかけている。
(,,゚Д゚)「看板を返しておけ」
男は言われた通り、看板を裏返して閉店中の札を外に向けた。
それからトラギコの前に座り、ポットのコーヒーをカップに注ぎ、マスクをずらして一口飲んだ。
(-◆∀◆)「へぇ、美味いですねぇ」
(,,゚Д゚)「それで、どうだ」
アサピー・ホステイジは曇ったサングラスを取り、眼鏡をかけて店内を見渡した。
(-@∀@)「あっしらだけで?」
(,,゚Д゚)「そんなところラギ」
(-@∀@)「……法整備が完了するのは、読み通り来月からでさぁ。
流石に全部を改正するのは無理だったようで」
(,,゚Д゚)「そっちの問題は解決ってことラギね。
それで、他のは?」
(-@∀@)「三人中二人の消息は追えたんですが、後の一人はもう引き取られた後でした。
面目ありやせん」
(,,゚Д゚)「いや、上出来ラギ。
……そうか、引き取られたのか」
364
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:22:10 ID:1oQZzTTo0
(-@∀@)「どこの誰、ってのまでは調べちゃいませんが、確かな情報でさぁ。
それと、奴はやはり近いうちに娑婆に出る予定になってましたぜ。
手続きを早めるために裏で金を動かしている人間がいるってのが分かりました」
トラギコはコーヒーを一口飲み、頷いた。
三年の判決が条件を満たせば無罪となる事を、トラギコは理解していた。
となれば、出所するタイミングがいつになるのかが最重要になってくる。
(,,゚Д゚)「あいつに色々と喋られちゃ困る人間がいるってことラギ。
釈放を早めさせて口封じをするってことは分かってたことラギよ」
独自の調査により、ビンズ・アノール=クリント・アルジェント・リンクスは市長と所長の隠し子であるという特権を生かし、多くの人身売買組織にコネクションを持っていることが分かった。
街に蔓延っていたほとんどの人身売買組織はトラギコの力で潰せたが、それでも、全ての組織を潰したわけではない。
子供が子供を産む限り、人身売買は決してなくならない。
十二月に有給を取ってからトラギコが独自に動いたのは、警察が介入したがらない小さな芽を摘むことも目的の一つだった。
代理市長による街の再生が行われる中、トラギコは人身売買に関わる人間を見つけ出し、程よく暴行した後で警察に突き出していた。
ジャーゲン警察はトラギコの行動を上司に報告することはなく、善良な市民による協力、とだけ日誌に書くようにしていた。
彼は有給を申請していたが、休むことではなく、ジュスティアに己の行動を知られないようにする必要があると判断しての申請だった。
(-@∀@)「その辺りを追ったんですが、世界的な人身売買組織が絡んでいるみたいで」
(,,゚Д゚)「構わねぇよ。奴らにやられる前にこっちがやるだけラギ」
カップのコーヒーを一気に飲み干し、トラギコは新たなコーヒーを注ぐ。
角砂糖を五つ入れ、話を続ける。
(,,゚Д゚)「……それで、お前が俺に何を要求するのか、聞かせてもらうラギよ」
(-@∀@)「へへっ、言ったでしょう? あっしはジャーナリスト。
スクープが欲しいんでさぁ」
(,,゚Д゚)「ジャーゲン出身者として、何をしたいラギ?」
これまでにひたすらゴシップを貪欲に追い続けてきたアサピーの行動が妙であることに気付いたトラギコは、彼の素性について調べていた。
その結果、彼がジャーゲンの孤児院の出であることを突き止めた。
トラギコに自分の出自を言い当てられても、アサピーは動揺しなかった。
(-@∀@)「街が変わるのは歓迎しやすよ、あっしは。
でもねぇ、それじゃあジャーナリストは食っていけないんですよ。
あっしの書いた記事、ジュスティアで回収されちまったようでしてね。
しばらくあの新聞社とは仕事が出来ませんよ。
だったらいっそ、ジュスティアの人が関わったでかい事件に絡めば、嫌でも名前が知れ渡るってもんで」
ジャーナリストとして名を馳せるためには、大きな事件に関わることが近道だ。
事件の規模が大きければ大きいほど、そして、それに関する情報をいち早く世界に発信する者こそが名声を握る。
すでに彼はジュスティアで名を広めることは不可能となっており、それを脱却するためには、ジュスティアが決して無視できない程の事件に関わるしかない。
そこで彼は目ざとくも、トラギコに関わることにしたのである。
365
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:23:25 ID:1oQZzTTo0
これからトラギコが予定していることは、間違いなく、大きなスクープになると勘付いたのだろう。
故に、アサピーはトラギコが何をするにしても決して思いとどまらないよう、様々な情報を提供しているのだ。
その瞬間が来るまでの関係であり、その瞬間が終われば別の方向を向いて歩き出す程度の関係である。
ではあるが、忘れてはならないのは、彼が自らの手でスクープを作り出す程の執着心とネジの外れた頭を持っている点だ。
サナエの家を少年達に襲わせ、その殺害シーンを写真に収めて世界に公表するという独占スクープを作り出した事を忘れてはならない。
私利私欲のためだけに、とは言えない背景がありはするが、この男が行ったことは間違いなく犯罪である。
しかし警察はその確たる証拠を得られておらず、尚且つ、少年達の自首によって事件は解決したことになっているのだ。
トラギコがその気になれば逮捕できる男だが、今の彼は休暇中の身であり、その仕事はジャーゲン警察の物だ。
彼にとって、ジャーゲンの病巣の一つを殺させ、その姿を世間に公表しただけでは足りないのだろう。
彼が目指すジャーナリズムというものは、更なる他人の不幸を糧とする職業であり、真っ当な倫理観があれば仕事にならないのだ。
(,,゚Д゚)「好きにしろ。だけど、分かってるとは思うが邪魔をするなよ」
(-@∀@)「分かってまさぁ。で、いつ何を実行するんですかい?」
(,,゚Д゚)「近日中に色々と、ラギ」
これ以上の情報をアサピーに提供するつもりはなかった。
必要な情報は基本的に自分一人で収拾が完了しており、彼はあくまでもそれを確信させるための存在でしかない。
決定的に価値観の合わない人間と仕事をするつもりはない。
(-@∀@)「旦那ぁ、そいつぁずるくないですかい」
(,,゚Д゚)「これは俺のやる事ラギ。お前にゃ関係ねぇ」
(-@∀@)「それを言っちゃぁお終いですよ」
(,,゚Д゚)「いいんだよお終いで」
再びコーヒーを飲み、トラギコは溜息を吐く。
外の雪景色を眺め、それから、アサピーを見てもう一度言った。
(,,゚Д゚)「これは、俺のやる事ラギ」
(-@∀@)「……まぁ、あっしは好きにさせてもらいますがね」
(,,゚Д゚)「それでいい。ともあれ、情報ご苦労だったな」
(-@∀@)「へへっ、じゃあまたいつの日か」
(,,゚Д゚)「あぁ、達者でな」
アサピーは席を立ち、店を出た。
そして、その場に現れた私服警官に取り押さえられ、覆面パトカーに乗せて連れ去られた。
間を置かず、新たな客が雪と共に店に入ってきた。
その客は入り口で立ったまま、それ以上中には入らなかった。
('A`)「……約束通り、あのジャーナリストは捕まえておいたぞ」
366
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:25:20 ID:1oQZzTTo0
トラギコが捕まえる事は出来ないが、仕事中の警官であれば逮捕は出来る。
一時的だとしても、あの男をトラギコの目的から引き離せればいいのだ。
(,,゚Д゚)「悪いな、ドクオ」
('A`)「少しお灸をすえてやらなきゃならなくなったからな、丁度よかった。
それと、ビンズは今日の深夜保釈される。
人権擁護団体を名乗る連中が金を積んで、監視付きの保釈が決定した。
法整備が届いていない範囲でのやり口だから、誰も止められん」
(,,゚Д゚)「そいつらの正体は?」
('A`)「恐らくだが、人身売買組織だ。
あいつは顧客だったから、話されちゃ困ることが山のようにある。
口封じをするか、それとも、仲間に引き入れるか。
そこまでは分からねぇ」
(,,゚Д゚)「アサピーから聞いた情報と同じラギ。
ってことは、間違いなさそうラギね」
仲間に引き入れたところで、あの男に人身売買が出来るとは思えない。
売り物に手を出し、組織から処分されるのが目に見えている。
だがその人間性の欠如を活かせる部署に配属されれば、生存の道はある。
拷問、もしくはその手の作品を作る上で欠かせない俳優として選ばれれば、その才能を如何なく発揮することだろう。
('A`)「勿論、口封じはさせないさ。
さっきも言ったが、監視付きだ。
お前が思っている以上に、ジュスティアはこの事件を重要視してる。
強がっちゃいるが、傷がまだ完全に塞がり切ってないってことだろうな。
現に、ジュスティアからすでに応援の警官が派遣されてる」
(,,゚Д゚)「それは都合が悪いラギな」
('A`)「シフト表と配置表をいじる機会があってな。
監視関係の人間を全員俺達にした。
今夜、ジャーゲン警察で担当する奴らは、全員お前の味方だ」
(,,゚Д゚)「ばれたらやべぇだろ、全員」
('A`)「責任は全部俺が取るさ。
お前、有給を出すタイミングで俺の罪を告発しなかっただろ?
流石にこれ以上お前に借りを作るわけにはいかねぇよ。
この一件が片付いたら、俺は自首する」
ドクオはこれまで、サナエ・ストロガノフが関わってきた証拠隠滅に手を貸してきた背景がある。
その理由が何であれ、法律上は違法行為であり、罰せられる必要がある。
だが彼は犯罪行為をもみ消す手助けをすると思わせ、その証拠を集めていた。
彼が集めた証拠があったからこそ、トラギコは裁判の場でサナエの罪を周知させることが出来た。
367
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:25:41 ID:1oQZzTTo0
ドクオの罪については一切触れなかったのは、彼の行いの全てが間違っていたわけではないからだ。
それぞれの思惑がどうあれ、ドクオがあの時鑑識課のハシュマルに依頼をしていなければ、トラギコの証拠が消されていたかもしれない。
(,,゚Д゚)「奥さんと子供は?」
('A`)「向こうのおふくろさんと一緒にいる。
なぁに、単身赴任だってことにしておくさ」
本人がそれを望むのであれば、トラギコはこれ以上何かを言う事はない。
彼は彼の道を歩くと決めたのだ。
それを止める権利は、トラギコにはなかった。
(,,゚Д゚)「そうか、俺が逮捕してやれなくてすまねぇラギ」
('A`)「いいさ、自分の事だ、自分でケリをつけなきゃな」
(,,゚Д゚)「建物に変更はなしラギか?」
('A`)「あぁ、予定通りそこに奴を送る。
そこは任せてくれ。
詳しいことは聞かないでおくが、まぁ、上手くやれよ」
(,,゚Д゚)「助かるラギ。
じゃあ、風邪ひくなよ」
('A`)「お互い、元気でいたいものだな」
そしてドクオは看板を元に戻し、店を出て行った。
彼が出て行ったあとに残されたのは、冷たい空気と少量の雪だけだった。
トラギコはコーヒーを飲み、ラジオの音に耳を傾けた。
『今朝からジャーゲンは、記録的な雪に見舞われており――』
世界が白く染まっていく。
彼の心の中にある何かもまた、白く燃え尽きて行く事だろう。
トラギコの心の中には、あの日から決して衰えることのない炎がくすぶっていた。
『――不要な外出は極力お控えください。では、天気情報に続いて音楽のお時間です』
‥…━━ 二月二十日 午後一時 ジャーゲン 市街 ━━…‥
雪が高く積もり、交通の麻痺が本格化していた。
それだけでなく、街にある多くの店が雪の影響を考え、早々にシャッターを降ろし始めていた。
豪雪の中、トラギコは白い息を吐きながら、ゆっくりと歩いて街の姿を眺めていた。
景色のほぼ全てが白で塗りつぶされ、歩く人間の姿もまるで見えない。
理想的な天候だった。
少なくとも、トラギコがこれからする事にとってこの上なく理想的だった。
予め定めていた店に入り、すぐに酒を注文した。
368
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:26:01 ID:1oQZzTTo0
(,,゚Д゚)「スコッチ、ダブルで。後は適当なつまみを」
( ´∀`)「かしこまりましたモナ」
そして、トラギコは酒を飲んだ。
体の中にある水分全てが酒になるほど、スコッチを喉の奥に流し込む。
味はよく分からない。
そもそも、味があるのかも分からなかった。
一時間かけて一杯飲み終わると、すぐに次を注がせた。
とにかく、酒を飲み続けた。
自棄になっている訳ではなく、酒を飲まなければならないのだ。
これからトラギコがすることに酒は絶対的に必要なのだ。
店主が何かを話しかけてきても、トラギコは無視を決め込んだ。
無駄に言葉を交わすことで、トラギコが正気であることを知られたくなかった。
そして、彼の声を悪戯に発することで正体が露呈するのを避けたかった。
トラギコは誰にも知られない存在であり、そしてい、誰もが酒を大量に飲んでいたと証言できるように振る舞った。
酒を飲み続け、やがて、店主はボトルとチェイサー、そしてつまみを置いて話しかけるのもやめた。
それでよかった。
話をするためにここにいるのではない。
酔うために酒を飲んでいるのでもない。
――トラギコは、酒を飲んでいる姿を見せるためにこの場にいるのだから。
警察官として、トラギコは十年以上働き続けてきた。
多くの犯罪者を見て、多くの被害者を見てきた。
多くの事件に関わり、多くの被害者と話した。
犯人を逮捕し、法律による裁きを受けさせたが、どうしてもトラギコが許せない事があった。
子供が巻き込まれ、命を奪われる事件だけは、どうしても我慢できなかったのだ。
トラギコにとって、子供とは未来そのものだった。
彼にはできない可能性の塊である子供が犯罪に手を染めれば胸を痛め、二度と繰り返させないために強烈な痛みを与えた。
子供たちは何かに縛られたり利用されたりすることなく、鳥のように自由を求めて無垢に懸命に生きてほしかった。
今回、ビンズが犯した罪と与えられる罰はまるで釣り合っていない。
あの男が生きていてこの世の中に利益は何一つとしてない。
今すぐにでも、そう、今晩にでも生きていることを後悔させなければ死んでいった子供たちが浮かばれない。
世の中には復讐や殺しで何も解決しないという人間もいるだろう。
事実、警察でも復讐については憎しみの連鎖を生むだけであるという考えが大半だ。
トラギコの意見は違う。
少なくとも、死んだ方がこの世の中のためになる人間は存在するし、憎しみの連鎖を生むことなく死ぬべき人間もいるのだ。
真面目に生きていた子供たちを犯し、殺し、それでも生き続けるべき人間などいないのだ。
今夜、トラギコはビンズを殺そうと決めていた。
殺した後に司法で裁かれ、私刑であると糾弾されたとしても、二度と同じ被害者が生まれないためにも、そして、未来を奪った男の未来を終わらせるためにも、誰かがやらなければならないのだ。
その為の下地は全て整っている。
整えるために時間を用意したのだ。
369
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:26:23 ID:1oQZzTTo0
アサピーには法整備が進んでいない点、即ち、犯行時の責任能力を加味して判決を下す個所が着手されていないことを確認した。
酒や薬の影響があれば例え殺人を犯したとしても、自首と合わせることで刑罰は格段に軽くなる。
それを証明したのは他ならぬビンズそのものだった。
この街の法律で生かされた男は、この街の法律の抜け道で殺されるのがお似合いだ。
ビンズがどのマンションに連れて行かれ、そこのセキュリティを突破する方法もドクオを通じて調べ済みだ。
ドクオの協力によって、それを邪魔する人間はいない。
判決が下されてから一切変わる事のない殺意が、トラギコの胸の中で燃え続け、どす黒い感情が心を支配している。
どのように殺すかは、最初から決めていた。
イトーイの司法解剖の結果、彼の拳に何かを殴った痕が残されていたのが分かった。
それを聞いて、ビンズは必ず殴り殺そうと心に決めた。
砕かれたイトーイの拳の代わりに、トラギコが拳を振るおうと決めた。
誰かに頼まれたからでも、誰かに理解してほしいからでもなく、奪われた者達の無念をトラギコが晴らしたいだけのために。
断じてこれは正義ではない。
そんなものは、この世の中のどこにもない。
司法は正義なのではなく、ただの秤でしかない。
トラギコはそれをはっきりと認識し、受け入れることにした。
正義など。
正義など、糞にまみれた綺麗ごとでしかないのだ。
世界の正義を名乗るジュスティア警察も、ビンズをそのままにし、法律を理由に相応の罰を受けさせようとしない。
それが正義なのであれば、正義などいらない。
一瞬でもそんなものを信じていた自分が恥ずかしいと同時に、己の無力さが憎らしかった。
犯人を逮捕し、その後に相応の罰が下るかどうかが街の裁量次第なのであれば、それは警官やトラギコでなくても出来る話だ。
民間人が捕まえて、勝手に裁かれればいい。
警察官である必要はどこにもないのだ。
彼はただ、真面目に生きている人間が馬鹿を見る世界が許せないだけであり、それを黙っていられないだけなのだ。
力が全てを変える時代だとしても、他者の人生を踏み躙って生きる人間が世界に必要なはずがない。
彼等が力で人の人生を踏み躙るのであれば、トラギコもまた、力をもって彼らを踏み躙ろう。
故に、これは純粋な復讐であり、報復であり、一点の曇りもない殺人衝動なのだ。
大義も何もなく、獣の感情の赴くまま、トラギコは人を殺すことを決めたのだ。
(,,゚Д゚)「……」
腕時計を見て、時間を確認する。
酒を飲み続けても彼の思考ははっきりとしていた。
‥…━━ 二月二十一日 午前一時 ジャーゲン 市街 ━━…‥
ビンズが護送されたマンションは、今は精神病院で廃人と化している市長の住んでいたものだった。
雪が落ち着き、黒と白の静かな夜。
トラギコは予定通りに正面入り口から堂々と侵入し、目的の部屋へと進んだ。
周囲が寝静まった夜、マンションに響くのはトラギコのブーツが固い床を踏みしめる音だけだった。
370
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:26:45 ID:1oQZzTTo0
迷わず到着し、トラギコはスペアキーを用いて部屋の扉を開いた。
土足のまま部屋の奥へと進み、リビングルームで酒を飲んでくつろぎ、ポルノ雑誌を読んでいるビンズを見た瞬間、トラギコの全身を冷たく燃える感覚が広がった。
あまりにも突然の来訪者に、暖炉の前のソファに座るビンズは面食らった様子で固まっていた。
(::゚∀゚::)「へっ?」
(,,゚Д゚)「……」
最初にトラギコが放ったのは、一切の手加減の無い後ろ回し蹴りだった。
ブーツの固い踵が正確にビンズの頬を捉え、ソファの上から彼を吹き飛ばした。
悲鳴すら上げられないまま、ビンズは食器棚に激突し、砕けたガラスと食器の破片を頭から被った。
(::゚∀゚::)「な、なん」
血塗れになった顔を踏みつけ、言葉を最後まで語らせなかった。
この男が話すことはない。
ただ、死ぬのだ。
ただただ理不尽に、トラギコに殺されるのだ。
ビンズの胸ぐらを掴み、強引に立たせる。
ふらつくビンズをそのまま反対方向に投げ飛ばし、木製のローテーブルの上に落下させた。
机にあった酒瓶とグラスが衝撃で落ち、砕け散る。
ゆっくりと歩き、トラギコはビンズに近づく。
恐怖の中で死なせ、絶望の中で殺す。
この男にはあらん限りの苦痛こそが手向けられるべきだ。
それこそが、ビンズに与えられるべき本来の罰なのだ。
(::~∀゚::)「く、来るんじゃねぇ!!」
床に落ちていた酒瓶が投げられる。
トラギコはそれを避けもしなかった。
酒瓶はトラギコの胸に当たり、虚しく床に転がった。
(::~∀゚::)「あんた、け、刑事だろ……!!
俺にこんなことして、ただで済むと思うなよ!!」
トラギコは無言のまま、足元の瓶を蹴った。
それは凄まじい勢いでビンズの頭に直進し、彼は思わず両手で顔を覆った。
そうして出来た隙を見て、トラギコは一気に距離を詰めてビンズの股間を蹴り砕いた。
ブーツの爪先が確かに肉を砕く感覚があった。
(::~д゚::)「―――っ!?!?」
その時にビンズの喉を震わせて飛び出してきた声は、屠殺場から聞こえてくる豚の悲鳴によく似ていた。
両手で股間を押さえ、ビンズがその場に崩れ落ちかけたところに、両手の上から再び股間に蹴りを入れる。
砕かれた股間を更に蹴られたビンズは泡を吹いて身を震わせた。
(,,゚Д゚)「どうだ、気持ちいいだろ?」
371
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:27:35 ID:1oQZzTTo0
この男に気絶などという甘えは許さない。
顔を潰す勢いで踏み、鼻の骨と前歯を砕いた。
(::~д゚::)「っ……なん……なんで」
(,,゚Д゚)「思い当たる節がないんなら、考えながら死ね」
再び胸倉を掴んで持ち上げ、壁に向けて投げつける。
派手な音を立ててビンズは床に落ち、壁に飾られていた絵画が衝撃で落下した。
更に、棚に置かれていた高級そうな酒瓶も落下する。
ビンズは砕けた酒瓶を掴み、立ち上がりざまに素早く突き出した。
(::~д゚::)「死ねぇぇっ!!」
(,,゚Д゚)「あっ?」
抵抗の意識が失われたと思っていたビンズの行動を見て、トラギコに出来たのは僅かに顔を傾ける事だった。
それが幸か不幸か、トラギコの命を救い、彼に傷を負わせた。
傷を負うのとほぼ同時にビンズの手首を右手で掴む。
諦めたように笑い、ビンズは手にしていた酒瓶を手放した。
酒瓶はトラギコの右頬を深々と抉り、多量の血をフローリングの床に滴らせる。
しかし、頬を切られたというのに、トラギコはまるで意に介する様子を見せなかった。
トラギコの眼はまっすぐにビンズを睨みつけている。
殺意と敵意、そして憎悪と悪意が混然一体となった眼は煉獄の炎を彷彿とさせた。
(=゚д゚)「……」
(::~д゚::)「へっ、へへっ」
体内で分泌されたアドレナリンが痛みを彼方に押しやり、意識を殺戮の一点に集中させているのだと、他人事のように理解をする。
掴んだ手首に込めた力を更に強くし、にやけながら離れようとするビンズをその場に留めさせる。
にやついた顔が、徐々に強張っていく。
(::~д゚::)「へへっ……へ」
ゆっくりと左手を広げ、人差し指から順に折り込み、最後に親指で封をする。
作り上げたのは拳。
傷の上に傷を重ね、長い月日を経て育て上げられた鉄拳。
これからビンズ・アノールを殺すための凶器。
次の瞬間、トラギコの拳はビンズの折れた鼻を更に細かく砕いた。
それを三度繰り返し、四度目のパンチの際に右手を離した。
(::~д゚::)「へぶっ!!」
後頭部を床に叩き付けられ、ビンズの頭から鈍い音が鳴る。
首を掴んで無理やりに立たせ、自立の出来ないビンズの腹に左の拳が深々と打ち込まれる。
その拳はビンズの内臓を損傷させ、彼の口から血が吐き出された。
続けて右の拳が肋骨を砕く。
372
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:28:28 ID:1oQZzTTo0
常に片方の手がビンズを支え、倒れ込むことを許さない。
内臓を徹底的に痛めつけ、合間に膝蹴りを股間に放った。
体を隅々まで破壊するというよりも、壊した部分を更に壊す。
何一つ、この男には残さない。
与えられるだけの苦痛を与え、生きていることを後悔させ、殺す。
(::~д゚::)「ゆ、ゆ」
声が聞こえる。
何を言っているのかは分からない。
だからトラギコは、彼の顔を殴って奥歯を砕いた。
(::~д#::)「ゆるっ!!」
それでもまだ何かを話そうとした為、突き上げる形で放った掌底で顎を砕いた。
数本、歯が折れた手応えがあった。
(::~д#::)「るん……っ」
まだ声が出てくるが、言葉ではなく声であればいい。
しかし、目が気に入らなかった。
トラギコに向けられる目には、慈悲をこう何かがあった。
そんなものはない。
人差し指と中指を僅かに飛び出させた拳を作り、眼球の破壊を開始した。
(::~д#::)「あがががががががが!?!?」
勿論、一撃で砕くなどと言う慈悲は見せない。
目の前で光を一つ失う貴重な体験をさせてやらなければならない。
人生でも最大で二回しか味わえない感覚だ。
狙うは左目。
瞼の上に拳を乗せ、徐々に圧を加えていく。
必至に両手で抵抗をしてくるが、トラギコの腕はびくともしない。
子供相手に猛威を振るっていた男など、この程度だ。
枯れ木のような細腕でトラギコに対抗できるはずがない。
(::~д#::)「やべ、やべでっ!!」
少しずつビンズの眼球が変形し、そして、爆ぜた。
(::~д#::)「あっ、いあっめ……!!
めえぇぇぇ!!」
耳障りな声だったが、悪い気分はしなかった。
特別良い気分になるわけでもなく、この男にも人並みの感覚と言うのが備わっていることに驚いた。
首を強く掴んだまま、彼を部屋の中央のカーペットに連れて行く。
そして床に顔から叩き付け、潰した股間を掴み、力任せに引っ張った。
373
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:29:53 ID:1oQZzTTo0
(::~д#::)「あ゛あ゛ああっ、いや……!!
いやめでぐってあ゛あ゛がガガガがあ!!
いだいのいや、いやああああああぁぁぁぁぁ!!」
肉が千切れる音が手の中からした。
必死に抵抗するビンズの背中を踏みつけ、黙らせながらトラギコは更に力を入れて陰部の破壊を行った。
両手が気絶したビンズの血で赤く染まり、それを彼の服で拭った。
(=゚д゚)「……汚ねぇ」
ようやく掴める長さに伸びていたビンズの短髪を掴み、力任せに引っ張る。
痛みで再び目覚めさせられたビンズの絶叫が響くが、叫び過ぎて喉が枯れているようだった。
頭皮ごと髪を剥ぎ取り、それを暖炉に放り投げた。
(::~д#::)「ひゅ……ひゅー」
(=゚д゚)「……」
まだ壊し足りない。
まだ殴り足りない。
まだ。
まだ!
ビンズを仰向けに蹴り転がし、馬乗りになる。
両手で拳を作り、当初の予定通りの行動を始めた。
即ち、拳による徹底的な破壊と暴力である。
(::~д#::)「シプッ!!」
肉を叩く音と骨が折れる音。
血が飛び散り、床に落ちる音。
殴った衝撃で潰れた眼球が飛び出し、床に落ちる。
死なないように加減をしながらも、殴打の嵐は続いた。
命乞いの声はいらない。
謝罪の言葉はいらない。
改心と服従を誓う言葉もいらない。
欲しいのは、この男の惨たらしい死だけだ。
この男に語るべき言葉はない。
手向けの言葉などいらない。
いるのは苦痛。
死を望むほどの苦痛を味あわせ、苦痛の中で死を迎えさせる。
――そのはずだった。
背中に突き刺さった電極が、トラギコの計画を全て破産させた。
体に流された電流がトラギコの四肢から力を奪い、ビンズの上から転げ落ちた。
(;=゚д゚)「どがっ!?」
374
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:31:08 ID:1oQZzTTo0
('A`)「ふぅ、間に合ったな。
背中ががら空きだ、誰かに不意を突かれないように気を付けろよ」
その声は、ドクオ・マーシィの物だった。
どうして外にいるはずの彼がここに来ているのか。
ビンズを殺すのを、どうして今になって邪魔してくるのか。
トラギコの頭の中に浮かぶ疑問を察したのか、ドクオがニコリともせずに答えた。
('A`)「なぁ、忘れてないか?
俺は悪徳警官なんだぜ。
今さらお前を撃つのを躊躇うかよ」
(;=゚д゚)「て……めぇ……!!」
('A`)「おいおい、そんなこと言うなよ。
寂しさで切なくなっちまうだろ」
トラギコの服を掴み、ドクオは部屋の隅まで引き摺って行く。
ジュスティアで採用されているテーザー銃よりも強力に改造した物を使っているのか、電流が一定間隔で流され続けている。
撃ち込まれてから最低でも五分はこの状態が続くだろう。
文句を言う事もまともにできない事よりも、ドクオの行動を理解できない事が頭を支配していた。
('A`)「しっかしまた、随分とボコボコにしたな。
あと少しで死ぬところだったぞ」
床に着いた顔が持ち上げられない。
あと一歩のところまで追いつめていたのに、ドクオの手によってそれが中断された。
再び誰かに買収されたのか、それとも別の思惑があるのか。
拳を握り固めることも出来ないまま、トラギコはドクオが何をするのか見届けるしかなかった。
('A`)「なぁ、トラギコ。
俺はお前に一つ嘘を言ってた。
俺な、離婚したんだよ。
だから今は、独身男ってわけだ」
それがどうした、とトラギコは目で問う。
独身だから人の覚悟をあざ笑っていい理由にはならない。
トラギコの行いを邪魔する理由にはならない。
('A`)「犯罪者の嫁と子供なんて、あまりにも可哀想だからな。
ジュスティアに行かせて、それから離婚したんだ。
どうして俺が離婚しなきゃならないのか、お前なら分かるだろ」
ドクオが拳を握り固める。
その目は紛れもなく――
('A`)「糞ったれな俺のせいだよ」
――正気のままの、ドクオのそれだった。
375
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:32:05 ID:1oQZzTTo0
('A`)「言っただろ。
ケリをつけるってな。
悪いな、トラギコ。
お前をここで止まらせるわけにはいかねぇんだ」
そしてドクオの眼が、瀕死のビンズに向けられる。
('A`)「お前は進め。
ビロードの分も。
ハシュマルの分も。
イトーイの分も、前に進んで来い」
ビンズに跨り、ドクオはその拳を振り下ろした。
トラギコとは違い、痛みを与え続けるための殴打ではなく、殺すための殴打だった。
('A`)「俺はここまでだ。
この糞をここまで野放しにする片棒を担いだ後始末は俺がする。
何もかも、俺が背負ってやる。
こいつは俺が殺す。俺が殺して、俺が責任を取る」
何と自分勝手な意見だろうか。
何と自分本位な言葉だろうか。
それを誰かに担わせるのが嫌だから、自分がこうして殺しに来たのに。
これは義務でも正義感でもなく、トラギコが気に入らないからというだけの物なのだ。
('A`)「このマンションに入る姿を見られたのは俺だけだ。
つまり、この男を殺したとしたら、状況的に犯人は一人に絞られる。
自首をしても誰も何も疑わないさ」
有給を出したのは、警官としてこの件を終わらせない為。
その為に、今日まで準備をしてきたのだ。
それを、ドクオの身勝手な自己満足のために台無しにされては意味がない。
('A`)「……お前が酒を飲んで責任能力の抜け道を使おうとしてるのは分かってた」
僅かに聞こえていたビンズの呻き声が完全に聞こえなくなった。
ドクオは依然として殴り続けているが、ビンズの反応は手足が微かに動くぐらいだ。
('A`)「だけどな」
ドクオはゆっくりと立ちあがり、呼吸の止まったビンズの顔を何度も踏みつけた。
骨が砕け、肉が潰れ、血が飛び散る。
最後に一際強く踏みつけ、ビンズの首が音を立てて折れた。
('A`)「それじゃあ、お前が救われねぇ。
この街を変えたお前が救われないなんてのは、俺が許さない。
こんな屑とお前とじゃあ、天秤が合わねぇ」
(;=゚д゚)「この……馬鹿っ……」
376
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:33:30 ID:1oQZzTTo0
('A`)「ああ、馬鹿さ。大馬鹿者さ。
この歳にもなってまだ、俺は信じたいのさ。
正義の味方ってやつを」
正義。
そんなもの、この世界のどこにもない。
取り繕われただけのそんなものは、ただの綺麗事でしかない。
('A`)「俺が信じるのは、お前の正義だ。
他の誰かが決めた正義じゃなくて、獣じみたお前の正義を俺は信じたいのさ。
お前がそんなものを知った事かと言おうが、それでもかまわない。
ここでお前が警官をクビになれば、救えるはずもの物が救えなくなる。
いいか、お前にしか救えない人間がこの世界には沢山いるんだ」
ドクオの信用は最早信仰に近いものがあった。
どうしてここまで盲目的にまで信仰できるのか、まるで分からない。
以前から確かにドクオがトラギコに対してそういった感情を持っているのは分かっていた。
誰かに尊敬されるような人間でないというのに、どうしてこういう輩は後を絶たないのだろうか。
('A`)「ビロードがな、調べてたんだよ。
難事件専門の派遣型警官について。
お前と一緒に出来ないかどうかの問い合わせをして、解答待ちだった一件だ。
解答内容については局長に訊くんだな。
常駐型はその街の法律に従うが、派遣型は特別な権限を持ってる。
こういう屑を殺しても責任を問われないって権限もあるんだ。
悪くない話だろ」
死体となったビンズの顔を、ドクオは強く踏みながらそう言った。
口だった穴からドロドロとした赤黒い液体に混ざり、白い歯の欠片が流れ出てきた。
(;=゚д゚)「……」
('A`)「分かるか? お前はお前の正義を、誰にかに邪魔されずに貫けるんだよ。
その為にはここでお前が処分を受ける訳にはいかないんだ」
(;=゚д゚)「どうして……」
('A`)「さっきも言っただろ? お前にしか救えない人間がいるんだ。
お前と仕事をした人間はそれをよく分かってる。
ジョルジュ・マグナーニだって、そういう役割を担っているからクビにならないんだ」
それは、“汚れ人”の渾名を持ち、ジュスティア警察の異端児として知られる警官の名前だ。
そう何度も仕事を共にしたことはないが、彼の在り方は、今のトラギコに酷似していた。
(;=゚д゚)「ふざけんなよ、手前」
377
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:34:03 ID:1oQZzTTo0
ようやくテーザーの電流から解放されたトラギコは、ドクオの気遣いの全てを拒否した。
彼が何を言おうと、彼がトラギコを何と重ねて見ているのかなど関係ない。
このままではトラギコはただの道化と化す。
これはトラギコが始めたことだ。
トラギコが始めて、トラギコが終わらせるべき案件なのだ。
これは彼の事件であり、彼が幕を引かなければならない。
硬直が解けた筋肉を動かし、どうにか立ち上がる。
(;=゚д゚)「俺は正義の味方なんかになるつもりはねぇラギ。
勝手にお前の正義を押し付けるんじゃねぇよ」
それを聞いたドクオは悲しそうな顔を浮かべ、微笑んだ。
('A`)「……お前ともっと話をしたいが、そろそろ時間だ」
部屋の扉が開き、冷たい風と共に警官が入ってきた。
まだ若い顔立ちをしており、派遣されて間もない新人であることが分かる。
「通報を受けてきたのですが、これは一体……」
('A`)「ビンズ・アノールを俺が殺した。
こっちのトラギコが邪魔をしようとして来たからテーザーで黙らせた。
こんな風にな」
そして二度目のテーザーによる電撃で、トラギコは意識を失った。
‥…━━ 二月二十五日 午前十一時 ジュスティア ━━…‥
ジャーゲンで起きたビンズ・アノール=クリント・アルジェント・リンクスを巡る事件の結末は、警察内で大きな波紋を生んだ。
彼を殺害したのはドクオだが、それに至るまでに暴行を加えたのはトラギコという構図が問題だった。
上層部は二人の警官が一人の男を死に至らしめた事は間違っても世間に公表できるものではないと判断し、警察は全ての責任をトラギコに押し付ける形にした。
世間に向けて公表されたのは、ビンズを殺害したのはトラギコであり、ビンズが再び女児に危害を加える可能性が高かったためということにした。
クリント・アルジェント・リンクスの名を取り、ジャーゲンで起きた彼に関する一連の事件はCAL21号事件と名付けられることになった。
マスコミも含め、世論はトラギコの行動を非難しなかった。
所謂ダークヒーローとして彼の行動に賛同し、処分をしないよう求める声が多数挙がった。
目論見通りの展開となり、ジュスティアはトラギコをクビにしないで引き続き警官として働かせることを公表した。
こうしてトラギコの悪名はより一層広まり、犯罪者たちは彼の名前に畏敬の念を抱くようになった。
だがそれは対外的な物であり、実際には事件に関わった人間を処罰しなければならないのが組織というものだ。
更に言うならば、警察内でのトラギコに対する評価は世論とは真逆だった。
内々で事件の責任を取ることになったのは、直接的にビンズを殺害したドクオだった。
経緯と理由はどうあれ、ドクオが最終的に殺害したということで無期懲役の判決――本人の希望――を受け、ジュスティアにある刑務所に収監された。
そしてCAL21号事件を巡るトラギコの処遇について弁護をしたのは、意外にもフェニックス・ライトだった。
彼はラブラドール・セントジョーンズの依頼を受けて法廷に立ち、警察を相手に弁舌をふるい、その結果が今日言い渡されることになっていた。
局長室に呼び出されたトラギコの前に座るセントジョーンズは落ち着き払い、コーヒーを口に含んだ。
378
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:34:23 ID:1oQZzTTo0
部屋にあった彼の私物が全て一つのダンボールに収められている事を除けば、全てが普段と同じ光景だった。
ゆっくりとコーヒーを味わい、嚥下してからセントジョーンズは天気の話でもするような軽い口調で会話を始めた。
(’e’)「頬の傷は大丈夫なのか?」
ビンズに投げつけられた瓶による切創は思いのほか深く、トラギコの右頬にははっきりとその痕が残っている。
医者によれば整形手術をすれば残るとの事だったが、トラギコは隠す必要性を感じられなかったため、それを拒絶した。
(=゚д゚)「えぇ、まぁ」
(’e’)「そうか。それでお前の処遇だが、結論から言おう。
転属だ」
己の処遇については、ある程度予想はしていた。
ドクオが責任を負った為、トラギコは懲戒免職以外の処分が下ることになる。
今でも彼の行動に納得はしていないが、結果としてこのような形となっている以上は受け入れる他ない。
ここで文句を言っても結論はすでに出ており、何かが変わることはない。
自ら退職をするという選択肢は最初から無く、ドクオの言っていた通り、トラギコはこのまま進み続けるしか道はなかった。
進む道がどうなるのか、それだけが気がかりだった。
地方か、あるいは用務か。
備品庫でマックス・ベンダーと仕事をすることになるかもしれない。
(’e’)「地方本部がいよいよ本格始動する。
西側沿岸を管轄にする本部に転属し、難事件解決担当部署――モスカウ――に配属される。
モスカウは知ってるだろ?
よかったな、お前にぴったりの部署だぞ」
前から話に聞いていた地方本部構想が遂に動くということは、今朝、ジュスティアにいる警官全員に周知されていた。
世界中にある署とは別に、それぞれの街と街を繋ぐ地点に地方本部を設置し、ジュスティアから専門部隊が派遣されずとも迅速な対応が出来るようになる。
従来とは異なり、辺境の地にある町でも他と同じように部隊が短時間で送られてくることになり、治安維持が格段に容易になるのだ。
そして派遣型の勤務体系を取ることになるトラギコは街に所属するのではなく、ジュスティアの法律が適応される地方本部に所属することになる。
つまり、これまでと違って街の法律に縛られることはなくなり、今回のような事件が起きたとしても法律の壁に悩まされることはなくなる。
ビロードが調べていた一件の許可が下りたという事だろう。
(=゚д゚)「……あんたはどうなるラギ?」
(’e’)「俺か? 俺は転属なんかしないさ」
(=゚д゚)「違う、その荷物のことラギ」
(’e’)「書類整理さ」
明らかな嘘に、トラギコは声を低くして言った。
(=゚д゚)「殴る前提で話をさせてもらうラギ。
辞職するつもりラギか?」
(’e’)「安心しろ、定年だ」
379
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:35:23 ID:1oQZzTTo0
(=゚д゚)「あんたまだ定年って歳じゃねぇラギ。
正直に言ってくれよ」
(’e’)「いいか、覚えておけ。
部下の失敗は上司の物で、上司の成功は部下の物だ。
上司って言うのはな、そういう生き物なんだよ」
(=゚д゚)「つまり、どういうことラギ?」
セントジョーンズは小さな溜息を吐いた。
物分りの悪い生徒に呆れる教師のような仕草だったが、嫌味は感じなかった。
(’e’)「俺は時々、お前が羨ましくて仕方なかったんだ。
誰よりも警官らしいくせに、警官らしくない事をするお前が。
だからその未来に賭けさせてもらうことにしただけさ。
俺の首を一つ追加して事が収まるんなら、安い物さ」
それはつまり、トラギコの起こした問題の責任をセントジョーンズも取ったという事だ。
二人の警官を犠牲にしてまで、トラギコに何をさせようというのだろうか。
嫌な予感がトラギコの脳裏をよぎる。
(=゚д゚)「……」
(’e’)「ドクオと話をしてな、意見が一致したのさ。
お前は、絶対に警官を続けるべきだ。
そして一か所に留まらず、自由に捜査をするべきだってな」
どうして、ドクオもセントジョーンズも、トラギコをそんな目で見るのだろう。
規則を破り、暴れまわる人間に期待をするなど、正気ではない。
少なくとも真っ当な警官であれば、そんな事は決してしない。
信仰は自由だが、人間相手の信仰は盲信と同義であり、歓迎するのはかなり無理がある。
(=゚д゚)「俺は、あんたらが思ってるような人間じゃねぇラギ。
勝手に変な期待をされても迷惑なだけラギ」
だがセントジョーンズは静かに、そして、ゆっくりと首を横に振りながら言った。
(’e’)「お前は、正義の味方でも英雄でもない。
弱者の希望なんだよ、お前は。
弱者にとっての希望って言うのは、つまり、彼らにとっての正義なのさ。
荒々しかろうが暴力的だろうが、その時に縋りたい存在がお前なんだ」
そんなもの、目指した覚えはない。
なった覚えもなければ、聞いた覚えもない。
考えが顔に出ていたのか、それとも察されたのか、セントジョーンズは続けた。
(’e’)「望もうが望むまいが、お前はそういう人間なんだよ。
現にお前は、警官を辞められない。
どれだけ自分が酷い目に遭っても、それ以上に他の人間がそうなることが許せないからだ。
辞められない以上、そう在り続けるしかないんだ」
380
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:36:42 ID:1oQZzTTo0
(=゚д゚)「……人の人生、勝手に決めるんじゃねぇラギ」
(’e’)「そうだな、お前の人生だ。
お前が好きに歩めばいい。
だから俺もドクオも、好きに歩かせてもらっただけだ」
(=゚д゚)「そうかよ」
(’e’)「あぁ、そうだよ。
っと、そうだ。お前がモスカウに所属することになったは、俺の力じゃないからな。
ビロードの依頼があったから上が動いたんだ。
あいつが殺される前に本部に問い合わせがあって、上層部があいつの意志を汲んでやろうってな」
(=゚д゚)「……あいつのおかげ、か」
彼に慕われるような事をした記憶がない。
それでも、ビロードがそれを最後に望んでいたのであれば、無碍にすることは出来ない。
最後の贈り物として受け取るしかないだろう。
(’e’)「そんなところだ。さて、有給が残ってるところ悪いが、早速明日から仕事に戻ってもらうことになる。
まずはマックスのところに行って、受け取る物を受け取って、それからエライジャクレイグで出発しろ。
モスカウから迎えが来る予定になってるから、明日の九時に駅に荷物をまとめておけよ。
有給は自主研修ってことで消費するそうだ」
トラギコは瞼を降ろした。
気持ちの整理はもう出来ていた。
ビロード、ドクオ、そしてセントジョーンズ。
彼等の期待は無視し、ただ、自分の為だけにこの転属を受け入れる。
この世に正義が無いのであれば、せめて、獣であり続けよう。
力が全てを変える時代だからこそ、力を振りかざす獣として、犯罪者を襲おう。
そしてビンズを殺さなかったことで、トラギコの手で救う人間が一人でも増えるのであれば、この結末を受け入れる価値がある。
いつの日か、命が燃え尽きるその瞬間にその答えが分かるはずだ。
それまでは獣のように生き、貪欲に事件を追い求めよう。
事件を貪り、犯罪者たちにとっての恐怖で在り続けよう。
瞼を降ろしている間の二秒で覚悟を決め、瞼を開いた。
(=゚д゚)「分かったラギ」
これが、CAL21号事件と呼ばれる事件の終幕。
そして、トラギコ・マウンテンライトの新たな一歩となる瞬間だった――
‥…━━ 二月二十六日 午前九時 ジュスティア駅前 ━━…‥
ジュスティア上空を薄く覆う灰色の雲が風に流され、時折青空の欠片が見える。
マックスから受け取った餞別代りの銀色のアタッシェケースを手に、トラギコは駅前に立ち、静かに待っていた。
迎えに来る人間の特徴は聞いていないが、向こうがトラギコの事を認識すれば問題はない。
駅を利用する人間は少なく、人の数はこの時間でもまばらだ。
381
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:38:22 ID:1oQZzTTo0
白い息を吐き、腕時計に目をやろうとした時だった。
(´・ω・`)「やぁ、トラギコ・マウンテンライトだね?」
ニット帽とマフラーを巻き、コートを着た男がトラギコの前に現れた。
服の上からでも分かる大きな体つきは、彼が並の人間ではない事を物語っている。
(=゚д゚)「そういうあんたは?」
(´・ω・`)「ショボン・パドローネ、ショボンでいいよ。
君の事はトラギコ君、と呼ばせてもらうよ。
話には聞いていたが、なるほど、元気がよさそうだね」
手袋を外し、ショボンが右手を差し出してきた。
上着のポケットから手を出し、軽く握手を交わす。
瞬間的に強く握られた為、トラギコは力を入れて握り返した。
(=゚д゚)「……よろしくお願いしますラギ」
(´・ω・`)「へぇ、いい体をしているね。
これは期待できそうだ」
ショボンはトラギコの肩周りや腰に手を当て、その硬さを確かめた。
(=゚д゚)「俺にその毛は無いラギよ」
(´・ω・`)「はははっ、冗談だよ。
僕らの仕事は体力がいるからね、安心した。
……あの二人は知り合いかな?」
ショボンの指さす方向には、二人の少女が立っていた。
まだ幼い顔つきの二人の少女は女性警官に付き添われ、トラギコの方に歩み寄ってくる。
( '-')「おじさん、トラギコさん?」
(=゚д゚)「あ、あぁ、そうだが?」
( '-')「あのね、これ、どうぞ」
∞
( '-')「どうぞ、なの」
二人の少女に渡されたのは、白い花束だった。
思わず屈んでそれを受け取る。
花の良し悪しは勿論、種類もまるで分からない。
果たしてこの花束は何のための花束なのだろうか。
( '-')「プリンセチアって、お花なの」
(=゚д゚)「そうか、ありがとうよ」
382
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:39:48 ID:1oQZzTTo0
その花が何を意味するのかはよく分からないが、知らなくても問題はないだろう。
問題があるとしたら、この花が何を目的として渡されたのか、である。
∞
( '-')「ううん、私達がありがとう」
(=゚д゚)「え?」
未だに事態を理解できていない事を察し、傍にいた婦警がトラギコに耳打ちした。
「ブルーハーツ出身の二人です。
あれからジュスティアの施設で保護されることになったんです」
(=゚д゚)「……そうか」
ブルーハーツ児童養護施設で生き残った三人の内の二人。
アサピーが追う事の出来た二人だ。
あのままジャーゲンにいたら事態は悪化したかもしれないが、こうしてジュスティアに来たのであれば、少なくとも環境が悪くなることはないだろう。
彼女達の名前は知らないが、何はともあれ、元気そうで何よりだった。
( '-')「イトーイね、私達を助けてくれたの」
∞
( '-')「悪い人をやっつけてくれて、きっとイトーイ、喜んでるから」
( '-')「だから、おじさん、ありがとう」
(=゚д゚)「……そ、そうラギか」
胸が痛い。
この痛みは、苦痛ではなく、心地よささえ感じる痛みだ。
これが何の痛みなのか、トラギコは知らなかった。
∞
( '-')「私達、将来お花屋さんになりたいの。
だからこれ、私達が作ったの」
( '-')「すごいでしょ」
(=゚д゚)「ああ、すごいな。
凄く、良い花束ラギね」
嗚呼、とトラギコは気付いた。
これは、この痛みは、喜びだ。
イトーイの努力が、ビロードの努力が、トラギコの努力が無駄ではなかったことをこの子供たちが示している。
それだけでトラギコは報われたのだ。
383
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:41:57 ID:1oQZzTTo0
助けた人間の名前など重要ではない。
重要なのは、助けた後にその人間がどうなるか、だ。
この子供たちはあれだけの目に遭いながらも、夢を見つけたのだ。
それが何よりも嬉しく、何よりもトラギコの心に響いた。
( '-')「おじさん、これからも元気で頑張ってね」
もしも。
もしもこの時、空の雲が晴れ、青空が頭上に広がらず。
もしもこの時、青空を背に輝く太陽の光が差し込まなければ。
思わず誰もが見上げるような見事な空が現れなければ。
(= д )
虎の流した一筋の涙に、きっと、誰かが気付いたことだろう。
立ち上がりながらさりげなく目元をぬぐい、トラギコは二人の頭を撫でた。
(=うд゚)「お前達も元気でな」
子供たちは夢を追い、今日を生きていく。
彼女達が安心して夢を追える世界であるよう、トラギコは前へと進む。
この手が汚れても構わない。
それで誰かを救えるのならば、何度でも汚れて見せよう。
受け取った白い花束を胸に、虎は新たな地へと向かうのであった――
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(=゚д゚)夢鳥花虎のようです
ED テーマ
https://www.youtube.com/watch?v=RFNbKy-w-ug
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384
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:42:55 ID:1oQZzTTo0
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385
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:46:02 ID:1oQZzTTo0
‥…━━ 十五年後 某日 某所 ━━…‥
西側沿岸部を対象とする警察本部は湾岸都市オセアンから北西に30キロほどの位置にあった。
本部には長期にわたる仕事と夜勤を考慮し、仮眠所を兼ねた休憩部屋がいくつもあった。
小さな休憩部屋に置かれたベッドの上で仮眠を取り、昔の夢を見ていたトラギコ・マウンテンライトは起き上がり、大きな欠伸をした。
(=゚д゚)「ふぁぁっ……」
CAL21号事件はトラギコにとって、一つの教訓であり、忌々しい思い出だった。
以降、トラギコは難事件の解決に躍起になり、多くの犯罪者を逮捕・殺害してきた。
何度も注意を受けるも、トラギコは在り方を変えるつもりはなかった。
その結果が年間休日10日というもので、有給はモスカウに配属されてから一度も使っていない。
昨夜も一つの事件を解決し、ようやく仮眠をすることが出来た。
どれだけトラギコが犯罪者たちを懲らしめようとも、凶悪な犯罪が無くなることはなかった。
だが犯罪が無くなりはしなかったが、トラギコが救う人間も無くなることはなかった。
あれから毎年、ビロードの命日にはジュスティアの花屋に電話をし、墓に供える花を用意するように頼んでいる。
あの二人は無事にジュスティアで花屋を営み、夢を叶えていた。
トラギコが墓参りに行けない時は、花屋の二人がビロードの墓に花を供えた。
(=゚д゚)「ねみぃ……」
寝覚めのコーヒーを備え付けのポットから紙コップに注ぎ、喉に流し込む。
十五年の歳月は多くの事を変えた。
ショボンもジョルジュも退職し、ドクオは獄中で心臓発作を起こしてあっけなく死んだ。
アサピーはCAL21号事件が起きた翌年に新たなスクープを追い求め、とある人身売買組織への潜入取材を最後に行方不明となっている。
セントジョーンズは銀行強盗に遭遇し、人質を逃がすために犠牲となって殺された。
CAL21号事件に関係していた人間で現役なのは、もう、トラギコ一人になっていた。
重い足取りで休憩部屋を出て、モスカウ部署に向かった。
部屋に入るとすぐに、ヘッドセットを付け、電話の応対をしていた上司がトラギコを呼び止める。
从´_ゝ从「おうトラギコ、起きたか」
(=゚д゚)「あぁ、何かあったのか?」
从´_ゝ从「オセアンで事件だ。どうだ、行けるか?」
オセアンと言えばかなりの都市だ。
交易で栄え、インフラはかなり先進的な物が揃っている。
配属されている警官達はそれなりにベテランが多いと思うのだが、と言おうとしたがそれを察知した上司が先に口を挟んだ。
从´_ゝ从「ログーラン・ビルで銃撃戦やら爆発やら、とにかく滅茶苦茶らしい。
一筋縄じゃ行かなそうな事件で、長期化が予想される。
前の日には結構な銃撃戦もあったみたいだし、こいつは離れしてないと無理だ」
(=゚д゚)「……ちょっと興味が湧いたラギ」
从´_ゝ从「オーケー、そうこなくちゃ」
386
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:47:23 ID:1oQZzTTo0
警官として生きていく以上、いつ命がなくなっても不思議ではない。
セントジョーンズがそうであったように、この世界にはまだ多くの危険が潜んでいる。
特に、自ら進んで犯罪に関わろうとする人間は恨みを買う事が多い。
モスカウ所属の人間は特に恨みを買うため、布団の上で死ぬことが出来れば御の字とさえ言われている。
オセアンで起きたという事件、果たして、どのような組織が関わっているのか。
大規模な組織であれば潰し甲斐がある。
そこから芋ずる式に組織の細胞を摘発し、壊滅させれば犯罪者の数がかなり減らせるはずだ。
从´_ゝ从「ところで、一つ質問してもいいか?」
(=゚д゚)「何ラギ?」
从´_ゝ从「俺が言うのもなんだが、この仕事、よく続けられるな」
これまでに何度も聞いてきた言葉だった。
これだけ危険な仕事でありながら給料は安く、組織内でトラギコに対する風当たりは強い。
未だにCAL21号事件でのトラギコの行いは蛮行だと言い伝えられ、新人の警官でさえトラギコは暴力警官であるという認識を抱いている。
それ自体はまるで構わないが、何も知らない人間にあの事件を語られることだけは許せなかった。
あの事件を語っていいのはトラギコと、そしてビロードだけなのだ。
他の誰にもあの事件は理解されないし、理解してもらいたいとも思わない。
裁判で声を上げ、法律に対して唾を吐き捨てた人間にしか分からないのだ。
気持ちのいい環境ではないが、仕事はこれからも続けていくだろう。
今まで多くの事件を担当し、そして、トラギコはその答えを早い段階から見つけていた。
これは、とても簡単な話なのだ。
どれだけ理不尽な目に遭っても。
どれだけ納得のいかない事があったとしても、この仕事から手を引くことは考えられない。
何故ならこれは――
(=゚д゚)「――これが俺の天職なんだよ」
そして、虎と呼ばれた男は再び歩き出す。
新たな事件を求め、歩き続けるのであった――
(=゚д゚)夢鳥花虎のようです The End
387
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 18:47:51 ID:1oQZzTTo0
これで本作品は終了となります
質問、指摘、感想などあれば幸いです
388
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 19:05:11 ID:C44QNXkI0
乙です
トラギコの涙で俺も泣いた
389
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 20:57:12 ID:M8qDW/S.0
乙!
390
:
名無しさん
:2018/12/16(日) 22:14:38 ID:/azRlEX60
乙乙
ここからトラギコとデレシアたちと関わり、Timberlandをはじめ、力が世界を動かす時代の渦にのまれていくのか。
作中のセントジョーンズが良いキャラしてて楽しめました。
作中で行方しれずになってるのはワタナベと予想してて、トラギコが何時気づくのか楽しみです
391
:
名無しさん
:2018/12/17(月) 02:40:25 ID:DIUtlLCQ0
乙です、素晴らしかったです。
すべてのシーンが映像で浮かんできました。
392
:
名無しさん
:2018/12/17(月) 05:12:11 ID:dEaiduAI0
おつ 感動した
展開も熱くて面白かった
393
:
名無しさん
:2018/12/17(月) 14:40:58 ID:q7flJSVw0
くっそ面白かった
394
:
名無しさん
:2018/12/17(月) 18:05:50 ID:JdffcN/s0
おつ
警察連中が熱すぎて後半たまらんかったわ
今回棺桶全く使ってないけどいつ手に入れるのかな?
395
:
名無しさん
:2018/12/17(月) 20:52:06 ID:yKhkRNrw0
銀色のアタッシュケースがどこかで出てきたな
396
:
名無しさん
:2018/12/17(月) 22:42:48 ID:DPbOzefU0
‥…━━ 二月二十六日 午前九時 ジュスティア駅前 ━━…‥
ジュスティア上空を薄く覆う灰色の雲が風に流され、時折青空の欠片が見える。
マックスから受け取った餞別代りの銀色のアタッシェケースを手に、トラギコは駅前に立ち、静かに待っていた。
迎えに来る人間の特徴は聞いていないが、向こうがトラギコの事を認識すれば問題はない。
駅を利用する人間は少なく、人の数はこの時間でもまばらだ。
397
:
名無しさん
:2019/01/05(土) 00:57:35 ID:hNYta5Ek0
警官になると同時に手に入れたとか思ってたけどそんな長くなかったんだな
398
:
名無しさん
:2019/01/05(土) 08:13:35 ID:JMgNNDyE0
>>396
よく見たらアタッシェケースだな
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