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(=゚д゚)夢鳥花虎のようです

1名無しさん:2018/05/07(月) 19:17:44 ID:APzuzb/k0
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序章【それは白い夜に】

                  無慈悲であり、残虐にして非道。
               そして、極めて人道的な殺人事件である。

                                  ――モーニングスター新聞より抜粋
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

凍えるような白い風が吹き荒れるその日、ジャーゲンの街は朝から記録的な大雪に見舞われていた。

朝から続く吹雪は街をすっかり白に染め上げ、立ち並ぶ世界屈指の高層ビル群の明かりもまるで見えず、白い夜が訪れていた。
二十センチを超える積雪量は過去五十年で初めての事で、それに慣れていない人間や企業は大慌てだった。
地下鉄を除く交通機関は軒並み麻痺し、街は静かに降り積もる雪に喧騒さえも支配されていた。
この光景に声を上げて喜ぶのは子供たちばかりで、大人たちは皆声を出す代わりに白い息と共に不満を吐き出した。

( ^ω^)「わーい! 雪だおー!」

ξ*゚⊿゚)ξ「すごーい! しろーい!」

ミセ#゚-゚)リ =3 「はあ゛ぁ……」

ビルの眼下に広がる絶望的な光景を見て、会社勤めの人間はサービス残業せざるを得なくなった。
そういう意味では、会社側としては金を払わずして仕事をしてもらえるのだから、嬉しい展開と言えた。
電車もバスも動きを止まった街で、仕事を終えて帰宅する人々は雪をかき分けるようにして歩き、これ以上雪が積もる前に家路を急いだ。
小さな街灯が月の代わりに空中を漂う雪の姿を幻想的に照らし出していたが、その光景は下を向いて歩く人々の目には映らなかった。

この豪雪の中で歩く人間にとっては、風情などまるで関係のないものでしかない。

――雪が音を立てて降り積もる。

悪天候の影響でジャーゲンの街にあるほぼ全ての店はシャッターを下ろしていたが、一部の店はその扉を解放して一人でも多くの客を中に招き入れようとしていた。
寒さと雪から逃げるようにして飲食店にやってくる客は当初の見込みよりも少なく、店員たちは刻一刻と積もっていく雪を見ては己の不運を嘆いた。
これで、ほぼ確実に彼らは予定の時間を過ぎたところで家路につくことが出来ないし、交代の人間と入れ替わることも出来ない。
ミイラ取りがミイラになるとはこの事だ。

しかもこういった日に来る客は大体が雪の影響で帰宅困難となった人間であり、店に金を落としていくというよりも、暖房の効いた店で時間を潰す迷惑なホームレスと大差はなくなってしまう。
コーヒー一杯で既に三時間以上も居座り、店内に流れるラジオに耳を傾けている振りをしつつ眠る人間もいた。
そう言った客を無碍に追い出すことも出来ない客入り具合であるため、店員たちは早く時間が過ぎて雪が落ち着くことを切に願った。

( ´∀`)「……流石に冷えますモナね」

(,, Д )「……」

(;´∀`)「……」

中には風変わりな客もいた。

350名無しさん:2018/12/04(火) 20:30:10 ID:WhPiRl9E0
最初に殺されてたやつって股間やられてたよな

351名無しさん:2018/12/04(火) 21:51:17 ID:mxVZhWhs0
こっからトラギコが変わるのかな?
どうなるのかほんと楽しみ

352名無しさん:2018/12/05(水) 14:39:08 ID:kJZMXnSg0
こういう前日譚っていいよな

353名無しさん:2018/12/12(水) 20:57:53 ID:pUtW86Zs0
上手いけば今週の土日のどちらかで投下するつもりですたい

354名無しさん:2018/12/13(木) 20:24:40 ID:WMBYiJ/M0
土曜日にVIPでお会いしましょう

355名無しさん:2018/12/13(木) 21:55:35 ID:B01ks5oo0
待ってる

356名無しさん:2018/12/14(金) 00:13:15 ID:MY1aWWPk0
楽しみ

357名無しさん:2018/12/14(金) 15:44:44 ID:vyHcGwxQ0
やったぜ。

358名無しさん:2018/12/14(金) 19:15:40 ID:ajXRm4gs0
これは期隊

359名無しさん:2018/12/15(土) 08:31:43 ID:/wCLljAk0
楽しみ!

360名無しさん:2018/12/16(日) 18:20:25 ID:1oQZzTTo0
終章『鳥には夢を、虎には白い花束を』

二月二十日、朝のジュスティアは大粒の雨に見舞われていた。
氷のように冷たい雨が街に降り注ぎ、人々の足を重くし、黒い空が陰鬱な雰囲気を街にもたらしている。
傘をさして歩く人々を見下ろしながら、ラブラドール・セントジョーンズは想いを別の場所に馳せていた。
局長として彼が抱えている業務のほとんどはすでに手配を終え、彼が主導で行う事はあまり残されていない。

机の上に置かれたカップには冷めきった紅茶が手つかずのままで、すでに一時間が経過していた。

(’e’)「……ふむぅ」

彼が考えているのは、半年の有給を申請したトラギコ・マウンテンライトの動向だった。
トラギコは確かに感情的になりやすく、行動でそれを表す人間だ。
十二月に起きたジャーゲンの事件をきっかけに、彼とは連絡が取れなくなっている。
所属は今でもジャーゲン警察ということになっているが、彼が職場に戻ったという報告も、その後の動向についての報告もない。

最後に見たのは裁判所で激昂した姿だった。
あの後セントジョーンズは翌日に控えていたサナエ・ストロガノフの処分についての報告書をまとめる為、宿泊先のホテルに戻っていた。
ホテルで報告書を書き進め、サナエの行いは警察官として、そして仮にもジュスティアの代表としてジャーゲンの治安を維持する人間のするそれではない、と締めくくった。
そして翌朝、サナエは死体で発見され、その写真が新聞の一面を飾った。

それだけでなく、かなり挑発的な一文が新聞に記載されていた為、一部の新聞はジュスティアで回収されることになった。
流石に警察官の汚職と事件の隠ぺい工作、更には脅迫などが一度の裁判で公表されたことで、一気にジュスティア警察への信用が揺るぐことが危惧されたからである。
焼け石に水と言うものであったが、ジュスティア市長と警察の高官たちは皆その新聞を街から全て一掃した。
だが翌日には新たな展開があり、再びジュスティアは火消に注力することになる。

ビンズの判決が懲役三年から事実上、無罪に減刑されたのである。
懲役三年が言い渡されたビンズではあるが、彼が未成年であること、そして仮に彼が己の罪を償いたいという態度を示した場合、ほぼ無罪として処理できるのだ。
事実、判決が下された翌日、ビンズは生きて子供たちへの償いをしたいと宣言し、尚且つ精神判定の結果を突きつけることでその権利を勝ち取った。
こうしてビンズは“更生の余地あり”と見なされ、懲役三年は要観察、というものへと変わった。

検察側はこれ以上この事件に触れる必要がなくなったため、その結果は受け入れられた。
従来の法律通り、ビンズは書類や登録情報の変更などの諸手続きの関係で約二ヵ月の時間を経て、真新しい人間として世に出ることが決まった。
この問題点を非難する人間も多く、記事にそれを書く者もいた。
しかし、ジュスティア警察の意見はその真逆であり、法律にのっとって裁かれたのであれば、それは契約の中に納まっている話でしかない。

法律的に何も問題が無ければジュスティア警察は介入することなく、それに目を瞑るしかないのだ。
どれだけ悲惨な事件が起きたとしても、犯人の人間性が異常だとしても、判決を覆すよう提言したり、それに不満をぶつけたりすることはない。
双方の関係は治安維持の面における契約関係であり、それ以上ではないのだ。
企業としての考え方はそれが正しいが、確かに人道的ではない事が世論には受け入れられなかったが、一週間も経つとすぐに忘れられた。

この一連の流れは全て、サナエが生前に仕組んでいたレールに沿って動いていた。
精神科医の診断や買収、仮に有罪判決が下ったとしてもすぐに覆せるよう、関係者を動かすところまで全て彼女の手筈通りだった。
トラギコの奮闘で多くの真実が明るみになっても、彼女が生前に敷いたレールは完璧にその役割を果たした。
彼女が殺されるという点を除けば、ビンズへの対応は全て思い描いていた通りだったのだろう。

判決が下った当日の夜、サナエの死体と共に瀕死の市長も発見されたが、彼は政務を行えるような状態ではなく、五日後に別の人間が代行することとなった。
絶望的な状況下の街の再建を名乗り出たのは、内藤財団だった。
彼等の業務内容は手広く、街の政策が上手くいかなくなったりした際に代行することもあり、事態の収束にも手馴れている。
市長がその椅子から降りる前に彼らは街に現れ、契約を取り交わした後、間を開けることなく街の政策代行を引き受けることになった。

361名無しさん:2018/12/16(日) 18:21:07 ID:1oQZzTTo0
代行者がすぐに行ったのは、法律の見直しと改善だった。
未成年を保護する法律の大幅な改善を最初に宣言し、それと同時に街の治安回復に力を注いだ。
これまで暗部としていた埠頭に警察の介入を許可し、人身売買組織や違法薬物の売買組織の摘発を行った。
指揮を執ったのはドクオ・マーシィ率いる現職の警官と、ジュスティアから派遣されていた警官隊だった。

失った信頼を取り戻すため、街は大きく変わり始めたのだ。
その変化に流され、ビンズの起こした事件は〝街が変わるきっかけになった教訓〟のようなものに変わり、終わった物として認識が切り替わった。
警察とジャーゲンとの契約は継続することとなったが、これまで以上の待遇の改善が約束され、警官達のモチベーションが向上して自らジャーゲンに行きたいと名乗り出る警官も出た。
それらが導いた何よりも大きな変化は、子供たちに対する街の変化だった。

街から出される補助金だけでなく、多くの寄付金と共に、就職先の斡旋などが充実することになった。
それらを取り仕切る非営利団体が内藤財団を中心に組織され、その名前は街の変化に大きな貢献をした人間名にちなみ、“イトーイ・ビロード支援会”とされた。
ヴェガの時とは違い、ジャーゲンは警察との関係を良好なままにし、治安の回復にも力を入れ始めている。
だがそれでも、トラギコの姿は消えたままだった。

何かが不満なのか、燃え尽きてしまったのか、それとも警官に対して嫌気がさしたのか。
彼は確かに多くの事件を解決してきたが、まだ年齢的にも若い。
多くの挫折と不条理を経験し、成長していく段階だ。
少し話をして彼を落ち着かせるべきだったのだろうかと思うが、後悔してももう遅い。

街の様子から目を上げ、セントジョーンズは空を見た。
今頃、ジャーゲンは雪が降っている事だろう――

‥…━━ 二月二十日 午前 ジャーゲン 刑務所 ━━…‥

ビンズ・アノール=クリント・アルジェント・リンクスは、独房の中で一人鼻歌を歌っていた。
未成年を保護する法律が改定される前に刑務所に入った彼は、幸いなことに、法改正前の待遇を受けられる数少ない存在だった。
食事は健康にいいものを、運動は好きな時に、そして外部との接触も割と自由なままだ。
刑務所内でのリンチが必至とされていたが、裏で彼のために動いている人間の働きによって独房が割り当てられていた。

幼少の頃から彼は何かに守られている事を知っていたが、あの裁判で、その正体が分かった。
まさか、街の最高権力者たちに守られていたとは思いもしなかったが、彼にとってはどうでもいいことだった。
大切なのは彼が自由気ままに子供たちを犯し、殺せたことだった。
やはり、犯すなら子供が一番だった。

無力で、健気で、そして脆い。
それを自らの手で滅茶苦茶にすることが、何よりも気持ちがよかった。
人形遊びの延長線上であることを言ったとしても、誰も理解を示さないだろう。
一つ彼が気にしていることがあるとすれば、再び彼が子供たちを犯せば、重い罪に問われてしまうという事だ。

これは非常に都合が悪く、大人たちの身勝手な判断によって彼の自由が侵害されるという事だった。
人の気持ちが分からない大人は、いつだって彼の周囲に溢れていた。
児童養護施設の大人たちもそうだが、警察もそうだった。
理解を示してくれる人間と数人知り合う事が出来たが、彼等とはあまり親密な関係にあるわけではない。

あの裁判の後、彼に面会を希望する人間が大勢いたが、不思議なことに誰も金を積もうとはしなかった。
金でなくても、彼が要求した物――児童ポルノ雑誌――を持ってくる人間もいなかった。
人に話を聞くならばそれなりの誠意というものを見せてもらわなければならない。
その点、大人たちは人に誠意というものを要求しておきながら、自分達では一切誠意を見せない。

362名無しさん:2018/12/16(日) 18:21:29 ID:1oQZzTTo0
金が無いと、出所後に女児を買う事が出来ない。
買えないのであれば、どうにかして手に入れる他ない。
全ての原因は大人たちにあると言ってもいい。
大人たちが制限をしなければ、彼は自由に女児を犯して殺すことが出来るというのに。

(::゚∀゚::)「はー、犯してぇなぁ」

いくら無罪を獲得し、安全な刑務所で護られているとは言っても、好きな時に犯せないのは人権侵害も甚だしい。
出所までに二ヵ月の時間を要しているのは、彼自身の身の安全を確保するため手続等が大半の理由で、我慢するしかなかった。
心からの欲求を口にした彼の元に、跫音が近付いてきた。

「ビンズ、お前に面会者が来てる」

(::゚∀゚::)「えー? 金は?」

「……お前の要求した額を持って来てる。
さっさと出てこい」

(::゚∀゚::)「へぇ、話の分かる人が来たってことか。
     どれ、いっちょ話しますかねぇ」

しばらくは取材などを受けて金を稼ぎ、適当な子供を孕ませ、その子供を犯す資金を蓄えておくべきだ。
何をするにも金は必要だ。
これまで得ていた資金援助は打ち切られた為、これからは自分で稼がなければならない。
自伝を執筆すると知れ渡れば、話聞きたさに金を積んで権利を手に入れようとする出版社が必ずある。

何にしても、この場所ではやる気が起きない。

(::゚∀゚::)「そっか、養子にすりゃいいのか」

歩きながら、ビンズは名案を思い付いた。
養護施設から子供を引き取れば、ただで犯せる。
しばらくしたらまた新たな子供を引き取り、犯して殺せばいい。
金を要求されても払えばいい。

自分の所有物に何をしても問題はないだろうと、ビンズは己の考えの正しさを強く認識した。

‥…━━ 二月二十日 午前九時 ジャーゲン 某コーヒーショップ ━━…‥

強い風と共に大量の雪が降り続く、極めて寒い日だった。
これまでにない寒波に襲われたジャーゲンでは、大勢の人間が屋内へと逃げ、暖を求めた。
屋外席を売りにしているカフェなどは軒並み閑古鳥が鳴いていたが、中には好んで窓際の席に座り、硝子の向こうで白く染まる街を眺める客もいた。
あるコーヒーショップでは、開店から客が一人だけしか来ていなかったが、その唯一の客は窓際の冷え込む席に座り、コーヒーを飲んで静かに外を眺めていた。

トラギコ・マウンテンライトは裁判が終わったあの日から有給を申請し、ジャーゲンで静かに時を過ごしていた。
だがそれは、無意味な時間ではなかった。
彼には時間が必要だった。
考え続け、そして、実行するためのあらゆることに時間が必要だったのだ。

イ´^っ^`カ「旦那、これサービスです」

363名無しさん:2018/12/16(日) 18:21:50 ID:1oQZzTTo0
店主がコーヒーを保温ポットで運び、ビスケットの箱がいくつもテーブルに置かれた。

イ´^っ^`カ「たぶん、今日はもうお客さん来ないと思うんでね」

そう言って、店主はカウンターの奥へと行き、椅子に座ってペーパーバックの本を読み始めた。
ラジオが小さな音量で流され、トラギコは店主の心遣いに感謝しながらも、一言告げることにした。

(,,゚Д゚)「そろそろ一人来るが、構わなくていいラギよ」

イ´^っ^`カ「あいよ。……奥に行ってますので、何かあれば遠慮なく。
      看板は後で戻しておいてもらえればいいんで」

店主はカウンターからカップを一つ取り出して、それをトラギコの向かい側の席に置いた。

(,,゚Д゚)「すまねぇな」

トラギコの素性を知る者はこの街でも限られた人間だが、あの裁判の様子を聴いていた店主は彼の正体を知る人間になった。
当然、裁判の結末も知る店主はトラギコがどのような人間かも知っていた。
が、対応は前とあまり変わらず、仕事の話もしない。
ただの客と、理解ある店主という理想的な環境は続いていた。

少しして、店の扉が開き、冷気と共に男が一人現れた。
ニット帽とマスク、そして分厚いコートで身を包むだけでなく、サングラスまでかけている。

(,,゚Д゚)「看板を返しておけ」

男は言われた通り、看板を裏返して閉店中の札を外に向けた。
それからトラギコの前に座り、ポットのコーヒーをカップに注ぎ、マスクをずらして一口飲んだ。

(-◆∀◆)「へぇ、美味いですねぇ」

(,,゚Д゚)「それで、どうだ」

アサピー・ホステイジは曇ったサングラスを取り、眼鏡をかけて店内を見渡した。

(-@∀@)「あっしらだけで?」

(,,゚Д゚)「そんなところラギ」

(-@∀@)「……法整備が完了するのは、読み通り来月からでさぁ。
      流石に全部を改正するのは無理だったようで」

(,,゚Д゚)「そっちの問題は解決ってことラギね。
   それで、他のは?」

(-@∀@)「三人中二人の消息は追えたんですが、後の一人はもう引き取られた後でした。
      面目ありやせん」

(,,゚Д゚)「いや、上出来ラギ。
    ……そうか、引き取られたのか」

364名無しさん:2018/12/16(日) 18:22:10 ID:1oQZzTTo0
(-@∀@)「どこの誰、ってのまでは調べちゃいませんが、確かな情報でさぁ。
     それと、奴はやはり近いうちに娑婆に出る予定になってましたぜ。
     手続きを早めるために裏で金を動かしている人間がいるってのが分かりました」

トラギコはコーヒーを一口飲み、頷いた。
三年の判決が条件を満たせば無罪となる事を、トラギコは理解していた。
となれば、出所するタイミングがいつになるのかが最重要になってくる。

(,,゚Д゚)「あいつに色々と喋られちゃ困る人間がいるってことラギ。
    釈放を早めさせて口封じをするってことは分かってたことラギよ」

独自の調査により、ビンズ・アノール=クリント・アルジェント・リンクスは市長と所長の隠し子であるという特権を生かし、多くの人身売買組織にコネクションを持っていることが分かった。
街に蔓延っていたほとんどの人身売買組織はトラギコの力で潰せたが、それでも、全ての組織を潰したわけではない。
子供が子供を産む限り、人身売買は決してなくならない。
十二月に有給を取ってからトラギコが独自に動いたのは、警察が介入したがらない小さな芽を摘むことも目的の一つだった。

代理市長による街の再生が行われる中、トラギコは人身売買に関わる人間を見つけ出し、程よく暴行した後で警察に突き出していた。
ジャーゲン警察はトラギコの行動を上司に報告することはなく、善良な市民による協力、とだけ日誌に書くようにしていた。
彼は有給を申請していたが、休むことではなく、ジュスティアに己の行動を知られないようにする必要があると判断しての申請だった。

(-@∀@)「その辺りを追ったんですが、世界的な人身売買組織が絡んでいるみたいで」

(,,゚Д゚)「構わねぇよ。奴らにやられる前にこっちがやるだけラギ」

カップのコーヒーを一気に飲み干し、トラギコは新たなコーヒーを注ぐ。
角砂糖を五つ入れ、話を続ける。

(,,゚Д゚)「……それで、お前が俺に何を要求するのか、聞かせてもらうラギよ」

(-@∀@)「へへっ、言ったでしょう? あっしはジャーナリスト。
     スクープが欲しいんでさぁ」

(,,゚Д゚)「ジャーゲン出身者として、何をしたいラギ?」

これまでにひたすらゴシップを貪欲に追い続けてきたアサピーの行動が妙であることに気付いたトラギコは、彼の素性について調べていた。
その結果、彼がジャーゲンの孤児院の出であることを突き止めた。
トラギコに自分の出自を言い当てられても、アサピーは動揺しなかった。

(-@∀@)「街が変わるのは歓迎しやすよ、あっしは。
     でもねぇ、それじゃあジャーナリストは食っていけないんですよ。
     あっしの書いた記事、ジュスティアで回収されちまったようでしてね。
     しばらくあの新聞社とは仕事が出来ませんよ。

     だったらいっそ、ジュスティアの人が関わったでかい事件に絡めば、嫌でも名前が知れ渡るってもんで」

ジャーナリストとして名を馳せるためには、大きな事件に関わることが近道だ。
事件の規模が大きければ大きいほど、そして、それに関する情報をいち早く世界に発信する者こそが名声を握る。
すでに彼はジュスティアで名を広めることは不可能となっており、それを脱却するためには、ジュスティアが決して無視できない程の事件に関わるしかない。
そこで彼は目ざとくも、トラギコに関わることにしたのである。

365名無しさん:2018/12/16(日) 18:23:25 ID:1oQZzTTo0
これからトラギコが予定していることは、間違いなく、大きなスクープになると勘付いたのだろう。
故に、アサピーはトラギコが何をするにしても決して思いとどまらないよう、様々な情報を提供しているのだ。
その瞬間が来るまでの関係であり、その瞬間が終われば別の方向を向いて歩き出す程度の関係である。
ではあるが、忘れてはならないのは、彼が自らの手でスクープを作り出す程の執着心とネジの外れた頭を持っている点だ。

サナエの家を少年達に襲わせ、その殺害シーンを写真に収めて世界に公表するという独占スクープを作り出した事を忘れてはならない。
私利私欲のためだけに、とは言えない背景がありはするが、この男が行ったことは間違いなく犯罪である。
しかし警察はその確たる証拠を得られておらず、尚且つ、少年達の自首によって事件は解決したことになっているのだ。
トラギコがその気になれば逮捕できる男だが、今の彼は休暇中の身であり、その仕事はジャーゲン警察の物だ。

彼にとって、ジャーゲンの病巣の一つを殺させ、その姿を世間に公表しただけでは足りないのだろう。
彼が目指すジャーナリズムというものは、更なる他人の不幸を糧とする職業であり、真っ当な倫理観があれば仕事にならないのだ。

(,,゚Д゚)「好きにしろ。だけど、分かってるとは思うが邪魔をするなよ」

(-@∀@)「分かってまさぁ。で、いつ何を実行するんですかい?」

(,,゚Д゚)「近日中に色々と、ラギ」

これ以上の情報をアサピーに提供するつもりはなかった。
必要な情報は基本的に自分一人で収拾が完了しており、彼はあくまでもそれを確信させるための存在でしかない。
決定的に価値観の合わない人間と仕事をするつもりはない。

(-@∀@)「旦那ぁ、そいつぁずるくないですかい」

(,,゚Д゚)「これは俺のやる事ラギ。お前にゃ関係ねぇ」

(-@∀@)「それを言っちゃぁお終いですよ」

(,,゚Д゚)「いいんだよお終いで」

再びコーヒーを飲み、トラギコは溜息を吐く。
外の雪景色を眺め、それから、アサピーを見てもう一度言った。

(,,゚Д゚)「これは、俺のやる事ラギ」

(-@∀@)「……まぁ、あっしは好きにさせてもらいますがね」

(,,゚Д゚)「それでいい。ともあれ、情報ご苦労だったな」

(-@∀@)「へへっ、じゃあまたいつの日か」

(,,゚Д゚)「あぁ、達者でな」

アサピーは席を立ち、店を出た。
そして、その場に現れた私服警官に取り押さえられ、覆面パトカーに乗せて連れ去られた。
間を置かず、新たな客が雪と共に店に入ってきた。
その客は入り口で立ったまま、それ以上中には入らなかった。

('A`)「……約束通り、あのジャーナリストは捕まえておいたぞ」

366名無しさん:2018/12/16(日) 18:25:20 ID:1oQZzTTo0
トラギコが捕まえる事は出来ないが、仕事中の警官であれば逮捕は出来る。
一時的だとしても、あの男をトラギコの目的から引き離せればいいのだ。

(,,゚Д゚)「悪いな、ドクオ」

('A`)「少しお灸をすえてやらなきゃならなくなったからな、丁度よかった。
   それと、ビンズは今日の深夜保釈される。
   人権擁護団体を名乗る連中が金を積んで、監視付きの保釈が決定した。
   法整備が届いていない範囲でのやり口だから、誰も止められん」

(,,゚Д゚)「そいつらの正体は?」

('A`)「恐らくだが、人身売買組織だ。
   あいつは顧客だったから、話されちゃ困ることが山のようにある。
   口封じをするか、それとも、仲間に引き入れるか。
   そこまでは分からねぇ」

(,,゚Д゚)「アサピーから聞いた情報と同じラギ。
    ってことは、間違いなさそうラギね」

仲間に引き入れたところで、あの男に人身売買が出来るとは思えない。
売り物に手を出し、組織から処分されるのが目に見えている。
だがその人間性の欠如を活かせる部署に配属されれば、生存の道はある。
拷問、もしくはその手の作品を作る上で欠かせない俳優として選ばれれば、その才能を如何なく発揮することだろう。

('A`)「勿論、口封じはさせないさ。
   さっきも言ったが、監視付きだ。
   お前が思っている以上に、ジュスティアはこの事件を重要視してる。
   強がっちゃいるが、傷がまだ完全に塞がり切ってないってことだろうな。

   現に、ジュスティアからすでに応援の警官が派遣されてる」

(,,゚Д゚)「それは都合が悪いラギな」

('A`)「シフト表と配置表をいじる機会があってな。
   監視関係の人間を全員俺達にした。
   今夜、ジャーゲン警察で担当する奴らは、全員お前の味方だ」

(,,゚Д゚)「ばれたらやべぇだろ、全員」

('A`)「責任は全部俺が取るさ。
   お前、有給を出すタイミングで俺の罪を告発しなかっただろ?
   流石にこれ以上お前に借りを作るわけにはいかねぇよ。
   この一件が片付いたら、俺は自首する」

ドクオはこれまで、サナエ・ストロガノフが関わってきた証拠隠滅に手を貸してきた背景がある。
その理由が何であれ、法律上は違法行為であり、罰せられる必要がある。
だが彼は犯罪行為をもみ消す手助けをすると思わせ、その証拠を集めていた。
彼が集めた証拠があったからこそ、トラギコは裁判の場でサナエの罪を周知させることが出来た。

367名無しさん:2018/12/16(日) 18:25:41 ID:1oQZzTTo0
ドクオの罪については一切触れなかったのは、彼の行いの全てが間違っていたわけではないからだ。
それぞれの思惑がどうあれ、ドクオがあの時鑑識課のハシュマルに依頼をしていなければ、トラギコの証拠が消されていたかもしれない。

(,,゚Д゚)「奥さんと子供は?」

('A`)「向こうのおふくろさんと一緒にいる。
   なぁに、単身赴任だってことにしておくさ」

本人がそれを望むのであれば、トラギコはこれ以上何かを言う事はない。
彼は彼の道を歩くと決めたのだ。
それを止める権利は、トラギコにはなかった。

(,,゚Д゚)「そうか、俺が逮捕してやれなくてすまねぇラギ」

('A`)「いいさ、自分の事だ、自分でケリをつけなきゃな」

(,,゚Д゚)「建物に変更はなしラギか?」

('A`)「あぁ、予定通りそこに奴を送る。
   そこは任せてくれ。
   詳しいことは聞かないでおくが、まぁ、上手くやれよ」

(,,゚Д゚)「助かるラギ。
    じゃあ、風邪ひくなよ」

('A`)「お互い、元気でいたいものだな」

そしてドクオは看板を元に戻し、店を出て行った。
彼が出て行ったあとに残されたのは、冷たい空気と少量の雪だけだった。
トラギコはコーヒーを飲み、ラジオの音に耳を傾けた。

『今朝からジャーゲンは、記録的な雪に見舞われており――』

世界が白く染まっていく。
彼の心の中にある何かもまた、白く燃え尽きて行く事だろう。
トラギコの心の中には、あの日から決して衰えることのない炎がくすぶっていた。

『――不要な外出は極力お控えください。では、天気情報に続いて音楽のお時間です』

‥…━━ 二月二十日 午後一時 ジャーゲン 市街 ━━…‥

雪が高く積もり、交通の麻痺が本格化していた。
それだけでなく、街にある多くの店が雪の影響を考え、早々にシャッターを降ろし始めていた。
豪雪の中、トラギコは白い息を吐きながら、ゆっくりと歩いて街の姿を眺めていた。
景色のほぼ全てが白で塗りつぶされ、歩く人間の姿もまるで見えない。

理想的な天候だった。
少なくとも、トラギコがこれからする事にとってこの上なく理想的だった。
予め定めていた店に入り、すぐに酒を注文した。

368名無しさん:2018/12/16(日) 18:26:01 ID:1oQZzTTo0
(,,゚Д゚)「スコッチ、ダブルで。後は適当なつまみを」

( ´∀`)「かしこまりましたモナ」

そして、トラギコは酒を飲んだ。
体の中にある水分全てが酒になるほど、スコッチを喉の奥に流し込む。
味はよく分からない。
そもそも、味があるのかも分からなかった。

一時間かけて一杯飲み終わると、すぐに次を注がせた。
とにかく、酒を飲み続けた。
自棄になっている訳ではなく、酒を飲まなければならないのだ。
これからトラギコがすることに酒は絶対的に必要なのだ。

店主が何かを話しかけてきても、トラギコは無視を決め込んだ。
無駄に言葉を交わすことで、トラギコが正気であることを知られたくなかった。
そして、彼の声を悪戯に発することで正体が露呈するのを避けたかった。
トラギコは誰にも知られない存在であり、そしてい、誰もが酒を大量に飲んでいたと証言できるように振る舞った。

酒を飲み続け、やがて、店主はボトルとチェイサー、そしてつまみを置いて話しかけるのもやめた。
それでよかった。
話をするためにここにいるのではない。
酔うために酒を飲んでいるのでもない。

――トラギコは、酒を飲んでいる姿を見せるためにこの場にいるのだから。

警察官として、トラギコは十年以上働き続けてきた。
多くの犯罪者を見て、多くの被害者を見てきた。
多くの事件に関わり、多くの被害者と話した。
犯人を逮捕し、法律による裁きを受けさせたが、どうしてもトラギコが許せない事があった。

子供が巻き込まれ、命を奪われる事件だけは、どうしても我慢できなかったのだ。
トラギコにとって、子供とは未来そのものだった。
彼にはできない可能性の塊である子供が犯罪に手を染めれば胸を痛め、二度と繰り返させないために強烈な痛みを与えた。
子供たちは何かに縛られたり利用されたりすることなく、鳥のように自由を求めて無垢に懸命に生きてほしかった。

今回、ビンズが犯した罪と与えられる罰はまるで釣り合っていない。
あの男が生きていてこの世の中に利益は何一つとしてない。
今すぐにでも、そう、今晩にでも生きていることを後悔させなければ死んでいった子供たちが浮かばれない。
世の中には復讐や殺しで何も解決しないという人間もいるだろう。

事実、警察でも復讐については憎しみの連鎖を生むだけであるという考えが大半だ。
トラギコの意見は違う。
少なくとも、死んだ方がこの世の中のためになる人間は存在するし、憎しみの連鎖を生むことなく死ぬべき人間もいるのだ。
真面目に生きていた子供たちを犯し、殺し、それでも生き続けるべき人間などいないのだ。

今夜、トラギコはビンズを殺そうと決めていた。
殺した後に司法で裁かれ、私刑であると糾弾されたとしても、二度と同じ被害者が生まれないためにも、そして、未来を奪った男の未来を終わらせるためにも、誰かがやらなければならないのだ。
その為の下地は全て整っている。
整えるために時間を用意したのだ。

369名無しさん:2018/12/16(日) 18:26:23 ID:1oQZzTTo0
アサピーには法整備が進んでいない点、即ち、犯行時の責任能力を加味して判決を下す個所が着手されていないことを確認した。
酒や薬の影響があれば例え殺人を犯したとしても、自首と合わせることで刑罰は格段に軽くなる。
それを証明したのは他ならぬビンズそのものだった。
この街の法律で生かされた男は、この街の法律の抜け道で殺されるのがお似合いだ。

ビンズがどのマンションに連れて行かれ、そこのセキュリティを突破する方法もドクオを通じて調べ済みだ。
ドクオの協力によって、それを邪魔する人間はいない。
判決が下されてから一切変わる事のない殺意が、トラギコの胸の中で燃え続け、どす黒い感情が心を支配している。
どのように殺すかは、最初から決めていた。

イトーイの司法解剖の結果、彼の拳に何かを殴った痕が残されていたのが分かった。
それを聞いて、ビンズは必ず殴り殺そうと心に決めた。
砕かれたイトーイの拳の代わりに、トラギコが拳を振るおうと決めた。
誰かに頼まれたからでも、誰かに理解してほしいからでもなく、奪われた者達の無念をトラギコが晴らしたいだけのために。

断じてこれは正義ではない。
そんなものは、この世の中のどこにもない。
司法は正義なのではなく、ただの秤でしかない。
トラギコはそれをはっきりと認識し、受け入れることにした。

正義など。
正義など、糞にまみれた綺麗ごとでしかないのだ。
世界の正義を名乗るジュスティア警察も、ビンズをそのままにし、法律を理由に相応の罰を受けさせようとしない。
それが正義なのであれば、正義などいらない。

一瞬でもそんなものを信じていた自分が恥ずかしいと同時に、己の無力さが憎らしかった。
犯人を逮捕し、その後に相応の罰が下るかどうかが街の裁量次第なのであれば、それは警官やトラギコでなくても出来る話だ。
民間人が捕まえて、勝手に裁かれればいい。
警察官である必要はどこにもないのだ。

彼はただ、真面目に生きている人間が馬鹿を見る世界が許せないだけであり、それを黙っていられないだけなのだ。
力が全てを変える時代だとしても、他者の人生を踏み躙って生きる人間が世界に必要なはずがない。
彼等が力で人の人生を踏み躙るのであれば、トラギコもまた、力をもって彼らを踏み躙ろう。
故に、これは純粋な復讐であり、報復であり、一点の曇りもない殺人衝動なのだ。

大義も何もなく、獣の感情の赴くまま、トラギコは人を殺すことを決めたのだ。

(,,゚Д゚)「……」

腕時計を見て、時間を確認する。
酒を飲み続けても彼の思考ははっきりとしていた。

‥…━━ 二月二十一日 午前一時 ジャーゲン 市街 ━━…‥

ビンズが護送されたマンションは、今は精神病院で廃人と化している市長の住んでいたものだった。
雪が落ち着き、黒と白の静かな夜。
トラギコは予定通りに正面入り口から堂々と侵入し、目的の部屋へと進んだ。
周囲が寝静まった夜、マンションに響くのはトラギコのブーツが固い床を踏みしめる音だけだった。

370名無しさん:2018/12/16(日) 18:26:45 ID:1oQZzTTo0
迷わず到着し、トラギコはスペアキーを用いて部屋の扉を開いた。
土足のまま部屋の奥へと進み、リビングルームで酒を飲んでくつろぎ、ポルノ雑誌を読んでいるビンズを見た瞬間、トラギコの全身を冷たく燃える感覚が広がった。
あまりにも突然の来訪者に、暖炉の前のソファに座るビンズは面食らった様子で固まっていた。

(::゚∀゚::)「へっ?」

(,,゚Д゚)「……」

最初にトラギコが放ったのは、一切の手加減の無い後ろ回し蹴りだった。
ブーツの固い踵が正確にビンズの頬を捉え、ソファの上から彼を吹き飛ばした。
悲鳴すら上げられないまま、ビンズは食器棚に激突し、砕けたガラスと食器の破片を頭から被った。

(::゚∀゚::)「な、なん」

血塗れになった顔を踏みつけ、言葉を最後まで語らせなかった。
この男が話すことはない。
ただ、死ぬのだ。
ただただ理不尽に、トラギコに殺されるのだ。

ビンズの胸ぐらを掴み、強引に立たせる。
ふらつくビンズをそのまま反対方向に投げ飛ばし、木製のローテーブルの上に落下させた。
机にあった酒瓶とグラスが衝撃で落ち、砕け散る。
ゆっくりと歩き、トラギコはビンズに近づく。

恐怖の中で死なせ、絶望の中で殺す。
この男にはあらん限りの苦痛こそが手向けられるべきだ。
それこそが、ビンズに与えられるべき本来の罰なのだ。

(::~∀゚::)「く、来るんじゃねぇ!!」

床に落ちていた酒瓶が投げられる。
トラギコはそれを避けもしなかった。
酒瓶はトラギコの胸に当たり、虚しく床に転がった。

(::~∀゚::)「あんた、け、刑事だろ……!!
    俺にこんなことして、ただで済むと思うなよ!!」

トラギコは無言のまま、足元の瓶を蹴った。
それは凄まじい勢いでビンズの頭に直進し、彼は思わず両手で顔を覆った。
そうして出来た隙を見て、トラギコは一気に距離を詰めてビンズの股間を蹴り砕いた。
ブーツの爪先が確かに肉を砕く感覚があった。

(::~д゚::)「―――っ!?!?」

その時にビンズの喉を震わせて飛び出してきた声は、屠殺場から聞こえてくる豚の悲鳴によく似ていた。
両手で股間を押さえ、ビンズがその場に崩れ落ちかけたところに、両手の上から再び股間に蹴りを入れる。
砕かれた股間を更に蹴られたビンズは泡を吹いて身を震わせた。

(,,゚Д゚)「どうだ、気持ちいいだろ?」

371名無しさん:2018/12/16(日) 18:27:35 ID:1oQZzTTo0
この男に気絶などという甘えは許さない。
顔を潰す勢いで踏み、鼻の骨と前歯を砕いた。

(::~д゚::)「っ……なん……なんで」

(,,゚Д゚)「思い当たる節がないんなら、考えながら死ね」

再び胸倉を掴んで持ち上げ、壁に向けて投げつける。
派手な音を立ててビンズは床に落ち、壁に飾られていた絵画が衝撃で落下した。
更に、棚に置かれていた高級そうな酒瓶も落下する。
ビンズは砕けた酒瓶を掴み、立ち上がりざまに素早く突き出した。

(::~д゚::)「死ねぇぇっ!!」

(,,゚Д゚)「あっ?」

抵抗の意識が失われたと思っていたビンズの行動を見て、トラギコに出来たのは僅かに顔を傾ける事だった。
それが幸か不幸か、トラギコの命を救い、彼に傷を負わせた。
傷を負うのとほぼ同時にビンズの手首を右手で掴む。
諦めたように笑い、ビンズは手にしていた酒瓶を手放した。

酒瓶はトラギコの右頬を深々と抉り、多量の血をフローリングの床に滴らせる。
しかし、頬を切られたというのに、トラギコはまるで意に介する様子を見せなかった。
トラギコの眼はまっすぐにビンズを睨みつけている。
殺意と敵意、そして憎悪と悪意が混然一体となった眼は煉獄の炎を彷彿とさせた。

(=゚д゚)「……」

(::~д゚::)「へっ、へへっ」

体内で分泌されたアドレナリンが痛みを彼方に押しやり、意識を殺戮の一点に集中させているのだと、他人事のように理解をする。
掴んだ手首に込めた力を更に強くし、にやけながら離れようとするビンズをその場に留めさせる。
にやついた顔が、徐々に強張っていく。

(::~д゚::)「へへっ……へ」

ゆっくりと左手を広げ、人差し指から順に折り込み、最後に親指で封をする。
作り上げたのは拳。
傷の上に傷を重ね、長い月日を経て育て上げられた鉄拳。
これからビンズ・アノールを殺すための凶器。

次の瞬間、トラギコの拳はビンズの折れた鼻を更に細かく砕いた。
それを三度繰り返し、四度目のパンチの際に右手を離した。

(::~д゚::)「へぶっ!!」

後頭部を床に叩き付けられ、ビンズの頭から鈍い音が鳴る。
首を掴んで無理やりに立たせ、自立の出来ないビンズの腹に左の拳が深々と打ち込まれる。
その拳はビンズの内臓を損傷させ、彼の口から血が吐き出された。
続けて右の拳が肋骨を砕く。

372名無しさん:2018/12/16(日) 18:28:28 ID:1oQZzTTo0
常に片方の手がビンズを支え、倒れ込むことを許さない。
内臓を徹底的に痛めつけ、合間に膝蹴りを股間に放った。
体を隅々まで破壊するというよりも、壊した部分を更に壊す。
何一つ、この男には残さない。

与えられるだけの苦痛を与え、生きていることを後悔させ、殺す。

(::~д゚::)「ゆ、ゆ」

声が聞こえる。
何を言っているのかは分からない。
だからトラギコは、彼の顔を殴って奥歯を砕いた。

(::~д#::)「ゆるっ!!」

それでもまだ何かを話そうとした為、突き上げる形で放った掌底で顎を砕いた。
数本、歯が折れた手応えがあった。

(::~д#::)「るん……っ」

まだ声が出てくるが、言葉ではなく声であればいい。
しかし、目が気に入らなかった。
トラギコに向けられる目には、慈悲をこう何かがあった。
そんなものはない。

人差し指と中指を僅かに飛び出させた拳を作り、眼球の破壊を開始した。

(::~д#::)「あがががががががが!?!?」

勿論、一撃で砕くなどと言う慈悲は見せない。
目の前で光を一つ失う貴重な体験をさせてやらなければならない。
人生でも最大で二回しか味わえない感覚だ。
狙うは左目。

瞼の上に拳を乗せ、徐々に圧を加えていく。
必至に両手で抵抗をしてくるが、トラギコの腕はびくともしない。
子供相手に猛威を振るっていた男など、この程度だ。
枯れ木のような細腕でトラギコに対抗できるはずがない。

(::~д#::)「やべ、やべでっ!!」

少しずつビンズの眼球が変形し、そして、爆ぜた。

(::~д#::)「あっ、いあっめ……!!
     めえぇぇぇ!!」

耳障りな声だったが、悪い気分はしなかった。
特別良い気分になるわけでもなく、この男にも人並みの感覚と言うのが備わっていることに驚いた。
首を強く掴んだまま、彼を部屋の中央のカーペットに連れて行く。
そして床に顔から叩き付け、潰した股間を掴み、力任せに引っ張った。

373名無しさん:2018/12/16(日) 18:29:53 ID:1oQZzTTo0
(::~д#::)「あ゛あ゛ああっ、いや……!!
     いやめでぐってあ゛あ゛がガガガがあ!!
     いだいのいや、いやああああああぁぁぁぁぁ!!」

肉が千切れる音が手の中からした。
必死に抵抗するビンズの背中を踏みつけ、黙らせながらトラギコは更に力を入れて陰部の破壊を行った。
両手が気絶したビンズの血で赤く染まり、それを彼の服で拭った。

(=゚д゚)「……汚ねぇ」

ようやく掴める長さに伸びていたビンズの短髪を掴み、力任せに引っ張る。
痛みで再び目覚めさせられたビンズの絶叫が響くが、叫び過ぎて喉が枯れているようだった。
頭皮ごと髪を剥ぎ取り、それを暖炉に放り投げた。

(::~д#::)「ひゅ……ひゅー」

(=゚д゚)「……」

まだ壊し足りない。
まだ殴り足りない。
まだ。
まだ!

ビンズを仰向けに蹴り転がし、馬乗りになる。
両手で拳を作り、当初の予定通りの行動を始めた。
即ち、拳による徹底的な破壊と暴力である。

(::~д#::)「シプッ!!」

肉を叩く音と骨が折れる音。
血が飛び散り、床に落ちる音。
殴った衝撃で潰れた眼球が飛び出し、床に落ちる。
死なないように加減をしながらも、殴打の嵐は続いた。

命乞いの声はいらない。
謝罪の言葉はいらない。
改心と服従を誓う言葉もいらない。
欲しいのは、この男の惨たらしい死だけだ。

この男に語るべき言葉はない。
手向けの言葉などいらない。
いるのは苦痛。
死を望むほどの苦痛を味あわせ、苦痛の中で死を迎えさせる。

――そのはずだった。

背中に突き刺さった電極が、トラギコの計画を全て破産させた。
体に流された電流がトラギコの四肢から力を奪い、ビンズの上から転げ落ちた。

(;=゚д゚)「どがっ!?」

374名無しさん:2018/12/16(日) 18:31:08 ID:1oQZzTTo0
('A`)「ふぅ、間に合ったな。
   背中ががら空きだ、誰かに不意を突かれないように気を付けろよ」

その声は、ドクオ・マーシィの物だった。
どうして外にいるはずの彼がここに来ているのか。
ビンズを殺すのを、どうして今になって邪魔してくるのか。
トラギコの頭の中に浮かぶ疑問を察したのか、ドクオがニコリともせずに答えた。

('A`)「なぁ、忘れてないか?
   俺は悪徳警官なんだぜ。
   今さらお前を撃つのを躊躇うかよ」

(;=゚д゚)「て……めぇ……!!」

('A`)「おいおい、そんなこと言うなよ。
   寂しさで切なくなっちまうだろ」

トラギコの服を掴み、ドクオは部屋の隅まで引き摺って行く。
ジュスティアで採用されているテーザー銃よりも強力に改造した物を使っているのか、電流が一定間隔で流され続けている。
撃ち込まれてから最低でも五分はこの状態が続くだろう。
文句を言う事もまともにできない事よりも、ドクオの行動を理解できない事が頭を支配していた。

('A`)「しっかしまた、随分とボコボコにしたな。
   あと少しで死ぬところだったぞ」

床に着いた顔が持ち上げられない。
あと一歩のところまで追いつめていたのに、ドクオの手によってそれが中断された。
再び誰かに買収されたのか、それとも別の思惑があるのか。
拳を握り固めることも出来ないまま、トラギコはドクオが何をするのか見届けるしかなかった。

('A`)「なぁ、トラギコ。
   俺はお前に一つ嘘を言ってた。
   俺な、離婚したんだよ。
   だから今は、独身男ってわけだ」

それがどうした、とトラギコは目で問う。
独身だから人の覚悟をあざ笑っていい理由にはならない。
トラギコの行いを邪魔する理由にはならない。

('A`)「犯罪者の嫁と子供なんて、あまりにも可哀想だからな。
   ジュスティアに行かせて、それから離婚したんだ。
   どうして俺が離婚しなきゃならないのか、お前なら分かるだろ」

ドクオが拳を握り固める。
その目は紛れもなく――

('A`)「糞ったれな俺のせいだよ」

――正気のままの、ドクオのそれだった。

375名無しさん:2018/12/16(日) 18:32:05 ID:1oQZzTTo0
('A`)「言っただろ。
   ケリをつけるってな。
   悪いな、トラギコ。
   お前をここで止まらせるわけにはいかねぇんだ」

そしてドクオの眼が、瀕死のビンズに向けられる。

('A`)「お前は進め。
   ビロードの分も。
   ハシュマルの分も。
   イトーイの分も、前に進んで来い」

ビンズに跨り、ドクオはその拳を振り下ろした。
トラギコとは違い、痛みを与え続けるための殴打ではなく、殺すための殴打だった。

('A`)「俺はここまでだ。
   この糞をここまで野放しにする片棒を担いだ後始末は俺がする。
   何もかも、俺が背負ってやる。
   こいつは俺が殺す。俺が殺して、俺が責任を取る」

何と自分勝手な意見だろうか。
何と自分本位な言葉だろうか。
それを誰かに担わせるのが嫌だから、自分がこうして殺しに来たのに。
これは義務でも正義感でもなく、トラギコが気に入らないからというだけの物なのだ。

('A`)「このマンションに入る姿を見られたのは俺だけだ。
   つまり、この男を殺したとしたら、状況的に犯人は一人に絞られる。
   自首をしても誰も何も疑わないさ」

有給を出したのは、警官としてこの件を終わらせない為。
その為に、今日まで準備をしてきたのだ。
それを、ドクオの身勝手な自己満足のために台無しにされては意味がない。

('A`)「……お前が酒を飲んで責任能力の抜け道を使おうとしてるのは分かってた」

僅かに聞こえていたビンズの呻き声が完全に聞こえなくなった。
ドクオは依然として殴り続けているが、ビンズの反応は手足が微かに動くぐらいだ。

('A`)「だけどな」

ドクオはゆっくりと立ちあがり、呼吸の止まったビンズの顔を何度も踏みつけた。
骨が砕け、肉が潰れ、血が飛び散る。
最後に一際強く踏みつけ、ビンズの首が音を立てて折れた。

('A`)「それじゃあ、お前が救われねぇ。
   この街を変えたお前が救われないなんてのは、俺が許さない。
   こんな屑とお前とじゃあ、天秤が合わねぇ」

(;=゚д゚)「この……馬鹿っ……」

376名無しさん:2018/12/16(日) 18:33:30 ID:1oQZzTTo0
('A`)「ああ、馬鹿さ。大馬鹿者さ。
   この歳にもなってまだ、俺は信じたいのさ。
   正義の味方ってやつを」

正義。
そんなもの、この世界のどこにもない。
取り繕われただけのそんなものは、ただの綺麗事でしかない。

('A`)「俺が信じるのは、お前の正義だ。
   他の誰かが決めた正義じゃなくて、獣じみたお前の正義を俺は信じたいのさ。
   お前がそんなものを知った事かと言おうが、それでもかまわない。
   ここでお前が警官をクビになれば、救えるはずもの物が救えなくなる。

   いいか、お前にしか救えない人間がこの世界には沢山いるんだ」

ドクオの信用は最早信仰に近いものがあった。
どうしてここまで盲目的にまで信仰できるのか、まるで分からない。
以前から確かにドクオがトラギコに対してそういった感情を持っているのは分かっていた。
誰かに尊敬されるような人間でないというのに、どうしてこういう輩は後を絶たないのだろうか。

('A`)「ビロードがな、調べてたんだよ。
   難事件専門の派遣型警官について。
   お前と一緒に出来ないかどうかの問い合わせをして、解答待ちだった一件だ。
   解答内容については局長に訊くんだな。

   常駐型はその街の法律に従うが、派遣型は特別な権限を持ってる。
   こういう屑を殺しても責任を問われないって権限もあるんだ。
   悪くない話だろ」

死体となったビンズの顔を、ドクオは強く踏みながらそう言った。
口だった穴からドロドロとした赤黒い液体に混ざり、白い歯の欠片が流れ出てきた。

(;=゚д゚)「……」

('A`)「分かるか? お前はお前の正義を、誰にかに邪魔されずに貫けるんだよ。
   その為にはここでお前が処分を受ける訳にはいかないんだ」

(;=゚д゚)「どうして……」

('A`)「さっきも言っただろ? お前にしか救えない人間がいるんだ。
   お前と仕事をした人間はそれをよく分かってる。
   ジョルジュ・マグナーニだって、そういう役割を担っているからクビにならないんだ」

それは、“汚れ人”の渾名を持ち、ジュスティア警察の異端児として知られる警官の名前だ。
そう何度も仕事を共にしたことはないが、彼の在り方は、今のトラギコに酷似していた。

(;=゚д゚)「ふざけんなよ、手前」

377名無しさん:2018/12/16(日) 18:34:03 ID:1oQZzTTo0
ようやくテーザーの電流から解放されたトラギコは、ドクオの気遣いの全てを拒否した。
彼が何を言おうと、彼がトラギコを何と重ねて見ているのかなど関係ない。
このままではトラギコはただの道化と化す。
これはトラギコが始めたことだ。

トラギコが始めて、トラギコが終わらせるべき案件なのだ。
これは彼の事件であり、彼が幕を引かなければならない。
硬直が解けた筋肉を動かし、どうにか立ち上がる。

(;=゚д゚)「俺は正義の味方なんかになるつもりはねぇラギ。
    勝手にお前の正義を押し付けるんじゃねぇよ」

それを聞いたドクオは悲しそうな顔を浮かべ、微笑んだ。

('A`)「……お前ともっと話をしたいが、そろそろ時間だ」

部屋の扉が開き、冷たい風と共に警官が入ってきた。
まだ若い顔立ちをしており、派遣されて間もない新人であることが分かる。

「通報を受けてきたのですが、これは一体……」

('A`)「ビンズ・アノールを俺が殺した。
   こっちのトラギコが邪魔をしようとして来たからテーザーで黙らせた。
   こんな風にな」

そして二度目のテーザーによる電撃で、トラギコは意識を失った。

‥…━━ 二月二十五日 午前十一時 ジュスティア ━━…‥

ジャーゲンで起きたビンズ・アノール=クリント・アルジェント・リンクスを巡る事件の結末は、警察内で大きな波紋を生んだ。
彼を殺害したのはドクオだが、それに至るまでに暴行を加えたのはトラギコという構図が問題だった。
上層部は二人の警官が一人の男を死に至らしめた事は間違っても世間に公表できるものではないと判断し、警察は全ての責任をトラギコに押し付ける形にした。
世間に向けて公表されたのは、ビンズを殺害したのはトラギコであり、ビンズが再び女児に危害を加える可能性が高かったためということにした。

クリント・アルジェント・リンクスの名を取り、ジャーゲンで起きた彼に関する一連の事件はCAL21号事件と名付けられることになった。
マスコミも含め、世論はトラギコの行動を非難しなかった。
所謂ダークヒーローとして彼の行動に賛同し、処分をしないよう求める声が多数挙がった。
目論見通りの展開となり、ジュスティアはトラギコをクビにしないで引き続き警官として働かせることを公表した。

こうしてトラギコの悪名はより一層広まり、犯罪者たちは彼の名前に畏敬の念を抱くようになった。
だがそれは対外的な物であり、実際には事件に関わった人間を処罰しなければならないのが組織というものだ。
更に言うならば、警察内でのトラギコに対する評価は世論とは真逆だった。
内々で事件の責任を取ることになったのは、直接的にビンズを殺害したドクオだった。

経緯と理由はどうあれ、ドクオが最終的に殺害したということで無期懲役の判決――本人の希望――を受け、ジュスティアにある刑務所に収監された。
そしてCAL21号事件を巡るトラギコの処遇について弁護をしたのは、意外にもフェニックス・ライトだった。
彼はラブラドール・セントジョーンズの依頼を受けて法廷に立ち、警察を相手に弁舌をふるい、その結果が今日言い渡されることになっていた。
局長室に呼び出されたトラギコの前に座るセントジョーンズは落ち着き払い、コーヒーを口に含んだ。

378名無しさん:2018/12/16(日) 18:34:23 ID:1oQZzTTo0
部屋にあった彼の私物が全て一つのダンボールに収められている事を除けば、全てが普段と同じ光景だった。
ゆっくりとコーヒーを味わい、嚥下してからセントジョーンズは天気の話でもするような軽い口調で会話を始めた。

(’e’)「頬の傷は大丈夫なのか?」

ビンズに投げつけられた瓶による切創は思いのほか深く、トラギコの右頬にははっきりとその痕が残っている。
医者によれば整形手術をすれば残るとの事だったが、トラギコは隠す必要性を感じられなかったため、それを拒絶した。

(=゚д゚)「えぇ、まぁ」

(’e’)「そうか。それでお前の処遇だが、結論から言おう。
   転属だ」

己の処遇については、ある程度予想はしていた。
ドクオが責任を負った為、トラギコは懲戒免職以外の処分が下ることになる。
今でも彼の行動に納得はしていないが、結果としてこのような形となっている以上は受け入れる他ない。
ここで文句を言っても結論はすでに出ており、何かが変わることはない。

自ら退職をするという選択肢は最初から無く、ドクオの言っていた通り、トラギコはこのまま進み続けるしか道はなかった。
進む道がどうなるのか、それだけが気がかりだった。
地方か、あるいは用務か。
備品庫でマックス・ベンダーと仕事をすることになるかもしれない。

(’e’)「地方本部がいよいよ本格始動する。
   西側沿岸を管轄にする本部に転属し、難事件解決担当部署――モスカウ――に配属される。
   モスカウは知ってるだろ?
   よかったな、お前にぴったりの部署だぞ」

前から話に聞いていた地方本部構想が遂に動くということは、今朝、ジュスティアにいる警官全員に周知されていた。
世界中にある署とは別に、それぞれの街と街を繋ぐ地点に地方本部を設置し、ジュスティアから専門部隊が派遣されずとも迅速な対応が出来るようになる。
従来とは異なり、辺境の地にある町でも他と同じように部隊が短時間で送られてくることになり、治安維持が格段に容易になるのだ。
そして派遣型の勤務体系を取ることになるトラギコは街に所属するのではなく、ジュスティアの法律が適応される地方本部に所属することになる。

つまり、これまでと違って街の法律に縛られることはなくなり、今回のような事件が起きたとしても法律の壁に悩まされることはなくなる。
ビロードが調べていた一件の許可が下りたという事だろう。

(=゚д゚)「……あんたはどうなるラギ?」

(’e’)「俺か? 俺は転属なんかしないさ」

(=゚д゚)「違う、その荷物のことラギ」

(’e’)「書類整理さ」

明らかな嘘に、トラギコは声を低くして言った。

(=゚д゚)「殴る前提で話をさせてもらうラギ。
    辞職するつもりラギか?」

(’e’)「安心しろ、定年だ」

379名無しさん:2018/12/16(日) 18:35:23 ID:1oQZzTTo0
(=゚д゚)「あんたまだ定年って歳じゃねぇラギ。
    正直に言ってくれよ」

(’e’)「いいか、覚えておけ。
   部下の失敗は上司の物で、上司の成功は部下の物だ。
   上司って言うのはな、そういう生き物なんだよ」

(=゚д゚)「つまり、どういうことラギ?」

セントジョーンズは小さな溜息を吐いた。
物分りの悪い生徒に呆れる教師のような仕草だったが、嫌味は感じなかった。

(’e’)「俺は時々、お前が羨ましくて仕方なかったんだ。
   誰よりも警官らしいくせに、警官らしくない事をするお前が。
   だからその未来に賭けさせてもらうことにしただけさ。
   俺の首を一つ追加して事が収まるんなら、安い物さ」

それはつまり、トラギコの起こした問題の責任をセントジョーンズも取ったという事だ。
二人の警官を犠牲にしてまで、トラギコに何をさせようというのだろうか。
嫌な予感がトラギコの脳裏をよぎる。

(=゚д゚)「……」

(’e’)「ドクオと話をしてな、意見が一致したのさ。
   お前は、絶対に警官を続けるべきだ。
   そして一か所に留まらず、自由に捜査をするべきだってな」

どうして、ドクオもセントジョーンズも、トラギコをそんな目で見るのだろう。
規則を破り、暴れまわる人間に期待をするなど、正気ではない。
少なくとも真っ当な警官であれば、そんな事は決してしない。
信仰は自由だが、人間相手の信仰は盲信と同義であり、歓迎するのはかなり無理がある。

(=゚д゚)「俺は、あんたらが思ってるような人間じゃねぇラギ。
    勝手に変な期待をされても迷惑なだけラギ」

だがセントジョーンズは静かに、そして、ゆっくりと首を横に振りながら言った。

(’e’)「お前は、正義の味方でも英雄でもない。
   弱者の希望なんだよ、お前は。
   弱者にとっての希望って言うのは、つまり、彼らにとっての正義なのさ。
   荒々しかろうが暴力的だろうが、その時に縋りたい存在がお前なんだ」

そんなもの、目指した覚えはない。
なった覚えもなければ、聞いた覚えもない。
考えが顔に出ていたのか、それとも察されたのか、セントジョーンズは続けた。

(’e’)「望もうが望むまいが、お前はそういう人間なんだよ。
   現にお前は、警官を辞められない。
   どれだけ自分が酷い目に遭っても、それ以上に他の人間がそうなることが許せないからだ。
   辞められない以上、そう在り続けるしかないんだ」

380名無しさん:2018/12/16(日) 18:36:42 ID:1oQZzTTo0
(=゚д゚)「……人の人生、勝手に決めるんじゃねぇラギ」

(’e’)「そうだな、お前の人生だ。
   お前が好きに歩めばいい。
   だから俺もドクオも、好きに歩かせてもらっただけだ」

(=゚д゚)「そうかよ」

(’e’)「あぁ、そうだよ。
   っと、そうだ。お前がモスカウに所属することになったは、俺の力じゃないからな。
   ビロードの依頼があったから上が動いたんだ。
   あいつが殺される前に本部に問い合わせがあって、上層部があいつの意志を汲んでやろうってな」

(=゚д゚)「……あいつのおかげ、か」

彼に慕われるような事をした記憶がない。
それでも、ビロードがそれを最後に望んでいたのであれば、無碍にすることは出来ない。
最後の贈り物として受け取るしかないだろう。

(’e’)「そんなところだ。さて、有給が残ってるところ悪いが、早速明日から仕事に戻ってもらうことになる。
    まずはマックスのところに行って、受け取る物を受け取って、それからエライジャクレイグで出発しろ。
    モスカウから迎えが来る予定になってるから、明日の九時に駅に荷物をまとめておけよ。
    有給は自主研修ってことで消費するそうだ」

トラギコは瞼を降ろした。
気持ちの整理はもう出来ていた。
ビロード、ドクオ、そしてセントジョーンズ。
彼等の期待は無視し、ただ、自分の為だけにこの転属を受け入れる。

この世に正義が無いのであれば、せめて、獣であり続けよう。
力が全てを変える時代だからこそ、力を振りかざす獣として、犯罪者を襲おう。
そしてビンズを殺さなかったことで、トラギコの手で救う人間が一人でも増えるのであれば、この結末を受け入れる価値がある。
いつの日か、命が燃え尽きるその瞬間にその答えが分かるはずだ。

それまでは獣のように生き、貪欲に事件を追い求めよう。
事件を貪り、犯罪者たちにとっての恐怖で在り続けよう。
瞼を降ろしている間の二秒で覚悟を決め、瞼を開いた。

(=゚д゚)「分かったラギ」

これが、CAL21号事件と呼ばれる事件の終幕。
そして、トラギコ・マウンテンライトの新たな一歩となる瞬間だった――

‥…━━ 二月二十六日 午前九時 ジュスティア駅前 ━━…‥

ジュスティア上空を薄く覆う灰色の雲が風に流され、時折青空の欠片が見える。
マックスから受け取った餞別代りの銀色のアタッシェケースを手に、トラギコは駅前に立ち、静かに待っていた。
迎えに来る人間の特徴は聞いていないが、向こうがトラギコの事を認識すれば問題はない。
駅を利用する人間は少なく、人の数はこの時間でもまばらだ。

381名無しさん:2018/12/16(日) 18:38:22 ID:1oQZzTTo0
白い息を吐き、腕時計に目をやろうとした時だった。

(´・ω・`)「やぁ、トラギコ・マウンテンライトだね?」

ニット帽とマフラーを巻き、コートを着た男がトラギコの前に現れた。
服の上からでも分かる大きな体つきは、彼が並の人間ではない事を物語っている。

(=゚д゚)「そういうあんたは?」

(´・ω・`)「ショボン・パドローネ、ショボンでいいよ。
     君の事はトラギコ君、と呼ばせてもらうよ。
     話には聞いていたが、なるほど、元気がよさそうだね」

手袋を外し、ショボンが右手を差し出してきた。
上着のポケットから手を出し、軽く握手を交わす。
瞬間的に強く握られた為、トラギコは力を入れて握り返した。

(=゚д゚)「……よろしくお願いしますラギ」

(´・ω・`)「へぇ、いい体をしているね。
     これは期待できそうだ」

ショボンはトラギコの肩周りや腰に手を当て、その硬さを確かめた。

(=゚д゚)「俺にその毛は無いラギよ」

(´・ω・`)「はははっ、冗談だよ。
     僕らの仕事は体力がいるからね、安心した。
     ……あの二人は知り合いかな?」

ショボンの指さす方向には、二人の少女が立っていた。
まだ幼い顔つきの二人の少女は女性警官に付き添われ、トラギコの方に歩み寄ってくる。

( '-')「おじさん、トラギコさん?」

(=゚д゚)「あ、あぁ、そうだが?」

( '-')「あのね、これ、どうぞ」


( '-')「どうぞ、なの」

二人の少女に渡されたのは、白い花束だった。
思わず屈んでそれを受け取る。
花の良し悪しは勿論、種類もまるで分からない。
果たしてこの花束は何のための花束なのだろうか。

( '-')「プリンセチアって、お花なの」

(=゚д゚)「そうか、ありがとうよ」

382名無しさん:2018/12/16(日) 18:39:48 ID:1oQZzTTo0
その花が何を意味するのかはよく分からないが、知らなくても問題はないだろう。
問題があるとしたら、この花が何を目的として渡されたのか、である。


( '-')「ううん、私達がありがとう」

(=゚д゚)「え?」

未だに事態を理解できていない事を察し、傍にいた婦警がトラギコに耳打ちした。

「ブルーハーツ出身の二人です。
あれからジュスティアの施設で保護されることになったんです」

(=゚д゚)「……そうか」

ブルーハーツ児童養護施設で生き残った三人の内の二人。
アサピーが追う事の出来た二人だ。
あのままジャーゲンにいたら事態は悪化したかもしれないが、こうしてジュスティアに来たのであれば、少なくとも環境が悪くなることはないだろう。
彼女達の名前は知らないが、何はともあれ、元気そうで何よりだった。

( '-')「イトーイね、私達を助けてくれたの」


( '-')「悪い人をやっつけてくれて、きっとイトーイ、喜んでるから」

( '-')「だから、おじさん、ありがとう」

(=゚д゚)「……そ、そうラギか」

胸が痛い。
この痛みは、苦痛ではなく、心地よささえ感じる痛みだ。
これが何の痛みなのか、トラギコは知らなかった。


( '-')「私達、将来お花屋さんになりたいの。
   だからこれ、私達が作ったの」

( '-')「すごいでしょ」

(=゚д゚)「ああ、すごいな。
    凄く、良い花束ラギね」

嗚呼、とトラギコは気付いた。
これは、この痛みは、喜びだ。
イトーイの努力が、ビロードの努力が、トラギコの努力が無駄ではなかったことをこの子供たちが示している。
それだけでトラギコは報われたのだ。

383名無しさん:2018/12/16(日) 18:41:57 ID:1oQZzTTo0
助けた人間の名前など重要ではない。
重要なのは、助けた後にその人間がどうなるか、だ。
この子供たちはあれだけの目に遭いながらも、夢を見つけたのだ。
それが何よりも嬉しく、何よりもトラギコの心に響いた。

( '-')「おじさん、これからも元気で頑張ってね」

もしも。
もしもこの時、空の雲が晴れ、青空が頭上に広がらず。
もしもこの時、青空を背に輝く太陽の光が差し込まなければ。
思わず誰もが見上げるような見事な空が現れなければ。

(= д )

虎の流した一筋の涙に、きっと、誰かが気付いたことだろう。
立ち上がりながらさりげなく目元をぬぐい、トラギコは二人の頭を撫でた。

(=うд゚)「お前達も元気でな」

子供たちは夢を追い、今日を生きていく。
彼女達が安心して夢を追える世界であるよう、トラギコは前へと進む。
この手が汚れても構わない。
それで誰かを救えるのならば、何度でも汚れて見せよう。

受け取った白い花束を胸に、虎は新たな地へと向かうのであった――

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(=゚д゚)夢鳥花虎のようです
ED テーマ
https://www.youtube.com/watch?v=RFNbKy-w-ug
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384名無しさん:2018/12/16(日) 18:42:55 ID:1oQZzTTo0
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385名無しさん:2018/12/16(日) 18:46:02 ID:1oQZzTTo0
‥…━━ 十五年後 某日 某所 ━━…‥

西側沿岸部を対象とする警察本部は湾岸都市オセアンから北西に30キロほどの位置にあった。
本部には長期にわたる仕事と夜勤を考慮し、仮眠所を兼ねた休憩部屋がいくつもあった。
小さな休憩部屋に置かれたベッドの上で仮眠を取り、昔の夢を見ていたトラギコ・マウンテンライトは起き上がり、大きな欠伸をした。

(=゚д゚)「ふぁぁっ……」

CAL21号事件はトラギコにとって、一つの教訓であり、忌々しい思い出だった。
以降、トラギコは難事件の解決に躍起になり、多くの犯罪者を逮捕・殺害してきた。
何度も注意を受けるも、トラギコは在り方を変えるつもりはなかった。
その結果が年間休日10日というもので、有給はモスカウに配属されてから一度も使っていない。

昨夜も一つの事件を解決し、ようやく仮眠をすることが出来た。
どれだけトラギコが犯罪者たちを懲らしめようとも、凶悪な犯罪が無くなることはなかった。
だが犯罪が無くなりはしなかったが、トラギコが救う人間も無くなることはなかった。
あれから毎年、ビロードの命日にはジュスティアの花屋に電話をし、墓に供える花を用意するように頼んでいる。

あの二人は無事にジュスティアで花屋を営み、夢を叶えていた。
トラギコが墓参りに行けない時は、花屋の二人がビロードの墓に花を供えた。

(=゚д゚)「ねみぃ……」

寝覚めのコーヒーを備え付けのポットから紙コップに注ぎ、喉に流し込む。
十五年の歳月は多くの事を変えた。
ショボンもジョルジュも退職し、ドクオは獄中で心臓発作を起こしてあっけなく死んだ。
アサピーはCAL21号事件が起きた翌年に新たなスクープを追い求め、とある人身売買組織への潜入取材を最後に行方不明となっている。

セントジョーンズは銀行強盗に遭遇し、人質を逃がすために犠牲となって殺された。
CAL21号事件に関係していた人間で現役なのは、もう、トラギコ一人になっていた。
重い足取りで休憩部屋を出て、モスカウ部署に向かった。
部屋に入るとすぐに、ヘッドセットを付け、電話の応対をしていた上司がトラギコを呼び止める。

从´_ゝ从「おうトラギコ、起きたか」

(=゚д゚)「あぁ、何かあったのか?」

从´_ゝ从「オセアンで事件だ。どうだ、行けるか?」

オセアンと言えばかなりの都市だ。
交易で栄え、インフラはかなり先進的な物が揃っている。
配属されている警官達はそれなりにベテランが多いと思うのだが、と言おうとしたがそれを察知した上司が先に口を挟んだ。

从´_ゝ从「ログーラン・ビルで銃撃戦やら爆発やら、とにかく滅茶苦茶らしい。
     一筋縄じゃ行かなそうな事件で、長期化が予想される。
     前の日には結構な銃撃戦もあったみたいだし、こいつは離れしてないと無理だ」

(=゚д゚)「……ちょっと興味が湧いたラギ」

从´_ゝ从「オーケー、そうこなくちゃ」

386名無しさん:2018/12/16(日) 18:47:23 ID:1oQZzTTo0
警官として生きていく以上、いつ命がなくなっても不思議ではない。
セントジョーンズがそうであったように、この世界にはまだ多くの危険が潜んでいる。
特に、自ら進んで犯罪に関わろうとする人間は恨みを買う事が多い。
モスカウ所属の人間は特に恨みを買うため、布団の上で死ぬことが出来れば御の字とさえ言われている。

オセアンで起きたという事件、果たして、どのような組織が関わっているのか。
大規模な組織であれば潰し甲斐がある。
そこから芋ずる式に組織の細胞を摘発し、壊滅させれば犯罪者の数がかなり減らせるはずだ。

从´_ゝ从「ところで、一つ質問してもいいか?」

(=゚д゚)「何ラギ?」

从´_ゝ从「俺が言うのもなんだが、この仕事、よく続けられるな」

これまでに何度も聞いてきた言葉だった。
これだけ危険な仕事でありながら給料は安く、組織内でトラギコに対する風当たりは強い。
未だにCAL21号事件でのトラギコの行いは蛮行だと言い伝えられ、新人の警官でさえトラギコは暴力警官であるという認識を抱いている。
それ自体はまるで構わないが、何も知らない人間にあの事件を語られることだけは許せなかった。

あの事件を語っていいのはトラギコと、そしてビロードだけなのだ。
他の誰にもあの事件は理解されないし、理解してもらいたいとも思わない。
裁判で声を上げ、法律に対して唾を吐き捨てた人間にしか分からないのだ。
気持ちのいい環境ではないが、仕事はこれからも続けていくだろう。

今まで多くの事件を担当し、そして、トラギコはその答えを早い段階から見つけていた。
これは、とても簡単な話なのだ。
どれだけ理不尽な目に遭っても。
どれだけ納得のいかない事があったとしても、この仕事から手を引くことは考えられない。

何故ならこれは――

(=゚д゚)「――これが俺の天職なんだよ」

そして、虎と呼ばれた男は再び歩き出す。
新たな事件を求め、歩き続けるのであった――

(=゚д゚)夢鳥花虎のようです The End

387名無しさん:2018/12/16(日) 18:47:51 ID:1oQZzTTo0
これで本作品は終了となります

質問、指摘、感想などあれば幸いです

388名無しさん:2018/12/16(日) 19:05:11 ID:C44QNXkI0
乙です
トラギコの涙で俺も泣いた

389名無しさん:2018/12/16(日) 20:57:12 ID:M8qDW/S.0
乙!

390名無しさん:2018/12/16(日) 22:14:38 ID:/azRlEX60
乙乙
ここからトラギコとデレシアたちと関わり、Timberlandをはじめ、力が世界を動かす時代の渦にのまれていくのか。

作中のセントジョーンズが良いキャラしてて楽しめました。
作中で行方しれずになってるのはワタナベと予想してて、トラギコが何時気づくのか楽しみです

391名無しさん:2018/12/17(月) 02:40:25 ID:DIUtlLCQ0
乙です、素晴らしかったです。
すべてのシーンが映像で浮かんできました。

392名無しさん:2018/12/17(月) 05:12:11 ID:dEaiduAI0
おつ 感動した
展開も熱くて面白かった

393名無しさん:2018/12/17(月) 14:40:58 ID:q7flJSVw0
くっそ面白かった

394名無しさん:2018/12/17(月) 18:05:50 ID:JdffcN/s0
おつ
警察連中が熱すぎて後半たまらんかったわ
今回棺桶全く使ってないけどいつ手に入れるのかな?

395名無しさん:2018/12/17(月) 20:52:06 ID:yKhkRNrw0
銀色のアタッシュケースがどこかで出てきたな

396名無しさん:2018/12/17(月) 22:42:48 ID:DPbOzefU0
‥…━━ 二月二十六日 午前九時 ジュスティア駅前 ━━…‥

ジュスティア上空を薄く覆う灰色の雲が風に流され、時折青空の欠片が見える。
マックスから受け取った餞別代りの銀色のアタッシェケースを手に、トラギコは駅前に立ち、静かに待っていた。
迎えに来る人間の特徴は聞いていないが、向こうがトラギコの事を認識すれば問題はない。
駅を利用する人間は少なく、人の数はこの時間でもまばらだ。

397名無しさん:2019/01/05(土) 00:57:35 ID:hNYta5Ek0
警官になると同時に手に入れたとか思ってたけどそんな長くなかったんだな

398名無しさん:2019/01/05(土) 08:13:35 ID:JMgNNDyE0
>>396
よく見たらアタッシェケースだな

399名無しさん:2019/05/14(火) 01:57:48 ID:cccQQ99k0
やっと読んだ
本編も楽しみにしてます


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