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('、`*川魔女の指先のようです
272
:
名無しさん
:2018/01/08(月) 07:37:12 ID:WgoVE2mI0
嵐の後に吹いてくる暑い風が、潮の香りが、季節を、夏を無言で伝える。
蝉の声と風の音だけが、彼の心に僅かな忘我を許した。
今が戦争状態にある事を忘れさせる癒しの空気に、思わず涙が出そうになる。
戦争と恐怖を忘れられたら、どれだけ幸福なのだろうか。
一瞬だけの忘却に頬を濡らし、ハルトマンは日常がもたらす幸福感を改めて痛感した。
戦争ばかりではなく、平穏にこそ目を向けなければならないのだ。
昨日死亡したジョルジュ・ロングディスタンスの婚約者が身籠ったという知らせが今日届き、その幸せな知らせと引き換えに彼の訃報が告げられた。
兵士を恋人に持つ人間ならば分かっていたはずの事態だけに、婚約者の女性は冷静に報告を聞き、電話を終えた。
担当者が言うには、彼女の声は淡々としている風に聞こえたらしいが、やはり、大きなショックを受けている様子だったという。
典型的なジュスティア人らしく死を受け入れ、強く振る舞う事を徹底された人間は皆彼女の様な態度を取る。
気丈に振る舞うことにこそ美学があり、英雄的な死を皆で喜ぶという昔から続く慣習は今でも健在だった。
それは、平和を真に愛するからこそできる態度だった。
彼にも家族がいる。
結婚してから一〇年目になる妻と、七歳の娘だ。
出来れば彼は、自分が死んだ時には悲しんでもらいたいという気持ちがあり、それと同時に、新しい人生を踏み出してほしいとも思っていた。
子持ちの未亡人が女手一つで子供を育てるのは大変な話だ。
それならば新たな夫を迎え入れ、子供を無事に育て上げてほしいものだ。
感傷と感動から物思いにふける彼は、その時自分に向けられている視線に気づく事は出来なかった。
それが彼の死因の一つだった。
______________________∧,、___
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V`´ ̄ ̄
遠方。
元イルトリア軍の駐屯基地であり、現ジュスティア軍の駐屯基地を遥か眼下に敷く山中に一人の狙撃手が潜んでいた。
その人物は呼吸を整え、すでに射撃体勢を完成させていた。
イルトリア式の簡易偽装掩蔽壕は完璧な作りだった。
遠目に見れば茂みそのもので、近くから見ても注意深く見ない限りは、見破られることはない。
山腹に着弾した砲弾の作り出したクレーターは、絶好の隠れ蓑として狙撃手を保護していた。
新たに集まった情報を基に作戦が立てられ、狙撃手は己の役割を果たすべくその場から基地を見下ろしていた。
狙撃手の持つライフルは無骨で愚鈍そうな印象を与えるが、その実、それが持つ威力は絶大だった。
三キロ近く離れたこの地点から基地に着弾させることも可能だ。
ライフルの威力が殺傷力を失わない限界の地点。
これまで訓練以外でこの距離での狙撃を行ったことはなく、訓練では失敗に終わっている。
それでも、狙撃手は失敗ではなく成功することを脳裏に思い描き、銃把を握っていた。
失敗を想像すれば腕に力が入り、銃爪を引く際に微量の誤差を生む原因となる。
若い狙撃手はそれを熟知しており、決して、失敗のイメージを頭に思い描かなかった。
狙撃手の頭にあるのは複雑な演算を高速で処理するための準備だけだった。
生体計算機と化した狙撃手は、光学照準器の十字線がどこを狙えば理想通りに弾丸が飛んでいくのか、毎秒毎に再計算をしていた。
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