したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

('、`*川魔女の指先のようです

138名無しさん:2017/12/25(月) 22:59:07 ID:ZLy5QeVs0
生き残り、そして勝つには生き残った兵士が何か行動を起こすよりも先に彼を見つけ出し、捕獲もしくは射殺しなければならない。
だが無線機は一向に敵発見の知らせを告げてはくれない。
五〇人の他にも狙撃に精通している人間が位置に着いているはずだが、その彼らでさえも沈黙を保ったままだ。

果たして本当にいるのだろうか。

確かに、早朝に起こった事件の内容を考えれば狙撃手の存在が濃厚だろう。
観測手と狙撃手の四人をアサルトライフルで狙い撃つなど、並の兵士の仕業ではない。
それでも、狙撃手が賢ければ中隊相手に一人で戦争を仕掛けるとは考えにくい。
イルトリア人ならば猶の事そうだ。

彼らは徹底した軍人だ。
感情ではなく利害で作戦を考え、行動する。
その様は機械の様でもあるが、戦い方は獣そのものである。
基地が攻め落とされた今でも報復をしてこないのは、彼らが大きな戦争の果てに残る物が何なのかを冷静に分析し、理解しているからに他ならない。
倉庫を爆破したのは一時の報復で、それ以上は何もしてこないかもしれない。

楽観的な意見が鎌首をもたげたその一瞬。
無線機から火葬が始まった事を告げる連絡が入ってきた。

______________________∧,、___
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V`´ ̄ ̄

火葬が始まると、予想していたよりも島民の反応が大きく、女性の一部は口元を隠して涙を流した。
死体を焼き始めた証である黒煙が煙突から立ち上ると、そのどよめきは大きくなった。

参列者に扮して潜入していた兵士達は、周囲に視線を向け、不自然な行動をする人間がいないかを探した。
兵士同士で視線が合うと、彼らは首を横に振ってこの状況の中で探し出すのは非常に難しいことを表現した。
もしも一人だけが感情的な反応をしていればすぐにでも見当が付けられるが、数が増えれば当然それが難しくなる。
とてもではないが、数十人規模の人間を理由もなく確保するのは無理だ。

半ば諦めの感情が入り混じる中、彼らの中にはもう一つの思いがあった。
仮に敵が森ではなくこの人ごみの中にいるのだとしたら、この混乱を利用していつ誰が殺されてもおかしくはない。
ある種の恐怖が彼らの中に芽生えつつあった。

その時、彼らのイヤフォンから蚊の鳴く様な小さな声が聞こえてきた。

『ぜ、全員に……通達……い、イルトリアの兵士が……!!』

直後、耳をつんざく絶叫が彼らの耳を聾した。
この世のものとは思えない、苦痛に満ちた叫び声。
それは人ごみの中から聞こえてきた。

断末魔の声が響き渡り、それは周囲に恐慌状態を引き起こさせた。
悲鳴が響き、人ごみが一気に動く。
引き留める訳にもいかず、動けなかったのは訓練された兵士達だけだった。
そして、血溜まりの中に膝をついて俯く喪服姿の一人の男。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板