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('、`*川魔女の指先のようです

128名無しさん:2017/12/25(月) 22:47:45 ID:ZLy5QeVs0
地下を無言で歩くペニーは薄手の長袖シャツにジーンズというラフな格好をしており、それは、一切の疑念の余地もなく無防備そのものの服装だ。
被弾すれば銃弾は彼女の肉を穿ち、臓器を傷つける。
最悪の場合は骨を砕き、その奥にある血管を傷つけて大量の赤黒い血を体外へと放出することだろう。
そうなれば自力での止血は不可能であり、失血死は避けられない。

より良い装備で臨めればいいが、突発的にこのような事態に巻き込まれたペニーに十分な装備などあるはずもなく、特に嵩張る衣服の装備は最も低い優先順位に位置している。
服は環境に適応するために作られ、運用する物で、決して戦闘力や殺傷力を高めることを目的としていない。
足りないのであれば実力で補えばいい。
冷たい空気の地下道はこれまでに一度も使われたことも点検も掃除もされたことの無いもので、ペニーが歩くごとに足元で埃が舞い上がった。

誰もいない空間にブーツの踵がコンクリートを踏み慣らす音が響く。
ここには監視カメラも警備もいないが、籠って澱んだ空気が肺を蝕む。
明かり一つない空間を、ペニーは無言で進んだ。

潜入任務ならばそれ相応の服装や装備があるのだが、今のペニーは贅沢を言える余裕はなく、そのような状況にもないため、私服で潜入する他なかった。
防弾ベストもなければ、室内戦で威力を発揮する短機関銃もなく、あるのはグロックと剃刀のように切れ味のいいナイフだけだ。
もっとも、この武器を使う機会はまずないだろうというのがペニーの見解だ。
敵の只中で拳銃とナイフだけを頼りに戦うというのはあまりにも現実離れした話で、勝算はないに等しい。
無謀な賭けに出るにはまだ早く、そこまで絶望視するような状況でもなければ、楽観的に考えて対抗出来るような相手ではない。

世界の正義としての地位を確かなものにしつつある街の軍隊を相手にするには、もっと徹底した準備が必要だ。

倉庫に通じる梯子階段を上り、頭上を塞ぐハッチのバルブを両手で捻る。
金属が軋む音をさせながら、重く丸いハッチが少しずつ開いていく。
やがて蛍光灯の淡い光がペニーの目に入ってきた。
ベージュ色のリノリウムの床、そして背の高い棚とコンテナの林が続く。

倉庫内を歩く跫音は勿論、人の気配もしない。
ハッチを完全に押し開くと、ペニーは慎重にそこから半身を出し、周辺に銃腔を向けて改めて注意を払った。
誰もいない事を完全に確認し、跫音を立てないように気を付けて全身を出し、再び軋む音をさせながらハッチを閉める。
偽装用の床板をその上に乗せると、そこにハッチがあったことも、あることも分からなくなった。

広々とした倉庫の天井は高く、湿度と室温はエアコンで最適に管理されている。
弾薬や爆薬が厳重に保管された倉庫に湿気と火気は厳禁。
保管されているのは銃器だけでなく、軍服や軍靴、救急セットや野営道具一式といった兵站そのものだ。
棚にはオリーブグリーンのコンテナに兵站が納められ、隙間なく積まれている。

ペニーは事前にアサルトライフルのコンテナからG36の入った四角いケースを取り出し、予備弾倉と弾薬をグロックの物も合わせて大量に用意していた。
更に、別のコンテナからG36とグロック用のサプレッサーも調達し、倉庫の隅に駐車されたバイクのパニアに武器弾薬を全て積み込んでおり、
万が一の際に準備に時間を取られないようにしていた。
その一工夫が、今ここで生きた。

本当であれば、使わずに済めばいい準備だったがペニーは予感に従い、準備をした。
準備を怠ればそれは数十倍、数百倍になってその人間を襲う事があると知っているからだ。
常に備え、常に最善の状態で戦いに挑む。
それが戦場で長生きするための秘訣でもある事を、ペニーはよく知っていた。


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