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('、`*川魔女の指先のようです

102名無しさん:2017/12/25(月) 22:11:54 ID:ZLy5QeVs0
三人は体が冷えることで引き起こされる運動能力と思考力の低下について、よく知っている。
夏の日差しを浴びているとは言え、海中で長時間運動をしていると体温が低下し、運動能力も下がってしまう。
特に恐ろしいのは体が動かなくなることだ。
冷たい海流に捕まりでもしたら、筋肉が力を失い、そのまま浮上することなくボンベ内の酸素を使い果たして死に至るだろう。
熟練のダイバーが溺死する原因の一つがそれだ。

操舵室に用意された適度な温度のコーヒーを啜りながら、ニクスは海図を睨み始めた。
細かく線の引かれた海図には海流が描かれていないが、その上に透明のフィルムを一枚被せると、赤いペンで書かれた海流の向きを示す矢印が海流の上に現れた。
今度は船が沈没した場所と砲撃した場所、その後の船の動きが緑色の矢印と書き込みで分かるようになった。
後はその強さ、そしてここ四日間の海流のデータが記入された紙を見ながら潮の流れを予想する。

事件現場の潮は東から西に向けて流れているが、入り組んだ海底ではその流れが変わってくる。
それを予想することが出来れば、沈んでしまった証拠品が今どのあたりに流れ着いているのか、大まかではあるが予想をすることが出来るという寸法だ。
海流をなぞるようにして指を海図の上で走らせ、その指がある一か所で止まる。

「北北西の辺りか……」

その指は、これまで彼らが捜していた場所から北北西に五〇〇メートルほど離れた場所で止まっていた。
今までは密漁船の動きばかり追ってきたが、ニクスが新たに注目したのは哨戒艇だった。
スペイサーの体を貫通した銃弾は未だに見つかっていないが、それが見つかればジュスティアが証拠隠滅を行ったと逆に糾弾することも出来る。
その一帯は深さも水深三〇メートルほどと深く、ジュスティアがまだ調査をしていない可能性は十分にあった。

しかし、今日までその近辺の調査を念入りに行わなかったのには理由がある。
密漁船の沈没地点はジュスティアの海域であり、つまりその一帯は、非常にデリケートな海域であるという事なのだ。
現在調査をしている場所も、境界を示すブイから一キロしか離れていない。
ジュスティア海軍の哨戒艇と鉢合わせにでもなれば、最悪の場合は戦闘にも発展しかねない。

だが、あえてその海域に行くだけの価値はある。

「少佐、この辺りを探してみませんか?」

「何かあるのか?」

氷の浮かんだアイスコーヒーを啜りながら、テーロスが海図を覗き込む。

「スペイサー伍長の体を貫通した銃弾がこの辺りに沈んでいるかもしれません」

「証拠物件A002か」

事件の重要証拠として挙げられているのが、スペイサーを殺めた銃弾の存在である。
これは現在も捜索中の証拠物件であり、後々のためにナンバリングされ、発見され次第正式にそれを証拠物件として登録する予定だった。
この証拠物件A002と証拠物件A001であるライフルさえ見つかれば、事件がこれ以上イルトリアとジュスティアの関係を悪化させずに済むだけでなく、戦争の勃発を防ぐことも出来る。
しかし、たった一発の銃弾を海の中から探すのは途方もない作業だ。
砂漠の上に落とした指輪を探すよりも困難だ。

それでもニクスがそれを提案したのには、ジュスティアに対する信頼からだった。
彼らは証拠を徹底的に捜索し回収しただろうが、それが自分達の街の人間にまつわる物だけだと考えると、この証拠物件A002がまだ彼らの手元にあるとは思えない。
彼らの徹底ぶりはよく知っているからだ。
回収されたり破壊されてしまった可能性のある証拠物件A001を探すよりも、確実に存在する有力な証拠を探した方が有意義だと思えたため、ニクスはこの証拠の捜索に賭けることにしたのである。


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