[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
CARGO!!
1
:
◆rUCCxWiwxg
:2017/08/26(土) 09:33:30 ID:Eo9hzRWw0
【cargo】:貨物 船荷 積み荷
.
239
:
名無しさん
:2017/09/17(日) 23:47:09 ID:WbTQCkUA0
新感染良かったよねぇ。 父親の成長譚として最高。
日本でもアレくらい面白いゾンビ映画作られないかなぁ。。。
乙!
240
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/04(火) 23:53:28 ID:rNWdNHQU0
( A )
産まれたての赤ん坊は、真っ先に母の乳を求める
『食欲』。育つ為、生きる為、悦びの為に、誰一人の例外なく抗えない欲求
( A ) グチャ……ニチャ……
後に、終生の友となり家族となる『あいつら』も同じく
( A ) ボキ……ゴク……
始まりは、気が狂うほどの空腹―――『食欲』から始まったらしい
( A ) ジュル……ブチッ……
そう言った意味では、同じなのかもしれない
( A )「オ……」
『人』として産まれるのと、『ゾンビ』として産まれ変わるのは
241
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/04(火) 23:54:22 ID:rNWdNHQU0
('A )「オ……」
('A`)そ「オイやべえなんだ血まみれじゃねえかビビるわ」
('A`)「美味しい」ベロンチョ
.
242
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/04(火) 23:55:17 ID:rNWdNHQU0
Chapter.1 Lucky man
.
243
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/05(水) 00:00:59 ID:flMwVd.20
ウォーキング・デッド。誰かが奴らをそう呼んだ。全く、上手い事言いやがる
世界の死は、『歩くような速さ』で進んでいるのだから
('A`)「全くなんだってんだ……」
住み慣れた汚ぇアパートの部屋はいつも以上に取っ散らかってる
ガラスバキ割れーのソファーぶっ壊れーの、知らんオッサンが腸グチャグチャになっておっ死んでやがりーので
('A`)「あーあー……」
俺ん家でパージでも開催されたのかよって位の荒れっぷりだ。いま正に世界中がエブリディパージフェスティバルみてーなもんなんだが
しかし解せない。生まれて二十数年が経つが、肥満の国らしからぬガリガリボディでナード界の最底辺に位置する俺が
割と恰幅の良いオッサンと『殺し合って』、『勝ち』、尚且つ『食う』まで達成するとは。人類史に刻むべき快挙なんじゃないだろうか
('A`)「ハァ……」
そもそも、殺されるまでも無く俺は死ぬつもりだった
エブリディパージフェスティバルが幸いして、大量のアルコールと睡眠薬が手に入ったのでサクッと逝こうとしたのに
クソ、役に立たねえなダニエル。この百数十年、散々酒乱の人生を台無しにしといて俺一人も殺せねえのか琥珀色の小便が
痛い思いしてでもこいつの角で頭ぶつけて死ねば良かったかもしれねえ。腹いせに空き瓶を軽く蹴っ飛ばすと、何かしらんが粉砕した
('A`)「ええ……?」
状況に対する困惑は当然ある。しかし取り乱す程でもなく、冷静を保ち続けられる奇妙な落ち着きもあった
この返り血で染まった俺の身体の事もあるし、さっきまで食いちぎってたオッサンの汚ぇ腕の事もある
脂肪たっぷりの上腕部には『Cindy』の入れ墨。うわわわわ、若い頃にテンション上がって恋人の名前掘った痛い男の腕食っちまったよ
('A`)「あーもー……」
お国柄を大げさに表現するのなら、『ああ、神よ!!』とでも喚き散らしてたのだろうが、代わりに口から出てきたのは下品なゲップの音だった
鉄の臭いが口内に充満する。奥歯に何かが引っかかってる感触があり、指で挟んで取ってみると分厚い人の皮膚だった
244
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/05(水) 00:02:53 ID:flMwVd.20
('A`)「あー……」
パニックを起こして然るべきなのだろうが、依然として気分は落ち着いていた
第一に『満腹感』があったからだ。金さえあれば幾らでも飲み食いできていた時代とは違い、今は日々を食いつなぐのに精一杯
満たされているとは則ち『幸福』とも言い換えられる。久しく感じていなかった多幸感が、異常による恐怖を抑えているのだろう
('A`)「フゥー……」
そして落ち着きとは『余裕』だ。ここに到るまでの行程を正確に思い出すには最適の状態と言える
そもそも、俺は何故死のうと思ったのか。先ずはそこから考えよう
('A`)「えーと……」
確か、ゾンビから逃げてきたであろう女を色っけ出して助けようとしたのがそもそもの始まりだ
ブロンドのスタイルが良い美女が一人で行動してる時点で違和感を感じるべきだったが、長い孤独期間と溜まった性欲で感覚が麻痺してたのだろう
ヒーローさながらに救出し、あわよくば……などと飛び出したは良いが、あれよあれよと言う間に連中のお仲間に取っ捕まって手酷く痛めつけられた
まぁ、奴らが全部悪いたぁ言わねえよ。こんな世の中だ。誰だって人を欺いてでも生き延びたいに決まってる
だが因果応報という言葉もある。俺が持ってた物資を粗方奪い、さぁ後始末だとばかりに拳銃を突きつけられた瞬間、これまたタイミングよく『捕食者』が現れた
手垢の付いたB級映画かよってくらいの実に鮮やかな襲撃により、その場は大混乱。俺もなんとか『人』の手からは逃げおおせたのだが
245
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/05(水) 00:07:27 ID:flMwVd.20
('A`)「うん……」
ゾンビにとっちゃ俺も餌の一つに過ぎず、右手にガブリと噛み付かれてしまった
まぁ、この場に原型とどめてボーッと突っ立ってる時点でそいつからも逃げられたのは察しが着くだろう
だが、古来から伝わる伝統的パターンを鑑みれば、噛まれた段階で『詰み』だと解くことも出来る
だから俺はせめて苦しまずに逝こうと睡眠薬を酒で流し込んで死のうとした
よくよく考えれば頭をぶち抜かないと蘇るじゃねえか。この期に及んでヘタレが先行していたらしい
で、意識が遠のいて目が覚めたらこのザマだ
薬と酒でオツムがイっちまったからと言って、腹一杯になるまでオッサンの肉を食らうか普通?
('A`)「そうだ、傷は……」
せめてもの抵抗として止血だけはしていた右手を確認する。痛みはなかった
暴れた時に緩くなったのであろう布を取っ払うと、そこには幾らか小さくなった噛み傷が残っていた
('A`)「ええ……?」
『治りかけている』。皮膚細胞が数多くの治癒行程を取っ払って直接結びついたかのような迅速さで
そしてもう一つ異常があった。肌に血の気が全くない。それは右手だけに留まらず、全身が『奴ら』のような有様だった
246
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/05(水) 00:09:30 ID:flMwVd.20
('A`)「うむむ」
これは無事、世界人口の大半を占める連中の仲間入りを果たしたと言うことなのだろうか
いやいや、それにしても異常が多すぎる。傷のこともそうだし、そもそも俺は『思考』が出来ているではないか
『お仲間』も総じてそうなのか?まさか。頭を使って行動しているようにはとても見えない
それに、奴らの生傷は決して治らないままだ。四肢が捥がれても、肉を求めてジタバタともがき続ける悲しい存在の筈だ
('A`)「……」
よーく傷を観察してみると、ゆっくりとだが確実に塞がっている。何が作用したらこうなる?
左手の親指でなぞってみると、血の他の物が付着した。粘り気のあるそれは、血を舐めとった時についたのだろう
('A`)「……」
もしやと思い、その粘液を傷口に垂らしてみる。すると、活力を取り戻したかのように傷口の治癒は進み
ものの数秒の内に、目を凝らさないとわからないくらいに完治してしまった
('A`)「なるほどね」
『唾液』。これが謎の答えらしい
247
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/05(水) 00:13:32 ID:flMwVd.20
('A`)「さて……どうしたもんかね」
以上の状況を整理すると、俺は立派にゾンビとして転生した。転生?胸に手を当てても心臓は動いてないけど、転生?まぁいいや
人を食う事に関してだけ言えば、胸を張って主張しても問題ないだろう。しかしオツムと唾液に関しては?
俺は別に奴らの研究者でもなんでもない。検証など一度も行ったことはないし、その余裕もなかった
つまり、考えるだけ無駄なのでは?解決策など有りはしないだろう。死人は絶対に生き返らないのだから
('A`)「……」
思考を持つゾンビ。なんかの映画で観たな。そいつらは総じて『生まれ変わって清々しい』と宣っていた
正直クソつまんねー映画だったが、まさか自分がそうなるとは。今となってはそいつらの気持ちもわからなくはない
物の試しに、空き瓶を拾ってみる。皹が入っていないことを確認し、強く握りしめた
('A`)そ「うおっ!?」
薄い氷でも割ったかのような手ごたえが広がり、瓶底が俺の足先に落ちた。痛くはないが反射的に右足を引く
なんてこった。生まれてこの方『パワー』なんてもんに縁がなかった俺が、たちまちスーパーマンじゃねえか
(;'A`)「ハハ……ハハハ……いやどうすんだよこれ……」
生前……生前?まぁ生前でいいや。生前もコミュニティとやらから逸脱していた人生だったが、まさか人でもゾンビでもない存在になるとは
さぁ、いよいよ孤独が加速してきた。どうする?これまで通り『人』として生きるか?それとも、『ゾンビ』らしく人を襲って食つなぐか?
(;'A`)「……へっ」
何をバカな。どっちにしろ同じだ。俺は一つの選択肢を選び、しくじった。『死ねなかった』
イエス様が直々に天国への階段から蹴り落とし、地獄の悪魔が慰めに贈り物をしてくれた
人を食うからなんだ?絶望したか?いいや、『NO』だ。むしろ胸の奥底からマグマのように高揚感が溢れ出してくる
(*'A`)「へへ……ははははは!!」
やれるとこまでやろう。行けるとこまで行こう
終わった世界で拾った命、コソコソと引きこもるのはやめだ
248
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/05(水) 00:15:40 ID:flMwVd.20
('A`)「っしゃ!!」
頬を叩いて気合を入れ、汚れた服をその場に脱ぎ捨てクローゼットを開く
ボストンバッグに衣類と万一に備え隠していた水と食料、一応、余った『ダニエル』も放り込んで肩にしょい込む
おっと、ポスト・アポカリプスを生き抜くには先立つものも必要だな。季節外れのサンタクロースは、『飯』と一緒にプレゼントも届けてくれた
('A`)「こいつは貰っていくぜ」
ガバメントと替えのマガジンが差し込まれたホルスターを抜き取り、腰に回し着けた
狩猟用の二連式ショットガンを拾い、メイトリックス大佐さながらに担いで見せる
('A`)「様になってるか?ん?」
右頬が大きく裂け、虚ろな瞳を向けるオッサンは一言
「ヴァァ」
と返事をした。うむ、好評でなによりだ
('A`)「部屋は譲るよ。じゃあなMr.ミートパイ。シンディによろしく伝えといてくれ」
部屋の鍵を投げ渡し、颯爽と後にしようとして忘れ物に気が付いた
('A`)「おっと……これこれ」
人類が生み出した中で最も偉大な発明品。『ウォークマン』だ
(*'A`)「行ってきます!!」
住み慣れた我が家に永遠の別れを告げ、二段飛ばしで階段を駆け下りた
息は全く上がらない。脚に乳酸が溜まっていく気配もない。ロビーの扉を開け放った時には、世界から祝福されたかのような爽快感に満たされた
そして、アパートの前に駐車されている車を見て、思わず天に向かって投げキッスをしてしまった
249
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/05(水) 00:17:40 ID:flMwVd.20
(*'A`)「ああ、ミスターミスターミスター!!アンタって野郎は最高にイケてやがる!!」
足まで用意してくれてるたぁ気前がいい。運転席に乗り込んでキーを確認すると、なんと挿しっぱなしであった
なんてこった。生まれ変わった途端、幸運の女神様から熱烈なアプローチを受けっぱなしだ
(*'A`)「オーケーオーケー……落ち着け……」
キーを回すと車が嘶きを上げた。実に甘美な響きだ。惚れ惚れする
シートベルトを締め、バックミラーを調整する。不意に映った俺の顔面は、血色の悪さとニヤケ面が加わり更に酷かった
構うものか。誰が俺をあざ笑えると言うんだ?今や俺以外の連中は死人か『パン』だ。笑えるものなら笑ってみろ
(*'A`)「さぁ、行くぜ行くぜ行くぜええええええええええええええええッ!!!!」
クラッチを踏み、ギアをローにいれ、アクセルを思いっきり踏み込む。映画さながらの急発進と共に
ウォークマンの再生ボタンを押した―――――
250
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/05(水) 00:19:14 ID:flMwVd.20
CARGO RE:Member
.
251
:
◆L6OaR8HKlk
:2019/06/05(水) 00:23:42 ID:flMwVd.20
今日はここまでだし続きはいつでるかわからん
当初はおわはじ祭用に書いてたものなんですが、めんどくなって途中で投げた過去編です
百選ありがとうってことでプロローグだけ投下しました。本当にありがとうございます
じゃあ艦娘の続き書く作業に戻ります
252
:
名無しさん
:2019/06/05(水) 02:38:08 ID:wQCTPmnQ0
まじかこれは期待
253
:
名無しさん
:2019/06/05(水) 15:21:15 ID:l.BwGISI0
続き来るなんて予想できねぇよ乙
前日譚だけじゃなく後日譚も見たい(強欲)
254
:
名無しさん
:2019/06/05(水) 17:32:48 ID:yj7y30u60
うわーまじか嬉しいぞおつおつ
楽しみにしてるよ
255
:
名無しさん
:2019/06/05(水) 18:01:14 ID:WtpeOdbg0
おつおつ
イトーイと喋らん奴と合流するところが楽しみだ
256
:
名無しさん
:2019/06/06(木) 01:11:03 ID:sbMmLd9s0
おっつおっつ
こっちもあっちも楽しみやで
257
:
名無しさん
:2019/06/07(金) 14:11:31 ID:BJqNHRrU0
うおお、乙
Mr.ミートパイって言い方めちゃくちゃ洋画で好き
258
:
名無しさん
:2019/06/19(水) 16:36:24 ID:06ooiGyc0
楽しみすぎる
259
:
名無しさん
:2021/02/10(水) 12:22:25 ID:KlXba6Ag0
ブーン系で一番好きな作品
続き待ってるよー!!!!
260
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:09:57 ID:sUPUImyY0
不測の事態ってのは、大小の規模に関わらず対処しにくいもんだが、大きければ大きいほど迅速な処置が求められる
しかし案の定というか想定の範疇というか。この『日出る国』は初動からミスの連発だった
検討に検討を重ねて対応が追いつかなくなる及び腰の与党に、喚くだけで足を引っ張る役立たずの野党
頭にアルミホイル巻きたがりの一部の国民は、ここぞとばかりに声高々に陰謀論を唱え、考える事をやめたアホ共が続々と洗脳され、暴徒と化した
治安は日に日に悪化の一途を辿り、都心から次々と蝕まれるように機能を停止していった
たったの三年と少しで、この国はゾンビ蔓延るアポカリプスに早替わりってワケだ
お国が全部悪いとは言わねえよ。人が人を喰うような惨状、本来なら銀幕の中だけの出来事だ
例えバケモンになったとは言え、家族でも友人でもない他人だろうが頭なんざぶち抜きたくもねえだろうし、まともな連中には出来もしねえだろう
『感染』が、『愛』や『情』や『慈悲』を上回った結果が、ご覧の有様ってだけだ。最も、その三つが世界を劇的に改善した前例も、俺が知る限りでは無いんじゃなかろうか
その後はまぁ、お察し頂けるだろう。生き残った人々は、跋扈する生きる屍から身を隠しつつ、滅びた街で慎ましく暮らしている
崩壊前と変わらない点と言やぁ、生きる為の労働は相変わらず着いて回るのと
人口が激減しても尚……いや、『激減したからこそ』、他人を良いようにダシに使う連中は後を絶たない事だ
261
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:12:12 ID:sUPUImyY0
(´・_・`)「さて……」
生憎、俺という人間はどうにも賢しく立ち回れるお利巧さんじゃなかった。幸いにも腕っぷしだけには恵まれていたので、廃墟漁りやコミュニティからの依頼なんかでなんとか食い扶持を稼いでいる
Win-Winなんてご高尚なビジネス用語もあるが、人をこき使う側の要望はいつだって『無償の奉仕』だ。仕事に難癖付けて報酬をケチったり渡さなかったりなど日常茶飯事だった
なら、報酬を前払いで貰えばいいんじゃないかって?そんな気前の良い奴、崩壊前にだっていねえよ。だけど―――――
(;´メ)ω(メ`)「勘弁してクレメンス……勘弁してクレメンス……」
(;メ)ω(メ)「前が見えねえ」
(;メ)A(メ)「お顔パンパンマン」
クソ野郎に報復しても罪に問われないって点じゃ、少しは生きやすくなったんじゃねえかな
262
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:13:24 ID:sUPUImyY0
(´・_・`)「俺ぁ、ご要望の円盤をキッチリ持ってきてやった。JK、痴漢、ロリ、OL、寝取られ、人妻、熟女、キモオタが大好きなゲイポルノまで。わざわざゾンビの巣窟になってる買取MAXに潜ってな。ついでに『シリコンの穴』まで用意してやった。俺なりのサービスさ」
(´・_・`)「その見返りが、ツナ缶三つ?驚いたね。チンポ野郎が三人揃っても、勘定一つロクに出来ねえんだからな」
『お宝』が詰まった段ボールを蹴とばすと、中から赤裸々な女性が写されたパッケージが散乱した
小汚いずっこけ三人組は、情けない悲鳴を上げてそれらをかき集める。思わず笑いがこみ上げるほど滑稽な姿だった
(´・_・`)「どう落とし前付ける気だ?ええ?」
(;´メ)ω(メ`)「まま、待ってくれ先生!!報酬はこれだけじゃあない!!ちゃんと他にも用意してある!!」
(´・_・`)「イカ臭ぇ手垢のついた中古DVDならいらねえよ」
こいつらはご察しの通りアダルトビデオの販売で生計を立てている。サービス業の衰退により娯楽が限られる昨今、こういった映像媒体の需要は高い
『命を懸けるまでもない物』だからこそ、安全に手に入るなら多少値が張っても欲しくなる。消費者心理をついた商才には舌を巻くが、俺のような流れの『仕入れ担当』を甘く見たのが運の尽きだ
(;´メ)ω(メ`)「へへへ……この世界で最も価値のある報酬は何だと思う先生?」
(´・_・`)「命か?」
マチェットを床に突き立てると、商人共の顔から媚びるような薄ら笑いは掻き消えた
263
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:14:13 ID:sUPUImyY0
(;´メ)ω(メ`)「安全!!安全だ!!BBZに載ってたんだ!!ここから少し行った先に、物好きな女が一人で立てこもってるバンカーがある!!」
『Bulletin Board Zombi』。通称『BBZ』。徘徊する習性を持つゾンビに、情報を書いた紙やらホワイトボードやらを首からぶら下げ、不特定多数の生存者に向けて発信するイカれた『歩く掲示板』だ
主に生存者コミュニティの場所や、使用可能なセーフハウス、救助要請などが記されているが、大半が悪戯か罠で当てにならない
(´・_・`)「何かと思えば……」
(;´メ)ω(メ`)そ「待ってくれこれはガチだ!!俺らも何回か部下を遣わして取引もした!!奴さん、ガッポリ溜め込んでいるみたいで優雅な暮らしを送ってる!!」
(´・_・`)「ほぉー?その女をくれてやるから見逃せってか?見下げ果てたクズ共だな。やっぱ一人残らず殺すか?」
(;メ)ω(メ)「はい!!こいつクズなんですお!!ぶっ殺してくださいお!!」
(;メ)A(メ)「本当にクズなんです!!支払いケチろうって言ったのもこいつなんです!!一人なら余裕でぶっ殺せるだろって!!」
(;´メ)ω(メ`)そ「ハァーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!??????俺は冗談のつもりだったのに部下を焚きつけたのはお前らじゃねえかブサイク共が!!!!!!!責任転嫁やめてくれますーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!?????」
(´・_・`)「よし、わかった、いいから……ああ、要点だけ話せ。すぐに」
ヤバい本当に殺したくなってきた
264
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:15:49 ID:sUPUImyY0
(;´メ)ω(メ`)「その女が人手を募集してんだ!!それもとびきり腕の立つ用心棒をな!!俺の手下も何人か立候補したが、全員門前払いだった!!だ、だがアンタなら申し分ない!!しょ、紹介状も書いてやるよ!!な!?」
(´・_・`)「見返りは?」
(;´メ)ω(メ`)「タンマリ非常食を積んだ、水洗トイレとユニットバス完備かつ浄水機能付きのバンカーで、ブロンド美女との同棲生活だ!!これ以上ない暮らしが出来るんだぜ!?」
安全な水、腐ってない飯、清潔なトイレに熱いシャワー。かつて当たり前のように享受していた『普通』は、今じゃ手の届かない贅沢品となった
胡散臭いが、魅力的だ。騙されたと思って行ってみるのもアリかもしれない
(;´メ)ω(メ`)「へ、へへ!!千載一遇のチャンスだぜ先生!!AV数十本の調達なんて安いもんじゃねえか!?なぁ!!」
(´・_・`)「……」
何を早合点してるのか知らんが、『これで手打ち』とは一言も言っていない。奴らの『商品』が詰まったリュックを二つほどひっくり返し、中を空にして投げ渡した
(;´メ)ω(メ`)「へ?」
(´・_・`)「そいつがパンッパンになるまで、水と食料を詰めろ。バンカーまでの地図と紹介状も忘れんなよ」
(;´メ)ω(メ`)「あの、いや……チャンスを……」
(´・_・`)「裏切りの代償にしちゃ、安いもんじゃねえか?それとも、『もっと高い支払い』をご所望か?」
マチェットを引き抜くと、三匹のクズは弾け飛ぶように立ち上がって物資倉庫へと一目散に駆けていった
後に残されたのは俺と、ゾンビみたくうめき声をあげる、ぶちのめした十数人ほどの手下共だけだ
(´・_・`)「ボスは選んだ方がいいぞ兄弟」
ツナ缶を開け、遅い昼食を摂り始めた
265
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:17:13 ID:sUPUImyY0
―――――
―――
―
(´・_・`)「こんな住宅地にねぇ……」
愛車の軽トラを走らせること二時間。寂れた地方の住宅地に、件のバンカーはドンと聳え立っていた
高さ二メートルほどの塀と有刺鉄線で囲われた、コンクリート作りの豆腐建造物。正面入口も重厚な鉄のゲートで閉ざされており、蟻の子一匹も侵入させないという気概すら感じられる
(´・_・`)「それに……」
塀を登って侵入しようとした不届者も過去にはいたのだろう。周りには衣服が焦げた死体が幾つか転がっていた
有刺鉄線には高電圧の電流まで流しているらしい。この家の持ち主はよっぽどのプロレスファンとみたね
門にはインターホンと、あからさまな監視カメラが設置されている。排他的な佇まいに少々気が引けるが、意を決してチャイムを鳴らした
(´・_・`)「ごめんくださーい」
返事の代わりに、軋んだ音を鳴らしてゲートが開く。『来るもの拒まず』のスタンスか
背後に迫っていたエプロン姿のゾンビを蹴飛ばして、エンジンかけっぱの愛車に乗り込みお邪魔させてもらった
266
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:18:15 ID:sUPUImyY0
(´・_・`)「立派なお宅だこと」
車三台分の広々とした駐車スペースに乗り入れると、ゲートはすぐさま閉じられた
車から降りると、こうもあっさり迎え入れられた理由が一目瞭然だった
庭には一切の飾り気がなく、ただコンクリートの打ちっぱなしが広がっているだけ
同じ材質の建物には、本来正面にあるはずの『ドア』が見当たらない。その代わりかは知らんが、壁際に宅配ボックスらしき箱が設置されていた
窓は幾つかあるが、大の大人が通れるようなサイズはなく、室内の様子も窺えない
(´・_・`)「えーと……」
【どちら様かしら?】
(´・_・`)そ「うおっ」
宅配ボックスの辺りにスピーカーでも取り付けているのか、噂通り若い女性の声が聞こえてくる
この腐敗と自由と暴力の真っ只中に、『女』であることを隠さないとは随分と不用心だが、セキュリティが万全であるという証でもあるのだろう
(´・_・`)「あー、用心棒を探してると聞いてな。ビデオ屋の紹介状もある」
【紹介状?いらないわ】
(´・_・`)「ホンマ役に立たんな……」
期待はしていなかったが、クズなどこんなもんか
267
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:19:15 ID:sUPUImyY0
【私が求めているのは、信頼に足る力を示す事だけ。そこに他人の評価なんて一切介入する余地はないわ】
(´・_・`)「お手柔らかに頼むぜ面接官様。それで?ここでアンタの気が済むまでスクワットでもしようか?」
【結構よ。もうすぐ着くから】
(´・_・`)「はいy」
頭上に影が差し、咄嗟に車から離れた。程なくして運転席のルーフは、上空から降ってきた『ヒトガタ』に踏み潰される
(;´・_・`)「クソッ!!バッタか!!」
変異体、『バッタ』。異常発達した脚力で飛び跳ねる厄介ゾンビだ
垂直に6メートル跳躍出来るこいつなら、高々2メートル程度の塀など軽く飛び越えられる。嫌な奴に目をつけられちまったな
(;´・_・`)「おい嬢ちゃん!!俺が良いっつーまで出てくるんじゃねえぞ!!」
返事は無い。暖かい声援に涙を禁じ得ないよクソッタレ
268
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:20:01 ID:sUPUImyY0
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
血脂で汚れたスーツに、薄ら寂しい頭頂部。割れたメガネの中年リーマン風バッタは、社訓斉唱でもするかのように汚い声を張り上げる
(#´・_・`)「フーッ……」
「アアッ!!!!」
ぺちゃんこになった軽トラを蹴飛ばして、バッタは大口開けて突っ込んでくる
奴お得意の黄金コンボだ。『怯ませて狩る』。これで何人もの『ご馳走』にありついたのだろう
(#´・_・`)「シッ!!」
右袖と襟を取り、一本背負いで頭からコンクリートに叩きつける
受け身すら取れないザコのバッタは、投げられるがままだ。頭蓋と首の骨が折れる確かな手応えがあった
「ア……」
ここまでやれば暫くは動けない。腰の鞘からマチェットを抜いて、二、三度ほど頭を『小突いて』やれば、処置は完了だ
(#´・_・`)「……」
そのまま暫く後続を待ち構えていたが、今のところ他の気配は感じられない
そもそも変異種自体がレア個体だ。群れをなされてたまるか
(;´・_・`)「フーッ……」
目立った音沙汰は無い。野良ゾンビが騒ぐ様子も無さそうだし、警戒は解いても良いだろう
しかし、殺風景とはいえお庭を汚してしまった。車もお釈迦になったし、幸先が悪い。ごめんねってしたら許してくれるだろうか
269
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:21:25 ID:sUPUImyY0
【入って】
(;´・_・`)そ「うおお!?」
ダンマリだった彼女が、俺の苦慮を容赦なく切り裂く。口から心臓飛び出るかと思った。実はもう出てんじゃない?これ元の場所に戻せる?
建物へと向き直ると、ボックスのすぐ側の壁がポッカリと抜けて中へ入れるようになっていた
恐らく、自動ドアをカモフラージュしていたのだろう。盗人が塀を越えたところで、入口がわからなければ手の付けようがない。抜け目のない設計だ
(;´・_・`)「テストは良いのか?」
【終わったわ。次は面接】
(;´・_・`)「終わっ…………ああ、クソ……」
少々の時間を要して、ようやく事態を理解した。このバッタは偶然現れたのではない。『呼び出された』のだ。俺の力量を測るために
ここを紹介したビデオ屋は、当然知っていた筈だ。送り込んだ手下が『門前払いされた』ってこたぁ、後は言わずもがな
つまり、俺は二度もあいつにハメられたってわけだ。やっぱり皆殺しにしとけば良かった
【早くして】
(´・_・`)「労いの一つくらい掛けたらどうだ?人でなしさんよ」
【言い得て妙ね。気に食わなければ出て行っても構わないけれど?】
嫌な女だ。車もお釈迦になったってのに出ていけるワケもない
マチェットを鞘に納め、豆腐ハウスに踏み入れようとして、ふと足を止めてしまう
【どうしたの?】
(´・_・`)「いや……」
武装解除を指示してこない。余程の能天気か、それとも『家の中』までセキュリティたっぷりか
恐らく後者だろう。クズは俺に隠し事をしていたが、『安全である』事に偽りはなさそうだ
それと、奴は女を『ブロンド美女』と言っていたな。そんじゃ、人でなしの女がどんなツラしているのか、拝みに行こうかね
270
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:22:10 ID:sUPUImyY0
―――――
―――
―
ξ゚⊿゚)ξ「いらっしゃい」
白衣を着た家主は、アイランドキッチンから盆を手に俺を出迎えてくれた
(´・_・`)「てっきり、俺はレーザーでサイコロステーキにされる廊下とか期待してたが」
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさいね。予算が無くて」
殺風景な外観に反して、中はごく普通の内装の部屋だ。リビングに辿り着くまで罠らしい罠も無かった
空気の埃っぽさもなく、空調の効いた室内では、俺の小汚さが余計に際立つ。服くらい着替えれば良かった
ξ゚⊿゚)ξ「掛けて頂戴。お茶を淹れるわ」
噂に違わぬ金髪蒼眼。やや化粧は濃いものの、『美女』と呼ばれるだけはある気量持ちだが
汚い野郎が刃物ぶら下げて踏み込んできたってのに、眉一つ動かしやしない可愛げの無い女だった
(´・_・`)「お構いなく」
ξ゚⊿゚)ξ「そう身構えないで。別に取って食いやしないわよ」
(´・_・`)「アンタはどうだか知らんが、今し方『お友達』に喰われかけた所でね」
ダイニングチェアに腰掛けると、テーブルにティーカップとお茶請けのクッキーが並べられる
ポットから注がれる紅茶の香りに、一瞬だけ先程の理不尽を忘れてしまった
そもそも、彼女はゾンビけしかけるようなサイコ女だ。お茶に一服盛ってムカデ人間手術してくるに違いない。あんなもん観なきゃよかった
271
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:23:13 ID:sUPUImyY0
(´・_・`)「あんな真似しといて、よく落ち着いていられるな」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。あなた、賢い人だもの。真っ先に逆上して襲ってこないのがその証明」
(´・_・`)「……」
どうやら、面接は既に始まっていたらしい。武装したまま踏み込ませたのもテストの内ってわけか
ξ゚⊿゚)ξ「賢さとは、何もお勉強の為だけにあるものじゃない。一歩立ち止まって観察し、目一杯思考を巡らせて、自分の中で最良の答えを見つけて行動する……」
ξ゚⊿゚)ξ「思慮深さもまた、賢者たる者の条件と思わない?」
(´・_・`)「知らねえよ」
オラ段々腹立ってきたぞ
272
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:24:13 ID:sUPUImyY0
(´・_・`)「俺は仕事をしに来た。それ以上でもそれ以下でもない。アンタと茶をしばきに来たわけでも、車をスクラップにしにきたわけでもねえんだ」
(´・_・`)「サッサと本題に入れ。無いなら俺はこれを飲んだら出て行く」
女は自分の紅茶を淹れ終えると、向かいの椅子に腰掛ける。防音がしっかりしているからか、壁に架けられた時計の針の音がクッキリと聴こえてくる
急かしはしたが、彼女は此方を品定めするかのようにジッと見据えるばかりで口を開こうとしない。これ以上は時間の無駄だ。アチアチのお茶をとっとと頑張って覚悟決めてカッコつけて一気に飲み干そうとカップを持ち上げ
(´・_・`)「……?」
何かこう、名状しがたい気色の悪さがふと湧いて出た。本来あるべきものがあるべき場所に無いような違和感
他人の家だとか初対面を相手しているとか、そういうレベルの話ではない。もっと人として大前提な部分で、何かが欠けている
(;´・_・`)そ「ッ!!!!????」
その正体に気づき、思わずカップを落としそうになる。時計の針の音が聞こえそうなほど静かな部屋の中で、本来聞こえねばならない音が欠けていた。彼女の『呼吸音』だ
ダースベイダーやウォーズマンほど大袈裟で無くとも、会話の区切りや、ふとした瞬間に『息遣い』は表れるものだ。どれだけ取り繕おうとも、『生き物は無意識のうちに呼吸をする』。特殊な訓練でも受けない限り、完璧なコントロールなど出来ない
目の前の女は微動だにしない。自分のカップを両手で包み、身じろぎどころか呼吸による胸郭の運動も見られない。息を止め、人形かロボットのように此方をジッと見据えてくる
何にせよ、気付いた以上『生き物』として見ることは出来なくなった。精巧なマネキンを相手にしているかのような悍ましさが背筋を伝う
273
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:24:59 ID:sUPUImyY0
ξ゚⊿゚)ξ「どうかした?」
(;´・_・`)「息してなくない?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。それが何か?」
あっけらかんと認められる。『さも当然』のような口振りがタチの悪い冗談に思えてきて、喉から乾いた笑いが漏れた
(;´・_・`)「あはははーはぁ……なんだ、その……息苦しくない?」
ξ゚⊿゚)ξ「お気遣いどうも。人前じゃ『する』ように心がけているわ。でも今は面接中だからね」
(;´・_・`)「関係あるのか?その……息を止めることに?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。観察眼と……バケモノを前にしてどのような反応をするか確かめる為に」
仕事がどうのこうの言ってる場合じゃないのかもしれない。自称『バケモノ』の女がマトモな例を見たことがないからだ。中学生くらいのガキならキショいだけで済むが、成人済みだと目も当てられない
カップを置いて、お暇しようと立ち上がる。すると女は、握手を求めるように手を差し出した
(;´・_・`)「あー……もうとっくにその段階は過ぎてるんじゃねえか?」
ξ゚⊿゚)ξ「これで最後よ。気に食わなければ出て行ってくれて結構」
274
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:25:50 ID:sUPUImyY0
女の眼光からは、『握手をしなければ、絶対に出ていかせない』という強い意志を感じる。随分とお気に召されたらしい
少し躊躇ったが、たった数秒くれてやれば済む話だ。サッサと終わらせて、悪い夢でも見たことにして忘れよう
(;´・_・`)「妙な真似はするなよ?」
ξ゚⊿゚)ξ「何のためにオモチャを持ち込ませたと思っているのかしら?」
女はもう片方の手を、テーブルの上に仰向けにして乗せた。『何も握っていない』というポーズだ
相手は丸腰の女。片や俺は武装した男。本来なら警戒すべきはあちら側だ。彼女なりの意思表示か
(´・_・`)「エロビデオ屋の連中よりかは、マシな部類かもな」
ξ゚⊿゚)ξ「それは光栄」
バケモノかもしれないが、彼女の行為には気高さを感じられた。敬意を表す意味も込めて、差し出された手を握り返す
(;´・_・`)そ「ウワッ!!!!!!?????」
そしてすぐさま手放した
275
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:28:02 ID:sUPUImyY0
(;´・_・`)「アンタ……」
冷たい掌であった。冷え性どうのこうのなんてものじゃなく、『氷でも握ったかのような』、骨身に染みる冷たさだったのだ
彼女はさっきまで、カップを両手で包んでいたのだ。俺が飲むのを躊躇うほどに熱い、淹れたての紅茶が注がれたカップを
俺に出されたカップと、彼女のカップを見比べれば一目瞭然だった。俺の紅茶は今だに湯気を上げているが、彼女の紅茶はこの短時間で冷め切っていた
(;´・_・`)「何のつもりだ?雪女にでも憧れてんのか?だったら出る作品間違えてんじゃねえのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「作品?」
(;´・_・`)「ああ悪い今のは無しで」
思わず妙なセリフを口走ってしまう。腰に手を当てて天井を仰ぎ、何とか気持ちを落ち着かせる
もっと的確な質問があるだろ。最早受け身対応が出来る余裕すらも消え失せたのだ。単刀直入に問わねばならない
(;´・_・`)「アンタ誰だ?何が目的だ?」
ξ゚⊿゚)ξ「津出 玲奈。元研究員。あなたには北海道網走までの護衛をお願いしたいの」
(;´・_・`)「研究員?網走?」
ξ゚⊿゚)ξ「この国で最も堅牢だった研究所がそこにあるのよ。尤も、今はどうなっているかわからないのだけれど」
(;´・_・`)「マジで言って……」
よりによって北海道の上の方。旅客機なんて飛んじゃいないから、陸路か海路で向かわねばならない
目的地に到着するまで、どれほどの旅程になるか見当もつかない。塞がれている道など無数もあるし、船を出せる生存者を見つけられるかも定かではない
勿論、どこに行ってもゾンビはうろついているし、物資目当ての賊にだって遭遇する。コミュニティに属さず旅をするってことは、襲われるリスクと常に隣り合わせだ
276
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:28:46 ID:sUPUImyY0
ξ゚⊿゚)ξ「少なくとも、補給に関しての心配は無用よ。ここのようなバンカーは全国に幾つもあって、私と一緒なら自由に利用できるから」
(;´・_・`)「そりゃあ心強いな。見返りは?」
ξ゚⊿゚)ξ「バンカーのマスターキーとアクセスマップ。目的を果たしたら、あなたは好きな土地で一生困らない水と食料に囲まれて、穏やかな最期を迎えられるわ」
(;´・_・`)「素敵だね……」
安全な住処に水と食料。この世界で考えられる、最も価値のある報酬だろう。それを全国どこでも使い放題とは、命を懸ける価値は確かにある
しかし、この依頼を受けるにはもう一つハッキリと確かめねばならないことがある
(;´・_・`)「アンタ、人間じゃないよな」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。最初から説明するより、ある程度体験してもらった方が受け入れやすいと思ったから」
彼女は卓上のウェットティッシュ……化粧落としを一枚取り、頬を拭った。そこには―――――
(;´・_・`)「っそだろおい……」
血の気が引いた死体を連想させる、『青白い肌』が隠されていた
277
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:29:49 ID:sUPUImyY0
(;´・_・`)「なん……?」
これまで俺は、様々な変異体と遭遇した。先ほどのバッタもそうだし、全身の筋肉が鉄のように硬直する『ブリキ』も、人の声真似をして誘き寄せる『インコ』にも遭遇した
だがこれまで、ただの一体も『意思疎通が出来るゾンビ』には出遭ったことがない。奴らは生存者を見るや否や、食欲に従って喰らいついてくる恐ろしい獣なのだから
ξ゚⊿゚)ξ「海外じゃ、何体か目撃例があるのだけどね。日本もこれから増えていくんじゃないかしら」
(;´・_・`)「増えていく……?」
ξ゚⊿゚)ξ「私の目的は、『私たち』を全滅させる手段を確立させること。そのカギは『ここ』に眠ってる」
彼女は額を指で小突く
(;´・_・`)「私たち……ってのは……?」
ξ゚⊿゚)ξ「……殆どが元同僚。今となっては、生存者にとって最も警戒しなければならない敵」
ξ゚⊿゚)ξ「その名も『有脳種』。生前と変わらぬ思考力を保ちながら、人を喰らう『進化した個体』」
.
278
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:30:31 ID:sUPUImyY0
(;´・_・`)「……」
言葉を失った俺を他所に、文字通り『人でなし』の彼女は話を進めた
ξ゚⊿゚)ξ「信じるも信じないも結構よ。恐ろしいなら、今すぐ殺してくれても構わない。でも、きっと後悔することになるんじゃないかしら?」
(;´・_・`)「後悔?世界を救う手段を奪うことに対してか?」
ξ゚⊿゚)ξ「まさか」
ここで初めて、彼女は微笑んだ
ξ゚ー゚)ξ「ゾンビを裏切ったゾンビと、綱渡りのような冒険の旅が出来るのよ?こんな楽しいこと、他にある?」
(;´・_・`)「……ッ」
エロビデオ屋の言葉を思い出す。『この世界で最も価値のある報酬は安全である』。ごもっともだ。反論の余地もない完璧な正論だ
しかし人は時にスリルを求める。ホラー映画もそうだし、ジェットコースターだってそうだ。法定速度を超過するまでアクセルを踏み込んでみるのもいい
彼女の殺し文句は、命知らずのバカへ向けたお誘いだ。アドレナリンドバドバの、過酷で血なまぐさい旅へのチケットだ
(;´^_^`)「ハハ……ハハハハハ!!!!!!」
腹の底から笑えるほどに、アホくせえものだった
279
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:31:38 ID:sUPUImyY0
(;´・_・`)「ハハ、ハァー……アンタ、相当の人でなしだな」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、あなたが言えた義理かしら?ここまで話を聞いて、逃げようとも襲い掛かろうともしなかったのは、あなたが初めてよ」
(;´・_・`)「だろうよ」
今度は此方から手を差し伸べる
(´・_・`)「小練 詩音だ。道中の護衛、しかと仕った」
ξ゚⊿゚)ξ「よろしく、詩音」
契約の締結として、考える死体と握手を交わした。相変わらずゾッとするほど冷たいが、不思議と気分は昂揚した
『斯くして、イカれた男と死体の女は、危険な旅への第一歩を踏みしめたのであった』。そんな洒落た語り口を思い浮かべながら―――――
280
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:32:04 ID:sUPUImyY0
CARGO!! ‐Reversi‐
.
281
:
◆L6OaR8HKlk
:2025/06/16(月) 23:32:37 ID:sUPUImyY0
続きは期待しないでください
282
:
名無しさん
:2025/06/16(月) 23:41:17 ID:1vOPuSn.0
投下!?!!!!?!?!?
投下!?!!!?!?!!!??!?
283
:
名無しさん
:2025/06/17(火) 20:00:41 ID:dkzER.7E0
うおーーーーー!楽しみだ!
284
:
名無しさん
:2025/06/17(火) 21:59:03 ID:yUcgFaoI0
投下やったーー
285
:
名無しさん
:2025/06/18(水) 02:04:28 ID:CPAL2vcA0
いいや期待するね!
286
:
名無しさん
:2025/06/22(日) 00:57:01 ID:3jmgtgX20
うおおおおおお!!!
287
:
名無しさん
:2025/06/23(月) 19:27:51 ID:NXGgTRxw0
変異体もゾンビもののロマンだよね!乙!
288
:
名無しさん
:2025/08/21(木) 00:30:54 ID:HqQ1q8ug0
これで期待しないは嘘だぜ
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板