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海のひつじを忘れないようです

89名無しさん:2017/08/19(土) 22:42:03 ID:rN6ohdMg0
その情景を眺めていたぼくの腕に、違和感が生じる。
ワタナベが、ぼくの腕をつついていた。左手に、空の杯を持って。
彼女は笑みを浮かべたまま、その杯をぼくの前へと差し出してきた。
これがぼくの分である、とでもいうように。ぼくは黙って、それを受け取った。

こどもたちの間を巡ってきたローブの人は、いよいよぼくのところにまでやってきた。
ぼくは他の子がそうしたように、杯を傾ける。傾けた杯に、液体が注がれていく。
果物の香りだろうか。濃く甘い匂いが、胸の奥にまで潜り込んでくる。

ビンの口が上向いた。これでぼくの順番は終わり、ローブの人は次の子の所へ行く
――はずだった。が、ローブの人はぼくの前から動かなかった。なんだ? 
ぼくは顔を上げ、ローブの人の、そのローブの下に隠れた顔を覗き見た。

あっと、声が漏れそうになった。
しかしその時にはもう、彼はぼくから離れて次の子の杯に液体を注ぎ始めていた。
去り際にウインクをしていった、その彼は。

この奇妙な巡行を終えると彼は、最後にお供の二人にも杯を傾けさせ、
広間の奥にある壇上へと登った。彼は自身も手に持った杯を掲げて、
謳うように朗々と、その大人びた声で語り始めた。


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