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海のひつじを忘れないようです

69名無しさん:2017/08/19(土) 22:31:54 ID:rN6ohdMg0
小旦那様が手をひらひらと、虫でも追い払うような仕草をジョルジュたち三人に向ける。
ジョルジュはジョルジュらしい、あの満面の笑みをすでに浮かべていた。
とても上機嫌な様子で、脇を抱えるアニジャとオトジャに
「ジョルジュはいい子、ジョルジュはいい子!」と繰り返している。

小旦那様は渋面のまま背中を向け、三人から離れようとする。
ぼくも杖を使って、その後を追おうとした。

「最後にひとつだけ、とっても大事な決まりがあるんだ」

背中に、ジョルジュの声が投げかけられた。振り返る。
ジョルジュはアニジャとオトジャに代わる代わる頭を叩かれていたけれど、
まるで気にした様子なく、ぼくらのことを――小旦那様のことを見つめていた。

「教会の中はどこに行ってもいいけど、森にだけは入っちゃダメ」

「なぜだ?」と、小旦那様。

「森の外は、怖い場所だから。森の外へ出てしまうとね――」

ジョルジュが、口をつぐんだ。そして、ぼくは見た。
一瞬、ほんの一瞬だったけれど、ぼくは見逃さなかった。
その時、その言葉を放った時、ジョルジュの顔から、一切の感情が、抜け落ちたことを。



二度とママに会えなくなる。


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