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海のひつじを忘れないようです

5名無しさん:2017/08/19(土) 21:59:48 ID:rN6ohdMg0
そいつの綺麗に切り揃えられた前髪が、強い風に吹かれて乱れた。
俺は立ち上がり、二、三歩いてから、また座る。
再び俺の横顔に、風が直撃するようになった。
そいつがくすりと笑った。俺はそっぽを向いた。

「箱船は見つかりましたか?」

波と風によって、世界は静かにやかましかった。
そいつは一度問いかけたきり、答えを急くような真似はしてこなかった。
俺は波を、波と渦にさらわれるあぶくを、なおも凝視していた。

「トソン」

「はい」

俺の言葉を待っていたかのような素早さで、トソンは声を返した。
その勢いが逆に、俺の気勢をそいだ。こんなことを尋ねるのはあまりに愚かで、
幼稚に過ぎるのではないかと、恥を退けようとする臆病な心が頭を覗かせた。

口を閉じた。トソンは何も言わなかった。
急かすことも聞き返すこともせず、俺がそれを言葉にする心持ちになる時を、
ただ待ってくれていた。だから俺も、それを口にすることができた。


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