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海のひつじを忘れないようです

441名無しさん:2017/08/22(火) 18:34:03 ID:AKaoAE960
投げ返そうとした。私には権利などなかったから。他者を排して生き残る権利など。
一度きりのその権利は、もう使ってしまっていたから。
だから私は、この与えられたタイトロープを彼の手へ返還しようとした。

けれど、そうはならなかった。一際大きな波が、船を横から持ち上げた。
煽られた船の動きに同調して、船倉内も天地を失う。積荷がでたらめに転がって、
頭や肩に容赦なくぶつかってきた。

気づけば、自分を失っていた。
ばらまかれた積荷に押しつぶされ、酷く不自由な格好を強いられている。
どうやら浸水もしているらしく、脚と腰が冷たかった。
船倉どころか、自分の周囲がどうなっているのかも把握できなかった。
だというのに、私はそれを手放さなかった。彼が寄越した救命胴衣を、胸に抱えていた。

「どうして!」

どこへいるのかも、まだこの船倉内にいるのかも不明な彼に向かって叫ぶ。
いや、彼に向かって叫んだのかも私にはわからなくなっていた。

私を取り巻くすべてに。これまで辿ってきた過去の軌跡に。
あるいは罪人となってまで生き延びてきた自分自身に。生まれたことに。
これらがないまぜになったものへの憤りが噴出した結果としての言葉が、
「どうして」という、疑問の一語であるのかもしれなかった。


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