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海のひつじを忘れないようです
405
:
名無しさん
:2017/08/22(火) 18:13:07 ID:AKaoAE960
牧師は消えなかった。
世界の揺らぎに連動しているのか、現界した肉体は所々が薄く不安定に透けており、
いまにも無量の泡粒へと散逸しそうな危うさを漂わせている。
しかしその光輝は、輝きは、些かも衰えることなくその存在の絶対性を主張している。
光、すなわち生命そのもの。
人の形を成した生命が、腕を広げた。
彼に、向かって。
「受け入れろ、“ギコ”」
牧師は、自ら動くことはしなかった。腕を広げ、待っている。
手放した愛し子を再び受け入れその光と愛で包み込む瞬間を、
ただ、ただ待っている。
「己を“ひつじ”と受け入れろ。唯一それだけが、お前の救い」
判断は彼に委ねられていた。
その愛を受け入れるか突き放すかの、その判断は。すなわちそれは――
「成長も変化も、思考も感情も不要だ。必要なのは“母の子”で在り続けること。
それ以外に、罪の災禍を逃れる術はない。ギコよ――」
地獄に堕ちるか。
「完全なる静止の永遠。それこそが“楽園”なんだ」
楽園に留まるか。
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