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海のひつじを忘れないようです

4名無しさん:2017/08/19(土) 21:59:14 ID:rN6ohdMg0
俺は逃げられない。
そんなことは、誰よりも俺自身が理解している。
俺はまだこどもで、ここは親父の街だった。
いや、この街だけではない。隣町であろうと、他所の国であろうと、
海を越えた見知らぬ土地であろうと、この球状な地平に在する限り、
親父の手は届くだろう。どこに逃げようとも。

受け入れるべきなのだ。兄がそうしたように。父がそうしたように。
父の父が、その父が、さらにその先に生きた男たちが受け継いできたように、
俺もまた、倣うべきなのだ。期待に応える時が来たのだ。
父の、兄の、顔も名も知らぬこの街の人々のためにも。
大人になるべき時が、来たのだ。

そんなことはわかっているのだ。

「やはりここにいたのですね」

呼びかける声。俺は振り向かなかった。
その声が誰のものであるか、知っているから。
声の主はこちらへと小走りに近寄ると、
払っても払っても砂しかない地面をそれでも平にしてから、俺の隣に座った。
ちょうどそいつが壁になって、横殴りの風が俺を逸れた。

「あなたは悩むと、いつもここ」

「……親父に言われて来たのか?」

「まさか」


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