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海のひつじを忘れないようです

362名無しさん:2017/08/22(火) 17:50:51 ID:AKaoAE960
            終章 海のひつじ


               1

これは必然だ。

破綻していたのだ。彼がここへ来た時には、すでに。
彼は彼であって、あの人ではない。そんなこと初めからわかっていたというのに。
遠い日の約束を忘れられず――いや、長い時をかけて築いた己の軌跡が
無意味であったと認める勇気を持てず、彼に代わりを求めた。求めてしまった。
別人であると、知っていたくせに。

だからこれは、必然だ。

彼の主の言うとおりだ。現実は、怖い。現実へなど、本当は帰りたくない。
あんな罪と苦痛にまみれた世界になど、二度ともどりたくはない。
痛いのも苦しいのも、本当は嫌いだ。

実際の所、私はどうしたかったのだろう。約束を果たしたかった気持ちは、本物だ。
そのための準備も進めてきた。けれど彼の主は、その準備に費やしてきた時間こそが
現実を忌避する私の逃避行動であると看破した。

私は初めから、約束を果たすつもりなどなかったのではないだろうか。
そう、初めの、初めから……。

だからこの結果は、必然だ。


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