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海のひつじを忘れないようです
305
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 22:23:38 ID:vG2lH35Y0
それはもちろん、ショックな出来事だった。
けれどミセリは過度に落ち込むことはしなかった。
両親に課せられた仕事の量は未だに膨大だったし、
なにより落ち込んでいる暇があるなら、その分だけ舞踏の技を磨きたかった。
約束をした。その一事が、ミセリの支えだった。
必ず夢を叶えると、絶対に忘れないと約束した。
だからミセリは、踊った。踊って、踊って、
ハインと再会した時に恥ずかしくないよう、自らを洗練させた。
その生活すらも、長くは続かなかった。
ミセリが住むこの町、この地域に住まう人々はその当時、極貧に喘いでいた。
王政に代わり台頭した民主主義を扱いきれなかったせいか、
野放図に行われた粛清の結果か、あるいはただそういう時代であったのか、
人々の多くはほとんど水と変わりのないスープで飢えをしのぎ、
一個のパンをも奪い合うような有様だった。
ミセリの両親がミセリを疎んでいたのもこの貧困が原因であったが、
しかし彼らはハインの土産を得た。町全体が貧しさにもがく渦中において、
彼らだけは裕福であることを堪能していた。しかも彼らはそれらを誇示するように、
上等な衣服を買い込み、肉や野菜も好きなだけ食卓に並べた。
かつての栄華を再現するかのように、華やかな生活を送った。
とうぜん彼らは、恨みを買った。
町の人々は会合を開き、ミセリの両親を糾弾する正当な理由を探した。
そして彼らは、納得できる答えを見つけ出すことに成功した。
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