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海のひつじを忘れないようです

3名無しさん:2017/08/19(土) 21:58:15 ID:rN6ohdMg0
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逆巻く波浪。寄せては返し、寄せては返し。
潮風に運ばれた香が、肺腑の内側にこびりついて胸の内が辛かった。
しかし辛いのは、匂いのせいだけではない。

風が出ていた。横殴りの風。浜辺付近では、
風に流れを乱された波が、不規則にうねりを上げている。
とぐろを巻いて、渦を生み、細かな泡を飲み込んで真空へと消える。

小さな、小さな無数の泡粒が、暴力的な力の発露にさらわれていく。為す術もなく。
それら身近で起こる現象から目をそらし、遠い、遠い水平線の彼方を見つめた。

世界が切り替わる地平。球状なこの世界の、
円によって果てなく結ばれた因果とは異なる、彼方の一箇所で収束したその地点。
その場所であれば、あるいは違うのだろうか。世界はもっと、凪いでいるのだろうか。
暴力的な力にさらわれる泡粒など、存在しないのだろうか。
そこでなら。そこでなら、あるいは、俺も――。

意図せず伸ばしかけていた腕を、意識的に折りたたんだ。

逃避だ、ただの。
わかっている。そんなものはただの空想に過ぎない。
直面した現実から逃げようとしている俺の生み出した、都合のよい幻想に過ぎない。


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