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海のひつじを忘れないようです
290
:
名無しさん
:2017/08/21(月) 22:15:12 ID:vG2lH35Y0
転んで、桶の中身をぶちまけた。
ぶちまけられた水が染み込んでいく地面に、顔から突っ込んだ。
泥化していく土が、目鼻の形に変形していく。ミセリは顔を上げなかった。
泥の中へと沈みながらミセリは、泣いた。嗚咽を漏らして、か細く叫んだ。
何がとか、ではなく。
なんだかもう、全部、いやだった。
沈みに沈んで、そのまま自分も泥になってしまいたかった。
このままずっと、眠ってしまいたかった。
その時だった。
ミセリの前に、彼女が現れたのは。
「起きれるか?」
涙でにじんだ視界に、いま一番会いたくない人の顔が映った。
ハイン。その人はミセリが起き上がろうとしないのを見て取ると、
強引に身体を抱え、持ち上げてしまった。
ミセリのぼろとは違う上質な衣服に、ぐじゃぐじゃに溶けきった泥が付着する。
けれどハインはそんな汚れなどまるで気にする様子なく、
ミセリに向かってその屈託のない笑みを向けた。
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