したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

海のひつじを忘れないようです

256名無しさん:2017/08/21(月) 21:58:38 ID:vG2lH35Y0
「わた、し?」

話の矛先が私へと向けられたことに、狼狽する。
その燐光を放つ指先が、私を捉える。心臓を射抜かれたように、動けなくなる。
視線すらも、動かせない。

「なぜ逃げ出さなかった。なぜ森を越えなかった。なぜ一人でも帰ろうとしなかった。
 ひつじの教会の、その在り方を唾棄しつつ出ていかなかったのはなぜだ。
 時間がなかったからとは言うまい。機会はいくらでもあったはずだ。
 それだけの時を、お前はここで過ごしてきたのだから」

「それは……」

のどが乾いて、声が出せなかった。何も言えなかった。
彼の主の言葉はいちいちもっともで、それ故に私の言葉が入り込む隙間がなかった。
私には、答えられなかった。

「答えられまい。お前には答えられまい。
 心の悲鳴に目を背け、凝り固まった妄念に捕らわれてきたお前には。
 故に代わりに答えよう。お前がここにいた理由。ここから出ていかなかった理由。
 それは――」

 彼の主が次に放つ言葉が、私には聞くまでもなく、わかった。



「誰よりお前が、現実を恐れる“こども”だからだ」


.


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板