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海のひつじを忘れないようです

254名無しさん:2017/08/21(月) 21:57:12 ID:vG2lH35Y0
彼の主が口にした“その名”に反応し、現実を思い出す。
可能な限りの敵意を込めて、彼の主を睨みつける。

「彼は“ギコ”じゃない。そんなこと、あなただって知っているはず」

「然り。だがそれ故に苦しむ。背反する願望を御しきれず」

睨みながら私は、違和感を抱いていた。
何かが違う。何かがおかしい、と。

「ギコが本当の意味でギコになること。
 それ以外にこの惑いし魂を救済する術はない」

私は彼らのことを見てきた。
彼らがここへ来てからの短くない時間を、可能な限り観察してきた。
彼らが何を思い、何を悩み、何を求めて行動したのかを詳察してきた。
だから彼のことも、彼の主の人となりもすでに把握している。
彼の、彼の主への依存も、またその逆も。

故に感じる違和感。決定的な、その一事。

「ギコは、ギコなのだ」

彼の主は、彼を、ギコとは呼ばない。
いや、呼べない。本来ならば。


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