したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

海のひつじを忘れないようです

253名無しさん:2017/08/21(月) 21:56:30 ID:vG2lH35Y0
              3

「ここにいることが、彼の望みだというの?」

「そうだ」

彼の主がどうしてここにいるのか。
私と彼がここへ来ていることを知っていたのか。その方法は定かではない。
けれど理由は明確だ。この男は、彼を連れ戻すためにやってきた。
二度とは戻れぬあの、永久の夢の檻へと連れ戻すために。

彼を見る。不安そうな面持ちで、茫漠とした視線を私たちに向けている。
たぶん、そうなのだ。彼が足を動かさなかった理由。
目の前のこの人物こそが彼の心の拠り所にして
――彼の足をつなぎとめる最終最後の枷、そのもの。

うそよ、と、私は彼の主を否定する。
――私はまだ、諦めてはいない。諦める訳にはいかない。

「彼はハーモニカを吹きたいと言った。その気持ちは本心だったはずよ」

「そこに偽りはない。しかし心とは、単層単色の一枚絵とは違う」

彼の主が、彼の抱える私のノートに触れた。
途端、すべてのノートが一斉に、ひらひらと宙を舞い始めた。
まるで空を泳ぐ羽根のように。魔術が如きその光景に、我を忘れる。

「自我の一片すら残さぬ自己の完全なる消滅。それが“ギコ”の望みだ」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板