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海のひつじを忘れないようです

224名無しさん:2017/08/21(月) 21:40:49 ID:vG2lH35Y0
俺は、答えなかった。何も答えず、ただ、兄を睨んでいた。
兄にはそれで十分だった。兄は俺のことを、よく理解していた。

「どうやらお前は、大人になりきれなかったらしい」

兄が立ち上がる。細長く、まだ成長途上な俺より遥かに長身なその身体が、
野生動物のようなしなやかさで伸びた。見下ろしていたはずの頭が、
遥か高いところへと浮かび上がり、見上げなければならなくなる。

「だったらどうする。檻に閉じ込めて、あいつらと一緒に俺のことも陳列するか」

「そんな非合理なことはしない」

精一杯の虚勢はいともたやすくいなされた。
結局のところ、俺と兄との力関係は昔から何も変わっていない。
兄はいつでも、俺を縛り上げ、己の意のままに強制することができる。
父が俺へ、そうしたように。

変わっていない。こどもの頃から、何一つ。

「どうせなら、あれがいいか」

窓辺に立った兄が、窓の外を眺めながらつぶやいた。
俺の位置からでは、兄が具体的に何を見ているのかまではわからない。
しかし、その視線の先に何があるのか、建っているのかは、知っている。


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