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海のひつじを忘れないようです

207名無しさん:2017/08/20(日) 22:14:23 ID:sRmmAC9s0
異音が、俺を現実へと引き戻した。
ちりん、ちりんと、弱々しく鳴り響く金属の音色。
それは俺のすぐそばから聞こえてきた。
のどに突き刺さったゆびを抜き、手探りに辺りを探す。

それはすぐに見つかった。それは、小さなベルだった。
いつかどこかで拾ったベル。だれかの持ち物だったようにも思えるが、
記憶が茫洋とあやふやで、どうしても思い出すことができない。

いや、いま思い出すべきは、そんなことではない。

爪の間にたまった肉と脂の滓をさっと落とし、俺はベルをつまみ上げた。
そして、おぼろげな記憶を頼りに、だれかが、かつて出会った何者かがそうしたように、
立ち上がり、腕を伸ばして、静かにそのベルを振った。
金属の軽く澄んだ音が、空間を震わせて残響した。

音が、返ってきた。
もう一度、振る。音は再び返ってきた。
同じ方向、同じ場所から。俺はベルを鳴らしながら、
一歩一歩、音の返ってくる方角に向かって歩みを進める。
俺の振るうベルの音は、意図せず拍を打ちリズムを刻みだしていた。


その律動に、別の音が乗った。
それは、声だった。それは、歌だった。


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