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海のひつじを忘れないようです

191名無しさん:2017/08/20(日) 22:07:11 ID:sRmmAC9s0
               四

『異邦に引き摺り落とされし者は、差し出された食饌に手を付けてはならない。
故郷を惜しむ気持ちがあるならば。帰りを待つ人がいるならば』

神話、あるいは民話として、様々な国に類型が伝わっている禁忌を語った物語。
多くは冥府に堕ちた者がその国で作られた料理を食したことで完全なる死者と化し、
生者の世界へ帰れなくなるという結末を迎える。

あいつの国でも、似たようなおとぎ話があったそうだ。
寝入りの悪い夜、子守唄代わりに聞かせてもらったことを覚えている。

なぜ勧められるままに食事など摂ったのだろうなと、確かそう、俺は質問した。
嫌なガキだ。常に満たされて、空腹も知らない。飢餓の苦しみも、
飢えを凌ぐためならうじの集ったパンですら呑み込む人間が
存在しているという現実も想像できなかったクソガキ。

そんなクソガキを相手にした彼女は、怒ることも、嘆くこともしなかった。
ただ、微笑を浮かべていた。微笑を浮かべて、こう、答えたんだ。

きっと、我慢できないくらいおいしそうだったんですよ、と。


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