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海のひつじを忘れないようです

190名無しさん:2017/08/20(日) 22:06:37 ID:sRmmAC9s0
「『きみが外から持ち込んだ執着を、一度手放してみることだ。
 それがきっと、遠き海路の第一歩へとつながるだろうから』」

だれに言われたのかどうしても思い出せないその言葉を唱える俺に、
隣に座る顔が困惑した様子を見せる。それは先程発した言葉があまりに
俺らしからぬ口調だったから……というだけの不信ではあるまい。

手の中の短刀。
俺がこいつを常に携帯していることは、こいつも知っている。
誰にも触らせることなく、大切に持ち歩いていることも。
だからこそ驚いたのだろう。そんな『小旦那様』の執着を、
己の手へと握らせてきたことに。

「俺は今日、この世界の真実を暴きに行く」

恐る恐ると言った様子で短刀を握りしめる俺の友に向かって、宣言する。
決着をつけると。そして俺はさらに、友の顔を見ないまま、言葉を続けた。

「ついてきてくれるか?」

「どこまででも」

間を開けぬ返答が、すぐ隣から聞こえた。
しかし俺はどうしても、その答えに喜びを覚えることができなかった。
気づいていたから。お前のその答えは、
友としての返事ではないのだろうなと、気づいていたから。

風のない森が、さやさやとそよいでいた。


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